以下、本発明に係る画像形成装置を図面に則して更に詳しく説明する。
実施例1
[画像形成装置の全体構成]
図1は本発明に係る画像形成装置の一実施例の概略断面を示す。本実施例の画像形成装置100は、電子写真方式を利用して、転写材(記録媒体)P、例えば、記録用紙、OHPシート等に、画像情報信号に応じたフルカラー画像を形成することのできるフルカラーレーザービームプリンタである。又、本実施例の画像形成装置100は、当業者には周知のタンデム方式、反転現像方式、直接転写方式、加熱・加圧定着方式等を採用している。
画像形成装置100は、4個の画像形成手段、即ち、第1〜第4のステーションSa、Sb、Sc、Sdを有する。各ステーションSa、Sb、Sc、Sdは、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像を形成するためのものである。尚、本実施例では、各ステーションSa〜Sdの構成及び動作は、使用するトナーの色が異なることを除いて実質的に同じである。従って、以下、特に区別を要しない場合は、いずれかの色用に設けられた要素であることを表すために符号に与えた添え字a、b、c、dを省略し、総括的に説明する。
ステーションSは、トナー像を担持する像担持体としての円筒型の電子写真感光体、即ち、感光体ドラム1を備えている。感光体ドラム1の周囲には、その回転方向に従って順に、帯電手段2、露光手段3、現像手段4、転写ユニット5、クリーニング手段6等が配設されて画像形成手段が構成されている。
帯電手段としての帯電ローラ2は、感光体ドラム1の表面を均一に帯電させる。露光手段としてのレーザースキャナー3は、画像情報に基づいてレーザービームを照射し、感光体ドラム1上に静電像(潜像)を形成する。現像手段としての現像器4は、感光体ドラム1上の静電像にトナーを付着させて、トナー像として顕像化する。転写ユニット5に設けられた転写手段としての転写ローラ56は、感光体ドラム1上のトナー像を転写材Pに転写させる。転写ユニット5には更に、転写材担持体としての無端移動するベルト体である転写ベルト51が設けられている。クリーニング手段としてのクリーナ6は、転写工程後に感光体ドラム1の表面に残ったトナーを回収する。
ここで、本実施例では、感光体ドラム1と、感光体ドラム1に作用するプロセス手段としての帯電手段2、現像手段4及びクリーニング手段6と、は一体的にカートリッジ化されプロセスカートリッジ7を形成している。又、各ステーションSのレーザースキャナー3及びプロセスカートリッジ7と、転写ユニット5とで、画像形成部が構成される。
又、画像形成装置100は、転写材Pを画像形成部に供給するための給送部8を有する。給送部8から給送された転写材Pは、図1中矢印方向に移動する転写ベルト51によって、各ステーションSにおいて感光体ドラム1と転写ベルト1とが接触して形成された転写部(転写ニップ)Tへと搬送される。
例えば、フルカラー画像形成時には、各転写部Tにおいて、各色のトナー像が、転写ベルト51上の転写材Pに順次に転写される。各色トナー像が順次転写されてカラートナー像が形成された転写材Pは、転写ベルト51の搬送方向部の末端の分離部Aにおいて、駆動ローラ52の曲率を利用して転写ベルト51上から分離される。
転写ベルト51から分離された転写材Pは、その後、定着手段としての定着装置9へと搬送される。転写材P上の未定着トナー像は、定着装置9において転写材P上に定着される。その後、転写材Pは、排出ローラ18対によって排出部19へ排出される。
又、両面印字の際は、定着装置9でトナー像が定着された転写材Pは、排出ローラ対18によって排出される前に、排出ローラ対18が逆転することにより、両面搬送経路15に搬送される。両面搬送経路15に搬送された転写材Pは、装置本体正面にある斜送ローラ16を通過し、Uターンローラ17まで垂直下方向に搬送される。その後、Uターンローラ17及びレジストローラ84によって画像形成部まで搬送される。
次に、画像形成装置100の各部の構成についてより詳しく説明する。
給送部8は、給送カセット81、マルチ給送装置であるマルチ給送トレイ82、マルチ給送部83及びレジストローラ84を有する。給送カセット81は、複数枚の転写材Pを収納し、装置本体内底部に装填される。給送カセット81からの転写材Pに画像を形成する時には、カセットピックアップローラ85によって一枚ずつ転写材Pが分離搬送され、カセット搬送ローラ86及びレジストローラ84によって画像形成部まで搬送される。
マルチ給送トレイ82は、通常は装置本体正面に格納されている。マルチ給送トレイ82は、使用時に装置本体から回動して開かれ、例えば複数枚の転写材Pがセットされる。マルチ給送トレイ82からの画像形成時には、マルチピックアップローラ87によって一枚ずつ転写材Pが分離搬送され、マルチ搬送ローラ88及びレジストローラ84によって画像形成部まで搬送される。
給送カセット81、マルチ給送部83における転写材Pの分離や搬送は、給送部にある給送モータによりギア駆動列を介して行われる。
像担持体としての感光体ドラム1は、アルミニウム製シリンダの外周面に有機光導伝体層(OPC)を塗布して構成される。感光体ドラム1は、その両端部をフランジによって回転自在に支持されており、一方の端部に駆動モータから駆動力が伝達されることにより、図1中矢印方向(反時計回り)に回転駆動される。
帯電手段としての帯電ローラ2は、ローラ状に形成された導電性部材(導電性ローラ)である。帯電ローラ2は、感光体ドラム1の表面に当接すると共に、帯電バイアス出力手段としての帯電バイアス電源(図示せず)によって出力された帯電バイアス電圧が印加される。これにより、帯電ローラ2は、感光体ドラム1の表面を一様に帯電させる。
露光手段としてのレーザースキャナー3は、ポリゴンミラー、レーザーダイオード等を有する。レーザーダイオードからの画像信号に対応する画像光がポリゴンミラーに照射される。そして、ポリゴンミラーは、感光体ドラム1上をこの画像光によって走査露光する。
現像手段としての現像器4は、トナーを収納したトナー収納部、現像剤担持体としての現像ローラ等を有する。本実施例では、負帯電性のトナーを用いる。現像ローラは、感光体ドラム1の表面に隣接して配置され、駆動部により回転駆動される。又、現像工程時に、現像ローラには、現像バイアス出力手段としての現像バイアス電源(図示せず)により出力された現像バイアス電圧が印加される。
又、転写ユニット5が備える転写ベルト51の内側には、4個の感光体ドラム1a、1b、1c、1dのそれぞれに対向して、転写ベルト51に当接する転写ローラ56a、56b、56c、56dが設けられている。各転写ローラ56は、転写バイアス出力手段としての転写バイアス電源57(図2)に接続されている。転写工程時には、転写バイアス電源57より出力された転写バイアスが転写ローラ56に印加される。本実施例では、トナーの正規の帯電極性とは反対極性である正極性の電荷が、転写ローラ56から転写ベルト51を介して転写材Pに印加される。この電界により、感光体ドラム1に接触中の転写材Pに、感光体ドラム1上の負極性のトナー像が転写される。
転写材Pは、給送部8から転写ユニット5が備える転写ベルト51によって画像形成部に搬送される。転写材Pの搬送手段を構成する転写材担持体としての転写ベルト51は、駆動ローラ52と、従動ローラ53、54、55の4本のローラに張架されて回転可能に支持されている。転写ベルト51は、すべての感光体ドラム1に対向して配設されている。転写材Pは、駆動ローラ52に駆動手段(図示せず)から回転駆動力が伝達されることにより、転写ベルト51上を転写部(転写位置)Tまで搬送される。そして、転写部Tにおいて、感光体ドラム1上のトナー像が、転写ベルト51上の転写材Pに転写される。
転写ベルト51としては、誘電体で形成されたベルトを好ましく用いることができる。転写ベルト51を形成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などの誘電体樹脂を好ましく用いることができる。又、転写ベルト51の体積抵抗率は、転写部間(例えば、第1、第2のステーションSa、Sbの転写ローラ56a、56b間)で電気的な干渉が発生しないように、109(Ω・cm)以上1018(Ω・cm)以下であることが好ましい。又、転写ベルト51は斯かる体積抵抗率を有することで、十分に転写材Pをその上に静電的に吸着することができる。
又、記録材Pの移動方向において転写ベルト51の最上流位置、即ち、第1ステーションSaの転写部Taよりも上流側の位置には、転写ベルト51と共に転写材Pを挟持し、且つ、転写材Pを転写ベルト51に吸着させる吸着ローラ58が配設されている。本実施例では、吸着ローラ58に、吸着バイアス出力手段としての吸着バイアス電源(図示せず)が接続されている。転写材Pの搬送に際しては、吸着ローラ58に吸着バイアス電源より出力された吸着バイアス電圧を印加し、吸着ローラ58に対向している接地された従動ローラ55との間に電界を形成する。これにより、転写ベルト51と転写材Pとの間に誘電分極を発生させて、両者に静電吸着力を生じさせる。
定着手段としての定着装置9は、転写材P上に形成した画像に熱及び圧力を加えて定着させる。定着装置9は、定着部材として、加熱手段92が内側に配置された定着ベルト(加熱定着部材)91と、加圧ローラ(加圧定着部材)93と、を有する。本実施例では、定着ベルト91が転写材Pの未定着トナー担持面に接触する。又、加圧ローラ93が転写材の未定着トナー非担持面に接触する。
定着ベルト91は、電磁誘導発熱層を有する円筒状のベルト部材である。定着ベルト91は、加熱手段として励磁コイルとT型の磁性コアとから成る磁場発生手段を内蔵したベルトガイド部材92にガイドされている。加圧ローラ93は、弾性ローラで構成され、定着ベルト91を挟んでベルトガイド部材92に対して所定の圧接力をもって圧接されている。これにより、定着ベルト91と加圧ローラ93との間に所定幅の定着部(定着ニップ)Nが形成される。
加圧ローラ93が駆動手段により回転駆動され、それに伴って円筒状の定着ベルト91が回転し、励磁回路から定着ガイド92の励磁コイルへ給電されることにより定着ベルト91の電磁誘導発熱がなされる。
定着部Nが所定の温度に立ち上がって温調された状態において、画像形成部から搬送されてきた未定着トナー像を担持する転写材Pが定着部Nに導入される。この時、転写材P上のトナー担持面(画像面)が定着ベルト91側、転写材Pの反対面が加圧ローラ93側に向く。そして、定着部Nにおいてトナー担持面が定着ベルト91の外面に密着して、転写材Pは定着ベルト91と一緒に定着部Nを挟持搬送されていく。この過程において、転写材P上の未定着トナー像は定着ベルト91で加熱され、転写材P上に定着される。
[分離部]
次に、図2をも参照して、転写材Pと転写ベルト51との分離部(分離位置)Aについて更に説明する。
図2は、分離部A近傍の転写材P、転写ベルト51、駆動ローラ52を模式的に示す。駆動ローラ52は、導電体で形成された支持部材(軸部材)としての支持ローラMと、その外周部に被覆された絶縁体層Iとから成る。絶縁体層Iの表面は転写ベルト51に回転駆動力を伝えるために摩擦係数が大きくなっている。駆動ローラ52がモータ(図示せず)により回転駆動を受けることにより、転写ベルト51は所定の速度で搬送される。
支持ローラMはGNDに接続されている。即ち、支持ローラMは、電気的に接地されている。支持ローラMとしては、アルミニウム、ステンレス等の金属製のローラを好ましく用いることができる。本実施例では、支持ローラMとしてアルミニウムにて作製された円柱状部材を用いた。
又、絶縁体層Iの材料としては、ウレタンゴム系ゴム、EPDM系ゴム、NBR系ゴム等のゴム系又は樹脂系材料を好ましく用いることができる。本実施例では、絶縁体層Iは、ウレタン系ゴムを用いて形成し、絶縁体層Iを含めた駆動ローラ52の直径(外径)は30mmとした。
そして、絶縁体層Iの体積抵抗率は、1010(Ω・cm)以上1018以下(Ω・cm)であることが好ましい。絶縁体層Iの体積抵抗率が1010(Ω・cm)未満の場合、絶縁体層Iの表面に電荷を保持できなくなる。一方、絶縁体層Iの体積抵抗率が1018(Ω・cm)を超える場合、転写ベルト51との摩擦帯電が大きくなり、絶縁体層Iの表面に保持する電荷量を制御し難くなる。
尚、本実施例では、支持ローラMは金属で形成されているので、支持ローラMの体積抵抗率はほぼゼロ、又は絶縁体層Iの体積抵抗率よりもずっと小さいので無視できる。この場合、駆動ローラ52の全体(厚み方向)の体積抵抗率が1010(Ω・cm)以上1018以下(Ω・cm)であることが好ましい。
転写ベルト51や駆動ローラ52等について、体積抵抗率は、次のようにして測定することができる。高抵抗計R8340A(アドバンテスト社製)、プローブR12702A(アドバンテスト社製)を用いて、印加電圧を1kVにして測定する。測定は通常環境(23℃、60%)で行い、JIS K6911に準拠する。
ここで、絶縁体層Iの体積抵抗率を種々変更して画像評価を行った。評価環境は15℃/10%RHであった。転写材Pとしてはキヤノン製「オフィスプランナー紙」を用いた。評価用の画像パターンは600dpiでの1ドット2スペース横線ハーフトーンであった。
そして、本実施例に従う具体例として、絶縁体層Iの体積抵抗率が1010(Ω・cm)、1014(Ω・cm)、1018(Ω・cm)の駆動ローラ52を用いた。又、比較例として、絶縁体層Iの体積抵抗率が108(Ω・cm)、109(Ω・cm)の駆動ローラ52を用いた。いずれの場合も、絶縁体層Iの厚みは1mmとした。結果を表1に示す。
その結果、絶縁体層Iの体積抵抗率が1010(Ω・cm)、1014(Ω・cm)、1018(Ω・cm)のものについては、画像乱れの発生はなかった。
しかし、絶縁体層Iの体積抵抗率が108、109(Ω・cm)のものについては、画像乱れの発生が確認された。
尚、絶縁体層Iの体積抵抗率が1018(Ω・cm)を越える駆動ローラ52を用いる場合についての同様の画像評価では、スジ状の画像乱れが発生した。これは、上述のように、転写ベルト51との摩擦帯電が大きくなり、絶縁体層Iの表面に保持する電荷量を制御し難くなったためであると考えられる。
次に、図3〜図5を参照して、上述のような結果が得られた理由について説明する。
図3〜図5は、転写材Pと転写ベルト51と絶縁体層Iとを、抵抗・コンデンサーモデルに置き換えたものである。図中Cp、Cb、Cair、Crはそれぞれ、転写材P、転写ベルト51、空隙(転写材Pと転写ベルト51との間の空気層)、駆動ローラ52の絶縁体層Iのコンデンサー成分(単位面積あたりの静電容量)を表す。又、図中Rrは、駆動ローラ52の抵抗成分を表す。
図3を参照して、トナー像を転写材P上に転写するために、転写ローラ56a〜56dにはトナーの正規の帯電極性とは逆極性(転写バイアスと同極性)のプラスのバイアスが印加される。このため、転写ベルト51の裏面はプラスの電荷が付与されて帯電する。一方、転写材Pの表面は、感光体ドラム1a〜1dと転写ローラ56a〜56dとの間(転写部)を通過する際に、マイナスの電荷を付与されて帯電する。特に画像乱れが発生し易い低湿環境下では、転写材Pの抵抗が大きくなり、マイナスの電荷のリークが妨げられるため、転写材Pの表面にマイナスの電荷が蓄えられる。
図4(a)及び図4(b)は、分離部Aにおいて駆動ローラ52の絶縁体層Iに接している転写ベルト51上から転写材Pが分離する直前の状態を示している。転写ベルト51の裏面(転写材Pを担持する面と反対側の面)に帯電しているプラスの電荷は、駆動ローラ52の絶縁体層Iと接することで、絶縁体層I上に一部移動する。
ここで、本実施例に従う上記具体例のように絶縁体層Iの体積抵抗率が1010(Ω・cm)、1014(Ω・cm)、1018(Ω・cm)と高い場合には、図4(a)に示すように、絶縁体層Iの表層のプラスの電荷は、絶縁体層Iの表層に蓄えられる。
一方、比較例のように絶縁体層Iの体積抵抗率が108、109(Ω・cm)と低い場合には、図4(b)に示すように、絶縁体層Iの表層にプラスの電荷が蓄えられることなく、支持ローラMを通じGNDに電荷が移動する。
図5(a)及び図5(b)は、分離部Aにおいて転写材Pが転写ベルト51から分離した直後の状態を示している。このとき、転写材Pが転写ベルト51から分離する際にできる空隙をCairで表現している。
この空隙Cairに発生する電界強度は、絶縁体層Iの表面に帯電しているプラスの電荷量に影響を受け、電荷量が大きいほど電界強度は強まる。即ち、本実施例のように絶縁体層Iの体積抵抗率が高い場合には、上述のように絶縁体層Iの表面のプラスの電荷量が大きく、上記空隙に発生する電界強度は強まる。一方、比較例のように絶縁体層Iの体積抵抗率が低い場合には、上述のように絶縁体層Iの表面のプラスの電荷量が少なく、上記空隙に発生する電界強度は弱まる。
図6は、上記空隙における転写材Pと転写ベルト51との間の距離Dと電位差との関係を示す。同図中の実線はパッシェン曲線を示す。又、同図中の一点鎖線及び破線はそれぞれ上記空隙における電界強度が違う場合の上記関係を示しており、一点鎖線は電界強度が相対的に強い場合、破線は電界強度が相対的に弱い場合の上記関係を示している。パッシェン曲線は、大気中で空隙(距離D)10μm以上では、V(V)=312+6.2D(μm)に近似できることが知られている。
ところで、転写材P上のある位置に着目すると、転写材Pが転写ベルト51から分離するに従い、距離Dは拡がっていく。それと共に電位差も大きくなり、パッシェンの放電閾値を超えた時点で、剥離放電が発生する。即ち、距離Dの増加に伴い変化する電位差がパッシェン曲線(図6中実線)との交点以上になると剥離放電が発生する。
そして、放電により電界強度を弱める方向に電荷の移動が起きる。その結果、転写材Pにはプラスの電荷、転写ベルト51にはマイナスの電荷が付与される。このような剥離放電が、転写材Pが分離する際に連続的に発生する。
上記空隙での電界強度が弱い場合(図6中破線)は、距離Dが大きいところで、剥離放電が発生する。このときの電位差は大きいので、剥離放電のエネルギーは大きくなる。このため、転写材P上に転写されたトナーの一部は動かされ、その結果画像乱れが発生する。
一方、上記空隙での電界強度が強い場合(図6中一点鎖線)は、距離Dが小さいところで、剥離放電が発生する。このときの電位差は小さいので、剥離放電のエネルギーは小さく、転写材P上に転写されたトナーが動くことなく留まる。よって画像乱れの発生は起こらない。
即ち、絶縁体層Iの表面に帯電しているプラス(トナーの正規の帯電極性とは逆極性、即ち、転写バイアスと同極性)の電荷量が小さいと、転写材Pが転写ベルト51から分離する際にできる空隙での電界強度が弱くなり、画像乱れが発生する。逆に、絶縁体層Iの表面に帯電しているプラスの電荷量が大きいと、この空隙での電界強度が強くなり、画像乱れを防止することができる。
このように、絶縁体層Iの体積抵抗率が高いと、絶縁体層Iの表面に帯電する電荷量が大きくなり、上記空隙での電解強度が強まり、その結果、画像乱れを防止することできる。これは、絶縁体層Iの容量を大きくするほうが良いことを示している。この時、絶縁体層Iの容量を平板コンデンサーモデルで考えると、
C=ε・S/d ・・・(1)
(但し、Cは静電容量(F/m)、εは比誘電率、Sは面積(mm2)、dは絶縁体層の厚さ(mm))
の関係がある。
上記式(1)から、絶縁体層の容量を大きくするためには、ε/dを大きくする方が良いことが分かる。即ち、絶縁体層Iの材料として比誘電率εが大きい材質を用いるか、厚さdを小さくすることによりε/dを大きくすることが好ましい。
本発明者らの検討によれば、ε/d>0.04(mm-1)とすることが好ましいことが分かった。
ここで、絶縁体層Iとしては、上述のようなゴム系又は樹脂系の材料が好ましく用いられる。例えば、本実施例で用いた絶縁体層Iの材料であるウレタンゴム系の材料では、比誘電率εは、3〜6である。その他の樹脂系材料をも考慮すれば、一般には、絶縁体層Iの比誘電率εは、2.0〜20.0である。
又、詳しくは後述するが、絶縁体層Iの厚さdを小さくすると、前述したように支持ローラMは導体であるので、絶縁体層Iの表面のプラスの電荷とは逆極性のマイナスの電荷が誘起される。そして、この誘起されたマイナスの電荷によって発生する電界は、転写材Pが転写ベルト51から分離する空隙での電界強度を弱める方向に働く。その結果、上述のように画像乱れを発生させ易い方向となる。
そのため、本発明者らの検討によれば、ε/d<6.5(mm-1)とすることが好ましいことが分かった。
即ち、絶縁体層Iの厚さをd(mm)、絶縁体層Iの比誘電率をεとした時、
0.04<ε/d<6.5 ・・・(2)
の関係を満たすように構成することが好ましいことが分かった。
ここで、ε/dを種々変更して、画像評価を行った。評価方法は次の通りである。評価環境は15℃/10%RHであった。転写材Pとしてはキヤノン製「オフィスプランナー紙」を用いた。評価用の画像パターンは600dpiでの1ドット2スペース横線ハーフトーンであった。絶縁体層Iの体積抵抗率は、1014(Ω・cm)であった。そして、ε/d(mm-1)を本発明の範囲内の0.05、2.0、4.0、6.4としたものと、本発明の範囲外の0.03、0.04、6.5としたものとを用意した。ここでは、ゴム材料を変更することにより比誘電率εを、又絶縁体層Iの厚みdを変えることでε/dを変更した。結果を表2に示す。
上述のように、画像乱れを防止するためには、絶縁体層Iの体積抵抗率を1010(Ω・cm)以上1018(Ω・cm)以下とし、且つ、絶縁体層Iの厚さをd(mm)、絶縁体層Iの比誘電率をεとした時0.04<ε/d<6.5の関係を満足させる。この場合において、更に、絶縁体層Iの厚みは、0.2(mm)以上10(mm)以下であることが好ましい。これによって、画像乱れの防止効果を更に向上することができる。
絶縁体層Iの厚みが0.2(mm)未満の場合、画像乱れが発生し易くなる。一方、絶縁体層Iの厚みが10mmを越える場合、画像形成装置100の耐久に伴い、絶縁体層Iの耐久劣化が顕著となり易い。
ここで、絶縁体層Iの厚さを変更して画像評価を行った。評価環境は15℃/10%RHであった。転写材Pとしてはキヤノン製「オフィスプランナー紙」を用いた。評価用の画像パターンは600dpiでの1ドット2スペース横線ハーフトーンであった。
そして、絶縁体層Iの厚さが0.1(mm)、0.2(mm)、2.0(mm)の駆動ローラ52を用いた。いずれの場合も、絶縁体層Iの体積抵抗率は1010(Ω・cm)とした。又、いずれの場合も上記式(2)の関係を満たす。
その結果、絶縁体層Iの厚さが0.2、2.0(mm)のものでは画像乱れの発生はなかった。一方、絶縁体層Iの厚さが0.1(mm)のものでは画像乱れが発生することがあった。
尚、絶縁体層Iの厚さが10(mm)までは、上記同様の結果が得られた。絶縁体層Iの厚さが10(mm)を越える駆動ローラ52については、上述のように耐久に伴って劣化が顕著となる。
絶縁体層Iの厚さが小さい場合に画像乱れが発生する理由は次のように考えられる。
即ち、前述のように、絶縁体層Iの表面には、プラスの電荷が蓄えられる。一方、絶縁体層Iの裏面側の支持ローラMは導体であるので、逆極性のマイナスの電荷が誘起される。この誘起されたマイナスの電荷によって発生する電界は、転写材Pが転写ベルト51から分離する空隙での電界強度を弱める方向に働く。
但し、支持ローラMの表面は曲率を持っているので、絶縁体層Iの厚みが大きい程、支持ローラMの表面に誘起された電荷による空隙に対する電界強度の影響は小さくなると考えられる。即ち、絶縁体層Iの厚さが大きい方が、支持ローラMに誘起された電荷による電界の影響が小さくなり、その結果、画像乱れが発生し難くなるものと考えられる。
以上説明したように、絶縁体層Iの体積抵抗率を1010(Ω・cm)以上1018(Ω・cm)以下とし、且つ、絶縁体層Iの厚さをd(mm)、絶縁体層Iの比誘電率をεとした時0.04<ε/d<6.5の関係を満足させる。これにより、転写材Pが転写ベルト51から分離する際に発生する剥離放電による画像不良を防止することができる。
又、この場合に、絶縁体層Iの厚みを0.2(mm)以上10(mm)以下とすることで、上記剥離放電による画像不良の防止効果を更に高めることができる。
実施例2
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本的な構成は実施例1のものと同じである。従って、実施例1の画像形成装置と同一又はそれに相当する要素には同一符号を付して詳しい説明を省略し、主に本実施例にて特徴的な点について説明する。
絶縁体層Iの表面のある箇所に着目すると、駆動ローラ52の回転に伴って、絶縁体層Iの表面は転写ベルト51と接触し、プラスの電荷が供給された後、再度、プラスの電荷が供給される。その間隔tは、駆動ローラ52が1周する時間に相当し、駆動ローラ52の直径をR(mm)、転写ベルト51の搬送速度(プロセススピードに相当する。)をV(mm/sec)とすると、
t=π×R/V(sec)
となる。
一方、駆動ローラ52が1周するうちに絶縁体層Iに帯電されている電荷が減衰する量は、絶縁体層Iの体積抵抗率をρ(Ω・cm)、絶縁体層Iの誘電率をε’(F/m)とすると、時定数0.01×ρ・ε’(sec)により決まる。この時定数は、抵抗RとコンデンサーCを直列に接続したモデルから求められた。
従って、絶縁体層Iに電荷が供給される時間間隔t=π×R/V(sec)が、それが減衰する時間(時定数)0.01×ρ・ε’(sec)より大きいことで、絶縁体層Iの表面にプラスの電荷が保持される。
即ち、絶縁体層Iの体積抵抗率をρ(Ω・cm)、絶縁体層Iの誘電率をε’(F/m)、転写ベルト51の搬送速度をV(mm/sec)、駆動ローラ52の直径をR(mm)とすると、
π×R/V<0.01×ρ・ε’ ・・・(3)
の関係満たす構成とする。円周率πは3.14で近似することができる。
これにより、実施例1で説明したように、転写材Pが転写ベルト51から分離する空隙での電界強度が強まる。尚、実施例1の画像形成装置100が更に上記式(3)の関係を満たしていることで、上記剥離放電による画像不良の防止効果を更に高めることができる。
ここで、駆動ローラ52の絶縁体層Iの体積抵抗率ρ(Ω・cm)、絶縁体層Iの誘電率ε’(F/m)、駆動ローラ52の直径(mm)、転写ベルト51の搬送速度V(mm/sec)をそれぞれ種々変更して、画像評価を行った。評価環境は15℃/10%RHであった。転写材Pとしてはキヤノン製「オフィスプランナー紙」を用いた。評価用の画像パターンは600dpiでの1ドット2スペース横線ハーフトーンであった。
具体例及び比較例における駆動ローラ52の構成は、次のようなものであった。駆動ローラ52の絶縁体層Iの体積抵抗率ρ(Ω・cm)、絶縁体層Iの誘電率ε’(F/m)、駆動ローラ52の直径(mm)について以下のように変更し、又転写ベルト51の搬送速度をV(mm/sec)を変更した。結果を表3に示す。
以上説明したように、π×R/V<0.01×ρ・ε’の関係満たすことで、転写材Pが転写ベルト51から分離する際に発生する剥離放電による画像不良を防止することができる。
実施例3
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本的な構成は実施例1のものと同じである。従って、実施例1の画像形成装置と同一又はそれに相当する要素には同一符号を付して詳しい説明を省略し、主に本実施例にて特徴的な点について説明する。
本実施例においては、転写材Pの転写ベルト51からの分離時に分離部Aの対向位置における絶縁体層Iの表面電位が転写バイアスと同極性(トナーの正規の帯電極性とは逆極性)であり、その絶対値が200V以上8000V以下であることを特徴とする。
即ち、絶縁体層Iの表面電位の絶対値が200Vより小さい場合は、前述のように転写材Pが転写ベルト51から分離する空隙での電界強度が弱まり、画像乱れの発生が発生し易くなる。
一方、絶縁体層Iの表面電位が大きくなり過ぎると、絶縁体層Iに近接している箇所での異常放電が発生し、それにより電気ノイズが発生することで画像形成の動作が不安定となることがある。或いは、絶縁体層Iの表面電位が大きくなり過ぎると、転写材Pが絶縁体層Iとの吸着力が大きくなり、転写ベルト51から分離がスムーズに行われなくなり、ジャムの発生や、画像擦れといった問題が発生することがある。このため、絶縁体層Iの表面電位の絶対値は8000Vより小さくすることが好ましい。
即ち、転写材Pの転写ベルト51からの分離時に分離部Aの対向位置における絶縁体層Iの表面電位を、転写バイアスと同極性であり、その絶対値が200V以上8000V以下であるようにする。
これにより、実施例1で説明したように、転写材Pが転写ベルト51から分離する空隙での電界強度が強まる。尚、実施例1又は2の画像形成装置が更にこの関係を満たしていることで、上記剥離放電による画像不良の防止効果を更に高めることができる。
駆動ローラ52の絶縁体層Iの表面電位は、次のようにして測定した値である。表面電位計MODEL347(アドバンテスト社製)、プローブMODEL6000B(アドバンテスト社製)を用いて測定する。測定は通常環境(23℃、60%)で行った。尚、電位の測定箇所は、スペースの都合上、転写材Pが転写ベルト51から分離する箇所から、転写ベルト51に沿って20mm下流の箇所を、その表面から1mmの距離に表面電位プローブを配置して測定した。この位置の表面電位で分離部Aの表面電位を有意に代表することができる。
ここで、駆動ローラ52の絶縁体層Iの体積抵抗率ρ(Ω・cm)を変更することによって、転写材Pの転写ベルト51からの分離時に分離部Aにおける絶縁体層Iの表面電位を種々変更して、画像評価を行った。評価環境は15℃/10%RHであった。転写材Pとしてはキヤノン製「オフィスプランナー紙」を用いた。評価用の画像パターンは600dpiでの1ドット2スペース横線ハーフトーンであった。
具体例及び比較例における駆動ローラ52の構成は、次のようなものであった。本実施例に従う具体例として、絶縁体層Iの体積抵抗率が1010(Ω・cm)、1014(Ω・cm)、1018(Ω・cm)の駆動ローラ52を用いた。又、比較例として、絶縁体層Iの体積抵抗率が109(Ω・cm)の駆動ローラ52を用いた。いずれの場合も、絶縁体層Iの厚みは1mmとした。又、いずれの場合も駆動ローラ52の外径は30mmであった。この駆動ローラを使用した際の表面電位測定結果と画像結果を表4に示す。
以上説明したように、転写材Pの転写ベルト51からの分離時に分離部Aの対向位置における絶縁体層Iの表面電位を、転写バイアスと同極性であり、その絶対値が200V以上8000V以下であるようにする。これにより、転写材Pが転写ベルト51から分離する際に発生する剥離放電による画像不良を防止することができる。