JP2007036183A - 磁性粒子の製造方法、磁性粒子、磁気記録媒体 - Google Patents

磁性粒子の製造方法、磁性粒子、磁気記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】高保磁力、粒径の単分散性および磁気特性の均一性を有する磁性粒子、その製造方法および磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】液相中で鉄粒子を合成する合成工程と、窒化処理工程とを含み、さらに、平均粒径を5〜25nmとする処理、実質的に球形とする処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法である。Fe162相を少なくとも含んでなる磁性粒子であって、前記Fe162相の平均粒径が9〜11nmであり、粒径の変動係数が15%以下であることを特徴とする磁性粒子である。本発明の磁性粒子を磁性層中に含んでなることを特徴とする磁気記録媒体である。
【選択図】なし

Description

本発明は、高保磁力を有する磁性粒子の製造方法に関し、より詳しくは、粒径の単分散性および磁気特性の均一性に優れた磁性粒子の製造方法、磁性粒子、磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体の磁性層に含有される磁性体の粒子サイズを小さくすることは、磁気記録密度を高くする上で重要である。例えば、ビデオテープ、コンピュータテープ、ディスク等として広く用いられている磁気記録媒体では、強磁性体の質量が同じ場合、粒子サイズがより小さい方がノイズを低く抑えることができる。
一方、磁性体を微粒子化し、超常磁性への安定体積以下になると、熱揺らぎにより、超常磁性となり、磁気記録に適さなくなる。そこで、結晶磁気異方性が高く超常磁性への安定体積が小さいFePt、CoPt等が検討されているが、貴金属を使うために高価である。また、SmCo等の希土類系の磁性体も結晶磁気異方性が高く有望であるが、腐食しやすい欠点を有している。
これらの事情からFe162の微粒子が研究されている。Fe162の粉末を合成する方法として、鉄粉を酸化した表面を高温で還元した後、NH3気流中で窒化処理し得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、かかる方法で得られたFe162は軟磁性であった。
磁気記録媒体に適する硬磁性のFe162については、比表面積約50m2/gの酸化鉄を高温で還元して純鉄を得た後、NH3気流中で窒化処理し10〜20m2/gの比表面積で得る方法が開示されている(例えば、特許文献2および非特許文献1参照)。しかし、比表面積が減少しており、酸化鉄を高温で還元する際に粗粒子化が生じている。
そこで、酸化鉄の表面を融着防止剤である希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムからなる層を被着した後に高温で還元する方法が開示されている(例えば、特許文献3および4参照)。
しかし、Fe162が準安定相であるため、窒化処理は200℃以下の低温で行う必要があり、希土類等を被着した後に窒化処理する方法は、被着層が窒素の拡散を阻害してしまう。また、被着層の厚み等が異なれば、窒化の程度が異なり、その結果、粒子ごとの磁気特性にばらつきが生じる欠点を有している。
特開平11−340023 特開2000−277311 特開2004−273094 特開2004−335019 「Fe16N2微粉末の磁気特性」(日本応用磁気学会誌25,927−930(2001))
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、高保磁力、粒径の単分散性および磁気特性の均一性を有する磁性粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、高保磁力、粒径の単分散性および磁気特性の均一性を有する磁性粒子およびこれを磁性層に含む磁気記録媒体を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、下記本発明が当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、液相中で鉄粒子を合成する合成工程と、窒化処理工程とを含み、さらに、平均粒径を5〜25nmとする処理、実質的に球形とする処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法である。
前記合成工程は、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および還元剤水溶液を混合した逆ミセル溶液(II)と、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および鉄の金属塩水溶液を混合した逆ミセル溶液(I)とを混合して還元反応を行い、鉄粒子を合成する工程であることが好ましい。さらに、酸化皮膜を形成する酸化皮膜形成工程を含むことが好ましい。
また、本発明は、Fe162相を少なくとも含んでなる磁性粒子であって、前記Fe162相の平均粒径が9〜11nmであり、粒径の変動係数が15%以下であることを特徴とする磁性粒子である。前記Fe162相の保磁力は197.5〜237kA/m(2500〜3000Oe)であり、「Ms・V」は5.2×10−16〜6.5×10−16であることが好ましい。
さらに、本発明は、既述の本発明の磁性粒子を磁性層中に含んでなることを特徴とする磁気記録媒体である。
本発明によれば、高保磁力、粒径の単分散性および磁気特性の均一性を有する磁性粒子の製造方法を提供することができる。また、高保磁力、粒径の単分散性および磁気特性の均一性を有する磁性粒子およびこれを磁性層に含む磁気記録媒体を提供することができる。
[1]磁性粒子の製造方法:
本発明の磁性粒子の製造方法は、液相中で鉄粒子を合成する合成工程と、窒化処理工程とを含む。また、平均粒径を5〜25nmとする処理、実質的に球形とする処理のそれぞれを、前記工程中、もしくは前記工程の前後に施す。以下、各工程および各処理、並びに、必要に応じて設けられるその他の工程等について説明する。
(1)合成工程(鉄粒子を合成する工程):
鉄粒子の合成方法としては、沈殿法で分類すると、1級アルコールを用いるアルコール還元法、2級アルコール、3級アルコール、2価または3価の多価アルコールを用いるポリオール還元法、熱分解法、超音波分解法、強力還元剤還元法が知られている。さらに、当該方法は、反応系で分類すると、高分子存在法、高沸点溶媒法、正常ミセル法、逆ミセル法などが知られている。
本発明では、実質的に球形の鉄粒子が得られ、粒径の制御が容易で単分散の分散物を得やすい点から、逆ミセル法を採用することが好ましい。具体的には、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および還元剤水溶液を混合した逆ミセル溶液(II)と、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および鉄の金属塩水溶液を混合した逆ミセル溶液(I)とを混合して還元反応を行い、鉄粒子(鉄ナノ粒子)を合成することが好ましい。
なお、「実質的に球形」とは、鉄粒子もしくは磁性粒子をTEM観察した際の粒子の長軸長/短軸長の比が2以下、好ましくは1.5以下であることを意味する。以下、合成工程を詳細に説明する。実質的に球でなければ窒化時に磁化容易軸が一方向に定まることから、長軸あるいは短軸に磁化容易軸が混在することとなり、好ましくない。
合成工程において、鉄粒子は、1種以上の金属化合物を含む逆ミセル溶液(I)と還元剤を含む逆ミセル溶液(II)とを混合して還元処理を施す還元工程と、必要に応じて前記還元処理後に熟成処理を施す熟成工程とを経て製造される。以下、各工程について説明する。
(還元工程)
まず、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と1種以上の金属化合物を含む水溶液とを混合した逆ミセル溶液(I)を調製する。逆ミセル溶液(I)は、鉄粒子を形成するのに用いられる鉄塩が含有される。
前記界面活性剤としては、油溶性界面活性剤が用いられる。具体的には、スルホン酸塩型(例えば、エーロゾルOT(和光純薬製))、4級アンモニウム塩型(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)、エーテル型(例えば、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)などが挙げられる。
前記界面活性剤を溶解する非水溶性有機溶媒として好ましいものは、アルカンおよびエーテルである。アルカンとしては、炭素数7〜12のアルカン類であることが好ましい。具体的には、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンが挙げられる。一方、エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルが好ましい。非水溶性有機溶媒中の界面活性剤の添加量は、20〜200g/lであることが好ましい。
金属化合物の水溶液に含有される金属化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体の水素酸、塩素イオンを配位子とする金属錯体のカリウム塩、塩素イオンを配位子とする金属錯体のナトリウム塩、シュウ酸イオンを配位子とする金属錯体のアンモニウム塩などが挙げられ、本発明の製造方法では、これらを任意に選択して使用することができる。
各々の金属化合物水溶液中の金属化合物としての濃度は、0.1〜2000μモル/mlであることが好ましく、1〜500μモル/mlであることがより好ましい。
得られる粒子が均一な組成を有するよう、金属化合物水溶液中にキレート剤を添加することが好ましい。具体的には、DHEG(二ヒドロキシエチルグリシン)、IDA(イミノ二酢酸)、NTP(ニトリロ三プロピオン酸)、HIDA(二ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、EDDP(エチレンジアミン二プロピオン酸二塩酸塩)、BAPTA(二アミノフェニルエチレングリコール四酢酸四カリウム塩水和物)などをキレート剤として使用することが好ましい。また、キレート安定度定数(logK)は、10以下であることが好ましい。キレート剤の添加量は、金属化合物(鉄塩)1モル当たり、0.1〜10モルであることが好ましく、0.3〜3モルであることがより好ましい。
次に、還元剤を含む逆ミセル溶液(II)を調製する。逆ミセル溶液(II)は、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と還元剤水溶液とを混合させて調製することができる。2種以上の還元剤を用いる場合、これらを一緒に混合して逆ミセル溶液(II)としてもよいが、溶液の安定性や作業性等を考慮し、それぞれ別々に非水溶性有機溶媒に混合して、別々の逆ミセル溶液((II’)、(II’’)等)として調製し、これらを適宜混合等して使用することが好ましい。
還元剤水溶液は、例えば、アルコール類;ポリアルコール類;H2;HCHO、S26 2-、H2PO2 -、BH4 -、N25 +、H2PO3 -等と水とからなり、これらの還元剤を単独または2種以上を併用することが好ましい。水溶液中の還元剤量は、金属塩1モルに対して、3〜50モルであることが好ましい。
逆ミセル溶液(II)で用いられる界面活性剤及び非水性有機溶媒としては、逆ミセル溶液(I)で用いたものを挙げることができる。
逆ミセル溶液(I)および(II)のそれぞれに含有される水および界面活性剤の質量比(水/界面活性剤)は、0.5〜20とすることが好ましい。質量比を0.5〜20とすることで、平均粒径を5〜25nmとすることができる。また、沈殿が発生しにくく、かつ均一の鉄粒子を得ることができる。質量比は、0.5〜15とすることがより好ましく、0.5〜10とすることがさらに好ましい。
逆ミセル溶液(I)と(II)の水および界面活性剤の質量比は同一でも異なっていてもかまわないが、系を均一にするために質量比は同一であることが好ましい。
以上のようにして調製した逆ミセル溶液(I)と(II)とを混合する。混合方法は特に限定されるものではないが、還元の均一性を考慮して、逆ミセル溶液(II)を撹拌しながら、逆ミセル溶液(I)を添加して混合することが好ましい。混合終了後、還元反応を進行させることになるが、その際の温度は−5〜30℃の範囲で一定の温度とする。還元温度が−5℃以上であれば、水相が凝結することもなく還元反応を均一にすることができ、また30℃以下であれば、凝集または沈殿が起こりにくく、系を安定化させることができる。好ましい還元温度は0〜25℃であり、さらに好ましくは5〜25℃である。
ここで、前記「一定温度」とは、設定温度をT(℃)とした場合、温度がT±3℃の範囲にあることをいう。なお、このようにした場合であっても、当該Tの上限および下限は、上記還元温度(−5〜30℃)の範囲にあるものとする。
還元反応の時間は、逆ミセル溶液(I)および(II)の量等により適宜設定する必要があるが、1〜30分とすることが好ましく、5〜20分とすることがより好ましい。
還元反応は、鉄粒子の粒径分布の単分散性に大きな影響を与えるため、できるだけ高速攪拌(例えば約3000rpm以上)しながら行うことが好ましい。好ましい攪拌装置は高剪断力を有する攪拌装置であり、詳しくは攪拌羽根が基本的にタービン型あるいはパドル型の構造を有し、さらに、その羽根の端または羽根と接する位置に鋭い刃を付けた構造であり、羽根をモーターで回転させる攪拌装置である。具体的には、ディゾルバー(特殊機化工業製)、オムニミキサー(ヤマト科学製)、ホモジナイザー(SMT製)などの装置が有用である。これらの装置を用いることにより、単分散なナノ粒子を安定な分散液として合成することができる。
前記逆ミセル溶液(I)および(II)の反応後に、アミノ基またはカルボキシ基を1〜3個有する少なくとも1種の分散剤を、作製しようとする鉄粒子1モル当たりに0.001〜10モル添加することが好ましい。分散剤の添加量は、0.001〜10モルであれば、鉄粒子の単分散性をより向上させることができ、かつ凝集も起こらない。
前記分散剤としては、合金ナノ粒子表面に吸着する基を有する有機化合物が好ましい。具体的には、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基またはスルフィン酸基を1〜3個有するものであり、これらを単独または併用して用いることができる。
構造式としては、R−NH2、H2N−R−NH2、H2N−R(NH2)−NH2、R−COOH、HOCO−R−COOH、HOCO−R(COOH)−COOH、R−SO3H、HOSO2−R−SO3H、HOSO2−R(SO3H)−SO3H、R−SO2H、HOSO−R−SO2H、HOSO−R(SO2H)−SO2Hで表される化合物であり、式中のRは直鎖、分岐または環状の飽和または不飽和の炭化水素残基である。
分散剤として特に好ましい化合物はオレイン酸である。オレイン酸はコロイドの安定化において周知の界面活性剤であり、鉄ナノ粒子を保護するのに用いられる。オレイン酸の比較的長い鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与える(オレイン酸は18炭素鎖を有し、長さは2nm程度(20オングストローム程度)であり、二重結合を1つ有する)。オレイン酸は、例えばオリーブ油などから容易に入手できる安価な天然資源であるため好ましい。また、オレイン酸から誘導されるオレイルアミンもオレイン酸同様有用な分散剤である。
その他、エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸と同様に用いることができる(例えば、8〜22の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独または組み合わせて用いることができる。)。
分散剤の添加時期は、特に限定されるものではないが、還元反応直後から下記の熟成工程開始までの間であることが好ましい。かかる分散剤を添加することで、より単分散で、凝集のない鉄ナノ粒子を得ることができる。
(熟成工程)
熟成工程は、前記還元反応が終了した後、さらに反応後の溶液を熟成温度まで昇温させる工程である。熟成温度は、30〜90℃の間で一定の温度とすることが好ましく、その温度は、前記還元反応の温度より高くすることが適当である。また、熟成時間は、5〜180分とすることが好ましい。熟成温度および熟成時間が上記範囲内であれば、凝集や沈殿が起こり難く、かつ反応を完結させ、組成を一定にすることができる。より好ましい熟成温度および熟成時間は40〜80℃、10〜150分であり、さらに好ましい熟成温度および熟成時間は40〜70℃、20〜120分である。
ここで、前記「一定温度」とは、還元反応の温度の場合と同義(但し、この場合、「還元温度」は「熟成温度」となる)であるが、特に、上記熟成温度の範囲(30〜90℃)内で、前記還元反応の温度より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。当該温度を5℃以上高くすることにより、処方通りの組成を得ることができる。
以上のような熟成工程では、熟成時の温度で撹拌速度を適宜調整することにより、所望の粒径を有する鉄粒子を作製することができる。
前記熟成を行った後は、水と1級アルコールとの混合溶液で前記熟成後の溶液を洗浄し、その後、1級アルコールで沈殿化処理を施して沈殿物を生成させ、該沈殿物を有機溶媒で分散させる洗浄・分散工程を設けることが好ましい。かかる洗浄・分散工程を設けることにより、不純物が除去され、磁気記録媒体の磁性層形成時の塗布性をより向上させることができる。上記洗浄および分散は、少なくともそれぞれ1回、好ましくは、それぞれ2回以上行う。
洗浄で用いられる1級アルコールは、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。水と1級アルコールの体積混合比(水/1級アルコール)は、10/1〜2/1の範囲にあることが好ましく、5/1〜3/1の範囲にあることがより好ましい。水の比率が高いと、界面活性剤が除去されにくくなることがあり、逆に1級アルコールの比率が高いと、凝集を起こしてしまうことがある。
鉄粒子を還元析出、あるいは熱析出させる際に保護コロイドを存在させる事で鉄粒子を安定して調製することができる。熱析出には鉄カルボニルを熱分解して鉄粒子を得る方法が知られている。保護コロイドとしてはポリマーや界面活性剤を使用することが好ましい。前記ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリN−ビニル−2ピロリドン(PVP)、ゼラチン等が挙げられる。なかでも、特に好ましくはPVPである。また、分子量は2万〜6万が好ましく、より好ましくは3万〜5万である。ポリマーの量は生成する硬磁性ナノ粒子の質量の0.1〜10倍であることが好ましく、0.1〜5倍がより好ましい。
保護コロイドとして好ましく用いられる界面活性剤は、一般式:R−X、で表される長鎖有機化合物である「有機安定剤」を含むことが好ましい。上記一般式中のRは、直鎖または分岐ハイドロカーボンまたはフルオロカーボン鎖である「テール基」であり、通常8〜22個の炭素原子を含む。また、上記一般式中のXは、ナノ粒子表面に特定の化学結合を提供する部分(X)である「ヘッド基」であり、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(−SO2OH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH)2)、カルボキシレート、およびチオールのいずれかであることが好ましい。
前記有機安定剤としては、スルホン酸類(R−SO2OH)、スルフィン酸類(R−SOOH)、ホスフィン酸類(R2POOH)、ホスホン酸類(R−OPO(OH)2)、カルボン酸類(R−COOH)、チオール類(R−SH)等のいずれかであることが好ましい。これらのなかでも、オレイン酸が特に好ましい。
オレイン酸はコロイドの安定化において周知の界面活性剤であり、鉄系ナノ粒子の保護に好適である。オレイン酸は18炭素鎖を有し、その長さは〜20オングストローム(〜2nm)である。また、オレイン酸には脂肪族ではなく二重結合が1つ存在する。そして、オレイン酸の比較的長い鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与える。エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸同様に(たとえば、8〜22の間の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独でまたは組み合わせて用いることができる)用いられてきが、オレイン酸は(オリーブ油など)容易に入手できる安価な天然資源であるので、特に好ましい。
前記ホスフィンと有機安定剤との組合せ(トリオルガノホスフィン/酸等)は、粒子の成長および安定化に対する優れた制御性を提供することができる。ジデシルエーテルおよびジドデシルエーテルも用いることができるが、フェニルエーテルまたはn−オクチルエーテルはその低コストおよび高沸点のため溶媒として好適に用いられる。
反応は必要な鉄粒子および溶媒の沸点により80℃〜360℃の範囲の温度で行うことが好ましく、80℃〜240℃がより好ましい。温度がこの温度範囲より低いと粒子が成長しないことがある。温度がこの範囲より高いと粒子は制御されないで成長し、望ましくない副産物の生成が増加することがある。
粒子サイズを大きくするため、種晶法を用いることが好ましい。その際、種晶の鉄粒子の酸化が懸念されるため、予め粒子を水素化処理することが好ましい。
鉄粒子合成後に溶液から塩類を除くことは、鉄ナノ粒子の分散安定性を向上させる意味から好ましい。脱塩にはアルコールを過剰に加え、軽凝集を起こし、自然沈降あるいは遠心沈降させ塩類を上澄みと共に除去する方法があるが、このような方法では凝集が生じやすいため、限外濾過法を採用することが好ましい。
窒化前の粒子は、純鉄であることが好ましく、必要に応じて還元処理を行うことが好ましい。還元処理はH2雰囲気下で加熱する。温度としては、200〜350℃が望ましい。これは温度が350℃より高すぎると粒子の融合が生じるからである。
(2)窒化処理工程:
窒化処理工程では、鉄粒子を窒素含有ガス気流中で加熱する。当該工程により、Fe162相を主相として得ることができる。但し、窒化処理に先立ち、鉄粒子の酸化が懸念される場合には、水素あるいは水素と不活性ガス(H2、Ar、He等)との混合ガス気流中還元処理を行うことが好ましい(酸化処理)。この場合、温度が高すぎると粒子が融着してしまい望ましくなく、低いと十分に還元されない。よって温度としては200℃〜300℃が好ましく、より好ましくは250℃〜300℃である。
窒化処理のための窒化ガスについては,「窒素ガス」、「窒素と水素との混合ガス」、「アンモニアガス」等が使用できるが,アンモニアガスが使用に便宜である。
NH3雰囲気中での窒化処理は、アンモニア(NH3)気流中あるいはアンモニアガスを含んだ混合ガス気流中(例えばアルゴン、水素、窒素のいずれか一つ以上のガスを含んだ、アンモニアガスとの混合ガス)で行うのが良く、かつ、100〜250℃の比較的低温度域で行うのが望ましい。窒化処理温度が高くなると、Fe162相が得られ難くなる。また逆に低過ぎるとFe162相生成の進行が遅くなる傾向にある。尚、これらのガスは高純度(5N以上)もしくは酸素量が数ppm以下であることが望ましい。また、100〜250℃の温度範囲では、0.5〜24時間の範囲が工業的に好ましく、処理時間は粒径にも依存するが、0.5〜12時間で処理することが好ましい。
このような窒化処理にあたり、得られる磁性粉末中の鉄に対する窒素の含有量が1.0〜20原子%となるように、窒化処理の条件を選択することが望ましい。上記窒素の量が少なすぎると、Fe162の生成量が少ないため、保磁力向上の効果が少なくなる。また上記窒素の量が多すぎると、Fe4NやFe3N相などが形成されやすくなり、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
(3)酸化皮膜形成工程:
酸化皮膜形成工程は、必要に応じて、Fe162粒子に酸化皮膜を形成する工程である。酸化皮膜を形成するには、酸素濃度1〜5%の不活性ガス(N2、Ar、He、Ne等)の雰囲気下で0〜100℃の温度で1〜10時間処理することが好ましい。このような処理により後述の厚みの酸化皮膜を形成することができる。
希土類元素を被着するには、通常は、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより、Fe162を主に含む粒子に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させるようにすればよい。
また、シリコンやアルミニウムさらに必要によりホウ素やリンなどの元素で構成された化合物を溶解させ、これにFe162を主に含む粒子を浸漬して、Fe162を主に含む粒子に対して、シリコンやアルミニウムなどを被着させるようにしてもよい。これらの被着処理を効率良く行うため、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させてもよい。これらの被着処理として、希土類元素とシリコン、アルミニウムなどを同時にあるいは交互に被着させるようにしてもよい。
以上のようにして製造される磁性粒子は、Fe162を主相(少なくとも半分がFe162相)とし、その形状は実質的に球形となっている。これは、体心立方晶の鉄が窒化する際に、その等価な3方向の1軸が伸び、体心正方晶が形成され、この伸びた1軸方向が磁化容易軸となる。従って、針状の鉄粒子を窒化しFe162を得ると、長軸に磁化容易軸が存在する粒子と短軸に磁化容易軸が存在する粒子が混在することになり好ましくない。具体的には、磁場中で配向した場合、表面が荒れる弊害が生じる。Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末の平均粒径としては、5〜25nmであることが好ましく、8〜15nmであることがより好ましく、9〜11nmであることがさらに好ましい。この範囲より粒径が大きい場合、軟磁性になりやすく、粒径が小さい場合、超常磁性状態になりやすくなるためである。
[2]磁性粒子:
本発明の磁性粒子は、Fe162相を少なくとも含み、前記Fe162相の平均粒径が9〜11nmであり、粒径の変動係数が15%以下である。Fe162相の平均粒径とは、Fe162粒子の表面に層が形成されている場合は、当該層を含まないFe162粒子そのものをいう。
本発明の磁性粒子はFe162相を少なくとも含むが、他の窒化鉄の相を含まないことが好ましい。これは、窒化鉄(Fe4NやFe3N相)の結晶磁気異方性は1×105erg/cc程度であるのに対し、Fe162相は2〜7×106erg/ccの高い結晶磁気異方性を有するからである。これにより、微粒子化した際にも高い保磁力を維持する事ができる。この高い結晶磁気異方性は、Fe162相の結晶構造に起因する。結晶構造は、N原子がFeの八面体格子間位置に規則的に入った体心正方晶であり、N原子が格子に入る際の歪が、高い結晶磁気異方性の発生原因と考えられる。Fe162相の磁化容易軸は窒化により伸びたC軸である。
Fe162相を含む粒子の形状は粒状ないし楕円状であることが好ましい。さらに好ましくは球状である。これは、立方晶であるα−Feの等価な3方向のうち一方向が窒化により選ばれc軸(磁化容易軸)となるため、粒子形状が針状であれば、磁化容易軸が短軸方向、長軸方向にある粒子が混在することになり好ましくないからである。従って、長軸長/短軸長の軸比の平均値は好ましくは、2以下(例えば、1〜2)であり、より好ましくは1.5以下(例えば、1〜1.5)である。
粒径は窒化する前の鉄粒子の粒径で決まり、単分散であることが好ましい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。そして、Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末の粒径は、鉄粒子の粒径で決まり、鉄粒子の粒径分布は単分散であることが好ましい。これは粒子サイズの大きい粒子と小さい粒子で窒化の度合いが異なり、磁気特性が異なるためである。この意味からも窒化鉄系磁性粉末の粒径分布は単分散であることが好ましい。
磁性体であるFe162相の粒径としては9〜11nmである。これは、粒径が小さくなると熱揺らぎの影響が大きくなり、超常磁性化し、磁気記録媒体に適さなくなるからである。また、磁気粘性のためヘッドで高速記録する際の保磁力が高くなり、記録しづらくなるからである。一方、粒径が大きいと、飽和磁化を小さくすることが出来ないため、記録時の保磁力が高くなりすぎ、記録をすることが困難となるからである。また、粒子サイズが大きいと、磁気記録媒体としたときの粒子性のノイズが高くなるからである。粒径分布は、単分散であることが好ましくい。これは一般的には、単分散の方が、媒体ノイズが下がるためである。粒径の変動係数は15%以下(好ましくは2〜15%)であり、さらに好ましくは、10%以下(好ましくは2〜10%)である。
粒径及び粒径の変動係数は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した合金ナノ粒子を載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影したネガを粒径測定器(カールツァイス製KS−300)で測定される算術平均粒径から算出することができる。
Fe162相を含む粒子において、鉄に対する窒素の含有量は、1.0〜20.0at%が好ましく、さらに好ましくは5.0〜18.0at%、より好ましくは8.0〜15.0at%であるのがより好ましい。これは、窒素が少なすぎると、Fe162相の形成量が少なくなるからであり、保磁力増加は窒化による歪に起因しており、窒素が少なくなると保磁力が低くなるからである。窒素が多すぎると、Fe162相は準安定相であるため、分解して安定相である他の窒化物となり、この結果、飽和磁化が過度に低下するからである。
なお、本明細書において「粒径の変動係数」とは、円相当径での粒径分布の標準偏差を求め、これを平均粒径で除したものを意味する。また、「組成の変動係数」とは、粒径の変動係数と同様に、合金ナノ粒子の組成分布の標準偏差を求め、これを平均組成で除したものを意味する。本発明においては、このような値を100倍して%表示とする。
平均粒径および粒径の変動係数は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した合金ナノ粒子を載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影したネガを粒径測定器(カールツァイス製KS−300)で測定される算術平均粒径から算出することができる。
Fe162を主相とする窒化鉄系磁性粉末は、その表面が酸化皮膜で覆われていることが好ましい。これは、微粒子Fe162は酸化しやすく、窒素雰囲気でハンドリングを要するからである。
酸化皮膜は、希土類元素及び/またはシリコン、アルミニウムから選ばれる元素を含んでいることが好ましい。これにより、従来の鉄、Coを主成分とするいわゆるメタル粒子と同様の粒子表面を有することとなり、メタル粒子を取り扱っていた工程との親和性が高くなるからである。希土類元素は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Tb,Dy,Gdが好ましく用いられ、特にYが分散性の観点から好ましく用いられる。
また、シリコンおよびアルミニウム以外に、必要に応じて、ホウ素やリンを含ませるようにしてもよい。さらに、炭素、カルシウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、ストロンチウムなども有効な元素として含ませてもよい。これらの他の元素と希土類元素および/またはシリコン、アルミニウムとを併用することにより、より高い形状維持性と分散性能を得ることができる。
表面化合物層の組成は、鉄に対する希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンの総含有量は、0.1〜40.0at%が好ましく、さらに好ましくは1.0〜30.0at%、より好ましくは3.0〜25.0at%であるのがよい。これらの元素が少なすぎると、表面化合物層の形成が困難となり、磁性粉末の磁気異方性が減少するだけでなく、酸化安定性に劣る。またこれらの元素が多すぎると、飽和磁化の過度な低下が起こりやすい。
酸化皮膜の厚みは1〜5nmが好ましく、2〜3nmがより好ましい。この範囲より薄いと酸化安定性が低くなりやすく、厚いと実質的に粒子サイズが小さくなりにくくなることがあることによる。
Fe162を主相とする窒化鉄系の磁性粒子の磁気特性としては、その保磁力(Hc)が、79.6〜318.4kA/m(1,000〜4,000Oe)であることが好ましく、159.2〜278.6kA/m(2000〜3500Oe)であることがより好ましい。さらに好ましくは、197.5〜237kA/m(2500〜3000Oe)である。これは、Hcが低いと、例えば面内記録の場合、隣の記録ビットの影響を受けやすくなり、高記録密度に適さなくなることがあるからであり、高すぎると記録されづらくなることがあるからである。
「Ms・V」は、5.2×10−16〜6.5×10−16であることが好ましい。なお、「Ms・V」における飽和磁化Msは、例えば、振動式磁気測定器(VSM)を用い測定することができる。また、体積Vは透過型電子顕微鏡(TEM)を用い粒子観察を行い、Fe162相の粒径を求め、体積換算することにより求めることができる。
飽和磁化は80〜160Am2/kg(80〜160emu/g)が好ましく、80〜120Am2/kg(80〜120emu/g)がより好ましい。これは低すぎると、信号が弱くなることがあり、高すぎると例えば面内記録の場合、隣の記録ビットに影響を及ぼしやすくなり、高記録密度に適さなくなるためである。角型比としては、0.6〜0.9が好ましい。
また、この磁性粉末は、BET比表面積が40〜100m2/gであることが好ましい。これは、BET比表面積が小さすぎると、粒子サイズが大きくなり、磁気記録媒体に適用すると粒子性ノイズが高くなり、また磁性層の表面平滑性が低下して、再生出力が低下しやすい。また、BET比表面積が大きすぎると、Fe162相を含む粒子が凝集しやすくなり均一な分散物を得ることが難しく、平滑な表面を得ることが難しくなるからである。
Fe162相を含む粒子は、既述の本発明の磁性粒子の製造方法によって製造することが好ましいが、α−Feを合成して当該粒子を製造してもよい。以下、製造方法について、説明する。まず、Fe162相はα−Feを窒化することにより得られる。α−Feを得るには鉄系酸化物または水酸化物(たとえば、ヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトなど)を気相中で還元して得る方法と、液相中で合成する方法がある。鉄系酸化物または水酸化物の平均粒子サイズは、とくに限定されないが、通常は、5〜100nm程度であるのが望ましい。粒子サイズが小さすぎると、還元処理時に粒子間焼結が生じやすく、また粒子サイズが大きすぎると、還元処理が不均質となりやすく、粒子径や磁気特性の制御が困難となる。
そこで、鉄系酸化物または水酸化物に対して、希土類元素あるいはホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含む化合物を被着させ、焼結を防止することが好ましい。希土類元素の被着は、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより原料粉末に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出することにより行うことができる。ホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含む化合物を被着させる場合は、原料粉末を浸漬した溶液にこれらの化合物を溶解させ、吸着により被着させるか、沈澱析出を行うことにより被着させる。
水酸化物や水和物に対して、希土類元素とホウ素、シリコン、アルミニウム、リンなどの中から選ばれた少なくとも1種の元素を同時にあるいは交互に被着させてもよい。また、これらの被着処理を効率良く行うために、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させることも好ましく行われる。
つぎに、化合物を被着させた水酸化物や水和物を、還元性ガス気流中で加熱した。還元ガスは、水素ガス、一酸化炭素ガスを用いることができる。処理後H2Oとなる水素が環境適性の観点から好ましく用いられる。還元温度としては、250〜600℃とするのが望ましい。より好ましくは300〜500℃である。還元温度が250℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また600℃を超えると、粒子の焼結が起こりやすくなり、いずれも好ましくない。
その後は、既述の本発明の製造方法のように、窒化処理工程、酸化皮膜形成工程を経て磁性粒子が製造される。
[3]磁気記録媒体:
本発明の製造方法により製造される磁性粒子は、磁気記録媒体の磁性層に好適に使用することができる。当該磁気記録媒体としては、ビデオテープ、コンピュータテープ等の磁気テープ;フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等の磁気ディスク;等が挙げられる。
磁性層は、支持体上に主にFe162粒子(磁性粒子)からなる層を塗布により形成して得ることができる。支持体としては、磁気記録媒体に使用される支持体であれば、無機物および有機物のいずれでもよい。
無機物の支持体としては、Al、Al−Mg、Mg−Al−Zn等のMg合金、ガラス、石英、カーボン、シリコン、セラミックス等が用いられる。これらの支持体は耐衝撃性に優れ、また薄型化や高速回転に適した剛性を有する。また、下記の有機物の支持体と比較して、熱に強い特徴を有している。
有機物の支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類;ポリオレフィン類;セルロ−ストリアセテート、ポリカ−ボネート、ポリアミド(脂肪族ポリアミドやアラミド等の芳香族ポリアミドを含む)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリベンゾオキサゾール;等を用いる事ができる。
支持体上に塗布する方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。
形成される磁性層の厚さは、適用される磁気記録媒体の種類にもよるが、4nm〜1μmであることが好ましく、4nm〜100nmであることがより好ましい。
本発明の磁気記録媒体は、磁性層のほかに必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば、ディスクの場合、磁性層が形成される面とは反対側の面にさらに磁性層や非磁性層を設けることが好ましい。テープの場合、磁性層の反対側の不溶性支持体面上にバック層を設けることが好ましい。
また、磁性層上に非常に薄い保護膜を形成することで、耐磨耗性を改善し、さらにその保護膜上に潤滑剤を塗布して滑り性を高めることによって、十分な信頼性を有する磁気記録媒体とすることができる。
保護膜の材質としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物;窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物;炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物;グラファイト、無定型カーボンなどの炭素(カーボン);等があげられるが、特に好ましくは、一般に、ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれる硬質の非晶質のカーボンである。
カーボンからなるカーボン保護膜は、非常に薄い膜厚で十分な耐磨耗性を有し、摺動部材に焼き付きを生じ難いため、保護膜の材料としては好適である。カーボン保護膜の形成方法として、ハードディスクにおいては、スパッタリング法が一般的であるが、ビデオテープ等の連続成膜を行う必要のある製品ではより成膜速度の高いプラズマCVDを用いる方法が多数提案されている。従って、これらの方法を適用することが好ましい。中でもプラズマインジェクションCVD(PI−CVD)法は成膜速度が非常に高く、得られるカーボン保護膜も硬質かつピンホールが少ない良質な保護膜が得られると報告されている(例えば、特開昭61−130487号公報、特開昭63−279426号公報、特開平3−113824号公報等)。
このカーボン保護膜は、ビッカース硬度で1000kg/mm2以上であることが好ましく、2000kg/mm2以上であることがより好ましい。また、その結晶構造はアモルファス構造であり、かつ非導電性であることが好ましい。
そして、カーボン保護膜として、ダイヤモンド状炭素(ダイヤモンドライクカーボン)膜を使用した場合、この構造はラマン光分光分析によって確認することができる。すなわち、ダイヤモンド状炭素膜を測定した場合には、1520〜1560cm-1にピークが検出されることによって確認することができる。炭素膜の構造がダイヤモンド状構造からずれてくるとラマン光分光分析により検出されるピークが上記範囲からずれるとともに、保護膜としての硬度も低下する。
このカーボン保護膜を形成するための炭素原料としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン;エチレン、プロピレン等のアルケン;アセチレン等のアルキン;をはじめとした炭素含有化合物を用いることが好ましい。また、必要に応じてアルゴンなどのキャリアガスや膜質改善のための水素や窒素などの添加ガスを加えることができる。
カーボン保護膜の膜厚が厚いと、電磁変換特性の悪化や磁性層に対する密着性の低下が生じ、膜厚が薄いと耐磨耗性が不足する。従って、膜厚は、2.5〜20nmとすることが好ましく、5〜10nmとすることがより好ましい。また、この保護膜と基板となる磁性層の密着性を改善するために、あらかじめ磁性層表面を不活性ガスでエッチングしたり、酸素等の反応性ガスプラズマに曝して表面改質する事が好ましい。
磁性層は電磁変換特性を改善するため重層構成としたり、磁性層の下に公知の非磁性下地層や中間層を有していてもよい。走行耐久性および耐食性を改善するため、既述のように、上記磁性層もしくは保護膜上に潤滑剤や防錆剤を付与することが好ましい。添加する潤滑剤としては公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤などが使用できる。
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ステアリン酸ブチル等のエステル類;オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類;リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類;ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類;ステアリルアミン等のアミン類;などが挙げられる。
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)nまたはこれらの共重合体等である。
また、炭化水素系潤滑剤のアルキル基の末端や分子内に水酸基、エステル基、カルボキシル基などの極性官能基を有する化合物が、摩擦力を低減する効果が高く好適である。さらに、この分子量は、500〜5000、好ましくは1000〜3000である。500未満では揮発性が高く、また潤滑性が低いなることがある。また、5000を超えると、粘度が高くなるため、スライダーとディスクが吸着しやすく、走行停止やヘッドクラッシュなどを発生しやすくなることがある。このパーフルオロポリエーテルは、具体例的には、アウジモンド社製のFOMBLIN、デュポン社製のKRYTOXなどの商品名で市販されている。
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類;トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類;二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤;などが挙げられる。
前記潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用される。これらの潤滑剤を磁性層もしくは保護膜上に付与する方法としては、潤滑剤を有機溶剤に溶解し、ワイヤーバー法、グラビア法、スピンコート法、ディップコート法等で塗布するか、真空蒸着法によって付着させればよい。
防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体;ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体;等が挙げられる。
既述のように、磁気記録媒体が磁気テープ等の場合は、非磁性支持体の磁性層が形成されていない面にバックコート層(バッキング層)が設けられていてもよい。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が形成されていない面に、研磨材、帯電防止剤などの粒状成分と結合剤とを公知の有機溶剤に分散したバックコート層形成塗料を塗布して設けられる層である。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができ、また結合剤としてはニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。また、合金粒子含有液の塗布面およびバックコート層が形成される面には、公知の接着剤層が設けられていてもよい。
以上のようにして製造される磁気記録媒体は、表面の中心線平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおいて、好ましくは0.1〜5nm、より好ましくは1〜4nmの範囲とする。このように、極めて優れた平滑性を有する表面とすることが、高密度記録用の磁気記録媒体として好ましいからである。このような表面を得る方法として、磁性層を形成した後にカレンダー処理を施す方法が挙げられる。また、バーニッシュ処理を施してもよい。
得られた磁気記録媒体は、適宜、打ち抜き機で打ち抜いたり、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
本発明を以下に示す実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〜13〕
高純度N2ガス中で下記の操作を行った。三シュウ酸三アンモニウム鉄(Fe(NH43(C243)(和光純薬製)0.35gをH2O(脱酸素処理済み)24mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOTを下記表1記載の量でデカン80mlに溶解したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(I)を調製した。
NaBH4(和光純薬製)0.57gをH2O(脱酸素処理済み)12mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT(和光純薬製)を下記表1記載の量でデカン(和光純薬製)40mlに溶解したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(II)を調製した。
逆ミセル溶液(II)を22℃の温度でオムニミキサー(ヤマト科学製)で高速攪拌しながら、逆ミセル溶液(I)を瞬時に添加した。添加終了5分後に、マグネチックスターラー攪拌に変更して、40℃に昇温した後、120分間熟成した。室温に冷却後、オレイン酸(和光純薬製)2mlを添加、混合した。
ミセルを破壊するために、H2O(脱酸素処理済み)200mlとメタノール200mlとの混合液を添加して水相と油相とに分離した。油相側に金属ナノ粒子が分散した状態が得られた。油相側を「H2O600ml+メタノール200ml」で5回洗浄した。その後、メタノールを1300ml添加して合金ナノ粒子にフロキュレーションを起こさせて沈降させた。上澄み液を除去して、ヘプタン(和光純薬製)20mlを添加して再分散した後、メタノール100ml添加で沈降させた。これを2回繰り返して、最後にヘプタン(和光純薬製)5mlを添加して、下記表1記載の粒径を有する鉄ナノ粒子分散液を得た。当該鉄ナノ粒子分散物を真空脱気し、分散助剤(オレイン酸、オレイルアミン)中で分散された鉄ナノ粒子分散物を得た。
一部のサンプル(実施例4〜6、9、10)にはH2気流中280℃、1時間の還元処理を行った(還元処理)。NH3100ml/min、Ar50ml/min混合ガス流中で、130℃、24時間窒化処理を行った(窒化処理工程)。その後、室温に戻し、一部のサンプル(実施例7〜13)をO21%、N299%の雰囲気下で25℃5時間保持して酸化処理を行った(酸化皮膜形成工程)。
〔比較例1〕
特開2000−277311号公報の実施例1に従いサンプルを作製し、比較例1とした。
〔比較例2〕
特開2004−273094号公報の実施例1に従いサンプルを作製し、比較例2とした。
(磁気特性評価)
磁性粒子をN2雰囲気下のグローブボックス中でアクリルケースに封入した後、東英工業製の高感度磁化ベクトル測定機と同社製DATA処理装置を使用し、印加磁場790kA/m(10kOe)で行った。結果(保磁力)を、以下の評価試験の結果とともに下記表1に示す。
(粒径評価)
粒径の変動係数は、カーボン膜を貼り付けたCu200メッシュに希釈した磁性粒子を載せて乾燥させ、TEM(日本電子製1200EX)で10万倍で撮影したネガを粒径測定器(カールツァイス製KS−300)で測定される算術平均粒径から算出した。また、酸化皮膜を施した粒子においては、酸化皮膜と窒化鉄とのコントラスト差を用い酸化皮膜厚を求めた。
(球形化度)
TEM像から各粒子の長軸長と短軸長とを求め、これらの比(長軸長/短軸長)を求めることで、それぞれの磁性粒子について、球形化度(SFD)を求めた。なお、SFDは、2以下であると、実質的に球形といえる。
(構造解析)
結晶構造の解析は、理学電機製のX線回折装置を用い、管電圧50kV、管電流300mAとし、線源にCuKα線を使用し、ゴニオメーターを用いた粉末法で行った。全てのサンプルにおいてFe162が形成されていることを確認した。
(「Ms・V」)
「Ms・V」は、下記のようにして測定した。まず、飽和磁化Msは、東英工業製の高感度磁化ベクトル測定機と同社製DATA処理装置を使用し、印加磁場790kA/m(10kOe)で行った。粒子体積VはTEM(日本電子製1200EX)で撮影した粒子を粒径測定器(カールツァイス製KS−300)で計測して統計処理して算出した。
(酸化安定性)
磁性粒子を空気にふれさせたときの発熱の度合いで評価した。
なお、比較例1のサンプルについての磁気特性、粒子形状評価は、窒素雰囲気下で測定した。
Figure 2007036183
表1の結果より、実施例のサンプルは、微粒子で、かつ、単分散で安定な磁性体が得られることがわかった。
〔実施例14〜20〕
(磁気記録媒体の製造)
下記の非磁性下層の材料をオープンニーダで混練した後、サンドミルで60分の分散処理を行い、これにポリイソシアネート6部を加え、撹拌ろ過して、非磁性下層塗布液を調製した。これとは別に、実施例1の磁性粒子を用いた下記の磁性塗料成分をオープンニーダで混練した後、サンドミルで45分間分散し、これに下記の硬化剤を加え、混合して、磁性層塗布液を調製した。
<非磁性下層の材料>
酸化鉄粉末(平均粒径:55nm)・・・70部
酸化アルミニウム粉末(平均粒径:80nm)・・・10部
カーボンブラック(平均粒径:25nm)・・・20部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルメタクリレート共重合樹脂・・・10部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂・・・5部
(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
メチルエチルケトン・・・130部
トルエン・・・80部
ミリスチン酸・・・1部
ステアリン酸ブチル・・・1.5部
シクロヘキサノン・・・65部
<磁性塗料成分>
下記表2の窒化鉄系磁性粉末・・・100部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合樹脂・・・8部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂・・・4部
(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
α−アルミナ(平均粒径:80nm)・・・10部
カーボンブラック(平均粒径:25nm)・・・1.5部
ミリスチン酸・・・1.5部
メチルエチルケトン・・・133部
トルエン・・・100部
Figure 2007036183
<硬化剤>
ステアリン酸・・・1.5部
ポリイソシアネート・・・4部
(日本ポリウレタン工業社製の「コロネートL」)
シクロヘキサノン・・・133部
トルエン・・・33部
上記の非磁性下層塗布液を、非磁性支持体である厚さが6μmのポリエチレンナフタレートフイルム(105℃,30分の熱収縮率が縦方向で0.8%、横方向で0.6%)に、乾燥およびカレンダ処理後の非磁性下層の厚さが2μmとなるように塗布し、この上にさらに、上記の磁性層塗布液を、磁場配向処理、乾燥およびカレンダ処理後の磁性層の厚さが80nmとなるように、塗布した。
次に、この非磁性支持体の非磁性下層および磁性層の形成面とは反対面側に、バックコート塗料を、乾燥およびカレンダ処理後のバックコート層の厚さが700nmとなるように塗布し、乾燥した。バックコート塗料は、下記のバックコート塗料成分を、サンドミルで滞留時間45分で分散した後、ポリイソシアネート8.5部を加え、撹拌ろ過して、調製したものである。
<バックコート塗料成分>
カーボンブラック(平均粒径:25nm)・・・40.5部
カーボンブラック(平均粒径:370nm)・・・0.5部
硫酸バリウム・・・4.05部
ニトロセルロース・・・28部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有)・・・20部
シクロヘキサノン・・・100部
トルエン・・・100部
メチルエチルケトン・・・100部
このようにして得た磁気シートを、5段カレンダ(温度70℃、線圧150kg/cm)で鏡面化処理し、60℃,40%RH下、48時間サーモ処理を施した。その後、1/2インチ幅に裁断し、これを100m/分で走行させながら、磁性層表面をダイヤモンドホイール(回転測度+150%、巻付け角30°)で研磨して、長さ609mの磁気テープを作製した。この磁気テ―プをカートリツジに組み込み、コンピユータ用テープとした。
(電磁変換特性の測定)
電磁変換特性として、ヒユーレツトパツカード社製のLTOドライブを用い、40℃,5%RHの条件下で5回走行後、最短記録波長0.33μmのランダムデータ信号を記録し、再生ヘッドからの出力を読み取り、媒体5の値を基準とした相対値を求めた。結果を上記表2に示す。
表2の結果より、体積V、飽和磁化Ms、保磁力Hcを所定の範囲(Fe162相の平均粒径:9〜11nm、粒径の変動係数:15%以下)とすることで高出力が得られることがわかった。

Claims (6)

  1. 液相中で鉄粒子を合成する合成工程と、窒化処理工程とを含み、さらに、平均粒径を5〜25nmとする処理、実質的に球形とする処理を施すことを特徴とする磁性粒子の製造方法。
  2. 前記合成工程が、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および還元剤水溶液を混合した逆ミセル溶液(II)と、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒および鉄の金属塩水溶液を混合した逆ミセル溶液(I)とを混合して還元反応を行い、鉄粒子を合成する工程であることを特徴とする請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
  3. さらに、酸化皮膜を形成する酸化皮膜形成工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁性粒子の製造方法。
  4. Fe162相を少なくとも含んでなる磁性粒子であって、
    前記Fe162相の平均粒径が9〜11nmであり、粒径の変動係数が15%以下であることを特徴とする磁性粒子。
  5. 前記Fe162相の保磁力が197.5〜237kA/m(2500〜3000Oe)であり、「Ms・V」が5.2×10−16〜6.5×10−16であることを特徴とする磁性粒子。
  6. 請求項4または5に記載の磁性粒子を磁性層中に含んでなることを特徴とする磁気記録媒体。
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