本発明は、ストレス耐性に関与する遺伝子、特に、活性酸素ストレス耐性に関与し、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を植物に付与することができる遺伝子に関する。
植物を始めとする生物は、重金属、高塩濃度、乾燥等の環境ストレスを受けると、タンパク質、脂質、核酸などの高分子物質にダメージを与える活性酸素の生成が、その細胞内で増大する(非特許文献1)。こうした活性酸素の増大によって引き起こされる、細胞内の様々な反応は活性酸素ストレスと呼ばれ、生物の細胞は、活性酸素除去系を備えることで、これに対抗しており、これまでに、この活性酸素除去系に働く種々の酵素、及び、これらの酵素をコードする遺伝子が報告されている。
中でも、酵母(Saccharomyces cerevisiae、以下、単に酵母と記載する。)から、AP‐1転写因子と類似のDNA結合活性を持つ転写因子として分離されたYAP1遺伝子は、上記活性酸素除去系において、中心的な役割を果たしていることが知られており、例えば、チオレドキシン遺伝子(TRX2)やγ‐グルタミルシステイン合成酵素遺伝子(GSH1)など、活性酸素除去系に関連すると考えられる20種類以上の遺伝子が、YAP1遺伝子により制御されていることが判明している(非特許文献2)。
従って、YAP1遺伝子を破壊した酵母は、過酸化水素等の過酸化物、ジアミド等の還元型グルタチオン酸化剤、及び/又は、ジエチルマレイン酸等の親電子性物質など、活性酸素ストレスの誘引物質に感受性となる一方、正常な酵母では、これらの物質の存在下において、この遺伝子の発現量の上昇が観察される。また、シロイヌナズナのcDNAライブラリーを酵母用発現ベクターに挿入して、YAP1遺伝子を破壊した酵母細胞に導入し、チオール酸化剤ジアミド耐性を指標としてスクリーニングした結果、得られた耐性株より、NADPHオキシドレダクターゼが分離されたとの報告もされている(非特許文献3)。
さらに、YAP1遺伝子の相同遺伝子としてYAP2遺伝子も分離されており、YAP1遺伝子及びYAP2遺伝子の両方を破壊した株(二重破壊株)は、過酸化水素や重金属に対して高い感受性を示すことも明らかになっている(非特許文献4)。
こうした知見の蓄積に伴い、近年では、上記活性酸素除去系に関与する遺伝子を植物に導入し、活性酸素ストレス耐性を備えた植物を作出することも試みられ、例えば、高等植物において活性酸素除去系に働く酵素であるグアイアコールペルオキシダーゼ(GPX)の遺伝子を導入されたハイブリッドアスペンが、活性酸素ストレス耐性を獲得することで、除草剤パラコートに対し耐性を示す個体が得られたとの報告もされている(非特許文献5)
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河岡等、「植物生理学(Plant Physiol.)」、(米国)、2003、vol.132、p.1177‐1185
本発明は、細胞内の活性酸素除去系に関与する新規な遺伝子を単離すること、また、単離されたこの遺伝子を植物に導入し、活性酸素ストレス耐性を付与した組換え植物を新たに作出することを目的として行われた。
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を行い、YAP1遺伝子及びYAP2遺伝子の双方を破壊した二重遺伝子破壊株の過酸化物及び重金属に対する耐性を回復させる新規な遺伝子CDR1及びCDR2を、タバコ(Nicotiana tabacum)から単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、配列番号2もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、又は、これらのアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、かつ、宿主細胞の染色体DNAに導入された場合に、該宿主細胞に過酸化水素耐性を付与するDNAに関する。また、本発明は、配列番号1もしくは配列番号3に示す塩基配列を有するDNA、又は、これらの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、宿主細胞の染色体DNAに導入された場合に、該宿主細胞に過酸化水素耐性を付与するDNAに関する。さらに、本発明は、上記DNAを有する遺伝子導入用ベクター、上記DNAが染色体DNAに導入された形質転換細胞、この形質転換細胞が増殖及び分化することにより得られる形質転換植物個体、及び、上記DNAによりコードされるタンパク質に関する。
本発明によれば、細胞内の活性酸素除去系に関与する新規な遺伝子CDR(Nicotiana tabacum cadmium-resistant)1及びCDR2が提供される。このCDR1遺伝子又はCDR2遺伝子を細胞の染色体DNAに導入することで、活性酸素ストレス耐性を備え、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を示す形質転換細胞、及び/又は、形質転換個体を得ることができる。加えて、このCDR1遺伝子及び/又はの構造や機能を更に解析することで、細胞内における活性酸素除去系の機構について、有用な情報を得ることができる。
また、本発明によれば、上記CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子を有するベクターが提供される。このベクターを細胞内に導入することで、活性酸素除去系に関与する新規な遺伝子が細胞の染色体DNAに導入され、活性酸素ストレス耐性を備え、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を示す形質転換細胞、及び/又は、形質転換個体を得ることができる。
また、本発明によれば、上記CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子が、その染色体DNA中に導入された形質転換細胞が提供される。この形質転換細胞を増殖させ、分化させることで、活性酸素ストレス耐性を備え、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を示す形質転換個体を得ることができる。
また、本発明によれば、上記形質転換細胞が増殖及び分化することにより得られる、形質転換植物個体が提供される。従って、活性酸素除去系に関与する新規な遺伝子が細胞の染色体DNAに導入され、活性酸素ストレス耐性を備え、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を示す形質転換植物個体を得ることができる。かかる形質転換植物は、塩類集積土壌や乾燥地など、従来、植物の生育が困難とされていた環境下でも生育するので、荒地や砂漠の拡大防止、これらの土地の緑化や植林、さらには地球温暖化の防止に大きな役割を果たすことができる。
また、本発明によれば、上記CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子によりコードされるタンパク質が提供される。このタンパク質を細胞内で機能させることにより、その細胞及びその細胞が増殖・分化して生じる個体に、活性酸素ストレス耐性を付与し、ひいては、過酸化物、重金属塩、高塩濃度、乾燥等の各種環境ストレスに対する耐性を付与することができる。加えて、このタンパク質の構造や機能を更に解析することで、細胞内における活性酸素除去系の機構について、有用な情報を得ることができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るDNAは、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。上記活性酸素除去系に関与する新規な遺伝子CDR1は、この配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAからなり、一方、遺伝子CDR2は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAからなっている。かかるDNAは、植物等の細胞より、DNAとして単離しても、RNAとして単離した後、このRNAからcDNAを逆転写して得てもよい。RNAとして単離する場合は、予め過酸化水素等の活性酸素ストレスに暴露した細胞を材料として用いてもよい。もっとも、上記DNAは、化学合成して得ることもできる。細胞からのDNAやRNAの単離方法、及び、DNAの化学合成法としては、当業者に公知の方法を使用することができる。
例えば、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAを、タバコ細胞よりRNAとして単離した後、このRNAからcDNAを逆転写して得るには、まず、タバコ全草、又は、タバコの葉、茎、根、花やカルス等の組織もしくはその一部を、液体窒素で凍結した後、乳鉢などで摩砕して、この摩砕物より、酸グアニジンフェノールクロロホルム法、グアニジンチオシナネート‐塩化セシウム法、グリオキザール法、塩化リチウム‐尿素法、プロテイナーゼK‐デオキシリボヌクレアーゼ法等を用いて粗RNA画分を抽出し、得られた粗RNA画分を、オリゴdT‐セルロースやセファロース2Bを担体とするポリU‐セファロース等を用いたアフィニティーカラム法又はバッチ法にて精製し、mRNA(ポリA+mRNA)を得る。このmRNAは、更に、ショ糖密度勾配遠心法等を行って分画してもよい。
次いで、上記のようにして得られた精製mRNAから、例えば、Hoffman法等を用い、cDNAを逆転写する。具体的には、市販のキット(例えば、ZAP-cDNA Synthesis KitやHybriZAP 2.1 XR Vector Cloning Kit(いずれもStratagene社製)等)を利用し、上記精製mRNAに、オリゴdTをプライマーとして付加した上で、逆転写酵素を作用させてDNA−RNAハイブリッドを形成させた後、RNA鎖をRNaseHにより分解してから、DNAポリメラーゼIを作用させることにより、上記精製mRNAが逆転写された二本鎖cDNAを得ることができる。
配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAは、上記二本鎖cDNAの両端に、EcoRI‐NotI‐BamHIアダプター等のアダプターを適宜付加した後、例えばHybriZAP 2.1 XRベクター(Stratagene社製)等のクローニングベクターに連結してファージ粒子にパッケージングし、cDNAライブラリーを作製して、このライブラリー化されたcDNAに対し、YAP遺伝子を破壊した酵母を宿主とする相補試験を行うことにより、スクリーニングして得ることができる。
すなわち、上記ライブラリー化されたcDNAを、酵母にて自律複製可能で、かつ、有効な転写活性化ドメイン(例えば、GAL4活性化ドメイン等)を有するプラスミド、例えば、pAD-GAL4プラスミドの該転写活性化ドメインの下流に連結した上で、これをYAP1遺伝子及び/又はYAP2遺伝子を破壊した酵母に、酢酸リチウム法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法等を用いて導入し、導入処理後の酵母を、4mM過酸化水素又は150μMカドミウムイオンを含む培地で培養する。YAP1遺伝子及び/又はYAP2遺伝子を破壊した酵母は、上記濃度の過酸化水素やカドミウムイオンを含む培地では生育が阻害されるので、かかる培地にて正常な生育を示す株には、導入されたcDNAによって、破壊されたYAP1遺伝子及び/又はYAP2遺伝子の働きが補完され、過酸化水素やカドミウムイオンの存在により引き起こされる活性酸素ストレスに対抗するための、活性酸素除去系が回復したものと考えられる。従って、このような株を選抜して、導入したcDNAを回収すれば、細胞内の活性酸素除去系に関与する遺伝子CDR1又はCDR2、即ち、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAを得ることができる。
なお、上記スクリーニングに用いる酵母としては、YAP1遺伝子及びYAP2遺伝子の両者を破壊した株を用いるのが好ましい。YAP1遺伝子又はYAP2遺伝子のどちらか一方のみを破壊した株では、過酸化水素やカドミウム添加培地で培養した場合でも、これらの遺伝子を両方とも保持している正常な株との間に、十分な生育の差を検出することが難しいからである(Hirata等、Mol.Gen.Genet.、Vol242、p.250−256、1994)。YAP1遺伝子及び/又はYAP2遺伝子を破壊した酵母は、予め、HIS3遺伝子、URA3遺伝子、LEU2遺伝子又はTRP1遺伝子等が挿入され、その機能が破壊されたYAP1構造遺伝子及び/又はYAP2構造遺伝子を、正常な酵母の染色体DNA中のYAP1構造遺伝子及び/又はYAP2構造遺伝子と、相同的組換え等を利用して置き換えることにより得ることができる。
上記スクリーニングの結果回収されたcDNAの塩基配列の確認は、このcDNAを制限酵素で切断し、適当なプラスミドに再連結してサブクローニングした後、マキサム‐ギルバートの化学修飾法やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(F.Sanger等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、vol.74、P.5463-5469、1977)等の手法により、市販の自動塩基配列決定機(例えばBECKMAN社製CEQ2000 DNAシークエンサー等)も適宜利用して行うことができる。
配列番号1又は配列番号3に示すDNAの塩基配列は、以上のようにして決定されたものである。このDNAは、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列をコードしており、細胞内の活性酸素除去系に関与し、過酸化物や重金属等による活性酸素ストレス耐性を付与すると考えられる。
もっとも、生物の遺伝子は、同じ機能を果たすもの同士でも、各種ごと、また、各個体ごとに、その塩基配列はある程度相違するのが、むしろ普通である。従って、上記アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を与えなくとも、又は、上記DNAの塩基配列と同一でなくとも、本発明に係るDNAは、これが導入された宿主細胞に過酸化水素耐性を付与する限り、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよく、あるいは、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであってもよい。なお、この場合において、過酸化水素耐性の付与を要件とするのは、前記酵母のYAP1遺伝子及びYAP2遺伝子に関する研究より明らかなように、活性酸素除去系に関与する遺伝子は、活性酸素ストレスの誘引物質である過酸化水素等、過酸化物への耐性を付与すると考えられるからである。
配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失しているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、本発明のDNAとしては、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、1〜20個程度のアミノ酸が欠失しているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましく、特に、1〜5個程度のアミノ酸が欠失しているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましい。
また、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が置換されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、本発明のDNAとしては、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、1〜160個程度のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましく、特に、1〜40個程度のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましい。
さらに、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、本発明のDNAとしては、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、1〜20個程度のアミノ酸が付加されているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましく、特に、1〜5個程度のアミノ酸が付加されているアミノ酸配列をコードするDNAが好ましい。
一方、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、本発明のDNAとしては、例えば、ホルムアミド濃度が30〜50W/V%、好ましくは50W/V%、温度が37〜50℃、好ましくは42℃の条件下で、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とハイブリダイズするDNAが好ましい。
上記、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、あるいは、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号2もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、又は、配列番号1もしくは配列番号3に示す塩基配列を有するDNAをプローブとして、タバコ細胞その他の植物の細胞を始め、微生物の細胞、動物の細胞より単離したDNA又はcDNAと、上記ハイブリダイズ条件、即ち、ホルムアミド濃度30〜50%W/V、好ましくは50W/V%、温度37〜50℃、好ましくは42℃にてハイブリダイゼーションを行うことにより、取得できる。
また、上記、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、あるいは、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えば、配列番号2もしくは配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、又は、配列番号1もしくは配列番号3に示す塩基配列を有するDNAに、Kunkel法やGapped duplex法などの公知の手法又はこれに準ずる方法を用い、人為的に部位特異的突然変異を導入して作製することもできる。このような部位特異的突然変異の導入を簡便に行うための変異導入用キットも市販されている(例えば、TAKARA社製、Mutant-K、Mutant-G、又は、LA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット等)。
本発明の遺伝子導入用ベクターは、本発明のDNA、即ち、上記した、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列を有するDNA、あるいは、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを有する。
このようなベクターは、上記DNAを適当な制限酵素にて切断した上で、このDNAを、本発明の目的達成のために必要とされる各種公知のDNA要素、例えばプロモーター、エンハンサー等のシスエレメント、リボソーム結合配列(SD配列)、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、ターミネーター、選抜マーカー遺伝子などと共に、これらを導入しようとする宿主細胞において複製可能な公知のベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニングサイトに連結することにより、作製できる。
なお、プロモーターは、上記DNAを発現させることができるものであれば、どのようなものであってもよいが、大腸菌を宿主とする場合には、大腸菌やファージに由来するtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の他、これらのプロモーターを人為的に改変して得られた、tacプロモーター等のプロモーターを用いることが好ましい。酵母を宿主とする場合には、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が好ましい。また、植物細胞を宿主とする場合は、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)に由来する35Sプロモーター、レンゲ萎縮ウイルスに由来するMC8プロモーター、rbcSプロモーター、ユビキチンプロモーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のプロモーター、オクトピン(OCT)合成酵素遺伝子のプロモーター等が好ましい。さらに、動物細胞を宿主とする場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が好ましい。動物細胞においては、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いることもできる。
本発明のDNA、及び、上記プロモーター等のDNA要素を連結するための公知のベクターとしては、例えば、λファージ等のファージDNAや、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119等の大腸菌用プラスミドDNA、pUB110、pTP5等の枯草菌用プラスミドDNA、YEp13、YEp24、YCp50等の酵母用プラスミドDNA、pBI101、pBI121、pBI2113、pBI2113Not、pBI221、pBIG、pGA482、pGAH等のバイナリーベクター系の植物細胞用プラスミドDNA、又はpLGV23Neo、pMON200、pNCAT等の中間ベクター系の植物細胞用プラスミドDNAなどを例示することができる。また、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクター、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルスベクターも、上記DNAを連結するためのベクターとして用いることができる。なお、バイナリーベクター系の植物細胞用プラスミドDNAをベクターとして植物細胞への遺伝子導入を行う場合は、その境界配列LB及びRB間、即ちT-DNA領域に上記DNAを連結する必要がある。
本発明の形質転換細胞は、本発明のDNAを宿主細胞の染色体に導入することにより、取得できる。この場合において、典型的な宿主細胞としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)Hms174(DE3)株、K12株もしくはDH1株、枯草菌(Bacillus subtilis)MI 114株、207-21株、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens、以下、A.チュメファシエンスと略記する)C58株、LBA4404株、EHA101株、EHA105株もしくはC58C1RifR株、アグロバクテリウム・リゾジェネス(Agrobacterium rhizogenes)又はリゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等の細菌類、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母類、シロイヌナズナ、タバコ、トウモロコシ、イネ、ニンジン、ペチュニア、ポプラ、ユーカリ、アカシア、スギ又はマツ等の植物細胞、Sf9細胞又はSf21細胞等の昆虫細胞、あるいは、サル細胞COS-7もしくはVero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞又はヒトFL細胞等の動物細胞を挙げることができる。もっとも、本発明において、宿主細胞に特に制限はない。本発明のDNAを発現し得るものであれば、何であれ、このDNAを染色体に導入することで、本発明の形質転換細胞を取得できる。
また、本発明のDNAを上記宿主細胞の染色体に導入するには、前記したように、宿主細胞に応じて選択したプロモーター等のDNA要素及びベクターに本発明のDNAを連結して、本発明の遺伝子導入用ベクターを作製し、これを、公知の遺伝子導入法を用いて各宿主細胞に導入すればよい。遺伝子導入法としては、例えば、細菌を宿主細胞とする場合には、カルシウムイオン法(Cohen et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、69:2110-2114、1972)、エレクトロポレーション法(Becker et al.、Methods. Enzymol.、194:182‐187、1990) 、凍結融解法、三者接合法(M.BevanNucleic Acids Research、12:8711、1984)等を、酵母を宿主細胞とする場合には、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、プロトプラスト法、スフェロプラスト法(Hinnen et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA、75:1929‐1933、1978)、酢酸リチウム法(Itoh、J.Bacteriol.、153:163‐168、1983)等を、植物細胞を宿主細胞とする場合には、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法(Abel et al.、Plant J.、5:421‐427、1994)、パーティクルガン法、リポソーム法、マイクロインジェクション法等を、動物細胞や昆虫細胞を宿主細胞とする場合には、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を、用いることができる。
本発明の形質転換植物個体は、植物細胞の染色体に本発明のDNAを導入して得た形質転換細胞を増殖、分化させることにより得ることができる。
植物細胞の染色体に本発明のDNAを導入するにあたっては、上記したように、植物細胞用に選択したプロモーター等のDNA要素及びベクターに本発明のDNAを連結して、本発明の遺伝子導入用ベクターを作製し、これを、公知の遺伝子導入法を用いて各宿主細胞に導入すればよい。
DNA要素については、既に例示したように、植物細胞用のプロモーターとして、上記35SRNAプロモーター、MC8プロモーター、rbcSプロモーター、ユビキチンプロモーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のプロモーター、オクトピン(OCT)合成酵素遺伝子のプロモーター等を用いることができる。また、ターミネーターとして、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターやノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を、選抜マーカー遺伝子として、カナマイシン耐性遺伝子(NPTII遺伝子)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(htp遺伝子)、ビアラホス(bialaphos)に対する抵抗性を付与するホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(bar)遺伝子等から選ばれる1つ以上の遺伝子を使用することができる。さらに、これらのDNA要素に加え、例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、β‐グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、緑色蛍光タンパク(GFP)遺伝子等を、レポーター遺伝子として使用してもよい。
ベクター、宿主細胞、及び遺伝子導入法についても、既に例示したように、ベクターとしては、pBI101、pBI121、pBI2113、pBI2113Not、pBI221、pBIG、pGA482、pGAH、pLGV23Neo、pMON200、pNCAT等を、宿主細胞としては、シロイヌナズナ、タバコ、トウモロコシ、イネ、ニンジン、ペチュニア、ポプラ、ユーカリ、アカシア、スギ又はマツ等を、遺伝子導入法としては、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、リポソーム法、マイクロインジェクション法等を用いることができる。なお、上記宿主細胞は、植物のいずれの器官(例えば、葉、花弁、茎、根、根茎、種子等)又は組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)の細胞を用いてもよい。
もっとも、以上のDNA要素、ベクター、宿主細胞、遺伝子導入法以外でも、本発明のDNAを染色体に導入し、これを発現させて形質転換細胞を作製でき、更に、この形質転換細胞を増殖、分化させて形質転換植物個体を作製できるものであれば、本発明においては何であれ用いることができる。また、選抜マーカー遺伝子は、本発明のDNAと共に単一のベクターに組込んでもよいし、2つ以上のベクターにそれぞれ別個に組み込んでもよい。
遺伝子導入後の宿主細胞は、その植物細胞の増殖・分化に適した公知の培地及び環境条件で培養する。この過程で、本発明のDNAと共に導入した選抜マーカー遺伝子の発現を指標として、形質転換細胞を選抜し、これを増殖・分化させて植物個体を再分化させれば、本発明の形質転換植物個体を得ることができる。こうして得られた形質転換植物個体又はその後代の個体の染色体への本発明のDNAの導入は、当該個体の細胞から定法に従ってDNAを抽出し、PCR法やサザンハイブリダイゼーション法等、公知の手法を用いて解析を行うことにより、確認できる。
一方、本発明の形質転換植物個体又はその後代の個体における本発明のDNAの発現は、RT−PCR法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウエスタンブロッティング法等の公知の手法によって確認し、評価することができる。すなわち、当該個体に、例えば乾燥及び/又は低温ストレスを与えた後、このようなストレスを与えなかった他は同条件で育成した形質転換植物個体もしくはその後代、及び/又は、非形質転換植物個体と共に、これらの手法によって、そのRNA(RT−PCR法もしくはノーザンハイブリダイゼーション法を用いる場合)又は遺伝子産物(ウエスタンブロッティング法を用いる場合)を解析すれば、本発明のDNAの発現レベルを知ることができる。なお、培養容器内で育成されている植物個体であれば、乾燥ストレスは、寒天培地等から植物体を抜き取り、ろ紙上で10分〜24時間乾燥させることにより、また、低温ストレスは、植物体を−4〜15℃の環境下に10分〜24時間置くことにより、与えることができる。一方、地植えの植物個体であれば、乾燥ストレスは、乾燥環境下に1〜2週間程度置くことにより、低温ストレスは、上記低温環境下に、やはり1〜2週間程度置くことにより、与えればよい。一般に、染色体に導入された遺伝子は、その導入位置によって発現レベルが異なるので、上記の手法により解析を行うことで、本発明のDNAがより強く発現している形質転換植物個体及びその後代を選抜できる。
また、本発明の形質転換植物個体又はその後代の個体における本発明のDNAの発現は、当該個体の酸化ストレス耐性を調査することで、最終的に確認し、評価することができる。このような調査は、例えば、本発明の形質転換植物個体又はその後代の個体を、非形質転換個体と共に、高濃度の塩類を含む培養土で2〜4週間栽培する等して酸化ストレスを与えたときの生育状況を観察することによって、行えばよい。
本発明のタンパク質は、本発明のDNA、即ち、上記した、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号2又は配列番号4に示すアミノ酸配列に対し、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換、及び/もしくは、付加されているアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列を有するDNA、あるいは、配列番号1又は配列番号3に示す塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされる。かかるタンパク質は、本発明の形質転換細胞の培養物より取得することができる。ここで培養物とは、本発明の形質転換細胞を培養した結果得られる、細胞、組織、器官、個体及び/又は培地等を意味する。本発明の形質転換細胞の培養は、その宿主とした細胞の培養において公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、大腸菌や酵母等の微生物を宿主として得られた形質転換細胞を培養する場合は、炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有する天然培地又は合成培地を用い、通常は好気的条件下、37℃で6〜24時間、振盪培養又は通気攪拌培養を行えばよい。
この場合において、例えば、炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を、窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、その他の含窒素化合物、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーを、無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムを、1種又は2種以上組合わせて用いることができる。また、植物細胞を宿主として得られた形質転換細胞を培養する場合は、チアミン、ピリドキシン等のビタミン類を、動物細胞を宿主として得られた形質転換細胞を培養する場合は、RPMI1640等の血清を、上記成分に加え、必要に応じ適宜添加すればよい。培地のpHは7.0〜7.5に調整・保持することが好ましい。培地のpHは、無機酸もしくは有機酸、及び/又はアルカリ溶液等を用いて調整することができる。
なお、上記培地には、雑菌による汚染防止のため、ペニシリン、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の抗生物質を添加してもよい。ただし、大腸菌は通常、このような抗生物質の存在下では生育しないので、大腸菌を宿主とする形質転換細胞を培養する場合には、これらの添加は避けるべきである。もっとも、選抜マーカー遺伝子として抗生物質耐性遺伝子を用い、この選抜マーカー遺伝子を本発明のDNAと共に染色体に導入した場合には、当該形質転換細胞には、導入した抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質耐性が付与されるので、大腸菌を宿主とする形質転換細胞であっても、上記抗生物質を培地に添加して培養することができる。
さらに、本発明のDNAを制御するプロモーターとして化合物誘導性のプロモーターを用いた場合には、インデューサーとして当該化合物を、上記培地に添加することが好ましい。例えば、上記プロモーターとして、trpプロモーターを用いた場合はインドールアクリル酸(IAA)等を、lacプロモーターを用いた場合はイソプロピル‐β‐D‐チオガラクトピラノシド(IPTG)等を培地に添加し、本発明の形質転換細胞を培養すれば、本発明のDNAの発現が誘導されて、本発明のタンパク質が培養物中に蓄積されることとなる。
本発明のタンパク質は、本発明の形質転換細胞を上記のようにして培養し、得られた培養物について、適宜抽出・精製操作を行うことにより取得できる。なお、本発明のタンパク質が、主として培養後の形質転換細胞内に蓄積される場合には、その細胞の破壊操作を行った後に抽出操作を行うことが好ましく、主として上記培養後の培地中に溶解した状態で蓄積される場合には、当該培地についてそのまま、もしくは、遠心分離等により形質転換細胞その他の不要物を除去した後に抽出操作を行うことが好ましい。抽出後のタンパク質の精製は、タンパク質の単離精製法として公知の方法、例えば、硫酸アンモニウム沈殿法、ゲルクロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等を、単独で又は適宜組合わせて用いることができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
[実施例1]
I.タバコmRNAの抽出及び精製
発芽後、温室にて約1ヶ月間生育させたタバコNicotiana tabacum L cv. SR-1の葉約10gを採取し、液体窒素で凍結させてから摩砕した。この摩砕物より、酸グアニジンフェノールクロロホルム法(Chomcznski et al.、Anal. Biochem. 、Vol.162、p.156−159)を用いて粗RNA画分を抽出し、得られた粗RNA画分を二炭酸ジエチルで処理した滅菌水に溶解して、温度65℃で5分間加熱した後、予め2倍当量のローディング緩衝液(20mM Tris‐HCl、pH7.6、0.1M NaCl、1mM EDTA、0.1W/V% SDS)にて活性化させておいたオリゴdT‐セルロースカラムにアプライした。精製mRNAは、このカラムを、5〜10倍当量の上記ローディング緩衝液にて洗浄し、次いで、2〜3倍当量の溶出緩衝液(10mM Tris‐HCl、pH7.6、1mM EDTA、0.05W/V% SDS)を溶離液として溶出させることにより得られた。なお、このとき得られた精製mRNAの量は10μgであった。
II.タバコcDNAファージライブラリーの作製
Iにて得られた精製mRNAより、Stratagene社製HybriZAP 2.1 XR Vector Cloning Kitを用いて二本鎖cDNAを合成し、得られた二本鎖cDNAをλファージ発現ベクターに連結した後、この発現ベクターをファージ粒子にパッケージングして、力価(タイター)1.0×106pfu/mlのタバコcDNAファージライブラリーを作製した。
なお、ファージ粒子へのパッケージングには、Stratagene社製インビトロ・パッケージングキット(GigapackII Gold packaging extract)を用いて行った。すなわち、タバコのcDNAを連結したλファージ発現ベクターに、溶解した直後のFreeze/Thaw extractを加えて氷上に置いた後、直ちにSonic extract15μlを加え、ピペッティングしてよく混合してから軽く遠心して、室温(22℃)に2時間放置することにより行った。また、力価の測定は、この2時間放置後の反応液に、500μlのファージ希釈用緩衝液(Phage Dilution Buffer)及び20μlのクロロホルムを加えて混合した後、水層2μlを18μlのSM緩衝液(1l中、NaCl5.8g、MgSO4・7H2O2g、1M Tris‐HCl(pH7.5)50ml、2W/V%ゼラチン5ml)にて希釈し、この希釈液1μlとファージ原液1μlとを、OD600=0.5の大腸菌PLK-F‘株の培養液200μlにそれぞれ混合し、37℃で15分培養してからトップアガー(48℃)2〜3mlに加え、直ちに、約37℃に温めた直径150mmのNZYアガープレート(0.5W/V% NaCl、0.2W/V% MgSO4・7H2O、0.5W/V%酵母エキス、1.0W/V% NZ-amine、1.5W/V%寒天)に重層して、37℃、一晩培養後、出現したプラーク数を数えることにより行った。
III.タバコcDNAファージライブラリーの増幅
IIにて得られた、タバコcDNAを連結したλファージ発現ベクターがパッケージングされたファージ粒子(以下、単に組換えファージ粒子とも言う。)約50000個を、OD600=0.5の大腸菌PLK-F‘株の培養液600μlに混合し、37℃で15分培養した後、この培養液にトップアガー(48℃)6.5mlを加え、約37℃に温めた直径150mmのNZYアガープレートへ直ちに重層して、37℃で5〜8時間培養した。次いで、この各プレートに10mlのSM緩衝液を加えて、4℃で一晩ゆっくり振とうさせながら培養することにより、タバコcDNAのファージライブラリーを増幅した。この増幅後のライブラリーについて、上記IIと同様にして測定した力価は、5.0×109pfu/mlであった。
増幅後のライブラリーはポリプロピレンチューブに集め、その全量の5V/V%に相当するクロロホルムを加えて混合し、室温で15分放置してから、4000gで5分遠心して上清を回収し、この上清に全量の0.3%に相当するクロロホルムを加えて、4℃で保存した。
IV.タバコcDNAファージライブラリーのプラスミドへの変換
タバコcDNAファージライブラリーのプラスミドへの変換は、IIIにて増幅されたタバコcDNAファージライブラリー200μl(組換えファージ粒子1×105個以上を含む。)、OD600=0.1の大腸菌XL1-Blue培養液200μl、及び、力価1×106pfu/ml以上のヘルパーファージR408 1μlを混合し、37℃で15分培養した後、2倍希釈YT培地(0.8W/V%ポリペプトン、0.5W/V%酵母エキス、0.25W/V% NaCl、1.5W/V%寒天)5mlを加え、更に、37℃で3時間振とう培養することにより行った。また、こうしてプラスミドに組込まれたタバコcDNAは、この培養液を70℃で20分熱処理してから、4000gで5分遠心を行うことにより上清を回収した後、この上清を、再度、5000gで5分遠心を行い精製した上で、その100倍希釈液20μlとOD600=0.1の大腸菌XL1-Blue培養液200μlとを混合して、37℃で15分培養を行うことにより、大腸菌に感染させた。
上記培養後、培養液1〜100μlを取分け、アンピシリンを含むLBプレート(1.0W/V%ポリペプトン、0.5W/V%酵母エキス、1.0W/V% NaCl、1.5W/V%寒天)にて37℃で一晩培養を行い、出現した大腸菌のコロニーをランダムに選択し、グリセロールを加えて−80℃で保存した。以下の操作に用いるタバコcDNAを組込んだプラスミドは、こうして保存しておいた大腸菌より、Qiagen社製のQIAfilter Plasmid Kit Maxiを用いて単離した。
すなわち、上記のようにして保存されていた大腸菌を、5mlの2倍希釈LB培地にて37℃、一晩培養し、次いで、100mlのLB培地にて37℃、一晩培養することにより増殖させた後、4℃、4000g、15分遠心して菌体を回収し、回収した菌体にTE緩衝液(10mM Tris−HCl(pH8.0)、1mM EDTA)1mlを加え、ボルテックスにて撹拌してから、今度は、4℃、5000g、5分遠心することにより、再び菌体を回収した。そして、この菌体に、10mlのP1溶液(細胞懸濁用溶液)を加え、よく懸濁した上でミキサーにて2分間撹拌し、更に、10mlのP2溶液(細胞溶解用溶液)を加え、透明になるまで撹拌して菌体を溶解させた後、この溶液に10mlのP3溶液(中和用溶液)を加え、手で振って撹拌してから、15000gで10分遠心して上清を回収した。この上清を、予めQBT溶液(カラム活性化溶液)10mlで活性化しておいたカラムQIAGEN-tip 500にアプライし、30mlのQC溶液(カラム洗浄用溶液)にて二度洗浄した後、15mlのQC溶液(カラム溶出用溶液)をカラムに流すことにより、タバコcDNAを組込んだプラスミドを溶出させ、得られた溶出液にイソプロパノール10.5mlを加えてこれを析出させ、15000gで30分遠心することにより、沈殿させて回収した。この沈殿に70%エタノール1mlを加え、15000gで3分遠心し、再度回収してからエタノールを完全に除去し、デシケーター中で真空乾燥させた後、20μlの滅菌水に溶解し、−20℃にて保存した。
V.活性酸素ストレス耐性遺伝子のスクリーニング
IVにてタバコcDNAを組込んだプラスミドを、YAP1遺伝子及びYAP2遺伝子の双方を破壊した酵母DHA 12-2c株(MATa ho yap1::HIS3 yap2::URA3 leu2 trp1 ade2 can1-100)に酢酸リチウム法を用いて導入し、この形質転換酵母1.2×106個を、最終濃度4mMとなるように過酸化水素水を添加したYPD培地(1W/V%酵母エキス、2W/V%ポリペプトン、2W/V%デキストロース、2W/V%寒天)にて28℃で4〜7日間培養することにより、活性酸素ストレス耐性遺伝子のスクリーニングを行った。
この結果、上記培地で生育し、活性酸素ストレス耐性を獲得したと考えられる形質転換酵母2株を得ることができた。
VI.活性酸素ストレス耐性遺伝子の塩基配列の決定
Vにて活性酸素ストレス耐性を示した形質転換酵母2株にそれぞれ由来する、2系統の形質転換酵母について、導入されたプラスミドを抽出し、その塩基配列を解析することにより、これらの酵母に活性酸素ストレス耐性を付与した、2種のタバコcDNAの塩基配列を決定し、CDR1遺伝子及びCDR2遺伝子と命名した。CDR1遺伝子の塩基配列を配列番号1に、CDR2遺伝子の塩基配列を配列番号3に示す。
なお、酵母からのプラスミドの抽出は、ザイモリエース処理により細胞壁を溶解させた酵母菌体を、SDS及びグアニジンチオシアネートにてタンパクを変性させた後、タンパク分解酵素及びRNA分解酵素にて処理することにより行った。また、cDNAの塩基配列は、ベックマンコールター社製シーケンシングキット及びDNAオートシーケンサー2000XLを用い、付属の説明書に従って操作することにより解析した。このときシーケンスプライマーとしては、上記シーケンシングキットのフォワードプライマー(P7)及びリバースプライマー(P8)を使用した。
上記CDR1遺伝子及びCDR2遺伝子について、DNA解析ソフトGENETYX‐WIN(ソフトウェア開発株式会社製)を用い、GenBankのDNAデータベースに基づきホモロジー検索を行ったところ、CDR1遺伝子は、ヒトのインスリン分解酵素遺伝子と高い相同性(アミノ酸レベルで56%)を有し、また、CDR2遺伝子は、シロイヌナズナ由来の機能不明のタンパク質遺伝子と高い相同性(アミノ酸レベルで69%)を有していた。
VII.活性酸素ストレス耐性遺伝子が導入された形質転換タバコの作製
活性酸素ストレス耐性を有する上記2系統の酵母に導入したプラスミドを、VIと同様にして抽出し、CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子を含むBamHI断片を切取って、バイナリーベクター系植物細胞用プラスミドpBI121の35Sプロモーターの下流に連結した後、エレクトロポーレ−ション法を用いて、このプラスミドをA.チュメファシエンスEHA105株に導入し、形質転換A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)又はEHA105(CDR2)を得た。
一方、播種後約4週間、無菌条件下で生育させたタバコNicotiana tabacum L cv. SR-1を形質転換タバコ作製の材料として用意し、その葉から中脈を取除き、約5mm角にカットして得られた葉片を、抗生物質カナマイシン(100mg/l)を含むLB培地にて2日間、28℃で培養した上記A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)又はEHA105(CDR2)の培養液に約1〜3分浸してこれに感染させ、滅菌した紙タオル等で付着している菌液を除いてから、MS培地(T. Murashige and F. Skoog、Physiol. Plant.、15:473、1962)にナフタレン酢酸1mg/l、ベンジルアデニン0.1mg/l、ショ糖3W/V%及びゲランガム0.25W/V%を添加したカルス誘導用培地に、葉の裏が上になるように置床して、25℃、全明(特に記載されない限り、外植片及び植物組織・植物個体の培養はこの条件で行った。)で3日間培養を行った。
上記培養後の葉片を、MS培地にナフタレン酢酸0.1mg/l、ベンジルアデニン1mg/l、カルベニシリン500mg/l、カナマイシン100mg/l、ショ糖3W/V%及びゲランガム0.25W/V%を添加したシュート形成用培地に移植して培養を続け、約4週間後、再分化してきた不定芽を切取り、この不定芽を、更に、MS培地にベンジルアデニン2mg/l、ナフタレン酢酸0.1mg/l、カルベニシリン500mg/l、カナマイシン100mg/l及び寒天0.8W/V%を添加した発根用培地に移植して培養することにより発根させて、2系統の形質転換タバコを得た。発根した個体は、発根用培地への移植から約4週間後に、バーミキュライト(日本耐火工業社)とピートモス(和泉農材)とを1:2に混合した培養土を入れたポットに植替え、25℃の温室で生育させた。なお、上記2系統の形質転換タバコは、A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)感染後の葉片より再分化した系統をNtCDR1、EHA105(CDR2)感染後の葉片より再分化した系統をNtCDR2と、それぞれ命名した。
VIII.形質転換タバコの解析
VIIにて作製した2系統の形質転換タバコNtCDR1及びNtCDR2について、以下の解析を行った。
A.PCR分析
上記2系統の形質転換タバコの葉より、CTAB法(Doyle JJ & Doyle JL、Focus、12:13、1988)を用いて染色体DNAを抽出し、このDNAを鋳型として、プラスミドpBI121が保持するカナマイシン耐性遺伝子の所定位置に結合するよう設計された、一組のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析を行い、これらの形質転換タバコの染色体DNAに、プラスミドpBI121由来のカナマイシン耐性遺伝子が存在していることを確認した。
従って、これらの形質転換タバコには、A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)又はEHA105(CDR2)の感染を介して、その染色体DNA中にpBI121由来の構造が導入されており、上記カナマイシン耐性遺伝子と共に、NtCDR1の系統にはCDR1遺伝子が、また、NtCDR2の系統にはCDR2遺伝子が導入されているものと考えられる。
B.ノーザンブロッティング分析
上記2系統の形質転換タバコ及び非形質転換タバコ(いずれも8週齢)の茎より、全RNAを酸グアニジンフェノールクロロホルム法にて抽出し、この全RNA10μgについて、緩衝液として1×MOPS緩衝液(20mM MOPS/pH7.0、5mM酢酸ナトリウム、0.5mM EDTA)、泳動ゲルとして終濃度0.66Mホルムアルデヒドを含む1.2%アガロースゲルを用い、電圧60Vで2時間、電気泳動を行った。なお、ここで非形質転換タバコとは、野生型Nicotiana tabacum L cv. SR-1のことを言う(以下同じ。)。
泳動後のゲルを、ナイロンメンブレンフィルター(Amersham Pharmacia Biotech 社製Hybond-N)にブロッティングし、ロッシュダイアゴノスティックス社のノンラジオアイソトープDIG‐核酸検出システムのプロトコールに従い調製したプローブを用いて、ハイブリダイゼーションを行ったところ、形質転換タバコNtCDR1ではCDR1遺伝子に対応するRNAが、NtCDR2ではCDR2遺伝子に対応するRNAが、それぞれ高発現していることが明らかとなった。一方、非形質転換タバコにおいては、これらのRNAの発現は認められなかった。
C.次世代における重金属塩耐性及び高塩濃度耐性の調査
上記2系統の形質転換タバコを自家受粉させて得られた種子及び非形質転換タバコの種子を、70%エタノールで1分、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液で15分殺菌処理し、更に、滅菌水で3回洗浄してから、塩化カドミウム(CdCl2)100μM又は塩化ナトリウム(NaCl)200mMを含むMS固形培地(0.8W/V%寒天)に播種し、25℃、16時間明期8時間暗期のサイクルで4週間培養後、発芽、生育してきた苗の茎と根の長さを測定した。結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2より明らかなように、形質転換タバコNtCDR1及びNtCDR2の次世代は、非形質転換タバコと比べ、塩化カドミウム100μMを含む培地では、茎の長さにして1.5倍以上、根の長さにして2.0倍以上の成長性を、また、塩化ナトリウム200mMを含む培地では、茎の長さにして1.9倍以上、根の長さにして4.5倍以上の成長性を示し、これらの形質転換体が、その染色体DNA中に導入した活性酸素ストレス耐性遺伝子CDR1又はCDR2の働きにより、重金属塩耐性及び高塩濃度耐性を獲得していることが実証された。
[実施例2]
I.活性酸素ストレス耐性遺伝子が導入された形質転換タバコ培養細胞の作製
LS培地(Nagata Y.、Meth. Enzymol.、148:34-39、1987)にて、25℃、130rpmで培養した植え継ぎ3日目のタバコNicotiana tabacum L cv. BY-2培養細胞4mlに、30℃で一晩培養した形質転換A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)又はEHA105(CDR2)100μlを加え、25℃、暗所で、48時間静置培養することにより、タバコ培養細胞にこれらのA.チュメファシエンスを感染させ、次いで、800rpmで1分遠心して感染後のタバコ培養細胞を回収した。回収したタバコ培養細胞は、LS培地5mlを加え、よく撹拌してから遠心し、上清を捨てるという洗浄操作を5回繰返した後、細胞量の10倍量に相当するLS培地を加えて懸濁させてから、そのうち1mlを取分けて、これをLS培地にカルベニシリン500mg/l、カナマイシン100mg/l及び0.8W/V%寒天を添加した固形培地上に均一に広げて、25℃、暗所で静置培養した。そして2週間培養後、生じたコロニーを同組成の培地にて、25℃、暗所で、更に2週間静置培養し、このとき生育した細胞を、形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2及びNtCDR2−BY2として選抜した。なお、ここで形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2は、A.チュメファシエンスEHA105(CDR1)を感染させたタバコ培養細胞を培養して選抜された系統であり、NtCDR2−BY2は、A.チュメファシエンスEHA105(CDR2)を感染させたタバコ培養細胞を培養して選抜された系統である。
II.形質転換タバコ培養細胞の解析
Iにて選抜した2系統の形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2及びNtCDR2−BY2について、以下の解析を行った。
A.PCR分析
上記2系統の形質転換タバコ培養細胞より、CTAB法を用いて染色体DNAを抽出し、このDNAを鋳型として、CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子の所定位置に結合するよう設計された、各一組のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR分析を行い、形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2の染色体DNAにはCDR1遺伝子が、形質転換タバコ培養細胞NtCDR2−BY2の染色体DNAにはCDR2遺伝子が、それぞれ存在していることを確認した。
B.重金属塩耐性の調査
上記2系統の形質転換タバコ培養細胞を、塩化カドミウム50μM又は100μMを含むLS固形培地(0.8W/V%寒天)に置床し、25℃、暗所で3週間静置培養後、その新鮮重を測定し、塩化カドミウム無添加で同様に培養した場合の新鮮重を100として、その成長性を比較した。
結果を表3に示す。なお、表3中、MC7−BY2は、β‐グルクロニダーゼ遺伝子のプロモーターとして、35Sプロモーターの代わりにMC7プロモーター(Shirasawa-Seo N.et al.、Plant Cell Rep.、24:155、2005)が連結されている他は、pBI121と同様の構造を有する植物細胞用プラスミドが導入された、形質転換A.チュメファシエンスEHA105(MC-7)を用いて、また、YAP1−BY2は、CDR1遺伝子又はCDR2遺伝子の代わりに、酵母より分離されたYAP1構造遺伝子が35Sプロモーターの下流に連結されている他は、やはり、pBI121と同様の構造を有する植物細胞用プラスミドが導入された、形質転換A.チュメファシエンスEHA105(YAP-1)を用いて、いずれも、上記形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2及びNtCDR2−BY2の場合と同様にして、タバコ培養細胞を感染し、得られた形質転換タバコ培養細胞である。
表3より明らかなように、形質転換タバコ培養細胞NtCDR1−BY2及びNtCDR2−BY2は、活性酸素ストレス耐性遺伝子が導入されていない形質転換タバコ培養細胞MC7−BY2と比べ、いずれも、塩化カドミウムを含む培地で培養した場合の生育阻害が少なく、実施例1と同様に、これらの形質転換体も、その染色体DNA中に導入した活性酸素ストレス耐性遺伝子CDR1又はCDR2の働きにより、重金属塩耐性を獲得していることが実証された。しかも、NtCDR2−BY2は、塩化カドミウム50μMを含む培地で培養した場合に、活性酸素除去系において中心的な役割を果たすYAP1遺伝子が導入された、形質転換タバコ培養細胞YAP1−BY2に匹敵する重金属塩耐性を示していた。