本発明は、酸化物ガラスおよびこれを用いたディスプレイパネルに関する。
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、液晶表示装置(LCD)、セラミック積層デバイス、混成集積回路等の表示装置や集積回路には、表面に電極または配線を有する基板が用いられている。基板表面の電極等は、絶縁性ガラス材料で被覆して保護することが行われている。PDPを例に挙げて具体的に説明する。
一般的なPDPは、2枚の対向するガラス基板に、規則的に配列した一対の電極を設け、両電極間にNe、Xe等の不活性ガスを含む放電ガスを封入した構造になっている。両電極間に電圧を印加し、電極周辺の微小なセル内で放電を発生させることにより、各セルを発光させて表示を行なうことができる。例えば、AC型PDPの前面板となるガラス基板は、背面側の主面上に透明電極を形成し、その透明電極の上に金属電極を形成した構造を有する。さらに、透明電極と金属電極とによる複合電極を覆うように誘電体層を形成し、その誘電体層の上に保護層を形成する。
通常、金属電極の材料には、Ag、CuおよびAlからなる低抵抗率金属群より選ばれる1種を使用する。金属電極を形成する方法としては、薄膜法および厚膜法がある。薄膜法では、CuまたはAlを用い、下地の透明電極との密着性および耐酸化性を改善するために、Cr/Cu/CrまたはCr/Al/Crのように異種金属材料の積層構造で電極を構成するのが一般的である。
一方、厚膜法では、AgまたはCu、特に耐酸化性に優れたAgを含有する厚膜導体ペーストを用いて金属電極を形成する。印刷法によって厚膜導体ペーストを電極形状にパターニングした後、ガラス基板ごと厚膜導体ペーストを焼成することにより、所望の金属電極を形成することができる。このような方法によると、真空装置が不用、かつ最少1回の処理でパターン加工ができるので、低コストになるという特徴があり、広く検討されている。
金属電極を覆う誘電体層は、通常、低軟化温度のガラスで形成する。具体的には、ガラス粉末を含むペーストを印刷法またはダイコート法によって電極上に塗工した後、塗工したガラスペーストをガラス基板ごと焼成することによって誘電体層を形成する。
したがって、ガラス基板上に形成する誘電体層用ガラスには、次のような特性が要求される。
(1)絶縁性であること。
(2)ガラス基板の反り、誘電体層の剥離やクラックを防止するために、熱膨脹係数がガラス基板の熱膨張係数に近いこと(ガラス基板よりもある程度小さいことが望ましい)。
(3)ガラス基板がPDPの前面板の場合、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、可視光透過率が高い非晶質ガラスであること。
(4)ガラス基板の耐熱性にあわせて軟化温度が低いこと。
上記のような要望を満足するガラスとして、PbOを主原料とするPbO−SiO2系ガラスが一般的である。近年は、環境問題への配慮から、Pbを含まないガラスの検討も行われている。こうしたガラスとしては、例えば、ホウ酸亜鉛を主成分とし、Pbの代わりにBiを添加することによって低軟化温度を実現したBi2O3−B2O3−ZnO−SiO2系ガラスがある(特許文献1)。
一方、PDPの低消費電力のために、誘電体層用ガラスの低誘電率化が求められている。上記したBi系ガラスは、Pb系ガラスと同様に、比誘電率が9〜13と高い。これに対して、明瞭な差を持つガラスとして、比誘電率が8以下のものが要望されている。
そこで、低誘電率と低軟化温度を両立させるため、Pbの代わりにアルカリ金属を添加することによって、比誘電率を7前後と低くしたホウ酸亜鉛系ガラスが提案されている(特許文献2)。また、比誘電率は低くないが、Biおよびアルカリ金属を同時に含むガラスも提案されている(特許文献3)。
特開2001−139345号公報
特開平9−278482号公報
特開2003−128430号公報
ところで、PDPの製造工程においては、保護層(MgO保護層)のアニール工程や、前面板と背面板を接合する封着工程で、電極を覆う誘電体層に500℃近い熱が加わる。誘電体層用ガラスの軟化温度が600℃前後であれば、500℃程度の温度が加わったとしても何ら問題ないように思えるが、実際にはそうはいかない。なぜなら、上記アニール工程や封着工程における加熱温度が誘電体層用ガラスのガラス転移温度を大幅に越えると、誘電体層の熱膨張係数が急激に増大するからである。
熱膨張係数の急激な増大は、誘電体層に、基板からの剥離やクラックの発生をもたらす。この結果、電極間の絶縁性が低下し、ひいては製品の信頼性が低下するおそれがある。このような問題は、大面積のPDPで特に顕著となるが、PDP以外の表示装置や回路基板においても生じる危険性がある。発明者らの検討によると、500℃程度で再熱処理するためには、誘電体層用ガラスのガラス転移温度が最低でも465℃必要であり、より望ましくは、480℃以上必要である。
ところが、従来のアルカリホウ酸亜鉛系ガラスは、低軟化温度、適切な熱膨張係数(ガラス転移温度よりも低い温度域で)および低誘電率は満足していたとしても、高いガラス転移温度を同時に実現したものではなかった。また、アルカリ系ガラスにおいて低誘電率を達成するためには、B2O3の含有量を多くする必要があるが、Bを過剰に含有させるとガラス転移温度が低くなってしまう問題がある。
さらに、Bの含有量が多いアルカリ系ガラスでは、熱処理を行うと、その成分が昇華しやすいという問題点もある。B2O3の蒸発と推測される昇華現象は、主にガラス転移温度から軟化温度にかけて顕著に発生する。PDPでは、蒸発成分が基板の他の箇所に付着して絶縁性を低下させたり、誘電体層上に形成したMgO保護膜中に侵入して、保護膜の特性を劣化させたりする場合がある。
このように、従来提案されている電極被覆用ガラス(誘電体層用ガラス)は、ガラス転移温度についての検討が不十分であり、PDP等の製造に必ずしも好適なものとなっていない。そのため、低軟化温度、低誘電率および適度な熱膨張係数とともに、高いガラス転移温度を有するガラスの開発が期待されている。
上記事情に鑑み、本発明は、軟化温度および誘電率が低く、かつ基板との熱膨張係数のマッチングがよいうえに、ガラス転移温度が十分高い酸化物ガラス、特に、ディスプレイパネル等に好適に採用できる酸化物ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、その酸化物ガラスを用いたディスプレイパネルを提供することを目的とする。
本発明は、含まれる元素のうち、酸素を除く他の元素の比率で表して、
Bが55原子%以上85原子%以下、
Siが0原子%以上15原子%以下、
Znが0原子%以上15原子%以下、
Kが0原子%以上10原子%以下、
Naが0原子%以上10原子%以下、
Biが1原子%以上10原子%以下、
SiおよびZnの合計が5原子%以上30原子%以下、
KおよびNaの合計が1原子%以上10原子%以下、
K、NaおよびBiの合計が8原子%以上15原子%以下、
である酸化物ガラスを提供する。
また、本発明は、上記酸化物ガラスを電極被覆用ガラスとして用いたディスプレイパネルを提供する。
また、本発明は、
基板と、
基板上に形成された、Agを主成分とする電極と、
電極を直接被覆する、実質的にアルカリ金属を含有しない第1誘電体層と、
電極との間に第1誘電体層が位置するように第1誘電体層の上に配置された第2誘電体層と、を備え、
第2誘電体層が、上記酸化物ガラスからなる、ディスプレイパネルを提供する。
また、本発明は、
基板と、
基板上に形成された、Agを主成分とする電極と、
電極を直接被覆する第1誘電体層と、
電極との間に第1誘電体層が位置するように第1誘電体層の上に配置された第2誘電体層と、を備え、
第1誘電体層が、上記酸化物ガラスからなり、
第2誘電体層が、上記酸化物ガラスよりも低誘電率のガラスからなる、ディスプレイパネルを提供する。
本発明者らは詳細な検討の結果、Biと、KまたはNaと、を併用することによって、(i)それらを単独で含有させる場合に比べ、少量にて軟化温度を低くすることができること、(ii)Bが55原子%以上と多い組成においてもガラス転移温度を十分高くできるとともに、熱処理時の成分蒸発量を少なくできること、を見出し、上記本発明を完成させた。Bi量(含有量)を少量に留めつつ、B量を多くできるので、低誘電率化を図ることも可能である。このように、本発明の組成を持つ酸化物ガラスは、低軟化温度、基板とマッチングする適切な熱膨張係数、低誘電率および高いガラス転移温度をバランスさせることができる。このような酸化物ガラスで電極等を被覆する誘電体層を形成すれば、信頼性の高い製品、例えばディスプレイパネルを作製することが可能となる。
本発明の酸化物ガラスについて詳しく説明する。
本発明の酸化物ガラスは、B2O3と、K2OまたはNa2Oと、Bi2O3とを必須成分とし、これにSiO2、ZnO、その他の成分を加えることによって、その特性を調整したものである。なお、本明細書においては、酸化物ガラスに含まれる元素のうち、酸素を除く他の元素の比率(含有率)の合計を100原子%と考えて、各元素の比率を表示する。
B2O3は、本発明の酸化物ガラスの主成分である。Bの比率が小さすぎると誘電率が高くなり、大きすぎるとガラス転移温度が低くなる。したがって、Bの比率は、55原子%以上85原子%以下とするのがよい。
SiO2は、ガラスを安定化させる効果を奏する。ただし、Siの比率が大きすぎると、ガラス転移温度が低くなりすぎる、あるいは軟化温度が高くなりすぎる。したがって、Siの比率は、0原子%以上15原子%以下とするのがよい。
SiO2と同様に、ZnOもガラスを安定化させる効果を奏する。ただし、Znの比率が大きすぎると、誘電率が高くなりすぎる。したがって、Znの比率は、0原子%以上15原子%以下とするのがよい。
なお、ガラス転移温度が低くなりすぎることを防ぐために、Siの比率とZnの比率との合計は、5原子%以上30原子%以下とするのがよい。
K2OまたはNa2Oは、本発明の酸化物ガラスの必須成分であり、軟化温度を下げる効果を奏する。Kの比率とNaの比率との合計が小さすぎると均一な組織のガラスを得にくくなる一方、大きすぎると黄変を生じやすくなる。したがって、Kの比率とNaの比率との合計は、1原子%以上10原子%以下とするのがよい。
なお、黄変とは次のような現象のことをいう。本発明の酸化物ガラスのようにアルカリ金属を含有するガラスは、成分にアルカリ金属を含むため、AgやCuを含む電極等を保護する誘電体材料として用いた場合、焼成条件等によっては、AgやCuが酸化されてイオン化し、これらイオンがガラス中を拡散することがある。AgやCuのイオンは、再度還元されてコロイド状金属として析出し、誘電体層やガラス基板が黄色く着色して見える、いわゆる黄変を生じさせる。黄変が生じると、特にPDPの前面板用誘電体層として用いた場合には表示性能が劣化する。本発明の酸化物ガラスによれば、アルカリ金属の量が少ないので、電極材料との反応による黄変現象も生じにくい。
Bi2O3は、本発明の酸化物ガラスの必須成分であり、軟化温度を下げるとともに、ガラスを安定化する効果を奏する。Biの比率が小さすぎると熱処理時のBの蒸発量が多くなるとともに、軟化温度を下げるためにアルカリ金属を多量に使用する必要性が生じ、黄変を生じ易くなる。また、Biの比率が大きすぎると誘電率が高くなりすぎるとともに、ガラスの着色が強くなる。したがって、Biの比率は、1原子%以上10原子%以下とするのがよい。
さらに、Kの比率と、Naの比率と、Biの比率の合計を8原子%以上15原子%以下とするのがよい。Kの比率と、Naの比率と、Biの比率の合計が小さすぎると軟化温度が高くなりすぎるためであり、大きすぎるとガラス転移温度が低くなりすぎるからである。
以上のように、本発明の酸化物ガラスは、Bと、SiおよびZnの少なくとも一方と、KおよびNaの少なくとも一方と、Biとを必須元素とする。
以下、本発明の酸化物ガラスに添加することができる任意成分について説明する。添加することができる任意成分としては、Mg、Ca、Sr、Ba、MoおよびWを例示することができる。
Mg、Ca、SrおよびBaは必須成分ではないが、これらのアルカリ土類金属を加えると、軟化温度を大きく変化させることなくガラス転移温度を高くすることができる。ただし、これらアルカリ土類金属の比率が大きすぎると誘電率、軟化温度、ともに高くなりすぎる。したがって、Mg、Ca、SrおよびBaより選ばれる少なくとも1種を、0原子%を超え、5原子%以下の範囲で含有させることが好ましい。また、同一量では、ガラス転移温度を高くする効果はCaが最も大きく、Sr、Ba、Mgの順で小さくなる。誘電率は、Baが最も高くなり、Sr、Ca、Mgの順で小さくなる。したがって、これらの中では、Caが最も好ましい。
また、MoおよびWは必須成分ではないが、これらを加えると、本発明の酸化物ガラスをAg等の電極を被覆する誘電体材料として用いた場合に生じることのある黄変を、より低減させることができる。ただし、これらを加えることによる着色が濃くなり過ぎないように、MoおよびWより選ばれる少なくとも一方を、0原子%を超え、5原子%未満、好ましくは3原子%以下の範囲で含有させるとよい。
Mo、Wを加えることによる黄変低減のメカニズムは、現段階では必ずしも明らかではない。しかし、おそらく、これらの金属は、ガラス中でMoO4 2-やWO4 2-となり、加熱によって生成してガラス中を拡散するAg+やCu2+と結合してこれら金属イオンを安定化し、これらAg+やCu2+が還元されて金属コロイドとして析出することを妨げる、すなわちAgイオンやCuイオンの安定化剤として作用している、と考えられる。
本発明のガラスは上記成分を含み、典型的には、実質的に上記成分のみからなる(換言すれば上記した成分以外は実質的に含まない)が、本発明の効果が得られる限り、他の成分を含有してもよい。そのような他の成分の比率の合計は、5原子%以下、より好ましくは3原子%、さらに好ましくは1原子%以下である。
他の成分の具体例としては、Cu、Co、Ti、V、SbまたはPが挙げられる。
これらのうち、Cu、CoまたはTiは、ガラスを青く着色する効果を奏するとともに、Biの存在による着色や、黄変による着色をキャンセルする効果を奏する。ただし、多量に用いると、ガラスの透明性が低下する。
V、SbまたはPは、ガラス転移温度を10〜20℃程度低下させるが、軟化温度も同程度に低下させる。したがって、基本組成のガラス転移温度および軟化温度が十分高い場合に、これらを低下させるために使用するとよい。ただし、多量に用いると、ガラスが着色したり、誘電率が高くなったりする。
また、上記以外にも、熱膨張係数の調整、ガラスの安定化および化学的耐久性の向上等のために、Li、Al、Zr、La、Ce、Y、Mn、Nb、Ta、Te、AgおよびSnから選ばれる少なくとも1種を、少量であれば添加してもよい。
また、本発明の酸化物ガラスは、実質的にPbを含まない非鉛系ガラスとすることができる。
本明細書において、“実質的に含まない”とは、酸素を除く他の元素の比率において、除去することが工業的に困難かつ特性に影響を及ぼさないごく微量の当該成分を許容する主旨である。具体的には、当該成分の比率が0.1原子%未満、望ましくは0.05原子%未満、より望ましくは0.01原子%未満、であることをいう。
なお、本明細書においては、元素の比率を陽イオンのみの比率で表記しているが、本発明は酸化物ガラスであるので、ガラス中には当然、陰イオンとして酸素が存在する。本発明の酸化物ガラスに含まれる陽イオンを、通常行われるように単位酸化物で表現すると、それぞれ、B2O3、Bi2O3、SiO2、ZnO、K2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、MoO3、WO3となる。ただし、こうした表記は、それぞれの陽イオンのガラス中における価数を限定している訳ではない。例えば、Biは3価以外の価数でもガラス中に存在しうる。
本発明の酸化物ガラスは、以上に説明した範囲内で組成を調整することにより、適切な熱膨張係数と低軟化温度とを併せ持つものとなる。一般に、PDPに使用されるガラス基板としては、フロート法で作製され、一般に入手が容易な窓板ガラスであるソーダライムガラスや、PDP用に開発された高歪点ガラスがある。それらは通常、600℃までの耐熱性、75×10-7〜85×10-7/℃の熱膨脹係数を持っている。このため、本発明の酸化物ガラスの熱膨脹係数は、60×10-7〜85×10-7/℃が望ましく、さらに65×10-7〜85×10-7/℃がより望ましい。また、本発明の酸化物ガラスの軟化温度は、ガラスペーストの焼成をガラス基板の歪点である600℃以下で行う必要があることから、600℃以下の温度で焼成しても充分軟化するように、少なくとも595℃以下、より望ましくは590℃以下であることが望ましい。
(本発明の酸化物ガラスを好適に採用できるディスプレイパネルについて)
次に、本発明の酸化物ガラスを用いたディスプレイとして、プラズマディスプレイパネル(PDP)を例に挙げて説明する。図1は、PDPの主要部の断面斜視図である。図2は、図1中のII−II断面図である。本実施形態に示すPDP100は、AC面放電型である。
PDP100は、互いに貼り合わされた前面板1と背面板8とを備えている。前面板1は、前面ガラス基板2と、その内側面(放電空間14側の面)に形成された表示電極5と、表示電極5を覆う誘電体層6と、誘電体層6を覆う保護層7とを含む。表示電極5は、透明電極3上に細いバス電極4を積層した構造を持つ。透明電極3は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化スズを主体として構成されている。バス電極4は、Ag、CuおよびAlから選ばれる1種を主体として構成されている。中でもAgは、耐酸化性に優れるので推奨される。表示電極5を覆う誘電体層6に、本発明の酸化物ガラスを用いることができる。
背面板8は、背面ガラス基板9と、その片面に形成したアドレス電極10と、アドレス電極10を覆う誘電体層11と、誘電体層11の上面に設けられた隔壁12と、隔壁12,12同士の間に形成された蛍光体層13とを含む。蛍光体層13は、順番に配列した赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)および青色蛍光体層13(B)を含む。背面板8の誘電体層11も、本発明の酸化物ガラスで形成することができる。
蛍光体層13を構成する蛍光体としては、例えば、青色蛍光体としてBaMgAl10O17:Eu、緑色蛍光体としてZn2SiO4:Mn、赤色蛍光体としてY2O3:Euを用いることができる。
前面板1と背面板8とは、表示電極5の長手方向とアドレス電極10の長手方向とが互いに直交する配置で、封着部材(図示せず)を用いて互いに接合されている。
放電空間14には、He、XeおよびNeから選ばれる少なくとも1種の希ガス成分からなる放電ガスが66.5kPa〜79.8kPa(500Torr〜600Torr)程度の圧力で封入されている。
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電を発生させる。放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13に含まれる蛍光体が励起されて可視光の発光が生ずる。
誘電体層6は、次のようにして形成することができる。まず、本発明の酸化物ガラスが得られるように調製した原料粉末に、適量のバインダおよび溶剤を添加することによってガラスペーストとする。このガラスペーストを、前面ガラス基板2上に形成された表示電極5の上から均一の厚さに塗工する。塗工したガラスペーストを前面ガラス基板2および表示電極5とともに焼成(同時焼成)する。このようにして、誘電体層6を形成することができる。なお、焼成は、同時焼成ではなく、表示電極5の焼成後、ガラスペーストを塗布して焼成する、個別焼成でもかまわない。
また、ガラスペーストは、原料粉末、溶剤および樹脂(バインダ)の他に添加剤を含んでいてもよい。例えば、界面活性剤、現像促進剤、接着助剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤または顔料染料など、種々の目的に応じた添加剤を使用することができる。
ガラスペーストに含まれる樹脂(バインダ)の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点から、例えばニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンfグリコール、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂およびメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
ガラスペーストに含まれる溶剤の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点、ならびに、バインダとの相溶性の観点から、例えば、酢酸ブチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸のエステル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル(酪酸メチル)、ブタン酸エチル(酪酸エチル)、ブタン酸プロピル(酪酸プロピル)、ブタン酸イソプロピル(酪酸イソプロピル)等の脂肪族カルボン酸のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類;テルピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシブチルブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、安息香酸エチル、酢酸ベンジル等のエステル類;N−メチルピロリドン、NN−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機溶剤を使用することができる。
ガラスペーストを塗工する方法としては、スクリーン法、バーコーター法、ロールコーター法、ダイコーター法およびドクターブレード法を例示できる。塗工したガラスペーストは、得るべきガラス(誘電体層6)の軟化温度よりも高く、かつ前面ガラス基板2の歪み点よりも低い雰囲気温度に調節した焼成炉内で焼成する。本発明の酸化物ガラスで形成するべき誘電体層6の軟化温度と、前面ガラス基板2の歪み点とが非常に近接している場合、焼成が困難となる。したがって、前面ガラス基板2の歪み点と誘電体層6の軟化温度の差が、例えば5℃以上(より好ましくは10℃以上)であることが望ましい。なお、上記ガラスペーストを用いて自立性を有するグリーンシートを作製し、そのグリーンシートを前面ガラス基板2に貼り付けて焼成するようにしてもよい。
また、誘電体層6の厚さは、絶縁性と光透過性を両立させるために、10μm〜50μm程度とすることが好ましい。
次に、前面ガラス基板に設けた誘電体層が2層構造であるPDPについて説明する。図3に示すPDP101は、前面ガラス基板2上の誘電体層15,16の部分が第1誘電体層15と第2誘電体層16との2層構造になっている。その他の点は、図1および図2に示したPDPと同様の構成である。
図3に示すように、第1誘電体層15は表示電極5(透明電極3およびバス電極4)を直接被覆している。第2誘電体層16は、前面ガラス基板2および/または表示電極5との間に第1誘電体層15が位置するように前記第1誘電体層15の上に配置されている。したがって、前面ガラス基板2、第1誘電体層15および第2誘電体層16が厚さ方向にこの順番で並ぶ。
2層構造の誘電体層とする場合、表示電極5に直接接する第1誘電体層15を、アルカリ金属を実質的に含まないガラスで形成し、第2誘電体層16を、本発明の酸化物ガラスで形成することができる。表示電極5に直接接触している第1誘電体層15はアルカリ金属を含まないので、AgまたはCuのコロイド析出による黄変および耐圧低下の問題が生じない。さらに、第1誘電体層15は、AgまたはCuのイオンが第2誘電体層16に拡散することを阻止する。したがって、アルカリ金属を少量含む本発明の酸化物ガラスで第2誘電体層16を形成した場合でも、黄変や耐圧低下といった問題が第2誘電体層16に生じない。
また、従来のPb系ガラスやBi系ガラスは比誘電率9〜13と大きいが、本発明の酸化物ガラスによれば、比誘電率を7前後に容易に調整することができる。比誘電率を7前後と小さくした本発明の酸化物ガラスにて第2誘電体層16を形成すれば、第1誘電体層15に多少比誘電率が大きいガラスを使用したとしても、全体として低誘電率の誘電体層を形成でき、消費電力を低減できる。
逆に、第1誘電体層15を本発明の酸化物ガラスで形成することも可能である。本発明の酸化物ガラスによれば、アルカリ金属の含有量が少量であるため、黄変の問題が顕著とならないからである。そしてこの場合、第2誘電体層16を、第1誘電体層15(本発明の酸化物ガラス)よりも低誘電率のガラスにて形成することができる。このようにした場合、表示電極5を被覆する誘電体層全体として一層の低誘電率化を図ることができ、ひいてはより一層の低消費電力化を図ることが可能となる。なお、第2誘電体層16に用いる低誘電率のガラスとしては、Biを実質的に含まず、アルカリ金属をより多く含むガラス、例えば、B−Si−Zn−K−O系ガラスを例示することができる。
図3に示す2層構造の誘電体層15,16は、第1誘電体層15を形成した後に、第2誘電体層16用のガラスペーストを塗工および焼成することによって形成することができる。このような手順を採用するためには、第1誘電体層15の軟化温度が、第2誘電体層16の軟化温度よりも高いことが必要である。
また、表示電極5(透明電極3およびバス電極4)と第2誘電体層16との絶縁、および界面反応防止を確保するため、第1誘電体層15の厚さは1μm以上とすることが好ましい。さらに、高い絶縁性と高い可視光透過率を両立させるために、第1誘電体層15の厚さと第2誘電体層16の厚さとの合計が10μm〜50μmであることが好ましい。
なお、本発明の酸化物ガラスを好適に採用できるPDPとしては、図1〜図3に示すような面放電型のものが代表的であるが、これに限定されるものではなく、対向放電型にも適用できる。また、AC型に限定されるものではなく、DC型のPDPであっても誘電体層を備えたものに対して本発明の酸化物ガラスを適用することができる。
[実施例1]
本発明の酸化物ガラスの出発原料として、試薬特級以上の金属酸化物粉末または炭酸塩粉末を準備した。これらの原料粉末を、各元素の原子比が表1に示す通りとなるように秤量および混合した。その後、混合した原料粉末を白金坩堝に入れ、1100℃〜1200℃の電気炉中で1時間溶融した。得られた融液を、真鍮板にてプレスすることにより急冷し、ガラスカレットを作製した。このガラスカレットを粉砕し、マクロ型示差熱分析計を用いて、軟化温度Tsを測定した。また、熱重量分析により、300℃〜600℃間の重量減少ΔWを測定した。
次に、作製したガラスカレットを再溶融して4mm×4mm×20mmのロッドを作製し、熱機械分析計を用いて、ガラス転移温度Tgと、30〜300℃における熱膨張係数αを測定した。さらに、ガラスカレットを再溶融して20mm×20mm×厚さ1mmのガラス板を作製し、そのガラス板の表裏にAuを蒸着して電極を形成した。そして、電極にLCRメータを接続し、周波数1kHz、25℃にて比誘電率εを測定した。結果を表1に示す。なお、表中において、ガラス転移温度Tgと軟化温度Tsの単位は℃、熱膨張係数αの単位は×10-7/℃、加熱重量減少ΔWの単位は質量%である。
表1に示すように、K量とBi量を5原子%に固定し、B量を増加、Zn+Si量を減少させていった試料No.1〜8,10では、B量の増加に伴い比誘電率εが低下した。ただし、同時にガラス転移温度Tgも低下し、B=90原子%となるNo.10では465℃未満となった。一方、Zn量が多くB量が比較的少ないNo.1〜4は、比誘電率εが8を超える程大きかった。No.1〜4,6,7では、Zn量のみ減少させ、Si量一定としている。Si量とZn量を入れ替えたNo.4とNo.5とを比較すれば明らかなように、Si量が多いと比誘電率εが低くなるが、軟化温度Tsが高くなった。Zn量が15原子%以下となるNo.6,7,8では、比誘電率εは8以下、軟化温度Tsも580℃以下で、かつガラス転移温度Tgも465℃を越え、熱膨張係数αも適切であった。しかし、Si+Zn量がゼロのNo.9では、ガラス転移温度Tgが465℃未満となった。B量が55原子%で、Si、Znともに15原子%のNo.11,12は、良好な特性が得られた。
以上を総合的に判断すると、B量としては、55原子%以上85原子%以下である必要性があり、より望ましくは60原子%以上85原子%以下、さらには70原子%以上85原子%以下が望ましい。
また、B量を70原子%、K量とBi量を5原子%に固定し、Zn量とSi量を変化させたNo.6とNo.13〜16において、Si量が20原子%のNo.13は軟化温度Tsが600℃と高かった。また、Zn量が20原子%のNo.16では、比誘電率が8を越えた。同様に、Si+Zn量が30原子%を超えるNo.1〜3は、比誘電率が8を超えた。
また、B量を75原子%に固定し、K量とBi量を同量としながら増加させ、その分Zn量とSi量を減少させたNo.17〜21において、K+Bi量がゼロとなるNo.17は均一なガラスが得られず、K+Bi量の少ないNo.18は、軟化温度Tsが601℃と高かった。また、K+Bi量の多いNo.21はガラス転移温度Tgが459℃と低かった。これに対し、K+Bi量が8〜15原子%となる、No.19,20では、良好な特性が得られた。
また、Si量とZn量を5原子%に固定し、Bi量をゼロとし、K量を変化させたNo.22〜24では、ガラス転移温度Tgがいずれも低く、しかも加熱時の重量減少ΔWが大きかった。
また、Si量とZn量を5原子%に固定し、K量をゼロとし、Bi量を変化させたNo.27〜29では、均一なガラスが得られなかった。
また、B量、Si量およびZn量を固定し、KとBiの比率を変化させた、No.7,24〜27を比較すると、KとBiを共存させたNo.7,25,26において、均一なガラスが得られるとともに、加熱による重量減少ΔWも小さくなり、他の特性も良好なものが得られた。
次に、No.7のKをNaに全量置き換えたNo.30、および半量置き換えたNo.31では、No.7に比べてやや熱膨張係数αが低下し、比誘電率εが増加し、軟化温度が低下したが、その変化は大きなものではなく、Kの代用として使用可能であった。しかしながら、KとNaのいずれか一方を選択するとした場合、NaはKに比べて熱膨張係数αが小さくなりやすく、黄変を生じやすい傾向があるため、Kの使用が望ましい。
以上の全試料を勘案すると、軟化温度Tsおよび誘電率εが十分に低く、かつ熱膨張係数αが最も適当なのは、B量が75〜85原子%付近であった。アルカリ量が少ない方が黄変に対して有利であることを考慮すると、試料No.7,8が最も良いと考えられるが、これらの試料のガラス転移温度は、465℃は越えているものの、480℃には達していなかった。
なお、表1に示す以外にも、種々の組成の組み合わせを検討したが、いずれの場合にも、B=55〜85原子%、Si=0〜15原子%、Zn=0〜15原子%、Si+Zn=5〜30原子%、K+Na=1〜10原子%、Bi=1〜10原子%、K+Na+Bi=8〜15原子%の範囲で組成を調整することによって、8.0以下の比誘電率ε、465℃以上のガラス転移温度Tg、595℃以下の軟化温度Ts、60〜90×10-7/℃の熱膨張係数α、0.1質量%以下の重量減少ΔWを併せ持つ、良好な特性のガラスが得られた。
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、各元素の原子比が、表2に示す通りとなるガラスカレットおよびガラスロッドを作製し、実施例1と同様の方法で、ガラス転移温度Tg、軟化点Ts、熱膨張係数α、比誘電率εを測定した。結果を表2に示す。
表2より明らかなように、Mg、Ca、SrまたはBaを加えることによって、軟化温度Tsをあまり上昇させることなく、ガラス転移温度Tgを上昇させることができ、480℃以上とすることができた。しかしながら、それらの添加に伴い、比誘電率εと軟化温度Tsも上昇するので、添加量は5原子%以下に抑えるとよいことが分かる。また、添加したアルカリ土類金属の種類で比較すると、ガラス転移温度Tgを480℃以上とするのに必要な添加量はCaが最も少なく済むことが分かる。また、Caを添加する場合には比誘電率εの増加も小さい。したがって、アルカリ土類金属を添加する場合にはCaの使用が望ましい。
なお、表2に示す以外のB:Si:Zn:Bi:K比においても、同様のアルカリ土類金属の添加効果を検討したが、いずれも同様の効果が得られた。また、複数種類のアルカリ土類金属の同時添加を検討したところ、平均的な効果が示された。アルカリ土類金属を複数種類添加する場合でも、合計量を0.5原子%以上5原子%以下とすると良好な結果が得られた。
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、各元素の原子比が、Si:Zn:Bi:K:Ca=2:5:5.5:5.5:2となり、さらにB、Mo、Wが表3に示す比率となるガラスカレットおよびガラスロッドを作製し、実施例1と同様の方法で、ガラス転移温度Tg、軟化温度Ts、熱膨張係数α、比誘電率εを測定した。また、比較のため、B:Si:Zn:K:Ca=80:2:5:11:2となるガラスカレットおよびガラスロッドを作製し、同様の測定を行った。測定後、ガラスカレットを乾式ボールミルによって粉砕し、ガラス粉末とした。なお、表3では成分の合計が100%とならないが、これは、残部が上記原子比で添加されたSi、Zn、Bi、KおよびCaで占められるためである。
次に、上記ガラス粉末に、樹脂であるエチルセルロースと溶剤であるα−テルピネオールとを、3本ロールで混合および分散させてガラスペーストを得た。
次に、厚さ2.8mmの平坦なソーダライムガラス(耐熱温度:600℃、熱膨張係数:82.7×10-7/℃(30℃〜300℃))からなるガラス基板の主面上に、ITOの材料をPDPの前面ガラス基板の所定パターンで塗工して乾燥炉内で乾燥させた。これにより、ITO膜付きガラス基板を得た。このITO膜付きガラス基板に対し、Ag粉末と有機ビヒクルとの混合物であるAgペーストを、ITO膜に重なるようにスクリーン印刷法でライン状に塗工した。そして、ガラス基板全体を加熱して、Agペーストを焼成し、電極付きガラス基板とした。
この電極付きガラス基板に対し、予め調製しておいたガラスペーストをブレードコーター法にて塗工した。その後、電極付きガラス基板を雰囲気温度90℃の焼成炉内に30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、軟化温度+10℃の雰囲気温度で10分間焼成することにより誘電体層を形成した。そして、作製した電極付きガラス基板の裏面側(電極のない側)において、色彩色差計を用いて反射色を測定した。なお、測定には自然光を用い、基準となる白色板により補正した。結果を表3に示す。
表3中に示すa*およびb*は、L*a*b*表色系に基づく。a*値は、プラス方向に大きくなると赤色が強まり、マイナス方向に大きくなると緑色が強まることを示す。b*値は、プラス方向に大きくなると黄色が強まり、マイナス方向に大きくなると青色が強まることを示す。一般に、a*値が−5〜+5の範囲であり、かつb*値が−5〜+5の範囲であれば、問題となるほどのパネルの着色は観測されない。また、b*値が+5を越えていても、この色をキャンセルするために、添加により青色を呈するCu、Co、Ti等をガラスに加えたり、あるいはカラーフィルターを用いたりすることにより、正常な色目に戻すことが可能である。しかしながら、b*値が10を越えると、より色の濃い着色剤やフィルターを用いる必要が生じ、その結果、トータルとしてのガラスの透過率を低下させることになり、好ましくない。したがって、b*は+5以下であれば問題ないが、+5を越えていたとしても、少しでも低いことが望ましい。
上記知見に基づき、表3に示す結果を検討する。
まず、MoとWとのいずれも添加していないNo.201と、他の成分は同量であるがKを多量に含みBiを含まない比較例とを比べると、比較例の方が誘電率が若干低いという特徴はあるものの、b*の値は明らかにNo.201が小さかった。つまり、No.201の組成では、Biを含まずアルカリ金属のみを含む従来材料に比較して、実施例1で述べたように、ガラス転移温度が高く、加熱時の重量減少が少ないとともに、黄変が生じにくい(あるいはその程度が低い)という特徴があった。
次に、MoまたはWを添加したNo.202〜218では、添加量が増加していくにつれてb*値が低下し、0.1原子%以上で5.0以下となって、黄変が抑制された。しかしながら、さらに添加量を増加させると、b*値も再度上昇しはじめ、添加量5原子%に達すると無添加の場合を越えた。これは、Agコロイドの析出による黄変現象自体は生じにくくなるが、MoやW自体がガラスを着色してしまうためと考えられる。したがって、Moおよび/またはWの添加量としては、0.1原子%以上5原子%未満、好ましくは0.1原子%以上3原子%以下とすることが望ましい。
なお、本発明の組成範囲内において、母ガラスの主組成比の異なるものや、これにMoO3やWO3を添加したものについて、同様の評価を行ったが、いずれの母組成でもb*値は比較的小さく、さらにMoO3やWO3の添加によりb*値を容易に5以下とすることができた。
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、B:Si:Zn:Bi:K:Ca:Mo=78.8:3:5:5:6:2:0.2の原子比となるように各種原料粉末を混合して白金坩堝に入れ、電気炉中1100℃で2時間溶融した後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製した。このガラスカレットを乾式ボールミルによって粉砕してガラス粉末を作製した。得られたガラス粉末の平均粒径は5μm程度であった。本ガラスの比誘電率は6.8、ガラス転移温度は480℃、軟化温度は578℃、熱膨張係数は75×10-7/℃であった。
次に、上記ガラス粉末に、バインダとしてのエチルセルロースと、溶剤としてのα−テルピネオールとを加え、3本ロールで混合してガラスペーストを得た。
次に、厚さ2.8mmの平坦なソーダライムガラス(耐熱温度:600℃、熱膨張係数:82.7×10-7/℃(30℃〜300℃))からなる前面ガラス基板の主面上に、ITOの材料を図2に示すような所定パターンで塗工して乾燥炉内で乾燥させた。これにより、ITO膜付きガラス基板を得た。このITO膜付きガラス基板に対し、Ag粉末と有機ビヒクルとの混合物であるAgペーストを、ITO膜に重なるようにスクリーン印刷法でライン状に塗工した。そして、ガラス基板全体を加熱して、Agペーストを焼成し、電極付き前面ガラス基板とした。
次に、表示電極を形成した前面ガラス基板に対し、予め調製しておいたガラスペーストをブレードコーター法にて塗工した。その後、前面ガラス基板を雰囲気温度90℃の焼成炉内に30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、さらに雰囲気温度を583℃に昇温して10分間焼成することにより厚さ20μmの誘電体層を形成した。
さらに、上記誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着したのち、500℃で焼成することによってMgO保護層を形成した。このようにして、図2に示すPDP100の前面板1を得た。
他方、以下の公知方法により背面板を作製した。まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上にスクリーン印刷法によってAgを主体とするアドレス電極をストライプ状に形成した。続いて、前面板と同様の方法で、アドレス電極を覆う誘電体層を形成した。次に、隣り合うアドレス電極間に位置するように、誘電体層上に隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷法によってBi系ガラスペーストを所定パターンに印刷する工程と、印刷したパターンを焼成する工程とを繰り返すことによって形成した。次に、隣り合う隔壁間に露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗工し、乾燥および焼成して蛍光体層を形成した。このようにして、図2に示すPDP100の背面板8を得た。
上記のようにして作製した前面板1と背面板8とを、Bi−Zn−B−Si−O系封着ガラスを用いて500℃で貼り合わせた。そして、放電空間の内部を高真空(約1×10-4Pa)に排気したのち、所定の圧力(66.5kPa〜79.8kPa)となるようにNe−Xe系放電ガスを封入した。このようにして、PDP100を作製した。
作製したPDPにコントローラを接続して動作確認を行った。作製したPDPは、誘電体層に欠陥を生ずるようなこともなく、問題なく動作することを確認した。
[実施例5]
実施例4と同じ方法および同一組成で、PDPの前面ガラス基板の第1誘電体層用に、B−Si−Zn−Bi−K−Ca−Mo−O系ガラスペーストを準備した。その一方で、実施例4と同様の方法で、第2誘電体層用に、B−Si−Zn−K−Ca−O系ガラスペーストを準備した。第2誘電体層用ガラスペーストに含まれるガラスの誘電率は6.2、ガラス転移温度は480℃、軟化温度は575℃、熱膨張係数は78×10-7/℃であった。
これらのガラスペーストを用いて、実施例3と同様の方法で、前面ガラス基板の誘電体層が、表示電極を直接覆う第1誘電体層と、この第1誘電体層の上に形成される第2誘電体層との、二層構造となるPDPパネルを作製した。なお、第1誘電体層は、583℃で焼成して厚さ約20μm、第2誘電体層は、578℃で焼成して厚さ約20μmとした。
作製したPDPにコントローラを接続して動作確認を行った。作製したPDPは、誘電体層に欠陥を生ずるようなこともなく、問題なく動作することを確認した。
[実施例6]
実施例4と同じ方法で、B:Si:Zn:Bi:K:Ca=80:3:5:5:6:2の原子比のB−Si−Zn−Bi−K−Ca−O系ガラスペーストを、第2誘電体層用に準備した。また別途、第1誘電体層用に、Biを含み、比誘電率が11の、Bi−Zn−B−Ca−Si−O系ガラスペーストを準備した。
これらのペーストを用いて、実施例5と同様に、前面板の誘電体層が、電極を直接覆う第1誘電体層と、この第1誘電体層の上に形成される第2誘電体層の、二層構造となるPDPパネルを作製した。なお、第1誘電体層は、590℃で焼成して厚さ約20μm、第二誘電体層は、583℃で焼成して厚さ約20μmとした。
作製したPDPにコントローラを接続して動作確認を行った。作製したPDPは、誘電体層に欠陥を生ずるようなこともなく、問題なく動作することを確認した。
本発明の酸化物ガラスは、電極用絶縁被覆ガラス、特にプラズマディスプレイパネルの表示電極やアドレス電極を被覆するための誘電体層の形成に好適に採用できる。
PDPの主要部の断面斜視図。
図1のPDPのII−II断面図。
PDPの他の実施形態の断面図。
符号の説明
1 前面板
2 前面ガラス基板
3 透明電極
4 バス電極
5 表示電極
6 誘電体層
7 誘電体保護層
8 背面板
9 背面ガラス基板
10 アドレス電極
11 誘電体層
12 隔壁
15 第1誘電体層
16 第2誘電体層
100,101 プラズマディスプレイパネル(PDP)