以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態1における光ピックアップであり、「使用波長405nm(青色)、NA0.85、光照射側基板厚0.1mmの青色光記録媒体」と「使用波長660nm(赤色)、NA0.65で、光照射側基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体」と「使用波長785nm(赤外)、NA0.50で、光照射側基板厚1.2mmのCD系光記録媒体」をともに記録または再生,消去できる光ピックアップの概略構成を示す図である。
図1に示す光ピックアップの要部は、波長405nmの半導体レーザ101、コリメートレンズ102、偏光ビームスプリッタ103、トリクロイックプリズム104、偏向プリズム105、1/4波長板106、波長選択性互換素子107、対物レンズ108、検出レンズ110、光束分割手段111、受光素子112から構成される波長405nmの光ビームが通過する青色無限光学系と、ホログラムユニット201、コリメートレンズ203、ダイクロイックプリズム205、トリクロイックプリズム104、偏向プリズム105、1/4波長板106、波長選択性互換素子107、対物レンズ108から構成される波長660nmの光ビームが通過するDVD無限光学系と、ホログラムユニット211、コリメートレンズ212、ダイクロイックプリズム205、トリクロイックプリズム104、偏向プリズム105、1/4波長板106、波長選択性互換素子107、対物レンズ108から構成される波長785nmの光ビームが通過するCD無限光学系から構成されている。
すなわち、ダイクロイックプリズム205、トリクロイックプリズム104、偏向プリズム105、1/4波長板106、波長選択性互換素子107、対物レンズ108は3つあるいは2つの光学系の共通部品である。
ここで、対物レンズ108は、「使用波長405nm、NA0.85で、光照射側基板厚0.1mmの青色光記録媒体」に対し、無限系で波面収差が最小になるように設計されている。これは、一般に対物レンズは高NA、短波長になるほど公差が厳しくなるので、青色NA0.85での望ましい特性を出す方が難しくなるためである。
また、対物レンズ108および波長選択性互換素子107はアクチュエータ部108bに保持され、フォーカス方向あるいはトラック方向に可動でき、サーボ制御により最適位置とされる。
次に、青色,DVD系,CD系光記録媒体109a,109b,109cはそれぞれ基板厚さあるいは使用波長が異なる光記録媒体で、青色光記録媒体109aは基板厚さが0.1mmの光記録媒体、DVD系光記録媒体109bは基板厚さが0.6mmの光記録媒体、CD系光記録媒体109cは基板厚さ1.2mmの光記録媒体である。記録、あるいは再生時にはいずれかの光記録媒体のみが図示しない回転機構にセットされて高速回転される。
まず、使用波長405nm、NA0.85で、光照射側基板厚0.1mmの青色光記録媒体109aに記録または再生,消去する場合について説明する。波長405nmの半導体レーザ101から出射した直線偏光の発散光は、コリメートレンズ102で略平行光とされ、偏光ビームスプリッタ103、トリクロイックプリズム104を透過し、偏向プリズム105で光路を90度偏向され、1/4波長板106を通過し円偏光とされ、波長選択性互換素子107を不感帯透過し、対物レンズ108に入射し、青色光記録媒体109a上に微小スポットとして集光される。このスポットにより、情報の再生または記録、消去が行われる。青色光記録媒体109aから反射した光ビームは、往路とは反対回りの円偏光となり、再び略平行光とされ、1/4波長板106を通過して往路と直交した直線偏光になり、偏光ビームスプリッタ103で反射され、検出レンズ110で収束光とされ、光束分割手段111により複数の光路に偏向分割され受光素子112に至る。受光素子112からは、情報信号,サーボ信号が検出される。
次に、使用波長660nm、NA0.65で、光照射側基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体に記録または再生,消去する場合について説明する。近年、DVDの光ピックアップには受発光素子を1つのキャンの中に設置し、ホログラムを用いて光束の分離を行うホログラムユニットが一般的に用いられるようになってきた。図1において、201は、半導体レーザ201a、ホログラム201bおよび受光素子201cを一体化して構成されたホログラムユニットを示す。このホログラムユニット201の半導体レーザ201aから出射された660nmの光ビームは、ホログラム201bを透過し、コリメートレンズ203で所定の有限光ビームとされ、赤色波長帯域の光ビームは透過し、赤外波長帯域の光ビームは反射させるダイクロイックプリズム205を透過し、青色波長帯域の光は透過し、赤色および赤外波長帯域の光ビームは反射させるトリクロイックプリズム104によって偏向プリズム105の方向に反射され、偏向プリズム105によって光路が90度偏向され、1/4波長板106を通過し略円偏光とされ、波長選択性互換素子107のDVD開口制限領域でNA0.65に制限されるとともに、波長選択性互換素子107のNA0.65以内を透過する光ビームはDVD系収差補正領域において、光記録媒体上で良好なスポットが形成されるように1次回折される。
1次回折した光ビームは対物レンズ108に入射し、DVD系光記録媒体109b上に微小スポットとして集光される。このスポットにより、情報の再生または記録、消去が行われる。DVD系光記録媒体109bから反射した光ビームは、偏向プリズム105、トリクロイックプリズム104で反射され、コリメートレンズ203で収束光とされ、ホログラム201bにより半導体レーザ201aと同一キャン内にある受光素子201c方向に回折されて受光素子201cに受光される。受光素子201cからは、情報信号、サーボ信号が検出される。
次に、使用波長785nm、NA0.50で、光照射側基板厚1.2mmのCD系光記録媒体に記録または再生,消去する場合について説明する。CDについてもDVDと同様にホログラムユニットが一般的に用いられるようになってきた。図1において、211は、半導体レーザ211a、ホログラム211bおよび受光素子211cを一体化して構成されたホログラムユニットを示す。このホログラムユニット211の半導体レーザ211aから出射された785nmの光ビームは、ホログラム211bを透過し、コリメートレンズ212で平行光とされ、赤色波長帯域の光ビームは透過し、赤外波長帯域の光ビームは反射させるダイクロイックプリズム205で反射し、青色波長帯域の光ビームは透過し、赤色および赤外波長帯域の光ビームは反射させるトリクロイックプリズム104によって偏向プリズム105の方向に反射され、偏向プリズム105によって光路が90度偏向され、1/4波長板106を通過し略円偏光とされ、波長選択性互換素子107のCD開口制限領域でNA0.50に制限されるとともに、波長選択性互換素子107のNA0.50以内を透過する光ビームはCD収差補正領域において、光記録媒体上で良好なスポットが形成されるように所定の位相シフト(光路差の付加、収差の付加と同意)がされる。
位相シフトされた光ビームは、対物レンズ108に入射し、CD系光記録媒体109c上に微小スポットとして集光される。このスポットにより、情報の再生または記録、消去が行われる。CD系光記録媒体109cから反射した光ビームは、偏向プリズム105、トリクロイックプリズム104、ダイクロイックプリズム205で反射され、コリメートレンズ212で収束光とされ、ホログラム211bにより半導体レーザ211aと同一キャン内にある受光素子211c方向に回折されて受光素子211cに受光される。受光素子211cからは、情報信号,サーボ信号が検出される。
以下、青色,DVD,CDの3波長互換のために、本実施の形態1で採用している波長選択性互換素子について説明する。
まず、青色対物レンズで、DVD,CDに集光した際に発生する球面収差と、その発生収差を有限系で補償した光学系の問題点について触れておく。
使用波長がλ=405nm、基板厚が0.1mmの青色光記録媒体に対して良好な収差特性(図2(a)参照)となるよう設計されたNA=0.85青色対物レンズを、使用波長λ=660nmで厚さが0.6mmのDVD系光記録媒体にNA=0.65で無限系入射により用いたときに発生する波面収差を図2(b)に示す。図2(b)は横軸に入射瞳半径をとり、縦軸に波面収差を表す。この図2(b)は位相差分布の2次元的な断面形状を表しているが、実際には縦軸(NA=0)に関して回転対称な3次元的な分布となっている。このようなDVD無限系の発生の収差を補正するために、DVD系光路を有限系で構成した場合を考えてみる。DVD系光路において物体距離と波面収差の関係を図3(a)に示す。物体距離37mmのあたりで、波面収差が最小となる。
同様に、使用波長はλ=785nmで厚さが1.2mmのCD系光記録媒体にNA=0.50で無限系入射により用いたときに発生する波面収差を図2(c)に示す。CD系についても同様に物体距離と波面収差の関係を図3(b)に示す。物体距離26mmのあたりで波面最良となるが、DVD系に比べ物体距離が短い。
また、DVD有限系、CD有限系はともに対物レンズシフトの影響が非常に大きい。DVD有限系での対物レンズシフトと、CD有限系の対物レンズシフトの影響を図4(a),(b)に示す。トラッキング制御精度上、0.3〜0.4mmを想定するべきであるが、ともに劣化度合いが大きく、一般に波面収差の上限値とされるマレシャル限界0.07λrmsを大きく越えている。以上のことから、NA0.85青色光学系においては、DVD系、CD系ともに無限系で構成する必要があり、本実施の形態1においては以下の構成を有する収差補正素子を具備する。
図5は本実施の形態1の波長選択性互換素子の詳細を示す図である。波長選択性互換素子107の図5(a)は青色、図5(b)はDVD、図5(c)はCDに集光している様子を示す。図5(c)に示す青色,赤色の波長に対しては不感帯で、赤外の波長に対してのみ作用するCD収差補正機能として位相シフタが形成された位相シフタ領域107aと、青色,赤色の波長に対しては不感帯で、赤外の波長に対してのみ作用するCD開口制限機能として回折パターンが形成された回折領域107bと、図5(b)に示す青色,赤外の波長に対しては不感帯で、赤色の波長に対してのみ作用するDVD収差補正機能として回折パターンが形成された回折領域107eと、青色,赤外の波長に対しては不感帯で、赤色の波長に対してのみ作用するDVD開口制限機能として回折パターンが形成された回折領域107fからなる。
また、本実施の形態1で用いられている波長選択性互換素子107は特許文献1で用いた偏光選択性の回折素子でなく、波長選択性位相シフタ領域や、波長選択性回折領域、波長選択性コート領域が設けられたものであるため、光学系を偏光光学系で構成することが可能である。一般に偏光選択性回折素子は、複屈折媒質と等方性媒質をガラスで挟み込むような煩雑な構成で構成されるが、波長選択性素子であれば、ガラス,プラスチックなどの基板表面に位相シフタや回折面が設けられた製造が容易な構成で実現できる。その作製法として、フォトリソグラフィ技術を応用する方法と、ダイヤモンドバイトなどで精密切削する方法がある。また形状を金型に雛形形成しておき、射出成形またはいわゆる2P法(Photopolymerization法)で透明材料から複数の回折光学素子を複製することもできるし、ガラスモールド法であってもよい。
ここで、図2(c)に示すようにCD系に発生する球面収差と逆極性の球面収差を発生させる位相シフタ領域107aについて説明する。
図5(c)に示す波長選択性互換素子107の位相シフト領域107aは、波長405nm、波長660nmでは不感帯をもつ波長選択性のパターンとすることにより、波長405nm、波長660nmでは不要な作用はしないとともに、波長785nmで位相補正素子の性能が十分に確保される構成となっている。まず不感帯とするための条件について説明する。基板材料の屈折率をn、階段形状の1ステップの高さをh、点灯光源の波長をλとしたときの、位相シフトパターンで発生する位相差:δ(λ)は、(数3)
で与えられるため、δ(405nm)、δ(660nm)が2πの整数倍となる基板材料と、高さh(ここでは1段の高さ)を選択すればよい。例えば、h:3.82μm、基板材料として前述の2P法で作製した2P樹脂(屈折率@波長:1.53@405nm,1.51@660nm,1.50@785nm)のとき、λ:405nmに対してはδ(405nm):10π(=2π×5),λ:660nmに対してはδ(660nm):6π=(2π×3),λ:785nmに対してはδ(785nm):5π(=2π×2.5)とすればよい。
このような材料を用いて、波長785nmの光に対して、対物レンズ108からの出射光が厚さ1.2mmのCD系光記録媒体109cを透過する際に生じる球面収差と、対物レンズ108および波長選択性互換素子107などから構成される光学系が有する球面収差の和を打ち消すような階段形状を形成すればよい。
すなわち、使用波長の違いに起因して発生する球面収差が、図6(a)の上側部分の如きものであったとする。このような波面収差に対し、対物レンズに光源側から入射する光束に、図6(a)の下側部分に示すような位相差が与えられるように、位相シフトパターンの階段形状を調整すると、位相シフトパターンを透過する光束の各部での波面の遅れにより前記「波面収差」を打ち消すことができる。図6(b)は、図6(a)における実線(波面収差)と破線(位相シフトパターンによる波面の遅れ)の和、すなわち補正後の波面収差を示す。もとの波面収差(図6(a)の上の部分)よりも格段に小さくなる。
開口数(NA)と光束径に関する条件について、本実施の形態1では、光記録媒体に応じて、開口数(NA)を切り換える必要がある。開口数(NA)は光束の通過径に比例するため、例えば青色で有効径φ=4.3mmを選択すれば、DVDでは約3.3mm、CDでは約2.5mmとなるように制限してやればよい。本実施の形態1では、波長選択性の回折特性を利用して光束径の切り換えを行う波長選択性の開口制限領域を設けている。
また、本実施の形態1では、図5(a)の青色波長帯域,図5(b)の赤色波長帯域,図5(c)の赤外波長帯域における各光束の透過特性を示すように、アクチュエータ部108bに設けられた開口部108cで、青色透過光を制限し、φ(λ=785nm)の開口制限手段としては、光源から出射される光束の波長に応じて光束径を切り換える波長選択性の回折領域107bを、位相シフタ領域107aの周辺部に設けてなる。特に、図5(c)に示す回折領域107bは、青色波長帯域と赤色波長帯域の光に対しては作用せず(0次光透過)、赤外波長帯域の光についてのみ1次回折させる。
また、図7(a),(b)には回折パターンの模式的な平面図と平面図上のA−A’断面図を示す。この回折格子断面における凹凸形状の周期的な位相差が、選択的に透過させたい波長(405nm,660nm)の2π倍とすることで405nm,660nmの光ビームに対しては回折効率が低く、785nmの波長に対しては回折効率を高くできる。図8に矩形状回折格子として、基板材料として2P樹脂(屈折率@波長:1.53@405nm,1.51@660nm,1.50@785nm)のときの格子溝深さと回折効率の関係を示す。図8(a)は青色(405nm)、図8(b)はDVD(660nm)、図8(c)はCD(785nm)の場合に相当する。溝深さ3.82μmのところで、青色とDVDの0次効率(不感帯透過)が最大となり、CDでの±1次回折効率が大きくなっており(約0.4)、ここを選択すればよい。
これにより、光源からの出射光が、CD系光記録媒体109cへ向かう途中、回折領域107bに形成された回折格子により回折されCD系光記録媒体109cへ向かう。図5(c)に示すように、この回折光が、記録再生に用いられるNA0.50以下の光ビームによって集光されるスポットにフレア重畳しないように散乱させる。
また、他の開口制限方法として、CD開口制限機能の回折領域107bの代わりに、波長に応じて、図9(c)に示すコート領域207bのように透過/反射によって光束径を切り換える手段を用いてもよい。すなわち、図10に示すような透過率特性を有するダイクロコートを位相シフタ領域107aの周辺部に蒸着してコート領域207bを形成することで、図9(c)に示すように青色波長帯域,赤色波長帯域の光については不感帯透過し、赤外波長帯域の光に対しては反射させることができる。この赤外波長帯域の反射光は、CD系受光素子に入射しノイズとなることを避けるために傾けて配置されている。
次に、DVD系に発生する球面収差と逆極性の球面収差を発生させる回折領域107eについて説明する。使用波長がλ=405nm、基板厚が0.1mmの青色光記録媒体に対して良好な収差特性となるよう設計されたNA=0.85対物レンズを、使用波長はλ=660nmで基板厚さが0.6mmのDVD系光記録媒体にNA=0.65で無限系入射により用いたときに発生する波面収差は図2(b)において説明したとおりである。
DVD系の収差補正機能としては、青色波長帯域,赤外波長帯域の光ビームについては不感帯透過し、赤色波長帯域の光ビームについては、球面収差を補正するような回折パターンが形成されていればよい。このような回折領域として特許文献3に記載されているような回折領域が知られている。図5(a),(b),(c)を用いて説明する。回折領域107eは、例えばその断面が実質的に4レベルの階段形状である。そして、回折領域107eは、青色波長帯域,赤外波長帯域の光ビームが入射した場合は実質上0次の回折光を出射、すなわち不感帯透過し、赤色波長帯域の光ビームが入射した場合には1次回折光を出射する。
よって、青色波長帯域,赤外波長帯域については単なる透過素子として機能し、赤色波長帯域の光に対しては回折素子として機能する。回折度合いは、波長660nmの光に対して対物レンズ108が有する球面収差と、対物レンズ108からの波長660nm出射光がDVD系光記録媒体109bの透明基板を透過する際に生じる球面収差との和を補正するように設計されている。このような設計により、波長660nmの光をDVD系光記録媒体109bに良好に集光させることができる。
そして、球面収差を補正する回折パターンとして、断面を矩形状でなく、4レベルの階段形状としている。このとき、各段の高さh、屈折率n、入射光の波長をλとすると、0次回折光透過率η0、+1次回折効率η+1、−1次回折効率η−1は(数4)〜(数7)
また、図11に4レベルの階段形状の回折格子として、基板材料として2P樹脂(屈折率@波長:1.53@405nm,1.51@660nm,1.50@785nm)のときの格子溝深さと回折効率の関係を示す。図11(a)は青色、図11(b)はDVD、図11(c)はCDの場合に相当する。溝深さ(これは4段での高さに相当する)6.15μmのところで、青色とCDの0次効率(不感帯透過)が最大となり、DVDでの+1次回折効率が大きくなって(約0.7)おり、ここを選択すればよい。
前述のとおり、本実施の形態1では、φ(λ=405nm)はアクチュエータ部108bに設けられた開口部108cで青色光束を制限し、φ(λ=785nm)の開口制限手段としては、開口制限機能の回折領域107bあるいは回折領域207bが設けられてなる。そして、φ(λ=660nm)の開口制限手段としては、光源から出射される光束の波長に応じて、図5(b)に示すように波長によって光束径を切り換える波長選択性の回折特性を用いた開口制限機能の回折領域107fを、収差補正機能の回折領域107eの周辺部に設けてなる。
そして回折溝としては、例えば前述のDVD収差補正機能の回折領域と同様の4レベルの階段形状を用いればよい(図12に断面形状を示す)。回折領域107fは、青色波長帯域と赤外波長帯域の光ビームに対しては作用せず(0次光透過)、赤色波長帯域の光ビームについてのみ1次回折させる。この回折光が、DVD系光記録媒体109bの記録再生に用いられるNA0.65以下の光ビームによって集光されるスポットにフレア重畳しないように散乱させる。さらにDVD系光記録媒体109bで反射し、波長選択性互換素子107に戻ってきたときに、再度回折パターンによって回折される。この往復後の光ビームが受光素子に到達してしまうと、ノイズ光となってしまう。そこで回折格子を形成するパターンは受光素子上にスポット集光しないようにパターン設計することが望まれる。例えば、光軸中心に対して非対称な回折パターン形状とすればよい。
また、他の開口制限方法として、DVD開口制限機能の回折領域107fの代わりに、波長に応じて、図9(b)に示すコート領域207fのように透過/反射によって光束径を切り換える手段を用いてもよい(光路は図示せず)。すなわち、図13に示すような透過率特性を有するダイクロコートを回折領域107eの周辺部に蒸着してコート領域207fを形成することで、図9(b)に示すように青色波長帯域,赤外波長帯域の光ビームについては不感帯透過し、赤色波長帯域の光ビームに対しては反射させることができる。この赤色波長帯域の反射光は、DVD系受光素子に入射しノイズとなることを避けるために傾けて配置すればよい。
ここで、対物レンズ108および波長選択性互換素子107の位相シフタ領域107a,回折領域107eの形状に関して具体的な数値事例を示す。図5に示したように非球面の対物レンズ108の光源側に波長選択性互換素子107が配置され、その光源側の面上にCD収差補正機能の領域として位相シフタ領域107a、光記録媒体側にDVD収差補正機能の領域として回折領域107eを形成している。レンズ面の非球面形状は、光軸方向の座標:X、光軸直交方向の座標:Y、近軸曲率半径:R、円錐定数:K、高次の係数:A,B,C,D,E,F,…を用いて、周知の非球面式は(数8)
また、回折光学素子の位相関数Φ(r)は、回折次数:m、波長:λ、光軸からの半径:r、係数C1〜C5を用いて、(数9)
本実施の形態1における対物レンズは、使用波長:405nm,NA:0.85,f:2.53mmであり、図14に、具体的データを示す。図中の記号は、以下のとおりである。「OBJ」は物点(光源としての半導体レーザ)を意味するが、対物レンズ108は波長405nmについては「無限系」であり、曲率半径:RDYおよび厚さ:THIの「INFINITY(無限大)」は光源が無限遠にあることを意味する。なお、特に断らない限り、長さの次元をもつ量の単位は「mm」である。「S1」は波長選択性互換素子の光源側面、「S2」は光記録媒体側面を意味する。「S3」は対物レンズ108の光源側面、「S4」は光記録媒体側面を意味する。本実施の形態1における対物レンズの肉厚は3.5mm であり、S4の欄の曲率半径の右側に記載された厚さ0.60mmは「ワーキングディスタンス:WD」を示す。「S5」は光記録媒体の光照射側基板の光源側面、「S6」は同記録面に合致した面であり、これらの面S5,S6の間隔、すなわち、基板厚は青色光記録媒体については0.1mm、DVD系光記録媒体については0.6mm、CD系光記録媒体については1.2mmである。「EPD:入射瞳径」であり、青色については4.3mm、DVDについては、3.2mm、CDについては2.6mmである。「WL:波長」は使用波長を表す。
図15にCD収差補正機能の位相シフタの断面形状を示す。図2(c)に示す球面収差と逆極性の光路差を与えるような設計になっており、図15からわかるとおり4段の位相シフタとなる。
得られた対物レンズ108と波長選択性互換素子107を組み合わせた系の光軸上波面収差は、青色については0.0002λrms,DVD系については0.01λrms,1次回折光を用いたCD系については0.01λrmsであり、マレシャル限界0.07λ以下に抑えられている。CDの補正後の残留収差を図16(a)に、DVDのそれを図16(b)に示す。素子挿入前に比べ格段に収差の抑制が図れていることがわかる。
また、図17(a),(b),(c)には、青色,DVD,CDの前記数値事例に対応したレンズ外形形状を示す。
図18は本発明の実施の形態2の波長選択性互換素子の詳細を示す図である。波長選択性互換素子307の図18(a)は青色、図18(b)はDVD、図18(c)はCDに集光している様子を示す。図18(c)に示す青色,赤色の波長に対しては不感帯で、赤外の波長に対してのみ作用するCD収差補正機能として位相シフタを形成した位相シフタ領域307aと、青色,赤色の波長に対しては不感帯で、赤外の波長に対してのみ作用するCD開口制限機能として回折パターンを形成した回折領域307bと、図18(b)に示す青色,赤外の波長に対しては不感帯で、赤色の波長に対してのみ作用するDVD収差補正機能として位相シフタを形成した位相シフタ領域307eと、青色,赤外の波長に対しては不感帯で、赤色の波長に対してのみ作用するDVD開口制限機能として回折パターンを形成した回折領域307fからなる。
本実施の形態2においては以上の如く、実施の形態1との違いは、DVD収差補正機能の領域についても位相シフタを採用した点であり、その他の構成は図5と同様であり、光ピックアップの構成としても図1と同様である。
図18(b)に示す波長選択性互換素子307の位相シフト領域307eは、波長405nm、波長785nmでは不感帯をもつ波長選択性のパターンとすることにより、波長405nm、波長785nmでは不要な作用はしないとともに、波長660nmで位相補正素子の性能が十分に確保される構成となっている。
まず、不感帯とするための条件について説明する。基板材料の屈折率をn、階段形状の1ステップの高さをh、点灯光源の波長をλとしたときの、位相シフトパターンで発生する位相差:δ(λ)は、(数10)
で与えられるため、δ(405nm)、δ(785nm)が2πの整数倍となる基板材料と、高さhを選択すればよい。例えば、h:1.52μm、基板材料として2P樹脂(屈折率@波長:1.53@405nm,1.51@660nm,1.50@785nm)のとき、λ:405nmに対してはδ(405nm):4π(=2π×2)、λ:785nmに対してはδ(660nm):2π=(2.3π)、λ:785nmに対してはδ(785nm):2π(=2π×1)とすればよい。
このような材料を用いて、波長660nmの光に対して、対物レンズ108からの出射光が厚さ0.6mmのDVD系光記録媒体109bを透過する際に生じる球面収差と、対物レンズ108および波長選択性互換素子107などから構成される光学系が有する球面収差の和を打ち消すような階段形状を形成すればよい。
すなわち、使用波長の違いに起因して発生する球面収差が、図6(a)の上側部分の如きものであったとする。このような波面収差に対し、対物レンズに光源側から入射する光束に、図6(a)の下側部分に示すような位相差が与えられるように、位相シフトパターンの階段形状を調整すると、位相シフトパターンを透過する光束の各部での波面の遅れにより前記「波面収差」を打ち消すことができる。図6(b)は、図6(a)における実線(波面収差)と破線(位相シフトパターンによる波面の遅れ)の和、すなわち補正後の波面収差を示す。もとの波面収差(図6(a)の上の部分)よりも格段に小さくなる。
対物レンズ108および波長選択性互換素子307の位相シフタ領域307a、位相シフタ領域307eの形状に関して具体的な数値事例を示す。図18に示したように非球面の対物レンズ108の光源側に波長選択性互換素子307が配置され、その光源側の面上にCD収差補正機能の領域として位相シフタ領域307a、光記録媒体側にDVD収差補正機能の領域として位相シフタ領域307eを形成している。
本実施の形態2における対物レンズは、使用波長:405nm,NA:0.85,f:2.53mmであり、図19に、具体的データを示す。図中の記号は、以下のとおりである。「OBJ」は物点(光源としての半導体レーザ)を意味するが、対物レンズ108は波長405nmについては「無限系」であり、曲率半径:RDYおよび厚さ:THIの「INFINITY(無限大)」は光源が無限遠にあることを意味する。なお、「S1」は波長選択性互換素子の光源側面、「S2」は光記録媒体側面を意味する。「S3」は対物レンズ108の光源側面、「S4」は光記録媒体側面を意味する。本実施の形態2における対物レンズの肉厚は3.5mmであり、S4の欄の曲率半径の右側に記載された厚さ0.60mmは「ワーキングディスタンス:WD」を示す。「S5」は光記録媒体の光照射側基板の光源側面、「S6」は同記録面に合致した面であり、これらの面S5,S6の間隔、すなわち基板厚は青色光記録媒体については0.1mm、DVD系光記録媒体については0.6mm、CD系光記録媒体については1.2mmである。「EPD:入射瞳径」であり、青色については4.3mm、DVDについては3.2mm、CDについては2.6mmである。「WL:波長」は使用波長を表す。
図20にDVD収差補正機能の位相シフタの断面形状を示す。図2(b)に示す球面収差と逆極性の光路差を与えるような設計になっており、図20からわかるとおり16段の位相シフタとなる。また、CD系については実施の形態1の図15と同じである。
なお、図21にはCD系の位相シフタ領域307aとDVD系の位相シフタ領域307eを合わせて描いた図を示す。結果的には光束の光路差が意味をもつため、図22に示すように、片方の面を平面化して位相段差を片側に集中させてもよい。
得られた対物レンズ108と波長選択性互換素子307を組み合わせた系の光軸上波面収差は、青色については0.0002λrms,DVD系については0.05λrms,1次回折光を用いたCD系については0.01λrmsであり、マレシャル限界0.07λ以下に抑えられている。CDの補正後の残留収差を図16(a)に、DVDのそれを図16(b)に示す。素子挿入前に比べ格段に収差の抑制が図れていることがわかる。
図23(a),(b),(c)には、青色,DVD,CDの前記数値事例に対応したレンズ外形形状を示す。
図24は本発明の実施の形態3における光情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。前述した各実施の形態における光記録媒体に対して、情報信号の記録および/または再生を行う装置であり、前述した光ピックアップに相当する光ピックアップ51を備えて構成されている。そして光記録媒体109を回転駆動するスピンドルモータ58と、情報信号の記録,再生を行うにあたって使用する光ピックアップ51を光記録媒体109の内外周に移動操作するための送りモータ52と、所定の変調および復調処理を行う変復調回路54と、光ピックアップ51のサーボ制御などを行うサーボ制御回路53と、光情報処理装置の全体の制御を行うシステムコントローラ56とを備えている。
図24に示すスピンドルモータ58は、サーボ制御回路53により駆動制御され、所定の回転数で回転駆動される。すなわち、記録,再生の対象となる光記録媒体109は、スピンドルモータ58の駆動軸上にチャッキングされ、サーボ制御回路53により駆動制御される。このスピンドルモータ58によって、光記録媒体109は所定の回転数で回転駆動される。
光ピックアップ51は、光記録媒体109に対する情報信号の記録および再生を行うとき、前述したように、回転駆動される光記録媒体109に対してレーザ光を照射し、その戻り光束を検出する。この光ピックアップ51は、変復調回路54に接続されている。そして、情報信号の記録を行う際には、外部回路55から入力され変復調回路54によって所定の変調処理が施された信号が光ピックアップ51に供給される。光ピックアップ51は、変復調回路54から供給される信号に基づいて、光記録媒体109に対して、光強度変調が施されたレーザ光を照射する。また、情報信号の再生を行う際には、光ピックアップ51は、回転駆動される光記録媒体109に対して、一定出力のレーザ光を照射し、その戻り光から再生信号が生成され、この再生信号が変復調回路54に供給される。
また、この光ピックアップ51は、サーボ制御回路53にも接続されている。そして、情報信号の記録,再生時に、回転駆動される光記録媒体109によって反射されて戻ってきた戻り光束から、前述したように、フォーカスサーボ信号およびトラッキングサーボ信号が生成され、それらのサーボ信号がサーボ制御回路53に供給される。
変復調回路54は、システムコントローラ56および外部回路55に接続されている。この変復調回路54は、情報信号を光記録媒体109に記録するときには、システムコントローラ56による制御のもとで、光記録媒体109に記録する信号を外部回路55から受け取り、この信号に対して所定の変調処理を施す。変復調回路54によって変調された信号は、光ピックアップ51に供給される。
また、この変復調回路54は、情報信号を光記録媒体109から再生するときには、システムコントローラ56による制御のもとで、光記録媒体109から再生された再生信号を光ピックアップ51から受け取り、この再生信号に対して所定の復調処理を施す。そして、変復調回路54によって復調された信号は、変復調回路54から外部回路55へ出力される。
送りモータ52は、情報信号の記録および再生を行うとき、光ピックアップ51を光記録媒体109の径方向で所定の位置に移動させるためのものであり、サーボ制御回路53からの制御信号に基づいて駆動される。すなわち、この送りモータ52は、サーボ制御回路53に接続されており、サーボ制御回路53により制御される。
サーボ制御回路53は、システムコントローラ56による制御のもとで、光ピックアップ51が光記録媒体109に対向する所定の位置に移動されるように、送りモータ52を制御する。また、サーボ制御回路53は、スピンドルモータ58にも接続しており、システムコントローラ56による制御のもとで、スピンドルモータ58の動作を制御する。すなわち、サーボ制御回路53は、光記録媒体109に対する情報信号の記録および再生時に、この光記録媒体109が所定の回転数で回転駆動されるように、スピンドルモータ58を制御する。
本実施の形態3の光情報処理装置によれば、各光記録媒体に対して互換性のある良好なスポットが形成でき、情報の記録,再生,消去のいずれか1以上を行うことできる。