JP2007292306A - 流体機械用軸封装置 - Google Patents

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Jiro Iizuka
二郎 飯塚
Takashi Fukumuro
貴士 福室
Keiichi Shimizu
圭一 清水
Iwao Uchikado
巌 内門
Hidenori Hosoi
秀紀 細井
Yuji Owa
裕二 大輪
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Abstract

【課題】耐久性及び信頼性が確保され、その上、消費動力及び材料原価の削減が図られる高圧流体機械に好適な軸封装置を提供する。
【解決手段】流体機械において高圧域と低圧域との間を仕切る軸封装置80は、回転軸60及びケーシング12のうち一方の被摺接側部材のシート面に摺接するシール部88を有する弾性部材86と、弾性部材86を支持するケース82とを備える。弾性部材86は、高圧域側に位置付けられるシール部88の高圧側境界に連なる第1弾性部と、低圧域側に位置付けられるシール部88の低圧側境界に連なる第2弾性部とを有し、ケース82は、シール部88から離間した第1弾性部及び第2弾性部の部位を拘束する。
【選択図】図2

Description

本発明は流体機械用軸封装置に関する。
この種の流体機械用軸封装置は、回転軸の一部を囲むように設けられ、ケーシングの内部(高圧域)から外部(低圧域)への作動流体の漏出を防止する。
より詳しくは、軸封装置は弾性部材からなるリップを備え、リップは高圧域の内方に向けて延びている。リップの先端は自由端であり、リップの先端部が回転軸に摺接することにより、回転軸の外側がシールされる。
このようなリップを備えた軸封装置では、リップが高圧を受けると回転軸とリップとの間の接触圧力が増大して異常摩耗し、シール性が低下してしまう。かかる接触圧力増大を抑制するため、特許文献1及び2のリップシールは、高圧域の圧力に基づきリップに拡径方向の分力を作用させる手段を有する。
特開2003-97723号公報 特開2004-156702号公報
リップシールのシール性が低下する原因としては、接触圧力の増大のみならず、接触面積の増大もあげられる。すなわち、従来技術のリップシールでは、リップの先端は自由端になっており、高圧域の圧力がリップに加わると、リップは押し潰されるように大きく変形する。このような変形は、接触面積の増大も招き、摺動による発熱量が増大する一方、摺動部に潤滑油が供給されづらくなる。このため、回転軸との摺動によりリップが高温になって劣化し、リップのシール性が損なわれる。
ここで、特許文献1及び2のリップシールでは、高圧域の圧力に基づいて拡径方向の分力がリップに作用することで、圧力によるリップの変形がある程度までは抑制されると考えられる。しかしながら、縦断面でみてリップが片持梁状に支持されている特許文献1及び2のリップシールでは、リップの変形が、特に自由端側で十分に抑制されない。この結果として、やはり、摺動部の接触面積の増大により発熱量が増大するとともに、摺動部の潤滑油が不足してしまい、リップが高温になって劣化し、そのシール性が損なわれる。
また、特許文献1及び2のリップシールでは、回転軸に対して2つのリップが摺接しているけれども、高圧域側のリップのシール性が高い場合には、低圧域側のリップと回転軸との間の摺動部には潤滑油が供給されづらくなる。この結果として、低圧域側のリップが高温になるが、それのみならず、低圧域側のリップの熱が伝搬して高圧域側のリップも高温になり、2つのリップがともに劣化してしまう。
或いは、特許文献1及び2のリップシールにおいて、高圧域側のリップのシール性が低い場合には、リップ間の空間が高圧になり、低圧域側のリップが押し潰されるように大きく変形し、高温になってしまう。この結果として、やはり低圧域側のリップの熱が伝搬して高圧域側のリップも高温になり、2つのリップがともに劣化してしまう。
上述したように、縦断面でみて片持梁状のリップを適用した軸封装置は、高圧域と低圧域との間を仕切る場合、リップが早期に劣化してしまうので、耐久性及び信頼性に欠ける。また、この軸封装置を適用した流体機械では、リップと回転軸との間の摺動部の接触面積が大きくなるため、消費動力が増大してしまう。一方、材料の選択のみによってリップの耐久性及び信頼性を確保しようとした場合、リップの材料原価が高くなってしまう。
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、耐久性及び信頼性が確保され、その上、消費動力及び材料原価の削減が図られる流体機械の軸封装置を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明によれば、回転軸及びケーシングのうち一方の被摺接側部材のシート面に摺接するシール部を有する弾性部材と、前記弾性部材を支持する支持手段とを備え、高圧域と低圧域との間を仕切る流体機械用軸封装置であって、前記弾性部材は、前記高圧域側に位置付けられる前記シール部の高圧側境界に連なる第1弾性部と、前記低圧域側に位置付けられる前記シール部の低圧側境界に連なる第2弾性部とを有し、前記支持手段は、前記シール部から離間した第1弾性部及び第2弾性部の部位を拘束することを特徴とする流体機械用軸封装置が提供される(請求項1)。
好適な態様として、前記弾性部材は、前記第1弾性部に形成され、前記シート面に摺接する前記シール部のシート面に連なり且つ前記高圧域に面した曲面からなる周面を有し、前記周面は、前記高圧域の圧力により前記被摺接側部材から離れる方向へ変位する(請求項2)。
好適な態様として、前記被摺接側部材は、前記周面と対向する対向面を有し、前記シール面と直交する方向でみた前記周面と前記対向面との間の隙間の大きさは、前記シール面から離れるに連れて連続的に拡大している(請求項3)。
好適な態様として、前記高圧域と前記低圧域との間に設けられ、前記シール部、第1弾性部及び第2弾性部の背面によって少なくとも一部が区画されたドーナツ状の空間を更に備える(請求項4)。
好適な態様として、前記弾性部材は、前記ドーナツ状空間を内部に有するチューブ状をなす(請求項5)。
好適な態様として、前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ気体で満たされている(請求項6)。
好適な態様として、前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ気液混合状態の物質で満たされている(請求項7)。
好適な態様として、前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ非圧縮性流体で満たされている(請求項8)。
好適な態様として、前記空間は、前記非圧縮性流体としての潤滑油で満たされ、前記シール部は前記潤滑油の浸透性を有する(請求項9)。
好適な態様として、前記潤滑油は、前記高圧域内の流体とは非相溶性である(請求項10)。
好適な態様として、前記弾性部材はエラストマーからなる(請求項11)。
好適な態様として、前記弾性部材はフッ素樹脂からなる(請求項12)。
好適な態様として、前記シール部の背面に当接し、前記シール部を前記シート面に向けて付勢する付勢部材を更に備えており、前記付勢方向での前記付勢部材の弾性係数は、前記弾性部材の弾性係数以上であり、前記付勢部材の材料の弾性係数は、前記弾性部材の材料の弾性係数よりも大である(請求項13)。
好適な態様として、前記シール部の背面に当接し、前記シール部を前記シート面に向けて付勢する付勢部材を更に備え、前記付勢方向での前記付勢部材の弾性係数は、前記弾性部材の弾性係数以上であり、前記付勢部材の材料の弾性係数は、前記弾性部材の材料の弾性係数よりも小である(請求項14)。
好適な態様として、前記付勢部材は、多孔質体からなる(請求項15)。
好適な態様として、前記付勢部材は、シリコンゴムからなる(請求項16)。
好適な態様として、前記弾性部材に一体的に形成された金属層を更に備える(請求項17)。
好適な態様として、前記シート面に摺接する前記シール部のシール面に、前記高圧域及び低圧域のうち高圧域のみに連通するスパイラル状の油溝を更に有する(請求項18)。
好適な態様として、前記シート面及び当該シート面と摺接する前記シール部のシール面のうち少なくとも一方に耐摩耗層又は潤滑層が形成されている(請求項19)。
本発明の請求項1の流体機械用軸封装置では、シール部の境界に第1弾性部及び第2弾性部が連なり、支持手段が、シール部から離間した第1弾性部及び第2弾性部の部位を拘束している。これら第1弾性部及び第2弾性部は、高圧域の圧力が高くても、シール部の変形を規制し、シート面とシール部との間での接触面積の増大を抑制する。このため、摺動による発熱量の増大が抑制されるのはもとより、シート面とシール部との間に潤滑油が円滑に供給され、シール部が高温になって劣化するのが防止される。この結果として、この軸封装置は、耐久性及び信頼性が高く、また、高価な材料を弾性部材に使用する必要もないので安価である。その上、この軸封装置を適用した流体機械では、消費動力が削減される。
請求項2の流体機械用軸封装置では、第1弾性部が、周面が受けた高圧域の圧力に基づいて被摺接側部材から離れるように変形する一方、シート面に対してシール部を押し付ける分力を発生させる。すなわち、第1弾性部には、被摺接側部材から離れる離間方向の力が作用し、シール部には、離間方向とは反対向きの押圧方向の力が作用する。このように、離間方向の力と押圧方向の力とが、シール部の高圧側境界を挟んで隣り合って弾性部材に作用することで、シート面とシール部との間の接触面積の増大がより一層抑制される。
請求項3の流体機械用軸封装置では、第1弾性部の周面と被摺接側部材の対向面との間の隙間が、シール部から離れるに連れて拡大している。この隙間内には高圧域の潤滑油が流入し易い上に、流入した潤滑油が保持され易く、この隙間を通じて、シート面とシール部との間に潤滑油がより一層円滑に供給される。
請求項4の流体機械用軸封装置では、シール部、第1弾性部及び第2弾性部がドーナツ状の空間の少なくとも一部を区画するように連なっている。このため、第1弾性部は、周面が受けた高圧域の圧力に基づいて、シート面に対してシール部を押し付ける分力を確実に発生する。この結果として、この軸封装置では、シート面とシール部との間の接触面積の増大が確実に抑制される。
請求項5の流体機械用軸封装置は、弾性部材がチューブ状をなすため、支持手段による第1弾性部及び第2弾性部の拘束が容易であり、簡単に組み立てられる。
請求項6の流体機械用軸封装置は、空間を空気で満たす場合、簡単に組み立てられる。
請求項7の流体機械用軸封装置では、空間を気液混合状態の物質で満たすことによって、シート面とシール部との間の接触圧力が適当な値に調整される。この結果として、この軸封装置では、接触面積の増大が抑制されながら、適当な接触圧力は確保され、シール性が確保される。
請求項8の流体機械用軸封装置では、第1弾性部が変形して空間の容積が縮小されると、容積の縮小に対応して非圧縮性流体の圧力が高まり、シート面に対してシール部を押し付ける力が増大する。この結果として、この軸封装置では、接触面積の増大が抑制されながら、適当な接触圧力は確保され、シール性が確保される。
請求項9の流体機械用軸封装置では、潤滑油がシール部に浸透し、シール部とシート面との間に滲み出す。この結果として、この軸封装置では、シール部とシート面との間に確実に潤滑油が供給される。
請求項10の流体機械用軸封装置では、潤滑油が高圧域内の流体とは非相溶性であるため、流体が潤滑油に溶け込んで弾性部材を透過し、低圧域に漏れるのが防止される。
請求項11の流体機械用軸封装置では、弾性部材がエラストマーからなるため、シール部とシート面とが隙間なく摺接し、良好なシール性が確保される。
請求項12の流体機械用軸封装置では、弾性部材がフッ素樹脂からなるため、シール部とシート面との間に供給される潤滑油が少なくても潤滑性が確保され、或いは、シール部の温度がエラストマーの耐熱温度よりも高温になっても、シール性が確保される。
請求項13及び14の流体機械用軸封装置では、付勢部材によってシール部がシート面に押し付けられることによって、良好なシール性が確保される。そして、付勢部材の材料の弾性係数が弾性部材の材料の弾性係数よりも大きい場合、すなわち、付勢部材として金属製のばね等を使用する場合、温度や圧力の影響が少なく良好なシール性が確保される。
一方、付勢部材の材料の弾性係数が弾性部材の材料の弾性係数よりも小さい場合、回転軸の偏心や振れ回りへの追従が良好になる。
請求項15の流体機械用軸封装置は、付勢部材が多孔質体からなり、安価である。
請求項16の流体機械用軸封装置は、付勢部材がシリコンゴムからなり、耐熱性に優れる。
請求項17の流体機械用軸封装置では、弾性部材が流体の透過性を有するエラストマーであっても、金属層によって流体の透過が遮られ、低圧域への流体の漏れが防止される。
請求項18の流体機械用軸封装置では、シール面の途中まで延びる油溝を通じて、シート面とシール部との間に潤滑油がより一層円滑に供給される。また、油溝を通じて、潤滑油が高圧域側に戻される。なお、シール性は、油溝が形成されていないシール面の領域によって確保される。
請求項19の流体機械用軸封装置では、耐摩耗層又は固体潤滑材からなる潤滑層が形成されることによって摺動特性が向上し、優れたシール性が長期に渡り確保される。
図1は、第1実施形態の軸封装置を適用した流体機械として、可変容量型の斜板式圧縮機を示す。
圧縮機は、ハウジング10の一部を構成するケーシング(フロントハウジング)12を備える。ケーシング12は大径筒部14を含み、大径筒部14の端壁16に小径筒部18が一体に連なっている。端壁16とは反対側の大径筒部14の開口端には、シリンダブロック20が固定され、シリンダブロック20の一端面と大径筒部14の端壁16との間にはクランク室22が区画されている。
シリンダブロック20に対しては、ケーシング12とは反対側から、シリンダヘッド24が固定され、シリンダヘッド24とシリンダブロック20との間には、バルブプレート26が挟まれている。
シリンダヘッド24の外周壁には、吸入ポート及び吐出ポート(図示せず)が形成され、シリンダヘッド24の内部には、これら吸入及び吐出ポートがそれぞれ開口する吸入室28及び吐出室30が区画されている。また、シリンダヘッド24の内部には、図示しないけれども、外部制御の電磁弁が収容されている。
吸入室28は、吸入リード弁(図示せず)を介してシリンダブロック20の各シリンダボア32に連通する一方、低圧側連通路(図示せず)を通じクランク室22に常時連通している。
吐出室30は、吐出リード弁(図示せず)を介して各シリンダボア32に連通する一方、高圧側連通路(図示せず)を通じてクランク室22に連通している。前述の電磁弁は、高圧側連通路に介挿され、外部の制御装置(図示せず)からの制御信号に基づき高圧側連通路を開閉する。
シリンダブロック20の各シリンダボア32内には、クランク室22側からピストン34が往復動自在に挿入され、ピストン34のテール部は、クランク室22内に突出している。
ピストン34のテール部には、ピストン34を往復運動させるための動力が伝達される。そのために、圧縮機は、外部から動力を断続的に受け取るプーリ40を有し、プーリ40のハブ部は、回転軸60の外端にスプライン結合されている。
回転軸60は、小径筒部18と端壁16とを貫通するシャフト孔62を通じてケーシング12の内外に渡り、回転軸60の内端は、シリンダブロック20の中央の軸受け孔内に位置している。回転軸60の内端は、軸受け孔内のスラストベアリング64及びラジアルベアリング66によって回転自在に支持されている。
回転軸60の中央部にはロータ68が固定され、ロータ68は、回転軸60に嵌合したボス部を有し、ボス部とシャフト孔62の内周面との間にはラジアルベアリング70が配置されている。また、ロータ68は、ボス部と一体の環状の円盤部を有し、円盤部はスラストベアリング72を介して端壁16と対向している。従って、回転軸60の中央部は、ロータ68を介して、ラジアルベアリング70及びスラストベアリング72によって回転自在に支持されている。
ロータ68とシリンダブロック20との間を延びる回転軸60の部分は、斜板ボス74を貫通し、斜板ボス74はヒンジ76を介してロータ68の円盤部に連結されている。斜板ボス74には環状の斜板78が嵌合し、斜板78は、回転軸60に対して傾動可能であるとともに、回転軸60と一体に回転可能である。
動力が伝達される各ピストン34のテール部には、回転軸60に向けて開口した凹所が形成され、この凹所には、1組の半球状のシュー79が配置されている。シュー79は、凹所内にて斜板78の外周部に摺接し、シュー79を介して斜板78とピストン34とが連結される。
この圧縮機では、回転軸60の回転運動がロータ68や斜板78等を介してピストン34の往復運動に変換されるけれども、クランク室22の圧力(背圧)に応じてピストン34のストローク長、即ち吐出容量が変化する。背圧は外部の制御装置によって制御され、制御装置は、電磁弁を開いて吐出室30の作動流体をクランク室22に導入することで、背圧を高めて容量を減少させる一方、電磁弁を閉じてクランク室22内の作動流体を吸入室28に流出させることで、背圧を低下させて容量を増大させる。
このように、クランク室22内には、シリンダボア32とピストン34との隙間から漏出した作動流体はもとより、高圧側連通路を通じても作動流体が導入される。クランク室22内の作動流体がケーシング12の外部に漏れるのを防止するため、シャフト孔62内には、ラジアルベアリング70よりもプーリ40側に軸封装置80が配置され、軸封装置80はクランク室22と外部との間を気密に区画している。なお、端壁16には、斜めに潤滑油の供給路83が形成され、供給路83の一端は、軸封装置80とラジアルベアリング70との間にてシャフト孔62孔内に開口し、供給路83の他端は、スラストベアリング72近傍にてクランク室22に開口している。
図2に示したように、軸封装置80は、シャフト孔62の内周面に設けられた段差面とスナップリング81との間に挟まれている。軸封装置80は、金属からなる円筒状のケース82を有し、ケース82の両端は、径方向内側にかしめ加工され、内向きフランジ82a,82bを成している。また、このケース82では、プーリ40(外部)側の外端部が若干拡径され、ケース82の外端部の外径は、軸封装置80を囲むシャフト孔62の部分の内径Dよりも僅かに小さい。
ケース82の外面は、この外端部を除き、弾性材料からなる円筒状のアウタパッキン84によって覆われ、アウタパッキン84はケース82に密着している。アウタパッキン84の外径は、シャフト孔62の内径Dと略同じであるが、アウタパッキン84の外周面には、ロータ68側、つまりクランク室22側に複数の環状の突条84aが形成されている。アウタパッキン84が自由状態にあるときの突条84aの外径は、シャフト孔62の内径Dよりも大であり、突条84aは、圧縮された状態でシャフト孔62の内周面に密着している。このため、アウタパッキン84の外周面とシャフト孔62の内周面との間の気密性は、突条84aによって確保され、且つ、ケース82は、ケーシング12に対して相対回転不能である。
ケース82の内側にはボビン状の弾性部材86が嵌合され、その縦断面でみて、弾性部材86はU字状をなす。より詳しくは、弾性部材86は、径方向でみて最も内側に、回転軸60の外周面(シート面)に摺接する円筒状のシール部88を有する。シール部88の内周面(シール面)88aには、スパイラル状に延びる油溝89が形成され、油溝89は、クランク室22側のシール部88の端縁(高圧側境界)から、外部側のシール部88の端縁(低圧側境界)の手前まで延びている。つまり、油溝89はクランク室22のみに連通している。なお、説明の都合上、図2中、回転軸60を一点鎖線で示した。
シール部88の低圧側境界には、直角に低圧側鍔部90が連なり、一方、シール部88の高圧側境界には湾曲部92が連なる。湾曲部92は、回転軸60に沿ってシール部88から離れるに連れて徐々に拡開したラッパ状をなし、軸線方向でみてシール部88とは反対側に、シール部88の外径よりも大きな外径の大径端縁を有する。湾曲部92の大径端縁の外径は、低圧側鍔部90の外径よりも小さく、この大径端縁には、高圧側鍔部94が連なっている。高圧側鍔部94は、低圧側鍔部90と平行であり、低圧側鍔部90と同様に外向きフランジ状をなす。高圧側鍔部94の外径は低圧側鍔部90の外径と略等しく、低圧側鍔部90及び高圧側鍔部94の外周縁は、ケース82の内周面に当接している。
従って、弾性部材86の内周面は、シール部88のシール面88aと、シール面88aの一方の端縁に連なる湾曲部92のラッパ状の周面(曲面)92aとによって形成され、弾性部材86の端面は、低圧側鍔部90及び高圧側鍔部94の外面によって形成されている。
また、ケース82には、内側から金属製の円筒状のスペーサ96が嵌合し、スペーサ96は、低圧側鍔部90の外周部と高圧側鍔部94との間に位置している。スペーサ96の内径は、シール部88の外径よりも十分に大きく、スペーサ96とシール部88の外周面(背面)との間には、ドーナツ状の空間97が区画されている。この空間97は、シール部88を介して回転軸60の外周面に沿っている。
一方、低圧側鍔部90の外面、つまり弾性部材86の外部側の端面には、中央に孔を有した金属製の円盤状のサポートディスク98が当てがわれ、サポートディスク98の外周縁にはリム100が一体に形成されている。リム100は、サポートディスク98の外周縁から低圧側鍔部90とは反対側に突出し、リム100の外周面はケース82の内周面に嵌合している。なお、サポートディスク98の中央の孔の内径は、シール部88の内径よりも若干大である。
ここで、ケース82の両端部の内向きフランジ82a,82bは、高圧側鍔部94、スペーサ96、低圧側鍔部90、サポートディスク98及びリム100を軸線方向に挟み込み、弾性部材86の外周部、すなわち、低圧側鍔部90の外周部及び高圧側鍔部94は、ケース82によって拘束されている。そして、高圧側鍔部94がスペーサ96及び内向きフランジ82bに密着し、低圧側鍔部90がスペーサ96及びサポートディスク98に密着しており、空間97は、シール部88、低圧側鍔部90、湾曲部92及びスペーサ96によって気密に区画されている。
また、弾性部材86が自由状態にあるとき、弾性部材86すなわちシール部88の内径は、弾性部材86によって囲まれる回転軸60の部位の外径dよりも小であり、シール部88は、適当な締付力(緊迫力)をもって回転軸60に摺接する。
上述した軸封装置80では、シール部88の一方の端縁に低圧側鍔部90が連なり、他方の端縁に湾曲部92及び高圧側鍔部94が連なり、ケース82が、シール部88から離間した低圧側鍔部90の外周部及び高圧側鍔部94を拘束している。これら低圧側鍔部90、湾曲部92及び高圧側鍔部94は、シール部88の両端縁を支持することによって、クランク室22(高圧域)の圧力が高くても、シール部88の変形を規制し、回転軸60とシール部88との間での接触面積の増大を抑制する。このため、摺動による発熱量の増大が抑制されるのはもとより、回転軸60のシート面とシール部88のシール面88aとの間に潤滑油が円滑に供給され、シール部88が高温になって劣化するのが防止される。この結果として、この軸封装置80は、耐久性及び信頼性が高く、また、弾性部材86に高価な材料を使用する必要もないので安価である。その上、この軸封装置80を適用した圧縮機では、摩擦力が小さくなり、消費動力が削減される。
また、軸封装置80では、図3に示したように、湾曲部92の周面92aにクランク室22の圧力Pが作用するけれども、周面92aが受けた圧力Pに基づいて、湾曲部92は、回転軸60から離れるように変形する一方、回転軸60に対してシール部88を押し付ける分力Fを発生させる。すなわち、湾曲部92及び高圧側鍔部94には、回転軸60から離れる離間方向の力が作用し、シール部88には、離間方向とは反対向きの締付け方向の力が作用する。このように、離間方向の力と締付け方向の力とが、シール部88のクランク室22側の端縁を挟んで隣り合って弾性部材86に作用することで、高圧域の圧力Pによって回転軸60からシール部88が離れることはなく、シール部88と回転軸60との間のシール性が保たれる。
なお、軸封装置80では、シール部88、低圧側鍔部90及び湾曲部92がドーナツ状の空間97の少なくとも一部を区画するように連なっている。このため、湾曲部92は、周面92aが受けた高圧域の圧力Pに基づいて、回転軸60に対してシール部88を押し付ける分力Fを確実に発生する。この結果として、この軸封装置80では、回転軸60とシール部88との間のシール性が確保される。
更に、軸封装置80では、シール面88aと直交する方向(径方向)でみた湾曲部92の周面92aと周面92と対向する回転軸60の部分との間の隙間の大きさが、回転軸60に沿ってシール部88から離れるに連れて拡大している。この隙間内にはクランク室22内の潤滑油が流入し易い上に、流入した潤滑油が保持され易く、この隙間を通じて、回転軸60とシール部88との間に潤滑油がより一層円滑に供給される。
本発明は上述した第1実施形態に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第1実施形態では、シール部88のシール面88aに油溝89が形成されていたけれども、シール面88aに油溝89を形成しなくてもよい。ただし、油溝89を形成すれば、回転軸60とシール部88との間に潤滑油がより一層円滑に供給される。
また、図4に示したように、シール面88a又はシール面88aが摺接する回転軸60のシート面に表面処理を施し、固体潤滑材からなる潤滑層101や耐摩耗層等を形成してもよい。
図5は、第2実施形態の軸封装置102を示しており、軸封装置102は、ドーナツ状の空間97内に配置されたリング104を有する。リング104は弾性材料からなり、リング104の縦断面形状は円形をなす。リング104の外周縁はスペーサ96の内周面に当接する一方、リング104の内周面はシール部88の外周面に当接している。リング104は、弾性部材86よりも小さな弾性係数を有し、また、自由状態にあるときのリング104の内径は、回転軸60に摺接状態にあるときのシール部88の外径よりも小さい。リング104は、回転軸60を締付けるような付勢力をシール部88に与え、これにより、回転軸60とシール部88との間のシール性が向上する。
なお、リング104の材質は、特には限定されないが、スポンジ状の多孔質高分子材料又はシリコンゴムを用いるのが好ましい。多孔質高分子材料は安価であり、シリコンゴムは耐熱性に優れるからである。
図6は、第3実施形態の軸封装置106を示している。軸封装置106は、ドーナツ状の空間97内に配置された複数の圧縮コイルばね108を有し、圧縮コイルばね108は、周方向に等間隔をもって放射状に配置されている。圧縮コイルばね108は、シール部88の外周面とスペーサ96の内周面との間に挟まれて圧縮状態にある。
ここで、圧縮コイルばね108の軸線方向、即ち、回転軸60の径方向でみて、圧縮コイルばね108の弾性係数は、弾性部材86の弾性係数に等しいか若しくはそれ以上であり、圧縮コイルばね108は、回転軸60を締付けるような付勢力をシール部88に与え、これにより、回転軸60とシール部88との間のシール性が向上する。
また、圧縮コイルばね108は金属製であり、圧縮コイルばね108の材料の弾性係数は、弾性部材86の弾性係数よりも大である。このように弾性部材86を付勢するために金属製のばね等を使用する場合、温度や圧力の影響を受け難く、良好なシール性が確保される。
一方、弾性部材86を付勢する部材の材料の弾性係数が弾性部材86の材料の弾性係数よりも小さい場合、回転軸60の偏心や振れ回りへの追従が良好になる。
図7は、第4実施形態の軸封装置110を示しており、軸封装置110は、金属環112を有していてもよい。図7に加えて図8(a),(b)もあわせて参照すると、金属環112は、円筒状のリング部112aと、リング部112aの一端に連なる拡開部112bとからなる。金属環112は、シール部88、湾曲部92及び高圧側鍔部94の一部の背面に沿うように弾性部材86に密着し、拡開部112bの外周縁は、スペーサ96と内向きフランジ82bとの間に挟まれている。
この軸封装置110では、金属環112が、弾性部材86よりも大きな弾性係数を有することによって、回転軸60からのシール部88の離間を確実に防止するのは勿論、回転軸60に対してシール部88を適当な接触圧力にて押し付ける。この結果、この軸封装置110ではシール性が向上する。
また、この軸封装置110によれば、たとえ弾性部材86がクランク室22内の作動流体の透過性を有していても、金属環112によって作動流体の透過が阻止され、作動流体が外部に漏れるのが防止される。金属環112によって接触圧力を増大する必要がなく、作動流体の漏れのみを防止するには、金属環112よりも厚さが薄い金属層を弾性部材86に形成してもよい。
図9は、第5実施形態の軸封装置114を示しており、軸封装置114は、空間97が気液混合状態の物質116で満たされていてもよい。すなわち、第1〜4実施形態では、圧縮機の外部又はクランク室22と空間97との間がそれぞれ気密に区画され、空間内97が空気で満たされていたけれども、空間97内を、気液混合状態の物質で満たしてもよい。この場合、湾曲部92の変形に伴い、空間97内の気液混合状態の物質116が圧縮され、圧縮された気液混合状態の物質116は、回転軸60に対してシール部88を押し付ける押圧力を発生する。分力Fに、この押圧力も合わさることで、回転軸60とシール部88との間の接触圧力が適当な値に調整される。この結果として、この軸封装置114では、接触面積の増大が抑制されながら、適当な接触圧力は確保され、シール性が確保される。
なお、気液混合状態の物質116としては、冷凍回路の冷媒として用いられるフロンやCO等を用いることができる。
また、空間97は、非圧縮性流体で満たされていてもよい。この場合、湾曲部92が変形して空間97の容積が縮小されると、容積の縮小に対応して非圧縮性流体の圧力が高まり、回転軸60に対してシール部88を押し付ける力が更に発生する。この力と分力Fとが合わさる結果として、回転軸60とシール部88との間での接触面積の増大が抑制されながら、適当な接触圧力は確保され、シール性が確保される。
図10は、第6実施形態の軸封装置118を示しており、軸封装置118は、空間97が潤滑油120で満たされ、且つ、弾性部材86が、潤滑油120の透過性を有する例えばポリウレタン等のエラストマーからなる。この軸封装置118では、空間97内の潤滑油がシール部88を透過してシール面88aから滲み出し、シール部88と回転軸60との間で良好な潤滑性が確保される。
ここで、空間97に充填される潤滑油120は、クランク室22内の作動流体とは非相溶性であるのが好ましい。潤滑油120に作動流体が溶け込み、作動流体が外部に漏れるのを防止するためである。
なお、潤滑油も非圧縮性流体であるため、空間97の容積が縮小されると、容積の縮小に対応して潤滑油の圧力が高まり、回転軸60に対してシール部88を押し付ける力が更に発生する。この力と分力Fとが合わさる結果として、回転軸60とシール部88との間での接触面積の増大が抑制されながら、適当な接触圧力は確保され、シール性が確保される。
また、空間97に潤滑油を充填しない場合には、弾性部材86の材料は、特には限定されないが、エラストマー若しくはフッ素樹脂であるのが好ましい。弾性部材86がエラストマーからなる場合、シール部88と回転軸60との間の隙間が殆どなくなり、良好なシール性が確保されるからである。また、弾性部材86がフッ素樹脂からなる場合、エラストマーを用いた場合に比べて、摺動特性及び耐熱性が向上するからである。
図11は、第7実施形態の軸封装置122を示しており、軸封装置122は、空間97と、軸封装置122よりも外部側のシャフト孔62内の領域とを連通する連通路124を有していてもよい。例えば、連通路124は、弾性部材86の低圧側鍔部90及びサポートディスク98を貫通して形成された貫通孔である。
図12は、第8実施形態の軸封装置126を示しており、軸封装置126は、ドーナツ状の空間97と、軸封装置126よりもクランク室22側のシャフト孔62内の領域とを連通する連通路128を有していてもよい。例えば、連通路128は、弾性部材86の湾曲部92を貫通して形成された貫通孔であり、この場合、連通路128として、複数の貫通孔が周方向に等間隔で形成される。
なお、この軸封装置126の場合、空間97内がクランク室22と同じ圧力まで上昇し、空間97の圧力が、シール部88を回転軸60に押し付ける方向で作用する。しかしながら、シール部88は、低圧側鍔部90と、湾曲部92及び高圧側鍔部92とによって軸線方向両側にて支持されているので、シール部88が押し潰されるように変形するのが抑制され、シール部88と回転軸60との間での接触面積の増大が抑制される。
図13(a),(b)は、第9実施形態の軸封装置に適用される弾性部材130を示している、弾性部材130は、ドーナツ状の空間132を内包したチューブ状をなす。弾性部材130も、径方向でみて最も内側にシール部134を有し、シール部134に湾曲部136が連なっている。このように、弾性部材の縦断面形状は、第1実施形態のU字状に限定されず、O字状であってもよく、或いはJ字状等であってもよい。
なお、弾性部材130を用いた場合、スペーサ96は不要であり、サポートディスク98と内向きフランジ82aとの間に弾性部材130の外周部が挟まれ、これによって弾性部材130の外周部はケース82に拘束される。従って、この場合、第1実施形態の軸封装置80に比べ、部品点数が少なくなるとともに組み立てが簡単になり、軸封装置が安価になる。
図14は、第10実施形態の軸封装置140を示しており、軸封装置140は、シャフト孔62の内周面ではなく、回転軸60に取付けられている。
より詳しくは、軸封装置140は、回転軸60の外周面に設けられた段差面とスナップリング141との間に挟まれている。軸封装置140は、金属からなる円筒状のケース142を有し、ケース142の両端は、径方向外側にかしめ加工され、外向きフランジ142a,142bを成している。また、このケース142では、外部側の外端部が若干縮径され、ケース142の外端部の内径は、ケース142によって囲まれた回転軸60の部分の外径dよりも僅かに大きい。
ケース142の内面は、この外端部を除き、弾性材料からなる円筒状のインナパッキン144によって覆われ、インナパッキン144はケース142に密着している。インナパッキン144の内径は、回転軸60の外径dと略同じであるが、インナパッキン144の内周面には、ロータ68側、つまりクランク室22側に複数の環状の突条144aが形成されている。インナパッキン144が自由状態にあるときの突条144aの内径は、回転軸60の外径dよりも小であり、突条144aは、圧縮された状態で回転軸60の外周面に密着している。このため、インナパッキン144の内周面と回転軸60の外周面との間の気密性は、突条144aによって確保され、且つ、ケース142は、回転軸60に対して相対回転不能である。
ケース142の外側にはタイヤ状の弾性部材146が嵌合され、その縦断面でみて、弾性部材146は、弾性部材86とは逆向きに径方向内側に開口したU字状をなす。弾性部材146は、径方向でみて最も外側に円筒状のシール部148を有し、シール部148はケーシング12側に設けられた金属製の円筒状のシートリング145に摺接する。
より詳しくは、シートリング145は、シャフト孔62の内周面に嵌合し、シャフト孔62の内周面に設けられた段差面とスナップリング81との間に挟まれている。このため、シートリング145はケーシング12に対して相対回転不能であり、このシートリング145の内周面に対して弾性部材146のシール部148は摺接する。
シール部148の外周面(シール面)148aには、スパイラル状に延びる油溝149が形成され、油溝149は、クランク室22側のシール部148の端縁(高圧側境界)から、外部側のシール部148の端縁(低圧側境界)の手前まで延びている。
シール部148の低圧側境界には、直角に低圧側鍔部150が連なり、一方、シール部148の高圧側境界には湾曲部152が連なる。湾曲部152は、回転軸60に沿ってシール部148から離れるに連れて徐々に縮径し、軸線方向でみてシール部148とは反対側に、シール部148の内径よりも小さな内径の小径端縁を有する。湾曲部152の小径端縁の内径は、低圧側鍔部150の内径よりも大きく、この小径端縁には、高圧側鍔部154が連なっている。高圧側鍔部154は、低圧側鍔部150と平行であり、低圧側鍔部150と同様に内向きフランジ状をなす。高圧側鍔部154の内径は低圧側鍔部150の内径と略等しく、低圧側鍔部150及び高圧側鍔部154の内周縁は、ケース142の外周面に当接している。
従って、弾性部材146の外周面は、シール部148のシール面148aと、シール面148aの一方の端縁に連なる湾曲部152の周面152aとによって形成され、弾性部材146の端面は、低圧側鍔部150及び高圧側鍔部154の外面によって形成されている。
また、ケース142には、外側から金属製の円筒状のスペーサ156が嵌合し、スペーサ156は、低圧側鍔部150の外周部と高圧側鍔部154との間に位置している。スペーサ156の外径は、シール部148の内径よりも十分に小さく、スペーサ156とシール部148の外周面(背面)との間には、ドーナツ状の空間157が区画されている。
一方、低圧側鍔部150の外面、つまり弾性部材146の外部側の端面には、中央に孔を有した金属製の円盤状のサポートディスク158が当てがわれ、サポートディスク158の内周縁にはリム160が一体に形成されている。リム160は、サポートディスク158の内周縁から低圧側鍔部150とは反対側に突出し、リム160の内周面はケース142の外周面に嵌合している。なお、サポートディスク158の外径は、シール部148の外径よりも若干小である。
ここで、ケース142の両端部の外向きフランジ142a,142bは、高圧側鍔部154、スペーサ156、低圧側鍔部150、サポートディスク158及びリム160を軸線方向に挟み込み、弾性部材146の内周部、すなわち、低圧側鍔部150の内周部及び高圧側鍔部154は、ケース142によって拘束されている。そして、高圧側鍔部154がスペーサ156及び外向きフランジ142bに密着し、低圧側鍔部150がスペーサ156及びサポートディスク158に密着しており、空間157は、シール部148、低圧側鍔部150、湾曲部152及びスペーサ156によって気密に区画されている。
また、弾性部材146が自由状態にあるとき、弾性部材146すなわちシール部148の外径は、弾性部材146を囲むシートリング145の内径Dよりも大であり、シール部148は、適当な緊迫力をもってシートリング145に摺接する。
図15は、第11実施形態の軸封装置170を示しており、軸封装置170も、シャフト孔62の内周面ではなく、回転軸60に取付けられている。
より詳しくは、軸封装置170は、金属からなるケース172を有する。ケース172は、内周壁172aと、外周壁172bと、これら内周壁172a及び外周壁172bの端縁を連結する端壁172cとを有し、一端側が開口したボビン状をなす。
ケース172の外面は、弾性材料からなる二重円筒状のアウタパッキン174によって覆われ、アウタパッキン174はケース172に密着している。アウタパッキン174の内径は、回転軸60の外径dと略同じであるが、アウタパッキン174の内周面には、複数の環状の突条174aが形成されている。アウタパッキン174が自由状態にあるときの突条174aの内径は、回転軸60の外径dよりも小であり、突条174aは、圧縮された状態で回転軸60の外周面に密着している。このため、アウタパッキン174の内周面と回転軸60の外周面との間の気密性は、突条174aによって確保され、且つ、ケース172は、回転軸60に対して相対回転不能である。
ケース172の内周壁172aと外周壁172bとの間には、ケース172の端壁172c側が開口したボビン状の弾性部材176が嵌合され、その縦断面でみて、弾性部材176は、クランク室22側に開口したU字状をなす。弾性部材176は、軸線方向でみて最も外部側に円環板状のシール部178を有し、シール部178はケーシング12側に設けられた金属製の円環板状のシートリング175に摺接する。
より詳しくは、シートリング175は、シャフト孔62の内周面に嵌合し、シャフト孔62の内周面に設けられた段差面とスナップリング81との間に挟まれている。このため、シートリング175はケーシング12に対して相対回転不能であり、このシートリング175の端面に対して弾性部材176のシール部178は摺接する。
シール部178の外面(シール面)178aには、スパイラル状に延びる油溝179が形成され、油溝179は、クランク室22側のシール部178の外周縁(高圧側境界)から、外部側のシール部178の内周縁(低圧側境界)の手前まで延びている。
シール部178の低圧側境界には、直角に円筒状の低圧側周壁180が連なり、一方、シール部178の高圧側境界には湾曲部182が連なる。湾曲部182は、回転軸60の径方向に沿ってシール部178から離れるに連れてシートリング175から徐々に離れ、径方向でみてシール部178とは反対側に、シール部178の外周縁よりも大径の大径端縁を有する。シートリング175から湾曲部182の大径端縁までの軸線方向長さは、低圧側周壁180の軸線方向長さよりも短く、この大径端縁には、円筒状の高圧側周壁184が連なっている。高圧側周壁184は、低圧側周壁180と同心状をなし、端壁172c側の高圧側周壁184及び低圧側周壁180の端縁の軸線方向位置は互いに略等しく、これら低圧側周壁180及び高圧側周壁184の端縁は、ケース172の端壁172cに当接している。
従って、シートリング175側の弾性部材176の外端面は、シール部178のシール面178aと、シール面178aの外周縁に連なる湾曲部182の周面182aとによって形成され、弾性部材176の内周面及び外周面は、低圧側周壁180及び高圧側周壁184の外面によって形成されている。
また、ケース172には、シートリング175側から金属製の円筒状のスペーサ186が嵌合し、スペーサ186は、端壁172c側の低圧側周壁180の部分と高圧側周壁184との間に位置している。スペーサ186の軸線方向長さは、高圧側周壁184の軸線方向長さと略等しく、スペーサ186とシール部178の背面との間には、ドーナツ状の空間187が区画されている。
一方、低圧側周壁180の外面、つまり弾性部材176の内周面には、金属製の円筒状のサポートパイプ188が当てがわれているけれども、サポートパイプ188の端縁とシートリング175との間には、隙間が確保されている。
ここで、ケース172の内周壁172a及び外周壁172bは、高圧側周壁184、スペーサ186、低圧側周壁180及びサポートパイプ188を径方向に挟み込み、弾性部材176の端壁172c側の部分、すなわち、低圧側周壁180の一部及び高圧側周壁184は、ケース172によって拘束されている。そして、高圧側周壁184がスペーサ186及び外周壁172bに密着し、低圧側周壁180がスペーサ186及びサポートパイプ188に密着しており、空間187は、シール部178、低圧側周壁180、湾曲部182及びスペーサ186によって気密に区画されている。
また、弾性部材176が自由状態にあるとき、弾性部材176の軸線方向長さは、ケースの端壁172cとシートリング175との間の距離よりも長く、シール部178は、適当な押圧力をもってシートリング175に摺接する。
図16は、第12実施形態の軸封装置190を示し、軸封装置190は、ケーシング12側に固定されている点において、軸封装置170とは異なるけれども、その構成の一部が、略軸封装置170と共通する。このため、共通部分には同一の符号を付して説明を省略する。
軸封装置190は、回転軸60の段差面とサポートリング191との間に挟まれ、サポートリング191は、シャフト孔62の段差面とスナップリング81との間に挟まれている。ケース172の開口端は、回転軸60の段差面側に位置付けられ、シール部178は回転軸60の段差面に摺接する。ケース172の外面に密着したアウタパッキン194は、突条194aを外周面に有し、アウタパッキン194とシャフト孔62の内周面との間の機密性は、突条194aによって確保される。一方、アウタパッキン194の内周面と回転軸60との間には、所定の隙間が確保されている。
上記した第10〜12実施形態においても、第1実施形態の場合と同様に、シール部148,178の変形が規制され、シール部148,178と被摺接部材であるシートリング145,175又は回転軸60との間での接触面積の増大が抑制される。このため、摺動による発熱量の増大が抑制されるのはもとより、シール部148,178と被摺接部材との間に潤滑油が円滑に供給され、シール部148,178が高温になって劣化するのが防止される。この結果として、これらの軸封装置140,170,190は、耐久性及び信頼性が高く、また、高価な材料を使用する必要もないので安価である。その上、この軸封装置140,170,190を適用した流体機械では消費動力が削減される。
そして、第10〜12実施形態においても、湾曲部152,182の周面152a,182aにクランク室22の圧力Pが作用するけれども、離間方向の力と押圧方向の力とが、クランク室22側のシール部148,178の高圧側境界を挟んで隣り合って弾性部材146,176に作用する。このため、高圧域の圧力Pによって被摺接側部材からシール部148,178が離れることはなく、シール部148,178と被摺接側部材との間にてシール性が保たれる。
そして、第10〜12実施形態においても、第1実施形態に対する第2〜9実施形態等のような変形が可能であるのは勿論である。
最後に、本発明の軸封装置は、圧縮機の他、ポンプや膨張機等の種々の流体機械にも同様に適用できることは言うまでもない。
第1実施形態の軸封装置を適用した可変容量型の斜板式圧縮機の縦断面を示す図である。 図1の軸封装置近傍を拡大して示した図である。 図2の軸封装置の弾性部材に作用する力を説明するための図である。 図2の軸封装置の変形例を説明するための図である。 第2実施形態の軸封装置の縦断面図である。 第3実施形態の軸封装置の縦断面図である。 第4実施形態の軸封装置の縦断面図である。 図7の軸封装置に用いられた金属環の図であって、(a)は縦断面であり、(b)は斜視図である。 第5実施形態の軸封装置の縦断面図である。 第6実施形態の軸封装置の縦断面図である。 圧縮機に取付けられた状態の第7実施形態の軸封装置の縦断面図である。 圧縮機に取付けられた状態の第8実施形態の軸封装置の縦断面図である。 第9実施形態の軸封装置に用いられる弾性部材の図であって、(a)は縦断面であり、(b)は斜視図である。 圧縮機に取付けられた状態の第10実施形態の軸封装置の縦断面図である。 圧縮機に取付けられた状態の第11実施形態の軸封装置の縦断面図である。 圧縮機に取付けられた状態の第12実施形態の軸封装置の縦断面図である。
符号の説明
12 ケーシング
60 回転軸
80 軸封装置
86 弾性部材
88 シール部
90 低圧側鍔部(第2弾性部)
92 湾曲部(第1弾性部)
94 高圧側鍔部(第1弾性部)

Claims (19)

  1. 回転軸及びケーシングのうち一方の被摺接側部材のシート面に摺接するシール部を有する弾性部材と、
    前記弾性部材を支持する支持手段と
    を備え、高圧域と低圧域との間を仕切る流体機械用軸封装置であって、
    前記弾性部材は、
    前記高圧域側に位置付けられる前記シール部の高圧側境界に連なる第1弾性部と、
    前記低圧域側に位置付けられる前記シール部の低圧側境界に連なる第2弾性部と
    を有し、
    前記支持手段は、前記シール部から離間した第1弾性部及び第2弾性部の部位を拘束する
    ことを特徴とする流体機械用軸封装置。
  2. 前記弾性部材は、前記第1弾性部に形成され、前記シート面に摺接する前記シール部のシール面に連なり且つ前記高圧域に面した曲面からなる周面を有し、
    前記周面は、前記高圧域の圧力により前記被摺接側部材から離れる方向へ変位する
    ことを特徴とする請求項1に記載の流体機械用軸封装置。
  3. 前記被摺接側部材は、前記周面と対向する対向面を有し、
    前記シール面と直交する方向でみた前記周面と前記対向面との間の隙間の大きさは、前記シール面から離れるに連れて連続的に拡大している
    ことを特徴とする請求項2に記載の流体機械用軸封装置。
  4. 前記高圧域と前記低圧域との間に設けられ、前記シール部、第1弾性部及び第2弾性部の背面によって少なくとも一部が区画されたドーナツ状の空間を更に備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の流体機械用軸封装置。
  5. 前記弾性部材は、前記ドーナツ状空間を内部に有するチューブ状をなすことを特徴とする請求項4に記載の流体機械用軸封装置。
  6. 前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ気体で満たされていることを特徴とする請求項4又は5に記載の流体機械用軸封装置。
  7. 前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ気液混合状態の物質で満たされていることを特徴とする請求項4又は5に記載の流体機械用軸封装置。
  8. 前記空間は、前記高圧域及び低圧域の双方と気密に仕切られ且つ非圧縮性流体で満たされていることを特徴とする請求項4又は5に記載の流体機械用軸封装置。
  9. 前記空間は、前記非圧縮性流体としての潤滑油で満たされ、
    前記シール部は前記潤滑油の浸透性を有する
    ことを特徴とする請求項8に記載の流体機械用軸封装置。
  10. 前記潤滑油は、前記高圧域内の流体とは非相溶性であることを特徴とする請求項9に記載の流体機械用軸封装置。
  11. 前記弾性部材はエラストマーからなることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
  12. 前記弾性部材はフッ素樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
  13. 前記シール部の背面に当接し、前記シール部を前記シート面に向けて付勢する付勢部材を更に備えており、
    前記付勢方向での前記付勢部材の弾性係数は、前記弾性部材の弾性係数以上であり、
    前記付勢部材の材料の弾性係数は、前記弾性部材の材料の弾性係数よりも大である
    ことを特徴とする請求項1乃至12の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
  14. 前記シール部の背面に当接し、前記シール部を前記シート面に向けて付勢する付勢部材を更に備え、
    前記付勢方向での前記付勢部材の弾性係数は、前記弾性部材の弾性係数以上であり、
    前記付勢部材の材料の弾性係数は、前記弾性部材の材料の弾性係数よりも小である
    ことを特徴とする請求項1乃至12の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
  15. 前記付勢部材は、多孔質体からなることを特徴とする請求項14に記載の流体機械用軸封装置。
  16. 前記付勢部材は、シリコンゴムからなることを特徴とする請求項14に記載の流体機械用軸封装置。
  17. 前記弾性部材に一体的に形成された金属層を更に備えることを特徴とする請求項11に記載の流体機械用軸封装置。
  18. 前記シート面に摺接する前記シール部のシール面に、前記高圧域及び低圧域のうち高圧域のみに連通するスパイラル状の油溝を更に有することを特徴とする請求項1乃至17の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
  19. 前記シート面及び当該シート面と摺接する前記シール部のシール面のうち少なくとも一方に耐摩耗層又は潤滑層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至18の何れかに記載の流体機械用軸封装置。
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