以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の第一は、添加剤を、電解質に対して、1〜50質量%、分散させてなる、電解質膜に関するものである。本発明では、電解質膜中に添加剤を特定量存在させることを特徴とする。
本発明に係る添加剤は、フラーレン誘導体、金属酸化物などが好ましく、例えば添加剤としてフラレノールを用いた場合、フラレノールはプロトン伝導性を向上させる効果があるため、本発明の電解質膜は、従来の電解質膜に比して、比較的高い湿度(例えば、相対湿度が60%以上であるような)条件下であっても、有意に高いプロトン伝導性を発揮することができる。このため、従来プロトン伝導性が低いという問題を有する炭化水素系の電解質膜に特に有用である。また、本発明に係る電解質膜を例えば電池に用いる場合、本発明の電解質膜は膜中にフラレノールなどの添加剤を分散させる単一層構造をとる場合や、電解膜中においてフラッディング現象を生じやすい部位に金属酸化物などの添加剤を含ませたり、乾燥しやすい部位にフラーレン誘導体や金属酸化物などの添加剤を含ませたりすることにより複数層構造をとってもよい。このため、このような単一層構造の電解質膜は、上記特許文献1での積層構造に比して、製造が容易であり、層の剥離などの問題も生じない。なお、上記特許文献1ではフラレノールが水溶性があるため、加湿条件下では流出してしまうことが記載されていたが、本発明によれば、フラレノールは水中では酸性を呈するので、加湿条件下では電解質がゲル状に膨潤し、このゲル状物の中にフラレノールが閉じ込められる。このため、本発明の電解質では、水が存在していてもフラレノールは溶解して膜から流出することがない。ゆえに、本発明の電解質膜は、コスト面や材料の選択面で有利であるがプロトン伝導性の面で問題のあった炭化水素系電解質膜に適用すると、長期間にわたって優れたプロトン伝導性を維持することができ、特に有用である。
本発明に係る添加剤は、上記したようにフラーレン誘導体、金属酸化物などが好ましく、前記フラーレン誘導体としては、フラレノールが好ましく、前記金属酸化物としては、アルコキシシラン、アルコキシチタンが好ましい。
また上記アルコキシシランとしては、アルコキシ基を4個有するテトラアルコキシシラン、アルコキシ基を3個有するトリアルコキシシラン、アルコキシ基を2個有するジアルコキシシランを用いることができる。アルコキシ基の種類は特に制限されないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等などが挙げられる。また、アルコキシシランが有するアルコキシ基が3または2個である場合は、アルコキシシラン中のケイ素原子には有機基、水酸基等が結合していてもよく、当該有機基はアミノ基やメルカプト基等の官能基をさらに有していてもよい。
さらに上記アルコキシシランが、テトラアルコキシシランの場合としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等が挙げられ、トリアルコキシシランとしては、トリメトキシシラノール、トリエトキシシラノール、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、ジアルコキシシランとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン等が挙げられる。なかでもテトラエトキシシランがより好ましい。
上記アルコキシシランは、単独で用いることもできるが2種類以上を組み合わせて用いることも可能である。また、上記のアルコキシ基を2〜4個有するアルコキシシランは、アルコキシ基を1個有するモノアルコキシシランと組み合わせて使用することも可能である。このようにして用いることのできるモノアルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−クロロプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
また上記アルコキシチタンは、化学式TiR’n(OR)4−nで表され、式中のRとR’はアルキル基、nは0あるいは1〜3の整数であるものを含むものである。RとR’は、同一または異なるアルキル基であってもよく、さらにRとR’がそれぞれ複数の場合、それぞれが同一または異なるアルキル基の構成であってもよい。そのようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。さらに、式中のRの一部が水素または炭素数2〜10のアルケニル基であってもよく、アルケニル基の例としては、ビニル基、イソプロペニル基、ブタジエニル基、2−メチルアリル基などが挙げられる。式中のR’で示される置換基は、その分子内にエポキシ基またはグリシジル基を含んでいてもよい。
アルコキシチタンの好ましい具体例としては、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどが挙げられる。また、これらアルコキシチタンを主にして2種類以上の前述アルコキシチタンの混合系であってもよい。さらに、本発明に係る添加剤のアルコキシチタンは、上記の本発明に係るアルコキシシランと混合して用いてもよく、この際にアルコキシチタンも2種類以上でかつアルコキシシランも2種類以上用いてもよい。
本明細書において、「フラレノール」とは、フラーレン骨格にヒドロキシル含有基が結合させた化合物である。なお、上記「ヒドロキシル含有基」とは、基中にヒドロキシル基が1個以上存在する基を意味する。具体的には、ヒドロキシル基(−OH)、スルホン基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン基[−PO3H2]、−OSO3H及び−OPO(OH)2などが挙げられ、好ましくはヒドロキシル基(−OH)、スルホン基(−SO3H)及びカルボキシル基(−COOH)である。また、この際使用できるフラーレンとしては、特に制限されず、従来公知のフラーレンが使用でき、具体的には、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96などの球状炭素クラスター分子Cn(nは60以上)などが好ましく挙げられる。これらのうち、反応性などを考慮すると、C60及びC70が好ましい。また、上記フラーレンへのヒドロキシル含有基の置換数は、使用される電解質などによって異なり特に制限されず、また、電解質膜の所望のプロトン伝導性などに応じて適宜選択できる。例えば、C60のフラーレンの場合には、フラーレンへのヒドロキシル含有基の置換数は、好ましくは1〜24個、より好ましくは6〜12個であり、C70のフラーレンの場合には、フラーレンへのヒドロキシル含有基の置換数は、好ましくは1〜28個、より好ましくは6〜14個である。
また、フラーレンへのヒドロキシル含有基の置換位置は、特に制限されず、電解質膜の所望のプロトン伝導性などに応じて適宜選択できる。
本発明において、フラレノールの製造方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、フラレノールがスルホン基(−SO3H)を有する場合には、フラーレンを高温で発煙硫酸または濃硫酸中で反応させる方法が使用できる。また、特開2000−247935号公報、特開平9−157273号公報、特開平7−247273号公報、特開平7−188129号公報、特開平5−221623号公報に記載の方法などが適用できる。または、フラレノールとして、市販品を使用してもよい。このような市販品としては、フロンティアカーボン株式会社製のナノムスペクトラ(nanom spectra)シリーズの水酸化フラーレン(商品名:水酸化C60(HX10−S)、水酸化ミックス(HX10−M));本荘ケミカル株式会社製のフラレノール、硫酸水素化フラレノールなどが挙げられる。
さらに、本発明のフラレノールなどの添加剤を含む電解質膜は、燃料ガス及び酸化剤ガス、特に酸化剤ガスである酸素の透過を有意に抑制/防止する。このため、本発明の電解質膜によれば、当該膜を介してカソード側からアノード側への酸素ガスのクロスリークを有意に抑制・防止できるため、電解質膜や触媒層中の電解質劣化を有意に抑制・防止することができる。したがって、本発明の電解質膜を有する燃料電池は高い発電効率を達成することが期待される。
本発明で使用される電解質膜は、特に限定されず公知の電解質からなる膜を用いることができるが、少なくともプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際、電解質膜は、プロトン解離性の官能基を有する高分子を含むことが好ましい。本明細書において、「プロトン解離性の基」とは、その基から水素原子がプロトン(H+)として電離し、離脱し得る官能基を意味する。プロトン解離性の官能基としては、特に制限されないが、例えば、スルホン基(−SO3H)、ホスホン基[−PO3H2]などが好ましく挙げられる。具体的には、フッ素系電解質膜、炭化水素系電解質膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜にリン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸した膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などの公知の膜が使用できる。
このうち、フッ素系電解質膜としては、特に制限されず、公知のフッ素系電解質膜が使用される。具体的には、フッ素系電解質膜を構成するプロトン解離性の官能基を有するフッ素系電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂などが好適な一例として挙げられる。耐熱性、化学的安定性などの発電性能上の観点からはこれらのフッ素系電解質膜が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系電解質膜が用いられる。
また、炭化水素系膜としても、特に制限されず、公知の炭化水素系電解質膜が使用される。具体的には、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン導電体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン導電体などが使用されるが、耐酸化性、低ガス透過性、製造の容易さ及び低コストなどを考慮すると、スルホン酸基を有する炭化水素系膜が好ましい。本発明で使用される炭化水素系膜としては、特に制限されず、公知の炭化水素系電解質膜が使用されるが、例えば、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PBO(ポリベンズオキサゾール)、S−PPBP(スルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン)、S−PEEK(スルホン化ポエーテルエーテルケトン)、スルホンアミド型ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホンアミド型ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化架橋ポリスチレン、スルホンアミド型架橋ポリスチレン、スルホン化ポリトリフルオロスチレン、スルホンアミド型ポリトリフルオロスチレン、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホンアミド型ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)、スルホンアミド型ポリ(アリールエーテルスルホン)、ポリイミド、スルホン化ポリイミド、スルホンアミド型ポリイミド、スルホン化4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、スルホンアミド型4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、ホスホン酸型4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホンアミド型ポリベンゾイミダゾール、ホスホン酸型ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホンアミド型ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリビフェニレンスルフィド、スルホンアミド型ポリビフェニレンスルフィド、スルホン化ポリフェニレンスルホン、スルホンアミド型ポリフェニレンスルホン、スルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン、スルホン化ポリスチレン−エチレン−プロピレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリフェニレンイミド、ポリベンズイミダゾール−アルキルスルホン酸、スルホアリル化ポリベンズイミダゾールなどが好適な一例として挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系電解質膜が好ましく用いられる。なお、上述した電解質(イオン交換樹脂)は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよいことは勿論である。
これらのうち、上述したように、本発明によると、フラレノールの存在によりプロトン伝導性が向上できるので、炭化水素系電解質膜/炭化水素系電解質、特にプロトン解離性の官能基を有する炭化水素系電解質膜/炭化水素系電解質が特に有用である。ゆえに、本発明では、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェノキシベンゾイルフェニレン(S−PPBP)が電解質膜を構成する電解質として特に好ましく使用される。
電解質膜の厚さは、当該膜を組み込むMEAや固体電解質型燃料電池(PEFC)の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。ただし、電解質膜の厚さは、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは10〜200μmであり、さらに好ましくは15〜150μmであり、特に好ましくは20〜50μmである。厚さがこのような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性、および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
本発明では、添加剤を、電解質に対して、1〜50質量%、添加・分散させることが必須の構成要件である。この際、添加剤の量が1質量%未満であると、添加による効果(特に、プロトン伝導性の向上効果や電解質劣化の抑制/防止効果)が得られない。逆に、添加剤の量が50質量%を超えると、添加に見合う効果の向上が認められず、逆に材料の靭性が失われることにより、長期運転に対する耐久性が失われたり、製膜自体が困難となる。添加剤の量は、電解質に対して、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
前記添加剤が金属酸化物の場合の添加量は、電解質に対して、1〜50質量%であることが必須であり、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%である。この際、添加剤の量が添加剤の量が1質量%未満であると、添加による効果(特に、プロトン伝導性の向上効果や電解質劣化の抑制/防止効果)が得られない。逆に、添加剤の量が50質量%を超えると、添加に見合う効果の向上が認められず、逆に材料の靭性が失われることにより、長期運転に対する耐久性が失われたり、製膜自体が困難となる。
また、前記添加剤がフラレノールの場合の添加量は、電解質に対して、1〜50質量%が好ましく、1質量%未満であると、フラレノールの添加による効果(特に、プロトン伝導性の向上効果や電解質劣化の抑制/防止効果)が十分達成されず、工程数の増加によるコスト増大に対しての優位性がない場合がある。逆に、フラレノールの量が50質量%を超えると、フラレノールの添加に見合う効果の向上が認められず、逆に材料の靭性が失われることにより、長期運転に対する耐久性が失われる場合がある。フラレノールの量は、電解質に対して、好ましくは2.5〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
本発明は、水の拡散を促進する部位が設けられている電解質膜であって、前記部位に、前記添加剤が含まれることが好ましい。例えば本発明の電解質を電池に用いる場合、水の拡散を促進する部位を電解質膜内に設けることによって、発電中に、プロトンの同伴水流出による乾燥や高電流密度または高湿度下でのフラッディング現象による性能低下を防ぎ、低湿度条件、高電流密度側での性能が向上できる。
ここでいう水の拡散を促進する部位は、電解質膜中の面方向でまたは厚さ方向に設けてもよく、さらには面方向および厚さ方向のいずれに設けられてもよい。
尚、本明細書において、「水の拡散を促進する部位」とは、水の拡散速度が高い領域をいい、具体的には水の拡散速度が1×10−7(cm2/s)以上の領域をいい(より具体的には、湿度30〜80%RHでは3×10−○以上、1×10−4以下がより好ましい)、フラーレン誘導体、金属酸化剤などを添加することにより、水の拡散速度が添加しない場合と比較して高くなった領域でもある。
本発明は、電解質膜の両側にアノード電極触媒層とカソード電極触媒層とをそれぞれ備え、さらに前記アノード電極触媒層およびカソード電極触媒層を担持するよう1対のガス拡散層を形成してなる電解質膜−電極接合体において、水の拡散を促進する部位は膜の乾燥が乾燥しやすい部位に設けることが好ましく、例えば前記電解質膜−電極接合体の厚み方向に対しては、電解質膜中のアノード側の少なくとも一部に形成されていることがより好ましく、前記部位は前記電解質膜−電極接合体の面内方向に対しては、電解質膜中のカソードガス入り口側に形成されていることがより好ましい。
さらに、本発明については、水の拡散を促進する部位はフラッディング現象が起こりやすい部位に設けることが好ましく、前記部位は前記電解質膜−電極接合体の厚み方向に対しては、電解質膜中のカソード側の少なくとも一部に形成されていることがより好ましく、前記部位は前記電解質膜−電極接合体の面内方向に対しては、電解質膜中のカソードガス出口側に形成されていることがより好ましい。
特に、本発明に係る電解質膜内における水の拡散を促進する部位は、低加湿度(湿度0〜40%RH)での水の拡散係数を促進させる場合、電解質膜が乾燥しやすい部位に設けることが好ましく、具体的に電解質膜が乾燥しやすい部位とはアノード側および/またはカソードガス入り口側であり、より具体的には、電解質膜の厚さ方向では水の拡散を促進する部位はアノード側に形成されることがより好ましく、および/または電解質膜の面方向では水の拡散を促進する部位はカソードガス入り口側に形成されることがより好ましい。より詳細に電解質膜の厚さ方向について説明すると、電解質膜の膜厚方向をx軸にし、電解質膜の膜厚をL、電解質膜の中心(後述する電解質膜の膜厚の中点と同一)をx=0、カソード側の電解質膜の表面をx=(−1/2)L、アノード側の電解質膜の表面をx=(1/2)Lとすると、0≦x≦(1/2)Lがアノード側として水の拡散を促進する部位として好ましい領域であり、(1/3)L≦x≦(1/2)Lが水の拡散を促進する部位としてより好ましい領域である。
上記に代えてまたは加えて、より詳細に電解質膜の面内方向について説明すると、上記のx軸上における電解質膜の中心からx軸に対し垂直にy軸を設けた場合、電解質膜の長さをkとし、ガスがy軸のマイナス方向からプラス方向に通過するとすると、0≦y≦(1/2)kが水の拡散を促進する部位としてのカソードガス入り口側の領域で好ましい範囲であり、0≦y≦(1/3)kが水の拡散を促進する部位としてのカソードガス入り口側の領域でより好ましい範囲である。これにより、低湿度での水の拡散係数を向上させ、乾燥による性能低下を防ぐことができると考えられる。
上記のカソードガス入り口側、アノード側に、上記のフラーレン誘導体または金属酸化物などの添加物を含ませることが好ましい。
上記本発明に係る電解質膜内における水の拡散を促進する部位としてのアノード側とは、電解質膜の中心面(電解質膜の膜厚方向をx軸にし、当該x軸上における電解質膜の膜厚の中点から垂直に電解質膜を切断した場合の仮想面)を基準として、アノード側の領域をいい、上記本発明に係る電解質膜内における水の拡散を促進する部位としてのカソード側とは、電解質膜の中心面を基準として、カソード側の領域をいう。
本発明に係る電解質膜内における水の拡散を促進する部位が、高加湿度(湿度40〜100%RH)での水の拡散係数を向上させる場合、フラッディング現象を起こしやすい部位に設けることが好ましく、具体的にはカソード側であり、より具体的には、電解質膜の厚さ方向ではカソード側、電解質膜の面方向ではカソードガス出口側に形成されることがより好ましい。
より詳細に電解質膜の厚さ方向を説明すると、電解質膜の膜厚方向をx軸にし、電解質膜の膜厚をL、電解質膜の中心をx=0、カソード側の電解質膜の表面をx=(−1/2)L、アノード側の電解質膜の表面をx=(1/2)Lとすると、(−1/2)L≦x≦0がカソード側として水の拡散を促進する部位として好ましい領域であり、(−1/2)L≦x≦−(1/3)Lが水の拡散を促進する部位としてより好ましい領域である。
上記に代えてまたは加えて、より詳細に電解質膜の面内方向を説明すると、上記のx軸上における電解質膜の中心から垂直にy軸を設けた場合、電解質膜の長さをkとし、ガスの流れる方向をy軸のブラス方向とすると、(1/2)k≦y≦kが水の拡散を促進する部位としてのカソードガス出口側の領域で好ましい範囲であり、(2/3)k≦x≦kが水の拡散を促進する部位としてのカソードガス出口側の領域でより好ましい範囲である。これにより、高湿度での水の拡散係数を向上させ、高湿度や高電流密度での性能低下を防ぐことができる。
上記のカソードガス出口側、カソード側に、上記の金属酸化物などの添加物を含ませることが好ましい。
尚、水の拡散を促進する部位を設ける際に、層状であっても膜状であってもよく、電解質膜が複数層構造をとることにより、水の拡散係数を向上させ、高湿度や高電流密度での性能低下を防ぐことができる。
さらに、本発明は、フラ−レン誘導体の添加剤と前記金属酸化物の添加剤とが、同一の水の拡散を促進する部位に含まれても良いが、それぞれ異なる部位に用いることがより好ましい。
また、上記したように、低湿度と高湿度との上記の条件を組み合わせて本発明に係る水の拡散を促進する部位を設けてもよい。
尚、本明細書の図7において、水の拡散を促進する部分やカソードガス出口側、カソード入り口側の概念図を示してあるが、この図においてはガスの流路は、電解質膜の面方向に平行になるよう蛇行してガスが流れた場合のカソードガス出口側、カソード入り口側を記載してある。
本発明に係る電解質膜中において、水の拡散を促進する部位の含水率は増加しないが、水の拡散を促進する部位の水の拡散は促進されることが好ましい。なぜなら、電解質膜中の全体の含水量が増えることで、アノード側などの乾燥する部分には幾分かは水分が供給されるが、電解質膜の含水量が増えるとフラッディング現象が起こりやすくなるため、系の水分量は一定に保ったまま水が拡散により系内を循環することで、電解質膜内、しいては膜−電極接合体の系の水分量の管理ができると考えられるからである。
本発明に係る電解質膜において、湿度30〜80%RHの範囲では水の拡散係数D(cm2/s)は3×10−7以上1×10−4以下であることが好ましい。
水の拡散係数D(cm2/s)が3×10−7未満であると、発電中の電場をかかった状態で、水の拡散速度が遅いために生成水が豊富なカソードから生成水のないアノードへの逆拡散が起こらず、アノードのドライアウトが防げない恐れがある。
本明細書の実施例から拡散係数の算出する方法を以下簡単に説明する。各湿度における電解質膜の重量の時間変化を計測する方法を用いるが、拡散式は一般に以下のFick第二法則で与えられ、
の初期計算法により、質量変化率(Mt/M∞)が√tに比例し、質量変化率(Mt/M∞)、時間(s)、膜厚から各湿度における拡散係数を算出する。
本発明の電解質膜の製造方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは修飾して適用できるが、単一層構造を有するフラレノール含有電解質膜を製造する際には、好ましくはフラレノールを膜中に均一に分散することができる方法が好ましい。フラレノールは酸性を呈するため、塩基性溶液に溶解する。このため、フラレノールを一旦塩基性溶液に溶解して、フラレノールが均一に溶解した塩基性フラレノール溶液を調製した後、この塩基性フラレノール溶液中に電解質膜を浸漬することによって、フラレノールは膜中に均一に分散することができる。したがって、本発明の第二は、(ア)フラレノールを塩基性溶液に溶解して、塩基性フラレノール溶液(1)を調製する工程;および(イ)前記塩基性フラレノール溶液(1)中に電解質膜を浸漬する工程を含む、本発明の電解質膜の製造方法を提供する。
ここで、まず、本発明の第二について詳細に説明する。
上記工程(ア)では、フラレノールを塩基性溶液に溶解して、塩基性フラレノール溶液(1)を調製する。この工程(ア)において、塩基性溶液は、フラレノールが溶解できるものであれば特に制限されないが、塩基性溶液を構成する塩基としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(NH4OH)などが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)及び水酸化リチウム(LiOH)が好ましい。電解質がスルホン基を有する場合には、水酸化バリウム、水酸化カルシウム中のバリウム、カルシウムがスルホン基に結合して脱離しにくい形態をとるので、電解質がスルホン基を有する場合には、これらの塩基は好ましくない。上記塩基は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、上記塩基を溶解する溶媒は、塩基及びフラレノールを溶解できるものであれば特に制限されないが、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の低級多価アルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類;エタンチオール、ベンジルチオールなどのメルカプタン類などが挙げられる。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記溶媒のうち、工程(イ)で電解質膜を溶解しない溶媒であることが好ましく、このような溶媒としては、特に水が好ましく使用される。
さらに、塩基性溶液のpHは、フラレノールの溶解を阻害せず、電解質を溶解したり、過度に膨潤させたりしない程度であれば特に制限されない。好ましくは7〜14、より好ましくは12〜14である。このようなpHの範囲であれば、フラレノールを十分溶解でき、かつ後工程で電解質膜を添加しても電解質膜は劣化したり変質したりしない。この際、塩基の溶媒への添加量は、フラレノールが溶解できる量であれば特に制限されず、好ましくは塩基性溶液のpHが上記範囲になるような量である。
上記工程(ア)において、フラレノールの塩基性溶液への添加量は、工程(イ)後に得られる膜中へのフラレノールの含量が膜を構成する電解質に対して、1〜50質量%となるような量であれば特に制限されず、フラレノールの膜への分散量によって適宜選択される。好ましくは、フラレノールの塩基性溶液への添加量は、溶液中の濃度が5〜40(w/v)%、より好ましくは10〜40(w/v)%となるような量である。このような範囲であれば、フラレノールは容易に塩基性溶液中に溶解できる。
上記工程(イ)では、上記工程(ア)で調製された塩基性フラレノール溶液(1)中に電解質膜を浸漬する。この工程における膜の浸漬条件は、十分量のフラレノールが膜中に均一に分散できる条件であれば特に制限されないが、電解質が溶出したり過度に膨潤させたりしない程度であることが好ましい。例えば、20〜80℃、より好ましくは20〜40℃で、6〜48時間、より好ましくは10〜20時間、上記工程(ア)で調製された塩基性フラレノール溶液(1)中に電解質膜を浸漬することが好ましい。なお、本工程で使用される電解質膜は、上記したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。また、本工程(イ)は、1回の工程でフラレノールの膜への分散量が所望のレベルにまで達しない場合には、所望のレベルに達するまで、上記工程を複数回繰り返してもよい。
または、フラレノールを一旦塩基性溶液に溶解して、フラレノールが均一に溶解した塩基性フラレノール溶液を調製した後、この塩基性フラレノール溶液を電解質と混合して、フラレノール及び電解質が溶液中に均一に溶解するフラレノール−電解質混合液を調製した後、この混合液を用いて膜に成形することによっても、フラレノールが均一に分散する電解質膜が得られる。したがって、本発明の第三は、(ア’)フラレノールを塩基性溶液に溶解して、塩基性フラレノール溶液(2)を調製する工程;(イ’)前記塩基性フラレノール溶液(2)を電解質と混合し、フラレノール−電解質混合液(1)を調製する工程;および(ウ’)前記フラレノール−電解質混合液(1)を膜に成形する工程を含む、本発明の電解質膜の製造方法を提供する。
ここで、本発明の第三について詳細に説明する。
上記工程(ア’)では、フラレノールを塩基性溶液に溶解して、塩基性フラレノール溶液(2)を調製する。この工程(ア’)において、塩基性溶液は、フラレノールが溶解できるものであれば特に制限されないが、塩基性溶液を構成する塩基としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(NH4OH)などが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)及び水酸化リチウム(LiOH)、さらに好ましくは水酸化カリウム(NaOH)、水酸化ナトリウム(KOH)及び水酸化アンモニウム(NH4OH)が好ましい。電解質がスルホン基を有する場合には、水酸化バリウム、水酸化カルシウム中のバリウム、カルシウムがスルホン基に結合して脱離しにくい形態をとるので、電解質がスルホン基を有する場合には、これらの塩基は好ましくない。上記塩基は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、上記塩基を溶解する溶媒は、塩基、フラレノール及び電解質を溶解できるものであれば特に制限されないが、水;メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の低級多価アルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)及びシクロヘキサノン等のケトン類;エタンチオール、ベンジルチオールなどのメルカプタン類などが挙げられる。
上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記溶媒のうち、工程(イ’)で電解質と混合した時に、フラレノール及び電解質が均一に混合するよう、フラレノール及び電解質を溶解できるものであることが好ましい。このような溶媒としては、低級ケトン類、低級アルコール類、あるいはこれらの溶媒と水との混合溶媒などが好ましく使用され、フラレノールを溶解する(塩基性水溶液を調製する)ための水と、及び電解質を溶解するためのアセトン、メタノール、エタノール、プロパノールとの混合液を使用することがより好ましい。これにより、フラレノール及び電解質双方が十分均一に混合できるからである。この際の水、及び上記電解質を溶解するための溶媒との混合比は、フラレノール及び電解質が十分均一に混合できる割合であれば特に制限されないが、水と電解質を溶解できる溶媒とを、0.5:9.5〜5:5、より好ましくは1:9〜2:8の質量比で混合した混合液が特に好ましく使用される。
さらに、塩基性溶液のpHは、フラレノールが溶解でき、次工程での電解質溶液あるいは電解質の添加によるpH変化によってpHが酸性側に変化することによりフラレノールが不溶化しない程度であれば特に制限されない。好ましくは10〜14、より好ましくは12〜14である。このようなpHの範囲であれば、フラレノールを十分溶解でき、かつ後工程で電解質を添加・混合してもフラレノールの沈降は起こらない。この際、塩基の溶媒への添加量は、フラレノールが溶解できる量であれば特に制限されず、好ましくは塩基性溶液のpHが上記範囲になるような量である。
上記工程(ア’)において、フラレノールの塩基性溶液への添加量は、工程(ウ’)後に得られる膜中へのフラレノールの含量が膜を構成する電解質に対して、1〜50質量%となるような量であれば特に制限されず、フラレノールの膜への分散量によって適宜選択される。好ましくは、フラレノールの塩基性溶液への添加量は、溶液中の濃度が0.01〜40(w/v)%、より好ましくは0.01〜20(w/v)%となるような量である。このような範囲であれば、フラレノールは容易に塩基性溶液中に溶解できる。
上記工程(イ’)では、上記工程(ア’)で調製された塩基性フラレノール溶液(2)を電解質と混合し、フラレノール−電解質混合液(1)を調製する。この工程において、塩基性フラレノール溶液(2)と電解質との混合比は、後工程(エ)で得られる膜中のフラレノールの所望の量に応じて適宜選択される。具体的には、上記膜中でのフラレノールの量(電解質に対して、1〜50質量%)と同様である。また、電解質は、溶液の形態で塩基性フラレノール溶液と混合されてもよい。この際、電解質を溶解するのに使用される溶媒は、特に制限されないが、例えば、水/低級アルコール混合溶媒、水/低級ケトン化合物混合溶媒、非プロトン性極性溶媒などが使用できるが、好ましくは上記(ア’)と相溶できるものが使用できるが、より好ましくは上記(ア’)と同一の組成の溶媒が選択される。電解質を溶液の形態で塩基性フラレノール溶液(2)と混合する際に、電解質の溶液における濃度は、特に制限されず、混合されるフラレノールとの割合や取り扱い易さによって適宜選択される。
次に、上記工程(ウ’)では、上記工程(イ’)で得られたフラレノール−電解質混合液(1)を用いて膜に成形する。この際、膜の成形条件は、上記したような所望の厚さの電解質膜が得られるような条件であれば特に制限されない。具体的には、フラレノール−電解質混合液(1)を、ガラス板、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等のポリエステルシートなどのシートなどの上に、乾燥後の厚みが上記したような電解質膜の好ましい厚みになるように塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で乾燥を行う。乾燥の温度は使用した溶媒に応じて選択される。例えば、沸点が60℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は10〜20℃であり;60℃以上100℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は20〜40℃であり;100℃以上150℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は40〜80℃であり;150℃以上300℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は80〜150℃である。また、乾燥に要する時間は、溶媒の種類などによって適宜選択できるが、好ましくは4時間〜24時間、より好ましくは6〜20時間である。また、沸点の異なる複数の溶媒を用いた場合、沸点の低い成分が揮発するまで低温での乾燥を行い、より沸点の高い成分を揮発させるためにその後高温での乾燥を行ってもよい。
なお、上記本発明の第二及び第三の方法が終了した後、膜中に含まれる塩基を除去する工程をさらに行なうことが好ましい。膜中に含まれるフラレノールは、上述したように、塩基性条件下では溶出するが、中性あるいは酸性条件下では不溶化する。このため、この性質を利用して、上記で得られた電解質膜を、25〜40℃で、1〜3時間、純水などに浸漬して、不溶化したフラレノールを電解質中に閉じ込めつつ、表面に付着した、容易に洗い落とされる余分なフラレノールを除去することができる。なお、余分なフラレノールの除去は他の方法によって行なわれてもよい。また、電解質膜中に含まれる塩基の除去方法もまた特に制限されず、公知の方法が使用でき、例えば、上記したようにして余分なフラレノールを除去した後の電解質膜を、酸性水溶液中に、25〜40℃で、5〜30時間、浸漬することにより中和した後、さらに25〜40℃で、5〜30時間、純水などに浸漬することによって、塩基を除去することができる。なお、上記方法で使用できる酸性水溶液は、使用される塩基を中和できるものであれば特に制限されず、例えば、硫酸、塩酸やリン酸の水溶液、好ましくは硫酸や塩酸の水溶液が使用でき、その濃度は使用される塩基の量によって適宜調節される。
または、フラレノール、電解質及び溶媒を一緒に混合した混合液を用いて膜に成形することによって、本発明の電解質膜を製造してもよい。したがって、本発明の第四は、(A)フラレノール、電解質及び溶媒を混合して、フラレノール−電解質混合液(2)を調製する工程;及び(B)前記フラレノール−電解質混合液(2)を膜に成形する工程を有する本発明の電解質膜の製造方法である。
以下、本発明の第四の方法を詳細に説明する。
上記工程(A)において、フラレノール−電解質混合液(2)を調製する際に使用される溶媒は、フラレノール及び電解質を双方とも溶解できるものであれば特に制限されないが、非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。このような溶媒としては、特に制限されないが、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、スルホラン、キノリン、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどが挙げられ、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド、スルホラン及びヘキサメチルリン酸トリアミドである。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合液の形態で使用されてもよい。
上記工程(A)において、電解質は、そのままの形態で混合されてもあるいは溶剤に一旦溶かした後溶液の形態で混合されてもいずれでもよいが、好ましくは溶液の形態で混合される。同様にして、フラレノールも、そのままの形態で混合されてもあるいは溶剤に一旦溶かした後溶液の形態で混合されてもいずれでもよいが、好ましくは溶液の形態で混合される。溶液の形態で使用する方が、取り扱いが容易であり、かつ溶液の形態の方が容易に混合するため、短時間でフラレノール及び電解質を容易にかつ均一に混合することができるからである。電解質を溶液の形態で混合する際に使用される溶剤は、電解質が溶解できるものであれば特に制限されないが、具体的には、上記フラレノール−電解質混合液(2)を調製する際に使用される溶媒から選択されることが好ましい。電解質の濃度は、特に制限されず、フラレノールの濃度などによって適宜選択できるが、溶液中、1〜25(w/v)%であることが好ましい。また、電解質の溶解性を促進するために、電解質を溶解した液を加熱してもよく、例えば、100〜120℃で30〜120分間、加熱すると、電解質は溶剤中に完全に溶解できる。また、フラレノールを溶液の形態で混合する際に使用される溶剤は、フラレノールが溶解できるものであれば特に制限されないが、具体的には、上記フラレノール−電解質混合液(2)を調製する際に使用される溶媒から選択されることが好ましい。フラレノール濃度は、特に制限されず、電解質の濃度などによって適宜選択できるが、溶液中、0.01〜25(w/v)%であることが好ましい。また、フラレノールの溶解性を促進するために、フラレノールを溶解した液を加熱してもよく、例えば、100〜120℃で15〜30分間、加熱すると、フラレノールは溶剤中に完全に溶解できる。なお、本発明では、フラレノール及び電解質を一旦溶媒で溶解した後、両者を混合する場合に使用される溶媒は、それぞれ同じであってもあるいは異なるものであってもよいが、取り扱いやすさや後の膜成形の操作性などを考慮すると、同じ溶媒であることが好ましい。
また、フラレノール、電解質及び溶媒の混合順序は、特に制限されず、例えば、(ア)フラレノールを溶媒に溶解してフラレノール溶液を調製し、電解質を前記溶媒に溶解して電解質溶液を調製し、前記フラレノール溶液及び電解質溶液を混合する工程;(イ)フラレノールを溶媒に溶解してフラレノール溶液を調製し、前記フラレノール溶液に電解質を添加する工程;(ウ)電解質を溶媒に溶解して電解質溶液を調製し、前記電解質溶液にフラレノールを添加する工程;または(エ)フラレノール、電解質及び溶媒を同時に混合するなど、いずれでもよい。しかしながら、フラレノールをそのままの形態で電解質溶液中に添加すると、フラレノールが電解質表面に付着して全体として粘稠な溶液となるため、フラレノールを完全に溶解することが困難になる。このため、フラレノールは溶液の状態で電解質または電解質溶液と混合することが好ましい。また、上述したように、電解質もまた溶液の形態で混合することが好ましいので、(ア)及び(イ)が好ましく、(ア)が最も好ましい。なお、本工程(A)においては、非プロトン性極性溶媒はフラレノール及び電解質双方を溶解できるため、塩基の存在しなくとも、フラレノール及び電解質双方が良好に混合できる。このため、本発明の第四の方法では、塩基を使用する必要はない。
次に、工程(B)では、上記工程(A)で得られたフラレノール−電解質混合液(2)を用いて膜に成形する。この際、膜の成形条件は、上記したような所望の厚さの電解質膜が得られるような条件であれば特に制限されない。具体的には、フラレノール−電解質混合液(2)を、ガラス板、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等のポリエステルシートなどのシートなとの上に、乾燥後の厚みが上記したような電解質膜の好ましい厚みになるように塗布し、常圧下あるいは、真空乾燥機内にて減圧下で乾燥を行う。乾燥の温度は使用した溶媒に応じて選択される。例えば、沸点が60℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は10〜20℃であり;60℃以上100℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は20〜40℃であり;100℃以上150℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は40〜80℃であり;150℃以上300℃未満の溶媒の場合には、好ましい乾燥温度は80〜150℃である。また、乾燥に要する時間は、溶媒の種類などによって適宜選択できるが、好ましくは4時間〜24時間、より好ましくは6〜20時間である。また、沸点の異なる複数の溶媒を用いた場合、沸点の低い成分が揮発するまで低温での乾燥を行い、より沸点の高い成分を揮発させるためにその後高温での乾燥を行ってもよい。
また、上記乾燥工程の後、最終的に膜中に残留している溶剤を除去するために、大過剰の純水中にて膜を洗浄した後に、再び乾燥を行なう工程を加えても良い。この場合、上記2度目の乾燥工程条件は、残留している溶剤を十分除去できる条件であれば特に制限されないが、例えば、真空下で80℃〜120℃の温度範囲で2〜8時間、乾燥を行なうことが好ましい。
上記したような本発明の第二、第三及び第四の方法によると、フラレノールが、上記したような所定量(電解質に対して1〜50質量%)電解質膜中に均一に分散している電解質膜が、容易にかつ特殊な設備、複雑な操作や専用の装置を必要とすることなく、製造することができる。
また、本発明のあるいは本発明の方法によって製造される電解質膜は、特定量のフラレノールが存在することにより、電解質膜のプロトン伝導性が有意に向上し、特に比較的高い湿度条件下であってもプロトン伝導性を有意に向上できる。このため、本発明の電解質膜は、電解質に炭化水素系電解質を使用しても十分なプロトン伝導性を発揮することができるため、コスト面や材料の選択面で特に有利である。さらに、本発明のフラレノールを添加した電解質膜は、燃料ガス及び酸化剤ガス、特に酸化剤ガスである酸素の透過を有意に抑制/防止する。このため、本発明の電解質膜によれば、当該膜を介してカソード側からアノード側への酸素ガスのクロスリークを有意に抑制・防止できるため、電解質膜や触媒層中の電解質劣化を有意に抑制・防止することができる。
したがって、本発明の電解質膜を有する燃料電池は高い発電効率を達成することが期待される。ゆえに、本発明の第五は、本発明のまたは本発明の方法によって製造された電解質膜を有する電解質膜−電極接合体を提供する。また、本発明の第六は、本発明の電解質膜−電極接合体を使用してなる燃料電池を提供する。
以下、本発明の第五及び第六を詳細に説明する。なお、以下に好ましい実施態様を説明するが、本発明は、電解質膜に特徴があり、MEAまたは燃料電池において、本発明の電解質膜を使用する以外は、当該分野において既知の部材または方法が同様にして適用できる。
以下、本発明に係る電解質膜を用いて転写法により本発明のMEAを製造する好ましい方法について詳述する。
まず、触媒インクを調製し、この触媒インクを転写用台紙上に塗布・乾燥して、転写用台紙上に触媒層を形成した転写シートを得る。次に、この転写シート2枚(アノード用及びカソード用)で、本発明に係る電解質膜をはさみ、当該積層についてホットプレスを行なった後、転写用台紙を剥がすことにより、触媒層と電解質膜とからなるMEAを得ることができる。
上記方法で使用される触媒インクは、溶媒、電解質、及び触媒成分を含む。カソード触媒層に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒成分及びアノード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒インクに用いられる触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
本発明において、上述した触媒粒子は導電性担体に担持された電極触媒として触媒インクに含まれる。
前記導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。導電性担体の比表面積がこのような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスを適切に制御することができる。
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
前記導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が、80質量%を超えると、触媒成分の導電性担体上での分散度が下がり、担持量が増加するわりに発電性能の向上が小さく経済上での利点が低下する恐れがある。また、前記担持量が、10質量%未満であると、単位質量あたりの触媒活性が低下して所望の発電性能を得るために多量の電極触媒が必要となり好ましくない。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(以下、単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒の他に、高分子電解質が含まれる。前記高分子電解質としては、特に限定されず、上記電解質膜に用いたものと同様の高分子電解質が使用できる。前記電解質膜に用いられる高分子電解質と、各触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
本発明の方法では、上記したような電極触媒、高分子電解質及び溶剤からなる触媒インクを、転写用台紙に塗布することによって、触媒層が形成される。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できるが、触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30質量%、より好ましくは9〜20質量%となるような量で存在することが好ましい。
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
本発明の触媒インクは、電極触媒、電解質及び溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のナフィオン(登録商標)溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でナフィオン(登録商標)が分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
上記したような触媒インクを、転写用台紙上に塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
上記方法において、転写用台紙としては、特に制限されず、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。なお、転写用台紙は、使用する触媒インク(特にインク中のカーボン等の導電性担体)の種類に応じて適宜選択される。また、上記工程において、触媒層の厚みは、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる厚みであれば特に制限されず、従来と同様の厚みが使用できる。具体的には、触媒層の厚みは、1〜30μm、より好ましくは1〜20μmである。また、転写用台紙上への触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、塗布された触媒層の乾燥条件もまた、触媒層から極性溶媒を完全に除去できる条件であれば特に制限されない。具体的には、触媒インクの塗布層(触媒層)を真空乾燥機内にて、室温〜100℃、より好ましくは50〜80℃で、30〜60分間、乾燥する。この際、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
次に、このようにして作製された触媒層2枚電解質膜を挟持した後、当該積層についてホットプレスを行なう。この際、ホットプレス条件は、触媒層及び電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより高分子電解質膜と触媒層との接合性を高めることができる。ホットプレスを行なった後、転写用台紙を剥がすことにより、触媒層と高分子電解質膜とからなるMEAを得ることができる。
なお、上記では、転写法により、電解質膜にアノード/カソード触媒層を形成する方法について述べてきたが、本発明のMEAは、電解質膜へ直接触媒インクを印刷する直接塗布法などの他の方法によって製造されてもよい。具体的には、上記したような触媒インクを、本発明の電解質膜上に塗布して、各触媒層が形成される。この際、電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
なお、本発明によるMEAは、下記に詳述されるように、一般的にガス拡散層をさらに有してもよく、この際、ガス拡散層は、上記方法において、転写用台紙を剥がし、得られた接合体をさらにガス拡散層で挟持することによって、触媒層と電解質膜との接合後にさらに各触媒層に接合することが好ましい。または、触媒層を予めガス拡散層表面上に形成して触媒層−ガス拡散層接合体を製造した後、上記したのと同様にして、この触媒層−ガス拡散層接合体で電解質膜をホットプレスにより挟持・接合することもまた好ましい。
この際、MEAに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
触媒層をガス拡散層表面上に形成する方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、スプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、触媒層のガス拡散層表面上への形成条件は、特に制限されず、上記したような具体的な形成方法によって従来と同様の条件が適用できる。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤の質量比)程度とするのがよい。
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
ガス拡散層において基材上にカーボン粒子層を形成する場合には、カーボン粒子、撥水剤等を、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させることによりスラリーを調製し、前記スラリーを基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。
なお、触媒層と電解質膜と、及び好ましくはガス拡散層を含む接合体の製造方法は、上述した方法に限定されない。すなわち、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、触媒層を固体電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、MEAとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
本発明の電解質膜−電極接合体及び本発明の方法によって製造される電解質膜−電極接合体は、上述した通り、触媒担体として用いられるカーボン担体の腐食、および、電解質膜−電極接合体に含まれる電解質成分の劣化を抑制することが可能となる。また、ガスケット層を設けることにより、触媒層の面積および配置を容易に決定することが可能となり、各触媒層を予め正確に位置合わせしなければいけない必要がないため、工業的な大量生産を考慮すると非常に望ましい。従って、かような電解質膜−電極接合体を用いることにより、製造工程が容易であり、耐久性にも優れる信頼性の高い燃料電池を提供することができる。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池に代表される酸型電解質の燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
前記高分子電解質型燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体の腐食、および、運転時に高い出力電圧が取り出されることにより高分子電解質の劣化が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
前記セパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
また、各触媒層に供給されるガスが外部にリークするのを防止するために、ガスケット層上の触媒層が形成されていない部位にさらにガスシール部が設けられてもよい。前記ガスシール部を構成する材料としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスシール部の厚さとしては、2mm〜50μm、望ましくは1mm〜100μm程度とすればよい。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(実施例1−1)
フラレノール[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ(nanom spectra)HX10−S]25mgを、20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、30分間80℃に加熱し完全に溶解させた。このフラレノール溶解液に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)500mgを加え、2時間、80℃で撹拌することによって、フラレノール及びS−PESが均一に溶解したフラーレン−電解質混合液を調製した。このフラーレン−電解質混合液を、100cm2のガラス板上に展開し、80℃のオーブンで12時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが45μmの均一な厚みの電解質膜を得た。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、5質量%である。
この膜を水で膨潤させ剥離した後、膜の4辺を枠で固定した。水中に1晩漬け、電解質膜表面に付着したフラレノールおよび残留している微量の溶媒を除去した後、真空乾燥機にて100℃、5時間の乾燥を行った。これを性能試験に供し、その結果を下記表1に示す。
なお、表1におけるプロトン伝導性は、下記方法に従って評価した。
「プロトン伝導性評価方法」
電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製1280Z)を用いて、振幅5mV、周波数100,000〜10Hz、10steps/decadeの領域でインピーダンス測定し、固体高分子電解質膜のプロトン伝導度を評価した。この際、小開口仕様(幅30mm×長さ15mm)セルを用いた。
なお、上記測定では、サンプルは、電気的に絶縁された密閉容器中に支持され、水蒸気雰囲気(30〜95%RH)で、温度コントローラーによりセル温度を室温から80℃まで変化させ、各条件において、恒温恒湿槽が定常状態になってから30分経過後に、インピーダンスを3回測定し、その平均を表1及び表2に示す。また、表1及び表2では、代表値として、80℃30%RH(相対湿度)、60%RHおよび95%RH条件下での測定値を示す。
(実施例1−2)
実施例1−1において、フラレノール50mg[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ(nanom spectra)HX10−S]を20mlのDMSOに溶解したフラレノール溶解液を使用した以外は、実施例1と同様に、電解質膜を製造した。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、10質量%である。
また、得られた電解質膜について、実施例1−1に記載の方法と同様にして、プロトン伝導性を評価した。その結果を下記表1に示す。
(実施例1−3)
実施例1−1において、フラレノール500mg[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ(nanom spectra)HX10−S]を20mlのDMSOに溶解したフラレノール溶解液を使用した以外は、実施例1と同様に、電解質膜を製造した。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、50質量%である。
(比較例1−1)
電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)500mgを20mlのDMSOに加え、2時間、80℃で撹拌させることによって、均一な電解質溶液を得た。これを100cm2のガラス板上に展開し、80℃のオーブンで12時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが45μmの均一な厚みの電解質膜を得た。これを水で膨潤させ剥離した後、実施例1−1に記載の方法と同様にして、性能試験に供した。その結果を下記表1に示す。
上記表1に示されるように、本発明の電解質膜は、フラレノールを添加することによって、プロトン伝導性が有意に向上していることが示される。
(実施例1−4)
水/プロパノール混合液(水:プロパノールの混合質量比=1:2)における電解質としてのナフィオン(デュポン社製、DE2029(登録商標))の20%ディスパージョン溶液5gにプロパノール5gを加え、撹拌および脱泡をした後、100cm2のガラス板上に展開し、室温で1晩乾燥させることにより、厚み60μmの電解質膜を得た。これを水で膨潤剥離をした後、真空乾燥を行なうことによって、膜を得た。
別途、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH:14)に対して、質量比で5%含有量となるようにフラレノールを加え、撹拌することによって、均一な褐色溶液としての塩基性フラレノール溶液を調製した。
上記で作製した膜を、上記塩基性フラレノール溶液中に、25℃で1時間、含浸させて、膜中に塩基性フラレノール溶液が十分浸透したら、膜の4辺を枠で固定した。この塩基性フラレノール溶液に25℃で一晩、浸漬した後、取り出し、純水に一晩漬けることによって、膜表面に付着した余分なフラレノールを除去した。さらに、この膜を1mol/Lの塩酸に25℃で一晩漬けた後、純水に25℃で一晩漬けて、余分な塩酸を除去することによって、本発明の電解質膜を得た。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、3.6質量%である。
このようにして得られた電解質膜について、実施例1−1に記載の方法と同様にして、性能試験に供した。その結果を下記表2に示す。
(比較例1−2)
実施例1−4において、フラレノールを使用しない以外は実施例1−4と同様にして、電解質膜を作製し、このようにして得られた電解質膜について、実施例1−1に記載の方法と同様にして、性能試験に供した。その結果を下記表2に示す。
(実施例1−5)
1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH:14)に対して、質量比で5%含有量となるようにフラレノールを加え、撹拌することによって、均一な褐色溶液としての塩基性フラレノール溶液を調製した。
厚み30μmのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)電解質膜を、上記で調製した塩基性フラレノール溶液の中に、25℃で1時間、含浸させて、膜中に塩基性フラレノール溶液が十分浸透したら、膜の4辺を枠で固定した。この塩基性フラレノール溶液に25℃で一晩、浸漬した後、取り出し、純水に一晩漬けることによって、膜表面に付着した余分なフラレノールを除去した。さらに、この膜を1mol/Lの塩酸に25℃で一晩漬けた後、純水に25℃で一晩漬けて、余分な塩酸を除去することによって、本発明の電解質膜を得た。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、2.8質量%である。
このようにして得られた電解質膜について、実施例1−1に記載の方法と同様にして、性能試験に供した。その結果を下記表2に示す。
(比較例1−3)
実施例1−5において、フラレノールを使用しない以外は実施例1−5と同様にして、電解質膜を作製し、このようにして得られた電解質膜について、実施例1−1に記載の方法と同様にして、性能試験に供した。その結果を下記表2に示す。
上記表2における実施例1−4と比較例1−2、ならびに実施例1−5と比較例1−3の結果を比較することによって、本発明の電解質膜は、フラレノールを添加することによって、プロトン伝導性が有意に向上していることが示される。
ゾルゲル法による無機物ゲルを含有する複合電解質膜の作製方法は、特願2005−255604に記載に従い以下のように行なった。
(実施例2−1)
1.加水分解・縮合反応触媒を含む電解質溶液の調製
1−1.電解質溶液(触媒含まず)の調製
高沸点溶媒であるNMP(N−メチルピロリドン)(20mlを攪拌しながら、該NMP溶媒に電解質としてポリ(4−フェノキシベンゾイル−1,4−フェニレン)(以下、単にS−PPBPともいう)5.0gを少量ずつ投入し(投入速度;溶媒10mlに対し、0.1〜10g/分程度)、全量投入後、常温下で、30分以上攪拌した。その後、ヒーター加熱により80℃の高温下で更に12時間攪拌を行った後、自然放冷にて常温に戻すことで、電解質含有溶液として25wt/v%のS−PPBP含有NMP溶液を調製した。
ここで、S−PPBPの投入速度は、溶媒10mlに対し、0.5g/分とした。
1−2.電解質溶液(触媒含む)の調製
上記25wt/v%のS−PPBP含有NMP溶液を攪拌しながら、該25wt/v%のS−PPBP含有NMP溶液に、加水分解・縮合反応触媒として水(中性触媒)をゆっくりと滴下した後、0.5時間攪拌を行って、加水分解・縮合反応触媒を含む電解質含有溶液として約25wt/v%のS−PPBP含有NMP水溶液を調製した。
ここで、水の添加量は、後述する無機物前駆体であるTEOS(単にテトラエトキシシランとも称する)に対して10molとした。また、水の滴下速度は、25wt/v%のS−PPBP含有NMP溶液10mlに対して、0.01ml/minの速度でゆっくりと滴下した。
2.無機物前駆体溶液の調製
溶媒として、上記1で用いた高沸点溶媒と同じであるNMP1gを攪拌しながら、該NMP溶媒に無機物前駆体であるTEOS0.1gを投入後、1時間以上攪拌して溶解させることで所定の濃度の無機物前駆体含有溶液として9.1wtwt/v%のTEOS含有NMP溶液を調製した。
ここで、TEOSの投入速度は、NMP溶媒1gに対し、0.1g/分とした。
3.複合電解質含有溶液の作製
上記1−2で得られたS−PPBP含有NMP水溶液に、所定の濃度に調製されてなる上記2で得られた9.1wt/v%のTEOS含有NMP溶液を常温(室温)下でゆっくりと滴下し、全量滴下後にも、常温(室温)のまま12時間以上攪拌することで複合電解質含有溶液を作製した。ここで、TEOS含有NMP溶液の滴下速度は、電解質含有溶液10ml当たり、0.1ml/minとした。
4.電解質膜の形成
4−1.複合電解質含有溶液の塗布
上記3で作製された複合電解質含有溶液を、自動塗工装置を用いて、50μm厚のテフロンフィルム基材に塗工して塗膜(ウェット状態)を形成した。塗布処理は、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
4−2.塗膜(ウェット状態)の熱処理
上記4−1により形成された塗膜(ウェット状態)を、乾燥機を用いて80℃で最低12時間以上熱処理することで膜(ドライ状態)を得た。熱処理は、大気雰囲気下、常圧にて行った。
4−3.膜(ドライ状態)の純水剥離
4−2で得られた膜を常温(室温)下で基材に固定された膜が破れたりしないように、純水に5分浸漬して膨潤させて膜にテンションが加わらないようにして、基材から剥離した。ここでも、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
4−4.膜の乾燥
剥離された純水を含んだ膜を、乾燥器に入れ、常温(室温)で3時間以上、真空乾燥を行って、所望の複合電解質膜を形成した。
(比較例2−1)
1.電解質溶液の調製
高沸点溶媒であるNMP20mlを攪拌しながら、該NMP溶媒に電解質としてS−PPBP5.0gを少量ずつ投入し、全量投入後、常温下で、30分以上攪拌した。その後、ヒーター加熱により80℃の高温下で更に12時間攪拌を行った後、自然放冷にて常温に戻すことで、電解質含有溶液として25wt/v%のS−PPBP含有NMP溶液を調製した。
ここで、S−PPBPの投入速度は、溶媒10mlに対し、0.5g/分とした。
2.電解質膜の形成
2−1.電解質含有溶液の塗布
上記1で作製された電解質含有溶液を、自動塗工装置を用いて、50μm厚のポリエチレンナフタレート基材に塗工して塗膜(ウェット状態)を形成した。塗布処理は、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−2.塗膜(ウェット状態)の熱処理
上記2−1により形成された塗膜(ウェット状態)を、乾燥機を用いて80℃で最低12時間以上熱処理することで膜(ドライ状態)を得た。熱処理は、大気雰囲気下、常圧にて行った。
2−3.膜(ドライ状態)の純水剥離
2−2で得られた膜を常温(室温)下で基材に固定された膜が破れたりしないように、純水に5分浸漬して膨潤させて膜にテンションが加わらないようにして、基材から剥離した。ここでも、大気雰囲気下、常温、常圧で行った。
2−4.膜の乾燥
剥離された純水を含んだ膜を、真空乾燥器に入れ、常温(室温)で3時間以上、真空乾燥を行って、所望の複合電解質膜を形成した。
(実施例3−1)
フラレノール[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ(nanom spectra)HX10−S]25mgを、20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、30分間80℃に加熱し完全に溶解させた。このフラレノール溶解液に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)500mgを加え、2時間、80℃で撹拌することによって、フラレノール及びスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)が均一に溶解したフラーレン−電解質混合液を調製した。このフラーレン−電解質混合液を、100cm2のガラス板上に展開し、80℃のオーブンで12時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが45μmの均一な厚みの電解質膜を得た。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、5質量%である。
この膜を水で膨潤させ剥離した後、膜の4辺を枠で固定した。水中に1晩漬け、電解質膜表面に付着したフラレノールおよび残留している微量の溶媒を除去した後、真空乾燥機にて100℃、5時間の乾燥を行った。
(実施例4−1)
フラレノール[フロンティアカーボン株式会社製、ナノムスペクトラ(nanom spectra)HX10−S]100mgを、20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、30分間80℃に加熱し完全に溶解させた。このフラレノール溶解液に、電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)500mgを加え、2時間、80℃で撹拌することによって、フラレノール及びS−PESが均一に溶解したフラーレン−電解質混合液を調製した。このフラーレン−電解質混合液を、100cm2のガラス板上に展開し、80℃のオーブンで12時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが45μmの均一な厚みの電解質膜を得た。なお、このようにして得られた電解質膜におけるフラレノールの含有量は、電解質に対して、20質量%である。
この膜を水で膨潤させ剥離した後、膜の4辺を枠で固定した。水中に1晩漬け、電解質膜表面に付着したフラレノールおよび残留している微量の溶媒を除去した後、真空乾燥機にて100℃、5時間の乾燥を行った。
(比較例2−2)
電解質としてのスルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)500mgを20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に添加し、2時間、80℃で撹拌することによって、S−PESが均一に溶解した電解質液を調製した。この電解質液を、100cm2のガラス板上に展開し、80℃のオーブンで12時間、加熱し、乾燥することによって、厚みが45μmの均一な厚みの電解質膜を得た。
この膜を水で膨潤させ剥離した後、膜の4辺を枠で固定した。水中に1晩漬け、真空乾燥機にて100℃、5時間の乾燥を行った。
電解質膜の性能評価については、実施例、比較例とも以下のように行った。
「プロトン伝導度測定」
インピーダンスの測定にはソーラトロン社のインピーダンスアナライザーを用い、交流法にて行った。振幅10mV、10k〜100kHzの周波数掃引を行い、得られたcole−coleプロットを用いてプロトン伝導度を評価した。なお、評価には小開口仕様(幅30mm×長さ15mm)セルを用いた。
なお、上記測定では、サンプルは、電気的に絶縁された密閉容器中に支持され、水蒸気雰囲気(30〜95%RH)で、温度コントローラーによりセル温度を室温から80℃まで変化させ、各湿度条件において、恒温恒湿槽が定常状態になってから30分経過後に、インピーダンスを3回測定した。プロトン伝導度(S/cm)を図3、6、および9に示す。
「含水率、拡散係数」
含水率、拡散係数の測定にはHIDEN社の水吸着測定装置IGA Sorpを用い、重量法にて行った。2cm2程度の電解質膜を2時間乾燥後、80℃にて湿度を5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95%RHと変化させ、重量変化量(水分量)の時間変化を電子天秤でリアルタイムで測定する。含水率は、イオン交換容量ベースでスルホン酸基1個当たりの水分子の数(H2O/SO3H)とした。拡散係数の算出方法は、発明の最良の形態において説明した「数1」のとおりで行なった。この時間変化から、含水率、水の拡散係数を算出した結果は図1、2、4、5、7、および8に示す。
「発電評価」
<カソード用触媒インク>市販のNafion溶液(アルドリッチ社製5質量%溶液)にPt担持カーボン(白金担持量:50質量%)の微粒子を、カーボンとNafionの質量比がカーボン:Nafion=1:0.8となるように混合した後、ホモジナイザー(粉砕器)に3時間ほどかけてカソード用触媒インクを作製した。
<アノード用触媒インク>カソード用触媒インクと同様の手順でアノード用触媒インクを作製した。
「触媒層転写シート作製」
前記のように調製したインクを、スクリーンプリンタを使用して、台紙として使用するテフロンシート上に塗布して、カソード用およびアノード用触媒層転写シートを作製した。台紙としてはテフロンシートの他にPET(ポリエチレンテレフタレート)シートなどが優れている。Pt担持量が0.4mg/cm2となるまで塗布、乾燥を繰り返すことで、所定白金量の触媒層転写シートを作製した。
「触媒層の転写」
前記のように作製したカソード用およびアノード用触媒層転写シートの触媒層面にエタノールをスプレーして浸潤させ、触媒層表面が乾燥してきたところで、これらの転写シートで作製した電解質膜を挟みこみ、130℃、6.5MPa、保持時間10分にてホットプレスを行なった。エタノールで浸潤させるのは、触媒層および膜の電解質を柔軟にさせ、触媒層の転写を容易にするためである。
冷却後、転写シートの台紙をはがし、膜−触媒層接合体を作製した。
本実施例はカソードのバインダのみ非フッ素系固体高分子電解質を使用し、アノードのバインダは通常のNafionとした。これはCV(サイクリック・ボルタンメトリ)測定時の参照極とするのに、アノードのバインダをNafionとする方が都合がよいためであり、両極とも非フッ素系固体高分子電解質を使用したバインダにしても本質的に変わらないことは言うまでもない。
「発電条件」
発電は、アノードに純水素、カソードに空気(両方とも大気圧)を供給して行なう。発電条件は、セル温度80℃、アノードガス相対湿度20%、カソードガス相対湿度60%、水素利用率67%、空気利用率40%である。IV性能は図10に示す。
図1〜9の結果から明らかなように、比較例1、2の電解質膜に比して、本発明の複合電解質膜(実施例1〜3)では、プロトン伝導度は同等かそれ以上である、さらに広範囲の湿度条件で含水量が1割前後上がるのに対し、拡散係数は2倍以上向上させることが出来たことが確認できた。特に、実施例1の電解質膜は、図10の発電試験から明らかなように、高電流密度側でフラッディングが起きにくく、性能が向上する。このことから、燃料電池自動車などの用途に適用すると、水素を加湿する加湿装置が不要になるか、簡易な加湿装置で足りることとなったり、単位面積当たりの発電電力が向上することによりセル枚数を削減することができ、小型化が見込まれる。