JP2007297722A - ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維および製造方法ならびに用途 - Google Patents

ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維および製造方法ならびに用途 Download PDF

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光一 塚本
Kazuhiko Kosuge
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Abstract

【課題】樹脂やゴムなどマトリックスとの接着性が良好で、耐熱性が高く、高強度で、高弾性率で、熱膨張係数が小さくて、寸法安定性がよい、高密度プリント配線基板としての絶縁・低誘電材、樹脂もしくはゴムをマトリックスとする複合材の補強材料として有用な、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維およびその製造方法ならびに用途を提供する。
【解決手段】引張弾性率が90GPa以上で、線膨張係数(10−6/℃)の絶対値が10以下で、界面剪断強度が25MPa以上のPPTA繊維。ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、低温乾燥後、水分率15〜200質量%で巻き取った繊維に、含浸処理剤を含浸させ、繊維複合体と成し、該繊維複合体を緊張下かつ100〜500℃で、熱処理と同時に張力をかけることによって、PPTA繊維の弾性率を可変調整できるPPTA繊維の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、樹脂やゴムなどマトリックスとの接着性が良好で、高強度、高弾性率、熱膨張係数が小さく、耐熱性などに優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと略称する)繊維、およびPPTA繊維を巻き取り後に加工することによって弾性率を変化させることができるPPTA繊維の製造方法、ならびに該PPTA繊維の用途に関する。
PPTA繊維は、優れた強度や弾性率を持ち、耐熱性や寸法安定性も良く、広範囲に産業用に利用され、特殊な衣料用繊維としても用いられている。また、PPTA繊維から作ったコード、ロープや織物、編み物、不織布、紙などの布帛、短繊維などは、樹脂との複合材料、特に絶縁・低誘電材やタイヤ・ゴム資材分野の材料として、高強度、高弾性で、耐熱性が高く、良好な寸法安定性などの特徴を発揮することが知られている。
現在市販されているPPTA繊維は、紡糸時にポリマーを溶解する溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金による剪断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は紡糸直後に水洗およびアルカリによる中和処理がされ、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られることが、特許文献1に開示されている。
しかしながら、このようにして得られるPPTA繊維は、中和によって形成された塩が繊維中に取り込まれており、通常、0.5〜3質量%の塩を含んだ繊維となってしまう。そこで、得られたPPTA繊維を、水分率が15質量%未満となることのないように保ち、脱イオン処理を行うことによって、アルカリイオン含有量が1.0質量%以下の、電気絶縁性を要求される用途にも使用可能なPPTA繊維が得られることがわかっている(特許文献2)。
また、このようにして得られるPPTA繊維を、さらに水洗いや湯洗いの処理をすることによって、塩の量を0.5質量%以下に下げることができる。
一般に、PPTA繊維に接着剤を付与した後に、樹脂やゴムなどマトリックスとの複合化を行うに際して、付与された接着剤は繊維表面に接着剤層を形成するが、接着剤は単に繊維表面を被覆しているのみであるため、繊維−マトリックス界面の十分な接着強度を得ることは困難である。これは、PPTA繊維が乾燥・熱処理によって緻密化され、その後に付与される接着剤が、繊維骨格部分まで浸透しないことに起因する。接着が悪いと、樹脂などをマトリックスとする複合材料は、強度が低く、耐久性も劣り、繊維とマトリックスとの剥離など様々な問題を起こすことになる。
このように接着性が問題となる場合、プリント配線板の材料として用いられた時には、基板強度の低下や温度変化による基板の変形によって、基板の剥離や電気的特性の変化など複合材料としての特性を阻害する要因となる可能性があり、用途展開が制限されることがあった。そこで、PPTA繊維を水分率15質量%未満に乾燥することなく保ち、結晶サイズを50Å未満の状態で接着剤を含浸し、乾燥処理を行うことによって、特に、タイヤなど産業用ゴム補強材や絶縁・低誘電材料として有用なPPTA繊維複合体が得られることが、特許文献3に開示されている。
米国特許第3,767,756号明細書 特開平11−181622号公報 特開平11−181679号公報
しかしながら、特許文献2、3の短繊維に関する方法は、PPTA硫酸溶液を紡出・中和し、水分率15質量%未満に乾燥させることなく繊維を切断あるいはフィブリル化した後、脱イオン処理するか、あるいは、接着剤による含浸処理を行い、100〜500℃で熱処理する方法である。そのため、得られたカット糸を抄紙してアラミド紙としたものをプリント配線板用シート状物に利用することになる。従って、このようなシート状物を積層基板に使用した場合、短繊維のため、初期弾性率は低く、カット糸の密着性を高めるために繊維同志を繋ぐバインダーが必要になり、紙の厚肉化、すなわち基板の厚肉化に繋がるという問題点があった。それ故に、所望の薄さや特性値が得られにくくなるという問題点もあった。
本発明は、高強度、高弾性率で、マトリックス樹脂との接着性も良好で、熱膨張係数が小さくて、寸法安定性がよく、特に絶縁・低誘電材、樹脂もしくはゴムの補強材として有用なPPTA繊維、および該PPTA繊維を弾性率を変えて製造することのできるPPTA繊維の製造方法、ならびに該PPTA繊維の用途を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、水分率の高い巻き取り後の原糸を用いて、それに含浸処理剤を付与、含浸し、熱処理による原糸の乾燥処理を緊張下で行うことによって、含浸処理剤が繊維内部にまで浸透し、強固に固着した、弾性率の異なるPPTA繊維(フィラメント)が、一連の工程で得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)含浸処理剤が繊維内部に付与されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であって、引張弾性率が90GPa以上で、線膨張係数(10−6/℃)の絶対値が10以下で、界面剪断強度が25MPa以上であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
(2)アルカリイオン含有量が1.0質量%以下である前記(1)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
(3)ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、含浸処理剤を浸透・含浸、その後緊張下で熱処理することにより得られうる、前記(1)または(2)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
(4)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、100〜150℃で乾燥し、水分率15〜200質量%で巻き取った繊維を用い、それに含浸処理剤を含浸させて繊維複合体と成し、該繊維複合体を、緊張下かつ100〜500℃で熱処理を同時に行うことにより、繊維の弾性率をコントロールすることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(5)熱処理温度が150〜450℃で、かつ、緊張条件が0.05〜3.6cN/dtexである、前記(4)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(6)含浸処理剤が、エポキシ基含有化合物、フィルムフォーマ、イソシアネート系化合物およびシランカップリング剤から選ばれる1種以上の化合物である、前記(4)または(5)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(7)結晶サイズ(110)面が50Å未満である巻き取った繊維を、含浸処理剤の熱処理によって結晶サイズを70Å以上にする、前記(4)〜(6)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(8)得られるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張弾性率が、90〜140GPaである、前記(4)〜(7)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(9)ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、100〜150℃で乾燥し、水分率15〜200質量%で巻き取った繊維に、水もしくは温水によって、アルカリイオン含有量を1.0質量%以下とした繊維を用いる、前記(4)〜(8)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(10)含浸処理剤を含浸させ繊維複合体となした後、熱処理後に、繊維の開繊処理を行い、薄い一方向基材を形成する、前記(4)〜(9)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
(11)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維または前記(4)〜(10)のいずれかに記載の製造方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、一方向材または織物などの基布として用いたことを特徴とする絶縁・低誘電材。
(12)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維または前記(4)〜(10)のいずれかに記載の製造方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、一方向材、織物などの基布、コードまたはスダレなどとして用いたことを特徴とする樹脂もしくはゴムをマトリックスとする複合材料の補強材。
本発明は、巻き取り後の原糸に含浸処理剤を含浸し、熱処理条件とともに緊張条件をコントロールしてPPTA繊維を所望の弾性率に変化させるので、原料のPPTA繊維さえ在庫すればよい。工場において、生産時の生産条件の確立が不要となり、在庫のリスクも軽減される。今般のような原糸逼迫で入手困難な時期や、少量しか必要ではない場合などには、小回りの利く製造方法であり、非常に便利である。
また、工場生産に比べて低速で運転されるため、含浸処理剤が繊維内部にまで十分に浸透し強固に固着されることによって、接着性が良好で、強くて剥離しにくい、界面特性の優れた、弾性率の高いPPTA繊維を得ることができる。従って、界面剪断強度が高く、高弾性率で、線膨張係数の小さい、寸法安定性の良い繊維を供給することが可能になる。
特に、高密度ビルドアップ積層板に最適な絶縁・低誘電材を提供できる。例えば、PPTA繊維に銅箔により近いような弾性率を付与し、フィラメントを並べた一方向材の交互積層板で基板を形成することができる。より薄い積層材料を作製するには、PPTA繊維を開繊した極薄のプリプレグ材料を積層する。これによって、高密度プリント配線基板用の薄くて熱膨張の小さな材料を提供することができるとともに、高弾性率化によって、ハンダ時の問題点であるクラック発生などを防ぐことができる。
また、ゴム資材分野で用いた場合、ベルトコードなどにおいては、同じ撚り数で、弾性率を変えることで、中間伸度などを変化させることができるので、生産の切り替えコストの削減など経済面での効果を有する。さらに、高強度、高耐久性に優れるという性能面での効果を併せ持つことができるので、さらなる広範な分野への応用が可能となる。
本発明のPPTA繊維は、含浸処理剤が繊維内部に付与されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であって、引張弾性率が90GPa以上で、線膨張係数(10−6/℃)の絶対値が10以下で、界面剪断強度が25MPa以上であることを特徴とするものである。繊維内部に含浸処理剤が付与されているため、樹脂やゴムなどのマトリックスとの接着性に優れており、かつ、引張弾性率が高く、線膨張係数が小さく、界面剪断強度が高いため、補強材として好適な繊維となり得る。このPPTA繊維は、特にマトリクス補強材として望まれる特性を有し、本発明の製造方法によって製造することができる。
本発明のPPTA繊維の製造方法は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、100〜150℃で乾燥し、水分率15〜200質量%(以下、「%」と省略する)で巻き取った繊維(原料繊維)に、含浸処理剤を含浸させ、繊維複合体となし、該繊維複合体を、緊張下かつ100〜500℃で熱処理を同時に行うことにより、繊維の弾性率を可変調整できることを特徴とするものである。
本発明では、結晶サイズ(110)面が50Å未満である巻き取った繊維を、含浸処理剤の熱処理によって前記結晶サイズを70Å以上にする。
PPTA繊維は、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、溶液を紡糸口金から押し出し、空気中、水中に紡出、フィラメント化し、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水分率15〜200%、好ましくは15〜100%に保たれたものを、原料繊維とする。水分率15%以下では、繊維内部の骨格部分にまで含浸処理剤を浸透させることが困難となり、繊維に対する含浸処理剤の接着性を強固にすることができなくなる。200%を超えると繊維を巻き取る工程が困難となり、含浸処理剤などの実効性が低下する。通常のPPTA繊維は、温度を上げて熱処理する他に、水分除去を工夫することである程度効率良く乾燥するが、本発明では温度と時間のコントロールで実行できるので、より簡単に巻き取ることができる。
上記のような水分率にするには、すなわち、オープン構造の繊維である結晶サイズ50Å未満の繊維にするには、紡糸後、中和し、温度条件を100〜150℃で、5〜20秒間程度の低温乾燥を行えばよい。100℃未満では、水分除去が困難となり、150℃を超えると50Åを超えて結晶化が進み、さらに脱イオンが難しくなってしまう。
本発明の特徴は、オープン構造の繊維のまま、含浸処理剤を繊維表面や内部にまで浸透させ、また、適宜界面活性剤を使用してより浸透性を向上させ、熱処理によって緻密化し、結晶サイズを大きくすることによって結晶間間隙を狭め、含浸、浸透させた処理剤を強固に付着させるようにしていることである。含浸処理剤は、エポキシ基含有化合物、フィルムフォーマ、イソシアネート系化合物、シランカップリング剤および界面活性剤(カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤など)から選ばれる1種以上の化合物から選ばれるものが好ましい。また、エポキシ基含有化合物は、水性のエポキシ基含有化合物が好ましい。
フィルムフォーマは、複合材料用繊維含浸処理剤として用いられているウレタン系、エポキシ系などの高機能付与型のフィルムフォーマやスターチ系、ポリビニルアルコール系、アクリル系のフィルムフォーマなど、水に分散するエマルジョン型オリゴマーから選ばれるものが好ましい。
シランカップリング剤は、従来用いられているアミノプロピルトリエトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、グリシジルプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが用いられる。
本発明では、熱処理は100〜500℃で行うが、好ましい熱処理温度は150〜450℃、特に好ましい熱処理温度は150〜300℃程度である。さらに、緊張下で熱処理をするため、温度と張力を適宜変更することによって、弾性率の向上した様々のPPTA繊維を、前記の原料原糸を使うことによって製造することが可能となる。緊張条件は、製造工程中にPPTA繊維が弛まない条件を適宜選択すればよいが、通常、0.05〜3.6cN/dtexであり、好ましくは0.1〜3.6cN/dtexである。
本発明で得られるPPTA繊維の弾性率は、含浸処理剤の付与及び熱処理を行っていない(ブランク)のKEVLERTMEG糸が約70GPaであるのに対して、通常、さらに大きな90〜140GPaの範囲、好ましくは90〜130GPaの範囲で調整できる。
絶縁・低誘電材として利用する場合は、脱イオン処理を行い、出来るだけアルカリイオン含有量を1%以下にすることが好ましい。これを超えると電気・電子分野への用途展開が制限される。より好ましくは、0.5%以下、特に0.2%以下にするのが好ましい。脱イオン処理は、通常、水または温水で洗浄あるいは抽出することで実施できるので、含浸処理剤を付与する前に実施する。表1に、水洗によるアルカリイオン含有量の変化を示す。水洗時間が長いほどアルカリイオン含有量は減少する。
Figure 2007297722
本発明の製造方法では、含浸処理剤を含浸させ繊維複合体となした後、熱処理後または熱処理と同時に、PPTA繊維の開繊処理を行うことによって、薄い一方向基材を形成してもよい。
また、本発明の製造方法で得られたPPTA繊維は、一方向材、織物などの基布、コード、スダレなどとして、絶縁・低誘電材あるいは樹脂やゴムをマトリックスとする複合材料の補強材に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
以下の実施例において、実施例中の物性は次の測定法に従った。
(1)水分率;
試料約5gの重量を測定し、300℃×20分の熱処理を行い、標準で5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで言う水分率は、[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]×100(%)で得られるドライベース水分率である。
(2)結晶サイズ;
試料を長さ4cm、重さ20mgに調製し、コロジオン溶液で固める。次に広角X線回析(ディフラクトメーター法)を用いデータを採取する。得られた2θ/θ強度データのうち、110方向の面の半値幅からScherrerの式を用いて計算する。
(3)引張試験;
強度、弾性率は、JIS L 1013:1999 化学繊維フィラメント糸試験方法に準拠。
(4)熱膨張係数(CTE);
TMA法に従った。試料と既知の線膨張係数試料(石英ガラスかアルミナ)とを2本の検出棒上の角ステージにセットし、それぞれに微少圧縮荷重を負荷し、この状態で等速で昇温し(25℃→150℃)、各温度で生ずる両者の膨張量の差を、相対変位を差動トランスで電気出力として検出し温度との関係を記録する。室温の試料長さL0とその温度変化量ΔLから、変化率ΔL/L0(線膨張率)を定義する。この線膨張率温度曲線に基づき、(1)式および(2)式により、線膨張係数(α)および平均線膨張係数(α0)を求めた。ここで、αは、dT=20℃で中心差分法により計算した。なお、αはΔL/L0温度曲線の温度微分値、α0はΔL/L0温度曲線の基準温度Tと各温度Tを結ぶ直線の勾配に相当する。
Figure 2007297722
Figure 2007297722
式(1)、(2)において、
:室温での試料長さ
dT :温度差(20℃)
dL :温度差dTでの膨張長さ
ΔL :基準温度から各温度Tまでの膨張長さ
(5)界面剪断強度;
マイクロドロップレッド試験法により評価し、ブランク繊維(市販のアラミド繊維「KEVLERTM29」)の界面剪断強度に対し、向上した強度の上昇値のブランク繊維に対する割合を界面剪断強度の改善率として示し、比較評価した。
界面剪断強度は、エポキシ樹脂はエピコート828(ジャパンエポキシレジン社製)に硬化剤としてトリテトラトリアミンを用い、PPTA繊維上に、上記ゾル状のエポキシ樹脂を付着させた後、硬化し、単繊維引き抜き試料を作製した。得られた試料について、東栄産業(株)製「複合材界面評価装置」を用いて、引き抜き試験法で、PPTA繊維とマトリックス樹脂との密着性を評価した。
(6)Na含有量;
衛生試験法注解:2000 3.1.1.2 材質試験法に準拠。
(実施例1)
ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、溶液を紡糸口金から押し出し、空気中、水中に紡出、中和し、110℃×15秒間の乾燥を行い、水分率約50%で巻き取った原料繊維で、アルカリ(Na)含有量0.50%程度のPPTA繊維を得た。このPPTA繊維を、エポキシ系フィルムフォーマ(エポキシ樹脂水性エマルジョン)/シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン)が合計0.6%混合した水溶液に含浸した後、表1に示す程度の張力を負荷しながら170℃、200℃、250℃の温度で2分間乾燥し、PPTA繊維複合体を得た(No.1〜6)。このPPTA繊維の線膨張係数や弾性率など物性測定結果を表2に示した。200℃での界面剪断強度およびその改善率を計算し、同じく表2に示した。
表2の結果から、処理剤が付着した弾性率の異なるPPTA繊維が得られることがわかる。
Figure 2007297722
表2の結果から、処理剤による差はあるものの、250℃の温度条件で1〜3.6cN/dtex程度の張力で、ほぼ高弾性タイプ繊維であるKEVLERTM49並の弾性率とすることができた。また、0.05〜1cN/dtexの張力の条件では、弾性率は90〜96GPa程度で、わずかに張力を与えることの程度までの弾性率を達成することがわかる。乾燥時の張力が高い方が弾性率が高くなり、銅の弾性率に近くなることがわかる。さらに、繊維内部に処理剤が含浸しているため、未処理糸(比較例3)に比べて界面剪断強度が高くなっていることがわかる。
(比較例1)
ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、溶液を紡糸口金から押し出し、空気中、水中に紡出、中和し、110℃×15秒間の低温乾燥を行い、水分率約50%で巻き取った原料繊維で、アルカリ(Na)含有量0.50%程度のPPTA繊維を得た(KEVLERTMEG)。
(比較例2)
比較例1で得たPPTA繊維を、エポキシ系フィルムフォーマ(エポキシ樹脂水性エマルジョン)/シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン)が合計0.6%混合した水溶液に含浸した後、1.76cN/dtex程度の張力を負荷しながら80℃の温度で2分間乾燥し、PPTA繊維を得た。
(比較例3)
ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、溶液を紡糸口金から押し出し、空気中、水中に紡出、中和し、200℃以上で乾燥、熱処理した後、フィラメントを巻き取る通常の方法で得られたPPTA繊維で、水分率15%未満、アルカリ(Na)含有量2%以下のPPTA繊維を得た(KEVLERTM29)。
(比較例4)
比較例3で得たPPTA繊維を、エポキシ系フィルムフォーマ(エポキシ樹脂水性エマルジョン)/シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン)が合計0.6%混合した水溶液に含浸した後、張力を負荷しないで、250℃の温度で2分間乾燥し、PPTA繊維を得た。
(比較例5)
比較例1で得たPPTA繊維を、エポキシ系フィルムフォーマ(エポキシ樹脂水性エマルジョン)/シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン)が合計0.6%混合した水溶液に含浸した後、張力を負荷しないで、250℃の温度で2分間乾燥し、PPTA繊維を得た。
比較例1〜5で得たPPTA繊維の線膨張係数や弾性率など物性測定結果を表3にまとめて示した。
Figure 2007297722
表3の結果から、処理剤を用いずに製造したPPTA繊維(比較例1、3)は、弾性率が低く界面剪断強度も低いことがわかる。また、処理剤を用いた場合であっても、水分率15%未満の状態で付与したPPTA繊維(比較例4)は、処理剤が繊維内部に含浸しにくいため改善率は低く高弾性率の繊維にならない。また、水分率15%以上のPPTA繊維に処理剤を含浸させた場合、張力を負荷しながら80℃で乾燥したPPTA繊維(比較例2)は、弾性率及び界面剪断強度は高いが線膨張係数が大きく、熱処理時に張力を負荷しないPPTA繊維(比較例5)は、高弾性率の繊維にならない。
表2、表3の結果より、処理剤を含浸させた繊維複合体を、緊張下かつ100〜500℃で熱処理を同時に行うことにより、高弾性率で線膨張係数が小さくかつ界面剪断強度の高いPPTA繊維が得られることがわかる。
(実施例2)
ポリパラフェニレンテレフタルアミドを濃硫酸に溶解し、溶液を紡糸口金から押し出し、空気中、水中に紡出、中和し、110℃×15秒間の乾燥を行い、水分率約50%で巻き取った原料繊維で、アルカリ含有量0.50%程度のPPTA繊維を得た(KEVLERTMEG)。このPPTA繊維に、ゴム用の水系エポキシ処理剤(主成分:グリセロールポリグリシジルエーテル)を使用し、表2に示す程度の張力を負荷しながら250℃の処理温度で2分間乾燥し、PPTA繊維複合体を得た(No.7〜10)。張力水準変化結果について、その物性測定結果を表4に示した。
Figure 2007297722
上記の表4より、ゴム用の接着剤の場合は、表2のエポキシ系フィルムフォーマ/シランカップリング剤の系と比べると高い張力にもかかわらず、弾性率は低かったが、ハイテンションで弾性率の向上が確認された。
本発明に係るPPTA繊維は、繊維との強固な固着により、高い接着力で界面特性に優れた性能を有し、しかも、高強度で、高弾性率で、線膨張係数も小さく、高い耐熱性を有する。本発明の製造方法で得られたPPTA繊維は、特に高密度プリント配線基板用積層板分野に好適であるとともに、水溶性エポキシ樹脂系の処理を行うタイヤ・ゴム資材分野でも、熱処理条件と張力条件だけで材料の性能をコントロールできるので、好適である。
また、フィラメント形態面より、アルカリソルトの低下処理や開繊による薄肉化を行う工程を挟んだ後に、含浸処理剤を固着する工程を採用することで、繊維の性能をコントロールすることもできる。そのため、一方向材や織物、不織布、織物、紙などとしてプリント配線用積層板や繊維強化樹脂補強材料、ゴム資材補強材料などに優れた寸法安定性と高い弾性率といった性質を利用できる他、各種用途に好適に利用できる。

Claims (12)

  1. 含浸処理剤が繊維内部に付与されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維であって、引張弾性率が90GPa以上で、線膨張係数(10−6/℃)の絶対値が10以下で、界面剪断強度が25MPa以上であることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
  2. アルカリイオン含有量が1.0質量%以下である請求項1に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
  3. ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に、含浸処理剤を浸透・含浸、その後緊張下で熱処理することにより得られうる、請求項1または2に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
  4. ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、100〜150℃で乾燥し、水分率15〜200質量%で巻き取った繊維を用い、それに含浸処理剤を含浸させて繊維複合体と成し、該繊維複合体を、緊張下かつ100〜500℃で熱処理を同時に行うことにより、繊維の弾性率をコントロールすることを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  5. 熱処理温度が150〜450℃で、かつ、緊張条件が0.05〜3.6cN/dtexである、請求項4に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  6. 含浸処理剤が、エポキシ基含有化合物、フィルムフォーマ、イソシアネート系化合物およびシランカップリング剤から選ばれる1種以上の化合物である、請求項4または5に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  7. 結晶サイズ(110)面が50Å未満である巻き取った繊維を、含浸処理剤の熱処理によって結晶サイズを70Å以上にする、請求項4〜6のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  8. 得られるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張弾性率が、90〜140GPaである、請求項4〜7のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  9. ポリパラフェニレンテレフタルアミド硫酸溶液を紡糸後、中和し、100〜150℃で乾燥し、水分率15〜200質量%で巻き取った繊維に、水もしくは温水によって、アルカリイオン含有量を1.0質量%以下とした繊維を用いる、請求項4〜8のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  10. 含浸処理剤を含浸させ繊維複合体となした後、熱処理後に、繊維の開繊処理を行い、薄い一方向基材を形成する、請求項4〜9のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法。
  11. 請求項1〜3のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維または請求項4〜10のいずれかに記載の製造方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、一方向材または織物などの基布として用いたことを特徴とする樹脂もしくはゴムなどをマトリックスとする絶縁・低誘電材。
  12. 請求項1〜3のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維または請求項4〜10のいずれかに記載の製造方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を、一方向材、織物などの基布、コードまたはスダレなどとして用いたことを特徴とする樹脂もしくはゴムなどをマトリックスとする複合材料の補強材。
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