JP2007262439A - 傾斜組成鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】鋼材の製造工程にて合金元素の添加量を増加することなく製造できかつ耐食性と耐疲労性を向上させた鋼材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.55質量%以下,Si:0.5質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Al:0.5質量%以下を含み、かつ特定合金元素MとしてCu,Ni,MoおよびWの中から選ばれる1種以上を0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなる鋼材を、大気中にて700〜1150℃で1時間以上保持した後、鋼材の表面に形成されたFe主体のスケールを除去して傾斜組成鋼材を製造する。
【選択図】図1
【解決手段】C:0.55質量%以下,Si:0.5質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Al:0.5質量%以下を含み、かつ特定合金元素MとしてCu,Ni,MoおよびWの中から選ばれる1種以上を0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなる鋼材を、大気中にて700〜1150℃で1時間以上保持した後、鋼材の表面に形成されたFe主体のスケールを除去して傾斜組成鋼材を製造する。
【選択図】図1
Description
本発明は、合金添加元素の一部もしくはその多くを表層に濃化させた傾斜組成を有する鋼材(以下、傾斜組成鋼材という)とその製造方法に関するものであり、特に耐食性,耐疲労性,化成処理性等の機能を母材そのものよりも大幅に向上させた傾斜組成鋼材、およびその傾斜組成鋼材を安価に製造する方法に関するものである。
種々の機械部品に使用される鋼材表面の機能性(たとえば耐食性,耐疲労性等)を向上させる手段として、これまで様々な技術が検討されている。
たとえば鋼材の耐食性に着目した場合は、表面に塗装やめっきを施す表面処理鋼材、あるいは合金元素を添加する合金鋼材が種々検討されている。
表面処理鋼材は、鋼材の製造工程に加えて、表面を改質(たとえば塗装,めっき等)する付加的な工程が必要となり、鋼材の製造コストの上昇は避けられない。さらに、塗装鋼材は時間の経過に伴って表面の塗装皮膜が劣化するので、表面性状の保全(たとえば再塗装等)に要する維持コストも必要である。めっき鋼材は、Zn等の重金属元素を使用するので、環境汚染を防止するための廃液処理コストも必要である。
たとえば鋼材の耐食性に着目した場合は、表面に塗装やめっきを施す表面処理鋼材、あるいは合金元素を添加する合金鋼材が種々検討されている。
表面処理鋼材は、鋼材の製造工程に加えて、表面を改質(たとえば塗装,めっき等)する付加的な工程が必要となり、鋼材の製造コストの上昇は避けられない。さらに、塗装鋼材は時間の経過に伴って表面の塗装皮膜が劣化するので、表面性状の保全(たとえば再塗装等)に要する維持コストも必要である。めっき鋼材は、Zn等の重金属元素を使用するので、環境汚染を防止するための廃液処理コストも必要である。
合金鋼材(たとえばステンレス鋼材等)では、特許文献1に、オゾンが溶存する酸化性酸性水溶液に鋼板を浸漬させ、鋼板表面にCrが濃化した不動態被膜を生成させることによって耐食性を向上させる技術が開示されている。また特許文献2には、蒸気温度が500℃に達する発電用ボイラーチューブとして使用する合金鋼材の表面に、PVD法等によってAlを多量に含むNiCr合金層を形成させた後、さらに大気中で酸化処理を行ない、表面に薄いAl2O3層を生成させることによって高温耐食性を確保する技術が開示されている。
次に鋼材の耐疲労性に着目すると、一般的には鋼材の表面硬さを高めることによって耐疲労性を向上させることが可能である。そのため、自動車部品等で使用される機械構造用鋼材では高周波焼入れ処理,表面浸炭処理,侵窒処理等によって表面改質が施される。これらの処理は、鋼材の素地とは異なる微細な組織を表面に形成するものであり、今日では既に確立された技術である。
このような一般的な表面改質技術に改善を加えて、耐疲労性をさらに向上させる技術が種々検討されている。
たとえば特許文献3には、焼入れした鋼材に引張り応力を付与しながらサブゼロ処理を施し、鋼材の表面に圧縮残留応力を導入することによって耐疲労性を飛躍的に向上させる技術が開示されている。
たとえば特許文献3には、焼入れした鋼材に引張り応力を付与しながらサブゼロ処理を施し、鋼材の表面に圧縮残留応力を導入することによって耐疲労性を飛躍的に向上させる技術が開示されている。
以上に列挙した鋼材表面の機能性を向上させる処理(すなわち塗装,めっき,不動態被膜,高周波焼入れ,表面浸炭,侵窒等)は、機械部品の製造工程にて鋼材を所定の形状に加工した後で行なわれるものである。したがって鋼材の製造工程では、鋼材の強度や切削加工性が要求される仕様を満たすように操業条件を管理する。
鋼材の製造と機械部品の製造に大別される工程の生産量を比較すると、相対的に鋼材の製造が大量生産であり、機械部品の製造が少量生産である。したがって従来のような機械部品の製造工程にて鋼材表面の機能性を向上させる処理を付加する方法は、生産効率(たとえばエネルギー消費等)の観点から改善の余地が残されている。
特開2001-335957号公報
特開2005-82828号公報
特開2003-166015号公報
鋼材の製造と機械部品の製造に大別される工程の生産量を比較すると、相対的に鋼材の製造が大量生産であり、機械部品の製造が少量生産である。したがって従来のような機械部品の製造工程にて鋼材表面の機能性を向上させる処理を付加する方法は、生産効率(たとえばエネルギー消費等)の観点から改善の余地が残されている。
本発明は上記のような問題を解消し、鋼材の製造工程にて合金元素の添加量を増加することなく製造できかつ耐食性と耐疲労性を向上させた鋼材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは、鋼材の製造工程にて鋼材表面の機能性を向上させて、機械部品の製造工程における加工に適合させる技術について鋭意検討した。その結果、鋼材の成分を適正範囲に規定し、かつ大気中で加熱して表面に酸化物(いわゆるスケール)を生成させた後、そのスケールを除去することによって、特定の合金元素(以下、特定元素Mという)が表層部に濃化した鋼材が得られることを見出した。つまり、特定元素Mが表層部に濃化した鋼材(以下、傾斜組成鋼材という)の各合金元素の含有量は従来の鋼材から変化せず、そのうちの元素Mが表面に濃化して鋼材表面の機能性を向上させる。
したがって傾斜組成鋼材は、各合金元素の含有量が従来から変化しないにも関わらず、表面の機能性が向上するので、合金元素の含有量を高めた鋼材と同等の耐食性や耐疲労性が得られることが分かった。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、特定合金元素Mを含有する鋼材の表層部に形成される濃化領域層における特定合金元素Mの原子濃度が、母材における特定合金元素Mの原子濃度の2倍以上であり、濃化領域層の厚みが1μm以上である傾斜組成鋼材である。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、特定合金元素Mを含有する鋼材の表層部に形成される濃化領域層における特定合金元素Mの原子濃度が、母材における特定合金元素Mの原子濃度の2倍以上であり、濃化領域層の厚みが1μm以上である傾斜組成鋼材である。
本発明の傾斜組成鋼材においては、鋼材が、C:0.55質量%以下,Si:0.5質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Al:0.5質量%以下を含み、かつM元素としてCu,Ni,MoおよびWの中から選ばれる1種以上を0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなることが好ましい。
また本発明は、C:0.55質量%以下,Si:0.5質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Al:0.5質量%以下を含み、かつ特定合金元素MとしてCu,Ni,MoおよびWの中から選ばれる1種以上を、Fe,C,Si,Mnおよび特定合金元素Mの合計量に対して0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなる鋼材を、大気中にて700〜1150℃で1時間以上保持した後、鋼材の表面に形成されたFe主体のスケールを除去する傾斜組成鋼材の製造方法である。
また本発明は、C:0.55質量%以下,Si:0.5質量%以下,Mn:1.0質量%以下,Al:0.5質量%以下を含み、かつ特定合金元素MとしてCu,Ni,MoおよびWの中から選ばれる1種以上を、Fe,C,Si,Mnおよび特定合金元素Mの合計量に対して0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなる鋼材を、大気中にて700〜1150℃で1時間以上保持した後、鋼材の表面に形成されたFe主体のスケールを除去する傾斜組成鋼材の製造方法である。
本発明の傾斜組成鋼材の製造方法においては、鋼材の表面に形成されたスケールを除去し、さらに還元性雰囲気で焼鈍を施すことが好ましい。
本発明によれば、鋼材の製造工程にて、合金元素の添加量を高めることなく、表面の機能性を向上させた鋼材を製造できる。その鋼材を用いて機械部品を製造すれば、鋼材の製造から機会部品の製造に至るトータルの製造コストを削減できる。
本発明の傾斜組成鋼材は、特定の合金元素M(すなわち特定元素M)が表層部に濃化したものである。ここでは特定元素Mが濃化した表層部を濃化領域層と記し、その他の部位を母材と記す。つまり、傾斜組成鋼材は濃化領域層と母材の集合体である。なお、傾斜組成鋼材の表層部とは、傾斜組成鋼材の製造工程にて生成したスケールを除去することによって現われる鋼材表面の近傍を指す。
特定元素Mは、傾斜組成鋼材の主成分であるFeよりも酸化され難い元素である。傾斜組成鋼材の母材における元素Mの原子濃度をDM1(原子%)とし、濃化領域層における元素Mの原子濃度をDM2(原子%)として、DM2<2DM1であれば、傾斜組成鋼材の耐食性と耐疲労性が十分に向上しない。したがってDM2とDM1が、DM2≧2DM1の関係を満たす必要がある。また、濃化領域層の厚みが1μm未満では、傾斜組成鋼材の耐食性と耐疲労性が十分に向上しない。したがって、濃化領域層の厚みは1μm以上とする。
次に、傾斜組成鋼材の成分の限定理由を説明する。
C:0.55質量%以下
Cは、傾斜組成鋼材の強度と靭性を確保するために必要な元素である。耐食性と耐疲労性を向上させるためには必ずしも重要な元素ではないが、0.55質量%を超える過剰な添加を行なうと、素材を溶製する段階で他の合金元素の偏析が顕著になる、粗大な炭化物を形成して他の合金元素の固溶量が減少する等の問題が生じる。したがって、Cは0.55質量%以下とする。一方、C含有量が0.3質量%未満では、十分な疲労強度が得られないので、Cは0.3〜0.55質量%の範囲内が好ましい。
C:0.55質量%以下
Cは、傾斜組成鋼材の強度と靭性を確保するために必要な元素である。耐食性と耐疲労性を向上させるためには必ずしも重要な元素ではないが、0.55質量%を超える過剰な添加を行なうと、素材を溶製する段階で他の合金元素の偏析が顕著になる、粗大な炭化物を形成して他の合金元素の固溶量が減少する等の問題が生じる。したがって、Cは0.55質量%以下とする。一方、C含有量が0.3質量%未満では、十分な疲労強度が得られないので、Cは0.3〜0.55質量%の範囲内が好ましい。
Si:0.5質量%以下
Siは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためSi含有量が0.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Siは0.5質量%以下とする。一方、Si含有量が0.1質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Siは0.1〜0.5質量%の範囲内が好ましい。
Siは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためSi含有量が0.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Siは0.5質量%以下とする。一方、Si含有量が0.1質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Siは0.1〜0.5質量%の範囲内が好ましい。
Mn:1.5質量%以下
Mnは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためMn含有量が1.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Mnは1.5質量%以下とする。一方、Mn含有量が0.5質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Mnは0.5〜1.5質量%の範囲内が好ましい。
Mnは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためMn含有量が1.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Mnは1.5質量%以下とする。一方、Mn含有量が0.5質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Mnは0.5〜1.5質量%の範囲内が好ましい。
Al:0.5質量%以下
Alは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためAl含有量が0.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Alは0.5質量%以下とする。一方、Al含有量が0.02質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Alは0.02〜0.5質量%の範囲内が好ましい。
Alは、素材を溶製する段階で脱酸剤として添加され、Feよりも容易に酸化される元素である。そのためAl含有量が0.5質量%を超えると、傾斜組成鋼材の表層部に内部酸化領域が形成され、特定元素Mの濃化領域層の生成が阻害される。したがって、Alは0.5質量%以下とする。一方、Al含有量が0.02質量%未満では、脱酸効果が充分得られないので、Alは0.02〜0.5質量%の範囲内が好ましい。
特定元素M:Cu,Ni,Mo,Wの中から選ばれる1種以上を0.5原子%以上
特定元素M(すなわちCu,Ni,Mo,Wの中から選ばれる1種以上)は、酸化物生成自由エネルギーがFeよりも小さい元素であり、傾斜組成鋼材の主成分であるFeよりも酸化され難い。特定元素Mは、素材を溶製する段階で必要に応じて添加され、溶製した素材を鋼材(たとえば鋼板,ビレット等)に加工する際に大気中で熱処理を施すことによって、傾斜組成鋼材の表層部に濃縮され、濃化領域層を生成する。
特定元素M(すなわちCu,Ni,Mo,Wの中から選ばれる1種以上)は、酸化物生成自由エネルギーがFeよりも小さい元素であり、傾斜組成鋼材の主成分であるFeよりも酸化され難い。特定元素Mは、素材を溶製する段階で必要に応じて添加され、溶製した素材を鋼材(たとえば鋼板,ビレット等)に加工する際に大気中で熱処理を施すことによって、傾斜組成鋼材の表層部に濃縮され、濃化領域層を生成する。
ここで、濃化領域層が形成される機構について説明する。溶製した素材を鋼材に加工する段階で熱処理を施すことによって、鋼材中のFeや各合金元素が外方へ(すなわち鋼材の内部から表面に向けて)拡散し、大気中のOが内方へ(すなわち鋼材の表面から内部に向けて)拡散する。その結果、鋼材の表面でFe等の酸化され易い元素がOと結合して酸化物(すなわちスケール)が形成される。ところが特定元素Mは、Feよりも酸化され難いので、スケールに取り込まれず、鋼材の表面近傍に残留して濃化する。
このようにして形成される濃化領域層における特定合金元素Mの濃度が母相濃度の2倍未満、好ましくは1.0原子%未満では、傾斜組成鋼材の耐食性と耐疲労性が十分に向上しない。濃化領域層における特定合金元素Mの濃度1.0原子%以上を確保するためには、特定合金元素Mを0.5原子%以上含有することが好ましい。なお、特定合金元素として2種以上の元素を選択する場合は、これらの元素の合計添加量がFe,C,Si,Mnおよび特定合金元素Mの合計量に対して0.5原子%以上であれば良い。一方、濃化領域層における特定合金元素Mの濃度が高ければ高いほど傾斜組成鋼材の耐食性と耐疲労性が改善するものの、このためには過剰に特定合金元素Mを含有する必要があり、素材内の合金元素をいたずらに増加させない本発明に反する。このため、特定合金元素の含有量は0.5〜2.0原子%の範囲内が好ましい。
次に、濃化領域層を形成するための熱処理を説明する。
特定元素Mは、傾斜組成鋼材の主成分であるFeよりも酸化され難い元素であるから、熱処理の温度範囲を広く設定できる。ただし、耐食性と耐疲労性を向上できる厚みの濃化領域層を短時間で形成するためには、特定元素Mの酸化を抑制しながら、Feの酸化を促進しなければならない。酸素分圧を高めて熱処理を行なうと、酸化を促進することは可能であるが、特定元素Mも酸化される惧れがある。したがって、濃化領域層を形成するための熱処理を大気中で行なう。熱処理を大気中で行なうことによって、雰囲気ガス制御の負荷が解消され、熱処理コストを削減する効果も得られる。
特定元素Mは、傾斜組成鋼材の主成分であるFeよりも酸化され難い元素であるから、熱処理の温度範囲を広く設定できる。ただし、耐食性と耐疲労性を向上できる厚みの濃化領域層を短時間で形成するためには、特定元素Mの酸化を抑制しながら、Feの酸化を促進しなければならない。酸素分圧を高めて熱処理を行なうと、酸化を促進することは可能であるが、特定元素Mも酸化される惧れがある。したがって、濃化領域層を形成するための熱処理を大気中で行なう。熱処理を大気中で行なうことによって、雰囲気ガス制御の負荷が解消され、熱処理コストを削減する効果も得られる。
熱処理は700〜1150℃の温度範囲で1時間以上行なう。熱処理温度が700℃未満では、Feの酸化が十分に進行しない。一方、熱処理温度が1150℃を超えると、特定元素Mの酸化が進行する。なお、熱処理温度は900〜950℃が好ましい。また、保持時間が1時間未満では、Feの酸化が十分に進行しない。ただし、保持時間が5時間を超えると、特定元素Mの酸化が進行する。したがって、保持時間は1〜5時間の範囲内が好ましい。
この熱処理を施すことによって、濃化領域層が形成されると同時に、傾斜組成鋼材の表面にスケールが形成される(図1(a)参照)。このスケールは、機械部品の製造工程にて表面疵や凹み等の欠陥を発生させる原因になる。そこで、鋼材の製造工程にてスケールを除去する(図1(b)参照)。スケールの除去方法は、特定の手法に限定せず、酸洗,切削,ショットピーニング等の従来から知られている方法を採用する。
また、傾斜組成鋼材の用途、あるいは特定元素Mの中から選択した元素によっては、濃化領域層に特定元素Mの酸化物を形成させる場合がある。その場合はスケールを除去した後、還元性雰囲気で焼鈍を施す。
一般に広く使用されるエリンガム線図から、Feよりも酸化され難いCu,Ni,Mo,Wを特定元素Mとして選択し、表1に示す成分の鋼材を溶製した後、連続鋳造でスラブを製造し、さらに熱間圧延によって熱延鋼板(厚さ15mm)を得た。なお、表1に示す鋼No.1,4,7,10は特定元素Mの含有量が本発明の範囲を外れる例であり、鋼No.2,3,5,6,7,9は成分が本発明の範囲を満足する例である。
これらの熱延鋼板から試験片(25mm×25mm)を切り出した。試料の圧延面を研削し、さらに鏡面研摩した後、大気中で熱処理(温度:950℃,保持時間:1時間)を行ない、炉内で冷却(いわゆる炉冷)した。次に、試験片の表面に生成したスケールのうち容易に剥離するものをショットピーニングにて取り除き、強固に固着したスケールが残存した試験片を樹脂に埋め込み、鏡面研摩した。
電子プローブマイクロアナライザー(いわゆるEPMA)を用いて上記の固着したスケールと濃化領域層を200〜1000倍で解析し、Fe,Oおよび特定元素Mのマッピング像を得た。さらに界面付近のラインプロファイルから、特定元素Mの濃化幅(すなわち濃化領域層の厚み)を求めた。また、濃化領域層の解析結果と濃化領域層から十分に離れた母材の解析結果から、特定元素Mの濃化度(=濃化領域層の原子濃度/母材の原子濃度)を求めた。その結果を表2に示す。
表2から明らかなように、発明例の試験片は、濃化領域層の厚みが5〜15μmであり、濃化度は2.0〜2.8であった。これに対して比較例の試験片は、濃化領域層の厚みが0〜4μmであり、濃化度は1.0〜1.5であった。なお、濃化領域層の厚みが0μmは、濃化領域層が認められないものを指す。
つまり本発明では、十分な厚みと濃化度の濃化領域層が得られることが確かめられた。
1 母材
2 濃化領域層
3 スケール
2 濃化領域層
3 スケール
Claims (4)
- 特定合金元素Mを含有する鋼材の表層部に形成される濃化領域層における特定合金元素Mの原子濃度が、母材における特定合金元素Mの原子濃度の2倍以上であり、前記濃化領域層の厚みが1μm以上であることを特徴とする傾斜組成鋼材。
- 前記鋼材が、C:0.55質量%以下、Si:0.5質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Al:0.5質量%以下を含み、かつM元素としてCu、Ni、MoおよびWの中から選ばれる1種以上をFe、C、Si、Mnおよび前記特定合金元素Mの合計量に対して0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなることを特徴とする請求項1に記載の傾斜組成鋼材。
- C:0.55質量%以下、Si:0.5質量%以下、Mn:1.0質量%以下、Al:0.5質量%以下を含み、かつ特定合金元素MとしてCu、Ni、MoおよびWの中から選ばれる1種以上を0.5原子%以上含有し、残部が実質的にFeからなる鋼材を、大気中にて700〜1150℃で1時間以上保持した後、前記鋼材の表面に形成されたFe主体のスケールを除去することを特徴とする傾斜組成鋼材の製造方法。
- 前記鋼材の表面に形成されたスケールを除去し、さらに還元性雰囲気で焼鈍を施すことを特徴とする請求項3に記載の傾斜組成鋼材の製造方法。
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