しかしながら、本発明者らが上記特許文献2に記載の従来の磁石について詳細に検討を行ったところ、このような磁石であっても、まだ磁力が不足しており、ステッピングモータに十分なトルクを付与するには改善の余地があることが見出された。
かかる磁力の不足を改善するためには、断面形状が三角形の溝を形成する手段が考えられる。しかし、かかる断面形状を有する溝を設けた円筒状磁石をステッピングモータに用いると、その機械的強度が十分ではないことが明らかになった。特に円筒状磁石の径が小さくなると、その筒壁が薄くなってしまうため、絶対的な機械的強度が不足してしまう。
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、ステッピングモータに十分なトルクを付与できる磁気特性を有しており、十分に優れた機械的強度を備えており、しかも、ステッピングモータを駆動した際に生じ得る振動及び異音を十分に抑制できる磁石、及びその磁石を備えたステッピングモータ用回転子を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、円筒状の磁石の全外周に沿って溝を設けた磁石の溝形状を特定の形状にすることで、その磁石が、ステッピングモータに十分なトルクを付与できる磁気特性を有し、小型化した場合であっても十分に優れた機械的強度を備えており、しかも、ステッピングモータを駆動した際に生じ得る振動及び異音を十分に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、円筒状の永久磁石の全外周に沿って溝を有する磁石であって、上記溝は、内周面と平行な底面又は内周側に向かって凸状の曲面を有し、かつ当該溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、その長さ方向に直交した断面が矩形である第1の仮想溝の壁面と、上記第1の仮想溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、その長さ方向に直交した断面が三角形である第2の仮想溝の壁面と、の間に壁面を有する、ステッピングモータの回転軸を取り付けて回転子を構成するために用いられる磁石を提供する。
本明細書において、溝の長さ方向に直交する「断面」とは、例えば、後で詳述する図2における点a、b、c及びdを結ぶ線で包囲される面をいう。図2において、溝の長さ方向に直交する「断面」は台形である。また、「内周面と平行な底面」は、完全に内周面と平行である必要はなく、実質的に平行であればよい。
さらには、「当該溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、その長さ方向に直交した断面が矩形である第1の仮想溝の壁面と、上記第1の仮想溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、かつ上記断面が三角形である第2の仮想溝の壁面と、の間に壁面を有する」溝とは、その壁面の一部が上述の各仮想溝の壁面と重複してもよいが、上述の仮想溝自体は含まない概念である。また、その溝は、第1の仮想溝よりも溝の幅方向外側に壁面を有せず、かつ第2の仮想溝よりも溝の幅方向内側に壁面を有しないものであると好ましい。
ステッピングモータは、回転軸とその回転軸に取り付けてなる磁石とを備える回転子と、その回転子の外周側に装備されている固定子との間の磁気作用を利用して回転する。したがって、ステッピングモータに用いる円筒状の永久磁石の性能は、その内周側の磁力よりも外周側の磁力に依存する。
本発明によると、磁石の外周側の磁界に注目した場合、全外周に沿って形成された溝が磁石の外周面を長さ方向に磁気的に分割している(以下、これを「磁気的な分割効果」という。)。すなわち、上記溝を形成することにより、そこに空間が生じるため、磁石の外周側に限ると、スペーサを狭持して配置された複数の円筒状磁石とほぼ同様の磁気特性を示すことができる。また、複数の永久磁石を樹脂等の磁気的に絶縁なスペーサにより連結する場合と異なり、溝の底部には磁石が形成されているため、その部分の磁石からも磁束が発生している。
更に、同じ寸法の開口幅及び深さを有し、溝の長さ方向に直交した断面(以下、「直交断面」という。)が矩形(正方形及又は長方形)である溝を有する磁石と比較すると、本発明の磁石が有する溝の断面積は小さくなっている。すなわち、本発明の磁石は、矩形断面の溝を有する磁石における溝の一部に永久磁石が一体不可分に充填された状態となっている。したがって、本発明の磁石は、この充填された永久磁石の分だけ、矩形断面の溝を有する磁石よりも磁力が強くなっている。
また、ステッピングモータの回転子に取り付けられる磁石(以下、「ステッピングモータ用磁石」という。)の性能は、その内周側の磁力よりも外周側の磁気特性に依存すると考えられる。それに加えて、磁石を回転子に組み込んだ際、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを出現させれば、ステッピングモータのトルクが向上する。さらには、溝を設けたステッピングモータ用磁石では、溝の最深部が深くなる程、磁気的な分割効果を有効に奏することができる。
以上のことをかんがみて、同じ寸法の開口幅及び深さを有し、直交断面が三角形である溝を有する磁石(例えば、図10に示す磁石1)と比較すると、本発明の磁石は、磁石の溝の開口部からある程度の深さまでは、溝の開口幅と同程度又はそれに近い幅の、溝による空間を確保している。特に、溝がその直交断面において、溝の幅方向の両側に向かって凸状となるような壁面を有していると、溝による開口部付近の空間を更に確保できる。これにより、本発明の磁石は、ステッピングモータの回転子に組み込まれた際、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを出現させることが可能となり、ステッピングモータのトルクを向上させることができる。一方で、本発明の磁石は、溝の最深部が、直交断面が三角形である溝を有する磁石と同程度の深さを有しているので、磁気的な分割効果をも十分に奏することができる。
また、図10に示す、溝5の直交断面が三角形である磁石1では、外部からの応力が溝5の最深部8に集中しやすいため、ステッピングモータの駆動中に、磁石が、その最深部8を起点として、容易に変形したり破損したりする。かかる変形や破損は、上述の円周方向の位置ずれ及びそれに伴う磁区の位置ずれを引き起こす。また、ステッピングモータの小型化に伴い、固定子及び回転子間の間隔が一層狭くなるため、回転子に備えられた磁石の変形が大きくなると、回転子が固定子に接触する場合もある。また、磁石の破損により磁石切片が発生する場合もある。したがって、磁石の変形及び破損は、ステッピングモータの振動及び異音の原因となるだけでなく、ステッピングモータの破壊にも繋がるため好ましくない。
ここで、矩形断面の溝を有する磁石に本発明の磁石と同等の磁力を付与するため、その磁石における溝の開口幅を本発明の磁石におけるものよりも狭くしたり、あるいは、深さを本発明の磁石におけるものよりも浅くしたりする手段が考えられる。しかしながら、溝の開口幅を狭くすると、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを出現させることが困難になると共に、その溝による磁気的な分割効果が不十分となり、トルクの低下に繋がる。また、溝の開口幅を狭くすると、磁気的な分割効果を確保するために、溝を深くする必要がある。しかし、溝を深くすると、その最深部で磁石の筒壁の厚さが薄くなりすぎ、必要な機械的強度を維持し難くなる。一方で、必要な機械強度を確保するために筒壁の厚さを厚くすると、磁石の寸法が大きくなり、小型化の要求に反する。また、磁気的な分割効果は、溝の特に最深部が深くなる程優れる傾向にあるため、矩形断面の溝を浅くしても、トルクが低下することになる。
本発明の磁石は、上述のことから明らかなように、十分に高い磁力を有すると共に、その溝が磁気的な分割効果を十分発揮できる程度の開口幅及び深さを併有することができる。したがって本発明の磁石は、ステッピングモータに十分なトルクを付与することが可能となる。
本発明の磁石は、その溝が内周面と平行な底面又は内周側に向かって凸状の曲面を有することにより、機械的強度を十分なものとすることが可能となる。溝の直交断面が矩形である磁石よりも強い磁力を有する磁石として、例えば図10に示す断面を有するような磁石1が考えられる。しかしながら、このような磁石1は、溝5の最深部8を浅くすると、溝5によって磁束密度のピークを適切な位置に出現させることが困難になると共に、磁気的な分割効果が不十分となる。また、溝5の最深部8を深くすると、その最深部8で磁石1の筒壁の厚さが薄くなりすぎ、必要な機械的強度を維持し難くなる。一方で、必要な機械的強度を確保するために筒壁の厚さを厚くすると、磁石1の寸法が大きくなり、小型化の要求に反する。
さらには、このような磁石1では、外部からの応力が溝5の最深部8に集中しやすいため、ステッピングモータの駆動中に、磁石が、その最深部8を起点として、容易に変形したり破損したりする。かかる変形や破損は、上述の円周方向の位置ずれ及び磁区の位置ずれを引き起こす。また、ステッピングモータの小型化に伴い、固定子及び回転子間の間隔が一層狭くなるため、回転子に備えられた磁石の変形が大きくなると、回転子が固定子に接触する場合もある。また、磁石の破損により磁石切片が発生する場合もある。したがって、磁石の変形及び破損は、ステッピングモータの振動及び異音の原因となるだけでなく、ステッピングモータの破壊にも繋がるため好ましくない。
一方、本発明の上記の磁石は、その溝が内周面と平行な底面を有すると、外部からの応力がその底面の全体に亘って分散される。また、溝が内周側に向かって凸状の曲面を有すると、外部からの応力がその曲面全体に亘って分散される。これにより、本発明の磁石は、外部からの応力が溝の一部分に集中し難くなり、ステッピングモータの破壊や、振動及び異音を十分に抑制することができる。
また、本発明の磁石は、一つの磁石として一体不可分に形成されているため、複数の永久磁石を用いた場合のような円周方向の位置ずれ及びそれに伴う磁区の位置ずれが極めて発生し難い。したがって、そのような位置ずれに起因するステッピングモータの振動及び異音は十分に抑制される。
また、本発明によると、樹脂製等の非磁性のスペーサを設ける必要がなく、さらには磁石の形状を複雑にする必要もないため、この磁石を備えた回転子を製造するのは十分に容易である。これにより、磁石及びそれを備えた回転子、並びにその回転子を装備したステッピングモータの量産性が十分に向上する。
さらには、磁石の形状を複雑にする必要がなく成形時の金型構造を単純にすることができ、しかも非磁性の樹脂部を設ける必要もないため、磁気特性を高く維持しつつ、磁石の更なる小型化にも十分対応可能となる。
本発明の磁石は、外径が1mm〜20mmであると好ましい。これにより、溝を上述の直交断面形状で設けた場合の、磁気特性の向上効果が更に顕著に発揮される。その要因は下記のとおりと考えられるが、これに限定されない。すなわち、磁石の外径が上記数値範囲まで小さくなると、必然的に体積が小さくなるため、磁気特性は低下する。その結果、ステッピングモータ等の応用製品が磁石に対して要求する磁気特性レベルと、磁石を製造する際に品質を安定させるために必要な磁気特性レベルとの間にほとんど差異がなくなる。このことは応用製品が磁石に対して要求する磁気特性レベルを、安定的に確保し難くなることを意味する。そこで、磁石製造の際の余裕度を確保するため、磁石の単位体積当たりの磁気特性を向上させることが必要となる。本発明は、磁石の外径が上記数値範囲内であっても、磁気特性が十分に高くなっているため、応用製品が磁石に対して要求する磁気特性レベルを、安定的に確保することができる。かかる効果は、磁石の外径等のサイズが小さくなればなるほど顕著になる。
また、外径が20mm以下になる小型の磁石に対して、切削により矩形の直交断面形状を有する溝を形成しようとすると、大型の磁石と比較して筒壁が薄くなる傾向にある一方で、開口幅と同寸法の底面を形成する必要があるために、その工程の際に磁石が割れやすくなる。ところが、本発明の磁石は、溝の直交断面形状が上述のとおりであり、溝の幅は溝が深くなるに従って狭くなる。これは、外径が上記数値範囲内にあるような小さなサイズの磁石に対して、安定に歩留まり良く切削による溝加工を施すことができ、かつ応用製品に搭載した後も割れ難いような機械的強度の比較的大きな磁石を検討した結果、見出された溝形状である。これにより、磁気特性及び機械的強度の両方をバランスよく有する、良好な磁石を歩留まり良く安定に製造できる。そして、たとえ外径が20mm以下の小型の磁石を作製する場合に、溝を切削により加工しても、磁石の割れを十分に防止することが可能となる。
本発明の磁石において、溝が永久磁石の筒長さに対して10〜33%の開口幅を有すると好ましい。溝の開口幅が上記下限値を下回ると、溝を形成したことによる磁気的な分割効果が小さくなる傾向にある。また、溝加工又は金型製作が困難となる傾向にある。溝の開口幅が上記上限値を超えると、溝により分割される外周面間の間隔が過剰に大きくなるため、磁石の磁気特性が低下する傾向にある。
本発明の磁石において、溝が永久磁石の筒壁の厚さに対して10〜50%の深さを有すると好ましい。溝の深さが上記下限値を下回ると、溝を有することによる磁気的な分割効果が小さくなる傾向にあり、上記上限値を超えると、磁石の機械的強度が低下する傾向にあるため、磁石の変形や破損が生じやすくなる。
本発明の磁石において、永久磁石は圧縮成形により得られるものであり、溝は永久磁石をその外周側から全外周に沿って切削することにより形成されるものであると好ましい。
磁石の成形時に金型を用いて溝を形成する場合、円筒状磁石を縦割りにした形状になるような金型を準備する必要がある。これは、その長さ方向に対し直交する磁石の頂面及び/又は底面から加圧するような金型を製作すると、磁石成形の後、成形体を金型から離型しようとしても、溝で引っ掛かり離型できなくなるためである。
圧縮成形により磁石を作製する場合、縦割りの金型を用いると、外周側から加圧することになるので、外周面が歪んで円筒状になり難く、また合わせ目でバリが発生しやすいため、所望の形状を有する磁石を得るのが困難となる。外周面が歪んだりバリが発生したりした磁石を所望の形状にするには後加工が必要となるが、外周面全体の加工となるため、溝加工よりも複雑となる。また、外周側から加圧すると、溝の深さを全周に亘って一定にするのが困難となるので、磁石の磁気特性が全周に亘って一定とはならないことも危惧される。射出成形の場合も同様にバリが発生しやすくなるため、所望の形状を有する磁石を得るのが困難となり、上述と同様の後加工が必要となる。一方、溝を切削により形成すると、これらの不具合を十分に防止することができる。
また、溝を形成する工程よりも前に、圧縮成形により成形体を形成する工程を更に有すると、圧縮成形は射出成形法や押出成形法等の他の成形法に比べて磁性粉末材料の充填密度を高くすることができるので、より高い磁気特性を得ることができる。また、他の成形法に比べて狭い空間に充填するのに適しているため、磁石の更なる小型化が可能となる。
ただし、圧縮成形の後に、直交断面形状が矩形である溝を切削により形成しようとすると、開口幅と同寸法の底面を形成する必要があるために、その工程の際に磁石が割れやすくなる。特に、磁石の径が小さくなると、より高レベルの加工精度が求められると共に、筒壁も薄くなる傾向にあるため、その傾向が顕著になる。ところが、本発明の磁石は、溝の直交断面形状が上述のとおりであり、溝の幅は溝が深くなるに従って狭くなる。これは、小さなサイズの磁石を切削して溝を設ける際に、安定に歩留まり良く行うことができ、かつ応用製品に搭載した後も割れ難いような機械的強度の比較的大きな磁石を検討した結果、見出された溝形状である。これにより、磁気特性及び機械的強度の両方をバランスよく有する、良好な磁石を歩留まり良く安定に製造できる。そして、たとえ外径が20mm以下の小型の磁石を作製する場合に、溝を切削により加工しても、磁石の割れを十分に防止することが可能となる。
本発明は、回転軸とその回転軸に取り付けてなる上述の磁石とを備えるステッピングモータ用回転子を提供する。この回転子を所定位置に装備したステッピングモータは、回転子に装備した本発明に係る磁石が外周面を溝により分割されており、しかも複数の円筒状磁石を配設した場合や、溝の直交断面形状が矩形である場合と比較して高い磁力を有しているため、それらの磁石よりも大きなトルクを得ることができる。また、分割された外周面は、磁石そのものが破断されない限り互いの相対位置がずれないため、異音や振動が十分に抑制される他、ステッピングモータの回転角精度が十分に高くなり、モータの動作中における精度の低下も十分に抑制される。
さらには、回転子の製造時に従来のようなスペーサを設けたり磁石の形状を複雑にしたりする必要はないため、ステッピングモータの量産性が十分に向上する。また、スペーサの省略及び磁石形状の単純化は、ステッピングモータの小型化及び機械的強度の向上を更に高いレベルで達成可能にする。
本発明によれば、ステッピングモータに十分なトルクを付与できる磁気特性を有しており、しかも、ステッピングモータを駆動した際に生じ得る振動及び異音を十分に抑制できる磁石を提供することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、磁石、溝部の形状、極数又は位置関係等は説明のため便宜的に記載されているものであり、本発明の本質を損なわなければ限定されるものではない。
図1は本発明の好適な第1の実施形態に係る磁石の模式斜視図であり、図2及び3はその磁石のA−A線断面図である。また図4及び5は磁石100の磁化の状態を示すための図であり、図4が立面図、図5が平面図である。
この磁石100は、円筒状の永久磁石における筒壁110の全外周面に沿って、溝180が形成されてなるものである。溝180は、その円筒状の永久磁石の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられており、内周面と平行な底面を有し、かつ直交断面の形状が台形になっている。すなわち磁石100は、第1の円筒部120と、円筒部120と同軸でありかつ同じ径を有する第2の円筒部140と、第1の円筒部120と同軸であり第1の円筒部120よりも小さな径を有する第3の円筒部160と、第1の円筒部120の下端と第3の円筒部160の上端とを一体不可分に連結する第1のテーパ部150と、第2の円筒部140の上端と第3の円筒部160の下端とを一体不可分に連結する第2のテーパ部170と、から構成される。また、磁石100は、その内部に、頂面122から底面166へと貫通した筒状の中空部130を有している。
磁石100は、その外周側の磁界に注目した場合、全外周に沿って形成された溝180が、第1の円筒部120及び第2の円筒部140の外周面を、長さ方向に互いに分割している。すなわち、溝180を形成することにより、そこに空間が生じるため、磁石100の外周側において、スペーサを狭持して配置された複数の筒状磁石とほぼ同様の磁気特性を示すことができる。また、複数の永久磁石を樹脂等の非磁性のスペーサにより連結する場合と異なり、第3の円筒部160(溝部底面)からも磁束が発生している。
磁石100は、図3に壁面の直交断面を破線Bで示した矩形の溝を有する場合と比較すると、網目で示した部分の磁石に起因して、一層強い磁力を有する。
ステッピングモータの回転子に備えられる磁石の性能は、その内周側の磁力よりも外周側の磁力に依存する。その結果、溝の開口幅を狭くし、その開口部付近の溝の空間容積を小さくすると、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを出現させることが困難になると共に、その溝による磁気的な分割効果が不十分となり、トルクの低下に繋がる。ところが、磁石100における溝180の開口幅は、矩形の溝Bを有する場合と同じ寸法であり、開口部付近の溝の空間容積をある程度確保しているため、同様に優れた磁気的な分割効果を示す。
また、磁石100は、図3に壁面の直交断面を二点鎖線Cで示した三角形の溝を有する場合と比較すると、開口部付近における溝空間の容積が大きくなるため、ステッピングモータに用いた際に、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを容易に出現させることができる。更に、その溝180の最深部深さは三角形の溝を有する場合と同等であり、磁気的な分割効果も十分に確保できる。
磁石100は、上述の要因、すなわち、十分に高い磁力を有し、固定子の極の長さ方向中央付近に、対応する磁束密度のピークを出現させることができ、しかも磁気的な分割効果を十分に発揮することが可能であるため、ステッピングモータの回転子に装備されると、モータに対し大きなトルクを付与することができる。
また、磁石100は、一つの磁石として一体不可分に形成されているため、複数の永久磁石を用いた場合のような円周方向の位置ずれ及びそれに伴う磁区の位置ずれが極めて発生し難い。その結果、そのような位置ずれに起因するステッピングモータの振動及び異音は十分に抑制される。
なお、溝180は、図3から明らかなように、その溝180と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、その直交断面が矩形である第1の仮想溝の壁面(破線Bで直交断面を示した壁面)と、第1の仮想溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、直交断面が三角形である第2の仮想溝の壁面(二点鎖線Cで直交断面を示した壁面)との間に壁面を有している。また、溝180は、その幅が、開口部から底面に向けて、開口幅と同じか単調減少している。
磁石100は、溝180が台形の直交断面形状を有しているため、その最深部に内周面と平行な底面を有している。そのため、ステッピングモータの駆動などに際し、磁石100に加わる外部応力は、溝がその最深部に単独の稜を有する場合(例えば図10に示す磁石1の場合)と比較して分散される。その結果、磁石100は、その外部応力に起因する、ステッピングモータの破壊や振動及び異音を更に十分に抑制することができる。
さらには、磁石100を用いることで、従来のようなスペーサを設ける必要がなく、さらには磁石100の形状は明らかに単純なものであるため、この磁石100を備えた回転子を製造するのは十分に容易である。したがって、磁石100及びそれを備えた回転子、並びにその回転子を装備したステッピングモータの量産性が十分に向上する。
また、磁石の形状を複雑にする必要がなく成形時の金型構造を単純にすることができ、しかも非磁性の樹脂部を設ける必要もないため、磁気特性を高く維持しつつ、磁石の更なる小型化にも十分対応可能となる。
さらには、磁石100は、円筒状の永久磁石の全外周に沿って溝180が形成されており、溝180が、上記円筒状の永久磁石の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられている。これらにより、ステッピングモータに磁石100を用いる場合、その円周方向、すなわちステッピングモータの回転方向の磁気特性に偏りが生じ難くなるので、ステッピングモータとしての動作精度が更に向上することとなる。
磁石100は、第1の円筒部120及び第2の円筒部140の筒長さが等しくなっており、磁石100において、溝180が長さ方向の中央に設けられている。すなわち、図3に示すように、第1の円筒部120の筒長さをL1とし、第2の円筒部140の筒長さをL2とした場合に、L1=L2となっている。こうすることで、同じ寸法の筒長さを有する二つの円筒状永久磁石を長さ方向に設けた場合と同様の効果が得られる。その結果、同じ長さの2つの円筒状磁石を用いたのと同様に、溝を挟んだ両側の部分で同様の磁気特性を示すこととなる。よって、この磁石100をステッピングモータに用いた場合はその両側の部分で同じ挙動を示すことになる。ただし、例えば内周面や底面に切り欠き等を加えて各部の体積に差を生じさせることにより、1/1の比に分割されていても各部の磁気特性を互いに変えることができる。
また、図4及び5に示すように、磁石100は外周側から多極着磁されており、より具体的には10極着磁されている。着磁方法は公知の円筒状磁石で行われる場合と同様の方法を採用することができる。図4では第3の円筒部160、第1のテーパ部150及び第2のテーパ部170にも着磁されているが、外周側から着磁されているため、その磁力は第1の円筒部120及び第2の円筒部140よりも小さくなっている。しかしながら、大きな磁力を有する第1の円筒部120及び第2の円筒部140のみでなく、第3の円筒部160、第1のテーパ部150及び第2のテーパ部170もある程度磁力を有しているため、磁石100をステッピングモータに用いた場合には、十分に大きなトルクを得ることができる。
なお、本実施形態では10極の磁区を設けたが、48極以下であると好ましく、24極以下であるとより好ましい。48極を超えると着磁が困難となり、着磁された磁石を得難くなる。
磁石100の各寸法の比は、図3を参照して、磁石100の筒長さをL、外径をDo、内径をDi、第1の円筒部120の筒長さをL1、第2の円筒部140の筒長さをL2、磁石100の筒壁の厚さをT、溝180の開口幅をWg、深さをDgとすると、以下の数値範囲が好ましい。なお、溝180の深さDgは最も深い部分の深さを意味する。
L1/L2は1/2〜1/1であると好ましい。ただし、L1≦L2とする。こうすることで、円筒状磁石を長さ方向に二つ設けた場合と同様の効果が得られる。また、Dg/Tは10%〜50%であると好ましい。Dg/Tが10%未満であると、溝180を設けたことによる磁気的な分割効果が小さくなる傾向にあり、50%を超えると磁石100の機械的強度が低下し、ステッピングモータに用いた際に、異音や振動を引き起こしやすくなる傾向にある。
さらには、Wg/Lは10%〜33%であると好ましい。Wg/Lが10%未満であると、磁束密度のピークを固定子の極の長さ方向中央付近に出現させ難くなると共に、溝180を形成したことによる磁気的な分割効果が小さくなる傾向にあり、磁石100への溝加工又は磁石100の金型製作が困難となる傾向にある。Wg/Lが33%を超えると、溝180により分割される第1の円筒部120及び第2の円筒部140間の間隔が過剰に大きくなるため、磁石100の磁気特性が低下する傾向にあり、小型化が困難となる。また、磁束密度のピークが固定子の極長さ方向の中央付近に出現し難くなる。
外径Doは1mm〜20mmであると好ましく、1mm〜10mmであるとより好ましく、2mm〜6mmであると更に好ましい。外径Doが1mmを下回ると着磁が困難となる傾向にある。外径Doが20mmを超えると溝部を設けることによる本発明特有の効果が得られ難くなる。すなわち、溝180の直交断面が台形である場合の、磁気特性の向上効果が更に顕著に発揮される。その要因は下記のとおりと考えられるが、これに限定されない。すなわち、磁石100の外径Doが上記数値範囲まで小さくなると、必然的に体積が小さくなるため、磁気特性は低下する。その結果、ステッピングモータ等の応用製品が磁石100に対して要求する磁気特性レベルと、磁石100を製造する際に品質を安定させるために必要な磁気特性レベルとの間にほとんど差異がなくなる。このことは応用製品が磁石100に対して要求する磁気特性レベルを、安定的に確保し難くなることを意味する。そこで、磁石100の製造の際における余裕度を確保するため、磁石100の単位体積当たりの磁気特性を向上させることが必要となる。本実施形態では、磁石100の外径Doが上記数値範囲内であっても、磁気特性が十分に高くなっているため、応用製品が磁石100に対して要求する磁気特性レベルを、安定的に確保することができる。かかる効果は、磁石100の外径Do等のサイズが小さくなればなるほど顕著になる。
また、外径が20mm以下になる小型の磁石に対して、切削により矩形の直交断面形状を有する溝を形成しようとすると、大型の磁石と比較して筒壁が薄くなる傾向にある一方で、開口幅と同寸法の底面を形成する必要があるために、その工程の際に磁石が割れやすくなる。ところが、この磁石100は、溝180の直交断面形状が台形であり、溝180の幅は溝が深くなるに従って狭くなる。これは、外径Doが上記数値範囲内にあるような小さなサイズの磁石への切削による溝加工を、安定に歩留まり良く行うことができ、かつ応用製品に搭載した後も割れ難いような機械的強度の比較的大きな磁石を検討した結果、見出された溝形状である。これにより、磁気特性及び機械的強度の両方をバランスよく有した、良好な磁石を歩留まり良く安定に製造できる。そして、たとえ外径Doが20mm以下の小型の磁石100を作製する場合に、溝180を切削により加工しても、磁石100の割れを十分に防止することが可能となる。
内径Diは当然に外径Doよりも小さい値となるが、16mm以下であると好ましく、6mm以下であるとより好ましく、2mm以下であると更に好ましい。内径Diが16mmを超えると、筒壁の厚さTが小さくなるため磁石100が割れやすくなる傾向にある。
以上説明した本実施形態の磁石は、溝180の直交断面形状が台形である。そのため、直交断面形状が矩形である溝を設けたものと比較すると、十分に高い磁気特性と十分に高い磁気的分割効果とをバランスよく兼ね備えた磁石である。したがって、ステッピングモータ用の磁石として好適であり、特に小型のステッピングモータに備えられる磁石として用いられると、その磁気特性を極めて有効に発揮できる。また、直交断面形状が三角形である溝を設けたものと比較すると、溝が最深部に単独の稜を有しないことにより、この磁石は十分に優れた機械的強度をも備えている。よって、本実施形態の磁石は、間欠的な動作を頻繁に繰り返すステッピングモータに用いる磁石として、磁気特性の観点からも、機械的強度の観点からも、バランスの取れた非常に好適なものといえる。特に小型のステッピングモータの場合は、そこに備える磁石の筒壁を薄くせざるを得ないため、本実施形態の磁石を採用すると極めて効果的である。
次に本発明の磁石の製造方法の好適な実施形態を説明する。なお、本実施形態では磁石が磁性粉末材料をプラスチックなどのバインダーにより固化成形して得られるボンド磁石である場合について説明する。ボンド磁石は焼結磁石よりも寸法精度が高いため、回転子の回転軸を容易に挿通することができ、しかもその状態で回転軸を強固に保持可能となるので好ましい。また、ボンド磁石は焼結磁石よりも可とう性が高く、脆性が低いため外部から応力を加えられても破損し難い。
まず、原材料である磁性粉末材料及びバインダーを準備する。磁性粉末材料は、優れた磁気特性を有する磁石を得る観点から、少なくともNd、Fe及びBを含有する磁性粉末を含むものが好ましい。磁性粉末材料の平均粒径は、10μm〜500μm程度であると好ましい。平均粒径をこのような数値範囲に調整することにより、成形の際の金型への充填性が向上する。
後述するように、磁石100を圧縮成形を経て形成する場合、磁性粉末材料の、原材料中の含有割合は、90質量%〜99.5質量%であると好ましく、95質量%〜99.5質量%であるとより好ましい。磁性粉末材料の含有割合が、90質量%未満であると、磁気特性が低下する傾向にあり、特に外径が20mm以下の磁石ではその傾向が顕著になる。よって、ステッピングモータ用の磁石として十分な磁気特性が得られなくなる傾向にある。また、磁性粉末材料の含有割合が99.5質量%を超えると、成形体の機械的強度が低下し、加工時の割れの原因となったり、磁石の使用中に割れや欠けが発生しやすくなったりする傾向にある。
バインダーは、ボンド磁石に通常用いられているエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよいが、磁性粉と混合し、成形、固化できるものであれば特に限定されない。
原材料は混合及び混練の後、成形を施される。混合及び混練方法としては、ボンド磁石を製造するために用いられる常法であれば特に限定されない。
混練により得られた混練物は、圧縮成形により、図1に示すうち溝部180が形成されていない所定形状の成形体となる。より具体的には、まず混練物を所定形状の金型内に充填し、圧力を加えて成形体を得る。圧縮成形には、機械プレスや油圧プレス等の圧縮成形機を用いることができる。
好適な圧縮成形圧力及び温度は、バインダーとして樹脂を用いる場合、その樹脂の種類により異なるが、一般的には圧力が500MPa〜2000MPaであると好ましい。圧縮成形圧力が500MPa未満となると、成形体が一定の形状を維持できない傾向にある。また、2000MPaよりも大きくなると、金型が破損する可能性が大きくなる。
なお、成形の際にバインダーを部分的に固化させてもよい。
成形体は金型から取り出された後、所定の処理により固化し、所定形状のものが得られる。例えばバインダーとして熱硬化性樹脂を用いた場合は、成形体は加熱処理により熱硬化し、所定形状の磁石素体が得られる。この場合の加熱方法は、通常の熱硬化性樹脂を原材料とするボンド磁石の加熱方法であれば特に限定されず、例えば、一般的な加熱炉又は真空乾燥炉に成形体を収容して加熱する方法などが挙げられる。加熱温度及び時間は熱硬化性樹脂が十分に硬化する温度及び時間であれば特に限定されない。
固化により得られた磁石素体は、その外周面に溝加工を施される。溝加工方法は特に限定されないが、図6に示すように回転台座75に磁石素体71を載置し、バイト782を横から当てて溝部を形成してもよいし、あるいは旋盤を用いて溝加工を施してもよい。
溝加工を施された磁石は必要に応じて表面に保護膜を形成されてもよい。特にNd、Fe及びBを含有する磁性粉末材料を用いたNd−Fe−B系の希土類磁石は酸化されやすいので、保護膜は磁石素体を外気等から保護し、耐食性を確保するために重要である。保護膜として具体的には、金属被膜、樹脂被膜、無機酸化物被膜等が例示される。金属被膜は、めっき法、あるいはイオンプレーティング等の気相法にて形成できる。また、樹脂被膜は、樹脂溶液を磁石素体の表面に塗布して乾燥又は加熱して形成できる。無機酸化物被膜は、スパッタ法、蒸着法等のいわゆる気相法により形成可能である。
次いで、必要に応じて保護膜を形成した円筒状の磁石素体を、その外周側から多極着磁して図1に示すような磁石を得る。着磁には従来の円筒形磁石を着磁する方法を用いればよい。
この実施形態の磁石の製造方法によると、圧縮成形により円筒状の磁石素体を得た後、切削により溝を形成する。例えば、溝の直交断面形状が矩形である磁石をこの製造方法により形成すると、開口幅と同寸法の底面を形成する必要があるために、溝の切削工程の際に磁石が割れやすくなる。特に、磁石の径が小さくなると、より高レベルの加工精度が求められると共に、筒壁も薄くなる傾向にあるため、その傾向が顕著になる。したがって、小型の円筒状磁石で矩形の溝を有するものを圧縮成形により作成することは極めて困難である。
ところが、本実施形態の磁石は、溝の直交断面形状が台形であり、溝の幅は溝が深くなるに従って狭くなる。したがって、たとえ外径が20mm以下の小型の磁石を作製する場合に、溝を切削により加工しても、磁石の割れを十分に防止することが可能となる。
次に本発明のステッピングモータ用回転子について好適な実施形態を図7を参照しながら説明する。本実施形態のステッピングモータ用回転子800は、回転軸810とその回転軸810に取り付けてなる上述の磁石100とを備えるものである。回転軸810は、通常のステッピングモータに備えているものを特に限定なく用いることができる。
本実施形態のステッピングモータ用回転子800を用いると、磁石100が外周面を溝180により分割された状態になっているため、複数の円筒状磁石を配設した場合とほぼ同様の大きなトルクを得ることができる。また、分割された第1の円筒部120の外周面及び第2の円筒部160の外周面は、磁石そのものが破断されない限り互いの相対位置がずれないため、ステッピングモータの回転角精度が十分に高くなり、モータの動作中における精度の低下も生じ難くなる。
また、溝180の直交断面の形状が台形であるため、十分な磁力を有すると共に、固定子の極の長さ方向中央付近に対応する磁束密度のピークを出現させることが可能となり、さらには磁気的な分割効果をも十分に奏することができるため、ステッピングモータに十分なトルクを付与することができる。
さらには、回転子800の製造時に従来のようなスペーサを設けたり磁石の形状を複雑にしたりする必要はないため、ステッピングモータの量産性が十分に向上する。また、スペーサの省略及び磁石形状の単純化は、ステッピングモータの小型化及び機械的強度の向上を更に高いレベルで達成可能にする。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、磁石の溝の直交断面形状は、台形に限定されず、例えば図9の(a)〜(f)に示した形状であってもよい。これらの溝はいずれも、当該溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、その長さ方向に直交した断面が矩形である第1の仮想溝の壁面と、第1の仮想溝と同じ寸法の開口幅及び深さを有し、かつ断面が三角形である第2の仮想溝の壁面との間に壁面を有するものである。なお、図9は、円筒状の永久磁石の全外周に沿って所定形状の溝を有する磁石の図2と同様に示した断面図であり、(a)は溝の直交断面の形状が半円又は半楕円、(c)は溝の直交断面の形状が六角形になっている。
図9に示した磁石のうち、溝が内周面と平行な底面を有しているのは(c)、(e)及び(f)の磁石であり、溝が内周側に向かって凸状の曲面を有しているのは、(a)、(b)及び(d)の磁石である。これらの磁石及び図1〜5に示した溝の直交断面形状が台形である磁石の中では、溝の直交断面形状が台形である磁石が特に好ましい。溝の直交断面形状が台形である磁石は、加工性に優れており、再現性も良好であるため、安定した磁気特性を有する磁石を量産しやすいという利点がある。また、溝の直交断面形状を台形とすることで、更に十分に磁石の機械的強度を高めることができ、しかも磁気特性の更なる向上も認められる。
また、例えば図1又は図2において示した頂面122及び底面166は、必ずしも外周面に直交する平面である必要はなく、段差を有していたり、曲面であったり、外周面に対して斜めの平面であってもよい。
磁石100は図4に示すように、溝部180を挟んで上側の部分と下側の部分との磁区の配置が長さ方向に一致していたが、必ずしも一致している必要ななく、円周方向にずれていてもよい。また、磁区の配列方向が長さ方向に直交する必要はなく、そこから傾いてもよい。
磁性粉末材料は、Nd以外の希土類元素(R)、Fe以外の遷移元素(T)及びホウ素(B)を含む、いわゆるR−T−B系の磁性粉末材料以外の磁性粉末材料であってもよく、例えば、Sm−Co、Sm−Fe−N、Al−Ni−Co、Srフェライト等の酸化物磁石材料などを磁性粉末材料として用いてもよい。
また、バインダーとして熱可塑性樹脂を用いてもよい。
本発明の別の実施形態において、ボンド磁石に代えて焼結磁石を用いてもよい。
本発明の磁石の製造方法に係る別の実施形態において、成形の際に磁場を印加しながら成形してもよい。その場合、成形後に脱磁を行う。また、切削工程を省略して、成形工程の際に溝を形成可能な金型を用いて成形してもよい。さらには、成形工程における成形方法を、圧縮成形に代えて押出成形又は射出成形にしてもよい。成形方法として射出成形を採用する場合、磁性粉末材料の、原材料中の含有割合は、80質量%〜95質量%であると好ましい。磁性粉末材料の含有割合が、80質量%未満であると、磁気特性の低下が著しくなり、特に外径が20mm以下の小型の磁石は、ステッピングモータ用として必要とされる磁気特性が得られ難くなる傾向にある。また、磁性粉末材料の含有割合が、95質量%を超えると、成形の際に樹脂が流れ難くなり、金型全体にわたって原材料を均一に充填できなくなる傾向にある。この傾向は特に微少な表面起伏を有する小型磁石において顕著になる。
さらには、上記好適な実施形態において、磁石は保護膜を備えるものであるが、必ずしも保護膜を備える必要はない。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、磁性粉末材料として等方性のNd−Fe−B系磁性粉末材料を準備し、バインダーとしてエポキシ樹脂を準備した。次に、磁性粉末材料97質量部及びバインダー3質量部の比でこれらを混合して混合物を得た。次いで、混合物を混練後、筒長さ(図8におけるLに相当)3.6mm、筒の内径(図8におけるDiに相当)1.2mm及び筒の外径(図8におけるDoに相当)3.2mmの、図8に示す円筒状の成形体を得るための金型のキャビティ内に充填し、圧縮圧力1000MPaの条件の下、機械プレスによる圧縮成形を行い、上記寸法を有する円筒状の成形体を得た。次に、成形体を加熱炉に収容し、熱硬化処理を施した。こうして、円筒状の磁石素体を得た。
次いで、磁石素体を回転台座の上に載置し、円筒状の磁石素体の長さ方向中央に外周側から磁石素体の全外周に沿って筒壁を切削して台形の溝を形成して、図8に示す直交断面形状を有する磁石素体を得た。図8に示す断面図は図3と同様の方向の断面図である。なお、この溝部は磁石素体の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられた。溝の深さ(図8におけるDg)は0.3mm、溝の開口幅(図8におけるWg)は0.8mm、溝の底面幅(図8におけるWi)は0.6mm、L1及びL2は1.4mmであった。
次に、切削工程を経て得られた磁石素体をエポキシ樹脂に浸漬し、表面に保護膜を形成した。そして、得られた磁石素体を外周側から多極着磁し、10極の磁区を円周方向に配列してなる磁石を得た。
得られた磁石表面の筒長さ方向に沿って表面磁束密度を測定したところ、図11の(a)に示す分布曲線が得られた。図11の横軸は図8に示す磁石の頂面822からの筒長さ方向の距離を示している。図11から明らかなように、溝付近で表面磁束密度の低下が認められ、磁気的な分割効果を奏することが確認された。また、図中斜線で示した領域は固定子の極の長さ方向中央付近に対応する領域であり、この領域内に磁束密度のピークを有していると、磁石の性能を十分有効に発揮することができる。図11の(a)から明白なように、実施例1の磁石は、この領域内にピークを有しており、磁石の性能を十分に発揮可能であり、ステッピングモータ用磁石として十分有効であることが確認された。
(実施例2)
まず、実施例1と同様にして円筒状の磁石素体を得た。次いで、磁石素体を回転台座の上に載置し、円筒状の磁石素体の長さ方向中央に外周側から磁石素体の全外周に沿って筒壁を切削して半円の溝を形成して、図9の(a)に示す直交断面形状を有する磁石素体を得た。なお、この溝部は磁石素体の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられた。溝の深さは0.4mm、溝の開口幅は0.8mmであった。
次に、切削工程を経て得られた磁石素体をエポキシ樹脂に浸漬し、表面に保護膜を形成した。そして、得られた磁石素体を外周側から多極着磁し、10極の磁区を円周方向に配列してなる磁石を得た。
得られた磁石表面の筒長さ方向に沿って表面磁束密度を測定したところ、図11の(b)に示す分布曲線が得られた。図11から明らかなように、溝付近で表面磁束密度の低下が認められ、磁気的な分割効果を奏することが確認された。また、この磁石は、図中斜線で示した領域内に磁束密度のピークを有しており、磁石の性能を十分に発揮可能であり、ステッピングモータ用磁石として十分有効であることが確認された。
(実施例3)
成形工程における成形方法を圧縮成形に代えて射出成形にした以外は実施例1と同様にして磁石を得た。射出成形は磁性粉末材料を90質量部、エポキシ樹脂を10質量部とした以外は、実施例1と同様の条件で行った。得られた磁石表面の筒長さ方向に沿って表面磁束密度を測定したところ、図11の(c)に示す分布曲線が得られた。図11から明らかなように、射出成形の場合も溝部付近で表面磁束密度の低下が認められ、スペーサを介して筒長さ方向に直列に並んだ2つの磁石と同様の挙動を示している、すなわち磁気的な分割効果を奏することが確認された。ただし、表面磁束密度の数値は圧縮成形を採用した実施例1よりも全体的に小さいものとなっており、磁気特性が低下していることが確認された。
(比較例1)
まず、実施例1と同様にして円筒状の磁石素体を得た。次いで、磁石素体を回転台座の上に載置し、円筒状の磁石素体の長さ方向中央に外周側から磁石素体の全外周に沿って筒壁を切削して溝を形成して、溝の直交断面形状が矩形である磁石素体を得た。なお、この溝は磁石素体の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられた。溝の深さは0.3mm、溝の開口幅は0.8mmであった。
次に、切削工程を経て得られた磁石素体をエポキシ樹脂に浸漬し、表面に保護膜を形成した。そして、得られた磁石素体を外周側から多極着磁し、10極の磁区を円周方向に配列してなる磁石を得た。
得られた磁石表面の筒長さ方向に沿って表面磁束密度を測定したところ、図12の(b)に示す分布曲線が得られた。なお、図12の(a)に示す分布曲線は実施例1に係る分布曲線であり、図11の(a)と同様である。図12から明らかなように、溝付近で表面磁束密度の低下が認められ、磁気的な分割効果を奏することが確認された。また、この磁石は、図中斜線で示した領域内に磁束密度のピークを有していることが確認された。しかしながら、図12の(a)で示した分布曲線と比較して、固定子に対応する部分全体での磁束密度が低くなっており、ステッピングモータ用磁石としては不十分であることが確認された。
(比較例2)
まず、実施例1と同様にして円筒状の磁石素体を得た。次いで、磁石素体を回転台座の上に載置し、円筒状の磁石素体の長さ方向中央に外周側から磁石素体の全外周に沿って筒壁を切削して溝を形成して、溝の直交断面形状が三角形である磁石素体を得た。なお、この溝は磁石素体の長さ方向に直交する仮想円に沿って設けられた。溝の深さは0.3mm、溝の開口幅は0.8mmであった。
次に、切削工程を経て得られた磁石素体をエポキシ樹脂に浸漬し、表面に保護膜を形成した。そして、得られた磁石素体を外周側から多極着磁し、10極の磁区を円周方向に配列してなる磁石を得た。
得られた磁石表面の筒長さ方向に沿って表面磁束密度を測定したところ、図12の(c)に示す分布曲線が得られた。図12から明らかなように、全体の磁束密度は高くなっていることが確認された。しかしながら、この磁石は、磁束密度のピークが斜線で示した領域よりも多少溝側に偏在しており、また、溝付近における表面磁束密度の低下は、他の磁石と比較して十分ではなかった。したがって、この磁石は、ステッピングモータ用磁石としては不十分であることが確認された。
さらに、実施例1及び比較例2の磁石について、磁石作製時の良品の個数により加工後の外観歩留まりを評価した。具体的には、まず、上述のようにして熱硬化処理まで施した磁石素体400個を無作為に200個ずつ、2組のグループに分けた。次いで、それらの磁石素体を回転台座の上に載置した。次に、バイトにて、一方のグループの磁石素体に対しては実施例1と同様の形状の溝加工を、他方のグループの磁石素体に対しては比較例2と同様の形状の溝加工を、それぞれ行った。
溝加工後、目視及び倍率5倍の実体顕微鏡を用いて磁石素体の溝部の外観を観察した。その結果、実施例1及び比較例2のいずれの磁石素体も、溝の開口端で欠けの発生したものが200個中1個認められた。一方、溝の最深部を起点としてクラックが発生したり、あるいは溝加工中に破壊したりしたものは、実施例1の磁石素体では200個中5個であったが、比較例2の磁石素体では200個中37個であった。この結果から、実施例1の磁石素体では200個中194個の良品が得られたのに対し、比較例2の磁石素体では200個中162個が良品であり、歩留まりが低いことが判明した。更にこのことは、1個の磁石素体同士で比較した場合、実施例1の磁石素体の方が比較例2の磁石素体よりも高い機械的強度を備えていることを示唆する。
100…磁石、110…筒壁、120…第1の円筒部、130…内周面、140…第2の円筒部、150…第1のテーパ部、160…第3の円筒部、170…第2のテーパ部、180…溝、800…ステッピングモータ用回転子、810…回転軸。