JP2006520910A - pH応答性高分子の使用 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は目標化合物を液体から単離する方法に関する。
【解決手段】 本発明の方法は、第1のpHで、液体を、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体と接触させて、疎水性相互作用によって目標化合物を吸着させる段階と、第2のpH値を有し、pH応答性高分子のコンフォメーション変化をもたらす溶出液を加えて、前記化合物を放出させる段階とを含む。溶出は、pH勾配及び/又は塩勾配によって有利に行われる。
【解決手段】 本発明の方法は、第1のpHで、液体を、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体と接触させて、疎水性相互作用によって目標化合物を吸着させる段階と、第2のpH値を有し、pH応答性高分子のコンフォメーション変化をもたらす溶出液を加えて、前記化合物を放出させる段階とを含む。溶出は、pH勾配及び/又は塩勾配によって有利に行われる。
Description
本発明方法は、1種以上の目標化合物を液体から単離する方法であって、目標化合物を分離媒体に吸着させた後、媒体から目標化合物を溶出させることによって単離を実施する方法に関する。本発明の方法で用いる媒体は、その表面に局在化したpH応答性高分子を含む。本発明は、分離媒体の製造にpH応答性高分子を使用することも包含する。
夾雑化学種からの液体の精製、溶液からのタンパク質その他の生体分子のような所望化合物の単離など、様々な用途で溶液中の他の成分から目標化合物が単離される。近年のバイオテクノロジーの発展及び組換え産物の用途の増大に伴い、効率的な精製法に対するニーズが一段と高まっている。大抵の場合、生産される化合物が生体分子であろうと、その他の有機化合物、さらには無機化合物であろうと、使用に際しての安全性を確保するため、生産される化合物に求められる純度の要請が高い。
その汎用性と感度のため、クロマトグラフィーが生体分子及び医薬品の好ましい精製法であることが多い。クロマトグラフィーという用語は密接に関連した一群の分離法を包含し、これらはすべて非混和性の2つの相を接触させるという原理に基づくものである。具体的には、目標化合物を移動相に導入して、これを固定相と接触させるが、固定相は通例固体マトリックスである。目標化合物は、移動相によって系内を運搬される際に固定相と移動相の間で一連の相互作用を受ける。相互作用は試料中の成分の物理的又は化学的性質の差異を利用する。相互作用は、電荷、疎水性、親和性などの1以上の異なる原理に基づくものとし得る。
疎水性及び関連相互作用は、濾過及びクロマトグラフィーなどの液体から目標化合物を分離するための様々な用途に利用されている。疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)では、移動相は通例水性であり、マトリックスは疎水性基が親水性マトリックスに結合したものからなるのに対して、逆相クロマトグラフィー(RPC)では一般に有機移動相と極性の低い(つまり親水性の高い)マトリックスが用いられる。媒体と溶質表面の相互作用は、塩その他のリオトロピック剤の添加によって促進されることが多い。したがって、HICでは通例RPCよりも疎水性が低く、水性の環境が用いられ、多くの用途ではHICはMWの大きいタンパク質その他の脆弱な物質に適している。しかし、用途によっては、RPCマトリックスとHICマトリックスの間に明確な境界線はなく、移動相の選択如何によって決まる。こうした場合、HIC用の媒体はPRCにも使えるし、その逆も成り立つ。
目標分子と固定相とのHIC相互作用は、主に目標分子を水和する移動相の能力によって制御され、疎水性相互作用と共に目標と媒体の相互作用を安定化させる塩その他の添加剤によって影響される。他の相互作用、例えばファンデルワールス相互作用、電荷−電荷相互作用なども、タンパク質の保持、構造の安定化及び各種目標分子での分離能に関して副次的ではあるが重要な役割を果たすことがある。通例、HIC媒体への目標分子の吸着は塩濃度の高い移動相で実施され、溶出は低塩濃度で起こる。数種の溶質間の選択性を高めるため塩勾配が用いられることが多い。かかる勾配で流すと、理想的には最も疎水性の高い化合物が最後に溶出する。タンパク質の場合、タンパク質の疎水性とHIC溶出との関係は完全には解明されていない。疎水性表面領域を有する高度に電荷した可溶性タンパク質は、HICで最後に溶出することがある。
タンパク質の精製において、HICは、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーなどの他のクロマトグラフィー法と補完性があるので、関心が高まりつつある。具体的には、HICは、ダウンストリームプロセッシングの初期段階(例えば塩析後でイオン交換の前)にも、後期段階で例えば前の処理工程で変性した目標タンパク質の除去などにも成功裏に用いられている。しかし、特定の状況下では依然として短所を抱えている。
HICの最も重大な短所の一つは、RPCにもいえることであるが、処理の際に目標タンパク質が変性しかねないことである。例えば、HICで必要とされる高塩濃度の緩衝液は、タンパク質のような変性し易い目標化合物には有害となりかねず、そうした場合、変性が助長されかねない。この問題を軽減するため、カオトロピック剤又はタンパク質安定剤を使用することができるが、これらを除去するための追加の下流工程が必要となり、そのためプロセス全体のコストが増大してしまう。タンパク質の変性は、媒体との疎水性相互作用、及びその後の溶出条件下での媒体からの除去によっても引き起こされることもある。関与する機序は判然としないが、単純化すれば、移動相と媒体の界面自由エネルギー差に適応するように、しかも表面基との疎水性その他の相互作用を介してタンパク質自体の界面自由エネルギーの低下を促すようにタンパク質がコンフォメーションを変えることと関係していると思われる。こうした変性の問題は、タンパク質を媒体から溶出した後もタンパク質がその新しいコンフォメーションを保持していることである。
以上のことから、タンパク質の変性しにくい条件下で、その疎水性に基づいてタンパク質その他の分子を分離するクロマトグラフィーその他の分離表面の開発に多大な関心がもたれている。
荷電していない疎水性リガンドを用いる伝統的なHIC媒体に代わるものとして、Boschetti他(Genetic Engineering,vol.20,No.13,July,2000)は、変性し易い生体高分子、特に抗体を単離するための疎水性電荷誘導クロマトグラフィー(CIC)と名付けられた方法を提案している。市販品のBioSepra MEP HyperCel(Life Technologies,Inc.)はこの種の相互作用に基づくものであり、リガンドとして4−メルカプトエチルピリジンを含んでいる。理論的には、このリガンドは中性pHでは非荷電で、穏和な疎水性相互作用で分子と結合する。pHを下げるとリガンドは正に帯電し、疎水結合はおそらくリガンドの荷電基とタンパク質との静電反発力で打ち消される。しかし、この方法には幾つかの問題が予見できる。第1に、溶出pHで正味正電荷となる適当なpIの目標タンパク質が必要とされる。第2に、タンパク質は、溶出pHで実質的に正味の正電荷を有する必要がある。第3に、用いられるピリジン基はそのpKaが中性の7に近いため、π結合の重なり、キレート化、イオン交換、カチオン−πのような他の安定化相互作用を促進して、その機能を損なうおそれがある。
常用される小さなリガンドに代わるものとして、大きな分子、特に高分子を分離用途における固定相として使用することが提案されている。
例えば、国際公開第02/30564号(アマシャムファルマシアバイオテク株式会社)には、刺激応答性高分子をアフィニティクロマトグラフィーに使用することが開示されている。具体的には、「インテリジェント又は応答性高分子」としても知られるかかる刺激応答性高分子は、適当な刺激に暴露されるとその物理化学的性質が構造的で可逆的に変化する。この変化によって、かかる高分子の溶液中での自己会合にみられるような顕著な疎水性が、顕著な親水性、つまり水和作用へ変換される可能性があり、その逆もまた同様である。最も一般的で検討されている刺激は温度変化であるが、国際公開第02/30564号で提案されている代替刺激は、光、磁場、電場及び振動である。これら4つの刺激は、若干の技術的な困難は伴うものの分析用マイクロカラムのようなコート表面の総面積が小さい用途では使用できるかもしれないが、大きなカラム及び表面を伴う用途でうまく使用できるか疑問である。分離媒体からの目標物質の溶出を促すために注意深い温度制御が必要な場合は、媒体周囲の条件を一定にすることも必要になると思われる。その結果、使用する装置に対する要求が高くなる。提案された代替刺激の使用にも同様の短所が含まれると思われる。興味深いことに、国際公開第02/30564号は、塩、有機溶媒、酸及び塩基などの添加された化学物質のために、不活性化、回収率の低下などの問題を引き起こす恐れがあるので、塩、無機溶媒、pHなど、溶出液の組成を変化させることによって溶出することは望ましくないことがあると記載している。
アフィニティクロマトグラフィーの他の一例が、米国特許第5998588(University of Washington)に記載されている。この特許は、相互作用性分子コンジュゲート、具体的には、これを利用してレセプター−リガンド相互作用や酵素−基質相互作用など分子間のアフィニティ若しくは認識相互作用を変調若しくは「切換える」ことができる材料に関する。したがって、開示されたコンジュゲートは刺激応答性高分子成分と相互作用性分子の組合せである。これらの高分子は、pH、光その他の刺激を変化させることによって操作することができる。刺激応答性成分を相互作用性分子の特定部位に結合させると、隣接するリガンド結合部位、例えば抗体の抗原結合部位又は酵素の活性部位に結合するリガンドを変えるようにこれを操作することが可能になる。
欧州特許第1081492号(アマシャムファルマシアバイオテク株式会社)には、高分子コーティングを固定相とする他の例が記載されている。この特許では、帯電した共重合体からなるクロマトグラフィー充填材が開示されている。具体的には、開示されたイオン交換機能を持つ充填材は、例えばポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)を正に帯電したジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAAm)と共重合させることによって調製できる。得られる充填材は、逆相クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーの両方で使用することができる。かかる充填材に吸着した物質の溶出は、温度を変化させることによって固定相表面の疎水性/親水性バランスを変化させることによって行われる。しかし、上記のように温度制御には短所がある。例えば、温度制御には、小さいカラムでも、一般にヒーター、浴、温度計、カラムジャケット及びポンプなどの特別な装置が必要である。かかる方法を大きなカラムに適用すると、カラムジャケット間の流体シール漏れ並びに長軸及びカラム径方向の不均一な温度分布を含めた当然随伴する問題が発生すると思われるので、装置の関与が大きくなる。大きなカラムでは温度勾配が流れの混合及び物性(例えば粘度)の差をもたらす可能性があり、これはゲルベッド全体の物質移動及び性能につながる。
欧州特許第0851768号(University of Washington Seattle)は、刺激応答性高分子及び相互作用性分子を使用して、分析、アフィニティ分離、処理などに有用な部位特異性コンジュゲートを形成することを提案している。この高分子は、pH、温度、光その他の刺激を変化させることによってこれを操作することができる。相互作用性分子は、ペプチド、タンパク質、抗体、レセプター又は酵素のような生体分子とすることができる。刺激応答性コンジュゲートを相互作用性分子の特異部位に結合させると、刺激応答性成分を操作して隣接する結合部位へのリガンドの結合を変えることができる。上記のように、この結合はアフィニティ基によるものであり、その結果提示された材料のアフィニティ認識相互作用を「切換える」ことができる。具体的には、目標化合物のアフィニティ部位に対する高分子の物理的関係が上記の変化によって制御される。さらにリガンドその他のアフィニティ物質が開示されているが、応答性高分子をかかる物質にグラフトすることによってその基本的な相互作用は望み通り改変される。
Tuncel et al(Ali Tuncel,Ender Unsal,Huseyin Cicek:pH−Sensitive Uniform Gel Beads for DNA adsorption,Journal of Applied Polymer Science,Vol.77,3154−3161,2000)は、アミン官能化モノマーN−3−(ジメチルアミノ)プロピルメタクリルアミド(DMAPM)の懸濁重合によって均一なゲルビーズを製造することが記載されている。開示された架橋ゲルビーズは、pH感受性、可逆的、膨潤及び解膨潤挙動を示し、DNA吸着用に提案されている。しかし、開示されたビーズの使用分野はその剛性によって制約されると思われる。この剛性は薬物の送達などの用途には十分であるが、高い流速が望ましい用途では不十分であると思われる。例えば、充填クロマトグラフィーベッド内の液の流れは不可避的にかかるビーズを崩壊させると思われるので、その吸着特性は低下することになろう。
最後に、国際公開第96/00735号(Massey University)には、目標タンパク質又はペプチドの精製に有用なクロマトグラフィー用樹脂が開示されている。具体的には樹脂−目標コンジュゲートが開示されており、樹脂は選択されるイオン性リガンドを共有結合した担体マトリックスを含む。リガンドは、ペプチドが樹脂に吸着するpHでは静電帯電しておらず、ペプチドが脱着するpHでは静電帯電している。非荷電の樹脂への吸着は疎水性相互作用によって行われるのに対し、脱着は電荷の反発作用によって行われる。リガンドとしては、アミノ基、カルボキシル基、ヒスチジル基、ピリジル基、アニリン基、モルフォリノ基又はイミダゾール基が挙げられる。さらに、スペーサーアームを介してリガンドを支持体に結合させることができる。スペーサーアームはこの発明に必須ではないが、例えばβ−アラニン、アミノ酪酸、アミノカプロン酸などから誘導することができる。スペーサーが存在してもイオン性基を含まないので、開示された樹脂の脱着特性には貢献できない。したがって、国際公開第96/00735号に開示されたリガンドはすべて比較的小さい有機分子であり、各リガンドは通常1つの官能基を有する。したがって、この樹脂のリガンドは上述の刺激応答性高分子とは全く異なる。
国際公開第02/30564号パンフレット
米国特許第5998588明細書
欧州特許第1081492号明細書
欧州特許第0851768号明細書
国際公開第96/00735号パンフレット
Boschetti et al, Genetic Engineering,vol.20,No.13,July,2000
Ali Tuncel,Ender Unsal,Huseyin Cicek,"pH−Sensitive Uniform Gel Beads for DNA adsorption",Journal of Applied Polymer Science,Vol.77,3154−3161,2000
Chen,G.H.and A.S.Hoffman,"A new temperature− and pH−responsive copolymer for possible use in protein conjugation",Macromol.Chem.Phys.,196,1251−1259(1995)
本発明の1つの目的は、通常のHIC媒体に比べて選択性及び/又は分離能向上した疎水性相互作用(HIC)分離媒体を提供することである。具体的な目的は、選択性及び/又は分離能が向上し、回収率が通常のHIC媒体と少なくとも同等である、かかる媒体を提供することである。
本発明のもう1つの目的は、1種以上の目標化合物を液体から同定又は単離する方法を提供することである。この方法では、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)に常用される相互作用を利用して、移動相のpH及び/又は塩濃度によってその相対的疎水性を変化させることができる媒体に目標化合物を吸着させる。この場合、疎水性は、HIC媒体として常用されるアルカン又はフェニルリガンド系表面コーティングに対するタンパク質の吸着によって判定する。
本発明の特定の目的は、pH制御を用いて、リガンドを荷電又は非荷電にして吸着を促進又は低下させるだけでなく、相対的な相互作用を変化させる方法を提供することである。したがって、本発明を分離目的に使用すると作業者は他の変数即ちpHを持つことになり、これを用いて本方法の分離能を操作することができる。
本発明のもう1つの目的は、目標化合物の天然構造及び活性の観点から、吸着及び溶出条件下で従来技術の方法よりも完全性を維持しやすいクロマトグラフィー法を提供することである。特定の目的は、タンパク質などの巨大分子を分離するための方法を提供することである。本発明によれば、これは、液体から1種以上の目標化合物を同定又は単離する方法によって実現することができる。この方法では疎水性相互作用を利用して目標化合物を媒体に吸着させる。具体的には、前記媒体は、吸着及び溶出プロセス時に目標化合物に対するコンフォメーションを変化させる可撓性高分子表面コーティングを備えたマトリックスからなる。かかる変化は、pH及びHICで以前使用された他の刺激例えば塩濃度によって影響を受ける。したがって、本方法によって、作業者は、未変性又は変質した目標材料の回収率に影響を及ぼす操作変数の制御を改良することができる。
本発明の特定の目的は、疎水性相互作用が、目標化合物に対するその表面疎水性を例えばpHの変化によって変えることができる媒体への目標化合物の吸着に利用される主要な相互作用である、クロマトグラフィー法を提供することである。この場合、pHの変化は、移動相塩濃度の有意な変化、又は有機溶媒若しくは極性を変化させる高分子添加剤などの移動相変性剤の使用には左右されない。本方法は、例えば塩濃度、有機溶媒及び高分子移動相変性剤などに関わる広範囲の移動相で利用することができる。
本発明の特定の目的は、従来技術と比べて可能な運転条件が広くなると共に運転経費が低減する上記のHIC方法を提供することであり、且つ従来技術のHIC方法よって運転装置への悪影響が少ない方法を提供することである。
本発明の別の目的は、疎水性相互作用を利用して媒体に目標化合物を吸着させるクロマトグラフィー法を提供することである。この方法によって、HICが用いられることが多い中性pH領域で溶解性が低いタンパク質及びポリペプチドにHICを使用することが可能になる。これは、疎水性相互作用を、マトリックス表面に局在化した高分子のコンフォメーション、並びにpHと関連したタンパク質−高分子相互作用に関連づける方法によって実現される。
本発明の別の目的は、標準的なHIC媒体と同じ順序でタンパク質を溶出させるが、選択されるタンパク質の媒体との相対的相互作用、即ち他のタンパク質に対するこのタンパク質のピーク溶出位置をpHの変化によって変化させる、クロマトグラフィー法を提供することである。したがって、本方法は、HIC方法で得られる分離能を向上させることができる。
本発明の他の目的は、製造に適したクロマトグラフィー材料を使用するクロマトグラフィー法を提供することである。これは、常用されるアルカン又はフェニル基などの特定の疎水性リガンドではなく、表面局在化高分子を呈するマトリックスの使用によって実現することができる。後者は、元の表面の疎水性の改質、リガンドを結合させる基の連結などの疎水性コーティングの使用に関連する生産コストを必要とすることが多い。本方法を用いることによってこれを回避することができる。
本発明の最後の目的は、タンパク質などの様々な目標化合物の望ましい分離を行うために必要な媒体の範囲を狭くすることである。これは、その固有の表面疎水性をpH制御によって変えることができる分離媒体を使用することによって、本発明に従って実現することができる。標準的なHIC媒体が持つ疎水性の固有の範囲は、異なるアルカン基を有する媒体によって、しばしば2つ以上の表面密度で与えられるので、各用途に対して製造し試験しなければならない媒体の範囲が狭ければ供給元にもユーザーにも有利である。
本発明の他の目的及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになると思われる。
定義
「表面局在化」という用語は、表面近傍における分子その他の物質の局在化を意味する。これは、吸着、共有結合などの任意の通常の相互作用によって実現することができる。
「表面局在化」という用語は、表面近傍における分子その他の物質の局在化を意味する。これは、吸着、共有結合などの任意の通常の相互作用によって実現することができる。
「表面」という用語は、マトリックスの外面を意味し、多孔質材料の場合は、内面又は気孔表面を意味する。
「マトリックス」という用語は、本明細書ではクロマトグラフィー及び濾過などの同定及び単離分野に使用される通常の固体坦体の任意の1種について用いる。
「分離媒体」は、上に定義したマトリックスからなり、これにリガンド又は高分子などの結合基が結合されている。
「疎水性」という用語は、本明細書でも、クロマトグラフィーの分野で一般に使用されている意味で用いる。この分野で「疎水性」という用語を定義するには、例えば溶解性の観点から周知の多くの共通の方法がある。
「脱着」及び「放出」という用語は、本明細書で区別なく用いられている。
第1の態様では、本発明は、1種以上の目標化合物を液体から単離する方法であって、
(a)液体を、第1のpH値で、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体と接触させて、目標化合物を吸着させる段階と、
(b)pH応答性高分子のコンフォメーション変化をもたらす第2のpH値の溶出液を加えて、分離媒体から1種以上の前記目標化合物を放出させる段階と
を含む方法に関する。
(a)液体を、第1のpH値で、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体と接触させて、目標化合物を吸着させる段階と、
(b)pH応答性高分子のコンフォメーション変化をもたらす第2のpH値の溶出液を加えて、分離媒体から1種以上の前記目標化合物を放出させる段階と
を含む方法に関する。
本方法の一実施形態では第2のpH値は第1のpH値よりも低い。最も有利な実施形態では溶出液はpH低下勾配を備える。吸着力は、高分子と目標化合物の相互作用に左右されるので、異なる目標化合物は、段階的又は線形pH勾配などのpH勾配によって媒体から示差的に溶出することができる。したがって、有利な実施形態では段階(b)は2種以上の目標化合物の示差的な溶出である。本方法では各々の目標化合物を純粋又は実質的に純粋な画分として溶出させることができる。アルコール、界面活性剤、カオトロピック塩などの常用される添加剤を溶出緩衝液中に使用して、段階(b)における脱着時の選択性に影響を及ぼすことができる。しかし、高濃度のかかる添加剤にさらすことによって目標化合物を変性又は不活性化しないように注意することが望ましい。
勾配溶出法はクロマトグラフィー分野で周知の方法であり、当業者は通常の酸/塩基系を用いた適当な勾配を容易に決めることができる。
したがって、本実施形態では、pHの変化によって高分子の物理的状態を変えることができる。高分子の性質に応じて、高分子が自己会合する傾向、及びその疎水性との関係で材料に対する表面の吸着性が高まる傾向を、pHの変化によって増大又は減少させることができる。図5〜8に示す例ではこの傾向はpHを下げると共に増大する。その結果、一般にタンパク質が表面から溶出する塩濃度は低下する。これは、図1及び2に示すように、標準的なHIC媒体表面の疎水性を高めたときに見られるのと同じ機構である。
明らかにこの逆も真であり、吸着性が低下するようにpHを変化させるに連れて、媒体とタンパク質その他の吸着剤との相互作用は弱くなる。この文脈において、pHに関連した高分子のコンフォメーションの傾向は、吸着及び脱着のpH制御に影響を及ぼすことが分かる。しかし、当業者には自明であろうが、本方法において目標化合物は、図3に示すようにマトリックス表面からの放出を促進するのに十分ではない方法で、わずかではあるがコンフォメーションの変化も受ける。したがって、かかるケースも本発明の範囲内に包含される。したがって、本方法における化合物の吸着及び放出は、主に、しかも好ましくは、大部分がpH応答性高分子のコンフォメーション変化によって促進される。
本方法を利用して、上記のように目標化合物を吸着させることによって目標化合物を単離することができる。したがって、本方法の一実施形態では吸着した化合物が目標化合物である。別の実施形態では本発明を利用して望ましくない化合物を吸着させることによってこれを液体から除去し、目標化合物を通過させる。特定の実施形態では上記の吸着は、目標化合物の満足すべき単離及び/又は同定を可能にする事実上の障害物である。
本方法の別の実施形態では溶出液の導電率が段階(a)の液体の導電率と異なるが、第2のpH値は第1のpH値と等しく又は少なくとも実質的に等しく保つ。タンパク質の単離に最も有利な実施形態では溶出は中性又はアルカリ性pHで行われる。導電度の変化は、疎水性相互作用クロマトグラフィーに常用される任意の1種など、一般に適当な塩の添加によって与えられる。有利な実施形態では溶出液は塩勾配を含む。吸着力は高分子と目標化合物の相互作用に左右されるので、異なる目標化合物は、段階的又は線形塩勾配などの塩勾配によって示差的に溶出することができる。有利な実施形態では段階(b)は2種以上の目標化合物の示差的な溶出である。本方法では各々の目標化合物を純粋又は実質的に純粋な画分として溶出させることができる。アルコール、界面活性剤、カオトロピック塩などの常用される添加剤を溶出緩衝液中に使用して、段階(b)における脱着時の選択性に影響を及ぼすことができる。しかし、高濃度のかかる添加剤にさらすことによって目標化合物を変性又は不活性化しないように注意することが望ましい。勾配溶出法はクロマトグラフィー分野で周知の方法であり、当業者は適当な勾配を容易に決めることができる。
特定の実施形態では上記のpH及び塩勾配溶出法を組み合わせて、両者の原理を吸着した1種以上の化合物の溶出に利用する。
要約すると、本方法の段階(a)ではpH応答性高分子の性質に応じて、当業者は容易に吸着条件を適合させることができる。例えば、周知のように、高い表面張力は、疎水性表面上へのタンパク質の吸着に好ましい疎溶媒性の環境を与える。したがって、モル表面張力の高い塩の使用は、タンパク質などの目標化合物の媒体への保持を増大させることになる。HICで最も一般的に使用される塩は硫酸アンモニウムである。しかし、非常にアルカリ性の環境ではこれを使用することができない。その他の有用な塩としては、例えば、グルタミン酸モノナトリウム、グアニジン、硫酸ナトリウム及びアスパルギン酸ナトリウムが挙げられる。これらはpH約9.5で使用するのが有利である。本方法は室温で行うのが最も有利である。
一実施形態では目標化合物の吸着はpH応答性高分子と目標化合物の疎水性相互作用によって与えられる。したがって、本実施形態の基本を形成する原理を、本明細書では、「pH応答性HIC(pHIC)」と表すことがある。特定の実施形態では目標化合物の吸着は、関連相互作用を追加した疎水性相互作用によって与えられる。かかる関連相互作用は、電荷−電荷相互作用、ファンデルワールス相互作用及び共溶媒和/共水和からなる群から適切に選択される。一定のpH及び塩濃度における特定のタンパク質の場合などに関する別の実施形態ではかかる1以上の関連相互作用が支配的である。しかし、一般に、かかる他の相互作用は疎水性相互作用と比べて二次的である。
具体的には、塩勾配疎水性相互作用を用いた実施形態ではタンパク質などの目標化合物は、段階(a)において、表面の疎水性、1種以上の目標化合物の疎水性、及び溶出液の性質との関係で吸着される。したがって、これらの相互作用は、一般に例えばアルカン又は芳香族疎水性リガンドをコーティングした坦体又はマトリックスを含む標準的なHIC媒体に共通の相互作用の型を模倣しているという点で、主として疎水性である。
したがって、pH応答性高分子を使用した疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)に基づく本発明は、Boschetti等が提案した上記の電荷誘導クロマトグラフィー(CIC)とは異なる。この電荷誘導クロマトグラフィー(CIC)では(1)用いるリガンドは低MW分子であって本発明のように高分子ではない、(2)結合時はリガンドを中性、非結合時はこれを陽性にするように移動相のpHを変化させる、(3)pHの変化に応じてリガンドのコンフォメーションを変化させることをBoschetti等は提案していない、(4)誘導しうる荷電基を疎水性リガンドに結合させ、実質的にはこれが標準的なHICリガンドの変性を意味する。CIC法で予見できる幾つかの問題、例えば(i)荷電形態のCICリガンドに対するタンパク質荷電基の親和性、(ii)電荷−電荷相互作用がHIC緩衝液の高い塩濃度によって遮蔽されてしまうこと、並びに(iii)リガンド密度と媒体の性能の関係、などの要因によって引き起こされる問題は、本発明によって回避される。
本方法の一実施形態ではpH応答性高分子のコンフォメーション変化は、pHの低下によって引き起こされる疎水性の低いコンフォメーションへの変化である。別の実施形態では高分子のコンフォメーション変化は、高分子の自己会合及び/又はマトリックスとの会合に基づいている。
当業者は、pHが上昇又は低下するに連れて、水溶液その他の溶液で疎水性の高いコンフォメーションを経由して疎水性の低いコンフォメーションへ変わる、適当なpH応答性高分子を製造することができる。これには自己会合が付随して起こることが多いが、自己会合は高分子が溶液中で自由なときに溶液から出てくることによって検出される。水溶液系における温度応答性高分子については、下限臨界溶解温度(LCST)又は上限臨界溶解温度(UCST)がある。pH応答性高分子のLCSTはpHで変化すると共に、その他の因子、例えばイオン強度及び溶液中のイオンその他の添加剤の種類の影響を受ける可能性もある。かかる高分子が表面に結合すると、高分子のコンフォメーション変化はそのまま保持され、表面の相対的疎水性を高分子の疎水性と同様に変化させる。このように、表面に会合した高分子は自己会合し、pHに応じてコンフォメーションを変化することができる。
pH応答性高分子を結合させるマトリックスは、分離プロセスの妨げになりかねない電荷を持たない限り、pH応答性高分子の結合が可能な任意の有機又は無機多孔質材料とすることができる。したがって、一実施形態ではマトリックスは、架橋アガロースなどの疎水性炭水化物からなる。この場合は、下記の実験の部で詳細に記載するように、マトリックス材料は、最初に好ましくはNaOHなどの塩基の存在下で周知の方法に従って適当な程度までアリル化した後、アミノ化してその後の高分子の結合を可能にする。別の実施形態ではマトリックスを初めアリル化した後、表面にモノマーをグラフトすることによってpH応答性高分子コーティングを得る。この実施形態ではモノマーを表面に直接共重合させる。モノマーの選択によって、所望の応答性を有する高分子の調製が可能になる。例えば、当業者は、常法を用いて所望のLCSTを有する高分子コーティングを容易に調製することができる。特定の実施形態ではpH応答性高分子を温度応答性高分子と結合させて独特の特徴を得ることができる。別の実施形態ではグラフト技術によってかかるマトリックスを調製することができる。
別の実施形態ではマトリックスはシリカ又は合成共重合体材料である。必要に応じ、マトリックスを上述の如くアリル化した後アミノ化する。クロマトグラフィーの場合は、使用する前にマトリックスの残りのアミノ基をアルキル化することが特に好ましい。かかる基は化合物の分離低下を引き起こす恐れがあるからである。
本方法で有用なpH応答性高分子は、pHに対する感受性が高い任意のものとすることができる。この場合、周囲のpHの変化が高分子のコイルで有意のコンフォメーション変化を引き起こす。この種の高分子の総説については、例えば、Chen,G.H.and A.S.Hoffman,“A new temperature− and pH−responsive copolymer for possible use in protein conjugation”,Macromol.Chem.Phys.,196,1251−1259(1995)を参照されたい。特定の実施形態ではこのpH応答性高分子は、pH2〜13、例えば2〜12、3〜12、4〜7、又は7〜10の範囲でpH応答性である。
簡単に言えば、本明細書で有用な合成pH感受性高分子は、一般に、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAAc)、無水マレイン酸(MAnh)、マレイン酸(MAc)、AMPS(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)、N−ビニルホルムアミド(NVA)、N−ビニルアセトアミド(NVA)(最後の2つは重合後加水分解してポリビニルアミンにすることができる)、アミノエチルメタクリレート(AEMA)、ホスホリルエチルアクリレート(PEA)又はメタクリレート(PEMA)などのpH感受性ビニルモノマーに基づくものである。かかるpH感受性高分子は、アミノ酸(例えば、ポリリシン若しくはポリグルタミン酸)からポリペプチドとして合成することもできる。或いは、タンパク質(例えば、リゾチーム、アルブミン、カゼインなど)、又は多糖類(例えば、アルギン酸、ヒアルロン酸、カラギーナン、キトサン、カルボキシメチルセルロースなど)又はDNAなどの核酸などの天然高分子から誘導することもできる。
一実施形態ではpH応答性高分子はコモノマーである。別の実施形態では各pH応答性高分子は疎水性部分と親水性部分とpH応答性部分からなる。好ましくは、pH応答性部分は、第1級、第2級又は第3級アミンなどのアミン及び/又はアクリル酸からなる。これらは一定のpKa値でプロトン化する。
特定の実施形態ではpH応答性高分子は、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、―SO2NH2基、―RNH2基、R2NH基及びR3N基(式中、RはCである)からなる基から選択されるpH応答性基を含む。
特定の実施形態では高分子の疎水性を与える又は疎水性を高める1以上の官能基を含有するように、本pH応答性高分子を設計することができる。本方法における最も好ましい官能基は、不飽和系例えばアルケン又は芳香族系に見られるような炭素−炭素二重結合(C=C)である。
本方法で使用されるpH応答性表面は、当業者が有機合成高分子化学を用いて官能基の単層又は多層として設計することができる。一般に、本明細書で有用なpH応答性高分子は、常法に従って、分子量が約1000〜約250000ダルトン、例えば約2000〜約30000ダルトンになるように合成することができる。当業者には自明であろうが、下限は表面被覆や疎水性の程度などの要因で決まり、上限は高分子/拡散効果などの要因で決まる。
上記の如く、pH応答性高分子を例証する1つの型は、1つのアミノ基と1つのカルボキシル基を有するアミノ酸から調製することができ、これを多糖マトリックスに結合することができる。このモノマーはラジカル重合で容易に重合し、pH4〜8の領域で一定の膨潤を示し、酸性及び塩基領域で膨潤が増大するマトリックスが得られる。高分子をマトリックス表面に結合させる別の方法は、表面グラフト法である。この方法では、一定の大きさのpH応答性高分子をまず合成し、次いでこれを坦体にグラフトする。可逆的なpH応答性表面を作製するさらに別の公知の方法は、「閉込め官能化」である。この方法では、精巧な標識ポリエチレンオリゴマーが作製される。その場合、これらのオリゴマーを、添加剤を含まないHDPEと混合することができる。高分子と官能化オリゴマーの両方を溶解することによって、官能化PEフィルムの製造に使用できる均質な溶液が得られる。
別の実施形態では本方法は、ポリ(N−アクリロイル−N’−プロピルピペラジン)(PAcrNPP)、ポリ(N−アクリロイル−N’−メチルピペラジン)(PAcrNMP)及びポリ(N−アクリロイル−N’−エチルピペラジン)(PAcrNEP)などの高分子を使用する。これらは、pHと温度の両方に感受性を有するヒドロゲルである。N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート[DMEEMA]系高分子は、温度とpHに応答性を有するヒドロゲルのもう1つのグループである。
本法の一実施形態では1種以上の目標化合物はタンパク質又はペプチドのような生体分子である。この点で特に適当なタンパク質の具体例としては、抗原、セルラーゼ、糖タンパク質、ホルモン、免疫グロブリン、リパーゼ、膜タンパク質、核タンパク質、胎盤タンパク質、リボゾームタンパク質及び血清タンパク質が挙げられる。目標化合物は、どんな液体中に存在してもよいが、一般には水溶液中に存在する。但し、吸着プロセスに適合し、pH応答性高分子又は目標化合物に決して有害ではないことが条件である。一実施形態ではこの液体は発酵液であり、目標化合物はその中で製造されたタンパク質又はペプチドである。かかる発酵液は、pH応答性高分子の性質に応じて希釈してもよく、粗抽出物のように希釈しなくてもよい。
現在の最良の実施形態では本発明の方法はクロマトグラフィー法である。かかるクロマトグラフィー法は、大量生産に至るあらゆる規模での調製用とすることもでき、或いは分析用とすることもできる。したがって、特定の実施形態では本方法は分析法である。具体的な実施形態では分離用マトリックスは、マイクロタイタープレート、バイオセンサー、バイオチップなどである。別の実施形態では本発明は細胞培養に使用される。本方法は、小規模の装置でも大規模の装置でも同じように有用である。
別の実施形態では本方法は濾過法である。この場合、マトリックスは、上記のpH応答性高分子を標準法に従って結合させた任意の周知の材料とすることができる。濾過の一般原理は当業者には周知である。
別の態様では本発明は、クロマトグラフィー媒体の製造に、上記定義のpH応答性高分子を使用することに関する。したがって、本発明は、適当な共重合体を、アガロースなどのマトリックスにグラフトする方法も包含する。この方法では、共重合体の性質は、所望の環境下でpH応答性になるように設計される。
最後に、本発明は、pHを変化させることによって表面吸着を増大又は減少させるpH応答性高分子の使用も包含する。溶液中又は表面上の高分子が、溶液中又は前記表面に局在化した巨大分子又はコロイドなどの、タンパク質その他の分子と相互作用できることは一般の現象である。かかる相互作用は、被覆表面−タンパク質相互作用などの高分子−タンパク質相互作用をもたらす可能性があるが、これは高分子と他方の材料の化学基に大きく左右される。したがって、かかる相互作用は、様々な化学的相互作用、例えば、共水和、疎水性、ファンデルワールス及び水素結合と関連し、且つ他方の材料の独特な構造を反映すると考えられる。これらの相互作用を使用して、表面と材料との相互作用を様々に制御することができる。かかる相互作用は高分子の自己会合傾向を促進し安定化させる可能性があることに留意されたい。
具体的には、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離マトリックスの使用によって、1種以上の目標化合物が液体の他の成分から分離される。最も有利な実施形態ではpH応答性高分子は、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、―SO2NH2基、―RNH2基、R2NH基及びR3N基(式中、RはCである)からなる基から選択されるpH感受性ペンダント基を含む。特定の実施形態では前記高分子は原位置でマトリックス表面上に重合させる。
したがって、本発明は、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体を使用して液体中の他の成分から生体分子を分離する方法を包含する。上記のように、かかる分離法はクロマトグラフィー法又は濾過法とすることができる。これを使用することは、従来の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)又は逆相クロマトグラフィー(RPC)の有利な代替法である。pH応答性高分子に関する詳細は、本発明の方法に関連して上述した通りである。
最後に、本発明は、HICリガンドを呈する表面局在化pH応答性高分子が結合したマトリックスからなる疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体にも関する。特定の実施形態では高分子のpH応答性基は、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、−SO2NH2基、−CNH2基、−C2NH基及び−C3N基からなる基から選択される。本媒体及びその使用に関する詳細は、本発明の方法に関連して上述した通りである。
さらに、本発明は、目標化合物を単離するためのキットであって、別々のコンパートメントに、HICリガンドを呈する表面局在化pH応答性高分子が結合したマトリックスからなる媒体を充填したクロマトグラフィーカラムと、第1のpHを有する吸着緩衝液と、第1のpHよりも低い第2のpHを有する溶出液と、その使用説明書を含むキットも包含する。前記使用説明書は、本発明の方法を実施する方法の使用説明書を含んでもよい。
図1は、様々な従来のHIC媒体、即ち上から下へ:Ether 65OS(商標)、Ether 5PW(商標)、Phenyl 65OS(商標)及びPhenyl 5PW(商標)(Tosoh)、並びにPhenyl HP Sepharose(商標)(Amersham Biosciences(スウェーデン、ウプサラ))に関するクロマトグラムを示す。これらの媒体はそのリガンド(フェニル又はエーテル基)によって表される。この例では、4種のタンパク質(ミオグロビン、リボヌクレアーゼA、α−ラクトアルブミン及びα−キモトリプシノーゲンA)(その性質の幾つかは実験の部で表にした)を、2M(NH4)2SO4を含有するpH7の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液に加えた。この緩衝液は後で0.1Mリン酸ナトリウム及び0M(NH4)2SO4まで勾配として使用される。単一のタンパク質を用いた試験によれば、これらのタンパク質は上記の典型的な「標準的」HICの順序で溶出することが分かる。以下のことが認められる:(a)タンパク質はすべて、カラムから同じ順序で溶出する傾向がある−ピークの分離能は異なるが相対的なピーク位置は変わらない;(b)幾つかの媒体はこれら4種のタンパク質のピーク分離能が他のものよりも優れている;(c)これらの媒体は異なるタンパク質を異なる塩濃度で溶出させるように見える。例えば、上から下へエーテルからフェニルリガンド被覆媒体に変わると、ミオグロビンのピークは2M(NH4)2SO4で、次いで約1Mで溶出するように見える。これは、フェニル基とエチル基の疎水性の違いに呼応しており、タンパク質の相互作用はフェニル被覆媒体の方が強いことを示唆するものである。
図2は、同じタンパク質と同じ条件、並びに以下の様々なSepharose(商標)媒体(すべてAmersham Biosciences(スウェーデン、ウプサラ))を用いて図1と同様に実施した「標準的」勾配HICに関するクロマトグラムを示す図である。これらの媒体は下から上へ、1.Phenyl Sepharose(商標)6FF(低密度);2.Phenyl Sepharose(商標)6FF(高密度);3.Butyl Sepharose(商標)6FF;及びOctyl Sepharose(商標)6FFである。但し、「密度」とは相対的なリガンド密度を表すものであり、媒体の疎水性が高くなると共に高くなる。市販の媒体はそのリガンドとリガンド密度によって表す。個々のタンパク質の試験(図示せず)によれば、これら4種のタンパク質は図1に見られる順序で溶出するが、さらに以下のことを示唆している:(a)これらのタンパク質は2つのピーク(ミオグロビンとリボヌクレアーゼ、その後α−ラクトアルブミンとα−キモトリプシノーゲンA)にしか解像されない;(b)低密度のフェニル基を有する媒体から高密度の媒体に変えると、ピークは低塩濃度で溶出する(疎水性の高い媒体表面の相互作用の方が強いことを示す);並びに(c)媒体の疎水性はリガンドの疎水性だけでなく密度によって決まる。したがって、疎水性は最も高いリガンドだが最も低いリガンド密度(8umole/mlゲル、Amersham Biosciences Catalogue参照)を有するオクチル媒体におけるタンパク質ピークは、ブチル(50umole/ml)又はフェニル低密度(20umole/ml)若しくは高密度(40umole/ml)媒体よりも前に溶出する。なお、図1のフェニル−HP媒体のリガンド密度は25umole/mlゲルである。
図3aは、図1及び2の4種のタンパク質混合物と同じものを用いた、同様のpH7勾配HIC試験を示す図である。様々な曲線は上から下へリボヌクレアーゼ、ミオグロビン、α−ラクトアルブミン、α−キモトリプシノーゲンA及びこれらの混合物を示す。また、示しているのは別々に実験した個々のタンパク質試料の結果である。図3bは、pH4における同じタンパク質を示す。なお、(a)タンパク質混合物の結果は何れのpHでも同じように見える;(b)此処でも2つのピークしか解像されていない;(c)pHを7から4に変えると、ミオグロビンとα−ラクトアルブミンはカラム上に保持される傾向がある(塩濃度が低くなっても強い相互作用を示す)。
図4aは、酸性pH領域(例えば4〜7)でpH HIC(pHIC)応答性を持つように開発された応答性高分子コーティング:PNIPAAm−co−PAA−co−PBMAの一般式を示す図である。これは、荷電及び疎水性で自己会合している基「m」、pH応答性を調節するために加えられた基「n」−この場合酸性pH応答性のための酸基及びHIC(自己会合)官能性を改良するためのもう1つの基「o」からなる。図で認められるように、多くの変数を変化させて任意の特定の用途に対してこの高分子を最適化することができ、本明細書で直接実証したもの以外の他の多くの用途が可能である。明らかな変更としては、ベースマトリックスを変えること、3種の官能基m、n及びoのモル比を変えること、基の種類を変えること(例えばnをピリジン基、oをフェニル基にする、互いに緩衝できる2種の基で基nを置換して4種の官能基を使うなど)、基の相対的配置を変化させることなどが挙げられる。図4bは、塩基性pH範囲で機能するように設計された、異なる種類のpH応答性高分子を示す図である。
図5は、Sepharose(商標)媒体に図4aの高分子をグラフトして調製した媒体(UB878029、U878032:1〜3)を用いて、4種のタンパク質混合物について上図の如く(但しpH4で)実施した「標準的」勾配HICに関するクロマトグラムを示す図である。3種の高分子成分のモル比を変えて4通りの媒体を作り、これらを使用した結果が示されている。なお、(a)モル比は調節することができる;(b)クロマトグラフィー挙動はモル比によって変化する傾向があり、したがって調節することができる;(c)同じようなモル比を有する高分子では同じようなHICクロマトグラムが得られる。
図6は、図4aの高分子で被覆したpH感受性HIC(pHIC)プロトタイプ媒体の1種(U878032:3)を用いて、4種のタンパク質混合物について上図の如く、但し本発明の一態様に従って吸着及び溶出段階の両方でpH4から7に変化させて実施した「標準」勾配HICに関するクロマトグラムを示す図である。なお、(a)pH7では、「pHIC」媒体は、タンパク質が個々の実験(図示せず)によって確認された普通の順序で溶出する、代表的なHICクロマトグラムを示す;(b)4つのピークの分離能は、図1及び2に示す市販媒体の結果と同等又は優れている;(c)pHを4から7へ変化させるに連れて、ミオグロビン(pI6.3)ピークの溶出順序は最初の溶出から最後の溶出へ移動し、α−ラクトアルブミン(pI5)も移動する(下記参照);(d)他のピーク、例えばリボヌクレアーゼ(pI9.4)及びa−キモトリプシノーゲンA(pI9.6)は相対的な位置を保持するが、低塩濃度で溶出する傾向がある。観察「c」は、pHを変化させることによって、独特の分離(例えば、標準HICでは一緒に溶出する傾向があるリボヌクレアーゼとミオグロビンの精製)を行うことができることを示唆している。観察「d」は、図1及び2と同様、右へのピーク移動は媒体の疎水性の上昇に付随することを示唆している。この結果、pHを減少させることによって、媒体の効果的な塩勾配範囲を減少させることができる。また、1つの媒体を異なるpH値で使用することによって、図1及び2における多くの異なる媒体の範囲と同様なクロマトグラフィー分離を再現することもできる。
図7は、図6(U878032:3)におけるpH4の勾配試験に伴う個々のタンパク質のクロマトグラムを示す図である。4種の個々のタンパク質に対するピーク分離能を、図3における市販のPhenyl Sepharose(商標)のものと比較されたい。ピーク形状が著しく改善されていること、並びにミオグロビン及びα−ラクトアルブミンが回復していることに留意されたい。
図8は、図6に示すpHIC媒体を用いた3つの別々の試験を示す図であり、クロマトグラムの再現性を示している。同じようなモル比の媒体を用いた実験(図示せず)も、同じくかかる媒体を製造することの再現性(確実性)を示唆するものであった。
以下の実施例は、単に例証を目的として提供されるものであり、頭記の特許請求の範囲に規定された本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。本明細書で引用した文献の開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
材料
方法
機器
UV検出器を備えたAKTA(商標)Explorer 10S(ID 119)(Amersham Biosciences AB(スウェーデン、ウプサラ))を用いて疎水性相互作用クロマトグラフィーを行った。カラムはガラス製であり、HR5/5(18−0383−1)型のものである。
機器
UV検出器を備えたAKTA(商標)Explorer 10S(ID 119)(Amersham Biosciences AB(スウェーデン、ウプサラ))を用いて疎水性相互作用クロマトグラフィーを行った。カラムはガラス製であり、HR5/5(18−0383−1)型のものである。
ゲルの滴定には、ABU 93 TRIBURETTE(ID672)(Radiometer Copenhagen)を使用した。アミノ基の滴定には5mlのテフロン(商標)キューブ(ID85)を使用し、アリル基の滴定には1mlのテフロン(商標)キューブ(ID600)を使用した。ゲルのFTIR分析にはPerkin−Elmer 16 PC(一連番号145689)を使用した。NMRで分析したゲルは、50μlのテフロン(商標)キューブを用いて計量し、av500を用いて分析した。純高分子は、溶解して、av300を用いてNMRで分析した。
重量の計量はすべて、重量≦1gにはMetler Toledo(ID526)、重量≧1gにはMetler PM480(ID635)を用いて行った(他の情報が無い場合)。
Ultraspec 3000(ID134)を用いて、温度の関数として高分子の吸光度を測定した。THF中のGPCには、Waters 712 WISP(ID648)、Water 410(示差屈折計)及びPL−ELS 1000(検出器)を使用した。
実施例1:アミン化アリルSepharose(商標)HPの調製
アリル−HPの調製:100mlの水切りしたSepharose(商標)HPを250mlの容器に入れ、水25mlを加えて撹拌を開始した。50℃で60分放置した後、様々な量のNaOH、0.2gのNaBH4及び6gのNa2SO4を加え、これらの物質を50℃で連続的に撹拌しながら16〜20時間反応させた。
アリル−HPの調製:100mlの水切りしたSepharose(商標)HPを250mlの容器に入れ、水25mlを加えて撹拌を開始した。50℃で60分放置した後、様々な量のNaOH、0.2gのNaBH4及び6gのNa2SO4を加え、これらの物質を50℃で連続的に撹拌しながら16〜20時間反応させた。
アリル−HPのアミン化:水切りしたアリル−HPゲルを50〜100mlの水と共に容器に入れ、撹拌を開始した。NaAc5gを加え、黄色が残って見えるまでBr2(水溶液)を加えた後、この色が消えるまでNaCOOHを加え、ゲルを水洗した。
1,6ジアミンヘキサン17g、NaCl8.8g、水50mlの溶液を調製し、これを冷却中のゲルに加えた。50℃で16〜20時間、反応を行った。
実施例2:変性Sepharose(商標)HP−ゲルの分析
滴定結果
滴定結果は予想した通りであった。ゲルのアリル濃度は水酸化ナトリウムの重量百分率が上昇するに連れて上昇した。ゲルの塩化物イオン結合量も上昇した(表1)。
滴定結果
滴定結果は予想した通りであった。ゲルのアリル濃度は水酸化ナトリウムの重量百分率が上昇するに連れて上昇した。ゲルの塩化物イオン結合量も上昇した(表1)。
実施例3:アミン化ゲルへのPVCL−NPA共重合体の結合
ゲル10mlの調製:
10mlのアミン変性アガロース粒子をDMFで洗った。96mgのPVCL−NPAをDMF10mlに溶解した後、この溶液をアガロース粒子に加えた。この混合物を一晩振盪した。無水酢酸50μlを混合物に加えて(坦体の残存アミノアルキルをアセチル化し)、その後ガラスフィルター(孔径4)で濾過し、DMF200mlで洗って過剰の高分子を除去した。
ゲル10mlの調製:
10mlのアミン変性アガロース粒子をDMFで洗った。96mgのPVCL−NPAをDMF10mlに溶解した後、この溶液をアガロース粒子に加えた。この混合物を一晩振盪した。無水酢酸50μlを混合物に加えて(坦体の残存アミノアルキルをアセチル化し)、その後ガラスフィルター(孔径4)で濾過し、DMF200mlで洗って過剰の高分子を除去した。
ゲルを評価したところ、アミノアルキルのアセチル化が不十分であることが分かったので、無水酢酸の添加量を10mlに増加した。
実施例4:アリル化ゲルへのPNIPAAm−PAA−co−BMA高分子のグラフト
モノマー及びAIBNを表2に従って計量し、15mlのバイアルに入れたジオキサンに溶解した。水抜きしたアリルSepharose(商標)HPをバイアルに加え、ゴムセプタムで容器を密封した。バイアルにAr(g)を5分間吹き込んだ。次いでバイアルを70℃に設定した振盪式ヒートブロックに入れ、一晩反応させた。
モノマー及びAIBNを表2に従って計量し、15mlのバイアルに入れたジオキサンに溶解した。水抜きしたアリルSepharose(商標)HPをバイアルに加え、ゴムセプタムで容器を密封した。バイアルにAr(g)を5分間吹き込んだ。次いでバイアルを70℃に設定した振盪式ヒートブロックに入れ、一晩反応させた。
ゲルをガラスフィルターで濾過し、溶出した溶液を丸底フラスコに回収した。ジオキサンでゲルの洗浄を行い、その後エタノール及び水で洗浄した。
高分子溶液をジエチルエーテル中に沈殿させ、真空乾燥機で乾燥した。次いで乾燥高分子をTHFに溶解し、再度沈殿させた。乾燥したふわふわした粉末が得られる迄この操作を続けた。
実施例5:分析
アミノ基の滴定
変性アガロースの正確なアミン濃度は未知であり、滴定で求める必要があった。用いた方法(NR08)は以下の通りである:
・ 15〜20mlのゲルを水、100mlの0.5MHCl、最後に200mlの1mMHClで洗浄する。
アミノ基の滴定
変性アガロースの正確なアミン濃度は未知であり、滴定で求める必要があった。用いた方法(NR08)は以下の通りである:
・ 15〜20mlのゲルを水、100mlの0.5MHCl、最後に200mlの1mMHClで洗浄する。
・ テフロン(商標)キューブ(5ml)の底部に濾紙を置き、これにゲルと1mMHClのスラリーを満たす。
・ 乾燥ゲルの表面が見えてから引き続き約30秒間、キューブを水流吸引に接続する。
・ キューブを取外し、水を加えてゲルを滴定カップに移す。
・ 2〜3滴の濃硝酸を加えて滴定を開始する。
アリル基の滴定
以下の方法(NR08)を用いた:
・ ゲルを水−エタノール−水−HAc−水で洗った。
以下の方法(NR08)を用いた:
・ ゲルを水−エタノール−水−HAc−水で洗った。
・ 1mlのゲルを上記テフロン(商標)キューブ(ID600)で計量し、蒸留水を加えてビンに移し、希釈して総量10mlにした。
・ 色が変わらなくなるまで、かき混ぜながらBr2(水溶液)を加えた。
・ 溶液が無色になるまで、フラスコを吸引した。
・ 水を用いてフラスコの内容物を滴定カップに移し、30mlに希釈し、1〜2滴の濃硝酸を加えて、AgNO3による滴定を開始した。
カルボキシル基の滴定
1mlのゲルをテフロン(商標)キューブで計量した。15mlの1MKClを用いてゲルを滴定ビーカーに移した。滴定を開始する前に、pHを3未満に下げた。0.1MNaOHを用いてpH11.5まで滴定を行った。
1mlのゲルをテフロン(商標)キューブで計量した。15mlの1MKClを用いてゲルを滴定ビーカーに移した。滴定を開始する前に、pHを3未満に下げた。0.1MNaOHを用いてpH11.5まで滴定を行った。
NMR(HR−MAS)によるゲルの分析
高分子被覆ゲルは、HR−MAS(マジック角度回転)を用いて分析した。この方法を用いると、ゲルマトリックスからの妨害が最小の状態で、結合した高分子の分析を行うことが可能である。
高分子被覆ゲルは、HR−MAS(マジック角度回転)を用いて分析した。この方法を用いると、ゲルマトリックスからの妨害が最小の状態で、結合した高分子の分析を行うことが可能である。
50μlのゲルをテフロン(商標)キューブで計量し、1mlの水と、その後500μlのDMSOで2回洗浄した。10μlのTMBをプローブの底部に置いた後、ゲルを加えた。TMBは内部標準としての役割を果たし、定量計算のためのピーク積分値の比較が可能になる。
NMRによる純高分子及びモノマーの分析
モノマー又は純高分子(ゲルに結合していない高分子)の1H−NMRを試験する場合は、10mgの試料を0.70mlの重水素化溶媒に溶解した。
モノマー又は純高分子(ゲルに結合していない高分子)の1H−NMRを試験する場合は、10mgの試料を0.70mlの重水素化溶媒に溶解した。
UV−VIS
UV分光光度計を用いて、下限臨界溶解温度(LCST)を分析した。緩衝液に溶解した高分子の1%溶液を調製した。使用した緩衝液は、pHが4〜7の0.1Mリン酸カリウムであった(同じ緩衝液をHICで使用する)。この溶液を1cmの試料セルに入れた。水を対照として用いた。500nmの光透過率を用いて曇点を観察した。測定した温度幅は20〜75℃であり、加熱速度は0.5℃/分とした。LCSTは、吸光度−温度曲線における変曲点の温度と定義した。
UV分光光度計を用いて、下限臨界溶解温度(LCST)を分析した。緩衝液に溶解した高分子の1%溶液を調製した。使用した緩衝液は、pHが4〜7の0.1Mリン酸カリウムであった(同じ緩衝液をHICで使用する)。この溶液を1cmの試料セルに入れた。水を対照として用いた。500nmの光透過率を用いて曇点を観察した。測定した温度幅は20〜75℃であり、加熱速度は0.5℃/分とした。LCSTは、吸光度−温度曲線における変曲点の温度と定義した。
GPC
高分子をTHFに溶解(高分子0.5mg/THFml)し、この溶液を濾過した後バイアルに入れた。また、3種の異なる分子量を有するPSを各々含有する2つの異なる標準を調製し、濾過してバイアルに入れた。次いでこれらのバイアルを自動回転式バイアルホルダーに置いた。試料はこの装置によってホルダーから取出され分析装置に注入された。
高分子をTHFに溶解(高分子0.5mg/THFml)し、この溶液を濾過した後バイアルに入れた。また、3種の異なる分子量を有するPSを各々含有する2つの異なる標準を調製し、濾過してバイアルに入れた。次いでこれらのバイアルを自動回転式バイアルホルダーに置いた。試料はこの装置によってホルダーから取出され分析装置に注入された。
実施例6:クロマトグラフィー評価
カラムの充填
高分子が結合したSepharose(商標)HP(Amersham Biosciences(スウェーデン、ウプサラ))とエタノールのスラリー(20%b.v.)を、パスツールピペットを用いてカラムに注意深く充填し、カラムの頂部にわずかに2〜3cmの空間を残した。2〜3滴のエタノールを加え、カラムを密封し、HIC装置に取り付けた。
カラムの充填
高分子が結合したSepharose(商標)HP(Amersham Biosciences(スウェーデン、ウプサラ))とエタノールのスラリー(20%b.v.)を、パスツールピペットを用いてカラムに注意深く充填し、カラムの頂部にわずかに2〜3cmの空間を残した。2〜3滴のエタノールを加え、カラムを密封し、HIC装置に取り付けた。
分離材料
タンパク質混合物は、4種のタンパク質:ミオグロビン1.0mg/ml、リボヌクレアーゼA2.0mg/ml、α−ラクトアルブミン0.8mg/ml及びα−キモトリプシノーゲンA0.8mg/mlからなるものとした。このタンパク質を、2.0M硫酸アンモニウム/0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7)に溶解した。タンパク質溶液試料はフリーザーに保存した。また、タンパク質は、ミオグロビン1.0mg/ml、リボヌクレアーゼA2.0mg/ml、α−ラクトアルブミン0.8mg/ml及びα−キモトリプシノーゲンA0.8mg/mlで別々にクロマトグラフィーにかけた。このタンパク質を、2.0M硫酸アンモニウム/0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7)に溶解した。タンパク質溶液試料はフリーザーに保存した。
タンパク質混合物は、4種のタンパク質:ミオグロビン1.0mg/ml、リボヌクレアーゼA2.0mg/ml、α−ラクトアルブミン0.8mg/ml及びα−キモトリプシノーゲンA0.8mg/mlからなるものとした。このタンパク質を、2.0M硫酸アンモニウム/0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7)に溶解した。タンパク質溶液試料はフリーザーに保存した。また、タンパク質は、ミオグロビン1.0mg/ml、リボヌクレアーゼA2.0mg/ml、α−ラクトアルブミン0.8mg/ml及びα−キモトリプシノーゲンA0.8mg/mlで別々にクロマトグラフィーにかけた。このタンパク質を、2.0M硫酸アンモニウム/0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7)に溶解した。タンパク質溶液試料はフリーザーに保存した。
pH範囲に応じて2つの異なる緩衝液系を用いた(表3参照)。緩衝液Aは、「塩析」効果を有し、タンパク質−HIC媒体相互作用を促進し、緩衝液Bの低イオン強度は溶出を促進する。
緩衝液A100%から緩衝液B100%まで、塩勾配を用いてHIC試験を行った。流速は1ml/分であった。UV検出器は、215、254及び280nmで動作させた。注入量は50μlとした。試験中pHと温度は一定に保持した。
試験タンパク質の性状
試験混合物に用いたタンパク質の幾つかの性質を示す(表4)。なお、pH7から4に変化させると、2種のタンパク質(ミオグロビンとリボヌクレアーゼ)はその等電pHを通過し、正味電荷が負から正に変化するが、他の2種のタンパク質はその正の正味電荷を保持する。出典:Protein Data Bank(www.rcsb.org/pdb/)。
試験混合物に用いたタンパク質の幾つかの性質を示す(表4)。なお、pH7から4に変化させると、2種のタンパク質(ミオグロビンとリボヌクレアーゼ)はその等電pHを通過し、正味電荷が負から正に変化するが、他の2種のタンパク質はその正の正味電荷を保持する。出典:Protein Data Bank(www.rcsb.org/pdb/)。
実施例7:高分子分析の結果
NMR結果
NMR分析による推定値(表5)は、正確な値と見なすべきではない。ピークがはっきり分離していなかったので、この結果はやや信頼性に欠如している。結果は、単一のピークではなくピーク群を比較して推定した。これは好ましいやり方である。ピークの分離が悪かったのは、おそらく高分子が自由に回転できる良溶媒を見出すことが困難であったことによると思われる。
NMR結果
NMR分析による推定値(表5)は、正確な値と見なすべきではない。ピークがはっきり分離していなかったので、この結果はやや信頼性に欠如している。結果は、単一のピークではなくピーク群を比較して推定した。これは好ましいやり方である。ピークの分離が悪かったのは、おそらく高分子が自由に回転できる良溶媒を見出すことが困難であったことによると思われる。
UV−VIS結果
理論によれば、LCST値は、疎水性成分を加えると上昇し、コモノマーが親水性の場合は低下すると考えられる。この場合、N−イソプロピルアクリルアミドと比べて、アクリル酸は親水性が高く、ブチルメタクリレート(BMA)は親水性が低い。
理論によれば、LCST値は、疎水性成分を加えると上昇し、コモノマーが親水性の場合は低下すると考えられる。この場合、N−イソプロピルアクリルアミドと比べて、アクリル酸は親水性が高く、ブチルメタクリレート(BMA)は親水性が低い。
この試験では、LCSTは、吸光度−温度曲線における変曲点の温度で表されると定義した。
低いpHでは、LCST値は32℃未満であるが、これはBMAを加えていない高分子でも同じである。実際はこの高分子がこれらすべての中で最も低いLCST値を有する。これらの高分子の水溶性はそれほど良くない。1%溶液を作るのも難しい。
一方、高分子の曇点はpHの影響を非常に受けやすい。pH4〜5では、LCST値は25〜30℃であるが、pHが5を超えると、LCSTは約70℃で観察される。pH7では、観察した温度範囲(20〜75℃)でLCSTは見られない。AAのカルボキシル基はpH6〜7で帯電しており、親水性したがってLCSTは上昇する。
室温でpH7から4へ変化させることは、検討したすべてのPNIPAAm−co−PAA−co−PBMA組成について、高分子構造にコンフォメーションの変化をもたらすと判断することができる。pHが5を超えると高分子の親水性は著しく上昇し、pH7では高分子溶液の曇りは観察されない。
GPC結果
NIPAAM、AA及びBMAの三元共重合体のGPCからのクロマトグラムは、幅広いピーク、時には複数のピークを示す。これは、試料中にホモポリマーとコポリマーがあることを意味する可能性がある。
NIPAAM、AA及びBMAの三元共重合体のGPCからのクロマトグラムは、幅広いピーク、時には複数のピークを示す。これは、試料中にホモポリマーとコポリマーがあることを意味する可能性がある。
反応条件はモノマーの供給比以外同じであるが、連鎖移動剤なしに合成された高分子の多分散性は高く、分子量は系間で著しく異なる(表6)。
実施例8:HIC評価
フェニルSepharose(商標)HP媒体を用いた対照HIC
フェニルSepharose(商標)HP(Phe−HP)媒体を用いて対照試験を行った。カラムの調製及び用いたクロマトグラフィー方法はすべてのカラムについて同一とした。
フェニルSepharose(商標)HP媒体を用いた対照HIC
フェニルSepharose(商標)HP(Phe−HP)媒体を用いて対照試験を行った。カラムの調製及び用いたクロマトグラフィー方法はすべてのカラムについて同一とした。
図3a及びbは、我々の標準タンパク質混合物及び個々のタンパク質の両方について、Phe−HP媒体をpH7及び4で用いて得られた結果を示す。明らかに分かるように、pH7とpH4で試験したタンパク質混合物のクロマトグラムにはほとんど差がない。かかるpH応答性の欠如は、実際には標準HIC媒体では好ましい性状であると見なされる。しかし、どちらの場合も、2つの大きなピーク以上の分解が見られない。個々のタンパク質の試験からも分かるように、pH7では、第1のピークはミオグロビンとリボヌクレアーゼAからなり、第2のピークは−キモトリプシノーゲンA(二頂ピーク)と−ラクトアルブミン(非常にブロードな低い「ピーク」)からなる。
pHを4に変化させても、2つの大きなタンパク質混合物のピークが依然として残っている。個々の試験から、これらはやはり各々リボヌクレアーゼA、−キモトリプシノーゲンAの影響を受けていることが分かった。ミオグロビン及び−ラクトアルブミンは溶出されていないように見える。或いは非常にブロードな低い「ピーク」として溶出されている可能性もある。
PNIPPAm−co−PAA−co−PBMAを用いた対照HIC
NIPAAm、AA及びBMAの供給比が異なる4種のゲルをカラムに充填し、pH4〜7でタンパク質混合物のHIC試験を行った(表7)。
NIPAAm、AA及びBMAの供給比が異なる4種のゲルをカラムに充填し、pH4〜7でタンパク質混合物のHIC試験を行った(表7)。
市販のフェニル−HP媒体(図5)と比べて、4種のゲルすべてが有望なHIC媒体挙動を示している(図3a及びb)。pH4では、U878032:3は、溶出時間22分に大きなピークを有する。このピークはカラムU878029及びU878032:1にも見られる(小さいが)。一方、U878032:2のクロマトグラムにはこのピークが完全に欠如している。組成(表7)が似ている2種の媒体(032:3及び029)で最良の結果が得られた。
わずかに異なる組成で同じく良好な結果が得られることは、この結果の再現性を示唆するものである。これはまた、かかる媒体の連続生産でわずかな変化があってもよい媒体が得られることを示唆するものである。しかし、結果はAAとBMAの比が適切であるかどうかで決まることに留意すべきであり、これについてはさらに検討することが望ましい。
タンパク質混合物をさらに評価するためにカラムU878032:3を選択し(図6)、個別のタンパク質を用いて位置を確かめた。個別タンパク質のクロマトグラムを以下(図7及び8)に示す。相対溶出塩濃度(硫酸アンモニウム)で表した平均ピーク位置を表8に示す。
U878032:3をpH4〜7で用いたHIC試験からのすべてのクロマトグラムで、α−キモトリプシノーゲンAは、小さいピークとこれに続く大きなピークの二重ピーク挙動を示す。上述したようにこれは極めて典型的である。すべてのタンパク質は、pHを低下させると低塩濃度で溶出する(表8及び図6)。これは、pH応答性高分子媒体によって、低塩条件下におけるHICの可能性があることを示唆する。
pH7では、タンパク質は、予想される順序、即ちミオグロビン、リボヌクレアーゼA、α−ラクトアルブミン及び最後にα−キモトリプシノーゲンAの順序で溶出する。ミオグロビンとリボヌクレアーゼAの分解は十分ではないが、タンパク質の分離能は多くの市販媒体と同等である。
pHを6に変化させると、溶出時間はやや長くなるが、溶出の相対的順序はpH7のときと同じである。ミオグロビンとリボヌクレアーゼAのピーク間の分離は大きいと思われるが、α−ラクトアルブミン(pI5)のピークはpH7ほどシャープではない。
溶出の順序はpH5で変化した。pH7及び6で最初に溶出するミオグロビン(pI6.3)は正味電荷が約+8に変化し、最後に溶出するタンパク質となった。α−キモトリプシノーゲンAとα−ラクトアルブミンは、ミオグロビンの直前にほとんど同じ塩濃度で溶出する。したがって、リボヌクレアーゼ、α−ラクトアルブミン及びα−キモトリプシノーゲンAの相対位置は、標準的なHIC挙動(即ち相対的疎水性)を保持したままである。
pH4では、ミオグロビンとα−ラクトアルブミン(酸性pIを有する2つのタンパク質)は、同じ濃度(緩衝液B100%)で溶出し、タンパク質混合物では単一のピークが得られる。こうして、溶出の順序は、リボヌクレアーゼA、α−キモトリプシノーゲンA(塩基性pIを有する2つのタンパク質)、次にα−ラクトアルブミン及びミオグロビンである(図7)。
Claims (22)
- 1種以上の目標化合物を液体から単離する方法であって、
(a)液体を、第1のpHで、表面局在化pH応答性高分子を呈する分離媒体と接触させて、疎水性相互作用によって1種以上の目標化合物を吸着させる段階と、
(b)pH応答性高分子のコンフォメーション変化をもたらす第2のpH値の溶出液を加えて、分離媒体から1種以上の目標化合物を放出させる段階と
を含む方法。 - 第2のpH値が第1のpH値よりも低い、請求項1記載の方法。
- 溶出液がpH低下勾配を含む、請求項2記載の方法。
- 溶出液の導電率が段階(a)の液体の導電率と異なるが、第2のpH値を第1のpH値と実質的に等しく保つ、請求項1記載の方法。
- 溶出液が塩勾配を含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
- 段階(a)において分離媒体が非荷電である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
- 段階(a)において、1種以上の目標化合物を、電荷−電荷相互作用、ファンデルワールス相互作用及び共溶媒和/共水和に基づく相互作用からなる群から選択されるpH応答性高分子と目標化合物の追加の相互作用によっても吸着させる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
- 段階(b)において分離媒体が非荷電である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
- 段階(b)におけるpH応答性高分子の疎水性が段階(a)よりも低い、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
- 高分子の自己会合及び/又は高分子と媒体との会合によって高分子のコンフォメーション変化をもたらす、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
- pH応答性高分子が共重合体である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
- 各pH応答性高分子が疎水性部分と親水性部分とpH応答性部分を含む、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
- pH応答性高分子が、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、−SO2NH2基、−CNH2基、−C2NH基及び−C3N基からなる群から選択されるpH感受性ペンダント基を含む、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
- 目標化合物がタンパク質又はペプチドのような生体分子である、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
- 当該方法がクロマトグラフィー法である、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
- 当該方法が分析法である、請求項1乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
- マトリックスがバイオセンサー又はバイオチップである、請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
- 当該方法が濾過法である、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
- 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)媒体であって、HICリガンドを呈する表面局在化pH応答性高分子が結合したマトリックスからなる媒体。
- 前記高分子のpH応答性基が、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、−SO2NH2基、−CNH2基、−C2NH基及び−C3N基からなる群から選択される、請求項19記載の媒体。
- 目標化合物を単離するためのキットであって、別々のコンパートメントに、HICリガンドを呈する表面局在化pH応答性高分子が結合したマトリックスからなる媒体を充填したクロマトグラフィーカラムと、第1のpHを有する吸着緩衝液と、第1のpHよりも低い第2のpHを有する溶出液と、その使用説明書とを含むキット。
- 前記高分子のpH応答性基が、−COOH基、−OPO(OH)2基、−SO3 −基、−SO2NH2基、−CNH2基、−C2NH基及び−C3N基からなる群から選択される、請求項21記載のキット。
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