JP2007147662A - 赤血球抗原の検査方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】反応中にはがれや抗原の破損等がなく、異なる感受性の表面抗原に関する検査を安定に実行できる方法を提供する。
【解決手段】感受性が異なる表面上の不規則性抗原に対して感受性に応じた失活処理を行った赤血球を、所定の容器において固相状態で検体と反応させることにより、異なる不規則性抗体を安定した固相状態で固定することを特徴とする赤血球抗原の検査方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、血清学的検査方法、特に不規則性抗体の同定に用いる検査方法に関する。
輸血、妊娠等のアロ免疫刺激を受けるとしばしば抗赤血球抗体が産生される。この抗赤血球抗体は不規則性抗体と呼ばれ、次回の輸血時に抗体に対して抗原陽性血が体内に入った場合、輸血効果が得られないばかりか重篤な副作用を呈することがある。輸血を行う場合、この副作用を防止する意味合いから、輸血を受ける患者には数種類のO型血球(スクリーニング血球)に対して不規則性抗体の有無を調べるいわゆる抗体スクリーニングが実施される。患者がこれらのスクリーニング血球に反応する抗体を持っていた場合は陽性となる。次に、患者が保有する抗体の種類を決定し、その抗体とは反応しない血液を輸血する。この抗体の種類の決定を抗体同定という。抗体同定には、スクリーニングより更に多く(通常10種類以上)のO型血球(パネル血球)が使用され、抗体の特異性が決定される。パネル血球は様々な異なる抗原性の血球からなる。通常は、パネル血球のみで抗体の同定が可能であるが、複数の抗体を保有している場合はパネル血球のみでは判定できない場合があり、さらに異なる抗原性の血球の必要性が生じている。
一方、赤血球上の抗原は、ある種の酵素(例えば、血清学でよく使用されるものはパパイン、フィシン、ブロメリン、プロナーゼ、キモトリプシンなど)やスルフヒドリル試薬(ジチオスレイトールや2−メルカプトエタノール)で処理を行うと特定の抗原性が消失するか、または抗体との反応が増強されることは良く知られている(非特許文献1)。たとえば、Fy抗原はパパイン処理を行った血球で反応性が消失してしまうが、D抗原はむしろ反応性が強まる。このように同一血球であっても酵素処理によって特定の抗原が陰性となった血球を調製できる。
さらに、酵素の種類によって血球上の抗原に対して及ぼす効果が違うという特徴もある。たとえばFy抗原はパパインでは失活するがトリプシンでは失活しない。血清学においてはこのように異なる種類の酵素や化学物質で処理した血球に対して反応性の変化を見て抗体同定を行うことは良く行われている(非特許文献2)。
このような技術を用いて、酵素や化学物質の種類を変えて処理をすれば、元の血球に対して何種類かの異なる特異性を持つ血球を作ることが出来る。しかしながら、それぞれの処理方法が極めて厳密であり、過剰の処理を行うと偽陽性反応が発生し、また処理が足りないと失活するはずの抗原性が残ることになる。従って、それぞれ最適条件を設定し、正しく処理を行う必要がある。しかも、酵素や化学物質によって最適条件が異なるので数種類の血球を処理することは容易ではない。また、処理した血球を保管するには液体窒素等で凍結する必要があり、その維持管理と血球の凍結、解凍処理が非常に煩雑である。
一方、特許文献1、特許文献2で述べられているように、赤血球を乾燥固定することで長期にわたり保存が可能であることが知られている。しかしながら、酵素や化学物質で処理した血球をそのまま乾燥固定してもうまくいかない場合が多い。その原因は、酵素処理することで赤血球のペプチド鎖が分解を受けるので、溶血+乾燥操作により、固相面から血球がはがれてしまったり、血球そのものの構造が破壊されてしまうからだと考えられる。今まで、血球の酵素処理条件については非特許文献3に述べられているように、主にパパイン処理による血球上のDuffy抗原の失活についてのみ調べられていた。また、血球上の抗原に対して酵素の作用は一様でなく、抗原によっても感受性が異なるということは詳細に検討されていなかった。さらに、乾燥固定に適した酵素処理の条件は検討されていなかった。
特開2000−321269号公報 特許第3030710号明細書 American Red Cross (1993) Immunohematology Methods and Procedures, American Red Cross National Reference Laboratory, Rockville, MD JR Storry. Immunohematology 2000; 16:101-104 AABB Technical Mannual 13ed p.673-679
従って本発明の目的は、予め特定の抗原を選択的に失活させた赤血球を長期間安定して使用することが可能な血清学的検査容器、およびその製造方法を提供することにある。さらに、剥がれや抗原の破損等がなく、異なる感受性の表面抗原に関する検査を安定に実行できる方法を提供することである。
上記課題を解決する手段は以下の通りである。即ち、
(1) 感受性が異なる表面上の不規則性抗原に対して感受性に応じた失活処理を行った赤血球を、所定の容器において固相状態で検体と反応させることにより、異なる不規則性抗体を安定した固相状態で同定することを特徴とする赤血球抗原の検査方法;
(2) 当該同定することが、酵素免疫測定法、蛍光標識免疫測定法および化学発光免疫測定法の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の検査方法;
(3) 当該同定することが抗グロブリン抗体で感作した指示粒子をさらに反応させて陰性像または陽性像を発生させる方法であることを特徴とする請求項1に記載の検査方法;
(4) 当該失活処理した赤血球をさらに溶血処理により内容物を取り除いた後に検体と反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の検査方法;
(5) 前記検体が血清であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の方法;
である。
以上詳述したように、本発明によれば、反応中に剥がれや抗原の破損等がなく、異なる感受性の表面抗原に関する検査を安定に実行できる方法が提供される。
本発明の一態様に係る血清学的検査容器は、同一プレート上に血清検体収容部としての複数のウェルを有し、各々のウェルの壁面に、非処理の赤血球および特定の抗原を選択的に失活させた赤血球からなる群より選ばれる複数の赤血球のうちいずれかを乾燥固定したことを特徴とする。なお、特定の抗原を選択的に失活させた赤血球および非処理の赤血球は、同一の赤血球由来のものが好ましい。
本発明の他の態様に係る血清学的検査容器の製造方法は、(a)未処理の赤血球を血清検体収容部の壁面に固相する工程と、(b)固相した赤血球上の特定の抗原を酵素処理または化学処理により選択的に失活させる工程と、(c)処理後の赤血球に界面活性剤を含有する等張以上の液体を接触させて赤血球の内容物を溶出させる工程と、(d)内容物を溶出させた赤血球に乾燥用溶液を添加した後に乾燥操作を行う工程とを含むことを特徴とする。
工程(b)はたとえば、320U以上のトリプシンを含有するアルカリ性の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のLutheran、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
工程(b)はたとえば、0.05U〜3Uの濃度のパパインを含有するpH6の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のDuffy、M、S、Xg、およびGe抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
工程(b)はたとえば、0.05U〜1Uの濃度のブロメリンを含有するpH6〜8の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のDuffy、M、S、およびXg抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
工程(b)はたとえば、0.1〜0.006Mのジチオスレイトールを含有するアルカリ性の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のKell系抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
本発明の他の態様に係る血清学的検査容器の製造方法は、(a)赤血球上の特定の抗原を酵素処理または化学処理により選択的に失活させる工程と、(b)処理した赤血球を血清検体収容部の壁面に固相する工程と、(c)固相した赤血球に界面活性剤を含有する等張以上の液体を接触させて赤血球の内容物を溶出させる工程と、(d)内容物を溶出させた赤血球に乾燥用溶液を添加した後に乾燥操作を行う工程とを含むことを特徴とする。
工程(a)はたとえば、血球濃度3%に対して20U以上のトリプシンを含有するアルカリ性の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のLutheran、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
工程(a)はたとえば、血球濃度3%に対して0.4U以下の濃度のパパインを含有するpH6の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のDuffy、M、S、Xg、およびGe抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
工程(a)はたとえば、血球濃度3%に対して0.4U以下のブロメリンを含有するpH6の等張バッファーで室温〜37℃において至適時間反応させることにより、赤血球上のDuffy、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種を選択的に失活させる工程である。
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明に係る血清学的検査容器は、赤血球上に存在する特定の抗原を、酵素または化学物質で処理することにより選択的に失活させた赤血球を血清検体収容部の壁面に乾燥固定することにより、所望の抗原性を有する赤血球を長期にわたり安定して使用できるようにしたものである。ここで、本発明において特定の抗原とは、通常赤血球上に存在し得るいかなる抗原であっても良い。たとえば、Lutheran、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種、Duffy、M、S、Xg、およびGe抗原のうち少なくとも1種、Duffy、M、S、およびXg抗原のうち少なくとも1種、またはKell系抗原のうち少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の血清学的検査容器は、同一プレート上に血清検体収容部としての複数のウェルを有するマイクロプレートであることが好ましい。検査容器はプラスチック製であることが好ましく、さらに、底面の形状がUまたはV状であることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の血清学的検査容器は、マイクロプレートの各々のウェルの壁面に、抗原に対して処理を施していない非処理の赤血球および特定の抗原を選択的に失活させた種々の赤血球からなる群より選ばれる複数の赤血球のうちいずれかが乾燥固定されていてもよい。なお、特定の抗原を選択的に失活させた赤血球および非処理の赤血球は、同一の赤血球由来のものであってもよい。
酵素や化学物質で処理した赤血球を乾燥するには、それぞれ最適な条件が必須である。従って本発明者らは、赤血球を単に酵素処理または化学処理して乾燥するのではなく、異なる濃度の酵素に対して、各抗原がどのような反応挙動を取るかを明らかにし、乾燥固定化に適した条件を検討した。以下、本発明に係る血清学的検査容器の製造方法を示す。なお、以下の説明においてはマイクロプレートの各ウェルに赤血球を乾燥固定する方法を示すが、本発明はこれに限定するものではない。
本発明の製造方法の第1の実施形態としては、赤血球をウェルに固相後に、酵素または化学物質により処理し、これを乾燥固定する。具体的には、たとえばレクチンを使用する大釜らの方法(J Ohgama et al., Transfusion Medicine 1996; 6: 351-359)に従って、レクチン、抗赤血球抗体、またはポリカチオンなどを介して赤血球をウェル底面に固相後、洗浄して余分な赤血球を除去する。なお、レクチンは小麦胚芽レクチンであることが好ましい。
この固相赤血球に対して種々の濃度、pHの酵素溶液または化学物質を添加し反応を行う。ここで用いる酵素としては、トリプシン、パパイン、ブロメリン、フィシン、キモトリプシン、およびプロナーゼなどが好ましい。また、化学物質としては、ジチオスレイトール(DTT)および2−メルカプトエタノール(2−Me)等のスルフヒドリル試薬が好ましい。
酵素処理は、その酵素活性値とpHに強く影響を受ける。また、化学処理または酵素処理に対する抗原の感受性もそれぞれ異なり、強い処理でなければ消えない抗原もある。従って、失活させようとする抗原によってそれぞれ最適な条件を明らかにした上で、赤血球を乾燥する必要がある。本発明においては、失活させようとする抗原の抗体との反応性が消失し、かつ陰性検体に偽陽性反応が発生しないための条件を設定した。すなわち、失活させようとする抗原によって、ウェル内壁に固相した赤血球に対して以下の処理を施す。
赤血球上のLutheran、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種を失活させるには、320U以上のトリプシンを含有するアルカリ性(好ましくはpH8以上)の等張バッファーを固相した赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
赤血球上のDuffy、M、S、Xg、およびGe抗原のうち少なくとも1種を失活させるには、0.05U〜3Uの濃度のパパインを含有するpH6の等張バッファーを固相した赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
赤血球上のDuffy、M、S、およびXg抗原のうち少なくとも1種を失活させるには、0.05U〜1Uの濃度のブロメリンを含有するpH6〜8の等張バッファーを固相した赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
赤血球上のKell系抗原のうち少なくとも1種を失活させるためには、0.1〜0.006MのDTTを含有するアルカリ性(好ましくはpH8以上)の等張バッファーを固相した赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
なお、反応時間は条件によって異なるが、10〜30分程度が好ましい。
上述したような条件で処理した赤血球を、玉井らの方法(特開2000−321269)に従って乾燥固定する。すなわち、処理した赤血球を洗浄後、低濃度の界面活性剤を含有する等張以上の液体を接触させることにより穏やかに内容物を排出し、さらに洗浄後、糖類およびタンパク質を含有する乾燥用溶液を添加し、軽く水切りした後に真空乾燥、自然乾燥、または風乾などにより乾燥させる。界面活性剤としては、TritonX−100等が使用できる。また、糖類としてはサッカロース等、タンパク質としてはBSA等の動物の血清タンパク質を使用することが好ましい。なお、赤血球の溶血方法としては、界面活性剤を用いる他に、低張液を用いて赤血球を破裂させる方法等を用いることも可能であるが、乾燥固定後の赤血球の状態を良好に保つためには界面活性剤を用いることが最も好ましい。
本発明の第2の実施形態においては、赤血球をマイクロプレートに固相する前に、予め試験管等で浮遊状態の赤血球を酵素または化学物質で処理する。処理した赤血球は洗浄後、第1の実施形態において説明したのと同様の方法でウェル底面に固相し、乾燥固定する。ここで、赤血球を処理するのに好ましい酵素または化学物質は、第1の実施形態において説明したものと同じである。しかしながら、固相前の赤血球処理は赤血球の濃度、処理するスケール、および撹拌条件など別のファクターが加わってくるため、前述した第1の実施形態において赤血球を固相後に酵素処理する場合とは、適正な濃度がそれぞれ異なる。赤血球をマイクロプレートに固相する前に処理を行う場合には、固相前の赤血球に対して次の処理を施す。
赤血球上のLutheran、M、およびXg抗原を失活させるには、血球濃度3%に対して20U以上のトリプシンを含有するアルカリ性の等張バッファーを赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
赤血球上のDuffy、M、S、Xg、およびGe抗原のうち少なくとも1種を失活させるには、血球濃度3%に対して0.4U以下の濃度のパパインを含有するpH6の等張バッファーを赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
赤血球上のDuffy、M、およびXg抗原のうち少なくとも1種を失活させるには、血球濃度3%に対して0.4U以下のブロメリンを含有するpH6の等張バッファーを赤血球に添加し、室温〜37℃において至適時間反応させる。
なお、反応時間は条件によって異なるが、10〜30分程度が好ましい。
また、上述した条件で処理した各種赤血球と非処理の赤血球からなる群の中から選ばれる少なくとも2種の赤血球とを同一のマイクロプレートの別々のウェルにそれぞれ乾燥固定することにより、抗体の同定、確認が容易に実施できる赤血球パネルを作製することができる。さらに、これらの赤血球を全て同一の赤血球から作製しても良い。
通常、目的の抗原性を有する赤血球は必ずしも自然界に存在するものではない。従って従来は、所望の赤血球が見つからない場合には、その都度既存の赤血球に対して種々の処理を行う必要があった。しかも処理した血球は長期間の保存ができなかった。本発明によれば、所望の処理方法を用いることにより目的の抗原性を有する種々の赤血球を調製することができる。さらに、同一の赤血球から異なる抗原性を有する複数種の赤血球を作製することも可能である。これらを予めマイクロプレートの各ウェルに乾燥固定した検査容器を提供することにより、今まで煩わしかった酵素処理をする必要がなくなる。
本発明の検査容器を用いて不規則性抗体を同定するには、EIA法(酵素免疫測定法)、RIA法(ラジオイムノアッセイ)、FIA法(蛍光標識免疫測定法)、またはCIA法(化学発光免疫測定法)などを用いることができる。また、抗ヒトグロブリン抗体が感作されている磁性体含有の指示粒子を用いる玉井らの方法(T Tamai. et al., Transfusion Medicine 1999; 9: 351-359.)を用いることもできる。すなわち、赤血球が乾燥固定された本発明の容器にグリシンLISS(低イオン強度溶液)を添加し、ここに血清などの検体を添加し、37℃で10分間インキュベート後、生食溶液で洗浄する。ここに抗ヒトIgG抗体が感作された磁性体含有の指示粒子を添加し、容器を磁石上に一定時間放置する。これを容器の上または下から観察すると、陽性の場合は指示粒子が広がった像が得られ、陰性の場合は中心に集まった像が得られる。この方法によれば、遠心操作を使用せずに磁力によってパターン形成することができる。なお、ここで用いる指示粒子に予め感作された物質は抗ヒトIgG抗体に限定されず、プロテインGまたはプロテインA等の、免疫グロブリンに特異的に結合する物質であれば良い。
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
<実施例1:トリプシン処理血球の乾燥固定>
小麦胚芽レクチンを固相したマイクロプレートに、O型のスクリーニング血球(Lu、M、FyまたはFy陽性)を固相した。pH6〜8のPBS(リン酸緩衝生理食塩水)に溶解した0〜2720Uのトリプシン溶液を各ウェルに50μLずつ分注して37℃或いは室温で10〜30分間処理した。その後0.0125%のTritonX−100(シグマ社製)を含む生食溶液を分注し、血球を溶血させた。これを洗浄して血球の内容物とTritonX−100を除去した後、BSA添加のサッカロース溶液を分注して軽く水切りを行い、常温減圧下で乾燥した。その後、玉井らの方法(T Tamai. et al., Transfusion Medicine 1999; 9: 351-359.)に従ってアッセイした。すなわち、乾燥後グリシンLISS(低イオン強度溶液)を分注して抗Lu抗体、抗M抗体、抗Fy抗体、抗Fy抗体、および陰性検体を分注し、37℃10分間インキュベート後、生食溶液で5回洗浄した。最後に抗ヒトIgG抗体感作磁性体粒子を分注し、これを磁石上に放置してパターン形成することにより、抗Lu抗体、抗M抗体、抗Fy抗体、および抗Fy抗体との反応性と陰性検体の偽陽性反応の発生を観察した。
その結果、固相した赤血球のトリプシン処理において、pH7以下では抗M抗体、抗Lu抗体の反応性は消失しなかった。pH8で室温〜37℃において30分間インキュベートすることによって320U以上で抗M抗体、抗Lu抗体との反応性は消失し、抗Fy抗体との反応性は残り、偽陽性反応の発生も2560Uまで認めなかった。
また、赤血球を固相前に、赤血球の濃度が3%になるように0〜2720Uのトリプシン含有PBS(pH8)溶液で調製し、37℃或いは室温で10〜30分間処理したものを、小麦胚芽レクチンを固相したマイクロプレートに固相し、乾燥を行ったものについても同様に試験した。
固相前の血球処理では、室温〜37℃で30分間、20Uで処理することで、抗M、抗Lu抗体との反応性は消失し、偽陽性反応の発生も2560Uまで認めなかった。
<実施例2:パパイン処理血球の乾燥固定>
実施例1と同様に小麦胚芽レクチンを固相したマイクロプレートに、O型のスクリーニング血球(S、s、M、Fy、またはFy陽性)を固相した。カゼイン分解法で活性値を求めたパパイン溶液をpH6〜8のPBSで希釈して0〜16Uに調整した。各ウェルにパパイン溶液を50μLずつ分注して室温で10〜30分間処理した。その後、実施例1と同様に処理して抗Fy抗体、抗Fy抗体、抗S抗体、抗s抗体、および陰性検体との反応性と陰性検体の偽陽性反応の発生を観察した。
その結果、pH7以上では抗M,s抗体との反応性は消失しなかった。pH6では、室温で10〜30分間インキュベートした場合、3.75U以上で偽陽性反応が発生したので、パパイン処理においては0.05U〜3Uを至適濃度と考えた。1Uで抗Fy、Fy、M、S抗体との反応性は陰性化したが抗s抗体との反応性は残った。0.05Uでは抗Fy、Fy抗体との反応性は陰性化したが、抗M、S、s抗体との反応性は残った。
また、血球を固相前に、血球の濃度が3%になるように0〜30Uのパパイン含有PBS(pH6)溶液で調整し、37℃或いは室温で10〜30分間処理したものを小麦胚芽レクチン固相マイクロプレートに固相し、乾燥を行ったものについても同様に試験した。
固相前に血球処理した場合、室温で30分間、0.4U以上のパパインで処理したものにおいて偽陽性反応が発生し、0.4Uでの処理では、抗Fy、Fy、M、S抗体との反応性が消失した。
<実施例3:ブロメリン処理血球の乾燥固定>
実施例1と同様に、小麦胚芽レクチンを固相したマイクロプレートに、O型のスクリーニング血球(S、s、M、Fy、またはFy陽性)を固相した。予めカゼイン分解法で活性値を求めたブロメリン溶液をpH6〜8のPBSで希釈して0〜16Uの濃度になるように調整した。各ウェルにブロメリン溶液を50μLずつ分注して室温で10分間処理した。その後、実施例1と同様に処理して抗Fy抗体、抗Fy抗体、抗M抗体、抗S抗体、抗s抗体および陰性検体との反応性と陰性検体の偽陽性反応の発生を観察した。
その結果、pH6以下では0.05U〜2Uの範囲で抗Fy、Fy、M抗体との反応性は消失したが、抗S、s抗体との反応性は消失せず、2U以上で陰性検体の偽陽性反応が発生した。pH7,8においては0.05U〜2Uにおいて抗Fy、Fy、M、S抗体との反応性は消失したが、抗s抗体との反応性は残った。2U以上に偽陽性反応が発生したので0.05U〜1Uが至適濃度であると考えた。1Uで抗Fy、Fy、M、s抗体との反応性は陰性化したが抗s抗体との反応性は残った。
また、固相前に血球が3%の濃度になるように0〜16Uのブロメリン含有PBS(pH6)溶液で調整し、37℃で10〜30分間処理したものを小麦胚芽レクチン固相マイクロプレートに固相し乾燥を行ったものについても同様に試験した。
固相前に血球処理した場合、室温で10分間、0.4U以上の処理で偽陽性反応が発生した。また、0.4Uでの処理では、抗Fy、Fy、M抗体との反応性のみが消失した。
<実施例4:ジチオスレイトール(DTT)処理血球の乾燥固定>
実施例1と同様に小麦胚芽レクチンを固相したマイクロプレートに、O型のスクリーニング血球(K、k、Kp、またはJs陽性)を固相した。pH6〜8のPBSに溶解した0〜0.2MのDTTを各ウェルに50μLずつ分注して室温或いは37℃で10〜30分間処理した。その後、実施例1と同様に処理して抗K抗体、抗k抗体、抗Kp抗体、抗Js抗体及び陰性検体との反応性と陰性検体の偽陽性反応の発生を観察した。
その結果、pH7以下では37℃で30分間処理しても抗K、k、Kp抗体との反応性は消失しなかった。pH8、37℃で30分間インキュベートした場合、0.006M以上で抗K、k、Kp、Js抗体との反応性が消失した。0.2M以上に偽陽性反応が発生したので0.006〜0.1Mを至適と考えた。
また、血球を固相前に、血球の濃度が3%になるように0〜0.2MのDTT含有PBS(pH8)で調整し、37℃で10〜30分間処理したものを小麦胚芽レクチン固相マイクロプレートに固相し乾燥を行ったものについても同様に試験した。
しかしながら、固相前のDTT処理では0.2Mでもこれらの反応性は完全に消失しなかったので、固相前のDTT処理は好ましくないと考えられた。
<実施例5:抗原処理後に乾燥固定した赤血球の保存性>
O型赤血球をマイクロプレートに固相後に、320Uのトリプシン(pH8)、1Uのパパイン(pH6)、0.0125MのDTT(pH8)を含む溶液を用いて実施例1〜3と同様に処理後、乾燥固定し、冷蔵庫で6ヶ月間保管したものについて、それぞれの抗体との反応を観察した。この結果を表1に示す。
Figure 2007147662
乾燥保存後もDTT処理血球はK、k、KpといったKell系の抗原が失活しており、その他の抗原は保持されていた。パパイン処理血球はDuffy、M、S、Ge、Xg抗原が失活し、その他の抗原は保持されていた。s抗原に関しては反応性が低下しているものの失活はしていなかった。トリプシン処理血球はLutheran、M、Xg抗原が失活していたが、その他の抗原は保持されていた。

Claims (5)

  1. 感受性が異なる表面上の不規則性抗原に対して感受性に応じた失活処理を行った赤血球を、所定の容器において固相状態で検体と反応させることにより、異なる不規則性抗体を安定した固相状態で同定することを特徴とする赤血球抗原の検査方法。
  2. 当該同定することが、酵素免疫測定法、蛍光標識免疫測定法および化学発光免疫測定法の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
  3. 当該同定することが抗グロブリン抗体で感作した指示粒子をさらに反応させて陰性像または陽性像を発生させる方法であることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
  4. 当該失活処理した赤血球をさらに溶血処理により内容物を取り除いた後に検体と反応させることを特徴とする請求項1または2に記載の検査方法。
  5. 前記検体が血清であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
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