JP2005330510A - ホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板及びその製造方法並びにホーロー製品 - Google Patents

ホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板及びその製造方法並びにホーロー製品 Download PDF

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Abstract

【課題】 NiフラッシュやNiめっき等のNi処理をせずともホーロー密着性が良好なホーロー用鋼板を提供する。
【解決手段】 鋼成分をC:0.070%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.01〜0.95%、P:0.20%以下、S:0.080%以下、Al:0.0099%以下、N:0.0100%、O:0.002〜0.055%、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有し、必要に応じてNi:0.10〜8.0%、Cu:0.05〜8.0%とし、かつ鋼板の製造工程における主として熱延および焼鈍工程での熱履歴を制御することにより鋼板表面にCoまたはMo濃化部を形成させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ホーロー前処理が簡易にも関わらず、ホーロー性、特に良好なホーロー密着性を発揮するホーロー用鋼板及びその製造方法ならびにそのホーロー用鋼板を素材とするホーロー製品に関する。
ホーロー用鋼板を用いたホーロー製品の製造においては、金属である鋼板とガラスであるホーロー皮膜をより強固に接合するために鋼板とホーロー層の界面に鋼中の平均濃度以上に濃化して存在するCuおよびNiの有効性が知られている。Cuについては鋼中に含有されたCuがホーロー前処理での酸洗において酸洗残渣(スマット)として鋼板表面に濃化することを利用しており、Niについてはホーロー釉薬を鋼板に掛ける前にNiフラッシュと呼ばれるNi含有溶液中に鋼板を浸漬し鋼板表面にNiを析出させる手法や釉薬中にNiを添加しホーロー焼成中に溶融したガラスと鋼板表面での反応を制御する方法がとられている。また、単に密着性を向上させるだけでなく、ホーロー前に行われる酸洗やNiフラッシュといった工程を省略するため鋼板の製造工程においてNiやCoをめっきする方法もとられている。
しかし、これらの技術では浸漬処理工程やめっき工程または高価な釉薬の使用によるコスト増、生産性低下を引き起こすだけでなく、これらの処理に使用される溶液の廃棄において環境への悪影響も懸念されている。CuおよびNiの役割を究極まで最適化する方法として、本発明者は特許文献1で鋼板に含有させたNiを鋼板表面に濃化させる技術を出願した。この技術はNiの効果に着目すれば従来のNiめっき等と比較すると格段に優れたもので、Niフラッシュと同等以上の効果を有しかつNiフラッシュやNiめっき工程での廃液等による環境への悪影響も完全に排除できる技術である。特許文献1中で本発明者は鋼中のMoおよびCoについての特別な効果については何ら考慮しておらず、この鋼板が有する多大な可能性を利用しきれている状況にはない。
特願2003−17745号公報
本発明は、成分および製造条件を最適化することで、鋼板時点でホーロー用鋼板の表面にMoまたはCoを高濃度に存在させ、従来のホーロー用鋼板でホーロー密着性を向上させるために必要とされていたホーロー掛け直前の酸洗およびNi処理を簡省略した場合にも酸洗およびNi処理を行った鋼板と同等以上、またはNiやCo等を含有しない安価な釉薬を使用した場合にもNiやCo等を含有した高価な釉薬を使用した場合と同等以上の密着性を付与するとともに、従来の酸洗やNi処理工程を適用した場合に問題となる廃液処理の問題を軽減または完全に回避することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々実験し検討を重ねてきた。即ち、本発明は、C:0.070%以下、P:0.20%以下、S:0.0080%以下を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有し、必要に応じNi:0.2〜8.0%、Cu:0.05〜8.0%を含有した鋼材を熱処理するに際し、表面に生成する酸化スケールの状態を適度に制御することでホーロー釉薬を掛ける前の鋼板の表面にCoまたはMo、さらに必要に応じてCuまたはNi濃化部を形成させ、ホーロー密着性を向上させるものである。その要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.070%以下、P:0.20%以下、S:0.080%以下を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(2)質量%で、C:0.0040%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.01〜0.95%、P:0.05%以下、S:0.030%以下、Al:0.0099%以下、O:0.002〜0.055%、N:0.0100%以下、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(3)質量%で、C:0.0020%以下、Si:0.050%以下、Mn:0.01〜0.6%、P:0.019%以下、S:0.030%以下、Al:0.0049%以下、O:0.005〜0.044%、N:0.0049%以下、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(4)質量%で、C:0.0015%以下、Si:0.010%以下、Mn:0.01〜0.39%、P:0.015%以下、S:0.011〜0.030%、Al:0.0039%以下、O:0.010〜0.044%、N:0.0011〜0.0039%、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(5)質量%で、さらに、Ni:0.05〜8.0%、Cu:0.051〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(6)質量%で、さらに、Nb:0.80%以下、V:0.40%以下、Ti:0.049%以下、B:0.0049%以下、Cr:10.0%以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(7)質量%で、さらにW,Sn,Sb,Mg,Ca,Ceの一種または二種以上を合計で0.2%以下含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(8)ホーロー釉薬を掛ける前までにMoまたはCoを含有する雰囲気中での処理を施すことなく鋼材表面にMoまたはCo濃化部を有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(9)ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程でMoまたはCoを含有する雰囲気中での処理を施されず、かつ、半製品を含めた鋼板製造工程の一時期において鋼材表面にMoまたはCo濃化部が存在し、そのMoまたはCo濃化部について、成分が質量%で鋼中平均含有量の2.5倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.01μm以上、鋼板表面の被覆率が5%以上の条件のうち少なくとも一つの条件を満足していることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(10)製品製造工程の熱延およびそれに続く酸洗後において、MoまたはCoを含有する雰囲気中での処理が施されず、かつ、鋼材表面にMoまたはCo濃化部が存在し、そのMoまたはCo濃化部について、成分が質量%で鋼中平均含有量の2.5倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.01μm以上、鋼板表面の被覆率が5%以上の条件のうち少なくとも一つを満足している(1)〜(9)のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
(11)(1)〜(10)のいずれかの項に記載の鋼板を製造するに際し、熱延スラブ加熱中のスケール生成厚さが2mm以上、熱延コイル巻取り中のスケール生成厚さが20μm以上、冷延後焼鈍中のスケール生成厚さが0.02μm以上、の条件のうち少なくとも一つを満足させることを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板の製造方法。
(12)熱延スラブ加熱における熱履歴が1100℃以上での保持時間が40分以上、熱延仕上げ圧延後冷延前のコイル熱履歴が650℃以上での保持時間が30分以上、冷間圧延後のコイルの熱履歴が露点−20℃以上かつ750℃以上での保持時間が20秒以上、の条件のうち少なくとも一つの条件を満足させることを特徴とする(11)記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板の製造方法。
(13)(1)〜(10)のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、冷間圧延後のコイルの熱履歴において露点−21℃以下かつ750℃以上での保持時間が40秒を超えない熱処理工程を経て製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
(14)(1)〜(10)のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程においてMoまたはCoを含有する雰囲気中での表面処理工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
(15)(1)〜(10)のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程においてNiを含有する雰囲気中での表面処理工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
(16)(1)〜(10)のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、熱延コイルを酸洗する工程を除き、ホーロー釉薬を掛ける前までに酸洗工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
本発明によるホーロー用鋼板は、良好な加工性を有し、さらにホーロー用鋼板として必要な耐つまとび性、ホーロー密着性、表面特性のすべてを満たしている。特に、ホーロー密着性を高めるため通常のホーロー用鋼板で行われるNi処理や酸洗の簡省略が可能となるためコスト低減、生産性の向上が可能となると共に、Ni処理や酸洗に伴う廃液処理による環境汚染問題を解消できる。また、Ni,Co等を含有する高価な釉薬を使用せずとも良好な密着性が得られるため二回掛けホーローの簡素化、低コスト化が達成できる。
以下詳細に説明する。各成分元素の含有量は質量%である。
Cは従来から低いほど加工性、耐泡性が良好となることが知られているが、本発明では、良好な耐時効性、加工性およびホーロー性を得るために0.070%以下にする必要がある。泡などのホーロー表面品位が厳しい用途では0.040%以下、さらに好ましくは0.020%以下にすれば泡などの発生が抑えられホーロー表面品位が向上する。さらに、加工性が要求される用途では好ましい範囲は0.0040%以下であり、さらに好ましくは0.0020%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。下限は特に限定する必要がないが、C量を低めると製鋼コストを高めるので実用的な下限は0.0003%である。
Coは本発明が鋼材表面を鋼板製造工程またはホーロー製品製造工程において適当に酸化させ酸化スケールを形成させることで鋼中に含有されたCoをスケールと鋼の界面に濃化させ、その後の酸洗等の脱スケール工程を経ても鋼表面にCo濃化部位を残存させることが主旨であることから本発明においては後述のMoを含めて何れか一方が必須の元素である。その含有量は0.005%未満では本発明の効果は殆んど発現されないため、通常レベル以上に添加する必要がある。発明の効果を十分に得るには0.031%以上の添加が必要で、好ましくは0.051%以上、さらに好ましくは0.11%以上、さらに好ましくは0.31%以上、さらに好ましくは0.51%以上、1.01%以上添加すれば著しい効果が得られる。2.01%以上の添加では効果は飽和する傾向が見られる。過剰な添加は合金コストの点からも好ましくはないが、同時にホーローと鋼の反応の不均一度合いが大きくなり黒点などのホーロー欠陥を生じやすくなるとともに加工性の面からの悪影響も見られるようになるため、上限を8.0%とする。好ましくは5.0%以下で、3.0%以下でも十分な効果を得ることができる。
Co量とホーロー密着性(P.E.I密着試験法による)の関係を図1に示す。本発明が目的とするCoによるホーロー密着性の向上効果は、特に通常行われるホーロー掛け直前の酸洗およびNi処理を簡省略した場合に顕著になる。言い換えれば、通常と同様にホーロー掛け直前の酸洗およびNi処理を行うのであればわざわざ本発明に従い高濃度のCoを含有させずとも必要なホーロー密着性を得ることができる。ただし、現状以上の格段に良好なホーロー密着性を得るために通常程度の前処理を行う場合に本発明鋼を適用することが可能であることは言うまでもない。また、本発明鋼はホーロー前処理を簡略化しても良好なホーロー密着性を得るためにNiやCoを添加した高価な釉薬を使用している場合に、NiやCoの含有量の少ないまたはまったく含有しない安価な釉薬を適用して良好なホーロー密着性を得ようとする場合にも非常に有効である。このようなNi,Coを含む高価な釉薬は通常、二回掛けホーローの下釉薬として鋼板とホーローの密着性を確保するために用いられている場合が多い。
Coは鋼板の製造工程において酸化スケールの形成に伴いスケールと鋼材の界面に濃化し、その後も鋼材表面に残存しホーロー密着性に影響を及ぼす。ただし、鋼材の表面疵を増大させホーローの泡欠陥、黒点を増大させる場合があるので注意が必要である。この原因は明確ではないが、高Co鋼で本発明のようなスケール生成に伴う濃化現象を活用した場合、Co濃化部が溶融し鋼材の粒界部と粒界でない部位での差が顕著になり過剰な濃淡が表面疵の原因となるまでに形成されるとともにCo濃化部位がスケールと鋼の界面の全面を覆うようになり、ホーローのぬれ性を低下させるためと思われる。ただし、0.5%程度以下の含有Coでは上記のような悪影響もほとんど見られず、より高濃度の場合でも後述のように製造条件を制御することによる回避が可能である。
さらに、後述のように、多量のCuまたはNiを含む場合には、本発明で活用するスケール界面へのCo濃化現象を適用した場合にも上述したCo異常濃化の場合の悪影響も見られ難くなくなると同時に、CoとCuやNiの複合濃化形態となり好ましい影響を及ぼす。CoとCu,Niが共存することによる効果の原因は明確ではないが、以下のように考えられる。即ち、CoとCu,Niが共存すると両元素が同様にスケールと鋼の界面に濃化し鋼表面が一種の元素で全面を覆われることなく適当な間隔で島状に被覆され、覆われる元素の種類と量に応じてホーロー焼成時の溶融ガラスと鋼との反応が異なることになり、微小な局部電池を形成してホーローと鋼板の界面に微細な凹凸を形成することで密着性を改善するものと思われる。このように濃化元素の種類および量の変動に起因する濃化部位の局部的な不均一性は面内方向への不均一さによる上述のような溶融ガラスと鋼の反応の不均一を引き起こしガラス−鋼界面に微小な凹凸を形成するばかりでなく、深さ方向にも元素種および濃度の変動を引き起こしいわゆる傾斜材料的な機能を発揮することでガラスと鋼と言った全く異なる物質の接合を堅固にする作用を有するものと思われる。もちろんこのような元素種および量の不均一が形成されず全く均質な濃化部位を形成しているとしても本発明の効果は失われるものではない。
Moに関しては上述のCoと同様の効果を有し、効果を最適に得るために必要とする含有量も同様である。すなわち、その含有量は0.005%未満では本発明の効果はほとんど発現されないため、これ以上に添加する必要がある。発明の効果を十分に得るには0.031%以上の添加が必要で、好ましくは0.051%以上、さらに好ましくは0.11%以上、さらに好ましくは0.31%以上、さらに好ましくは0.51%以上、1.01%以上添加すれば著しい効果が得られる。2.01%以上の添加では効果は飽和する傾向が見られる。過剰な添加は合金コストの点からも好ましくはないが、同時にホーローと鋼の反応の不均一度合いが大きくなり、黒点などのホーロー欠陥を生じやすくなるとともに加工性の面からの悪影響も見られるようになるため、上限を8.0%とする。好ましくは5.0%以下で、3.0%以下でも十分な効果を得ることができる。
Niは本発明においては必須の元素ではないが上述のように鋼材表面を鋼板製造工程またはホーロー製品製造工程においてCoおよびMoと同様にスケールと鋼の界面に濃化させ、その後の酸洗等の脱スケール工程を経ても鋼表面にNi濃化部位を残存させることでホーロー密着性の向上やホーロー前処理の簡省略が可能となることから特許文献1と同様に本発明において添加することが可能である。その含有量は通常のホーロー用鋼板で不可避的に含有される可能性がある0.05%程度以下では有益な効果はほとんど検知されないため、積極的に添加する必要があることは特許文献1と同様である。有益な効果を得るには0.10%以上の添加が必要で、好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.50%以上、1.0%以上添加すれば著しい効果が得られる。2.0%以上の添加では効果は飽和する傾向が見られる。過剰な添加は合金コストの点からも好ましくはないが、同時にホーローと鋼の反応の不均一が大きくなり黒点などのホーロー欠陥を生じやすくなるとともに加工性の面からの悪影響も見られるようになるため、上限を8.0%とする。好ましくは5.0%以下で、3.0%以下でも十分な効果を得ることができる。
Cuは本発明においては必須の元素ではないが密着性を向上させる目的で通常のホーロー用鋼板に適用されている程度、すなわち0.005〜0.050%程度含有させることは本発明の効果を阻害するものではない。むしろ、上述のように鋼材表面を鋼板製造工程またはホーロー製品製造工程において適当に酸化させ酸化スケールを形成させることで鋼中に含有されたCuをCoやMoと同様にスケールと鋼の界面に濃化させ、その後の酸洗等の脱スケール工程を経ても鋼表面にCu濃化部位を残存させることでホーロー密着性の格段の向上やホーロー前処理の簡省略が可能となることから上述のNiと同様に本発明において添加することが可能である。この効果を得る場合、その含有量は通常のホーロー用鋼板で含有されている0.05%程度以下では有益な効果はほとんど検知されないため、積極的に添加する必要がある。有益な効果を得るには0.10%以上の添加が必要で、好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.50%以上、1.0%以上添加すれば著しい効果が得られる。2.0%以上の添加では効果は飽和する傾向が見られる。過剰な添加は合金コストの点からも好ましくはないが、同時にホーローと鋼の反応の不均一が大きくなり黒点などのホーロー欠陥を生じやすくなるとともに加工性の面からの悪影響も見られるようになるため、上限を8.0%とする。好ましくは5.0%以下で、3.0%以下でも十分な効果を得ることができる。
Siはホーロー性を阻害するので、あえて添加する必要はなく少ないほど好ましいが、高強度化を補う意味で上限を0.5%として添加することは可能である。通常程度以上のホーロー性を確実に確保するには0.050%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
MnはO量、S量と関連してホーロー性に影響する成分である。同時に熱間圧延時にSに起因する熱間脆性を防止する元素で、酸素を多く含む本発明では0.01%以上とする。一方、Mn量が高くなるとホーロー密着性が悪くなり、泡や黒点が発生しやすくなるため上限を0.95%とする。好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.39%以下である。
Pは含有量を高めることで高強度化を達成できるが、ホーロー時の泡、黒点などの欠陥を抑制するために低い方が好ましい。含有量が0.20%を超えると材料を顕著に脆化させ製造が困難となる。好ましくは0.05%以下、良好なホーロー性を確保するには、0.019%以下、さらに好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.009%以下にすることが好ましい。
Sはホーロー前処理の酸洗時にスマット量を増やし、泡・黒点を発生しやすくするので、0.080%以下、好ましくは0.030%以下とする。しかし過度に低くなるとスマット量が少なくなりすぎホーロー密着性が劣化する場合があるので、好ましくは0.011%以上、さらに好ましくは0.015%以上、さらに好ましい範囲として0.020%以上とする。
Alは多量に含有させると鋼中Oを限定範囲内に制御することができなくなる。また、Al窒化物がホーロー焼成中の水分と反応してガスを発生し泡欠陥の原因となりやすいため好ましくない。このため含有量を0.0099%以下、好ましくは0.0049%以下、さらに好ましくは0.0039%以下に限定する。下限は特に限定されず0でも構わないが、通常の製法であれば0.0002%以上は含有され、特にコストをかけないのであれば0.0009%以上は不可避的に含有される。
Oはつまとび性の向上に非常に好ましいと同時に、Mn量と関連してホーロー密着性、耐泡・黒点性に影響する。これらの効果を発揮するには0.002%、好ましくは0.005%は必要である。一方、O量が過度に高くなると製鋼時の生産性を低下させるとともに鋼板の加工性を悪くするので、上限を0.055%に特定する。好ましい範囲は0.010〜0.044%、さらに好ましい範囲は0.021〜0.034%である。
Nは加工性、時効性、耐泡・黒点性の観点からは少ないほど好ましいが、適当な窒化物形成元素の添加によりその害を低減することが可能である。0.0100%以上では窒化物を形成させたとしても良好な特性を得ることができなくなるためこれを上限とする。好ましくは0.0049%以下、さらに好ましくは0.0039%以下、さらに好ましくは0.0034%以下である。一方過度に低くすることはコストが上昇するばかりで効果が小さいので好ましくは0.0006%以上、さらに好ましくは0.0011%以上、さらに好ましくは0.0016%以上である。
酸化物形成元素であり酸化物形態制御の観点からホーロー性に大きな影響を与え、また炭窒化物形成元素で時効性および加工性の向上が期待できる元素としてNb,Ti,Cr,Bがある。これらの元素は本発明の特徴であるCuの表面濃化になんら影響を及ぼすものでなく、全く含有していなくともよく、鉱石やスクラップ等から不可避的に含有される量程度でも構わない。時効性や加工性等の向上のため添加されるが、いずれも過度な添加はホーロー性を劣化させることから、Nb:0.80%以下、好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.08%以下、V:0.40%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.05%以下、Ti:0.049%以下、好ましくは0.019%以下、さらに好ましくは0.009%以下、さらに好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下、B:0.0049%以下、好ましくは0.0029%以下、さらに好ましくは0.0014%以下、さらに好ましくは0.0010%以下、さらに好ましくは0.0006%以下とする。特にCrについては酸化スケールを活用する本発明においては酸化を顕著に抑制し本発明の効果を現れにくくするばかりでなく、酸化スケールの脱スケール性を低下させ泡、黒点などのホーロー欠陥の発生が顕著になることもあるため過度の添加は避ける必要がある。上限は10.0%、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、さらには1%以下、通常、スクラップ混入等で不可避的に含まれる0.1%以下程度であれば本発明の効果への悪影響はまったく見られない。
また、鉱石やスクラップなどから不可避的に含まれる程度の量に加え様々な目的で微量元素を添加しても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。この場合もコストやホーロー性の兼ね合いからW,Sn,Sb,Mg,Ca,Ceの合計で0.2%以下とする。
前記成分を含む鋼は、通常のホーロー用鋼板と同様に転炉で溶製され、連続鋳造でスラブとされ、ついて熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍などの工程で製造される。これらの工程の中で脱炭工程などを経ることも本発明の効果を何ら損なうものではない。また通常の工程ではなく熱延工程を省略する薄スラブCCなどの工程によって製造しても問題ない。
本発明の特徴とするCoまたはMo濃化部位を鋼板表面に形成するには以下のような熱履歴を経ることが重要である。ただし、本発明で制御すべきは基本的に熱処理時に生成するスケールと地鉄の界面に形成されるCoまたはMo濃化であり、熱履歴が同じでも鋼成分や雰囲気等によりスケール生成状況が異なれば当然、CoまたはMo濃化に差を生ずる。基本的には高温、長時間であればスケール生成量が多くCoまたはMo濃化も顕著になるが、様々に因子により低温、短時間でもCoまたはMo濃化が十分に起きる場合がある。熱履歴を制御することは、これらを実現する望ましい方法の1つである。
この前提の上で制御すべきは製品板を製造する過程において、熱延スラブ加熱における熱履歴において1100℃以上での保持時間が40分以上、熱延仕上げ圧延後冷延前のコイル熱履歴において650℃以上での保持時間が30分以上、冷間圧延後のコイルの熱履歴において露点−20℃以上かつ750℃以上での保持時間が20秒以上、の条件のうち少なくとも一つを満足することである。熱延スラブ加熱条件において、温度は好ましくは1200℃以上、時間は好ましくは50分以上、さらに好ましくは60分以上である。ただし、上述のように、スラブ加熱温度が適正でない場合、CoまたはMoの濃化が異常となりホーロー性に悪影響を及ぼす場合があるので1250℃以上の加熱または1200℃以上で90分以上の加熱は避けるべきである。この原因は明確ではないがスラブ加熱中に特にスラブ表層部の結晶組織が異常に粗大化することと関連していると思われる。この組織の粗大化は鋼成分にも強く依存し、C,N,Nb,P,B等の含有量が比較的高い場合には抑制される傾向が顕著であり、CoまたはMoの異常濃化の懸念も小さくなる。このため鋼成分も考慮した制御が重要となるが、通常の技術を有する当業者であれば、適当な製造範囲内に制御することは可能である。
熱延仕上げ圧延後冷延前のコイル熱履歴において、温度は好ましくは700℃以上、さらに好ましくは750℃以上、時間は好ましくは40分以上、さらに好ましくは60分以上であるが、ここでも熱延コイルの特に表層部組織の粗大化によるCoまたはMo濃化部の異常について注意を払う必要がある。これもスラブ加熱の場合と同様に鋼成分や熱延履歴等に依存するため一概に適正範囲を規定できないが通常の技術を有する当業者であれば、適当な製造範囲内に制御することは可能である。冷間圧延後のコイルの熱履歴において、露点は好ましくは−10℃以上、さらに好ましくは0℃以上、温度は好ましくは800℃以上、さらに好ましくは850℃以上、時間は好ましくは40秒以上、さらに好ましくは60秒以上である。
冷間圧延後の熱履歴は一般的に低温、短時間である場合が多いので熱延でのスラブ加熱や巻取での制御に比較すればここでのCoまたはMo濃化の異常は起きにくい。また、ホーロー用冷延鋼板においては通常、この工程が最終的な熱処理となるが、この工程で高露点かつ高温で長時間保持した場合、CoまたはMoの表面濃化には好都合ではあるもののスケール厚さが厚くなりすぎて製品としての使用時に外観上の問題を生ずる場合がある。ホーロー掛け直前に加工部材を酸洗する場合はこの問題はほぼ解消されるが、加工部材で酸洗が行われない場合、熱処理後の鋼板を軽く酸洗することが可能である。この酸洗により最終熱処理で形成されたスケールを除去するのみならず、CoまたはMoの表面濃化をより強調し、ホーロー密着性を向上させる効果もある。
スラブ加熱から冷延後の焼鈍までの温度および時間は基本的に高温、長時間で発明効果が顕著になるが、過度な高温、長時間条件においてはCoまたはMo濃化部位が量的に過度になりホーロー焼成時の溶融釉薬の鋼板への濡れ性を低下させホーロー密着性を低下させる場合がある。また、鋼板の結晶組織や結晶方位に機械特性の面から好ましからざる影響を及ぼす場合もあるため注意が必要である。上限を熱延スラブ加熱条件について、温度は1400℃以下、時間は400分以下、熱延仕上げ圧延後冷延前のコイル熱履歴について、温度は900℃以下、時間は600分以下、冷間圧延後のコイルの熱履歴について、温度は950℃以下、時間は400分以下とする。なお、これら温度、時間条件は鋼材全体に及ぶものではなく、熱処理中の鋼材表面のみがこの条件にあれば本発明の目的は過不足なく達成される。これらの温度および時間条件はスケール生成量およびその質さらには界面に形成される濃化部位中の元素の拡散などを適当に制御するため選択されるが、その条件は熱処理中の雰囲気にも大きく影響される。酸化挙動は特に雰囲気中の水分量に影響されるが、特に冷延鋼板において最終製品に近い冷間圧延後のコイルの熱履歴においてはその制御が重要となる。特に露点が低い場合は新たなスケール生成が起きないため、それ以前に形成された表面濃化元素は鋼板内部へ一方的に拡散し、表面濃化の効果が消失する。
これは鋼成分やそれまでに形成された濃化部の量や濃度、形態等にも依存するため一概には条件を決定できないが、発明の効果の消失を避けるためには露点−21℃以下かつ750℃以上での保持時間は40秒を超えないように制御することが好ましい。−60℃程の低露点雰囲気中において850℃を超える温度で120秒程度以上保持すると、鋼成分や形成されていた濃化状況にもよるがほとんど本発明の効果は失われてしまう。現象は段階的に起き、必要とする特性も用途やユーザーにより様々であるため濃化部消失回避条件を限定的に明示することは困難であるが、鋼中の拡散等について通常レベルの知識を持ち、通常の技術を有する当業者であれば条件を設定することは可能である。
これらの工程を経て鋼材表面のCoまたはMo濃化部位が形成されるが、その濃化状況を規定する一つの指標として、酸化時のスケール厚さを用いることは本発明の効果を制御するのに有効な手段の一つである。ただし、上述の熱履歴と同様であるが、本発明で制御すべきは基本的にスケールと地鉄の界面に形成されるCoまたはMo濃化であり、スケール厚さが同じでも鋼成分や温度や時間等のスケール生成条件が異なれば当然、CoまたはMo濃化に差を生ずる。基本的にはスケール生成量が多ければCoまたはMo濃化も顕著になるが、様々な因子によりスケール生成量が少なくてもCoまたはMo濃化が十分に起きる場合があるので、スケール厚さはあくまでも目安に過ぎないことに注意すべきである。
熱延スラブ加熱中のスケール生成厚さが2mm以上、熱延コイル巻取り中のスケール生成厚さが20μm以上、冷延後焼鈍中のスケール生成厚さが0.02μm以上、の条件のうち少なくとも一つを満足した酸化が行われることでCoまたはMoの鋼材表面での濃化状態が好ましく制御される。これらの条件のうち2つを同時に満足することで発明の効果がさらに顕著になり、さらに好ましくはすべての条件を満足する場合であることは言うまでもない。熱延スラブ加熱中のスケール生成厚さは好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、熱延コイル巻取り中のスケール生成厚さは好ましくは40μm以上、さらに好ましくは80μm以上、冷延後焼鈍中のスケール生成厚さは好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上である。この厚さについても過度な場合にはCoまたはMo濃化部位の状態に悪影響を及ぼすとともに、鋼板の表面性状を劣化させ表面疵の原因にもなるため好ましい上限として熱延スラブ加熱中のスケール生成厚さは10mm以下、熱延コイル巻取り中のスケール生成厚さは400μm以下、冷延後焼鈍中のスケール生成厚さは10μm以下とする。
これらの熱履歴により鋼板の表面にCoまたはMo濃化部が形成される。しかしながら、熱処理は条件によっては濃化部位を溶体化し消失させてしまう場合もある。例えば、スラブ加熱時にCoまたはMo濃化部が形成されても、冷延、焼鈍後の熱処理がスケール形成が全く起きない条件であれば高温での保持により表面に濃化したCoまたはMoは濃度勾配に起因した拡散のため単調に母材中に溶けていき、濃化部のCoまたはMo濃度は単調に低下し、ついには消失してしまう。この条件は、CoまたはMo濃化の程度やその後の熱履歴さらには雰囲気などが複雑に関係しているため、本発明内で一律に限定することは困難であるが、拡散理論等を用いることでCoまたはMo濃化部の残存を有意義な範囲に制御することは可能である。
このようにして鋼板表面に形成される組成変動で重要なのは、主としてCoまたはMoの濃化である。CoまたはMo濃化部は一般的には鋼中の平均CoまたはMo含有量よりCoまたはMoの濃度が高い部分を言うべきであるが、本発明ではホーロー密着性に及ぼす効果や測定ばらつき等を考慮し、CoまたはMo濃度が鋼中の平均CoまたはMo含有量の2.5倍以上となっている部位をCoまたはMo濃化部と定義する。この濃化は電子顕微鏡、X線分析、電子線分析、イオン分析等の最新の解析機器で十分に観測が可能なものである。もちろん化学分析などこれ以外の方法によっても同定が可能なものである。
測定データを検討する際には、測定領域の面積のみならず表面から分析する場合には測定領域の深さも考慮してCoまたはMo濃度を決定する必要があるのは言うまでもない。特に注意を有するのは例えば表面にCoまたはMo 100%の皮膜が形成されていてもそれが非常に薄い場合、表面から電子線やX線を用いた解析機器で成分分析を行うと皮膜を透過し母材部も含めた領域の成分が検出されるためCoまたはMo含有量としては低い定量値が得られるような場合である。本発明では空間的に十分に微小な領域に限定した解析が必要である。もちろん、上の事例のようにCoまたはMoが濃化していない領域まで含めた広い領域を平均した定量値においてさえも本発明で規定する定量値、例えばCoまたはMo濃度が鋼中平均含有量の2.5倍以上、を満足する場合はそのデータを採用することは問題とはならない。
また、濃化の程度によっては、例えば冷延前に濃化部位が確認できた場合でも、冷延率等によっては鋼材とともに濃化部位が非常に薄く延伸してしまい、通常の解析機器では検知が困難になる場合も想定される。このため、本発明においてはホーロー釉薬を掛ける直前の鋼板ばかりではなく、鋼板製造の全工程にわたり、酸洗前後の熱延鋼板や熱延スラブ加熱中のスラブ等、半製品におけるCoまたはMo濃化部位についても規制が及ぶものとする。本発明においてはこのCoまたはMo濃化部について、成分が質量%で鋼中平均含有量の2.5倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.01μm以上、鋼板表面の被覆率が5%以上の条件のうち少なくとも一つを満足するものとする。これらの条件のうち2つを同時に満足することで発明の効果がさらに顕著になり、さらに好ましくはすべての条件を満足する場合であることは言うまでもない。被覆率については十分に微小な面積のCoまたはMo濃度の定量を行い、1000点以上の測定データについて本発明の規定を満足するCoまたはMo濃化部の面積比率で定義する。特に通常のホーロー用冷延鋼板またはホーロー用熱延鋼板では酸洗後の状態でこの濃化部位の検出をすることは本発明の効果を規定するのに都合がよい。
CoまたはMo濃化部のより好ましい形態については、成分が質量%で鋼中平均含有量の3倍以上、さらに好ましくは4倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、鋼板表面の被覆率が20%以上、さらに好ましくは40%以上である。このうち、特に成分についてはCoまたはMo 100%でもかまわないし、通常、CoまたはMo以外は主としてFeとなるが、上述のようにCoまたはMoの他、Si,P,Al,Mn,Ni,Cuなど鋼中元素を含有することは本発明の効果を何ら損ねるものではなく、NiやCuなど、ホーロー密着性に好ましい場合があることが報告されている元素を含有することで発明の効果が向上することも期待できる。
また、厚さについては上述のように鋼板製造工程によっては非常に薄くなり、検出が困難な場合も想定されるが、0でなければ原理上、本発明の効果を得ることができる。また、表面被覆率には適当な領域が存在し、高すぎてもホーロー釉薬の濡れ性が低下し密着性を阻害する場合がある。被覆率の上限は95%、好ましくは80%以下である。
なお、本発明においては、特にCまたはN含有量が高い場合、CoまたはMo含有量や熱履歴によっては鋼中CoまたはMoの少なからぬ量が炭窒化物として鋼中に析出する場合がある。これにより加工性および時効性を改善することは本発明の効果を何ら損なうものではないことは言うまでもないが、これがあまりに粗大になると加工性を劣化させる場合があるので注意が必要である。また、これを鋼中に微細に析出させ高強度化を図ることは本発明の効果を何ら損なうものではない。
本発明を適用することにより、通常行われているNiフラッシュやNiめっきなどのNi処理を完全に省略することに加えホーロー掛け前の酸洗工程さえも完全に省略することや、NiやCoを含有する高価な釉薬を使用せずとも良好な密着性の確保が可能となる。また、Ni処理や酸洗を行う場合には、処理液濃度の低減や処理時間の短時間化などの効果を得ることができ、通常のNi処理や酸洗と併用すること、またはNiやCoを含有する釉薬を用いた場合には密着性を格段に向上させることができる。
用途は特に限定されるものではなく、台所用品または衛生用品等通常のホーロー用途の他、建材、化学工業製品などホーロー製品が使用される全ての用途に適用される。
また、本発明の対象となる鋼板は板厚や熱延鋼板、冷延鋼板の種類など本発明で規定していない製造法に関わらずその効果を得ることができ、また何らかの目的で必要な表面処理等を行うことも可能である。
また本発明の適用は、本発明で記述されていないホーロー用鋼板に具備させることが好ましい特性、例えば加工性等にはなんら悪影響を及ぼすものではない。
表1、表2(表1のつづき)に示した種々の化学組成からなる連続鋳造スラブを表1、表2に示す条件で熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を行い、圧下率1%の調質圧延を施し板厚1.2mmのホーロー用鋼板を得た。得られた鋼板を表3に示した工程でホーロー処理しホーロー処理後のホーロー性を評価した。一部の材料については表3の内の酸洗およびNi処理を省略してホーロー性を評価した。Ni処理を省略した場合は中和処理も省略した。ホーロー前処理の省略については表1、表2中に記す。
酸洗を行ったものについては、ホーロー性の内、泡・黒点の表面特性は酸洗時間が20分と長い条件を選び、その目視で評価した。ホーロー密着性は酸洗時間が3分と短い条件で評価した。ホーロー密着性は通常行われているP.E.I.密着試験方法(ASTM C313−59)では密着性に差が出にくいため、2kgの球頭の重りを1.5m高さから落下させ、変形部のホーロー剥離状態を169本の触診針で計測し、未剥離部分の面積率で評価した。この剥離条件は比較的厳しいものであり、通常の材料であれば50%程度、密着性が良好な材料でも70%程度の面積率になる程度の条件である。耐つまとび性は3枚の鋼板を酸洗時間3分、Ni浸漬なしの前処理を施し、直接一回かけ用釉薬を施釉、乾燥を行い、露点50℃で850℃の焼成炉に3分間装入して焼成した後、160℃の恒温槽中に10時間入れるつまとび促進試験を行い、目視でつまとび発生状況を判定した。
各種特性を表1、表2に示す。これらの表の結果から明らかなように、本発明によりホーロー密着性が格段に向上し、かつホーロー性も良好な優れたホーロー用鋼板を得ることができる。また、比較鋼においても通常の前処理である酸洗およびNi処理を行ったもの(表中の条件J)における密着性は60〜80%であり、Cuが0.1%程度以下である一般ホーロー材が本実施例の剥離条件では上述のように50〜70%であることを考えるとCuを添加するだけでも何がしかの効果は現れる可能性を示していると思われる。
また密着性は通常の前処理である酸洗およびNi処理を行ったもの(表中の条件J)よりも前処理を簡省略した場合(表中の条件K,L)に向上効果が顕著になることがわかる。
Figure 2005330510
Figure 2005330510
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表4に示した種々の化学組成からなるスラブを実験室にて溶解、鋳造した40mm厚のスラブを電気炉を用い70%N+30%H、露点−20℃の雰囲気中1100℃60分加熱し熱延スラブ加熱を行い、2.5mmの仕上げ板厚で熱間圧延の後、酸洗し、次いで0.5mmまで冷間圧延し、続けて70%N+30%H、露点−20℃の雰囲気中で800℃1分の焼鈍を行い、さらに圧下率1%の調質圧延を施しホーロー用鋼板を得た。得られた鋼板を表5に示した工程でホーロー処理しホーロー処理後のホーロー性を評価した。また酸洗およびNi処理を簡省略したものについてもホーロー性を評価した。Ni処理を省略した場合は中和処理も省略した。ホーロー性の内、泡・黒点の表面特性は目視で評価した。ホーロー密着性は通常行われているP.E.I.密着試験方法(ASTM C313−59)では密着性に差が出にくいため、2kgの球頭の重りを1.0m高さから同一部に2回落下させ、変形部のホーロー剥離状態を169本の触診針で計測し、未剥離部分の面積率で評価した。
結果を図1に示す。この結果から明らかなように、本発明によりホーロー前処理条件によらずホーロー密着性が格段に向上し、また特にホーロー前処理を省略した場合に発明の効果が顕著により良好な密着性が得られることがわかる。またCuを複合添加した効果は酸洗処理を省略した場合に、Niを複合添加した効果はNi処理を省略した場合に特に顕著になることもわかる。
Figure 2005330510
Figure 2005330510
Co含有量とホーロー密着性の関係を示す図である。

Claims (16)

  1. 質量%で、C:0.070%以下、P:0.20%以下、S:0.080%以下を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  2. 質量%で、C:0.0040%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.01〜0.95%、P:0.05%以下、S:0.030%以下、Al:0.0099%以下、O:0.002〜0.055%、N:0.0100%以下、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  3. 質量%で、C:0.0020%以下、Si:0.050%以下、Mn:0.01〜0.6%、P:0.019%以下、S:0.030%以下、Al:0.0049%以下、O:0.005〜0.044%、N:0.0049%以下、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  4. 質量%で、C:0.0015%以下、Si:0.010%以下、Mn:0.01〜0.39%、P:0.015%以下、S:0.011〜0.030%、Al:0.0039%以下、O:0.010〜0.044%、N:0.0011〜0.0039%、Cu:0.005〜8.0%を含有し、さらにCo:0.005〜8.0%、Mo:0.005〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  5. 質量%で、さらに、Ni:0.05〜8.0%、Cu:0.051〜8.0%の一種または二種を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  6. 質量%で、さらに、Nb:0.80%以下、V:0.40%以下、Ti:0.049%以下、B:0.0049%以下、Cr:10.0%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  7. 質量%で、さらにW,Sn,Sb,Mg,Ca,Ceの一種または二種以上を合計で0.2%以下含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  8. ホーロー釉薬を掛ける前までにMoまたはCoを含有する雰囲気中での処理を施すことなく鋼材表面にMoまたはCo濃化部を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  9. ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程でMoまたはCoを含有する雰囲気中での処理を施されず、かつ、半製品を含めた鋼板製造工程の一時期において鋼材表面にMoまたはCo濃化部が存在し、そのMoまたはCo濃化部について、成分が質量%で鋼中平均含有量の2.5倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.01μm以上、鋼板表面の被覆率が5%以上の条件のうち少なくとも一つの条件を満足していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  10. 製品製造工程の熱延およびそれに続く酸洗後において、MoまたはCoを含有する雰囲気中での処理が施されず、かつ、鋼材表面にMoまたはCo濃化部が存在し、そのMoまたはCo濃化部について、成分が質量%で鋼中平均含有量の2.5倍以上、鋼板厚さ方向の厚みが0.01μm以上、鋼板表面の被覆率が5%以上の条件のうち少なくとも一つを満足している請求項1〜9のいずれかの項に記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板。
  11. 請求項1〜10のいずれかの項に記載の鋼板を製造するに際し、熱延スラブ加熱中のスケール生成厚さが2mm以上、熱延コイル巻取り中のスケール生成厚さが20μm以上、冷延後焼鈍中のスケール生成厚さが0.02μm以上、の条件のうち少なくとも一つを満足させることを特徴とするホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板の製造方法。
  12. 熱延スラブ加熱における熱履歴が1100℃以上での保持時間が40分以上、熱延仕上げ圧延後冷延前のコイル熱履歴が650℃以上での保持時間が30分以上、冷間圧延後のコイルの熱履歴が露点−20℃以上かつ750℃以上での保持時間が20秒以上、の条件のうち少なくとも一つの条件を満足させることを特徴とする請求項11記載のホーロー密着性が格段に優れたホーロー用鋼板の製造方法。
  13. 請求項1〜10のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、冷間圧延後のコイルの熱履歴において露点−21℃以下かつ750℃以上での保持時間が40秒を超えない熱処理工程を経て製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
  14. 請求項1〜10のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程においてMoまたはCoを含有する雰囲気中での表面処理工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
  15. 請求項1〜10のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、ホーロー釉薬を掛ける前までの鋼板に関わるホーロー製品製造の全工程においてNiを含有する雰囲気中での表面処理工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
  16. 請求項1〜10のいずれかの項に記載のホーロー用鋼板を、熱延コイルを酸洗する工程を除き、ホーロー釉薬を掛ける前までに酸洗工程を経ることなく製造したホーロー用鋼板を素材とすることを特徴とするホーロー製品。
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