JP2007244290A - 金属の腐食に関わる微生物の回収および同定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属の腐食部位に存在する微生物の簡便な回収方法を提供する。
【解決手段】金属の腐食部位に存在する、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加して懸濁した後、相分離してその水相を回収し、当該回収水をpH7以上10以下に調整して回収水中に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収する。
【選択図】なし
【解決手段】金属の腐食部位に存在する、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加して懸濁した後、相分離してその水相を回収し、当該回収水をpH7以上10以下に調整して回収水中に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収する。
【選択図】なし
Description
本発明は、液体燃料又は油、特に、原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテル等、を含有する液体に接触する環境で腐食した金属の、腐食に関わる微生物を回収する方法および同定する方法に関する。
金属の腐食には微生物作用に起因するものがある。このような腐食は微生物腐食(Microbiologicaly Influenced Corrosion)と呼ばれる。例えば、アルミニウム合金製の航空機燃料タンクがクラドスポリウム・レジネーというカビにより腐食して燃料漏れを起こした事例や、油井環境での硫酸塩還元菌由来の硫化水素による鉄鋼の腐食などが知られている(以下の非特許文献1、2を参照のこと)。
金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物を検出する方法としては、以下の二つが考えられる。一つは、培養によって微生物を単離して、その形態や生理的、生化学的性質を調べて金属の腐食面に接する水、付着物、錆、スラッジ、液体に存在する微生物を特定する方法である。もう一つは、金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物のDNAを抽出して、そのDNA配列を読み取り、DNA配列のデータベースを参照することで、存在する微生物を特定化する方法である。
例えば培養に関して鉄酸化細菌を例にとると、従来から知られている鉄酸化細菌の培養や単離に用いる9K培地のように、調べたい微生物に対応した培養用の培地が確立されており、培養によって微生物の検出が広く行われている(以下の非特許文献3を参照のこと)。
しかしながら、金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物を同定することは容易ではない。なぜならば、金属の腐食面に接する水や油等の液体、付着物、錆、及びスラッジは、一般に複数種の金属イオンを高濃度に含んでおり、これらの金属イオンは微生物の培養に影響を与え、さらに微生物のDNA抽出とDNA配列の読み取りに著しい悪影響を及ぼすからである。
まず、金属の腐食面に接する水や油等の液体や、付着物、錆、又はスラッジから微生物を培養により検出する方法に関する問題点について述べる。
一般に、金属の存在状態で微生物を培養するために確立された培地を使用する場合、特定の金属を一定濃度含んだ条件での培養のみに限られるため、金属の腐食面に接する水や油等の液体や、付着物、錆、スラッジのように複数種の金属が存在し、それらの含有濃度が変動する条件で存在している微生物を検出することは困難である。更に、上記の鉄酸化細菌では、9K培地等が広く使用されるが、この培地に適した微生物のみが優先的に検出されてしまう危険性がある。
一般に、金属の存在状態で微生物を培養するために確立された培地を使用する場合、特定の金属を一定濃度含んだ条件での培養のみに限られるため、金属の腐食面に接する水や油等の液体や、付着物、錆、スラッジのように複数種の金属が存在し、それらの含有濃度が変動する条件で存在している微生物を検出することは困難である。更に、上記の鉄酸化細菌では、9K培地等が広く使用されるが、この培地に適した微生物のみが優先的に検出されてしまう危険性がある。
また、微生物が存在することは確認できても培養できないVNC(Visible but None-culturable)という現象が最近では広く認知されている(以下の非特許文献4を参照のこと)。培養可能な微生物は1割程度であり、残り9割は培養できないという報告もある(以下の非特許文献4を参照のこと)。
従って、金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物は、さらに培養が困難であると考えられる。
従って、金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物は、さらに培養が困難であると考えられる。
上記培養によって微生物を単離するという従来技術に対して、DNA配列に基づいて微生物を同定する方法は、培養によるバイアスを受けず、簡便かつ正確であり、きわめて優れている。したがって、DNA配列に基づく微生物の検出方法が、微生物を利用する産業上においても主流になりつつある(以下の特許文献1を参照のこと)。
しかしながら、金属の腐食面に接する水や油等の液体中や、付着物、錆、又はスラッジ内に存在する微生物からDNAを抽出しようとすると、先ずDNAと金属の分離回収が困難である。
例えば、一般的なフェノール・クロロホルム抽出などでは、DNAの夾雑物からの分離精製はできるが、DNAと金属を分離回収することはできない。更に金属の腐食面に接する液体が石油、ガソリンのような油分である場合には、DNAの精製はより困難を伴う。
このような状況は、液体燃料の保管、貯留、輸送或いは運搬に用いられる燃料タンクにおける金属腐食に関わる微生物を解析しようとするとき、特に問題になる。
特開2002−101884
日本材料科学会編 先端材料シリーズ 微生物と材料 (裳華房)(2001年)第1章 微生物による材料の被害と防護方法、
腐食防食協会編 エンジニアのための微生物腐食入門 (丸善) (2004年) 第2章 事例と対策)
極限環境微生物ハンドブック、 大島泰郎監修、 p223−p232)
水処理におけるVNC細菌群集、 染谷、 日本水環境学会・日本微生物生態学会合同シンポジウム講演資料集 (2002年11月)
上述のように、金属の腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジに存在する金属腐食に関わる微生物を同定することは困難なことが多い。
このような微生物は、局所的な環境で複数種類の微生物が棲息する複合微生物系として棲息しており、微生物培養単離により微生物を同定することは困難な場合が多い。また、夾雑する金属イオンによって、例えばPCRなど酵素反応が強く阻害を受けるため、DNA配列を元に微生物同定することも困難であることが多いという大きな課題がある。何故ならば、DNAの抽出やDNA配列の読み取りに必要な酵素による反応、例えばDNAの増幅に必要なPCRなどに対して、金属イオンがこれらの反応を強く阻害するからである。
このような微生物は、局所的な環境で複数種類の微生物が棲息する複合微生物系として棲息しており、微生物培養単離により微生物を同定することは困難な場合が多い。また、夾雑する金属イオンによって、例えばPCRなど酵素反応が強く阻害を受けるため、DNA配列を元に微生物同定することも困難であることが多いという大きな課題がある。何故ならば、DNAの抽出やDNA配列の読み取りに必要な酵素による反応、例えばDNAの増幅に必要なPCRなどに対して、金属イオンがこれらの反応を強く阻害するからである。
本発明者らも、金属の腐食部位に存在する液体及び付着物、錆、スラッジに対して、様々な生化学的な手法を使って、金属の腐食部位に存在する微生物を回収してそのDNAを抽出して、PCRでDNAを増幅することを試みたが、ほとんどの場合で良好な結果は得られなかった。
特に、液体がガソリンなど石油系の液体燃料である、燃料タンクなどの金属腐食に関わる微生物を解析しようとする際、特に困難であった。
更に近年では、CO2対策からトウモロコシ、サトウキビなどを原料に微生物処理によるエタノール発酵で作るエタノールを混入したガソリンの導入もブラジル、米国などですすめられている。エタノールは微生物影響によって酸化されやすく、生成する酢酸は嫌気性環境での微生物腐食の原因物質ともなりえる。この他にもヒマワリなどを原料とするバイオディーゼルオイルなども微生物の影響により変質して微生物腐食が発生する可能性も考えられる。
更に近年では、CO2対策からトウモロコシ、サトウキビなどを原料に微生物処理によるエタノール発酵で作るエタノールを混入したガソリンの導入もブラジル、米国などですすめられている。エタノールは微生物影響によって酸化されやすく、生成する酢酸は嫌気性環境での微生物腐食の原因物質ともなりえる。この他にもヒマワリなどを原料とするバイオディーゼルオイルなども微生物の影響により変質して微生物腐食が発生する可能性も考えられる。
このように微生物腐食発生が懸念される液体燃料又は油として原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテルなどがある。
ここで液体燃料の炭化水素としては例えば液化メタンなど、液体燃料のエーテルとしてはジメチルエーテルなどがある。
ここで液体燃料の炭化水素としては例えば液化メタンなど、液体燃料のエーテルとしてはジメチルエーテルなどがある。
そこで本発明は、液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において、腐食した金属の腐食部位に存在する微生物の簡便な回収方法を提供することを目的とする。
また、特に液体がガソリンなどの液体燃料を貯留するタンク若しくは容器、液体燃料を通液するパイプ、又は、前記タンク、容器、パイプにおける接合部又は溶接部、で生じる腐食に関わる微生物の回収方法を提供することを目的とする。
また、特に液体がガソリンなどの液体燃料を貯留するタンク若しくは容器、液体燃料を通液するパイプ、又は、前記タンク、容器、パイプにおける接合部又は溶接部、で生じる腐食に関わる微生物の回収方法を提供することを目的とする。
また、回収した腐食に関わる微生物を、PCRなどの酵素反応を阻害せずにDNA配列読み取りが可能なこれら金属の腐食に関わる微生物の同定方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、液体燃料又は油、特に、原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテル等、を含有する液体と接触する環境で腐食した金属に関して、金属の腐食部位に存在する微生物は、特に、その腐食部位の液体、付着物、錆、又はスラッジ中に多く存在すると考え、更に、これらの腐食に関わる微生物をDNA配列に基づいて検出するには、腐食により発生した夾雑する金属から微生物を分離して回収することで、金属に阻害されずに微生物のDNA配列の読み取りに必要なPCR反応などの酵素反応を行うことができるだろうと考えた。
更に、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、前記環境の金属の腐食部位に存在する微生物は、腐食部位の存在物が水においてはその水中に存在し、油分においてはその中にエマルジョンとして存在する水の中に存在し、付着物や錆やスラッジにおいてはその中に含まれる少量の水の中に存在することを見出した。
そして、金属の腐食部位に存在する液体及び付着物、錆、若しくはスラッジを、例えば0.5μm孔径以下のろ膜を用いたろ過により微生物を取り除いた水に懸濁して、存在する微生物をその水相に移動させ、相分離によりその水相を回収して得られる水に対して、pHを7以上10以下にすることで水中に溶解している金属類を水酸化物沈澱として沈澱・除去して、上澄み液に残った微生物をろ膜でろ過することで、安価かつ簡便に金属から微生物を分離・回収する方法を発明するに至った。
なお、本発明では、相分離して水相を回収した後、pH調整して、金属類を水酸化物沈殿として沈殿させた後、上澄みを回収して、ろ過によってろ膜上に微生物を回収する。
この操作の順序を変えて、先にpH調整して、金属類を水酸化物として沈殿させて、相分離した水相を回収して、ろ過してろ膜上に微生物を回収することでは目的を達成できない。なぜならば、この場合には、相分離により得られる水相に、油分や金属含有スラッジが多くのこってしまうため、ろ膜でろ過する際に目詰まりの原因になるほか、微生物もより多くの油分や金属含有スラッジと一緒に回収されることになるためである。
この操作の順序を変えて、先にpH調整して、金属類を水酸化物として沈殿させて、相分離した水相を回収して、ろ過してろ膜上に微生物を回収することでは目的を達成できない。なぜならば、この場合には、相分離により得られる水相に、油分や金属含有スラッジが多くのこってしまうため、ろ膜でろ過する際に目詰まりの原因になるほか、微生物もより多くの油分や金属含有スラッジと一緒に回収されることになるためである。
上記のように、ろ膜上に回収した微生物の一部は、培養することが可能である。しかしながら、前述のVNC(Visible but None-Culturable)の問題があり、培養により検出できる微生物はごく一部に限られる。そこで、本発明者らは、ろ膜上に回収した微生物に対してDNA抽出法の適用したところ、DNAを抽出した後、DNA配列に基づいた検出によって、前述の処理によって回収した微生物の同定が可能であることを更に見出した。
本発明は、上記知見によりなし得たものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属の当該腐食に関わる微生物を回収する方法であって、前記金属の腐食部位に存在する、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加して懸濁した後、相分離してその水相を回収し、当該回収水をpH7以上10以下に調整して回収水中に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収することを特徴とする前記方法。
(1)液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属の当該腐食に関わる微生物を回収する方法であって、前記金属の腐食部位に存在する、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加して懸濁した後、相分離してその水相を回収し、当該回収水をpH7以上10以下に調整して回収水中に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収することを特徴とする前記方法。
(2)前記回収した微生物を、更に微生物を取り除いた水に添加した後、pH7以上10以下に調整して該添加水に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過してろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収することを特徴とする前記(1)記載の方法。
(3)前記液体燃料又は油が、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテルの少なくともいずれかであることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記腐食部位を有する金属が、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウム、マンガンのうちいずれか1種以上を含有する金属であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記金属の腐食が、液体燃料を貯留するタンク若しくは容器、液体燃料を通液するパイプ、又は、前記タンク、容器、パイプにおける接合部又は溶接部、で生じる腐食であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の微生物の回収方法で回収した微生物から、DNAを抽出した後、当該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNAの塩基配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする金属の腐食に関わる微生物の同定方法。
(7)前記DNAの特定領域の増幅にPCRを用いることを特徴とする前記(6)の方法。
なお、液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境とは、例えばガソリンタンクなどの液体燃料タンクの内部や、原油貯蔵施設などの液体燃料の存在する環境を意味する。
また、本発明で言うところの微生物を取り除いた水とは、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを添加する前に、膜ろ過等で微生物を取り除いておいた水のことである。
また、本発明で言うところの微生物を取り除いた水とは、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを添加する前に、膜ろ過等で微生物を取り除いておいた水のことである。
本発明により、液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境における金属の腐食部位に存在する金属の腐食に関わる微生物を、腐食により夾雑する金属から分離して回収して、微生物を同定することが可能になる。
特に、今まで困難であった、ガソリン、アルコールなどの液体燃料の金属タンクに存在する腐食に関わる微生物を回収し、同定することが可能となる。
これにより、従来、難しかった金属の腐食に関わる微生物を解明できるようになり、金属の腐食対策に進展をもたらすものと期待される。
特に、今まで困難であった、ガソリン、アルコールなどの液体燃料の金属タンクに存在する腐食に関わる微生物を回収し、同定することが可能となる。
これにより、従来、難しかった金属の腐食に関わる微生物を解明できるようになり、金属の腐食対策に進展をもたらすものと期待される。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明では、液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属に対して、金属の腐食部位に存在する、液体、バイオフィルムなどの付着物、腐食により生成した錆、腐食生成物と液体などが混在することにより生成したスラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加することをまず行なう。
本発明では、液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属に対して、金属の腐食部位に存在する、液体、バイオフィルムなどの付着物、腐食により生成した錆、腐食生成物と液体などが混在することにより生成したスラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加することをまず行なう。
対象とする液体燃料又は油としては、水と比重が異なるものであれば、本発明を適用可能であるが、金属腐食に特に影響する、原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテル等の単独、又は、混合物を対象とすることがより好ましい。
液体燃料又は油を含有する液体とは、上記の液体燃料又は油の中に水を含有する液体である。例えば、液体燃料又は油に結露等で水分が混ざった液や、液体燃料や油の製造時に、精製度が低く水分が混ざっている液等がある。勿論、純度の高い液体燃料又は油も含まれる。
ここで、金属の腐食部位とは、文字通り金属が腐食している箇所及び腐食している箇所の周囲を意味する。例えば、ガソリンタンクの底板腐食では、底板腐食箇所周囲にあるガソリン等の液体燃料、錆、スラッジなどを意味する。原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテルを保持あるいは貯留するタンク、容器、パイプ、又は、これらの接合部あるいは溶接部などで、特に微生物腐食が起こりやすい。
次に、添加後の、微生物を取り除いた水と、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかとの混合液を、攪拌して懸濁する。
その後、例えば静置あるいは遠心して相分離によりその水相を、ピペット等を用いて回収して得られる水(水相回収水と呼称する)に対して、そのpHを7以上10以下に調整する。
その後、例えば静置あるいは遠心して相分離によりその水相を、ピペット等を用いて回収して得られる水(水相回収水と呼称する)に対して、そのpHを7以上10以下に調整する。
尚、微生物を取り除いた水は、添加前に事前に作成したおく。作成方法としては、例えば孔径0.5μm未満のろ膜を用いてろ過するなどして行うことができる。微生物が取り除かれたことを確認する方法としては、例えば蛍光色素のDAPI(4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール, ジヒドロクロライド)を用いて、微生物が存在する場合には蛍光染色された微生物が蛍光顕微鏡で観察されることより、微生物の存在の有無が判り、微生物が取り除かれたことを確認できる。
添加先の微生物を取り除いた水の量としては、相分離により水相が明確に形成され、かつピペット等を用いて水相を回収可能な量があればよい。
腐食部位に存在する液体、付着物、錆、又はスラッジに存在する微生物は、この微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、相分離することにより水相に移行させることができる。例えば液体であるガソリン中にエマルジョンとして存在する水に生息する微生物は、ガソリンを、微生物を取り除いた水に添加して、懸濁後、相分離することにより水相に移行させることができる。
腐食部位に存在する液体、付着物、錆、又はスラッジに存在する微生物は、この微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、相分離することにより水相に移行させることができる。例えば液体であるガソリン中にエマルジョンとして存在する水に生息する微生物は、ガソリンを、微生物を取り除いた水に添加して、懸濁後、相分離することにより水相に移行させることができる。
これは、原油、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテルの少なくとも一成分を含有する液体を使用する環境で腐食した金属の腐食に関わる微生物は、殆どが上記液中においてエマルジョン等の形で水相に生息していると考えられるためである。
この微生物を取り除いた水は、0.5μm孔径以下、より好ましくは0.2μm以下の孔径のろ膜によりろ過した無菌水を用いることが望ましい。ろ膜の孔径の下限は特に規定しないが、水をろ過できるものであれば使用可能である。一般に市販されているろ膜で構わない。
水相回収水をpH7以上10以下に調整することにより、このpH域で、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウム、マンガン等が水酸化物を形成して沈澱する。より詳細には、pH7以上8以下では鉄、アルミニウム、クロムが、pH8以上9以下では銅、亜鉛が、pH9以上10以下ではニッケル、カドミウム、マンガンが、それぞれ水酸化物を形成して沈澱する。
鉄鋼の腐食を例に取ると、腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジのpHは酸性を示すことが多い。これは、腐食により溶出した2価イオンが錆を生成する際、例えば、下記の反応により、酸性化するからである。
Fe2+ + 2H2O → Fe(OH)2 + 2H+
Fe2+ + 2H2O → Fe(OH)2 + 2H+
したがって、腐食面に接する水、あるいは付着物、錆、スラッジ、液体に存在する水は酸性を示すことが多くなるため、pH7以上10以下に調整するためには、一般にアルカリを添加することになる。
金属水酸化物が沈殿し始めるpHは、原則的に金属の溶解度積によって決定されるものの、実際には、共存するイオンの影響を受け、溶解度積の大きな金属でも比較的低いpHで共沈することがある。例えば3価鉄は、比較的低いpHで水酸化第二鉄として除去されるが、このとき、溶存していたカドミウム、クロムが共沈する現象が知られている。したがって、金属の腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジを微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、相分離によりその水相を回収して得られる水を、pH7以上10以下に調整することで金属イオンを効率的に沈澱除去することができる。pH7は、これら金属イオンの水酸化物の沈澱を効果的に生じさせる下限のpHであり、pH10は、このpHを超えると、金属種によっては錯イオン化して再溶解する可能性があることと、これより高いpHに調整すると、アルカリ添加量が増え、コスト的に不利である。尚、続けてDNA抽出やDNAの解析を行う際に再度のpH調整を行う必要が生じることを考慮すると、pH7以上8.5以下にpHを調整することがより好ましい。
添加するアルカリとしては、微生物からのDNA抽出、DNA配列の読み取りに必要な酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はないが、コストの観点から消石灰(Ca(OH)2)や水酸化ナトリウムが好ましい。
次に、前記工程によって発生した金属水酸化物と微生物を分離し、さらに微生物を回収する方法について説明する。
次に、前記工程によって発生した金属水酸化物と微生物を分離し、さらに微生物を回収する方法について説明する。
金属の腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジを微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、相分離によりその水相を回収して得られる水を、pHを7以上10以下に調整すると金属水酸化物が生じて懸濁するが、通常、生じた金属水酸化物は、1時間程度静置することによって沈澱し、付着物、錆、スラッジの不溶成分も金属水酸化物の沈澱に伴って共沈させることができる。勿論、静置時間は、1時間よりも短時間あるいは長時間であっても、金属水酸化物の沈殿が良好に進行する程度静置すればよく、特に限定されるものではない。また、遠心器やデカンタを用いて短時間に金属水酸化物を沈殿させることも可能である。この場合、あまり強い遠心をかけると、微生物も沈降してしまい、上澄み液から微生物を回収できなくなるので注意を要する。例えば、3000rpmで10分間程度の遠心分離で金属水酸化物を沈殿させ、上澄み液に微生物を残存させることが可能であるが、勿論、遠心分離条件も前記条件のみに限定されるものではない。
前記操作後、沈澱した金属水酸化物等の不溶成分をとらないように注意して、上澄み液をピペット等で回収する。しかし、金属水酸化物が上澄み液に若干混入して回収されたことが目視により確認された場合は、回収した上澄み液を再度、上述の方法で静置あるいは遠心分離して金属水酸化物を沈殿させて、上澄み液を再度回収することが望ましい。
次に、回収した上澄み液をろ膜でろ過することにより、ろ膜上に微生物を回収する。微生物を回収するろ膜の孔径は、微生物の大きさよりも小さな径が好ましく、具体的には0.5μm以下が好ましい。微生物には0.5μm以下の大きさのものも多く存在するため、より確実に回収するためには孔径0.2μm以下が特に好ましい。ろ膜の孔径の下限は特に規定しないが、水をろ過できるものであれば使用可能である。
以上の操作により、金属の腐食に関わる微生物をろ膜上に回収できる。
回収した微生物はそのまま、以下に示すDNA抽出に使用することができる。また、さらに金属等の夾雑が心配される場合には、ろ膜上に回収した微生物を再度、微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、この水を、pH7以上10以下に調整して金属イオンを金属水酸化物とした後、該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して金属の腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジに存在する金属の腐食に関わる微生物をろ膜上に分離して回収することを繰り返すことで、より金属の夾雑がなく微生物を回収することも可能である。
回収した微生物はそのまま、以下に示すDNA抽出に使用することができる。また、さらに金属等の夾雑が心配される場合には、ろ膜上に回収した微生物を再度、微生物を取り除いた水に添加して懸濁後、この水を、pH7以上10以下に調整して金属イオンを金属水酸化物とした後、該金属水酸化物を沈殿させ、さらに、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して金属の腐食部位に存在する液体、及び付着物、錆、スラッジに存在する金属の腐食に関わる微生物をろ膜上に分離して回収することを繰り返すことで、より金属の夾雑がなく微生物を回収することも可能である。
次に、本発明に係わる回収した微生物のDNAを抽出してDNA配列に基づいて微生物を同定する方法について説明する。
前記操作によりろ膜上に回収した微生物は、必要に応じて、適当な洗浄液を用いて、混在する油や金属含有スラッジなどの不純物を取り除くことも可能である。洗浄液としては、例えば、分子生物学実験で一般的に使用されるTE緩衝液(エチレンジアミン四酢酸を含むトリス−塩酸緩衝液)などを用いることができる。勿論、TE緩衝液以外のものでも、後述のDNA抽出やPCR反応などの酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はない。
前記操作によりろ膜上に回収した微生物は、必要に応じて、適当な洗浄液を用いて、混在する油や金属含有スラッジなどの不純物を取り除くことも可能である。洗浄液としては、例えば、分子生物学実験で一般的に使用されるTE緩衝液(エチレンジアミン四酢酸を含むトリス−塩酸緩衝液)などを用いることができる。勿論、TE緩衝液以外のものでも、後述のDNA抽出やPCR反応などの酵素反応を阻害するものでなければ特に限定はない。
ろ膜上に回収した微生物からDNAを抽出する方法としては、分子生物学実験で一般的に用いられるDNA抽出方法を用いることが可能である。例えば、塩化ベンジルを用いる方法、ガラスビーズを用いる方法、フェノールを用いる方法、酵素を用いる方法などが挙げられる。このうち、塩化ベンジルを用いるDNA抽出法が抽出効率が高いため、特に好ましいが、この方法に限定されるものではない。
DNA抽出後、DNAの特定領域を増幅する方法について説明する。ここでDNAの特定領域とは微生物の体内から抽出されたDNAの中で、微生物種の比較検討が可能なDNAの領域を意味する。例えば16SリボゾームRNA遺伝子の一部などがある。DNAの特定領域の増幅方法は、簡便で一般化されており、確実に増幅できることからPCR(ポリメラーゼ・チェーン・リアクション)が好ましい。PCRによりDNAを増幅した後、得られた増幅されたDNAを、例えば変性剤濃度勾配電気泳動DGGE(Denatured Gradient Gel Electrophoresis)、あるいは温度勾配電気泳動TGGE(Temperature Gradient Gel Electrophoresis)などの方法で電気泳動して、DNAを蛍光色素で染色することにより、各微生物から抽出した異なる微生物配列を持つDNAを分離したバンドとして得る。
前記各DNAバンドからDNA配列を読み取ることが可能であるため、各DNAバンドに対応する微生物をDNA配列のデータベースを参照することで同定できる。
前記各DNAバンドからDNA配列を読み取ることが可能であるため、各DNAバンドに対応する微生物をDNA配列のデータベースを参照することで同定できる。
実施例1
底板部に腐食が起こった鉄製石油燃料タンクの腐食部位に存在する、石油と結露により発生した水、および腐食生成物である鉄錆からなる混合物を100g採取した。この採取物を2Lのビーカーに入れ、これに0.2μm孔径のろ膜でろ過した微生物を含まない水1Lを加えて、採取物を滅菌処理した撹拌棒で攪拌し十分懸濁させた。1時間静置することにより、鉄錆は下層に沈澱し、石油油分は上層に分かれ、中間に水相が相分離した。
底板部に腐食が起こった鉄製石油燃料タンクの腐食部位に存在する、石油と結露により発生した水、および腐食生成物である鉄錆からなる混合物を100g採取した。この採取物を2Lのビーカーに入れ、これに0.2μm孔径のろ膜でろ過した微生物を含まない水1Lを加えて、採取物を滅菌処理した撹拌棒で攪拌し十分懸濁させた。1時間静置することにより、鉄錆は下層に沈澱し、石油油分は上層に分かれ、中間に水相が相分離した。
この水相をピペットを用いて注意深く750mL回収した。このように水相を回収することにより得られた水に対して、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、そのpHをpH7.5に調整した。pH調製直後は赤褐色の懸濁状態であったが、室温(20℃)で1時間静置したところ、赤褐色の懸濁物質は沈降して上澄み液は無色透明となった。
次に、この相分離された上澄み液をピペットで回収した後、孔径0.2μmのろ膜でろ過し、ろ膜上にトラップされた回収物を10mMトリス−塩酸(pH9.0)、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、回収物から不純物を取り除いて微生物を回収した。続いて、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、続いて塩化ベンジルを用いてDNAを抽出した。さらにエタノール沈澱によってDNAを濃縮した。この濃縮したDNAを鋳型として、それぞれ表1に記載のプライマーを使用してPCRを実施した。
表1 PCRプライマー
プライマー 塩基配列
フォワードプライマー: 5’-GCクランプ-GCAAGTCTGGTGCCAGCAGCC-3’
リバースプライマー: 5’-CCGTCAATTCCTTTGAGTTT-3’
GCクランプ: CGCCCGCCGCGCCCCGCGCCCGTCCCGCCGCCCCCGCCCG
プライマー 塩基配列
フォワードプライマー: 5’-GCクランプ-GCAAGTCTGGTGCCAGCAGCC-3’
リバースプライマー: 5’-CCGTCAATTCCTTTGAGTTT-3’
GCクランプ: CGCCCGCCGCGCCCCGCGCCCGTCCCGCCGCCCCCGCCCG
このプライマーを用いることにより、大腸菌の16SリボゾームRNA遺伝子の506番目の塩基と907番目の塩基に挟まれたDNAの領域に対応する真正細菌のDNAを増幅することができる。DNAを増幅する酵素であるDNAポリメラーゼとして、AmpliTaq Gold(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR装置はGene Amp PCR System 9600(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR条件は、94℃で7分間の後に、96℃で30秒、アニール温度65〜55℃で60秒、72℃で90秒を20サイクル繰り返した(ただし、2サイクル毎にアニール温度が1℃ずつ下がるようにした)後に、94℃で30秒、55℃で60秒、72℃で90秒を15サイクルの後、72℃で10分間として、4℃でDNA解析に供するまで保存した。
このPCRにより得られた、増幅されたDNA産物を2質量%アガロースで電気泳動したところ、400bp付近にDNAのバンドが確認でき、微生物の回収が行えたことを確認できた。
そこで、上記PCRにより得られた、増幅されたDNA産物をDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)で解析した。DGGEの装置には、Dcode(BIO RAD, USA)を用いた。変性剤として尿素とホルムアミドを用い、変性剤の濃度には、30〜60質量%の濃度勾配を付けた。また、ポリアクリルアミドの濃度についても、5〜10質量%の濃度勾配をつけた。電圧130Vを印加して7時間電気泳動した。泳動後のゲルはSyber Green(TAKARA)で染色して、染色されたDNAのバンドを紫外線(310nm)照射下で、CCDカメラで撮影した。
DGGEによる微生物の検出結果を図1に示す。さらに、図1において各微生物に対応する各DNAのバンドを切り出して、そのDNA配列を読み取った。読み取ったDNA配列をデータベースでホモロジー検索することで、存在する微生物を同定することができた。鉄酸化細菌であるチオバシラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)とDNA配列が100%一致したので、本鉄酸化細菌の存在が確認された。この鉄酸化細菌は2価鉄イオンを腐食性の3価鉄イオンに酸化する働きを持つので、微生物腐食に関わる微生物を同定することができた。
なお、ろ膜の孔径を0.3μm、0.5μm、0.6μmと大きくして、その他は上記と同条件で試験したところ、0.3μm、0.5μmの場合は、0.2μmの場合と同様に微生物腐食に関わる微生物を同定することができたが、0.6μmの場合は、微生物がろ膜を通過してしまったため、PCR後にDNA産物を回収することができなかった。
また、pHを6.5、9.5、10.5と変えて上記と同条件の試験を実施したところ、pHが9.5の場合は、7.5の場合と同様に微生物腐食に関わる微生物を同定することができたが、pHが6.5の場合は、金属が水酸化物として沈殿せず、ろ液中にFe2+等の金属イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。また、pHが10.5の場合は、金属の錯イオンが形成され、ろ液中に当該錯イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。
また、pHを6.5、9.5、10.5と変えて上記と同条件の試験を実施したところ、pHが9.5の場合は、7.5の場合と同様に微生物腐食に関わる微生物を同定することができたが、pHが6.5の場合は、金属が水酸化物として沈殿せず、ろ液中にFe2+等の金属イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。また、pHが10.5の場合は、金属の錯イオンが形成され、ろ液中に当該錯イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。
実施例2
底板部に腐食が起こった鉄製ディーゼル油用燃料タンクの腐食部位に存在する、ディーゼル油と結露により発生した水、および腐食生成物である鉄錆からなる混合物を50g採取した。この採取物を2Lのビーカーに入れ、これに0.2μm孔径のろ膜でろ過した微生物を含まない水1Lを加えて、採取物を十分懸濁させた。1時間静置することにより、鉄錆は下層に沈澱し、石油油分は上層に分かれ、中間に水相が相分離した。この水相をピペットを用いて注意深く750mL回収した。このように水相を回収することにより得られた水に対して、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、そのpHをpH7.5に調整した。pH調製直後は赤褐色の懸濁状態であったが、室温(20℃)で1時間静置したところ、赤褐色の懸濁物質は沈降して上澄み液は無色透明となった。
底板部に腐食が起こった鉄製ディーゼル油用燃料タンクの腐食部位に存在する、ディーゼル油と結露により発生した水、および腐食生成物である鉄錆からなる混合物を50g採取した。この採取物を2Lのビーカーに入れ、これに0.2μm孔径のろ膜でろ過した微生物を含まない水1Lを加えて、採取物を十分懸濁させた。1時間静置することにより、鉄錆は下層に沈澱し、石油油分は上層に分かれ、中間に水相が相分離した。この水相をピペットを用いて注意深く750mL回収した。このように水相を回収することにより得られた水に対して、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加して、そのpHをpH7.5に調整した。pH調製直後は赤褐色の懸濁状態であったが、室温(20℃)で1時間静置したところ、赤褐色の懸濁物質は沈降して上澄み液は無色透明となった。
次に、この相分離された上澄み液をピペットで回収した後、孔径0.2μmのろ膜でろ過し、ろ膜上にトラップされた回収物を10mMトリス−塩酸(pH9.0)、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、回収物から不純物を取り除いて微生物を回収した。続いて、1mMエチレンジアミン四酢酸、10mM塩化ナトリウムからなる溶液で洗浄し、続いて塩化ベンジルを用いてDNAを抽出した。さらにエタノール沈澱によってDNAを濃縮した。この濃縮したDNAを鋳型としてそれぞれ表1に記載のプライマーを使用してPCRを実施した。
このプライマーを用いることにより、大腸菌の16SリボゾームRNA遺伝子の506番目の塩基と907番目の塩基に挟まれたDNAの領域に対応する真正細菌のDNAを増幅することができる。DNAを増幅する酵素であるDNAポリメラーゼとして、AmpliTaq Gold(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR装置はGene Amp PCR System 9600(Applied Biosystems, USA)を用いた。PCR条件は、94℃で7分間の後に、96℃で30秒、アニール温度65〜55℃で60秒、72℃で90秒を20サイクル繰り返した(ただし、2サイクル毎にアニール温度が1℃ずつ下がるようにした)後に、94℃で30秒、55℃で60秒、72℃で90秒を15サイクルの後、72℃で10分間として、4℃でDNA解析に供するまで保存した。
このPCRにより得られた、増幅されたDNA産物を2質量%アガロースで電気泳動したところ、400bp付近にDNAのバンドが確認でき、微生物の回収が行えたことを確認できた。
そこで、上記PCRにより得られた、増幅されたDNA産物をDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)で解析した。DGGEの装置には、Dcode(BIO RAD, USA)を用いた。変性剤として尿素とホルムアミドを用い、変性剤の濃度には、30〜60質量%の濃度勾配を付けた。また、ポリアクリルアミドの濃度についても、5〜10質量%の濃度勾配をつけた。電圧130Vを印加して7時間電気泳動した。泳動後のゲルはSyber Green(TAKARA)で染色して、染色されたDNAのバンドを紫外線(310nm)照射下で、CCDカメラで撮影した。
DGGEによる微生物の検出結果を図2に示す。さらに、図2において各微生物に対応する各DNAのバンドを切り出して、そのDNA配列を読み取った。読み取ったDNA配列をデータベースでホモロジー検索することで、存在する微生物を同定することができた。DGGEで検出された十数本のDNAバンドのうち一本は、硫酸塩還元菌であるディスルフォビブリオ(Desulfovibrio)とDNA配列が100%一致した。本硫酸塩還元菌の存在が確認された。この硫酸塩還元菌は腐食性の硫化水素を発生する働きを持つので、微生物腐食に関わる微生物を同定することができた。
なお、ろ膜の孔径を0.3μm、0.5μm、0.6μmと大きくして、その他は上記と同条件で試験したところ、0.3μm、0.5μmの場合は、0.2μmの場合と同様に微生物腐食に関わる微生物を同定することができたが、0.6μmの場合は、微生物がろ膜を通過してしまったため、PCR後にDNA産物を回収することができなかった。
また、pHを6.5、9.5、10.5と変えて上記と同条件の試験を実施したところ、pHが9.5の場合は、7.5の場合と同様に微生物腐食に関わる微生物を同定することができたが、pHが6.5の場合は、金属が水酸化物として沈殿せず、ろ液中にFe2+等の金属イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。また、pHが10.5の場合は、金属の錯イオンが形成され、ろ液中に当該錯イオンが残留したため、PCRが阻害され、DNA産物を回収することができなかった。
Claims (7)
- 液体燃料又は油を含有する液体と接触する環境において腐食した金属の当該腐食に関わる微生物を回収する方法であって、前記金属の腐食部位に存在する、液体、付着物、錆、スラッジの少なくともいずれかを、微生物を取り除いた水に添加して懸濁した後、相分離してその水相を回収し、当該回収水をpH7以上10以下に調整して回収水中に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収することを特徴とする前記方法。
- 前記回収した微生物を、更に、微生物を取り除いた水に添加した後、pH7以上10以下に調整して該添加水に存在する金属イオンを金属水酸化物として沈殿させ、上澄み液を孔径0.5μm以下の膜でろ過して、ろ膜上に金属の腐食に関わる微生物を回収することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 前記液体燃料又は油が、石油、ガソリン、軽油、重油、アルコール、ディーゼルオイル、炭化水素、エーテルの少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
- 前記腐食部位を有する金属が、鉄、亜鉛、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、カドミウム、マンガンのうちのいずれか1種以上を含有する金属であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記金属の腐食が、液体燃料又は油を貯留するタンク若しくは容器、液体燃料を通液するパイプ、又は、前記タンク、容器、パイプにおける接合部又は溶接部、で生じる腐食であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で回収した微生物から、DNAを抽出した後、当該DNAの特定領域を増幅し、得られたDNAの塩基配列に基づいて微生物を同定することを特徴とする金属の腐食に関わる微生物の同定方法。
- 前記DNAの特定領域の増幅にPCRを用いることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
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JP2006072448A JP2007244290A (ja) | 2006-03-16 | 2006-03-16 | 金属の腐食に関わる微生物の回収および同定方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008072904A (ja) * | 2006-09-19 | 2008-04-03 | Eiken Chem Co Ltd | 核酸増幅反応における阻害を回避する方法 |
JP2011511155A (ja) * | 2008-01-28 | 2011-04-07 | マンキービック ゲブリュダー ウント コー(ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コー カゲー) | 組成物、腐食保護剤および抗菌性の腐食防止コーティング |
-
2006
- 2006-03-16 JP JP2006072448A patent/JP2007244290A/ja not_active Withdrawn
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JP2011511155A (ja) * | 2008-01-28 | 2011-04-07 | マンキービック ゲブリュダー ウント コー(ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コー カゲー) | 組成物、腐食保護剤および抗菌性の腐食防止コーティング |
US9279055B2 (en) | 2008-01-28 | 2016-03-08 | Mankiewicz Gebr. & Co. Gmbh & Co. Kg | Chromate-free corrosion protection for fuel tanks |
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