(実施例1)
図1は、実施例1における遅延回路の構成を示す。遅延回路10は、第1遅延部12、第2遅延部14、検出部16、選択部18を備える。第1遅延部12および第2遅延部14は、それぞれ複数段の遅延素子を有する。本実施例における第1遅延部12および第2遅延部14は、それぞれ10段ずつ遅延素子を有する。第1遅延部12は、入力されたクロック信号を所定の参照時間だけ遅延させ、実際に遅延に用いられた遅延素子の段数を検出部16が検出することによって第1遅延部12に含まれる遅延素子の遅延特性を測定する。すなわち、ここでいう遅延特性は、たとえば回路の製造プロセスのばらつき、温度変化、電源電圧変化などの内的要因または外的要因に基づく遅延量の変化である。第2遅延部14は、第1遅延部12と同じ入力クロック信号を、第1遅延部12での遅延に用いられた遅延素子の段数に応じて遅延させる。選択部18は、第1遅延部12での遅延に用いられた遅延素子の段数に応じて、第2遅延部14で遅延に用いるべき遅延素子の段数を設定する。第1遅延部12が有する遅延素子と第2遅延部14が有する遅延素子はそれぞれの遅延特性が等しいので、第1遅延部12における遅延特性を第2遅延部14における遅延に反映させることによって、より正確な遅延を発生させることができる。
第1遅延部12は、10段の遅延素子として、直列に接続された第1〜第10遅延素子D11〜D20を有する。第2遅延部14は、10段の遅延素子として、直列に接続された第11〜第20遅延素子D21〜D30を有する。第11〜第20遅延素子D21〜D30の各遅延値は、第1〜第10遅延素子D11〜D20の各遅延値より小さい。第11〜第20遅延素子D21〜D30の遅延値と第1〜第10遅延素子D11〜D20の遅延値との比率は1:5である。この比率は、目標とする遅延時間と参照時間との比率に等しくなるよう設計される。したがって、第1遅延部12と第2遅延部14との間で遅延値の比率を考慮して設計するだけで、所望の遅延時間を容易に得ることができる。
検出部16は、複数のラッチ回路を有する。本実施例の検出部16は、第1遅延部12に含まれる遅延素子の段数と等しい10個のラッチ回路として、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20を有する。第1〜第10ラッチ回路L11〜L20のそれぞれには第1遅延部12と同じ入力クロック信号が入力される。第1〜第10ラッチ回路L11〜L20は、入力クロック信号の立ち上がり時に保持内容を出力し、入力クロック信号の立ち下がり時に保持内容をリセットする。保持内容としては、たとえば第1ラッチ回路L11が第1遅延素子D11の出力を保持し、第2ラッチ回路L12が第2遅延素子D12の出力を保持する。このように、各ラッチ回路は第1遅延部12の各遅延素子に1対1で対応し、その対応する遅延素子の出力信号を保持して入力クロック信号の立ち上がり時に出力する。ここで、第1遅延部12において遅延に用いられた遅延素子の出力はすべてローとなり、遅延に用いられなかった遅延素子の出力はすべてハイとなる。どの遅延素子の出力がハイとなりローとなるかは、製造プロセスのばらつきや温度変化や電源電圧変化などによって必ずしも一定ではない。このように、検出部16が各遅延素子からの出力を検出することにより、入力クロック信号を所定の参照時間だけ遅延させるために第1遅延部12に含まれる遅延素子を何段用いたかを検出することができる。
選択部18は、複数の否定論理和回路として第1〜第9否定論理和回路N11〜N19を有し、複数の反転回路として第1〜第9反転回路I11〜I19を有し、複数のスイッチとして第1〜第9スイッチSW11〜SW19を有する。第1〜第9否定論理和回路N11〜N19のそれぞれは、第2〜第10ラッチ回路L12〜L20のそれぞれと1対1で対応する関係にある。第1否定論理和回路N11は、第2ラッチ回路L12の出力信号を反転した信号が入力されるとともに、一つ前の段である第1ラッチ回路L11の出力信号がさらに入力され、これら入力された2つの信号の否定論理和を出力する。第2ラッチ回路L12は、第1反転回路I11により反転される。第2否定論理和回路N12は、第3ラッチ回路L13の出力信号を反転した信号が入力されるとともに、第2ラッチ回路L12の出力信号がさらに入力され、これら入力された2つの信号の否定論理和を出力する。第3ラッチ回路L13は、第2反転回路I12により反転される。
このように各否定論理和回路は、対応するラッチ回路からの出力を反転させた信号と一つ前の段であるラッチ回路からの出力との間で否定論理和を出力する。各否定論理和回路の出力に応じて各スイッチがオンオフされる。たとえば、第1スイッチSW11は、第1否定論理和回路N11がハイを出力したときにオンされ、第1否定論理和回路N11がローを出力したときにオフされる。第1スイッチSW11がオンされると、第12遅延素子D22の出力が第1スイッチSW11を介して遅延回路10の外部へ出力クロック信号として出力される。第2スイッチSW12は、第2否定論理和回路N12がハイを出力したときにオンされ、第2否定論理和回路N12がローを出力したときにオフされる。第2スイッチSW12がオンされると、第13遅延素子D23の出力が第2スイッチSW12を介して遅延回路10の外部へ出力クロック信号として出力される。このように、第1〜第9スイッチSW11〜SW19のそれぞれは、第12〜第20遅延素子D22〜D30のそれぞれと1対1で対応し、いずれかのスイッチがオンされたときに、対応する遅延素子の出力が、オンされたスイッチを介して遅延回路10の外部へ出力クロック信号として出力される。これにより、選択部18は、第1遅延部12において遅延に用いられた遅延素子の段数に応じて、第2遅延部14において遅延に用いられる遅延素子の段数を選択することができる。
なお、第1遅延素子D11の遅延値は、第2遅延素子D12以降の各遅延素子の遅延値と等しい値であってもよいし、異なる値であってもよい。同様に、第11遅延素子D21の遅延値もまた、第12遅延素子D22以降の各遅延素子の遅延値と等しい値であってもよいし、異なる値であってもよい。たとえば、遅延量のばらつき範囲に対して目標とする遅延時間が十分に長いような場合、遅延量のばらつき範囲に達するまでの初期の遅延時間を一つの遅延素子で稼ぐために、第1遅延素子D11や第11遅延素子D21の遅延値を2段目以降の遅延素子の遅延値より大きな値に設計してもよい。このように、初段の遅延素子(以下、適宜「初期遅延素子」ともいう)である第1遅延素子D11や第11遅延素子D21の遅延値を調整することで、素子の構成を簡素化することができる。また、第2〜第10遅延素子D12〜D20は、それぞれの遅延値が等しい値であってもよいし、異なる値であってもよい。同様に、第12〜第20遅延素子D22〜D30は、それぞれの遅延値が等しい値であってもよいし、異なる値であってもよい。
本実施例においては、第1遅延部12に含まれる遅延素子の段数と第2遅延部14に含まれる遅延素子の段数が等しく、それぞれが1対1で対応する関係にある。したがって、第1遅延部12において参照時間の分だけ遅延させるのに用いた遅延素子の段数と同じ段数の遅延素子を第2遅延部14においても用いることにより、遅延特性が吸収される形で目標の遅延時間を精度よく生成することができる。第1遅延部12と第2遅延部14の遅延素子が1対1で対応するという簡素な構成によって精度よく所望の遅延時間を生成することができる。なお、変形例においては、第1遅延部12に含まれる遅延素子の段数と第2遅延部14に含まれる遅延素子の段数が異なってもよい。ただしその場合は、第1遅延部12において参照時間の分だけ遅延させるのに用いる遅延素子の段数の増減に対して、第2遅延部14において用いるべき遅延素子の段数の増減が等しくなるような関係であることが望ましい。その場合もまた、第1遅延部12に含まれる複数の遅延素子のうち少なくとも一部と第2遅延部14に含まれる複数の遅延素子のうち少なくとも一部とが1対1で対応する関係となる。これにより、第1遅延部12と第2遅延部14で遅延素子の段数が等しい場合と同様に、簡素な構成にて精度よく目標の遅延時間を生成することができる。
図2は、入力クロック信号に対する出力クロック信号の遅延量を示すタイミングチャートである。上段は入力クロック信号のパルスを示し、下段は出力クロック信号のパルスを示す。入力クロック信号および出力クロック信号は、ともにデューティ比が50%で、それぞれの周期およびパルス幅は等しい。しかし、それぞれの立ち上がりタイミングは出力クロック信号の方が入力クロック信号より遅れている。第1遅延部12における遅延の参照時間30は入力クロック信号の1/2周期に相当し、第2遅延部14における遅延時間32は第1遅延部12における参照時間30の1/5となる。この比率は、第1遅延部12に含まれる遅延素子の遅延値に対する第2遅延部14に含まれる遅延素子の遅延値の比率に等しい。すなわち、目標とする遅延時間を実現するためには、第1遅延部12の遅延値と第2遅延部14の遅延値との比率を、第1遅延部12における参照時間30と第2遅延部14における遅延時間32との比率に合わせればよい。本実施例では、入力クロック信号の1/2周期に対して1/5に相当する遅延時間が生成されるので、入力クロック信号の1/10周期に相当する時間だけ遅延した出力クロック信号が得られる。
図3は、入力クロック信号に対する各遅延素子の出力信号の遅延量を示すタイミングチャートである。まず、入力クロック信号の立ち上がりタイミングAに対し、初期遅延素子である第1遅延素子D11は、その遅延値に応じた時間だけ遅延してタイミングBにて立ち上がる信号を第2遅延素子D12へ出力する。以降、第2遅延素子D12、第3遅延素子D13、第4遅延素子D14、第5遅延素子D15が、それぞれタイミングB、C、D、E、Fにて順次立ち上がる。タイミングB、C、D、E、Fの時間間隔は第2遅延素子D12、第3遅延素子D13、第4遅延素子D14、第5遅延素子D15の各遅延値である。
入力クロック信号が1/2周期経過後に立ち下がると、第1遅延素子D11、第2遅延素子D12、第3遅延素子D13、第4遅延素子D14、第5遅延素子D15もそれぞれ1/2周期後に順次立ち下がる信号を出力する。第1遅延素子D11、第2遅延素子D12、第3遅延素子D13、第4遅延素子D14、第5遅延素子D15の信号が順次立ち下がる間に、入力クロック信号は立ち下がりから1/2周期が経過したタイミングGにて再び立ち上がる。そのタイミングGにおいて、検出部16は第1〜第10ラッチ回路L11〜L20の保持内容を出力するので、第1〜第3遅延素子D11〜D13からの保持内容としてはローが出力され、第4遅延素子D14以降の遅延素子からの保持内容としてはハイが出力される。第2遅延部14にも入力される入力クロック信号がタイミングGで立ち上がった後、初期遅延素子である第11遅延素子D21は、その遅延値に応じた時間だけ遅延してタイミングHにて立ち上がる信号を出力する。2段目以降、第12遅延素子D22、第13遅延素子D23、第14遅延素子D24、第15遅延素子D25がそれぞれ遅延値に応じた時間間隔で順次遅延して立ち上がる信号を出力する。選択部18に含まれる第1〜第9否定論理和回路N11〜N19のうち、第3遅延素子D13からのローと第4遅延素子D14からのハイを反転させた信号との間で否定論理和を出力する第3否定論理和回路N13だけがハイを出力する。したがって、第3スイッチSW13がオンされ、対応する第14遅延素子D24の出力が選択されて遅延回路10の外部へ出力クロック信号として出力される。
図4は、本実施例における遅延回路10を含む電子回路の例を示す。電子回路100は、遅延回路10、クロック生成回路60、AD変換回路62を備える。クロック生成回路60には、マスタクロック信号CLKが入力されるとともに、そのマスタクロック信号CLKが遅延回路10によって所定時間遅延された遅延クロック信号が入力される。クロック生成回路60は、二つの入力信号を用いることにより複数のクロック信号を生成してAD変換回路62へ出力する。AD変換回路62は、循環型のAD変換器であってもよいし、パイプライン型のAD変換器であってもよい。AD変換回路62は、たとえば比較器、反転増幅器、非反転増幅器、微分回路、積分回路、加算回路、減算回路、ボルテージホロワ回路、各種フィルタ、発振回路、ピーク値検出回路、およびサンプルホールド回路などの回路のうちいずれかを内部に有してもよい。各回路に利用するクロック信号として、クロック生成回路60から入力される複数のクロック信号が用いられる。特に、循環型またはパイプライン型のAD変換器において、初回または初段のAD変換と2順目以降または2段目以降のAD変換とでは要求される変換精度が異なるので、それぞれ異なるクロック信号が必要となる。そこで、本実施例における遅延回路10において製造プロセスのばらつき、温度や電源電圧の変化などに左右されずに精度よく生成された遅延クロック信号によって、より精度の高いAD変換を実現することができる。
以上のように、本実施例においては、第2遅延部14に含まれる遅延素子の遅延値を第1遅延部12に含まれる遅延素子の遅延値より小さくなるよう設計することにより、遅延特性を検出するときの遅延量より短い調整幅にて遅延時間を生成できる。したがって、所望の遅延時間を精度よく生成することができる。第1遅延部12および第2遅延部14のそれぞれに含まれる遅延素子の遅延値の比率を、参照時間と目標とする遅延時間との比率に等しくすることによって、短い調整幅による遅延時間の生成をより簡単に実現することができる。第1遅延部12に含まれる遅延素子の遅延値と第2遅延部14に含まれる遅延素子の遅延値との比率を設定するだけで、所望の遅延量を簡単に実現することができる。目標とする遅延時間に対し、第1遅延部12において遅延特性を検出するための遅延素子の段数や各段の遅延間隔を十分に確保することができるので、遅延素子の段数を正確に検出することができる。
(実施例2)
本実施例における遅延回路10は、主要な構成において実施例1と共通するが、選択部の内部構成、第2遅延部の内部構成、第2遅延部における遅延素子の選択方法において実施例1と相違点を有する。特に、実施例1では第2遅延部に含まれる複数段の遅延素子のうち、遅延された信号を出力すべき段を選択部が選択するのに対し、本実施例では第2遅延部に含まれる複数段の遅延素子のうち、遅延対象である入力クロック信号の入力先となるべき段を選択部が選択する点で異なる。以下、実施例1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略する。
図5は、実施例2における遅延回路10の構成を示す。本実施例における第1遅延部42と検出部46の内部構成は、実施例1における第1遅延部12と検出部16の内部構成と同様である。選択部48は、複数の否定論理和回路として第1〜第9否定論理和回路N11〜N19を有し、複数の反転回路として第1〜第9反転回路I11〜I19を有し、複数のラッチ回路として第11〜第19ラッチ回路L21〜L29を有する。第1〜第9否定論理和回路N11〜N19および第1〜第9反転回路I11〜I19のそれぞれは、実施例1と同様の配置で第1〜第10ラッチ回路L11〜L20のそれぞれに1対1で対応して接続される。第11〜第19ラッチ回路L21〜L29は、実施例1における第1〜第9スイッチSW11〜SW19と置き換わる形で第1〜第9否定論理和回路N11〜N19に接続される。第1〜第9否定論理和回路N11〜N19のそれぞれと第11〜第19ラッチ回路L21〜L29のそれぞれが1対1で対応する。第1〜第9否定論理和回路N11〜N19のそれぞれの出力は、第11〜第19ラッチ回路L21〜L29のそれぞれに保持される。所定のクロック信号が第11〜第19ラッチ回路L21〜L29に入力され、そのクロック信号に応じて第11〜第19ラッチ回路L21〜L29のそれぞれの保持内容が第2遅延部44へ出力される。
第2遅延部44は、複数段の遅延素子として第11〜第20遅延素子D21〜D30を有する点で、実施例1の第2遅延部14に含まれる第11〜第20遅延素子D21〜D30と同様である。ただし、第2遅延部44では、第20遅延素子D30、第19遅延素子D29、・・・、第13遅延素子D23、第12遅延素子D22、第11遅延素子D21の順に入力クロック信号を遅延させる。また、第12〜第20遅延素子D22〜D30のそれぞれの直前には第1〜第9選択回路SL11〜SL19のそれぞれが間挿され、第12〜第20遅延素子D22〜D30のそれぞれと第1〜第9選択回路SL11〜SL19のそれぞれとが交互に配置される形で直列接続されている。選択部48に含まれる第11〜第19ラッチ回路L21〜L29の保持内容は、所定のクロック信号に応じて第1〜第9選択回路SL11〜SL19のうち対応する回路にそれぞれ入力される。第11〜第19ラッチ回路L21〜L29のそれぞれと第1〜第9選択回路SL11〜SL19のそれぞれは、1対1で対応する関係にある。第1〜第9選択回路SL11〜SL19には、第1遅延部42および検出部46と同じ入力クロック信号が入力される。第1〜第9選択回路SL11〜SL19のうち、第11〜第19ラッチ回路L21〜L29のいずれかからハイの信号が入力された選択回路は、第12〜第20遅延素子D22〜D30のうち対応する遅延素子へ入力クロック信号を入力する。入力クロック信号が入力された遅延素子は、図において右から左の方向へ信号を出力し、複数段の遅延素子が順次入力クロック信号を遅延させ、遅延回路10の外部へ出力クロック信号として出力する。これにより、選択部48は、入力クロック信号の入力先として、第2遅延部44に含まれる複数段の遅延素子のうちいずれかを選択することができる。
たとえば、第1遅延部42において参照時間だけ遅延させるのに第1〜3遅延素子D11〜D13の3段が用いられた場合、選択部48においては第1〜第9否定論理和回路N11〜N19のうち第2否定論理和回路N12だけがハイを出力し、他の否定論理和回路はローを出力する。第12ラッチ回路L22から第2選択回路SL12へハイが入力され、第2選択回路SL12から第13遅延素子D23へ入力クロック信号が入力され、第13遅延素子D23、第12遅延素子D22、第11遅延素子D21の順に遅延されて出力クロック信号として遅延回路10の外部へ出力される。したがって、第1遅延部42において遅延に用いられた段数と等しい3段の遅延素子が第2遅延部44でも遅延に用いられることとなる。
ここで、第1遅延部42および第2遅延部44に含まれる遅延素子の段数が比較的多い設計の場合や、入力クロック信号の周波数が比較的高い設計の場合、第1遅延部42に含まれる最終段の遅延素子が遅延を実行する前に次の周期の遅延が開始されることによって1周期分の間隔を挟んで両側2段以上の遅延素子からハイの出力が検出されるおそれがある。本実施例の遅延回路10では、第2遅延部44に含まれる複数段の遅延素子のうちいずれかが入力クロック信号の入力先として選択される方式であり、選択部48に含まれる複数段のラッチ回路のうち初段側すなわち第11ラッチ回路L21側に最も近いラッチ回路の出力に応じて選択される遅延素子へ入力される入力クロック信号が優先的に遅延され、出力クロック信号として遅延回路10の外部へ出力される。したがって、より後段の検出結果に影響されずに最適な段数の遅延素子を第2遅延部44から選択することができる。
(実施例3)
本実施例における遅延回路10は、主要な構成において実施例1、2と共通するが、選択部の内部構成、第2遅延部の内部構成、第2遅延部における遅延素子の選択方法において実施例1、2と相違点を有する。特に、第2遅延部に含まれる複数の遅延素子のうち、初段と最終段の選択方法が実施例1、2と異なる。たとえば、第1遅延部において参照時間が経過したときに、含まれる複数の遅延素子のうちすべてがハイを出力してしまう場合やひとつもハイを出力しないような場合であっても、第2遅延部において初段または最終段の出力信号が強制的に選択され、出力クロック信号がつねに確保される。これにより、第1遅延部12における遅延の特性が設計の範囲外となってしまう場合であっても、第2遅延部において遅延素子がひとつも選択されずに出力クロック信号が出力されなくなるような事態を回避することができる。以下、実施例1との相違点を中心に説明し、共通点の説明を省略する。
図6は、実施例3における遅延回路10の構成を示す。第1遅延部52と検出部56の内部構成は、実施例1における第1遅延部12と検出部16の内部構成と同様である。選択部58は、11個の否定論理和回路として第1〜第11否定論理和回路N11〜N21を有し、10個の反転回路として第1〜第10反転回路I11〜I20を有し、11個のスイッチとして第1〜第11スイッチSW11〜SW21を有する。第2遅延部54は、11段の遅延素子として第11〜第21遅延素子D21〜D31を有する。
選択部58に含まれる否定論理和回路は、実施例1の選択部18に含まれる否定論理和回路より個数が二つ多い。選択部58に含まれる反転回路は、実施例1の選択部18に含まれる反転回路より個数が一つ多い。選択部58に含まれるスイッチは、実施例1の選択部18に含まれるスイッチより個数が二つ多い。第2遅延部54に含まれる遅延素子は、実施例1の第2遅延部14に含まれる遅延素子より段数が1段多い。
第1〜第10否定論理和回路N11〜N20のそれぞれは、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20のそれぞれと1対1で対応する関係にある。選択部58において、初段である第1否定論理和回路N11は、対応する段である第1ラッチ回路L11の出力を反転させた信号とつねにローである信号とが入力され、これらの否定論理和を出力する。第2否定論理和回路N12は、対応する段である第2ラッチ回路L12の出力を反転させた信号と一つ前の段である第1ラッチ回路L11の出力信号とが入力され、これらの否定論理和を出力する。このように2段目以降の否定論理和回路は、対応するラッチ回路からの出力を反転させた信号と一つ前の段であるラッチ回路の出力信号とが入力され、これらの否定論理和を出力する。最終段である第11否定論理和回路N21は、一つ前の段である第10ラッチ回路L20の出力信号とつねにローである信号とが入力され、これらの否定論理和を出力する。
第1〜第11否定論理和回路N11〜N21のそれぞれは、第1〜第11スイッチSW11〜SW21のそれぞれと1対1で対応する関係にある。第1〜第11否定論理和回路N11〜N21の各出力のうちいずれかがハイとなり、そのハイを出力した否定論理和回路に対応するスイッチがオンされる。
第11〜第21遅延素子D21〜D31のそれぞれは、第1〜第11スイッチSW11〜SW21のそれぞれと1対1で対応する関係にある。第1〜第11スイッチSW11〜SW21のうちオンされたスイッチに対応する遅延素子から出力される信号が出力クロック信号として遅延回路10の外部へ出力される。
たとえば、第1遅延部52において参照時間が経過するまでに第1遅延素子D11および第2遅延素子D12が遅延に用いられた場合、第1ラッチ回路L11と第2ラッチ回路L12はローを出力し、第3ラッチ回路L13以降のラッチ回路はハイを出力する。その場合、第1否定論理和回路N11と第2否定論理和回路N12はローを出力し、第3否定論理和回路N13はハイを出力する。第4否定論理和回路N14以降の否定論理和回路はローを出力する。第1〜第11スイッチSW11〜SW21のうち、第3否定論理和回路N13に対応する第3スイッチSW13がオンされるので、対応する第13遅延素子D23の出力が第3スイッチSW13を介して出力クロック信号として遅延回路10の外部へ出力される。このように、第1遅延部52において第1遅延素子D11と第2遅延素子D12の2段が遅延に用いられた場合、第2遅延部54においては第11遅延素子D21、第12遅延素子D22、第13遅延素子D23の3段が遅延に用いられる。第1遅延部52において用いられる遅延素子の段数が増減した場合、その段数と等しい段数だけ第2遅延部54において用いられる遅延素子の段数も増減する。
ここで、第1遅延部52における参照時間が、第1遅延部52に含まれる遅延素子の段数で計ることのできる最小遅延時間よりも短い場合、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20のいずれもローを出力せず、すべてハイを出力してしまう。しかし、その場合であっても初段の第1否定論理和回路N11だけはハイを出力できるので、第2遅延部54に含まれる複数の遅延素子から第11遅延素子D21が選択され、遅延時間が最小である出力クロック信号を第1スイッチSW11を介して遅延回路10の外部へ出力することができる。また、第1遅延部52における参照時間が、第1遅延部52に含まれる遅延素子の段数で計ることのできる最大遅延時間よりも長い場合、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20のいずれもハイを出力せず、すべてローを出力してしまう。しかし、その場合であっても最終段の第11否定論理和回路N21だけはハイを出力できるので、第2遅延部54に含まれる複数の遅延素子から第21遅延素子D31が選択され、遅延時間が最大である出力クロック信号を第11スイッチSW21を介して遅延回路10の外部へ出力することができる。なお、変形例として、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20がすべてハイを出力したときに第11遅延素子D21を強制的に選択するための訂正回路や、第1〜第10ラッチ回路L11〜L20がすべてローを出力したときに第21遅延素子D31を強制的に選択するための訂正回路を選択部58と異なる構成にて実現してもよい。
(実施例4)
本実施例では、第1遅延部12に含まれる遅延素子のそれぞれの遅延値が異なる値であり、第2遅延部14に含まれる遅延素子のそれぞれの遅延値も異なる値である場合の具体例を説明する。なお、実施例4では、遅延回路10が図1に示される実施例1の構成であるものとするが、これに限定されない。
図7は、実施例4にかかる第2遅延部14の第11遅延素子D21〜第20遅延素子D30の遅延値の例を示す。この例では、第2遅延部14の第13遅延素子D23〜第20遅延素子D30の遅延値は、入力側からみて前段の遅延素子の遅延値よりも大きな遅延値を持つように構成されている。第1遅延部12の第3遅延素子D13〜第10遅延素子D20も同様に、入力側からみて前段の遅延素子の遅延値よりも大きな遅延値を持つように構成される。なお、本実施例の技術を、図5に示される実施例2の構成に適用する場合、すなわち選択部48が入力クロック信号の入力先として第2遅延部44に含まれる複数段の遅延素子のうちいずれかを選択する構成に適用する場合、第12遅延素子D22〜第19遅延素子D29の遅延値は、入力側からみて前段の遅延素子の遅延値よりも小さな遅延値を持つことになる。
本実施例によれば、第2遅延部14におけるトータルの遅延時間に対する第12遅延素子D22〜第20遅延素子D30の遅延時間の比率(調整幅)をそれぞれ約10%に揃えることができる。第1遅延部12の第2遅延素子D12〜第10遅延素子D20にも同様のことがいえる。したがって、入力信号の遅延に用いられる遅延素子の段数によって目標とする遅延時間に対する精度がばらつくことを防止できる。
図8は、図7に示される遅延値の別の例を示す。この例では、第15遅延素子D25および第18遅延素子D28の遅延値が、前段の遅延素子の遅延値よりも大きな遅延値を持つように構成されている。すなわち、前段の遅延素子の遅延値よりも大きな遅延値を持つ遅延素子が存在するように構成されている。この場合も、入力信号の遅延に用いられる遅延素子の段数によって目標とする遅延時間に対する精度がばらつくことを防止できる。
本実施例の効果を明確にするために、比較例について説明する。図9は、実施例4の比較例にかかる第2遅延部14の第11遅延素子D21〜第20遅延素子D30の遅延値を示す。比較例では、第12遅延素子D22〜第20遅延素子D30の遅延値がそれぞれ等しくなるように構成されている。比較例の場合、トータルの遅延時間に対する各遅延素子の遅延値の比率が6.8%〜15%となり、入力信号の遅延に用いられる遅延素子の段数によって目標とする遅延時間に対する精度がばらつく。すなわち、入力信号の遅延に用いられる遅延素子の段数が少ないときは、目標の遅延時間との誤差の割合が大きくなる。一方、入力信号の遅延に用いられる遅延素子の段数が多いときは、後段における遅延時間の調整幅が必要以上に小さくなり冗長である。本実施例ではこういった問題を好適に解決できる。
図10は、各実施例の第1遅延部12および第2遅延部14において用いられる遅延素子の構成の例を示す。図10(a)では第2遅延素子D12の構成を、図10(b)では第12遅延素子D22の構成を例示する。図10(a)の第2遅延素子D12は、第1インバータIV12aと、第2インバータIV12bと、第1キャパシタC12aと、第2キャパシタC12bとを含む。第1インバータIV12aおよび第2インバータIV12bは、入力信号の経路上に直列に接続される。第1キャパシタC12aは、第1インバータIV12aの出力端子と接地との間に設けられる。第2キャパシタC12bは、第2インバータIV12bの出力端子と接地との間に設けられる。
図10(b)の第12遅延素子D22は、図10(a)の第2遅延素子D12と同様に構成されるが、インバータに含まれるトランジスタのサイズや駆動能力(以下、単に「インバータの駆動能力」という。)とキャパシタの容量が異なる。すなわち、第3インバータIV22aおよび第4インバータIV22bの駆動能力は、第1インバータIV12aおよび第2インバータIV12bの駆動能力よりも大きい。これにより、第12遅延素子D22の遅延値が第2遅延素子D12の遅延値よりも小さくなる。また、第3キャパシタC22aおよび第4キャパシタC22bの容量の大きさは、第1キャパシタC12aおよび第2キャパシタC12bの容量の大きさよりも小さい。これによっても、第12遅延素子D22の遅延値が第2遅延素子D12の遅延値よりも小さくなる。
図11は、各実施例の第1遅延部12および第2遅延部14において用いられる遅延素子の構成の別の例を示す。図11(a)では第2遅延素子D12の構成を、図11(b)では第12遅延素子D22の構成を例示する。図11(a)の第2遅延素子D12は、入力信号の経路上に直列に接続された10個のインバータを含む。図11(b)の第12遅延素子D22は、入力信号の経路上に直列に接続された2個のインバータを含む。各インバータの駆動能力はそれぞれ等しい。
図11の例では、遅延素子に含まれるインバータの数を調節することにより第2遅延素子D12の遅延値と、第12遅延素子D22の遅延値との比率が調節される。なお、インバータの駆動能力およびインバータの数の双方を変えることにより遅延値の比率を調節してもよい。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、変形例を挙げる。
図12は、第1の変形例にかかる遅延回路10の構成を示す。図12の遅延回路10は、第2遅延部14において第20遅延素子D30がなくなり、第1スイッチSW11〜第9スイッチSW19のオンオフに対応して入力信号の遅延に使用される遅延素子が1つ前段にシフトしている点において図1と相違する。すなわち、第1スイッチSW11がオンの場合、図1では第12遅延素子D22の出力信号が遅延回路10の出力信号となるが、図10では第11遅延素子D21の出力信号が遅延回路10の出力信号となる。本変形例も、実施例1と同様の作用効果を奏する。
図13は、第2の変形例にかかる遅延回路10の構成を示す。図13の遅延回路10は、第2遅延部14において第11遅延素子D21の前段に遅延時間の微調整のためのオフセット用遅延素子Dofsが設けられている点において図12と相違する。本変形例によれば、オフセット用遅延素子Dofsにより第2遅延部14における遅延時間が微増されるので、遅延回路10の構成に応じて出力信号の遅延時間の精度を高めることができる。
また、図1の構成の場合、たとえばインバータの駆動能力を大きくすることなどにより、第11遅延素子D21の遅延値を微減させてもよい。この場合も、遅延回路10の構成に応じて出力信号の遅延時間の精度を高めることができる。
図14は、第3の変形例にかかる遅延回路10の構成を示す。図14の遅延回路10は、第2遅延部14の第13遅延素子D23〜第20遅延素子D30が遅延値の異なった2つの信号を出力するように構成されている点において図1と相違する。すなわち、図14の遅延回路10には、第1スイッチSW11〜第9スイッチSW19のオンオフと同期してオンオフする第10スイッチSW21〜第18スイッチSW29がさらに設けられ、これらのスイッチを通して入力信号に対する遅延時間が異なった2つの出力信号が出力される。本変形例では、第13遅延素子D23〜第20遅延素子D30を前段側および後段側に分割するとともに、第21遅延素子D31aを追加している。以下、第13遅延素子D23の前段側を第13前段側遅延素子D23a、後段側を第13後段側遅延素子D23bと表記する。第14遅延素子D24〜第20遅延素子D30の前段側および後段側も同様に表記する。なお、遅延素子がインバータ4個の直列接続である場合、その4個のうちの前段の2個を前段側の遅延素子とし、後段の2個を後段側の遅延素子とすることができる。また、遅延素子がインバータ6個の直列接続である場合、その6個のうちの前段の2個を前段側の遅延素子とし、後段の4個を後段側の遅延素子としてもよい。前段側の遅延素子の遅延値および後段側の遅延素子の遅延値の比率は任意である。本変形例によれば、遅延時間が異なった2つの出力信号を得られるので、遅延回路10の適用範囲が広がる。
各実施例においては、入力クロック信号の立ち上がりタイミングで検出部16、検出部46、検出部56が第1遅延部12、第1遅延部42、第1遅延部52から遅延素子の段数を検出する構成を説明した。変形例においては、入力クロック信号の立ち下がりタイミングで検出部16、検出部46、検出部56が第1遅延部12、第1遅延部42、第1遅延部52から遅延素子の段数を検出する構成であってもよい。
10 遅延回路、 12 第1遅延部、 14 第2遅延部、 16 検出部、 18 選択部、 40 遅延回路、 42 第1遅延部、 44 第2遅延部、 46 検出部、 48 選択部、 50 遅延回路、 52 第1遅延部、 54 第2遅延部、 56 検出部、 58 選択部。