JP2007077277A - 亜鉛粉末含有スラリー及び水性コーティング組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】 アルカリケイ酸塩を用いず安定性が高い亜鉛粉末含有スラリーを得ること、及び水性コーティング組成物において基材表面の酸化膜等を除去しなくても高い防錆性が得られること。
【解決手段】 イオン交換水にアミノ基含有トリメトキシシランを添加して、これに界面活性剤と亜鉛粉末を混合して得られる亜鉛粉末含有スラリーは、極めて安定性が高い。かかる亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを添加して得られる水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料は、酸化膜を有する軟鋼線材に塗布しても、塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与し、塗膜中の亜鉛粉末が軟鋼線材素地との通電が確保し易くなり犠牲防食作用を発揮するため、高い防錆性を得ることができ、また塗装面への密着性にも優れた塗膜となる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、水性コーティング組成物を製造するための基本技術である亜鉛粉末含有スラリー、及びその亜鉛粉末含有スラリーを用いて製造される水性コーティング組成物に関するものである。
亜鉛の鉄に対する犠牲防食作用を利用した塗料はジンクリッチ塗料として広く利用されているが、有機溶剤を含有するものが主であり、環境に悪影響を与えるという問題がある。また、有機溶剤を用いないジンクリッチ塗料においては、亜鉛と水の混合による水素ガスの発生という問題や、防錆性能に劣るという問題がある。さらに、クロム酸をバインダーとしたジンクリッチ塗料も広く利用されているが、人体に有害なクロムを含有するために、やはり環境に悪影響を与えるという問題がある。
このように、実用的なジンクリッチ塗料は有機溶媒あるいはクロムを含有していて環境に悪影響を与えるという問題点を抱えている。一方、水性ジンクリッチ塗料は実用的な段階に至っていないという状態である。そこで、本発明者らは先に、水性ジンクリッチ塗料の製造方法として、亜鉛粉末をアルカリケイ酸塩の溶液にイオン交換水を添加して加水分解させて重合度を低下させたものと混合して、亜鉛粉末をシリカ被膜で緻密に覆うことによって、極めて安定な亜鉛粉末含有スラリーが得られるという発明について特許文献1に示す特許出願を行っている。
特開2004−2637号公報
この特許文献1に記載の技術においては、アルカリケイ酸塩を用いて安定性の高い亜鉛粉末含有スラリーを得ているが、アルカリケイ酸塩を用いることなく、他の方法で極めて安定な亜鉛粉末含有スラリーが得られることが要望されている。また、この特許文献1に記載の技術においては、亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとしてアルカリケイ酸塩を用いて水性コーティング組成物(水性ジンクリッチ塗料)を得ているが、この水性コーティング組成物は冷延鋼板等の表面に酸化膜のない基材に使用した場合には高い防錆性を発揮するが、軟鋼線材等の表面に酸化膜を有する基材にはそのまま使用することができず、ショットブラスト処理等で表面の酸化膜を除去してから塗布しなければ高い防錆性を発揮することができないという問題点があった。
そこで、本発明は、アルカリケイ酸塩を用いることなく得られる安定性が高い亜鉛粉末含有スラリー、及び亜鉛粉末含有スラリーを用いたコーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる水性コーティング組成物の提供を課題とするものである。
請求項1の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、イオン交換水に置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物を添加したものと亜鉛粉末を混合して攪拌することによりなるものである。
請求項2の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、請求項1の構成において、前記置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または前記置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物はトリアルコキシシラン化合物またはトリヒドロキシシラン化合物であるものである。
請求項3の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、請求項1または請求項2の構成において、前記置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または前記置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物は前記亜鉛粉末100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下の範囲内で添加したものである。
請求項4の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、界面活性剤を添加したものである。
請求項5の発明にかかる水性コーティング組成物は、請求項1乃至請求項4のうちいずれか1つに記載の亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物または水溶性の有機チタン化合物を混合して調整されるものである。
請求項6の発明にかかる水性コーティング組成物は、アルカリケイ酸塩の溶液にイオン交換水を添加して加水分解させて重合度を低下させたものと亜鉛粉末を混合して攪拌することにより調整される亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を混合して調整されるものである。
請求項7の発明にかかる水性コーティング組成物は、請求項5または請求項6の構成において、バインダーとしてさらにアルカリケイ酸塩を混合して調整されるものである。
請求項8の発明にかかる水性コーティング組成物は、請求項5または請求項6の構成において、前記水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として1重量%〜66.7重量%の範囲内で混合されたものである。
請求項9の発明にかかる水性コーティング組成物は、請求項7の構成において、前記亜鉛粉末100重量部に対して前記アルカリケイ酸塩が50重量部〜200重量部の範囲内で、前記水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として0.1重量%〜20重量%の範囲内で混合されたものである。
請求項1の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、イオン交換水に置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物を添加したものと亜鉛粉末を混合して攪拌することによりなる。
ここで、アルコキシシラン化合物のアルコキシ基の数は、1個でも2個でも3個でも良い。同様に、ヒドロキシシラン化合物のヒドロキシ基の数も、1個でも2個でも3個でも構わない。また、置換アミノ基の数も、アルコキシ基またはヒドロキシ基の数に応じて、3個でも2個でも1個でも構わないし、アルコキシ基またはヒドロキシ基及び置換アミノ基を各1個以上有していれば、残りはアルキル基等の置換基でも良い。
これによって、亜鉛粉末の表面とアルコキシシラン化合物のアルコキシ基またはヒドロキシシラン化合物のヒドロキシ基とが反応して、亜鉛粉末の表面が置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物の緻密な被膜で覆われ、水と亜鉛が反応して水素が発生する事態が防止され、安定性の高い亜鉛粉末含有スラリーとなる。
このようにして、アルカリケイ酸塩を用いることなく、安定性が高い亜鉛粉末含有スラリーを得ることができる。
請求項2の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物がトリアルコキシシラン化合物またはトリヒドロキシシラン化合物である。したがって、1つの置換アミノ基を有するトリアルコキシシランまたは1つの置換アミノ基を有するトリヒドロキシシランが用いられたものである。
これによって、亜鉛粉末の表面と反応するアルコキシ基またはヒドロキシ基の数が最大となるため、より多くの亜鉛粉末の表面に緻密な被膜を形成することができるので、同量の亜鉛粉末に対しては置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物の使用量を低減することができ、使用量を同程度とすればより多くの亜鉛粉末を分散させることができる。
このようにして、アルカリケイ酸塩を用いることなく、安定性が高く亜鉛含有量のより高い亜鉛粉末含有スラリーを得ることができる。
請求項3の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物を亜鉛粉末100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下の範囲内で、より好ましくは0.5重量部以上2重量部以下の範囲内で添加したものである。
上述の如く、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物がトリアルコキシシラン化合物またはトリヒドロキシシラン化合物である場合には、亜鉛粉末の表面と反応するアルコキシ基またはヒドロキシ基の数が最大となるため、亜鉛粉末100重量部に対して0.1重量部添加すれば、亜鉛粉末の表面に緻密な被膜を形成することができる。また、5重量部を超えて添加した場合には、粘性が高くなって取扱いがし難くなるため、添加量は5重量部以下とすることが好ましい。
さらに、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物を、亜鉛粉末100重量部に対して0.5重量部以上2重量部以下の範囲内で添加することによって、より確実に亜鉛粉末の表面に緻密な被膜を形成することができるとともに、粘性もより適切な範囲内となるため取扱いがし易く、より好ましい。
このようにして、アルカリケイ酸塩を用いることなく、より確実に高い安定性と適切な粘性を有する亜鉛粉末含有スラリーを得ることができる。
請求項4の発明にかかる亜鉛粉末含有スラリーは、さらに界面活性剤を添加したものである。界面活性剤を添加することによって、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物の緻密な被膜で覆われた亜鉛粉末の水中における分散性が向上して、より一層安定した亜鉛粉末スラリーとなる。
このようにして、アルカリケイ酸塩を用いることなく、より安定性が高い亜鉛粉末含有スラリーを得ることができる。
請求項5の発明にかかる水性コーティング組成物は、請求項1乃至請求項4のうちいずれか1つに記載の亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物(水溶性の有機チタン化合物を含む)を混合して調整される。
ここで、水希釈可能な有機チタン化合物としては、チタンキレート化合物やチタンアシレート化合物等があり、例えば、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ヒドロキシカルボン酸チタンキレート、プロパンジオキシチタン−ビス−エチルアセテート、オキソチタン―ビス―(モノアンモニウム)オキサレート、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、等の有機チタン化合物がある。
安定性に優れた亜鉛粉末含有スラリーに水希釈可能な有機チタン化合物を混合して水性コーティング組成物を調整することで、かかる水性コーティング組成物を基材にコーティング(塗布)して乾燥することによって、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を用いているために、加熱による塗膜形成過程で加水分解縮合して塗膜中にTiO2 重合物のネットワークを形成する。これによって、塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与し、導電性が付与された塗膜中の亜鉛粉末は基材との通電が確保し易くなることで活性となり、狙い通りに犠牲防食作用を発揮するため、酸化膜等の抵抗のある基材上でも高い防錆性を得ることができる。
このようにして、コーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる水性コーティング組成物となる。
請求項6の発明にかかる水性コーティング組成物は、アルカリケイ酸塩の溶液にイオン交換水を添加して加水分解させて重合度を低下させたものと亜鉛粉末を混合して攪拌することにより調整される亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物(水溶性の有機チタン化合物を含む)を混合して調整される。
ここで、水希釈可能な有機チタン化合物としては、チタンキレート化合物やチタンアシレート化合物等があり、例えば、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ヒドロキシカルボン酸チタンキレート、プロパンジオキシチタン−ビス−エチルアセテート、オキソチタン―ビス―(モノアンモニウム)オキサレート、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、等の有機チタン化合物がある。
安定性に優れた亜鉛粉末含有スラリーに水希釈可能な有機チタン化合物を混合して水性コーティング組成物を調整することで、かかる水性コーティング組成物を基材にコーティング(塗布)して乾燥することによって、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を用いているために、加熱による塗膜形成過程で加水分解縮合して塗膜中にTiO2 重合物のネットワークを形成する。これによって、塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与し、導電性が付与された塗膜中の亜鉛粉末は基材との通電が確保し易くなることで活性となり、狙い通りに犠牲防食作用を発揮するため、酸化膜等の抵抗のある基材上でも高い防錆性を得ることができる。
このようにして、コーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる水性コーティング組成物となる。
請求項7の発明にかかる水性コーティング組成物は、バインダーとしてさらにアルカリケイ酸塩を混合して調整される。バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を用いることによって、上述の如く優れた特性を有する水性コーティング組成物を得ることができるが、水希釈可能な有機チタン化合物は高価であるため、実用的にはできるだけ配合量を減らすことが望ましい。
そこで、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物だけでなく、安価なアルカリケイ酸塩を用いることによって、水性コーティング組成物の価格を下げることができる。水希釈可能な有機チタン化合物を用いた場合の塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与する効果は、水希釈可能な有機チタン化合物を少量用いた場合でも得られるため、安価なアルカリケイ酸塩を多量に用いることによって、水性コーティング組成物をより低コスト化することができる。
このようにして、コーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができ、しかも安価な水性コーティング組成物となる。
請求項8の発明にかかる水性コーティング組成物は、水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として1重量%〜66.7重量%の範囲内で、より好ましくは5重量%〜50重量%の範囲内で混合されたものである。
本発明者らは、水性コーティング組成物にバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を混合する場合の最適量について、鋭意実験研究を重ねた結果、水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として1重量%〜66.7重量%の範囲内で混合した場合に、密着性についても防錆性についてもより好ましい結果が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成させたものである。
即ち、バインダーとしての密着性を確実に得るためには塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として1重量%は必要であり、66.7重量%を超えると水性コーティング組成物(ジンクリッチ塗料)として粘性が高くなって取扱い難くなるためである。さらに、より好ましくは5重量%〜50重量%の範囲内とすることによって、より密着性が向上するとともに、より適切な粘性の水性コーティング組成物を得ることができる。
このようにして、コーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる水性コーティング組成物となる。
請求項9の発明にかかる水性コーティング組成物は、亜鉛粉末100重量部に対してアルカリケイ酸塩が50重量部〜200重量部の範囲内で、より好ましくは100重量部〜150重量部の範囲内で、水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として0.1重量%〜20重量%の範囲内で、より好ましくは1重量%〜5重量%の範囲内で混合されたものである。
本発明者らは、水性コーティング組成物にバインダーとしてアルカリケイ酸塩及び水希釈可能な有機チタン化合物を混合する場合の最適量について、鋭意実験研究を重ねた結果、アルカリケイ酸塩を亜鉛粉末100重量部に対して50重量部〜200重量部の範囲内で、水希釈可能な有機チタン化合物を塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として0.1重量%〜20重量%の範囲内で混合した場合に、密着性についても防錆性についてもより好ましい結果が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成させたものである。
即ち、アルカリケイ酸塩をバインダーとして併用することによって水希釈可能な有機チタン化合物の使用量を減らすことができ、水性コーティング組成物の低コスト化を図ることができるが、アルカリケイ酸塩はバインダーとして亜鉛粉末100重量部に対して50重量部以上は混合した方が密着性を確保することができ、200重量部を超えると粘性が高くなって取扱い難くなる。さらに、より好ましくは、亜鉛粉末100重量部に対して100重量部〜150重量部の範囲内で混合することによって、確実に密着性を確保することができるとともに、適切な粘性の水性コーティング組成物が得られる。
また、水希釈可能な有機チタン化合物については、防錆性を確実に得るためには塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として0.1重量%は必要であり、20重量%を超えるとアルカリケイ酸塩と相俟って、水性コーティング組成物として粘性が高くなって取扱い難くなる。さらに、より好ましくは1重量%〜5重量%の範囲内とすることによって、より高い防錆性が得られるとともに、より適切な粘性でより低コストの水性コーティング組成物を得ることができる。
このようにして、コーティング前に基材表面の酸化膜等を除去するための処理をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる水性コーティング組成物となる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1
まず、本発明の亜鉛粉末含有スラリー及び水性コーティング組成物の実施の形態1について説明する。本実施の形態1にかかる亜鉛粉末含有スラリーのうち実施例1の亜鉛粉末含有スラリーは、アルカリケイ酸塩(水ガラス)にイオン交換水を添加して加水分解させ、重合度を低下させたものに、界面活性剤と亜鉛粉末を混合して得られるものである。
これに対して、本実施の形態1にかかる亜鉛粉末含有スラリーのうち実施例2,実施例3,実施例4の亜鉛粉末含有スラリーは、イオン交換水にアミノ基含有トリメトキシシランを添加して、これに界面活性剤と亜鉛粉末を混合して得られるものである。即ち、実施例2,実施例3,実施例4の亜鉛粉末含有スラリーは、本発明のうち請求項2及び請求項4にかかる発明に対応する実施の形態である。
まず、イオン交換水にメタケイ酸ナトリウムを攪拌しながら添加してケイ酸ナトリウムを加水分解させた後、界面活性剤を攪拌しながら添加した。続いて、亜鉛粉末を添加し、室温で16時間攪拌混合することによって、実施例1の亜鉛粉末含有スラリーを得た。また、イオン交換水にN−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを攪拌しながら添加し、次に界面活性剤を攪拌しながら添加した。続いて、亜鉛粉末を添加し、室温で16時間攪拌混合することによって、実施例2及び実施例3の亜鉛粉末含有スラリーを得た。
さらに、イオン交換水に3−アミノプロピルトリメトキシシランを攪拌しながら添加し、次に界面活性剤を攪拌しながら添加した。続いて、亜鉛粉末を添加し、室温で16時間攪拌混合することによって、実施例4の亜鉛粉末含有スラリーを得た。実施例1〜実施例4の各成分の配合と、実施例1〜実施例4の各亜鉛粉末含有スラリー200gを三角フラスコに入れて、20℃で24時間水素ガスの発生量を測定して安定性を調べた結果を、表1にまとめて示す。
Figure 2007077277
表1に示されるように、実施例1〜実施例4のいずれにおいても、イオン交換水と亜鉛粉末の配合量は、それぞれ100重量部で一定としている。その結果、実施例1〜実施例4のいずれについても水素ガスの発生は殆どなく、極めて良好な安定性を有することが確認された。
次に、これらの亜鉛粉末含有スラリーから水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料を調整する方法と、性能試験の結果について説明する。表1の実施例1〜実施例4で得られた亜鉛粉末含有スラリーに対し、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネート100重量部を添加して、4時間混合攪拌して、水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料1〜4を作製した。
即ち、塗料1は本発明のうち請求項6及び請求項8にかかる発明に対応する実施の形態であり、塗料2,塗料3,塗料4は本発明のうち請求項5及び請求項8にかかる発明に対応する実施の形態である。
これらの塗料1〜塗料4を、シンナー脱脂した後ショットブラスト(ショット材:鋼球、ショット時間10分間)処理を行ったJIS G 3505 軟鋼線材 SWRM−17及び同じ素材の鋼板と、ショットブラストを行わない未処理軟鋼線材 SWRM−17及び同じ素材の鋼板に、それぞれ浸漬塗装(ディップ塗装)し、80℃で10分間予備乾燥した後、330℃で30分間焼き付けて、線材を用いたテストピース及び鋼板を用いたテストパネルを作製した。
これらのテストピース及びテストパネルについて、塗膜性能試験を行った。耐食性は試験体としてテストピースを用いて、密着性及び硬度は試験体としてテストパネルを用いて、それぞれ試験を行った。得られた試験結果を表2に示す。
Figure 2007077277
密着性は、JIS K5400の「6.15 碁盤目試験」にしたがって測定した。即ち、カッターナイフで塗膜を貫通して1mm間隔で11本ずつの直線を縦横に引く。これによって、1平方センチの正方形の中に100個のます目ができるので、この部分に粘着テープ(セロハンテープ)を貼り付けて剥がし、塗膜が残ったます目の数を数える。これらのテストパネルにおいては、塗料1〜塗料4を塗布した鋼板のショットブラスト処理を行ったもの、行わなかったもののいずれについても100個のます目のうち100個全てが残り、1個の剥落もなかった。よって、密着性は極めて良好である。
硬度は、同じくJIS K5400の「6.14 鉛筆引っかき試験」にしたがって測定した。即ち、塗膜用鉛筆引っかき試験機を用いて最も軟らかい6Bの鉛筆から最も硬い9Hの鉛筆までによって塗膜の表面の引っかき試験を行い、どの硬さの鉛筆で傷がついたかによって、その鉛筆の硬度を塗膜の硬度とするものである。これらのテストパネルにおいては、硬度はいずれも7Hであり、硬度においても極めて優れている。
耐食性(防錆性)は、同じくJIS K5400の「7.8 塩水噴霧試験」にしたがって測定した。即ち、テストピースを塩水の霧が発生する装置(塩水噴霧試験装置)内に入れて試験をし、主として塩水の霧の作用で塗膜に錆・ふくれ・剥がれができるかどうかを調べた。塩水噴霧試験装置の使用条件としては、試験室内の温度35±1℃、試験室内の相対湿度95〜98%、加湿器の温度47±1℃、塩水の濃度5w/v%、等が定められている。これらのテストピースにおいては、1000時間試験を行っても、塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは未だに生じていない。よって、本実施の形態1の水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料は、防錆性においても極めて優れていると判断される。
このように、本実施の形態1にかかる実施例1の亜鉛粉末含有スラリーにおいては、亜鉛粉末表面に緻密なシリカ被膜を形成させるため、従来技術のコロイダルシリカよりも重合度の低いケイ酸ナトリウム溶液を用い、さらに重合度を低下させるために、またゲル化を防ぐために、イオン交換水を添加して加水分解させている。そして、界面活性剤を添加することによって、シリカの緻密な被膜で覆われた亜鉛粉末の水中における分散性を向上させて、より一層安定した亜鉛粉末含有スラリーとしている。
また、本実施の形態1にかかる実施例2〜実施例4の亜鉛粉末含有スラリーにおいては、亜鉛粉末表面に緻密なアミノシラン被膜を形成させるため、置換アミノ基を有するトリアルコキシシラン化合物として、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランまたは3−アミノプロピルトリメトキシシランをイオン交換水に溶解させたものを用い、さらに界面活性剤を添加することによって、アミノシランの緻密な被膜で覆われた亜鉛粉末の水中における分散性を向上させて、より一層安定した亜鉛粉末含有スラリーとしている。
さらに、これらの亜鉛粉末含有スラリーに対し、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネート100重量部を添加して、混合して攪拌し、水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料を作製した。チタントリエタノールアミネートは粘着性に優れ、ジンクリッチ塗料を塗装面に塗付して乾燥して塗膜としたときに全体の強度に優れ、また塗装面への付着性も強力な優れた塗膜となる。そして、塗膜としての試験結果からも、表2に示されるように、優れたジンクリッチ塗料であることがわかる。
これに対して、亜鉛粉末含有スラリーの比較例として、置換アミノ基を有するトリアルコキシシラン化合物を用いることなく、界面活性剤のみを用いるか、界面活性剤と置換アミノ基を有しないトリアルコキシシラン化合物を用いて、実験を行った。それらの比較例1〜比較例3の配合と、亜鉛粉末含有スラリーとしての安定性を調べた結果について、表3にまとめて示す。
Figure 2007077277
表3に示されるように、比較例1においては、イオン交換水100重量部にと界面活性剤0.2重量部を添加して、シラン化合物は添加せずに、亜鉛粉末100重量部を加えて攪拌混合した。また、比較例2においては、イオン交換水100重量部に界面活性剤0.2重量部を添加して、さらにビニルトリエトキシシラン0.1重量部を添加したものに、亜鉛粉末100重量部を加えて攪拌混合した。
また、比較例3においては、イオン交換水100重量部に界面活性剤0.2重量部を添加して、さらに3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン0.1重量部を添加したものに、亜鉛粉末100重量部を加えて攪拌混合した。
そして、比較例1〜比較例3の各亜鉛粉末含有スラリー200gを三角フラスコに入れて、20℃で24時間水素ガスの発生量を測定して安定性を調べた結果、表3の下段に示されるように、比較例1及び比較例2については多くの水素ガスが発生し、また比較例3についても水素ガスの顕著な発生があり、いずれも安定性に劣っていることが分かった。
したがって、比較例1〜比較例3の亜鉛粉末含有スラリーは実用に供することができないものである。
また、亜鉛粉末含有スラリーとしては安定性のある実施例1〜実施例4の亜鉛粉末含有スラリーを用いて、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを用いることなく、代わりにアルカリケイ酸塩等を同量用いて、ジンクリッチ塗料としての性能比較を行った。
具体的には、実施例1の亜鉛粉末含有スラリーにケイ酸カリウム100重量部を添加して4時間攪拌混合して塗料5とし、実施例2の亜鉛粉末含有スラリーにケイ酸ナトリウム100重量部を添加して4時間攪拌混合して塗料6とし、実施例3の亜鉛粉末含有スラリーにエポキシ樹脂100重量部を添加して4時間攪拌混合して塗料7とし、実施例4の亜鉛粉末含有スラリーにシラン溶液100重量部を添加して4時間攪拌混合して塗料8とした。これらの塗料5〜塗料8の配合と、ジンクリッチ塗料としての性能を評価した結果とを、表4にまとめて示す。
Figure 2007077277
表4に示されるように、塗料5〜塗料8についても、シンナー脱脂した後ショットブラスト(ショット材:鋼球、ショット時間10分)処理を行ったJIS G 3505 軟鋼線材 SWRM−17及び同じ素材の鋼板と、ショットブラストを行わない未処理軟鋼線材 SWRM−17及び同じ素材の鋼板に、それぞれ浸漬塗装(ディップ塗装)し、80℃で10分間予備乾燥した後、330℃で30分間焼き付けて、線材を用いたテストピース及び鋼板を用いたテストパネルを作製した。
これらのテストピース及びテストパネルについて、塗膜性能試験を行った。耐食性は試験体としてテストピースを用いて、密着性及び硬度は試験体としてテストパネルを用いて、それぞれ試験を行った。
塗膜性能試験は、表2に示される塗料1〜塗料4についての試験と同様に実施した。即ち、密着性は、JIS K5400の「6.15 碁盤目試験」にしたがって、カッターナイフで塗膜を貫通して1mm間隔で11本ずつの直線を縦横に引く。これによって、1平方センチの正方形の中に100個のます目ができるので、この部分に粘着テープ(セロハンテープ)を貼り付けて剥がし、塗膜が残ったます目の数を数えた。
これらのテストパネルにおいては、塗料5〜塗料8を塗布した鋼板のショットブラスト処理を行ったものについては100個のます目のうち100個全てが残り、1個の剥落もなかったが、ショットブラスト処理を行わなかったものについては、100個のます目のうち70個が剥落し或いは100個全てが剥落し、密着性に劣ることが判明した。
硬度は、同じくJIS K5400の「6.14 鉛筆引っかき試験」にしたがって測定した。即ち、塗膜用鉛筆引っかき試験機を用いて最も軟らかい6Bの鉛筆から最も硬い9Hの鉛筆までによって塗膜の表面の引っかき試験を行い、どの硬さの鉛筆で傷がついたかによって、その鉛筆の硬度を塗膜の硬度とした。これらのテストパネルにおいては、塗料5,塗料6,塗料8については硬度がいずれも7Hであり、硬度においては極めて優れているが、塗料7については硬度が3Hであり、幾分硬度に劣っていることが判明した。
耐食性(防錆性)は、同じくJIS K5400の「7.8 塩水噴霧試験」にしたがって測定した。即ち、テストピースを塩水の霧が発生する装置(塩水噴霧試験装置)内に入れて試験をし、主として塩水の霧の作用で塗膜に錆・ふくれ・剥がれができるかどうかを調べた。これらのテストピースのうち、ショットブラスト処理を行ったものについては、塗料5を塗布したものが1000時間試験を行っても塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは生じず、塗料6を塗布したものが720時間、塗料7を塗布したものが120時間、塗料8を塗布したものが480時間、それぞれ試験を行っても塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは生じなかった。
これに対して、ショットブラスト処理を行わなかったものについては、塗料5を塗布したものが48時間までは赤錆を生じなかったが72時間で赤錆を生じ、塗料6を塗布したものも48時間までは赤錆を生じなかったが72時間で赤錆を生じ、塗料7を塗布したものは24時間ですでに赤錆を生じ、塗料8を塗布したものは72時間までは赤錆を生じなかったが120時間の時点ではすでに赤錆を生じており、いずれも防錆性に劣ることが判明した。
このように、ショットブラスト処理を行わなかったテストパネル及びテストピースが密着性及び防錆性に劣るものとなる理由は、ショットブラスト処理を行って鋼板及び線材の表面の酸化膜を除去したテストパネル及びテストピースにおいては、酸化膜のない新しい鉄表面に直接塗料5〜塗料8が浸漬塗布されるため密着性が良く、また酸化膜を介していないため亜鉛粉末の犠牲防食効果が発揮されるための導電性が確保されるのに対して、ショットブラスト処理を行わなかったテストパネル及びテストピースは酸化膜の上に塗膜が形成されるため、密着性も悪く、また亜鉛粉末の犠牲防食効果が発揮されるための導電性が確保されないため、密着性及び防錆性に劣るものと考えられる。
これに対して、表2に示されるように、本実施の形態1にかかる水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料1〜4においては、ショットブラスト処理を行ったテストピースも行わなかったテストピースも、全て1000時間以上赤錆等が発生しないという優れた防錆性能を有している。この理由としては、塗料1〜塗料4においては、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを用いており、加熱による塗膜形成過程で加水分解縮合してTiO2 重合物としてのネットワークを形成する。
これによって、塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与し、従来のシリカで覆われた亜鉛粉末と異なり、導電性が付与された塗膜中の亜鉛粉末は鋼板素地との通電が確保し易くなることで活性となり、狙い通りに犠牲防食作用を発揮するため、酸化膜等の抵抗のある素材上でも高い防錆性を得ることができるものと考えられる。
また、表2に示されるように、本実施の形態1にかかる水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料1〜4においては、ショットブラスト処理を行ったテストパネルも行わなかったテストパネルも、密着性試験で100個の桝目のうち1個も剥離しないという優れた密着性を示しているが、この理由は水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートは、最終的には4価のチタン原子の周りに配位した水酸基の酸素原子によって基材表面に結合するため、酸化膜とも反応して酸素原子による結合を形成することができるためである。
このようにして、本実施の形態1にかかる水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料1〜4においては、コーティング(塗装)前に基材としての鋼板表面の酸化膜等を除去するための処理(ショットブラスト)をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる。
なお、本実施の形態1においては、置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物として、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン及び3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いた例について説明したが、これらに限られるものではなく、他の置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物またはヒドロキシシラン化合物を用いることもできる。
実施の形態2
次に、本発明にかかる水性コーティング組成物の実施の形態2について説明する。本実施の形態2の水性コーティング組成物に用いられる亜鉛粉末含有スラリーは、メタケイ酸ナトリウムにイオン交換水を添加して加水分解させ、重合度を低下させたものに、界面活性剤と亜鉛粉末を混合して得られるものである。
まず、イオン交換水(固形分0%)にメタケイ酸ナトリウム(固形分38%)を攪拌しながら添加してメタケイ酸ナトリウムを加水分解させた後、界面活性剤(固形分0%)を攪拌しながら添加した。続いて、亜鉛粉末(固形分100%)を添加し、16時間攪拌することによって、亜鉛粉末含有スラリーを得た。各成分の配合比を、表5に示す。
Figure 2007077277
こうして得られた亜鉛粉末含有スラリーに、バインダーとしてアルカリケイ酸塩としてのケイ酸カリウムと、水溶性チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを、表6に示されるように、配合量を変化させて混合し、実施例5〜実施例9までの5種類の水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料を製造した。さらに、比較例1として、水溶性チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを用いない水性コーティング組成物をも製造して、それぞれについて耐食性試験を実施した。
したがって、本実施の形態2にかかる水性コーティング組成物の実施例5〜実施例9は、本発明のうち請求項7及び請求項9の発明に対応する実施の形態である。実施例5〜実施例9及び比較例1の配合と、耐食性試験の結果とを、表6にまとめて示す。
Figure 2007077277
耐食性(防錆性)試験は、実施の形態1と同じくJIS K5400の「7.8 塩水噴霧試験」にしたがって測定した。即ち、実施例5〜実施例9及び比較例1についても、シンナー脱脂した後ショットブラスト(ショット材:鋼球、ショット時間10分間)処理を行ったJIS G 3505 軟鋼線材 SWRM−17とショットブラストを行わない未処理線材に、それぞれ浸漬塗装(ディップ塗装)し、80℃で10分間予備乾燥した後、330℃で30分間焼き付けてテストピースを作製した。
そして、テストピースを塩水の霧が発生する装置(塩水噴霧試験装置)内に入れて試験をし、主として塩水の霧の作用で塗膜に錆・ふくれ・剥がれができるかどうかを調べた。表6の下段に示されるように、これらのテストピースにおいては、ショットブラスト処理を行ったものについては、比較例1をも含めて1008時間試験を行っても、塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは未だに生じていない。
これに対して、ショットブラスト処理を行わなかったものについては、実施例5では600時間経過後に赤錆が発生し、実施例6では816時間経過後に赤錆が発生し、実施例7,実施例8,実施例9については、1008時間試験を行っても塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは生じなかったのに対して、比較例1では168時間経過後に赤錆が発生し、実施例5〜実施例9の配合にかかる水性コーティング組成物が、防錆性においても優れていることが判明した。
このように、ショットブラスト処理を行わなかったテストピースについて、実施例5〜実施例9と比較例1とで差の生じた理由は、上記実施の形態1の場合と同様に、実施例5〜実施例9においては、バインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミネートを用いており、加熱による塗膜形成過程で加水分解縮合してTiO2 重合物としてのネットワークを形成することによって、塗膜中に均一に分布したTiO2 が塗膜に導電性を付与し、導電性が付与された塗膜中の亜鉛粉末は線材素地との通電が確保し易くなることで活性となり、犠牲防食作用を発揮するため、酸化膜等の抵抗のある素材上でも高い防錆性を得ることができるものと考えられる。
中でも、塗膜中のTiO2 量として1.0重量%以上に相当するチタントリエタノールアミネートを用いた実施例7,実施例8,実施例9については、1008時間塩水噴霧試験を行っても塗膜に赤錆やふくれ・剥がれは生じず、極めて防錆性に優れていることから、水希釈可能な有機チタン化合物は塗膜中のTiO2 量として1.0重量%以上用いることがより好ましいことが分かった。
このようにして、本実施の形態2にかかる水性コーティング組成物としてのジンクリッチ塗料実施例5〜実施例9においては、コーティング(塗装)前に基材としての軟鋼線材表面の酸化膜等を除去するための処理(ショットブラスト)をする必要がなく、前処理を省略しても亜鉛の犠牲防食作用によって高い防錆性を得ることができる。
さらに、本実施の形態2にかかる水性コーティング組成物実施例5〜実施例9においては、バインダーとして高価なチタントリエタノールアミネートを少量用いて、安価なアルカリケイ酸塩としてのケイ酸カリウムを併用しているため、実施の形態1にかかる水性コーティング組成物よりもずっと安価に製造することができる。
上記各実施の形態においては、水希釈可能な有機チタン化合物としてチタントリエタノールアミネートを使用した例のみについて説明したが、これに限られるものではなく、水希釈可能な有機チタン化合物としては他にも、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ヒドロキシカルボン酸チタンキレート、プロパンジオキシチタン−ビス−エチルアセテート、オキソチタン―ビス―(モノアンモニウム)オキサレート、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、等を用いることができる。
また、上記各実施の形態においては、アルカリケイ酸塩としてケイ酸カリウムまたはメタケイ酸ナトリウムを使用した例について説明したが、アルカリケイ酸塩としては他にもケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸アンモニウム、オルソケイ酸ナトリウム、等を用いることができる。
亜鉛粉末含有スラリー及び水性コーティング組成物のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。

Claims (9)

  1. イオン交換水に置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物を添加したものと亜鉛粉末を混合して攪拌することによりなることを特徴とする亜鉛粉末含有スラリー。
  2. 前記置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または前記置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物はトリアルコキシシラン化合物またはトリヒドロキシシラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛粉末含有スラリー。
  3. 前記置換アミノ基を有するアルコキシシラン化合物または前記置換アミノ基を有するヒドロキシシラン化合物は前記亜鉛粉末100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下の範囲内で添加したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の亜鉛粉末含有スラリー。
  4. 界面活性剤を添加したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1つに記載の亜鉛粉末含有スラリー。
  5. 請求項1乃至請求項4のうちいずれか1つに記載の亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を混合して調整されることを特徴とする水性コーティング組成物。
  6. アルカリケイ酸塩の溶液にイオン交換水を添加して加水分解させて重合度を低下させたものと亜鉛粉末を混合して攪拌することにより調整される亜鉛粉末含有スラリーにバインダーとして水希釈可能な有機チタン化合物を混合して調整されることを特徴とする水性コーティング組成物。
  7. バインダーとしてさらにアルカリケイ酸塩を混合して調整されたことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の水性コーティング組成物。
  8. 前記水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として1重量%〜66.7重量%の範囲内で混合されたことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の水性コーティング組成物。
  9. 前記亜鉛粉末100重量部に対して前記アルカリケイ酸塩が50重量部〜200重量部の範囲内で、前記水希釈可能な有機チタン化合物が塗膜形成過程で100%加水分解されるものと仮定した場合における塗膜中の二酸化チタン(TiO2 )の重量%として0.1重量%〜20重量%の範囲内で混合されたことを特徴とする請求項7に記載の水性コーティング組成物。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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