JP2007099900A - アルブミンクラスター、アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター、およびそれを含有する人工酸素運搬体 - Google Patents

アルブミンクラスター、アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター、およびそれを含有する人工酸素運搬体 Download PDF

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Abstract

【課題】コロイド浸透圧を生理的条件に保ったまま高濃度の酸素輸送が可能で、しかも血中滞留時間の長い人工酸素運搬体を提供する。
【解決手段】中心となる1分子のアルブミン(コアアルブミン)に架橋剤を介し、1個または複数個のアルブミン(シェルアルブミン)が結合されたことを特徴とするアルブミンクラスター、およびそれに金属ポルフィリン錯体を包接させたことを特徴とするアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
【選択図】 なし

Description

本発明は、血清アルブミンを架橋剤を用いて共有結合により連結して得た構造明確なアルブミンクラスターと、それに金属ポルフィリン錯体を酸素吸脱着部位として包接させたアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター、およびそれを含有する人工酸素運搬体に関する。
ヘモグロビンやミオグロビンの活性中心である鉄(II)ポルフィリン錯体は、酸素分子を可逆的に吸脱着して、生命活動に必要不可欠な酸素運搬・貯蔵の役割を演じている。このような酸素吸脱着機能を合成金属ポルフィリン錯体を構築して再現しようとする研究は、従来から数多く報告されている。初期の研究例としては、非特許文献1、非特許文献2等が代表的であり、また最近の開発動向については、非特許文献3、非特許文献4等に記載されている。とりわけ酸素親和性を上げる作用を有するイミダゾリル基を分子内に共有結合させた鉄(II)ポルフィリン錯体は、そのイミダゾールが中心鉄(II)の第5配位座に分子内配位で強固に固定されるため、安定な酸素錯体が生成できることが知られている。この場合、ポルフィリン/イミダゾールのモル比が1/1の最小必要量に抑えられるため、薬理作用や体内毒性の高いイミダゾール誘導体を過剰に共存させる必要もなく、生体内投与を目指した応用を考えた場合、きわめて有利となる。本発明者らの研究グループもポルフィリン環の2位にイミダゾリル基を共有結合で導入した鉄(II)ポルフィリン錯体を合成し、酸素の可逆的吸脱着を報告している(非特許文献5)。しかし、有機溶媒(例えば、トルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド等)中で酸素錯体を形成できるこれら合成鉄(II)ポルフィリン錯体も、生理条件下(生理塩水溶液(pH7.4)中、室温ないし37℃)では、中心鉄(II)が瞬時に酸化されてしまうため、充分な酸素結合能を発揮することはできない。可逆的な酸素配位活性を発現できるのは、ポルフィリンの中心鉄が2価の状態にある時のみで、中心鉄が酸化し、鉄(III)となると、酸素配位活性は完全に失われてしまうのである。つまり、これらの金属ポルフィリン錯体を医療用途、例えば人工血液、臓器保存液、人工肺等のための酸素供給液に利用する場合には、水中でもプロトンによる中心鉄の不可逆酸化を防止し、酸素配位錯体を安定に保全する技術が不可欠なのである。
水溶液中で微視的な疎水環境を提供する材料としては、リン脂質からなる二分子膜小胞体が知られている。本発明者らのグループは、金属ポルフィリン錯体をリン脂質二分子膜の疎水環境へ包埋させると、水相系においても酸素錯体が安定に存在し、生理条件下で有効に作用する人工酸素運搬体が提供できることを報告している(例えば、非特許文献6等)。しかしながら、これらの人工酸素運搬体では、多量のリン脂質を使用するため、工業的規模での製造、また代謝を含む生体適合性の点で、なお改善の余地が残されていた。そこで本発明者らは、より生体適合性に優れたキャリアーとして、血漿タンパク質の50〜55%を占め、生体内で種々の化合物(薬物、代謝産物等)の運搬をつかさどる血清アルブミンに着目し、これが金属ポルフィリン錯体に優れた疎水環境を提供するばかりでなく、所定の金属ポルフィリン錯体を取り込ませて調製したアルブミン−金属ポルフィリン錯体包接化合物(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)が水中で安定な酸素配位錯体を形成し、人工酸素運搬体として機能することを見出した(特許文献1)。
しかし、血液中における生体内アルブミン濃度は約4〜5wt%であることが知られており、生体内投与を想定して、アルブミン−金属ポルフィリン錯体水溶液のアルブミン濃度を4〜5wt%に調整すると、酸素結合席である金属ポルフィリン錯体の濃度は最大でも6mMまでしか上げることはできない。この値はヒト血液のヘム濃度(9.2mM)の約60%にすぎない。勿論、アルブミン−金属ポルフィリン錯体の濃度を増大させれば、酸素結合部位である金属ポルフィリン錯体の濃度が上昇するので、水溶液中の酸素溶解量を増やすことはできるが、生体内アルブミン濃度の増大は、膠質浸透圧の上昇を誘発するため好ましくない。
他方、より長時間、アルブミン−金属ポルフィリン錯体を血流中に滞留させることができれば、酸素輸送機能の持続的発現が可能となり、実用に耐える人工酸素運搬体が提供できる。出血ショック時などの病態では、血管の物質透過性が上昇しているため、アルブミン−金属ポルフィリン錯体の血中滞留時間は正常時に比べ、減少する可能性もある。このような病態では、金属ポルフィリン錯体を包接していない形態のもの、すなわち酸素輸送能はなくとも、血中滞留性の高いアルブミンは、循環血液量を回復させ保持する有効な血漿増量剤として作用するものと期待される。その点から、アルブミンの血中滞留時間を延長させる分子設計が望まれていた。
例えば、高分子化したアルブミン重合体には、1分子当り多くのポルフィリン金属錯体が包接されると期待される。その種の化合物としては、アルブミンをグルタルアルデヒドで重合したアルブミンマイクロスフェアーや、アルブミンを超音波処理して得たマイクロバブルスが知られ(非特許文献7、非特許文献8)、超音波イメージング、造影剤、ドラッグキャリアー、人工血小板などの用途として使用されている。しかし、これらのアルブミン重合体では、構成単位となるアルブミン分子(モノマー)の特異な高次構造は重合過程で既に失われており、その分子結合能はアルブミン単量体に比べ大きく変化していると考えてよい。また、重合度が高いために分子径は4μm以上と大きく、血中へ投与した場合、短時間内に細網内皮系などへ捕捉されることが推測される。
以上のような背景から、構成単位であるアルブミンの立体構造を保持したまま、ポルフィリン金属錯体などに対する分子包接能を変化させることなく、2〜7量体程度に連結された構造明確なアルブミン多量体の設計と合成が待たれていたのが現状であった。
J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977) F. Basolo, B. M. Hoffman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975) Momentau et al., Chem. Rev., 110, 7690 (1994) J. P. Collman, Chem. Rev., 104, 561 (2004) E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1995, 747 (1995) E. Tsuchida et al., J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1984, 1147 (1984) T. Scotland, Biotechnol. Appl. Biochem. 18, 227 (1993) K. S. Suslick, Proc. Natl. Acad. Sci., 88, 7708 (1991) 特開平08−301873号公報
従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、1分子当りより多くの金属ポルフィリン錯体を酸素吸脱着部位として包接できる(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)多量体を合成し、コロイド浸透圧を生理的条件に保ちながら高濃度の酸素輸送が可能で、かつ血中滞留時間の長い人工酸素運搬体を提供することを目的とする。
本発明者らは、基本構成単位であるアルブミンの立体構造が保たれたアルブミン多量体(つまり個々のアルブミンの分子包接能は保持されるため、連結数に比例して分子包接数は増大する)の設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、中心となる1分子のアルブミン(コアアルブミン)に二官能性架橋剤を介し、1個または複数個のアルブミン(シェルアルブミン)を結合させることによりアルブミン多量体を調製すると、アルブミンが2〜7分子程度に結合されたアルブミン多量体が単離精製できることを見出した。アルブミンは、合計35個のシステインを有するが、その34個は計17対のジスルフィド結合を形成し、高次構造を保持するために役立っている。つまり、残り一つの34−システイン残基である活性チオール基をシェルアルブミンの結合位置として利用する方法により、1分子のコアアルブミンの周囲を複数のシェルアルブミンが取り囲む構造が確実に構築できるため、得られたアルブミン多量体はアルブミンクラスターともいえる。これらのアルブミンクラスターでは、1分子あたりの金属ポルフィリン錯体包接数がアルブミン単量体に比べ増大することを明らかにし、結果として高濃度酸素輸送に適した、さらに血中滞留性の高い新しい人工酸素運搬体が提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の側面によれば、中心となる1分子のアルブミン(コアアルブミン)に架橋剤を介し、1個または複数個のアルブミン(シェルアルブミン)が結合されたことを特徴とするアルブミンクラスターが提供される。
第2の側面によれば、前記アルブミンクラスターに金属ポルフィリン錯体を包接させたことを特徴とするアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターが提供される。
さらに、第3の側面によれば、アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターを含む人工酸素運搬体が提供される。
本発明のアルブミンクラスターは、基本構成単位であるアルブミンの高次構造が架橋により変化しないため、アルブミン自身の持つ分子包接能が保持されており、結果としてアルブミン分子数に比例した数の金属ポルフィリン錯体を包接できる特徴を持つ。つまり、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターを含有する人工酸素運搬体は、コロイド浸透圧を生理的条件に保ちながら、血液よりも多くの酸素を輸送することのできる人工酸素運搬体として提供できる。また、本発明のアルブミンクラスターおよびアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターはアルブミン単量体に比べ分子径が大きいので、血中半減期の長い、血流中に長時間滞留できる新しい血漿増量剤または人工酸素運搬体として提供できる。さらに、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターは、前記した人工酸素運搬体のほかにも、ガス吸着剤、酸素吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒等としても有用なものである。
本発明のアルブミンクラスターは、中心となる1分子のアルブミン(コアアルブミン)に二官能性架橋剤を介して1個または複数個のアルブミン(シェルアルブミン)が結合されたアルブミン多量体であり、アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターは、前記したアルブミンクラスターに金属ポルフィリン錯体を包接させた複合体である。好ましくは、シェルアルブミンにおける架橋剤との結合部位がシステイン34であり、コアアルブミンにおける架橋剤との結合部位がリジンで構成される。
架橋に利用される二官能性架橋剤は、上記式[I]または[II]で示されるものがよい。
Figure 2007099900
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式[I]において、R1は置換基を有してもよい炭化水素基である。そのような炭化水素基の例を挙げると、C1〜C12アルキレン基、アミド基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−NH−C(=O)−基が介在したアルキレン基)、エステル基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−OC(=O)−基が介在したアルキレン基)、エーテル基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−O−基が介在したアルキレン基)、シクロヘキシレン基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間にシクロヘキシレン基が介在したアルキレン基)、フェニレン基を含むC1〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間にフェニレン基が介在したアルキレン基)等である。
式[II]において、R2は置換基を有してもよい炭化水素基である。そのような炭化水素基の例を挙げると、C1〜C12アルキレン基、アミド基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−NH−C(=O)−基が介在したアルキレン基)、エステル基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−OC(=O)−基が介在したアルキレン基)、エーテル基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間に−O−基が介在したアルキレン基)、シクロヘキシレン基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間にシクロヘキシレン基が介在したアルキレン基)、フェニレン基を含むC2〜C12アルキレン基(すなわち、隣接する2つの炭素原子の間にフェニレン基が介在したアルキレン基)等である。
包接されるポルフィリン金属錯体は、上記式[III]、[IV]、[V]または[VI]で示されるものがよい。
Figure 2007099900
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式[III]で示されるポルフィリン金属錯体は、特開平6−271577号公報および特開2003−40893号公報に記載されている。式[III]において、R3は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R3が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’−CONH−)、アルキルエステル基(R’−OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここでR’で表されるアルキル基としてはC1〜C6のアルキル基が好ましい。
式[III]において、R4はアルキレン基、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
式[III]において、R5はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR5の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
式[IV]で示されるポルフィリン金属錯体は、特開2002−128781号公報に記載されている。式[IV]において、R6は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R6が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’−CONH−)、アルキルエステル基(R’−OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここでR’で表されるアルキル基としてはC1〜C6のアルキル基が好ましい。
式[IV]において、R4はアルキレン基、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
式[IV]において、R5はアルキル基、好ましくはC1〜C10アルキル基である。
式[IV]において、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
式[V]で示されるポルフィリン金属錯体は、特願2004−190189号明細書に開示されている。式[V]において、R9は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R9が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’−CONH−)、アルキルエステル基(R’−OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここでR’で表されるアルキル基としてはC1〜C6のアルキル基が好ましい。
式[V]において、R10はアルキレン基、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
式[V]において、R11はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基、好ましくは水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
式[V]で示される金属ポルフィリンは、例えば、次のようにして合成することができる。メソ−テトラキス(o−アミノフェニル)ポルフィリンを適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフランなど)に溶解し、そこにトリチルブロマイドおよびトリエチルアミンを加え、さらに10分〜1時間撹拌後、溶媒を減圧除去する。得られたポルフィリンのトルエン溶液を活性アルミナおよびヘプタンの入った容器に加え、90℃、遮光下にて12〜24時間撹拌する。ガラスフィルターでアルミナを濾別し、シリカゲルカラムによりメソ−トリ(α,α,α−o−アミノフェニル)−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを分画精製する。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を式R9COCl(ここで、R9は、上記定義の通り)で示される酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。溶媒を減圧除去後、クロロホルム、水を添加、水層をクロロホルムで洗浄後、有機層を回収し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、メソ−トリ(α,α,α−o−(置換アミド))−β−o−(N−トリフェニルメチル)アミノフェニルポルフィリンを固体として得る。得られたポルフィリンと適当な塩基(ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等)を適当な有機溶媒(例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン等)に溶解した溶液を下記一般式[VII]で示されるω−イミダゾリルカルボン酸(一般式[VII]において、R10〜R11は、上記定義の通り)の酸クロライドに滴下し、窒素雰囲気下、室温で2〜15時間撹拌する。
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ついで、溶媒を減圧除去後、クロロホルム層を水洗し、溶媒を減圧除去する。得られた残渣をシリカゲルカラムで分画精製し、真空乾燥することで、式[V]で示されるポルフィリン化合物を得ることができる。
こうして得られたポルフィリン化合物への中心金属導入は、例えばD. Dolphin編、The Porphyrin、1978年、アカデミック・プレス社などに記載の一般法により達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。
式[VI]で示されるポルフィリン金属錯体は、上記特許文献1(特開平08−301873号公報)に記載されている。式[VI]において、R12は炭化水素基である。R12は水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、アセチル基が好ましい。
式[VI]において、R13はアルキル基であり、好ましくはC1〜C10アルキル基である。
式[VI]において、R14はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
式[VI]において、R15はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基である。かかるR15の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。X-は塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンを示し、X-の個数nは前記遷移金属イオンMの価数から2を差し引いた数である。
本発明の金属ポルフィリン錯体を包接したアルブミンは、金属ポルフィリン錯体の結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入した組換えアルブミンに、金属ポルフィリン錯体を軸配位させて得た組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体であってもよい。このような組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体は、特表2002−500862号公報に記載されている。導入されるアミノ酸はヒスチジンが好ましく、導入位置はサブドメインIBが好ましい。この場合の金属ポルフィリン錯体は、軸塩基配位子を分子内に持っていない金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジホルミルポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリンが好ましい。
本発明のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターにおいて、中心遷移金属イオンMは好ましくは、FeまたはCoである。Feの原子価は+2価または+3価であり得、Coの原子価は+2価であり得る。
また、本発明のアルブミンクラスターおよびアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターにおいて、アルブミンはヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミンが好ましい。
上記したアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターは、酸素を可逆的に結合できるので、人工酸素運搬体としての機能を発現することはもちろん、一分子当りに多くの金属ポルフィリン錯体を包接できる特徴を持つ。つまり、体内に投与した場合、コロイド浸透圧を生理条件に保ちながら、血液よりも多くの酸素を輸送することが期待される。さらに、分子径が大きいので、より長い血中滞留時間も期待できる。
工酸素運搬体の適応は、出血ショックの蘇生液(輸血用血液の血液代替物)のほか、術前血液希釈液、人工心肺等体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位への酸素供給液(心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)、慢性貧血治療剤、液体換気の環流液、癌治療用増感剤、再生組織細胞の培養液、さらに、稀少血液型患者への利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用、が期待されている。
加えて、金属ポルフィリン錯体の中心金属が例えば第4〜5周期に属する金属イオンである場合、酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高い。従って、本発明のアルブミン−金属錯体クラスターは、人工酸素運搬体のほか、ガス吸着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴を持つ。
本発明のアルブミンクラスターおよびアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターの製造方法に制限はないが、例えば次の方法により合成される。
0.1〜25wt%、好ましくは1〜10wt%のアルブミン(1〜25mL)のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、pH7.4)に、α−スクシンイミジル−ω−ピリジルジチオ型架橋剤、例えばN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(SPDPH)のエタノール溶液を撹拌しながら添加し(SPDPH/アルブミン=10(モル/モル))、室温で、10〜60分、好ましくは20〜30分間反応させた。限外濾過装置(ADVANTEC UHP-76K)と分画分子量5kDaの膜(ADVANTEC Q0500 076E)を用いて未反応のSPDPHを除去し、6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートアルブミン(PDPH−アルブミン)(コアアルブミンとなる)溶液を得る。アルブミン濃度の定量は、一般法であるブロモクレゾールグリーン法(和光純薬社製、アルブミンテストワコー)により行い、[PDPH−アルブミン]が1〜10wt%であることが確認される。
ピリジルジチオ基の導入数は、ジチオスレイトール(DTT)を用いてジスルフィド結合を還元し、遊離した2−チオピリジノン(ε343=8.1×103-1cm-1)の定量から決定することができる。例えば、PDPH−アルブミンのPBS溶液([アルブミン]=30μM)3mLに、アルブミンに対して5〜50倍モル、好ましくは10〜25倍モルのDTTを添加、よく混合した後、1〜30分静置してから、190〜700nmの範囲において紫外可視吸収スペクトル測定を行う。343nmの吸光度から、溶液中のピリジルジチオ基の濃度を算出し、アルブミン1分子当たりのピリジルジチオ基数に換算する。
他方、0.1〜25wt%、好ましくは1〜10wt%のアルブミン(1〜25mL)のリン酸緩衝水溶液(PB,10mM、pH7.0)に1M DTT水溶液(DTT/アルブミン=1〜10、好ましくは2〜4)を添加し、よく振とうし、室温で10〜60分、好ましくは20〜40分静置する。その後、限外濾過装置を用いてアルブミンに添加したDTTを除去する。アルブミン溶液をPB(10mM、pH7.0)で充分洗浄した後、濃縮し、還元型アルブミン溶液を得た。アルブミン濃度の定量は、ブロモクレゾールグリーン法により行い、[還元型アルブミン]が1〜10wt%であることを確認する。
PDPH−アルブミン水溶液に、還元型アルブミン水溶液を添加し、室温で10〜30時間、好ましくは15〜25時間反応させる。反応溶液のNative-PAGE電気泳動には独立した複数のバンドが現れ、分子量マーカーとの比較から、アルブミン多量体の生成が確認できる。HPLC測定(昭和電工、Shodex Protein KW-803、流速1.0mL/分、移動相:PBS)でも、アルブミン多量体成分に基づく幅広いピークが観測されるので、その生成が確認できる。また、この溶出曲線をピークフィッティングすると各成分に相当したピークに分離され、電気泳動の結果と一致する。
各成分をゲルカラムクロマトグラフィー(Pharmacia社製、Superdex 200pg、分画分子量:10〜600kDa、5cmφ×40cm)で精製し、単離した各成分を再度HPLC測定すると、不純物を含まない単一物質であることがわかる。
精製したアルブミン多量体の分子量をマトリックス支援レーザー脱離イオン化法−質量分析(MALDI−TOFMS)(島津製作所、AXIMA-CFR Kompact MALDI)を用いて測定すると、実測分子量が計算分子量と同等であることがわかり、アルブミン多量体が単離されたことが明確となる。
アルブミンクラスターのCDスペクトルは、208、222nmに極小値を持つ負のスペクトルパターンを示し、208、222nmにおけるモル楕円率([θ]208=1.9×104、[θ]222=1.8×104(deg cm2 dmol-1))はアルブミン単量体の値と一致する。また、等電点(4.8)もアルブミン単量体の値と同等となる。これらの結果は、アルブミンクラスターを構成するアルブミンの二次構造や表面電荷が、クラスター形成後も変化していないことを示すことになる。
アルブミン多量体の透過型電子顕微鏡観察から、アルブミンクラスターの形態がわかる。
このようにして得られたアルブミンクラスターに特開2003−40893号公報に記載の方法により合成された、例えば2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体を包接させる(アルブミン濃度:0.05〜10wt%、好ましくは0.1〜5.0wt%、鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:1〜100(モル/モル)、好ましくは4〜65)。
アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターの鉄イオン濃度は、誘導プラズマ発光分析(ICP、セイコーインスツルメンツ製SPS 7000A)を用いて測定する。得られた濃度は、鉄ポルフィリン錯体濃度の指標とできるので、一分子のアルブミンクラスターに何分子の鉄ポルフィリン錯体が包接されているかがわかる。
アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターは、いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これらの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に繰り返し行うことができ、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として作用する。
酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる(例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素等)。これらの理由から、本発明の金属ポルフィリン錯体は、特に鉄(II)またはコバルト(II)錯体の場合、有効な人工酸素運搬体として機能することはもちろん、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス吸着剤としての応用が可能となる。
放射性原子で標識したアルブミンクラスター、例えばヨウ素125で標識したアルブミンクラスター水溶液を麻酔下のウイスターラットに尾静脈から投与し、その後の経時的採血から血漿中に含まれるアルブミンクラスターの濃度を定量すると、その血中滞留時間を測定できる。アルブミンクラスターの血中半減期は5〜8時間であり、これは同条件で測定したアルブミン単量体に比べて2〜4倍に延長していることになる。
以下、この発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明が実施例のものに限定されないことは、いうまでもないことである。
例1
ヒト血清アルブミンのPBS溶液(5wt%、2.0mL)にN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエート(SPDPH)のエタノール溶液(20mM、0.75mL)を撹拌しながら添加し(SPDPH/アルブミン=10(モル/モル))、室温で20分間、ゆっくりと攪拌する。限外濾過装置(ADVANTEC UHP-76K)と分画分子量50kDaの膜(ADVANTEC Q0500 076E)を用いて、濃縮とPBSによる希釈を繰り返し、未反応のSPDPHを除去、最終的には、6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートアルブミン(PDPH−アルブミン、5.15wt%、2mL)(コアアルブミンとなる)溶液を得た。アルブミン濃度の定量は、一般法であるブロモクレゾールグリーン法(和光純薬社製、アルブミンテストワコー)により行った。
ピリジルジチオ基の導入数は、DTTを用いてジスルフィド結合を還元することにより遊離した2−チオピリジノン(ε343=8.1×10-1cm-1)の定量から決定した。PDPH-アルブミンのPBS溶液([アルブミン]=30μM)3mLに、アルブミンに対して15倍モルのDTTを添加し、よく混合した後、10分静置してから、190〜700nmの範囲において紫外可視吸収スペクトル測定を行い、343nmの吸光度から、溶液中のピリジルジチオ基の濃度を算出した。アルブミン1分子当たり8.6本のPDPH鎖が導入されていることを明らかにした。
他方、ヒト血清アルブミンのリン酸緩衝水溶液(PB、10mM、pH7.0)(5wt%、20mL)に1MのDTT水溶液56μL(DTT/アルブミン=3)を添加し、よく振とうさせ、室温で30分静置した。その後、限外濾過装置を用いて上記と同様な方法で、アルブミンに添加したDTTを除去した。最終的には13mLに定量し、還元型アルブミンを得た([還元型アルブミン濃度]=7.8wt%)。
このようにして得た、還元型アルブミン水溶液をPDPH−アルブミンに添加し、室温で20時間ゆっくりと攪拌した。反応溶液のNative-PAGE電気泳動には6つの独立した明確なバンドが現れ、分子量マーカーとの比較から、アルブミン二、三、四、五、六量体が形成されていることがわかった。HPLC測定(昭和電工、Shodex Protein KW-803、流速1.0mL/分、移動相:PBS)でも、6.5〜8.5分にアルブミン多量体成分に基づく幅広いピークが観測され、この溶出曲線をピークフィッティングしたところ、6つの明確なピーク(1〜6)に分離でき、電気泳動の結果と一致した。
アルブミン多量体各成分をゲルカラムクロマトグラフィー(Pharmacia社製、Superdex 200pg、分画分子量:10〜600kDa、5cmφ×40cm)を用いて分離した。精製した各成分のHPLC測定を再度行い、各成分が単ピークであることを確認した。
精製したアルブミンクラスターについて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法−質量分析(MALDI−TOFMS)(島津製作所、AXIMA-CFR Kompact MALDI)により分子量の測定を行うと、実測分子量が計算分子量と同等で、アルブミン多量体が単離できたことが実証された。例えば、アルブミン三量体の分子量(実測値:200,469、計算値:201,614)、アルブミン四量体の分子量(実測値:266,538、計算値:267,953)であった。
アルブミンクラスターのCDスペクトルは、208、222nmに極小値を持つ負のスペクトルパターンを示し、208、222nmにおけるモル楕円率([θ]208=1.9×104、[θ]222=1.8×104(deg cm2 dmol-1))はアルブミン単量体の値と一致した。また、等電点(4.8)もアルブミン単量体の値と同一となった。これらの結果から、アルブミンクラスターの構成単位であるアルブミンの二次構造や表面電荷は、クラスター形成後も変化していないことが明らかとなった。
透過型電子顕微鏡観察から、アルブミン四量体は均一な粒径約20nmの球状粒子構造であることがわかった。
例2
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、N−スクシンイミジル−12−(2−ピリジルジチオ)オクタデカノエートを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から7量体が形成された。
例3
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、4−スクシンイミジルオキシカルボニル−メチル−α(2−ピリジルジチオ)トルエンを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から5量体が形成された。
例4
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、N−(β−マレイミドプロピルオキシ)スクシンイミドエステルを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から4量体が形成された。
例5
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレートを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から7量体が形成された。
例6
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシ−6−アミドカプロエートを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から6量体が形成された。
例7
例1で使用したN−スクシンイミジル−6−[3’−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ヘキサノエートの代わりに、スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)オクチレートを用いた以外は全く同様な方法に従って、アルブミンクラスターを得た。アルブミン2量体から6量体が形成された。
例8
例1で調製したアルブミン4量体のPBS溶液(5.625μM、6mL)に、特開2003−40893号公報に記載の方法により合成された、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体のエタノール溶液(638μM、1.8mL)を一酸化炭素雰囲気下で加え(鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:34(モル/モル))、充分に混合した後、透析によりエタノールを除去し、(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)四量体溶液を得た。
アルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターのアルブミン濃度の定量は、ブロモクレゾールグリーン法により行い、鉄ポルフィリン錯体濃度(鉄イオン濃度)の定量は、誘導プラズマ発光分析(ICP、セイコーインスツルメンツ製SPS 7000A)を用いて実施した。得られた各濃度の比率から、アルブミン四量体には31.6個の鉄ポルフィリン錯体が包接されていることがわかった。アルブミン単量体1分子当りの鉄ポルフィリン包接数は、最大約8であることから(特開2003−40893号公報)、アルブミンクラスターにおける構成アルブミン単位当りの鉄ポルフィリン錯体包接数は、クラスター形成後も変化ないことが明らかとなった。
また(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)四量体のCDスペクトル測定(日本分光社製、JASCO J-725)を行い、そのCDスペクトルパターンが鉄ポルフィリン錯体を包接していないアルブミン四量体のものと一致することを明らかにした。等電点も4.8で、アルブミン単量体の値と同等であった。これらの結果は、鉄ポルフィリン錯体を包接した後も、アルブミンクラスターを構成する個々のアルブミンの二次構造や表面電荷は変化していないことを示している。
例9
例8において、例1で調製したアルブミン四量体の代わりに例2で調製したアルブミン三量体(5.625μM、6mL)を、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体の代わりに、特開2003−40893号公報に記載の方法により合成された、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−アダマンタンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体のエタノール溶液(488μM、1.8mL)を鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:26(モル/モル)の割合で混合した以外は、全く同様な方法に従って、(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)三量体を得た。アルブミン三量体1分子に包接されている、鉄ポルフィリン錯体の数は、24.2であった。
また、CDスペクトルパターンと等電点(4.8)は、鉄ポルフィリン錯体を包接した後も変化なく、アルブミンクラスターを構成する個々のアルブミンの二次構造や表面電荷に変化がないことがわかった。
例10
例8において、例1で調製したアルブミン四量体の代わりに例3で調製したアルブミン4量体(5.625μM、6mL)を、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体の代わりに、特願2004−190189号明細書に開示されている方法により合成された、5,10,15−トリス(α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)−20−モノ(β−O−(6−(2−メチルイミダゾリル)ヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体のエタノール溶液(638μM、1.8mL)を鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:34(モル/モル)の割合で混合した以外は、全く同様な方法に従って、(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)四量体を得た。アルブミン四量体1分子に包接されている、鉄ポルフィリン錯体の数は、32.7であった。
また、CDスペクトルパターンと等電点(4.8)は、鉄ポルフィリン錯体を包接した後も変化なく、アルブミンクラスターを構成する個々のアルブミンの二次構造や表面電荷に変化がないことがわかった。
例11
例8において、例1で調製したアルブミン四量体の代わりに例1で調製したアルブミン3量体(5.625μM、6mL)を、2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−O−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体の代わりに、特願2004−190189号明細書に開示されている方法により合成された、5,10,15−トリス(α,α,α−O−(1−アダマンタンアミド)フェニル)−20−モノ(β−O−(6−(2−メチルイミダゾリル)ヘキサンアミド)フェニル)ポルフィナト鉄(II)(一酸化炭素)錯体のエタノール溶液(488μM、1.8mL)を鉄(II)ポルフィリン/アルブミン:27(モル/モル)の割合で混合した以外は、全く同様な方法に従って、(アルブミン−金属ポルフィリン錯体)三量体を得た。アルブミン三量体1分子に包接されている、鉄ポルフィリン錯体の数は、24.4であった。
また、CDスペクトルパターンと等電点(4.8)は、鉄ポルフィリン錯体を包接した後も変化なく、アルブミンクラスターを構成する個々のアルブミンの二次構造や表面電荷に変化がないことがわかった。
例12
例1で調製したアルブミン四量体をヨウ素125(125I)で放射化ラベルし、得られた125I−アルブミン四量体(比放射能:18.5MBq/mL(24.3MBq/mg)、0.13wt%、180μL)を非標識のアルブミン四量体(400μL)で希釈して、投与液を調製(0.247wt%、5.74MBq/mL)した。ジエチルエーテル麻酔下のラット(体重:約300g、雄)に尾静脈から試料を1mg/kgで注入した。投与後、3分〜72時間に、ジエチルエーテル麻酔下、尾静脈より採血を行い、ヘパリンリチウムコーティング微量採血管に入れ、遠心分離後、血漿30μLをヘマトクリット管で採取した。放射能はガンマーカウンターを用いて測定した。125Iで標識したアルブミン四量体の血中消失半減期(τ1/2)は5.5時間であり、アルブミン単量体(2.3時間)に比べ、2.4倍に延長した。
例13
例8で調製した(アルブミン−鉄ポルフィリン錯体)四量体(一酸化炭素錯体)水溶液(4mL)を1cm石英製分光用セルに入れ、氷水浴で冷やしながら、酸素を通気(フロー)しながら、ハロゲンランプ(500W)を用いて光照射した(10分間)。その後、得られた水溶液の紫外可視吸収スペクトル測定を行った。酸素錯体の形成を確認後、窒素を通気して、脱酸素を行いデオキシ体を調製した。(アルブミン−鉄(II)ポルフィリン錯体)四量体の窒素雰囲気下における吸収スペクトルは、λmaxが444、539、565nmであり、包接されている鉄(II)ポルフィリン錯体は分子内軸塩基が1つ配位した鉄(II)高スピン5配位錯体を形成していることがわかった。この分散液に酸素を通気すると、その可視吸収スペクトルのλmaxは426、549nmへ移行し、これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この酸素化錯体溶液に窒素ガスを1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素化型スペクトルからデオキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆的に生起することを確認した。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができた。

Claims (28)

  1. 中心となるアルブミン(コアアルブミン)に架橋剤を介し、1個または複数個のアルブミン(シェルアルブミン)が共有結合されたアルブミン多量体、すなわちアルブミンクラスター。
  2. コアアルブミンにおける架橋剤の結合部位がリジンである請求項1記載のアルブミンクラスター。
  3. シェルアルブミンにおける架橋剤の結合位置がシステイン34である請求項1または請求項2記載のアルブミンクラスター。
  4. 架橋剤とコアアルブミンとの結合様式がアミド結合、架橋剤とシェルアルブミンとの結合様式がジスルフィド結合またはスルフィド結合である請求項3記載のアルブミンクラスター。
  5. シェルアルブミンの数が1〜6である請求項4記載のアルブミンクラスター。
  6. アルブミンがヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミンである請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルブミンクラスター。
  7. コアアルブミンとシェルアルブミンを連結する二官能性架橋剤が、一般式[I]
    Figure 2007099900
    (ここで、R1は置換基を有してもよい炭化水素基)で示されることを特徴とする請求項6に記載のアルブミンクラスター。
  8. 前記二官能性架橋剤のR1がC1〜C12アルキレン基、アミド基を含むC2〜C12アルキレン基、エステル基を含むC2〜C12アルキレン基、エーテル基を含むC2〜C12アルキレン基、シクロヘキシレン基を含むC2〜C12アルキレン基、またはフェニレン基を含むC2〜C12アルキレン基であることを特徴とする請求項7に記載のアルブミンクラスター。
  9. コアアルブミンとシェルアルブミンを連結する二官能性架橋剤が、一般式[II]
    Figure 2007099900
    (ここで、R1は置換基を有してもよい炭化水素基)で示されることを特徴とする請求項6に記載のアルブミンクラスター。
  10. 前記二官能性架橋剤のR2がC1〜C12アルキレン基、アミド基を含むC2〜C12アルキレン基、エステル基を含むC2〜C12アルキレン基、エーテル基を含むC2〜C12アルキレン基、シクロヘキシレン基を含むC2〜C12アルキレン基、またはフェニレン基を含むC2〜C12アルキレン基であることを特徴とする請求項9に記載のアルブミンクラスター。
  11. 請求項6〜10のいずれか1項に記載のアルブミンクラスターを有効成分とする人工血漿増量剤。
  12. 請求項6〜10のいずれか1項に記載のアルブミンクラスターに、金属ポルフィリン錯体を包接させて得たアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  13. 前記金属ポルフィリン錯体が、一般式[III]
    Figure 2007099900
    (ここで、R3は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R4はアルキレン基、R5はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項12に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  14. 前記金属ポルフィリン錯体のR3が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R4がC1〜C10アルキレン基であり、R5が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示されることを特徴とする請求項13に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  15. 前記金属ポルフィリン錯体のR3が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項14に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  16. 前記金属ポルフィリン錯体が、一般式[IV]
    Figure 2007099900
    (ここで、R6は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R7はアルキレン基、R8はアルキル基、Mは中心遷移金属イオン(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン))で示される金属ポルフィリン錯体で示されることを特徴とする請求項12に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  17. 6が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R7がC1〜C6アルキレン基であり、R8がC1〜C6アルキル基であることを特徴とする請求項16に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  18. 前記金属ポルフィリン錯体のR6が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項17に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  19. 前記金属ポルフィリン錯体が、一般式[V]
    Figure 2007099900
    (ここで、R9は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R10はアルキレン基、R11はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項12に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  20. 9が1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R10がC1〜C10アルキレン基であり、R11が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基で示される請求項19に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  21. 9が1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基であることを特徴とする請求項20に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  22. 前記金属ポルフィリン錯体が、一般式[VI]
    Figure 2007099900
    (ここで、R12は炭化水素基、R13はアルキル基、R14はアルキレン基、R15はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンM(周期律表第4〜5周期の遷移金属イオン)への配位を許容する基)で示されることを特徴とする請求項12に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  23. 前記金属ポルフィリン錯体のR12が水素原子、ビニル基、エチル基、ホルミル基、もしくはアセチル基であり、R13がC1〜C10アルキル基であり、R14がC1〜C10アルキレン基でありR15が水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基であることを特徴とする請求項22に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  24. 血清アルブミンが、金属ポルフィリンの結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入された組換えヒト血清アルブミンであり、金属ポルフィリン錯体を軸配位結合させることにより固定させたことを特徴とする請求項12に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  25. 金属ポルフィリン錯体のMがFeまたはCoであることを特徴とする請求項12、15、18、21、23、24いずれか1項に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  26. Feの価数が+2価または+3価である請求項25記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  27. Coの価数が+2価である請求項25に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスター。
  28. 請求項26〜27いずれか1項に記載のアルブミン−金属ポルフィリン錯体クラスターを有効成分とする人工酸素運搬体。
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