JP2007055921A - ヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素に対する結合剤 - Google Patents

ヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素に対する結合剤 Download PDF

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香代 前田
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慎 長谷川
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Abstract

【課題】ヘリコバクター・ピロリによる胃炎・胃潰瘍等の治癒を目的とした毒性発現を中和させる手段の提供。
【解決手段】ガングリオシド、それらのリソ体及びそれらの化学修飾体(ガングリオシド等)からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有してなるヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素VacAに対する結合剤、前記VacA結合剤を用いてVacA活性を中和させることを特徴とする当該菌が関与する疾患の治療又は予防方法、前記VacA結合剤及びVacAを用いることを特徴とする、当該菌が関与する疾患の治療又は予防剤のスクリーニング方法、胃炎、胃潰瘍又は胃癌の治療又は予防剤を製造するための、ガングリオシド等からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用、ならびにガングリオシド等からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有してなる当該菌の作用を抑制する食品。
【選択図】なし

Description

本発明は、ヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素に対する結合剤およびその利用に関する。詳しくは、ヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素VacAに対する結合剤を用いた胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防の分野に関するものである。
グラム陰性桿菌であるヘリコバクター・ピロリは、世界人口の半数以上のヒトの胃粘膜に棲息している。感染者の大多数は無症候のまま経過するが、本菌の持続感染により胃炎からときとして消化性潰瘍を引き起こし、腸上皮化生、胃がん、MALTリンパ腫などとの関連が指摘されている。ヘリコバクター・ピロリの産生する空胞化毒素であるVacAは、標的細胞の細胞質内に空胞を形成させ、当該細胞を死滅させる毒素であり、本菌の病原性との関わりが指摘されている(非特許文献1)。現在までに、VacAの宿主細胞への初期作用を理解するため、ヒト腎臓癌由来株化細胞G401細胞またはヒト胃癌由来株化細胞AZ−521細胞よりVacA受容体が精製され、VacA受容体が2種の受容体型チロシンフォスファターゼ(RPTP)、RPTPαとRPTPβであることが明らかにされた(非特許文献2)。さらに、これら2種のRPTPのうちRPTPβをノックアウトしたマウスではVacA投与によって認められる胃炎や潰瘍を発症しないことが明らかにされている(非特許文献3)。VacAの結合には、RPTPβの747-751残基に位置するQTTQPの配列のThrに結合したO−リンクの糖鎖、さらにはその糖鎖の末端シアル酸が重要であることが報告されている(非特許文献4)。
Cover, T.L., Blake, S.R., Nat. Rev. Microbiol., 2005, 3, p.320- 332 Wada, A., Yamasaki, E., Hirayama, T., J. Biochem., 2004, 136, p.741- 746 Fujikawa, A., Shirasaka, D., Yamamoto, S., Ota, H., Yahiro, K., Fukada, M., Shintani, T., Wada, A., Aoyama, N., Hirayama, T., Fukamachi, H., Noda, M., Nat. Genet., 2003, 33, p.375- 381 Yahiro K., Wada A., Yamasaki E., Nakayama M., Nishi Y., Hisatsune J., Morinaga N., Sap J., Noda M., Moss J., Hirayama T., J. Biol. Chem., 2004, 279, p.51013-51021
現在、ヘリコバクター・ピロリによって引き起こされた疾患の治療は、菌自体を抗生物質で除菌することにより行っている。しかしながら、抗生物質を用いた治療方法は、耐性菌が出現して抗生物質が効かなくなり、対応できなくなる可能性が高い。したがって、本菌による毒性発現を中和させる手段で、胃炎・胃潰瘍等の治癒を行うことが望まれている。
本発明者らは、上記問題点に鑑み、ヘリコバクター・ピロリの病原因子の中で、VacAに注目し、VacAの初期の受容体RPTPとの相互作用を明らかにすべく鋭意検討した結果、VacAに対して結合可能な物質により前記受容体への結合が阻害されることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本願発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有してなるヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素VacAに対する結合剤。
〔2〕 前記ガングリオシドがGM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3およびGT1bからなる群から構成されるものである前記〔1〕記載のVacA結合剤。
〔3〕 前記ガングリオシドがGM1である前記〔1〕記載のVacA結合剤。
〔4〕 前記リソ体がGM1のリソ体である前記〔1〕記載のVacA結合剤。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載のVacA結合剤を用いてVacA活性を中和させることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防方法。
〔6〕 前記疾患が胃炎、胃潰瘍または胃癌である前記〔5〕に記載の治療または予防方法。
〔7〕前記〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載のVacA結合剤およびVacAを用いることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防剤のスクリーニング方法。
〔8〕 前記疾患が胃炎、胃潰瘍または胃癌である前記〔7〕に記載のスクリーニング方法。
〔9〕 胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するための、ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
〔10〕 胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するための、胃の上皮細胞表面に存在するガングリオシドとVacAとの結合を抑制する作用を有する化合物の使用。
〔11〕 ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有してなるヘリコバクター・ピロリの作用を抑制する食品。
本発明のVacA結合剤によると、ガングリオシドを基本構造とする化合物を有効成分とし、VacAとその受容体RPTPとの結合を阻害することから、有効かつ低毒性でVacAを介したヘリコバクター・ピロリの病原性を低減することができる。かかる結合剤をヘリコバクター・ピロリの感染者に適用した場合、VacAの作用を中和することにより、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患を有効かつ副作用も少なく治療または予防することができる。本発明のスクリーニング方法によると、本発明の結合剤およびVacAを用いることにより、ヘリコバクター・ピロリが関与する状態の中でも病原性の高い疾患を治療または予防可能な薬剤をスクリーニングすることができる。本発明によれば、ガングリオシドを基本構造とする化合物を医薬品の製造のために使用することができる。また、本発明によれば、ガングリオシドを基本構造とする化合物の有効量を配合した食品を提供することにより、安全かつ容易にVacAを介したヘリコバクター・ピロリの作用を中和し、当該菌が関与する疾患の改善に寄与することができる。
本発明のヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素VacAに対する結合剤は、当該菌が産生し、分泌するタンパク質のうち、主としてVacAに結合するものである。
前記VacAとは、ヘリコバクター・ピロリが産生する毒素であって、上皮細胞の空胞変性を引き起こす作用を有するものである。かかる空胞変性は、顕微鏡による上皮細胞の形態観察または空胞のニュートラルレッドの取り込みを調べることにより確認することができる。ヘリコバクター・ピロリのゲノム配列は、Gene Bank Accession No.NC_000921およびNC_000915に開示されており、VacAをコードする塩基配列またはコードされるアミノ酸配列は、AY_737319、AB_190958、AB_190988などに開示されている。また、VacAは、単量体であっても多量体(例、六量体)であってもよいが、酸処理により活性化された単量体または多量体(例、六量体)が好ましい。
本発明のVacA結合剤(以下、単に結合剤と省略する場合がある)は、有効成分として、ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する。
前記ガングリオシドとは、シアル酸を含有する糖脂質をいい、天然物であっても化学合成されたものであってもよい。好ましいガングリオシドは、VacAとの結合性の観点から、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3またはGT1bであり、より好ましくはGM1である。
前記リソ体とは、前記ガングリオシドのセラミド部分から脂肪酸が遊離してアミノ基となったスフィンゴシンを含む構造をいう。好ましいリソ体は、VacAとの結合性の観点から、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3またはT1bのリソ体であり、より好ましくはGM1のリソ体である。例えば、GM1およびそのリソ体は、図1に示す通りである。
前記ガングリオシドまたはそれらのリソ体の化学修飾体とは、当該ガングリオシドまたはリソ体を基本構造として、VacAに対する結合がガングリオシドまたはリソ体の場合と同等以上であるように化学的に修飾した化合物をいう。修飾基の導入のしやすさという観点から、アミノ基を有するリソ体を基本構造とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明の結合剤において、VacAに対する結合力は、VacAとRPTP(好ましくはRPTPβ)との結合またはVacAの上皮細胞での空胞形成を阻害することを指標に調べることができ、具体的な方法は、後述する実施例に記載されている。かかる結合力は、ガングリオシドまたはそれらのリソ体に含まれるシアル酸が重要な役割を果たしている。前記指標のいずれか、好ましくは両方において、有意な阻害活性を有する場合、本発明の結合剤として有用である。有意な阻害活性としては、結合剤を添加しない場合と比べて、約50%以上の阻害率が例示され、約70%以上の阻害率が好ましい。
本発明の結合剤は、前記有効成分を少なくとも1種含有していればよいが、本発明の目的を達成する限り、2種以上の有効成分を含有していてもよい。
本発明の結合剤は、前記有効成分そのままであってもよく、公知の薬学的に許容される担体などを含んでもよい。前記担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
前記有効成分の含有量は、所望の結合作用を奏することができる範囲で適宜設定することができるが、通常、0.01〜100重量%であり、好ましくは0.1〜99.9重量%、より好ましくは0.5〜99.5重量%である。
本発明の結合剤は、VacAに結合して空胞化活性を中和することから、ヘリコバクター・ピロリの病原性を有意に低減することができ、このような作用を利用して、様々な用途が期待される。
本発明は、本発明のVacA結合剤を用いてVacA活性を中和させることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防方法を提供する。
前記疾患としては、胃炎、胃潰瘍または胃癌が好ましく、特にVacAとの関連が示唆されている胃炎または胃潰瘍がより好ましい。
適用対象となる動物は、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物であり、ヒト以外の哺乳動物としてはサル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスターおよびモルモットなどがあげられる。
前記疾患の治療または予防に対する適用量は、疾患の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に設定することはできないが、通常、1回あたり有効成分量として0.001mg〜10g程度があげられる。適用回数は、1日あたり3回〜1週間あたり1、2回を基本とする。
本発明は、前記VacA結合剤およびVacAを用いることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防剤のスクリーニング方法を提供する。
VacA結合剤は、VacAと結合することにより、空胞形成が抑制され、ヘリコバクター・ピロリの病原性を低減することができるため、例えば、VacA結合剤−VacAの結合と同等以上の活性を有する化合物をスクリーニングすることにより、より有効なヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防剤の候補物質を選別することができる。
前記スクリーニング方法は、下記工程:
1)前記VacA結合剤、VacAおよび被検物質を準備する工程、
2)被検物質の非存在下で、VacA結合剤とVacAが結合する条件下で、形成された結合体の程度を測定する工程、
3)被検物質の存在下で、前記結合体の程度を測定し、被検物質の存否による結合体形成の変動を比較する工程、ならびに
4)前記3)の比較結果に基づいて、前記結合体の形成に影響を与える(好ましくはVacA−VacA結合剤の結合と競合可能な)被検物質を選択する工程、
を含む。
工程1)において、VacAは、Yahiro, K., Niidome, T., Hatakeyama, T., Aoyagi, H., Kurazono, H., Padilla, P.I., Wada, A., Hirayama, T., Biochem. Biopys. Res. Commun., 1997, 238, p.629-632に記載の方法により精製し、単離したものを用いることができる。VacA結合剤としては、前記したガングリオシドまたはそれらのリソ体を用いることができる。かかるガングリオシドおよびリソ体は、市販品を好適に用いることができる。
工程1)において、被検物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。
工程2)において、結合体を形成させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、約0〜40℃の溶液中でVacAとVacA結合剤とを所定の濃度で混合する方法、VacAを固相に固定し、VacA結合剤と結合させる方法、VacA結合剤を固相に固定し、VacAと結合させる方法、あるいは培養細胞で発現したVacAと培地に添加したVacA結合剤とを結合させる方法などがあげられる。
工程3)および4)において、前記結合体の形成は、以下の例にあげるような方法で測定することができる。
3−1)VacAまたはVacA結合剤に対する抗体を用いて免疫沈降し、免疫沈降で使用しなかった抗体でイムノブロッティングを行う方法。
3−2)VacAまたはVacA結合剤をSepharose等の樹脂に固相化させ、約0〜40℃の溶液中でVacAとVacA結合剤とを所定の濃度で混合した後、当該樹脂とともに回収される被検物質を被検物質に応じた検出方法で測定する方法。
3−3)VacAを、ポリヒスチジンもしくはGSTなどの標識との融合タンパク質として発現させ、またはビオチン化させ、ポリヒスチジンはニッケルに、GSTはグルタチオンに、ビオチンはアビジンに結合することから、それらを利用して結合体を回収し、3−1)と同様のイムノブロッティングで測定する方法。
3−4)VacAをセンサーチップに固相化して、VacA結合剤の結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)のシステムを用いて測定する方法。
工程3)において、被検物質の存否による結合体形成の変動を比較するには、前記測定方法により得られる結果を測定方法に応じて定性的または定量的に比較することによって行う。
工程4)において、被検物質の存在下で、前記工程2)で形成された結合体が少なくとも維持されているか(好ましくは被検物質の非存在下のときに比べて、より強固に形成されているか)または解離しているかについて、結合体の有無(好ましくはその程度)を比較することによって評価する。前者の場合、被検物質は、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療剤の候補として選択することができる。後者の場合、被検物質が新たにVacAとの結合体を形成しているときは、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療剤の候補として選択することができる。被検物質は、ヘリコバクター・ピロリの作用調節剤または研究用試薬としても有用である。
本スクリーニング方法における前記疾患は、胃炎、胃潰瘍または胃癌であることが好ましい。本スクリーニング方法により選択される被検物質は、胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するために用いることができる。
本発明は、胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するため、前記結合剤の有効成分であるガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用を提供する。
また、本発明は、胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するため、胃の上皮細胞表面に存在するガングリオシドとVacAとの結合を抑制する作用を有する化合物の使用を提供する。ここで用いられる化合物としては、生体外から投与されるガングリオシドまたはそれらのリソ体またはそれらの化学修飾体が例示されるが、これらに限定されるものではない。
さらに、本発明は、ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有してなるヘリコバクター・ピロリの作用を抑制する食品を提供する。当該食品を摂取する場合、摂取する有効成分の量は特に限定されるものではないが、ガングリオシドに換算して1日当たり0.001〜100mg/kgが推奨される。
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。
実施例1:VacAに対する中和活性の測定
VacAの毒性の一つとして、培養細胞に空胞化形成を引き起こすことが知られている。このVacAの空胞化形成をみる実験系にガングリオシドを添加して空胞化形成に対する中和活性が認められるかどうか調べた。2x10個の胃上皮癌株化細胞AZ−521細胞(JCRB細胞バンクより入手)を96穴プレートにまいて、37℃で24時間COインキュベーターに置いておいた。20μg/mlのVacAをAZ−521細胞に添加し、このアッセイ系に種々の濃度のガングリオシドを添加して3時間インキュベートした。その後、ニュートラルレッドアッセイ法により、細胞に形成された空胞の度合いを細胞に取り込まれたニュートラルレッドの量をOD540nmの吸光度を測定することにより、VacAの毒性を評価した。
実施例2:VacAの受容体への結合阻害活性
VacAとその受容体(RPTPβ)への結合をみる実験系にガングリオシドを添加してVacAのRPTPβへの結合に対する結合阻害活性が認められるかどうか調べた。RPTPβの発現が認められる胃上皮癌株化細胞AZ−521細胞(10cmシャーレに約90%の密度で生育している)を1mlの1%Triton X−100を含む可溶化溶液に溶かした。遠心分離後(20min, 15000g)遠心上清を分取し、この遠心上清にVacAと種々の濃度のガングリオシドを加え、4℃で1時間攪拌しながらVacAとRPTPβの複合体を形成させた。前記複合体が形成された上清にさらに抗VacA抗体を加え、1時間インキュベートして、ProteinA-Sepharose(Amersham製)を加え、1時間さらにインキュベートし、その後遠心分離し、沈澱にVacAと結合しているRPTPβの複合体を得た。この複合体をSDS−PAGEをおこない、抗RPTPβ抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、VacAのRPTPβへの結合活性を評価した。
実施例3:VacAのガングリオシドへの結合
ガングリオシドの1種であるリソ(Lyso)-GM1を樹脂に結合させ、この樹脂にVacAが結合するかどうか調べることにより、VacAのガングリオシドへの結合能を評価した。Lyso-GM1-SepharoseまたはコントロールのSepharoseと、ヘリコバクター・ピロリの培養上清を硫安沈澱させ透析したサンプルとを4℃でインキュベートした。遠心分離後(20min, 15000g)、沈澱したSepharoseを洗った。このLyso-GM1-SepharoseまたはコントロールのSepharoseに結合した蛋白質をSDS−PAGEにより解析をおこない、Lyso-GM1に特異的に結合している蛋白質を解析した。また、常法によりVacAタンパク質をウサギに免疫して作製した抗VacA抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、VacAが特異的にLyso-GM1に結合しているのかどうか確認した。
実験結果
本実施例で用いたガングリオシドは、種々の細菌毒素の受容体として機能するガングリオシドと同様の構造である。しかしながら、現在までにVacAの機能発現にガングリオシドが関与しているという報告はない。そこで、VacAを作用させたAZ−521細胞にガングリオシド混合物を外から添加したところ、ガングリオシド混合物の濃度に依存してVacAの空胞化形成が阻害を受けた(図2)。さらに、種々のガングリオシド(GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3、GT1b)をアッセイ系に添加すると、いずれのガングリオシドにも空胞化活性の阻害が認められるものの、なかでもGM1が最も強い空胞化阻害活性を示した(図3)。また、GM1からシアル酸を除いたアシアロGM1は顕著に阻害活性がなくなり、シアル酸がVacAの活性阻害に重要なことを示唆していた。
ガングリオシドは糖の部分とセラミド部分からなるが、セラミド部分から脂肪酸を除きスフィンゴシンに変えたLyso-GM1、Lyso-GM2およびLyso-GM3を用いて阻害活性を調べた結果、VacAの空胞化阻害活性が認められ(図4)、ガングリオシドの脂肪酸部分はVacAの活性阻害に重要ではないことがわかった。また、GM3のオリゴ糖部分の化合物ではVacAの空胞化阻害活性は認められず(図5)、オリゴ糖とセラミドのO−リンクの結合部位はVacAの活性阻害に重要であることがわかった。
次に、上記外から添加したガングリオシドによるVacAの空胞化活性の阻害は、VacAとガングリオシドの直接の結合による受容体への結合阻害か、それともガングリオシドが細胞に影響を与えその結果VacAの作用が阻害を受けているのかどうか明らかにすることを試みた。そこで、VacAを作用させたときの細胞の中への取り込みにLyso-GM1の存在の有無によって変化があるか調べたところ、Lyso-GM1存在下においてVacAの細胞内への取り込みが減少することがわかった(図6)。次に、VacAとガングリオシドが直接結合するかどうかを調べた。VacAと抗VacA抗体を用いたVacA受容体であるRPTPβの免疫沈降のアッセイ系にLyso-GM1を添加したところ、VacAとRPTPβの結合はLyso-GM1の濃度に依存して阻害を受けた(図7)。また、VacAのトリプシン消化の実験系にLyso-GM1を添加していったところ、Lyso-GM1の濃度に依存してVacAのトリプシン消化が早まり、Lyso-GM1存在下においてVacAの構造の変化が起こっていることが示唆された(図8)。以上の結果より、VacAがLyso-GM1と相互作用していることが推察された。さらに、VacAとLyso-GM1の直接の結合の確証を得るために、Lyso-GM1を固相化したLyso-GM1樹脂(Sepharose)を作製し、VacAと直接結合するかどうか調べたところ、コントロール(Lyso-GM1が結合していない)樹脂(Sepharose)では認められないVacAの結合が、Lyso-GM1樹脂に対しては認められた(図9)。さらに、ヘリコバクター・ピロリの培養上清の硫安透析産物を用いてLyso-GM1樹脂に結合する蛋白質を調べたところ、硫安透析産物に含まれる種々雑多な蛋白質のうちLyso-GM1に特異的に結合する蛋白質はVacAであることがわかった(図10)。以上の結果はVacAがガングリオシドと結合することを示しており、これらの知見は、VacAの糖鎖認識を理解するうえで重要な知見であり、ガングリオシドのVacAへの結合および毒性の中和が胃炎・胃潰瘍の治癒へつながることを示唆している。
図1は、ガングリオシドGM1およびそのリソ体の構造を示す。 図2は、ガングリオシド混合物のVacAにより誘導された空胞における作用を示すグラフである。 図3は、個々のガングリオシドがVacAにより誘導された空胞における作用を示すグラフである。 図4は、ガングリオシドのリソ体がVacAにより誘導された空胞における作用を示すグラフである。 図5は、ガングリオシドのシアル酸部分がVacAの中和活性に重要であることを示すグラフである。 図6は、リソGM1がVacAの取り込みを阻害することを示す。 図7は、リソGM1がVacAのRPTPβへの結合を阻害することを示す電気泳動の写真である。 図8は、リソGM1がトリプシンによるVacAの分解を促進させることを示す電気泳動の写真である。 図9は、VacAがリソGM1−セファロースに結合することを示す電気泳動の写真である。 図10は、リソGM1−セファロースがヘリコバクター・ピロリの産生するタンパク質の中でVacAを特異的に結合することを示す電気泳動の写真である。

Claims (11)

  1. ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有してなるヘリコバクター・ピロリの空胞化毒素VacAに対する結合剤。
  2. 前記ガングリオシドがGM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3およびGT1bからなる群から構成されるものである請求項1記載のVacA結合剤。
  3. 前記ガングリオシドがGM1である請求項1記載のVacA結合剤。
  4. 前記リソ体がGM1のリソ体である請求項1記載のVacA結合剤。
  5. 請求項1〜4いずれか1項に記載のVacA結合剤を用いてVacA活性を中和させることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防方法。
  6. 前記疾患が胃炎、胃潰瘍または胃癌である請求項5に記載の治療または予防方法。
  7. 請求項1〜4いずれか1項に記載のVacA結合剤およびVacAを用いることを特徴とする、ヘリコバクター・ピロリが関与する疾患の治療または予防剤のスクリーニング方法。
  8. 前記疾患が胃炎、胃潰瘍または胃癌である請求項7に記載のスクリーニング方法。
  9. 胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するための、ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
  10. 胃炎、胃潰瘍または胃癌の治療または予防剤を製造するための、胃の上皮細胞表面に存在するガングリオシドとVacAとの結合を抑制する作用を有する化合物の使用。
  11. ガングリオシド、それらのリソ体およびそれらの化学修飾体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有してなるヘリコバクター・ピロリの作用を抑制する食品。
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