JP2007165711A - 窒化物半導体レーザ素子 - Google Patents

窒化物半導体レーザ素子 Download PDF

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Abstract

【課題】共振器端面でCODが起こりにくい、高出力かつ長寿命の窒化物半導体レーザ素子を提供する
【解決手段】窒化物半導体レーザ素子10の共振器端面に形成されるコート膜のうち、少なくともレーザ光出射端面16に形成されるARコート膜18の膜密度を、ARコート膜18を形成する材料の理想密度の3/4以上とする。これにより、共振器端面と端面コート膜との間での原子の相互拡散、相互反応を抑制でき、窒化物半導体レーザ素子10をCOD耐性が高く、高出力かつ長寿命とすることができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、窒化物半導体レーザ素子に関する。
近年、青紫色半導体レーザを使用したBD(Blu‐ray Disc)やHD‐DVD(Hi Definition DVD)等の規格化および製品化が進んでいる。光ディスクの記憶容量は、さらなる大容量化が要求されており、上述のディスクでも、既に大容量化を目的とした高密度化(2層ディスク対応)および高速書き込みを目的とした信頼性の高い高出力青紫色半導体レーザが必要とされ、早期に開発が求められている。
半導体レーザ素子において、一般に共振器端面には反射率の制御または保護のためにコート膜が形成されている。このコート膜は、レーザ光の出力を高めると損傷しやすくなり、半導体レーザ素子の信頼性が低下することとなる。コート膜を損傷しにくくし、素子の寿命を向上させるため、例えば特許文献1では、共振器端面に形成したコート膜の内部応力を低減させた半導体レーザ素子が提案されている。
特開2002‐223026号公報(第2頁、図3)
発明者らの実験によると、出力130mWで動作させた場合に寿命が20000時間以上である窒化物半導体レーザ素子において、出力を上げて200mWで動作させた場合に、通電動作中に動作電流の増加が観測され、最後には発振が停止するという問題が発生した。この問題の原因について調査したところ、この問題は共振器端面のうち、レーザ光出射側の端面における端面破壊により発生したものであり、この端面破壊は以下のようにして起こることが分かった。
窒化物半導体レーザ素子は、AlGaAs系の赤色レーザなどと比較してバンドギャップが広いため、内部で発生した自然放出光が共振してレーザ発振すると非常に高い熱を持つ。この熱のため、共振器端面のうち、反射率の低いレーザ光出射端面とその上に形成された端面コート膜との界面では、共振器端面の活性層付近の構成元素と端面コート膜の構成元素との相互拡散が発生し、相互反応を起こすことがある。この場合、Al、In、Ga、Nなどからなる共振器端面のGa、InやAl23からなる端面コート膜のOなどの相互拡散、相互反応によりGaO系やIn23系の化合物が生じる。通常、レーザ光出射端面では発振波長405nmの光の大部分は透過しており、吸収はほとんどない。しかし、これらの化合物は紫外域波長の光を吸収するため、窒化物半導体レーザ素子の内部ではさらに高い熱を持つようになる。この熱により、Ga、In、Oの拡散がさらに促進されるという悪循環により、最終的に端面破壊、いわゆるCOD(Catastrophic Optical Damage;光学損傷)に至る。また、端面コート膜では、Al23からOが抜けてストイキオメトリ(化学量論組成)からのずれが生じ、Alの割合が高くなった場合も紫外域波長の光の吸収が起こる。さらに、Alの割合が高くなることにより、端面コート膜に導電性が生じる可能性もあり、この場合pn接合部でショートが起こり、発振停止に至るものと考えられる。なお、共振器端面のうち、反射率の高いレーザ光反射端面でも同様のことが起こると考えられるが、レーザ光反射端面では発振波長405nmの光のほとんどを反射しており、レーザ光出射端面ほど光密度分布が大きくないため光の吸収は少なく、影響は小さい。
ところが、特許文献1で提案された半導体レーザ素子では、このような共振器端面と端面コート膜との間での原子の相互拡散、相互反応によるCODやpn接合部でのショートを抑制することができない。
そこで、本発明では、共振器端面と端面コート膜との間での原子の相互拡散、相互反応を抑制でき、COD耐性の高い、高出力かつ長寿命の窒化物半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明は、窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層に設けられた共振器と、前記共振器の互いに向かい合う端面に形成された端面コート膜とを備えた窒化物半導体レーザ素子において、前記端面コート膜のうち、少なくともレーザ光出射側の端面に形成されたものの、前記窒化物半導体層に接する層の膜密度が、前記窒化物半導体層に接する層を構成する材料の理論密度の3/4以上であることを特徴とする。
また本発明は、上記構成の窒化物半導体レーザ素子において、前記窒化物半導体層がIII‐V族窒化物半導体層からなることを特徴とする。
また本発明は、上記構成の窒化物半導体レーザ素子において、前記端面コート膜のうち、少なくとも前記レーザ光出射側の端面に形成されたものが、Al23、AlN、MgF2、MgO、Nb25、SiO2、Si34、TiO2、Ta25、Y23、ZnOおよびZrO2のいずれかからなる層を、少なくとも1種類以上積層してなることを特徴とする。
また本発明は、上記構成の窒化物半導体レーザ素子において、前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層が、膜密度が3g/cm3以上のAl23からなることを特徴とする。
また本発明は、上記構成の窒化物半導体レーザ素子において、前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層が、膜密度が2.48g/cm3以上のAlNからなることを特徴とする。
また本発明は、上記構成の窒化物半導体レーザ素子において、前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層の厚さが10nm以上であることを特徴とする。
本発明によると、窒化物半導体層に形成された共振器端面とその上に形成された端面コート膜との界面における原子の相互拡散、相互反応が抑制されるため、COD耐性の高い、高出力かつ長寿命の窒化物半導体レーザ素子を得ることができる。
また、本発明によると、端面コート膜の共振器端面に接する層の厚さを10nm以上とすることにより、より相互拡散を抑制することができる。
以下において、本発明の実施形態を説明するにあたり、用語の意味を予め明らかにしておく。本明細書に記載の「窒化物半導体成長層」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる。ただし、窒化物半導体成長層の窒素元素のうち、約20%以下がAs、P、またはSbの元素で置換されてもよい。また、窒化物半導体層中に、Si、O、Cl、S、C、Ti、Ge、Zn、Cd、Mg、またはBeがドーピングされてもよい。n型窒化物半導体としては、これらのドーピング材料のうちでも、Si、O、およびClが特に好ましい。
また、「AR」とはAnti Refrectionすなわち低反射を、「HR」とはHigh Refrectionすなわち高反射を、「MOCVD法」とはMetal Organic Chemical Vapor Deposition法すなわち有機金属化学気相蒸着法を、「MBE法」とはMolecular Beam Epitaxy法すなわち分子線エピタキシ法を、「HVPE法」とはHydride Vapor Phase Epitaxy法すなわちハイドライド気相成長法を、「ECR」とはElectron Cyclotron Resonanceすなわち電子サイクロトロン共鳴を、「RF」とはRadio Frequencyすなわち高周波を、「EB」とはELECTRON BEAMすなわち電子ビームを、「COD」とはCatastrophic Optical Damageすなわち光学損傷を、「XRD」とはX‐ray DiffractometerすなわちX線回折装置を、それぞれ意味する。
なお、本願の図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法関係を表わしてはいない。
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について図を用いて説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子の斜視図、図2は図1に示した窒化物半導体レーザ素子の平面図、図3は図2のA‐A断面図、図4はウェハーの三面図である。
まず、窒化物半導体レーザ素子の構成について説明する。図3に示すように窒化物半導体レーザ素子10は、n型GaN基板11上に、厚さ0.2μmのn型GaN層21、厚さ2.2μmのn型Al0.05Ga0.95Nクラッド層22、厚さ0.02μmのn型GaNガイド層23、InGaN/GaN‐3MQW活性層24、厚さ20nmのp型Al0.3Ga0.7Nキャリアブロック層25、厚さ0.55μmのp型Al0.05Ga0.95Nクラッド層26、厚さ0.1μmのp型GaNコンタクト層27からなる窒化物半導体成長層20が順番に積層されている。活性層24は、厚さ4nmのInGaNと厚さ8nmのGaNとからなる周期構造を3周期分備えている。p型Al0.05Ga0.95Nクラッド層26およびp型GaNコンタクト層27はドライエッチングにより一部が除去され、リッジストライプ構造15が形成されている。リッジストライプ構造15には絶縁層12が蒸着され、その上にp型電極13が形成され、n型GaN基板11の反対側の面にはn型電極14が形成されている。さらに、図1に示すように、レーザ光出射端面16にAl23からなるARコート膜18、レーザ光反射端面17にSiO2/TiO2を4層、最表面にSiO2を1層積層したHRコート膜19が形成されている。レーザ光出射端面16とレーザ光反射端面17とは、共振器端面として共振器を構成する。なお、窒化物半導体成長層20を構成する窒化物半導体層には、III‐V族窒化物半導体を用いることができる。
次に、窒化物半導体レーザ素子10の作製方法について説明する。
まず、図4に示す構造のウェハー30を作製する。ウェハー30は、n型GaN基板11の一方の面に窒化物半導体成長層20が形成され、その上にストライプ状のp型電極13が形成されており、n型GaN基板11の窒化物半導体成長層20が形成された面とは反対側の面には周縁部を除いた全面にn型電極14が形成されている。
ウェハー30を作製するには、第1にn型GaN基板11上に、窒化物半導体成長層20をMOCVD法によって形成する。なお、窒化物半導体成長層20を形成する方法は、エピタキシャル成長できる成長法であればMOCVD法に限定されるものではなく、MBE法、HVPE法等、他の気相成長法を用いても構わない。
次に、通常のフォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術を用いて、図3に示す幅略2μmのリッジストライプ構造15を形成するように、窒化物半導体成長層20のp型GaNコンタクト層27とp型Al0.05Ga0.95Nクラッド層26の一部をエッチングして、エッチングを停止する。なお、本実施形態において、ドライエッチングに用いる反応性ガスとしてSiCl4を用いるものとするが、これに限定されるものではなく、BCl3などの塩素を含有する他のガスを用いても構わない。
次に、p型GaNコンタクト層27とp型Al0.05Ga0.95Nクラッド層26のリッジストライプ構造15を形成した面上に、電流狭窄のための絶縁層12、その上にp型電極13を形成し、n型GaN基板11を窒化物半導体成長層20が形成されていない面から研削研磨を行い、この研削研磨を行った面上にn型電極14を作製した。絶縁層12はSiO2、ZrO、TiO2、Si34などで構成される。p型電極13およびn型電極14は、いずれも金属を蒸着して形成したものであり、例えばMo/Au、Mo/Pt/Au、Mo/Pd/Au、Mo/Pt/Alなどの金属の多層膜であっても、Auのみの単層であってもよい。
このようにして作製されたウェハー30を、バー状の窒化物半導体レーザバーに分割し、共振器端面を形成する。分割は、リッジストライプ構造15の長手方向に垂直なスクライブポイント31で行い、キャビティ長が300μmから1200μmの範囲、第1の実施形態では、600μmとなるように行った。
次に、窒化物半導体レーザバーの共振器端面のうち、レーザ光出射端面16に、図5に示すECRプラズマアシストスパッタ装置40を使用し、ARコート膜18を形成する。図5は、第1の実施形態で使用したECRプラズマアシストスパッタ装置の概略構成図である。
図5に示すように、ECRプラズマアシストスパッタ装置40は大きく分けてECRプラズマ生成室41とRFスパッタ室42とからなる。ECRプラズマ生成室41には、その外側にECRを起こすためのECR用コイル43とECRプラズマ用ガス導入口41aが設けられている。ECRプラズマ生成室41で生成されたECRプラズマは、RFスパッタ室42へ導かれる。RFスパッタ室42内には、Alからなるスパッタターゲット44、膜密度調整用ガス導入口42a、試料ホルダー45およびガス排気口42bが設けられ、試料ホルダー45上に試料として窒化物半導体レーザバー35が置かれている。膜密度調整用ガス導入口42aは、窒化物半導体レーザバー35上へガスが供給される位置および方向に設けられている。RFスパッタ室42外の周囲には、RFコイル46および周波数13.56MHzの高周波電源47が設置される。ECRプラズマ用ガス導入口41aおよび膜密度調整用ガス導入口42aより導入されたガスは、ガス排気口42bから排出される。
ARコート膜18は、次のようにして形成する。まず、試料ホルダー45上に窒化物半導体レーザバー35をレーザ光出射端面16が上になるようにしてセットする。次に、ECRプラズマ生成室41、RFスパッタ室42を、ガス排気口42bから真空排気を行い、1×10-6Pa以下まで排気する。次に、ECRプラズマ用ガス導入口41aからECRプラズマ用ガス、膜密度調整用ガス導入口42aから膜密度調整用ガスを導入し、ECRプラズマ生成室41およびRFスパッタ室42の圧力を1×10-2Paに調整する。第1の実施形態では、ECRプラズマ用ガスとしてArガスを20sccm、膜密度調整用ガスとして、Arガス20sccmとO2ガスを6sccm流した。次に、窒化物半導体レーザバー35を150℃まで加熱する。この状態でECR用コイル43に0.0875Tの磁界を発生させ、出力500W、周波数2.45GHzのマイクロ波をECRプラズマ生成室41に導入すると、ECRプラズマが発生する。次に、スパッタターゲット44に、出力500W、周波数13.56MHzの高周波を印加すると、AlターゲットのArプラズマによるスパッタが起こり、窒化物半導体レーザバー35に向かってAlスパッタ粒子が飛ぶ。この時、Alスパッタ粒子は、膜密度調整用ガス導入口から導入されるO2ガスにより酸化されてAl23となり、レーザ光出射端面16に付着する。このようにして、Al23の膜を80nm成長させ、ARコート膜18を形成した。この形成したAl23からなるARコート膜18の膜密度をXRD装置で測定したところ、3.11g/cm3であった。
本発明において、ARコート膜18の膜密度は、窒化物半導体レーザ素子が発振した時に発生する熱で相互拡散が起きない程度に高ければよく、ARコート膜18を構成する材料の理論密度の3/4以上であればよい。第1の実施形態では、Al23の理論膜密度は4.00g/cm3であり、その3/4は3.00g/cm3であるため、この条件を満たしている。
次にARコート膜18の膜密度の調整方法について説明する。ARコート膜18の膜密度は、O2ガスの導入量、試料温度、ガス圧でコントロールされる。O2ガスは、Alスパッタ粒子の酸化に係わる。O2ガス量が少ないとAlが十分酸化されないため、膜密度は減少する。また、窒化物半導体レーザバー35の温度が低いとスパッタ粒子が持つエネルギーが、窒化物半導体レーザバー35と試料ホルダー45に奪われやすいため、十分なマイグレーションが生じず、膜密度は減少する。さらに、ガス圧は、プラズマエネルギーに係わる。ガス圧が高いとプラズマエネルギーは減少する。故に、スパッタ粒子が試料表面に到達しても、十分なマイグレーションが生じず、膜密度は減少する。またガス圧が低い場合、十分なプラズマエネルギーが提供されるが、スパッタ粒子が高エネルギーなため、試料端面をボンバードメントし、ダメージを与えやすいため、好ましくない。さらに、投入電力にも左右される。これらは、密接に関係しており、好適な範囲は多岐に渡るが、発明者らが調査した結果、O2ガス流量は3sccm以上、試料温度は150〜500℃、ガス圧は1×10-1〜1×10-4Paが好ましい。
また、第1の実施形態では、スパッタターゲット44としてAlを用いたが、Al23を使用してもよい。この場合、O2ガス流量は5sccm以下、試料温度は350〜500℃、ガス圧は同様で1×10-1〜1×10-4Paが好ましい。また、第1の実施形態では、スパッタガスとしてArを用いたが、N2、He、Krガス等を用いてもよい。
なお、成膜装置としては、今回はECRプラズマアシストスパッタ装置を使用したが、その他にもEB蒸着装置、スパッタ装置やCVD装置等の気相成長装置などを用いてもよい。いずれの場合も、基板温度、O2ガス流量、ガス圧等をコントロールし、膜密度が3g/cm-3以上のAl23膜が形成されるようにする。
次に、窒化物半導体レーザバーのレーザ光出射端面16とは反対側のレーザ光反射端面17にSiO2/TiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2/SiO2/TiO2/SiO2からなるHRコート膜をEB蒸着装置で積層し、最後にチップ分割して図1に示される窒化物半導体レーザ素子を得た。
この窒化物半導体レーザ素子を、素子温度70℃、出力210mWにて寿命試験を行った。図6は、その結果を示すグラフであり、縦軸は動作電流、横軸はエージング時間である。図6から分かるように、通電動作中の電流の増加は大幅に低減され、500時間から1000時間の電流増加率から予想される素子寿命は、5000時間以上である。
比較例として、図7に、Al23からなるARコート膜のXRD装置で測定した膜密度が2.85g/cm3である従来の窒化物半導体レーザ素子について同様の寿命試験を行った結果を示す。図7から分かるように、急激な電流増加が起きており、寿命の推定が困難である。
また、膜密度の異なるAl23からなるARコート膜を備えた複数の窒化物半導体レーザ素子について、CODが生じる出力を測定した。その結果を図8に示す。図8は、横軸を膜密度、縦軸をCODが生じる出力としたグラフである。これらの窒化物半導体レーザ素子の膜密度もXRD装置によって測定したものである。図8より、Al23の膜密度が3g/cm3以上、すなわち理想密度の3/4以上の場合、Al23の膜密度が理想密度の3/4未満である場合と比べてCODが生じる出力が高くなっており、すなわち非常に高いCOD耐性を有していることが分かる。
これらのことから、端面破壊について以下のモデルが考えられる。ARコート膜の膜密度が低い場合、レーザ光出射端面の活性層付近のGa、In等がARコート膜側に拡散しやすい。また、ARコート膜のAl23が多結晶やアモルファスに近い場合、Oは比較的移動しやすい原子のため、熱が加えられることで拡散が起き、Al23がストイキオメトリからずれることが考えられる。さらに、窒化物半導体成長層は、水素雰囲気中で成長を行うため、熱で層中の水素がAl23を還元し、Al23がストイキオメトリからずれるケースも考え得る。
逆に、膜密度が高いとレーザ光出射端面側のGa、In等がARコート膜側に拡散する隙間がなくなるため、拡散し難い。また、Oの拡散自体も抑えられ、界面原子層1層程度の相互反応で抑えられていると考えられる。
以上より、本発明によると、ARコート膜の膜密度をARコート膜を構成する材料の理想密度の3/4以上とすることにより、出力200mW以上の高出力でもレーザ光出射端面のARコート膜のCODを防ぐことができる、長寿命な窒化物半導体レーザ素子を提供することができる。
また、ARコート膜の膜密度を高める本手法は、AlGaAs系やAlGaInP系の半導体レーザ素子でも効果が見られた。AlGaAs系やAlGaInP系の半導体レーザ素子は、窒化物半導体レーザ素子より発熱は少ないが、長期動作により徐々にGa、In、O等の拡散が起きていると思われ、これらが反応して生成される不純物準位、もしくは非金属元素が拡散して組成が金属に近くなった共振器端面の界面部分での光吸収が抑えられたためと思われる。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は、ARコート膜をAlNとした点が異なる以外は第1の実施形態と同様であり、窒化物半導体レーザ素子も同様の構造である。AlNからなるARコート膜18は、ECRプラズマアシストスパッタ装置を使用し、プラズマガスおよび膜密度調整用ガスをN2で5sccm流して形成した。ARコート膜18の膜密度は、XRDで測定したところ2.83g/cm3であった。AlNの理想密度は3.30g/cm3であり、その3/4は2.48g/cm3であるため、この膜密度は本発明の条件を満たしている。
この窒化物半導体レーザ素子を雰囲気温度70℃、出力210mWにて寿命試験を行ったところ、通電動作中の電流増加は激減し、500時間から1000時間の電流増加率から予想される素子寿命は4000時間以上であった。従来例素子のエージングデータでは、急激な電流増加があり、寿命の推定が困難であった。該コート膜の膜密度をXRD装置で測定したところ、膜密度は、2.38g/cm3であった。
なお、第1の実施形態および第2の実施形態では、レーザ光出射端面16のARコート膜18としてそれぞれAl23およびAlNの単層膜を使用したが、これらの他にMgF2、MgO、Nb25、SiO2、Si34、TiO2、Ta25、Y23、ZnOおよびZrO2などの単層膜またはこれらを組み合わせた多層膜を用いることができる。この場合も、レーザ光出射端面16と接する層の膜密度が、窒化物半導体レーザ素子が発振した時に発生する熱で相互拡散が起きない程度、すなわち膜密度の値がARコート膜18を形成する材料の理論密度の3/4以上であればよい。表1に、各端面コート膜の理論密度およびその3/4の値を示す。
Figure 2007165711
また、レーザ光出射端面16と接する層の厚さは、10nm以上が好ましい。この層の厚さが10nm未満の場合、特にARコート膜18が2層以上で構成される場合、膜密度に関係なく相互拡散が起きやすかった。
また、HRコート膜19においても、ARコート膜18と同様にその膜密度を、HRコート膜19を形成する材料の理論密度の3/4としてもよい。これによって、レーザ高反射端面17でのCODを抑制することができる。
第1の実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子の斜視図 第1の実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子の平面図 図2のA‐A断面図 第1の実施形態に係るウェハーの三面図 ECRプラズマアシストスパッタ装置の概略構成図 第1の実施形態に係る窒化物半導体レーザ素子の寿命試験結果のグラフ 従来の窒化物半導体レーザ素子の寿命試験結果のグラフ 膜密度とCODが生じる出力との関係を示すグラフ
符号の説明
10 窒化物半導体レーザ素子
11 n型GaN基板
12 絶縁層
13 p型電極
14 n型電極
15 リッジストライプ構造
16 レーザ光出射端面
17 レーザ光反射端面
18 ARコート膜
19 HRコート膜
20 窒化物半導体成長層
21 n型GaN層
22 n型Al0.05Ga0.95Nクラッド層
23 n型GaNガイド層
24 InGaN/GaN‐3MQW活性層
25 p型Al0.3Ga0.7Nキャリアブロック層
26 p型Al0.05Ga0.95Nクラッド層
27 p型GaNコンタクト層
30 ウェハー
31 スクライブポイント
35 窒化物半導体レーザバー
40 ECRプラズマアシストスパッタ装置
41 ECRプラズマ生成室
41a ECRプラズマ用ガス導入口
42 RFスパッタ室
42a 膜密度調整用ガス導入口
42b ガス排気口
43 ECR用コイル
44 スパッタターゲット
45 試料ホルダー

Claims (6)

  1. 窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層に設けられた共振器と、前記共振器の互いに向かい合う端面に形成された端面コート膜とを備えた窒化物半導体レーザ素子において、
    前記端面コート膜のうち、少なくともレーザ光出射側の端面に形成されたものの、前記窒化物半導体層に接する層の膜密度が、前記窒化物半導体層に接する層を構成する材料の理論密度の3/4以上であることを特徴とする窒化物半導体レーザ素子。
  2. 前記窒化物半導体層がIII‐V族窒化物半導体層からなることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  3. 前記端面コート膜のうち、少なくとも前記レーザ光出射側の端面に形成されたものが、Al23、AlN、MgF2、MgO、Nb25、SiO2、Si34、TiO2、Ta25、Y23、ZnOおよびZrO2のいずれかからなる層を、少なくとも1種類以上積層してなることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体レーザ素子。
  4. 前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層が、膜密度が3g/cm3以上のAl23からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物半導体レーザ素子。
  5. 前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層が、膜密度が2.48g/cm3以上のAlNからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の窒化物半導体レーザ素子。
  6. 前記端面コート膜の前記窒化物半導体層に接する層の厚さが10nm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の窒化物半導体レーザ素子。
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