JP5581505B2 - マグネシウム合金板材 - Google Patents

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Description

本発明はマグネシウム合金板材に関する。詳しくは、高強度であると共に高延性であるマグネシウム合金板材に係るものである。
一般に、マグネシウム合金は、実用化されている合金の中で最も密度が低く軽量で強度も高いため、電気製品の筐体や、自動車のホイール、足回り部品、エンジン周り部品等への適用が進められている。
特に、自動車に関連する用途の部品においては、高い機械的特性が要求されるため、GdやZn等の元素を添加したマグネシウム合金として、片ロール法、急速凝固法により特定の形態の材料を製造することが行われている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
しかし、上記したマグネシウム合金は、特定の製造方法においては高い機械的特性が得られるものの、特定の製造方法を実現するためには特殊な設備が必要であり、しかも、生産性が低いといった問題があり、更には、適用できる部材も限られるといった問題があった。
そこで、従来、マグネシウム合金を製造する場合、上記した特許文献1及び特許文献2に記載の様な特殊な設備あるいはプロセスを用いずに、生産性の高い通常の溶解鋳造から塑性加工(押出)を実施しても、実用上有用な機械的特性が得られる技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
特開平6−41701号公報 特開2002−256370号公報 特開2006−97037号公報
ところで、特許文献3に開示されている長周期積層構造相(以下、「LPSO:Long Period Stacking Order」相と称する)を有するマグネシウム合金については、引張強度と延性のバランスに優れており、鋳造材ではそれほど引張強度が高くないものの、例えば押出加工といった塑性加工を施すことによってあまり延性を低下させることなく、引張強度の向上を実現することができる。即ち、押出加工等の大きな加工率の塑性加工を行ったとしても、充分な延性を得ることができる。
しかしながら、素材としての板材や棒材を製造する際に、塑性加工を施して引張強度の向上を図ろうとすると、延性の低下を招いてしまっていた。
例えば、図6はMg96ZnY合金の鋳造材と熱間圧延材(R1、R2)の耐力、強度及び伸びを示している。熱間圧延材(R2)は熱間圧延材(R1)よりも高い耐力及び強度を示しているが、伸びは小さいことが分かる。なお、図6は非特許文献(R.G. Li,D.Q. Fang, J. An, Y. Lu, Z.Y. Cao, Y.B. Liu、M A T E R I A L S C H A R A C T ER I Z A T I O N 6 0 ( 2 0 0 9 ) 4 7 0 - 4 7 5)に記載されている。
また、図7は各種材料の機械的特性を示しているが、同一合金でプロセスが異なる機械的特性を比較すると、高い耐力及び強度が実現しているものは伸びが小さくなっていることが分かる。なお、図7は非特許文献(T. Itoi et al. / Scripta Materialia 59 (2008) 1155-1158)に記載がなされている。
この様に、引張強度と延性といった両特性を同時に向上させることは困難であった。
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、引張強度の向上を実現すると同時に延性の向上をも実現することができるマグネシウム合金板材を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、本発明のマグネシウム合金板材は、鋳造時に晶出した長周期積層構造相を有するマグネシウム合金に圧延加工が施されたマグネシウム合金板材であって、合金組織を走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察した場合に、長周期積層構造相を主とすると共に、観察断面における厚さが0.5μm以下である少なくとも2以上のαMg相が板状の長周期積層構造相と層状に積層された組織を備える。
ここで、合金組織を走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察した場合に、長周期積層構造相を主とすると共に、観察断面における厚さが0.5μm以下である少なくとも2以上のαMg相が板状の長周期積層構造相と層状に積層された組織を備えることによって、引張強度の向上を実現すると同時に延性の向上をも実現することができ、優れた引張強度と良好な延性を実現することができる。
即ち、LPSO相が板状(プレート状)に存在しているために、ブロック状でLPSO相が存在する場合と比較すると、圧延加工に伴いLPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易い組織状態となる。そして、LPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易い組織状態であるために、LPSO相にキンク帯を導入し易く、結果として優れた引張強度を実現することができる。また、LPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易い組織状態であるために、良好な延性をも実現することができる。
また、積層された組織中のLPSO相の最大膜厚が9μm以下である場合には、概ね10%以上の伸びが実現できることとなる。
更に、積層された組織中(具体的には、LPSO相内若しくはαMg相内)に、金属間化合物(例えば、MgZn)を有している場合には、金属間化合物が板状(プレート状)のLPSO相に挟まれて存在する組織状態となる。そして、こうした組織状態は、金属間化合物がLPSO相の変形を助長し易いために、LPSO相が変形し易い状態である。そのため、LPSO相にキンク帯を導入し易く、優れた引張強度を実現することができる。
また、積層組織の少なくとも一部がせん断変形若しくは圧縮変形することで、積層された組織の少なくとも一部が湾曲若しくは屈曲することとなる。そして、こうした湾曲や屈曲した組織は優れた引張強度を実現する一因となり得る。
ここで、「合金組織を走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察した場合の板状のLPSO相」とは、例えば、図8で示す様な組織を意味しており、図8中の淡い灰色に見えている箇所がLPSO相を示している。なお、図8(a)は150倍、図8(b)は2500倍、図8(c)は3000倍の倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
また、「板厚横断面」とは、圧延によってその厚さが減じられる断面であり、圧延時における板材の進行方向と略平行である断面(圧延ロールと略直角である断面)を意味している。更に、「板厚横断面の長手方向」とは、圧延時における板材の進行方向と略平行な方向(圧延ロールと略直角な方向)を意味している。また、「板厚横断面の長手方向に対して略直角方向」とは、板厚横断面の厚さ方向を意味している。
即ち、「板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察」とは、『「圧延によってその厚さが減じられる断面であり、圧延時における板材の進行方向と略平行である断面」を、「圧延時における板材の進行方向と略平行な方向」と略直角方向である「当該断面の厚さ方向」を観察すること』を意味している。
また、「鋳造時にLPSO相が晶出するマグネシウム合金」としては、Mg−Zn−RE(RE=Y,Dy,Ho,Er,Tm)、Mg−Cu−RE(RE=Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm)、Mg−Ni−RE(RE=Y,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er)、Mg−Co−RE(RE=Y,Dy,Ho,Er,Tm)、Mg−Al−Gd等が挙げられる。なお、ここでのREとは、希土類元素を示している。
更に、「鋳造時にLPSO相が晶出するマグネシウム合金」としては、上記に例示した様な3成分系に限定される必要はなく、上述したマグネシウム合金に他の添加元素が加わった4成分系やそれ以上の成分系であっても良い。
本発明のマグネシウム合金板材では、引張強度の向上を実現すると同時に延性の向上をも実現することができる。
本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(1)である。 本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(2)である。 本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(3)である。 本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(4)である。 本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(5)である。 本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す顕微鏡写真(6)である。 マグネシウム合金板材の製造方法を説明するためのフローチャートである。 金属間化合物MgZnを説明するための顕微鏡写真である。 熱処理工程を施していない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金材の結晶組織を示す顕微鏡写真(1)である。 熱処理工程を施していない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金材の結晶組織を示す顕微鏡写真(2)である。 熱処理工程を施していない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金材の結晶組織を示す顕微鏡写真(3)である。 熱処理工程を施していない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金材の結晶組織を示す顕微鏡写真(4)である。 実施例及び比較例の0.2%耐力、引張強度及び延性を示したグラフである。 Mg96ZnY合金の鋳造材と熱間圧延材(R1、R2)の耐力、強度及び伸びを示すグラフである。 各種材料の機械的特性を示す表である。 板状組織の一例を説明するための顕微鏡写真(1)である。 板状組織の一例を説明するための顕微鏡写真(2)である。 板状組織の一例を説明するための顕微鏡写真(3)である。 熱処理時間と引張耐力との関係及び熱処理時間と室温伸びとの関係を示したグラフである。 ラメラ組織中のLPSO相の最大厚さとマグネシウム合金板材の伸びとの関係を説明するための図(1)である。 ラメラ組織中のLPSO相の最大厚さとマグネシウム合金板材の伸びとの関係を説明するための図(2)である。 過剰な熱処理を施した素材を圧延したマグネシウム合金板材の走査型電子顕微鏡写真(1)である。 過剰な熱処理を施した素材を圧延したマグネシウム合金板材の走査型電子顕微鏡写真(2)である。 過剰な熱処理を施した素材を圧延したマグネシウム合金板材の走査型電子顕微鏡写真(3)である。 過剰な熱処理を施した素材を圧延したマグネシウム合金板材の走査型電子顕微鏡写真(4)である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。
図1A及び図1Bは本発明のマグネシウム合金板材であるMg96Zn合金の結晶組織を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図1A及び図1B中の黒色はαMg相を示し、灰色はLPSO相を示し、白色はMgZnを示している。
なお、本実施の形態では、Mg96Zn合金を例に挙げて説明を行うが、こうした合金組成に限定されるものではない。例えば、その他の3成分系であっても良いし、微量な添加元素を添加した4成分系であっても構わない。
ここで、図1A及び図1Bから明らかな様に、本発明を適用したマグネシウム合金板材は、LPSO相とαMg相とを有しており、LPSO相とαMg相とがラメラ状に存在している。但し、全ての組織がラメラ状組織を呈しているわけではなく、例えば、図1A(c)中符号Xで示す領域においてはラメラ状組織を呈していない。
なお、LPSO相とは、マグネシウム合金の粒内及び粒界に析出する析出物であって、HCP構造における底面原子層の並びが底面法線方向に長周期規則をもって繰り返される構造相、即ち、長周期積層構造相をいう。このLPSO相の析出によって、マグネシウム合金板材の機械的特性(引張強度、0.2%耐力及び伸び)が向上することとなる。
また、LPSO相は板状(プレート状)の組織を有しており(図1B(b)中符号Sで示す領域)、板状(プレート状)の組織同士の間隙にはαMg相が存在している。即ち、LPSO相は板状(プレート状)の組織が多層に積層されている。
具体的には、本発明を適用したマグネシウム合金板材における上述したラメラ状組織(図1B(b)中符号S参照)は、LPSO相を主とし、走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察した場合に、観察断面における厚さが0.5μm以下の複数のαMg相と板状(プレート状)のLPSO相とが層状に積層して構成されている。なお、走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して略直角方向に観察した場合に、板状(プレート状)のLPSO相は、観察断面における厚さが0.25μm以上であった。
ところで、上述のラメラ状組織(図1B(b)中符号S参照)は、圧延前にその素材(例えば、押出材)に対して適切な熱処理を施すことでLPSO相を所望の板状(プレート状)に組織制御することができる。
ここで、図9(a)に「熱処理時間と引張耐力との関係」を示し、図9(b)に「熱処理時間と室温伸びとの関係」を示している。なお、ここでの熱処理温度は480℃である。図9(b)で示す「熱処理時間と室温伸びとの関係」からも明らかな様に、単に熱処理を施せば伸びが向上するということではなく、圧延後の薄板材が大きな伸びを実現することができるための適切な熱処理を行う必要がある。
また、図10(a)に、「ラメラ状組織中のLPSO相の最大厚さとマグネシウム合金板材の伸びとの関係」を示している。図10(a)からも明らかな様に、ラメラ状組織中のLPSO相の最大の観察断面における厚さが9μm以下となる様に微細化されている場合には、概ね10%以上の伸びを得ることができる。
即ち、圧延前に適切な熱処理を施すことによって、圧延後のラメラ状組織中のLPSO相の最大の観察断面における厚さが9μm以下となる様にすることが技術的に極めて重要となる。
なお、ここでの「LPSO相の観察断面における厚さ」とは、板状(プレート状)のLPSO相の長手方向に対する垂直方向(図10(b)に示す矢印の方向)の長さを意味している。
そして、圧延前の熱処理条件を適切に選択すると、ラメラ状組織中のLPSO相の観察断面における厚さが大きく見える組織であっても、走査型電子顕微鏡の倍率を上げて確認を行った場合には、0.1μm、あるいは0.1μm未満の薄膜のαMg相がLPSO相と積層構造をなしている。即ち、薄膜のLPSO相とそれよりも更に観察断面における厚さが小さいαMg相が積層した多層構造を確認することができる。
これに対して、不十分な熱処理では板状(プレート状)のLPSO相が充分に形成しきれず、また、加熱時間を長くするなど過剰な熱処理では板状(プレート状)のLPSO相の観察断面における厚さが大きくなり、薄いαMg相との層構造の形成頻度が低下してしまう(図11A及び図11B参照)。
ここで、図11A及び図11Bは過剰な熱処理を施した素材を圧延したマグネシウム合金板材の走査型電子顕微鏡写真を示している。なお、視認性の便宜を図るべく、図11A(a)及び図11B(a)は、LPSO相のコントラストを強めた状態を示しており、図11A(b)及び図11B(b)は化合物のコントラストを強めた状態を示している。
本発明を適用したマグネシウム合金板材では、圧延前にその素材に対して後述する製造方法の様な適切な熱処理を施すことによって、ラメラ状組織中のLPSO相の観察断面における厚さ、換言すると、0.5μm以下の薄膜のαMg相を挟まないLPSO相の観察断面における厚さが最大でも8μmとなる様に組織制御している。
ここで、LPSO相が板状(プレート状)の組織を有することによって、ブロック状の組織のLPSO相と比較すると、圧延加工に伴いLPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易いこととなる。なお、圧延加工に伴いLPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易いことは、後述する様に、LPSO相とαMg相のラメラ状組織の一部が湾曲または屈曲していることからも明らかである。
そして、圧延加工に伴いLPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易い組織状態であることから、結果としてLPSO相にキンク帯が導入し易くなり、優れた引張強度を実現できることとなる。また、圧延加工に伴いLPSO相の少なくとも一部がせん断変形や圧縮変形し易い組織状態であることは、良好な延性をも実現することとなる。
なお、LPSO相は板状(プレート状)の組織のみならず、例えば、図1A(b)中符号Yで示す領域の様にブロック状の組織が存在することもある。即ち、LPSO相の組織形状は板状(プレート状)若しくは板状(プレート状)とブロック状の混在となる。
また、ラメラ状組織を呈するLPSO相及びαMg相は共に組織が全体的に湾曲していることが分かる。これは、板状(プレート状)のLPSO相とこうした板状(プレート状)のLPSO相に挟まれたαMg相がせん断変形や圧縮変形(図1B(b)中符号Tで示す領域)したことで組織や組織の一部が湾曲や屈曲したためと考えられる。なお、ラメラ状組織が湾曲や屈曲することで優れた引張強度を実現する一因となり得る。
更に、LPSO相内若しくはαMg相内にMgZnが微細分散している(図1A(b)や図1A(c)中符号Zで示す領域、図1B(c)中符号Tや符号Uで示す領域)。
ここで、金属間化合物MgZnはLPSO相に挟まれた組織状態となっている。そして、LPSO相は板状(プレート状)の組織を有している。そのため、金属間化合物MgZnは、LPSO相の変形を助長することとなる。そして、LPSO相の変形の助長は、結果としてLPSO相にキンク帯が導入し易くなり、優れた引張強度を実現できることとなる。
以上の通り、本発明のマグネシウム合金板材では、LPSO相が板状(プレート状)の組織を有しており圧延加工に伴いせん断変形や圧縮変形し易い組織状態であると共に、金属間化合物MgZnがLPSO相の変形を助長することによって、引張強度の向上を実現すると同時に延性の向上をも実現することができる。
また、本発明のマグネシウム合金板材では、大きな伸びを得るために適切な熱処理を施してLPSO相を微細に分散させ、その後の工程である圧延加工による強いせん断変形や圧縮変形でLPSO相を破壊することなく効果的にLPSO相に歪み、即ち、キンク変形を与えることでLPSO相の強化機構を充分に働かせることができる。このことによって、圧延の加工率が同じであるにも関わらず、より大きな伸びをもったマグネシウム合金板材を得ることが可能となる。
以下、本発明のマグネシウム合金板材の製造方法について説明を行う。
図2は本発明のマグネシウム合金板材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図2で示す様に、本発明のマグネシウム合金板材の製造方法では、先ず、鋳造工程S1により鋳造を行う。ここで、鋳造工程S1では、ZnとYを含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなるMg−Zn−Y系合金を鋳造して、LPSO相とαMg相とを含む鋳造材を形成する。
なお、鋳造材の形成方法としては、Arガス雰囲気中で高周波誘導溶解による方法(国際公開第2007/111342号の実施例1参照)や、電気炉を用いCOガスを鉄製るつぼに流入させながらマグネシウム合金を溶解し、鉄製の鋳型に注湯する方法(国際公開第2007/111342号の実施例3参照)等、いかなる方法であっても良い。
ここで、Mg96Zn合金を鋳造した場合には、鋳造時点で0.5μm〜2.0μm程度の金属間化合物MgZnを形成していることが分かった。なお、図3(a)はMg96Zn合金の400℃、1時間の焼きなまし材の結晶組織を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(b)はMg96Zn合金の450℃、1時間の焼きなまし材の結晶組織を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(c)はMg96Zn合金の500℃、1時間の焼きなまし材の結晶組織を示す走査型電子顕微鏡写真であるが、金属間化合物MgZnを形成していることが分かる。なお、図3(a)〜図3(c)で示す顕微鏡写真において、符号eで示す箇所が金属間化合物MgZnである。
次に、鋳造された鋳造材に塑性加工工程S2を行う。この塑性加工工程S2の塑性加工は、例えば、押出加工、鍛造加工、圧延加工あるいは引抜加工等であり、LPSO相を含む鋳造材を塑性加工することによって得られる塑性加工物は、塑性加工前と比較すると、引張強度、0.2%耐力、伸びが向上することとなる。
続いて、塑性加工された塑性加工物に熱処理を施す熱処理工程S3を行うことによって、LPSO相を板状(プレート状)にする。一例として、例えば、400℃以上500℃以下の温度範囲内で、かつ、0.5時間以上10時間以内の時間範囲内で熱処理を行う。
なお、本実施の形態では、熱処理工程S3によってLPSO相を板状(プレート状)にしているが、図1A及び図1Bで示す結晶組織を実現するために、後述する圧延加工工程S4に先だってLPSO相を板状(プレート状)にすることができれば充分である。そのため、LPSO相を板状(プレート状)にすることができれば必ずしも熱処理工程S3による必要は無く、いかなる方法であっても良い。同様に、LPSO相を板状(プレート状)にすることができれば充分であって、例示した温度範囲や時間範囲に限定されるものではない。
その後、熱処理が施されてLPSO相が板状(プレート状)となった塑性加工物に対して圧延加工S4を施すことによって、図1A及び図1Bで示す様な、本発明のマグネシウム合金板材を得ることができる。
ところで、図4A及び図4Bは熱処理工程S3を施していない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金板材の結晶組織を示す顕微鏡写真であり、図4A及び図4B中の黒色はαMg相を示し、灰色はLPSO相を示し、白色はMgZnを示している。
図4A及び図4Bから明らかな様に、熱処理工程S3を施しておらず、LPSO相が板状(プレート状)に整えられていない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金板材についても、LPSO相とαMg相とはラメラ状に存在している。
しかしながら、図4A(b)及び図4A(c)から明らかな様に、熱処理工程S3を施しておらず、LPSO相が板状(プレート状)に整えられていない塑性加工物に対して圧延加工S4を施したマグネシウム合金材の板状組織については、LPSO相はブロック状であり、αMg相内に微細分散したLPSO相は極めて少ない。また、図4B(b)や図4B(c)から明らかな様に、LPSO相が直線的であり湾曲や屈曲した部分については見当たらない。
なお、上述したマグネシウム合金板材の製造方法は一例に過ぎず、その他の様々な製造方法によって製造しても良いことは勿論であり、本発明のマグネシウム合金が、上述した製造方法によって得られるものに限定されるものではない。
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、ここで示す実施例は一例であり本発明を限定するものではない。
[実施例]
先ず、本発明の実施例のマグネシウム合金板材として、Znを2原子%、Yを2原子%とし、残部がMgと不可避的不純物のMg−Zn−Y系合金を高周波溶解炉内で溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型で鋳造し、φ69mm×L200mmのインゴット(鋳造材)を作成した。更に、押出温度350℃において押出比10として塑性加工(押出加工)を行い板形状にし、続いて、100℃〜500℃の熱処理温度にて1時間の熱処理(焼きなまし)を行ってLPSO相を板状(プレート状)に整えた。その後、圧延加工を施して試験片を作成した。
この様にして得られたマグネシウム合金板材を室温にて引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を図5(b)に示す。なお、図5中符号Aは0.2%耐力を示し、図5中符号Bは引張強度を示し、図5中符号Cは延性を示している。
[比較例]
次に、比較例のマグネシウム合金板材として、Znを2原子%、Yを2原子%とし、残部がMgと不可避的不純物のMg−Zn−Y系合金を高周波溶解炉内で溶解を行った。次に、加熱溶解した材料を金型で鋳造し、φ69mm×L200mmのインゴット(鋳造材)を作成した。更に、押出温度350℃において押出比10として塑性加工(押出加工)を行い板形状にした。その後、LPSO相を板状(プレート状)に整えることなく、圧延加工を施して試験片を作成した。
この様にして得られたマグネシウム合金板材を室温にて引張試験を行い、機械的特性を評価した結果を図5(a)に示す。なお、図5中符号Aは0.2%耐力を示し、図5中符号Bは引張強度を示し、図5中符号Cは延性を示している。
図5からも明らかな様に、本発明の実施例のマグネシウム合金板材は、比較例のマグネシウム合金板材と比較すると、0.2%耐力及び引張強度が共に向上していることが分かる。また、延性についても向上していることが分かる。即ち、本発明の実施例のマグネシウム合金板材では、LPSO相を含むマグネシウム合金板材において、合金組成を変更することなく強度と延性を同時に向上している。

Claims (8)

  1. 鋳造時に晶出した長周期積層構造相を有するマグネシウム合金に圧延加工が施されたマグネシウム合金板材であって、
    合金組織を走査型電子顕微鏡で板厚横断面を長手方向に対して直角方向に観察した場合に、
    長周期積層構造相の面積率の範囲が36%以上であり、観察断面における厚さが0.5μm以下である少なくとも2以上のαMg相が板状の長周期積層構造相と層状に積層された組織を備える
    マグネシウム合金板材。
  2. Znが2原子%、Yが2原子%であり、残部がMgと不可避的不純物からなる
    請求項1に記載のマグネシウム合金板材。
  3. 前記積層された組織中の長周期積層構造相は、最大の観察断面における厚さが9μm以下である
    請求項1または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
  4. 前記積層された組織は、板状の長周期積層構造相と同長周期積層構造相よりも観察断面における厚さが小さいαMg相が層状に積層されている
    請求項1、請求項2または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
  5. 前記積層された組織中の板状の長周期積層構造相は、最小の観察断面における厚さが0.25μm以上である
    請求項1、請求項2、請求項3または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
  6. 前記積層された組織中に金属間化合物を有する
    請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
  7. 前記積層組織の少なくとも一部がせん断変形若しくは圧縮変形している
    請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
  8. 前記積層組織の少なくとも一部が湾曲若しくは屈曲している
    請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項に記載のマグネシウム合金板材。
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