本発明は圧電磁器、及び圧電部品に関し、より詳しくはPbを含有した圧電セラミックを主成分とする圧電磁器、及び狭帯域のフィルタ用に使用される圧電セラミック発振子等の圧電部品に関する。
圧電セラミック発振子では、温度変化やリフロー処理などの熱衝撃等、外部環境の変化に対して発振周波数の変動を小さくし、高精度化することが求められている。
そして、例えば、特許文献1には、Pbα{(Mn1/3Nb2/3)xZryTiz}O3(ただし、1.00≦α≦1.05、0.07≦x≦0.28、0.42≦y≦0.62、0.18≦z≦0.45、x+y+z=1)で表される主成分100重量部にMn3O4を0.3〜0.8重量部添加した圧電磁器組成物が提案されている。
特許文献1は、上記組成を具備することにより、厚みすべりモード共振を利用したフィルタ、発振子に適した、耐熱性に優れ、熱衝撃負荷後の共振周波数変化が極めて小さく、温度サイクルによる共振周波数変化が小さい圧電磁器組成物を得ることができる。
また、特許文献2には、少なくともPb、Sr、Zr、Ti、Mn、Nb、Si及びAlを含み、一般式:(Pba Srb )(ZrcTid Mne Nbf )O3(0.93≦a≦1.01、0.01≦b≦0.04、0.37≦c≦0.47、0.48≦d≦0.58、0.0105≦e≦0.06、0.02≦f≦0.06、及び1.05≦2e/f≦2の各条件を満たす組成を有する主成分を含むと共に、副成分として、前記主成分に対して0.003重量%以上0.1重量%以下のSiO2 および0.003重量%以上0.1重量%以下のAl2 O3 を含む圧電磁器材料が提案されている。
特許文献2は、上記組成を具備することにより、電気機械結合係数kが小さく、共振抵抗Zrが小さく、かつ共振周波数の温度依存性の小さい圧電磁器材料を得ることができる。
さらに、特許文献3には、Pb(Mg1/3Nb2/3)ATiBZrCO3(A+B+C=1モル)とMnO2から成る基本組成にAl2O3を含有させ、仮焼後本焼成前の粉砕された平均粒子径を1μm以下とする圧電磁器材料の製造方法が提案されている。
特許文献3は、上記基本組成にAl2O3を含有させることにより、Al2O3が基本組成の結晶粒界に析出して結晶の粒成長が抑制され、これにより結晶粒度が揃い、機械的強度の向上を図ることができると共に、電気的特性のバラツキを抑制することが可能となる。
特開2000−103674号公報
特開2000−327419号公報
特開平8−198671号公報
しかしながら、特許文献1は、温度変化や熱衝撃に対しては発振周波数の変動を或る程度抑制できるものの、共振子としての帯域が広いため、基板実装後に回路からの影響を受けやすく、発振周波数の変動を十分に抑制することができないという問題点があった。
また、特許文献2には、圧電磁器材料(圧電セラミック)中にSiO2やAl2O3を所定量含有させることにより電気機械結合係数kを小さくできることについての示唆があり、これにより共振器の帯域を狭くして基板実装後の回路の影響を受け難くすることを可能としている。
しかしながら、特許文献2では、電気機械結合係数kの低下が不十分であった。
一般に、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」という。)を主成分とするPZT系圧電磁器材料は正方晶の比率が高いため、電気機械結合係数kが小さくなると、共振点―反共振点間における位相角の最大値(以下、「最大位相」という。)θmaxが低下して発振特性が悪化し、さらには共振周波数の温度変化率も悪化すると考えられている。また、共振抵抗Zrも高いという問題があった。
すなわち、特許文献2は、電気機械結合係数kを小さくすることを意図しているものの十分に小さくすることができず、しかも共振抵抗Zrが高いことから、最大位相θmaxが低下して発振特性の悪化を招くおそれがあると考えられる。
しかも、特許文献2では、共振周波数の温度変化率fr−Tcが大きく、このため高精度で信頼性の優れた圧電セラミック発振子を得ることができないという問題もあった。
また、特許文献3は、基本組成にAl2O3を含有させることにより、電気的特性のバラツキを抑制することができ、また、Al2O3の含有量を増量することによって電気機械結合係数kが小さくなっているが、Al2O3の含有量が2.5重量%を超えると抗折強度が低下して機械的強度の劣化を招くとされている。また、発振特性の指標となる最大位相θmax及び共振周波数の温度変化率fr−Tcについては何ら触れられておらず、したがって特許文献3の圧電磁器材料を使用しても高精度で信頼性の優れた圧電セラミック発振子を得ることは困難であると考えられる。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、基板実装後の回路からの影響を受けにくく、外部環境の変化に対しても発振周波数の変動を抑制することができ、かつ良好な発振特性を有し、しかも共振周波数の温度特性や耐熱性が良好で共振抵抗も小さく機械的強度にも優れた圧電磁器、及び該圧電磁器を使用して製造することにより高精度で信頼性の優れた圧電セラミック発振子等の圧電部品を提供することを目的とする。
上述したように圧電セラミック発振子では、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し発振周波数の変動を抑制するのが望まれており、そのためには電気機械結合係数を小さくする必要がある。また、良好な発振特性を得るためには最大位相θmaxの大きいことが要求される。
しかしながら、〔発明が解決しようとする課題〕の項でも述べた理由から、PZT系圧電セラミックでは、一般に電気機械結合係数が小さくなると最大位相θmaxも低下すると考えられており、また、特許文献3にも記載されているように、Al2O3を添加した場合であっても、単に増量しただけでは抗折強度τが低下し、機械的強度の劣化を招く。
しかるに、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、PZT系圧電セラミックを主成分とする場合であっても、大量のAl2O3を前記主成分に添加することによってAl2O3粒子の凝集体を生成し、該凝集体を主成分粒子の結晶粒内、結晶粒界又は三重点に析出させてAl偏析部を形成し、かつ該Al偏析部を圧電磁器中に分散させることにより、最大位相θmaxの低下を招くことなく、電気機械結合係数kを小さくすることができるという知見を得た。
また、圧電磁器をこのような形態とすることにより、共振周波数の温度変化率を小さくすることができ、しかも耐熱性にも優れ、共振抵抗Zrも小さくすることができ、さらに抗折強度τも大きく周波数定数も高い圧電磁器を得ることができるという知見も得た。
具体的には、Pb系圧電セラミックからなる主成分100容量部に対し、AlをAl2O3換算で10〜40容量部となるように配合し、十分に長時間湿式で粉砕処理等を行い、その後焼成処理を行うことにより、Al凝集体の存在比率(以下、「Al存在比」という。)が25μm□の領域内で50%以上を占める複数のAl偏析部を形成することができ、しかもAl偏析部同士の平均離間距離が、中心間距離で100μm以上となるように、Al偏析部を圧電磁器中に分散させることができる。そして、このようにすることにより最大位相θmaxの低下を招くことなく、電気機械結合係数kを小さくすることができ、共振抵抗Zrも小さく、共振周波数の温度変化率も小さく、耐熱性にも優れ、しかも機械的強度の優れた圧電磁器を得ることができるという知見を得た。
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る圧電磁器は、主成分が、少なくともPbを含有した圧電セラミックからなると共に、前記主成分100容量部に対しAlがAl2O3換算で10〜40容量部含有され、 Al凝集体の存在比率であるAl存在比が、25μm□の領域内で50%以上の面積比率を有する複数のAl偏析部が形成され、かつ前記Al偏析部同士の平均離間距離は、中心間距離で100μm以上であることを特徴としている。
また、このような圧電磁器の断面を観察したところ、Al偏析部は面積比で0.3〜1.0%の割合で圧電磁器中に分散していることが分かった。
すなわち、本発明の圧電磁器は、前記Al偏析部の存在比率が、断面における面積比で0.3〜1.0%であることを特徴としている。
また、大量のAl2O3を含有させた場合に焼結性の低下を招くおそれがあるが、斯かる焼結不足を招かないという観点からは、主成分として、Pb(Zr,Ti)O3系化合物と、Pb(Mn,Nb)O3系化合物及びPb(Ni,Nb)O3系化合物のうちの少なくともいずれか一方とを含むのが好ましい。
すなわち、本発明の圧電磁器は、主成分として、Pb(Zr,Ti)O3系化合物と、Pb(Mn,Nb)O3系化合物及びPb(Ni,Nb)O3系化合物のうちの少なくともいずれか一方とを含むことを特徴としている。
また、本発明に係る圧電部品は、圧電磁器の両主面に電極が形成された圧電部品において、前記圧電磁器が、上記記載の圧電磁器で形成されていることを特徴としている。
本発明の圧電磁器によれば、主成分が、少なくともPbを含有した圧電セラミックからなると共に、前記主成分100容量部に対しAlがAl2O3換算で10〜40容量部含有され、Al存在比が、25μm□の領域内で50%以上の面積比率を有する複数のAl偏析部が形成され、かつ前記Al偏析部同士の平均離間距離が、中心間距離で100μm以上であるので、電気機械結合係数kを小さくすることができ、したがって温度変化や熱衝撃のみならず、基板実装後の回路からの影響も受け難く、これら外部環境に起因した発振周波数の変動を抑制することができる。
また、本発明のような構造を有することで、たとえ電気機械結合係数kが急激に小さくなっても、最大位相θmaxの低下を極力防ぐことができることを見出した。これにより、発振特性の悪化を招くこともなく、低電圧でも安定した発振が可能となる。さらに、共振周波数の温度変化率fr−Tcが小さいことから安定した共振周波数を確保することができ、耐熱性にも優れていることからリフロー処理で加熱されても素子が損傷するのを回避することができる。また、機械的強度の指標となる抗折強度τも大きいことから機械的強度にも優れ、素子の薄型化や高周波化が可能な圧電磁器を実現することができる。
具体的には、電気機械結合係数k15が40%以下であっても、最大位相θmaxが余り低下せずに87.9°以上を確保することができ、共振周波数frの温度変化率が−30〜+30ppm/℃、耐熱性の指標となる反共振周波数faの変化率が−0.10〜+0.10%、機械的強度の指標となる抗折強度τが180MPa以上であって共振抵抗Zrが3.9Ω以下の圧電磁器を得ることができる。
また、前記Al偏析部の存在比率を、圧電磁器焼結体の断面における面積比で0.3〜1.0%の割合でAl偏析部を分散せることにより、上述した作用効果を奏することができる。
また、前記主成分が、Zr及びTiを含有したPb(Zr,Ti)O3系化合物とPb(Mn,Nb)O3系化合物及びPb(Ni,Nb)O3系化合物のうちの少なくともいずれか一方とを含むので、大量のAl2O3を含有させても焼結不足を招くこともなく良好な機械的強度を有する圧電磁器を得ることができる。
また、本発明に係る圧電部品は、圧電磁器の両主面に電極が形成された圧電部品において、前記圧電磁器が、上記記載の圧電磁器で形成されているので、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響を受けることなく発振周波数の変動を抑制することができ、良好な発振特性を有し、しかも共振周波数の温度特性や耐熱性も良好であり、機械的強度にも優れた高精度かつ信頼性の優れた圧電発振子等の圧電部品を得ることができる。
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
図1は本発明に係る圧電磁器の一実施の形態を模式的に示した断面図である。
本発明の圧電磁器は、主成分1がPZT等のPb系圧電セラミックからなり、前記主成分100容量部に対し、Al2O3が10〜40容量部含有されており、大部分のAl2O3は主成分1と固溶せず、Al2O3粒子同士が主成分1の結晶粒内、結晶粒界又は三重点に析出し、凝集体を生成してAl偏析部2を形成している。
ここで、本発明で定義するAl偏析部2とは、所定領域3(例えば、一辺がXの正方形領域)においてAl2O3粒子の凝集体の存在比率、すなわちAl存在比が面積比率で50%以上を占める領域をいう。具体的には、本実施の形態では、一辺Xが25μmである25μm□を所定領域3とし、斯かる所定領域3内でAl存在比が面積比率で50%以上の領域をAl偏析部2としている。
したがって、Al2O3粒子の凝集体が主成分1の結晶粒内、結晶粒界や三重点に析出していても、所定領域3内でのAl2O3粒子の凝集体が面積比率で50%未満の場合は、本発明で定義するAl偏析部2を形成しないこととなる。
そして、前記Al偏析部2は、その存在比率が、圧電磁器の断面における面積比で0.3〜1.0%となるように圧電磁器中に分散されており、Al偏析部2同士の平均離間距離Lは、Al偏析部2の最長辺を直径とした時の中心間距離(重心)で、100μm以上となるように形成されている。すなわち、Al偏析部2同士は互いに過度に近接しないように適度な平均離間距離Lを有して圧電磁器上に略均一に分散されている。
尚、凝集体としてのAl偏析物2の平均離間距離Lの上限は約250μmが好ましい。
ここで、Alの含有量を上述のように限定したのは以下の理由による。
Alの含有量が主成分100容量部に対し10容量部未満の場合は、Alの含有量が少なく、上述した形態のAl偏析部2を形成することができず、このため電気機械結合係数kも小さくできず、また、抗折強度τの低下を招く。
一方、Alの含有量が主成分100容量部に対し40容量部を超えると、Al偏析部2の圧電磁器に占める比率が多くなり過ぎて最大位相θmaxの低下を招く。
このような理由から本圧電磁器では、主成分100容量部に対し、Al2O3を10〜40容量部含有させている。そして好ましくは主成分100容量部に対しAl2O3を20〜40容量部とするのが望ましく、これにより電気機械結合係数kが35%以下であり、共振周波数の温度変化率fr−Tcが20ppm/℃以下と小さいながらも、最大位相θmaxがほとんど低下しない圧電磁器を得ることができる。
このように本実施の形態では、Pb系圧電セラミックからなる主成分100容量部に対し、Al2O3を10〜40容量部含有させ、Al存在比が25μm□の領域内で50%以上の面積比率を有する複数のAl偏析部を形成し、かつ、Al偏析部2同士の平均離間距離Lは100μm以上となるように分散させることにより、最大位相θmaxの低下を招くことなく電気機械結合係数kを小さくすることができ、したがって基板実装後にも回路からの影響を受けることがなく発振周波数の変動を抑制することができ、また良好な発振特性を有することとなって圧電部品の高精度化を実現することが可能となる。
また、上述のように電気機械結合係数kを小さくすることができるにも拘わらず、最大位相θmaxの低下を抑制することができるのは、大量のAl2O3粒子の凝集体であるAl偏析部2が近接しないように均一に分散させることによって誘電損失tanδを小さくすることができるためと考えられる。
すなわち、誘電損失tanδが小さいとQmax値(=1/tanδ)が大きくなるが、Qmax値が大きくなると発振性が安定し、低電圧で安定した駆動が可能となる。
したがって、Al偏析部2同士が過度に近接しないように均一に分散させることによって、誘電損失tanδを小さくすることができ、これにより最大位相θmaxが低下するのを回避できるものと思われる。
さらに、本発明では、上述したように均一分散されたAl偏析部2を形成することにより、良好な共振周波数の温度変化率fr−Tcを得ることができ、しかも耐熱性の劣化をも防ぐことができる。これは、Al2O3粒子の凝集体が、主成分である圧電セラミックと殆ど固溶せずに大部分が結晶粒内、結晶粒界、或いは三重点に析出するため、主成分粒子の結晶構造に影響を与えないためと考えられる。
また、本発明では、上述したように主成分100容量部に対し10〜40容量部という大量のAl2O3を含有させながらもAl偏析部2を圧電磁器中に分散させた構成とすることにより、クラック等も生じず、大きな抗折強度τを有し、しかも周波数定数も高く、機械的強度が良好で薄型化を図ることができ、素子の高周波化が可能な圧電磁器を得ることができる。
尚、大量のAl2O3を圧電磁器に含有させると焼結性の低下を招くおそれがあることから、主成分となる圧電セラミック中には、Mn、Ni、Cr、Nb、W等を含有させるのも好ましく、例えば、第3成分として、Pb(Mn,Nb)O3やPb(Ni,Nb)O3をPZT(PbZrO3−PbTiO3)に固溶させるのも好ましい。
図2は上記圧電磁器を使用して製造された圧電部品としての圧電セラミック発振子の一実施の形態を示す断面図である。
該圧電セラミック発振子は、上記圧電磁器と、該圧電磁器の一方の端部が表面露出する形態で前記圧電磁器の両主面に形成された対向電極5a、5bとからなり、矢印A方向に分極処理がなされ、厚みすべりモードで駆動するように構成されている。
次に、上記圧電セラミック発振子の製造方法を説明する。
まず、圧電セラミック素原料としてPbO等の鉛化合物、ZrO2等のジルコニウム化合物、TiO2等のチタン化合物、及び必要に応じてMnO、Nb2O5、NiO、SiO2等の遷移金属系化合物を用意する。
そして、主成分となる圧電セラミックが、所定組成となるように前記圧電セラミック素原料を秤量する。
次いで、非圧電セラミック素原料であるAl2O3を用意し、前記圧電セラミック100容量部に対しAl2O3が10〜40容量部となるようにAl2O3を秤量する。
次に、これら秤量物を、例えば、直径1〜3mmのPSZボール(Partially Stabilized Zirconia;部分安定化ジルコニア)等の小径の粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入して十分に長時間(例えば24〜72時間)湿式で混合粉砕し、この混合物に(例えば800〜950℃)の仮焼処理を施して仮焼粉末を作製する。
次いで、この仮焼粉末に分散剤や粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入し、長時間(例えば、6〜20時間)湿式で十分に混合、粉砕し、セラミック原料を作製する。
このように本発明ではPb系圧電セラミックである主成分100容量部に対してAl2O3を10〜40容量部添加し、小径の粉砕媒体と共に長時間粉砕することにより、上述したような中心間距離で100μm以上の平均離間距離Lを有するAl偏析部2を形成することが可能となる。
そしてこの後、このセラミック原料を乾燥させた後、造粒処理を施して粉末状とし、その後プレス加工を施して所定寸法のセラミック成形体を作製し、その後、焼成温度1100〜1200℃で所定時間焼成処理を行い、これにより所望の圧電磁器が作製される。
尚、前記焼成処理は、焼成して得られる焼結体の密度が収束する温度を1100〜1200℃の間で適切に選定し、これを最適焼成温度として焼成するのが好ましい。
次に、この圧電磁器の主面及び側面を研磨した後、スパッタリング法等を使用して両主面に対向電極を形成し、その後所定温度に調整されたシリコンオイル中で所定の電界を所定時間負荷して分極し、次いで所定温度(例えば、150〜280℃)で熱エージング処理を施し、これにより圧電発振子が製造される。
このように本実施の形態では、圧電セラミック100容量部に対しAl2O3を10〜40容量部添加し、小径の粉砕媒体と共に十分に長時間湿式で混合・粉砕した後、焼成処理を行うことにより、平均離間距離Lが100μm以上のAl偏析部2を形成しているので、上述したように発振周波数の変動が小さく、発振特性に優れ、共振周波数の温度変化率も小さく、耐熱性が良好で機械的強度の優れた圧電発振子を容易に得ることができる。
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態では、Al2O3を圧電セラミック素原料と共に、湿式で混合粉砕した後、仮焼処理を行っているが、仮焼後にAl2O3を主成分である圧電セラミックに添加し、混合粉砕処理してもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例を具体的に説明する。
まず、セラミック素原料としてPbO、MnO、Nb2O5、ZrO2、TiO2、SiO2、及びAl2O3を用意した。
そして、主成分となる圧電セラミックの基本組成が、Pb0.99{(Mn1/3Nb2/3)0.07Zr0.42Ti0.51}O3となるようにPbO、MnO、Nb2O5、ZrO2、及びTiO2を秤量し、さらに、前記基本組成100重量部に対しMnOが0.1重量部、及びSiO2が0.045重量部含有するようにMnO及びSiO2を秤量した。次いで、圧電セラミック(主成分)100容量部に対し0〜42容量部となるようにAl2O3を秤量した。
次に、これら秤量物を粉砕媒体としての直径3mmのPSZボール及び純水と共にボールミルに投入して48時間湿式で混合粉砕し、この混合物を温度850℃で4時間仮焼し、仮焼粉末を得た。
次いで、この仮焼粉末に分散剤としてのポリビニルアルコール、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、15時間湿式で混合、粉砕し、セラミック原料を得た。
次に、このセラミック原料を乾燥させ後、造粒処理を施して粉末状とし、その後プレス加工を施して所定寸法のセラミック成形体を作製し、その後、温度1100〜1200℃の間での最適焼成温度で3時間焼成処理を行い、縦20mm、横30mm、厚み7mmからなる試料番号1〜8の圧電磁器を得た。
また、原料粉末の粉砕媒体として直径5mmのPSZボールを用い、24時間湿式混合粉砕を行った以外は試料5と同一の製造方法で試料番号9の圧電磁器を作製した。
次に、試料番号1〜9の各々について、日本電子社製:JXA8800Rを使用し、WDX(Wavelength Dispersive X-ray Spectroscopy;波長分散型X線分光法)により、以下の分析条件で各試料を分析し、25μm□の領域内でのAl2O3粒子の凝集体の存在比(Al存在比)を算出した。
〔分析条件〕
加速電圧:15kV
照射電流:100nA
ピクセル数(画素数):256×256
ピクセルサイズ(1画素の大きさ):0.1μm
1つの画素での取り込み時間:50ms
深さ方向の分析領域:約1〜2μm
また、上記のようにして規定したAl存在比が50%を越えたものをAl偏析物と定義し、SEM(Scanning Electron Microscope;走査型電子顕微鏡)を使用し、20kVの加速電圧を試料に印加した状態で写真撮影を行い、画像解析し、圧電磁器中のAl偏析物の存在比(Al偏析物存在比)を求めた。
同様にSEMを使用して20kVの加速電圧を試料に印加した状態で写真撮影を行い、画像解析し、Al偏析部の中心間距離(重心)を測定し、Al偏析部同士の離間距離の平均値、すなわち平均離間距離を求めた。
表1は試料番号1〜9のAl2O3含有量、25μm□の領域内でのAl存在比、Al偏析部存在比、及び前記平均離間距離を示している。
試料番号1は、圧電磁器中にAl2O3が全く含まれていない試料であり、特性については後述する。
試料番号2は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し2容量部と少なく、Al2O3粒子同士の凝集は少なく、Al存在比が1.9%と低く、本発明で定義するAl偏析部を形成することができなかった。
試料番号3も、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し6容量部と少なく、Al2O3粒子同士の凝集は少なく、Al存在比も8.3%と低く、Al偏析部を形成することができなかった。
試料番号8は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し42容量部と多すぎるため、Al偏析物存在比が1.21%となって1.0%を超えており、Al偏析部同士の平均離間距離が81μmと小さく、100μm未満になることが分かった。
試料番号9は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し20容量部ではあるが、原料粉末の粉砕媒体として直径が5mmの大きなPSZボールを使用しており、しかも湿式粉砕時間も24時間と短いため、Al存在比が9.3%と低く、本発明でいうAl偏析部を形成することがなかった。
これに対し試料番号4〜7は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し10〜40容量部であり、Al存在比は50%以上、Al偏析部存在比は0.32〜0.91%、Al偏析部同士の平均離間距離は106〜208μmとなって100μm以上となることが確認された。
図3は、Al2O3の含有量(容量部)とAl存在比との関係をプロットした図である。
この図3から明らかなように同じ製造条件であればAl2O3の含有量が主成分である圧電セラミック100容量部に対し10容量部以上になると、Al存在比が50%以上になることが分かる。
図4は試料番号3のSEM写真であり、図4(a)は倍率1000倍で撮影した図であり、図4(b)は要部を倍率10000倍に拡大して撮影した図である。
試料番号3は、Al含有量が主成分100容量部に対し6容量部と少ないため、図4(b)に示すようにAl2O3は凝集せずに粒子の状態で結晶粒界に析出し、しかも図4(a)に示すように粒子の状態で点在している。
一方、図5は試料番号6のSEM写真であり、図5(a)は倍率1000倍で撮影した図であり、図5(b)は要部を倍率10000倍に拡大して撮影した図である。
試料番号6は、Al含有量が主成分100容量部に対し30容量部と多いため、図5(b)に示すように、多量の微粉状のAl2O3粒子が互いに凝集してAl偏析部を形成し、該Al偏析部が結晶粒界に析出し、しかも、Al偏析部の状態で均一に分散していることが分かる。
次に、上記試料番号1〜9の圧電磁器の各側面を研磨した後、スパッタリング法を使用して両主面に対向電極を形成し、その後シリコンオイル中で電界:3.0kV/mm、処理温度:100℃、処理時間:30分の条件で分極処理を施し、次いで温度270℃に調整されたオーブンに60分間収容し、熱エージング処理を施した。
次いで、この熱エージング処理された圧電磁器を切断し、縦7mm、横2mm、厚み0.2mmからなる試料番号1〜9の厚みすべり振動モードの圧電素子を作製した。
次に、各試料番号1〜9の圧電素子について、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー社製HP4194A)を使用し、電気機械結合係数k15、最大位相θmax、比誘電率εr、周波数定数、共振周波数の温度変化率fr−Tc及び共振抵抗Zrを測定した。
電気機械結合係数k15は、0.5Vの電圧を試料に印加したときの共振周波数fr及び反共振周波数faを測定し、数式(1)に基づいて算出した。尚、電気機械結合係数k15は、40%以下のものを「良」とした。
ここで、Δfは共振周波数frと反共振周波数faとの差である。
また、最大位相θmaxは、0.5Vの電圧を試料に印加したときのインピーダンス特性を測定し、その測定結果から共振点と反共振点との間の位相角が最大となる角度を算出した。尚、最大位相θmaxは、87.9°以上のものを「良」とした。
また 比誘電率εrは、静電容量を測定し、該静電容量と試料寸法とから求めた。
また、周波数定数は反共振周波数faと圧電素子の厚みtを乗算して求めた。
さらに、共振周波数の温度変化率fr−Tcは、0.5Vの電圧を試料に印加して−40℃〜+125℃における共振周波数を測定し、数式(2)に基づいて求めた。尚、共振周波数の温度変化率fr−Tcは、−30〜+30ppm/℃の範囲内のものを「良」とし、共振周波数の温度特性を評価した。
fr−Tc=[(frmax−frmin)×{125−(−40)}/fr20)]
×106 …(2)
ここで、frmaxは−40〜+125℃における共振周波数frの最大値、frminは−40〜+125℃における共振周波数frの最小値、fr20は温度20℃における共振周波数である。
また、各試料を温度260℃に調整されたリフロー炉に1回通過させて1時間放置し、リフロー通過前の反共振周波数fa1とリフロー炉通過後1時間経過したときの反共振周波数fa2とを測定し、数式(3)に基づいて反共振周波数の変化率Δfaを算出し、耐熱性を評価した。尚、耐熱性評価は反共振周波数の変化率Δfaが−0.10〜+0.10%の範囲内のものを「良」とした。
Δfa=(fa2−fa1)/fa1×100 …(3)
また、3点曲げ試験を行って抗折強度τを測定し、機械的強度を評価した。
すなわち、各試料の両端を支持し、その中央に荷重を負荷し、各試料が破壊した時の荷重を測定して抗折強度τを算出し、機械的強度を評価した。尚、機械的強度は、抗折強度τが180MPa以上のものを「良」とした。
また、共振抵抗Zrは、0.5Vの電圧を印加してインピーダンスアナライザを用いて測定した。
表2は各測定結果を示している。
試料番号1は、Al2O3が全く含まれていないため(表1参照)、電気機械結合係数k15が44.3%となって40%を超えており、したがって外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号2は、Al2O3を含有しているものの、その含有量は主成分100容量部に対し2容量部と少なく、Al存在比が1.9%であり、Al偏析物が測定できないことから(表1参照)、電気機械結合係数k15が43.2%となって40%を超えており、したがって試料番号1と同様、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号3も、Al2O3を含有しているものの、その含有量は主成分100容量部に対し6容量部と少なく、Al存在比が8.3%であり、Al偏析物が測定できないことから(表1参照)、電気機械結合係数k15が41.3%となって40%を超えており、したがって試料番号1と同様、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号8は、Al2O3の含有量が主成分100容量部に対し42容量部と過剰であるため(表1参照)、共振抵抗Zrが4.5Ωと高く、また最大位相θmaxが87.5°と低く、発振特性の悪化を招くおそれがある。
試料番号9は、Al存在比が9.3%であり、50%未満のため、電気機械結合係数k15は低くなるものの、最大位相θmaxが45.0°と極端に低くなり、共振周波数の温度変化率fr−Tc、抗折強度τ、及び共振抵抗Zrも悪化することが分かった。
これに対し試料番号4〜7は、Al2O3の含有量が主成分100容量部に対し10〜40容量部と本発明範囲内であり(表1参照)、したがって電気機械結合係数k15は40.0%以下と小さくできるにも拘わらず、最大位相θmaxは87.9°以上を確保することができ、周波数定数も高く、共振周波数の温度変化率fr−Tcも−30〜+30ppm/℃の範囲内にあり、反共振周波数の変化率も−0.10〜+0.10%以内となって耐熱性も良好であり、さらに抗折強度τも180MPa以上となって機械的強度にも優れ、かつ共振抵抗Zrも4.0Ω以下の圧電素子を得ることができることが分かった。
また、試料番号5〜7から明らかなように、Al2O3の含有量を主成分100容量部に対し20〜40容量部とすることにより、電気機械結合係数k15は35%以下と小さいにも拘わらず、最大位相θmaxを87.9°以上と大きくすることができる他、しかも温度変化率fr−Tcが±20ppm/℃の範囲内と小さくすることができ、抗折強度τも190MPa以上となって良好な機械的強度の得られることが分かった。
図6はAl2O3含有量と電気機械結合係数k15((a))、最大位相θmax((b))、及び抗折強度τ((c))との関係をそれぞれプロットした図である。
すなわち、Al2O3の含有量を主成分100容量部に対し10容量部〜40重量部とし、本発明のAl存在比及びAl偏析物の構造を有することにより、図6(a)に示すように電気機械結合係数k15を40%以下にすることができ、図6(c)に示すように抗折強度τを190MPa以上にすることができ、また、図6(b)に示すように最大位相θmaxを87.9°以上とすることができる。
以上より、電気機械結合係数k15が低下すると最大位相θmaxも低下すると推測されていたが、本発明のようにAl2O3を多く添加し、本発明の構造を有することによって、最大位相θmaxが余り低下しないことが分かった。
セラミック素原料としてPbO、NiO、Nb2O5、ZrO2、TiO2、MnO、及びAl2O3を用意した。
そして、主成分となる圧電セラミックの基本組成が、Pb0.99{(Ni1/3Nb2/3)0.07Zr0.42Ti0.51}O3となるようにPbO、NiO、Nb2O5、ZrO2、及びTiO2を秤量し、さらに、前記基本組成100重量部に対しMnOが0.6重量部含有するようにMnOを秤量した。次いで、圧電セラミック(主成分)100容量部に対し0〜42容量部となるようにAl2O3を秤量した。
この後は〔実施例1〕の試料番号1〜9のそれぞれの製造方法と同様の方法・手順を使用し、試料番号11〜19の圧電磁器を作製した。
次に、試料番号11〜19の各々について、〔実施例1〕と同様の方法・手順でAl存在比、Al偏析物存在比、平均離間距離を各々測定した。
表3は試料番号11〜19のAl2O3含有量、Al存在比、Al偏析物存在比、及び平均離間距離を示している。
試料番号11は、圧電磁器中にAl2O3が全く含まれていない試料であり、特性については後述する。
試料番号12は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し2容量部と少なく、Al2O3粒子同士の凝集は少なく、Al存在比が1.4%と低く、本発明で定義するAl偏析部を形成することができなかった。
試料番号13も、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し6容量部と少なく、Al2O3粒子同士の凝集は少なく、Al存在比も9.0%と低く、Al偏析部を形成することができなかった。
試料番号18は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し42容量部と多く、Al偏析物存在比が1.19%と1.0%を超えており、Al偏析部同士の離間距離が83μmと小さく、100μm未満になることが分かった。
試料番号19は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し20容量部ではあるが、原料粉末の粉砕媒体として直径が5mmの大きなPSZボールを使用しており、しかも湿式粉砕時間も24時間と短いため、Al存在比が9.5%と低く、本発明でいうAl偏析部を形成することがなかった。
これに対し試料番号14〜17は、Al2O3含有量が主成分100容量部に対し10〜40容量部でありAl存在比は50%以上、Al偏析部の存在比率は0.31〜0.95%、Al偏析部同士の離間距離が104〜230μmとなって100μm以上となることが確認された。
次に、上記各試料について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で試料番号11〜19の圧電素子を作製した。
次に、各試料番号11〜19の圧電素子について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で電気機械結合係数k15、最大位相θmax、比誘電率εr、周波数定数、共振周波数の温度変化率fr−Tc、反共振周波数の変化率、抗折強度τ及び共振抵抗Zrを測定した。
表4はその測定結果を示している。
試料番号11は、Al2O3が全く含まれていないため、電気機械結合係数k15が44.4%となって40%を超えており、したがって外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号12は、Al2O3を含有しているものの、その含有量は主成分100容量部に対し2容量部と少なく、Al存在比が1.4%であり、Al偏析物が測定できないことから(表3参照)、電気機械結合係数k15が43.2%となって40%を超えており、したがって試料番号11と同様、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号13も、Al2O3を含有しているものの、その含有量は主成分100容量部に対し6容量部と少なく、Al存在比が9.0%であり、Al偏析物が測定できないことから(表3参照)、電気機械結合係数k15が41.3%となって40%を超えており、したがって試料番号11と同様、外部環境の変化や基板実装後の回路からの影響に対し、発振周波数の変動を十分に抑制することができないことが分かった。
試料番号18は、Al2O3の含有量が主成分100容量部に対し42容量部と過剰であるため(表3参照)、共振抵抗Zrが4.4Ω、最大位相θmaxが87.6°と低下し、発振特性の悪化を招くおそれがある。
試料番号19は、Al存在比が9.5%であり、電気機械結合係数k15が低くなるものの、最大位相θmaxが39.6°と極端に低くなり、共振周波数の温度変化率fr−Tc、抗折強度τ、及び共振抵抗Zrも悪化することが分かった。
これに対し試料番号14〜17は、Al2O3の含有量が主成分100容量部に対し10〜40容量部と本発明範囲内であり(表3参照)、したがって電気機械結合係数k15は40.0%以下と小さくできるにも拘わらず、最大位相θmaxは88.0°以上を確保することができ、周波数定数も高く、共振周波数の温度変化率fr−Tcも−30〜+30ppm/℃の範囲内にあり、反共振周波数の変化率も−0.10〜+0.10%以内となって耐熱性も良好であり、さらに抗折強度τも180MPa以上となって機械的強度の優れた圧電素子を得ることができる。
また、試料番号15〜17から明らかなように、Al2O3の含有量を主成分100容量部に対し20〜40容量部とすることにより、電気機械結合係数k15が35%以下と小さいにも拘わらず、最大位相θmaxは88.0°以上を確保することができる他、温度変化率fr−Tcも±20ppm/℃の範囲内と小さくすることができ、抗折強度τも良好な結果が得られた。
図7はAl2O3含有量と電気機械結合係数k15((a))、最大位相θmax((b))、及び抗折強度τ((c))との関係をそれぞれプロットした図である。
すなわち、Al2O3の含有量を主成分100容量部に対し10容量部以上とし、本発明のAl存在比、Al偏析物の構造を有することにより、図7(a)に示すように電気機械結合係数k15を40%以下にすることができ、図7(c)に示すように抗折強度τを180MPa以上にすることができる。また、図7(b)に示すように最大位相θmaxを88.0°以上にすることができる。
以上より、電気機械結合係数k15が低下すると最大位相θmaxも低下すると推測されていたが、本発明のようにAl2O3を多く添加し、本発明の構造を有することによって、最大位相θmaxが余り低下しないことが分かった。
比較例
〔実施例1〕でAl2O3に代えて、Al2O3と同様、結晶粒界に析出するSiO2を使用し、本発明実施例1と比較した。
すなわち、〔実施例1〕と同一組成からなる主成分100容量部に対しSiO2が0〜8容量部となるようにSiO2を秤量し、それ以外は〔実施例1〕と同様の方法・手順で圧電磁器を作製した。
尚、SiO2の含有量が主成分100容量部に対し4容量部を超えると正常な焼結体を作製することができず、このためSiO2の含有量が主成分100容量部に対し0、2、4容量部の3種類の試料について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で圧電素子を作製し、電気機械結合係数k15、最大位相θmax、及び共振周波数の温度変化率fr−Tcを測定した。
図8はAl2O3又はSiO2の含有量と電気機械結合係数k15((a))、最大位相θmax((b))、及び共振周波数の温度変化率fr−Tc((c))との関係を実施例1との比較においてそれぞれプロットした図である。
圧電セラミック(主成分)にSiO2を添加した場合、図8(a)に示すように電気機械結合係数k15は急激かつ大幅に低下するが、図8(b)及び図8(c)に示すように、最大位相θmax、及び共振周波数の温度変化率fr−Tcも急激かつ大幅に低下し、実用性に欠けることが分かった。
これに対し実施例1では、Al2O3含有量を主成分100容量部に対し10容量部以上とすることにより、電気機械結合係数k15を40%以下に大幅に低下させることができ、一方、Al2O3含有量を主成分100容量部に対し40容量部以下とすることにより、最大位相θmaxを余り低下させないで87.9°以上を確保することができ、さらにAl2O3含有量を主成分100容量部に対し10〜40容量部とすることにより、共振周波数の温度変化率fr−Tcも−30〜+30℃の範囲内とすることができる。
すなわち、単に、結晶粒界に析出する物質を圧電セラミック(主成分)に大量に添加しても、最大位相θmaxの低下や共振周波数の温度変化率fr−Tcの悪化を招くことなく電気機械結合係数k15を小さくすることはできず、本発明のように、圧電セラミック(主成分)100容量部に対しAlをAl2O3換算で10〜40容量部含有させ、分散したAl偏析部を主成分の結晶粒界に析出させることにより上述した所期の作用効果が得られ、本発明の目的を達成できることが確認された。
本発明に係る圧電磁器の一実施の形態を模式的に示した断面図である。
本発明の圧電磁気焼結体を使用して製造された圧電部品としての圧電発振子の一実施の形態を示す断面図である。
Al2O3の含有量とAl存在比との関係をプロットした図である。
実施例1の試料番号3のSEM写真を示す図である。
実施例1の試料番号6のSEM写真を示す図である。
実施例1におけるAl2O3の含有量と電気機械結合係数k15(a)、最大位相θmax(b)、及び抗折強度τ(c)との関係をプロットした図である。
実施例2におけるAl2O3の含有量と電気機械結合係数k15(a)、最大位相θmax(b)、及び抗折強度τ(c)との関係をプロットした図である。
SiO2の含有量と電気機械結合係数k15(a)、最大位相θmax(b)、及び共振周波数の温度変化率fr−Tc(c)との関係をAl2O3の場合(実施例1)の比較においてプロットした図である。
符号の説明
1 圧電セラミック(主成分)
2 Al偏析部
3 所定領域
4 圧電セラミック素体
5a、5b対向電極(電極)