以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。なお実施形態では、主として、バケットを含む作業機が備えられた油圧ショベルなどの建設機械を想定している。
第1実施形態として、建設機械のバケットの側板で発生する振動を抑制し、側板から放射される騒音を低減させる場合を説明する。図1は、第1実施形態の制振対象であるバケット10の側板11を、図2は側板11の断面を示している。図2に示すようにバケット10の側板11上には、鋼の薄板21が複数枚積層されており、積層板20を構成している。積層板20の更に上には、薄板21を保護する比較的厚い鋼の保護板30が重ねられており、図1にてハッチングにて示すように周囲20aが全周、隅肉溶接にて側板11に固定されている。保護板30は、薄板21が土砂等によって摩耗することを防止するために設けられている。なお積層板20の上に保護板30を設けない実施も可能である。また積層板20の周囲(周辺部)20aを側板11に固定する方法としては、上述したように全周隅肉溶接によって固定する方法以外に、断続的な隅肉溶接、あるいは間欠的な栓溶接、あるいはボルト締めなどの任意の固定方法で固定することができる。これらの固定方法は、例えば上記特許文献1乃至3に記載されている。
図4A及び図4Bを参照して、積層板20が側板11で発生する振動を抑制し側板11から放射される騒音を低減させるメカニズムについて説明する。図4Bに示すように、側板11が振動すると、その振動が積層板20に伝わり、積層板20を構成する薄板21、21′が変形する。薄板21、21′が多重に重ねられた積層板20では、層毎に変形量が異なる。即ち隣り合う薄板21、21′はそれぞれ曲率半径がr1、r2と異なるので、元々変位がxであった薄板21、21′は(図4A参照)、振動による微小変形によって、変位がそれぞれX+ΔX2、X+ΔX1に変化する。これにより、両薄板21、21′間で、相対変位ΔX2−ΔX1が生じる。相対変位ΔX2−ΔX1は薄板21、21′間で摩擦力(以下層間摩擦力)を生じさせる。側板11で発生する振動エネルギは、この層間摩擦力による熱エネルギに変換される。これにより側板11で発生する振動が抑制され側板11から放射される騒音が低減する。
したがって薄板21、21′は図4Bに示すように独立して変形し、相対変位ΔX2−ΔX1を生じることが、制振を行うための条件である。逆に、両薄板21、21′が固定され一体のものとして機能すると、独立した変形が阻害され相対変位ΔX2−ΔX1が全く生じないか極めて少ないものとなり、制振効果は得られないか、極めて小さな制振効果しか得られない。
図3は、母材11を所定周波数の振動モード1で振動させたときに、振動モード1の腹、節に対応させて、積層板20の変形量を示している。図5Aは母材11を上記振動モード1で振動させたとき、その振動による振幅の大きさの分布をとったものであり、各部位を、振幅の大きさに応じた異なる模様で示している。図5Aにおいて、PHで示す部位は振幅が大となっている腹の部位であり、PLで示す部位は振幅が0つまり節の部位である。このように同一構造のものであっても部位によって振幅の大きさが異なり、振幅の大きな部位つまり振動モード1の腹となる部位もあれば、振幅の小さな部位つまり振動モード1の節となる部位もある。
図3に示すように振幅が大きな腹の部位Eでは積層板20を構成する薄板21、21′の変形量も大きく層間摩擦力も大きい。ここで仮に、振動モード1の腹となる部位Eで積層板20を母材11に固定したとする。この場合、積層板20を構成する薄板21、21′の独立した変形が阻害され、層間摩擦力が全くなくなるか極めて小さなものとなる。このため積層板20による制振効果が得られないか極めて僅かな制振効果しか得られないことになる。そこで第1実施形態では、振動モード1の腹となる部位Eを避けそれ以外の部位、具体的には振動モード1の節となる部位Gで、積層板20を母材11に固定する。
一方、側板11中で、振動モード1の節となる部位を確かめたところ、図1に示す領域Gであった。下側(一側)の一部に略円弧形状を有してなる側板11の円弧中心Cとバケット10の建設機械への取り付け側で略円弧形状から他の形状に移行する点Aとを結ぶ線を線分CAとし、線分CAが積層板20と交わる点をBとし、点Bと円弧中心Cとを結ぶ線を線分BCとする。領域Gは、線分BCの中点dおよび中点d近傍の部位D、線分CAの中点fおよび中点f近傍の部位F、並びに部位Dと部位Fとの間の領域、からなる。
そこで、バケット10の側板11に積層板20を固定する際に、領域G内のたとえば部位Dを固定する。図2は積層板20の部位Gを側板11に固定する方法の一例を示している。図2に示すように、保護板30、積層板20を側板11に至るまで貫くように孔50を穿設して、孔50に溶接材51が満たされるように栓溶接を実施する。なお栓溶接以外にボルト締め等任意の固定手段によって固定してもよい。
振動モード1の節となる部位Gは、元々、積層板20を構成する薄板21、21′の変形量が小さいか殆ど無い部位である。このため、この場所を固定したとしても失われる制振効果は極めて少ないか殆ど無いに等しいので、積層板20を固定することによる制振効果への悪影響を最小限に抑えることができる。このように第1実施形態によれば、積層板20の内部の最適な部位Gを固定するようにしたので、製造時の熱歪みや使用時の外力によって「浮き」が生じて制振効果が失われることがなくなる。しかも、積層板20を構成する薄板21の独立した変形が阻害されることがなく、高い制振効果を維持できる。尚、第1実施形態では、一の周波数の一の振動モードについて腹以外の部位を固定しているが、複数の周波数の各振動モードについて腹以外の部位を固定してもよい。
図5A〜図5Dはそれぞれ、異なる周波数の振動モード1、2、3、4で側板11を振動させたときの振幅の大きさの分布を示している。振動モード1、2、3、4で側板11を振動させたとき、いずれの周波数についても、振動モードの腹以外となっている部位は、領域Gであった。領域Gは、図1に示されるように、部位D、部位F、及び部位Dと部位Fとの間の領域、からなる。従って、バケット10の側板11に積層板20を固定する際、領域G内のたとえば部位Dを固定すれば、積層板20を固定することによる制振効果への悪影響を最小限に抑えることができる。
なお第1実施形態では、振動モードを考慮して、側板11に積層板20を固定する際の内部における固定部位を定めているが、側板11を積層板20の周辺以外の部位で固定できればよい。このようにすることで、熱が加わることにより生じる浮き上がり等を防止することができる。特に、積層板20の、周辺以外(内部)の部位(部位G又は領域G)及び周辺部20aが共に、側板(又は母材)11に固定されることが好ましい。これにより、浮き上がり等をより確実に防止でき、かつ高い制振効果を維持できる。
第1実施形態では建設機械のバケット10の側板11を制振対象としているが、本発明は任意の母材を制振対象とする場合に適用することができる。即ち建設機械の作業機を構成する部材の内でバケット以外のブーム、アームを制振する場合に、本発明を適用してもよい。またブレードを備えた建設機械の場合には、ブレードを制振するために本発明を適用してもよい。またホッパを備えた破砕作業機械などに本発明を適用して、騒音発生源であるホッパを制振することもできる。また建設機械の脚回りを構成する履帯、トラックフレームなどを制振する場合に本発明を適用することができる。
また、エンジンや油圧ポンプなどのコンポーネントに積層板20を取付け、制振を行うことができる。特に油圧ポンプの場合には、油圧ポンプで発生する脈動が配管に伝わることで発生する騒音が問題となる。油圧ポンプで問題となる周波数は、脈動の周波数とその倍音の周波数である。そこで第1実施形態と同様に、脈動周波数とその倍音の周波数の各振動モードについて振幅の大きさの分布を求め、各振動モードの腹以外となる部位を特定して、その部位を固定するようにすれば、油圧ポンプで発生する脈動による騒音を低減させることができる。
次に、第2実施形態として、建設機械のバケットで発生する振動を抑制し側板及び底板から放射される騒音を低減させる場合を説明する。図6は、第2実施形態の制振対象であるバケット10の斜視図であり、図7はバケット10の断面を示している。図6に示すようにバケット10の側板11上には、鋼の薄板が複数枚積層されており積層板20を構成している。積層板20の周囲20aは全周、隅肉溶接にて側板11に固定されている。なお積層板20を側板11に固定する方法としては、上述したように全周隅肉溶接によって固定する方法以外に、断続的な隅肉溶接、あるいは間欠的な栓溶接、あるいはボルト締めなどの任意の固定方法で固定することができる。
側板11の上端には口金板13が取り付けられており、バケット10の開口部が補強されている。底板12にはツース18が取り付けられているとともに、ブラケット19が取り付けられている。ブラケット19には、図11Aに示すアーム41が取り付けられる。バケット10の内側にあって、側板11と底板12とが接続しているコーナ部には、補強部材14が固定されている。補強部材14はバケット10の強度を確保し剛性を向上させるために設けられている。
バケット10の内側にあって、側板11と底板12とが接続しているコーナ部のうち、特定の部位K(図10参照)には、側板11と底板12とを連結する梁状の連結部材15が取り付けられている。連結部材15は側板11と底板12とを連結することで、底板12を補強して剛性を確保しつつ、底板12から放射される騒音を低減させるために設けられている。
底板12に連結部材15を取り付ける基準について説明する。図9は、側板11の高さHsと底板12の幅Wpとの比Wp/Hsを横軸にとり、縦軸に側板11、底板12の各騒音寄与量T1、T2をとっている。図9はバケット10に積層板20や連結部材15が取り付けられていない状態で騒音寄与量を測定した結果を示している。バケット10の底板12の幅Wp、側板11の高さHsは図7で定義される。
図9に示すように比Wp/Hsが1.47未満の領域Nでは、底板12の騒音寄与量T2が側板11の騒音寄与量T1よりも小さくなっている。つまり、底板12の騒音寄与量T2が側板11の騒音寄与量T1よりも小さく、側板11から放射される騒音の方が支配的であるので、側板11に積層板20を取り付けるだけでバケット10から放射される騒音を低減することができる。底板12を補強したとしてもバケット10の騒音低減に殆ど寄与しないので、底板12を補強する必要はない。そこで、比Wp/Hsが1.47未満となっているバケット10については、側板11に積層板20のみを取り付けることとし、連結部材15の取り付けは省略される。
これに対して比Wp/Hsが1.47以上の領域Qでは、底板12の騒音寄与量T2が側板11の騒音寄与量T1以上となっている。つまり底板12から放射される騒音の方が支配的であるので、側板11に積層板20を取り付けるだけでは足りず、底板12から放射される騒音を低減しなければ、バケット10から放射される騒音を低減することができない。そこで、比Wp/Hsが1.47以上となっているバケット10については、側板11に積層板20を取り付ける以外に、図8A及び図8Bに示すように側板11と底板12とを接続しているコーナ部16に、連結部材15が取り付けられる。
以上のように第2実施形態によれば、底板12について騒音対策が必要となる基準を、「側板高さHsと底板幅Wpとの比Wp/Hsが1.47以上である」と明確に定め、この基準にしたがい底板12を補強するようにしている。これにより、各種バケットのうち必要最小限のバケットについて、騒音実験等を行うことなく必要最小限の労力で騒音対策を施すことができる。このためバケットの設計、製造に費やされるコストが飛躍的に低減する。また新たにバケットを設計する際に設計段階の各部の寸法から、底板12を補強すべきか否かを判断でき騒音実験等による確認が不要となるので設計から製造までの工程の短縮化を図ることが可能になる。
つぎに連結部材15の取り付け位置、取り付け方法について各実施例を挙げて説明する。
(実施例1) 連結部材15をコーナ部16全域に渡り、取り付ける。
(実施例2) 底板12から放射される騒音の主要な発生源を特定しその部位のみに連結部材15を取り付ける。建設機械の実作業時における騒音の周波数スペクトルを分析したとき、大きなピークが発生している周波数帯の騒音を低減することが重要となる。そこで、大きなピークが発生している周波数帯の周波数で、バケット10の振動モード解析を実施し、底板12から放射される騒音の主要な発生源を探索する。図10はバケット10の代表的な振動モードの振幅の大きさの分布をとったものであり、各部位を、振幅の大きさに応じた濃淡で示している。なお図10では、図6との対応を明確にするために、ツース18、ブラケット19の取付位置を示している。
図10に示すように同一構造のものであっても部位によって振幅の大きさが異なり、振幅の大きな部位つまり振動モードの腹となる部位もあれば、振幅の小さな部位つまり振動モードの節となる部位もある。コーナ部16のうち振動モードの腹となっている部位が、底板12からの放射音の主要な発生源であると考えられる。そこで図10の振幅の分布からコーナ部16のうち振動モードの腹となっている部位Kを探索し、部位Kに連結部材15を取り付ける。実施例2によれば、側板11と底板12とが接続しているコーナ部16のうち、振動モードの腹となる部位Kのみに連結部材15を取り付け補強するようにしたので、底板12の補強が必要最小限で済み、建設機械の性能に及ぼす悪影響を最小限に抑えることができる。
(実施例3) 側板11の高さHsと底板12の実質的な幅Wp′との比Wp′/Hsが1.47よりも小さくなる態様で、連結部材15を取り付ける。図8A及び図8Bに示すように、底板12の両コーナ部16にそれぞれ連結部材15を取り付け、連結部材15の連結部位12a同士を結ぶ線分の長さを「実質的な底板幅Wp′」とする。ここで図9に示すように、連結部材15を取り付ける前の比Wp/Hsの値がJ2であり、底板12の騒音寄与量T2の方が支配的となっている領域Qにあったとする。領域Qで連結部材15を取り付け底板12からの放射音を低減することは、バケット10の騒音を低減させる上で最も効率的である。
連結部材15が取り付けられると、比Wp′/Hsを値J2から値J1にすることができ、側板11の騒音寄与量T1の方が支配的になっている領域Nに移行させることができる。領域Nは底板12からの放射音が殆ど問題にならず側板11からの放射音が問題になる領域である。領域Nで側板11に積層板20を取り付けることは、バケット10の騒音を低減させる上で最も効率的である。
このように実施例3によれば、比Wp′/Hsが1.47よりも小さくなるように連結部材15を取り付けることで、底板12からの放射音を低減させる。比Wp′/Hsが1.47よりも小さくなった状態で、側板11に積層板20を取り付けて側板11からの放射音を低減させるようにしたので、バケット10から放射される騒音を最も効率的に最大限に低減させることができる。
(実施例4) 実施例2と実施例3とを組み合わせる実施も可能である。即ち図10の振幅の分布からコーナ部16の内で振動モードの腹となっている部位Kを探索し、部位Kに、比Wp′/Hsが1.47よりも小さくなる態様で、連結部材15を取り付ける。
(実施例5) 上述した実施例1〜4では、梁状の連結部材15を用いて底板12のコーナ部16の補強を行うようにしているが、図8Aに破線で示すコーナ部16を補強できさえすればよく、必ずしも梁状の連結部材15を用いる必要はない。たとえばコーナ部16に隙間が開くことなく補強部材を充填する実施も可能であり、従来の耐摩耗板と同様にバケット10の内側ではなく外側に補強材を張り付ける実施も可能である。
(実施例6) 上述した実施例1〜5では、比Wp/Hsが1.47以上となっているバケット10について補強する場合を想定している。しかし比Wp/Hsの数値いかんにかかわらず、バケット10の内側つまり積層板20の取付面とは反対側であって、側板11と底板12とが接続している部位に、連結部材15等の補強材を取り付ける実施も可能である。この場合、補強材は側板11と底板12との内側接続部全域にわたり設けてもよく、内側接続部の一部に設けてもよい。
実施例6の効果について図11A及び図11Bを参照して説明する。図11A及び図11Bは、バケット10が油圧ショベル40のアーム41に取り付けられ、油圧ショベル40がトラック42への積込み作業を行う様子を示している。バケット10に積層板20が取り付けられてはいるが、連結部材15等によって底板12が補強されていない場合を想定する。この場合、積層板20によって側板11からの放射音は著しく低減するが、底板12からの放射音は依然として大きいままである。したがってバケット10の前方Sの騒音に対しては、十分な騒音低減効果が得られない。
これに対してバケット10に積層板20が取り付けられるとともに、連結部材15等によって底板12が補強された場合を想定する。この場合、底板12が連結部材15等により補強されることによって、騒音の原因となる振動の振幅が小さくなり、底板12からの放射音が低減する。このためバケット10の前方Sの騒音に対して十分な騒音低減効果が得られる。また底板12からの放射音はバケット10の側方Rの騒音にも影響を与える。このためバケット10の側方Rも含めた全方向で騒音が十分に低減する。更に、バケット10の内側接続部のみを補強したので、バケット10の外側に耐摩耗板のような補強材を設ける場合と比較して、補強材の重量増加が少なくて済む。
次に、図12〜図16Cを用いて、第3実施形態について説明する。図12に示すように、油圧ショベルの作業用アタッチメントであるバケット101は、略C形に湾曲させた底板102の左右両側に側板103,103をそれぞれ溶接している。さらに、側板103,103及び底板102に口金板104,104,105をそれぞれ溶接して、バケット101の開口部を形成している。口金板104,104,105は、掘削に伴う摩耗の激しい部位に装着される部材であり、その部材の厚さは底板102や側板103よりも厚く設定されている。口金板105には複数個のツース106が装着されている。底板102のツース取付部と反対側の端部外面には、油圧ショベルの作業機に連結するピンボス107を固設している。側板103の外側面周部には、底板102に沿うように耐摩耗板108が固設されている。
バケット101の側板103の外側面には、図13にも示すように、口金板104及び耐摩耗板108に囲まれるように略半円形状の積層板110が貼着されている。積層板110の内部には、栓溶接用の孔110aが設けられている。積層板110は、図14に示すように、所定枚数を積層した薄い鋼板よりなる内板111と、内板111の外側に積層する外板112とを備えている。外板112は、内板111を押さえると共に掘削時の岩石との衝突や摩耗から内板111を保護するべく所定厚さを有する。
各内板111の略円弧状側の端部形状は耐摩耗板108の内周に略一致する形状であり、所定幅wの矩形の切欠き部111aが略円弧状側端部の周方向両端を含む複数箇所に設けられている。切欠き部111aに区切られることにより、耐摩耗板108の内周に当接する複数個の当接部111bが形成されている。切欠き部111aの奥行きは、外板112と耐摩耗板108との隙間d1に等しい。外板112の略円弧状側の端部形状は、耐摩耗板108の内周との間に溶接代として隙間d1が形成される形状である。上記形状となっているので、切欠き部111aにおいては、図15Aに示すように、積層板110は耐摩耗板108と隙間d1を形成して離間している。当接部111bにおいては、図15Bに示すように、積層板110は内板111が耐摩耗板108に当接し、かつ外板112が耐摩耗板108と隙間d1を形成して離間している。即ち、当接部111bは外板112の周縁から隙間d1ほど突出している。各内板111及び外板112は、口金板104との間に溶接代として隙間d2(図示しないが、図31と同様)が形成される形状(略直線)である。
バケット101の側面への積層板110の貼着工程は以下のようになる。まず、所定枚数の内板111を重ね、当接部111bを耐摩耗板108に当接させて内板111の位置決めを行う。次に、内板111の切欠き部111aを利用して外板112の位置決めを行う。積層板110(内板111及び外板112)の位置決めが完了した後、切欠き部111aを仮付けを兼ねて図16Aに示すように溶接で埋める。これにより、各内板111は断続溶接によりバケット101に取着される。次に、切欠き部111a及び当接部111bの隙間d1を、図16B及び図16Cに示すように連続溶接により埋める。また、積層板110と口金板104との隙間d2を、連続溶接により埋める。即ち、積層板110は、各内板111が耐摩耗板108側で断続溶接により、また外板112が連続溶接により、バケット101の側面に貼着されている。なお、好ましくは、孔110aには栓溶接が施され、熱歪等に起因して発生する積層板110の各板の浮きを防止している。これにより積層板110は、側板103、内板111及び外板112それぞれの間が略密着するように側板103に貼着されている。
次に、上記構成による作動について説明する。側板103が弾性変形によって振動すると、溶接部よりこれが伝わって各内板111も弾性変形によって振動し、側板103と内板111との間及び内板111同士の間で伝播遅れや剛性の差による微小な位置ズレや隙間を生じながら摺動する。振動が持続する限り、この微小な位置ズレや隙間は常に変化しながら次々に生起されるので、それぞれの間で摩擦や衝突が繰り返される。すると、側板103の振動エネルギは、これらの摩擦や衝突により熱エネルギに変換されて消散していく。したがって、側板103の振動を減少させることができ、ひいては側板103から放射される騒音を低減できる。
言い換えるならば、各板はその拘束条件に応じて振動し、板間の微小な相対変位を生じるので,板同士の摩擦や衝突が生起される。この摩擦や衝突により、振動エネルギが熱エネルギに変換されるため、騒音の原因となる振動を減衰させることができる。特に板の密着度が高くなれば、板と板との間に隙間が生じることによる衝突現象よりも、板間の摩擦が主となり、より効率よく振動を減衰させることができる。
本実施形態による効果を説明する。本実施形態によれば、積層板110は外板112の連続溶接により積層板110内部への雨水の浸入を防止して板間の錆の発生を防ぎ、制振性能を維持できる。口金板104や耐摩耗板108がこの連続溶接部を掘削作業時の岩石等との衝突・摩擦から保護するので、積層板110の溶接部の摩耗・損傷を防止でき、積層板110の耐久性を向上できる。さらに、内板111は複数の切欠き部111aの溶接により構成された断続溶接であり、全周溶接等の連続溶接に比べて拘束度合いが低いので、優れた制振特性が得られ顕著な騒音低減効果を有する制振装置が得られる。
製造上の効果として、所定枚数の内板111は、当接部111bを耐摩耗板108に突き当てるだけで位置決めができ、耐摩耗板108との溶接代の隙間d1を確保する必要はない。これにより、外板112も内板111の切欠き部111aを利用して容易に位置決めできるので、位置決め作業が容易で低コストの制振装置が得られる。耐摩耗板108との間の溶接が、切欠き部111aの溶接による断続溶接と外板112の外周の連続溶接とにより完了するので、溶接量が少なく溶接工数を短縮でき、低コストの制振装置が得られる。熱歪みの発生を防止するため、従来では多くの仮付けを実施していた。しかし、本発明では切欠き部111aの溶接が仮付けを兼ねるため、仮付け工程が省略できる上、連続溶接も少ないので、仮付けを兼用する切欠き部111aの溶接箇所が少なくても熱歪みの発生が少ない。
ここで、騒音低減効果と内板111の溶接ピッチとの関係の確認テストの結果について説明する。積層板を用いた制振装置の騒音低減効果は、基本的に、積層板を拘束する点が少ないほど、つまり溶接部の長さが短いほど、大きい。これは、前述の作動説明からも分かるように、層間に相対変位を生じ易く、より大きな摩擦力が発生するためである。したがって、内板111の溶接ピッチは大きいほど良いと思われる。しかしながら、溶接ピッチが大き過ぎると、内板周縁部の局所的な振動によって内板同士が叩き合い、叩き音を発生するという相反する問題が生じる。
そこで、内板の溶接ピッチと発生騒音レベルとの関係を測定した。図17は、その測定結果である。図17によると、溶接ピッチを大きくすると徐々に騒音レベルが低下し、およそ170mmのピッチで発生騒音が最も小さくなる。それよりもピッチを大きくすると前記叩き音によって騒音が徐々に大きくなり、およそピッチ280mmで略一定レベルに収束することが分かる。この収束するレベルは、ピッチ100mmの時の騒音レベルに略等しい。従って、ピッチを100mmよりも小さくすると、その効果は、ピッチが170mmよりも大きくて叩き音が発生しているときよりも低下してしまう。また、コスト低減の観点から溶接ピッチを大きくしたいときでも、280mmを越えて大きくすると、叩き音によって騒音低減効果は小さくなってしまう。以上の結果、内板の溶接ピッチは100mm〜280mmの間に設定することが好ましい。
したがって、第3実施形態における内板111の溶接ピッチ、つまり当接部111bの周方向長さL1は、100mm〜280mmの間に設定することが好ましい。当接部111bの周方向長さL1は、図18に示すように定義される。
第3実施形態では、内板111の周縁部に所定間隔で設けた切欠き部111aを側板103に溶接することによって、内板111の周縁部を断続溶接する構成としている。しかし、これに限定されず、例えば図19A及び図19Bに示すような他の実施例の積層板構成としてもよい。ここで、図19Aは他実施例の積層板の斜視図で、図19Bはその19B−19B断面図である。
図19A及び図19Bにおいて、バケット101の耐摩耗板108の内周形状に略等しい略半円形状の外周端部を有し、該周縁部に切欠き部を設けていない内板111Aを複数枚積層する。この複数枚積層部の外側に、内板111Aの径よりも所定長さd1だけ小さい径を有する外板112を積層して、積層板110Aを構成する。積層板110Aを、バケット101の側板103の外側面に、口金板104及び耐摩耗板108に囲まれるように貼着する。外板112の周縁部と耐摩耗板108及び口金板104との間を連続溶接することによって、外板112及び最外側の内板111Aの周縁部のみが拘束される。この場合においても、全ての板が拘束されるわけではないので、拘束度合いが低くなり、優れた制振特性を得ることができる。また、積層板内部への雨水の侵入を防止して、板間の錆の発生を防ぎ、制振特性を長期間維持できる。
次に、図20〜図23Bを用いて、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、積層板を自走式破砕装置のホッパに適用したものである。図20に示すように、自走式破砕装置120は、履帯式の走行装置121を備えた基台122の後部に動力装置123を搭載すると共に、基台122の中央部に破砕機124を搭載している。基台122の前部に設けられたホッパ125に投入される被破砕物(例えば、岩石、コンクリートガラ、木材、建築廃材等)は、破砕機124により所定サイズに破砕され、基台122の下部から後方に延設される搬出装置126により後方に搬出される。
図21に示すように、ホッパ125の中央部には投入される被破砕物を破砕機124に搬送するフィーダ127が設けられており、フィーダ127を囲むように、ホッパ125の傾斜壁面128,128,129が上方への開口部を形成している。ホッパ125の傾斜壁面128,128,129には、積層板130,130,140がそれぞれ貼着されている。各積層板130,130,140は、形状が異なるが構造は同様であるので、積層板130を例に挙げて以下に説明する。
図22に示すように、積層板130は傾斜壁面128よりも一回り小さい外形形状であり、傾斜壁面128の中央部に貼着されている。積層板130の所定位置には、栓溶接用の孔130aが設けられている。積層板130は、所定枚数を積層した薄い鋼板よりなる内板131と、内板131の外側に積層する外板132とを備えている。外板132は、内板131を押さえると共に被破砕物投入時の被破砕物との衝突や摩耗から内板131を保護すべく、所定厚さを有する。外板132の外形は積層板130の外形となっており、内板131は周縁部に、外板132の周縁形状に一致する複数の突出部131aと、外板132の周縁形状に対して引っ込んだ複数の切欠き部131bとを備えている。
ホッパ125の傾斜壁面128への積層板130の貼着工程は以下のようになる。まず、積層板130の隣接する2辺に当接する治具(図示せず)が設けられた作業台(図示せず)上で、所定枚数の内板131を重ね、その上に外板132を重ねた後、全ての板を治具に当接させて位置決めを行い、周縁の数箇所に仮溶接を施す。次に、仮溶接した積層板130を傾斜壁面128の所定位置に配置し、連続溶接(全周)により積層板130を傾斜壁面128に結合する。これにより、図23A及び図23Bに示すように、外板132は連続溶接が行われるのに対し、各内板131は、切欠き部131bにおいては溶接されず、かつ複数の突出部131aにおいてのみ傾斜壁面128に溶接される断続溶接が行われることになる。
図17に示した測定データによると、第4実施形態における内板131の突出部131a間の間隔、即ち切欠き部131bの周方向長さL2は、100mm〜280mmの間に設定することが好ましい。切欠き部131bの周方向長さL2は、図24に示すように定義される。
積層板130による騒音低減の作動は第3実施形態と同様であるので、その説明は省略する。第4実施形態による効果を説明する。本実施形態によれば、積層板130は外板132の連続溶接により、積層板130内部への雨水の浸入を防止して板間の錆の発生を防ぎ制振性能を維持できる。内板131は断続溶接であり、連続溶接(全周溶接)に比べて拘束度合いが低いので、優れた制振特性が得られ、顕著な騒音低減効果を有する制振装置が得られる。製造上の効果として、外板132の連続溶接工程により内板131の突出部131aを溶接して断続溶接を構成できるので、製造工程が簡素で低コストとなる。また、所定枚数の内板131の突出部131aは、外板132の外形に一致するので、各内板131と外板132との位置決め作業が容易となり、低コストの制振装置が得られる。
なお、本発明は第3及び第4実施形態に限定するものではなく、本発明の範囲内において変更や修正を加えても構わない。例えば、断続溶接による内板111の耐摩耗板108側の拘束個所(即ち切欠き部111a)を5箇所設ける例にて説明したが、必要とされる強度や、低減させたい騒音の周波数帯域に応じて適宜選択すればよい。
内板111に矩形の切欠き部111aを設ける例にて説明したが、矩形に限定するものではなく、図25Aに示すように波形の切欠き部111cを設けてもよい。同様に、第4実施形態の内板131の切欠き部131bを波形としてもよい。タレットパンチプレス等で内板111を製作する場合には、端部に生じるかえりにより各内板111間に隙間が発生し制振性能が低下するため、通常、内板111はレーザ加工により製作される。このため、切欠き形状が波形であっても製作に支障はなく、さらに、強度的な要求により断続溶接の個所を多く要する場合には、矩形よりも波形のほうがレーザ切断長さが短くなり、生産性が向上する。
内板111に矩形の切欠き部111aを設ける代わりに、図25Bに示すように、内板111の耐摩耗板108側の周縁部に栓溶接用の孔111dを複数設けて、栓溶接により各内板111を側板103に拘束するように構成してもよい。孔111dの栓溶接により、内板111の周縁部が断続溶接される。図25Cに示すように、内板111のみの拘束個所を設けずに、内板111を外板112と共に側板103に溶接する栓溶接用の孔110aを複数個設けるようにしてもよい。孔110aの栓溶接により、内板111と外板112が断続溶接され、上記実施形態と同様の効果が得られる。
積層板110においては、積層板110と口金板104との隙間d2には、連続溶接を施す例であったが、この部分においても内板111を断続溶接にて拘束するようにしてもよい。即ち、図26に示すように、内板111の口金板104側端部を外板112の周縁から突出させ、この突出部に切欠き部111aを設け、切欠き部111aを埋める溶接により断続溶接を構成すればよい。これによると、内板111の拘束個所が減少するので、さらに制振性能の優れた制振装置を得ることができる。
第4実施形態の技術を第3実施形態に付加することも可能である。即ち、図27に示すように、内板111の口金板104側端部に、外板112の外形に一致する複数の突出部111eと、外板112の外形に対して引っ込んだ複数の切欠き部111fとを設ける。これにより、積層板110の口金板104側端部に連続溶接を施しても内板111は突出部111eが溶接されるだけの断続溶接となる。これによると、内板111の拘束個所が減少するので、さらに制振性能の優れた制振装置を得ることができる。
さらに、第3実施形態の技術を第4実施形態に付加することも可能である。即ち、図28に示すように、傾斜壁面128に積層板130の隣接する2辺に当接可能な略L字形状の耐摩耗板138を取着すると共に、耐摩耗板138に対向する内板131の端部を耐摩耗板138に当接するように外板132の周縁から突出させ、この突出部に切欠き部131cを複数設ける。突出部には切欠き部131cに区切られることにより、耐摩耗板138に当接する複数個の当接部131dが形成される。この複数の切欠き部131cを溶接で埋めることにより断続溶接を構成した後、外板132を連続溶接することにより、積層板130が傾斜壁面128に貼着される。これによると、傾斜壁面128上で各内板131を耐摩耗板138に突き当てることにより位置決めすることができる。耐摩耗板138が耐摩耗板138側の溶接部を投入される被破砕物との衝突・摩擦から保護するので、積層板130の溶接部の摩耗・損傷を防止でき、積層板130の耐久性を向上できる。
上記第3及び第4実施形態では、積層板110,130の厚さ、即ち内板と外板との積層合計高さを耐摩耗板108,138の高さと略同じにする構成例で説明した。しかし、積層合計高さを耐摩耗板108,138の高さ以下に設定する方が好ましく、耐摩耗板により積層板の溶接部の摩耗・損傷をより確実に防止できる。積層板を貼着する機械の部材として、油圧ショベルのバケット101(側板3などの各構成部材も含む)及び自走式破砕装置120のホッパ125(傾斜壁面128などの各構成部材も含む)を例に挙げたが、ホイールローダのバケットや固定式の破砕設備のホッパに適用してもよいのは勿論のこと、騒音を低減したい任意の機械の部材に適用できる。以上説明したように、積層板の外板を連続溶接することにより、雨水の浸入を防止して板間の錆の発生を防止できると共に、積層板の内板を断続溶接して内板の拘束度合いを低く抑えているので、優れた制振特性が得られ顕著な騒音低減効果を有する制振装置が得られる。
第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせる実施例も可能である。即ち、図34に示すように、バケット200は第1実施形態と同様、側板211に積層板220を全周隅肉溶接230によって取り付けると共に、図1の部位Dに相当する位置にて積層板220の内部と側板211とが栓溶接250されている(栓溶接の最適化)。しかも、バケット200は第2実施形態と同様、側板211と底板212とが接続しているコーナ部のうち、特定の部位K(図10参照)に、側板211と底板212とを連結する梁状の連結部材215が取り付けられている。本実施例における側板211の高さHsと底板212の幅Wpとの関係は、図9の領域Q(即ち、比Wp/Hsが1.47以上)にある。尚、図34では、側板211と底板12とが接続しているコーナ部に、補強部材214を固定しているが、補強部材214の使用を省略してもよい。
かかる組合せ実施例による騒音エネルギ低減率について、図35で説明する。ここで、騒音エネルギ低減率Edは、積層板220及び/又は連結部材215取り付け前後の発生騒音エネルギを実験的に測定し、Ed=[(取り付け前の発生騒音エネルギE1−取り付け後の発生騒音エネルギE2)/E1]×100(%)として算出している。側板寄与分及び底板寄与分とは、側板及び底板からそれぞれ放射される音の低減率を示す。図35中の“全体”とは、側板及び底板の各低減率に寄与率を乗じた後、合計した値である。本実施例での積層板220などの取り付け前のバケット200において、側板寄与率は39%、また底板寄与率は61%であり、従って底板212からの放射音の寄与が大きいケースである。
図35では、本実施例以外のいくつかの構成についても騒音エネルギ低減率Edを測定しており、各項目No.のバケット構成概要は次のとおりである。ここで、ベースとなるバケットは、積層板220及び連結部材215などの騒音低減部材取り付け前のバケットである。
項目1: 積層板220を全周隅肉溶接230し、振動モードの“腹”の位置にて栓溶接(図示せず)。
項目2: 積層板220を全周隅肉溶接230し、部位Dに相当する位置にて栓溶接250を施す。
項目3: 積層板220を側板211に全周隅肉溶接230する際、製造コストが極めて高いことを無視して、積層板220に“浮き”が生じないようにして製造(栓溶接なし)。
項目4: 部位Kに、連結部材215を取り付け(積層板なし)。
項目5: 項目2と項目4とを併用。
項目6: 項目2及び項目4の各騒音エネルギ低減率を算術的に加算。
項目7: 項目1と項目4とを併用。
上記各項目のバケットにおける騒音エネルギ低減率について比較説明する。項目3は、理想的な積層板220の取り付け状態であるが、極めて高い製造コストであり、しかもバケット使用中の衝撃による浮き発生の問題があり、実用には適さない。一方、第1実施形態を採用した項目2であれば、理想的取付状態にほぼ近い低減率を達成出来ることが分かる。尚、実施形態1とは異なる項目1では、低減率が低い上に、底板212に対する効果も得られていない。これは、減衰効果の不足によって、底板212の振動エネルギを十分に消散できていないためと考えられる。項目4は、連結部材215のみの効果を調べるために実施した例であるが、側板寄与分の低減率が7%となっている。これは、底板212の補強も兼ねる連結部材215により、側板211周縁部の振動振幅が小さくなったためと推察される。以上のように、底板212の補強によって騒音が低減されるのは、バケット200の剛性Yが高くなるためであり、積層板220によって騒音が低減されるのはバケット200の減衰率ζが大きくなるためである。一定時間内の振動エネルギEvは“1/{2Yζ・(1−ζ)1/2}”に比例することが知られており、剛性向上と減衰性向上を同時に施せば、足し算以上の効果がある。
項目5は、第1実施形態(項目2)と第2実施形態(項目4)を共に採用した場合(即ち、図34の本実施例)である。項目2及び項目4がそれぞれ独立に作用した場合、低減率は単なる足し算となり項目6になる。従って、項目5は、相乗効果によって足し算以上の効果が得られている。なお、腹に栓溶接を実施した場合(項目1)は底板に対する積層板の効果が無いため、連結部材を取り付けても効果が少なくなる(項目7)。
本実施例(図34)では、側板211の高さHsと底板212の幅Wpとの比Wp/Hsが1.47以上の場合について述べたが、比Wp/Hsが1.47未満であっても、有用である。即ち、積層板220によって寄与率の大きい側板211の騒音エネルギが十分に下がり、相対的に底板212の寄与が高くなるような場合も、騒音エネルギ低減効果が得られる。
更に、第1〜第3実施形態を組み合わせる実施例も可能である。即ち、図36に示す本実施例のバケット300は、図34の実施例に対し、1)積層板320が、図13の切欠き部111a及び当接部111bを有する内板111と外板112とを備える積層板110と同様に、切欠き部311a及び当接部311bを有する内板311と外板312とを備え、2)第3実施形態と同様に、内板311を断続溶接し、かつ外板312を全周隅肉溶接している。
かかる実施例以外の構成についても騒音エネルギ低減率Edを測定しており、図35にて説明する。項目8〜12におけるバケット構成概要は次のとおりであるが、ベースとなるバケットは、上記と同様、騒音低減部材取り付け前のバケットである。
項目8: 第3実施形態のように、積層板320の内板311を断続溶接し、かつ外板312を全周隅肉溶接するが、溶接の際、製造コストが極めて高いことを無視し、積層板320に“浮き”が生じないようにして製造(栓溶接なし)。
項目9: 第3実施形態のように、積層板320の内板311を断続溶接し、かつ外板312を全周隅肉溶接し、更に振動モードの“腹”の位置での栓溶接(図示せず)を施す。
項目10: 第3実施形態のように、積層板320の内板311を断続溶接し、かつ外板312を全周隅肉溶接し、更に項目2を併用。
項目11: 項目10と項目4とを併用。
項目12: 項目10及び項目4の各騒音エネルギ低減率を算術的に加算。
上記項目8〜12のバケットにおける騒音エネルギ低減率について比較説明する。項目8は、項目3と同様であり、低減率が高いものの、製造コストや浮きの問題により実用性が低い。項目9では、栓溶接を腹に実施したため、低減率が大幅に小さくなっている。項目9に対し、実施形態1と同様に部位Dに栓溶接250を施した項目10場合、栓溶接の位置が最適化され、低減率を小さくすることなく、実用的な構造となる。項目11(即ち、図36の本実施例)は、項目10に対し、さらに第2実施形態と同様に連結部材215を取り付けており、非常に大きな低減率が得られる。項目11は、項目12と比較すれば明らかなように、相乗効果によって足し算以上の効果が得られている。
ところで、上述した第3の実施形態、第4の実施形態では、積層板110、130の内板111、131に複数の切欠部111a、複数の突出部131aを設け、これら複数の切欠部111a、複数の突出部131aを、制振対象機械であるバケット101の側板103、ホッパ125の傾斜壁面128に溶接することで、内板111、131を断続溶接するようにしている。
しかし内板を断続溶接することなく外板を連続溶接することのみで、外板と制振対象機械とによって内板を密閉に封じて、積層板を制振対象機械に結合させてもよい。
すなわち図37Aに示す積層板910は、制振対象機械901上に積層される所定枚数の内板912と、これら所定枚数の内板912の更に外側に積層され、内板912よりも大きな面積を有する外板911とからなる。所定枚数の内板912は、制振対象機械901と外板911とによって挟まれた状態で、制振対象機械901と外板911とが全周溶接(全周溶接部を913で示す)される。これにより所定枚数の内板912が密閉に封じられるように制振対象機械901と外板911とが結合される。
この実施例によれば、所定枚数の内板912には、その変形を拘束する溶接部が無く、全周溶接によって雨水の侵入による錆の発生もないため、良好な制振性能が得られる。
図37Aでは、外板911を制振対象機械901に直接結合させているが、連結部材を介在させて制振対象機械901に結合させてもよい。
すなわち図37Bに示す積層板910は、図37Aと同様に、制振対象機械901上に積層される所定枚数の内板912と、これら所定枚数の内板912の更に外側に積層され、内板912よりも大きな面積を有する外板911とからなる。これによって所定枚数の内板912は、制振対象機械901と外板911とによって挟まれる。更に外板911の全周には、連結部材914が配置される。そして外板911と連結部材914とが全周溶接(全周溶接部を916で示す)によって結合され、更に連結部材914と制振対象機械901とが全周溶接(全周溶接部を915で示す)によって結合される。これにより所定枚数の内板912が密閉に封じられるように制振対象機械901と外板911とが連結部材914を介して結合される。
この実施例によれば、所定枚数の内板912には、その変形を拘束する溶接部が無く、全周溶接によって雨水の侵入による錆の発生もないため、良好な制振性能が得られる。
また、たとえば栓溶接(栓溶接部を917で示す)によって事前に所定枚数の内板912と外板911とを結合させておいた上で、連結部材915の溶接を行うようにすれば、積層板910の制振対象機械901への位置決めを容易に行うことができ、製造コストを低減させることができる。また栓溶接の実施により積層板910の浮きを防止することができる。
更に連結部材を、積層板を位置決めするための治具として使用する実施も可能である。
すなわち図37Cに示す積層板910は、制振対象機械901上に積層される所定枚数の内板912と、これら所定枚数の内板912の更に外側に積層され、内板912と同じ面積で同じ形状を有する外板911とからなる。これによって所定枚数の内板912は、制振対象機械901と外板911とによって挟まれる。更に外板911の全周には、連結部材918が配置される。連結部材918の内壁に、所定枚数の内板912、外板911が当接されることで、積層板910が位置決めされる。そして外板911と連結部材918とが全周溶接(全周溶接部を920で示す)によって結合され、更に連結部材918と制振対象機械901とが全周溶接(全周溶接部を919で示す)によって結合される。これにより所定枚数の内板912が密閉に封じられるように制振対象機械901と外板911とが連結部材918を介して結合される。
この実施例によれば、所定枚数の内板912には、その変形を拘束する溶接部が無く、全周溶接によって雨水の侵入による錆の発生もないため、良好な制振性能が得られる。
また、連結部材918を用いて、積層板910の制振対象機械901への位置決めを容易に行うことができ、製造コストを更に低減させることができる。
なお図37A、図37B、図37Cでは溶接によって結合しているが、溶接の代わりに接着剤やシール材を使用する実施も可能である。
また図37A、図37B、図37Cの制振対象機械901は、第3の実施形態、第4の実施形態で説明したのと同様に、たとえばバケット101の側板103、ホッパ125の傾斜壁面128などである。
また図37A、図37B、図37Cの積層板910を、第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態、第4の実施形態で説明した実施態様と適宜組み合わせて実施してもよい。