JP2007168124A - 平版印刷用湿し水組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】特定の式で表される化合物と防錆剤とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物。
Description
しかしながら、このイソプロピルアルコールは水と蒸発のし易さが異なるために、湿し水のイソプロピルアルコール濃度を一定に保つための特殊な高価な装置が必要である。また、イソプロピルアルコールは特有の不快臭があることと共に、毒性の面でも問題があり、有機溶剤中毒予防規則(有機則)第2種有機溶剤であって規制を受ける。さらに、危険物第4類アルコール類に該当し、引火し易い化合物であるため、取り扱いや保管管理に注意が必要で作業環境上好ましくない。また、このイソプロピルアルコールを添加した湿し水を、通常の水棒を用いるオフセット印刷に適用しても、ローラー上および版面上でイソプロピルアルコールが蒸発するため、その効果を発揮することができないなどの問題があった。
また、上記の問題のほか、湿し水に起因する印刷機や湿し水循環装置の金属部分の腐食や錆発生の問題がある。印刷機としてインキ練りローラーの一部を親油性の高い銅又は銅合金ロールとしているものが多く使用されている。このような印刷機を用いて印刷を行う場合、平版印刷版の非画像領域を親水性状態にして維持して画像領域のみにインキを受理し、ゴムのブランケットを介してインキが紙に転写されるが、この際圧胴(ニッケルメッキ、クロムメッキ等がされているか、みがき仕上げ等がなされている鋳鉄製)とブランケットが接触する。このため、銅又は銅合金メッキロール、圧胴を有している印刷機において印刷を行う場合には、湿し水中に添加する湿し水添加剤の種類と量によって、銅又は銅合金のメッキ部及び圧胴の腐食もしくは錆を発生することが多い。
従って、これらの金属の腐食や錆発生を防止できる湿し水が求められる。
また、印刷機などの金属部分における腐食を抑制するために、ベンゾトリアゾール類を含有させた湿し水組成物が提案され(例えば特許文献3参照)、ベンゾイミダゾール又はその誘導体を含有させた湿し水組成物が提案され(例えば特許文献4参照)、その他、コハク酸又はその誘導体を有するモノチオエーテル化合物を含有させた平版印刷版用版面処理液が提案されている(例えば特許文献5参照)。
上記のように種々の提案がなされているが、イソプロピルアルコールを代替し且つ湿し水特性に優れ、印刷機や湿し水循環装置の金属部分の腐食や錆発生を抑制することができる湿し水組成物がいっそう求められる。特に鉄、その合金、鋼、鋳鉄、そのメッキなどの金属部分の腐食や錆発生を抑制することができる湿し水組成物が求められている。
従って本発明は、下記一般式(1)で表される化合物と防錆剤とを含有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物である。
本発明の好ましい実施態様として、本発明の湿し水組成物にはさらに、ポリビニルピロリドンと、糖類から選ばれる少なくとも1種とを含有させる。本発明の湿し水組成物はまた、その好ましい実施態様として、実質的に揮発性有機溶剤を含まない湿し水組成物とする。
本発明の湿し水組成物によれば、実質的に揮発性有機溶剤を含まずにイソプロピルアルコールを完全に代替することができ、労働衛生上及び消防安全上の問題が全くない上、高品質の印刷物を得ることができ、印刷の能率化、生産性の向上を図ることができる。
このような化合物は、印刷機停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮されて残ったときでも、画像領域にダメージを与えることがない。上記化合物はまた、揮発性を有する有機溶剤と併用することなしに、イソプロピルアルコールを代替することが可能である。
該化合物においてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの付加モル数比率は、充分な印刷性が得られる観点から5:95〜50:50の範囲が適当であり、より好ましくは20:80〜35:65の範囲である。
上記化合物を0.01〜1質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%含有する湿し水を使用することにより、イソプロピルアルコールを代替しても、良好な印刷適性を発揮する。また、該湿し水を適用した後、印刷停止時に版上に残った水滴が放置により水が蒸発し、濃縮された状態になっても、版の画像領域を侵すことがない。
本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体として具体的に、下記一般式(3)で示されるものがある。
Rで示されるアルキル基の例として炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基があり、これらのアルキル基は置換されていてもよく、該置換基として例えば、アミノ基、N-アルキルアミノ基、N,N-ジアルキルアミノ基などがある。
R1又はR2で示されるアルキル基及びアルコキシ基の例として、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基及びアルコキシ基が挙げられる。R1又はR2で示されるハロゲン原子の例として塩素原子及び臭素原子などが挙げられる。
中でも、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール及びジメチルベンゾトリアゾールが好ましく使用される。
本発明で使用するベンゾトリアゾール及びその誘導体は、市販品を使用することができる。
本発明の湿し水組成物には、ベンゾトリアゾール及びその誘導体から選ばれる1種単独を又は2種以上を組合せて使用することができる。このようなベンゾトリアゾール類化合物を使用時の湿し水において0.0001〜0.1質量%の範囲で含有させることにより、金属に対して適当な防腐食及び防錆効果を発揮することできる。さらに好ましくはベンゾトリアゾール類化合物を使用時の湿し水において0.001〜0.02質量%の範囲で含有させる。
式中、R3で示されるアルキル基としては炭素原子数1〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基があり、アルケニル基としては炭素原子数1〜18の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基があり、例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ノネニル基、ドデセニル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基及びナフチル基などが挙げられ、アラルキル基としてはフェニルメチル基、フェニルエチル基などが挙げられる。これらのアルキル基、アルケニル基、アリール基及びアラルキル基は置換基を有していてもよく、例えば水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、及び−(OCmH2m)n−OH(式中、mは2〜3を表し、nは1〜20を表す)などの置換基が挙げられる。
上記コハク酸系化合物の中でも、好ましく使用できるものとして、一般式(I)においてR1及びR2がそれぞれ−OM(該Mは水素原子又はアルカリ金属)であり、R3が炭素原子数3〜12のアルキル基、炭素原子数3〜12のアルケニル基、フェニル基などを表すものである。
本発明の湿し水組成物には、上記コハク酸系化合物を1種単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。このようなコハク酸系化合物を使用時の湿し水において0.0001〜0.1質量%の範囲で含有させることにより、金属に対して適当な防腐食及び防錆効果を発揮することできる。さらに好ましくはコハク酸系化合物を使用時の湿し水において0.001〜0.02質量%の範囲で含有させる。
このような水溶性高分子化合物の具体的な例としてはアラビアゴム、澱粉誘導体(例えばデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化酵素分解デキストリン、カルボキシメチル化澱粉、燐酸澱粉、オクテニルコハク化澱粉など)、アルギン酸塩、繊維素誘導体(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、それらのグリオキサール変性体など)の天然物とその変性体及びポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ポリアクリル酸及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体などの合成物が挙げられる。これらの高分子化合物は単独でまたは混合して使用でき、その添加量は湿し水中、0.0001〜5質量%、より好ましくは、0.003〜1質量%が適当である。
これらポリビニルピロリドンは1種単独でも、又は分子量の異なるものを2種以上組み合わせて使用することもできる。また、低分子量のポリビニルピロリドン、例えば重合度3〜5のビニルピロリドンオリゴマーと組み合わせることができる。
このようなポリビニルピロリドンとしては、市販品を使用することができる。例えば、ISP社製のK−15、K−30、K−60、K−90、K−120などの各種グレートのものを使用することができる。
湿し水におけるポリビニルピロリドンの含有量は、0.001〜0.3質量%が適当であり、好ましくは0.005〜0.2質量%である。
湿し水において、糖類から選ばれる少なくとも1種の含有量は0.01〜1質量%が適当であり、好ましくは0.1〜0.8質量%である。
本発明の湿し水組成物はまた、アルカリ金属水酸化物、燐酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、珪酸塩等を含有させ、pH7〜11付近のアルカリ領域で用いることもできる。
上記のキレート剤のナトリウム塩あるいはカリウム塩の代わりに有機アミンの塩も有効である。
これらのキレート剤は湿し水中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。添加する量としては湿し水中0.001〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%が適当である。
消泡剤としてはシリコン消泡剤が好ましく、その中で乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
これらの界面活性剤の含有量は発泡の点を考慮すると、湿し水中10質量%以下、好ましくは0.01〜3.0質量%が適当である。
これらの湿潤剤を単独又は2種以上の併用で、湿し水中0.01〜1質量%程度含ませることができる。
従って、上述の各種成分の湿し水における含有量や湿し水組成物の希釈率などを考慮して、水、好ましくは脱塩水、即ち、純水を使用して各種成分を適宜な濃度で溶解し、濃縮液である湿し水組成物を得ることができる。このような濃縮液を、使用時に通常水道水、井戸水等で10〜200倍程度に希釈し、使用時の湿し水とする。
ASTM D 2369-95の測定法は、試料3mlを熱風オーブン110℃で1時間の条件で、次式により揮発性有機溶剤量を求めるものである。
式:{(試料の質量−加熱残分の質量−試料中の水分質量)/(試料の質量)}×100=揮発性有機溶剤量(質量%)
また、使用時の湿し水中15質量%程度までのイソプロピルアルコールを併用しても印刷品質上問題はない。
さらに、可視や赤外線のレーザーで直接露光するCTPプレートにも好適に使用することができる。具体例としてはフォトポリマータイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LP−NX)や、サーマルポジタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−PI)、及びサーマルネガタイプデジタルプレート(例えば富士写真フイルム(株)製LH−NI)などが挙げられる。
下記表1の組成に従って、実施例1〜5及び比較例1〜5の各種湿し水組成物を調製した。表中、単位はグラムであり、水を加えて最終的に1000mLとした。いずれも濃縮タイプで、使用時に希釈する。
[テスト方法]
印刷機はハイデルMOV(アルカラー給水装置)を使用して、東洋インキ(株)の名称ハイユニティのプロセス4色(墨、藍、紅、黄)インキと、富士写真フイルム(株)製のポジ型PS版VSを、ベタ部と30%網点部のフィルム、及び富士写真フイルム製FQIチャートのフィルムを用い、ウシオ製PSライトで露光後、富士写真フイルム製現像液DP−4で現像処理を行い、富士写真フイルム製ガム液FP−2でガム引き処理を行って製版したものを用いて、印刷テストを実施した。
汚れを生じず、水負けを起こさない湿し水の量(最小水上げ量)を求め、その条件で連続印刷を実施する。印刷物の汚れの発生、又は水負けにより良好な印刷物が得られなくなるまでの印刷枚数により判定する。
10000枚以上 A
10000〜3000枚以上 B
2999〜1枚 C
なし D
10000枚印刷したときの、インキ練りローラー上のインキの乳化状態を調べる。
良い A
やや悪い B
悪い C
(c) 画像部劣化:
印刷機を停止し、PS版のベタ部と30%網点部の画像部にシリンジを用いてそれぞれの湿し水を5μl、10μl、20μl及び50μlを滴下し、60分間放置する。その後印刷を再開し、画像領域の劣化について評価する。
問題なし A
若干劣化有り(リング状跡有り) B
劣化 C
試験装置として、FOGRA Forschungsgesellschaft Druck e.V.による湿し水の腐食テスト法(Testing Scheme for the Corrosion Test of Fountain Concentrates, Version 12/2004)の7頁、図5に示される浸せき腐食テスト用試験装置(Fig.5: Scheme of the permanent total-immersion test)と同様の装置を使用し、鉄と銅に対し錆の発生を試験した。
評価用の鉄の試験片は高炭素クロム軸受け鋼を使用し、サイズ:直径19mm、長さ65mm、表面粗さRa1.5μmに加工した。銅の試験片は、サイズ:28mm×60mm、厚さ2mmの銅板を使用した。
湿し水量は650mLとした。Air Flowは、150mL/minとした。温度は、22℃の条件で7日間の浸せきを実施した。
錆の発生防止性の評価法は、鉄の場合は溶解量を原子吸光法により測定し、銅の場合は外観の変化を目視により判定した。
実施例1〜5と比較例1〜6の湿し水を各々650mlをとり、鉄の試験片(高炭素クロム軸受け鋼)2個を浸せきテスト用試験装置に浸漬し、Air Flowは150mL/min、温度は22℃の条件で7日間の浸せきを実施した。このときの錆の発生程度と、湿し水組成物中に溶け出した鉄の溶解量(原子吸光測定器により測定)により判定した。
錆の発生がない(鉄溶出量5ppm未満) A
錆が発生している(鉄溶出量5ppm以上20ppm未満) B
錆が著しく発生している(鉄溶出量20ppm以上) C
[銅錆発生防止性の評価]
実施例1〜5と比較例1〜6の湿し水を各々650mlをとり、銅の試験片2個を浸せきテスト用試験装置に浸漬し、Air Flowは150mL/min、温度は22℃の条件で7日間の浸せきを実施した。銅の場合は外観の変化を目視により判定した。
錆の発生がない(外観上の変化が認められない A
錆が発生しているが軽微(僅かに色相・光沢に変化有り) B
錆が発生している(色相・光沢の変化が大きい) C
本発明の実施例による湿し水は、連続印刷安定性、乳化性及び画像部劣化のいずれについても良好である。本発明の実施例による湿し水ではまた、比較例6のイソプロピルアルコールを使用した湿し水と同様の良好な印刷物が得られた。上記実施例の湿し水組成物は、イソプロピルアルコールとは異なり、労働安全上及び消防安全上の問題が全くないうえ、既存のイソプロピルアルコール代替湿し水に含まれるような有機溶剤を使用しておらず、揮発性有機溶剤量を極めて低くすることができ環境上たいへん好ましい。
Claims (4)
- さらに、ポリビニルピロリドンと、糖類から選ばれる少なくとも1種とを含有する、請求項1又は2記載の平版印刷用湿し水組成物。
- 実質的に揮発性有機溶剤を含まない請求項1〜3のいずれか1項記載の平版印刷用湿し水組成物。
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