JP2007213738A - 磁気ディスク及び磁気ディスク装置 - Google Patents

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浩之 松本
Mitsuhiro Shoda
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Abstract

【課題】磁気ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性に優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】表面にパーフロロポリエーテル構造を有する潤滑剤を形成した磁気ディスクにおいて、保護膜上の潤滑膜が分子鎖末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミド環を有するパーフロロポリエーテルと、分子鎖末端の少なくとも一方にヒドロキシル基を有するパーフロロポリエーテルとを含むことを特徴とする磁気ディスク及びそれを用いた磁気ディスク装置。
【選択図】図1

Description

本発明は、非磁性基板上に、少なくとも磁気膜、保護膜を形成し、その上に混合潤滑剤を配置した磁気ディスク及びそのような磁気ディスクを有する磁気ディスク装置に関する。
磁気ディスクの高記録密度化に伴い、磁気ヘッドの浮上量の低下が進んでおり、すでに浮上量は10nm以下の極低浮上領域にまで低下している。このヘッド浮上量の低下の傾向は今後も更に進むことが確実であり、近い将来ヘッドとディスクは完全な接触状態(コンタクト)で記録再生をすることになる。そのうえ、高速転送を実現するためディスクの高速回転や小径薄型化に伴うディスク搭載枚数の減少によって、摺動時におけるヘッドの振動が大きくなり正常に記録再生が出来なくなる。これを防止するため、極低浮上あるいはコンタクトレコーディング対応潤滑膜においてはヘッドの走行安定性(ヘッドの浮上安定性)を維持することが重要視される。また、前述の極浮上量あるいはコンタクトレコーディングにおいて必然的に摺動条件がこれまで以上に過酷となることから、ディスクの最外表面に形成される潤滑膜には摺動耐久性もヘッドの走行安定性と併せて要求されている。
最近の磁気ディスク装置は、上記浮上量の低下により、ディスクの表面粗さを極力小さくしなければならない。そのため、従来のようなディスクの回転の停止時にはヘッドをディスクに接触させておき、ディスク回転時に発生する空気流でヘッドを浮上させるというコンタクトスタートストップ(CSS)方式から、ディスクの停止時にはヘッドがディスク上から離れたところに退避され(アンロード)、ディスク回転時にヘッドがディスク上にロードされるロードアンロード(load/unload)方式に移行してきている。この場合、耐摺動性は若干緩和されるものの、ロード時の衝撃や通常動作時でも突発的に発生し得るヘッドの姿勢異常による接触摺動に潤滑膜は耐えなければならない。
現在、潤滑膜には表面エネルギーが低く、化学安定性に優れるパーフロロポリエーテル系潤滑剤が一般に用いられている。市販されている潤滑剤としては、ソルベイ・ソレクシス社のFOMBLIN Z−DEAL,Z−DIAC, Z−DOL,Z−DOL TX,Z−TETRAOL,AM2001,AM3001などが挙げられる。これらの市販潤滑剤の分子量は数百から1万程度までの広範囲に分布しており、製造ロットによっても様々である。特許文献1や特許文献2では広範囲に分布する分子量の中から適正範囲の分子量成分のみを取り出して使用することが提案されている。これにより潤滑膜の飛散、潤滑膜とヘッドとの粘着を防止する。
また、潤滑膜の摺動耐久性を向上させるために、潤滑膜を形成する潤滑剤として2成分以上の化合物を用いることが検討されている。例えば、特許文献3に記載されている潤滑膜は、20℃における粘度が2600mPa・s以下で、60℃における粘度が160mPa・s以上である、フタルイミド基を有するパーフロロポリエーテル誘導体とニトロベンジルエーテル基等の極性基を有するパーフロロポリエーテルを混合させることで、優れたCSS耐久性を有する磁気ディスクを得ることを提案している。特許文献4では、連続摺動信頼性に優れた潤滑膜としてホスファゼン環を持つ添加剤を混合することを提案している。さらにまた、ヘッドの走行安定性や連続摺動信頼性に優れた潤滑膜として、フッ素系潤滑剤と液晶化合物を混合した混合潤滑膜を使用する(特許文献5)方法が提案されている。
特開2000−315314号公報 米国特許6、099、937号明細書 日本特許第2、947、446号明細書 米国特許5、908、817号明細書 特開平7−82582号公報
前述のように高記録密度化に伴い、ヘッドの浮上量は10nm以下の極低浮上領域にまで達している。潤滑膜の厚さは、このヘッドの浮上量に加味されていることから、ヘッドと接触しない様にするためには出来るだけ薄く且つディスク面内の膜厚分布差が無い様、均一な膜厚であることが要求される。
そのため、2成分以上の化合物から薄く均一な潤滑膜を形成させ、摺動耐久性を向上させるためには、それら化合物同士の相溶性を考慮する必要が生じてきた。仮に、潤滑膜として使用する化合物の相溶性が無い若しくは相溶性が悪い場合では、ディスクに潤滑膜を形成した際、各々の化合物同志が凝集し、均一な潤滑膜を形成するのが困難となる。そのため、ロード時の衝撃や通常動作時での突発的に発生したヘッドの姿勢異常に対して、潤滑膜がヘッドと接触しやすくなり、場合によってはヘッド表面に潤滑剤が付着し、ヘッド浮上安定性が維持できなくなる。さらにヘッドの浮上安定性において考慮しなければならない潤滑剤の特性として粘度が挙げられる。一般に潤滑剤の粘度が高いとヘッド/ディスク間で接触摺動した際に高い摩擦力が発生し易くなる。このため潤滑剤の粘度を適正化する必要がある。
上記従来技術は、連続摺動信頼性に優れた潤滑膜として粘性の高いもの同士の組み合わせや、フッ素系潤滑剤とホスファゼン環を有する化合物との組み合わせ、或いはフッ素系潤滑剤と液晶化合物潤滑剤とを組み合わせている。一般にフッ素系化合物と非フッ素系化合物を混合させる場合、それらが相溶せずに相分離を生じ、均一な膜を作成することは困難である。また、フッ素系化合物同士の混合であっても、ディスクへの密着性を改善するために導入した極性基の影響により、化合物間のSP値(溶解度パラメーター)に差が生じ、相分離する危険が大いにあった。従来技術では、それら化合物の相溶性については十分に考慮しておらず、均一な潤滑膜を形成することは、困難である。さらに、コンタクトレコーディングでは起動中に常時ヘッドとディスクが接触しているため、ヘッドの掻き取りによって潤滑膜の膜減りが必然的に生じるが、従来技術では、これに対する対策が十分になされていなかった。
本発明の目的は、高吸着、高耐熱性潤滑剤と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤とを複合化した潤滑膜をディスクに形成することによって、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性に優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を提供することにある。
本発明者等は、高吸着、高耐熱性潤滑剤と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤を複合化した潤滑膜を使用することによって、ヘッドの走行安定性並びに連続摺動耐久性に優れる磁気ディスク及びそれらを搭載した磁気ディスク装置が得られることを見出した。高吸着、高耐熱性潤滑剤としては、分子鎖末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミド環を有するパーフロロポリエーテルであり、これらと優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤としては、分子鎖末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基(−CHOH)を有するパーフロロポリエーテルであり、薄く均一な膜厚を形成するために最適な分子量及び分子量分布を見出した。さらに、潤滑剤の粘度についても最適化を図ると共に加熱処理もしくは光照射処理を施し、より高い摺動耐久性を有する潤滑膜を得るに至った。
本発明によれば、高吸着性潤滑剤と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤を複合化した潤滑膜をディスクに形成することによって、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性に優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を得ることが出来る。
上記課題を解決する本発明の具体的な手段の例は以下の通りである。
本発明は、非磁性基板上に、少なくとも磁気記録層及び保護膜が形成され、更に表面に潤滑膜が配置された磁気ディスクにおいて、該潤滑膜の潤滑剤に分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルと、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルとが共存する磁気ディスクを提供する。ここで両パーフロロポリエーテルが共存するとは、磁気ディスクが磁気ディスクとして機能する状態において共存することを意味し、例えば磁気ディスク上の潤滑膜に両者が混合物または相溶物として存在するか、一方のパーポリフロロポリエーテルが磁気ディスク上に塗布または噴きつけられ、磁気ディスクを動作させるときに他方のパーフロロポリエーテルを潤滑剤供給装置から上記磁気ディスクに供給することでもよい。前記両パーフロロポリエーテルの平均分子量が1000〜3500で、かつ、分子量分布が1.1以下であることが望ましい。また、前記潤滑膜を磁気ディスク上に形成する際に加熱処理もしくは光照射処理を施すことにより、潤滑膜の耐久性を向上することができる。
また、前記潤滑剤が磁気ディスク上において、分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルと、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルが混合されているものを用いることができる。
更に、前記潤滑剤が磁気ディスク上において、分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルが担持され、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルが潤滑剤供給手段により前記磁気ディスクに供給することができる。
本発明の好ましい1つの手段は、非磁性基板上に、少なくとも磁気記録層及び保護膜が形成され、表面に潤滑剤が配置された磁気ディスク媒体において、該潤滑剤が下記(式I)または(式III)と、下記(式II)または(式IV)のパーフロロポリエーテルを含み、前記(式I)から(式IV)で表わされる潤滑剤の平均分子量が1000〜3500で、かつ、分子量分布が1.1以下である磁気ディスクである。
Figure 2007213738
Figure 2007213738
Figure 2007213738
Figure 2007213738
但し、m,nは0または正の整数を表し、Aは下記(式V)から(VIII)の2価の有機残基である。Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。
Figure 2007213738
上記両パーフルポリオロエールの主鎖の構造が類似または同一のもの同士を組み合わせることにより優れた相溶性を確保することができる。
他の手段は、前記(式II)または(式IV)で表わされる潤滑剤成分の好ましい含有率の範囲は5〜50%である前記磁気ディスクである。また、(式I)または(式III)で表わされる潤滑剤成分の含有率は95〜50重量%が好ましい。
更に他の手段は、前記潤滑膜を有する磁気ディスクであって、潤滑膜を形成する際に加熱処理もしくは光照射処理を施した前記磁気ディスクである。この処理を施すことよって潤滑膜のボンディング率及び寿命が向上する。
更に他の手段は、磁気ディスクを有する磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜は、前記(式I)及び(式II)で表され(ここで、m,nは0または正の整数、Aは前記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに前記(式I)及び(式II)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下である磁気ディスク装置である。一方のパーフルオロエーテル(分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミド環を有する化合物)と、他方のパーフルオロエーテル(分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有する化合物)を併用することにより、潤滑膜の耐久性を向上することができる。
更に他の手段は、記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路を備えた磁気ディスク装置において、該磁気ディスクが、前記(式III)及び(式IV)で表される潤滑剤であり(ここで、nは0または正の整数、Aは前記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに(式III)及び(式IV)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下である磁気ディスク装置である。
更に他の手段は、前記(式II)または(式IV)で表わされる潤滑剤成分の含有率の好ましい範囲が5〜50重量%である前記磁気ディスク装置である。また、前記(式I)または(式III)で表される潤滑剤成分の含有量は95〜50重量%が好ましい。
更に他の手段は、記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路、前記磁気ディスクの表面に潤滑剤を供給する手段とを備えた磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、前記(式I)を有し(ここで、m,nは0または正の整数、Aは前記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに該潤滑剤供給手段は、前記(式II)で表される潤滑剤を前記潤滑剤膜に供給し、かつ(式I)及び(式II)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下である磁気ディスク装置である。
更に他の手段は、少なくとも磁気ディスクと、前記磁気ディスクの表面に潤滑剤を供給する手段とを有する磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、前記(式III)で表される潤滑剤であり、さらに該潤滑剤供給手段は、前記(式IV)で表される潤滑剤を潤滑剤膜に供給する磁気ディスク装置である。
以下、本願発明に係る適切な実施例について詳細に説明する。
(1)本発明の磁気ディスクの構成
本発明に記載の磁気ディスクは、ガラス基板上にCr合金からなる下地膜を形成し、その上にCoCrPt等の磁性層、カーボンを主体とする保護膜、更にその上に前記(式I)または(式III)で表されるイミド環を有する高吸着性潤滑剤と、(式II)または(式IV)で表される、ヒドロキリメチル基を有する、優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤とを複合化したパーフロロポリエーテル潤滑膜からなる潤滑膜を最外層として形成する構成を有する。磁性層は,目的とする記録密度を得るために構成材料を変えることが可能であり,これらはスパッタ法で形成している。保護膜の材質は,カーボンが主体でありスパッタ法もしくはIBD(Ion Beam Deposition)法で形成する。但し,スパッタ法での成膜においてAr/Nガス雰囲気下で成膜して硬度を高めている。また、磁気ディスク装置の動作方式としては、従来のCSS方式でもヘッドの走行安定性を確保できる上で効果があるが、ロードアンロード(load/unload)方式の方がディスクとヘッドとの間でのスティクションを考慮する必要がないことから、耐摺動性の問題が緩和される点で、より有利である。このため,ディスク表面にはスティクションを防止するための突起を形成する必要がなくディスク表面は平滑である。
(2)本発明の磁気ディスク装置の構成
本発明の潤滑剤供給手段を有さない磁気ディスク装置の動作方式は、前述したような理由からCSS方式よりロードアンロード(load/unload)方式の方が好ましい。また、後で述べる実施例及び比較例では、上記の磁気ディスクを搭載した。
潤滑剤供給手段を有する磁気ディスク装置の動作方式としても、同様な理由からロードアンロード方式の方がより有利である。潤滑剤供給手段としては、磁気ディスク装置内の熱とディスク回転による気流を利用して、潤滑剤を保持する部品からディスク表面に供給される。潤滑剤を保持する部品(フィルターやウィック材など)に潤滑剤を含浸させて、磁気ディスク装置内に内蔵する。ディスクが回転して装置内の温度が上昇すると、供給源から潤滑剤が蒸発しディスク表面に供給される。なお、潤滑剤を含浸させたフィルターは、装置内の気流を効果的に利用できるよう配置した。この際、供給する潤滑剤は、分子末端のいずれか一方に前記(式II)または(式IV)で表わされる相溶性と高流動性を有する潤滑剤である。この場合、分子量は1000〜2000で比較的に蒸発しやすい低分子量のものがより好ましい。
供給する潤滑剤の量は、磁気ディスク装置の容積,ディスクの回転数,搭載される磁気ディスクの枚数によって大きく異なることから、目的に応じて最適な量を含浸させる。磁気ディスク用潤滑剤であるパーフロロポリエーテルは、前記(式I)または(式III)で表される化合物を用いるのが、磁気ディスクのボンディング率の点で好ましい。
(3)本発明の潤滑剤の構成
潤滑剤は、パーフロロポリエーテル誘導体が使用され、希釈可能な溶剤に適量を溶解し、磁気ディスクをその中に浸漬し潤滑膜を形成した。潤滑膜を形成後、溶剤などを除去するために加熱処理もしくは254nm,172nmなどの波長の光により光照射処理を加えるか、常温で放置することにより、均一な膜とする。潤滑膜の厚さは、ヘッドの浮上量内に加味されていることから、ヘッドと接触しない様にするために薄膜であることが好ましい。例えば、0.5〜2nmの範囲のものが好ましい。
ディスクに対して高い吸着性を有する潤滑剤として、前記一般式(式I)及び(式III)で表される化合物があり、その具体的な構造は下記(式IX)及び(式X)などで表わされる。さらに、これらは、分子鎖末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミド環を有することから、潤滑膜に高耐熱性及び高吸着性を付与できる。
Figure 2007213738
Figure 2007213738
(但し、m,nは0または正の整数を表わす。)
上記高吸着性潤滑剤(式IX)または(式X)と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤としては、前記(式II)または(式IV)が挙げられる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
図1に本実施例の磁気ディスク9の断面模式図を示す。直径63.5mm(2.5インチ)のガラス基板1を洗浄した後、その上に、枚葉式スパッタリング装置(インテバック社製MDP−250)を用いて、図に示したシード膜2,下地膜3,下部磁性膜4,非磁性中間膜5,上部磁性膜6,アモルファスカーボン膜7を成膜した。シード膜2は、NiTa合金ターゲットを使用してスパッタし、膜厚は30nmである。シード膜の膜厚は蛍光X線測定法によって測定し求めた。シード膜成膜後、260℃に加熱しAr−O混合ガス中に3.5秒暴露した。そしてシード膜上にCrTi合金下地膜3を5nm,下部磁性層4としてCoCrPt合金磁性膜を3.5nm、さらに中間膜5としてRuを0.5nm,上部磁性膜6としてCoCrPtB合金膜を15nm形成した。
上部磁性膜の上には、窒素添加カーボン保護膜7を3.5nm形成した。この保護膜はCVD(ケミカルベーパーデポジション)法やIBD(イオンビームデポジション)法で形成したDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜でもよい。保護膜の膜厚はX線反射法を用いて、膜厚測定の精度を上げるために保護膜上にCrを5nm成膜し、定量化した。X線反射法での膜厚の定量化は理学電機工業社製のSLX2000TMによりCuKα1のX線を用いて測定を行った。さらに、保護膜7上に、潤滑膜8を形成した。これにより磁気ディスク9を作製した。本実施例の潤滑膜8は、前記(式IX)で表わされる潤滑剤と前記(式II)で表わされる潤滑剤とからなる混合潤滑膜である。
混合潤滑膜の作製は、分子量分布(Mw/Mn)が1.1で平均分子量(Mn)が異なる潤滑剤(式IX)とMn=2000、Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式II)とを、重量部3:1の割合で混合し、HFE−7100(住友スリーエム社製)を溶媒として濃度を調整した潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約2nm塗布したものである。
尚、潤滑剤の平均分子量(Mn)は19F−NMR(核磁気共鳴装置)分析により求めた。また、分子量分布(Mw/Mn)の測定は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により決定した。潤滑膜厚は、FT−IR(フーリエ変換型赤外分光光度計)により測定した。
潤滑膜8を最外表面に形成した磁気ディスク9を2.5インチの磁気ディスク装置へ装着した。磁気ディスク装置18の概略図を図2に示す。
磁気ディスク装置は、ロードアンロード方式で、磁気ディスク9を回転させるスピンドル10と磁気ヘッド11を保持するアーム12とそれを位置決めするボイスコイルモーター13、信号を処理する回路14、塵埃フィルター15、アンロード時にヘッドが退避するランプ16などから構成されている。
極低浮上における耐摩耗性評価(ヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性評価)は、モータを逆回転することでヘッドを常時ディスクと接触する状態にして、60℃環境下,回転数10000rpmでディスク半径17〜20mmの間をシークし、クラッシュするまでの時間を測定した。図3に結果を示す。図から明らかなように本実施例は、いずれの分子量においても比較例の潤滑膜より耐摩耗性に優れている。本実施例の潤滑膜は、分子量1000〜3500の範囲において特に優れており、耐摩耗性を向上させる適正な分子量の範囲が存在することが分かる。これに対して比較例は分子量の範囲を変えても耐摩耗性の大きな改善は見られなかった。表1に分子量が2000程度の本実施例1と比較例1の潤滑膜のボンディング率と60℃における見掛け粘度を示す。
Figure 2007213738
ボンディング率は、室温で、潤滑膜を形成した磁気ディスクを溶媒HFE−7100で洗浄し、洗浄前の潤滑膜厚に対する百分率として決定した。溶媒(HFE−7100)による洗浄後に残存する潤滑膜は保護膜層への吸着性の強さを表わす指標であり、本評価では実施例1の潤滑膜と比較例1の潤滑膜は共に80%以上のボンディング率を有する高吸着性潤滑膜であり、性能差は小さいことを確認した。粘度測定は、コーンプレート型回転粘度計(HAAKE社製)を使用し、ずり速度を500s−1にて、見掛け粘度を測定した。測定温度は稼動時の磁気ディスク装置内の温度(60℃以上)や使用環境温度を考慮し60℃とした。
表1から実施例1の潤滑剤の見掛け粘度は111mPa・sであるのに対して、比較例1の潤滑剤では250mPa・sであり、本実施例1の潤滑膜の方が粘度が低く、高い流動性を有することを確認した。高吸着性と高流動性を兼ね備えた潤滑膜を形成するためには、60℃における見掛け粘度が155mPa・s以下であることが望ましい。また、ボンディング率は70%以上が望ましい。
更に、各々の分子量が1000程度の本実施例1と比較例1の潤滑剤を用いて膜厚の異なる潤滑膜をディスク表面に形成し、その表面を光学顕微鏡で観察した。その結果、比較例(式IX)の潤滑膜では、膜厚が2.5nmに達すると液滴のような小さな粒状の相分離が観察された。これに対して、本実施例1の潤滑膜では4nmの膜厚に達しても粒状の相分離は観測されなかった。磁気ディスク上にこのような粒状の相分離が少しでも発生すると、ヘッド浮上安定性は維持できなくなり、磁気ディスク装置全体の信頼性を悪化させる。本実施例の潤滑膜は、潤滑剤同士が優れた相溶性を有するため相分離がなく、このためヘッド浮上安定性が維持できることが明らかになった。これに対して比較例1の潤滑膜は、高吸着性を有する潤滑剤同士の組み合わせであるが、相溶性が悪いことから、ヘッド浮上安定性が確保できずに比較的早い時間でクラッシュする。
なお、光学顕微鏡の観察は、光源として水銀ランプを用い、対物20倍、中間変倍2倍で、暗視野にて観察した。画像の取り込みには、蓄光型のCCDカメラで1秒間取り込む条件で実施した。
高吸着、高耐熱性潤滑剤(式IX)1と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤(式II)とを複合化した潤滑膜を有する本発明の磁気ディスクによれば、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性が共に優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を提供することができる。
(比較例1)
実施例1と潤滑膜を除く膜構成までは同じ膜構成の磁気ディスクを用いた。最表面の潤滑膜は、前記(式IX)で表わされる潤滑剤と下記(式XII)で表わされる潤滑剤とからなる混合潤滑膜とした。
Figure 2007213738
(但し、m,nは0または正の整数。)
混合潤滑膜の作成は、分子量分布(Mw/Mn)が1.1で平均分子量(Mn)が異なる潤滑剤(式IX)とMn=2000、Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式XII)とを、重量部3:1の割合で混合し、実施例1と同様に潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約2nm塗布したものである。比較例1で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例1と同様の条件で耐摩耗性評価を行った。図3に結果を示す。更に前記潤滑剤の分子量が2000程度の比較例1の潤滑膜のボンディング率と60℃における見掛け粘度を表1に示す。ボンディング率と60℃における見掛け粘度は、実施例1と同様な条件で測定した。潤滑膜の相分離は、分子量が1000程度の本比較例1の潤滑剤を用いて膜厚の異なる潤滑膜をディスク表面に形成し、その表面を光学顕微鏡で観察した。条件は実施例1と同様である。
(実施例2)
図1に本実施例の磁気ディスク9の断面模式図を示す。本実施例の磁気ディスクは、実施例1と保護膜7まで同じ膜構成である。本実施例の潤滑膜8は、実施例1と同じ構造式を有する潤滑剤(式IX)と(式II)を用いて作製した。但し、Mw/Mn=1.1,Mn=2270である潤滑剤(式IX)とMn=2000、Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式II)から成る混合潤滑膜である。混合潤滑膜の作製は、総潤滑剤の重量比に対して潤滑剤(式II)を、5,10,25,50重量%と予め溶液の状態で混合させ、実施例1と同様な方法で潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約2nm塗布したものである。尚、潤滑剤の膜厚,MnやMw/Mnは実施例1と同様な手法で確認した。
実施例2で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例1と同様の条件で耐摩耗性評価を行った。図4に潤滑剤組成における(式II)の混合率を変化させたときの耐磨耗性評価結果を示す。図より、潤滑剤(式II)単独で使用したときと比較して、クラッシュに至るまでの時間が3倍以上に延びることが明らかになった。また、耐磨耗性を向上させるには、潤滑剤(式IX)と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤(式II)の最適混合比率が存在することも明らかになった。潤滑剤を塗布する時に使用した溶媒がHFE−7100の場合には、潤滑剤(式II)の混合率は5から50重量%の範囲が好ましい。
(比較例2)
実施例2と同じ膜構成の磁気ディスクを用い、最表面の潤滑混合膜は、実施例2と同様な潤滑剤(式IX)と(式II)を使用した。但し、潤滑剤(式II)は、溶液の状態で潤滑剤の総重量に対して、70,90,100重量%と混合率を変化させて作製した。
潤滑膜の膜厚は、いずれも2nmとした。比較例2で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な装置に装着し、実施例2と同様な評価を行った。図4に結果を示す。
(実施例3)
図1に本実施例3の磁気ディスク9の断面模式図を示す。本実施例3の磁気ディスクは、潤滑膜を除く膜構成までは実施例1と同じである。本実施例の潤滑膜8は、実施例2と同じ構造式を有する潤滑剤(式IX)と(式II)を用いて作製した。Mw/Mn=1.1,Mn=2270である潤滑剤(式IX)とMn=2000,Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式II)とを、重量部1:1の割合で混合した混合潤滑膜である。混合潤滑膜の作製は、実施例2と同様な方法で潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約2nm塗布したものである。
前記潤滑剤(式IX)を50wt%、前記潤滑剤(式II)を50wt%含有する複合潤滑剤を実施例2と同様にして塗布した磁気ディスク(1)に120℃/30分加熱処理を加え磁気ディスク(2)を作製した。別途、磁気ディスク(1)に波長172nmの光を20秒間照射して磁気ディスク(3)を作製した。
実施例3で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例1と同様の条件で耐摩耗性評価を行った。表2に磁気ディスク(1)ないし(3)について実施例1と同様にして求めたボンディング率、クラッシュまでの時間を示した。
Figure 2007213738
潤滑膜を塗布しただけの磁気ディスク(1)に比べて熱処理を加えた磁気ディスク(2)、露光処理を施した磁気ディスク(3)はボンディング率が20%以上上昇し、クラッシュまでの時間が4.5時間以上伸びた。この結果から、潤滑膜への加熱処理、露光処理が潤滑膜の耐久性の改善に効果があることが確認された。
高吸着、高耐熱性潤滑剤(式IX)と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤(式II)とを複合化した潤滑膜を有する本発明の磁気ディスクに、更に加熱処理、露光処理を施すことによって、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性が一層優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を提供することができる。
(実施例4)
本実施例の磁気ディスクは図1に示す構造を有し、潤滑膜を除く膜構成までは実施例1と同じである。本実施例の潤滑膜8は、前記(式X)で表わされる潤滑剤と前記(式IV)で表わされる潤滑剤からなる混合潤滑膜である。混合潤滑膜の作成は、Mw/Mn=1.1,Mnが異なる潤滑剤(式X)とMn=2000Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式IV)とを、重量部6:4の割合で混合させ、実施例1と同様な方法で潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて膜厚を約1.5nm塗布したものである。
実施例4で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例1と同様の条件で耐摩耗性評価を行った。図5に結果を示す。比較例3は、本実施例と同じ潤滑剤(式X)と吸着性に優れる潤滑剤(式XIII)との混合潤滑膜である。
図から明らかなように本実施例の潤滑剤は、いずれの分子量においても比較例の混合膜より耐摩耗性に優れている。本実施例の混合膜は、分子量1000〜3500の範囲において特に優れており、耐摩耗性を向上させる適正な分子量の範囲が存在することが分かる。これに対して比較例は分子量の範囲を変えても耐摩耗性の大きな改善は見られなかった。更に、各々の分子量が1000程度の本実施例4と比較例3の潤滑剤を用いて、膜厚の異なる潤滑膜をディスク表面に形成し、その表面を光学顕微鏡で観察した。その結果、比較例3の潤滑膜では、膜厚が2.0nmに達すると粒状の相分離が観察された。
これに対して、本実施例の潤滑膜では4nmの膜厚に達しても粒状の相分離は観測されなかった。本実施例の潤滑膜は、潤滑剤同士が優れた相溶性を示し、このためヘッド浮上安定性が維持できることが明らかになった。比較例3の混合膜は、高吸着性潤滑剤同士の組み合わせであるが、相溶性が悪いことから、ヘッド浮上安定性が維持できず、比較的早い時間でクラッシュする。
高吸着、高耐熱性潤滑剤(式X)と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤(式IV)とを複合化した潤滑膜を有する本実施例の磁気ディスクによれば、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性が共に優れた磁気ディスク及び磁気ディスク装置を提供することができる。
(比較例3)
実施例4と潤滑膜を除く膜構成までは同じ構成の磁気ディスクを用いた。最表面の潤滑膜は、前記(式X)で表わされる潤滑剤と下記(式XIII)で表わされる潤滑剤とからなる混合潤滑膜とした。
Figure 2007213738
(但し、m、nは0または正の整数。)
混合潤滑膜の作成は、分子量分布(Mw/Mn)が1.1で平均分子量(Mn)が異なる潤滑剤(式X)とMn=2000、Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式XIII)とを、重量部6:4の割合で混合し、実施例1と同様に潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約1.5nm形成した。比較例3で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例4と同様な評価を行った。図5に結果を示す。潤滑膜の相分離は、分子量が1000程度の本比較例3の潤滑剤を用いて膜厚の異なる潤滑膜をディスク表面に形成し、その表面を光学顕微鏡で観察した。条件は実施例4と同様である。
(実施例5)
図1に本実施例5の磁気ディスク9の断面模式図を示す。本実施例5の磁気ディスクは、実施例1と潤滑膜を除く膜構成までは同じである。本実施例の潤滑膜8は、実施例4と同じ構造式を有する潤滑剤(式X)と(式IV)を用いて作製した。但し、Mw/Mn=1.1,Mn=3000である潤滑剤(式X)とMn=2000、Mw/Mn=1.1の潤滑剤(式IV)から成る混合潤滑膜である。混合潤滑膜の作製は、総潤滑剤の重量比に対して潤滑剤(式IV)を、10,20,30,40%と予め溶液の状態で混合させて、約1.5nmの潤滑膜を形成した。
実施例5の磁気ディスクを実施例1と同様な磁気ディスク装置に装着し、実施例1と同様な耐摩耗性評価を行った。
図6に潤滑剤(式IV)の混合率を変化させたときの耐磨耗性評価結果を示す。図より、潤滑剤(式IV)単独で使用したときと比較して、クラッシュに至るまでの時間が4倍以上に延びることが明らかになった。また、耐磨耗性を向上させるには、潤滑剤(式IV)の最適混合比率が存在することも明らかになった。潤滑剤を塗布する時に使用した溶媒がHFE−7100の場合には、潤滑剤(式IV)の混合率は5から50重量%の範囲が好ましい。
(比較例4)
実施例5と同様な磁気ディスクを用い、最表面の潤滑膜は、実施例5と同じもの〔(式X)及び(式IV)〕を使用した。但し、潤滑剤(式IV)は、溶液の状態で潤滑剤の総重量に対して、70,90,100%と混合率を変化させて作製した。潤滑膜の膜厚は、いずれも1.5nmとした。比較例4で作製した磁気ディスクを実施例1と同様な装置に装着し、実施例5と同様な評価を行った。図6に結果を示す。
(実施例6)
本実施例6の磁気ディスクは図1に示す構造を有し、直径3インチのサイズであり、潤滑膜を除く膜構成までは実施例1と同じである。本実施例の潤滑膜8は、下記(式XI)で表わされる、Mw/Mn=1.1,Mn=2500の潤滑剤をHFE−7100(住友スリーエム社製)を溶媒として濃度を調整した潤滑剤溶液を作り、ディップ法にて約1.0nm塗布したものである。
Figure 2007213738
(ただし、m、nは0または正の整数。)
実施例6は潤滑剤を磁気ディスク装置内で磁気ディスク上に供給するものである。装置の概要を説明する。作製した磁気ディスクを3.0インチの磁気ディスク装置に装着した。磁気ディスク装置18の概略図を図2に示す。磁気ディスク装置は、ロードアンロード方式で、磁気ディスク9を回転させるスピンドル10と磁気ヘッド11を保持するアーム12とそれを位置決めするボイスコイルモーター13、信号を処理する回路14、塵埃フィルター15、アンロード時にヘッドが退避するランプ16などから構成されている。潤滑剤を装置内へ供給する手段として、塵埃フィルター15を使用した。装置内へ供給する潤滑剤は前記(式II)で表わされる、Mw/Mn=1.1,Mn=1000の潤滑剤を用いた。
前記塵埃フィルターに潤滑剤(式II)を1.0mg滴下させて、磁気ディスク装置内に内蔵した。潤滑剤(式II)は、ディスクが回転して装置内の温度が昇温すると、供給源から潤滑剤が蒸発しディスク表面上の潤滑膜に吸着、拡散し、高いボンディング率と流動性を有する潤滑膜を形成する。
磁気ディスク装置の回転数は10000rpm、60℃環境下でディスク半径30mmにヘッドを固定して固定記録トラックで連続的にフォローイングさせ、500時間までの後発エラーの発生個数をモニターした。その結果を図7に示す。図から、いずれのフォローイング時間においても本実施例は比較例5に比べて後発エラーの発生が少なく、摺動特性に優れている。フォローイング時間が長くなるのに伴い本実施例と比較例とのエラーの発生個数の差は大きくなり、500時間後では、本実施例の後発エラーの発生個数は、比較例5の1/10以下となった。更に、磁気ディスク装置を500時間稼働した後に分解し、装着していた磁気ディスクを取り外して潤滑膜厚をFT−IRで測定した。
試験前後の潤滑膜厚変化を測定したところ、本実施例6の磁気ディスクの潤滑膜厚は初期が1.0nmであったが、試験後は1.5nmに増加していたのに対し、比較例は1.0nmから0.5nmに減少していた。本実施例の膜厚増加は、磁気ディスク装置内の潤滑剤(式II)が磁気ディスクに付着して増加したためであり、潤滑剤を装置内に供給することで回転や熱による磁気ディスク上の潤滑剤の減少を無くすことが可能であることを示している。これに対して比較例は、潤滑剤(式XII)を磁気ディスク上へ供給することができず、磁気ディスク上の潤滑膜の膜厚が減少したことから後発エラーの発生個数が急増した。
本実施例によれば高吸着、高耐熱性潤滑剤(式XI)と優れた相溶性を有する高流動性潤滑剤(式II)を、装置内に供給することによって、両潤滑剤が複合化された潤滑膜を有する装置内にて形成することができることが判明した。本方式の磁気ディスク装置は、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性が一層優れている。
また、磁気ディスク用潤滑剤として前記(式X)の潤滑剤を用い、(式IV)で表される潤滑剤を供給装置により磁気ディスク供給して、同様な効果を得た。ここで用いた潤滑剤の主鎖骨格自身が耐熱性に優れること、極性基が片末端のみであることから、溶媒の制約を受けにくく、高吸着・高耐熱性で均一な膜が装置内にて形成できた。本実施例の磁気ディスク装置は、ヘッドの極低浮上安定性とヘッド/ディスク間の接触摺動に対する耐久性が一層優れている。
(比較例5)
実施例6と同じ膜構成の磁気ディスクを用い、その最表面の潤滑膜も実施例6と同様な潤滑膜(式XI)を形成した。この比較例5で作製した磁気ディスクを実施例6と同様な装置に装着した。潤滑剤を装置内へ供給する手段として、塵埃フィルター15を使用した。装置内へ供給する潤滑剤は前記(式XII)で表わされる、Mw/Mn=1.1,Mn=1000の潤滑剤を用いた。前記塵埃フィルターに潤滑剤(式XII)を1.0mg滴下させて、磁気ディスク装置内に内蔵した。
後発エラーの発生個数の測定は、実施例6と同条件で評価した。結果を図7に示す。図7から明らかなように、比較例5の磁気ディスクは後発エラー数がフォローイング時間とともに顕著に増加するのに対し、実施例6による磁気ディスクの場合は、エラー数の増加は極めてわずかである。
本発明に記載の磁気ディスク装置の用途としては、電子計算機、ワードプロセッサー等の外部メモリー(具体的にはハードディスク装置等)が挙げられる。またモバイルコンピューター、ナビゲーションシステム、ゲーム、携帯電話、PHS等の各種情報機器等にも適用可能である。
実施例1〜6及び比較例1〜5で作製した磁気ディスクの構成を示す断面模式図。 実施例1〜6及び比較例1〜5で作製した磁気ディスク装置の上面模式図(a)と側面模式図(b)。 実施例1と比較例1における潤滑膜の分子量と耐磨耗性との関係を示す図。 実施例2と比較例2における潤滑剤(式II)の混合率と耐磨耗性との関係を示す図。 実施例4と比較例3における潤滑膜の分子量と耐磨耗性との関係を示す図。 実施例5と比較例4における潤滑剤(式IV)の混合率と耐磨耗性との関係を示す図。 実施例6と比較例5のフォローイング時間に対する後発エラー発生個数との関係を示す図。
符号の説明
1…ガラス基板、2…シード膜、3…下地膜、4…下部磁性膜、5…非磁性中間膜、6…上部磁性膜、7…アモルファスカーボン保護膜、8…潤滑膜、9…磁気ディスク、10…スピンドルモーター、11…磁気ヘッド、12…アーム、13…ボイスコイルモーター、14…信号処理回路、15…塵埃フィルター、16…ランプ、17…筐体、18…磁気ディスク装置。

Claims (15)

  1. 非磁性基板上に、少なくとも磁気記録層及び保護膜が形成され、更に表面に潤滑膜が配置された磁気ディスクにおいて、該潤滑膜の潤滑剤に分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルと、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルとが共存することを特徴とする磁気ディスク。
  2. 前記両パーフロロポリエーテルの平均分子量が1000〜3500で、かつ、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
  3. 前記潤滑剤が磁気ディスク上において、分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルと、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルが混合されていることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
  4. 前記潤滑剤が磁気ディスク上において、分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有するパーフロロポリエーテルが担持され、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有するパーフロロポリエーテルが潤滑剤供給手段により前記磁気ディスクに供給されることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
  5. 前記磁気ディスクに前記潤滑膜を塗布後、加熱処理もしくは光照射処理を施すことを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク。
  6. 非磁性基板上に、少なくとも磁気記録層及び保護膜が形成され、更に表面に潤滑膜が配置された磁気ディスクにおいて、該潤滑膜の潤滑剤が分子末端の少なくとも一方に芳香族イミド環または脂環式イミドを有する(式I)または(式II)で表わされるパーフロロポリエーテルと、分子末端の少なくとも一方にヒドロキシメチル基を有する(式III)または(式IV)で表わされるパーフロロポリエーテルを含み、前記パーフロロポリエーテルの平均分子量が1000〜3500で、かつ、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする磁気ディスク。
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    但し、m,nは0または正の整数を表し、Aは下記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。
    Figure 2007213738
  7. 前記潤滑膜の前記(式III)または(式IV)で表わされる潤滑剤成分の含有率が潤滑剤組成の5〜50重量%であることを特徴とする請求項6記載の磁気ディスク。
  8. 前記潤滑膜の前記(式I)または(式II)で表わされる潤滑剤成分の含有率が潤滑剤組成の95〜50重量%であることを特徴とする請求項6記載の磁気ディスク。
  9. 前記潤滑膜を形成する際に加熱処理もしくは光照射処理を施すことを特徴とする請求項6記載の磁気ディスク。
  10. 記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路を少なくとも有する磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、下記(式I)及び(式III)を有する潤滑剤を含有し(ここで、m,nは0または正の整数、Aは下記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに(式I)及び(式III)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする磁気ディスク装置。
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
  11. 記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路を少なくとも有する磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、下記(式II)及び(式IV)を有し(ここで、nは0または正の整数、Aは下記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基。Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに(式II)及び(式IV)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする磁気ディスク装置。
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
  12. 前記(式III)または(式IV)で表わされる潤滑剤成分の含有率が潤滑剤組成の5〜50重量%であることを特徴とする請求項10または11記載の磁気ディスク装置。
  13. 記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路、前記磁気ディスクの表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段とを備えた磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、下記式(I)を有し(ここで、m,nは0または正の整数、Aは下記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)であり、さらに該潤滑剤供給手段は、下記(式III)で表される潤滑剤を前記潤滑膜に供給し、かつ(式I)及び(式III)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする磁気ディスク装置。
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
  14. 記録再生を行う磁気ヘッドと、磁気ディスク、磁気ディスクを回転する機構、磁気ヘッドを位置決めする機構、記録再生信号を処理する回路、前記磁気ディスクの表面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給手段とを備えた磁気ディスク装置において、該磁気ディスクの潤滑膜が、下記(式II)を有し(ここで、nは0または正の整数、Aは下記(式V)から(式VIII)の2価の有機残基であり、Rは同一または異なっていてもよく、Hまたは炭素数1から4の有機残基を表わす。)、さらに該潤滑剤供給手段は、下記(式IV)で表される潤滑剤を前記潤滑膜に供給し、かつ(式II)及び(式IV)で表わされる潤滑剤は、平均分子量が1000〜3500で、分子量分布が1.1以下であることを特徴とする磁気ディスク装置。
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
    Figure 2007213738
  15. (式I)及び(式III)で表わされる前記潤滑剤が60℃で粘度155mPa・s以下であることを特徴とする請求項10または13に記載の磁気ディスク装置。
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