JP2007262470A - ベルト式cvt用プーリー - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性に優れたCVT用プーリーを提供すること。
【解決手段】ベルト式CVT1におけるベルト3と摺動する摺動面210、220を有し、素材の鋼として、JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼を用いて製造されたベルト式CVT用プーリー21、22。摺動面210、220は、その表面に、内部よりも高強度の硬化層を有する時に、表面粗さRzが1.4〜6.3μmである。JISB0671で規定する突出山部高さRpkとの突出谷部深さRvkの比であるRpk/Rvkが0.75未満を満たす表面性状を有する。
【選択図】図2

Description

本発明は、自動車等の変速機として最近使用比率が増加しているベルト式無段変速機に用いられるベルト式CVT用プーリーに関するものである。
自動車のベルト式無段変速機(以下、ベルト式CVTという)は、従来多く使用されてきた3速、又は4速の自動変速機(AT)と比較すると変速ショックがなく、滑らかな加速が得られることや燃費の点で有利である。そのため、ベルト式CVTを搭載した自動車が増加してきた。しかしながら、ベルト式CVTは、従来のATに比較して重量が重くなるという欠点を有しており、重量がより軽くて高容量の得られるベルト式CVTの開発が強く望まれている。
上記ベルト式CVTは、溝幅が可変の一対のベルト式CVT用プーリー間にベルトを巻き掛けた構造を有し、上記ベルト式プーリーの溝幅を変化させることにより変速を可能とする無段変速機である。
上記ベルト式CVTは、ベルトとプーリーの摺動面との間で、極めて高い圧力が負荷された状態で使用される。また、ベルトは、後述する図2に示すごとく、鋼製で板状のエレメント31を多数重ね、上記エレメント31に設けた左右の溝部分311にスチールバンド32をはめ込むことによって得られる。すなわち、上記ベルト3を構成する鋼製のエレメント31と接する上記摺動面21は、非常に摩耗し易い状態で使用される。このような状況下で、重量がより軽くて高容量の得られるベルト式CVT1を得るためには、上記摺動面21を、より高い面圧を負荷させた場合でも摩耗が増加することのないようにすることが必要であり、そのための技術開発が不可欠となる。
このように、プーリーの摺動面では極めて高い耐摩耗性が要求されることから、従来から、摺動面に浸炭処理や浸炭窒化処理を行うことにより表層の硬度を高め、必要な耐摩耗性を確保してきた。しかしながら、上述のごとく、ATに比べ重くなるという欠点を解決するためには、従来から行われている浸炭処理などの表面硬化処理の仕方を改善して、さらに耐摩耗性を向上できる新しい技術の開発が必要である。
これに対し、特許文献1、2には、浸炭による硬化深さを深くすることがベルト式CVT用プーリーの性能を高めるために必要であることが記載され、従来、鋼を用いて通常の浸炭処理を行った場合には、硬化層を深くするために、より長時間の浸炭処理が必要になること、浸炭処理時間を短縮するために高温で浸炭処理を行うと、結晶粒の粗大化を生じるため、容易に浸炭処理を高くすることができないことが記載され、その課題を解決するために、Nb、Tiなどの析出物を有効利用した鋼を適用することが提案されている。
また、特許文献3には、特許文献1、2のような成分の最適化を特徴とする発明ではなく、エレメントとプーリーの間の摺動によって起きる摩耗現象が、プーリーの摺動面の表面粗さRaをある範囲内とした場合に、小さく抑えられることを特徴とする新しい提案について記載されている。
特開2000−160288号公報 特開2005−200667号公報 特開2000−130527号公報
しかしながら、上述の特許文献に記載の発明には、以下の問題がある。
特許文献1、2は、化学成分を最適化することにより、1000℃を超える高温浸炭処理を行っても結晶粒粗大化が生じないようにして、短時間の浸炭処理で深い硬化深さを実現し、耐摩耗性を改善することを特徴としている。このような成分最適化型の改善や、硬化処理後の表面層の最適化、使用される鋼材側の最適化による耐摩耗性向上技術は、浸炭窒化処理に関する特許も含め、他にも多数の特許が公開され、従来から活発な研究開発が行われてきた。
しかしながら、摺動面における摩耗現象がどのように進んでいくかという点は、使用される鋼材側だけの問題のみで決定されるのではなく、ベルトとプーリーの摺動面がどのように接触しているかによって大きく左右されると考えられる。
それに対し、特許文献3には、ベルトとプーリーとの接触状態をどうすれば摩耗が低減できるかという一つの提案として、シーブ面の表面粗さをある範囲内とすることが提案されている。しかし、実際には、Raという単純な高さ方向の粗さの大きさのみを制御するだけでは摩耗現象を十分に抑制することが困難であることがわかった。
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性に優れたCVT用プーリーを提供しようとするものである。
本発明は、ベルト式CVTにおけるベルトと摺動する摺動面を有し、素材の鋼として、JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼を用いて製造されたベルト式CVT用プーリーであって、
上記摺動面は、その表面に内部よりも高硬度の硬化層を有すると共に、表面粗さRzが1.4〜6.3μmであり、かつJISB0671に規定されている突出山部高さRpkとの突出谷部深さRvkの比であるRpk/Rvkが0.75未満を満たす表面性状を有することを特徴とするベルト式CVT用プーリーにある(請求項1)。
本発明者らは、従来から行われている表面硬化処理を適切に行って、使用する素材自身の持つ耐摩耗性を十分に高めた鋼材を用いることを前提として、さらに、いかなる条件がベルト式CVT用プーリーの摺動面で生じる摩耗現象に大きく起因しているかについて詳しく調査した。その結果、上記摺動面の微小な凹凸形状のパターンが、上記摺動面と接触するベルトとの境界の潤滑油保持状況、すなわち、油膜保持状況に大きな影響を及ぼすことを見出し、更に、加工の都合ばかり考慮して微小凹凸形状になんら考慮することなくベルト式CVT用プーリーを製造した場合には、摺動面の摩耗を適切に低減することが困難になることを見出したのである。以下、上記摺動面の摩耗を低減するためのポイントとなる点について説明する。
(1)上記ベルトのうち、上記ベルト式CVT用プーリーと接触するエレメント側面(以下、ベルトと記す)は、摩擦力を安定したいという目的から、上記摺動面との接触面側で約0.1mm程度のピッチで凹凸が設けられていることが多い。凸部角部では、上記摺動面との間で局所的に高応力が発生すると共に、潤滑膜が大きく分断され、金属接触が生じる可能性がある。この際、上記摺動面に適当な大きさの凹凸を設けておくと、油膜が小さく分断されるに留まり、且つ、凸部角部に生じる局所応力が緩和されるので、摩耗の進行を抑制することができる。本発明のベルト式CVT用プーリーは、ベルトの形状によらず効果を得ることができる。
(2)上記摺動面の旋削等による機械加工の後、例えば、粗研磨加工したり、さらにショットピーニング処理やラッピング加工を行うことによって、機械加工のままの状態で尖っていた部分の先端を適度につぶす方法を採用する。この方法により、突出して高くなっている突出山部高さを低下させ、突出谷部深さをそのまま確保することにより、突出谷部の深さに比べ、突出山部の高さを低くする。これにより、摺動面とベルトが面で接触する部分が増加し、局所的に高い応力が生じるのを防止することができ、かつ、上記突出谷部深さを突出山部高さと比較して深くすることにより、油膜保持効果を高めることができ、摩耗の進行を抑制することができる。
なお、本発明は、上記素材の成分に特徴を有する発明ではない。そのため、上記素材として、JISG4053に規定されているクロム鋼、またはクロムモリブデン鋼を適用できるのはもちろんであるが、後述するごとく、JISG4053に規定されているクロム鋼、またはクロムモリブデン鋼に若干の成分を追加で添加した鋼を適用しても良い。
また、本発明の主な特徴は、ベルトと摺動する摺動面の表面性状を具体的に規定した点にあるが、表面硬さを十分に高めていない状態で、優れた耐摩耗性を得られないことは説明するまでもないことである。従って、上記摺動面は、その表面に、内部よりも高硬度の硬化層を有することを前提とする。この硬化層は、例えば、浸炭層や浸炭窒化層等、公知の種々の硬化層を採用できる。なお、ここで言う表面硬さとは、表面から0.05mmの深さにおける硬さのことを言う。
また、硬さのみ高くても硬化深さが浅い場合には、長期間継続して優れた耐摩耗性を得ることが困難なため、硬化深さを0.5mm以上とすることが好ましい。上記硬化深さとは、JISG0557で規定されている通り、Hv550以上の硬さとなっている深さのことを言う。
また、上記ベルト式CVT用プーリーの上記摺動面は、表面粗さRzが1.4〜6.3μmである。
摩耗現象の進行がどうなるかは、潤滑油の存在によって、ベルトと摺動面が直接金属接触する領域を細かく分断することがポイントとなる。潤滑油がベルトと摺動面との間に切れ目なく存在可能とするためには、上記摺動面に微小な凹凸を設け、ベルトと摺動面との隙間に潤滑油が存在可能とする必要がある。
本発明は、上述のごとく、上記摺動面を微小凹凸を有する面とすることにより、油膜を小さく分断し、ベルトと摺動面との間で金属接触が生じたとき、近傍の油膜が、その後互いにスリップして接触位置が移動した際にすぐに供給されるようにして金属接触領域を細かく分断し、耐摩耗性を改善することができる。
上記表面粗さが1.4μm未満の場合には、油膜切れが生じやすくなり、金属接触が起きやすくなるため、摩耗現象の進行が早くなるという問題がある。
また、摩耗現象は、摺動面だけでなく、ベルトの摩耗現象も同時に考慮する必要がある。すなわち、摺動面の表面粗さが大きすぎる場合には、油膜切れ領域の縮小を図ることは容易となるが、相手攻撃性が高くなってベルトの摩耗が大きくなるという問題がある。そのため、上記表面粗さRzの上限を6.3μmとした。
また、上記ベルト式CVT用プーリーの上記摺動面は、JISB0671で規定する突出山部高さRpkとの突出谷部深さRvkの比であるRpk/Rvkが0.75未満を満たす表面性状を有する。
上述したように、優れた耐摩耗性を得るためには摺動面の表面粗さを最適化する必要があるが、表面粗さを適正化するのみでは、十分な効果が得られにくい場合がある。
本発明では、表面の尖った箇所を少なくし、表面に潤滑油を確実に介在するように、上記突出山部に比較して上記突出谷部深さが深い表面性状とするため、Rpk/Rvkを0.75未満とした。
このような条件を満たす表面性状を概念的にモデル図として示したものが図1である。同図のように、上記突出山部81に比較して上記突出谷部82が深い表面性状を有することにより、表面の尖った箇所が少なくなり、摺動面とベルトとが面で接触する部分が増加するため、ベルトと摺動面との間の局所面圧が低く抑えることができる。また、谷部を山部に比較して深くすることによって油膜保持効果が高まり、表面に潤滑油を介在させることができる。それ故、摩耗現象の進行が大きく抑制され、優れた耐摩耗性を得ることができる。
なお、上記Rpk/Rvkの値は、部品の使用による摩耗現象の進行によって変化するものであり、初期状態で上記Rpk/Rvkが上記範囲を満足する場合でも、時間の進行とともに、上記Rpk/Rvkが上記範囲外になることはありえる。従って、本発明で規定する上記Rpk/Rvkは、使用開始の時点での状態を意味している。使用開始時にRpk/Rvkが0.75未満を満たす表面性状を有するベルト式CVT用プーリーを用いることによって、使用開始後の摩耗の進行を抑制できるため、寿命の長いベルト式CVTプーリーを提供することができる。
ここで、Rpk/Rvkが0.75未満を満たす、突出山部高さが小さく、突出谷部深さが大きい表面性状を得るための手段であるが、例えば、基本的に仕上げ加工を行った後、突出谷部深さに影響がでないように、突出山部の特に尖っている部分を意図的に潰す精密仕上げ加工を施す方法が挙げられる。具体的には、次のような方法が挙げられる。
(1)仕上げ加工を行った後、精密仕上げ加工を、凸部先端のみが潰され、凹部が残った状態で終了するように実施する。例えば、仕上げ加工として♯100程度の粒度の砥石で研磨加工を施すことで、必要とする突出谷部深さを得る。その後、精密仕上げ加工として、♯1000程度の粒度の細かい砥石を用いた研磨加工や、電解研磨を施す等の方法で、上記仕上げ加工の砥石による研磨痕が完全に消失しない程度に、更に研磨することで、突出谷深さにほとんど影響を及ぼさずに突出山部高さを低減することが可能である。
また、送り速度の調整等により、粗さが適当なレベルになるよう適正化して加工すれば、上記♯100程度の粒度の砥石による研磨加工の代わりに、研削工具による研削加工によっても、上記と同様の砥石研磨や電解研磨を行うことによっても、目的の表面性状を得ることができる。また、これらの加工方法を併用しても良い。
(2)(1)の仕上げ加工と同様の仕上げ加工を行った後、精密仕上げ加工として、適当な粒径(0.05〜0.2mm)のショット粒によるショットピーニング処理を施すことにより、突出山部の尖った部分を潰して、目的とする表面性状を得る。
(3)(1)の仕上げ加工と同様の仕上げ加工を行った後、(1)に記載の精密加工仕上げと、(2)に記載の精密加工仕上げとを併用することにより、目的とする表面性状を得る。
また、上記ベルト式CVT用プーリーは、上記硬化層は、炭素濃度が0.65〜1.4質量%、表面硬さがHv700以上の浸炭層であることが好ましい(請求項2)。
優れた耐摩耗性を得るためには、表面硬化処理により表面硬さを高める必要がある。この場合には、表面硬化処理として浸炭処理を施し、上記浸炭層の炭素濃度を0.65質量%以上に高めて、表面硬さを高めることが好ましい。
上記炭素濃度が0.65%未満の場合には、表面硬さが低くなるおそれがある。一方、上記炭素濃度が1.4%を超えると、必要な処理時間が長くなり、生産性が低下するおそれがある。
ここで、高炭素濃度の浸炭層を得る方法としては、例えば、浸炭時の雰囲気ガスのカーボンポテンシャルを高めて処理すれば良く、通常高濃度浸炭と呼ばれている方法が挙げられる。この高濃度浸炭を適用すれば、達成が可能である。
なお、ここで言う浸炭層は、部品としての最終加工後における表面から深さ100μmまでの範囲のことであり、上記炭素濃度の値は、上記浸炭層の範囲の平均炭素濃度とする。
また、本発明の主な特徴は、ベルトと摺動する摺動面の表面性状を具体的に規定した点にあるが、上記摺動面の表面に内部よりも高硬度の硬化層を有することを前提に、表面性状を最適化した場合に、優れた耐摩耗性が得られるのである。そのため、表面硬さを十分に高めていない状態で、優れた耐摩耗性を得られないことは説明するまでもないことである。従って、優れた耐摩耗性を得るために、表面硬さがHv700以上であることが好ましい。
また、上記硬化層は、窒素濃度をN(質量%)、表面硬さをH(Hv)とすると、H≧−320N+700を満たす浸炭窒化層であることが好ましい(請求項3)。
優れた耐摩耗性を得るためには、上述したごとく、表面硬化処理により表面硬さを高める必要がある。この場合には、表面硬化処理として浸炭窒化処理を行い、表層の炭素濃度及び窒素濃度を高め、上記窒素濃度N、上記表面硬さHが、H≧−320N+700を満たし、上記窒素濃度Nと上記表面硬さHとの関係を適正化することが好ましい。
このような式によって窒素濃度Nと表面硬さHとの関係を適正化したのは、窒素の含有量が多い場合には、上記表面硬さが低い場合でもより優れた耐摩耗性を得られるためであり、−320N+700以上の表面硬さを有していれば、優れた耐摩耗性を得ることができる。
しかしながら、上記窒素濃度Nと上記表面硬さHとの関係がH<−320N+700となった場合には、表面硬さが不十分になり、必要とする耐摩耗性を得ることができないおそれがある。
なお、窒素濃度Nが高いほど低い表面硬さでも優れた耐摩耗性を得ることができるのは、上記窒素濃度Nが高くなると、焼戻し軟化抵抗が向上すると共に、鋼中の残留γが多くなり、このγが使用中にマルテンサイト変態することで、使用中の軟化が抑制されるためである。
ここで言う浸炭窒化層とは、部品としての最終加工後における表面から深さ100μmまでの範囲のことであり、上記窒素濃度Nの値は、上記浸炭窒化層の範囲の平均窒素濃度とする。
また、上記鋼に含有しているSi、Moの少なくとも一方を質量%で、Si:0.35%超え〜1.0%、Mo:JIS規格の上限超え〜0.80%の範囲に増量してなることが好ましい(請求項4)。
Si:0.35%超え〜1.0%、
上記Siは、焼き戻し軟化抵抗を高められる元素としてよく知られており、ベルトと摺動面との摺動によって温度が上昇した場合における硬度低下を防止する効果を有する。従って、JIS規格の上限である0.35%を超えて増量できることとした。但し、上記Siの濃度が1.00%を超える場合には、浸炭異常層が増加し、強度低下の原因となるおそれがあるため、上限を1.00%とした。
Mo:JIS規格の上限超え〜0.80%、
上記Moは焼入れ性向上に効果を有する元素であると共に、硬化層及び芯部の強度、靭性を改善する元素でもある。また、Moは、浸炭異常層の生成を抑制する元素であり、焼きもどし軟化抵抗向上のため、浸炭異常層を増大する元素であるSiを増量した場合に、Moを添加することによって、浸炭異常層を適正レベルに調整可能にできる効果がある。従って、必要に応じてJIS規格の上限を超えて添加できることとした。しかしながら、上記Moは高価な元素であり、多量の添加はコストアップにつながり好ましくないため、上限を0.80%とした。なお、下限をJIS規格の上限超としたのは、JISの規格鋼によって規格上限の値が異なっているため、具体的数値では規定できなかったためである。
また、上記鋼は、質量%で、更に、Nb:0.005〜0.2%、Ti:0.005〜0.2%、Ni:0.05〜1.0%、あるいはB:0.0005〜0.005%のうち1種又は2種以上を添加してなることが好ましい(請求項5)。
Nb:0.005〜0.2%、Ti:0.005〜0.2%、
Nb及びTiは表面硬化処理前の素材の段階で、鋼中に炭窒化物となって析出し、ピンニング効果により、表面硬化処理による結晶粒粗大化を防止する効果を有する。上述したように、優れた強度を得るために深い硬化深さを得るためには、表面硬化処理時間を長くする必要がある。その際、表面硬化処理温度を高くして、処理時間短縮を図ることは、生産性を高めるために必須となり、高い処理温度としても結晶粒粗大化防止を可能とするためには、上記Nb及びTiの添加が効果的であるため、上記JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼に加えて追加添加できるものとした。
なお、上記Nb、Tiの添加量の下限を0.005%としたのは、それ未満の量では添加効果が得られないおそれがあるためであり、一方、上限を0.20%としたのは、多量に添加しても効果が飽和するとともに、かえって析出した炭窒化物が粗大化してピンニング効果が小さくなると共に、ベルトに対する攻撃性が増大して、ベルト側の摩耗が増加するおそれがあるからである。
B:0.0005〜0.005%、
上記Bは少量の添加で焼入れ性を向上させることのできる元素である。従って、部品寸法、要求特性などに応じて適量添加できることにしておくことは必要であると考えられるため、上記JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼に加えて追加添加できるものとした。なお、0.0005〜0.005質量%としたのは、従来からの経験で、この程度の添加が適当であることが良く知られているからである。
Ni:0.05〜1.0%、
また、上記Niは、鋼の強度、靭性を改善する元素であるため、要求特性に合わせ、上記JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼に加えて追加添加できるものとした。なお、範囲を0.05〜1.0%としたのは、上記Niの添加量が0.05質量%未満の場合には、効果が得られないおそれがあり、1.0質量%を超える場合には、効果が飽和するとともにコストアップにつながるおそれがあるからである。
(実施例1)
本発明のベルト式CVT用プーリーにかかる実施例について、図2を用いて説明する。
図2に示すごとく、本例のベルト式CVT用プーリー21、22(以下、プーリー21、22という)は、ベルト式CVT1におけるベルト3と摺動する円錐状の摺動面(シーブ面ともいう)210、220を有するものである。2つのプーリー21の摺動面210を間隔可変(溝幅可変)の状態で対面させることによってプライマリプーリーを構成し、2つのプーリー22の摺動面220を間隔可変の状態で対面させることによってセカンダリプーリーを構成する。
ベルト式CVT1のベルト3は、鋼製で板状のエレメント31を多数重ね、上記エレメント31の両側面に設けた溝部分311にスチールバンド32をはめ込むことによって得られるものである。ベルト式CVT1は、このベルト3を、溝幅が可変の一対のプーリー21、22間に巻きかけ、溝幅を変更させることにより、変速が可能となるものである。
本例では、本発明の実施例及び比較例として、複数種類の試料(ベルト式CVT用プーリー)を作製し、その特性を評価した。
各試料を製作するに当たっては、まず、素材として、表1に示す組成の鋼を使用した。
また、摺動面に、浸炭処理及び、表面加工を施した。
Figure 2007262470
上記浸炭処理としては、以下の条件で、高濃度浸炭と呼ばれる方法を行った。まず、950℃で7.7時間保持した後、850℃で0.75時間保持し、その後、130℃で油焼入れした後、150℃で1時間焼き戻しを行った。
次に、上記摺動面に対して表面加工を施し、摺動面の表面性状が異なる試料を作製した。上記表面加工としては、研削、上面砥石研磨、上面微粒ショット、上面研削のうち1種又は2種を施した。ここで、上面とは、仕上げ加工後の突出山部の突出している部分に加工を施すことを意味する。上記表面加工について説明する。
(研削)
仕上げ加工として、切削工具を用いて研削加工を施し、必要とする突出谷部深さを得た。
(上面砥石研磨)
精密仕上げ加工として、突出谷部深さに影響を与えないように、#80〜1000程度の粒度の砥石を用いて研磨を施し、突出山部高さを低減し、Rpk/Rvkを変化させた。
(上面微粒ショット)
精密仕上げ加工として、突出谷部深さに影響を与えないように、φ0.3mmの微粒ショットを用いて、ショットピーニング処理を施し、突出山部高さを低減し、Rpk/Rvkを変化させた。
(上面研削)
精密仕上げ加工として、突出谷部深さに影響を与えないように、切削工具を用いて研削加工を施し、突出山部高さを低減し、Rpk/Rvkを変化させた。
なお、得られた試料を表2、表3に示す。
次に、得られた試料について、摩耗試験を行い、耐摩耗性を評価した。
上記摩耗試験は、各試料を組み付けた上述の構造のベルト式CVT1を、入力トルクを任意に変えられる設備に取り付けて行った。
上記ベルト式CVT1のベルト3の巻きかけ位置を、変速比が最大(γmax)となり、アンダードライブ側に固定した条件とすることにより、プライマリプーリー(プーリー21)に入力するトルク、摺動面210とベルト3とのベルト狭圧を実際に使用する際の最も厳しい条件となるようにして、摩擦試験を行った。
実際の使用では、アンダードライブ側の状態が長時間継続することはないため、この試験は現実の使用状態と比較して、非常に厳しい条件となっており、得られる結果から将来の高容量エンジンに搭載した時の摩耗量、あるいは、プーリーを小型化した時の摩耗量を再現・推測することができる。
具体的な条件は、プライマリプーリー(プーリー21)への入力トルクTin=200Nmの仕様のベルト式CVTに、プライマリプーリー(プーリー21)への入力トルクTin=300Nm、プライマリプーリー(プーリー21)への入力回転数Nin=3000rpm、γmax固定、油温150℃の環境下で17時間運転し、運転後のプーリー21の摺動面210の摩耗量を測定するという条件とした。
摩耗量が10μm以下の場合を合格とし、10μmを超える場合を不合格とした。結果を表2、表3に合わせて示す。
Figure 2007262470
Figure 2007262470
表2及び表3より知られるごとく、本発明の実施例である試料E1〜試料E19は、摺動面における摩耗が10μm以下であり、良好な結果を示した。
これに対し、本発明の比較例である試料C1〜試料C3は、Rpk/Rvkが本発明の上限を上回るため、表面の尖っている部分が多くなり、摺動面における局所面圧が高く、摩耗現象が進行するため、摺動面における摩耗が10μmを超え、不合格であった。
また、本発明の比較例である試料C4は、表面硬さが本発明の好ましい範囲の下限を下回るため、耐摩耗性が劣り、摺動面における摩耗が10μmを超え、不合格であった。
また、本発明の比較例である試料C5は、表面粗さRzが本発明の下限を下回るため、油膜切れが生じやすくなり、金属接触が起きやすくなるため、摩耗現象の進行が早くなり、摺動面における摩耗が10μmを超え、不合格であった。
また、本発明の比較例である試料C6は、表面粗さRzが本発明の上限を上回るため、相手攻撃性が高くなって摩耗が大きくなるため、摺動面における摩耗が10μmを超え、不合格であった。
(実施例2)
本例は、実施例1の浸炭処理を浸炭窒化処理に変更した例である。他は、実施例1と同様である。
上記浸炭窒化処理としては、従来から行われている浸炭窒化処理を以下の条件で行った。まず、950℃で6時間保持した後、840℃で4時間保持し、その後、60℃で油焼入れを行い、160℃で80分間焼き戻しを行った。
得られた試料、及び、摩耗試験の結果を表4に示す。
Figure 2007262470
表4より知られるごとく、本発明の実施例である試料E20〜試料E26は、摺動面における摩耗が10μm以下であり、良好な結果を示した。
これに対し、本発明の比較例である試料C7〜試料C11は、表面硬さHが、本発明の好ましい範囲の下限を下回るため、耐摩耗性が劣り、摺動面における摩耗が10μmを超えた。
また、本発明の比較例である試料C12及び試料C13は、Rpk/Rvkが本発明の上限を上回るため、表面の尖っている部分が多くなり、摺動面における局所面圧が高く、摩耗現象が進行するため、摺動面における摩耗が10μmを超え、不合格であった。
ここで、本例における窒素濃度Nと表面硬さHとの関係を図3を用いて説明する。図3は、横軸に窒素濃度N(質量%)、縦軸に表面硬さH(Hv)をとり、上記試料E20〜試料E26、試料C7〜試料C11についてプロットしたものである。同図における○印は、上記摩耗試験の結果が合格であることを示し、また、×印は、上記摩耗試験の結果が不合格であることを示す。
図3より知られるごとく、上記窒素濃度N、上記表面硬さHが、H≧−320N+700を満たす場合には、耐摩耗性に優れたCVT用プーリーを得ることができる。
表面性状を概念的に示したモデル図。 実施例1における、ベルト式CVTの構成を示す説明図。 実施例2における、窒素濃度をNと表面硬さをHとの関係を示すグラフ図。
符号の説明
1 ベルト式CVT
21 ベルト式CVT用プーリー
22 ベルト式CVT用プーリー
210 摺動面
210 摺動面
3 ベルト
31 エレメント
311 溝部分
32 スチールバンド

Claims (5)

  1. ベルト式無段階変速機(以下、ベルト式CVTという)におけるベルトと摺動する摺動面を有し、素材の鋼として、JISG4053に規定されているクロム鋼、または、クロムモリブデン鋼を用いて製造されたベルト式CVT用プーリーであって、
    上記摺動面は、その表面に内部よりも高硬度の硬化層を有すると共に、表面粗さRzが1.4〜6.3μmであり、かつJISB0671に規定されている突出山部高さRpkとの突出谷部深さRvkの比であるRpk/Rvkが0.75未満を満たす表面性状を有することを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
  2. 請求項1において、上記硬化層は、炭素濃度が0.65〜1.4質量%、表面硬さがHv700以上の浸炭層であることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
  3. 請求項1において、上記硬化層は、窒素濃度をN(質量%)、表面硬さをH(Hv)とすると、H≧−320N+700を満たす浸炭窒化層であることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項において、上記鋼に含有しているSi、Moの少なくとも一方を質量%で、Si:0.35%超え〜1.0%、Mo:JIS規格の上限超え〜0.80%の範囲に増量してなることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項において、上記鋼は、質量%で、更に、Nb:0.005〜0.2%、Ti:0.005〜0.2%、Ni:0.05〜1.0%、あるいはB:0.0005〜0.005%のうち1種又は2種以上を添加してなることを特徴とするベルト式CVT用プーリー。
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