JP2007202432A - 耐熱性カタラーゼ及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高温環境下において安定した活性を有する耐熱性カタラーゼの提供、並びに、当該耐熱性に加えて、広範なpHで安定的な活性を有する高性能カタラーゼの提供。
【解決手段】下記の性質を有する耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)作用:過酸化水素に作用して水と酸素に分解する、(B)熱安定性:pH7.0の下で、pH7.0の下、30℃〜50℃で20分間の熱処理により95%以上、60℃での熱処理により80%以上、70℃での熱処理により50%以上のカタラーゼ活性が残存する、(C)pH安定性:pH6.0〜10.0の下、室温で20分間の処理により95%以上、pH5での処理により40%以上、pH4での処理により20%以上の活性が残存する、(D)分子量:33〜35KDaである、(E)由来:好熱性菌由来である
【選択図】なし

Description

本発明は、耐熱性カタラーゼおよびその製造方法に関する。詳細には、耐熱性カタラーゼ、耐熱性カタラーゼ遺伝子、該遺伝子を含む組換えベクター、該組換えベクターを含む形質転換体、及び該形質転換体を用いた耐熱性カタラーゼの製造方法に関する。更には、該耐熱性カタラーゼの過酸化水素分解等の産業上利用に関する。
カタラーゼは、過酸化水素を分解して酸素と水に変換する反応を触媒する酵素である。かかる性質から、体内における酸化ストレスに対する細胞防御システムの重要なメンバーの一つとして知られている。ここで、カタラーゼの基質となる過酸化水素は、強力な酸化分解能力を有する一方で、時間経過と共に自然分解される特徴を有し、分解すると無害な水と酸素となる。そのため、環境に対する負加が少ないとして、塩素系薬剤の代替として着目されている。例えば、繊維染色、食品加工、紙パルプ、および電子機器部品等に関連する様々な産業分野で殺菌剤、漂白剤、洗浄剤等として過酸化水素が利用されている。しかしながら、過酸化水素も排水中の残留量が限度を超えると生態系に悪影響を及ぼすことから適切な処理を施し二次的公害要因を排除することが必要である。かかる残留過酸化水素をカタラーゼにより分解除去する技術の実用化が進められている。また、燃料電池の正極側において副生する過酸化水素により、その性能が低下することが知られており、燃料電池の分野においても過酸化水素の除去技術の構築が求められている。
そして、過酸化水素を用いて漂白、洗浄、殺菌等を行なう場合には、処理の促進等のため、高温下で実行されることが多い。また、半導体ウェハ等の電子機器部品の洗浄は強酸性かつ高温の過酸化水素水を用いて行なうのが一般的である。また燃料電池の正極側も高温かつ酸性である。一方、繊維染色における漂白はアルカリ性の過酸化水素水を用いて行なわれている。したがって、残留過酸化水素含有媒体等に対する中和および冷却の必要性を回避、若しくは最小限にするべく、高温、かつ広範なpH条件下で安定した活性を保持できるカタラーゼが特に求められていた。
カタラーゼは一般に自然界に広く存在しており、動物、植物、微生物等の様々な生物種で単離されている。しかし、工業的用途に利用可能なカタラーゼを取得する場合には、工業的大量生産の観点から微生物由来のカタラーゼを見出すことが有利である。そのような微生物由来のカタラーゼとして、サーモマイセス属(例えば、特許文献1を参照)、アスペルギウス属(例えば、特許文献2を参照)シタリジウム属およびフミコラ属(例えば、特許文献3を参照)、アルカリゲネス属およびミクロシラ属(例えば、特許文献4を参照)、ハロモナス属(例えば、非特許文献1を参照)、サーマス属(例えば、非特許文献2を参照)等が産生するカタラーゼが報告されている。
特開平10−257883号公報 特開平11−46760号公報 米国特許第5571719号明細書 国際公開第02/103032号パンフレット Phucharoen K., Hoshino K., Takenaka Y., Shinozawa T.、Purification, characterization, and gene sequencing of a catalase from an alkali- and halo-tolerant bacterium, Halomonas sp. SK1.、Biosci Biotechnol Biochem.、2002年、第66巻、第955〜962頁 Mizobata T., Kagawa M., Murakoshi N., Kusaka E., Kameo K., Kawata Y., Nagai J.,、Overproduction of Thermus sp. YS 8-13 manganese catalase in Escherichia coli production of soluble apoenzyme and in vitro formation of active holoenzyme.、Eur J Biochem.、2000年、第267巻、第4264〜4271頁
しかしながら、現在、報告されているカタラーゼのほとんどは、耐熱性の低い細菌由来である。一般的に、耐熱性の低い細菌が産生するタンパク質は高温下において変性し失活することが知られている。仮に、活性を示したとしても時間の経過と共にタンパク変性を生じ、活性が持続しない一時的な活性にすぎない。そのため、高温下の処理には適さないと考えられている。また、好熱性菌由来の耐熱性カタラーゼであっても、使用条件等によってはその耐熱性が十分でない場合がある等の問題点があった。また、耐酸性カタラーゼに関しての報告は少なく、このような耐酸性カタラーゼを遺伝子工学的手法で大量生産する方法に関しては報告がないのが現状である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温環境下において安定した活性を有し、過酸化水素の分解除去が必要な様々な産業分野で利用可能な耐熱性カタラーゼの提供を目的とする。好ましくは、当該耐熱性に加えて、広範なpHで安定的な活性を有する高性能カタラーゼの提供を目的とする。更に、当該耐熱性カタラーゼを遺伝子工学的手法により大量製造するための遺伝子操作材料と、これを用いた耐熱性カタラーゼの製造方法の提供を目的とする。
本発明者らは、上記の如き課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた。その結果、好熱好酸性菌であるMetallosphaera hakonensisから新規の耐熱性カタラーゼをコードするポリヌクレオチドの単離に成功した。更に、このポリヌクレオチドを用いて遺伝子工学的手法により新規の耐熱性カタラーゼを製造できることを見出した。さらに、この耐熱性カタラーゼが、当該耐熱性に加えて広範なpHにおいて安定した活性を示すことを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
上記目的を達成するため、本発明は以下の[1]〜[15]に示すものである。
[1]下記の性質を有する耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質。
(A)作用:過酸化水素に作用して水と酸素に分解する
(B)熱安定性:pH7.0の下、pH7.0の下、30℃〜50℃で20分間の熱処理により95%以上、60℃での熱処理により80%以上、70℃での熱処理により50%以上のカタラーゼ活性が残存する
(C)pH安定性:pH6.0〜10.0の下、室温で20分間の処理により95%以上、pH5での処理により40%以上、pH4での処理により20%以上の活性が残存する
(D)分子量:33〜35kDaである
(E)由来:好熱性菌由来である
[2]好熱好酸性菌由来である上記[1]に記載のタンパク質。
上記[1]〜[2]の構成によれば、熱安定性の高い新規な耐熱性カタラーゼの提供が可能となる。更には、広範なpH、特には酸性領域における安定性を有する。したがって、本発明によって提供されるカタラーゼが、熱安定性が高いという性質を有し、また、広範なpH、特には酸性領域における安定性をも示すことで、様々な産業分野における過酸化水素の分解を要する技術に適用できる。
[3]以下の(a)または(b)のタンパク質。
(a)配列認識番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列認識番号2に示すアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ、耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質
[4]配列認識番号4又は配列認識番号6のアミノ酸配列からなる上記[3]に記載のタンパク質
[5]耐熱、耐酸性カタラーゼ活性を有する上記[3]又は[4]に記載のタンパク質。
[6]上記[3]〜[5]のいずれかに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[7]以下の(a)または(b)のポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(a)配列認識番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド
(b)配列認識番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
[8]配列認識番号3又は配列認識番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる上記[7]に記載の遺伝子。
[9]耐熱、耐酸性カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードする上記[7]又は[8]に記載の遺伝子。
[10]上記[7]〜[9]のいずれかに記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
[11]上記[10]に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
[12]上記[11]に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質を採取する耐熱性カタラーゼの製造方法。
[13]前記形質転換体が大腸菌である場合に、1〜5mMの塩化マンガンを含有する培地で培養する上記[12]に記載の耐熱性カタラーゼの製造方法。
上記[4]〜[13]の構成によれば、熱安定性の高い耐熱性カタラーゼを提供でき、また、広範なpH、特には酸性領域における安定性を有するカタラーゼの提供が可能となることで、様々な産業分野における過酸化水素の分解を要する技術に適用できる。
また、本発明の耐熱性カタラーゼのアミノ酸配列、並びに塩基配列が明確になったことから、遺伝子工学的手法を用いて低コストかつ工業的に大量生産することが可能となった。
更には、本発明の耐熱性カタラーゼは熱安定性が高いため、その製造においても、加熱処理により容易に夾雑タンパク質を不溶性画分として容易に除去できるため簡便に調製が容易である。例えば、遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
特に、上記[13]の構成によれば、本発明の耐熱性カタラーゼの更に、効率的な大量生産を達成することができるという利点がある。つまり、本発明の耐熱性カタラーゼはその触媒機構にマンガンイオンを利用する「マンガン型カタラーゼ」である。そのため、過剰量のマンガンの存在が安定した活性発現、引いては、生産性の向上を導くことができる。
[14]上記[1]〜[5]のいずれかに記載のタンパク質を、過酸化水素に接触させることにより、過酸化水素を分解する過酸化水素の分解方法。
[15]燃料電池の正極側で副生される過酸化水素を分解する上記[14]に記載の過酸化水素の分解方法。
上記[14]の構成によれば、熱安定性の高い耐熱性カタラーゼを利用した過酸化水素の分解方法を提供でき、また、広範なpH、特には酸性領域における安定性を有するカタラーゼを用いることで、様々な産業分野における過酸化水素の分解を要する技術に適用できる。
特に、上記[15]の構成によれば、燃料電池の性能低下の要因となる正極側で副生する過酸化水素を効率よく除去でき、燃料電池の性能の向上に役立つ。本発明の耐熱性カタラーゼは、高温、好ましくは酸性条件下においても安定的にその活性を維持できる。したがって、高温かつ酸性である燃料電池の正極においてもその機能を十分に発揮できる。
以下、本発明について詳細に説明する。
(本発明の耐熱性カタラーゼの性質)
本発明の耐熱性カタラーゼの理化学的性質は以下の通りである。
(1)作用
従来公知のカタラーゼと同様、過酸化水素に作用して水と酸素に分解する。
(2)熱安定性
本発明の耐熱性カタラーゼは、熱安定性に優れる酵素である。
本発明の耐熱性カタラーゼは、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中での20分間の熱処理に対して60℃以下であれば実質的に活性が低下しないことが好ましい。本明細書で、実質的に活性が低下しないとは、測定誤差範囲を考慮し、90%以上、好ましくは95%以上の活性が残存する場合をいう。また、上記と同条件の70℃での熱処理により50%以上、80℃での熱処理により30%以上、90℃での熱処理によっても20%以上活性が残存することが好ましい。
更には、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)中での50分間の熱処理に対して60℃以下であれば実質的に活性が低下しないことが好ましい。また、上記条件下で、70℃での熱処理により50%以上、80℃での熱処理により20%以上の活性が残存することが好ましい。
本発明の耐熱性カタラーゼは、耐熱性が高く、熱安定性が高いことから様々な産業分野における過酸化水素の分解を要する技術に適用できる。また常温における安定性をも有することから、保存性にも優れる。更に、本発明の耐熱性カタラーゼの製造においても、加熱処理により容易に夾雑タンパク質を不溶性画分として容易に除去できる。したがって、精製に際して、その精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
(3)pH安定性
本発明の耐熱性カタラーゼは、pH安定性に優れる酵素であることが好ましい。
本発明の耐熱性カタラーゼは、pH3.0〜4.0の50mMの酢酸緩衝液、pH5.0〜8.0の50mMリン酸緩衝液、pH9.0〜10.0のグリシン−NaOH緩衝液の各緩衝液中での室温で20分間の処理に対して、pH6.0〜10では、実質的に活性が低下しないことが好ましい。更に好ましくは、pH11程度まで活性を保持でき、特に好ましくはpH12程度まで活性を保持できる。また、上記と同条件のpH5での処理によって40%以上、pH4での処理によって20%程度の活性が残存することが好ましい。
本発明の耐熱性カタラーゼは、耐熱性に加え、耐酸性が高く、また、広範なpHにおいて安定性が高いことから、更に様々な産業分野における過酸化水素の分解を要する技術に適用できる。
(4)由来
本発明の耐熱性カタラーゼの由来は、好熱性菌である。好ましくは、好熱好酸性菌である。ここで、好熱性菌とは、一般に55℃以上の高温環境下で生育する細菌である。特に、75℃までの温度で生育する細菌を中等度好熱性菌と、75℃以上で生育する細菌を高度好熱性菌と、また、90℃以上で生育する細菌は超好熱性菌と分類される。本発明においては、いずれをも含むが、特には高度好熱性菌、および超好熱性菌を意味する。好熱性菌は、温泉、熱水域、深海熱水鉱床、工場排水等の人工的熱水環境等から多種分類されている。また、ここで、好熱好酸性菌とは、上記好熱性菌の性質に加え、低いpH、一般には至適pHがpH5以下、特にはpH3以下で生育可能な細菌である。そして、好熱好酸性菌は、高温酸性温泉、火山の硫気噴気口、海底の熱水噴気口付近等より分離されている。特には、箱根、伊豆等の高温かつ酸性の温泉に生息する細菌であることが好ましい。
つまり、本発明の耐熱性カタラーゼの産生菌は、極端な高温条件、好ましくは高温酸性条件に耐え得る生化学資質を有する細菌である。一般に、高温条件、並びに酸性条件下では、生化学反応の調節の乱れやタンパク質の変性を生じる。しかし、例えば、高温下で生育及び増殖ができる細菌由来の各生体成分は、かかる細菌の増殖率が最大限度である温度付近で最適に機能するよう適合させられていることが知られている。更には、耐熱性に加えて、変性剤、つまりコソルベント、化学修飾、極端なpH等に対して、本質的に抵抗力があるとされている。そのため、本発明で利用される好熱性菌、好熱好酸性菌のような極限状態で生育できる細菌は、新しい産業的な生物変換処理技術の開発を許容することができるものとして期待されている。
ここで、本発明の耐熱性カタラーゼ産生菌の具体的な一例として、Sulfolobaceae族に属する細菌、好ましくは、Metallosphaera属に属する細菌が挙げられる。特には、Metallosphaera hakonensisが好ましい。
(5)分子量
本発明の耐熱性カタラーゼは、そのアミノ酸組成の違いにより異なる分子量を有していてもよいが、好ましくは、約33〜35kDaの分子量を有する。
(6)マンガン型カタラーゼ
本発明の耐熱性カタラーゼは、所謂、マンガン型カタラーゼであると考えられる。そのため、下記実施例10に示す通り、本発明の耐熱性カタラーゼは、アジ化ナトリウム等、活性部位に位置する鉄イオンに結合することでタンパク質の活性を阻害する様式で作用する阻害剤によっては、その活性が阻害されない。カタラーゼの多くは、その活性部位においてプロトポルフィリンIX−鉄錯体を補欠分子族として有する、所謂「ヘム型カタラーゼ」である。しかしながら、プロトポルフィリンIX−鉄錯体の代わりにマンガンイオンをその触媒機構に利用するカタラーゼが知られている。そして、「ヘム型カタラーゼ」と区別して「マンガン型カタラーゼ」と称される。このような、マンガン型カタラーゼとして、現在までに、Lactobacillus plantarumThermoleophilum album、及びThermus thermophilus HB8等の数種類程度が知れているのみである。また、これらの細菌の至適生育条件は、Lactobacillus plantarumは、34.0℃、pH7.5であり、Thermoleophilum albumは、55℃、pH7.5、及びThermus thermophilus HB8は、75℃、pH7.5である。即ち、これらは、中温性、若しくは好熱性の好中性菌である。したがって、本発明の耐熱性カタラーゼの好適産生菌である好熱好酸性菌由来のマンガン型カタラーゼは、現在までには報告されていない。
上記性質に関しては、下記で詳細に説明する実施例で検討した大腸菌にて発現させた結果に基づくものである。最近の研究によって好熱性菌由来の遺伝子の一部が大腸菌では十分に発現できないことが報告されている。その要因の一つとしては、発現した遺伝子産物が正しい高次構造を形成できないことが考えられている。かかる不具合を回避する手段しては、例えば、好適な好熱性菌の宿主・ベクター系を構築することが考案され、これにより好熱性菌由来の遺伝子を高発現できるものと期待されている。
したがって、本発明の耐熱性カタラーゼに関しても、正しい高次構造に再構築することが可能な宿主・ベクター系を構築することにより、更に熱安定性、並びに酸安定性を向上できる。つまり、好熱好酸性菌が高温、かつ酸性条件で生育かつ増殖できるのは、かかる菌体を構成する各生体高分子が、それぞれ耐熱、かつ耐酸性であるとするのが一般的である。つまり、好熱性菌のように高温下で生育できる菌体由来の各生体成分は、かかる菌体の成長率が最大限度を示す温度付近で最適に機能するように適合させられる。したがって、更に好適な宿主・ベクター系を構築することにより、由来する細菌がもつ性質である耐熱、耐酸性を十分に発揮できることが期待される。
(本発明の耐熱性カタラーゼのアミノ酸配列)
また、本発明の耐熱性カタラーゼとして、これに限定されるものではないが、配列認識番号2のアミノ酸配列を含むものが好適に例示される。更に、耐熱性カタラーゼの性質を保持している限り、配列認識番号2のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。なお、本発明の耐熱性カタラーゼは広範なpH環境下において安定性を示し、特に酸性条件下においても活性を保持できることが好ましい。改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1または複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。そして、「1または複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。
このような改変体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から当該活性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得できる。或いは、下記で説明する本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子を用いて改変を施すことによっても取得できる、そのような遺伝子に改変を施す方法としては、特に制限はなく、当業者に公知の改変タンパク質作製のための変異導入技術を利用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施したカタラーゼ遺伝子を構築することによっても調製することができる。
当業者はアミノ酸配列の改変に際して本発明の耐熱性カタラーゼ活性を保持する改変を容易に予測することができる、具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。また、その後の精製、固相への固定化等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にHis-tag、FLAG-tag等を付加したものも好適に例示される。
そして、本発明の耐熱性カタラーゼとして、配列認識番号4のアミノ酸配列からなるものが特に好適に例示される。また、耐熱性カタラーゼの性質を保持している限り、配列認識番号4のアミノ酸配列において、上記のような特定アミノ酸に改変が生じている改変部位を有するものも含まれる。したがって、配列認識番号4のアミノ酸配列のC末端側にHis-Tagが付加したものも好適に例示され、配列認識番号6としてそのアミノ酸配列を開示する。このようなTagペプチドの導入は常法により行なうことができる。
本発明の耐熱性カタラーゼのアミノ酸配列が明確になったことから、かかる配列情報に基づいて、本発明のタンパク質を製造することができる。例えば、配列認識番号2、4又は6のアミノ酸配列の一部又は全部をコードする塩基配列を基にして作成したDNAプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、好熱性菌、好ましくは好熱好酸性菌のゲノムDNAから本発明のタンパク質をコードする核酸分子を調製することができる。また、配列認識番号2、4又は6のアミノ酸配列をコードするアミノ酸配列の一部をプライマーとして用いるPCR法によっても同様に本発明の耐熱性カタラーゼをコードする核酸分子を調製することができる。さらに、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、本発明の耐熱性カタラーゼをコードする核酸分子を化学的に合成することができる。そして、得られた耐熱性カタラーゼをコードする核酸分子を下記で詳細に説明する遺伝子組換え技術により本発明の耐熱性カタラーゼを製造することができる。
ここで、本発明の耐熱性カタラーゼの製造において、PCR法を利用する場合に用いられるプライマーは常法に基づいて調製することができる。プライマーは、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。ここで、相補的とは、プライマーと標的核酸とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プライマーと標的核酸が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定されるが、好ましくは、20〜50塩基長である。
更には、本発明の耐熱性カタラーゼは、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、配列認識番号2に示されるアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することができる。
(本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子)
本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子は、上記の本発明の耐熱性カタラーゼをコードする遺伝子である。例えば、配列認識番号2に記載されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、一具体例としては、配列認識番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。ここで、本発明におけるポリヌクレオチドにはDNA及びRNAの双方が含まれ、DNAである場合には、1本鎖であると、二本鎖であるとは問わない。
更に、上記本発明の耐熱性カタラーゼの性質を保持している限り、配列認識番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むものも本発明に含まれる。このようなポリヌクレオチドは、公知の変異導入技術を利用することにより作製できる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標)Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施したカタラーゼ遺伝子を構築することによって行なうことができる。もしくは、配列認識番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対してエキソヌクレアーゼを作用させることによって取得することができる。このようなポリヌクレオチドとしては、配列認識番号1の塩基配列において1または複数の塩基が欠失、置換、付加もしくは挿入されたものも含まれる。
そして、本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子として、配列認識番号3の塩基配列からなるポリヌクレオチドからなるものが特に好適に例示される。また、本発明の耐熱性カタラーゼの性質を保持している限り、上記のような配列認識番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなるものも含まれる。したがって、配列認識番号3の塩基配列の3’、又は5’末端にHis-Tag配列をコードする塩基配列が付加したものも好適に例示される。配列認識番号3の3’末端にHis-Tag配列をコードするポリヌクレオチドが付加したものを、配列認識番号5として示す。このようなTagペプチドをコードするポリヌクレオチドの導入は常法により行なうことができる。
ここで、ストリンジェントな条件とは、塩基配列において、60%以上、好ましくは70%、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の同一性を有するDNAがハイブリダイズし得る条件をいう。ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションの反応や洗浄の際の塩濃度及び温度を適宜変化させることによって調製することができる。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第2版(Sambrook他)に記載のサザンハイブリダイゼーションのための条件等が挙げられる。
具体的には、30%(v/v)のホルムアミド、0.6Mの塩化ナトリウム、0.04Mのリン酸ナトリウム(pH7.2)、2.5mMのEDTA(pH8.0)、1%SDS中の42℃にて16時間のハイブリダイゼーションが挙げられる。ホルムアミド濃度が20%(v/v)であるときには、34℃にて16時間のハイブリダイゼーションが例示される。洗浄条件としては、2×SSC、0.1%SDS中の5℃にて5分間の洗浄、及び0.1×SSC、0.1%SDS中での65℃にて30分間〜4時間の洗浄が例示される。
本発明の遺伝子は、実施例1に示す通り、既知のカタラーゼの配列情報から構築されたプライマーを用いて、高度好熱菌、好ましくはM. hakonensisのゲノムDNAをクローニングすることによって取得することができる。また、本発明の遺伝子配列が明確になったことから、かかる配列情報に基づいて、本発明の遺伝子を作成することができる。例えば、配列認識番号1、3又は5に示す塩基配列の一部又は全部の配列を基にして作成したDNAプローブを用いるハイブリダイゼーション法により、好熱性菌、好ましくは好熱好酸性菌のゲノムDNAから本発明のポリヌクレオチドを調製することができる。また、配列認識番号1、3又は5に示す塩基配列の一部をプライマーとして用いるPCR法によっても同様に本発明の耐熱性カタラーゼをコードする核酸分子を調製することができる。このとき用いられるプライマーの設計、及び調製については上記で説明した方法に準じて行なうことができる。さらに、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、本発明の耐熱性カタラーゼをコードする核酸分子を化学的に合成することができる。
(本発明の組換えベクター)
そして、本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明の遺伝子を組み込むことによって取得することができる。利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。
そして、本発明の組換えベクターは、本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれてある。したがって、遺伝子の機能に発現に必要な他の公知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく公知のプロモータ配列を利用できる。更に、本発明の組換えベクターには、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子等の挿入は、例えば、適当な制限酵素で本発明の遺伝子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、公知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(Takara-bio社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
(本発明の形質転換体)
本発明の形質転換体は、本発明の耐熱性カタラーゼ遺伝子を含む組換えベクターで形質転換された宿主細胞である。ここで、宿主細胞としては、本発明の耐熱性カタラーゼを効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS−7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を公知の方法を利用することができる。
(本発明の耐熱性カタラーゼの製造方法)
本発明の耐熱性カタラーゼの製造方法は、上記本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質を採取することにより行なう。即ち、上記本発明の形質転換体を培養する培養工程と、前記培養工程で発現した前記タンパク質を回収する回収工程とを備える。このように、適当な宿主で発現させることによって、低コストで本発明の耐熱性カタラーゼの大量生産が可能となる。
培養工程は、本発明の形質転換体を適当な培地に接種し、常法に準じて培養することにより行なわれる。本発明の形質転換体の培養は、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
特に、宿主細胞が大腸菌の場合には、本発明の耐熱性カタラーゼの安定した活性発現のため、塩化マンガンを添加することが好ましい。このとき、添加量は下記実施例にて示す通り、1mM以上とすることが安定した活性発現の観点から好ましい。また、5mM以上となると塩化マンガンが大腸菌の生育を阻害するため1〜5mMの範囲とすることが特に好ましい。かかる塩化マンガン量は、従来公知の大腸菌培養用培地に含まれる塩化マンガン量の約10〜50倍である。
本発明の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
精製工程は、上記で培養工程において得られた形質転換体の培養物からの本発明の耐熱性カタラーゼを回収、即ち、単離精製することによって行えばよい。本発明の耐熱性カタラーゼの存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、本発明の耐熱性カタラーゼが宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、本発明の耐熱性カタラーゼを単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS−PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィ等の各種クロマトグラフィ等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。また、本発明の耐熱性カタラーゼが宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、上記の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。ここで、本発明で得られるカタラーゼは、熱安定性が高いことから、上記単離、精製工程において熱処理を併用することが有用かつ便利である。培養物から得られた宿主細胞及び培養上清には、当該宿主細胞由来の様々なタンパク質を含有する。しかし、熱処理を行なうことにより、宿主細胞由来の夾雑タンパク質は変性し凝縮沈殿する。これに対して、本発明の耐熱性カタラーゼは、耐熱性を有するため変性を生じないことから、遠心分離等により宿主由来の夾雑タンパク質と容易に分離できる。また、培養液をそのまま、若しくは粗抽出液を使用する場合においても、熱処理を行なうことにより、他のタンパク質が失活することから、実質的に本発明の耐熱性カタラーゼのみの酵素液として使用することができる。また、本発明の耐熱性カタラーゼは、耐熱性に加え、広範なpH安定性を示すことから、精製過程においてpH処理を行なうことも熱処理と同様有効である。したがって、本発明の耐熱性カタラーゼを遺伝子工学的手法により製造する場合においても、宿主由来のその他のタンパク質を容易に除去することができる。したがって、精製度を向上させることができ、信頼性の高い酵素を製造できるという利点がある。
単離精製されたタンパク質の性能確認は、カタラーゼ活性を測定することにより行なうことができる。カタラーゼ活性を測定する方法は公知の方法のいずれをも利用することができる。例えば、過酸化水素の分解に起因する過酸化水素の減少を光学的に測定する方法、過酸化水素の分解により生じる酸素の生成量を酸素電極で測定する方法、反応後の残留過酸化水素を滴定する方法、過酸化水素の分解に伴う生成熱を測定する方法等が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
(過酸化水素の分解方法)
本発明の過酸化水素の分解方法は、本発明の耐熱性カタラーゼを、過酸化水素に接触させることにより行なわれる。即ち、過酸化水素を含む試料に、本発明の耐熱性カタラーゼを接触させる工程を備えて構成される。カタラーゼは過酸化水素を分解して無害な酸素と水を産生する性質を有する。更に、本発明の耐熱性カタラーゼは、特に高温、好ましくは広範囲なpHにおいて極めて安定に活性を示すという特徴を有している。そのため、食品、その他の産業分野において、残留過酸化水素の分解に極めて有効である。特には、高温、若しくは高温酸性条件下での適用に特に有用である。
ここで、試料として、過酸化水素が、殺菌剤、漂白剤、洗浄剤等として利用した後の排水等が例示される。このような排水は、例えば、繊維染色、食品加工、紙パルプ、および電子機器部品等に関連する産業分野で排出される。具体的には、繊維、紙パルプ等の漂白剤として、また、半導体ウェハ等の洗浄剤として過酸化水素を用いた場合の処理後の排水等が例示される。
また、本発明の過酸化水素の分解方法は、燃料電池の正極において副生する過酸化水素の分解除去にも好適に利用できる。正極側において副生する過酸化水素は、燃料電池の性能低下の要因となることが知られている。かかる過酸化水素の除去技術が求められている。しかしながら、燃料電池の正極における、温度が80〜90℃、また、pHが4〜5と、高温かつ酸性下で持続した分解活性を示すことができる酵素の存在が知られていなかった。本発明により、熱安定が高く、また酸性条件下においても安定な活性を示すことができるカタラーゼが提供できた。これにより、燃料電池の正極側における過酸化水素の分解を持続的に行なうことが可能となり、燃料電池の性能向上を図れる。ここで、燃料電池への適用形態としては、燃料電池の正極側に送液ポンプなどにより注入する等、が好ましく例示される。
また、本発明の耐熱性カタラーゼを有効成分として含有する過酸化水素の分解剤として提供することができる。そして、過酸化水素の分解剤として、種々の形態で、例えば凍結乾燥剤として、または適切な保存溶液中の液剤として提供することができる。また、適当な担体に固定化した形態で提供することができる。固定化の方法は、当業者に公知の方法を利用できる。例えば、共有結合、イオン結合および物理的吸着による担体結合法、架橋法、包括法等その形態は問わない。具体的には、DEAEセルロース、シリカ、酸化チタン吸着による担体結合、グルタルアルデヒドによる架橋、光触媒性樹脂プレポリマーによる包括等が挙げられる。
〔実施例1〕
カタラーゼ遺伝子のクローニング
Metallosphaera hakonensis(以下、「M.hakonensis」と略する場合がある。)のゲノムDNAからカタラーゼをコードする遺伝子をクローニングするための検討を行った。
(方法)
クローニングは、M.hakonensis(ATCC Number:51241)から常法により調製したゲノムDNAを鋳型としてPCR増幅することにより行なった。
反応液(50μL)は、鋳型DNAであるM.hakonensisのゲノムDNAを10ng、TthRecAタンパク質を0.8μg、プライマーセットを各0.5μM(最終濃度)、DNAポリメラーゼを2.5unit、dNTP混合液を0.2mM(最終濃度)を、1xPCR反応緩衝液(Applied-Biosystems社製)に混合することにより調製した。
本実施例においては、DNAポリメラーゼとして、Tth DNA polymerase(Applied-Biosystems社製)を使用した。
また、本実施例で使用したTthRecAタンパク質は、Masui R, Mikawa T, Kato R, Kuramitsu S.著、Characterization of the oligomeric states of RecA protein: monomeric RecA protein can form a nucleoprotein filament., Biochemistry.、1998年10月20日、第37巻、第42号、第14788〜14797頁の記載を参照して本発明の発明者らが調製したものを用いた。
ここで、使用したプライマーセットとしては、カタラーゼ遺伝子のクローニングに適したプライマーセットを見出すため、3種類のプライマーセットを比較検討した。詳細には、本実施例で使用したプライマーセットは以下の通りである。プライマーセットは、既知のカタラーゼのアミノ酸配列の保存領域における配列情報を基に構築されたものである。なかでも、プライマーセットCは、高度好熱菌であるThermus thermophilus(以下、「T.thermophilus」と略する場合がある。)由来の既知のカタラーゼのアミノ酸配列の配列情報に基づいて構築されたものである。
プライマーセットA
混合プライマーA1
5‘−gagcatatgttYctUagRat−3’ (配列認識番号7)
混合プライマーA2
5’−ctaaagcttaYttUgcYttYtc−3’ (配列認識番号8)
プライマーセットB
混合プライマーB1
5’−gagcatatgttYttRagRat−3’ (配列認識番号9)
混合プライマーB2
5’−ctaggatccaYttUgcYttYtc−3’ (配列認識番号10)
プライマーセットC
プライマーC1
5’−gagcatatgttcctgagga−3’ (配列認識番号11)
プライマーC2
5’−ctaaagcttacttggccttct−3’ (配列認識番号12)
なお、混合塩基の国際表記法は以下の通りである。
B=c+g+t; D=a+g+t; H=a+c+t;
I=dI(イノシン); K=g+t; M=a+c;
N=a+c+g+t; R=a+g; S=c+g; U=dU(ウラシル);
V=a+c+g; W=a+t; Y=c+t
ここで、反応液中に、プライマーセットAを混合したものをサンプル1と、プライマーセットBを混合したものをサンプル2と、プライマーセットCを混合したものをサンプル3と称する。
上記サンプル1〜3を同一の条件下でPCR反応を行い、PCR増幅産物を得た。PCR反応は、94℃にて30秒の熱変性の後、94℃にて10秒、55℃にて30秒、68℃にて60秒の反応を1サイクルとした40サイクルの増幅反応後、68℃にて3分の1サイクルの最終反応によって行った。
増幅後、各増幅反応液を1.2%アガロースゲル電気泳動に供した。電気泳動後のゲルをエチジウムブロミドで染色し、DNAのバンドを可視化した。
また同様に、Thermus aquaticus(以下、「T.aquaticus」と略する場合がある。)のゲノムDNAからカタラーゼをコードする遺伝子のクローニングについても検討を行った。かかる検討は、上記手順において、M.hakonensisのゲノムDNAに代えて、T.aquaticus(ATCC Number: 25104)から常法により調製したゲノムDNAを用いたこと以外は、同様にサンプルを調製した。ここで、反応液中に、プライマーセットAを混合したものをサンプル4と、プライマーセットBを混合したものをサンプル5と、プライマーセットCを混合したものをサンプル6と称する。サンプル調製後、上記手順に従って、PCR反応を行なった後、電気泳動に供した。
(結果)
結果を図1に示す。図1中、レーン1〜6は、夫々、サンプル1〜6に対応する。
即ち、図1中、レーン1〜3は、M.hakonensisのゲノムDNAからのカタラーゼ遺伝子のクローニング結果を示す。そして、レーン1はプライマーセットA、レーン2はプライマーセットB、レーン3はプライマーセットCでの増幅結果を示す。
図1中、レーン4〜6は、T.aquaticusのゲノムDNAからのカタラーゼ遺伝子のクローニング結果を示す。そして、レーン1はプライマーセットA、レーン2はプライマーセットB、レーン3はプライマーセットCでの増幅結果を示す。
なお、図1中、レーンMはDNAサイズマーカー(Lambda DNA BstP I digest:Takara-bio社製)の電気泳動結果を示す。
図1の結果から、M.hakonensisゲノムDNAから、プライマーセットAの使用によりカタラーゼをコードすると思われる増幅産物が取得できることが確認された(レーン1)。一方、T.aquaticusに関しては、プライマーセットCの使用によりカタラーゼをコードすると思われる増幅産物が取得できることが確認された(レーン6)。
プライマーセットCは上述した通り、既知のT.thermophilusカタラーゼのアミノ酸配列の配列情報に基づいて構築されたものである。しかしながら、M.hakonensisのゲノムDNAからは、プライマーセットCによる増幅産物は確認できなかった(レーン3)。してみると、M.hakonensisのゲノムDNAからプライマーセットAを用いて取得された増幅産物が、既知のT.thermophilusカタラーゼとは異なる塩基配列を有する新規なカタラーゼをコードするものである可能性があることが示唆される。
〔実施例2〕
塩基配列決定並びにアミノ酸配列の推定
実施例1で取得したカタラーゼをコードすると思われる遺伝子の塩基配列の決定を行なった。また、得られた塩基配列の配列情報に基づいて、アミノ酸配列を推定した。
(方法)
実施例1で取得したM.hakonensisのゲノムDNAからカタラーゼをコードすると思われる遺伝子の塩基配列の決定を行なった。詳細には、実施例1で取得したM.hakonensisのゲノムDNAからの遺伝子断片(プライマーセットAによる増幅断片、即ち、実施例1のサンプル1)を、プラスミドDNAであるpGEM-T Easy Vector(Promega社製)に、pGEM-T Easy Vector System(Promega社製)を用いて製造業者の指示に従ってクローニングを行なった。クローニング後、反応液を大腸菌JM109株に形質転換し、形質転換体から調製したプラスミドDNAを鋳型として塩基配列の決定を行なった。塩基配列の決定は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit V3.1(Applied-Biosystems社製)を用いて、製造業者の指示に従って、サイクルシーケンシング反応を実行した。このとき、シーケンシングプライマーとしては、SP6 Promoter primer(Promega社製)、並びにT7 Promoter primer(Promega社製)を使用した。反応後、反応液の全量をDNA蛍光シーケンサー(ABI PRISM 377, Applied-Biosystems社製)に供して、塩基配列を決定した。
また、実施例1で取得したT.aquaticusのゲノムDNAからの遺伝子断片(プライマーセットCによる増幅断片、即ち、実施例1のサンプル6)について同様にして塩基配列の決定を行なった。
(結果)
結果を図2に示す。
図2は、実施例1で取得されたM.hakonensisカタラーゼをコードすると思われる遺伝子の塩基配列(配列認識番号3)を示す。また、かかる塩基配列に基づく推定アミノ酸配列(配列認識番号4)を下段に提示する。
図3は、実施例1で取得されたT.aquaticusカタラーゼをコードすると思われる遺伝子の塩基配列(配列認識番号13)を示す。また、かかる塩基配列に基づく推定アミノ酸配列(配列認識番号14)を下段に提示する。
なお、アミノ酸配列の下線部は、GENETYX-Winプログラムで予想された推定シグナルペプチド配列を示す。
〔実施例3〕
相同性検索
実施例2にて判明したM.hakonensisカタラーゼをコードすると思われる推定アミノ酸配列と、公知の高度好熱性菌であるPyrobaculum calidifontisThermoleophilum albumThermus brockianus及びThermus thermophilus由来の既知のカタラーゼのアミノ酸配列のアラインメントを行なった。
結果を図4に示す。
図4中、(*)は、アライメントを行なった5種類全てのアミノ酸残基が同じ箇所を示す。
図4中、(・)は、アライメントを行なった5種類のうち、3、又は4種類のアミノ酸残基が同じ箇所を示す。
図4の結果より、実施例1で取得されたM.hakonensisカタラーゼをコードすると思われる遺伝子の推定アミノ配列は、既知のカタラーゼと類似性を有することが判明した。したがって、実施例1で取得されたM.hakonensisカタラーゼをコードすると思われる遺伝子は、カタラーゼをコードする遺伝子であることが強く示唆された。一方で、既知のカタラーゼとは異なる塩基配列を有することから、新規なカタラーゼをコードする遺伝子であることも判明した。また、5種類のカタラーゼが同一性を示す領域は、マンガン結合部位などの、マンガン型カタラーゼの酵素活性に重要な領域であることが予想される。
〔実施例4〕
組換えカタラーゼの製造方法の検討−1
大腸菌を宿主細胞として用いて、組換えカタラーゼの発現系を構築すると共に、大腸菌からの精製手法についての検討を行った。なお、本実施例においては、大腸菌からの精製手法中における、熱処理、及び酸処理の有効性に関して検討を行った。
(方法)
上記実施例1で取得されたM.hakonensisカタラーゼ遺伝子のPCR増幅産物(プライマーセットAによる増幅断片、即ち、実施例1のサンプル1)を精製した。精製には、DNA purification kit(GE社製)を用いた。精製後、制限酵素Nde I−Hind IIIで切断してDNA断片を得た。得られたDNA断片を、制限酵素Nde I−Hind IIIで切断されたプラスミドDNA(pET22b:Novagen社製)に連結した。連結に際して、DNA Ligation Kit(Takara-bio社製)を用いた。連結後、大腸菌、E.coli BL21(DE3)を形質転換して形質転換体を作成した。
上記で得られたM.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を、50μg/mLのアンピシリン、及び1mMの塩化マンガンを含む10mLのLB液体培地中で培養した。培養後の培養液0.1mlを分取し、1mMの塩化マンガン、及び30μg/mLのアンピシリンを含む100mLのLB液体培地に接種し、OD600=0.6に達するまで培養した。なお、培養条件は、大腸菌の一般的な培養条件に従って行なった。次に、プラスミドの発現量を高めるため、1.0mMのIPTGを添加して更に4時間培養した。培養後、5000×gにて5分間の遠心分離にて菌体を集菌し、20mMのトリス−塩酸(pH8.0)で洗浄後、再度、遠心分離にて菌体を集菌し、菌体を液体窒素で凍結させた。菌体を、50mLの緩衝液−Aに溶解させた後、2000unitのLysozyme solution(Novagen社製)、及び1250unitのBenzonase nuclease(Novagen社製)を添加した。続いて、4℃にて60分間反応させた後に超音波破砕処理にて菌体を破砕して菌体破砕処理液を得た。前記菌体破砕処理液を、等量のタンパク可溶化液(125mMのトリス−塩酸(pH6.8)、4% SDS、5% メルカプトエタノール、20% グリセロール、0.01% ブロモフェノールブルー)と混合した。以下、サンプルI−1と称する。
混合後、SDS−PAGE(5〜20%、e-PAGEL、ATTO社製 E-T520L)にて電気泳動した。電気泳動後、クマシーブリリアントブルー(以下、CBBと略する)染色によりタンパク質を可視化することにより組換えタンパク質の発現確認を行なった。
また、大腸菌からの精製方法を検討するため、以下のサンプルをも調製した。
上記で得られた細胞破砕処理液を4000×gにて4℃で30分間の遠心分離を行ない、上澄み液を収集した。以下、サンプルI−2と称する。
上記で得られた細胞破砕処理液に対して、68℃で10分間の熱処理を行なった。続いて、0℃に急冷却した後、4000×gにて4℃で30分間の遠心分離を行ない、上澄み液を収集した。以下、サンプルI−3と称する。
上記で得られた細胞破砕処理液に対して、緩衝液−B、緩衝液−Cの順で透析を行なった。透析後、100mMトリス−酢酸(pH3.0)にて酸処理を行なった後、4000×gにて4℃で30分間の遠心分離を行ない、上澄み液を収集した。以下、サンプルI−4と称する。
上記で得られたサンプルI−2〜4をサンプルI−1と同様の手順に従い、SDS−PAGEに供し、組換えタンパク質の発現確認を行なった。
ここで、使用した緩衝液の組成は以下の通りである。
緩衝液−A:
50mM トリス−塩酸(pH7.5)、5mM B−メルカプトエタノール、2mM EDTA、100mM NaCl
緩衝液−B:
50mM トリス−塩酸、0.2mM EDTA、0.1mM DTT
緩衝液−C:
50mM トリス−塩酸、0.2mM EDTA、0.1mM DTT、50% グリセロール
また、上記手順に従って、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を調製した後、上記と同様のサンプルを調製した。以下、サンプルII−1〜4と称する。なお、形質転換体の調製は、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子のPCR増幅産物に代えて、上記実施例1で取得されたT.aquaticusカタラーゼ遺伝子のPCR増幅産物(プライマーセットCによる増幅断片、即ち、実施例1のサンプル3)を用いた以外は、上記と同様に行なった。そして、上記手順に従って、サンプルII−1〜4を電気泳動に供した。
そして、上記M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのサンプル調製において、68℃にて10分間の熱処理に代えて、55℃にて10分間の熱処理を行なったサンプルを調製した。以下、サンプルIII−1〜4と称する。上記手順に従って、サンプルIII−1〜4を電気泳動に供した。
更に、上記T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのサンプル調製において、68℃にて10分間の熱処理に代えて、55℃にて10分間の熱処理を行なったサンプルを調製した。以下、サンプルIV−1〜4と称する。上記手順に従って、サンプルIV−1〜4を電気泳動に供した。
更に、His-tagが付加されたM.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を調製した。プラスミドDNAとしてpET22bに代えて、pET28a(Novagen社製)を用いた以外は、上記と同様に調製した。
(結果)
結果を図5に示す。
図5(A)中、レーン1〜4は、夫々、サンプルI−1〜4に対応する。即ち、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、熱処理を、68℃にて10分間の条件下にて行なったサンプルである。
詳細には、図5(A)中、レーン1は、サンプルI−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図5(A)中、レーン2は、サンプルI−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(A)中、レーン3は、サンプルI−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(A)中、レーン4は、サンプルI−4(超音波破砕処理+透析+酸処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(B)中、レーン1〜4は、夫々、サンプルII−1〜4に対応する。即ち、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、熱処理を、68℃にて10分間の条件下にて行なったサンプルである。
詳細には、図5(B)中、レーン1は、サンプルII−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図5(B)中、レーン2は、サンプルII−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(B)中、レーン3は、サンプルII−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(B)中、レーン4は、サンプルII−4(超音波破砕処理+透析+酸処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(C)中、レーン1〜4は、夫々、サンプルI−1〜4に対応する。即ち、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、熱処理を、55℃にて10分間の条件下にて行なったサンプルである。
詳細には、図5(C)中、レーン1は、サンプルIII−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図5(C)中、レーン2は、サンプルIII−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(C)中、レーン3は、サンプルIII−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(C)中、レーン4は、サンプルIII−4(超音波破砕処理+透析+酸処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(D)中、レーン1〜4は、夫々、サンプルIV−1〜4に対応する。即ち、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、熱処理を、55℃にて10分間の条件下にて行なったサンプルである。
詳細には、図5(D)中、レーン1は、サンプルIV−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図5(D)中、レーン2は、サンプルIV−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(D)中、レーン3は、サンプルIV−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図5(D)中、レーン4は、サンプルIV−4(超音波破砕処理+透析+酸処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
また、図5中、レーンMはタンパクサイズマーカー(Pre-stained protein marker:NEN社製)の電気泳動結果を示す。
図5の結果より、M.hakonensisカタラーゼが大腸菌を宿主として発現できることが確認された(図5(A)及び図5(C))。さらに、精製過程において熱処理を施すことにより精製度が向上することが確認された(図5(A)レーン1及び2と、レーン3の比較、並びに図5(C)レーン1及び2と、レーン3の比較)。また、より温度の高い68℃での処理を行なう方が、低い温度の熱処理に比べて精製度が向上することが確認された(図5(A)レーン3と図5(C)レーン3の比較)。以上の結果から、大腸菌を宿主細胞として発現させたM.hakonensisカタラーゼは、70℃付近まで安定な分子構造を有するタンパク質であることが判明した。したがって、宿主細胞である大腸菌由来のタンパク質は変性し凝縮することから、精製過程において熱処理を施すことにより、M.hakonensisカタラーゼを粗精製可能であることが判明した。
また、図5の結果より、T.aquaticusカタラーゼが大腸菌を宿主として発現できることが確認された(図5(B)及び図5(D))。しかしながら、精製過程において熱処理を施すことによってタンパク質のバンドが消失することが確認された(図5(B)レーン1及び2と、レーン3の比較、並びに図5(D)レーン1及び2と、レーン3の比較)。以上の結果から、大腸菌を宿主細胞として発現させたT.aquaticus カタラーゼは、熱に対して不安定な分子構造を有するタンパク質であることが判明した。したがって、T.aquaticusカタラーゼについては、熱処理による精製が適用できないことが判明した。
〔実施例5〕
組換えカタラーゼの製造方法の検討−2
実施例4に続いて、更に、大腸菌を宿主細胞として用いて、組換えカタラーゼの発現系を構築すると共に、大腸菌からの精製手法についての検討を行った。なお、本実施例においては、宿主細胞である大腸菌の培養培地に含まれる塩化マンガン濃度に関して検討を行った。
(方法)
本実施例において、宿主細胞である大腸菌の培養培地に含まれる塩化マンガン濃度の、カタラーゼの発現量、及び熱安定に与える影響に関して検討を行った。ここで、検討した塩化マンガン濃度は0.1mM、及び1mMである。
詳細には、実施例4のサンプルI−1〜3の調製において、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を、塩化マンガン添加量を10mMに代えて、0.1mMとした以外は同様にしてサンプルを調製した。以下、サンプルV−1〜3と称する。
実施例4のサンプルII−1〜3の調製において、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を、塩化マンガン添加量を10mMに代えて、0.1mMとした以外は同様にしてサンプルを調製した。以下、サンプルVI−1〜3と称する。
実施例4のサンプルIII−1〜3の調製において、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を、塩化マンガン添加量を10mMに代えて、1mMとした以外は同様にしてサンプルを調製した。以下、サンプルVII−1〜3と称する。
実施例4のサンプルIV−1〜3の調製において、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を、塩化マンガン添加量を10mMに代えて、1mMとした以外は同様にしてサンプルを調製した。以下、サンプルVIII−1〜4と称する。
サンプル調製後、実施例4の手順に従って、上記サンプルV−1〜3、VI−1〜3、VII−1〜3並びにVIII−1〜3を電気泳動に供した。
(結果)
結果を図6に示す。
図6(A)中、レーン1〜3は、夫々、サンプルV−1〜3に対応する。即ち、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、培養を0.1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行なったサンプルである。
詳細には、図6(A)中、レーン1は、サンプルV−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図6(A)中、レーン2は、サンプルV−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(A)中、レーン3は、サンプルV−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(A)中、レーン4〜6は、夫々、サンプルVI−1〜3に対応する。即ち、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、培養を0.1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行なったサンプルである。
詳細には、図6(A)中、レーン4は、サンプルVI−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図6(A)中、レーン5は、サンプルVI−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(A)中、レーン6は、サンプルVI−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン1〜3は、夫々、サンプルVII−1〜3に対応する。即ち、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、培養を1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行なったサンプルである。
詳細には、図6(B)中、レーン1は、サンプルVII−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン2は、サンプルVII−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン3は、サンプルVII−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン4〜6は、夫々、サンプルVIII−1〜3に対応する。即ち、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からのカタラーゼの製造を検討した結果であり、培養を1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行なったサンプルである。
詳細には、図6(B)中、レーン4は、サンプルVIII−1(超音波破砕処理+蛋白可溶化処理)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン5は、サンプルVIII−2(超音波破砕処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
図6(B)中、レーン6は、サンプルVIII−3(超音波破砕処理+熱処理+遠心分離)の電気泳動結果を示す。
なお、図6(A)、及び図6(B)中、レーンMはタンパクサイズマーカー(Pre-stained protein marker:NEN社製)の電気泳動結果を示す。
M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を0.1mM、1mMの塩化マンガンを含有する培地で培養した場合に取得された組換えタンパク質は、いずれも熱処理に対して安定であることが確認された(図6(A)レーン1及び2と、レーン3の比較、図6(B)レーン1及び2と、レーン3の比較)。したがって、大腸菌で発現させたM.hakonensisカタラーゼは、上述の実施例4の結果と併せて、塩化マグネシウムの有無に係わらず、熱に対して安定であることが判明した。
一方、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を0.1mM、1mMの塩化マンガンを含有する培地で培養した場合に取得された組換えタンパク質は、いずれも熱処理に対して不安定であることが確認された(図6(A)レーン4及び5と、レーン6の比較、図6(B)レーン4及び5と、レーン6の比較)。したがって、大腸菌で発現させたT.aquaticusカタラーゼは、塩化マグネシウムの有無に係わらず、熱に対して不安定なタンパク質であることが判明した。
〔実施例6〕
組換えカタラーゼの製造方法の検討−3
大腸菌を宿主細胞として用いて、組換えカタラーゼの発現系を構築すると共に、大腸菌からの精製手法についての検討を行った。本実施例においては、異なる塩化マンガン濃度で形質転換体を培養することにより製造した組換えカタラーゼについてカタラーゼ活性の測定を行い、塩化マンガン濃度が組換えカタラーゼの活性に与える影響を検討した。
(方法)
上記実施例5において調製された組換えカタラーゼの活性を測定することにより、培養時における塩化マンガン濃度の活性に与える影響を検討した。ここで、検討したサンプルは、実施例5で調製したサンプルV−3、VI−3、VII−3、及びVIII−3である。
即ち、サンプルV−3、及びVII−3は、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からカタラーゼの製造を行ったサンプルである。そして、サンプルV−3は、形質転換体の培養を0.1mM濃度の塩化マンガンの存在下で、サンプルVII−3は、1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行ったサンプルである。
そして、サンプルVI−3、及びVIII−3は、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体からカタラーゼの製造を行ったサンプルである。そして、サンプルVI−3は、形質転換体の培養を0.1mM濃度の塩化マンガンの存在下で、サンプルVIII−3は、1mM濃度の塩化マンガンの存在下で行ったサンプルである。
ここでは、カタラーゼ活性の測定は、サンプル中の過酸化水素濃度の減少を波長240nmの吸光度を測定することによって求め、カタラーゼ活性とした。
詳細には、0.1%過酸化水素と、上記で取得したカタラーゼサンプル100μLとを、50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に混合し、60℃にて30分間反応させた。反応後、過酸化水素濃度を波長240nmの吸光度で測定し、過酸化水素の分解量を求めてカタラーゼ活性とした。そして、サンプルVII−3(即ち、形質転換体:M.hakonensisカタラーゼ、塩化マンガン濃度:0.1mM)による過酸化水素の分解量を100%として、各サンプルについて相対活性を算出した。
(結果)
結果を図7に示す。
0.1mMの塩化マンガンを含む培地で培養したM.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する大腸菌から調製した組換えカタラーゼは、カタラーゼ活性を示さなかった(サンプルV−3)。一方、1mMの塩化マンガンを含む培地で培養した大腸菌から調製したカタラーゼは、高いカタラーゼ活性を示した(サンプルVII−3)。
以上の結果より、0〜0.1mMの塩化マンガン濃度下での培養では、活性の有するカタラーゼが取得できないことが判明した。一方、1mM以上の塩化マンガン濃度下での培養においては、高い活性の有するカタラーゼが取得できることが判明した。したがって、実施例4、及び5の結果とも併せて、1mM以上の塩化マンガン濃度での培養によって、熱安定性が高く、かつ、活性の高い組換えカタラーゼを製造できることが判明した。
一方、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子を保持する大腸菌から調製した組換えカタラーゼは、いずれの塩化マグネシウム濃度下でも、カタラーゼ活性が認められなかった(サンプルVI−3、及びサンプルVIII−3)。以上の結果より、T.aquaticusカタラーゼ遺伝子からのカタラーゼの製造は、塩化マンガンの有無に係わらず、熱によってその分子構造は変性し、活性を維持することができないことが判明した。
〔実施例7〕
組換えカタラーゼの活性確認−1
M.hakonensisカタラーゼのpH安定性を検討した。
(方法)
pH3.0、4.0、5.0、6.0、8.0、9.0、及び10.0の各pH条件下におけるカタラーゼ活性を測定することにより、M.hakonensisカタラーゼのpH安定性を検討した。M.hakonensisカタラーゼとしては、上記実施例5で調製したサンプルVII−3を用い、原液を100倍希釈して用いた。即ち、M.hakonensisカタラーゼ遺伝子を保持する形質転換体を1mMの塩化マンガン存在下で培養した後、菌体の超音波破砕処理、熱処理、及び遠心分離によってカタラーゼを精製単離したサンプルを用いた。
ここで、各pH環境を調製するための緩衝液は以下の通り調製した。
pH3.0、及び4.0の各緩衝液は、50mMの酢酸緩衝液にて調製し、所望のpH条件に調整した。
pH5.0、6.0、7.0、及び8.0の各緩衝液は、50mMのリン酸緩衝液にて調製し、所望のpH条件に調整した。
pH9.0、及び10.0の各緩衝液は、50mMのグリシン−NaOH緩衝液にて調製し、所望のpH条件に調整した。
ここで、カタラーゼ活性の測定は、実施例6と同様に行なった。詳細には、0.1%過酸化水素を含む各pH緩衝液200μLのサンプルと、1μgのM.hakonensisカタラーゼを含む各pH緩衝液200μLのサンプルを調製した。調製後の各サンプルを、室温で20分間放置した後に等量混合した。混合後、過酸化水素濃度を波長240nmの吸光度で測定し、過酸化水素の分解量を求めた。そして、pH8.0での過酸化水素の分解量を100%とした、各処理pHについての処理後の相対活性を算出した。
(結果)
結果を図8に示す。
pH5.0においても、pH8.0における約40%のカタラーゼ活性を保持できることが確認された。また、PH4.0においても約20%のカタラーゼ活性を残存していることが確認された。以上の結果より、酸性条件下においても、本発明のカタラーゼは、その活性を残存できることが判明した。また、アルカリ性条件下においても、pH9.0〜10.0においてもカタラーゼ活性を実質的に保持できることが確認された。また、pH11.0、若しくはpH12.0付近まで活性を維持できることが推測される。
以上の結果より、本発明のカタラーゼは広範なpH領域でその活性を安定的して発揮できる産業上利用価値の高い酵素であることが判明した。
〔実施例8〕
組換えカタラーゼの活性確認
M.hakonensisカタラーゼの熱安定性を更に検討した。
(方法)
30、40、50、60、70、80、及び90℃の各温度条件下におけるカタラーゼ活性を測定することにより、M.hakonensisカタラーゼの熱安定性を検討した。ここで、M.hakonensisカタラーゼとしては、実施例7で活性測定に用いたのと同じサンプル、即ち、実施例5で調製したサンプルVII−3を用いた。
カタラーゼ活性の測定は、上記実施例6と同様に行なった。詳細には、0.1%過酸化水素を含む200μLの50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)のサンプルと、1μgのM.hakonensisカタラーゼを含む200μLの100μLの50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)のサンプルを調製した。調製後の各サンプルを、30〜90℃の各温度で20分間保温した後に等量混合した。混合後、過酸化水素濃度の減少を波長240nmの吸光度で測定し、過酸化水素の分解量を求めた。次いで、30℃での過酸化水素の分解量を100%とした、各処理温度についての熱処理後の相対活性を算出した。
(結果)
結果を図9に示す。
30℃〜60℃においては、M.hakonensisカタラーゼは、ほぼ100%の活性を保持できることが確認できた。また、70℃においても、50%のカタラーゼ活性を残存できることが確認でき、80〜90℃においても20〜30%程度の活性を残存できることが確認できた。以上の結果より、本発明で製造されたM.hakonensisカタラーゼは、高温条件下においても安定してその活性を発揮できる熱安定性に優れた酵素であることが判明した。
以上の結果、及び上記実施例4、5、及び6の結果とも併せて、本発明で製造されたM.hakonensisカタラーゼは耐熱耐酸性を有し、広範な産業分野において利用価値の高い酵素であることが理解される。
〔実施例9〕
組換えカタラーゼの活性確認−3
実施例8に続いて、M.hakonensisカタラーゼの熱安定性を更に検討した。
(方法)
60、70、80、90℃の各温度条件下におけるカタラーゼ活性を測定することにより、M.hakonensisカタラーゼの熱安定性を検討した。ここで、M.hakonensisカタラーゼとしては、実施例7、及び8で活性測定に用いたのと同じサンプル、即ち、実施例5で調製したサンプルVII−3を用いた。
カタラーゼ活性の測定は、以下の通り行った。実施例5で調製したサンプルVII−3を100μLの50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に混合した。混合後、60〜90℃の各温度で0〜50分間インキュベートした後、更に60℃で30分間反応させた。反応後、過酸化水素濃度の減少を波長240nmの吸光度で測定し、過酸化水素の分解量を求めた。次いで、インキュベーション0時間でのサンプルにおけるカタラーゼの過酸化水素の分解量を100%とした各処理温度における熱処理後のサンプルの相対活性を算出した。
(結果)
結果を図10に示す。
1mMの塩化マンガンを含む培地で培養した大腸菌から調製したM.hakonensisカタラーゼは、80℃までの熱処理に対して安定した活性を示すことが確認された。詳細には、60℃までの熱処理に対しては、M.hakonensisカタラーゼ活性の実質的な低下は確認されなかった。また、70℃にて50分間の熱処理に対しては、M.hakonensisカタラーゼ活性は60%以上の活性を、80℃にて50分間の熱処理に対しても、M.hakonensisカタラーゼ活性は20%以上の活性を保持できることが確認された。
以上の結果、及び上記実施例4、5、6、及び8の結果とも併せて、本発明で製造されたM.hakonensisカタラーゼは耐熱性を有し、広範な産業分野において利用価値の高い酵素であることが理解される。
〔実施例10〕
組換えカタラーゼの活性確認−4
カタラーゼ阻害剤として知られているアジ化ナトリウムによって、その活性が影響されるかどうかを検討することにより、M.hakonensisカタラーゼの反応機構の解明を行なった。
(方法)
カタラーゼ阻害剤であるアジ化ナトリウム存在下におけるM.hakonensisカタラーゼの活性に与える影響を検討した。M.hakonensisカタラーゼとしては、実施例7、8、及び9で活性測定に用いたのと同じサンプル、即ち、実施例5で調製したサンプルVII−3を用いた。
カタラーゼ阻害剤としては、アジ化ナトリウムを使用した。アジ化ナトリウムは、強力なカタラーゼ阻害剤であり、カタラーゼの活性部位における鉄イオンと結合することによってカタラーゼ活性を阻害する。かかる作用機構により、所謂、ヘム型カタラーゼの活性を阻害する。一方で、所謂、マンガン型カタラーゼの活性を阻害することはできないことが知られている。
アジ化ナトリウムとの接触、及びカタラーゼ活性の測定は、以下の通り行った。実施例5で調製したサンプルVII−3を10%過酸化水素及び0〜50mMのアジ化ナトリウムを含む100μLの50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に混合した後、60℃にて30分間反応させた。反応後、過酸化水素濃度の減少を波長240nmの吸光度で測定し、過酸化水素の分解量を求めた。次いで、アジ化ナトリウム不在下でのサンプルにおけるカタラーゼの過酸化水素の分解量を100%とした、アジ化ナトリウム処理後サンプルにおける相対活性を算出した。
コントロールとして、ヘム型カタラーゼであるマウス肝臓抽出カタラーゼ調製液(SIGMA社製)についても上記と同様に活性の測定を行なった。
(結果)
結果を図11に示す。
本発明により製造されたM.hakonensisカタラーゼは、アジ化ナトリウムによっては、その酵素活性が影響されなかった。
一方、コントロールとして用いたマウス肝臓抽出カタラーゼ調製液は、アジ化ナトリウムによってその酵素活性が阻害された。
以上の結果より、本発明のM.hakonensisカタラーゼがヘム型カタラーゼではなく、マンガン型カタラーゼであろうことが理解される。
M.hakonensisカタラーゼ遺伝子のクローニングを検討した実施例1の結果を示す電気泳動図 M.hakonensisカタラーゼ遺伝子の塩基配列と、その推定アミノ酸配列を示す配列データ T.aquaticusカタラーゼ遺伝子の塩基配列と、その推定アミノ酸配列を示す配列データ M.hakonensisカタラーゼと、既知の高度好熱菌カタラーゼのアミノ酸配列のアラインメント図 (A) 組換えM.hakonensisカタラーゼの製造及び精製方法(熱処理:68℃)を検討した実施例4の結果を示す電気泳動図、(B) 組換えT.aquaticusカタラーゼの製造及び精製方法(熱処理:68℃)を検討した実施例4の結果を示す電気泳動図、(C) 組換えM.hakonensisカタラーゼの製造及び精製方法(熱処理:55℃)を検討した実施例4の結果を示す電気泳動図、(D) 組換えT.aquaticusカタラーゼの製造及び精製方法(熱処理:55℃)を検討した実施例4の結果を示す電気泳動図 (A) 組換えM.hakonensisカタラーゼ、及び組換えT.aquaticusカタラーゼの製造及び精製方法(塩化マンガン濃度:0.1mM)を検討した実施例5の結果を示す電気泳動図、(B) 組換えM.hakonensisカタラーゼ、及び組換えT.aquaticusカタラーゼの製造及び精製方法(塩化マンガン濃度:1mM)を検討した実施例5の結果を示す電気泳動図 組換えM.hakonensisカタラーゼ、及び組換えT.aquaticusカタラーゼの活性確認(塩化マンガン濃度:0.1、1mM)を行なった実施例6の結果を示すグラフ M.hakonensisカタラーゼの活性確認(pH安定性の検討)を検討した実施例7の結果を示すグラフ M.hakonensisカタラーゼの活性確認(熱安定性)を検討した実施例8の結果を示すグラフ M.hakonensisカタラーゼの活性確認(熱安定性)を検討した実施例9の結果を示すグラフ M.hakonensisカタラーゼの活性確認(アジ化ナトリウムへの耐性)を検討した実施例10の結果を示すグラフ

Claims (15)

  1. 下記の性質を有する耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質。
    (A)作用:過酸化水素に作用して水と酸素に分解する
    (B)熱安定性:pH7.0の下、30℃〜50℃で20分間の熱処理により95%以上、60℃での熱処理により80%以上、70℃での熱処理により50%以上のカタラーゼ活性が残存する
    (C)pH安定性:pH6.0〜10.0の下、室温で20分間の処理により95%以上、pH5での処理により40%以上、pH4での処理により20%以上のカタラーゼ活性が残存する
    (D)分子量:33〜35kDaである
    (E)由来:好熱性菌由来である
  2. 好熱好酸性菌由来である請求項1に記載のタンパク質。
  3. 以下の(a)または(b)のタンパク質。
    (a)配列認識番号2に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
    (b)配列認識番号2に示すアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ、耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質
  4. 配列認識番号4又は配列認識番号6のアミノ酸配列からなる請求項3に記載のタンパク質
  5. 耐熱、耐酸性カタラーゼ活性を有する請求項3又は4に記載のタンパク質。
  6. 請求項3〜5のいずれか一項に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  7. 以下の(c)または(d)のポリヌクレオチドからなる遺伝子。
    (c)配列認識番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチド
    (d)配列認識番号1に示す塩基配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
  8. 配列認識番号3又は配列認識番号5の塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる請求項7に記載の遺伝子。
  9. 耐熱、耐酸性カタラーゼ活性を有するタンパク質をコードする請求項7又は8に記載の遺伝子。
  10. 請求項7〜9のいずれか一項に記載の遺伝子を含有する組換えベクター
  11. 請求項10に記載の組換えベクターを含有する形質転換体。
  12. 請求項11に記載の形質転換体を培養し、得られた培養物から耐熱性カタラーゼ活性を有するタンパク質を採取する耐熱性カタラーゼの製造方法。
  13. 前記形質転換体が大腸菌である場合に、1〜5mMの塩化マンガンを含有する培地で培養する請求項12に記載の耐熱性カタラーゼの製造方法。
  14. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質を、過酸化水素に接触させることにより、過酸化水素を分解する過酸化水素の分解方法。
  15. 燃料電池の正極側で副生される過酸化水素を分解する請求項14に記載の過酸化水素の分解方法。
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