JP2007222092A - E型肝炎ウイルスゲノムの高感度検出法 - Google Patents

E型肝炎ウイルスゲノムの高感度検出法 Download PDF

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Abstract

【課題】E型肝炎ウイルスゲノムを特異的に検出する高感度検出法、並びに該検出方に使用されるプライマーセット、蛍光標識プローブおよびそれらを含むキットの提供。
【解決手段】E型肝炎ウイルスゲノムの5’末端領域内で特定配列のプライマーを用いてPCRを行うことによりE型肝炎ウイルスゲノムを検出する方法。PCRが蛍光標識プローブを用いた定量PCRであり、E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用される特定の配列から選ばれるプライマーセットと蛍光標識プローブを含むキット。
【選択図】なし

Description

本発明は、E型肝炎ウイルスゲノムの高感度検出法、並びに該検出法に使用されるプライマーセット、蛍光標識プローブおよびそれらを含むキットに関する。
核酸を検出する方法としてポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)が知られている(特許文献1)。また、反応液中に蛍光標識プローブを加え増幅コピー数に応じて生じる蛍光の強度を測定することにより試料中の核酸を定量する方法も知られている(特許文献2)。
PCR法を利用してE型肝炎ウイルス(Hepatitis E Virus、以下、HEV)ゲノムを検出する方法が知られている(非特許文献1〜4)。
非特許文献1、2ではPCRによりHEVゲノムのオープンリーディングフレーム(ORF)2領域を増幅することによってHEVゲノムを検出する方法が開示されている。しかしながら、ORF2領域を増幅した場合、十分な感度が得られなかった。
非特許文献3ではORF1領域をnested RT-PCR法(2回のPCR法)で増幅し、電気泳動で増幅産物を検出している。また非特許文献4ではORF2領域をnested RT-PCR法で増幅し電気泳動で増幅産物を検出している。しかしながら、これらの方法では1回目のPCR反応後、PCR反応液を2回目のPCR反応液に添加する操作が入るため、検体間のクロスコンタミの危険性が高まる。またその後電気泳動して増幅産物を確認するため時間がかかるといった点で多検体を測定するのには向いていない。
米国特許第4,683,202号公報 日本特許第2825976号公報 Mansuy J M et al:J. Medical Virology, vol. 79, p419-424 (2004) Orru,G et al: J. Virological Methods, vol. 118, p77-82 (2004) Takahashi, K. et al:J. Infectious Diseases, vol. 185, p1342-1345 (2002) Takahashi, M. et al:J. General Virology, vol. 84, p851-862 (2003)
本発明は、HEVゲノムを高感度かつ特異的に検出するための方法を提供することを課題とする。また、PCR法にてHEVゲノムを高感度で検出するために使用されるプライマーセット、蛍光標識プローブおよびそれらを含むHEVゲノム検出キットを提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、HEVゲノムの5’末端領域を増幅することにより、効率よく特異的にHEVゲノムを検出できることを見出した。さらに、この領域を効率よく増幅するためのプライマーセット及び蛍光標識プローブを作製し、これらを用いた定量PCRによりHEVゲノムを効率よく高感度に増幅する方法を確立することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出する方法であって、E型肝炎ウイルスゲノ
ムの5'末端領域を増幅することを特徴とする方法。
(2)5'末端領域が配列番号1に示される領域である、請求項1に記載の方法。
(3)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって前記領域を増幅することを特徴とする、(1)または(2)の方法。
(4)配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを行う、(3)の方法。
(5)配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと、配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを行う、(3)の方法。
(6)PCRが蛍光標識プローブを用いた定量PCRである、(3)〜(5)のいずれかの方法。
(7)蛍光標識プローブが配列番号10−22から選ばれる塩基配列を有する、(6)の方法。
(8)蛍光標識プローブが配列番号14の塩基配列を有する、(6)の方法。
(9)配列番号2〜22およびこれらの相補配列からなる群から選択される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド。
(10)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットであって、配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
(11)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットであって、配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
(12)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用される蛍光標識プローブであって、配列番号10〜22のいずれかの塩基配列を有する蛍光標識プローブ。
(13)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用される蛍光標識プローブであって、配列番号14の塩基配列を有する蛍光標識プローブ。
(14)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットと蛍光標識プローブを含むキットであって、プライマーセットが配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなり、蛍光標識プローブが配列番号10〜22から選ばれる塩基配列を有する、キット。
(15)E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットと蛍光標識プローブを含むキットであって、プライマーセットが配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなり、蛍光標識プローブが配列番号14の塩基配列を有する、キット。
本発明の方法によれば、HEVゲノムを効率良く増幅することができ、非特異発光を抑えることができる。さらには、HEVに存在する4種類の遺伝子型をまとめて検出することができる。
本発明の方法においては、HEVのゲノムの5’末端領域を増幅することによってHEVゲノムを検出する。本発明において、HEVのゲノムの5’末端領域とは、ORF1(オープンリーディングフレーム1)よりも上流の領域をいうが(図1)、好ましくは配列番号1に示す領域が挙げられ、より好ましくは配列番号1の塩基番号7-131の領域が挙げられる。HEVのゲノム配列においては株の種類によって塩基に違いがあるため、配列番号1においては、4,16,31,37,53,55,58,64,76,82,85,91,94,101,103,118,121,122,127,130,136,138-140,141,142
,145,147,148,154,157,160.163,164位は混合塩基で示される。例えば、4位の塩基は“G”と“A”の2通り存在する。
「5’末端領域を増幅する」とは、該領域内の全部または一部に対応するフラグメントを増幅することをいう。増幅するフラグメントの長さは、この領域の長さ以下であり、増幅及び検出が可能な長さであれば特に制限されないが、50〜186bpが好ましく、70〜125bpがより好ましい。
被検試料はHEVゲノムを含みうる試料であれば特に制限されないが、血液などの体液、粘膜細胞などの細胞などが挙げられる。また、これらの試料から単離した核酸を用いて増幅反応を行ってもよい。
本発明において、増幅は、例えば、PCRによって行うが、好ましくは逆転写反応(Reverse Transcription:RT)によって得られるcDNAを鋳型とするPCRによって行う。この方法はRT-PCRと呼ばれ、既に汎用されている(米国特許第5,322,770号及び米国特許第5,310,652号各号公報)。
具体的には、被検試料、プライマー、逆転写酵素、基質ヌクレオチドを含む反応液を用意し、逆転写酵素によってcDNA合成反応を行う。次いで、得られたcDNA、プライマー、DNAポリメラーゼ、基質ヌクレオチドを含む反応液を用意し、反応液の温度を変化させて、二本鎖標的配列を変性し、変性された標的の各鎖にプライマーをアニールさせ、そしてプライマーをDNAポリメラーゼ(耐熱性ポリメラーゼ)の作用により延長させる工程を繰り返す。このサイクルを典型的には25〜40回反復する。
PCRの反応条件はプライマーの長さや配列によって適宜調節すればよい。一般には、熱変性ステップを90〜98℃で行い、アニーリングステップを50〜72℃で行い、伸長ステップを68〜75℃で行う。特にアニーリングステップの温度はプライマーの長さや配列に応じて特異的増幅が起こる温度に設定する。なお、アニーリングステップと伸長ステップを同温度で行ってもよい。各ステップの時間も目的フラグメントの長さなどによって適宜設定すればよい。反応液中のプライマー、DNAポリメラーゼ、基質ヌクレオチドの濃度も、通常のPCRのプロトコルに準じて設定することができる。
なお、簡便に増幅反応を行うために逆転写反応とPCRは同一反応系で行うことが好ましい。この場合、cDNA合成反応のためのプライマーはPCRのためのアンチセンスプライマーと同じものが使用できる。このような同一反応系のRT-PCRは、例えば、One Step RT-PCRキットとして市販されているキット(Applied Biosystems社などから入手可)を使用して行うことができる。
プライマーは上記HEVのゲノムの5’末端領域内の上流領域(5’側)の配列に一致する塩基配列を有するセンスプライマーと、その下流領域(3’側)の配列に相補的な塩基配列を有するアンチセンスプライマーを用いる。プライマーの長さは目的フラグメントの特異的増幅が可能な長さである限り特に制限されないが、15〜40塩基が好ましく、18〜35塩基がより好ましい。プライマーは通常の方法によって合成することができる。
具体的には、センスプライマーとしては、配列番号2〜6から選択される塩基配列を有するプライマーが挙げられ、アンチセンスプライマーとしては配列番号7〜9から選択される塩基配列を有するプライマーが挙げられる。すなわち、プライマーセットとしては、配列番号2と7のセット、配列番号2と8のセット、配列番号2と9のセット、配列番号3と7のセット、配列番号3と8のセット、配列番号3と9のセット、配列番号4と7のセット、配列番号4と8のセット、配列番号4と9のセット、配列番号5と7のセット、配列番号5と8のセット、配列番号5と9のセット、配列番号6と7のセット、配列番号
6と8のセット、配列番号6と9のセットが挙げられる。特に好ましくは、配列番号3と8のセット、配列番号6と8のセットが挙げられる。
また、本発明において、PCRによってHEVゲノムの5’末端領域を増幅する場合、反応液中に蛍光標識プローブを加え、増幅コピー数に応じて生じる蛍光の強度を測定することにより試料中の核酸を定量する方法(定量PCR、リアルタイムPCRとも呼ばれる)を行うことにより、試料中のHEVのゲノムを定量することもできる。このような方法は、例えば、日本特許第2825976号公報に記載されている。
定量PCRに使用する蛍光標識プローブとしては、上記5’末端領域のうち、センスプライマーとアンチセンスプライマーの間の領域の配列またはその相補配列を有するオリゴヌクレオチドであって、その5’末端に蛍光物質、3’末端に消光物質(クエンチャー)が結合したオリゴヌクレオチドを用いることができる。プローブの長さは、5’末端領域において、センスプライマーとアンチセンスプライマーの間の領域に特異的にハイブリダイズできる長さであれば特に制限されないが、15〜40塩基が好ましく、20〜30塩基がより好ましい。
蛍光物質としてはcarboxyfluorecein(FAM:商標)などが挙げられ、消光(クエンチャー)物質としてはcarboxymethylrhodamine(TAMRA:商標)などが挙げられる。このようなプローブとしては、TaqManプローブ(商標:Applied Biosystems社)などを使用することができる。
蛍光発光の原理は日本特許第2825976号公報に開示されているが、具体的には、以下のとおりである。
すなわち、蛍光標識プローブはアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、DNAポリメラーゼによる増幅が起こらないときはプローブ上に消光物質が存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。一方、DNAポリメラーゼによる増幅が起こるときは、鋳型にハイブリダイズしたプライマーからDNAポリメラーゼの作用により伸長反応が進行するが、その際、DNAポリメラーゼは自らのもつ5′→3′エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたプローブを分解する。分解によって蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発せられる。この蛍光発光は増幅コピー数に応じて増加するため、蛍光強度に基づいて試料中のHEVゲノムの量を測定することができる。
本発明の方法において使用することができる蛍光標識プローブの配列は、5’末端領域のうち、センスプライマーとアンチセンスプライマーの間の領域の配列またはその相補配列であればよいが、より具体的には、配列番号10−22の塩基配列が挙げられる。
この中では、配列番号14,19,22の塩基配列を有するものが好ましく、配列番号14の塩基配列を有するものが特に好ましい。
上記蛍光標識プローブを定量PCRに使用する場合、上記プライマーセットと組合せて使用すればよいが、プローブとプライマーのより好適な組合せとしては、センスプライマーが配列番号3または6であり、アンチセンスプライマーが配列番号8であり、プローブが配列番号14,19または22である組合せがより好ましく、センスプライマーが配列番号3または6であり、アンチセンスプライマーが配列番号8であり、プローブが配列番号14である組合せが特に好ましい。
本発明のHEVゲノム検出キットは、上記のようなプライマーセットを含むキットであり、好ましくは、配列番号3と8のプライマー、または配列番号6と8のプライマーを含むキットである。
定量PCR用のキットとしては、上記プライマーセットに加えて蛍光標識プローブを含むキットが挙げられ、好ましくは、配列番号3または6のセンスプライマー、配列番号8のアンチセンスプライマー、配列番号14,19または22の蛍光標識プローブを含むキッ
トが挙げられ、特に好ましくは、配列番号3または6のセンスプライマー、配列番号8のアンチセンスプライマー、配列番号14の蛍光標識プローブを含むキットが挙げられる。
本発明のHEV検出キットはさらに、その他の試薬、例えば、逆転写酵素、基質ヌクレオチド、DNAポリメラーゼ、バッファーなどを含むものであってもよい。
本発明のキットは、HEVの感染を判定するための検査などの目的に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
HEV 5'末端RNA断片の合成
HEVゲノムの5'末端領域でのリアルタイムPCR法の構築を試みた。
RNA断片調製用プラスミドの作製
HEV陽性ブタ血清のRNAを鋳型にしてセンスプライマーHE42(配列番号23)とアンチセンスプライマーHE45(配列番号24)を組合せてTaKaRa RNA PCR Kit (AMV) ver.3.0(宝バイオ社)でRT-PCRを行った。その結果、目的の増幅断片が得られた。増幅断片をゲル回収した後、ligation反応によりpT7Blue(Novagen社)のTAクローニング領域に挿入し、E.coli DH5に形質転換した。得られた形質転換体からプラスミドを調製し、HEV cDNA領域の塩基配列を決定した(図2)。
HEV RNA断片の調製
得られたプラスミドのHEV cDNA 3'末の下流にあるEcoRIサイトを切断して直鎖状にし
、それを鋳型にしてT7 RNA polymerase(宝バイオ社)により42℃で一時間反応後、DNaseIで鋳型DNAを消化して、QIAGEN RNA/DNA Mini Kit(QIAGEN社)によりRNAを精製し
た。濃度を測定し10^11コピー/μL液を調製し、1.5mLチューフ゛に100μLずつ分注して、‐80℃にて保存した。
リアルタイムRT-PCR法の構築
PCRプライマーHE47(配列番号2)、HE48(配列番号7), および蛍光標識プローブFHE49(配列番号10)を設計し、さらに、Tm値を高める目的で、それぞれにhomologyの高い数塩基を付加させたHE50(配列番号3), HE51(配列番号8), FHE52(配列番号11)を設計した(図2)。またプローブはGよりもCがより多く含まれているほうが望ましいため、それぞれFHE49, FHE52のアンチセンスであるFHE56(配列番号13), FHE53(配列番号12)も作製した(図2)。なお、蛍光標識プローブはApplied Biosystems社に合成を依頼した。HEVゲノムを含まないコントロール(NC)には蒸留水を用いた。
これらのプライマーおよびプローブを表1のように組合せ、TaqMan One-Step RT-PCR Kit(Applied Biosystems社)を用いてリアルタイムPCRを行った。反応条件は以下のとおりである。
Figure 2007222092
それぞれの組合せでのリアルタイムPCR 40cycle以内および45cycle以内の陽性率を表2に示した。HE47×HE48×FHE52, HE50×HE48×FHE52, HE50×HE48×FHE53, HE50×HE51×FHE52, HE50×HE51×FHE53の組合せにおいて、NCの40-45cycleで陽性がでた。これらは非特異陽性と考えられる。一方、FHE49とFHE56を組合せた条件では非特異陽性は出なかった。これらの結果から、非特異陽性はプローブに依存することが示唆された。FHE49とFHE56では非特異陽性はでないが、プローブのTm値がFHE52, FHE53よりも低いために感度はやや低下する。
そこで再度プローブを作り直して検討することにした。またプライマーの組合せについてはセンス・アンチセンスの両プライマーともTm値の高いHE50×HE51の組合せで比較的感度が高かった。
Figure 2007222092

新しいプライマーとプローブでの検討
ブタ血清のHEV 5'末端配列をもとに、HE54(配列番号4), HE55(配列番号9)のプライマーとFHE58-60(配列番号15-17)のプローブを設計した。(図2)。
また、FHE56を3'側に3塩基伸ばしたプローブFHE57(配列番号14)と、5'末端配列をクローニングするときに用いたHE42のMixプライマーHE61(配列番号5)も作製した(図2)。
これらのプライマーとプローブおよび上記で作製したHE50, HE51を表3のように組合せ、TaqMan One-Step RT-PCR Kitを用いてリアルタイムPCRを行った。反応条件は上記と同じである。
それぞれの組合せでのリアルタイムPCR 40cycle以内および45cycle以内の陽性率を表3に示した。いずれの組合せにおいても非特異陽性は出なかった。プライマーHE50×HE51の組合せではFHE57が10^1コピー/reactionにおいて40cycle以内で1/3の陽性率であり、最も感度が高かった。その理由はFHE57がFHE57-60の中で最もTm値が高いからであると考えられる(図2)。また、HE54×HE55の組合せでは10^2コピー/reactionにおいて40cycle以内で0/1の陽性率となる組合せが2組あり、HE61×HE51の組合せでは10^1コピー/reactionにおいて45cycle以内でも陽性率が3/3未満であったことから、今回のプライマーよりもHE50×HE51の組合せのほうが感度は高かった。
Figure 2007222092
Tm値を上げたプライマーとプローブでの検討
HE50×HE51×FHE57の感度が最も高かったので、さらにプローブのTm値を高めるためにFHE57の3'側や5'側に数塩基付加したFHE62-66(配列番号18-22)を作製した(図2)。またHE50のTm値を高めるために3'側に2塩基伸ばしたHE67(配列番号6)も作製した(図2)。これらのプライマーとプローブおよびHE50, HE51, FHE57を表4のように組合せ、TaqMan One-Step RT-PCR Kitを用いてリアルタイムPCRを行った。反応条件は上記と同様である。
それぞれの組合せでのリアルタイムPCR 40cycle以内および45cycle以内の陽性率を表4
に示した。いずれの組合せにおいても非特異陽性は出なかった。プローブのTm値が高くなるにつれて感度も高くなるのではなく、プライマーHE50×HE51, HE67×HE51の両組合せでFHE64が最も感度が高かった。
Figure 2007222092
プライマー濃度の検討
これまでのプライマーとプローブの検討においてHE67×HE51×FHE64の感度が最も高かった。この組合せの10^1コピー/reactionにおいて40cycle以内の陽性率は3/3であるが、陽性となるcycle数の平均は39.65cycleであり40cycleぎりぎりである。これでは100コピー/mL以上の検出感度に達することができないと考えたので、プライマー濃度を300nMから900nMに高める検討を行った。検討に用いたプローブは感度の最も高いFHE64とNCにおける増幅曲線が低かったFHE57を用い、プライマーはHE50×HE51とHE67×HE51の組合せで行った。反応条件はプライマー濃度900nM、RNA添加量10μLで行い、その他は表1と同様である。
それぞれの組合せでのリアルタイムPCR 40cycle以内および45cycle以内の陽性率と、10^1コピー/reactionで陽性となったcycle数の平均を表5に示した。いずれの組合せにおい
ても非特異陽性は出なかった。10^1コピー/reactionでの40cycle以内の陽性率はいずれの組合せにおいても3/3であり、陽性となるcycle数の平均はHE67×HE51×FHE57で最も感度の高い38.06 cycleとなった。NCにおける増幅曲線はFHE57がFHE64よりも低かった。
Figure 2007222092
正常血漿のRNAでの非特異陽性の確認
陽性となるcycle数の平均が39cycle未満であった組合せにおいて、血漿のRNAでも非特異陽性が出ないかどうかを確認した。個人の正常血漿5ロットそれぞれ1mLから自動核酸抽出法によりRNAを抽出して50μLに溶出した。リアルタイムPCRはプライマー濃度900nM、RNA添加量10μL、その他は表1の条件で行った。
それぞれの組合せでのリアルタイムPCR 40cycle以内および45cycle以内の陽性率を表6に示した。HE67×HE51×FHE64では正常血漿において非特異陽性が出たが、FHE57はいずれの組合せにおいても非特異陽性は出なかった。
以上の結果より、以下の実験でプローブはFHE57を採用することにした。プライマーはHE50×HE51を採用することにした。
Figure 2007222092
HE50×HE51×FHE57における正常血漿のRNAでの非特異陽性の確認
HE50×HE51×FHE57の組合せにおいて血漿のRNAで非特異陽性が出ないかどうかをさらに確認した。個人の正常血漿9ロットおよび30ロットと、2ロットをフ゜ールした血漿1ロットのそれぞれ1mLから自動核酸抽出法によりRNAを抽出して50μLに溶出した(N=1)。リアルタイムPCRはプライマー濃度900nM、RNA添加量20μL、その他は表1の条件で行った。
その結果、いずれのロットにおいても非特異陽性は出なかった。したがって、HE50×HE51×FHE57の組合せにおけるリアルタイムPCRは上記の結果もあわせると45ロットの正常血漿について非特異陽性が出ないことを確認した。
ブタのHEV陽性血清を用いての検出限界値の測定
ブタのHEV陽性血清(1.6×10^6コピー/mL)を標準として以下の実験に用いた。
QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)を用いての検出感度測定
滅菌PBSを用いてブタの陽性血清の10^2, 10^3, 10^4, 10^5倍の希釈系列を作成し、QIAamp Viral RNA Mini Kitを用いて各N=2で核酸抽出を行った。このとき、検体100μLから抽出し50μLにRNAを溶出した。リアルタイムPCR反応はプライマー濃度900nM、RNA添加量は10および 20μL、その他は表1の条件で行った。
リアルタイムPCRでの40cycle以内および45cycle以内の陽性率と1 反応あたりのコピー数を表7に示した。40cycleの判定での陽性率は320コピー/reaction以上で2/2、64コピー/reactionで1/2、32コピー/reaction以下で0/2となった。一方45cycleの判定での陽性率は32コピー/reaction以上で2/2、6.4コピー/reaction以下で0/2となった。
Figure 2007222092
MagNA Pure LC350(ロシュ・ダイアグノステックス社)を用いての検出感度測定(予備試験)
正常血漿を用いてブタの陽性血清の1000, 316, 100, 31.6, 10コヒ゜ー/mLのHalf-Log希釈系列を作成し、MagNA Pure LC350を用いてN=2またはN=6で核酸を抽出した。このとき検体1mLから核酸を抽出し、50μLに溶出した。リアルタイムPCRはプライマー濃度900nM、RNAの添加量は20μL、その他は表1の条件で行った。この試験は3回繰り返した。
TaqMan法での40cycle以内および45cycle以内の陽性率を表8に示した。この結果から50%陽性率は40cycleの判定で100-316コピー/mL、45cycleの判定で31.6-100コピー/mL程度であると判断した。
Figure 2007222092
MagNA Pure LC350を用いての検出感度測定(本試験)
予備試験と同様の5段階希釈濃度にて本実験を行った。MagNA Pure LC350を用いて検体1mLから核酸を抽出し、50μLに溶出した。リアルタイムPCRの条件は以下のとおりであり、この試験はN=6で4回繰り返した。
Figure 2007222092
本試験の陽性率を表10に示した。この結果をProbit法で統計解析すると、95%検出限界は133コピー/mL、50%検出限界は31コピー/mLとなった。
Figure 2007222092
本試験を40cycleで判定したときの結果
本試験の陽性の判定を40cycleとした場合の陽性率を表11に示した。この結果をProbit法で統計解析すると、95%検出限界は514コピー/mL、50%検出限界は113コピー/mLとなった。
Figure 2007222092
比較例
HEVゲノムのORF2/ORF3のoverlap領域近辺でのリアルタイムPCR
HEVのORF2/ORF3のoverlap領域をプラスミドにクローン化し、RNAポリメラーゼを用いて合成したRNAを鋳型に用いてRT-PCRを行った(図3)。図3に示すいくつかのプライマーの組合せについて検討した結果、最も特異性が高かったHE33(センスプライマー:配列番号25)とHE30(アンチセンスプライマー:配列番号26)、FHE40(プローブ:配列番号27)を選択した。この組合せを用いて、以下、ブタの血清を被検試料として40cycleでリアルタイムPCRを行った。
ブタの血清を用いて上記プライマーおよびプローブを用いたリアルタイムPCRの感度を測定した。予備試験で50%陽性率が1000コピー程度と判断し、陽性血清を正常血漿で5000、2500、1250、625、312.5コピー/mLまでの2倍希釈系列を調製し、n=6で4回測定した。血漿1mLから核酸を50μLに溶出し、そのうち10μLをRT-PCR反応液に添加した。その結果、陽性率は表12のようになり、この結果をprobit法で統計解析すると、95%検出限界は5546コピー/mLで、50%検出限界は1535コピー/mLとなった。
この結果から、HEVのORF2/3のオーバーラップ領域でのリアルタイムPCRの感度は5’末端領域内でのリアルタイムPCRに比べてかなり低いことがわかった。
Figure 2007222092
HEVのゲノムの構造を示す図である。 HEVの5’末端領域の配列とプライマー、プローブを示す図である。網掛文字は共通配列を示し、括弧内にはプライマーおよびプローブのTm値を示した。 HEVのORF2/3領域の配列とプライマー、プローブを示す図である。網掛文字は共通配列を示した。

Claims (15)

  1. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出する方法であって、E型肝炎ウイルスゲノムの5'末端領域を増幅することを特徴とする方法。
  2. 5'末端領域が配列番号1に示される領域である、請求項1に記載の方法。
  3. ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって前記領域を増幅することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
  4. 配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを行う、請求項3に記載の方法。
  5. 配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと、配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーを用いてPCRを行う、請求項3に記載の方法。
  6. PCRが蛍光標識プローブを用いた定量PCRである、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 蛍光標識プローブが配列番号10−22から選ばれる塩基配列を有する、請求項6に記載の方法。
  8. 蛍光標識プローブが配列番号14の塩基配列を有する、請求項6に記載の方法。
  9. 配列番号2〜22およびこれらの相補配列からなる群から選択される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド。
  10. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットであって、配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
  11. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットであって、配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなるプライマーセット。
  12. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用される蛍光標識プローブであって、配列番号10〜22のいずれかの塩基配列を有する蛍光標識プローブ。
  13. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用される蛍光標識プローブであって、配列番号14の塩基配列を有する蛍光標識プローブ。
  14. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットと蛍光標識プローブを含むキットであって、プライマーセットが配列番号2〜6から選ばれる塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号7〜9から選ばれる塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなり、蛍光標識プローブが配列番号10〜22から選ばれる塩基配列を有する、キット。
  15. E型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列を検出するために使用されるプライマーセットと蛍光標識プローブを含むキットであって、プライマーセットが配列番号3または配列番号6の塩基配列を有するセンスプライマーと配列番号8の塩基配列を有するアンチセンスプライマーからなり、蛍光標識プローブが配列番号14の塩基配列を有する、キット。
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