JP2007281411A - β−FeSi2形成方法及び電子デバイス作成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】シンプルな原理でありながら各種電子装置の基板として汎用性の著しく高いSi基体上に光機能素子などを構築するために、Si基体上にβ-FeSi2単相膜を容易に形成する方法等を提供する。
【解決手段】Fe元素を含有する溶融塩23をSi基体22と接触させることによってβ-FeSi2をSi 基体22上に形成するβ-FeSi2形成方法。この1例として、下記の(1)式で示される反応によってβ-FeSi2を形成するβ-FeSi2形成方法を挙げる。5Si+2 FeCl2=2β-FeSi2+SiCl4 (1)
【選択図】図2
【解決手段】Fe元素を含有する溶融塩23をSi基体22と接触させることによってβ-FeSi2をSi 基体22上に形成するβ-FeSi2形成方法。この1例として、下記の(1)式で示される反応によってβ-FeSi2を形成するβ-FeSi2形成方法を挙げる。5Si+2 FeCl2=2β-FeSi2+SiCl4 (1)
【選択図】図2
Description
本発明は、β-FeSi2形成方法、電子デバイス作成方法、特に、化学反応によるβ-FeSi2形成方法に関する。
近年、電気・電子機器からの多量の廃棄物の処理と環境への拡散(土壌汚染、地下水汚染など)の問題が深刻になってきている。特に、化合物半導体において多用されてきた生体への毒性が顕著な金属元索(Pb、Hg、Ni、As、Se、Cdなど)の使用が、今後ますます厳しく規制されていくと予想される。こうした状況では、生体への安全性を高めると同時に、半導体素子としての機能性を保持した新しい半導体の技術開発がますます重要になる。
このような背景から、熱電素子材料として長い研究の歴史のあるシリサイド半導体であるβ-FeSi2 (β鉄シリサイド)が資源・環境の視点から新たな機能材料として注目されている。鉄と珪素の化合物であるβ-FeSi2は、Asなどの有毒元素を含まず安全で環境負荷が少なく、地殻に豊富な元素であるSi及びFeから製造することができるため、環境に優しい半導体「環境半導体」としてその低環境負荷性が評価され始めている。
また、シリサイド半導体のうちでもβ-FeSi2は、環境に低負荷なオプトエレクトロニクス材料として最も期待され、様々な用途が検討されている。
例えば、β-FeSi2は1.5μm付近での光学応答が顕著な光半導体であるため、光通信帯域(1.5μm帯)での発光特性を利用した発光索子(LED)、受光素子(PD)の試作が始められている。さらには、光電変換素子用半導体材料としての利用に加え、熱電変換素子用材料としても利用可能であり、高い光吸収係数を利用した太陽電池、小型の廃熱利用発電機、温室効果の原因となる冷媒を使わない冷却器などへの応用も期待されている。
β-FeSi2を製造する試みについても、これまでに数多くの報告がなされている。
例えば、スパッタリング法、化学蒸着法、Si基板上にFeを気相堆積させてから固相反応を用いるものなどがある。これらの披術には高真空設備、気相堆積装置が必要であるため、装置が大掛かりなりがちであり、高コストになる傾向がある。また、工程が複雑化する要因にもなる。
FeSi基板上に溶融塩法によってβ-FeSi2を形成するという報告もされている。この技術では、汎用性が高くないFeSi基板上にβ-FeSi2を形成してしまうため電子デバイス作成等への応用には難がある。
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、シンプルな原理でありながら汎用性の高いSi基体を利用したβ-FeSi2を形成する方法などを提供することを目的とする。
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
本発明の第1の側面は、
Fe元素を含有する溶融塩をSi基体と接触させることによってβ-FeSi2をSi基体上に形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法にある。
Fe元素を含有する溶融塩をSi基体と接触させることによってβ-FeSi2をSi基体上に形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法にある。
本構成によれば、汎用性の高いSi基体上にβ-FeSi2を形成する方法が得られる。
本発明の第2の側面は、
下記(1)式で示される反応によってβ-FeSi2を形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法
5Si+2 FeCl2=2β-FeSi2+SiCl4
(1)
にある。
下記(1)式で示される反応によってβ-FeSi2を形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法
5Si+2 FeCl2=2β-FeSi2+SiCl4
(1)
にある。
本構成によれば、シンプルな原理でありながらβ-FeSi2を容易に形成する方法が得られる。
本発明の第3の側面は、
Fe元素を含有する溶融塩をSi基体と接触させることによってβ-FeSi2をSi基体上に形成することなどによって電子デバイスを作成することを特徴とする電子デバイス作成方法にある。
Fe元素を含有する溶融塩をSi基体と接触させることによってβ-FeSi2をSi基体上に形成することなどによって電子デバイスを作成することを特徴とする電子デバイス作成方法にある。
本構成によれば、汎用性の高いSi基体上に電子デバイスを作成するためSiベース・オプトエレクトロニクスへのβ-FeSi2の適用を実現することが可能となる。
なお、Si基体には、板状のものだけでなく他の形状のものも含まれる。基体、化合物などには、単に単体だけでなく、多少のドーパント、不純物などが含まれているもの、さらには、アモルファス、多結晶、単結晶も含まれる。反応には、他の化合物などがさらに関与する多元系のものも含まれる。
本発明によれば、シンプルな原理でありながら汎用性の高いSi基体を利用したβ-FeSi2を形成する方法等が得られる。
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
[Fe-Si系について]
図1は、Fe-Si系の相図(phase diagram)である。横軸はFe-Si系におけるSiの原子数%を、縦軸は温度を示す。Fe-Si系には、その組成比に応じて、Fe3Si、Fe2Si、Fe5Si3、FeSi、FeSi2などのさまざまな結晶形態が存在する。さらに、同じFeSi2でも、高温域で安定なα-FeSi2と、それよりも低温域で安定なβ-FeSi2とが存在する。これらの各種の結晶形態のうち、β-FeSi2だけが半導体特性を示し、それ以外の結晶は金属であると一般に理解されている。β-FeSi2は、正方晶構造の金属であるα-FeSi2の鉄シリサイドと異なり、斜方晶構造を有し、禁制帯幅が約0.85eVの半導体である。
[反応について]
本実施形態の反応では、Si基板界面へFeを供給することによって、Si上ヘテロエピタキシーによるβ-FeSi2薄膜の形成、又はβ-FeSi2相の生成が起きていると考えられる。この反応は、(2)式で示されるFeCl2とSi間(溶融塩中FeSi2と基板間)の塩素交換反応である。
5Si(s)+2FeCl2(l)=2β-FeSi2 (s)+SiCl4(g)
(2)
(2)
本実施形態では、交換反応として、交換反応であるFeCl2を使用する例を挙げた。しかしながら、2価鉄塩の塩化鉄(II)FeCl2の代わりに又はそれに加えて3価鉄塩の塩化鉄(III)FeCl3を使用してもよい。また、塩素化合物の代わりに又はそれに加えて、Na2SiF6、臭素、フッ素などの他のハロゲンとの化合物を使用してもよい。さらに、FeCl2の代わりに又はそれに加えて、硫化鉄(II)(FeS)、硫化鉄(III)(Fe2S3)、二硫化鉄(FeS2)、黄鉄鉱(Pyrite)、白鉄鉱(Marcasite)、磁硫鉄鉱(Pyrrhotite、Fe1-xS(例えばx=0.09〜0.17))などを使用してもよい。
例えば、β-FeSi2の安定温度域である937℃以下の温度域においてFeCl2を含有する溶融塩化物と単結晶Si基板とを所定の容器中で保持すると、基板界面において上記交換反応が進行し、Si基板上にβ-FeSi2相が得られる。その際、反応副生成物のSiCl4はガス成分であるため、反応界面に滞留もしくは堆積せず、反応を阻害する可能性が小さいという優れた利点がある。
[希釈剤について]
FeCl2単体を反応溶融塩として用いると、反応時のFeポテンシャルが非常に高いためβ-FeSi2以外のFe冨化相すなわちFe3Si相又はFeSi相が形成されることがある。また、FeCl2の蒸気圧が高いため、その蒸発損ならびに反応系低温部での固着を誘発することもある。そこで、FeCl2の希釈によってこれらをできるだけ防止することが好ましい。
希釈剤としては同温度域において蒸気圧が小さく、さらに基板Siとの反応性が極めて小さいNaCl、KClなどの塩化物を用いることが望ましい。また、他の希釈剤としてMgCl2、CaCl2、BaCl2、NaF、SrCl2、KF、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、フッ化物、アルカリ土類などが挙げられる。
なお、希釈剤などの種類を増やすなどしてさらに多元系の反応とすることも好ましい。多元系とすれば、融点の降下によってさらに低温での反応を実現できるからである。
ここで、一般に、溶融塩とは、塩などのイオン性化合物を融点以上に保持し融解したものである。これらは、熱処理の熱伝達媒体などに使われており、100℃〜500℃の比較的低温用にはKNO3、NaNO3などの硝酸塩が利用される。500℃〜1000℃程度の用途にはKCl、NaClなどの塩化物が使用され、それ以上の温度についてはBaCl2などが使用されることが多い。
本実施形態では溶融塩を700℃〜900℃付近に維持するため、KCl、NaCl などの塩化物を使用するのが好ましい。このうち、KClは、膜表面にカリウムシリサイドができてしまうという問題が生じやすいため、NaClを用いるのがさらに好ましい。
Si単体(例えば粉末Si)を添加してもよい。Siを添加することによって溶融塩のSi濃度を容易に調節することができる。
[反応装置について]
図2は、本実施形態で使用した反応装置20の断面図である。
反応装置20は、シリコニット電気炉21でその周囲が包まれている。反応装置20の内部温度は、シリコニット電気炉21からの加熱によって調整される。
このシリコニット電気炉21の内側にはムライト反応管28が収納されており、さらにその内側には石英反応管27が収納されている。石英反応管27内には、チタン粉末25を収容するグラファイト製容器26と、シリコンウエハ22及び溶融塩23を収容する反応容器24とが二段に配置されている。
なお、反応容器24は、溶融塩23及びSi基板22との反応を回避するため、アルミナ又はマグネシアなどの酸化物、窒化アルミニウム又は窒化ホウ素などの窒化物、さらにはグラファイト製のものなどが使用可能である。経済性の観点からは緻密質のグラファイト製が好適と考えられる。
反応装置20の一端には、ガス導入口31及びガス導出口29となるアルミナ管が設けられている。反応装置20に外部から導入されるガスは、グラファイト製容器26内のチタン粉末25 に触れてから、グラファイト製反応容器24内のシリコンウエハ22周辺及び溶融塩23周辺へと導かれる。
[反応手順について]
まず、本実施形態では、アルゴン雰囲気中1500℃にて加熱処理を施すことで吸着ガス成分、主に水分を除去した高純度グラファイト製容器24に、NaCl-49.5%KCl-1%FeCl2組成の混合塩23ならびにSi基板22を挿入し、これを石英反応管27内に収めた。
ここでは、Si基板22は(100)シリコンウエハを使用した。しかしながら、面方位はこれに限定されるものではなく、(111)シリコンウエハその他の方位のシリコンウエハでもよく、さらにオフ面上での反応でもよい。また、単結晶Si基板上に絶縁膜を挟んで単結晶Si層が形成されたいわゆるシリコンオンインシュレータ(SOI)構造の基板でもよい。成膜後の結晶性の観点からは単結晶基板上で反応を行うことがより好ましいが、多結晶基板などを使用しても同等の反応が起こると考えられる。
酸化しやすい元素であるSiが反応に関与するため、反応雰囲気への酸素の混入を厳密に制御することが好ましい。そこで、反応装置20では、石英反応管27内のグラファイト製反応容器24の上部にTi粉末25を入れた別のグラファイト製容器26を配置し、反応雰囲気中を低酸素分圧になるように制御した。
Ti粉末はほぼ試料と同じ温度で保持されるが、例えば700℃の場合、(3)式による脱酸効果により、酸素分圧は2.0×10-48 atmに制御される。
Ti(s)+1/2O2(g)=TiO(s)
(3)
(3)
また、反応雰囲気への酸素の混入を厳密に制御するには、反応容器内も反応開始以前に真空排気するなどし、酸化性分子の水蒸気、二酸化炭素、酸素の除去を施した、アルゴン、ヘリウムガス、窒素、不活性ガスなどを雰囲気ガスとして用いることが望ましい。
本実施形態では、石英反応管27内を常温にて油回転ポンプより0.1Torrまで裏空排気した後に大気圧までアルゴンを流入する操作を3回繰り返した後、試料が所定温度に制御された均熱域に保持されるよう石英反応管27を電気炉21中に挿入した。なお、均熱域は石英反応管27を電気炉21中に挿入する前に、変化が2℃以内の範囲となる上下5cmの位置をあらかじめ探すことによって決定した。
ここで使用したアルゴンガスは、純度99.99%のものであり、石英反応管27内に流入する前に室温のシリカゲル、ソーダライム、過塩素酸マグネシウムならびに550℃に加熱されたグネシウムチップ中を流通させることで、水蒸気、二酸化炭素ならびに酸素の除去が行われた。
次に、石英反応管27を1時間保持した後に電気炉21外に取り出し、冷却した。その後、混合塩を溶解してSi基板を回収するため、グラファイト製容器26ごと純水中に投じた。
[反応生成層について]
上述の方法によって、Si基板表面には微弱な導電性を示す反応生成層が得られた。これはエピタキシャルβ-FeSi2相であることが、反応生成層表面のX線回折測定結果(図3)よって確かめられた。なお、この際の生成条件は、混合塩中FeCl2濃度5%、反応温度800℃、保持時間3hであった。
また、膜厚0.5μmのβ-FeSi2膜が形成されたことが、Si基体上に析出した層状の鉄シリサイド相のSEM観察像(図4)によって判明した。なお、この際の生成条件は、混合塩中FeCl2濃度10%、反応温度800℃、保持時間3hであった。
成膜条件を温度以外上記と同じくし、反応温度を800℃、900℃と変化させた場合、同1時間の反応により、膜厚がそれぞれ1μm、3μmのβ-FeSi2膜が形成された。
図5は、反応生成層表面のX線回折測定結果を示す図である。また、図6は、反応生成層表面の光学顕徹鏡図である。これらの測定サンプルはいずれも、混合塩中FeCl2濃度をO.1%、反応温度を800℃、保持時間を20時間として成膜し、得たものである。図5及び図6はいずれも、反応生成層表面がβ-FeSi2単相膜であることを示している。
また、溶融塩中FeCl2濃度及び反応温度のコントロールによって、膜成長速度を0.1〜10μm/minの間に任意に制御することができる点が確認された。
[FeCl2濃度の調整について]
適度な反応速度、適度な反応生成相を得るためには、混合塩中のFeCl2の濃度の調整が重要になる。FeCl2の濃度としては、例えば、NaCl-50%KClをマトリックスとして0.1%以上〜3%以下のFeCl2を添加した塩を使用する条件が挙げられる。この混合塩は共晶温度(融点)が645℃であるため、反応温度の最下点は同温度となる。
多くの条件下で薄膜生成を行ううちに、混合塩中のFeCl2の濃度を大きくすれば、反応系にはそれだけFe濃度が増すことになるため反応速度は高くなる一方、混合塩中のFeCl2濃度を小さくすれば、β-FeSi2以外の相と混ざり合う混相が形成されにくくなるという点に、多くの努力と試行錯誤の上に発明者は達した。
表1は、X線回折による測定結果(XRD)を、混合塩中のFeCl2の濃度を変えながら比較した結果を示す表である。
表では、左から順に、サンプルの名称、組成比、反応時間、X線回折による測定結果を示している。なお、この反応の際の反応温度は900℃であった。
また、図7は、試料の断面SEM像及びX線回折による測定結果を示す図である。反応時間は5時間であり、反応温度は900℃であった。
Fe−Si系化合物の反応層がXRD によって確認された。生成相は、溶融塩中のFeCl2濃度に依存する。混合塩中FeCl2濃度を0.04 at%以上5at%以下とした場合(例えば1 at%のとき)には、生成相はβ-FeSi2の割合が高い混相(β-FeSi2とFeSiとの多層膜)となるが、反応速度はやや小さいことが測定結果からわかる。また、混合塩中FeCl2濃度を0.03at%以下とした場合には、反応速度は小さいものの、β-FeSi2/Siヘテロ構造となるβ-FeSi2単相膜(β-FeSi2単層薄膜)が得られることが判明した。
また、これらの結果から、混合塩中FeCl2濃度を5at%より大きくした場合には、生成相のうちβ-FeSi2の割合はわずかであり、FeSi、Fe3Siなどの混相となるが、反応速度が大きくなること、混合塩中FeCl2濃度を0.02at%より小さくした場合には、反応速度が極端に小さくなってしまうことが予想される。
他にも様々な条件で反応を行った。
例えば、混合塩中FeCl2濃度を0.05at%とした場合には、11時間〜12時間程度でβ-FeSi2が成膜した。
また、図8は、溶融塩中FeCl2濃度0.03at%、反応温度900℃(1173K)、反応時間38時間にて作製した試料の断面SEM像である。この場合においても、上述の結果から予想されるとおり、β-FeSi2単相膜が得られた。
なお、図9は、実験前Siウェハと試料KN0.02F-5h900Cとの写真である。このように、反応の前後における外観の変化からも反応の進行が観察できる。
[反応時間について]
表2は、X線回折による測定結果(XRD)を、反応時間を変えながら比較した結果を示す表である。
この表でも、左から順に、サンプルの名称、組成比、反応時間、X線回折による測定結果を示している。なお、この反応の際の反応温度も900℃であった。
また、図10は、試料の断面SEM像及びX線回折による測定結果を示す図である。混合塩中FeCl2濃度は0.02 at%であり、反応温度は900℃であった。
これらの結果から、反応時間を変えても、反応によって形成される相は変化なく、β-FeSi2単相膜であることがわかる。また、β-FeSi2単相膜の膜厚は反応時間が長いほど大きくなることもわかる。
図11は、反応生成層の膜厚と反応時間との関係をプロットした図である。この際の混合塩中FeCl2濃度は0.02 at%であり、反応温度は900℃であった。この図から、膜厚が反応時間の1/2乗に比例する傾向が確認された。これによって、β-FeSi2中Si及びFeの拡散に律速される成長過程が推測される。なお、混合塩中FeCl2濃度は0.03 at%でも同様の傾向を示す結果が得られた。
[他の実施形態]
上述の実施形態の手法によって作成したβ-FeSi2をテンプレート(種結晶)として、この上にSiとFeを同時に照射する分子線エピタキシー法(MBE法)などにより、β-FeSi2を成長させることも考えられる。その反対に、他の方法で作成したβ-FeSi2をテンプレート(種結晶)として上述の実施形態の手法によってβ-FeSi2を得ることも考えられる。
上述の実施形態の手法によって作成したβ-FeSi2を不活性雰囲気中等にてアニールすることによってβ-FeSi2の結晶化をさらに促進させることもできる。
カーボンなどをドーパントとしてβ-FeSi2に添加して成膜することも考えられる。
Ge、Sn、Cなどの原子をSi原子と所定の割合で置換することによってβ-FeSi2の格子ひずみを導入することもできる。また、Si基板の面方位を変えβ-FeSi2に格子ひずみを導入することによって、β-FeSi2のバンドギャップを制御することも考えられる。
量子ドット、バルクの製法に本実施形態の手法を使用することもできる。
[応用について]
一般に、β-FeSi2は、バルク単結晶を用いた光吸収特性から、間接遷移型半導体であるとされている。しかし、上述の実施形態のようにSi基板上に成膜した場合、又はSi中に埋め込んだ場合には、低温で1.54μmで発光するとされている。この理由としては、Si基板などから受けるひずみによりβ-FeSi2が直接遷移型に移行するとの説が有力視されている。Si基板上に形成できる材料のうち電流注入によって15μm帯での室温発光を達成している材料は、SrドープSiとβ-FeSi室に限られる。1.5μm帯は、光ファイバーの損失の最も小さい領域に相当するため、この波長で発光するβ-FeSi2/Siは特に重要になる。
機能材料2005年10月号 Vol.25No.10 p54-p60
さらに、β-FeSi2/Siヘテロ構造は、β-FeSi2/Siの赤外光から可視光域の吸光特性より、太陽電池、発光・受光素子材料として注目されている。
これらの観点から、各種電子デバイスの形成、特に、シリコン集積回路の電気配線に代わる光インターコネクションの発光源、発光素子、受光素子、赤外発光デバイス、赤外受光デバイス、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD)、フォトダイオード(PD)、発光波長1.5μmの半導体発光素子などの光半導体装置用の基板などの形成への上述の実施形態の適用が考えられる。それらの構造としては、例えばSi/β-FeSi2/Siのようにダブルヘテロ構造とすることも考えられる。さらに、β-FeSi2膜を活牲領域としてSi-pn接舎で埋め込んだ発光索子とすることも考えられる。
光電変換素子用半導体材料、熱電変換素子用材料、廃熱利用発電機、冷却器、熱電変換素子、太陽電池材料、赤外光センサー、ヘテロ人工格子の半導体材料などの形成への適用も考えられる。
光通信デバイスの形成への適用も考えられる。特に、β-FeSi2の格子ひずみを精密に制御することによって、バンドギャップの変調が可能となり、上述の実施形態によるβ-FeSi2を使用すれば波長多重化光通信デバイスの実現が可能となる。
光に対するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)によって特定の波長の光を遮断することができる光の絶縁体であるフォトニック結晶、フォトニック結晶光回路の形成に適用することも考えられる。
近年、1枚の基板上に、トランジスタ、ダイオード、抵杭器等の回路素子を形成し、素子間をアルミニウム蒸着膜などの配線により結んだモノリシック集積回路が注目されている。この披術は、組み立て工数が少ないため、安価であること、大最生産に向き信頼性が高いことが長所である。近年の製造プロセスの進歩によって、アナログ・デジタル混在回路、小電力の制御回路一体形電源回路にもこの技術は用いられている。上述の実施形態では、Si界面と反応させβ-FeSi2を形成することができるため、モノリシックなSi基板上の多機能デバイスの形成に応用することが可能となる点からも上述の実施形態の方法は大きな価値と大きな可能性とを有している。
[その他]
上述の実施形態の方法では、Si基体上へFeが供給され、基体との界面におけるFeCl2濃度を介してFeポテンシャルを制御することによって界面反応でβ-FeSi2相がSi基体上に直接得られたと考えられる。
したがって、成長相自体がβ-FeSi2相であるため他相の混入を防ぎやすい点、基体Si上へのエピタキシャルβ-FeSi2相が得やすい点、結晶粒径の大きいβ-FeSi2相が得やすい点でも上述の実施形態の方法は優れている。結晶性の観点からは、β-FeSi2/Siヘテロ構造による優れた半導体特性を得やすいことにもつながる。一般のイオンドーピング法、Fe堆積法とは異なり、界面反応時にβ-FeSi2相が形成され熱処理工程を省くこともできるため、高速成膜技術においても秀でており、反応温度が比較的低温であり、反応物質も工業的に入手しやすいことから安価であり経済性においても優れている。
さらに、溶融塩中FeCl2濃度を変化させることによって、Si基体上に単相β-FeSi2膜を得ることもでき、一般の反応堆積法、イオン注入法などにおいて形成しやすいヘテロ界面のボイドなどの欠陥の発生を大きく防ぐこともできる。このようにして高品質のβ-FeSi2/Siヘテロ構造が容易に得られることは、各種デバイスへの応用において多くを期待できる点でも優れている。
特に、β-FeSi2/Siヘテロ構造は多くのデバイスに今後広く適用されることが予想されている。本実施形態の方法によってデバイスを作成すれば、各種電子デバイスの基板として汎用性の著しく高いSi基板上に光機能素子等を構築するというSiベース・オプトエレクトロニクスへのβ-FeSi2の適用が実現することにもなり、産業界には大きなインパクトをもたらすことにもなる。
また、本実施形態の方法は、シリコン基板ならびに安価な塩化物フラックスなどを用いる低温の反応であるため、高効率太陽電池セル化などのデバイス大量生産プロセスにも適しており、非常に期待度の高い手法である。
[権利解釈について]
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
20 反応装置
21 シリコニット電気炉
22 Si基板
23 溶融塩
24 反応容器
25 チタン粉末
26 グラファイト製容器
27 石英反応管
28 ムライト反応管
29 ガス導出口
31 ガス導入口
21 シリコニット電気炉
22 Si基板
23 溶融塩
24 反応容器
25 チタン粉末
26 グラファイト製容器
27 石英反応管
28 ムライト反応管
29 ガス導出口
31 ガス導入口
Claims (8)
- Fe元素を含有する溶融塩をSi基体と接触させることによってβ-FeSi2をSi基体上に形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法。
- 前記溶融塩はFeCl2を含むことを特徴とする請求項1に記載のβ-FeSi2形成方法。
- 前記溶融塩は希釈剤を含むことを特徴とする請求項2に記載のβ-FeSi2形成方法。
- 前記溶融塩中のFeCl2濃度は5at%以下であることを特徴とする請求項2に記載のβ-FeSi2形成方法。
- 前記溶融塩中のFeCl2濃度は0.03at%以下であることを特徴とする請求項2に記載のβ-FeSi2 形成方法。
- 前記溶融塩中のFeCl2濃度は0.02at%以上であることを特徴とする請求項2に記載のβ-FeSi2 形成方法。
- 下記(1)式で示される反応によってβ-FeSi2を形成することを特徴とするβ-FeSi2形成方法。
5Si+2 FeCl2=2β-FeSi2+SiCl4
(1) - 請求項1から7までのいずれかに記載のβ-FeSi2形成方法によって電子デバイスを作成することを特徴とする電子デバイス作成方法。
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