JP2007107029A - 鋼材及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】小寸法のドライブシャフト等を作製した場合においても、優れた強度や靱性等を確保することが可能で、しかも、切削性も良好な鋼材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】所定量のC、Si、Mn、S、Ti、Cr、Al、Bを含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、且つフェライトの占有面積率が30%以上、HRBが85〜95である鋼材に対し、高周波焼入れを施す。焼入れが施された後の鋼材の表面は、HVで640〜730を示す。また、HVで392を示す部位に至るまでの表面からの距離を有効硬化深さt、鋼材の半径をrとするとき、硬化層比率t/rは0.4以上である。
【選択図】図5

Description

本発明は、鋼材及びその製造方法に関し、一層詳細には、例えば、ドライブシャフトの素材として好適な鋼材及びその製造方法に関する。
自動車の走行機関を構成するドライブシャフトは、鋼材から作製されるのが一般的である。この種の鋼材には、切削加工等を施すことが比較的容易であることが要求される。その一方で、ドライブシャフトとしての耐久性を確保するべく、捩りトルクを付加した際に破断に至るせん断応力が高いこと、換言すれば、捩り強度が大きいことが必要である。このようなドライブシャフトを得るべく、鋼材として、例えば、JIS−S40C相当材が選定される。
ところで、近年における環境保護への関心の高まりに伴い、CO2やNOx等の排ガス量を低減するべく、自動車の燃費を向上させることが種々検討されている。この観点から、自動車の構成部材の寸法を小さくすることによって軽量化を図ることが試みられている。
同一鋼材から小寸法のドライブシャフトを作製すると、通常、強度等が低下してしまう。このため、小寸法のドライブシャフトを作製した場合であっても、十分な強度等を確保可能な鋼材が希求されている。
この希求に応えるべく、例えば、特許文献1には、構成元素の組成比、表面硬度、マルテンサイト率、硬化深さ比が所定の数値を満足する鋼材でドライブシャフトを構成することが提案されている。
また、特許文献2には、含有Cに対するフェライトの組織面積率、フェライトの結晶粒径が所定値以下である高周波焼入れ用鋼が開示されている。該特許文献2によれば、この高周波焼入れ用鋼は、ドライブシャフトの素材として好適である、とされている。
特開平10−36937号公報 特開2002−69566号公報
本発明は上記した技術に関連してなされたもので、部材が小寸法であっても該部材が優れた諸特性を示す鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明に係る鋼材は、質量%で、C:0.47〜0.52%、Si:0.03〜0.15%、Mn:0.6〜0.7%、S:0.005〜0.03%、Ti:0.025〜0.04%、Cr:0.05〜0.3%、Mo:0.04〜0.09%、Al:0.02〜0.04%、B:0.0005〜0.004%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、
表面のビッカース硬度が640〜730であり、
ビッカース硬度で392を示す部位に至るまでの表面からの距離を有効硬化深さt、半径をrとするとき、硬化層比率t/rが0.4以上であることを特徴とする。
硬度及び硬化層比率をこのように設定することにより、硬度及び強度が確保される。硬度が大きい物質は、概ね強度も大きくなるからである。また、硬度が過度に大きくないので靱性も確保され、脆性破壊を起こし難くなる。
しかも、上記した成分・組成比とすることにより、切削性に優れた鋼材とすることもできる。
この鋼材におけるNは、質量%で0.01%以下であることが好ましい。この場合、BNやTiNが生成し難い。従って、焼入れが阻害されることなく進行する一方、硬度が過度に上昇して加工性や切削性が低下することを回避することができる。
また、本発明は、表面のビッカース硬度が640〜730、表面からビッカース硬度で392を示す部位に至るまでの距離を有効硬化深さt、半径をrとするとき、t/rが0.4以上である鋼材の製造方法であって、
質量%で、C:0.47〜0.52%、Si:0.03〜0.15%、Mn:0.6〜0.7%、S:0.005〜0.03%、Ti:0.025〜0.04%、Cr:0.05〜0.3%、Al:0.02〜0.04%、B:0.0005〜0.004%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、フェライトの占有面積率が30%以上、Bスケールのロックウェル硬度が85〜95である原材料鋼に対し、高周波焼入れを施すことを特徴とする。
すなわち、上記した成分・組成比の原材料鋼に対して高周波焼入れを施すことにより、硬度及び強度に優れ、且つ切削性が良好な鋼材を得ることができる。
このような特性を示す鋼材を使用することにより、小寸法であっても強度に優れる部材を作製することが可能となる。この鋼材は、例えば、ドライブシャフトの素材として好適に採用することができる。
本発明によれば、成分、組成比、硬度、硬化層比率を設定して鋼材を構成するようにしている。これにより、強度、特に捩り強度に優れ、且つ切削性も良好な鋼材が得られる。
この鋼材は、切削性が良好であり、且つ組成変形能にも富むため、加工を施すことが極めて容易である。このような特性を示す鋼材を使用することにより、小寸法であっても強度に優れる部材を作製することが可能となる。また、靱性に優れるので、加工中に割れが生じ難い。
しかも、この鋼材は捩り強度が高いので、長尺な軸部材、例えば、ドライブシャフトの素材として好適である。
以下、本発明に係る鋼材及びその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は、ドライブシャフト10の長手方向に沿う全体概略側面図である。このドライブシャフト10は、長尺な中実体であり、図1中に参照符号12が付された測定部位の直径は、28mmである。
ここで、ドライブシャフト10の材質である鋼材は、鉄及び不可避的不純物の他、C、Si、Mn、S、Ti、Cr、Mo、Al、Bを含有する。
Cは、焼入れ・焼戻し処理を施した後のドライブシャフト10の強度や硬度等を確保するための成分であり、その組成比は0.47〜0.52%(数字は質量%、以下同じ)に設定される。0.47%未満であると、硬度を確保することが困難となる。また、0.52%よりも多いと、硬度が過度に上昇するので塑性変形加工や切削加工等を施すことが容易でなくなるとともに、脆性破壊を示すようになるので強度が低下する。特に、冷間加工における変形能が低減する。
Siは、ドライブシャフト10の脱酸に有用な元素であり、該ドライブシャフト10に0.03〜0.15%の割合で含まれる。0.03%未満では脱酸効果に乏しい。一方、0.15%を超えると、硬度が過度に上昇するので塑性変形加工や切削加工等を施すことが容易でなくなる。特に、冷間加工における変形能が低減する。
Mnは、ドライブシャフト10の高周波焼入れ性を向上させる。すなわち、Mnが存在することにより、ドライブシャフト10に対して高周波焼入れを行った場合、焼入れ前に比して硬度が顕著に上昇する。この効果を確実に得るべく、Mnの組成比は、0.6〜0.7%に設定される。0.7%を超えると、硬度が過度に上昇するので塑性変形加工や切削加工等を施すことが容易でなくなる。特に、冷間加工における変形能が低減する。
Sは、Mnとともにドライブシャフト10の組織中でMnSを形成し、これにより該ドライブシャフト10の切削性を向上させる成分である。Sの組成比は、0.005〜0.03%に設定される。0.005%未満では切削性を向上させることが困難であり、0.03%を超えると、特に冷間加工時の変形能が低減する。
Tiは、ドライブシャフト10中の遊離Nを捕捉する役割を果たす。このように遊離Nが捕捉された場合、後述するBの添加効果が一層顕著となる。なお、Tiの組成比は、0.025〜0.04%に設定される。0.025%未満では、遊離Nを捕捉する効果に乏しい。一方、0.04%を超えると、Tiが過剰に存在するようになるので、切削性、冷間加工時の変形能が低減する。
Crは、ドライブシャフト10の焼入れ性を向上させる成分である。換言すれば、Crが存在することにより、焼入れを行った後のドライブシャフト10の硬度が顕著に上昇する。Crの組成比は、0.05〜0.3%に設定される。0.05%未満では、この効果を得ることが困難となる。一方、0.3%を超えると、Crがセメンタイト中に濃縮するので、焼入れ時に炭素が鋼材に固溶することを妨げるようになる。
Moは、ドライブシャフト10の焼入れ後の粒界強度を向上させ、特に捩り強度を向上させるのに有用な元素である。Moの組成比は、0.04〜0.09%に設定される。0.04%未満では、粒界強度を向上させることが困難である。また、0.09%を超えると、硬度が過度に上昇するので塑性変形加工や切削加工等を施すことが容易でなくなる。特に、冷間加工時の変形能が低減する。
Bは、粒界強度を向上させる成分である。また、ドライブシャフト10の焼入れ性も向上する。この効果は、Nが過剰量存在する場合には低減する。Bと余剰のNとでBNが生成するからである。従って、上記したように、所定量のTiでNを捕捉することにより、この効果を確保する。
Bの組成比は、0.0005〜0.004%(5〜40ppm)に設定される。5ppm未満であると、粒界強度を向上させる効果に乏しい。また、40ppmを超えると、焼入れ性を低下させる。
Alは、Siと同様に脱酸に寄与する成分である。Alの組成比が0.02%未満では、脱酸効果が乏しい。また、Alが過剰に存在すると、Al23等の酸化物系不純物が増加し、その結果、疲労特性、塑性変形加工時の変形能が低下する。このため、Alの上限は、0.04%に設定される。
ここで、遊離Nがドライブシャフト10中に過剰に存在すると、上記したようにBと結合してBNが生成し、その結果、焼入れ性等が低下する。また、Tiと結合してTiNが生成した場合、硬度が過度に上昇して加工を施すことが困難となるとともに、靱性が低下する。このような事態を回避するべく、本実施の形態においては、ドライブシャフト10中に存在するNの組成比が0.01%以下に設定される。
また、ドライブシャフト10の組織を観察した場合、該組織中に存在するフェライトの占有面積率は、30%以上である。すなわち、全視野の面積を100%とした場合、フェライトは30%以上を占める。フェライトがこのような割合で存在することにより、焼入れ後のドライブシャフト10が優れた靱性を示す。
さらに、ドライブシャフト10の表面の硬度は、Bスケールのロックウェル硬度(HRB)で表すとき、85〜95である。表面の硬度をこの範囲に設定することにより、焼入れ・焼戻し処理後のドライブシャフト10の強度が確保される。
このドライブシャフト10は、例えば、上記の成分・組成比の鋼材からなる円柱体形状ワークに対し、旋削加工や転造加工等が施されることによって作製される。
次に、このドライブシャフト10に対し、焼入れ・焼戻し処理が施される。
本実施の形態において、焼入れとしては、高周波によって加熱が行われる高周波焼入れ法が採用される。すなわち、先ず、ドライブシャフト10の表面が高周波誘導電流によって急激に加熱され、その後、該表面に対して冷却液が噴射されることによって急冷が行われる。なお、焼入れ条件は、例えば、誘導電流の周波数及び出力を概ね1〜40kHz、50〜100kW程度とした場合、加熱時間を1〜5秒とすればよい。
次に、150℃〜200℃程度の温度範囲で、ドライブシャフト10に対して焼戻し処理を行う。これにより、ドライブシャフト10から残留応力が除去されるとともに、該ドライブシャフト10に経年変化が生じたり割れが発生したりすることが抑制されるようになる。
以上のようにして焼入れ・焼戻し処理が施されたドライブシャフト10の表面のビッカース硬度(HV)は、640〜730である。硬度が高い鋼材は概して強度も高く、また、この程度の硬度であれば、靱性が不十分となることもない。
また、該ドライブシャフト10では、半径方向、すなわち、表面から内部になるに従って、図2に示すように、硬度が低下する。本実施の形態においては、このようにドライブシャフト10の硬度を表面側から測定し、HVで392を示す部位までの距離(深さ)を有効硬化層深さtとする。なお、例えば、上記したように測定部位12の直径は28mmであるから、図2のグラフの横軸における14mmは、測定部位12における半径方向の中心を表す。
ドライブシャフト10の半径をrとするとき、有効硬化層深さtと半径rの比である硬化層比率t/rは、0.4以上である。0.4未満の場合、有効硬化層の厚みが十分ではなく、このため、ドライブシャフト10の捩り強度が小さくなる。
すなわち、表面のHVを640〜730、硬化層比率t/rを0.4以上とすることにより、強度及び靱性に優れるドライブシャフト10が得られる。
なお、上記した実施の形態では、鋼材としてドライブシャフト10を例示して説明したが、最終製品は特にこれに限定されず、その他のもの、例えば、等速ジョイントを構成するアウタ部材であってもよい。
真空溶解炉を使用して、図3に示す成分・組成比の鋼材のインゴットを作製した。次に、このインゴットを950℃に加熱し、熱間鍛造加工を行って直径27mmの円柱体形状ワークを作製した。なお、鍛造終了時の温度がAc3点〜880℃の間となるようにした。
そして、円柱体形状ワークに対して光学顕微鏡による観察を行い、フェライトの占有面積率を求めた。その一方で、表面からの深さ7〜8mm付近のHRBを測定した。
この円柱体形状ワークから、直径14mm×長さ21mmの小円柱体形状ワークを切り出した。その後、この小円柱体形状ワークに対して冷間加工温度域で据え込み成形を行い、割れが発生するまでの据え込み率を求めた。
また、前記円柱体形状ワークに対し、ST20E(住友電工社製の切削工具の商品名)を使用して、切削速度150m/分、切込量0.5mm、送り速度0.2mm/revの条件下で切削試験を行い、12分後のST20Eの摩耗量を測定した。
さらに、前記円柱体形状ワークから図1に示す形状のドライブシャフト10を作製し、このドライブシャフト10に対して様々な条件下で高周波焼入れ・焼戻し処理を施し、有効硬化層深さt及び硬化層比率t/rを種々変化させた。その後、各ドライブシャフト10に対して静捩り試験を実施した。
比較のため、図3に示す組成・成分比の鋼材についても同様の実験を行った。
以上の結果を図4に併せて示す。この図4から、成分、組成比、フェライトの占有面積率、硬度が設定された鋼材を使用することにより、変形能に優れ、切削性が良好であり、しかも、高い捩り強度を示すようになることが分かる。
ここで、各実施例に係る鋼材における硬化層比率t/rと、せん断応力との関係をグラフにして図5に示す。せん断応力が大きいほど、静捩り強度が大きいことを意味する。なお、図5中の破線は、S40C相当材における硬化層比率とせん断応力との関係を表わす。
図5から、各実施例に係る鋼材が、S40C相当材に比して静捩り強度が大きいことが明らかである。
本実施の形態に係る鋼材からなるドライブシャフトの長手方向に沿う全体概略側面図である。 図1のドライブシャフトにおける表面からの距離と硬度との関係を示すグラフである。 各鋼材の成分及び組成比を示す図表である。 図3に示す鋼材の諸特性を示す図表である。 各実施例に係る鋼材における硬化層比率r/tと、せん断応力との関係を示すグラフである。
符号の説明
10…ドライブシャフト

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.47〜0.52%、Si:0.03〜0.15%、Mn:0.6〜0.7%、S:0.005〜0.03%、Ti:0.025〜0.04%、Cr:0.05〜0.3%、Mo:0.04〜0.09%、Al:0.02〜0.04%、B:0.0005〜0.004%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、
    表面のビッカース硬度が640〜730であり、
    ビッカース硬度で392を示す部位に至るまでの表面からの距離を有効硬化深さt、半径をrとするとき、硬化層比率t/rが0.4以上であることを特徴とする鋼材。
  2. 請求項1記載の鋼材において、Nが質量%で0.01%以下であることを特徴とする鋼材。
  3. 表面のビッカース硬度が640〜730、表面からビッカース硬度で392を示す部位に至るまでの距離を有効硬化深さt、半径をrとするとき、t/rが0.4以上である鋼材の製造方法であって、
    質量%で、C:0.47〜0.52%、Si:0.03〜0.15%、Mn:0.6〜0.7%、S:0.005〜0.03%、Ti:0.025〜0.04%、Cr:0.05〜0.3%、Mo:0.04〜0.09%、Al:0.02〜0.04%、B:0.0005〜0.004%を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、フェライトの占有面積率が30%以上、Bスケールのロックウェル硬度が85〜95である原材料鋼に対し、高周波焼入れを施すことを特徴とする鋼材の製造方法。
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