JP2007229740A - 重ねレーザ溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複数の板材を重ね合わせ、この重ね合わせた板材の端部近傍に重ね合わせ方向から、重ね合わせた下側の板材の裏面まで溶融するようにレーザ光を照射しつつ、レーザ光を前記端部に沿って移動させて溶接部を形成し、重ね合わせた板材を相互に溶接するレーザ溶接方法において、前記複数の板材のうち少なくとも1枚の板材は高張力鋼よりなるとともに、前記溶接部が、C<0.05%、P+S<0.03%、あるいは0.08質量%<C<0.7質量%、P+S<0.05質量%である溶接金属を有するようにする。
【選択図】図7
Description
上記重ね合わせ部の接合に、レーザ溶接を採用した場合には、連続溶接により接合強度が高く、ビード幅が狭いために、従来用いられていたスポット溶接やアーク溶接に比べて接合部の設計自由度が大きく、フランジ部の幅を狭くし、構造部材を小型化、軽量化することが可能となるなどの利点がある。
例えば、レーザ照射側から重ね合せ部にローラを押し付け、ローラをレーザ光とともに移動させ、一方の板材を他方の板材に押し付けて両者の間隔を調整しながら溶接を行うことや、互いに重ね合わせた板材のフランジ部相互を、1対のローラで両側から挟みこみ同様に溶接することが、特許文献1に示されている。
また、図3のように、溶接開始点5をフランジの長手方向端部としないで、該端部から所定距離隔てた点を溶接開始点とした場合でも、溶接後に溶接部6の中央部分が膨出し、割れ7が発生する場合がある。なお、図において、8はレーザ溶接ヘッドである。
特許文献2には、高炭素鋼よりなる部材とステンレス鋼などよりなる部材の重ね継ぎ手をレーザ溶接する際、溶融凝固時に発生する収縮応力などにより収縮割れが発生すること、および、その割れを、継ぎ手部の位置を工夫して引張応力が溶融部に多くかからないようにして防止することが記載されている。
しかし、これらの文献では、上記のような凝固割れや、それに対する解決手段については何ら触れられていない。
請求項1の重ねレーザ溶接方法の発明は、複数の板材を重ね合わせ、この重ね合わせた板材の端部近傍に、重ね合わせた下側の板材の裏面まで溶融するように重ね合わせ方向からレーザ光を照射しつつ、レーザ光を前記端部に沿って移動させて溶接部を形成し、重ね合わせた板材を互いに溶接するレーザ溶接方法において、前記複数の板材のうち少なくとも1枚の板材は高張力鋼よりなるとともに、前記溶接部の溶接金属が、質量%でC<0.05%、P+S<0.03%になるように溶接部を形成することを特徴とする。なお、以下でも、元素の含有量の%は質量%とする。
請求項4の重ねレーザ溶接方法の発明は、該請求項に記載されているように、前記複数の板材のうちの一方の板材が他方の板材より突出するように重ね合わされており、前記重ね合わせられた板材の溶接方向端部より溶接を開始することを特徴とする。
請求項6の重ねレーザ溶接方法の発明は、該請求項に記載されているように、前記少なくとも1枚の板材が、両側に折り曲げ部およびフランジ部を有する断面がハット形状の構造部材であることを特徴とする。
請求項7の重ねレーザ溶接方法の発明は、該請求項に記載されているように、前記フランジ部の幅が8mm以内であることを特徴とする。
請求項3、4の発明によれば、請求項1、2の発明のレーザ溶接方法を重ね継ぎ手の形状に応じた形態で実施することができる。
請求項7の発明によれば、構造部材をさらに小型化、軽量化することが可能となる。
高張力鋼よりなり、図4で示される断面形状がハット型の構造部材のような端部にフランジを有する板状部材を、同様のフランジや板材と重ね、両者の間をレーザ溶接してフレーム部材を製造する際、例えば8mm以内というようなよりフランジ幅(板材が重なっている幅)Aの狭い構造部材を用いて、フレーム部材全体をより軽量化しようとすると、溶接部からフランジ端部までの距離Bは1.5mm以上の範囲のうちのより短い距離にならざるを得ず、このような条件では、図3に示されるように、フランジ長手方向端部から離れた位置で溶接を開始したとしても、前記したように、溶接部からの熱伝導により変形した部位が凝固途中の溶接ビードを引っ張り、凝固割れが発生する場合があった。
図5は、薄板の重ねレーザ溶接における凝固過程の温度と溶接部周辺で発生する歪の関係を示す。図は、炭素量が0.06%、珪素量が0.5%、マンガン量が1.5%よりなる板厚1.2mmの引張強さ590MPaの鋼を用い、レーザ加工点出力2kW、溶接速度2m/minの条件で重ねレーザ溶接して得た試料を用いて得られたものである。
図5により、液相温度直下から溶接部には引張方向の力が働き、液相温度から温度が充分に低下すると、逆に溶接部には圧縮の力が働く。レーザ光照射位置後方の、凝固過程にある(2)の領域において、引っ張り方向の大きな歪が発生し、これが凝固割れにつながるものといえる。
すなわち、溶接部の温度と凝固収縮にともなう部材の変位量との間には、図中斜線で示す凝固割れ感受性の高い脆化域(D)があり、温度の降下にともない凝固収縮変位(P)の値が大きくなり、それが脆化域を通過すると凝固割れが発生すると考えられている。また液相温度直下では、最低延性値(Dmin)が小さく脆化域は広いが、液相率が高いので、たとえ柱状晶間に凝固割れが発生しても、液相により充填され凝固割れは発生しない。
また、C、P、Sは平衡分配係数が小さく、溶質が溶融金属中に排出され柱状晶間に残留するため、見かけの固相温度より最終凝固位置の温度は図2中の太字破線のように低下し、BTRを広げやすく凝固割れを起こしやすい元素であると考えられる。
さらに、その成分範囲で凝固過程の粒界強度が低くなるような、成分的に特に割れに敏感な成分範囲があると考えられ、その成分範囲は、C量とP+S量の範囲で決まると考えられる。
実験は、種々のC量とP+S量を有する引張強度が270MPaから1470MPaの範囲の鋼板を用い、それらを同一種同士または異種を組み合わせて、図4で示されるようにハット型の構造部材と板状部材とをフランジ幅Aが8mmとなるように重ね合わせた。
そして、溶接ビード中心と板材の端部までの距離B:3.0mm、フランジ部長手方向端部から溶接開始点までの距離C:5mm、レーザ加工点出力:3.5kW、溶接速度:2m/minの条件でレーザ溶接を行った。
溶接後の割れの発生の有無を、溶接金属のC含有量とP+S量で整理した結果を図7で示す。図7中の(1)、(3)が凝固割れの発生しない領域、(2)が凝固割れの発生する領域である。
特に、少なくとも1枚の板材が440MPa以上の高張力鋼板よりなる場合には、凝固割れが起こりやすく、その場合でも、上記のような溶接金属を形成すれば凝固割れを防止できることもわかった。
図7の(1)で示す低Cかつ低P、S領域(C<0.05%、P+S<0.03%)は液相温度が高く、図5の領域(1)で示すように引張の力が大きくなる前に凝固が完了する。この場合、引張の力が発生しているが、図6で示すDminの範囲内と考えられるため、凝固割れは発生しない。
一方、図7の(3)で示す高C域(0.08%<C)の場合は、固相温度が充分に低く、引張応力が働く図5の(2)の領域では液相が充分に存在するため、たとえ割れが生じても液相により充填されるため、凝固割れは発生しない。凝固が完了するのは、図5の(3)の領域であり、この領域では、引張の力は充分に小さく図6で示すDminの範囲内、または圧縮の力に転ずるため、凝固割れは発生しないと考えられる。
また、図8に示されるように、一方の板材4が他方の板材1から突出するように重ね合わされており、重ね合せ部の端部が揃っていない場合には、一方の板材4が他方の板材1から突出する距離Dおよび端部から溶接部までの距離Bをある程度大きくすれば、重ね合わせた板材の溶接方向端部より溶接を開始しても、上記のように溶接金属を形成することにより凝固割れを発生することなく溶接することができる。その場合、確実に凝固割れを防止するためには、上記距離Dは5mm以上が好ましく、距離Bは、2mm以上が好ましい。
また、フランジ長手方向端部から距離Cを置いて溶接を開始する場合は、距離Cを、溶接部の溶接ビード中心からフランジ幅方向端部までの距離Bと同じかそれ以上の距離とするのがよい。
高張力鋼以外の鋼を用いる場合の例としては、例えば引張強度が590MPa級の鋼板と270MPa級の鋼板の組み合わせなどがある。
溶加材を加える場合は、それの添加量を考慮してCとP+Sの値を計算する必要がある。
レーザ溶接は、YAGレーザを用い、レーザ加工点出力を3.5kW、溶接速度を2.0m/minとした。また、レーザビームは、鋼板上に集光し、集光スポットは直径0.6mmとした。レーザ照射位置は、フランジ端部から2.5〜4.0mmで、フランジ長手方向端部から5.0mmはなれた点を開始位置とした。(以上、発明例1〜3、比較例1〜3)
また、上記と同様の鋼板を図8のように、Dを5mmとして重ね合せ、Bを2.5mmとしてフランジ端部から上記と同様にレーザ溶接した。(本発明例4)
得られた結果を表1に示す。表1より、本発明の条件を満たす場合は、割れを生じることなく溶接できることがわかる。
2 構造部材のフランジ部
3 構造部材の折り曲げ部
4 板材
5 溶接開始点
6 溶接部(溶接ビード)
7 凝固割れ部
8 レーザ溶接ヘッド
A フランジ幅
B 溶接部からフランジ端部までの距離
C フランジ長手方向端部から溶接開始点までの距離
D 一方の板材が他方の板材から突出する距離
Claims (7)
- 複数の板材を重ね合わせ、この重ね合わせた板材の端部近傍に、重ね合わせた下側の板材の裏面まで溶融するように重ね合わせ方向からレーザ光を照射しつつ、レーザ光を前記端部に沿って移動させて溶接部を形成し、重ね合わせた板材を互いに溶接するレーザ溶接方法において、前記複数の板材のうち少なくとも1枚の板材は高張力鋼よりなるとともに、前記溶接部の溶接金属がC<0.05質量%、P+S<0.03質量%になるように溶接部を形成することを特徴とする重ねレーザ溶接方法。
- 複数の板材を重ね合わせ、この重ね合わせた板材の端部近傍に、重ね合わせた下側の板材の裏面まで溶融するように重ね合わせ方向からレーザ光を照射しつつ、レーザ光を前記端部に沿って移動させて溶接部を形成し、重ね合わせた板材を互いに溶接するレーザ溶接方法において、前記複数の板材のうち少なくとも1枚の板材は高張力鋼よりなるとともに、前記溶接部の溶接金属が0.08質量%<C<0.7質量%、P+S<0.05質量%になるように溶接部を形成することを特徴とする重ねレーザ溶接方法。
- 前記重ね合わせた板材の溶接方向端部より離れた位置で溶接を開始することを特徴とする請求項1または2に記載の重ねレーザ溶接方法。
- 前記複数の板材のうちの一方の板材が他方の板材より突出するように重ね合わされており、前記重ね合わせられた板材の溶接方向端部より溶接を開始することを特徴とする請求項1または2に記載の重ねレーザ溶接方法。
- 前記複数の板材のうちの少なくとも1枚の板材は、少なくとも片側に折り曲げ部およびそれに続くフランジ部を有する構造部材であり、板材の重ね合せ部が、前記構造部材のフランジと他の板材を重ね合わせたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の重ねレーザ溶接方法。
- 前記少なくとも1枚の板材が、両側に折り曲げ部およびフランジ部を有する断面がハット形状の構造部材であることを特徴とする請求項5に記載の重ねレーザ溶接方法。
- 前記フランジ部の幅が8mm以内であることを特徴とする請求項5または6に記載の重ねレーザ溶接方法。
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