JP2007076947A - 酸化物ガラスおよびこれを用いたディスプレイパネル - Google Patents
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Abstract
【課題】 Pbおよびアルカリ金属のいずれも含有しないにも関わらず、それらを含有するガラスと比較しても遜色ない特性を持った酸化物ガラスを提供する。
【解決手段】 本発明の酸化物ガラスは、実質的に、Pbおよびアルカリ金属を含有せず、Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種と、Znと、Bとを含有し、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計がX 原子%、それ以外の元素の含有率の合計がY 原子%であるとき、次式を満足する。
1.02≦Y/X≦1.20
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明の酸化物ガラスは、実質的に、Pbおよびアルカリ金属を含有せず、Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種と、Znと、Bとを含有し、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計がX 原子%、それ以外の元素の含有率の合計がY 原子%であるとき、次式を満足する。
1.02≦Y/X≦1.20
【選択図】 図1
Description
本発明は、酸化物ガラスおよびこれを用いたディスプレイパネルに関する。
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、液晶表示装置(LCD)および蛍光表示装置等の表示装置、またはセラミック積層デバイスおよび混成集積回路等の集積回路には、表面に電極または配線を有する基板が用いられている。基板表面の電極等は、絶縁性ガラス材料で被覆して保護することが行われている。PDPを例に挙げて具体的に説明する。
一般的なPDPは、2枚の対向するガラス基板に、規則的に配列した一対の電極を設け、両電極間にNe、Xe等の不活性ガスを含む放電ガスを封入した構造になっている。両電極間に電圧を印加し、電極周辺の微小なセル内で放電を発生させることにより、各セルを発光させて表示を行なうことができる。例えば、AC型PDPの前面板となるガラス基板は、背面側の主面上に透明電極を形成し、その透明電極の上に金属電極を形成した構造を有する。さらに、透明電極と金属電極とによる複合電極を覆うように誘電体層を形成し、その誘電体層の上に保護層を形成する。放電により生じる発光が前面板を透過する必要があるという理由で透明電極を使用しているが、透明電極は電気抵抗が高いという弱点がある。この弱点を補うため、透明電極上に幅の狭い金属電極を設けている。透明電極と金属電極とによる複合電極によれば、低抵抗化と光透過性との両立を図ることができる。ただし、透明電極を用いず、幅の狭い金属電極のみを間隔を詰めて形成する構成もある。
通常、金属電極の材料には、Ag、CuおよびAlからなる低抵抗率金属群より選ばれる1種を使用する。金属電極を形成する方法としては、薄膜法および厚膜法がある。薄膜法では、CuまたはAlを用い、下地の透明電極との密着性および耐酸化性を改善するために、Cr/Cu/CrまたはCr/Al/Crのように異種金属材料の積層構造で電極を構成するのが一般的である。
一方、厚膜法では、AgまたはCu、特に耐酸化性に優れたAgを含有する厚膜導体ペーストを用いて金属電極を形成する。印刷法によって厚膜導体ペーストを電極形状にパターニングした後、ガラス基板ごと厚膜導体ペーストを焼成することにより、所望の金属電極を形成することができる。このような方法によると、真空装置が不用、かつ最少1回の処理でパターン加工ができるので、低コストとなるという特徴があり、広く検討されている。
金属電極を覆う誘電体層は、通常、低軟化温度のガラスで形成する。具体的には、ガラス粉末を含むペーストを印刷法またはダイコート法によって電極上に塗工した後、塗工したガラスペーストをガラス基板ごと焼成することによって誘電体層を形成する。
ガラス基板上に形成する誘電体層のためのガラスには、次のような特性が要求される。
(1)ガラス基板の反り、誘電体層の剥離およびクラックといった不具合の発生を防止するために、熱膨脹係数がガラス基板の熱膨張係数に近いこと。
(2)ガラス基板がPDPの前面板の場合、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、可視光透過率が高い非晶質ガラスであること。
(3)誘電率が適切な値であること。
(4)ガラス基板の耐熱性にあわせて軟化温度が低いこと。
(1)ガラス基板の反り、誘電体層の剥離およびクラックといった不具合の発生を防止するために、熱膨脹係数がガラス基板の熱膨張係数に近いこと。
(2)ガラス基板がPDPの前面板の場合、蛍光体から発生した光を効率よく表示光として利用するために、可視光透過率が高い非晶質ガラスであること。
(3)誘電率が適切な値であること。
(4)ガラス基板の耐熱性にあわせて軟化温度が低いこと。
上記のような要望を満足するガラスとして、PbOを主原料とするPbO−SiO2系ガラスが一般的である。しかしながら、近年は、環境問題への配慮からPbを含まないガラスが求められている。
非鉛系ガラスとしては、例えば、ほう酸亜鉛を主成分とし、Pbの代わりにアルカリ金属を添加して低軟化温度を実現したR2O−B2O3−ZnO−SiO2系ガラス(R:Li、Na、K)がある(特許文献1)。Pbの代わりにBiを添加することによって低軟化温度を実現したBi2O3−B2O3−ZnO−SiO2系ガラスがある(特許文献2)。Pb、アルカリ金属およびBiのいずれも含有しない低誘電率の酸化物ガラスも提案されている(特許文献3)。
特開2000−313635号公報
特開2001−139345号公報
特開2002−012445号公報
しかしながら、アルカリ金属を含むガラスで誘電体層を形成し、かつ電極材料に低抵抗のAgまたはCuを用いた場合、ガラスが黄色くにごって見える黄変という現象を生ずる場合がある。この現象は、電極に含まれるAgまたはCuの一部がいったん酸化されて誘電体層中を拡散した後、イオン化傾向の高いアルカリ金属によって還元されてコロイドとして析出することが原因といわれている。
黄変したガラスは、波長400nmの光を吸収する。例えば、PDPの前面板が黄変していると、青色の輝度が低下したり、色度の悪化が生じたりするなどの問題を招来する。また、析出したコロイドが導電性であることから、誘電体層の絶縁耐圧が低下する。析出したコロイドはイオンよりもはるかに大きいため、誘電体層を透過する光を反射してPDPの輝度を低下させるという問題も招来する。こうした問題は、PDPで特に顕著であるが、PDP以外の表示装置、さらには各種集積回路においても同様に生ずる問題である。
上記事情に鑑み、本発明は、Pbおよびアルカリ金属のいずれも含有しないにも関わらず、それらを含有するガラスと比較しても遜色ない特性を持った酸化物ガラス、特に、ディスプレイパネル等に好適に採用できる非鉛系酸化物ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、その酸化物ガラスを用いたディスプレイパネルを提供することを目的とする。
ガラスは、網目形成酸化物(代表的なのはB2O3、SiO2、P2O5)を基本骨格としている。一般的なガラスでは、網目形成酸化物を構成する元素のうち、酸素以外の元素(B、Si、P)の含有率の合計が相当多く、残りの金属元素の含有率の合計を原子%ベースで上回る。ところが、本発明者らは検討を重ねた結果、通常用いられることの無い狭い組成範囲内において、Pbおよびアルカリ金属のいずれにも頼ることなく、軟化温度が十分低く、かつ結晶化を生じにくいガラスが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、課題を解決するために本発明の酸化物ガラスは、実質的に、Pbおよびアルカリ金属を含有せず、Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種と、Znと、Bとを含有し、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計がX 原子%、それ以外の元素の含有率の合計がY 原子%であるとき、次式を満足することを特徴とする。
1.02≦Y/X≦1.20
1.02≦Y/X≦1.20
また、本発明のディスプレイパネルは、上記本発明の酸化物ガラスを電極被覆用ガラスとして用いたことを特徴とする。
他の側面において、本発明のディスプレイパネルは、基板と、基板上に形成された電極と、電極を被覆する第1ガラス層と、電極との間に第1ガラス層が位置するように第1ガラス層の上に配置された第2ガラス層とを備え、第1ガラス層が本発明の酸化物ガラスからなり、第2ガラス層がアルカリ金属を含有するとともに本発明の酸化物ガラスよりも低誘電率のガラスからなることを特徴とする。
本発明の酸化物ガラスは、Pbおよびアルカリ金属を含有しない非鉛系ガラスである。アルカリ金属を含有しないので、黄変の問題が生じない。そして、上記した関係を満足するように組成を調整することにより、Pbおよびアルカリ金属に頼らなくとも軟化温度が低く、かつ結晶化を生じにくいガラスを容易に得ることができる。また、上記した関係を満足する組成においては、誘電率を適切な範囲(例えば10前後)に調整すること、および、ガラス基板との熱膨張係数のマッチングが取れるように熱膨張係数を適切な値に調整することが容易である。
(酸化物ガラスの好適な組成範囲について)
本発明の酸化物ガラスは、Pbおよびアルカリ金属の含有率ゼロが望ましいが、完全に除去することが工業的に困難な場合がある。また、アルカリ金属はごく少量であれば黄変の程度が小さい。したがって、実質的に含まないといえる程度であれば、十分目的を達成できるガラスとなりうる。ここで“実質的に含まない”とは、ごく微量を含む場合までも排除するものではないという意味である。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうちの1原子%以下、望ましくは0.5原子%未満、より望ましくは0.1原子%未満であれば、アルカリ金属が含まれていてもよい。Pbの含有率も、アルカリ金属と同様とすることができる。
本発明の酸化物ガラスは、Pbおよびアルカリ金属の含有率ゼロが望ましいが、完全に除去することが工業的に困難な場合がある。また、アルカリ金属はごく少量であれば黄変の程度が小さい。したがって、実質的に含まないといえる程度であれば、十分目的を達成できるガラスとなりうる。ここで“実質的に含まない”とは、ごく微量を含む場合までも排除するものではないという意味である。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうちの1原子%以下、望ましくは0.5原子%未満、より望ましくは0.1原子%未満であれば、アルカリ金属が含まれていてもよい。Pbの含有率も、アルカリ金属と同様とすることができる。
本発明においては、全ての構成元素から酸素を除いた元素群を基準として、つまり100原子%と考えて、各元素の含有率を計数する。そして、網目形成酸化物を構成する元素の原子%での含有率の合計をX 原子%とし、それ以外の元素の原子%での含有率の合計をY 原子%(Y=100−Xが成り立つ)とするとき、1.02≦Y/X≦1.20を満足するように組成を調整する。1.02≦Y/Xとすることによって、軟化温度を十分に低減することができる。Y/X≦1.20とすることによって、軟化温度と結晶化開始温度との差を大きくすることができ、結晶化しにくいガラスを得ることができる。
酸化物ガラスの分野で周知のように、網目形成酸化物としては、B2O3、SiO2、P2O5、GeO2、Sb2O5、V2O5およびAs2O5を例示できる。したがって、網目形成酸化物を構成する元素のうち酸素を除く元素(以下、単に“網目形成酸化物を構成する元素”ともいう)とは、B、Si、P、Ge、Sb、VおよびAsの7種類である。しかし、Asは毒性の問題がある。したがって、網目形成酸化物を構成する元素は、B、Si、P、Ge、SbおよびVより選ばれる少なくとも1種、特に、B、SiおよびPより選ばれる少なくとも1種が好ましい。
本発明の酸化物ガラスは、B2O3を主たる網目形成酸化物とし、ZnOを主たる網目修飾酸化物とする、いわゆるホウ酸亜鉛系ガラスとすることができる。ZnOが多いほど軟化温度が低くなるが、結晶化しやすくなる。ここでいう“主たる”とは、原子%換算で最も多いという意味である。
軟化温度等の特性を調整するため、アルカリ土類金属および他の成分を加える。必須元素としてのアルカリ土類金属は、ガラスの軟化温度を下げるとともに、熱膨張係数を調整する役割を持つ。好適には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、アルカリ土類金属の含有率の合計を15原子%以上25原子%以下とすることである。このようにすれば、ガラスの熱膨張係数を好適な範囲、例えば65×10-7/℃〜95×10-7/℃に調整することが容易となる。
アルカリ土類金属としては、Ba、Sr、CaおよびMgを例示することができる。これらの元素は、BaO、SrO、CaOおよびMgOといった酸化物の形態でガラスに含まれる。ガラスの軟化温度を低減する効果は、Ba、Sr、CaおよびMgの順で高いため、一見するとBaを単独で用いればよいと考えられる。しかしながら、Baを多量に使用するとガラスが結晶化しやすくなるため、アルカリ土類金属としては、Baと、SrおよびCaから選ばれる少なくとも一方とを用いることが望ましい。Mgに関して言えば、軟化温度の低減効果をあまり見込めないので、単独での使用は避けた方がよい。
以上のように、本発明の酸化物ガラスは、B、Zn、アルカリ土類金属(Ba、Sr、Ca)を必須元素とする。
以下、本発明の酸化物ガラスに添加することができる任意成分について説明する。添加することができる任意成分としては、Al、Si、PおよびBiを例示することができる。これらの任意成分は、Al2O3、SiO2、P2O5およびBi2O3といった酸化物の形態でガラスに含まれる。ただし、上記酸化物の例示は、元素の価数を限定するものではない。例えば、Biは3価以外の価数でもガラス中に存在しうる。
Alは、少量添加することにより、ガラスの軟化温度を低くするとともに結晶化開始温度を高くする効果を奏する。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Alの含有率を3原子%以下、例えば0.1原子%以上3原子%以下とすることが望ましい。Alの含有率が大きすぎると、ガラスの軟化温度が逆に高くなってしまうので、上記範囲内にて少量使用するのがよい。
Pは、少量添加することにより、ガラスの結晶化開始温度を高くするとともに、同じ温度であれば、生成する結晶の量を減ずる効果を奏する。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Pの含有率を3原子%以下、例えば0.1原子%以上3原子%以下とすることが望ましい。Pの含有率が大きすぎると、ガラスの軟化温度が高くなってしまうので、上記範囲内にて少量使用するのがよい。
Siは、少量添加することにより、ガラスの結晶化開始温度を高くする効果を奏する。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Siの含有率を5原子%以下、例えば0.1原子%以上5原子%以下とすることが望ましい。Siの含有率が大きすぎると、ガラスの軟化温度が高くなってしまうので、上記範囲内にて少量使用するのがよい。
Biは、少量添加することにより、ガラスの軟化温度を下げる効果を奏する。酸化ビスマス(Bi2O3)については、高価である、ガラスを着色させる、ガラスの特性不安定化を招くといった種々の問題がある。そのため、可能な限り使用を避けることが望ましい。しかしながら、Biが奏する軟化温度低減効果は高いため、ガラスの軟化温度をもう少し下げたい場合などには少量使用してもよい。具体的には、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Biの含有率を5原子%以下、例えば0.1原子%以上5原子%以下に制限すれば、Bi特有の問題が顕著とならない。
以上のとおり、本発明の酸化物ガラスは、Al、Si、PおよびBiより選ばれる少なくとも1種をさらに含有していてもよい。これら任意成分は、上記の上限を超えない範囲で添加するとよい。
本発明の酸化物ガラスには、軟化温度および熱膨張係数の調整、ならびにガラスの安定化および化学的耐久性の向上等の目的で、他の任意成分を使用してもよい。具体的には、Ti、Zr、La、Nb、TeおよびAgを例示することができる。これらの任意成分は、TiO2、ZrO2、La2O3、Nb2O5、TeO2およびAgOといった酸化物の形態でガラスに含まれる。また、これらの任意成分の含有率の合計は、全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、5原子%以下(より好ましくは3原子%以下、さらに好ましくは1原子%未満)の範囲とするのがよい。
本発明の酸化物ガラスの好ましい組成範囲を、全ての構成元素から酸素を除いた元素群に対する、当該成分の含有率を用いて以下に例示する。カッコ内は、その成分のより好ましい含有率の範囲である。
B :40〜50原子%(42〜48原子%),
Zn:25〜35原子%(27〜33原子%),
Ba:0〜25原子%(8〜15原子%),
Sr:0〜25原子%(8〜15原子%),
Ca:0〜25原子%(8〜15原子%),
Al:0〜3原子%(0.2〜2原子%),
P :0〜3原子%(0.2〜2原子%),
Si:0〜5原子%(0.2〜3原子%),
Bi:0〜5原子%(0.2〜3原子%),
ただし、Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種を含有すること、1.02≦(残りの元素の含有率の合計)/(網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計)≦1.20であること。
B :40〜50原子%(42〜48原子%),
Zn:25〜35原子%(27〜33原子%),
Ba:0〜25原子%(8〜15原子%),
Sr:0〜25原子%(8〜15原子%),
Ca:0〜25原子%(8〜15原子%),
Al:0〜3原子%(0.2〜2原子%),
P :0〜3原子%(0.2〜2原子%),
Si:0〜5原子%(0.2〜3原子%),
Bi:0〜5原子%(0.2〜3原子%),
ただし、Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種を含有すること、1.02≦(残りの元素の含有率の合計)/(網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計)≦1.20であること。
なお、Ba+Sr+Ca=15〜25原子%であることが望ましい。上記の組成の例示は、その他の成分の含有を排除するものではない。上記に例示していない成分は、その含有率の合計が10原子%以下(好ましくは3原子%以下)であることが望ましい。
(酸化物ガラスの誘電率について)
本発明の酸化物ガラスは、実質的にアルカリ金属を含まないので、AgまたはCuを含む電極等を直接被覆する誘電体材料として用いても、黄変を生じることがないという特徴を持つ。また、これまで説明してきた組成範囲とする場合、誘電率が概ね10前後となる。10前後の誘電率といえば、従来用いられてきたPb系ガラスの誘電率(およそ12〜13)よりも低い。したがって、本発明の酸化物ガラスをPDP等の表示装置に使用する場合には、低消費電力化を期待できると同時に、酸化物ガラスからなる誘電体層を極端に薄くする必要性がなくなる。
本発明の酸化物ガラスは、実質的にアルカリ金属を含まないので、AgまたはCuを含む電極等を直接被覆する誘電体材料として用いても、黄変を生じることがないという特徴を持つ。また、これまで説明してきた組成範囲とする場合、誘電率が概ね10前後となる。10前後の誘電率といえば、従来用いられてきたPb系ガラスの誘電率(およそ12〜13)よりも低い。したがって、本発明の酸化物ガラスをPDP等の表示装置に使用する場合には、低消費電力化を期待できると同時に、酸化物ガラスからなる誘電体層を極端に薄くする必要性がなくなる。
PDP等の表示装置のいっそうの低消費電力化を図るために、電極に直接接する第1ガラス層を本発明の酸化物ガラスで形成し、その第1ガラス層上に、第1ガラス層を構成する酸化物ガラスよりも誘電率の低い第2のガラス(例えば、アルカリ金属を含むガラス)で第2ガラス層を形成した構造を提案することができる。このような積層構造を採用することにより、全体として低誘電率でありながら、黄変を生じない電極被覆用ガラスを実現することが可能である。
(本発明の酸化物ガラスを好適に採用できるディスプレイパネルについて)
次に、本発明の酸化物ガラスを用いたディスプレイとして、プラズマディスプレイパネル(PDP)を例に挙げて説明する。図1は、PDPの主要部の断面斜視図である。図2は、図1中のII−II断面図である。本実施形態に示すPDP100は、AC面放電型である。
次に、本発明の酸化物ガラスを用いたディスプレイとして、プラズマディスプレイパネル(PDP)を例に挙げて説明する。図1は、PDPの主要部の断面斜視図である。図2は、図1中のII−II断面図である。本実施形態に示すPDP100は、AC面放電型である。
PDP100は、互いに貼り合わされた前面板1と背面板8とを備えている。前面板1は、前面ガラス基板2と、その内側面(放電空間14側の面)に形成された表示電極5と、表示電極5を覆う誘電体層6と、誘電体層6を覆う保護層7とを含む。表示電極5は、透明電極3上に細いバス電極4を積層した構造を持つ。透明電極3は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化スズを主体として構成されている。バス電極4は、Ag、CuおよびAlから選ばれる1種を主体として構成されている。中でもAgは、耐酸化性に優れるので推奨される。表示電極5を覆う誘電体層6に、本発明の酸化物ガラスを用いることができる。
背面板8は、背面ガラス基板9と、その片面に形成したアドレス電極10と、アドレス電極10を覆う誘電体層11と、誘電体層11の上面に設けられた隔壁12と、隔壁12,12同士の間に形成された蛍光体層13とを含む。蛍光体層13は、順番に配列した赤色蛍光体層13(R)、緑色蛍光体層13(G)および青色蛍光体層13(B)を含む。背面板8の誘電体層11も、本発明の酸化物ガラスで形成することができる。
蛍光体層13を構成する蛍光体としては、例えば、青色蛍光体としてBaMgAl10O17:Eu、緑色蛍光体としてZn2SiO4:Mn、赤色蛍光体としてY2O3:Euを用いることができる。
前面板1と背面板8とは、表示電極5の長手方向とアドレス電極10の長手方向とが互いに直交する配置で、封着部材(図示せず)を用いて互いに接合されている。
放電空間14には、He、XeおよびNeから選ばれる少なくとも1種の希ガス成分からなる放電ガスが66.5kPa〜79.8kPa(500Torr〜600Torr)程度の圧力で封入されている。
表示電極5とアドレス電極10は、それぞれ外部の駆動回路(図示せず)と接続され、駆動回路から印加される電圧によって放電空間14で放電を発生させる。放電に伴って発生する短波長(波長147nm)の紫外線で蛍光体層13に含まれる蛍光体が励起されて可視光の発光が生ずる。
誘電体層6は、次のようにして形成することができる。まず、本発明の酸化物ガラスが得られるように調製した原料粉末に、適量のバインダおよび溶剤を添加することによってガラスペーストとする。このガラスペーストを、前面ガラス基板2上に形成された表示電極5の上から均一の厚さに塗工する。塗工したガラスペーストを前面ガラス基板2および表示電極5とともに焼成(同時焼成)する。このようにして、誘電体層6を形成することができる。なお、焼成は、同時焼成ではなく、表示電極5の焼成後、ガラスペーストを塗布して焼成する、個別焼成でもかまわない。
また、ガラスペーストは、原料粉末、溶剤および樹脂(バインダ)の他に添加剤を含んでいてもよい。例えば、界面活性剤、現像促進剤、接着助剤、ハレーション防止剤、保存安定剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤および顔料染料など、種々の目的に応じた添加剤を使用することができる。
ガラスペーストに含まれる樹脂(バインダ)の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点から、例えばニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンfグリコール、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂およびメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
ガラスペーストに含まれる溶剤の種類は、原料粉末との反応性が低いものであれば、特に限定されない。化学的安定性、コストおよび安全性などの観点、ならびに、バインダとの相溶性の観点から、例えば、酢酸ブチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸のエステル類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル(酪酸メチル)、ブタン酸エチル(酪酸エチル)、ブタン酸プロピル(酪酸プロピル)、ブタン酸イソプロピル(酪酸イソプロピル)等の脂肪族カルボン酸のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類;テルピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシブチルブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、安息香酸エチル、酢酸ベンジル等のエステル類;N−メチルピロリドン、NN−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機溶剤を使用することができる。
ガラスペーストを塗工する方法としては、スクリーン法、バーコーター法、ロールコーター法、ダイコーター法およびドクターブレード法を例示できる。塗工したガラスペーストは、得るべきガラス(誘電体層6)の軟化温度よりも高く、かつ前面ガラス基板2の歪み点よりも低い雰囲気温度に調節した焼成炉内で焼成する。本発明の酸化物ガラスで形成するべき誘電体層6の軟化温度と、前面ガラス基板2の歪み点とが非常に近接している場合、焼成が困難となる。したがって、前面ガラス基板2の歪み点と誘電体層6の軟化温度の差が、例えば5℃以上(より好ましくは10℃以上)であることが望ましい。なお、上記ガラスペーストを用いて自立性を有するグリーンシートを作製し、そのグリーンシートを前面ガラス基板2に貼り付けて焼成するようにしてもよい。
また、誘電体層6の厚さは、絶縁性と光透過性を両立させるために、20μm〜50μm程度とすることが好ましい。
次に、前面ガラス基板に設けた誘電体層が2層構造であるPDPについて説明する。図3に示すPDP101は、前面ガラス基板2上の誘電体層15,16の部分が第1誘電体層15と第2誘電体層16との2層構造になっている。その他の点は、図1および図2に示したPDPと同様の構成である。
図3に示すように、第1誘電体層15は表示電極5(透明電極3およびバス電極4)を被覆している。第2誘電体層16は、前面ガラス基板2および/または表示電極5との間に第1誘電体層15が位置するように前記第1誘電体層15の上に配置されている。したがって、前面ガラス基板2、第1誘電体層15および第2誘電体層16が厚さ方向にこの順番で並ぶ。
2層構造の誘電体層とする場合、表示電極5に直接接する第1誘電体層15を本発明の酸化物ガラスで形成し、第2誘電体層16を、本発明の酸化物ガラスよりも誘電率の低いガラスで形成することができる。一般に、ガラスの誘電率を下げるにはアルカリ金属を添加するが、アルカリ金属は黄変および耐圧低下の問題をガラスにもたらす。ところが、図3のPDP101によれば、表示電極5(透明電極3およびバス電極4)に直接接触している第1誘電体層15はアルカリ金属を含まないので、AgまたはCuのコロイド析出による黄変および耐圧低下の問題が生じない。さらに、第1誘電体層15は、AgまたはCuのイオンが第2誘電体層16に拡散することを阻止する。したがって、アルカリ金属を含む低誘電率ガラスで第2誘電体層16を形成した場合でも、黄変および耐圧低下といった問題が第2誘電体層16に生じない。
本発明の酸化物ガラスは誘電率を9.5〜11と、一般的なPb系ガラスまたはBi系ガラスより低く調整することができる。そのため、図1および図2で示したように、表示電極5を覆う誘電体層6を本発明の酸化物ガラスにて形成すれば、この誘電体層6をたとえ単層とした場合でも、十分な低誘電率化を実現できる。また、図3に示すごとく、本発明の酸化物ガラスからなる第1誘電体層15と、より低い誘電率のガラスからなる第2誘電体層16との積層構造を採用することにより、誘電体層全体としていっそうの低誘電率化を図ることができる。
図3に示す2層構造の誘電体層15,16は、第1誘電体層15を形成した後に、第2誘電体層16用のガラスペーストを塗工および焼成することによって形成することができる。このような手順を採用するためには、第1誘電体層15の軟化温度が、第2誘電体層16の軟化温度よりも高いことが必要である。第2誘電体層16はアルカリ金属を含有していてもよいので、積極的にアルカリ金属を添加して低軟化温度化を図ったガラスを使用することができる。もちろん、第1誘電体層15の軟化温度が、前面ガラス基板2の耐熱温度よりも低くなるようにする。
また、表示電極5(透明電極3およびバス電極4)と第2誘電体層16との絶縁、および界面反応防止を確保するため、第1誘電体層16の厚さは1μm以上とすることが好ましい。さらに、高い絶縁性と高い可視光透過率を両立させるために、第1誘電体層15の厚さと第2誘電体層16の厚さとの合計が20μm〜50μmであることが好ましい。
なお、本発明の酸化物ガラスを好適に採用できるPDPとしては、図1〜図3に示すような面放電型のものが代表的であるが、これに限定されるものではなく、対向放電型にも適用できる。また、AC型に限定されるものではなく、DC型のPDPであっても誘電体層を備えたものに対して本発明の酸化物ガラスを適用することができる。
[実施例1]
本発明の酸化物ガラスの出発原料として、下記の試薬特級以上の金属酸化物粉末または炭酸塩粉末を準備した。Si:SiO2,B:B2O3,P:P2O5,Ba:BaCO3,Sr:SrCO3,Ca:CaCO3,Mg:MgO,Zn:ZnO,Al:Al2O3,Bi:Bi2O3
本発明の酸化物ガラスの出発原料として、下記の試薬特級以上の金属酸化物粉末または炭酸塩粉末を準備した。Si:SiO2,B:B2O3,P:P2O5,Ba:BaCO3,Sr:SrCO3,Ca:CaCO3,Mg:MgO,Zn:ZnO,Al:Al2O3,Bi:Bi2O3
これらの原料粉末を、酸素を除き、各元素の含有量が原子%換算で表1に示す通りとなるように秤量および混合した。その後、混合した原料粉末を白金坩堝に入れ、1100℃〜1200℃の電気炉中で1時間溶融した。得られた融液を、真鍮板にてプレスすることにより急冷し、ガラスカレットを作製した。このガラスカレットを粉砕し、マクロ型示差熱分析計を用いて、軟化温度Ts、および結晶化開始温度Txを測定した。
次に、作製したガラスカレットを再溶融して4mm×4mm×20mmのロッドを作製し、熱機械分析計を用いて、30℃〜300℃における熱膨張係数αを測定した。さらに、ガラスカレットを再溶融して20mm×20mm×厚さ1mmのガラス板を作製し、そのガラス板の表裏にAuを蒸着して電極を形成した。そして、電極にLCRメータを接続し、周波数1KHz、25℃にて比誘電率εを測定した。結果を表1に示す。
表1は、金属元素およびホウ素の含有率の合計に対する、各元素の含有量を原子%にて示すとともに、ホウ素の含有率をX 原子%、残りの金属元素の含有率の合計をY 原子%として、X/Yの値を示している。以下、各試料について検討する。
(試料No.1〜No.10について)
Y/Xが1.02未満の試料No.1,2は、軟化温度Tsが595℃よりも大きかった。すなわち、No.1,2の組成を持つガラス層をガラスペーストの焼成により得るには、595℃を越える雰囲気温度が必要である。ところが、ディスプレイパネルに広く採用されているソーダライムガラス製の基板は、耐熱温度(歪み点)が600℃程度である。したがって、そのような耐熱温度のガラス基板上に、No.1,2の組成を持つガラス層(誘電体層)を形成することは困難である。
Y/Xが1.02未満の試料No.1,2は、軟化温度Tsが595℃よりも大きかった。すなわち、No.1,2の組成を持つガラス層をガラスペーストの焼成により得るには、595℃を越える雰囲気温度が必要である。ところが、ディスプレイパネルに広く採用されているソーダライムガラス製の基板は、耐熱温度(歪み点)が600℃程度である。したがって、そのような耐熱温度のガラス基板上に、No.1,2の組成を持つガラス層(誘電体層)を形成することは困難である。
また、Y/Xが1.2を越える試料No.10は、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差が6℃と小さかった。軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差が10℃を大幅に下回るほど小さい場合、焼成炉内を軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの間の温度に制御することが難しくなる。また、焼成炉内の温度バラつきによって結晶化が進行してしまう可能性もある。結晶化が進むと、可視光透過率の高いガラスを得ることが困難となる。
これに対して、Y/Xが1.02から1.20の試料No.3〜No.9は、軟化温度Tsが590℃以下、かつ軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差が10℃以上であった。軟化温度Tsが十分に低いので、No.3〜No.9の組成のガラス層を、安価なソーダライムガラス製の基板上に形成することが可能である。また、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差が10℃以上と広いので、結晶化を進行させることなく高い可視光透過率のガラスを容易に製造できる。
(試料No.6およびNo.11〜No.16について)
PDPのような表示装置には、ソーダライムガラス製または高歪点ガラス製の基板が広く採用されている。この種のガラス基板上に本発明の酸化物ガラスによる層を形成するためには、ガラス基板の熱膨張係数と本発明の酸化物ガラスの熱膨張係数とが、なるべく近い方がよい。一般に、上記したガラス基板の熱膨張係数は、概ね75×10-7/℃〜85×10-7/℃(30℃〜300℃)である。したがって、本発明の酸化物ガラスの好ましい熱膨張係数としては、例えば65×10-7/℃〜95×10-7/℃である。
PDPのような表示装置には、ソーダライムガラス製または高歪点ガラス製の基板が広く採用されている。この種のガラス基板上に本発明の酸化物ガラスによる層を形成するためには、ガラス基板の熱膨張係数と本発明の酸化物ガラスの熱膨張係数とが、なるべく近い方がよい。一般に、上記したガラス基板の熱膨張係数は、概ね75×10-7/℃〜85×10-7/℃(30℃〜300℃)である。したがって、本発明の酸化物ガラスの好ましい熱膨張係数としては、例えば65×10-7/℃〜95×10-7/℃である。
表1に示すように、アルカリ土類金属の含有率の合計が15原子%未満である試料No.11およびNo.12は、熱膨張係数αが65×10-7/℃よりも若干小さかった。一方、アルカリ土類金属の含有率の合計が25原子%を越える試料No.15およびNo.16は、熱膨張係数αが95×10-7/℃よりも若干大きかった。これらの結果から、アルカリ土類金属の含有率の合計は、15原子%以上25原子%以下とするのがより望ましいといえる。このようにすれば、熱膨張係数のマッチングを容易に図ることができる。
(試料No.5およびNo.17〜No.26について)
試料No.17〜No.20は、アルカリ土類金属の種類を互いに異ならせた試料である。試料No.17〜No.20の軟化温度測定の結果から傾向が分かるように、軟化温度Tsを下げる効果が高いアルカリ土類金属は、Ba、Sr、Ca、Mgの順番である。Baを単独で用いた試料No.17は、軟化温度Tsは十分低かったが、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差は10℃とあまり大きくなかった。これに対し、Baと、SrまたはCaを併用した試料No.5およびNo.21〜No.25では、Ba単独より軟化温度Tsは若干高くなったが、結晶化開始温度Txも高くなっており、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差は結果的に拡大した。また、Baを使用せず、SrとCaとを併用した試料No.26についても、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差がやや小さかった。つまり、低い軟化温度Tsと高い結晶化開始温度Txの両立を図るには、下記(1)(2)を遵守することがより望ましいことが分かる。
(1)アルカリ土類金属としてBaを用いる。
(2)Baの含有率を、全アルカリ土類金属中の50原子%以上とし、かつSrおよびCaから選ばれる少なくとも一方をBaと併用する。
試料No.17〜No.20は、アルカリ土類金属の種類を互いに異ならせた試料である。試料No.17〜No.20の軟化温度測定の結果から傾向が分かるように、軟化温度Tsを下げる効果が高いアルカリ土類金属は、Ba、Sr、Ca、Mgの順番である。Baを単独で用いた試料No.17は、軟化温度Tsは十分低かったが、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差は10℃とあまり大きくなかった。これに対し、Baと、SrまたはCaを併用した試料No.5およびNo.21〜No.25では、Ba単独より軟化温度Tsは若干高くなったが、結晶化開始温度Txも高くなっており、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差は結果的に拡大した。また、Baを使用せず、SrとCaとを併用した試料No.26についても、軟化温度Tsと結晶化開始温度Txとの差がやや小さかった。つまり、低い軟化温度Tsと高い結晶化開始温度Txの両立を図るには、下記(1)(2)を遵守することがより望ましいことが分かる。
(1)アルカリ土類金属としてBaを用いる。
(2)Baの含有率を、全アルカリ土類金属中の50原子%以上とし、かつSrおよびCaから選ばれる少なくとも一方をBaと併用する。
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、各元素の含有量が原子%換算で表2の通りとなるように、ガラスカレットおよびガラスロッドを作製した。そして、実施例1と同様の方法で、軟化温度Ts、結晶化開始温度Tx、熱膨張係数αおよび比誘電率εを測定した。結果を表2に示す。
実施例1と同様の方法で、各元素の含有量が原子%換算で表2の通りとなるように、ガラスカレットおよびガラスロッドを作製した。そして、実施例1と同様の方法で、軟化温度Ts、結晶化開始温度Tx、熱膨張係数αおよび比誘電率εを測定した。結果を表2に示す。
表2は、各元素の含有量を原子%にて示すとともに、網目形成酸化物を構成する元素であるB、PおよびSiの含有率の合計をX 原子%、残りの金属元素の含有率の合計をY 原子%として、X/Yの値を示している。比較のため、実施例1の試料No.6を併記している。以下、各試料について検討する。
(試料No.27〜No.31について)
試料No.6およびNo.27〜No.31の結果から分かるように、Alを少量添加すると、軟化温度Tsが低下するとともに結晶化開始温度Txが上昇した。しかしながら、Alの含有率が3原子%を超える試料No.31は、594℃とやや高い軟化温度Tsを示した。これらの結果から、Alを使用する場合には、その含有率を3原子%以下に制限し、軟化温度Tsの過昇を防止することがより望ましいといえる。
試料No.6およびNo.27〜No.31の結果から分かるように、Alを少量添加すると、軟化温度Tsが低下するとともに結晶化開始温度Txが上昇した。しかしながら、Alの含有率が3原子%を超える試料No.31は、594℃とやや高い軟化温度Tsを示した。これらの結果から、Alを使用する場合には、その含有率を3原子%以下に制限し、軟化温度Tsの過昇を防止することがより望ましいといえる。
(試料No.32〜No.36について)
試料No.6およびNo.32〜No.36の結果から分かるように、Pの添加に応じて軟化温度Tsが上昇したが、同時に結晶化開始温度Txも上昇した。また、示差熱分析における結晶化ピークが徐々にブロードになることも確認した。示差熱分析における結晶化ピークのブロード化は、結晶生成量の減少を意味するので、歓迎するべき現象ではある。しかしながら、Pの含有率が3原子%を超える試料No.36は、軟化温度Tsが593℃とやや高かった。これらの結果から、ガラスの透明性を高めるためにPを使用する場合、その含有率を3原子%以下に制限することがより望ましいといえる。
試料No.6およびNo.32〜No.36の結果から分かるように、Pの添加に応じて軟化温度Tsが上昇したが、同時に結晶化開始温度Txも上昇した。また、示差熱分析における結晶化ピークが徐々にブロードになることも確認した。示差熱分析における結晶化ピークのブロード化は、結晶生成量の減少を意味するので、歓迎するべき現象ではある。しかしながら、Pの含有率が3原子%を超える試料No.36は、軟化温度Tsが593℃とやや高かった。これらの結果から、ガラスの透明性を高めるためにPを使用する場合、その含有率を3原子%以下に制限することがより望ましいといえる。
(試料No.37〜No.41について)
試料No.6およびNo.37〜No.41の結果から分かるように、Siの添加に応じて軟化温度Tsが上昇したが、同時に結晶化開始温度Tsも上昇した。この結果から、網目形成酸化物を構成する元素としてBとともにSiを使用する場合には、Siの含有率を5原子%以下に制限することがより望ましいといえる。なお、試料No.46に示すように、Al、PおよびSiは、同時に使用して問題ない。
試料No.6およびNo.37〜No.41の結果から分かるように、Siの添加に応じて軟化温度Tsが上昇したが、同時に結晶化開始温度Tsも上昇した。この結果から、網目形成酸化物を構成する元素としてBとともにSiを使用する場合には、Siの含有率を5原子%以下に制限することがより望ましいといえる。なお、試料No.46に示すように、Al、PおよびSiは、同時に使用して問題ない。
(試料No.42〜No.45について)
試料No.6およびNo.42〜No.45の結果から分かるように、Biの添加に応じて軟化温度Tsは低下するが、同時に誘電率εが増大する傾向を示した。また、Biの含有率が5原子%を超える試料No.45は、目視にてガラスの着色を確認した。これらの結果から、Biは積極的に使用しない方が望ましいといえるが、含有率を5原子%以下に制限すれば、使用不能というわけではない。
試料No.6およびNo.42〜No.45の結果から分かるように、Biの添加に応じて軟化温度Tsは低下するが、同時に誘電率εが増大する傾向を示した。また、Biの含有率が5原子%を超える試料No.45は、目視にてガラスの着色を確認した。これらの結果から、Biは積極的に使用しない方が望ましいといえるが、含有率を5原子%以下に制限すれば、使用不能というわけではない。
(試料No.47〜No.50について)
試料No.47〜No.50は、Zn、BおよびAlの含有率の調整によってY/Xを変化させた試料である。試料No.47〜No.50の結果から分かるように、Y/Xが1.02以上1.20以下でない場合、軟化温度Tsが高すぎたり、結晶化開始温度Txが低くなりすぎたりした。
試料No.47〜No.50は、Zn、BおよびAlの含有率の調整によってY/Xを変化させた試料である。試料No.47〜No.50の結果から分かるように、Y/Xが1.02以上1.20以下でない場合、軟化温度Tsが高すぎたり、結晶化開始温度Txが低くなりすぎたりした。
[実施例3]
実施例1と同様の原料粉末を、原子%換算でBa:Sr:Zn:B:Al:P:Si=10:10:31:47.1:0.8:0.8:0.4となるように秤量および混合した。混合原料粉末を白金坩堝に入れ、電気炉中1150℃で1時間溶融した後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製した。このガラスカレットを、乾式ボールミルによって粉砕してガラス粉末を作製した。得られたガラス粉末の平均粒径を市販の粒度計によって測定したところ、その平均粒径は約5μmであった。
実施例1と同様の原料粉末を、原子%換算でBa:Sr:Zn:B:Al:P:Si=10:10:31:47.1:0.8:0.8:0.4となるように秤量および混合した。混合原料粉末を白金坩堝に入れ、電気炉中1150℃で1時間溶融した後、ツインローラー法によってガラスカレットを作製した。このガラスカレットを、乾式ボールミルによって粉砕してガラス粉末を作製した。得られたガラス粉末の平均粒径を市販の粒度計によって測定したところ、その平均粒径は約5μmであった。
次に、作製したガラス粉末と、バインダとしてのエチルセルロースと、溶剤としてのα−ターピネオールとを、3本ロールにて混合してガラスペーストを得た。
次に、厚さ2.8mmの平坦なソーダライムガラス(耐熱温度:600℃、熱膨張係数:82.7×10-7/℃(30℃〜300℃))からなる前面ガラス基板の主面上に、ITOの材料を図2に示すような所定パターンで塗工して乾燥炉内で乾燥させた。これにより、ITO膜付きガラス基板を得た。このITO膜付きガラス基板に対し、Ag粉末と有機ビヒクルとの混合物であるAgペーストを、ITO膜に重なるようにスクリーン印刷法でライン状に塗工した。そして、雰囲気温度を590℃に保った焼成炉内に前面ガラス基板を導入し、Agペーストを焼成して表示電極を形成した。
次に、表示電極を形成した前面ガラス基板に対し、予め調製しておいたガラスペーストをブレードコーター法にて塗工した。その後、前面ガラス基板を雰囲気温度90℃の焼成炉内に30分間保持してガラスペーストを乾燥させ、さらに雰囲気温度を585℃に昇温して10分間焼成することにより誘電体層(ガラス層)を形成した。前面ガラス基板に形成した誘電体層上に酸化マグネシウム(MgO)を電子ビーム蒸着法によって蒸着し保護層を形成した。このようにして、図2に示すPDP100の前面板1を得た。
他方、以下の公知方法により背面板を作製した。まず、ソーダライムガラスからなる背面ガラス基板上にスクリーン印刷法によってAgを主体とするアドレス電極をストライプ状に形成した。続いて、アドレス電極を覆う誘電体層を本発明の酸化物ガラスによって形成した。次に、隣り合うアドレス電極間に位置するように、誘電体層上に隔壁を形成した。隔壁は、スクリーン印刷法によってBi系ガラスを所定パターンに印刷する工程と、印刷したパターンを焼成する工程とを繰り返すことによって形成した。次に、隣り合う隔壁間に露出している誘電体層の表面に、赤(R)、緑(G)、青(B)の蛍光体ペーストを塗工し、乾燥および焼成して蛍光体層を形成した。このようにして、図2に示すPDP100の背面板8を得た。
上記のようにして作製した前面板1と背面板8とを、封着ガラスを用いて貼り合わせた。そして、放電空間の内部を高真空(約1×10-4Pa)に排気したのち、所定の圧力(66.5kPa〜79.8kPa)となるようにNe−Xe系放電ガスを封入した。このようにして、PDP100を作製した。
作製したPDP100にコントローラを接続して動作確認を行った。その結果、前面板に着色等が生じず、非常にクリアな表示を確認できた。
[実施例4]
実施例3と同様の方法で、図3の例に示すPDP101を作製した。まず、図3中に示す第1誘電体層15用に、Ba−Sr−Zn−B−Al−P−Si−Oガラスペーストを作製した。第2誘電体層16用に、アルカリ金属を含み、比誘電率が7である、K−Zn−B−Si−O系ガラスペーストを作製した。
実施例3と同様の方法で、図3の例に示すPDP101を作製した。まず、図3中に示す第1誘電体層15用に、Ba−Sr−Zn−B−Al−P−Si−Oガラスペーストを作製した。第2誘電体層16用に、アルカリ金属を含み、比誘電率が7である、K−Zn−B−Si−O系ガラスペーストを作製した。
これらのペーストを用いて、実施例3と同様の方法で、前面板の誘電体層が二層構造であるPDPパネル101を作製した。なお、第1誘電体層15は、590℃で焼成して厚さ約20μm、第2誘電体層16は、580℃で焼成して厚さ約20μmとした。作製したPDP101が、前面板に着色を生じず、問題なく動作することを確認した。
本発明の酸化物ガラスは、電極用絶縁被覆ガラス、特にプラズマディスプレイパネルの表示電極やアドレス電極を被覆するための誘電体層の形成に好適に採用できる。
1 前面板
2 前面ガラス基板
3 透明電極
4 バス電極
5 表示電極
6 誘電体層
7 誘電体保護層
8 背面板
9 背面ガラス基板
10 アドレス電極
11 誘電体層
12 隔壁
15 第1誘電体層(第1ガラス層)
16 第2誘電体層’(第2ガラス層)
100,101 プラズマディスプレイパネル(PDP)
2 前面ガラス基板
3 透明電極
4 バス電極
5 表示電極
6 誘電体層
7 誘電体保護層
8 背面板
9 背面ガラス基板
10 アドレス電極
11 誘電体層
12 隔壁
15 第1誘電体層(第1ガラス層)
16 第2誘電体層’(第2ガラス層)
100,101 プラズマディスプレイパネル(PDP)
Claims (11)
- 実質的に、Pbおよびアルカリ金属を含有せず、
Ba、SrおよびCaからなるアルカリ土類金属群より選ばれる少なくとも1種と、
Znと、
Bとを含有し、
全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、網目形成酸化物を構成する元素の含有率の合計がX 原子%、それ以外の元素の含有率の合計がY 原子%であるとき、次式を満足することを特徴とする酸化物ガラス。
1.02≦Y/X≦1.20 - 全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Ba、SrおよびCaの含有率の合計が15原子%以上25原子%以下である請求項1記載の酸化物ガラス。
- アルカリ土類金属として、Baと、SrおよびCaの少なくとも一方とを含有する請求項1または請求項2記載の酸化物ガラス。
- Al、Si、PおよびBiより選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1記載の酸化物ガラス。
- Alをさらに含有し、
全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Alの含有率が0.1原子%以上3原子%以下である請求項4記載の酸化物ガラス。 - Pをさらに含有し、
全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Pの含有率が0.1原子%以上3原子%以下である請求項4記載の酸化物ガラス。 - Siをさらに含有し、
全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Siの含有率が0.1原子%以上5原子%以下である請求項4記載の酸化物ガラス。 - Biをさらに含有し、
全ての構成元素から酸素を除いた元素群のうち、Biの含有率が0.1原子%以上5原子%以下である請求項4記載の酸化物ガラス。 - 請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の酸化物ガラスを電極被覆用ガラスとして用いたことを特徴とするディスプレイパネル。
- 前記酸化物ガラスで被覆された電極がAgを主成分とする請求項9記載のディスプレイパネル。
- 基板と、前記基板上に形成された電極と、前記電極を被覆する第1ガラス層と、前記電極との間に前記第1ガラス層が位置するように前記第1ガラス層の上に配置された第2ガラス層とを備え、前記第1ガラス層が請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の酸化物ガラスからなり、前記第2ガラス層がアルカリ金属を含有するとともに前記酸化物ガラスよりも低誘電率のガラスからなることを特徴とするディスプレイパネル。
Priority Applications (1)
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JP2005265959A JP2007076947A (ja) | 2005-09-13 | 2005-09-13 | 酸化物ガラスおよびこれを用いたディスプレイパネル |
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