JP2007204446A - 金属錯体およびそれを用いる希ガスの回収方法 - Google Patents

金属錯体およびそれを用いる希ガスの回収方法 Download PDF

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亮太郎 松田
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Abstract

【課題】希ガスおよびその他のガスを含む混合ガスから、効率的かつ安価に希ガスを回収する方法を提供する。
【解決手段】銅(II)イオンに代表される金属イオンと、ピラジン−2,3−ジカルボン酸に代表される、窒素、酸素および硫黄からなる群より選ばれる原子を2つ以上有する配位子(A)と、3,6―ビス(4−ピリジル)―1,2,4,5―テトラジンに代表される、上記金属イオンへの配位原子を2つ以上有すると共に、少なくとも1つのヘテロ環骨格を有する配位子(B)とから構成される三次元構造を有する金属錯体に、上記混合ガスを接触させることにより、希ガスを選択的に金属錯体に吸着させ、回収することが可能である。
【選択図】なし

Description

本発明は、希ガスを選択的に吸着することが可能な金属錯体および該金属錯体を用いる希ガスの回収方法に関する。
希ガスは、工業用ガスとして利用される酸素や窒素を製造するための大規模な空気分離プラントにおいて、さらに精留を行い分離することによって製造される。
希ガスのうち、例えばネオンは、窒素より沸点が低いため空気分離プラント内で液化することがなく、精留塔上部で濃縮されて取り出される。しかし、微量の水素やヘリウムも混在しているため、水素は触媒を用いて除去し、ヘリウムは精密蒸留などを行って分離することにより、純度の高いネオンが製造される。アルゴンは、沸点が窒素と酸素の中間であるため空気分離塔の中段部分から抜き出され、さらに微量の酸素を除去することによって製造される。また、クリプトンおよびキセノンは、酸素より高沸点であるため液体酸素中に濃縮されるが、同様に濃縮されているメタン等の炭化水素を触媒燃焼して炭酸ガスと水に変えて除去した後、さらに精留を繰り返してクリプトンとキセノンとを分離し、触媒反応や吸着反応による精製を行うことでそれぞれ製造される。
このように、希ガスは、空気分離プラントにおける製造時に複雑な工程が必要であり、また空気中の含有量も少ないため、非常に高価なものになっている。しかも、希ガスを製造可能な大規模な空気分離プラントは世界的にも限られているため、供給量が制限されている。そのため、より効率的な希ガスの製造方法の開発が望まれている。
また、クリプトンやキセノンといった希ガスおよびその化合物は、近年、様々な特性が見いだされ、多くの分野に使用され始めているが、上記のような理由で非常に高価であるため、現在はまだ使用が制限されている状況にある。そのため、使用後の排出ガスから希ガスを回収する方法が検討されてきている。
例えば、特開2002−126435号公報(特許文献1)には、圧力変動吸着分離(PSA)システムを用いて、半導体製造工程等において排出される窒素と希ガス(クリプトン、キセノン等)との混合ガスから希ガスを回収する方法が提案されている。しかしながら、この方法は、混合ガス中の希ガスの濃度が数10%と高い場合を想定したものである。そのため、希ガス以外の成分が99%以上含まれるガス混合物から希ガスのみを選択的に回収するためには、上記システムを非常に複雑に組み合わせる必要があり、実用化にはさらなる工夫が必要であると考えられる。
また、三次元構造を有する金属錯体の結晶を吸着剤として利用することによりガスを回収する方法が知られている。このような金属錯体として、特開平9−227572号公報(特許文献2)、特開2000−117100号公報(特許文献3)および特開2004−161675号公報(特許文献4)には、2価の金属イオンを含有する有機金属錯体が提案されている。しかしながら、これらの特許文献には、金属錯体を用いて混合ガス中からメタンガス等の可燃性ガスや気体状のアルコール類などを回収できる可能性は示唆されているが、そのような金属錯体が希ガスを選択的に吸着する可能性については何ら言及されていない。三次元構造を有する金属錯体を用いて排ガスなどの混合ガスから希ガスを効率的に回収する方法はこれまで提案されておらず、また、どのような金属錯体が希ガスを吸着する能力に優れているのかの検討も行われていない。
特開2002−126435号公報 特開平9−227572号公報 特開2000−117100号公報 特開2004−161675号公報
本発明は、希ガスおよびその他のガスを含む混合ガスから、効率的かつ安価に希ガスを回収する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の配位子を含有する三次元構造を有する金属錯体に、希ガスおよびその他のガスからなる混合ガスを接触させ、希ガスを選択的に金属錯体に吸着させることにより、希ガスを効率的かつ安価に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔13〕の事項に関する。
〔1〕 金属イオンと、窒素、酸素および硫黄からなる群より選ばれる原子を2つ以上有する配位子(A)と、前記金属イオンへの配位原子を2つ以上有すると共に、少なくとも1つのヘテロ環骨格を有する配位子(B)とから構成される三次元構造を有する金属錯体。
〔2〕 前記金属イオンがコバルト、銅、ニッケル、亜鉛、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることを特徴とする上記〔1〕に記載の金属錯体。
〔3〕 前記金属イオンが銅(II)イオンであることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の金属錯体。
〔4〕 前記配位子(A)が、4座配位子を有する化合物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の金属錯体。
〔5〕 前記配位子(A)が、金属イオンの電荷を中和するようアニオニックに配位する配位子を含む4座配位子を有する化合物であることを特徴とする上記〔4〕に記載の金属錯体。
〔6〕 前記配位子(A)が、それぞれ4座配位子を有するジカルボン酸またはその誘導体であることを特徴とする上記〔5〕に記載の金属錯体。
〔7〕 前記配位子(A)が、ピラジン−2,3−ジカルボン酸であることを特徴とする上記〔6〕に記載の金属錯体。
〔8〕 前記配位子(B)が、窒素原子をヘテロ原子とするヘテロ環骨格を少なくとも1つ有することを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の金属錯体。
〔9〕 前記配位子(B)が、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、テトラジン、トリアジンおよびピペラジンからなる群より選ばれるヘテロ環骨格を少なくとも1つ有することを特徴とする上記〔8〕に記載の金属錯体。
〔10〕 前記配位子(B)が、ピリジル基およびその誘導体ならびにシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することを特徴とする上記〔8〕または〔9〕に記載の金属錯体。
〔11〕 前記配位子(B)が下記式(1)で表される構造を有する配位子であることを特徴とする上記〔8〕〜〔10〕のいずれかに記載の金属錯体。
Figure 2007204446
〔12〕 上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の金属錯体に希ガスを含むガスを−100〜150℃の温度範囲で接触させる吸着工程と、前記希ガスを吸着した金属錯体から希ガスを離脱させる離脱工程とを有することを特徴とする希ガスの回収方法。
〔13〕 前記吸着工程は、圧力(ゲージ圧)0〜10MPaの雰囲気下で行われる上記〔12〕に記載の希ガスの回収方法。
本発明の金属錯体を吸着剤として使用することにより、希ガスを低濃度で含む混合ガスから効率的かつ安価に希ガスを回収することができる。
以下、本願発明の金属錯体を構成する金属イオン、配位子(A)および(B)、該金属錯体の調製方法、該金属錯体の三次元構造、ならびに該金属錯体を用いた希ガスの回収方法等について、順次説明する。
<金属イオン>
本発明の金属錯体を構成する金属イオンとしては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、鉛、マンガン等、三次元構造を有する錯体を形成しうるものを適宜選択して使用できる。これらの金属イオンは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記金属イオンは、例えば、1価、2価または3価の金属イオンである。これらの金属イオンのうち、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、マンガンおよび鉄のイオンが好ましく、特に2価の銅イオンは、得られる金属錯体の希ガスの吸着性能などの点から本発明において好適に用いることができる。
<配位子(A)>
本発明に係る金属錯体は、上記金属イオンに配位結合しうる、窒素、酸素および硫黄からなる群より選ばれる原子を2つ以上有する配位子(A)を構成成分の1つとする。通常、金属錯体が連続的な三次元構造を形成するためには、配位子(A)1分子につきそのような配位原子が2つ以上必要とされる、すなわち配位子(A)は2座以上、好ましくは4座配位可能であることが求められる。
このような配位子(A)としては、金属イオンの電荷を中和するようアニオニックに配位する配位子を含む4座配位子を有する化合物、なかでもそれぞれ4座配位子を有するジ
カルボン酸またはその誘導体(4座配位子を有するジカルボン酸または4座配位子を有する誘導体)が、希ガスの吸着に適した安定した三次元構造を形成できるなどの点で好ましい。これらの化合物に含まれるカルボキシル基の酸素原子(−COO-)は上記金属イオ
ンに配位結合しうるが、さらにこれら以外の窒素原子、酸素原子、硫黄原子がその化合物に含まれていてもよい。
また、本発明においては、前述したような金属イオンの価数に応じて、用いる配位子(A)を適宜選択することが可能である。例えば金属イオンが2価の陽イオンであれば、配位子(A)としては、この金属イオンの電荷を中和しうるジカルボン酸化合物などを用いればよい。また、金属イオンが3価の陽イオンであれば、例えば上記ジカルボン酸にさらにもう1つのカルボキシル基を導入した化合物を用いることができる。
本発明の配位子(A)としては、得られる金属錯体の希ガスの吸着性能などの点から、特にピラジン−2,3−ジカルボン酸(以下「pzdcH2」ともいう。)を好適に用い
ることができる。
<配位子(B)>
本発明の金属錯体は、前記金属イオンへの配位原子を2つ以上有すると共に、少なくとも1つのヘテロ環骨格を有する配位子(B)を構成成分の1つとする。配位子(A)における場合と同様、金属錯体が連続的な三次元構造を形成するためには、配位子(B)1分子につき配位原子が2つ以上必要とされる、すなわち配位子(B)も2座以上配位可能であることが求められる。
本発明の配位子(B)は、得られる金属錯体に希ガスに対する吸着力の強い細孔(チャンネル)を作り出すことが可能になるなどの点から、ピリジル基およびその誘導体ならびにシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。例えば、ピリジル基またはシアノ基における窒素原子は、銅(II)イオンなどの前記金属イオンに対する配位原子となりうる。
また、配位子(B)におけるヘテロ環骨格は、5員環以上のヘテロ環などの安定した構造の骨格であればよい。例えば、6員環のヘテロ環骨格を有する化合物は構造が安定しており、入手も比較的容易なため、本発明における配位子(B)として好ましく用いることができる。さらに、このようなヘテロ環骨格には、ヘテロ原子としては窒素が含まれていることが好ましい。例えば、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、テトラジン、トリアジンおよびピペラジンなどの窒素原子を少なくとも2つ含む6員環をヘテロ環骨格として有する化合物は、得られる金属錯体の希ガスの吸着性能などの点から、本発明の配位子(B)として好適である。なお、ヘテロ環骨格に含まれるヘテロ原子も前記金属イオンに対する配位原子となりうる。
このような本発明の配位子(B)としては、例えば、4,4’−ビピリジンなどの化合物が挙げられるが、さらには、単独のヘテロ環骨格または2つ以上のヘテロ環同士が結合した骨格の両末端に、ピリジル基およびその誘導体ならびにシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種が位置する構造を有する棒状の配位子、すなわち、金属に配位可能な原子間の距離が変動せず、構造が直線的かつ点対称的な配位子を用いることが好適である。例えば、下記式(1)で表される3,6―ビス(4−ピリジル)―1,2,4,5―テトラジン(以下「4,4’−bptz」ともいう。)は、本発明の配位子(B)として好適に用いることができる。
Figure 2007204446
<金属錯体の調製方法>
本発明に係る金属錯体は、従来公知の方法を用いて、上記所定の金属イオン、配位子(A)および配位子(B)を反応させ、錯体化させることにより得られる。例えば、下記工程1〜3により、金属錯体の結晶を調製することが可能である。
(工程1)
配位子(A)となる化合物を、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン等に溶解させ、溶液(α)を調製する。また、金属イオンの硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、ハロゲン塩(ハロゲン化物)等を、水、アセトン、メタノール、エタノール、あるいはこれらの混合物に溶解させ、溶液(β)を調製する。さらに、配位子(B)となる化合物を、上記溶液(α)または(β)に添加し、溶解させる。
なお、上記溶液(α)および(β)の調製に用いられる溶媒は、原料化合物および生成する金属錯体の溶解性、あるいは溶媒同士の相溶性などを考慮して、適宜選択することができる。また、有機配位子と金属のモル比は、調製する金属錯体の構造により適宜選択することができる。
(工程2)
上記溶液(α)および(β)を混合し、金属錯体の結晶を生成させる。例えば、上記溶液(β)を攪拌しながら、上記溶液(α)をゆっくりと滴下し、さらに、結晶を熟成させるために、滴下終了後も半日以上攪拌を継続する。
本工程における反応温度は、低すぎると反応の進行が遅くなり、高すぎると副反応により収量が減るため、好ましくは−10〜120℃であり、さらに好ましくは30〜80℃である。また、本工程に費やされる時間は、有機配位子と金属の組み合わせにより異なるが、結晶を熟成させる期間も含め通常は1週間以内である。
(工程3)
上記混合溶液を濾過し、粉末結晶を濾別する。この粉末結晶をエタノール等で洗浄後、室温で半日以上真空乾燥する。粉末結晶の乾燥が不充分で、結晶格子内に溶媒分子が残存する場合、希ガスの吸着性能が低下し、また、離脱した希ガスに混入する溶媒分子の量が高まるおそれがある。
そのため、上記真空乾燥の後、さらに、得られた金属錯体を30℃以上の温度で焼成し
、水分の除去を行ってもよい。焼成のとき流通するガスとしては、窒素などの不活性なガスを使用することが望ましい。なお、水分を効率的に除去するため、50〜250℃の範囲の温度で焼成を行うことが好ましい。
<金属錯体の三次元構造>
本願発明の金属錯体は、連続的な三次元構造を有する。例えば、本発明の一態様として、銅(II)イオン、配位子(A)であるpzdcH2および配位子(B)である4,4’
−bptzを用いて得られる金属錯体においては、銅(II)イオンに、pzdcH2のカ
ルボキシル基の1つの酸素原子およびピラジン骨格の1つの窒素原子、およびこれとは異なるpzdcH2に含まれるカルボキシル基の1つの酸素原子が配位結合して鎖状の構造
が形成されている。さらに、4,4’−bptzの一端にある窒素原子がこの銅(II)イオンに配位結合し、もう一端の窒素原子がこれとは異なる銅(II)イオンに配位結合することにより、これらの鎖状の構造が連結された層状の構造が形成されている。そして、pzdcH2のピラジン骨格のもう一つの窒素原子が、異なる層状の構造に含まれる銅(II
)イオンに配位結合することにより、一次元チャンネルを有する空間が形成された、三次元構造の金属錯体となっている。すなわち金属イオンを介し、配位子(A)の4座配位子が平面部分を構成する機能を有し、配位子(B)がピラー配位子としての役割を果たす。
また、このような一次元チャンネルを有する空間は、用いる有機配位子および金属塩の種類によりサイズが異なり、これにより個別の分子に対する挙動も異なる。本発明においては、上述したような金属イオンおよび配位子を用いることにより、混合ガス中の希ガスを選択的に吸着させる上で好ましい空間を有する金属錯体が得られる。
<希ガスの金属錯体への吸着>
本発明の金属錯体に、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、炭化水素類、水などの希ガス以外の成分と、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガス成分とを含む混合ガスを接触させることにより、混合ガス中の希ガス原子およびそれ以外のガスの分子が金属錯体に吸着する。このとき、希ガス原子は他のガスの原子または分子よりも金属錯体に吸着しやすいため、この原理を利用して、混合ガス中に低濃度で存在する希ガスを効率的に回収することが可能となる。このように、本発明の金属錯体は、希ガスの「吸着剤」として好ましく用いることできる。
本発明の金属錯体が希ガスを吸着する能力は、従来の一般的な吸着剤(例えば、結晶性ゼオライト「モレキュラーシーブ」等)よりも優れた傾向にある。例えば、本発明の金属錯体の、XeとN2の吸着容量の比(Xe:N2)は、体積比(モル比)で10:1程度に達しうる。一方「モレキュラーシーブ」の場合は、体積比(モル比)で3:1程度である。したがって、混合ガスから希ガスを回収する際に、本発明の金属錯体を吸着剤として利用することは、きわめて効果的である。
本発明の金属錯体は、少なくとも1000m2/g以上という極めて高い表面積を有す
ることが可能であり、このことが、アルミナやシリカゲル等の一般的な吸着剤に比べて、希ガスに対して大きな吸着容量を示す一因になっていると考えられる。また、本発明の金属錯体において、希ガスとそれ以外のガスの吸着容量の差異が大きいことの理由はまだ詳細には解明されていないが、上述した特定のヘテロ環で囲まれた空間が非常に電子密度の高い空間であることも、この特異な吸着能力の一因となっていると考えられる。
本発明の金属錯体に混合ガスを加圧にて接触させることにより、金属錯体への希ガスおよびそれ以外のガスの吸着がなされる。この接触の際の混合ガスの圧力(接触圧)により、金属錯体への希ガスおよびそれ以外のガスの吸着量は変化する。接触圧がある値以下では金属錯体に希ガスはほとんど吸着されないが、それを超えると飛躍的に吸着量が増加す
る傾向がある。また、接触圧が別のある値に達すると、それ以上圧力を高めても吸着量の増加割合が小さくなる傾向がある。さらに、用いられる金属錯体および気体の種類によっても、接触圧と金属錯体への吸着量との関係は異なる。したがって、接触圧は、対象とする希ガス及びそれ以外のガスの種類や混合ガスにおけるこれらの配合組成、希ガスとそれ以外のガスの吸着量の差に基づいた目的とする希ガスの回収効率、金属錯体の種類などに応じて適宜調節することが可能であるが、例えば、0〜10MPa、好ましくは0.2〜
10MPa、より好ましくは0.3〜1MPa(いずれもゲージ圧)の範囲であればよい
また、金属錯体への希ガス等の吸着量は温度によっても変化する。接触の際の温度は、圧力と同様、対象とする混合ガスの配合組成や目的とする希ガスの吸着効率などに応じて適宜調整することが可能である。例えば、−100〜150℃、好ましくは0〜100℃の範囲の温度で、例えば常温程度で金属錯体と混合ガスとを接触させれば、効率的に希ガスを金属錯体に吸着させ、回収することが可能である。なお、希ガスの金属錯体への吸着は通常発熱反応であるので、低温での接触により吸着が促進され、吸着量が多くなる傾向がある。
本発明の金属錯体と混合ガスとの接触時間は、比較的短時間であっても希ガスを金属錯体に吸着させることが可能であるが、バッチ式または流通式により、通常は0.1〜10
0秒程度接触させることで、希ガスの金属錯体への吸着が充分に行われる。
<金属錯体を利用した希ガスの回収方法>
本発明の金属錯体は、希ガスの吸着剤として、従来公知の装置等と組み合わせて使用することが可能である。例えば、上記吸着剤をタンクや筒などの容器に充填し、この容器に混合ガスを流入させるようにして、希ガスを金属錯体に吸着させることが可能である。
また、希ガスを金属錯体に吸着させた後、さらに希ガスを離脱させることにより、気体として希ガスを回収することが可能である。このような希ガスの離脱の際には、希ガスの吸着した金属錯体を減圧下におけばよく、同時に加熱をすれば、離脱は促進される。この離脱の際の減圧度および温度は、吸着の際と同様、用いられた金属錯体や吸着させた気体などに応じて適宜調整すればよい。
前述のように、本発明の金属錯体は、混合ガス中の希ガスをその他のガスよりも多く吸着する。そのため、希ガスの離脱の際にはその他のガスも共に離脱するが、これらの離脱したガスからなる混合ガスは、吸着を行ったときの混合ガスよりも希ガスの濃度が高くなる。したがって、上述のような吸着工程および離脱工程を繰り返すことにより、段々と希ガスの濃度が高い混合ガスが得られ、最終的には極めて純度の高い希ガスを回収することが可能である。
<実施例および試験例>
[実施例1]金属錯体[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]nの合成
(A液):4,4’−bptz[945mg、4mmol]を1000mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。その後、CuSO4・5H2O[499mg、2mmol]を800mlのH2Oに溶解し、合成直前に上記4,4’−bptzのTHF溶液に
加えた。
(B液):pzdcH2[336mg、2mmol]を200mlのH2Oに溶解した。
(合成):B液を、攪拌しているA液にローラーチューブポンプを用いてゆっくりと滴下(1mL/min)した。1日攪拌後、吸引濾過で分離し、紫色の粉末結晶([Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]・8H2O)nを得た。なお、この金属錯体が8水和物であ
ることは、TG(熱重量測定)により確認された。さらに、得られた粉末をエタノールで
洗浄し、室温で12時間、真空乾燥を行った。その結果、0.695gの粉末結晶([C
2(pzdc)2(4,4’−bptz)]n)が得られ、収率は100%であった。
上記合成により得られた化合物の単結晶を用いて、その構造をX線回折により分析した。その結果、図5に示すような、13×6Åの空孔径を有する三次元構造を有する、[C
2(pzdc)2(4,4’−bptz)]を組成式とする金属錯体が合成されたことが確認
された。また、この化合物の元素分析を行った結果からも、組成式は[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]であることが裏付けられた。
[実施例2]金属錯体[Cu2(pzdc)2(bpy)]nの合成
(A液):Cu(ClO4)2・6H2O(499mg、2mmol)を800mlのH2Oに溶解させた。
(B液):NaOH(1.6g)を純水に溶解させた後、pzdcH2(3.36g、0
.02mol)とH2O(250ml)を加え溶解させた。この液に4,4’−ビピリジ
ン(1.56g、0.01mol)(以下「bpy」と略すことがある)とエタノール(500ml)を加え溶解させた。
(合成):B液を、攪拌しているA液にローラーチューブポンプを用いてゆっくりと滴下(5mL/min)した。1日攪拌後、吸引濾過で分離し、水色の粉末結晶を得た。この
結晶をH2Oで洗浄し、50℃で8時間真空乾燥し、[Cu2(pzdc)2(bpy)]nを6.10g得た。
[試験例1]
(測定方法の説明)
(1)N2およびXeの吸着容量の測定を、図1に示す装置を用いて行った。ここで、
本発明の金属錯体のN2の吸着容量は小さい傾向にあり、タンクの容量が大きすぎるとゲ
ージ圧の変化を読みとることができず、一方、Xeの吸着容量は大きい傾向にあり、タンクの容量が小さすぎると吸着容量を全て把握することができなくなる。そのため、タンク6および7は、ガス種および吸着剤による吸着容量の違いをより正確に把握できるよう、それぞれ容量の異なる2タイプの組み合わせを用意した。すなわち、下記表1に示すとおり、タイプAおよびタイプBの2通りの組み合わせで吸着容量の測定を行うこととし、これに先立ち、バルブ1〜2間およびバルブ2〜3間の体積を測定した。
Figure 2007204446
(2)恒温槽の温度を25℃にした。まず、バルブ1を閉、バルブ2および3を開にし、真空引きを行った。真空到達後、バルブ2および3を閉、バルブ1を開にし、タンク6に測定ガスを所定圧まで張り込んだ。その後、バルブ3が閉のまま、バルブ1を閉、バルブ2を開にし、バルブ1〜3間が均圧となった状態での圧力を「空試験圧力」とした。この空試験圧力が、本発明における、希ガスを含むガス(混合ガス)を金属錯体に接触させるときの圧力(接触圧)に相当する。なお、実験例1に関する以下の記述において、圧力は装置の圧力計が示すゲージ圧である(大気圧=0MPa)。
(3)恒温槽の温度を25℃とした。まず、実施例1と同様に調製した金属錯体結晶(
[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]n)4.95gをタンク7に充填した。次に、
バルブ1を閉、バルブ2および3を開にし、真空引きを行った。真空到達後、バルブ2および3を閉、バルブ1を開にし、タンク6に測定ガスを所定圧まで張り込んだ。その後、バルブ3が閉のまま、バルブ1を閉、バルブ2を開にし、バルブ1〜3間が均圧となった状態での圧力を「吸着時平衡圧力」とした。
(吸着実験結果)
上記「空試験圧力」と「吸着時平衡圧力」の差から、吸着容量を計算により求めた。得られた結果を表2に示す。
Figure 2007204446
[試験例2]
吸着剤として、実施例2と同様に調製した金属錯体結晶([Cu2(pzdc)2(bp
y)]n)5.36gを使用し、それ以外は試験例1と同様にして、この吸着剤の吸着容量を求めた。結果を表3に示す。
Figure 2007204446
[比較試験例1]
吸着剤として「モレキュラーシーブ13X」4.94gを使用し、それ以外は試験例1と同様にして、この吸着剤の吸着容量を求めた。結果を表4に示す。
Figure 2007204446
[比較試験例2]
吸着剤として「モレキュラーシービングカーボン5A」5.10gを使用し、それ以外は試験例1と同様にして、この吸着剤の吸着容量を求めた。結果を表5に示す。
Figure 2007204446
[実施例3]
図2に示す装置およびN2とXeとからなる混合ガスを用いて、N2およびXeの吸着実験を行った。なお、実施例2に関する以下の記述において、圧力を示す数値は装置の圧力計が示すゲージ圧である。
実施例1により得られた金属錯体(9.80g)をタンク13に充填した。タンク13およびバルブ10〜バルブ12間の容積の合計は100mlであった。
恒温槽の温度を25℃とした。まず、バルブ10を閉、バルブ12を開とし、タンク内を真空引きした。タンク内圧力が−0.10MPaに到達したところで、バルブ10を開、バルブ12を閉とし、N2およびXeからなる原料混合ガス(N2=90体積%、Xe=10体積%)を、タンク内圧力が0.5MPaになるまで張り込んだ。バルブ10を閉とし、10分間静置したところ、タンク内圧力は0.3MPaとなった。バルブ12を開としてガスをブローし、このブローガスの成分分析を行った。
次に、タンク内に充填した吸着剤を取り替え、上記手順と同様にして原料混合ガスをタンク内に0.3MPa張り込み、10分間静置後(タンク内圧力:0.1MPa)のブローガスの成分分析を行った。さらに、原料混合ガスを0.1MPa張り込んだ場合についても同様に、10分間静置後(タンク内圧力:−0.1MPa)のブローガスの成分分析を行った。
以上の吸着実験の結果は、表6に示すとおりである。吸着剤に原料混合ガスを接触させる圧力が0.5MPaまたは0.3MPaの場合、原料混合ガスとブローガスの成分の差異から、N2よりもXeの方が多く吸着剤に取り込まれていることがわかる。しかし、こ
の圧力が0.1MPaの場合は、逆にN2の方が多く吸着剤に取り込まれる結果になって
いる。
この結果において、例えば、0.5MPaの圧力で接触させた場合は、原料混合ガス中に存在したXeの約93%を金属錯体に吸着させることが可能であった。この金属錯体から離脱させたガスの成分は、N2が約76.5%、Xeが約23.5%であり、原料混合ガ
スよりもXe濃度の高い混合ガスになる。したがって、同様の操作を繰り返すことにより、最終的にはほぼ純粋なXeガスを回収することが可能である。
Figure 2007204446
試験例1〜2および比較試験例1〜2における、吸着剤のガス吸着量を測定する装置のフロー図。 実施例3における、吸着剤によるガス濃縮を測定する装置のフロー図。 本発明で合成した[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]nのX線構造解析の測定結果。 本発明の金属錯体:[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]nの基本骨格を表す。pzdcと4,4’−bpztがCuを介して交互に配位して層状の骨格を作っている。 本発明の金属錯体:[Cu2(pzdc)2(4,4’−bptz)]nの結晶構造を表す。図4の層状の骨格が手前側から奥側に向かって連続的に配位し、13×6Åの細孔(1次元チャンネル)を有する構造を形成している。
符号の説明
1.バルブ
2.バルブ
3.バルブ
4.圧力計
5.圧力計
6.タンク
7.タンク
8.真空ポンプ
9.恒温槽
10.バルブ
11.圧力計
12.バルブ
13.タンク
14.恒温槽

Claims (13)

  1. 金属イオンと、窒素、酸素および硫黄からなる群より選ばれる原子を2つ以上有する配位子(A)と、前記金属イオンへの配位原子を2つ以上有すると共に、少なくとも1つのヘテロ環骨格を有する配位子(B)とから構成される三次元構造を有する金属錯体。
  2. 前記金属イオンがコバルト、銅、ニッケル、亜鉛、マンガンおよび鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体。
  3. 前記金属イオンが銅(II)イオンであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属錯体。
  4. 前記配位子(A)が、4座配位子を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属錯体。
  5. 前記配位子(A)が、金属イオンの電荷を中和するようアニオニックに配位する配位子を含む4座配位子を有する化合物であることを特徴とする請求項4に記載の金属錯体。
  6. 前記配位子(A)が、それぞれ4座配位子を有するジカルボン酸またはその誘導体であることを特徴とする請求項5に記載の金属錯体。
  7. 前記配位子(A)が、ピラジン−2,3−ジカルボン酸であることを特徴とする請求項6に記載の金属錯体。
  8. 前記配位子(B)が、窒素原子をヘテロ原子とするヘテロ環骨格を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の金属錯体。
  9. 前記配位子(B)が、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、テトラジン、トリアジンおよびピペラジンからなる群より選ばれるヘテロ環骨格を少なくとも1つ有することを特徴とする請求項8に記載の金属錯体。
  10. 前記配位子(B)が、ピリジル基およびその誘導体ならびにシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することを特徴とする請求項8または9に記載の金属錯体。
  11. 前記配位子(B)が下記式(1)で表される構造を有する配位子であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の金属錯体。
    Figure 2007204446
  12. 請求項1〜11のいずれかに記載の金属錯体に希ガスを含むガスを−100〜150℃の温度範囲で接触させる吸着工程と、前記希ガスを吸着した金属錯体から希ガスを離脱させる離脱工程とを有することを特徴とする希ガスの回収方法。
  13. 前記吸着工程は、圧力(ゲージ圧)0〜10MPaの雰囲気下で行われる請求項12に記載の希ガスの回収方法。
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