JP2007284782A - マグネシウム合金材およびその製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】特殊な製造設備およびプロセスを使用することなく、高い機械的性質に優れたマグネシウム合金材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】マグネシウム合金材は、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金であり、かつ、針状析出物または板状析出物(長尺状析出物:X相=β相、β‘相、β1相)を有する構成とした。
【選択図】図1

Description

本発明は、マグネシウム合金材およびその製造方法に係り、特に、機械的な強度の高いマグネシウム合金材およびその製造方法に関するものである。
一般に、マグネシウム合金材は、実用化されている合金の中で最も密度が低く軽量で強度も高いため、電気製品の筐体や、自動車のホイールや、足回り部品や、あるいは、エンジン回り部品等への適用が進められている。
特に、自動車に関連する用途の部品においては、高い機械的性質が要求されるため、GdやZn等の元素を添加したマグネシウム合金材として、片ロール法、急速凝固法により特定の形態の材料を製造することが行われている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。
しかし、前記したマグネシウム合金材は、特定の製造方法においては、高い機械的性質が得られるものの特殊な設備が必要であり生産性も低いという問題があり、更に適用できる部材が限られるという問題がある。
そこで、従来、マグネシウム合金材を製造する場合、前記特許文献の様な特殊な設備あるいはプロセスを用いずに、生産性の高い通常の溶解鋳造から塑性加工(押出)を実施しても実用上有用な機械的性質が得られるものが提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4)。特許文献3、4に開示されているマグネシウム合金材は、高い機械的性質が得られることが知られている。
特開平06−041701号公報 特開2002−256370号公報 国際公開第2005/052204号パンフレット 国際公開第2005/052203号パンフレット 軽金属学会第108回大会講演概要(2005)P42−45
しかし、従来のマグネシウム合金材は、以下に示すような改良すべき余地があった。
すなわち、従来のマグネシウム合金材は、軽量化の目的で自動車用への応用を進めるためには強度をさらに向上させることが要求されていた。
本発明は前記の問題に鑑み創案されたものであり、特殊な製造設備およびプロセスを使用することなく、高い機械的性質に優れたマグネシウム合金材およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、前記課題を解決するために、つぎのようなマグネシウム合金材として構成した。すなわち、マグネシウム合金材は、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金であり、かつ、針状析出物または板状析出物を有する構成とした。
このように構成したことにより、マグネシウム合金は、針状析出物または板状析出物であるX相が素材を析出強化させて、長周期積層構造(LPO)を備えるものに比較して0.2%耐力が格段に向上する。このマグネシウム合金は、REとしてGd、Tb、Tmのうちいずれかあるいは1つ以上により、例えば、MgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)の晶出物を形成し、X相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)である針状析出物または板状析出物と併せて0.2%耐力を向上させる。なお、X相である針状析出物または板状析出物は、7μm以下であることが好ましい。
また、前記マグネシウム合金材において、前記針状析出物または板状析出物は、MgGdまたは/およびMgGdである構成とした。
このように、針状析出物または板状析出物は、MgGdまたは/およびMgGdであることにより合金の強度を向上させる。なお、MgGdの割合が多い場合はβ´相であり、MgGdの割合が多く、当該MgGdの状態が六方最密構造となっている場合には、β1相となり、さらに、MgGdの状態が体心立法格子となっているものが含まれてくるとβ相となる。
また、前記マグネシウム合金材において、成分範囲を前記Zn:0.5〜3原子%、前記RE:1〜5原子%の範囲とすることが好ましい。
このように構成したことにより、マグネシウム合金材は、ZnおよびRE(Gd、Tb、Tm)の成分を所定の範囲にすることで、強度を向上させるX相である針状析出物または板状析出物(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)が析出し易いものとなる。
さらに、前記課題を解決するために、マグネシウム合金材の製造方法は、マグネシウム合金材の製造方法において、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、を含み、前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(hr)をxとしたとき、−18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行うこととした。
このような手順によるマグネシウム合金材の製造方法では、MgとREの析出物が溶体化処理により溶体化した状態となり、さらに、熱処理工程での熱処理条件を所定の範囲で行うことにより、マグネシウム合金材にX相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)である針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)が形成されることで、析出強化されて0.2%耐力が向上する。
また、マグネシウム合金材の製造方法において、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理した鋳造材に塑性加工を施す塑性加工工程と、を含み、前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(hr)をxとしたとき、−18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行うこととした。また、前記マグネシウム合金材の製造方法において塑性加工工程は、押出加工または鍛造加工であることとした。
このような手順によるマグネシウム合金材の製造方法は、MgとREの析出物が溶体化処理により溶体化した状態となり、さらに、熱処理条件を所定の範囲で行うことで、X相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)である針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)を形成させることができ、塑性加工に対して伸び率および0.2%耐力を十分向上させることができる状態となる。
さらに、マグネシウム合金材の製造方法において、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、を含み、前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(hr)をtとしたとき、330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行うこととした。
このような手順によるマグネシウム合金材の製造方法では、MgとREの析出物が溶体化処理により溶体化した状態となり、さらに、熱処理工程での熱処理条件をより好ましい所定の範囲で行うことにより、マグネシウム合金材にX相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)である針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)が形成されることで、析出強化されて0.2%耐力が向上する。
また、マグネシウム合金材の製造方法は、必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理した鋳造材に塑性加工を施す塑性加工工程と、を含み、前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(hr)をtとしたとき、330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行うこととした。また、前記マグネシウム合金材の製造方法において塑性加工工程は、押出加工または鍛造加工であることとした。
このような手順によるマグネシウム合金材の製造方法は、MgとREの析出物が溶体化処理により溶体化した状態となり、さらに、熱処理条件をより好ましい所定の範囲で行うことで、X相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)である針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)を形成させることができ、塑性加工に対して伸び率および0.2%耐力を十分向上させることができる状態となる。
本発明に係るマグネシウム合金材およびその製造方法は、つぎの優れた効果を奏するものである。
マグネシウム合金材は、針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)であるX相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)を有するため、所定の伸び率において0.2%耐力を、長周期積層構造を備えるものと比較して、大きく向上させることができる。また、押出(塑性)加工を行うと、組織中に長周期積層構造を有していることにより、通常では達成しえないほどの高い機械的性質が得られる。そのため、マグネシウム合金材は、例えば、自動車用部品、特に、ピストンなど機械的性質の条件が厳しい部分においても使用することが可能となる。
マグネシウム合金材の製造方法は、溶体化処理を行った後に、熱処理条件を所定の範囲で行っているため、マグネシウム合金材に針状析出物または板状析出物(MgGdまたは/およびMgGd)であるX相(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)を有する構成となり、所定の伸び率において0.2%耐力が、従来のものと比較して格段に向上したマグネシウム合金材を、一般的な製造設備あるいはプロセスにより、効率よく製造することが可能となる。
また、マグネシウム合金材の製造方法は、熱処理温度および熱処理時間を、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(hr)をxとしたとき、−18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行うことで、より広範囲に所定の伸び率において0.2%耐力を、大きく向上(長周期積層構造を備えるものと比較して)するマグネシウム合金材を製造することができる。
なお、さらに好ましくは、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(hr)をtとしたとき、330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行うことで、所定の伸び率において0.2%耐力を、大きく向上(長周期積層構造を備えるものと比較して)するマグネシウム合金材を製造することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。図1(a)、(b)は、マグネシウム合金材の金属組織に針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すTEM写真、図2(a)は、マグネシウム合金材にMgGdの晶出物と針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すSEM写真、(b)は、マグネシウム合金材に針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すTEM写真、(c)は、針状析出物または板状析出物と、MgGdの晶出物と、長周期積層構造とが出現している状態を示すTEM写真である。
マグネシウム合金材1は、必須成分としてZn、および、RE(希土類)のうちGd、Tb、Tmの少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金であり、ここでは、Gdを含有する例として説明する。図1および図2(b)に示すように、マグネシウム合金材1は、微細な針状析出物または微細な板状析出物(以下、適宜、便宜上、長尺状析出物2という)を析出している。
なお、図2(a)に示すように、Mg−Zn−RE系合金としてREがGdである場合のマグネシウム合金材1は、白い微細な針状あるいは微細な板状で無数に示されるものが長尺状析出物2(針状析出物または板状析出物)であり、白く滴下したような点状(針状析出物または板状析出物より大きい)の部分がMgGdの晶出物であり、マグネシウム合金材1に混在して析出されている。また、図2(c)に示すように、ここでは、マグネシウム合金材1は、長尺状析出物2と、MGGdの晶出物と、長周期積層構造3と、を備える構成であることが分かる。なお、マグネシウム合金材のMgGdの晶出物は、後記する溶体化処理により固溶体化するが、その添加量が多いと熱処理のときに過飽和固溶体として出現することが推測できる。そのため、マグネシウム合金材は、長尺状析出物2のみ、または、長尺状析出物2と、長周期積層構造3とを備える状態である構成としても成り立つと推測できる。
[(針状析出物または板状析出物)=(β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)=(MgGdまたは/およびMgGd)]
マグネシウム合金材において針状析出物または板状析出物(長尺状析出物2)とは、X−phase(X相=β相、β´相、β1相の少なくとも一つ)のことであり、所定の温度条件下で析出する析出物であり、このX相の出現により機械的な強度(0.2%耐力)が向上する。このX相は、長尺状析出物2が、細長い微細な針状または板状であり小さすぎると強度の向上に寄与せず、また、大きすぎると析出物が破壊の起点となって伸びの低下につながる。そのため、長尺状析出物2は、その大きさ(長さ)が0.1〜20μmの範囲であることが好ましく、また、0.2〜10μmの範囲であることがさらに好ましく、そして、0.3〜7μmの範囲であることがより好ましい。なお、長尺状析出物2は、縦横比が2対1より細長い状態となるものである。
また、図3ないし図5に示すように、長尺状析出物2は、温度条件および温度時間により出現する相の状態がβ´相からβ1相に、β1相からβ相に替わることが分かった。そして、ここで出現している長尺状析出物2は、相の状態としては、β´相、β1相、β相の少なくとも一つの状態が出現しており、β´相、β1相、β相としての金属組成がMgGdまたはMgGdであるか、MgGdおよびMgGdであることが分かった。
なお、β´相の組成はMgGdであり、β1相およびβ相はMgGdである。β1相とβ相とは組成は同じであるが構造が異なるため、β1相とβ相と区別して呼ぶようにしている。つまり、区別する基準としては、β1相として、MgGdの構造が六方最密構造となっており、また、β相として、MgGdの構造が体心立方格子となっていることによる。このMgGdまたは/およびMgGdによりマグネシウム合金材1では、伸びを維持した状態で合金の強度を向上させる。なお、同じMgGdでありながら構造の変化がでるのは、熱エネルギーにより、β´相がβ1相に変化するためであり、熱処理条件により、変化の途中で両者が混在する事例もありうる。
図3および図4に示すように、長尺状析出物2であるβ´相は、MgGdが整列して平行に線状に並んだ状態として現れている。また、図4に示すように、長尺状析出物2であるβ1相は、黒い短く針状あるいは板状の物が向きを交互に変えてジグザグな状態に現れている。さらに、図5で示すように、長尺状析出物2であるβ相は、細長い針状あるいは板状として写真の中央に現れている。なお、図3ないし図5において、長尺状析出物2(β´相、β1相、β相の少なくとも一つ)の回りには、マトリックスが現れている。
(長周期積層構造およびその間隔)
長周期積層構造(Long Period Ordered Structure 略してLPOあるいはLPOS)3とは、例えば、規則格子が14個並び逆位相のずれを介して再び規則格子が14個並び、元の格子の数倍から10数倍の単位の構造が作られる。このような長い周期の構造を長周期積層構造という。この相は規則相と不規則相の間のわずかな温度範囲に出現する。電子線回折した図には規則相の反射が分裂して、10倍の周期に対応する位置に回折斑点が現れる。この長周期積層構造3は金属間化合物等にも表れることが知られている。
なお、MgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)は、鋳造されて凝固してくるときに粒界に晶出し、また、溶体化処理により固溶体化されて、長尺状析出物2、あるいは、長周期積層構造3を析出させるものとなる。
(合金組成)
[Zn:0.5〜3原子(at)%]
Znは、0.5at%未満であると、MgGdを得ることができず強度が低下する。また、Znは、3at%を超えると添加量に見合った強度向上が得られず伸びが低下する(脆化する)。したがって、Znは、ここでは、0.5〜3at%の範囲としている。
[RE(Gd、Tb、Tmの一つ以上):1〜5原子%]
Gd、Tb、Tmは、鋳造のみでは、長周期積層構造3を出現させないが、鋳造後に所定の条件で熱処理をすることにより長周期積層構造3あるいは長尺状析出物2を析出させるものである。マグネシウム合金材1では、熱処理の条件で長周期積層構造3が析出して強度の向上を図ることができるが、より高い強度を得るためには、MgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)の溶体化および熱処理により、長尺状析出物2の析出、または、MgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)の溶体化および熱処理により、長尺状析出物2の析出と、晶出するMgGd((MgZnTbあるいはMg24Tm)を混在させてもよい。
そのため、マグネシウム合金材1においてGd、Tb、Tmの少なくとも1種からなるREは、所定量を必要とする。マグネシウム合金材1においてGd、Tb、Tmの少なくとも1種は、総量で1at%未満であるとMgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)および長尺状析出物2を析出させることができず、また、総量で5at%を超えると添加量に見合った強度向上が得られず伸びが低下する。そのため、マグネシウム合金材1においてGd、Tb、Tmの少なくとも1種からなるREは、ここでは、総量で1〜5at%の範囲としている。
したがって、マグネシウム合金材1は、合金組成において、原子%による組成が、組成式Mg100−a−bZnREで示される範囲となる(組成式中、0.5≦a≦3、1≦b≦5)。なお、本発明において、前記した成分以外にも、本発明のマグネシウム合金の効果に影響を与えない範囲において、他の成分を不可避的不純物の範囲で添加することができ、例えば、微細化に寄与するZrを0.1〜0.5at%程度含んでいても構わない。
つぎに、マグネシウム合金材の製造方法について説明する。
図6は、マグネシウム合金材の製造方法を示すフローチャート、図7はマグネシウム合金材の溶体化処理および熱処理の温度と時間の関係を模式的に示すグラフ図である。
マグネシウム合金材1は、はじめに鋳造工程S1により鋳造される。ここでは、マグネシウム合金材1として、組成式Mg100−a−bZnREで示され、REがGdであるものとしている。そして、鋳造された鋳造材は、つぎに、溶体化工程S2において溶体化処理(REが固溶体化)される。このときの溶体化処理の温度は、一例として520℃で2時間行った。鋳造材は、溶体化処理により鋳造で生じたMgと、Gd(Tb、Tm)の化合物がマトリックス中に溶け込み固溶体化する。なお、溶体化処理は、500℃以上で2時間以上保持することが好ましい。
さらに、溶体化処理をした鋳造材を所定条件で熱処理する熱処理工程S3を行う。この熱処理工程S3を行うことで、長尺状析出物(X相=β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)2、長周期積層構造3が析出すると共に、晶出物のMgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)、MgZnGdが混在する場合がある。
熱処理工程S3は、二つの条件としてここでは示している。つまり、好ましい範囲の条件(条件1)とより好ましい範囲の条件(条件2)との2つである。
熱処理工程S3の条件1としては、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(hr)をxとしたとき、−18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行っている(図8参照、条件1である熱処理温度および熱処理時間の示す領域は、四角形で囲むエリアの範囲)。
また、熱処理工程S3の条件2としては、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(hr)をtとしたとき、330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行っている(図9参照、条件2である熱処理温度および熱処理時間の示す領域は、黒四角のポイントが含まれるMgGd+Xphaseの線内として示されるエリア内の範囲)。
熱処理工程S3では、条件1で設定した範囲のほうがより広い領域となり、条件2で設定した範囲のほうが多少狭い領域となるが、条件2は、熱処理工程S3において、より好ましい範囲として示されている。
熱処理工程S3を所定条件で行うと、マグネシウム合金材1として、特に強度を向上することができる長尺状析出物(X相=β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)2が析出する相領域の構造となる。図8は、条件1での熱処理温度と熱処理時間における金属組織に析出する析出物の区域を示すグラフ図、図9は、条件2での熱処理温度と熱処理時間における金属組織に析出する析出物の区域を示すグラフ図、図10は、マグネシウム合金材の300℃および250℃における10時間、60時間および100時間での金属組織の状態を示すTEM写真である。なお、図10では、すべて同スケールとなるように撮影している。
図8に示すように、長尺状析出物(X相:Xphase=β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)2が析出する範囲は、前記した所定の熱処理条件の範囲である。なお、図8に示すように、ここでは、長尺状析出物2(MgGdまたは/およびMgGd)と併せてMgGdの析出物も析出している。マグネシウム合金材1は、長尺状析出物2(MgGdまたは/およびMgGd)を析出させることで、0.2%耐力を向上できることが分かる(図11参照:Cast−T6材)。
また、図10に示すように、熱処理温度が300℃で、熱処理時間をそれぞれ10時間、60時間、および、100時間としたとき、および、熱処理温度が250℃で、熱処理時間をそれぞれ60時間、および、100時間としたときに、長尺状析出物2であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つが析出していることが分かった。また、熱処理時間を100時間以上としてもX相であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つは析出するが実用的な範囲を考慮したときに、マグネシウム合金材1の熱処理温度範囲は、前記した条件1となる−18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲、あるいは、前記した条件2となる330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す条件となる。
熱処理された鋳造物は、つぎに、必要に応じて塑性加工される塑性加工工程S4が行われる。この塑性加工工程S4の塑性加工は、押出加工あるいは鍛造加工であってもよい。塑性加工された塑性加工物は、0.2%耐力が著しく向上することになる。図11は熱処理工程のつぎに押出加工を行ったマグネシウム合金材(押出し材)の0.2%耐力と伸び率の関係を示すグラフ図である。図11に示すように、熱処理工程S3を行い塑性加工工程S4である押出加工を行ったマグネシウム合金材1は、高い0.2%耐力の値を示すことが分かる。
また、マグネシウム合金材1は、熱処理工程S3および塑性加工工程S4において、0.2%耐力が向上される場合、長尺状析出物(β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)2を備えていることが重要であり、その他に、MgGd(MgZnTbあるいはMg24Tm)の晶出物、または、長周期積層構造3を析出する場合においても、長尺状析出物(β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)2が析出している状態であれば、0.2%耐力が向上される。
なお、押出加工前後での金属組織の状態を図12に示す。図12は、マグネシウム合金材の長尺状析出物が出現している熱処理温度250℃で60時間熱処理した後、押出加工したときの金属組織のTEM写真、および、500℃で10時間熱処理したときの金属組織のTEM写真を比較する説明写真である。なお、図12では、すべて同スケールとなるように撮影している。図12に示すように、500℃で10時間熱処理を行ったものは、押出加工前では、長周期積層構造3が直線的に形成されているが、X相(β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)は全く析出していない。同様に、押出加工後においても、粒界がはっきりしない状態で、かつ、長周期積層構造3が変形した状態となりX相(β´相、β1相、β相の少なくとも1つ)は全く析出していない。これに対して、250℃で60時間熱処理を行ったものは、押出加工前に多数のMgGdの晶出物、および、微細なX相であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つ(長尺状析出物2)が無数に析出している。同様に、押出加工後であっても、多数のMgGdの晶出物、および、微細なX相であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つ(長尺状析出物2)が無数に存在している。
また、図11に示すように、250℃で60時間において熱処理を行ったマグネシウム合金材が、押出加工前後において、0.2%耐力が高い値を示していることが分かる。したがって、図8および図9に示すように、β´相、β1相、β相の少なくとも1つ(X相(Xphase))が出現している領域のマグネシウム合金材1では、長周期積層構造3を備える領域のマグネシウム合金材よりも、0.2%耐力が向上する構造となっている。
なお、図6で示す塑性加工工程S4は、熱処理された鋳造物に塑性加工(押出加工、鍛造加工)を加えることで強度が向上できるため、マグネシウム合金材1の目的に応じて行っても構わない。また、塑性加工後のマグネシウム合金材1は、所定の形状に切削等により加工されて製品化される。また、ここでは、マグネシウム合金材1の製造方法として、鋳造工程S1から塑性加工工程S4までを一連の工程として示したが、鋳造工程S1から熱処理工程S3までを一連の工程とし、塑性加工工程S4は、製品挿入先において行われるようにしても構わない。
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、ここで示す実施例は一例であり本発明を限定するものではない。図13は、熱処理温度と熱処理時間との関係を示すグラフ図、図14は機械的性質の評価を行うための各工程を示すブロック図、図15は鋳造したインゴットに60時間の熱処理を各温度で行ったときのTEM写真、図16は実施例において従来の金属組織の状態を示すTEM写真である。
マグネシウム合金材として、Znを1at%、Gdを2at%とし、残部をMgと不可避的不純物のMg−Zn−Gd合金として溶解炉に投入し、フラックス精錬により溶解を行った。つづいて加熱溶解した材料を、図14に示すように、金型で鋳造し(S1)φ29mm×L60mmのインゴットを作成し、さらに、鋳造したインゴットを520℃で2時間において溶体化処理を行い(S2)、その後、各温度で熱処理を行い(S3)、押出し温度400℃において押出比10として塑性加工(S4)を行ったものと、塑性加工を行わなかったもの(実施例)を製造し、室温において引張試験を行った。なお、引張試験におけるひずみ速度は、ε=5.0×10−4(s−1)である。また、溶体化処理、および、熱処理は、マッフル炉により行い、各温度は、図13に示す温度で、2時間、4時間、10時間、20時間、40時間、60時間および100時間において熱処理を行っている。なお、図14では、溶体化および熱処理をまとめて熱処理として記載している。図13に示すように、ここでは、合わせて前記した各温度および各時間において53通りの試験用のマグネシウム合金材につて試験を行っている。
図15(a)に示すように、金属組織の状態は、溶体化のままでは、MgGdを示す相が出現しているだけであることが分かった。図15(b)に示すように、60時間の熱処理を250℃で行ったときの金属組織の状態は、X相であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つ(長尺状析出物2)が析出し、MgGdを示す相と混在していることが分かった。図15(c)に示すように、60時間の熱処理を350℃で行ったときの金属組織の状態は、MgGdを示す相と、14H−LPOを示す相(長周期積層構造)が析出していることが分かった。図15(d)に示すように、60時間の熱処理を450℃で行ったときの金属組織の状態は、14H−LPOを示す相が析出していることが分かった。さらに、図15(e)に示すように、60時間の熱処理を500℃で行ったときの金属組織の状態は、14H−LPOを示す相が析出し、MgZnGdを示す相と混在していることが分かった。
図16に示すように、500℃で熱処理時間なし(溶体化のまま)と、500℃で2時間、10時間および60時間の熱処理を行ったマグネシウム合金材について、金属組織中に14H−LPOを示す相の析出またはMgGdを示す相の単独、あるいは、14H−LPOを示す相の析出およびMgGdを示す相の混在することは分かったが、X相であるβ´相、β1相、β相の少なくとも1つ(長尺状析出物2)の析出は確認できていない。
また、表1は図13に示すもののうち代表的なものを実施例1から実施例5とし、同様に、図13の代表的なものを比較例1、2として各工程の条件を示し、表2は実施例と比較例とにおける組織の形態と、0.2%耐力と、伸び率を示すものである。
実施例1ないし実施例5のマグネシウム合金材は、いずれも金属組織中にMgGdおよびX相を析出して有しており、高い0.2%耐力と伸びを有する(図11参照)。
一方、比較例1および比較例2のマグネシウム合金材は、長周期積層構造のみを備えているため、X相を析出しているものと比較して0.2%耐力が低下していることが分かる(図11参照)。
この結果、図8で示す条件1で熱処理温度および熱処理時間を行うことでより広範囲において低い温度であっても、β‘相、β1相、β相のいずれか一つを析出することがわかった。表2では、実施例1,2においてX相は、β‘相、β1相、β相のいずれか一つである。なお、図8において四角形の外形線と一点鎖線で区切られる領域がβ相として現れ、一点鎖線と点線で区切られる領域がβ1相として現れ、点線と四角形の外形線で区切られる領域がβ´相として現れる。また、β‘相、β1相、β相のいずれか一つの存在により押出後の機械的性質が向上することは条件2において分かっているため、条件1でも、条件2と同様に、押出後の機械的性質が向上する(図11参照)。
このように、マグネシウム合金材は、X相(針状析出物または板状析出物=長尺状析出物=β‘相、β1相、β相のいずれか一つ)を析出することで、Mg−Zn−RE系合金であっても、さらに機械的性質に優れた材料として使用することが可能となる。なお、β相、β1相、β’相は、製品のサイズあるいは鋳造時点での結晶粒径により、同一熱処理であっても部位ごとの組織形態は異なり、これらの相が単独あるいは混在して存在する場合もありうる。
(a)、(b)は本発明に係るマグネシウム合金の金属組織に針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すTEM写真である。 (a)、(b)、(c)は本発明に係るマグネシウム合金の金属組織を示すTEM写真またはSEM写真であり、(a)はマグネシウム合金材にMgGdの晶出物と針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すSEM写真、(b)は、マグネシウム合金材に針状析出物または板状析出物が出現している状態を示すTEM写真、(c)は、針状析出物または板状析出物と、MGGdの晶出物と、長周期積層構造とが出現している状態を示すTEM写真である。 本発明に係るマグネシウム合金の金属組織を示し、β´相(長尺析出物)が出現している状態を示すTEM写真である。 本発明に係るマグネシウム合金の金属組織を示し、β´相およびβ1相(長尺析出物)が出現している状態を示すTEM写真である。 本発明に係るマグネシウム合金の金属組織を示し、β相(長尺析出物)が出現している状態を示すTEM写真である。 本発明に係るマグネシウム合金材の製造方法を示すフローチャートである。 本発明に係るマグネシウム合金材の溶体化処理および熱処理の温度と時間の関係を模式的に示すグラフ図である。 本発明に係る条件1での熱処理温度と熱処理時間における金属組織に析出する析出物の区域を示すグラフ図である。 本発明に係る条件2での熱処理温度と熱処理時間における金属組織に析出する析出物の区域を示すグラフ図である。 本発明に係るマグネシウム合金材の300℃および250℃における10時間、60時間および100時間での金属組織の状態を示すTEM写真である。 本発明のマグネシウム金属材および従来のマグネシウム合金材について、熱処理工程のつぎに押出加工を行った伸び率と0.2%耐力との関係を示すグラフ図である。 本発明に係るマグネシウム合金の長尺状析出物が出現している熱処理温度250℃で60時間熱処理した後、押出加工したときの金属組織のTEM写真、および、500℃で10時間熱処理したときの金属組織のTEM写真を比較する説明写真である。 本発明に係るマグネシウム合金材を含む熱処理温度と熱処理時間との関係を示すグラフ図である。 本発明の実施例を説明するときの機械的性質の評価を行うための各工程を示すブロック図である。 本発明の実施例で使用する鋳造したインゴットに60時間の熱処理を各温度で行ったときのTEM写真である。 本発明の実施例において従来の金属組織の状態を示すTEM写真である。
符号の説明
1 マグネシウム合金材
2 長尺状析出物(針状析出物または板状析出物:X相=β´相、β1相、β相のいずれか一つ)
3 長周期積層構造(LPO)

Claims (8)

  1. 必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金であり、当該Mg-Zn-RE系合金に針状析出物または板状析出物を有することを特徴とするマグネシウム合金材。
  2. 前記針状析出物または板状析出物は、MgGdまたは/およびMgGdであることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金材。
  3. 成分範囲を前記Zn:0.5〜3原子%、前記RE:1〜5原子%であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金材。
  4. マグネシウム合金材の製造方法において、
    必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、
    前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、
    前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、を含み、
    前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(h)をxとしたとき、
    −18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行うことを特徴とするマグネシウム合金材の製造方法。
  5. マグネシウム合金材の製造方法において、
    必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、
    前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、
    前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、
    前記熱処理した鋳造材に塑性加工を施す塑性加工工程と、を含み、
    前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をyとし、熱処理時間(h)をxとしたとき、
    −18[ln(x)]+240<y<−12[ln(x)]+375で、かつ、2<x<300に示す範囲の条件で行うことを特徴とするマグネシウム合金材の製造方法。
  6. マグネシウム合金材の製造方法において、
    必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、
    前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、
    前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、を含み、
    前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(h)をtとしたとき、
    330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行うことを特徴とするマグネシウム合金材の製造方法。
  7. マグネシウム合金材の製造方法において、
    必須成分としてZn、および、REとしてGd、Tb、Tmのうち少なくとも1つ以上を含有し、残部がMgと不可避的不純物からなるMg-Zn-RE系合金を鋳造して鋳造材を形成する鋳造工程と、
    前記鋳造材を溶体化する溶体化工程と、
    前記溶体化した鋳造材に所定条件で熱処理を行う熱処理工程と、
    前記熱処理した鋳造材に塑性加工を施す塑性加工工程と、を含み、
    前記熱処理工程は、熱処理温度(℃)をTとし、熱処理時間(h)をtとしたとき、
    330−20×ln(t)<T<325であり、かつ、t≧5に示す範囲の条件で行うことを特徴とするマグネシウム合金材の製造方法。
  8. 前記塑性加工工程における塑性加工は、押出加工または鍛造加工であることを特徴とする請求項5または請求項7に記載のマグネシウム合金材の製造方法。
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