JP2007119906A - 高い貯蔵容量および優れた室温反応速度を有するMg−Ni水素吸蔵複合体 - Google Patents
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Abstract
【課題】Mg−Niベースの合金を、該Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の物質のコーティングを有する水素吸蔵複合材料を提供する。
【解決手段】コーティングは約200オングストローム未満の厚さであり、好ましくは、鉄またはパラジウムから形成される。この複合材料は30℃で少なくとも3重量パーセントの水素を吸収し、かつ少なくとも1重量パーセントの水素を脱離することが可能である。Mg−Niベースの合金はMgに富む相およびNiに富む相の両者を含む微細構造、Mgに富む物質の外筒によって囲まれるNiに富む物質の内部芯を有するマイクロチューブ、非晶質構造領域および微結晶構造領域を有する。
【選択図】図1
【解決手段】コーティングは約200オングストローム未満の厚さであり、好ましくは、鉄またはパラジウムから形成される。この複合材料は30℃で少なくとも3重量パーセントの水素を吸収し、かつ少なくとも1重量パーセントの水素を脱離することが可能である。Mg−Niベースの合金はMgに富む相およびNiに富む相の両者を含む微細構造、Mgに富む物質の外筒によって囲まれるNiに富む物質の内部芯を有するマイクロチューブ、非晶質構造領域および微結晶構造領域を有する。
【選択図】図1
Description
本発明は、一般には水素吸蔵材料に関し、より具体的には、今までにない新しい特性を有する新規複合水素吸蔵材料に関する。具体的には、本発明の水素吸蔵材料は4.86重量パーセント水素までの貯蔵容量を、30℃という低い温度および約150PSI未満の吸収圧力での高い吸収速度と共に提供する。この複合材料は軽量であり、少なくとも3重量パーセントを30℃で2分未満に吸収する。さらに注目すべきことには、この複合材料は250℃という低い温度で貯蔵した水素を完全に脱離する能力も有し、その能力はそのような高い総貯蔵容量を有する材料においてこれまで見られなかったものである。さらにより驚くべきことには、該材料は、貯蔵された水素の2.51重量パーセント90℃で、1.2重量パーセントを30℃で脱離することができる。加えて、これらの材料は比較的安価であり、製造が容易である。
増大するエネルギー需要が、伝統的なエネルギー源、例えば、石炭、石油もしくは天然ガスが無尽蔵ではなこと、または少なくともそれらがますます高価になり続けるようになり、それらを水素で置き換えることを考慮することが賢明であることを認識するようにその道の専門家たちに促している。
水素は、例えば、炭化水素の代わりに内燃機関の燃料として用いることができる。この場合、炭化水素が燃焼する際の炭素、窒素および硫黄の酸化物の形成による大気汚染が無いという利点がある。水素は、電気モーターに必要な電気を生成するための燃料水素−空気燃料電池に燃焼するのに用いることもできる。
水素の使用が提起する問題の1つはその貯蔵および輸送である。多くの解決法が提示されている。
水素は高圧下で鋼製円筒に貯蔵することができるが、この方法は(貯蔵容量が約1重量%と低いことに加えて)扱いが難しい危険で重い容器を必要とするという欠点を有する。水素は極低温貯蔵容器に貯蔵することもできるが、これは極低温の液体の使用に関連する不利益、例えば、慎重な取り扱いをも必要とする高価な容器を伴う。毎日約2−5%の「沸騰漏出(boil off)」損失も存在する。
水素を貯蔵する別の方法はそれを水素化物の形態で貯蔵するものであり、貯蔵後、適当な時期に分解して水素を供給する。フランス特許第1,529,371号に記載されるように、鉄−チタン、ランタン−ニッケル、バナジウム、およびマグネシウムの水素化物がこの方法で用いられている。
水素を安全で小型の固体状態の金属水素化物の形態で貯蔵できるというこの最初の発見以来、研究者らは最適な特性を有する水素貯蔵材料を製造しようと努力してきている。一般には、これらの研究者が達成しようと試みている理想的な材料の特性は、1)大きい水素貯蔵容量、2)軽量材料、3)適切な水素吸収/脱離温度、4)適切な吸収/脱離圧、5)高速の吸収反応速度、および6)長い吸収/脱離サイクル寿命である。これらの材料特性に加えて、理想的な材料は安価であり、製造が容易である。
MgH2−Mg系が、水素貯蔵の理論的容量の最も高い重量パーセント(7.65重量%)を有し、したがって、貯蔵材料の単位重量あたり最も高い理論的エネルギー密度(2332Wh/kg;Reilly & Sandrock, Spektrum der Wissenschaft, Apr. 1980, 53)を有するため、可逆的水素貯蔵系として用いることができるすべての公知の金属水素化物および金属系のうちで最も適当なものである。
この特性およびマグネシウムの比較的低い価格がMgH2−Mg系を輸送に最適の水素貯蔵系のように見せているが、水素動力源自動車については、その反応速度が不満足なため現時点までそれが用いられることを妨げている。例えば、純粋なマグネシウムは極端なな条件下でのみ、および非常にゆっくりと不完全にのみ、水素化することができることが公知である。生じる水素化物の脱水素化速度も水素貯蔵材料にとっては不適当なものである(Genossar & Rudman, Z. f. Phys. Chem., Neue Folge 116, 215 [1979]、およびそこで引用される文献)。
さらに、マグネシウム材料の水素貯蔵容量は、充填/放出サイクルの間に減衰する。この現象は、充填中に材料内部に位置するマグネシウム原子を水素に接近できないようにする表面汚染が進行するということによって説明することができる。
従来のマグネシウムまたはマグネシウム/ニッケル貯蔵材料系において水素を放出させるには250℃以上の温度が必要であり、これには同時にエネルギーの大量供給が伴う。水素を放出するのに必要な高い温度レベルおよび高エネルギーは、例えば、内燃機関を有する乗り物をこれらの合金のみで運転することができないという結果をもたらす。これは、排気ガスに含まれるエネルギーが、最も都合の良い場合(満載)においても、マグネシウムまたはマグネシウム/ニッケル合金からの内燃機関の水素必要量の50%を満たすのに十分なものに過ぎないために生じる。したがって、残りの水素必要量は他の水化物合金から得なければならない。例えば、この合金は、0℃未満の温度で作動可能であるチタン/鉄水素化物(典型的な低温水素化物貯蔵)であり得る。これらの低温水素化物合金は水素貯蔵容量が小さいという欠点を有する。
比較的大きな貯蔵容量を有するが、それでもやはり水素の放出が約250℃までの温度である貯蔵材料が過去に開発されている。米国特許第4,160,014号は、式Ti[1−x]Zr[x]Mn[2−y−z]Cr[y]V[z](式中、x=0.05乃至0.4、y=0乃至1およびz=0乃至0.4)の水素吸蔵材料を記載している。約2重量%までの水素をそのような合金に吸蔵することができる。この比較的小さい貯蔵容量に加えて、これらの合金は、金属バナジウムが用いられるときは合金の価格が非常に高価であるという不利な点も有する。
さらに、米国特許第4,111,689号は、31乃至46重量%のチタン、5乃至33重量%のバナジウムおよび36乃至53重量%の鉄および/またはマンガンを含有する吸蔵合金を開示している。このタイプの合金は、参照によりここに組み込まれる米国特許第4,160,014号による合金よりも大きい水素貯蔵容量を有するが、それらは水素を完全に放出するために少なくとも250℃の温度が必要であるという欠点を有する。約100℃までの温度では、最良の場合で、放出できるのは水素含有量の約80%である。しかしながら、水素化物貯蔵から水素を放出するのに必要とされる熱はしばしば低温レベルでのみ利用可能であるため、特に低温での、高い放出能力が産業において頻繁に必要とされる。
他の金属または金属合金特にチタンもしくはランタンを含むものとは対照的に、マグネシウムを含有する金属合金は、その低い材料経費だけではなく、とりわけその吸蔵材料としての低い比重のため、水素の吸蔵に好ましい。しかしながら、
Mg+H2 → MgH2
という水素化反応はマグネシウムでは達成がより困難である。それは一般には、マグネシウムの表面が空気中で急速に酸化して安定なMgOおよび/またはMg(OH)2表面層を形成するためである。。これらの層は、水素分子の解離の他、生成される水素原子の吸収および粒子表面からマグネシウム貯蔵材料の体積内への水素原子の拡散を阻害する。
Mg+H2 → MgH2
という水素化反応はマグネシウムでは達成がより困難である。それは一般には、マグネシウムの表面が空気中で急速に酸化して安定なMgOおよび/またはMg(OH)2表面層を形成するためである。。これらの層は、水素分子の解離の他、生成される水素原子の吸収および粒子表面からマグネシウム貯蔵材料の体積内への水素原子の拡散を阻害する。
マグネシウムの水素化能力を、アルミニウム(Douglass, Metall. Trans. 6a, 2179 [1975])、インジウム(Mintz, Gavra, & Hadari, J. Inorg. Nucl. Chem. 40, 765 [1978])、もしくは鉄(Welter & Rudman, Scripta Metallurgica 16, 285 [1982])のような個々の外来金属、或いは様々な外来金属(German Offenlegungsschriften 2 846 672 および 2 846 673)、またはMg2NiもしくはMg2Cu(Wiswall, Top Appl. Phys. 29, 201 [1978] および Genossar & Rudman, op. cit)およびLaNi5(Tanguy et al., Mater. Res. Bull. 11, 1441 [1976])のような金属間化合物をドープするか、またはそれらと合金化することによって改善しようとする集中的な努力が近年なされている。
これらの試みはそれらの反応速度を幾らかは改善したものの、その結果としてつくられたものから本質的な欠点のいくつかは未だに取り除かれてはいない。外来金属または金属間化合物でドープされたマグネシウムの初期水素化は依然として厳しい反応条件を要求され、多くの水素化および脱水素化のサイクルの後にのみ系の反応速度が満足のいくものとなって可逆的水素の含有量が高くなる。反応速度特性を改善するには相当なパーセンテージの外来金属または高価な金属間化合物も必要である。さらに、そのような系の貯蔵容量は、一般には、MgH2の場合に理論的に期待されるものを遙かに下回る。
マグネシウムおよびマグネシウム合金の貯蔵品質が、安定なマグネシウムの酸化物を破壊する助けとなり得る物質の添加によっても強化できることは公知である。例えば、そのような合金はMg2Niであり、Niが不安定な酸化物を形成するようである。この合金においては、表面反応Mg2Ni+O2 → 2MgO+Niが水素解離−吸収反応を触媒するニッケル金属の包含物にも拡張して適用されること熱力学的考察が示した。A. Seller et al., Journal of Less−Common Metals 73, 1980, pages 193以下を参照することができる。
マグネシウム表面上での水素解離−吸収反応の触媒の可能性の1つは、一方の相が水素化物形成剤であり、他方の相が触媒である二相合金の形成にもある。このように、ニッケルメッキをしたマグネシウムを水素吸蔵体として用いることは公知である。F. G. Eisenberg et al. Journal of Less−Common Metals 74, 1980, pages 323以降を参照のこと。しかしながら、マグネシウム表面全体にニッケルを付着および分散させる間に遭遇する問題が存在する。
非常に高密度かつ良好な付着触媒層を平衡相の形成のみにより得るため、水素化物形成相としてのマグネシウムとマグネシウム銅(Mg2Cu)との共晶混合物を水素吸蔵のために用いることができることも公知である。J. Genossar et al., Zeitschrift fur Physikalische Chemie Neue Folge 116, 1979, pages 215以降を参照のこと。しかしながら、このマグネシウム含有粒子によって達成される材料の単位体積あたりの貯蔵容量は、共晶混合物に必要であるマグネシウム銅の量のため、高い需要には答えられない。
当時の科学者らは様々な材料を調べ、特定の結晶構造が水素吸蔵に必要であるものと仮定した。例えば、“Hydrogen Storage in Metal Hydride”, Scientific American, Vol. 242, No. 2, pp. 118−129, February, 1980を参照のこと。異なるクラスの材料、不規則化水素吸蔵材料を利用することによって先行技術の材料の欠点の多くを克服できることが見出された。例えば、Guenter Winstelの「水素のための吸蔵材料(Storage Materials for Hydrogen)」についての米国特許第4,265,720号は、非晶質または微結晶ケイ素の水素吸蔵体を記載している。ケイ素は、好ましくは、適切な触媒と組み合わされ、かつ基盤上の簿膜である。
Matsumotoらの名での特開昭55−167401号、「水素吸蔵材料(Hydrogen Storage Material)」は、少なくとも50体積パーセントが非晶質構造の2もしくは3成分水素吸蔵材料を開示している。第1成分はCa、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Yおよびランタニドの群から選択され、第2成分はAl、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、MnおよびSiの群から選択される。B、C、PおよびGeの群からの第3成分は場合により存在し得る。特開昭55−167401号の教示によると、非晶質構造はほとんどの結晶系の不利な高脱離温度特性の問題を克服するのに必要である。高い脱離温度(例えば、150℃以上)はその系で可能な用途範囲を厳しく制限する。
Matsumotoらによると、少なくとも50%が非晶質の材料は、個々の原子の結合エネルギーが結晶性材料の場合と違って均一ではなく、それが広範囲に分布するため、少なくとも幾らかの水素を比較的低温で脱離することが可能である。
Matsumotoらは少なくとも50%が非晶質構造の材料をクレームとしている。Matsumotoらは「非晶質」という用語の意味に関して別にこれ以上の教示をしていないが、その用語の科学的に認められている定義は約20オングストロームが上限でそれ以下の範囲にわたる短距離秩序を意味する。
Matsumotoらのヒステリシス曲線が平坦でないことを利用するより良好な脱離反応速度の達成への非晶質構造材料の使用は不十分かつ部分的な解決である。結晶性水素吸蔵材料において見出される他の問題、特に、中程度の温度での有用な水素貯蔵容量の少なさが問題として残る。
しかしながら、さらにより良好な水素貯蔵の結果、すなわち、長いサイクル寿命、良好な機械的強度、低い吸収/脱離温度および圧力、可逆性、並びに化学的汚染に対する耐性は、無秩序化された準安定の水素吸蔵材料を変性することによるすべての利点が採用されるならば、実現することができる。無秩序化された構造的に準安定の水素吸蔵材料の変性は、Stanford R. Ovshinsky らの「水素吸蔵材料およびその製造方法(Hydrogen Storage Materials and Method of Making the Same)」についての米国特許第4,431,561号に記載されている。そこに記載されるように、化学的に変性され、熱力学的に準安定の構造を特徴とする無秩序化された水素吸蔵材料は、広範囲の商業的用途に望ましいすべての水素吸蔵特性を有するように設計することができる。変性水素吸蔵材料は、単一相結晶性ホスト材料よりも大きな水素貯蔵容量を有するように設計製造することができる。水素とこれらの変性材料内の貯蔵部位との間の化学結合の強さは、広い範囲の可能な結合力の分布をもたらし、それにより望ましい吸収および脱離特性が得られるように設計することができる。化学的に変性され、熱力学的に準安定な構造を有する無秩序化された水素吸蔵材料は、水素吸蔵反応速度の改善および汚染に対する耐性の増加をもたらす触媒的に活性の部位の密度も大幅に増加している。
選択されたホストマトリックスに組み込まれている選択された変性剤の相乗的な組み合わせは、水素吸蔵を容易にする化学的、物理的、および電子的構造および形態を安定化する構造および化学変性の量と質とを共に達成する。
変性された水素吸蔵材料の骨組みは軽量ホスト・マトリックスである。ホストマトリックスは選択された変性剤成分で構造的に変性され、必要な水素吸蔵特性を生じる局所的な化学的環境を伴う無秩序化材料を提供する。
Ovshinskyらによって述べられたホスト・マトリックスの別の利点は、変性剤の成分の割合を殆ど連続的な範囲で変化させて使用して変性できることである。この能力は、ホストマトリックスを変性剤によって操作し、特定の用途に適する特性を有する水素吸蔵材料を要求に沿って設計するか、または加工することを可能にする。これは、一般に利用可能な化学量論的範囲が非常に制限されている多成分単一相ホスト結晶性材料とは対照的である。したがって、そのような結晶性材料の熱力学的特性および反応速度の化学的および構造的変性を連続的な範囲で制御することは不可能である。
これらの無秩序化された水素吸蔵材料のさらなる利点は、それらが汚染に対してさらにより耐性であることである。前述のように、これらの材料はより高い密度の触媒活性部位を有する。したがって、そのような部位の幾つかを汚染種の効果の犠牲としても、一方で多数の非汚染活性部位は依然として望ましい水素吸蔵反応速度をもたらし続けることができる。
これらの無秩序化された材料の別の利点は、それらを単一相結晶性材料よりも機械的に柔軟になるように設計できることである。したがって、無秩序化された材料は拡張および収縮の際に割合に大きく歪ませることが可能であり、これは吸収および脱離サイクルの際のより高い機械的安定性を可能にする。
これらの無秩序化された材料の欠点の1つは、従来、Mgベースの合金の幾つかが製造困難であったことである。特に、溶融状態で溶液を形成しない材料。その上、最も有望な材料(すなわち、マグネシウムベースの材料)はバルク形態で製造することが極度に困難であった。すなわち、薄膜スパッタリング技術によりこれらの無秩序化合金を少量製造することはできるが、バルク調製技術は存在していなかった。
1980年代の中頃、2つのグループがバルク無秩序化マグネシウム合金の水素吸蔵材料を製造する機械的合金化技術を開発した。機械的合金化は、非常に異なる蒸気圧および融点を有する成分(例えば、MgとFeもしくはTi等)の合金化を、特に安定な金属間相が存在しないときに可能にすることが見出された。誘導溶融のような従来の技術はそのような目的には不適当であることが見出されている。
2つのグループのうちの第1は、Mg−Ni系の材料の機械的合金化およびそれらの水素吸蔵特性を研究するフランス人科学者のチームであった。Senegas, et al., “Phase Characterization and Hydrogen Diffusion Study in the Mg−Ni−H System”, Journal of the Less−Common Metals, Vol. 129, 1987, pp. 317−326(0、10、25および55wt%のNiを組み込むMgとNiの二元機械的合金)、および、また、Song, et al. “Hydriding and Dehydriding Characteristics of Mechanically Alloyed Mixtures Mg − x wt % Ni (x=5, 10, 25 and 55)”, Journal of the Less−Common Metals, Vol. 131, 1987, pp.71−79(5、10、25および55wt%のNiを組み込むMgとNiの二元機械的合金)を参照のこと。
2つのグループのうちの第2は、マグネシウムおよび他の金属の二元機械的合金の水素吸蔵特性を研究したロシア人科学者のチームであった。Ivanov, et al., “Mechanical Alloys of Magnesium−New Materials For Hydrogen Energy” , Doklady Physical Chemistry (English Translation) vol. 286: 1−3, 1986, pp. 55−57(MgとNi、Ce、Nb、Ti、Fe、Co、SiおよびQとの二元機械的合金)、また、Ivanov, et al. “Magnesium Mechanical Alloys for Hydrogen Storage” , Journal of the Less−Common Metals, vol. 131 , 1987, pp. 25−29(MgとNi、Fe、Co、NbおよびTiとの二元機械的合金)、およびStepanov, et al., “Hydriding Properties of Mechanical Alloys of Mg−Ni” , Journal of the Less−Common Metals, vol. 131, 1987, pp. 89−97(Mg−Ni系の二元機械的合金)を参照のこと。これらのフランスおよびロシアのグループの間の共同研究、Konstanchuk, et al., “ The Hydriding Properties of a Mechanical Alloy With Composition Mg−25% Fe”, Journal of the Less−Common Metals, vol. 131, 1987, pp. 181−189(Mgと25wt%Feの二元機械的合金)も参照のこと。
後に、1980年代後期および1990年代早期に、ブルガリアの科学者グループが(時には、ロシアの科学者グループと共同で)マグネシウムと金属酸化物との機械的合金の水素吸蔵特性を研究した。Khrussanova, et al., “Hydriding Kinetics of Mixtures Containing Some 3d−Transition Metal Oxides and Magnesium”, Zeitschrift fur Physikalische Chemie Neue Folge, Munchen, vol. 164, 1989, pp. 1261− 1266(MgとTiO2、V2O5、およびCr2O3との二元混合物および機械的合金の比較)、およびPeshev, et al., “Surface Composition of Mg−−TiO2 Mixtures for Hydrogen Storage, Prepared by Different Methods”, Materials Research Bulletin, vol. 24, 1989, pp. 207−212(MgとTiO2の従来の混合物および機械的合金の比較)を参照のこと。Khrussanova, et al., “On the Hydriding of a Mechanically Alloyed Mg(90%)−V2O5 (10%) Mixture”, International Journal of Hydrogen Energy, vol. 15, No. 11, 1990, pp. 799−805(MgとV2O5の二元機械的合金の水素吸蔵特性の研究)、およびKhrussanova, et al., “Hydriding of Mechanically Alloyed Mixtures of Magnesium With MnO2, Fe2O3, and NiO”, Materials Research Bulletin, vol. 26, 1991, pp. 561−567(MgとMnO2、Fe2O3、およびNiOとの二元機械的合金の水素吸蔵特性の研究)も参照のこと。最後に、Khrussanova, et al., “The Effect of the d−Electron Concentration on the Absorption Capacity of Some Systems for Hydrogen Storage”, Materials Research Bulletin, vol. 26, 1991, pp. 1291−1298(Mgと3−d金属酸化物の機械的合金を含む、材料の水素吸蔵特性に対する高密度d電子効果の研究)、およびMitov, et al., “A Mossbauer Study of a Hydrided Mechanically Alloyed Mixture of Magnesium and Iron(III) Oxide”, Materials Research Bulletin, vol. 27, 1992, pp. 905−910(MgとFe2O3の二元機械的合金の水素吸蔵特性の研究)も参照のこと。
より近年、中国人科学者のグループがMgと他の金属との幾つかの機械的合金の水素吸蔵特性を研究している。Yang, et al., “The Thermal Stability of Amorphous Hydride Mg50Ni50H54 and Mg30Ni70H45”, Zeitschrift fur Physikalische Chemie, Munchen, vol. 183, 1994, pp. 141−147(機械的合金Mg50Ni50およびMg30Ni70の水素吸蔵特性の研究)、また、Lei, et al., “Electrochemical Behavior of Some Mechanically Alloyed Mg−Ni−based Amorphous Hydrogen Storage Alloys”, Zeitschrift fur Physikalische Chemie, Munchen, vol. 183, 1994, pp. 379−384(Mg−NiとCo、Si、Al、Co−Siとの幾つかの機械的合金の電気化学的[すなわち、Ni−MH電池]特性の研究)を参照のこと。
短距離の、すなわち局所的秩序は、組成的に変化する材料および該材料の合成方法(Compositionally Varied Materials and Method for Synthesizing the Materials)と題するOvshinskyの米国特許第4,520,039号において詳述されており、その内容は参照により本願に組み込まれる。この特許は、無秩序化材料がいかなる周期的な局所秩序をも必要とせず、局所的配置をより高い精度と制御により、類似の、もしくは異なる原子もしくは原子群の空間的および方向的配置が可能になり、その結果、新規現象を定量的に生成することが可能であることを開示した。加えて、この特許は、用いられる原子を「d帯」原子または「f帯」原子に制限する必要はなく、材料の物理的特性に、したがって、それらの機能に影響を及ぼすように、人工的に設計された局所的環境との相互作用の様相および/または電子軌道の重複が物理的、電子的、または化学的に重要な役割を果たす如何なる原子でもあり得ることを論じている。これらの材料の成分は、d電子軌道の多方向性のため、様々な化学結合可能性を提供する。d電子軌道の多方向性(「ポーキュパイン効果」)は、活性部位の密度の、したがって、その数の著しい増加をもたらす。これらの技術は、同時に幾つかの異なる意味で無秩序である新規材料を合成する手段を与える。
Ovshinskyは、、それらのバルクが望ましい比較的純粋な材料に似ている非晶質膜を作製することにより、表面部位の数を大幅に増加できることを以前に示していた。Ovshinskyは、また、複数の成分を用いて、必要とされる電気化学的特徴を材料が達成することを可能にする化学結合の増加および局所環境秩序を得た。Principles and Applications of Amorphicity, Structural Change, and Optical Information Encoding, 42 Journal De Physique at C4−1096 (October 1981)においてOvshinskyが説明するように、
「非晶質性とは、長距離周期性を立証するX線回折像の欠如を指す一般用語であり、物質の十分な説明ではない。非晶質物質を理解するのに考慮すべき幾つかの重要な要素が存在する。すなわち、化学結合のタイプ、局所的秩序によって生成される結合の数、すなわち、その配位数、及び化学的および幾何学的な局所的環境全体が結果として生じた様々な配置に与える影響である。非晶質性とは、原子を硬質の球として考えてそれを無作為に充填して作られるものでもなく、非晶質固体は、単に原子が無作為に埋め込まれている母材でもない。非晶質物質は、電子配置が自由エネルギーにより生ずる力によって生成される相互作用性マトリックスで構成されるものとして見られるべきであり、それらは構成原子の化学的性質および配位によって具体的に定義することができる。多電子軌道原子を成分としまた様々な調製技術を用いて、平衡状態に復帰させようとする正常の緩和現象の進行を阻害し、かつ、非晶質状態が三次元の自由度を持つため、まったく新たなタイプの非晶質物質−化学変性物質を作製することができる…。」
非晶質性が膜に表面部位を導入する手段としてひとたび理解されると、その結果のあらゆる種類、例えば、多孔性、位相幾何学的特性、結晶性、部位の特徴、および部位間の距離など、を考慮に入れた「無秩序」を生成することが可能になった。したがって、秩序付けられた結晶構造を持つ材料中に偶発的に生じる表面のボンドおよび表面の無秩序性が最大になるような材料変化を探索するよりも、OvshinskyおよびECDの彼のチームは「無秩序化」材料を構築し始め、そこで望ましい無秩序性を人工的に設計した。米国特許第4,623,597号(その開示は引用により本願に組み込まれる)を参照のこと。
「非晶質性とは、長距離周期性を立証するX線回折像の欠如を指す一般用語であり、物質の十分な説明ではない。非晶質物質を理解するのに考慮すべき幾つかの重要な要素が存在する。すなわち、化学結合のタイプ、局所的秩序によって生成される結合の数、すなわち、その配位数、及び化学的および幾何学的な局所的環境全体が結果として生じた様々な配置に与える影響である。非晶質性とは、原子を硬質の球として考えてそれを無作為に充填して作られるものでもなく、非晶質固体は、単に原子が無作為に埋め込まれている母材でもない。非晶質物質は、電子配置が自由エネルギーにより生ずる力によって生成される相互作用性マトリックスで構成されるものとして見られるべきであり、それらは構成原子の化学的性質および配位によって具体的に定義することができる。多電子軌道原子を成分としまた様々な調製技術を用いて、平衡状態に復帰させようとする正常の緩和現象の進行を阻害し、かつ、非晶質状態が三次元の自由度を持つため、まったく新たなタイプの非晶質物質−化学変性物質を作製することができる…。」
非晶質性が膜に表面部位を導入する手段としてひとたび理解されると、その結果のあらゆる種類、例えば、多孔性、位相幾何学的特性、結晶性、部位の特徴、および部位間の距離など、を考慮に入れた「無秩序」を生成することが可能になった。したがって、秩序付けられた結晶構造を持つ材料中に偶発的に生じる表面のボンドおよび表面の無秩序性が最大になるような材料変化を探索するよりも、OvshinskyおよびECDの彼のチームは「無秩序化」材料を構築し始め、そこで望ましい無秩序性を人工的に設計した。米国特許第4,623,597号(その開示は引用により本願に組み込まれる)を参照のこと。
「無秩序化」という用語は、電気化学的電極材料を指すのにここで用いられる場合、文献において用いられる用語の意味、例えば、以下のものに相当する。
無秩序化された半導体は幾つかの構造状態で存在することができる。この構造要素は、[物質]...の物理特性を制御することができる新たな変数を構成する。さらに、構造的な無秩序は、熱力学的平衡の制限を遙かに超える新たな組成物および混合物を準安定状態で調製する可能性を開く。したがって、我々は以下をさらなる識別特徴として記す。多くの無秩序化[物質]...において、短距離秩序パラメータを制御し、それにより、成分に新たな配位数を強いること...を含めて、これらの材料の物理特性の劇的な変化を達成することが可能である。
S. R. Ovshinsky, The Shape of Disorder, 32 Journal of Non−Crystalline Solids at 22 (1979)(強調を加えた)。
これらの無秩序化材料の「短距離秩序」がOvshinskyによってThe Chemical Basis of Amorphicity: Structure and Function, 26:8−9 Rev. Roum. Phys. at 893−903 (1981)においてさらに説明されている。
「短距離秩序は保存量ではない...。実際、結晶の対称性が破壊されるとき、同じ短距離秩序を保持することは不可能になる。その理由は、短距離秩序が電子軌道の力場によって制御され、したがって、対応する結晶および非晶質固体において環境が根本的に異なっていなければならないことである。換言すると、それは局所的化学結合とその物質の電気的、化学的、および物理的特性を決定するそれらの周囲環境との相互作用であり、これらが非晶質物質においてそれらが結晶性物質であるときと同じではあり得ない...。非晶質物質の三次元空間内には存在し得るが結晶性物質にはない電子軌道上の関係は新たな幾何学的考察の基礎であり、その多くは自然状態で本質的に反結晶性である。結合の歪み及び原子の位置ずれは単一成分物質において非晶質性が生じる妥当な理由であり得る。しかしながら、非晶質性を十分に理解するには、それが結晶格子の並進対称性と両立しない内部の位相幾何学的性質を生成するものであるため、非晶質状態において本質的な三次元の関係を理解しなければならない。非晶質状態において重要なことは、いかなる結晶性の対応物をも持たず、主として化学組成において類似であるものさえない無限の物質を作製することができるという事実である。これらの原子の空間的およびエネルギー的な関係は、それらの化学成分が同じであり得るとしても、非晶質および結晶形態においてはまったく異なるものであり得る...。」
上述の、無秩序化材料の諸原理に基づき、非常に効率的な電気化学的水素吸蔵陰極材料の3つの種類を配合した。これらの陰極材料の種類は、個別的にまた一括して、以下「オボニック(Ovonic)」と呼ぶ。第1種はLa−Ni5型陰極材料であり、これは、近年、無秩序化多成分合金、すなわち、「オボニック」になるように、希土類元素、例えば、Ce、Pr、およびNd並びに他の金属、例えば、Mn、Al、およびCoの添加により著しく変性されている。これらの種類の2番目のものはTi−Ni型陰極材料であり、これは本願発明の譲受人によって導入および開発され、無秩序化された多成分合金、すなわち、「オボニック」になるように、遷移金属、例えば、ZrおよびV並びに他の金属性変性剤成分、例えば、Mn、Cr、Al、Fe等の添加によって著しく変性されている。これらの種類の3番目のものは、米国特許第5,506,069号、第5,616,432号、および第5,554,456号(これらの開示は引用によりここに組み込まれる)に記載される無秩序化された多成分MgNi型陰極材料である。
上述の、無秩序化材料の諸原理に基づき、非常に効率的な電気化学的水素吸蔵陰極材料の3つの種類を配合した。これらの陰極材料の種類は、個別的にまた一括して、以下「オボニック(Ovonic)」と呼ぶ。第1種はLa−Ni5型陰極材料であり、これは、近年、無秩序化多成分合金、すなわち、「オボニック」になるように、希土類元素、例えば、Ce、Pr、およびNd並びに他の金属、例えば、Mn、Al、およびCoの添加により著しく変性されている。これらの種類の2番目のものはTi−Ni型陰極材料であり、これは本願発明の譲受人によって導入および開発され、無秩序化された多成分合金、すなわち、「オボニック」になるように、遷移金属、例えば、ZrおよびV並びに他の金属性変性剤成分、例えば、Mn、Cr、Al、Fe等の添加によって著しく変性されている。これらの種類の3番目のものは、米国特許第5,506,069号、第5,616,432号、および第5,554,456号(これらの開示は引用によりここに組み込まれる)に記載される無秩序化された多成分MgNi型陰極材料である。
Ovshinskyの‘597特許に表される原理に基づき、オボニックTi−V−Zr−Ni型活性材料がSapru、Fetcenkoらの米国特許第4,451,400号(‘400特許)(その開示は引用によりここに組み込まれる)に開示されている。このオボニック材料の第2の種類は、水素吸蔵のため、可逆的に水素化物を形成する。‘400特許において用いられるすべての材料はTi−V−Ni組成を用い、少なくともTi、V、およびNiを含み、それが少なくとも1種類又は1種類以上のCr、Zr、およびAlと共に存在する。‘400特許の材料は、一般には多相多結晶性材料であり、これらに限定されるものではないが、C 14 およびC 15 型結晶構造を有するTi−V−Zr−Ni材料の1つ又は1以上の相が含まれ得る。他のオボニックTi−V−Zr−Ni合金は、改良された電荷保持電気化学的水素吸蔵合金および改良された電荷保持電気化学的電池(Enhanced Charge Retention Electrochemical Hydrogen Storage Alloys and an Enhanced Charge Retention Electrochemical Cell)と題する、共通に譲渡されている米国特許第4,728,586号(‘586特許)(その開示は引用により組み込まれる)に記載されている。
金属電解質界面の特徴的な表面の粗さは、共通に譲渡されている、Reichman、Venkatesan、Fetcenko、Jeffries、Stahl、およびBennetの米国特許第4,716,088号(その開示は引用により組み込まれる)に開示されるように、その材料の無秩序性の結果である。多くの合金およびそれらの相に加えて、すべての構成成分がその金属全体を通して存在するため、それらは表面および金属/電解質界面に形成されるクラックにも露出している。したがって、特徴的な表面の粗さは、アルカリ性環境におけるホスト材料と合金およびその合金の結晶相の物理的および化学的特性の相互作用の現れである。水素吸蔵合金材料内の個々の相の顕微鏡的レベルにおける化学的、物理的、および結晶学的パラメータはその巨視的電気化学的な特徴を決定する上で重要である。
その粗面化表面の物理的性質に加えて、V−Ti−Zr−Ni型合金は表面状態および粒径は定常状態に到達する傾向があることが観察されている。この定常状態における表面状態は比較的高濃度の金属ニッケルを特徴とする。これらの観察は、チタンの酸化物とジルコニウムの酸化物が析出により表面から比較的に高速で除去されること、及びニッケルの溶解速度がより低速であることと一貫している。その結果生じる表面は、水素吸蔵陰極のバルク組成物から期待されるものよりも高濃度のニッケルを有する。金属状態のニッケルは導電性および触媒性であり、これらの特性を表面に付与する。結果として、水素吸蔵陰極の表面は、表面がより高い濃度の絶縁性酸化物を含む場合と比較して、その触媒性と導電性がより高い。
導電性および触媒性成分である金属ニッケルを有する陰極の表面は、金属水素化物合金と相互作用により、電気化学的な充電および放電反応過程の触媒作用をするほかに、高速の気体再結合を促進する。
最後に、米国特許第5,616,432号(‘432特許)において、Ovonic Battery Companyの研究者らは本発明の複合水素吸蔵材料の基本合金に類似するMg−Ni−Co−Mn合金を製造した。これらの合金の貯蔵容量は約2.7重量パーセントに限られ、30℃では吸蔵水素は合金から脱離しなかった。図1は‘432特許の薄膜合金(記号△)のPCT曲線を本発明の複合水素吸蔵材料(記号◆)のものと共にプロットする。見られるように、本発明の水素吸蔵複合材料は4重量パーセントを上回る水素を吸収し、さらに注目すべきことはこの水素を30℃の温度で脱離できることである。
本発明が現れるまで、1)高い水素貯蔵容量、2)軽量材料、3)適切な水素吸収/脱離温度、4)適切な吸収/脱離圧、5)高速の吸収反応速度、および6)長い吸収/脱離サイクル寿命の望ましい材料特性を、すべて安価で製造が容易な材料において同時に満たすことができる先行技術の材料は存在しなかった。
本発明は、Mg−Niベースの合金、およびMg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属のコーティングを有するMg−Ni複合材料である。コーティングは約200オングストローム未満の厚みであり、この複合材料は4.86重量パーセント水素未満の貯蔵容量を30℃という低い温度および約150PSI未満の吸収圧力での高い吸収速度と共に達成する。さらに注目すべきことには、この複合材料は250℃という低い温度で貯蔵した水素を完全に脱離する能力も有し、その能力はそのような高い総貯蔵容量を有する材料においてこれまで見られなかったものである。さらにより驚くべきことには、該材料は、90℃で貯蔵された水素の2.51重量パーセント、30℃で1.2重量パーセントを脱離することができる。加えて、これらの材料は比較的安価であり、製造が容易である。
Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属は、より好ましくは、約150オングストローム未満の厚みであり、最も好ましくは、約100オングストローム未満の厚みである。触媒的に活性の金属のコーティングは、好ましくは、鉄、パラジウム、白金、イリジウム、金、およびそれらの混合物もしくは合金からなる群より選択される少なくとも1つの金属から形成される。鉄およびパラジウムが最も好ましい触媒性コーティングである。
基本合金は、好ましくは、2相非晶質構造を有する。Mg−Niベースの合金は、その合金の40乃至65原子パーセント、より好ましくは、その合金の45乃至65原子パーセントの範囲をとるマグネシウム含有率を有する。ニッケル含有率はその基本合金の25乃至45原子パーセントの範囲であり、好ましくは、ニッケル含有率は30乃至40原子パーセントである。Mg−Niベースの合金はさらにマンガンおよびコバルトを含む。コバルト含有率はその合金の1乃至10原子パーセント、好ましくは、その合金の2乃至6原子パーセントである。マンガン含有率はその合金の1乃至10原子パーセント、好ましくは、その合金の3乃至8原子パーセントである。
Mg−Niベースの合金は、Fe、Al、Zr、Zn、Cu、Ag、Cu、B、La、Ru、Re、Li、Cr、Pd、Si、V、Sr、ミッシュメタルおよびそれらの混合物または合金よりなる群からの少なくとも1つの元素をさらに含むことができ、これらは合計ですべてを含む合金の約5原子パーセント未満の量で合金に組み込まれ、かつ個々の元素は約3原子パーセント未満の量で該合金に組み込まれる。
このMg−Ni複合材料は約150PSI未満の圧力で少なくとも3重量パーセントの水素を吸収することが可能であり、より好ましくは、約50PSI未満の圧力で少なくとも3重量パーセントの水素を吸収することが可能である。このMg−Ni複合材料は30℃で2分未満に3重量パーセントの水素を吸収し、30℃で10分未満に3.5重量パーセントの水素を吸収する。
本発明のMg−Ni合金複合材料は、これまでに初めて、約100℃未満の温度において、良好な反応速度で相当量の水素を貯蔵および放出する能力を示す。具体的には、本発明の複合材料は30℃で約3重量パーセント以上の水素を貯蔵することができる。より好ましくは、これらの材料は30℃で約3.5重量パーセント以上の水素を貯蔵することができ、最も好ましくは、約4重量パーセント以上の水素を貯蔵することができる。基本合金は溶融紡糸法および機械的合金化法によって製造することができ、合金表面の少なくとも一部に微量のパラジウムおよび/または鉄が添加されて複合体を形成する。以下で考察するように、基本合金の溶融紡糸および機械的合金化を行う条件が本発明の複合材料の独自の特性を作る上で主要な役割を果たす。
本発明の好ましい複合材料は、一般には、2相非晶質微細構造を有する基本Mg−Ni合金を含む。以下で説明されるこれらの材料の製造方法は、この2相非晶質微細構造を有するMg−Ni合金製造の鍵である。すなわち、その処理が正しくない場合、単相構造を有する材料が形成される。この混合相構造はMgに富む相およびNiに富む相を有し、本発明者らは、基本合金におけるMgに富む相のNiに富む相に対する比が高いとき、その複合材料が最良の反応速度を有することを見出している。具体的には、Mgに富む非晶質相が貯蔵相として作用し、Niに富む相が触媒相として作用して分子水素を原子水素に解離させ、それが次にMgに富む相の物質に貯蔵されるものと信じられる。したがって、本発明の最も好ましい材料を作製するとき、そのプロセスは、好ましくは、単一非晶質相材料の製造を回避する。ここで非晶質とは、その構造が主として非晶質であることを意味することに注意すべきである。構造が幾らかのマイクロ結晶性またはナノ結晶性領域を含んでいてもよく、それは依然として非晶質とみなされる。材料の非晶質部分は、ここでは、約20オングストローム以上の長距離秩序がないものと定義される。
本発明の複合材料の基本合金は主としてマグネシウムおよびニッケルを含む。表1は、本発明による基本合金の特定の例の合金の指標番号および公称組成を示す。公称マグネシウム含有率はその合金の40乃至65原子パーセントの範囲であり、好ましくは、マグネシウム含有率はその合金の45乃至65原子パーセントの範囲である。ニッケル含有率はその基本合金の25乃至45原子パーセントの範囲であり、好ましくは、ニッケル含有率は30乃至40原子パーセントである。
基本合金は、好ましくは、マンガンおよびコバルトもMgおよびNiの含有量よりもかなり少ない量で含む。コバルト含有率は、合金の経費を減少させ、かつ安定で大貯蔵容量の合金を依然として生成するのに可能な限り低く保持される。それに留意して、コバルト含有率はその合金の1乃至10原子パーセント、好ましくは、2乃至6原子パーセントである。マンガン含有率は1乃至10原子パーセント、好ましくは、3乃至8原子パーセントである。
最後に、合金は、その基本合金の非晶質構造の達成および安定化の強化を助け、およびその合金の触媒活性を高め、それによりそれらの反応速度を高める元素を含むこともできる。そのような元素には、Fe、Al、Zr、Zn、Cu、Ag、Cu、B、La、Ru、Re、Li、Cr、Pd、Si、V、Sr、ミッシュメタルおよびそれらの混合物または合金が含まれ得る。これらの元素が存在する場合、合計で約5原子パーセント未満の量であり、個々の元素の各々は約3原子パーセント未満で含まれる。鉄が好ましい添加物である。
以下は本発明の水素吸蔵複合材料の基本合金を製造する基本的な方法を説明する。望ましい組成物を生成する成分比を有する原料1キログラムを溶融紡糸機チャンバー内の窒化ホウ素(BN)るつぼに入れる。溶融/回転過程中のマグネシウムの蒸発損失を補うため、さらに50グラムのマグネシウムを添加する。るつぼの温度を40分以内で1050℃まで徐々に上昇させる。るつぼ底部の穴を塞ぐ窒化ホウ素栓を除去し、液体金属をるつぼの底部から約10m/秒の直線速度で回転する高速水冷Be−Cu合金溶転紡糸円盤に向けて強制排出する。合金は、円盤に達したとき、冷却/固化され、形成される合金材料のリボンをチャンバーの底部から集める。12時間以上にわたる十分な冷却の後、リボンおよびフレークを集め、機械的合金化(MA)のため保護アルゴン雰囲気下で摩砕機(Union Process Model S−1)に移した。2つの異なるMAプロセスを用いた。第1はいかなる添加物をも用いないアルゴン雰囲気中での48時間の連続破砕であり、これは微結晶と非晶質の混合した構造を生じた。平均結晶サイズは、XRDピークの半値全幅による決定で、45オングストロームであった。第2のプロセスは少量のグラファイトおよびヘプタンを破砕助剤として用いた。炭素およびヘプタンは摩砕機の壁に粘着する合金粉末の量を減少させる助けとなり、合金材料の酸素汚染も減少させる。破砕時間は、第一の方法の48時間に比して僅か2時間に減少した。この第2の方法から生じる微細構造は285オングストロームの平均結晶サイズを有する多結晶性物質である。2つのプロセスからの合金材料のXRDおよびそれらの対応する水素脱離特性を図2に示す。両プロセスからの総脱離量は同じであったが、2時間機械的合金化試料はより高速の脱離反応速度をもたらし、製造するのにより経済的であった。したがって、第2の方法がより好ましい。
本発明の複合材料を製造するには、粉末を摩砕機の底部から密封された容器に放出した後、篩に移して粉末を様々なサイズに分類する。本発明の例には、200メッシュの篩を通過する粉末のみを用いる。グローブボックス内で30トンの空気圧を用いてNiの拡張金網基盤上に粉末をプレスする。プレスされた試料の表面を、Edward Auto 306エバポレーター内での熱蒸着により、触媒性金属の100Å層で被覆する。その後、その複合材料試料を圧力−濃度等温線(PCT)測定装置において試験し、その気相水素吸収/脱離特性を決定する。
図3Aおよび3Bは、本発明の複合材料に有用な基本合金組成物の溶融紡糸法によるリボンの、それぞれ600×および4000×での、断面SEM顕微鏡写真を示す。この溶融紡糸リボンは、リボンの各部内での2相はそれぞれ大きな結晶粒となり著しい相分離を示す。具体的には、この例においては、冷却ローラー溶融冷却装置で製造された溶融紡糸リボンの空気側に大結晶粒が現れる。この著しい分離は、それ自体、斑点領域として図2Aに、および雪片形状の領域として図3Bに現れている。図3Bは、断面の右手側に、大結晶粒の成長を示さない溶融紡糸リボンの区域も示す。
図4は、本発明の合金組成物の溶融紡糸リボンの、600×での、別の断面のSEM顕微鏡写真を示す。このリボンはMgに富む相およびNiに富む相の大結晶粒の成長の徴候を示さない。したがって、溶融冷却(溶融紡糸)の条件が重要であり、合金溶融物を冷却する際には、大結晶粒が殆どか或いは全く形成されないように条件を設定するべきである。大結晶粒を無くすることが望ましい理由は、基本金属材料を作製するプロセスにおける次の工程が機械的破砕/合金化工程であり、そこでは溶融紡糸リボン材料を72時間まで機械的に合金化して非晶質物質を生成することである。溶融紡糸リボン中の結晶粒径が大きいほど、これらの結晶粒を破壊して非晶質微細構造を形成するのにより長い機械的合金化が必要となる。
図5は本発明の基本金属の高解像度TEM顕微鏡写真である。このTEM顕微鏡写真は非晶質バルクに埋め込まれている三次元のチューブ様構造を明らかにする。これらのチューブ様構造、すなわち、マイクロチューブは従来技術の機械的合金化材料においては報告されていない。これらのチューブ構造は、摩砕機内での機械的合金化プロセス中の二次元シートの巻きたたみの産物であるものと信じられる。これらのマイクロチューブの形態は近年見出された炭素のナノチューブ構造に類似する。これらのマイクロチューブの実際の機能および材料の水素貯蔵容量との関係は現時点では明瞭ではないが、本発明者らはこの特別な連結チューブ構造が、非従来型の網目構造を提供するため、バルク合金におけるプロトン伝導性チャンネルの役を果たしている可能性が高いために、バルク水素拡散に有利な貢献をしていると信じる。さらに、本発明の複合材料の基本合金の水素貯蔵量の増加は化学的に吸着した水素と物理的に吸着した水素との組み合わせのためであり得と信じられる。このMg−Niマイクロチューブはある程度の多孔性を含むものと思われ、これは低温で使うことの出来る(脱離する)物理吸着水素を可能にする。マイクロチューブは本発明の材料の無秩序度を更に高める。上で考察されるチューブ構造に加えて、この材料の電子回折パターンは微結晶および非晶質領域の共存も示す。この材料を比較的低温および低い作動水素圧で相当量の水素を可逆的に貯蔵可能にするのはこの様々な微細構造のこのような特別な組み合わせである。マイクロチューブはMgに富む物質の外筒で囲まれているNiに富む材料の内部の芯として現れる。
異なる基本合金材料を本発明の製造方法に従って作製した。この異なる基本合金のX線回折プロットを図6に曲線A−Gとして示す。上で論じられるように、最も顕著な2相非晶質構造を有する試料(曲線D)がすべての材料のうちで最高の性能(特に、脱離反応速度)を有していたことに注意することが重要である。すなわち、二重非晶質相構造を有する材料は単一非晶質相を有する類似の合金より機能が高かった。分析の結果は、二重非晶質相構造の材料の2つの別々の非晶質成分を互いに比較するとき、その一方はMgの濃度が高く、それに対して他方がNiの濃度が高いことを示す。理論に拘束される意図はないが、Niに富む部分が触媒相として作用することができ、それに対してMgに富む部分が貯蔵相であり得るものと信じられる。
図7Aおよび7Bは本発明の(指標番号AR3−MS425)基本合金の溶融紡糸工程後に、機械的合金化前と同工程後のそれぞれのX線回折プロットである。見てわかるように、溶融紡糸したままの材料は鋭いピークを有する結晶質である。機械的合金化の後、材料はほぼ非晶質になり非常に幅の広いピークを示す。図7Bは、二重非晶質相材料が機械的合金化から生じることも示す。
同じ化学組成の基本合金を用いる2つの異なる合金調製方法(一方は単一相非晶質構造を形成し、他方は2相構造を形成する)の比較は幾つかの興味深い結果を示す。Mg49Ni41Mn7Co3(原子%)の名目上の全体組成を有する単一非晶質相構造を生成した。この(指標番号AR3−MS420)物質は4.1wt%の水素貯蔵容量を示した。この数字は容量に関する限り極めて良好であるが反応速度は遅く、無理のない時間で最終容量の数値を得るのに合金の温度を90℃に上昇させなければならなかった。これは二重相材料が水素を吸収することができる30℃(以下で考察される)よりも高いが、依然として先行技術の他のMg材料が必要とする300℃を遙かに下回る。したがって、この単相材料でさえ、80−100℃の範囲で、熱の利用が可能であり、かつ反応速度が重要ではない状況においては有用であり得る。これと比較して、(指標番号AR3−MS425)2相材料はAR3−MS420よりも僅かに大きい最大水素貯蔵容量(4.3%)を有しているだけであるが、吸収反応速度は大きく改善されている。具体的には、4.3%の吸収全体には30℃で数分かかるのみであった。
ここで、Mg61Ni32.5Mn3Co2Fe1.5の名目上の全体組成を有する(指標番号AR031)本発明の別の合金に転じると、この材料は30℃という驚くべき温度で4.86wt.%という信じられない最大水素貯蔵容量を有しており、この高貯蔵容量に加えて、この材料の吸収反応速度は極めて良好であって水素を約数分以内に吸収する。
本発明者らは、鉄がパラジウムよりも良好な触媒性コーティングと思われることを見出している。すなわち、極微の厚さのパラジウムコーティングは基本吸蔵合金の吸収反応速度を大幅に強化するが、脱離反応速度を大幅に高めることはない。しかしながら、鉄は吸収反応速度を高めるだけではなく、脱離反応速度に加えて可逆的脱離容量も大幅に高める。図8Aはこの可逆的脱離容量の増加を表す。図8Aは、、様々な触媒性コーティングで被覆された、AR031基本合金(上を参照)から製造された複合材料から脱離した水素の量(重量パーセント表示)をy軸にとり、異なる脱離温度をx軸にとった棒グラフプロットである。脱離時間は各々場合において4時間に設定される。これによれば、鉄コーティングを有する複合組成物が最高の可逆的脱離を示しており、すなわち、250℃で4.86重量パーセントおよび90℃で2.27重量パーセントである。さらに、本発明者らは、鉄およびパラジウムが好ましい触媒性物質ではあるが、鉄、パラジウム、白金、イリジウム、金、およびそれらの混合物または合金を含むより広範な群が本発明において有用であるものと判断する。
図8Bは、様々な触媒性コーティングで被覆された、AR031合金または別の合金AR026(Mg55Ni36Mn6Co3)のいずれかから製造された複合材料から脱離した水素の量(重量パーセント表示)をy軸にとり、異なる脱離温度をx軸にとった棒グラフプロットである。驚くべきことに、これらの複合材料は、30℃という低い温度でさえ、約1.0乃至1.1重量パーセントの水素を可逆的に脱離することができる。これはマグネシウムベースの系では今までにない成果であり、水素化物貯蔵材料の温度を数百℃に瞬時に上昇させる必要無しに、水素動力源装置(即ち、燃料電池、水素内燃機関等)の即時作動を可能にする。
パラジウムまたは鉄の触媒性コーティングは可能な限り薄くなければならないながら基本合金における水素貯蔵の反応速度の望ましい増大をもたらさなければならない。好ましくは、コーティングは約200オングストローム未満、より好ましくは、約150オングストローム未満の厚み、最も好ましくは、約100オングストローム未満の厚みである。被覆されたパラジウムは複合材料の約0.05%未満を構成し、したがって、材料全体の水素貯蔵容量に有意に寄与することは決してあり得ないことに注意すべきである。再び理論に拘束されるものではないが、コーティングは触媒的に作用して貯蔵材料複合体の反応速度を増大するものと信じられる。その上、コーティングは本発明の基本合金上に蒸着させるが、他の技術、例えば、無電解メッキ、電気分解メッキまたは化学蒸着によって合金上に被覆されていてもよい。
蒸着されたコーティングはプレスされたバルク試料の外部にあり、バルク内部の粒子をコートするものではないことに注意すべきである。これは触媒性コーティングを付加する最も有用な方法ではないかもしれない。図9は、本発明者らが想像する、本発明の複合材料の微細構造の説明図である。バルク基本合金は、ニッケルに富む触媒相とマグネシウムに富む水素貯蔵相が混合して構成されている。バルク材料の表面上には付加された触媒性物質(すなわち、PdまたはFe等)の超薄コーティングが存在する。この超薄コーティングはおそらくは連続しておらず、この説明図においては量的には正確でない。実際、断面SEM顕微鏡写真では100−200オングストロームの触媒性コーティングをまったく示さない。
上で言及したように、触媒性物質層を付加する本発明の方法(プレスされたバルク基本合金の外側に蒸着)はそのような触媒性物質を複合体に付加する最良の方法ではないかもしれない。本発明者らは、コーティング技術に加えて、他の技術をバルク基本合金に触媒性物質を付加するのに用いることができるものと考える。例えば、本発明者らは、機械的合金化の最後の数分間において触媒性粒子、例えば、触媒性鉄ナノ粒子を基本合金へ付加することにより、それらの粒子を基本合金の粒子表面に埋め込み得るものと信じる。次に、この粒状被覆された基本合金を焼結し、鉄粒子を複合材料全体に分布させることができる。最後に、本発明者らは、触媒性コーティングおよび分散した触媒性粒子のある種の組み合わせが本発明の複合材料に最良の形態であり得るものと理論上考える。
最初の90分の水素吸収量をAR003(52%Mg)、AR026(55%Mg)、AR030(58%Mg)、およびAR031(Mg61%)について記録し、図10にプロットした。観察された傾向は、マグネシウム含有率が増加するに従い、総貯蔵容量も増加するということである。しかしながら、高Mg含有率で金属−水素間結合力が増加するに従って吸収速度は低下する、したがって、水素化物形成元素(例えば、Mg)および変性剤(Ni、Co、等)の量の間のバランスが、これらの成分の適正な分布に加えて、一般的な材料性能に加えてに非常に重要である。
指標番号AR26の基本合金組成を有する材料の機械的合金化試料を、ヘプタンおよびグラファイト破砕助剤を用いる2時間破砕によって製造した。その基本合金を金属の拡張金網の基盤に圧入した後、100オングストロームのFeを両側に被覆した。その試料をPCT測定装置に入れ、200℃での水素吸収および脱離容量の両者をサイクル数の関数として測定した。200℃でのサイクル処理の結果を図11に示す。これは吸収および脱離容量対サイクル数をプロットするものである。このデータから、400サイクルの後、吸収容量は変化しない(2.8%)が、脱離容量は最大の2.6%から2.4%に僅かに低下したことがわかる。200℃のサイクル処理温度は実験の測定を早めるために選択されたものであり、試験される試料の有用な温度範囲の制限を意味するものではない。
上で言及したように、本発明の複合材料は非常に良好な低温反応速度を有する。 図12は、100オングストロームのパラジウムコーティングをその上に有するMg52Ni39Mn6Co3の基本合金組成を有する本発明の複合材料の30℃(記号○)および60℃(記号■)での吸収曲線を示す。水素吸収は120−150psiの圧力で生じた。これらの曲線から見てとれるように、この材料は比較的低い温度および圧力で非常に良好な反応速度(大部分の水素を数分足らずで吸収する)を有する。すなわち、この複合材料は、30℃で、3重量パーセントの水素を2分未満で、3.5重量パーセントの水素を10分未満で吸収することができる。これらは先行技術においてこれまで見られていない素晴らしい結果である。図13は図8と同じ合金の脱離曲線を示す。この図は、その合金が30℃で貯蔵された水素を数分足らずで脱離できることを示す。
図14および15は、それぞれ、図12および13の材料の30℃および50℃での水素の吸収および脱離のPCT曲線を表す。これらの図をよく見れば、水素吸収と脱離との間のヒステリシスが小さいことを示す。これは、組成範囲の中点でのPCTプロットの吸収および脱離曲線間の圧力差を比較することによってわかる。中点は最大水素貯蔵容量のほぼ半分の点である。
Mg含有率が42から62原子%まで変化する一連の組成物を調製した。これらの合金の幾つかについて200℃で測定されたPCTを図16にプロットする。このプロットは吸収および脱離プラトー圧を示す。プラトー圧ヒステリシスは、ラーベス相ベースのAB2、またはCaCu5構造AB5材料のような他の水素吸蔵材料と比較して大きい。図17は、吸収および脱離プラトー圧を図16の様々な複合材料の基本合金のMg含有率の関数としてプロットする。このプロットは、吸収−脱離ヒステリシスが最小化する55%周辺に最適なMのg含有率が存在することを示す。
溶融冷却に関する仕様に加えて、合金を溶融するるつぼの組成も重要である。図18は本発明の材料のX線回折グラフであり、グラファイトるつぼ(曲線CおよびD)の使用が如何に炭素汚染を合金材料中に導入するのかを特に示す。炭素は炭化物を形成し、これは機械的合金化によっては非晶質にすることができない。しかしながら、窒化ホウ素るつぼの使用は機械的合金化によって非晶質にすることができる汚染物を生成する(曲線AおよびBを参照)。炭素汚染物は「悪性」汚染物であり、それ故、複合材料の特性に不利な影響を及ぼし、それに対して窒化ホウ素は「良性」汚染物であり、水素吸蔵複合体の特性に悪影響を及ぼすことがない。炭素は合金に侵入して水素部位を占め、それ故、炭素汚染物の減少/排除は本発明で得られる貯蔵容量および反応速度を有する材料の製造を可能にする。
グラファイトおよびヘプタン破砕助剤の添加を伴い、または伴わない破砕によって調製された、AR003、AR026、およびAR031号の合金の組成を有する試料の磁化率を測定した。両法の場合において、破砕時間は2時間であった。磁化率の結果のデータをそれらの試料の遊離ニッケル含有パーセントの決定に用いた。試料の遊離ニッケル含有率を表IIに列挙する。グラファイトおよびヘプタン破砕助剤と共に破砕した試料はより高いパーセンテージの遊離ニッケルを示し、これはより多くの触媒性表面に寄与し、それにより水素吸収を助ける。
発明者らが最初に用いた破砕機の構成においては、アルゴンの過圧を摩砕機容器内に機械的合金化プロセス全体を通して維持した。少量のアルゴンが摩砕機の回転シャフトを保持する軸受け鍔から漏出した。本発明者らは、この漏出の結果として摩砕機への幾らかの空気が逆流していたと信じた。酸素汚染の可能性を減少する試みにおいて、本発明者らは摩砕機の周囲にグローブボックスを構築し、そのグローブボックスをアルゴン雰囲気で充填して摩砕機を保護した。グローブボックス保護を用いたものと、またそれを用いずに調製した試料の水素吸収を図19に示す。この保護を追加したことが機械的合金化材料の酸素汚染の減少に成功したことがわかる。酸素汚染の減少により総貯蔵容量が増加するだけではなく、貯蔵反応速度も高まった。これら2つの試料の表面反応およびバルク拡散定数を計算して表IIIに列挙する。バルク拡散定数は酸素汚染の減少で2倍に改善されたが、表面水素化反応速度は7倍も増加した。これは、処理中の酸素制御の重要性を明瞭に説明する。
本発明の基本合金粉末を作製するのに要する破砕時間を短縮し、それに付随する製造経費を減少させる試みにおいて、本発明者らは水素吸蔵合金のリボンの破壊に気流破砕技術を用いた。この技術はサイクロン型容器内に置かれた粗い粉末に衝突する高速気流を用い、粉末は互いに衝突し合うことによって粉砕され、その粉末をふるいを通して容器から収集した。衝突する気流の温度は、圧縮気流の膨張ため、環境温度より少なくとも5乃至10℃低い。そのようにして得られた粉末を気流試料と名づける。気流試料粉末の一部を摩砕機に供給し、ヘプタンおよびグラファイト破砕助剤と共に2時間破砕した。90℃でのPCT曲線を図20にプロットする。用いた空気中の酸素のため、水素容量の僅かな劣化が気流試料で観察される。本発明者らは、保護雰囲気、例えば、アルゴンまたは窒素が空気の代わりに用いられるならば、これらの結果が改善されるものと信じる。
酸素汚染による有害な可能性のある効果を、本発明の複合材料の表面の模式図を表す図21において説明する。粉末の処理、保存、または輸送の間に形成される表面酸化物は表面触媒による水素吸収を妨害する(図21における領域1)。それはまた、水素脱離の際に、表面での水素原子の水素分子への再結合も妨害する。影響を受ける第2の領域は(図21において領域2内に示される)粒子面内である。粒子面における酸素イオンの比較的大きいサイズおよび電子親和性は粒子界面領域におけるダングリングボンド結合によって水素拡散を停止させ、したがって、水素のバルク拡散を減少させる。脱離および吸収反応速度の両者は著しく低下する。酸素の第3の有害な効果はバルク領域におけるものであり、そこでは有用な水素貯蔵部位が負に帯電した酸素によって占領されるか、または妨害される。したがって、水素の可逆的貯蔵容量が減少する(図21における領域3)。
十分に考察されてはおらず、しかしながら非常に重要である本発明の別の一側面は、本発明の複合水素吸蔵材料の平衡圧力である。本発明の材料内への水素の吸収に用いられる圧力は150PSI未満である。大部分の水素は約50PSI未満で材料に吸収することができる。これと比較して、他の大部分の大容量Mgベース水素吸蔵材料の研究では1000−5000PSIの範囲の圧力を必要とする。この大幅に低下した圧力条件により、水素吸蔵床および類似のシステムのための構築材料に対する条件は大幅に緩和される。したがって、50−150PSIでは軽量で単純な構築材料を用いることができ(例えば、1/4インチステンレス鋼配管でなくゴム配管を用いることができる)、それに対して1000−5000PSIの範囲においてはより高価で斬新な材料を用いなければならない。本発明に関連するシステムおよび構築材料の経費および複雑性の低下はこの複合材料の付加利益である。
水素脱離に有利な寄与をすることが立証されている元素の1つは銀である。指標番号AR046の基本合金において2原子%の銀が部分的にニッケルの代わりに用いられたとき生じる合金(指標番号AR055)は、図22に示される2つのPCT曲線からわかるように、90℃で改良された水素脱離を示す。この試料は約0.003MPaの脱離プラトー圧を有していた。銀の比較的大きい原子サイズが多結晶性試料の無秩序化に大きく貢献し、吸収された水素を格子から除去され易くしているものと信じられる。
AR025材料の水素吸収速度を改善する試みにとして、少量の添加物(1.5乃至2wt。%)を加振粉砕法によって基本合金に添加した。これらの触媒候補には、Cr2O3、V2O5、Pd、RuO2・xH2O、PdO・xH2O、MgB2、LiBH4、およびFe3O4が含まれる。加振ミルは30分間作動させてAR026粉末と添加物との完全な混合を確実なものとした。生じた混合物を金属の拡張金網基盤に圧入し、気相反応器において試験した。各々の添加物についての水素吸収を時間の関数として(吸収速度)図23にプロットする。図23により、PdおよびRuO2・xH2Oの両者が大貯蔵容量を維持しながら水素吸収反応速度を著しく改善するものと結論することができる。PdO・xH2Oも吸収反応速度を改善するが、総貯蔵容量を僅かに低下する。
これらのMgベースの水素貯蔵複合材料の水素の気相貯蔵以外の別の有望な用途はニッケル金属水素化物電池(Ni−MH)にある。AR034を陰極とし、予備充電を部分的にしたNi(OH)2焼結電極を対電極として用いて、半電池試験装置を構成した。このシステムを100mA/gの割合で12時間充電した(総容量入力は1200mAh/gであった)。次に、そのシステムを放電させたところ第3サイクル後での総放電容量は692mAh/gであり、これは2.58%の気相水素可逆的貯蔵容量に等しい。したがって、この電気化学的測定は気相測定から観察された高い水素貯蔵能力を確証した。
本明細書の図面、考察、説明、および例は単に本発明の特定の実施態様を説明するものであり、その実施に対する制限としようとするものではない。本発明の範囲を定義するものは、すべての等価物を含めて、以下の請求の範囲である。
Claims (14)
- Mg−Niベースの合金と、
前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属のコーティングであって、ここに前記コーティングが約200オングストローム未満の厚みであるものと、
を含む水素吸蔵複合材料であって、
30℃で少なくとも3重量パーセントの水素を吸収し、かつ少なくとも1重量パーセントの水素を脱離することが可能である複合材料。 - 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングが約150オングストローム未満の厚みである、請求項1のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングが約100オングストローム未満の厚みである、請求項1のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングが、鉄、パラジウム、白金、イリジウム、金、およびそれらの混合物または合金からなる群より選択される少なくとも1種類の金属から形成される、請求項1のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングがパラジウムから形成される、請求項4のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングが鉄から形成される、請求項5のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金表面の少なくとも一部に被着されている触媒的に活性の金属の前記コーティングが鉄およびパラジウムの両者から形成される、請求項6のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金が40乃至65原子パーセントのマグネシウムおよび25乃至45原子パーセントのニッケルを有する、請求項1のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金が45乃至65原子パーセントのマグネシウムおよび30乃至40原子パーセントのニッケルを有する、請求項8のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金が1乃至10原子パーセントのマンガンおよび1乃至10原子パーセントのコバルトをさらに含む、請求項1のMg−Ni複合材料。
- 前記Mg−Niベースの合金が2乃至6原子パーセントのコバルトおよび3乃至8原子パーセントのマンガンを有する、請求項10のMg−Ni複合材料。
- Fe、Al、Zr、Zn、Cu、Ag、Cu、B、La、Ru、Re、Li、Cr、Pd、Si、V、Sr、ミッシュメタルおよびそれらの混合物または合金よりなる群からの少なくとも1種類の元素が前記合金に合計ですべてを包含した合金の約5原子パーセント未満の量で組み込まれ、かつ個々の元素の各々が前記合金に約3原子パーセント未満の量で組み込まれる、請求項10のMg−Ni複合材料。
- Mg−Niベースの合金と、
Mgに富む相およびNiに富む相の両者を含む微小構造を有する前記合金と、
を含む水素吸蔵合金であって、Mgに富む物質の外筒によって囲まれるNiに富む物質の内部芯を有するマイクロチューブをさらに含む水素吸蔵合金。 - 前記微小構造が、
望ましい組成の合金の溶融物を形成する工程と、
前記溶融物を冷却ローラー上に溶融冷却して溶融冷却合金リボンを形成する工程であって、前記溶融冷却の諸条件は前記溶融冷却合金リボンがMgに富む相およびNiに富む相を含む2相微小構造を有するように制御される工程と、
前記溶融冷却リボンを摩砕機内で、
1)前記溶融冷却リボンからの粉末を形成し、
2)前記マイクロチューブを形成し、更に
3)非晶質構造領域および微結晶領域の混合物を生成するのに
十分な時間破砕する工程と、
によって形成される、請求項13の水素吸蔵合金。
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