JP2007161632A - ヒアルロニダーゼ阻害剤 - Google Patents

ヒアルロニダーゼ阻害剤 Download PDF

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Abstract

【課題】皮膚の保水などに寄与しているヒアルロン酸を分解するヒアルロニダーゼの活性を阻害する、安価な天然物を原料とする、薬理活性が高いヒアルロニダーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)
Figure 2007161632

(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、シナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基を示す。但し、R、Rが共に水素原子のときRがカフェオイル基である場合およびR〜Rが全て水素原子である場合を除く。)で表される桂皮酸誘導体を含有するヒアルロニダーゼ阻害剤並びにこれを含有する飲食品、化粧品、医薬。
【選択図】なし

Description

本発明は、食品、化粧品、医薬品、医薬部外品分野に属する新規なヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。より詳細には、優れた薬理活性を有し、しかも安全性の高いヒアルロニダーゼ阻害剤に関する。
ヒアルロン酸はコラーゲンやエラスチンなどと同様に、哺乳動物の結合組織に広く存在するマトリックス成分の一種であり、皮膚の保水、潤滑性、および柔軟性など物理的な機能を果たしており、真皮中のヒアルロン酸含量が多いほど皮膚組織の水分量が多いとも言われている。通常、生体内では、ヒアルロン酸合成酵素と分解酵素の活性の平衡が保たれている。たとえば、皮膚は全生体内ヒアルロン酸量の50%を含むが、ヒアルロン酸の半減期は約一日で、軟骨のように見かけ上不活性な組織でさえ、ヒアルロン酸代謝の半減期は1〜3週間である。しかし、老化等に伴い分解酵素であるヒアルロニダーゼ活性が亢進してくると、ヒアルロン酸の分解量が増加するため、組織の柔軟性や潤滑性が失われ、関節の痛みや皮膚のたるみ、しわ等の原因となる。近年では、慢性リュウマチ等の炎症反応、I型アレルギー等のアレルギー反応、腫瘍の成長などにもヒアルロニダーゼが関与していると考えられている。ヒアルロン酸は、脊椎動物では次の3種の酵素の協調した反応によって分解される。ヒアルロニダーゼと、非還元末端から糖を順次除去する2種のエキソグリコシダーゼ、すなわちβ−グルクロニダーゼとβ−N−アセチルグルコサミニダーゼである。これら酵素群は起炎酵素としても知られており、炎症部位で活性の亢進が確認されていることや、ガン細胞が血管新生を誘導する際に、ヒアルロニダーゼ活性が亢進することが報告されていることなどから、ヒアルロン酸分解酵素阻害剤は老化に伴う変化や炎症の改善・予防剤、ガンの転移抑制剤として期待されている。また、アトピー性皮膚炎等による皮膚の炎症やそれに伴うかゆみの軽減・予防剤としても検討されている。
これまでグリチルリチン酸、クロモグリク酸ナトリウム、バイカリン、インドメタシン、アスピリン等に高いヒアルロニダーゼ活性阻害作用が確認され、これらは現在抗炎症剤として使用されている。しかしながら、グリチルリチン酸およびバイカリンは用途および使用濃度に制限があり、クロモグリク酸ナトリウムは妊婦に対しては厳重な使用上の注意を要する。さらに、インドメタシンおよびアスピリンは、局所的な使用で発疹・痒み等の副作用が認められておりそれぞれに問題点を抱えている。
一方、このような問題点を克服するため、天然物からヒアルロニダーゼ阻害活性を有する物質の探索も精力的に行われており、シャクヤク、オオレン、オオバク、ボタンピ、ゲンノショウコ、茶、クジン、シボタンツル、オドリコソウ、サルビア、西洋ネズ、ハマメリスおよびバーチ(例えば特許文献1参照)、茶ポリフェノール類(例えば特許文献2参照)、チンピ、キジツおよび羅漢果(例えば特許文献3参照)、マメ科植物の抽出物(例えば特許文献4参照)、オトギリソウ、ボダイジュ(例えば特許文献5参照)、エラジタンニン(例えば特許文献6参照)、キイチゴ、ラカンカ、エンメイソウ、サルビア、(例えば特許文献7参照)、ブドウ種子およびブドウ搾汁粕(例えば特許文献8参照)、バラ科植物の未熟果(例えば特許文献9参照)、フトモモ科ユーカリ属植物(例えば特許文献10参照)、松樹皮抽出物(例えば特許文献11参照)などが提案されている。
しかし、これらは高価な生薬を原料としていたり、年間を通して安定に確保できなかったり、安全性が確認されていない植物であったり、目的とする物質が微量しか含まれていなかったり、効果が弱い等の問題を有している。また、安全なハーブ類からヒアルロニダーゼ阻害物質を探索した研究もあり、シソ科のハーブ類に含まれるロズマリン酸が有効成分であること(例えば非特許文献1参照)、またセリ科キャロットシードに含まれるクロロゲン酸(5‐カフェオイルキナ酸)にヒアルロニダーゼ阻害活性があること(例えば非特許文献2参照)が報告されているが、その阻害効果は弱いものであった。
特開平1−128933号公報 特開平6−9391号公報 特開平6−80576号公報 特開平7−010768号公報 特開平9−157176号公報 特開平9−124497号公報 特開平10−053532号公報 特開2000−26306号公報 特開2001−190347号公報 特開2003−221333号公報 特開2003−114709号公報 野菜及びハーブのヒアルロニダーゼ阻害作用、日本農芸化学会誌臨時増刊号73、138、1999 Daucus carota、地上部由来のある種の成分の抗酸化及び抗ヒアルロニダーゼ活性、Food Sci Technol Res、Vol.7, No.4, 307-310、(2001)
そこで、本発明の目的は、皮膚の保水などに寄与しているヒアルロン酸を分解するヒアルロニダーゼの活性を阻害する、安価な天然物を原料とした、薬理活性が高いヒアルロニダーゼ阻害剤を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究を重ねた結果、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、モチノキ科植物の各種植物の抽出物に強いヒアルロニダーゼ阻害活性があり、その活性本体が桂皮酸誘導体であることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記一般式(I)
Figure 2007161632
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、シナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基を示す。但し、R、Rが共に水素原子でRがカフェオイル基である場合およびR〜Rが全て水素原子である場合を除く。)で表される桂皮酸誘導体を含有するヒアルロニダーゼ阻害剤、に関する。
本発明者らは、上記一般式(I)で表される桂皮酸誘導体に強力なヒアルロニダーゼ阻害作用があることを初めて見出したものであり、本発明の阻害剤によれば、強力にヒアルロニダーゼ活性を阻害することができる。
前記において、R、R、Rのうちいずれか1つが水素原子であり、他はそれぞれ独立にシナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基であることが好ましい。
本発明者らは、上記一般式(I)で表される桂皮酸誘導体のうち、ジエステル誘導体により強いヒアルロニダーゼ阻害活性があることを見出したものであり、ジエステル誘導体を含有する阻害剤によれば、より強力にヒアルロニダーゼ活性を阻害することができる。
前記において、桂皮酸誘導体は、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸およびカフェオイルフェルロイルキナ酸からなる群から選択されることが好ましく、ジカフェオイルキナ酸であることがさらに好ましい。また、前記ジカフェオイルキナ酸は、3,4‐O‐ジカフェオイルキナ酸、3,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸および4,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸からなる群から選択されることが好ましい。
また、前記桂皮酸誘導体は、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物、モチノキ科植物の植物体から抽出されることが好ましい。前記植物体は桂皮酸誘導体の含有量が高く、これらの天然物を原材料として用いることにより、容易かつ安価に、生体に対する安全性に優れたヒアルロニダーゼ阻害剤を製造することができる。
さらに、本発明の飲食品、化粧品または医薬は、上記ずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする。本発明の阻害剤を飲食品、化粧品、医薬等に使用することにより、ヒアルロニダーゼが関与する皮膚の老化、炎症反応、アレルギー反応等を抑制することができる。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤に用いる桂皮酸誘導体は、天然物に由来するものであるため、人体に対する安全性が高く、化粧品、飲食品に添加する場合に重要な諸物性(臭い、色、味質、安定性、溶解性)に優れ、日常的に化粧品、飲食品、医薬品等として塗布、摂取、投与等することにより、ヒアルロニダーゼが関与する皮膚の老化、炎症反応、アレルギー反応を抑制することができると期待される。特に本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤は、強い抗炎症作用を有しており、医薬品、医薬部外品、化粧品、機能性食品及び雑貨等の成分として、抗炎症、抗かゆみなどの効果が期待でき、また、アトピー性皮膚炎によるかぶれやかゆみの予防・改善にも有用である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤に含有される桂皮酸誘導体は下記一般式(I)
Figure 2007161632
(式中、R、R、Rは、それぞれ独立に水素原子、シナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基を示す。但し、R、Rが共に水素原子でRがカフェオイル基である場合およびR〜Rが全て水素原子である場合を除く。)で表される。これら桂皮酸誘導体のなかで、ヒアルロニダーゼ阻害活性が優れているのは、桂皮酸ジエステル誘導体であり、具体的にはジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、カフェオイルフェルロイルキナ酸が挙げられ、ヒアルロニダーゼ阻害活性が特に優れているのはカフェー酸のジエステル誘導体であるジカフェオイルキナ酸である。ジカフェオイルキナ酸には、3,4‐O‐ジカフェオイルキナ酸(3,4−diCQA)、3,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸(3,5−diCQA)および4,5‐O‐ジカフェオイルキナ酸(4,5−diCQA)が含まれる。
本発明に用いられる桂皮酸誘導体には、これらの塩も包含され、薬学上許容される塩であれば特に限定されない。例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ(土類)金属との塩が挙げられる。天然物中においては、桂皮酸誘導体は塩としても存在している。
本発明に用いる桂皮酸誘導体を得るための原材料としては、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科、モチノキ科植物など、また本誘導体類を含有している植物体自体若しくはその粉砕物の抽出物、その精製物又は部分精製物などを挙げることができる。前記桂皮酸誘導体は、アカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出されることが好ましい。これらの植物体は、前記誘導体の含有量が比較的高く、より簡便で短時間に前記誘導体を抽出することができる。なお、これら植物の部位は果実、種子(胚乳部)、葉、樹木、樹皮などいずれも用いることができる。
アカネ科植物に属するCoffea arabica(以下、コーヒーと略称)の栽培種はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種の三原種とそれをもとにした数十品種がある。アカネ科植物に属するコーヒー生豆は、桂皮酸ジエステル誘導体の含有量が5〜10%程度、多いものでは含有量が10%を越えるため、前記誘導体を得るための原材料として好適である。
ロブスタ種のコーヒー生豆は、アラビカ種のコーヒー生豆より桂皮酸誘導体の含有量が高く、さらにロブスタ種の中でも低等級のコーヒー生豆(低品質のコーヒー生豆)に桂皮酸誘導体の含有量が高い。よって、ロブスタ種の低等級のコーヒー生豆は、低価格で購入でき、通常飲用しない低品質のコーヒー生豆を有効利用することができる点で桂皮酸誘導体を得るための原材料としてさらに好適である。
本発明に用いる桂皮酸誘導体の原料としては、生のまま、あるいは天日乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥されたものでもよいが、桂皮酸誘導体は、焙煎される温度、すなわちアミノ−カルボニル反応(メイラード反応)が進行し得る温度では分解されてしまい、目的とする桂皮酸ジエステル化合物の収率が低下してしまう。したがって、原料としては高温で加熱等されておらず、メイラード反応が進行していないことが好ましい。
本発明に用いる桂皮酸誘導体の製造方法としては、前記植物体を水または有機溶媒などで抽出することで、桂皮酸誘導体の濃度を高める方法が好適である。使用する有機溶媒としては、例えばメタノ−ル、エタノ−ル、プロパノール、酢酸エチル、又はそれらの含水物などを挙げることができる。これらの有機溶媒を用いて抽出物を得るには、公知の方法に従えばよく、例えば前記した植物の葉、樹木、樹皮を適当に破砕した後、それらの粉砕物、また該植物の樹液を前記した有機溶媒で公知の方法を用いて処理する。具体的には、原料の1〜100倍(質量比)、好ましくは3〜20倍(質量比)の有機溶媒で温度0℃以上、好ましくは10℃からその有機溶媒の沸点以下の温度条件下で、1分〜8週間、好ましくは10分〜1週間抽出処理をする。
上記のごとくして得られた抽出処理物自体を精製に用いてもよいが、好ましくは有機溶媒を通常の方法、例えば、ロータリエバポレーターなどを使用して除去するのがよい。或いは更に、凍結乾燥や加熱乾燥処理を施してもよい。
上記抽出物から桂皮酸誘導体を精製するには、公知の天然有機化合物類の分離・精製法を採用すればよい。例えば、活性炭、シリカ、化学修飾シリカ、ポリマー系担体などを用いた吸脱着、あるいはクロマトグラフィー、液−液抽出、分別沈澱などの手法により、不純物を除き精製する。具体的には、上記抽出物をODS−シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、60〜100%(以下全て質量%)メタノール溶液または適宜の濃度のエタノール或いはプロパノールを溶離液として溶出・分画する。これらのクロマトグラフィーによって分離される成分を集め、濃縮・結晶化することにより桂皮酸誘導体を得ることができる。
本発明に用いる桂皮酸誘導体は、天然物に由来する安全性が高いヒアルロニダーゼ阻害剤であり、溶解性、安定性に優れ、化粧品、飲食品に悪影響を与えることなく添加することができ、所望のヒアルロニダーゼ阻害作用を発揮することができる。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤の用途としては、一般的な炎症による痛みやかゆみ、おむつかぶれの改善及び抗老化を目的とした医薬品、医薬部外品及び化粧品等の薬用化粧品の他に、アトピー性皮膚炎の皮膚の炎症に伴うかゆみや炎症及び花粉症に伴う炎症の軽減を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品及び機能性食品としても使用することができる。また、汎用化粧品成分による炎症予防を目的とした成分としても用いることができる。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤を食品、化粧品、医薬品、医薬部外品などとして用いる場合には、その形態は、特に制限はなく、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム、軟膏、エアゾール剤、カプセル剤、吸収性物品及びシート状製品等の形態の医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、調味料、機能性食品及び紙おむつ等の雑貨とすることができる。
また、本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤をハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、丸剤、あるいは粉末状、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、飴状、液体、またはペースト状などの当業者が通常用いる形態で摂取することもできる。これらは、形状または好みに応じて、そのまま摂取してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて飲んでもよく、成分を浸出させたものを摂取してもよい。
また、本発明に係わるヒアルロン酸分解酵素阻害剤には、他の有効成分や薬学的に許容される賦形剤、色素や香料等を適宜組み合わせて用いることもできる。たとえば、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品、医薬部外品、化粧品、機能性食品、吸収性物品及びシート状製品等に配合し得る油脂類、界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子類、顔料、色素、防腐剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を含有させることができる。例えば、グリチルリチン酸、塩酸ジフェンヒドラミン、アズレン、dl−α−トコフェロールおよびその誘導体、ビタミンB2及びB6などと用いることにより、その効果を高めることができる。
本発明の桂皮酸誘導体単独でも、皮膚中のヒアルロン酸の分解を阻止することにより間接的に保湿・美肌効果を持つが、他の保湿・美肌性化粧品成分、例えば、エラスチン、コラーゲン、レシチン、スクワレン、プラセンターリキッド(胎盤抽出液)、グリセリン類、グリコール類、発酵代謝産物、乳酸菌培養液、ビタミンAおよびC、コンドロイチン硫酸ナトリウム、2‐ピロリドン‐5‐カルボン酸ナトリウム(PCA‐Na)、オキシベンゾン、トラネキサム酸、塩酸ジフェンヒドラジン、アデノシン酸、カラミン、水溶性アズレン、紫根エキス、当帰エキス、ワレモコウエキス、アミノカプロン酸、サリチル酸、ビサボロール、バクモンドウ粘液多糖類等の植物多糖類などと共に用いて、より一層効果を高めることもできる。また、本発明の桂皮酸誘導体は、ヒアルロン酸分解酵素を強く阻害するのでヒアルロン酸と共に用いることにより、効果的にその保湿効果を高めることもできる。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤における桂皮酸誘導体の含有量は作用発現の観点から適宜選択でき、特に限定されないが、阻害剤100重量部当たり好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
本発明の飲食品としては、通常の飲食品、例えば、穀物加工品(小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅等)、油脂加工品(可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等)、大豆加工品(豆腐類、味噌、納豆等)、食肉加工品(ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等)、水産製品(冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮等)、乳製品(原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリーム等)、野菜・果実加工品(ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等)、菓子類(チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類等)、アルコール飲料(日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等)、嗜好飲料(緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等)、調味料(しょうゆ、ソース、酢、みりん等)、缶詰・瓶詰め・袋詰め食品(牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済み食品)、半乾燥または濃縮食品(レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類)、乾燥食品(即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープ等)、冷凍食品(すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテル等)、固形食品、液体食品(スープ等)、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が挙げられる。
また、本発明の飲食品には、上記通常の飲食品のほか、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品、例えば、健康食品、機能性食品、サプリメントあるいは厚生労働省の定める特別用途食品、例えば特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品、病者用組み合わせ食品、高齢者用食品が含まれる。
本発明の飲食品の製造法は特に限定されるものではなく、調理、加工および一般に用いられている飲食品の製造法を挙げることができる。本発明の飲食品におけるヒアルロニダーゼ阻害剤の含有量は特に限定されず、作用発現の観点から適宜選択できるが、飲食品100重量部当たり、好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する医薬としては、一般的な炎症による痛みやかゆみ、おむつかぶれの予防・改善剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、老化に伴う変化や炎症の予防・改善剤、ガンの転移抑制剤等が挙げられる。
本発明の医薬は、一般的な医薬製剤の形態で用いられ、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤あるいは賦形剤等を用いて調製される。この医薬製剤としては各種の形態が使用目的に応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)および坐剤等が例示される。
上記薬剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤の形態、患者の性別、年齢、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤の場合には経口投与され、注射剤の場合は、単独でまたはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、さらに必要に応じて単独で筋肉内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤の場合は直腸内投与される。上記薬剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度およびその他の条件により適宜選択されるが、通常、有効成分化合物の量として、1日当たり0.01〜100mg/kg程度が好ましく、0.1〜10mg/kgがより好ましい。
本発明のヒアルロニダーゼ阻害剤を含む化粧品としては、例えば、水/油または油/水型の乳化化粧料、クリーム、化粧乳液、化粧水、油性化粧料、口紅、ファンデーション、皮膚洗浄剤、ヘアートニック、整髪剤、育毛剤、入浴剤等が挙げられる。
本発明の化粧品の製造法は特に限定されず、一般に用いられている化粧品の製造法を挙げることができる。本発明の化粧品におけるヒアルロニダーゼ阻害剤の含有量は特に限定されず、作用発現の観点から適宜選択できるが、化粧品100重量部当たり、好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜10重量部である。
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
−桂皮酸誘導体含有画分の調製−
コーヒー生豆中の桂皮酸誘導体は瓜谷らの方法(Uritani, I.; Muramatsu, K. Phytopathological chemistry of black-rotted sweet potato. part 4. Isolation and identification of polyphenols from injured sweet potato. Nippon Nougeikagaku kaisi. 27, 29-33(1952))に準じて単離した。2種類の供試生豆100gを粉砕し、70%(v/v)メタノール水溶液1Lを加えて80℃で20分間、3回抽出を繰り返した。抽出液は50mLまで減圧濃縮後、4℃に48時間保って桂皮酸誘導体とカリウムイオン、カフェインが等モルずつ会合した黄褐色の沈殿を得た。この沈殿物に飽和酒石酸溶液を加えて生成した酒石酸カリウムの白色沈殿を除去した。つぎにクロロホルムを添加してクロロホルム層に移行したカフェインを除去した。水層を分取HPLC PLC−561システム(GL Sciences Inc.)を用いて目的のピークを分取した。
分取は、カラム;Inertosil ODS-3(250×19mm、GL Sciences Inc.)を用い、カラム温度40℃、流速15mL/分、検出波長326nmで行った。325nmに吸収をもつ7種類の物質(物質1〜7)のHPLCクロマトグラムを図1に示す。各ピークフラクションはSephadex LH−20カラムクロマトグラフィーをおこない、メタノールで溶出することによって精製した。精製クロロゲン酸類は凍結乾燥を行ってから−20℃で保存した。
次に、上記精製桂皮酸誘導体の同定を行った。生豆から単離した7種類の物質のHPLC分析結果と最大吸収波長、FAB−MSおよびMS−MSデータを表1に、H−NMRデータを表2に示す。
Figure 2007161632
Figure 2007161632
物質1、2および3はFAB−MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z163に、ネガティブイオンモードでm/z191にフラグメントピークが出現した。m/z163フラグメントは陽イオン化にともなうカフェオイル基由来のカルボニル酸素と、m/z191フラグメントはキナ酸由来のフラグメントと同定した。これらのMS分析結果から、3種類の物質をクロロゲン酸と同定した。
同定した3種類のクロロゲン酸(物質1、2および3)のH‐NMRスペクトルは、カフェー酸とキナ酸のスペクトルを合わせたもので、キナ酸のC‐3、C‐4およびC−5プロトンのいずれかのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていた。従って、物質1、2および3をそれぞれ、3‐カフェオイルキナ酸(3‐CQA)、クロロゲン酸(5‐CQA)および4‐カフェオイルキナ酸(4‐CQA)と同定した。
物質4はFAB‐MS分析でm/z354に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z177に、ネガティブイオンモードではm/z191と194にフラグメントを与えた。m/z177フラグメントは、フェルロイル基に由来し、m/z191フラグメントはキナ酸由来、m/z194
はフェルロイル基由来のフラグメントと同定した。また物質4のH−NMRスペクトルはMorishitaらの文献(Morishita, H.; Iwashita, H.; Osaka, N.; Kido, R. Chromatographic separation and identification of naturally occurring chlorogenic acids by 1H nuclear magnetic resonance spectroscopy and mass spectrometry. J. Chromatogr. 315, 253-260(1984))に酷似していたことから、物質4を5‐フェルロイルキナ酸(5‐FQA)と同定した。
物質5〜7はFAB−MSでm/z516に分子イオンピークを与えた。このフラグメントをMS/MS分析すると、ポジティブイオンモードでm/z355と163に、ネガティブイオンモードではm/z353、191、179、173、135にフラグメントが出現した。m/z355と166のフラグメントはカフェオイル基が遊離して生成したクロロゲン酸とカフェオイル基由来のカルボニル酸素と考えられる。一方、m/z353のフラグメントはカフェオイル基が遊離したクロロゲン酸、m/z191と173はキナ酸由来、m/z179と135はカフェー酸に由来すると同定した。これらのMS分析結果から、物質5〜7はジカフェオイルキナ酸の異性体と同定した。さらにH−NMRスペクトルでキナ酸のC−3、C−4およびC−5位のプロトンのケミカルシフト値が低磁場側にシフトしていたことから、物質5、6、7をそれぞれ3,4−diCQA、3,5−diCQA、4,5−diCQAと同定した。
<実施例2>
−ヒアルロニダーゼ阻害活性試験−
桂皮酸誘導体のヒアルロニダーゼ阻害活性試験は、Morgan-Elson法を応用した文献(Maeda, Y.; Masui, T.; Sugiyama, K.; Yokota, M.; Nakagomi, K.; Tanaka, H.; Takahashi, K.; Kobayashi, T.; Kobayashi, E. Studies on anti-allergic activity in tea. II. Inhibitory effect of tea extracts on hyaluronidase. J Food Hygiene Soc Japan.31,233−237,1990)の方法に準じて実施した。ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼによりN−アセチルヘキソサミンに分解される為、その分解物であるN−アセチルヘキソサミン量を指標とし、ヒアルロニダーゼ阻害活性を測定することができる。
100mM 酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解した桂皮酸誘導体溶液200μlにヒアルロニダーゼ(シグマ社製)40ユニットを添加し、37℃で20分間予備加温した。同緩衝液に溶解した0.01%(w/v) compound 48/80(ナカライテスク社製)を200μl加えて、37℃で20分間インキュベートしてヒアルロニダーゼを活性化させた。この溶液に最終濃度0.4mg/mlとなるようヒアルロン酸を加え、37℃で20分反応させた後、0.4NNaOH を200μl加えて氷冷し反応を停止させた。0.5N NaOHに溶解した4.95%(w/v)ホウ酸溶液を200μl反応液に加え、100℃で3分間加温した後、再び氷冷した。この溶液にp-ジメチルアミノベンズアルデヒド試薬を6ml加え、37℃で20分間反応させた後、585nmの吸光度を測定した。ヒアルロニダーゼ阻害活性は次式により求めた。
ヒアルロニダーゼ阻害活性(%)=[(A-B)-(C-D)]/(A-B)×100
A=供試試料を添加していない反応液の吸光度(コントロール)
B=酵素を添加していない反応液の吸光度(ブランク)
C=試料溶液の吸光度
D=供試試料、酵素を添加していない反応液の吸光度(試料ブランク)
桂皮酸誘導体の濃度を変えてヒアルロニダーゼ阻害活性を求め、横軸に桂皮酸誘導体の濃度を、縦軸にヒアルロニダーゼ阻害活性をプロットしてグラフを描き、回帰式からヒアルロニダーゼ活性を50%阻害するのに必要な桂皮酸誘導体の濃度(IC50)を算出した。また、比較対照にはクロモグリク酸ナトリウム(DSCG)と(+)-カテキン((+)-catechin)を用いた。
実験データは、5回の独立した実験の平均値±標準偏差として示した。統計学的比較は、Studentのt検定により行った。図に表された符号は、以下の通りである。
*;DSCGに対してP<0.05
**;DSCGに対してP<0.01
***;(+)-カテキンに対してP<0.001
桂皮酸誘導体のヒアルロニダーゼ阻害活性(IC50)を図2に示す。モノカフェオイルキナ酸(3‐CQA、4‐CQAおよび5‐CQA)のヒアルロニダーゼ阻害活性(IC50)は0.72〜0.95mM、5‐FQAでは1.05mMであった。ジカフェオイルキナ酸類のヒアルロニダーゼ阻害活性(IC50)は、0.11〜0.18mMであり、モノカフェオイルキナ酸類と比較して顕著な阻害活性が認められた。また、図2に示されるように、ジカフェオイルキナ酸類は、抗ヒスタミンや抗ヒアルロニダーゼ阻害剤として用いられているクロモグリク酸ナトリウム(IC50=0.19mM)および(+)‐カテキン(IC50=0.34mM)より有意に高い阻害活性を示した(p<0.01)。
コーヒー豆の70%(v/v)エタノールより抽出された抽出物の高速液体クロマトグラムを示す図。 コーヒー豆から単離された桂皮酸誘導体のヒアルロニダーゼ阻害活性(IC50)を示すグラフ。

Claims (8)

  1. 下記一般式(I)
    Figure 2007161632
    (式中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、シナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基を示す。但し、R、Rが共に水素原子でRがカフェオイル基である場合およびR〜Rが全て水素原子である場合を除く。)で表される桂皮酸誘導体を含有するヒアルロニダーゼ阻害剤。
  2. 、R、Rのうちいずれか1つは水素原子であり、他はそれぞれ独立にシナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基である請求項1に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
  3. 桂皮酸誘導体が、ジクマロイルキナ酸、ジカフェオイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸およびカフェオイルフェルロイルキナ酸からなる群から選択される請求項2に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
  4. 桂皮酸誘導体がジカフェオイルキナ酸である請求項3に記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
  5. 桂皮酸誘導体が、メイラード反応が進行していないアカネ科植物、キク科植物、ヒルガオ科植物、バラ科植物、タケ科植物またはモチノキ科植物の植物体から抽出されることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤。
  6. 請求項1〜5いずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する飲食品。
  7. 請求項1〜5いずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する化粧品。
  8. 請求項1〜5いずれかに記載のヒアルロニダーゼ阻害剤を含有する医薬。
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