JP2007119950A - 導電性ポリビニルアルコール系繊維 - Google Patents

導電性ポリビニルアルコール系繊維 Download PDF

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Abstract

【課題】 実用上十分な機械的特性、及び耐熱性、導電性能を兼ね備え、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用なポリビニルアルコール系繊維、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維表層部から深さ150nmの範囲において平均粒径50nm以下の硫化銅微粒子が分散されてなることを特徴とする導電性ポリビニルアルコール系繊維。
【選択図】図1

Description

本発明は、強度、弾性率といった実用上十分な力学物性、及び耐熱性、導電性能を兼ね備えたポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)系繊維とその製造方法、及び該繊維を用いてなる導電性布帛に関するものであり、また、PVA系繊維を布帛とした後導電化処理を施してなる導電性布帛に関するものであって、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。
従来、合成繊維に導電性を付与する方法として提案されている、カーボンブラックなどの導電性フィラーを練りこんだ導電性繊維は、コストが比較的安く、しかも量産化にも適しているため、多くの産業分野で広く使用されている。例えば、静電複写機に用いられる帯電用、除電用ブラシとして、かかる導電性繊維が広く使われているが、複写機等では定着時の加熱によって、機内の温度が高温になることから、これら用途に使用される導電繊維には長時間にわたって熱を受けても変形しないことが要求されている。
ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、溶融紡糸によって得られるポリオレフィン系繊維などの大部分の汎用合成繊維は、耐熱性や高温下での形態安定性が不十分であることから、かかる用途においては導電性の再生セルロース系繊維が広く使用されている(例えば、特許文献1〜4参照。)。しかしながら導電性セルロース繊維は力学物性が低いために、帯電用ブラシや除電用ブラシを製造する段階での取り扱い性や、長時間使用する場合の耐久性など、更なる高性能化要求に対して十分対応できなくなっている。
一方、耐熱性及び機械的性能に優れたPVA系繊維を導電性繊維としてこれらの用途に用いることも提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、この導電性PVA繊維は、50μm程度の多量の導電性フィラーをあらかじめ紡糸原液に添加させるため、原液中でのフィラーの凝集や沈降などが起こり、製造工程の安定性は低下するばかりでなく、得られた糸の延伸性などが導電性フィラー無添加系に比べて著しく劣ってしまい、その結果、導電性は付与できても、繊維の強度、弾性率などの機械的性質の低下を招くなどの問題があった。これに対して、工程性、品位の問題を改善した導電性PVA系繊維として、原液に仕込むカーボンブラックなどの導電性フィラーの平均粒径を小さくすること、及びポリオキシアルキレン系などのノニオン系分散剤を併用し、原液中での凝集、沈降を防ぐことが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。この場合、導電性フィラーの粒子径は1μm程度まで小さくすることができ、粒子の表面積を増加させて導電性を付与する観点からは望ましいが、やはり、所望の導電性を得るためには、数10%以上の添加が必要となり、原液での凝集や延伸性の低下などの問題を抱えていた。
また、近年、携帯電話や電子機器の飛躍的な普及に伴い、それらから漏洩する電磁波の人体への影響、または他電子機器への誤動作などの問題が取り沙汰されている。それを遮蔽する電磁波遮蔽材として、導電性布帛がよく用いられるが、この用途では、より高い導電性能が必要であり、先述した導電性フィラーの練り込み繊維などでは遮蔽性能を発現させることはできない。一般的には、軽量で柔軟性のある合成繊維からなる布帛表面に、金属被膜を形成させることが広く知られており、真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法などによって達成できる。しかしながら、このような方法で作られた金属被膜は、耐摩耗性や耐候性、長期の使用による化学的変化による物性低下などの問題があり一層の改善が求められている。更には、これらの方法による導電化処理は、非常にコスト高になり実使用に制限がかかるものであった。
このような高い導電性能を付与する方法としては、上記に示したような導電性フィラーを原液または原料の段階から仕込む方法とは別に、ポリアクリロニトリル系繊維で知られているように、塩化第二銅などの銅化合物を繊維表面に吸着させた後、これを硫化物で還元処理することにより、繊維自体の表面に導電性を示す硫化銅薄厚層を形成させる技術が広く提案されている(例えば、特許文献7〜8参照。)。これらの方法で得られる導電性繊維は、繊維の表面に存在するシアノ基やメルカプトン基の銅イオン捕捉基を介して硫化銅が繊維に対して5〜15質量%程度結合されたもので、繊維表面に薄厚の表面層を有するものであり、高い導電性能を示すものとなる。しかしながら、これらの繊維は、100nm程度の極薄い表面の硫化銅層のみで導電性能を発現させるものであり、それ故、耐久性が不十分であり、また、繊維表面に所望の量の硫化銅を付着させるには、高温、長時間の処理が必要になり、更には、上記のシアノ基やメルカプトン基などは、一価の銅イオン捕捉能に優れており、工程中にて二価の銅塩をわざわざ一価の銅イオンに還元する必要があるなど、コストが高くなるなどの問題を抱えていた。
上記課題である導電性、耐久性の改良を目的に、硫化銅粒子を繊維内部にまで浸透させる方法として、硫化染料含有高分子材料を用いて、該高分子中で硫化染料を介して硫化銅が結合されている繊維が提案されている(例えば、特許文献9参照。)。また、その実施例では具体的に導電性PVA繊維が提案されている。この方法では、硫化染料を含有する高分子材料を得る工程と、この硫化染料高分子材料に硫化銅を結合させて導電性高分子材料を得る工程によって初めて達成されるものであるが、湿熱処理などを幾つも設定する必要があり工程が複雑になることに加えて、この処理中にPVA系繊維が膨潤してしまい、導電性が付与できても、力学物性が低下してしまい、布帛を製造することができないなどの問題を抱えていた。また、硫化銅粒子を繊維内部にまで浸透させるためには硫化染料を用いらなければならず、コスト高になるなどの問題も抱えていた。
また、アミド基や水酸基を有する高分子材料に導電性を付与する方法も提案されている(例えば、特許文献10参照。)。この方法は、銅塩と緩和な硫化能を有する還元剤の混合水溶液中に高温、長時間、成形体を浸漬することにより、成形体の内部にまで導電性を示す硫化銅層を形成せしめようとするものであるが、実質的には、成形体のごく表面近傍にしか硫化銅層は存在せず、それ故、得られる導電性能も低いものであった。すなわち、水溶液中の銅塩と硫化還元剤を直接、高温で長時間反応させるため、生成する硫化銅粒子は大きく成長してしまい、成形体内部での分散粒子径は大きくならざるをえず、内部導電というよりはむしろ表面導電層が主体であった。このため、導電性能は低いばかりでなく、耐久性にも劣るものであり、更にはコストが高くなるなどの問題も抱えていた。これらの事より、PVA系繊維の本来の強度、弾性率などの力学的性質に加えて、繊維自体が高い導電性能を兼備するPVA系繊維の開発と、それを安価に製造する方法の提案が望まれている。
特開昭63−249185号公報 特開平4−289876号公報 特開平4−289877号公報 特公平1−29887号公報 特開昭52−144422号公報 特開2002−212829号公報 特開昭57−21570号公報 特開昭59−108043号公報 特開平7−179769号公報 特開昭59−132507号公報
本発明の目的は、強度、弾性率等の力学物性、耐熱性などの従来のPVA系繊維の性能を損なうことがなく、優れた導電性及びその耐久性が付与されたPVA系繊維とその製造方法及び該繊維を用いてなる導電性布帛、並びにPVA系繊維を布帛とした後に導電化処理を施してなる導電性布帛を提供することである。
本願発明者等は上記したPVA系繊維を得るべく鋭意検討を重ねた結果、PVA系ポリマーに対して特別に高価な設備を必要とせず、通常の繊維製造工程中において、銅イオンを含む化合物が溶解された浴と、硫化物イオンを含む化合物が溶解された浴を通して、繊維中に各々の化合物を含有、銅を硫化させることで、繊維表層部から深さ150nmの範囲に平均粒子径が50nm以下の硫化銅微粒子を微細に生成させることで、力学物性と優れた導電性を兼備したPVA系繊維を安価に製造できることを見出した。
すなわち本発明は、繊維表層部から深さ150nmの範囲において平均粒径50nm以下の硫化銅微粒子が分散されてなることを特徴とする導電性PVA系繊維であり、好ましくは
体積固有抵抗値が1.0×10−3〜1.0×10Ω・cmであることを特徴とする上記のの導電性PVA系繊維であり、より好ましくは硫化銅微粒子が0.5〜50質量%/PVA系ポリマー含有されてなることを特徴とする上記の導電性PVA系繊維に関するものである。
また本発明は、繊維表層部の複屈折率Aが25×10−3〜45×10−3、繊維内層部の複屈折率Bが30×10−3〜55×10−3であり、且つ繊維内層部の複屈折率Bと繊維表層部の複屈折率Aの差が、B−A≧6×10−3であるPVA系繊維を、銅イオンを含む化合物が10〜400g/Lの濃度で溶解された浴と、硫化物イオンを含む化合物が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴に通して、PVA系繊維中に各々の化合物を含有させ、さらに銅を硫化させることで、繊維表層部から深さ150nmの範囲に平均粒子径が50nm以下の硫化銅微粒子を微細に生成させることを特徴とする上記の導電性PVA系繊維の製造方法に関するものであり、さらに本発明は上記の導電性PVA系繊維を用いてなる布帛に関するものである。
本発明によれば、強度、弾性率などの力学的特性、耐熱性と共に、優れた導電性を兼備したPVA系繊維を提供することが可能である。また本発明のPVA系繊維は、特別な工程を必要とせず、通常の繊維製造工程で達成可能であり、安価に製造することができ、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
以下、本発明について具体的に説明する。まず本発明のPVA系繊維を構成するPVA系ポリマーについて説明する。本発明に用いるPVA系ポリマーの重合度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、より好ましくは、平均重合度が1500〜5000である。
本発明で用いるPVA系ポリマーのケン化度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、88モル%以上であることが好ましい。PVA系ポリマーのケン化度が88モル%よりも低いものを使用した場合、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない。
また本発明の繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位を有していても構わない。このような構造単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸、及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸、及びその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸、及びその塩またはその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。しかしながら、本発明の目的とする繊維を得るためにはビニルアルコール単位が88モル%以上のポリマーがより好適に使用される。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。
本発明の繊維は上記PVA系ポリマー以外の構成成分として、硫化銅微粒子を含有することが必要であり、さらに平均粒子径50nm以下の硫化銅微粒子が、繊維表層部から150nmの範囲において微細に分散されていることが必要である。先述した通り、繊維表面に硫化銅粒子が付着している繊維や、繊維内部に硫化銅粒子が分散している繊維であっても、目視や実体顕微鏡レベルで確認できる1μm以上の大きな粒子が多く存在する繊維は本発明のPVA系繊維の範囲外であり、目的である導電性能が発揮されない。なお、本発明において、繊維中の硫化銅微粒子の分散状態は透過型電子顕微鏡(TEM)にて初めてその存在形態を確認することができる。
本発明のPVA系繊維の体積固有抵抗値は1×10−3〜1×10Ω・cmであることが好ましい。体積固有抵抗値が1×10Ω・cmより高い場合、もはや導電性繊維とは言えず、半導体材料として使用できない。より好ましくは、1×10−3Ω・cm〜1×10Ω・cmの範囲である。本発明のPVA系繊維の体積固有抵抗値は、後述するが、硫化銅の導入量などによって適宜コントロールできる。
本発明の導電性繊維は、硫化銅微粒子を0.5〜50質量%/PVA系ポリマー含有することが好ましく、1〜40質量%/PVA系ポリマー含有することがより好ましい。硫化銅微粒子の含有量が0.5質量%/PVA系ポリマー未満の場合、所望の導電性能が得られにくい。一方で、硫化銅粒子の含有量が多くなりすぎると、繊維の機械的性質や耐摩耗性が不十分になることから、硫化銅微粒子の含有量は50質量%以下/PVA系ポリマーであることが好ましく、40質量%以下/PVA系ポリマーであることがより好ましい。また、硫化銅粒子を多く含有させるためには、導電化処理回数を多くしたり、浴中滞留時間を長くするなどの方法が必要となるため、生産性がダウンし、且つ必要以上の硫化銅を含有させることによってコストが高くなる点で好ましくない。
かかる硫化銅微粒子の平均粒子径は、50nm以下の微粒子であることが必要であり、さらに20nm以下であるような微粒子であることが好ましい。このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となる。例えば、同じ質量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。また、このような場合、粒子間の相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも粒子と同じような機能を示す事も知られている〔例えば、コンポジットの世界、p22(工業調査会)参照〕。従って、このナノサイズ効果により、トンネル電流がより流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性能を付与できる。一方で、平均粒子径が50nmより大きい場合、上記の理由で導電性改良効果が小さくなるので、本発明の目的とする導電性能を得ることはできない。
一般にPVA系ポリマーはその水酸基を介して銅などの金属イオンと強く配位結合することが知られている〔例えば、Polymer、Vol37,No.14、3097、(1996)参照〕。本発明ではこのPVA系ポリマー独自の挙動に着目し、硫化銅微粒子を繊維中に含有させることを試み、種々検討の結果、繊維中においてPVA分子鎖と銅イオンで形成された錯体ブロックは、その大きさが数オングストロームであることから、硫化銅ナノ微粒子構成ユニットとなり得ることを発見した。さらに検討を重ね、繊維表層部の複屈折率を繊維内層部の複屈折率より低くしたPVA系繊維を使用することにより、繊維表層部にのみ硫化銅微粒子を均一分散させることができ、また同じ硫化銅微粒子含有量であれば繊維内部全体に分散させるよりも導電性能に優れ、繊維の力学物性にも優位であること見出し、遂に本発明を完成したものである。本発明では、この銅イオンをPVA系繊維の表層部に含有させ、PVA系ポリマーの有する水酸基と配位させて、PVAと銅との配位結合を形成させる。詳細は後述するが、これを達成するには、銅イオンを含有する化合物が溶解された浴にPVA系繊維を通過させることにより、繊維表層部に銅イオンを均一に含有させることができる。
続いて、PVA系繊維表層部に含有している銅イオンを硫化処理することで、硫化銅微粒子を形成させることができる。すなわち、前述した銅イオン含浸処理に引き続き、硫化物イオンを含む化合物が溶解された浴を通すことで、硫化銅微粒子を繊維表層部から深さ150nmの範囲において形成させることができる。なお、ここでの処理は、特別に高価な工程を設ける必要はなく、通常の繊維製造工程中で処理可能である。また、前記したPVA系繊維を布帛とした後、同様の処理を行うことで、導電性布帛を得ることも可能である。
本発明で使用する銅イオンを含有する化合物としては、可溶であるものであれば特に限定はなく、酢酸銅、蟻酸銅、硝酸銅、くえん酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、沃化第一銅、沃化第二銅などが用いられる。かかる銅イオンは一価でも二価でもよく、特に限定されるものではない。一価の銅イオンを含有する化合物を用いる場合は、その溶解性を向上させる目的で、塩酸、ヨウ化カリウム、アンモニア等を併用しても構わない。これらの中でも、溶液状態でPVA系ポリマーと配位結合し易いものがより望ましく、その観点からは、銅イオンを含む化合物は、酢酸銅や蟻酸銅、硝酸銅などが好適に用いられる。
PVA系繊維中で配位した銅イオンを硫化する硫化剤としては、硫化物イオンを放出し得る化合物が用いられ、例えば、硫化ナトリウム、第二チオン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ硫酸ナトリウム、硫化水素、チオ尿素、チオアセトアミド等が挙げられる。これらの中でもコスト、入手し易さ、低腐食性の点で、硫化物イオンを含む化合物としては、硫化ナトリウムが好適である。
さらに本発明のPVA系繊維は、上述のように50nm以下の硫化銅微粒子が繊維表層部から150nmの範囲において微細に分散することを可能にするためには、繊維表層部の複屈折率Aが25×10−3〜45×10−3、繊維内層部の複屈折率Bが30×10−3×〜55×10−3であって、且つ繊維内層部の複屈折率Aと繊維表層部の複屈折率Bの差が、B−A≧6×10−3であるポリビニルアルコール系繊維を使用するのが望ましい。繊維内層部に比し、繊維表層部の複屈折率を低くすることで、50nm以下の硫化銅微粒子を繊維表層部から150nmの範囲において微細に分散させることが可能となり、繊維の導電性を高めることができる。また、繊維内層部の複屈折率を高くすることで、耐熱性、機械特性、耐湿熱性を高く維持することが可能となる。なお、ここでいう複屈折率とは後述する方法により測定した値をいう。複屈折率が低く、繊維表層部の複屈折率Aと繊維内層部の複屈折率Bの差が、B−A<6×10−3であった場合には、繊維内層部にも50nm以下の硫化銅粒子を生成することが可能であるが、上述の繊維表層部にのみ50nm以下の硫化銅粒子を生成した場合と硫化銅含有量が同じ場合には充填密度が低くなるため、その導電性能は低くなり、同等の導電性能を発現させるためには、硫化銅含有量を増やす必要が生じて、結果として繊維物性の低下やコストアップを招くといった弊害を生じる。
このように、従来の導電性繊維とは異なり、繊維表層部に硫化銅微粒子を分散させ、粒子間距離を著しく小さくすることで、これに通電させた時の電流量を高めることができ、導電性に優れた繊維を得ることができる。また、粒子径が小さいことから、これを延伸する場合も何ら問題なく、さらに繊維表層部にのみ硫化銅微粒子を均一分散させているため、繊維内層部にて力学物性を保持することが可能となり、硫化銅を含有していないPVA系繊維と同等の延伸倍率と力学物性を発現させる事ができる。
本発明により得られる繊維の繊度は特に限定されず、例えば0.1〜10000dtex、好ましくは1〜1000dtexの繊度の繊維が広く使用できる。繊維の繊度はノズル径や延伸倍率により適宜調整すればよい。
次に本発明のPVA系繊維の製造方法について説明する。本発明においては、PVA系ポリマーを水あるいは有機溶剤に溶解した紡糸原液を用いて後述する方法で繊維を製造することにより、繊維表層部から深さ150nmの範囲において平均粒子径が50nm以下の硫化銅微粒子が分散した、力学物性、及び導電性能に優れた繊維を効率良く安価に製造することができる。紡糸原液を構成する溶媒としては、例えば水、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、及びこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、さらにはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが挙げられるが、これらの中でも、とりわけ水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で最も好適である。
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、8〜60質量%の範囲であることが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液にはPVA系ポリマー以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。さらにこれらは、一種類または二種類以上のものを併用して使用しても構わない。
かかる紡糸原液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸を行えばよく、PVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出すればよい。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。また、PVA系ポリマーと共に、ホウ酸などを加えた水溶液をアルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することもできる。
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させるが、抽出時に同時に原糸を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着抑制及び得られる繊維の力学物性を向上させるうえで好ましい。その際の湿延伸倍率としては2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。
湿延伸後、乾燥し、更に場合によっては乾熱延伸、熱処理を施す。このための延伸条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよく、3倍以上の全延伸倍率、好ましくは5〜25倍の全延伸倍率で延伸すると、繊維の結晶化度と配向度が向上し、繊維の力学物性が著しく向上するので好ましい。温度が100℃未満の場合、繊維の白化が生じ、そのため力学物性の低下をもたらす。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても力学物性の低下をもたらすので好ましくない。なお、ここでいう延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
本発明の目的とする導電性PVA系繊維を得るためには、上記の湿延伸後の膨潤状態の繊維、若しくは乾燥または延伸後の繊維を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含有させる。この場合、繊維表層部へ銅イオンを含む化合物の均一浸透せしめるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが望ましく、そのためには浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類や水、塩類あるいはこれらの混合物であることが好ましい。その時の浴溶媒による繊維の膨潤率は20質量%以上であることが好ましい。なお、膨潤率調整のため、繊維を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬することが望ましい場合もある。膨潤率が20質量%未満の場合、繊維表層部に硫化銅微粒子を生成させることが困難となる。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVA系ポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。以上のことから、銅イオンを含む化合物が溶解された浴での膨潤率は30質量%以上300質量%以下であることが好ましく、50質量%以上250質量%以下であることがより好ましい。
本発明のPVA系繊維は、先述したように、硫化銅の導入量などにより、体積固有抵抗値を適宜コントロール可能である。銅イオンを含む化合物の浴濃度は要求される導電性能に応じて適宜設定すればよいが、10〜400g/Lの範囲であることが好ましい。浴濃度が10g/L未満の場合、所望の物性が得られず、また400g/Lを越える場合は、ローラーへの付着など、工程性不良をもたらすので好ましくない。より好ましくは20〜100g/Lである。前記したように、所定の膨潤状態にある場合、銅イオンが溶解された浴に繊維が通過した時点で、銅イオンを含む化合物の繊維への含浸は起こるので、浴での滞留時間については特に制限はないが、繊維中に銅イオンを含有させるためには、浴での滞留時間は3秒以上、好ましくは30秒以上であることが望ましい。
次にPVA系繊維中に含有している銅イオンを硫化処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる必要がある。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴濃度は銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。浴濃度が1g/L未満の場合、繊維内部の銅イオンまで還元処理が進まない可能性があるので好ましくない。また100g/Lを超える場合は、PVA系繊維内に含まれる銅イオンを硫化処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維中の銅イオンを十分硫化処理するためには、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。
銅イオンが溶解された浴と硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる工程の順序についてはどちらが先になっても得られた導電性PVA系繊維、若しくは布帛の導電性能はほぼ同等である。
PVA系繊維の導電性能を高める為には、上記の銅イオンを繊維中に含浸させる工程と、銅イオンを硫化処理する工程を繰り返し通し、繊維中の硫化銅含有量を高める事が効果的である。具体的には上記処理を少なくとも2回以上繰り返すことで、効果的に繊維中に硫化銅微粒子を生成させ、導電性能を高めることができる。更には、繊維の配向度が高い繊維ほど、すなわち繊維の総延伸倍率が高いほど、導電性能を高める事ができるので望ましい。この理由は現段階では明らかではないが、繊維の配向度が高いほど、硫化銅粒子が、繊維軸方向に沿って生成し、粒子間の距離が一層短くなるためと考えている。ここでいう繊維の配向度は、銅イオンを含浸させた後の配向度である。繊維中に硫化銅微粒子を生成したものに対して延伸を行うと、繊維中の硫化銅微粒子間距離が増加するためか、導電性が低下する傾向があるので好ましくない。
一方で、硫化銅粒子を予め原液から仕込んだ場合には、繊維中に微粒子を分散させることはできず、所望の物性を発現させるには、多量の硫化銅粒子の添加が必要となる。この場合、原液中での分散不良や、凝集、沈降などが起こり、繊維化工程、その後の延伸性が低下し、結果として結晶化度が低く、ある程度の導電性は付与できても、機械的特性の低い繊維しか得られない。また、あらかじめ銅イオンを配位させたPVA系ポリマーを原料として使用した場合は、銅の配位による溶液粘度の上昇や、固化性が悪化するなど、工程性が悪化することに加えて、得られる繊維の力学物性は低いものとなる。
このようにして得られた、繊維中に硫化銅微粒子を導入された原糸若しくは延伸糸に、熱処理を施し繊維物性を向上させることで、本発明の導電性PVA系繊維を製造することができる。このための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃の温度で行うのがよい。温度が100℃未満の場合、繊維物性の向上効果が不十分である。また260℃を越えると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらすので好ましくない。
本発明の繊維は、例えばステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態において優れた導電性能を示すので、センサーや電磁波シールド材などの用途に用いることが出来る。その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、あるいは星型等異型断面であっても構わない。なかでも、本発明によるPVA系繊維は、導電性、柔軟性にすぐれているので、導電性布帛として有利に用いることができる。例えば、本発明によるPVA系繊維を50重量%以上、好ましくは、80重量%以上、特に、90重量%以上含む布帛とすることによって、高度に導電性能を示すPVA系繊維製品を得ることができる。この時、併用しうる繊維としては特に限定はないが、硫化銅微粒子を含有しないPVA系繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。また、先にPVA系繊維をステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態としておいてから導電化処理を行うことでも、同様に高度に導電性能を示すPVA系繊維製品を得ることができる。
本発明の繊維は、力学物性、耐熱性に加えて、柔軟性、導電性に優れることから、フィラメントや紡績糸、更には紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、繊維中の硫化銅微粒子の量、存在形態及び粒子径、繊維の複屈折率、体積固有抵抗値、電磁波シールド特性、引張強度は下記の方法により測定したものを示す。
[繊維中の硫化銅微粒子の定量測定 質量%]
繊維中の硫化銅微粒子の定量測定は、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS−APを用いて行った。
[繊維中の硫化銅微粒子の存在形態、及び平均粒子径 nm]
繊維中の硫化銅粒子の存在形態は、(株)日立製作所製H−800NA透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。繊維断面の写真から任意に100個の硫化銅微粒子を選び、その大きを各々実測し、平均値を平均粒子径とした。
[繊維の複屈折率]
中心部:偏光顕微鏡を使用し、ベレックコンペンセータを用いて、589nmの単色光でレターデーションを測定。レターデーション/繊維直径から計算した。
表層部:偏光顕微鏡、屈折率計を使用し、ベッケライン法を用い、封入液の屈折率から求めた。
[繊維の導電性(体積固有抵抗値)測定 Ω・cm]
PVA繊維を温度105℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度20℃、湿度30%の条件下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維に対して、長さ2cmの単繊維試験片を採取し、該試験片の両端間に、横河ヒューレットパッカード社製の抵抗値測定機「MULTIMETER」を使用して、10Vの電圧をかけてその抵抗値(Ω)を測定した。そして、体積固有抵抗値(ρ)(Ω・cm)=R×(S/L)により、各試験片の体積固有抵抗値を求め、これを25試料片について行い、その平均値を試料の体積固有抵抗値とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、及びLは長さ(2cm)を示す。ここで、試験片の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察することにより算出した。
[電磁波シールド測定 dB]
電磁波シールド特性の測定は、関西電子工業振興センター法(KEC法)に従い、行った。測定温度は24℃、測定周波数は10〜1000MHz、電波発信部と受信部との距離は5mmで行い、n=5の平均値を採用した。100MHzでの電磁波シールド特性(dB)を比較することで、効果の有無を判断した。なお、20dBとは入射電磁波の90%を遮蔽することを意味しており、40dBとは99%の遮蔽、60dBとは99.9%の遮蔽材料であることを意味する。
[繊維強度 cN/dtex]
JIS L1013に準じて、予め調湿されたヤーンを試長20cm、初荷重0.25cN/dtex及び引張速度50%/分の条件で測定し、n=20の平均値を採用した。また繊維繊度(dtex)は質量法により求めた。
[実施例1]
(1)粘度平均重合度1700、ケン化度98.6モル%のPVAをPVA濃度20.5質量%となるようにDMSO中に添加し、95℃にて窒素雰囲気下で加熱溶解した。得られた紡糸原液を、孔径0.08mm、ホール数40000のノズルを通して液温10℃のメタノール/DMSO=65/35(質量比)よりなる固化浴中に乾湿式紡糸した。
(2)得られた固化糸を固化浴と同じメタノール/DMSO組成の第2浴に浸漬し、次いで液温25℃のメタノール浴中で2.3倍の湿延伸を施した。その後、210℃にて3.5倍の乾熱延伸(全延伸倍率として8倍)を実施しPVA系繊維を得た。得られたPVA系繊維の繊維表層部の複屈折率Aは38.6×10−3であり、繊維内層部の複屈折率Bは45.4×10−3で、繊維内層部の複屈折率Bと繊維表層部の複屈折率Aの差は6.8×10−3であった。このPVA系繊維を和光純薬(株)製の硝酸銅を230g/L溶解した50℃の水溶液浴中に滞留時間が120秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が30秒間になるように導糸した。この処理を2回繰り返した後、100℃の熱風で乾燥して得られた繊維の性能評価結果を表1に示す。
(3)得られた繊維において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は4.86質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は10nmであった。繊維中における硫化銅微粒子の分散状態のTEM写真を図1に示す。繊維物性は単糸繊度1.7dtex、繊維の強度は6.6cN/dtexであり、体積固有抵抗値は4.5×10Ω・cmであった。さらに繊維の外観は良好で糸斑等はなく、従来のPVA系繊維の力学物性に加えて、導電性に優れるものであった。
[実施例2]
(1)実施例1で得たPVA系繊維を、実施例1と同様な方法によって16回の導電化処理を実施した。
(2)得られた繊維において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は30.3質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は10nmであった。紡績糸の強度は4.8cN/dtexであり、体積固有抵抗値は2.4×10−2Ω・cmであった。
[実施例3]
(1)実施例1と同様な方法にて乾湿式紡糸して得たPVA系繊維を紡績してC80/1とし、実施例1と同様な方法によって導電化処理を実施した。
(2)得られた紡績糸において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は6.78質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は10nmであった。紡績糸の強度は3.7cN/dtexであり、体積固有抵抗値は3.0×10Ω・cmであった。
[実施例4]
(1)実施例1と同様な方法にて乾湿式紡糸して得たPVA系繊維を実施例3と同様の方法にて紡績してC80/1の紡績糸とし、この紡績糸を用いて平織りの布帛とした。
(2)このPVA系繊維を用いた平織りの布帛を和光純薬(株)製の硝酸銅を230g/L溶解した50℃の水溶液浴中に10分間浸漬し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した25℃の水浴に5分間浸漬した。この処理を6回繰り返した後、100℃の熱風で乾燥して得られた布帛の性能評価結果を表1に示す。得られた布帛において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は8.91質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は10nmであった。体積固有抵抗値は1.4×10Ω・cm、電磁波シールド性能は33dBであった。
[実施例5]
硝酸銅が溶解された浴を通す処理、次いで硫化ナトリウムが溶解された浴を通す処理を6回繰り返した以外は実施例3と同じ条件で紡績糸を得た。得られた紡績糸の性能評価結果を表1に示す。得られた紡績糸において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は15.5質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は8.2nmであった。紡績糸の強度は3.3cN/dtexであり、体積固有抵抗値は3.8×10Ω・cmであった。
[実施例6]
硝酸銅が溶解された浴を通す処理、次いで硫化ナトリウムが溶解された浴を通す処理を16回繰り返した以外は実施例3と同じ条件で紡績糸を得た。得られた繊維の性能評価結果を表1に示す。得られた繊維において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は34.4質量%、該硫化微銅粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は8.0nmであった。紡績糸の強度は2.1cN/dtexであり、体積固有抵抗値は6.8×10−1Ω・cmであった。
[実施例7]
硝酸銅が溶解された浴を通す処理、次いで硫化ナトリウムが溶解された浴を通す処理を15回繰り返した以外は実施例4と同じ条件で平織りの布帛を得た。得られた布帛の性能評価結果を表1に示す。得られた布帛において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は37.2質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ130nmの範囲に生成しており、平均粒子径は8.0nmであった。体積固有抵抗値は6.8×10−2Ω・cm、電磁波シールド性能は47dBであった。
[実施例8]
(1)重合度1700、ケン化度99.9モル%のPVAを用い、PVA濃度20.7質量%となるようにDMSO中に添加し、101℃にて窒素雰囲気下で加熱溶解した。得られた紡糸原液を、孔径0.08mm、ホール数35000のノズルを通して液温10℃のメタノール/DMSO=65/35(質量比)よりなる固化浴中に乾湿式紡糸した。
(2)得られた固化糸を固化浴と同じメタノール/DMSO組成の第2浴に浸漬し、次いで液温25℃のメタノール浴中で3倍の湿延伸を施した。その後、230℃にて4倍の乾熱延伸(全延伸倍率として12倍)を実施しPVA系繊維を得た。得られたPVA系繊維の単糸繊度は2.2dtexで、繊維表層部の複屈折率Aは41.9×10−3であり、繊維内層部の複屈折率Bは49.6×10−3で、繊維内層部の複屈折率Bと繊維表層部の複屈折率Aの差は8.8×10−3であった。
(3)このPVA系繊維を紡績してC80/1とし、実施例1と同様な方法によって導電化処理を実施した。この処理を2回繰り返した後、100℃の熱風で乾燥して得られた紡績糸の性能評価結果を表1に示す。
(4)得られた紡績糸において繊維中の硫化銅微粒子の含有量は5.22質量%、該硫化銅微粒子は繊維表層部から深さ110nmの範囲に生成しており、平均粒子径は14nmであった。紡績糸の強度は、4.8cN/dtexであり、体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであった。紡績糸の外観は良好で糸斑等はなく、従来のPVA系繊維の力学物性に加えて、導電性に優れるものであった。
[比較例1]
実施例1と同様な方法にて乾湿式紡糸して得たPVA系繊維を紡績してC80/1とし、導電化処理を行わなかった場合の紡績糸の強度は4.3cN/dtexであり、体積固有抵抗値は5.9×1012Ω・cmであった。
[比較例2]
実施例1と同様な方法にて乾湿式紡糸して得たPVA系繊維を紡績してC80/1とし、硝酸銅が溶解された浴は通過させたが、硫化ナトリウムが溶解された浴を通過させない方法で1回処理した以外は、実施例2と同じ条件で紡績糸を得た。得られた紡績糸の性能評価結果を表2に示す。紡績糸の強度は4.2cN/dtexであったが、硫化銅は生成しておらず繊維の体積固有抵抗値は2.0×1012Ω・cmであり、導電性に劣るものであった。
[比較例3]
硝酸銅の溶解量を0.1g/L、硫化ナトリウムの溶解量を0.1g/Lにした以外は、実施例3と同じ条件で紡績糸を得た。得られた紡績糸の性能評価結果を表2に示す。得られた紡績糸において、繊維表層部から深さ130nmの範囲において5.0nmの硫化銅微粒子は観察されたが、その含有量は0.01質量%であった。その強度は7.1cN/dtexであり、外観は良好で糸斑等はなかったが、硫化銅微粒子の繊維中への導入量が少ないため、体積固有抵抗値は5.8×1010Ω・cmであり、導電性能に劣るものであった。
[比較例4]
和光純薬(株)製の硝酸銅を230g/L溶解した水溶液と、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した水溶液を混合し、2次粒子径約10μmの硫化銅粒子を析出させた。これを水で十分洗浄後、80℃で乾燥したものを、PVAに対して30質量%となるように原液に添加する、いわゆる原液添加にて実施例3と同様の方法で紡績糸を得た。得られた紡績糸の硫化銅粒子の含有量は28.8質量%であったが、体積固有抵抗値は2.0×10Ω・cmであった。また、繊維内部での硫化銅粒子の平均粒子径は5μmであり、繊維内部で所々凝集していた。そのため、糸斑が見られるばかりでなく、繊維の強度は2.5cN/dtexと低いものであった。また、短時間でフィルターの昇圧が起こるなど、工程通過性も悪いものであった。
[比較例5]
(1)市販のナイロン6繊維を、和光純薬(株)製の酢酸銅を230g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸した。これを、2回繰り返した後、120℃の熱風で乾燥し、繊維を得た。
(2)得られた繊維は、硫化銅量は0.45質量%であり、表面にのみ1μm程度の硫化銅粒子が、大きな塊上に付着して入る状態であった。繊維の強度は3.5cN/dtexであったが、体積固有抵抗値は4.0×1010Ω・cmであった。
Figure 2007119950
Figure 2007119950
表1、図1の結果から明らかなように、本発明のPVA系繊維は、繊維表層部から深さ150nmの範囲において硫化銅微粒子が分散した状態を保っており、PVA本来の力学物性に加えて、優れた導電性を兼ね備えている。一方、表2の結果から明らかなように、繊維中における硫化微銅粒子の含有量が少ない場合や、硫化銅微粒子を原液から仕込んだ場合は、本発明の繊維のように、力学物性と導電性の両特性を兼備することはできない。
本発明によれば、従来技術では達成することができなかった力学特性と優れた導電性を兼備したPVA系繊維を提供することができる。また本発明のPVA系繊維は特別に高価な工程を必要とせず、通常の紡糸、延伸工程で安価に製造可能である。さらに本発明のPVA系繊維は、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に期待される。
本発明のPVA繊維中において硫化銅微粒子が分散している状態を示す顕微鏡写真。

Claims (5)

  1. 繊維表層部から深さ150nmの範囲において平均粒径50nm以下の硫化銅微粒子が分散されてなることを特徴とする導電性ポリビニルアルコール系繊維。
  2. 体積固有抵抗値が1.0×10−3〜1.0×10Ω・cmであることを特徴とする請求項1記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維。
  3. 硫化銅微粒子が0.5〜50質量%/ポリビニルアルコール系ポリマー含有されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維。
  4. 繊維表層部の複屈折率Aが25×10−3〜45×10−3、繊維内層部の複屈折率Bが30×10−3〜55×10−3であり、且つ繊維内層部の複屈折率Bと繊維表層部の複屈折率Aの差が、B−A≧6×10−3であるポリビニルアルコール系繊維を、銅イオンを含む化合物が10〜400g/Lの濃度で溶解された浴と、硫化物イオンを含む化合物が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴に通して、ポリビニルアルコール系繊維中に各々の化合物を含有させ、さらに銅を硫化させることで、繊維表層部から深さ150nmの範囲に平均粒子径が50nm以下の硫化銅微粒子を微細に生成させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性ポリビニルアルコール系繊維を用いてなる布帛。
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