しかしながら、特許文献1のような主切刃が膨らんだスローアウェイチップが装着されたエンドミルを用いた場合、スローアウェイチップの寸法を精密に制御し、かつスローアウェイチップを正確にホルダに取り付けた場合には、主切刃の回転軌跡を切刃両端部にわたって精度の高い円柱面形状に制御することができるものの、実際にはホルダとスローアウェイチップ間の取り付け精度のバラツキや寸法精度のバラツキ等により、スローアウェイチップをエンドミルのホルダに装着した状態において主切刃両端の回転半径に差が生じてしまうことが多い。
たとえば取付誤差の範囲内で、主切刃のホルダ基端部側部分の回転半径が、ホルダ先端部側部分の回転半径よりも大きくなる場合がある。このような状態で肩削りや溝加工で多段切込み加工をした場合、後段の切込み加工では、前段の切込み加工で削り残した部分に主切刃のホルダ基端部側部分が干渉することがある。この場合、被削材の剛性が極めて小さいとき、たとえば薄板の切削加工であるときには、上述した主切刃と被削材との干渉によって被削材が振動し、びびりが発生するおそれがある。びびりが発生すると、加工面に段差が形成されるなどして被削材の品質が低下したり、スローアウェイチップが損傷するなどの問題がある。
したがって本発明は、エンドミルでの切削加工において、びびりの発生を抑えるとともに加工壁面の段差を小さくできるエンドミルまたはエンドミルに用いられるスローアウェイチップを提供することを目的とする。
本発明は、(a)略板状に形成され、厚み方向一方の面に形成されるすくい面と、幅方向一方の面に形成される逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線に形成される主切刃とを具備するスローアウェイチップと、
(b)略円柱状に形成されて、前記スローアウェイチップが着脱可能に外周部に装着されるホルダとを有するスローアウェイエンドミルであって、
(c)前記スローアウェイチップが前記ホルダに装着された状態で、前記ホルダの軸線であるホルダ軸線を中心に回転させた場合に、前記主切刃の回転軌跡のうちで、ホルダ軸線を含みホルダ軸線に平行な仮想平面に交わる交線は、
(c1)ホルダ軸線方向先端側の一端部に対して、ホルダ軸線方向基端側の他端部がホルダ半径方向内方に配置され、
(c2)前記一端部よりもホルダ軸線方向基端側でかつ、前記他端部よりもホルダ軸線方向先端側に位置し、前記一端部を通過してホルダ軸線に平行に延びる仮想直線に交差する境界部が設定され、
(c3)前記一端部から前記境界部まで延びる第1領域では、前記仮想直線よりもホルダ半径方向外方に膨らみ、前記境界部から前記他端部まで延びる第2領域では、前記仮想直線よりもホルダ半径方向内方に窪むことを特徴とするスローアウェイエンドミルである。
本発明に従えば、チップがホルダの外周部に装着されるホルダをホルダ軸線まわりに回転させ、主切刃を被削材に回転接触させることで、被削材を断続切削して、溝削り加工や肩削り加工を行うことができる。また被削材に対して、複数回に分けてホルダ軸線方向に切り込まれる、いわゆる多段切込み切削加工を行うことによって、被削材表面から加工底面までの深さ寸法を大きくすることができる。
誤差が存在しない状態では、交線の一端部と境界部とを結ぶ直線がホルダ軸線に平行に延びる。この場合、交線の第1領域がホルダ半径方向外方に膨らみ、交線の第2領域がホルダ半径方向内方に窪むことになる。このように誤差が存在しない状態で多段切込み加工を行うと、第1領域の主切刃が被削材を切削する。また第2領域の主切刃は、前段の切込み加工で、第1領域の主切刃によって被削材に形成された加工壁面から離れて回転することになる。このとき第2領域の主切刃は、切削に寄与することがなく、第1領域の主切刃よりも加工壁面の段差に与える影響が小さい。
チップの寸法誤差、ホルダに対するチップの取付誤差およびホルダのたわみなどの誤差に起因して、交線の一端部と境界部とを結ぶ直線が、ホルダ軸線に対して傾斜することがある。誤差が生じたとしても、第1領域のうちで中間部の主切刃部分がホルダ半径方向外方に膨らむことで、一端部と境界部とのいずれかで生じた削り残しを、後段の切込み加工で第1領域の主切刃の膨らんだ部分で削り取ることができ、加工壁面をならすことができる。
また誤差に起因して、交線の一端部と境界部とを結ぶ直線が、一端部から境界部に進むにつれてホルダ半径方向外方に傾く場合には、誤差が存在しない場合に比べて、交線の他端部がホルダ半径方向外方に位置することになる。本発明では、誤差が存在しない状態で、交線の他端部が一端部よりもホルダ半径方向内方に退避して配置される。これによって許容誤差範囲内で比較的大きな誤差が生じたとしても、他端部が第1領域の最突出部よりもホルダ半径方向最外方に突出しにくく、交線の他端部に対応する切刃部分が被削材に接触することが防がれる。これによって誤差が生じても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する切刃部分が接触することを防ぐことができる。したがって1回の切込み加工で被削材の切削量が増加することを防ぐことができる。
また本発明は、前記交線は、前記一端部と前記他端部と前記境界部とを通過する円弧状に形成されることを特徴とするスローアウェイエンドミルである。
本発明に従えば、交線が円弧状に延びることで、誤差によって交線の一端部と境界部とを結ぶ直線が傾斜したとしても、交線のうちで切削に寄与する切削領域について、誤差が存在しない状態とほぼ同様の長さおよび形状の円弧形状とすることができる。これによって誤差の影響によって、切削後の加工壁面が変化することを防ぐことができる。
また本発明は、前記交線の境界部は、前記一端部からホルダ軸線方向基端側に向かってホルダ軸線方向に、前記交線のホルダ軸線寸法の1/2以上3/4以下、移動した位置に設定されることを特徴とする。
本発明に従えば、多段切込み加工における1回の切込み量は、一端部から他端部までのホルダ軸線方向寸法の1/2以下に選択されることが大半である。一端部から境界部までの距離が、交線のホルダ軸線寸法の1/2未満となる場合、1回の切込みでは、第1領域の主切刃で切削を行うことができず削り残しが生じやすい。これに対して本発明では、一端部から境界部までの距離が、交線のホルダ軸線寸法の1/2以上に設定されるので、1回の切込みで、交線の第1領域に対応する切刃が接触に寄与することになり、削り残しの発生することを防ぐことができる。
また一端部から境界部までの距離が交線のホルダ軸線寸法の3/4を超える場合、誤差が生じることで、交線のうちで、境界部がホルダ半径方向最外方に突出しやすくなり、1回の切込み加工で、被削材を切削する切削量が増大してしまう。これに対して本発明では、一端部から境界部までの距離が、交線のホルダ軸線寸法の3/4以下に設定されることで、誤差が生じても、交線の境界部がホルダ半径方向最外方に突出しにくくなり、1回の切込み加工で被削材の切削量が増大することを防ぐことができる。
また本発明は、前記スローアウェイチップが前記ホルダに装着された状態で、前記主切刃は、ホルダ軸線方向先端からホルダ軸線方向基端側に進むにつれて、予め定める第1角度でホルダ軸線に平行な直線に対してホルダ回転方向下流側に傾斜し、前記交線の境界部に対応する位置に達したあとは、前記第1角度よりも小さい第2角度でホルダ軸線に平行な直線に対してホルダ回転方向下流側に傾斜することを特徴とする。
本発明に従えば、主切刃が、ホルダ軸線方向先端からホルダ軸線方向基端側に進むにつれてホルダ回転方向下流側に向かって傾斜することで、第1領域および第2領域に対応する主切刃にはアキシャルレーキを付与することができる。これによって切削抵抗を低減することができ、エンドミルの切れ味を向上することができる。また第2領域に対応するアキシャルレーキである第2角度を、第1領域に対応するアキシャルレーキである第1角度よりも小さくすることで、ホルダ軸線方向基端側の肉厚の減少を抑えることができ、エンドミルの剛性を高めることができる。
また本発明は、前記スローアウェイエンドミルに用いられるスローアウェイチップである。
本発明に従えば、本発明のチップが上述するホルダに装着されることで、上述したスローアウェイエンドミルを実現することができる。したがってチップがホルダに取付けられるなどの取付誤差が生じたとしても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する切刃部分が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が増加することを防ぐことができる。
また本発明は、(a)略円柱状のホルダに装着されてスローアウェイエンドミルを構成するスローアウェイチップであって、略板状に形成され、チップ厚み方向一方の面に形成されるすくい面と、チップ幅方向一方の面に形成される逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線に形成される長辺切刃とを具備し、
(b)前記長辺切刃は、
(b1)チップ長手方向一端部に対して、チップ長手方向他端部がチップ幅方向内方に退避して形成され、
(b2)チップ長手方向一端部よりもチップ長手方向他端部側でかつ、チップ長手方向他端部よりもチップ長手方向一端部側に位置し、前記チップ長手方向一端部を通過してチップ長手方向に延びる仮想直線に交差する境界部が設定され、
(b3)前記チップ長手方向一端部と前記チップ長手方向他端部と前記境界部とを通過して湾曲して延びる仮想円弧に沿って延び、
(b4)チップ長手方向一端部から前記境界部まで延びる第1領域では、前記仮想直線よりもチップ幅方向外方に膨らみ、前記境界部からチップ長手方向他端部まで延びる第2領域では、前記仮想直線よりもチップ幅方向内方に窪むことを特徴とする。
本発明に従えば、チップ長手方向がホルダ軸線方向に大略的に延び、チップ幅方向がホルダ半径方向に大略的に延び、チップ厚み方向がホルダ回転方向に大略的に延びるように、チップがホルダに固定される。また主切刃のチップ長手方向一端部がホルダ軸線方向先端側に位置するように、ホルダに固定される。この場合、チップに形成される長辺切刃がエンドミルの主切刃となる。
このようにホルダに固定されることで、ホルダにチップが装着された状態で、主切刃の他端部は、主切刃の一端部よりもホルダ半径方向内方に位置する。また主切刃の第1領域は、主切刃の一端部を通過してホルダ軸線に平行に延びる仮想直線よりもホルダ半径方向外方に膨らむ。また主切刃の第2領域は、前記仮想直線よりもホルダ半径方向内方に窪む。したがって上述したように誤差が生じても、前段の切込み加工で削り残した部分に、主切刃の他端部が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が増加することを防ぐことができる。またチップに形成される切刃を湾曲させることで、ホルダに複雑な加工を施す必要がなく、ホルダを製造するための製造コストを低下させることができる。
また本発明は、厚み方向他方の面に平面状に形成され、ホルダに装着された状態でホルダの着座面に接する底面が形成され、
前記長辺切刃は、チップ長手方向一端部から境界部にチップ長手方向に進むにつれて前記底面に向かってチップ厚み方向に傾斜し、境界部からチップ長手方向他端部にチップ長手方向に進むにつれて、底面から遠ざかって傾斜または底面に平行に延びることを特徴とする。
本発明に従えば、ホルダの着座面に底面を接触させてホルダに装着される。長辺切刃は、チップ長手方向一端部から境界部にチップ長手方向に進むにつれて前記底面に向かってチップ厚み方向に傾斜する。これによってチップがホルダに装着されたスローアウェイエンドミルについて、第1領域の主切刃にアキシャルレーキを与えることができ、切削抵抗を低減して、切削性を向上することができる。また長辺切刃は、境界部から他端部に進むにつれて、底面から遠ざかって傾斜または底面に平行に延びることで、第2領域の主切刃が形成される部分のチップ厚みの減少を抑えることができ、チップの強度を高めて、チップが破損することを防ぐことができる。
また本発明は、前記逃げ面は、長辺切刃に隣接する第1逃げ面が形成され、前記第1逃げ面の角度である第1逃げ角は、チップ長手方向一端部からチップ長手方向他端部に向かうにつれて大きくなるように形成されることを特徴とする。
本発明に従えば、第1逃げ面がチップ長手方向一端部からチップ長手方向他端部に向かうにつれて大きく形成されることで、取付誤差などが生じて、第2領域の主切刃のチップ長手方向他端部で被削材を切削する場合が生じても、第1領域の主切刃に比べて、第2領域の主切刃の切削抵抗を低減して、切削性を向上することができる。
また本発明は、厚み方向他方の面に平面状に形成され、ホルダに装着された状態でホルダの着座面に接する底面が形成され、
前記逃げ面は、長辺切刃に隣接する第1逃げ面と、前記底面と第1逃げ面とに隣接する第2逃げ面とを有し、第2逃げ面は、平面状に形成されて、前記第2逃げ面の角度である第2逃げ角は、チップ長手方向一端部から他端部に向かうにつれて一定であって、前記第1逃げ面の角度である第1逃げ角よりも大きく形成され、
チップ長手方向一端部から境界部に進むにつれて、第1逃げ面の厚み方向寸法は、小さくなり、第2逃げ面の厚み方向寸法が大きくなり、
境界部からチップ長手方向他端部に進むにつれて、第1逃げ面の厚み方向寸法は、大きくなり、第2逃げ面の厚み方向寸法が小さくなることを特徴とする。
本発明に従えば、チップ長手方向一端部から境界部に進むにつれて、第1逃げ面の厚み方向寸法は小さくなり、第2逃げ面の厚み方向寸法が大きくなる。また境界部からチップ長手方向他端部に進むにつれて、第1逃げ面の厚み方向寸法は大きくなり、第2逃げ面の厚み方向寸法が小さくなる。これによって第1逃げ面が曲面に形成されても、第2逃げ面を平面に形成することができる。また第1逃げ面と第2逃げ面とを連ならせることができる。このように第1逃げ面と第2逃げ面とを連ならせることで、第2逃げ面から第1逃げ面がチップ幅方向外方に突出する場合に比べて、チップの強度を向上することができ、チップの破損を防ぐことができる。
また本発明は、厚み方向一方の面に形成されるすくい面と、幅方向一方の面に形成される逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線に形成される主切刃とを具備する刃先部分が円柱状の基部の外周部から突出する回転切削工具であって、
基部の軸線である基部軸線を中心に回転させた場合に、前記交差稜線の回転軌跡のうちで、ホルダ軸線を含みホルダ軸線に平行な仮想平面に交わる交線は、
基部軸線方向先端側の一端部に対して、基部軸線方向基端側の他端部が基部半径方向内方に配置され、
前記一端部よりも基部軸線方向基端側でかつ、前記他端部よりも基部軸線方向先端側に位置し、前記一端部を通過して基部軸線に平行に延びる仮想直線に交差する境界部が設定され、
前記一端部から前記境界部まで延びる第1領域では、前記仮想直線よりも基部半径方向外方に膨らみ、前記境界部から前記他端部まで延びる第2領域では、前記仮想直線よりも基部半径方向内方に窪むことを特徴とする回転切削工具である。
本発明に従えば、基部軸線まわりに回転させ、主切刃を被削材に回転接触させることで、被削材を断続切削して、溝削り加工や肩削り加工を行うことができる。また被削材に対して、複数回に分けて基部軸線方向に切り込まれる、いわゆる多段切込み切削加工を行うことによって、被削材表面から加工底面までの深さ寸法を大きくすることができる。
上述するスローアウェイエンドミルと同様に、交線の一端部と境界部とを結ぶ直線が基部軸線に平行に延びることで、交線の第1領域が基部半径方向外方に膨らみ、交線の第2領域が基部半径方向内方に窪むことになる。これによって刃先の精度および基部のたわみなどの誤差に起因して、誤差が生じたとしても、一端部と境界部とのいずれかで生じた削り残しを、後段の切込み加工で第1領域に対応する主切刃の膨らんだ部分で削り取ることができ、加工壁面を均すことができる。
また誤差が生じても、交線のうちで他端部が第1領域の最突出部よりも基部半径方向最外方に突出しにくく、交線の他端部に対応する切刃部分が被削材に接触することが防がれる。これによって誤差が生じても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する切刃部分が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が増加することを防ぐことができる。
請求項1記載の本発明によれば、取付誤差等が生じたとしても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する主切刃が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が増大することを抑えることができ、切削抵抗を抑えて被削材に与える外力を小さくすることができる。これによって被削材が振動してびびりが発生することを防ぐことができ、被削材の品質低下を抑えることができるとともに、びびりによって生じる加工壁面の段差を小さくすることができる。
請求項2記載の本発明によれば、交線の第1領域および第2領域が1つの円弧に沿って延びることで、誤差が存在しない状態と、誤差が存在する状態とで、交線のうちで切削に寄与する切削領域を、ほぼ同様の長さおよび形状とすることができる。これによって加工壁面の品質を均一化することができる。
請求項3記載の本発明によれば、一端部から境界部までの距離が、交線のホルダ軸線寸法の1/2以上3/4以下に設定されることで、1回の切込みで生じる削り残しを少なくすることができるとともに、誤差が生じても境界部がホルダ半径方向最外方に突出しにくくなり、1回の切込み加工で被削材の切削量が増大することを抑えることができる。これによってエンドミルに生じる切削抵抗をより確実に抑えることができ、被削材が振動してびびりが発生することをより確実に防ぐことができる。
請求項4記載の本発明によれば、主切刃にアキシャルレーキを付与することで、切削抵抗を低下させて切れ味を向上することができ、被削材で生じる振動をさらに小さくすることができる。また第2領域に対応する主切刃に付与するアキシャルレーキを、第1領域に対応する主切刃に付与するアキシャルレーキよりも小さくすることで、ホルダ軸線方向基端側の肉厚の減少を抑えることができ、エンドミルの剛性を高めることができる。これによって誤差によって第2領域の主切刃によって切削が行われた場合に、第2領域の主切刃が破損することを防ぐことができ、チップの寿命を延ばすことができる。
請求項5記載の本発明によれば、チップが上述するホルダに装着されることで、上述したスローアウェイエンドミルを実現することができる。したがってチップがホルダに取付けられるなどの取付誤差が生じたとしても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する切刃部分が接触することを防ぐことができ、被削材のびびりを防ぐことができる。
請求項6記載の本発明によれば、チップに形成される主切刃を湾曲させることで、ホルダに複雑な加工を施す必要がなく、ホルダを製造するための製造コストを低下させることができる。
請求項7記載の本発明によれば、チップをホルダに装着することで、主切刃にアキシャルレーキを与えることができる。また着座面を傾斜させることで、ホルダとチップとのそれぞれによってアキシャルレーキを与えることができ、エンドミルに形成される最終的なアキシャルレーキを大きくすることができる。また第2領域の主切刃を形成する部分のチップ厚みの減少を抑えることができ、チップの強度を高めて、チップが破損することを防ぐことができる。
請求項8記載の本発明によれば、第1逃げ角がチップ長手方向一端部からチップ長手方向他端部に向かうにつれて大きく形成されることで、取付誤差が生じて、第2領域の主切刃のチップ長手方向他端部で被削材を切削する場合が生じても、第1領域の主切刃に比べて、第2領域の主切刃の切削抵抗を低減して、切削性を向上することができる。
請求項9記載の本発明によれば、第1逃げ面が曲面に形成されても、第2逃げ面を平面に形成することができる。また第1逃げ面と第2逃げ面とを連ならせることができる。このように第1逃げ面と第2逃げ面とを連ならせることで、第2逃げ面から第1逃げ面がチップ幅方向外方に突出する場合に比べて、チップの強度を向上することができ、チップの破損を防ぐことができる。
請求項10記載の本発明によれば、たわみなどの誤差が生じたとしても、前段の切込み加工で削り残した部分に、交線の他端部に対応する切刃部分が接触することを防ぐことができ、切削抵抗を抑えて被削材に与える外力を小さくすることができる。これによって被削材が振動してびびりが発生することを防ぐことができ、被削材の品質低下を抑えることができるとともに、びびりによって生じる加工壁面の段差を小さくすることができる。
図1は、本発明の実施形態によるエンドミル10を回転軸線9まわりに回転させた際に、回転軸9を含みかつ回転軸9に平行な仮想平面と、主切刃6の回転軌跡とが交差する交線22を誇張して示す図である。図2は、本発明の実施形態によるエンドミル10の全体斜視図であり、図3は、図2の要部側面図である。
本発明の実施形態によるエンドミル10は、略円柱状に形成されて、外周部に主切刃6を有し、軸線に沿って延びる回転軸線9まわりに回転する回転切削工具である。エンドミル10は、フライス盤などによって、回転軸線9まわりに回転された状態で、被削材に接触することで、主切刃6が被削材を断続切削する。これによって削り加工や肩削り加工を行うことができ、被削材を予め定める形状に切削することができる。
図2に示すように、本実施形態のエンドミル10は、主切刃6となる長辺切刃51と、サライ刃7となる短辺切刃52とが形成されるスローアウェイチップ(以下、チップと略する。)2と、チップ2が着脱可能に装着されるエンドミル用ホルダ(以下、ホルダと略する。)1とを含んで構成される。本実施形態では、ホルダ1は、多数、たとえば3つのチップ2が装着可能に構成される。
ホルダ1は、略円柱状に形成される。ホルダ1の基端部53には、マシニングセンタなどのフライス盤に各種アーバーを介して保持される被保持部が形成される。ホルダ1の先端部54には、チップ2が装着される装着部が形成される。ホルダ1の軸線は、エンドミル10の回転軸線9となる。チップ2はホルダ1に装着されることで、チップ2の長辺切刃51は、ホルダ1の外周面55からホルダ半径方向外方に突出して主切刃6を形成する。またチップ2の短辺切刃52は、ホルダ1の先端面56からホルダ軸線方向外方に突出してサライ刃7を形成する。
図2および図3に示すように、ホルダ1の先端部には、ホルダ1の外周面および先端部端面から没入する溝が形成される。この溝は、チップ収容空間と、チップポケット14とによって構成される空間である。チップ収容空間は、チップ2のほぼ全体が収容される空間となる。またチップポケット14は、チップ2の切刃51,52によって削り取られた切り屑を一時的に収容する空間となる。
ホルダ1の装着部は、チップ2の底面が当接する着座面98と、着座面98から立設する壁面とを有する。着座面98は、ホルダ1の先端面56から屈曲して、ホルダ基端部53に向かうホルダ軸線方向他方X2に延びるとともに、ホルダ1の外周面55から屈曲して、ホルダ半径方向内方R1に延びる。したがって図3に示すように、着座面98は、回転軸線9を含み回転軸線9に平行な平面99に対して、ホルダ基端部53に向かうにつれて、ホルダ1の回転方向と反対方向に予め定める傾斜角度α1で傾斜する。チップ2は、その底面がホルダ1の着座面98に当接するとともに、その側面のうち少なくとも1つがホルダ1の壁面に当接する。この状態で、チップ2は、ねじ部材などの装着部材によってホルダ1に装着される。装着部材によってチップ2は、その底面がホルダ1の着座面98に押付けられるとともに、その側面がホルダ1の壁面に押付けられる。
図1に示すように、主切刃6は、大略的にホルダ1のホルダ軸線方向Xに沿って延びるとともに、ホルダ1の外周面55からホルダ半径方向外方R2に突出する。エンドミル10が回転軸線9まわりに回転した場合に、主切刃6は、予め定める回転軌跡を描く。主切刃6の回転軌跡のうちで、回転軸線9を含み回転軸線9に平行な仮想平面に交わる線を以下、交線22と称する。
交線22は、ホルダ軸線方向先端X1側である一端部100に対して、回転軸線方向基端X2側である他端部101がホルダ半径方向内方R1に配置される。また回転軌跡の交線22は、境界部102が設定される。境界部102は、交線22の一端部100よりもホルダ軸線方向基端X2側でかつ、交線22の他端部101よりもホルダ軸線方向先端X1側に位置する。また境界部102は、交線22の一端部100を通過して回転軸線9に平行に延びる第1仮想直線103に交差する。したがって一端部100と回転軸線9との間のホルダ半径方向寸法と、境界部102と回転軸線9との間のホルダ半径方向寸法とは一致する。
交線22は、第1領域104と第2領域105とを有する。第1領域104は、交線22の一端部100から境界部102まで延びる領域である。第1領域104は、前記第1仮想直線103よりもホルダ半径方向外方R2に膨らむ。したがって交線22の一端部100と境界部102との間の中間部90は、交線22の一端部100および境界部102よりもホルダ半径方向外方R2へ突出する。また交線22の境界部102から他端部101まで延びる第2領域105では、第1仮想直線103よりもホルダ半径方向内方R1に窪む。また境界部102は、一端部100からホルダ軸線方向基端側に向かってホルダ軸線方向Xに、交線22のホルダ軸線寸法の1/2以上3/4以下移動した位置に設定される。
より詳細に説明すると、主切刃6の交線22は、一端部100と他端部101とを結ぶ第2仮想直線106よりも、ホルダ半径方向外方に凸に膨らんだ略円弧状に形成される。本実施形態では、交線22は、第1領域104の中央部90が、ホルダ半径方向外方R2へ最も突出する。ここで第1領域104の中央部90は、一端部100と境界部102との間の部分のうちで、中央の部分である。
本実施形態では、一端部100と境界部102とを結ぶ第1仮想直線103に対する垂直な方向であってホルダ半径方向外方R2に最も突出する第1膨らみ量w1は、0.02mm以上でかつ0.06mm以下に設定される。また許容される第1膨らみ量w1をw1とし、一端部100と境界部102との直線距離をm1とすると、主切刃6の回転軌跡の曲率半径sは、{(w1)2+(m1/2)2}/(2・w1)以上に設定される。
また本実施形態では、一端部100と他端部101とを結ぶ第2仮想直線106に対する垂直な方向であってホルダ半径方向外方R2に最も突出する第2膨らみ量w2は、0.03mm以上でかつ0.10mm以下に設定される。また許容される第2膨らみ量w2をw2とし、一端部100と他端部101との直線距離をm2とすると、主切刃6の回転軌跡の曲率半径sは、{(w2)2+(m2/2)2}/(2・w2)に設定される。
図4は、本発明の実施形態によるチップ2を示す斜視図である。図5は、チップ2を拡大して示す平面図である。また図6は、チップ2を誇張して示す平面図である。チップ2は、略板状に形成される。チップ2は、平面視で略平行四辺形状をなす。チップ2は、厚み方向Aに延びる軸線に対して周方向に一周する側面3と、厚み方向一方A1の上面4とによって交差稜線24が形成される。交差稜線24の角部70〜73のうち対角線上に相対する2つのコーナーR部70,72には、コーナーR切刃5がそれぞれ形成される。コーナーR切刃5が形成される角部70,72は、残余の角部71,73に比べて鋭角に形成される。またチップ2は、そのコーナーR切刃5を挟んで両隣に長辺切刃51と短辺切刃52とが形成される。
チップ2の上面4には、肩加工や溝加工等のエンドミル加工で生じる切屑を円滑に処理するために、長辺切刃51に沿って一定のレーキが付されたすくい面8が形成されている。またチップ2の側面3には、長辺切刃51に沿って一定のレーキが付された逃げ面3a,3bが形成される。逃げ面3a,3bは、長辺切刃51に隣接する第1逃げ面3aと、厚み方向他方の底面59と第1逃げ面3aとに隣接する第2逃げ面3bとを有する。
チップ2の平面視において、長辺切刃51は、コーナーR切刃5に隣接する一端部80から他端部81に進むにつれて、幅方向C外方に湾曲して進み、最も幅方向C外方に突出した部分に達すると幅方向C内方に湾曲して、他端部81に達する。チップ2の長辺切刃51は、平面視において略樽形に湾曲する。またチップ2の側面視において、長辺切刃51は、コーナーR切刃5から長手幅方向Bに遠ざかるとともに、チップ2の底面59に近づく。
詳細に説明すると、チップ2は、大略的に板状に形成される。チップ2を、その厚み方向Aに垂直な投影面に投影したとき、その投影面において、チップ2は、略平行四辺形であり、2組の対辺のうち、一方の対辺が他方の対辺よりも長く形成される。
チップ2は、厚み方向Aに貫通する貫通孔90が形成される。貫通孔90は、長手方向Bおよび幅方向Cにおける中央位置に配置される。貫通孔90は、チップ2をホルダ1に固定するための孔となる。本実施形態では、チップ2は、貫通孔90の軸線91を基準軸線91として、その基準軸線91に関して、180度回転対称形状、言換えると2回回転対称に形成される。したがって長辺切刃51は、チップ幅方向C両側にそれぞれ形成され、一方の長辺切刃51が破損すると、180度回転されてホルダ1に装着されることで、新しい長辺切刃51を主切刃6とすることができる。本実施形態では、貫通孔90の軸線が延びる方向を厚み方向Aとする。また厚み方向Aに対して垂直な方向のうち、基準軸線91に垂直な投影面に投影した場合に投影面の長辺に沿って延びる方向を長手方向Bとする。またチップの厚み方向Aおよび長手方向Bに対してともに垂直な方向を幅方向Cとする。
チップ2の厚み方向一方A1側の上面部のうち、互いに対向する一対の長辺縁辺には、長辺切刃51がそれぞれ形成される。また上面部のうち、互いに対向する一対の短辺縁辺には、短辺切刃52がそれぞれ形成される。各切刃51,52は、チップ2の上面4と側面3とが交差する交差稜線に形成される。長辺切刃51は、チップ2の長手方向Bのほぼ全域にわたって形成される。
また短辺切刃52は、チップ2の幅短辺方向Cの一部分に形成される。またコーナーR切刃5は、その曲率半径rが、0.4mm以上でかつ4.0mm以下に設定される。また厚み方向他方A2の底面部には、基準軸線91に垂直な底面59が形成される。この底面59は、チップ2がホルダ1に装着された状態で、ホルダ1の着座面98に当接する。
図5および図6に示すように、チップ2を平面視した場合、長辺切刃51は、交線22の一端部100、他端部101、境界部102、第1仮想直線103、第1領域104、第2領域105に対応する箇所が存在する。
具体的には、長辺切刃51は、コーナーR切刃5が形成される側の長手方向一端部80が、交線22の一端部100に対応する。またコーナーR切刃5が形成される側とは反対側の長手方向他端部81が、交線22の他端部101に対応する。また長手方向他端部81は、長手方向一端部80に対して、幅方向C内方に退避した位置に形成される。
具体的には、幅方向一方C1の側面に形成される長辺切刃51では、長手方向他端部81が、長手方向一端部80に対して幅方向他方C2に位置する。また幅方向他方C2の側面に形成される長辺切刃51では、長手方向他端部81が、長手方向一端部80に対して幅方向一方C1に位置する。
また長辺切刃51は、交線22の境界部102に対応する境界部82が設定される。境界部82は、長手方向一端部80よりも長手方向他端部81側でかつ、長手方向他端部81よりも長手方向一端部80側に位置する。本実施形態では、境界部82は、一端部80から他端部81に向かって長手方向Bに、予め定める第1設定距離H1移動した位置に形成される。この設定距離H1は、一端部80と他端部81との間の長手方向寸法である第2設定距離H2の1/2以上3/4以下に設定される(H2・(1/2)≦H1≦H2・(3/4))。本実施形態では、第1設定距離H1は、3.0mm以上でかつ13.5mm以下に設定され、第2設定距離H2は、6mm以上でかつ18mm以下に設定される。さらに具体的には、第1設定距離H1は、6.2mmに設定され、第2設定距離H2は、4.3mmに設定される。また第1設定距離H1は、少なくともエンドミル10が1回の切込み加工で、ホルダ軸線方向に切り込まれる許容切込み量以上に設定される。エンドミル10の許容切込み量は、1mm以上4mm以下に設定される。
また長辺切刃51は、長手方向一端部80と長手方向他端部81と境界部82とを通過して湾曲して延びる仮想円弧に沿って延びる。長辺切刃51は、交線22の第1領域104に対応する第1領域84と、交線22の第2領域105に対応する第2領域85とが形成される。第1領域84では、長手方向一端部80から境界部82まで延び、第3仮想直線107よりも幅方向C外方に膨らむ。また第2領域84では、境界部82から長手方向他端部81まで延び、第3仮想直線107よりも幅方向C内方に窪む。ここで、第3仮想直線107は、長辺切刃51の一端部80と境界部82とを通過する直線107である。
さらに幅方向一方C1の側面に形成される長辺切刃51は、予め定める仮想曲線108に対して、第1領域84は幅方向一方C1に膨らむ。また幅方向他方C2の側面に形成される長辺切刃51は、予め定める仮想曲線108に対して、第1領域84は幅方向他方C2に膨らむ。
この仮想曲線108は、チップ2がホルダ1に装着された状態で、主切刃6の回転軌跡が円柱状になる状態において、チップ2を平面視で見たときに長辺切刃51の一端部80と境界部81とを結ぶ曲線に相当し、前記第1仮想直線103に対応する曲線である。言換えると交線22が、回転軸線9に平行に延びる状態において、エンドミル10に装着されるチップ2を平面視で見たときに長辺切刃51の延びる曲線である。また長辺切刃51の一端部80から境界部82とは、前記仮想曲線108の線上に位置する。また第1領域84のうちで、一端部80と境界部82とを除く中間部は、前記仮想曲線108よりも幅方向C外方に位置する。
具体的には、チップ2は、長辺切刃51の第1領域84では、一端部80および境界部82から、第1領域84の中央部60にそれぞれ向かうにつれて、仮想曲線108に対してチップ幅方向C外方に膨らむ円弧形状となる。本実施形態では、第1領域84の中央部60が最もチップ幅方向C外方に突出する最突出部となる。長辺切刃51の第1領域84と第2領域85とは滑らかに連なり、本実施形態では、第1領域84および第2領域85は、一端部80、境界部82、他端部81を通過する1つの円弧に沿ってそれぞれ延びる。本実施形態では、前記仮想直線108に対して、長辺切刃51がチップ幅方向Cに最も膨らむ第3膨らみ量W3は、0.02mm以上でかつ0.06mm以下に設定される。また第3膨らみ量w3をw3とし、一端部80と境界部82との直線距離をm3とすると、長辺切刃51の曲率半径は、{(w3)2+(m3/2)2}/(2・w3)に設定される。
図7は、チップ2を示す側面図である。長辺切刃51は、一端部80から境界部82に達するまで、一端部80から長手方向Bに沿って遠ざかるにつれて、底面59に向かって傾斜する。言換えると、チップ2のうち、幅方向Cに略垂直な側面3は、一端部80から境界部82に達するまで、一端部80から長手方向Bに沿って遠ざかるにつれて厚み方向A寸法が小さくなる。
したがって基準軸線91に垂直な平面92と、長辺切刃51のうちで一端部80から境界部82までの第1領域84とは、予め定める捩れ角α2を成す。これによってチップ2がホルダ1に装着された状態では、主切刃6の第1領域104では、ホルダ先端部54からホルダ基端部53に進むにつれて、チップ2の底面59に向かって傾斜する。このように長辺切刃51の第1領域84では、捩れ角α2を有する捩れ形状に形成される。ここで長辺切刃51の第1領域84は、側面視において、大略的に傾斜していればよい。したがって長辺切刃51の第1領域84は、直線状に延びる以外に、滑らかな曲線状に延びてもよく、複数の直線または曲線の組合せから構成されてもよい。
また本実施形態では、長辺切刃51は、境界部82から他端部81に達するまで、境界部82から長手方向Bに沿って遠ざかるにつれて、底面59と平行に延びる。言い換えると、チップ2のうち、幅方向Cに略垂直な側面3は、境界部82から他端部81に達するまで、厚み方向A寸法が一定に形成される。このように長辺切刃51の第2領域85では、捩れ角がゼロすなわち捻れ角を有しない捩れ形状に形成される。ここで長辺切刃51の第2領域85は、側面視において、境界部82から他端部81に向かうにつれて底面59に近づかなければよい。したがって長辺切刃51の第2領域85は、底面59に平行に延びる以外に、境界部82から他端部81に向かうにつれて底面59から厚み方向Aに離反するように直線または曲線状に延びてもよく、複数の直線または曲線の組合せから構成されてもよい。
チップ2は、ホルダ1の着座面98に底面59を接触させてホルダ1に装着される。チップ2がホルダ1に装着された状態では、長辺切刃51の一端部80がホルダ軸線方向先端側に配置され、長辺切刃51の他端部81がホルダ軸線方向基端側に配置される。また長辺切刃51は、ホルダ1の外周面から突出することで、エンドミル10の主切刃6となる。上述したように、ホルダ1の着座面98は、予め定める傾斜角度α1で傾斜する。またチップ2の長辺切刃51の第1領域84は、予め定める捩れ角α2で傾斜する。したがって図3に示すように、チップ2がホルダ1に装着されると、主切刃6は、ホルダ基端部53に進むにつれて、回転軸線9に平行な一直線に対して、ホルダ1の回転方向と反対方向に離れる。したがって主切刃6に正のアキシャルレーキθが付与される。
本実施形態では、交線22の第1領域104に対応する主切刃6のアキシャルレーキθは、ホルダ1の着座面98に設定される傾斜角度α1と、チップ2の長辺切刃51に設定される捩れ角α2との加算した値(α1+α2)である。また交線22の第2領域105に対応する主切刃6のアキシャルレーキθは、ホルダ1の着座面98に設定される傾斜角度α1である。
このようにアキシャルレーキθが正となることによって、主切刃6の切削抵抗を低減することができ、エンドミル加工における主切刃6の切れ味を向上することができる。本実施形態では、前記傾斜角度α1と、捩れ角α2とがともに正であることによって、交線22の第1領域104に対応する主切刃6のアキシャルレーキである第1角度を、交線22の第2領域105に対応する主切刃6のアキシャルレーキである第2角度に比べて大きくすることができ、主に切削に寄与する第1領域104の主切刃6の切削抵抗をさらに低減することができる。
また交線22の第2領域105に対応する主切刃6のアキシャルレーキである第2角度を、交線22の第1領域104に対応する主切刃6のアキシャルレーキである第1角度よりも小さくすることで、ホルダ軸線方向基端側の肉厚の減少を抑えることができ、エンドミル10の剛性を高めることができる。具体的には、チップ2の剛性低下を抑えることができ、チップ2が破損することを防ぐことができる。ここで第2領域105に対応する主切刃6は、補足的に切削に寄与する程度であるので、アキシャルレーキを小さくしても実質的な切削抵抗の低下となることは少ない。
また図8は、図5のS8−S8切断面線から見た断面図である。また図9は、図5のS9−S9切断面線から見た断面図である。また図10は、図5のS10−S10切断面線から見た断面図である。図5に示すように、本実施形態ではチップ2の主切刃6の平面視膨らみ量Aは、約0.074mmに設定される。
チップ3の側面3に形成される逃げ面3a,3bは、切刃に隣接する第1逃げ面3aと、底面59と第1逃げ面3aとに隣接する第2逃げ面3bとを有する。第2逃げ面3bは、チップ2がホルダ1に装着されたときに、ホルダ1の壁面に当接する拘束面となる。図8〜図10に示すように、第1逃げ面3aは、被削材の被削面に対する前記第1逃げ面3aの角度である第1逃げ角β1,β2,β3が形成される。被削面は、長辺切刃51が主切刃6としてホルダ1に装着された状態で、回転軌跡に接して主切刃を通過する接線を含む。また第2逃げ面3bは、被削材の被削面に対する前記第2逃げ面3bの角度である第2逃げ角β4が形成される。
第1逃げ角β1〜β3は、長辺切刃51の一端部80から他端部81に向かうにつれて大きくなるように形成される。第2逃げ角β4は、長辺切刃51の一端部80から他端部81にわたって、一定に形成され、第1逃げ角β1〜β3よりも大きく形成される。たとえば本実施形態では、図8に示すように、一端部80近傍では第1逃げ角β1は、約1度である。また図9に示すように、中央位置近傍では第1逃げ角β2は、約4度である。また図10に示すように他端部81近傍では、第1逃げ角β3は、約7度である。また第2逃げ角β4は、約15度である。上述した第1逃げ角β1〜β3および第2逃げ角β4は、一例であって他の値が採用されてもよい。
このように第1逃げ角β1〜β3は、長辺切刃51の一端部80から他端部81に進むにつれて大きく形成される。これによって取付誤差などが生じて、長辺切刃51の第2領域85で被削材を切削する場合が生じても、第1領域84の長辺切刃51に比べて、第2領域85の長辺切刃51の切削抵抗を低減して、切削性を向上することができる。
また長辺切刃の一端部80から境界部82に進むにつれて、第1逃げ面3aの厚み方向寸法が小さくなるとともに、第2逃げ面3bの厚み方向寸法が大きくなる。また境界部82から他端部81に進むにつれて、第1逃げ面3aの厚み方向寸法が大きくなり、第2逃げ面3bの厚み方向寸法が小さくなる。これによって第1逃げ面3aが曲面に形成されても、第2逃げ面3bを平面に形成することができる。また第1逃げ面3aと第2逃げ面3bとを連ならせることができる。このように第1逃げ面3aと第2逃げ面3bとを連ならせることで、第2逃げ面3bから第1逃げ面3aがチップ幅方向Cに突出する場合に比べて、チップ2の強度を向上することができ、チップの破損を防ぐことができる。
さらにホルダ1に当接する拘束面である第2逃げ面3bを可及的に大きくすることができるとともに、第2逃げ面3bを平坦に形成することができるので、チップ2とホルダ1との拘束力を大きくすることができ、切削時のチップずれを防ぐことができる。
図11は、主切刃6の回転軌跡を説明するための斜視図である。図12は、図11のE方向矢視図である。図13は、図11のF−F切断面線で切断した断面図である。図11〜図13を用いて、本実施形態の主切刃6の回転軌跡を説明する。主切刃6の各部の名称について、長辺切刃51の各部の名称と対応する個所については、長辺切刃51の名称を用いる。
主切刃6の両端部80,81は、互いにホルダ軸線方向Xに間隔をあけて配置される。また理想的な状態では、一端部80から回転軸線9までの半径方向距離(D1/2)と、他端部81から回転軸線9までの半径方向距離(D2/2)とが異なる(D1≠D2)。また主切刃6のアキシャルレーキθが正に設定されるので、図13に示すように、主切刃6のうち一端部80は、他端部81よりもエンドミル回転方向R下流に位置する。
主切刃6の一端部80が回転軸線9まわりを一周したときの円86が、ホルダ軸線方向Xに延びて形成される円柱を仮想円柱15とする。この場合、一端部80と、境界部82とを結ぶ第3仮想直線107は、主切刃6の一端部80から、仮想円柱15の外表面よりも内側を通過して主切刃6の境界部82に進む。本実施形態では、主切刃6のうち一端部80から境界部82にホルダ軸線方向Xに進むにつれて、仮想円柱15の外方を延びて湾曲して略円弧状に延びる。したがって主切刃6の第1領域84と第3仮想直線107とをともに含む仮想平面16は、仮想円柱15に交差する交差曲線17が形成される。この交差曲線17は、前記仮想曲線108に対応する。したがって主切刃6の第1領域84は、一端部80から境界部82まで移動するにあたって、上述した交差曲線17よりもホルダ半径方向外方に延びる。
ホルダ半径方向の膨らみ量wは、前記交差曲線17からホルダ半径方向外方に最も離れる主切刃6までのホルダ半径方向距離となる。また平面視膨らみ量Aは、前記第3仮想直線107からホルダ半径方向外方に最も離れる主切刃6位置までのホルダ半径方向距離となる。本実施形態では、主切刃6のうちで一端部80と境界部82との間の中央部63が交差直線17および第3仮想直線107から最も離れた部分となる。
また、本実施形態のエンドミル10は、ホルダ加工径がD1(mm)、主切刃6の一端部80と境界部82とを結ぶ第3仮想直線107の長さがL1(mm)、主切刃6の第1領域84のアキシャルレーキがθ1(°)、前記第3仮想直線107から前記仮想円柱15までの最大幅をXとしたときに、第3仮想直線107に対する主切刃6のホルダ半径方向の膨らみとなる平面視膨らみ量A(mm)が、X+0.02≦A≦X+0.06の関係を満たしていることになる。ここで、前記仮想直線18から前記仮想円柱15までの最大幅Xは、(D1−(D12−L12・sin2θ)1/2)/2の関係を満たす。
図13において、前記第3仮想直線107に対して、交差曲線17のホルダ半径方向の最大幅をXとすると、
D12=(D1−2・X)2+(L1・sinθ)2
の関係が成り立つ。すなわち、
X=(D1−(D12−L12・sin2θ)1/2)/2
このように本実施形態の主切刃6の第1領域84では、交差曲線17、すなわち仮想円柱15よりもホルダ半径方向外方に湾曲して延びる。また主切刃6の第2領域85では、交差曲線17、すなわち仮想円柱15よりもホルダ半径方向内方に湾曲して延びる。
以上のように本実施形態のエンドミル10では、図1に示すように、主切刃6の回転軌跡は、第1領域104では、一端部100および境界部102から第1領域104の中央部90に向かうにつれて、仮想直線103に対してホルダ半径方向外方に膨らみ、第2領域105では、境界部102から他端部101に向かうにつれて第1仮想直線103に対してホルダ半径方向内方に窪んだ略円柱形状となる。
エンドミル10は、フライス盤などのミーリング工具によって装着されることで、被削材を切削することができる。フライス盤は、クランプした被削材と保持したエンドミル10とを相対的に移動駆動する移動駆動手段と、保持したエンドミル10を回転軸線9まわりに回転駆動する回転駆動手段とを含む。エンドミル10は、回転軸線9まわりに回転しながら被削材に接触し、チップ2によって形成される切刃51,52によって被削材を断続切削する。これによって被削材を予め定める形状に切削加工することができる。チップ2の切刃51,52が摩耗または折損した場合には、切刃51,52が摩耗または欠損したチップ2に換えて、新しい切刃51,52を有するチップ2をホルダ1に装着することによって、エンドミル210の切削能力を回復させることができる。
切削作業においては、フライス盤にエンドミル10および被削材を装着する。そしてフライス盤によってエンドミル10を回転させた状態で、エンドミル10を被削材に対して接触させる。この接触状態で、エンドミル10と被削材とを、回転軸線に交差する方向に相対移動させる。このようにしてエンドミル10によって、被削材を回転切削する切削作業を行う。たとえば多段切込みを行って、被削材を肩削りまたは溝加工する場合には、予め定める切込み量による複数回の切込み切削作業が行われたか否かを判断し、切込み回数が所定の回数に達するまで、切削作業を繰返す。
図14は溝削りの切削状態を示す斜視図である。図15は、肩削りの切削状態を示す斜視図である。また図16は、エンドミル10による被削材の溝削りの多段切込み切削手順を説明するための図である。多段切込み切削加工は、図16(1)〜図16(3)の順で進む。溝削りの場合、エンドミル10は、その先端部53が、被削材の上面13から予め定める軸線方向切込み量に没入した状態で、被削材の側面12から被削材11に接触し、回転軸線9に交差する方向に移動する。エンドミル10は、1回の切削作業で切削可能な軸線方向切込み量が予め設定されている。
たとえば1回の切削作業で所望とする深さの溝が形成できない場合、図16(1)〜図16(3)の順で切削作業を順番に行い、切削後の被削材11の上面からさらに切り込む。すなわち被削材11の壁面を回転切削する切削作業を、ホルダ軸線方向にずらして複数回行う。このように多段切込み加工を行うことによって、所望とする深さの溝を形成することができる。また肩削りの場合も同様にして、所望の形状に被削材を切削することができる。
図17は、エンドミル10の先端部54を誇張して示す図であり、図18は、多段切込みにおける被削材11の加工壁面の変化を示す断面図である。図18(1)〜図18(3)の順で、複数解の切削作業が行われる。上述したように主切刃6は、第1領域84が一端部80よりもホルダ半径方向外方に突出する。また第2領域85が一端部80よりもホルダ半径方向内方に没入する。図18は、誤差が存在しない状態を示し、前記第1仮想直線103が、回転軸線9に平行に延びる。
図18(1)に示すように、第n段階の切削加工を行うと、加工壁面が主切刃6の回転軌跡に応じた曲面150に沿った形状に削られる。次に、図18(2)に示すように、第n+1段階の切削加工時では、第n段階に比べてエンドミル10をホルダ軸線方向一方X1に切り込んだ状態で切削加工を行う。第n+1段階の切削加工時では、第n段階の切削加工時において、主切刃6のうちで一端部80が切削した被削材の被削部分111の近傍112を、主切刃6のうちで第1領域84の中間部が切削する。また第n+1段階の切削加工時では、第n段階の切削加工時において、主切刃6の第1領域84が切削した被削材の被削部分113の近傍を、主切刃6の第2領域85が非切削の状態で通過する。図18(3)に示すように、第n+1段階以降の切削加工時では、前回の段階に比べてエンドミル10を軸線方向一方X1に切り込んだ状態で、切削加工を行う。このようにして切削加工を繰返すことによって、被削材11に深い溝段差(肩)部を形成することができる。
誤差が存在しない状態では、主切刃6の一端部80と境界部82とを結ぶ第1仮想直線103が回転軸線9に平行に延びる。この場合、主切刃6の第1領域84が第1仮想直線103に対してホルダ半径方向外方R2に膨らみ、主切刃6の第2領域85が第1仮想直線103に対してホルダ半径方向内方R1に窪むことになる。誤差が存在しない状態で多段切込み加工を行うと、主切刃6の第1領域84が被削材を切削する。また主切刃6の第2領域85は、前段の切込み加工で、主切刃6の第1領域84によって被削材に形成された加工壁面から離れて回転することになる。このとき主切刃6の第2領域85は、切削に寄与することがなく、主切刃6の第1領域84よりも加工壁面の段差に与える影響が小さい。
ここで、1回の切削作業におけるエンドミル10の軸線方向切込み量は、主切刃6の第1領域84のホルダ軸線方向寸法以下に設定されることが好ましい。これによって主切刃6の第2領域85が、前回の切削作業で主切刃6の第1領域84が切削した被削材の被削部分113に接触することを防ぐことができる。たとえば1回の切削作業におけるエンドミル10の軸線方向切込み量は、4mm以下に設定される。
チップ2の寸法誤差、ホルダ1に対するチップ2の取付誤差およびホルダ1のたわみなどに起因して、主切刃6の一端部81と境界部82とのホルダ半径方向Rの差をゼロにすることは困難である。たとえば、チップ自体は、ホルダ1に取り付けられた状態で、主切刃6の一端部81と境界部82との間のホルダ半径方向の寸法差は、±50μmの範囲でばらつきが生じる。またエンドミル10のたわみとして、切削時にホルダ1には、最大で0.3mmのホルダ半径方向Rの撓み量が生じる場合がある。
本実施形態では、主切刃6の一端部81と境界部82とに、ホルダ半径方向Rの差が生じたとしても、主切刃6の一端部81と境界部82との間の中間部の一部が、一端部81および境界部82よりもホルダ半径方向外方に突出する。すなわち、主切刃6の一端部81と境界部82とのホルダ半径方向距離よりも、第1領域84の中間部のホルダ半径方向距離のほうが大きい。
これによって誤差によって一端部81と境界部82とがホルダ半径方向Rに差が生じたとしても、多段切込み加工を行うことで、主切刃6の第1領域84のホルダ軸線方向中間部が、一端部81と境界部28とのいずれかによって生じた切削量が少ない被削材の被削部分を削りとることができる。これによって主切刃の両端部のホルダ半径方向の差に起因して、加工壁面に形成される段差を減らし、加工壁面を均すことができる。これによって切込み毎の継ぎ目に生じる加工壁面段差を小さくすることができ、切削後の加工壁面の加工面粗度を向上することができる。また加工面粗度の高い加工壁面を必要とする材料の切削加工に用いることができる。
図19は、本実施形態のエンドミル10が、取付誤差が存在する状態で多段切削加工を行った場合の、被削材11の加工壁面の変化を示す断面図である。図20は、比較例のエンドミルが、取付誤差が存在する状態で多段切削加工を行った場合の、被削材11の加工壁面の変化を示す断面図である。比較例のエンドミルは、誤差が存在しない状態で、主切刃の回転軌跡が円柱から膨らんだ樽型形状に形成され、主切刃の一端部と他端部とがホルダ半径方向R寸法が同じに設定される。この場合、誤差が存在することで、主切刃の一端部と他端部とにホルダ半径方向Rの差が生じる。
取付誤差また切削時のホルダのたわみなどによって、第1仮想直線103がホルダ基端部に進むにつれてホルダ半径方向外方R2に傾く大きく傾斜することがある。図19および図20は、第1仮想直線103が大きく傾斜した状態を示す。
図19に示すように、誤差に起因して第1仮想直線103がホルダ半径方向外方R2に傾く場合には、誤差が存在しない場合に比べて、他端部81がホルダ半径方向外方R2に位置することになる。本実施形態の主切刃6では、誤差が存在しない状態で、主切刃の他端部81が一端部80よりもホルダ半径方向内方R1に退避して配置される。これによって誤差が生じたとしても、他端部81が第1領域84の最突出部よりもホルダ半径方向最外方に突出しにくく、主切刃6の他端部81が被削材11に接触することが防がれる。これによって誤差が生じても、前段の切込み加工で削り残した部分115に、主切刃の他端部81が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が過剰となることを防ぐことができる。
これに対して図20に示すように、比較例の主切刃6では、第1仮想直線103が、一端部から境界部に進むにつれてホルダ半径方向外方R2に傾く場合には、他端部が第1領域の最突出部よりもホルダ半径方向最外方に突出しやすく、主切刃の他端部が被削材に接触しやすい。この場合、主切刃の一端部から他端部にわたる全ての部分が被削材に接触することになり、1回の切込み加工で被削材の切削量が増加してしまうとともに、接触抵抗が増大してしまう。
以上のように本実施形態では、比較例に比べて、取付誤差等が生じたとしても、前段の切込み加工で削り残した部分に、主切刃6の他端部81が接触することを防ぐことができ、1回の切込み加工で被削材の切削量が増加することを防ぐことができる。取付誤差などが生じても、切削抵抗を抑えることができ被削材に与える外力を小さくすることができる。したがって薄板、たとえば厚さ10mmの板状のアルミ合金をエンドミル加工する場合のように、被削材の剛性が極めて小さな切削加工であっても、切削抵抗を抑えることによって被削材が振動してびびりが発生することを防ぐことができる。これによってびびりに起因して加工面に形成される段差を小さくすることができ、被削材の品質低下を抑えることができる。また切削抵抗を低下することができるので、チップの損傷を防ぐことができる。
また本実施形態では、主切刃の第1領域84と第2領域85とが滑らかに連なり、1つの円弧に沿って延びる。この場合、誤差によって第1仮想直線103が一端部80から他端部に進むにつれて、ホルダ半径方向外方R2に傾斜したとしても、第1領域84の一部と第2領域85の一部とが切削に寄与する部分となることで、誤差が存在しない状態とほぼ同様の長さおよび形状の円弧形状とすることができる。これによって加工壁面の品質を均一化することができる。また第2領域85の一部によって被削材を切削することになったとしても、加工壁面に形成される段差を小さくすることができる。また装着されるホルダ1の直径が異なる場合であっても、ホルダ1の直径のバラツキによる加工品質の低下を抑えることができる。
また多段切込み加工における1回の切込み量は、主切刃6の一端部80から他端部81までのホルダ軸線方向寸法である第2設定距離H2の1/2以下、たとえば3mm以下に選択されることが大半である。一端部80から境界部81までの第1設定距離H1が、第2設定距離H2の1/2未満とすると、1回の切込みでは、主切刃6の第1領域84で切削を行うことができず削り残しが生じやすい。これに対して本実施形態では、第1設定距離H1が、第2設定距離H2の1/2以上に設定されるので、1回の切込みで削り残しの発生することを防ぐことができる。
また第1設定距離H1が、第2設定距離H2の3/4を超えると、誤差が生じることで、境界部82がホルダ半径方向最外方に突出しやすくなり、1回の切込み加工で、被削材を切削する切削量が増大してしまう。これに対して本実施形態では、第1設定距離H1が、第2設定距離H2の3/4以下に設定されることで、誤差が生じても、境界部82がホルダ半径方向最外方に突出しにくくなり、1回の切込み加工で被削材の切削量が増大することを防ぐことができる。
このように第1設定距離H1が、第2設定距離H2の1/2以上3/4以下に設定されることで、1回の切込みで生じる削り残しを少なくすることができるとともに、誤差が生じても境界部がホルダ半径方向最外方に突出しにくくなり、1回の切込み加工で被削材の切削量が増大することを防ぐことができる。これによってエンドミルに生じる切削抵抗をより確実に抑えることができ、被削材が振動してびびりが発生することをより確実に防ぐことができる。
また主切刃6の回転軌跡のうち、第1仮想直線103から第1領域84のホルダ軸線方向中間部90のうちでホルダ半径方向外方へ最も突出する突出部分までのホルダ半径方向の膨らみ量wは、0.02mm以上でかつ0.06mm以下であることが好ましい。これによってチップ2の装着状態に多少のバラツキがあっても、加工段差を小さく制御することができて、十分な加工面粗度向上効果を発揮することができる。
具体的には、ホルダ半径方向Rの膨らみ量wが、0.02mm未満であると、ホルダ1にチップ2を装着したときに生じる主切刃位置のバラツキ、すなわち主切刃6のホルダ軸線方向両端部61,62のホルダ半径方向の差を吸収することができず、切込み毎の継ぎ目に生じる段差が大きくなる。またホルダ半径方向Rの膨らみ量wが、0.06mmを超えると、その主切刃6のホルダ半径方向Rの膨らみの影響によって、加工壁面が凹曲面になりすぎ、結果的に切込み毎の継ぎ目に生じる段差が大きくなる。
これに対して本実施形態では、ホルダ半径方向Rの膨らみ量wが、0.02mm以上でかつ0.06mm以下であることによって、ホルダ半径方向Rの膨らみ量wが過剰に大きくなることなく、主切刃6のホルダ軸線方向両端部61,62のホルダ半径方向Rの差を吸収することができる。これによって切込み毎の継ぎ目に生じる段差をより小さくして、高品位な加工壁面を安定して得ることができる。さらに、主切刃6に続くコーナーR部に曲率半径rが0.4以上でかつ4.0mm以下のコーナーR切刃5を形成することで、主切刃端部における段差をより小さくして加工面粗度を高めることができる。
また、本実施形態のエンドミル10は平面視膨らみ量A(mm)が、X+0.02≦A≦X+0.06の関係を満たしていることによって、ホルダ加工径やチップ2(主切刃)のサイズ、およびチップ2がホルダ1に装着されるときのアキシャルレーキθ、が個々に異なるエンドミルであっても、主切刃6の形状が最適化されて、肩削りや溝加工で多段切込み加工を行った場合に、複数パスの加工によってパス間の繋ぎ目に生じる段差を小さくすることができる。また主切刃6の第1領域84の回転軌跡の断面形状は、直線状ではなく、中央部60にかけて膨らむ略円弧状となる。その結果、主切刃6の一端部80と境界部82とに回転半径に差がでてしまう実際の加工においては、前述したように加工壁面に生じる段差を小さくすることができる。このような関係とすることによって、主切刃6の回転軌跡22の断面形状は、ホルダ外径Dやチップ2の大きさL、あるいはアキシャルレーキθの大きさにかかわりなく常に適切な円弧状となり、安定した加工面粗度を得ることができる。
また、ホルダの外径Dやチップ2の大きさLごとに、主切刃6の回転軌跡22のホルダ半径方向Rの膨らみ形状が異なるチップ2を用意することが好ましい。しかしながらチップ2のレパートリーをむやみに増やすと、管理が大変となってしまう。そこで、使用頻度の高いホルダの直径Dにおいて、加工壁面の凹凸が少なくなるような主切刃6の膨らみ形状を設計する。そして使用頻度の高いホルダの直径と異なるホルダにチップ2が装着される場合には、ホルダ1の着座面の傾き形状を変更することによって、主切刃6のアキシャルレーキとラジアルレーキとを調整し、チップ2の形状を変更しなくても、加工壁面の凹凸が少なくなるように設計がなされる。これによって複数種類のチップの管理および設計を容易に行うことができるとともに、凹凸の少ない加工壁面を被削材に形成することができる。また本実施形態では、主切刃6の第1領域84のうちホルダ軸線方向中央部60が、ホルダ半径方向外方R2へ最も突出する。これによって誤差に起因して、一端部80と境界部82とのうちで、いずれのほうがホルダ半径方向外方R2に突出するかを示す傾向が把握できない場合に特に有効となる。
また本実施形態では、チップ2はホルダ1に装着された状態で、ホルダ1の着座面98に当接する底面59を有し、主切刃6となる長辺切刃51は、ホルダ先端部54からホルダ基端部53に進むにつれて、前記底面59に向かって傾斜する。すなわちチップ2は、捩れ角α2を有する捩れ形状に形成される。これによってホルダ1の着座面98が、回転軸線9に対して傾斜する傾斜量が小さい場合であっても、大きいアキシャルレーキを付与することができる。したがって切削時に主切刃6に与えられる切削抵抗を低下させて切れ味を向上することができる。また本実施形態では、主切刃6に対して略垂直に延びるサライ刃をさらに具備するので、チップ2がホルダ1に装着されることで、エンドミルとして実現可能である。また交線22の第1領域104に対応するアキシャルレーキである第2角度θ2を、交線22の第2領域105に対応するアキシャルレーキである第1角度θ1よりも小さくすることで、ホルダ軸線方向基端側の肉厚の減少を抑えることができ、チップ2の剛性を高めることができる。
また本実施形態では、複数のチップ2をホルダ1にそれぞれ装着する。これによって1つのチップ2に与えられる切削抵抗を減らすことができ、エンドミル10に設定されるホルダ半径方向Rおよびホルダ軸線方向Xの切込み可能量と、エンドミル10の送り量とを大きくすることができる。また切込み量および送り量を大きくした場合に各チップ2に与えられる負荷を低減することで、ホルダ1の振動およびたわみを減らすことができ、切削後の加工壁面の加工面粗度をより滑らかにすることができる。またチップ2に形成される長辺切刃を湾曲させることで、ホルダ1に複雑な加工を施す必要がなく、ホルダ1を製造するための製造コストを低下させることができる。
また本実施形態のエンドミル10によって被削材11の壁面を回転切削したあと、主切刃が外周部に一体に形成される仕上げ用ミーリング工具によって、被削材11の壁面を仕上げ回転切削してもよい。このようにチップ2が装着されるエンドミル10によって荒削りすることによって、荒削り段階であっても切削後の加工壁面の加工面粗度を向上することができる。これによって仕上げ削り段階における切込み量を少なくすることができ、切削動作における切削時間を短縮することができる。また仕上げ削り段階における切削量を減らすことによって、仕上げ用ミーリング工具の寿命を延ばすことができる。また荒削り時に切込み量を大きくしたことに起因して、チップ2に形成される主切刃6の欠損が発生する可能性がある。仮に主切刃6が折損しても、新しいチップ2をホルダ1に装着することで、エンドミル10の切れ味を回復することができる。
図21は、本発明の第2実施形態のチップ220を拡大して示す平面図である。本発明の第2実施形態のチップ220は、第1実施形態のチップ2と類似した構成を有し、第1実施形態のチップ2と対応する構成については、説明を省略して同様の参照符号を付する。第2実施形態では、長辺切刃51の第2領域285は、略円弧状とは異なる形状に形成され、他の構成は第1実施形態のチップ2と同様となる。長辺切刃51の第2領域285は、境界部82から他端部81に向けて直線状に延びる。このようなチップ220であっても、エンドミル10に装着されることで、第1実施形態のチップと同様の効果を得ることができる。
また本発明のさらに他の実施形態として、長辺切刃51の第1領域84についても略円弧とは異なる形状に形成されてもよい。たとえば第1領域84の中央部60に向かうにつれてチップ幅方向外方に向かって直線状に延びてもよい。そのほか第1領域84は、円弧以外の滑らかな曲面に沿って延びてもよく、複数の直線または曲線の組合せからなる線にしたがって延びてもよく、また階段状に延びてもよい。
また長辺切刃51の第1領域84の中央部60よりもホルダ先端側部分が、ホルダ半径方向外方R2に最も突出するように構成してもよい。これによってホルダ10が切削時にたわんだとしても、主切刃6の境界部82がホルダ半径方向最外方に突出することを防ぐことができ、ホルダ1のたわみの影響を少なくして、被削材の加工壁面の加工面粗度を向上することができる。また上述した長辺切刃51の第1領域84と第2領域85との構成をそれぞれ組合せても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。またエンドミル10に装着された状態で主切刃6の第1領域84および第2領域85が上述する構成となるように構成されてもよい。
図22は、本発明の第3実施形態のエンドミル610を示す斜視図である。第3実施形態では、第1実施形態で説明した主切刃6が略円柱状のエンドミル本体に直接形成される。すなわち、チップが用いられず、主切刃606が本体部501に一体に形成される。
具体的には、エンドミル610は、略円柱状に形成される。エンドミル610は、外周面655に形成される逃げ面603と、逃げ面603から没入するすくい面608と、前記すくい面608と前記逃げ面603との交差稜線部に形成される主切刃606とを具備する。エンドミル610を回転軸線609まわりに回転させた場合に、前記主切刃606の回転軌跡の交線22は、第1領域104が第1仮想直線103よりもホルダ半径方向外方に突出し、第2領域105が第1仮想直線103よりもホルダ半径方向内方に没入する。これによって第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。たとえば回転切削工具のうち、エンドミルについて説明したが、サライ刃を有しないミーリング工具すなわち、エンドミル以外のミーリング工具であっても本発明の主切刃を有することで、上述する効果を得ることができる。
また本実施形態では、チップの厚み方向寸法を異ならせることで、アキシャルレーキを付与したが、これに限定しない。すなわちチップの厚み方向寸法が一律であってもよく、ホルダの着座面98によって主切刃にアキシャルレーキを形成してもよい。またホルダ1を回転軸線まわりに回転させたときに、主切刃6の回転軌跡の交線22のうちで、第1領域104がホルダ半径方向外方R2に突出し、第2領域105がホルダ半径方向内方R1に没入すればよく、チップ1およびホルダ1を他の形状に形成してもよい。
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。