以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は本発明の酸化ジルコニウム質焼結体の結晶の構成の例を示す構成図である。
この酸化ジルコニウム質焼結体1は、酸化ジルコニウム質結晶2の間に、半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3が存在する構成であり、酸化亜鉛質粒界層3は酸化ジルコニウム質結晶2の間に連続して存在する酸化亜鉛質粒界層3aと非連続(独立)で存在する酸化亜鉛質粒界層3bとからなる。
酸化ジルコニウム質焼結体1は、金属元素として少なくともZrと、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種と、Znとを含有する酸化物からなり、ZrをZrO2換算で52〜89質量%、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種をそれぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1〜12質量%、ZnをZnO換算で10〜40質量%含有する構成であり、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種は、Zrの酸化物からなる結晶に固溶して酸化ジルコニウム質結晶2の結晶相を安定させる作用およびZnの酸化物からなる結晶に固溶し酸化亜鉛質粒界層3に半導電性を発現させる作用を奏し、Znは、ZnO換算で10〜40質量%含有することにより酸化ジルコニウム質結晶2の間に連続して存在する酸化亜鉛質粒界層3を形成でき、半導電性の経路とすることができる。
なお、ここでいう酸化ジルコニウム質結晶2、酸化亜鉛質粒界層3,3a,3bとは、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛にY,CeおよびDyのうち少なくとも1種が固溶した結晶であり、微量の不可避不純物を含んだものであっても良い。
本発明者は、実用上十分な機械的特性を有し、酸性水溶液やアルカリ性水溶液で洗浄した場合に酸化ジルコニウム質焼結体1から発生するパーティクル量を少なくでき、これらの洗浄を行なった後でも十分な半導電性を有する酸化ジルコニウム質焼結体1が得られるよう、種々の検討を重ねた結果、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種の元素を酸化ジルコニウム質結晶2および酸化亜鉛質粒界層3に含有させるとともに、酸化ジルコニウム質焼結体1の表面近傍におけるZnの濃度を内部におけるZnの濃度よりも低くすることによって、前述の目的を達成する酸化ジルコニウム質焼結体1を提供できることを突き止めた。
つまり、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1は、金属元素として少なくともZrと、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種と、Znとを含有する酸化物からなり、ZrをZrO2換算で52〜89質量%、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種をそれぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1〜12質量%、ZnをZnO換算で10〜40質量%含有する酸化ジルコニウム質焼結体1において、酸化ジルコニウム質結晶2の間に酸化亜鉛質粒界層3aが連続して存在しており、酸化亜鉛質粒界層3aは、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低いことを特徴とするものである。
本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1は、ZrをZrO2換算で52〜89質量%含有させることによって、酸化ジルコニウム質結晶2が酸化ジルコニウム質焼結体1中の主結晶となっている。また、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種を、それぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1〜12質量%含有させると、主結晶に固溶して結晶相を安定させ、正方晶酸化ジルコニウム質結晶と立方晶酸化ジルコニウム質結晶との含有割合を合計で主結晶の95体積%以上とすることができるので、破壊靱性値が大きく、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に対する耐溶解性に優れる。よって、実用上特に十分な機械的特性を有し、酸性水溶液やアルカリ性水溶液による洗浄を行なっても焼結体から発生するパーティクル量が少ない酸化ジルコニウム質焼結体1とすることができる。
ここで、正方晶酸化ジルコニウム質結晶および立方晶酸化ジルコニウム質結晶の破壊靱性値が大きいのは、応力誘起相変態強化機構(焼結体の破壊の原因となる亀裂の伝播を正方晶または立方晶から単斜晶への相変態によって阻害し、亀裂先端への応力集中を緩和する機構)が働くことによるものである。また、正方晶酸化ジルコニウム質結晶や立方晶酸化ジルコニウム質結晶が酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝されたときに発生するパーティクルが少ないのは、正方晶酸化ジルコニウム質結晶や立方晶酸化ジルコニウム質結晶は、これらの結晶の結晶格子が酸性水溶液に多く含まれるH+イオンやアルカリ性水溶液に多く含まれるOH−イオンに曝されても化学的に安定であるからと推察される。
Zrの含有量がZrO2換算で52質量%未満では、酸化ジルコニウム質結晶2を主結晶とすることが困難となるので、機械的特性が悪い焼結体となる。Zrの含有量がZrO2換算で89質量%を超えると、半導電性を有する結晶の含有量が少なくなるために、酸化ジルコニウム質結晶2の間に半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3を連続して形成させることができないので、体積固有抵抗値の大きい焼結体となる。
さらに、ZnをZnO換算で10〜40質量%含有し、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種を、それぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1〜12質量%含有させることによって、酸化亜鉛の結晶にY,CeおよびDyのうち少なくとも1種が固溶して半導電性を発現させた酸化亜鉛質粒界層3を連続して存在させることができるので、体積固有抵抗値が1〜106Ω・mの半導電性の酸化ジルコニウム質焼結体1とすることができる。
ZnがZnO換算で10質量%未満では、酸化ジルコニウム質結晶2の間に、半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3を連続して形成できないので酸化ジルコニウム質焼結体1の体積固有抵抗値が106Ω・mを超え半導電性がなくなり、静電気を逃がすことができなくなり、40質量%を超えると、酸化亜鉛は破壊靱性値が小さいので、酸化ジルコニウム質焼結体1の機械的特性が悪くなるとともに、体積固有抵抗値が1Ω・m未満となるので静電気が一気に逃げ易くなるために、スパークなどによって電磁変換素子や磁気抵抗効果素子などを破壊する恐れがある。
また、相安定化および半導電性発現の作用を奏するY,CeおよびDyのうち少なくとも1種を、それぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1質量%未満の含有とすると、正方晶酸化ジルコニウム結晶と立方晶酸化ジルコニウム結晶の含有割合が合計で主結晶の95体積%未満となるので、破壊靱性値が小さくなり機械的特性が悪くなるとともに、酸性水溶液やアルカリ性水溶液による洗浄を行なった際に焼結体から発生するパーティクル量が多くなる。また、1質量%未満では、半導電性を発現させるに到らず、酸化亜鉛に固溶しても半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3を連続して形成させることができず、その結果、半導電性のない焼結体となってしまう。また、12質量%を超えると、酸化ジルコニウム質結晶2が安定するものの、量が多すぎるため酸化ジルコニウム質焼結体1の機械的特性が悪くなる。
そして、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の酸化亜鉛質粒界層3は、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度を内部におけるZnの濃度よりも低くすることによって、酸化ジルコニウム質焼結体1を酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝して洗浄した際に、この酸化ジルコニウム質焼結体1から発生するパーティクル量を特に少なくできるとともに、洗浄後でも半導電性を保持することができる。
一般的に酸化ジルコニウム質焼結体は、焼成工程において、最高温度1250〜1400℃で保持して焼結させる際に表面近傍にある酸化亜鉛質粒界層から酸化亜鉛が分解し、Znガスと酸素ガスとなって蒸発する。この蒸発したZnガスと酸素ガスは降温の過程で反応して酸化亜鉛が生成され、この生成した酸化亜鉛は焼結体の表面に固着する。しかしながら、この生成した酸化亜鉛が焼結体の表面に多量に固着すると、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも高くなる。焼結体の表面に、この生成した酸化亜鉛が積み重なった構成の結晶は、格子欠陥が多く、互いに強固に焼結していないため、化学的に不安定で、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝されると溶出して、パーティクルが多く発生しやすい。
また、分解・蒸発は成形体の周囲の気流の流れが早いほど促進され、気流の流れが早いと、この生成した酸化亜鉛が焼結体の表面に固着せず、半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層を連続して形成できなくなるので体積固有抵抗値が大きくなり、その結果、半導電性のない酸化ジルコニウム質焼結体となる。
したがって、半導電性を有し、格子欠陥を極めて少なく、化学的に安定な酸化ジルコニウム質焼結体1とするには、焼成工程において、焼成炉内に流す気体の流量および酸素分圧を特定の範囲とし、酸化亜鉛の分解・蒸発反応を抑制するために成形体を遮蔽用治具に収め、最高温度1250〜1400℃で焼成することが必要である。
このようにして得られた酸化ジルコニウム質焼結体1は、表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低く、半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3が内部から表面近傍まで連続して存在する酸化亜鉛質粒界層3aを形成し、酸化亜鉛質粒界層3aが半導電性を有することによって、酸化ジルコニウム質焼結体1が半導電性を有するものとなる。また、酸化亜鉛質粒界層3を構成する結晶は、内部から表面近傍まで全体に渡って格子欠陥が少なく、また互いに強固に焼結しているため、内部から表面近傍まで全体に渡って化学的に安定であり、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝されても溶出しにくく、パーティクルの発生が少ない。
また、好ましくは、酸化ジルコニウム質焼結体1の内部のZnの濃度を1としたとき、表面近傍のZnの濃度の比を0.8以上とする。これによって、酸化亜鉛質粒界層3を構成する多数の結晶が互いに強固に焼結しているものとなるので、格子欠陥が極めて少ないものとなる。そのため、高濃度の酸性水溶液やアルカリ性水溶液および長時間の洗浄に対し、パーティクルの発生が少ない良好な耐食性を示し、かつ洗浄後においても十分な半導電性を保持することができる。また、表面近傍より半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3の溶出が少ないことから、支持用治具に求められる特性を長期間維持することができるので繰り返し使用可能となる。これらの原因は明らかではないが、次のような理由によるものと考えられる。
酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝されたときに、酸化亜鉛質粒界層3を溶出しにくくするには、酸化亜鉛質粒界層3を構成する結晶の格子欠陥を極めて少なくすることが必要である。ここでいう格子欠陥とは結晶格子中の酸素欠陥や結晶格子の界面に形成される線欠陥などの格子欠陥をいう。このような格子欠陥は電気化学的に不安定なので、外部からの電気化学的な作用、例えば高濃度の酸性水溶液中でのH+イオンやアルカリ性水溶液中でのOH−イオンに曝すと、格子欠陥に隣接する原子がこれらのイオンと電気化学的に結合して溶液中に放出され易い。この電気化学的な反応は、酸化亜鉛質粒界層3の表面から内部へ連鎖して起こり、結果として表面近傍から酸化亜鉛質粒界層3がパーティクルとなって溶出しやすくなる。この電気化学的な反応を抑制するには、酸化亜鉛質粒界層3の格子欠陥を極めて少なくすることが必要である。格子欠陥が極めて少なければ、この電気化学的な反応が抑制されてパーティクルの発生が少なくなる。ここで、酸化亜鉛質粒界層3を構成する結晶同士が強固に焼結していれば、酸化亜鉛質粒界層3を構成する結晶間の残留応力が少なく、また、結晶格子が規則的に配列されやすいので、結晶格子中の酸素欠陥や結晶格子の界面に形成される線欠陥などの格子欠陥を極めて少なくすることができる。
なお、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の表面近傍とは、具体的には焼結体の表面から内部方向への深さが0.1mm程度までの範囲をいい、内部とは焼結体の表面から深さ0.1mm程度を超えた内部をいう。ここで、焼結体の表面から内部方向への深さが0.1mm程度までの範囲を表面近傍とするのは、次のような理由による。
酸化ジルコニウム質焼結体1を長期間、例えば数ヶ月間、強酸性溶液や強アルカリ性溶液に曝した場合には、酸化ジルコニウム質焼結体1は焼結体の表面から内部方向への深さが0.1mm程度まで腐食され、その後は腐食速度が徐々に低下すると考えられる。ここでいう腐食とは、酸化ジルコニウム質結晶2の間にある酸化亜鉛質粒界層3のみならず酸化ジルコニウム質結晶2が焼結体の表面から溶出したり、脱粒したりすることをいう。この腐食の原因は学術的に明確ではないが、一般に初期の腐食速度(mm/年)の対数が焼結体の標準生成自由エネルギー(kJ/mol)に反比例すると考えられ、この標準生成自由エネルギーから推察すると、酸化ジルコニウム質焼結体1の場合には数ヶ月間、酸性溶液やアルカリ性溶液に曝すと、腐食の初期に深さ0.1mm程度まで腐食され、その後は腐食の進行が遅くなる。
したがって、焼結体の表面から内部方向への深さが0.1mm程度までの範囲の結晶は内部よりも耐食性が劣ると考えられるため、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に長期間曝した場合に、焼結体の表面から内部方向への深さが0.1mm程度までの範囲の結晶が溶出したり、脱粒したりするおそれがあるので、この範囲にある結晶の耐食性が高いことが重要であるからである。
次に、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の分析方法について説明する。
本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の組成は、ICP発光分光分析法により定量的に測定することができる。例えば、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1がZr,Y,Znを含む場合にはこれらの元素の含有量をICP発光分光分析法により測定し、それらをZrO2,Y2O3,ZnOに換算する。
本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の破壊靱性値を測定するには、例えばJIS R 1607(1995年)に記載されたIF法により測定する。酸化ジルコニウム質焼結体1を算術平均高さRa0.1μm以下に鏡面研磨し、ダイヤモンド製の圧こん端子を鏡面部に押し込み、これによって生じた圧こんおよび亀裂を観察し、次式により破壊靱性値Kc(Pa・m1/2)を求める。
Kc=(0.026E1/2P1/2α)/C3/2
ここで、Eは弾性率(Pa)、Pは圧こん端子の押し込み荷重(N)、αは圧こんの対角線長さの平均の半分(m)、Cはクラック(亀裂)の長さの平均の半分(m)である。
弾性率E(Pa)は次のようにJIS R 1602(1995年)に記載された超音波パルス法により測定することができる。試験片は、10mm角以上の角柱または直径10mm以上の円柱を準備し、この試料に超音波を印加し、次式によって求めることができる。
E=ρ(3Vt 2Vl 2−4Vt 4)/(Vl 2−Vt 2)
ここで、ρはかさ密度(kg/m3)、Vlは縦波の速度(m/s)、Vtは横波の速度(m/s)である。
本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の曲げ強度を測定するには、例えばJIS R 1601(1995年)に準拠して次のように測定することができる。
酸化ジルコニウム質焼結体1を加工し、算術平均高さRa0.2μm以下に研磨して厚さ3mm、幅4mm、長さ36mmの大きさとし、さらに0.1〜0.3mmのC面を付けた試験片を10個以上作製する。荷重試験機を用いてこの試験片に荷重を印加し、破壊するまでの最大荷重を測定し、次式により曲げ強度を算出する。
3点曲げ強度σ3(N/mm2)=3PL/2wt2
4点曲げ強度σ4(N/mm2)=3P(L−l)/2wt2
ここで、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは下部支点間距離(mm)、lは上部荷重点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。
本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の内部および表面近傍のZnの濃度は、例えば以下の通り測定する。酸化ジルコニウム質焼結体1を表面から0.5mm研磨した焼結体の内部と表面近傍とを走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画面で、測定する分析エリア面を特定し、測定する分析エリア面への電子線の照射により発生する特性X線の波長を波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)にて検出してZn元素強度を測定する。この時の測定条件は、加速電圧15kV程度、プローブ電流10−7A程度、分析エリア面の面積103〜108μm2程度とし、Zn元素強度の測定は、各々について少なくとも5箇所以上を測定し、平均して求める。この焼結体の内部および表面近傍それぞれの波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)によるZn元素強度を比較することにより表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低いことを確認することができる。また、内部におけるZnの濃度を1としたとき、表面近傍におけるZnの濃度の比は、表面近傍におけるZn元素強度を内部におけるZn元素強度で割ることにより求めることができる。さらに、その他の測定方法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(EDS)にてZn元素強度を測定する方法や原子間力顕微鏡を用いた測定方法がある。
表面抵抗および体積固有抵抗は、例えばJIS C 2141(1992年)に準拠して次の通り測定する。まず、直径50mm、厚みが約2mmの円板形状の本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1を準備し、マイクロメータを用いて3箇所の厚みを測定し、厚みの平均値dを求める。この酸化ジルコニウム質焼結体1の一方の主面中央に直径D1が約26mmとなるようAg電極ペーストを印刷し中央電極とし、中央電極の外周から約6mmの距離を開け、内周径D2が約38mm、外周径D3が約48mmとなるようにAg電極ペーストを印刷し、外周電極とする。さらに、他方の主面全体にAg電極ペーストを印刷し裏面電極とする。その後、これらのAg電極を焼き付けて試験片を作製する。この試験片の直径D1,D2をノギスで正確に測定し、試験片を120℃で2時間以上乾燥した後、デシケータ内で冷却し、さらに20℃、湿度65%の室内に16時間以上放置した後、高絶縁抵抗計を用いて表面抵抗および体積固有抵抗を次のように測定する。
表面抵抗Rs(Ω)は、表面抵抗測定回路を中央電極が−側、外周電極が+側、裏面電極がガードとなるように回路を接続して測定する。また、体積固有抵抗Rv(Ω)は、体積固有抵抗回路を中央電極が−側、裏面電極が+側、外周電極がガードとなるように回路を接続して測定する。こうして測定した表面抵抗Rs、体積固有抵抗Rvを用いて、表面抵抗率、体積固有抵抗値を次式により計算する。なお、次式ではD1,D2,dの単位をmに換算してから計算する。
表面抵抗率ρs(Ω)=π(D1+D2)Rs/(D2−D1) (πは円周率)
体積固有抵抗値ρv(Ω・m)=π(D1+D2)2Rv/16d (πは円周率)
なお、この測定方法においては、直径50mmの試料を例に説明したが、直径が20mm以上の円板状または一辺が20mm以上の四角形であれば、例えばD1を10mm、D2を16mm、D3を19mmとするなど、D1、D2、D3の値を適宜所定の値とすることにより表面抵抗率、体積固有抵抗値を測定することもできる。
パーティクル発生量は例えば次のように測定する。酸化ジルコニウム質焼結体1を酸性水溶液の入った硝子容器に入れ、その状態で超音波洗浄機(Cleansonic製BRANSON DHA−1000)にて1分間の洗浄を行なう。その後、硝子容器から焼結体を取出して、超音波洗浄によって酸性水溶液中に放出されたパーティクル数(個)をパーティクルカウンター(リオン株式会社製KL−26)により測定する。この測定により求められたパーティクル数と、焼結体の表面積とを用いて、焼結体の表面積1cm2当たりから放出されたパーティクル数を求め、これをパーティクル発生量(個/cm2)とする。なお、パーティクルカウンターKL−26を用いた場合には、パーティクルの個数は、粒径0.1μm以上〜0.3μm未満、0.3μm以上〜0.5μm未満、0.5μm以上のそれぞれの粒径のパーティクル発生量(個/cm2)を求めることができる。
次に、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の製造方法について説明する。
酸化ジルコニウム質焼結体1の製造方法は、酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末と、酸化イットリウム(Y2O3),酸化セリウム(CeO2)および酸化ジスプロシウム(Dy2O3)のうち少なくとも1種の粉末と、酸化亜鉛(ZnO)粉末とを混合した混合粉末、または、Y,CeおよびDyのうち少なくとも一種が固溶した酸化ジルコニウム質粉末と、酸化亜鉛粉末とを混合した混合粉末のいずれかを作製する混合粉末作製工程と、このいずれかの混合粉末を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、得られた成形体を大気雰囲気で焼成する焼成工程とを含む。このとき、金属元素として少なくともZrと、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種と、Znとを含有する酸化物からなり、ZrをZrO2換算で52〜89質量%、Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種をそれぞれY2O3,CeO2およびDy2O3換算合計で1〜12質量%、ZnをZnO換算で10〜40質量%となるよう混合粉末を作製し、この混合粉末を所定の形状に成形し、焼成工程において、遮蔽用治具内に成形体を収めて、焼成炉内の酸素分圧を0.01〜1MPa、焼成炉内に流す気体の流量を0.1〜1Nm3/分として焼成することにより、酸化ジルコニウム質結晶2の間に酸化亜鉛質粒界層3が連続して存在し、この酸化亜鉛質粒界層3中のZnの濃度について、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低い酸化ジルコニウム質焼結体1を製造することができる。
具体的には、本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1の製造方法は次の通りである。
(1)平均粒径1μm以下の高純度酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末と、酸化イットリウム(Y2O3)粉末と、酸化セリウム(CeO2)粉末と、酸化ジスプロシウム(Dy2O3)粉末と、酸化亜鉛(ZnO)粉末とを準備し、ZrO2粉末を52〜89質量%と、Y2O3粉末,CeO2粉末およびDy2O3粉末のうち少なくとも一種または合計で1〜12質量%と、ZnO粉末を10〜40質量%となるよう均一に混合して混合粉末を作製する。ここで、Y,Ce,Dyのうち少なくとも一種が固溶した酸化ジルコニウム質粉末と、酸化亜鉛粉末とを混合した混合粉末を用いても良い。この酸化ジルコニウム質粉末は、公知の方法、例えば、Haberko K., Res. Int. Htes Temp. et Riefract+14, 217-224.に記載された共沈法、Mazdiyasni K. S., J Am. Ceram. Soc., 48[7], 372-375.に記載されたアルコキシド法、Woodhead J. L., Science of Ceramics, 10, 169-176.に記載されたゾル−ゲル法、Reyen P, Advance in Ceramics, 3, 464-475.に記載された水熱分解法、Yoshimura M., Proceeding 5th Round Table Conference on Sintering, September 1981.に記載された水熱酸化法により作製することができる。
(2)(1)のいずれかの混合粉末を所定の形状に成形して成形体を作製する。この成形工程は公知の方法、例えば、混合粉末に、ポリビニルアルコール(PVA)などの有機バインダーを添加し、混合・造粒した後、金型に充填し圧力を加える粉末加圧成形法を用いることができる。
(3)得られた成形体を最高温度1250〜1400℃で保持して焼結させる。この焼結の際に、成形体の周囲に流れる気体を遮蔽するための遮蔽用治具に成形体を収めて遮蔽し、焼成炉内の酸素分圧を0.01〜1MPa、焼成炉内に流す気体の流量を0.1〜1Nm3/分として焼成することが重要である。
ここで、図2に本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1を得るための遮蔽用治具に成形体を収めた状態の例を示す。(a)は遮蔽用治具に成形体を収め一部を破断した状態を示す斜視図であり、(b)は(a)のA−A’線における断面図である。なお、これらにおいて同じ部位を示す場合は同符号を付してある。
遮蔽用治具26は、下部板22aと側面板24と上部板22bとから構成されており、下部板22a上に複数の成形体20を並べて載置し、側面板24と上部板22bとで囲ってある。このとき、下部板22a、側面板24、上部板22bは互いに接しているので遮蔽用治具26内にはその外から気体が流れ込みにくい構成にしてある。遮蔽用治具26の材質は、焼成中の成形体20と遮蔽用治具26との化学反応を抑制するため、融点が1600℃以上のアルミナ質焼結体、酸化マグネシウム質焼結体が好適である。また、成形体を収めることができるのであれば、側面板24と上部板22b、側面板24と下部板22aは一体製作されたものを用いることも可能である。
酸化ジルコニウム質焼結体1は、焼成時の最高温度1250〜1400℃での保持中に焼結体の表面近傍からZnOが分解してZnガスおよび酸素ガスが蒸発し始めるが、このような遮蔽用治具26を用いて、焼成炉内の酸素分圧を0.01〜1MPaとし、焼成炉内に流す気体の流量を0.1〜1Nm3/分として成形体20を焼成すると、遮蔽用治具26内にその外からの気体が流れ込みにくく、最高温度での保持中に、焼結体の表面近傍から多量にZnOが分解してZnガスがおよび酸素ガスが蒸発することが抑制され、酸化ジルコニウム質結晶2の間に半導電性の酸化亜鉛質粒界層3が内部から表面近傍まで連続した酸化ジルコニウム質焼結体1を作製することができる。このとき、遮蔽用治具26に収めずに、例えば下部板22a上に成形体20を並べたのみで焼成すると、焼結体の表面近傍から多量にZnOが分解してZnガスがおよび酸素ガスが蒸発し、半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3が表面近傍からなくなるので体積固有抵抗値が大きくなり、その結果、半導電性でない酸化ジルコニウム質焼結体1となってしまう。
この理由は、焼成中に起こる酸化亜鉛の分解・蒸発は成形体20の周囲の気流の流れが速い程促進されるため、成形体20を遮蔽用治具26に収めて焼成しないと、表面近傍にある酸化亜鉛質粒界層3から酸化亜鉛が多量に分解・蒸発して表面近傍から半導電性を有する酸化亜鉛質粒界層3がなくなり、得られる焼結体の体積固有抵抗値が大きくなって半導電性でない酸化ジルコニウム質焼結体1となるからと考えられる。
また、焼成中の最高温度での焼成炉内の酸素分圧が0.01MPa未満の場合には、表面近傍に生成する酸化亜鉛質粒界層3から酸化亜鉛が多量に分解・蒸発するため表面近傍に酸化亜鉛質粒界層3がなくなり、その結果、得られる焼結体の体積固有抵抗値が大きくなって半導電性でない酸化ジルコニウム質焼結体1となってしまう。
他方、1MPaを超えると、最高温度での保持中に酸化亜鉛質粒界層3に半導電性発現の作用を奏するY,CeおよびDyが固溶しにくくなる。Y,CeおよびDyはいずれもZnO結晶に固溶し、その結果、明確にはわからないがZnOの結晶格子の酸素が無くなって生じる酸素欠陥の生成によりホール等の電荷を伝えるものが生じ、電気伝導が起こる。しかし、酸素分圧が1MPaを超えると、酸素欠損の生成が抑制されるため、ホール等の電荷を伝えるものが生じにくくなる。ホール等が生じにくいということは、Y,CeおよびDyがZnO結晶に固溶しにくいことにもつながると考えられる。そのため得られる焼結体の体積固有抵抗値が大きくなり、半導電性の酸化ジルコニウム質焼結体1が得られない。
焼成炉内に流す気体の流量が0.1Nm3/分未満であると、酸素分圧が0.01MP以上0.05MPa未満と低い場合に、遮蔽用治具26内に酸素ガスが十分に供給されないために、遮蔽用治具26内の酸素分圧が0.01MPaよりも低くなるので、半導電性でなくなる。
焼成炉内に流す気体の流量が1Nm3/分を超えると、焼成炉内を流れる気体の流速が非常に早くなり、下部板22aと側面板24の間から気体が多量に流入してしまう。その結果、遮蔽用治具26内の焼結体からZnガスが多量に蒸発し、焼結体の表面近傍からZnがなくなって、半導電性でなくなる。
次に、最高温度で保持することにより酸化亜鉛質粒界層3を生成させた後で、焼成炉内の酸素分圧を0.01〜1MPaに保持しながら、1150℃まで徐々に降温する。この降温中に遮蔽用治具26内の気体が収縮するので、降温に伴って遮蔽用治具26の外から遮蔽用治具26内へ気体が徐々に流入するが、焼成炉内の酸素分圧が0.01〜1MPaであることにより、遮蔽用治具26内にあるZnガスが酸素ガスと反応して生成する酸化亜鉛が焼結体の表面に極微量固着する。さらに、この極微量固着した酸化亜鉛が表面近傍の酸化亜鉛質粒界層3と一体的に焼結し、連続した酸化亜鉛質粒界層3が内部から表面近傍まで形成されて半導電性の酸化ジルコニウム質焼結体1を得ることができる。このように形成された酸化亜鉛質粒界層3は格子欠陥が極めて少なく、互いに強固に焼結した酸化亜鉛質の結晶(連続した酸化亜鉛質粒界層3a)となる。
1150℃までの降温中の酸素分圧が0.01MPa未満の場合には、降温中も焼結体から酸化亜鉛が分解・蒸発するので、表面近傍から半導電性の結晶がなくなり、得られる酸化ジルコニウム質焼結体1は体積固有抵抗値の大きい半導電性でない焼結体となるので好ましくない。
また、1150℃までの降温中の酸素分圧が1MPaを超えると、降温を開始した直後に遮蔽用治具26内の空隙中のZnガスが酸素ガスと反応して酸化亜鉛が生成し、この生成した酸化亜鉛が結晶となって焼結体の表面に多量に固着するので、得られる酸化ジルコニウム質焼結体1は、表面近傍のZnの濃度が内部よりも高いものとなる。この焼結体を酸性水溶液やアルカリ性水溶液に曝すと、酸化亜鉛の結晶が焼結体の表面近傍から酸性水溶液やアルカリ性水溶液中に多量に溶出し、溶出した酸化亜鉛が再析出してパーティクルが多く発生するという問題がある。ここで、焼結体の表面に固着した酸化亜鉛の結晶が溶出しやすいのは、降温の際、焼結体の表面に生成した酸化亜鉛が多量に固着して積み重なった構成の結晶は、結晶格子の整合が非常に悪く、両者の間の格子欠陥が非常に多いため、両者の化学的な結合力が小さくなり、その結果、酸性水溶液やアルカリ性水溶液に対する耐食性が低下するからであると考えられる。
最後に、1150℃から室温まで冷却すると本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1を製造することができる。
また、この製造方法において、酸素分圧の下限値を0.05MPaとすることにより、酸化ジルコニウム質焼結体1の内部におけるZnの濃度を1としたとき、表面近傍におけるZnの濃度との比が0.8以上である酸化ジルコニウム質焼結体1を製造することができる。これによって、表面抵抗の低下を抑制し、十分な半導電性を有する酸化ジルコニウム質焼結体1を得ることができる。この理由は、酸素分圧の下限値を0.05MPaとすることにより、表面近傍にある酸化亜鉛質粒界層3から分解・蒸発する酸化亜鉛の量が特に低減するからであると考えられる。
さらに、酸素分圧を0.05〜1MPaとし、焼成炉内に流す気体の流量を0.1〜1Nm3/分として焼成すると、焼成炉内の酸素分圧の時間的な変動を抑制できるので、得られる焼結体の内部におけるZnの濃度を1としたとき、表面近傍のZnの濃度の比が0.8以上の酸化ジルコニウム質焼結体1を製造することができる。
なお、この製造方法において、焼成中に酸化亜鉛が蒸発することによって、混合粉末に含まれるZnの含有量よりも焼結体に含まれる酸化亜鉛の量が少なくなる場合があるので、この場合には焼成中の酸化亜鉛の分解・蒸発する量を混合粉末の作製工程で予め補填して製造することができる。
(1A)平均粒径0.3μmの高純度酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末と、酸化イットリウム(Y2O3)粉末と、酸化セリウム(CeO2)粉末と、酸化ジスプロシウム(Dy2O3)粉末と、酸化亜鉛(ZnO)粉末とを準備し、これらの粉末を表1に示すようにZrO2が52〜89質量%、Y2O3、CeO2およびDy2O3のうち少なくとも1種または合計が1〜12質量%、ZnOが10〜40質量%となるよう混合して混合粉末を作製した。なお、表1の組成は焼結体の組成を示したものである。
(2A)この混合粉末に有機バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を混合粉末100質量部に対して4質量部添加し、混合し、造粒して成形用粉末を作製した。この成形用粉末を金型に充填し成形圧100MPaで加圧することにより所定の形状に成形した。
(3A)遮蔽用治具26は、アルミナ製の下部板22a(160mm×160mm×7mm)、上部板22b(160mm×160mm×7mm)、側面板24(高さ130mm、外形160mm×160mm×厚み7mm)を準備し、上部板22bと側面板24は、両者の間に接合用ガラスペーストを塗布した後、1400℃に加熱することにより、上部板22bと側面板24とを接合したものを用いた。このような構成の遮蔽用治具26に成形体を収め、表1に示す酸素分圧および気体流量にて最高温度1250〜1400℃で焼成して本発明の酸化ジルコニウム質焼結体1を作製した。
(4A)また、比較例として表1に示す試料No.1,15のように組成か焼成条件のいずれかが本発明の範囲外となる焼結体を作製した。
次に、これらを用いて評価を行なった。
(A)焼結体の組成
焼結体を粉砕し、Zr,Y,Ce,Dy,Znの含有量をICP発光分光分析法により測定し、それぞれZrO2,Y2O3,CeO2,Dy2O3,ZnOに換算した。表1に示す組成は、このように換算した値である。
(B)破壊靱性値
JIS R 1607(1995年)に記載されたIF法に準拠して、長さ40mm×幅5mm×厚さ4mmの焼結体を算術平均高さRa0.05μmに鏡面研磨した試験片を測定した。ダイヤモンド製の圧こん端子を鏡面部に押し込み、これによって生じた圧こんおよび亀裂を観察し、次式により破壊靱性値Kc(Pa・m1/2)を求め、単位をMPa・m1/2に換算した。
Kc=(0.026E1/2P1/2α)/C3/2
ここで、Eは弾性率(Pa)、Pは圧こん端子の押し込み荷重(N)、αは圧こんの対角線長さの平均の半分(m)、Cはクラック(亀裂)の長さの平均の半分(m)である。
弾性率E(Pa)は、JIS R 1602(1995年)に記載された超音波パルス法により測定した。すなわち、焼結体に超音波を印加し、次式によって求めた。
E=ρ(3Vt 2Vl 2−4Vt 4)/(Vl 2−Vt 2)
ここで、ρはアルキメデス法により求めたかさ密度(kg/m3)、Vlは縦波の速度(m/s)、Vtは横波の速度(m/s)である。
(C)曲げ強度
JIS R 1601(1995年)に準拠して、焼結体を加工し、算術平均高さがRa0.2μm以下、長さ36mm×幅4mm×厚さ3mmで、0.2mmのC面を付けた試験片を10個作製し、荷重試験機を用いてこの試験片に荷重を印加し、破壊するまでの最大荷重を測定し、次式により3点曲げ強度を算出した。
3点曲げ強度σ3(N/mm2)=3PL/2wt2
ここで、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは下部支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。
(D)内部のZnの濃度に対する表面近傍のZnの濃度の比
まず、Znの濃度の比の異なる分析用試料(焼結体)を次のように作製した。
酸化ジルコニウム質焼結体1を表面から0.5mm研磨した焼結体の内部と、表面近傍とを、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画面で測定する分析エリア面を特定し、測定する分析エリア面への電子線の照射により発生する特性X線の波長を波長分散型X線マイクロアナライザー(WDS)にて検出してZn元素強度を測定した。この時の測定条件は、加速電圧を15kV程度、プローブ電流を10−7A程度、分析エリア面の面積を106μm2程度とし、Zn元素強度の測定は、各々について少なくとも5箇所以上を測定し、平均して求めた。そして、内部におけるZnの濃度を1としたとき、表面近傍におけるZnの濃度の比は、表面近傍におけるZn元素強度を内部におけるZn元素強度で割ることにより求めた。
(E)電気的特性
JIS C 2141(1992年)に準拠して、直径62mm×厚み3mmの焼結体をpH5の塩酸水溶液中およびpH11の水酸化ナトリウム水溶液中で各々10分間、超音波洗浄機(Cleansonic製BRANSON DHA−1000)を用いて超音波洗浄した後、純水で洗浄し、乾燥して、表面抵抗率と体積固有抵抗値を求めた。
(F)パーティクルの発生個数
電気特性測定にて超音波洗浄に用いたpH5の塩酸水溶液およびpH11の水酸化ナトリウム水溶液のそれぞれに含まれるパーティクルをパーティクルカウンター(リオン株式会社製KL−26)で測定した。表1に示すパーティクルの個数は、塩酸水溶液および水酸化ナトリウム水溶液のパーティクル数(個)をパーティクルカウンターにより測定して合計し、このパーティクル数と焼結体の表面積とを用いて焼結体の表面積1cm2当たりから放出されたパーティクルの個数(個/cm2)に換算した値である。なお、パーティクルの個数は、粒径0.1μm以上〜0.3μm未満、0.3μm以上〜0.5μm未満、0.5μm以上のパーティクルの個数を測定し、これらの個数と焼結体の表面積とを用いて、焼結体の表面積1cm2当たりから放出されたパーティクルの発生量(個/cm2)を求めた。
それぞれの組成、焼成条件および評価結果を表1に示す。
表1に示す結果から明らかなように、本発明の範囲内の試料は、焼結体の内部のZn濃度を1としたとき、表面近傍におけるZnの濃度の比が0.75〜0.98であり、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低かった。また、破壊靱性値が4〜5、3点曲げ強度が700〜930MPaと実用上十分な機械的特性を有し、表面抵抗率が103〜109Ω、体積固有抵抗値が2〜106Ω・mと半導電性を示した。また、パーティクルについては粒径0.3μm以上のものは発生せず、粒径0.1μm以上〜0.3μm未満のパーティクルが10個/cm2以下と少なかった。
比較例の試料の特性は次の通りとなった。ZrをZrO2換算で91質量%、ZnをZnO換算で7質量%含む試料No.1は、表面抵抗率と体積固有抵抗値が大きく、半導電性を有していなかった。ZrをZrO2換算で49質量%含む試料No.11は破壊靱性値と曲げ強度が小さくなった。Y,CeおよびDyのうち少なくとも1種の含有量をそれぞれY2O3,CeO2およびDy2O3に換算したときの合計の含有量が0.5質量%の試料No.6は、破壊靱性値と曲げ強度が小さく、パーティクルの発生量も多くなり、15質量%の試料No.7は、破壊靱性値と曲げ強度が小さくなった。ZnをZnO換算で8質量%含む試料No.4は表面抵抗率と体積固有抵抗値が大きく、半導電性を有していなかった。ZnOの含有量が42質量%の試料No.10は、破壊靱性値と曲げ強度が小さく、体積固有抵抗値が1×10−3Ωとなって導電性となった。遮蔽用治具なしの試料No.13,15は焼結体の表面近傍にZnが存在せず、表面抵抗率と体積固有抵抗値が大きく、半導電性を有していなかった。酸素分圧を0MPa,0.002MPaとして焼成した試料No.16,17は焼結体の表面近傍にZnが存在せず、表面抵抗率と体積固有抵抗値が大きくなり、半導電性を有していなかった。酸素分圧を1.5MPa,2MPaとして焼成した試料No.22,23は、Zn濃度比がそれぞれ1.06,1.15と大きく、パーティクルが非常に多く発生した。気体の流量を0.002Nm3/分として焼成した試料No.24は焼結体表面近傍にZnが存在せず、表面抵抗率と表面抵抗値が高くなり、半導電性を有していなかった。気体の流量を1.3Nm3/分として焼成した試料No.28は表面抵抗率と表面抵抗値が高くなり、半導電性を有していなかった。
実施例および比較例の結果から、比較例の試料は、半導電性、機械的特性、パーティクル発生量のいずれかによって支持用治具に用いるには好ましくなかった。これに対し、本発明の試料は、焼結体の表面近傍におけるZnの濃度が内部におけるZnの濃度よりも低くなり、半導電性と実用上十分な機械的特性を有し、酸性水溶液やアルカリ性水溶液で洗浄した場合に焼結体から発生するパーティクル数が少なく、これらの洗浄を行なった後でも十分な半導電性を保持しており支持用治具として適していることが解る。