本発明は、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚溶液、汚泥等、形態を問わない各種水媒体の処理方法に関し、特に難生分解性の水媒体を効率よく処理することができる方法ならびに当該方法に使用する装置に関する。
排水又は廃液は、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚液、汚泥混合液等の各種形態(本明細書においてはこれらを総称して「水媒体」という)で、民間工業施設、公共施設、第三セクター施設等から排出されている。これらの排水又は廃液は、公共水域に放流する前に水処理を行って無害化する必要がある。排水又は廃液に対して最も一般的に行われている水処理方法は、生物処理であり、処理コストが比較的低いため、広く且つ昔から普及している。生物処理には大きく分けて好気性処理と嫌気性処理がある。前者は、主に水媒体の化学的酸素要求量(COD)が数10〜数千mg/L以下の場合に用いられ、後者は主に水媒体のCOD1000mg/L以上の場合に用いられている。また、し尿処理や下水処理などでは、脱窒素処理が好気性処理又は嫌気性処理単独では完結できないため、両者の特徴を生かして、好気性生物処理と嫌気性生物処理とを組み合わせて用いる場合もある。いずれにしても、生物処理は、処理対象とする水媒体が主に生分解性物質で構成されている場合に多く使われている。食品工場、飲料工場、ビール工場の各種排水又は廃液、焼酎粕、残飯、家畜糞尿、下水、し尿、バイオマス廃棄物のように自然起源の物質が多い場合には、生物処理の適用が可能な場合が多い。
しかしながら、化学物質またはペトロケミカル由来の化学的に合成された物質が水媒体中に含まれる場合や、下水処理場の有機性汚泥又はメタン発酵汚泥のように硬い細胞壁を持つ菌体が含まれている場合などのように、生分解性が低い物質を多く含む水媒体に対しては、生物処理を適用することが困難なことがある。また、リグニン、フミンなどのように、自然起源の物質であっても分子内にベンゼン環官能基を有する高分子である場合などは、生分解性が非常に低いことがある。すなわち、生物処理において用いられる微生物が消化できない物質が多く含まれている水媒体については、基本的に生物処理が困難である。また、生分解性物質が含まれる水媒体であっても、処理プロセスとして実用的な時間内では完結できない場合がある。更に、生分解性物質が多く含まれていても、水媒体中に微生物に対して毒性を示す物質又は生物阻害を起こす物質が少量でも含まれていると、生物処理がうまく働かないことがある。例えば、アンモニア、ベンゼン、フェノール類は数多くの微生物活動に阻害を起こすことが知られている。また、酢酸は本来生分解性が非常に高い物質であるが、ピクルスが保存食となることから理解できるように、水媒体中に酢酸が高濃度で含まれていると微生物が繁殖できなくなり、水媒体自体は難生分解性になることがある。同様に、サッカロースなども生分解性が高い物質であるが、廃糖蜜のように糖分が高濃度に含まれていると、微生物細胞と水媒体の溶質濃度差に起因する浸透圧が発生して微生物が生殖できなくなるめ、難生分解性の水媒体となる。塩類濃度が高い漬物汁なども同じである。これらの濃厚な廃液は、希釈すると難生分解性ではなくなって生物処理が可能になることがある。但しこの場合には、処理しなくてはいけない水媒体の量が多くなるため、大量の水媒体を処理するためのコスト、設置スペース等の問題のために生物処理を用いた水処理プロセスとして成立させることが困難になる場合がある。
更に、染色排水のように水媒体中に色素成分が含まれていると生物処理が極めて困難になることがある。顔料、染料などの色素成分は全般的に微生物に対して難生分解性であるため、色素成分を含む水媒体を生物処理にかけた場合、COD、BODが十分に除去できても、色度がほとんど取れないことがある。
更に、難生分解性物質、易生分解性物質の含有割合のみを基準とした生物処理の可否に対する判断だけでなく、生物処理を行うと根本的に危険な水媒体もある。特に、医薬品製造工場や病院などからの抗生物質が含まれている排水・廃液がそれに該当する。生物処理では好気性菌又は嫌気性菌を培養して水媒体を浄化させる。これらの好気性菌・嫌気性菌の世代交代は数時間〜数日と非常に短いため、抗生物質が水媒体の処理場に流入し続けると、抗生物質に対する抗体を持った菌が容易に発生し、増殖する可能性がある。人間に害を及ぼし、抗生物質が効かないMRSA(メチシリン・レジスタント・スタヒロコッカス・アウレウス;院内感染ブドウ球菌)も、同じ原理により抗生物質が乱用された院内で発生したと考えられている。従って、上記のような排水を生物処理によって処理すると、水媒体の処理場が抗体を持った菌の培養地になり、周辺環境にこれらの菌を放出する危険性がある。
上記のような難生分解性物質を含む水媒体を処理する場合の新たな物理化学的処理法として、電極反応による電気化学的な水処理法が注目を集めている。電気化学的な水処理には、通電すると処理を開始し、通電を止めると処理が停止するという運転のし易さ、薬品が必要ないこと、コンパクトな装置で処理できること、電子のみが試薬の代わりを務めること、常温常圧で処理ができることなどのいわゆるグリーンケミカル的なイメージが定着しつつある。
例えば、水媒体に塩素イオンが含まれていると、DSE(Dimensionally Stable Electrode)などの貴金属電極で次亜塩素酸を発生させることが可能であり、この次亜塩素酸によって水媒体に含まれているアンモニア、色素成分を分解できる場合がある。水媒体中のアンモニアは、次亜塩素酸とのブレークポイント反応により窒素ガスまで無機化することができる。しかしながら、これらの貴金属のDSE電極では、アンモニア、色素成分以外のCOD成分を分解する効果はほとんどない。そこで、酸素発生過電圧が高い二酸化鉛などの電極を用いた電気化学的水処理も提案されている。これらの電極では、直接電極表面でCOD分解が起り、無機化させる効果があるようである。しかしながら、これらの電極を用いた電気化学的処理によるCOD分解の効率は必ずしも高くなく、また電極が重金属で構成されているため、電極構成重金属が電気分解処理水へ溶出することが懸念される。
このような問題を解決するために、近年、導電性ダイヤモンドを用いた電気化学的水処理法が注目されている。ダイヤモンドに導電性を持たせ、電極として用いて電気化学的反応を起こさせた場合にCODを除去する効果があることは、約10年前に報告されている。しかしながら、この報告でCOD分解の現象は確認されたものの、当時はまだメカニズムが明確でなく、また実用的な電極を製造することはできなかった。しかしながら、近年のCVD法を用いた成膜技術の発展により、導電性ダイヤモンド電極の製造技術は目覚しく進歩してきた。そして、近年、導電性ダイヤモンド電極を用いて水媒体の電気化学的処理を行うと、CODの分解に関して二酸化鉛電極を用いた場合よりも効率が高いことが報告された(非特許文献1参照)。天然のダイヤモンドは絶縁体であるが、ダイヤモンドはシリコンと同じ第IV族の元素であるため、第III族の元素であるホウ素等をドーピングするとp型の半導体となり、一方第V族の元素である窒素等をドーピングするとn型の半導体となる。ドーピング剤の量を多くすると、ダイヤモンドは10mΩcm等の金属並みの低い電気抵抗を示す導体になる。この導電性ダイヤモンドを電気化学反応の電極として用いると、他の電極材料では見られない広い熱力学の窓(水素発生過電圧と酸素発生過電圧の電位窓)を示す。すなわち、導電性ダイヤモンド電極は、電気分解に使用すると酸素と水素が発生しにくい電極である。このため、導電性ダイヤモンド電極を陽極として用いると、酸素が発生する代わりにOHラジカルの発生が進行し、このOHラジカルがCODを分解すると考えられる(図1参照)。OHラジカルは非常に高い酸化能力を有するため、ほとんどの有機物等のCOD成分を炭酸ガスと水まで分解することが可能である。一方、導電性ダイヤモンド電極は二酸化鉛と異なり、水媒体中に溶出しても成分は炭素のみであるため重金属の溶出の問題がない上、この導電性ダイヤモンド電極で発生するOHラジカルは非常に高い殺菌効果を有することが知られている。
上述の通り、導電性ダイヤモンド電極を用いた電気化学的処理は、難生分解性物質の分解が可能であるものの、かかる物質の処理プロセスとして実用化するためには、下記特許文献1にも記載されているように、幾つかの課題がある。
導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解による難生分解性物質の処理においては、完全に溶解しているCOD成分の濃度が高い間、特に溶解性CODが数千mg/L以上の場合には、ほぼ100%の電流効率でCOD成分が炭酸ガス、水、窒素などへ無機化される。ところが、導電性ダイヤモンド電極を運転する際の電流密度にもよるが、一般的な電流密度の範囲以内では排水中のCODが500〜2000mg/L以下になると電流効率が著しく低下し始める。この現象は、以下の理由によるものと考えられている:COD成分が無機化されるには、導電性ダイヤモンド電極の表面で発生しているOHラジカルまで排水中のCOD成分が到達する必要がある。OHラジカルは導電性ダイヤモンド電極の表面で連続的に発生しているが、寿命が短く、電極表面から溶液中に放出されて酸化分解反応を起こすには至らない。従って、排水中のCOD濃度が低くなると、COD成分が電極に近づく確率が減少し、すなわち電極表面への物質移動が律速となるため、COD分解の効率が大きく低下してしまう。
このような場合、機械的に水を攪拌する等、物理的な流動を起こしてCOD成分の電極近傍への移動を促進する方法もあるが、物質移動律速を解消するには限界があり、COD分解の電流効率を維持するのは極めて困難となる。COD分解の電流効率が下がると、処理に必要な電力は大幅に増大するため、処理コストが高くなるという問題が出てくる。また、生成したラジカルが無駄に消費され、ラジカル同士が反応して酸素ガスが発生する。
一方、陰極では水の還元反応が起り、水素ガスの発生が進行する。陰極では導電性ダイヤモンド電極を用いても、他のDSE電極、又は白金、チタン、ステンレス電極を用いても、水素ガスの発生が通常進行する。酸素ガスと水素ガスが同一電解槽内で同時に発生すると、爆発性の酸素ガスと水素ガスの混合気生成が懸念され、プロセスの安全性から問題が生ずる。ソーダ工業において用いられる電解槽では、陽極室と陰極室を分離させることにより発生ガスが混合しないように、分離膜を用いるのが一般的である。このような分離膜には、比較的耐久性の高いフッ素系のイオン交換膜が使われることが多い。しかしながら、このようなフッ素系のイオン交換膜は比較的高価であり、更に導電性ダイヤモンド電極で発生するOHラジカルに対して耐食性の問題がある。運転中に電解槽内で隔膜が導電性ダイヤモンド電極に触れたりすると、隔膜が著しく劣化する可能性が高い。さらに、ソーダ工業のように水質管理が徹底された純飽和食塩水のみが電解槽に導入される場合には問題ないが、難生分解性の水媒体、すなわち、汚れた排水や廃液を処理する場合には、隔膜の劣化が起りやすい。難生分解性の水媒体では、様々な物質が水媒体中に含まれているため、これらの物質の付着などにより分離膜の閉塞やイオン交換機能の低下などが起り易い。隔膜は一般的に「きれいな水媒体」の処理に適しているが、本発明が意図するような難生分解性の水媒体の処理に使用することは困難である。
上記で説明した物質移動律速が起こる状態で導電性ダイヤモンド電極を用いた電解槽の運転を継続すると、導電性ダイヤモンド電極自体の耐久性に関わる更に深刻な問題も発生しうる。水媒体中のCOD濃度が高く、COD成分の電極表面への物質移動律速が起っていない間は、電極表面で発生したOHラジカルはCOD成分の分解によって消費される。そして、COD成分の電極表面への物質移動律速が起こってCOD成分が導電性ダイヤモンド電極に届かなくなると、電極表面で発生したOHラジカルは最終的に酸素ガスになる。しかし、OHラジカルが酸素ガスに変換される前に、まだ活性があるOHラジカルは導電性ダイヤモンド電極自体と反応する可能性がある。導電性ダイヤモンド電極で発生するOHラジカルはほとんどの有機物を酸化分解できるので、安定性が高いダイヤモンドの炭素(sp3)とまったく反応しないとは断言できない。
導電性ダイヤモンド電極の導電性ダイヤモンド薄膜は、メタン等の安価な有機物を炭素源として用い、CVD法によって製造される。そのため、将来的にはより安価な導電性ダイヤモンド電極の製造が期待できる。しかし、現状ではまだそれほど安価ではなく、さらに高温で行うCVD成膜工程のランニングコストが高い。したがって、導電性ダイヤモンド電極を数日または数ヶ月毎に劣化したら取り替えればよいということにはならない。短期間で導電性ダイヤモンド電極を取り替えなくてはならないとすると、メンテナンス時間、メンテナンス労務等のコストが発生し、難生分解性水媒体の処理プロセスとして成り立たせることは難しくなる。
水媒体に溶解しているCOD成分の濃度が低い場合には上記のような問題があるが、汚泥のようなスラリー、すなわち水媒体に溶解していない浮遊物が存在する場合にも、電流効率が低下するという問題が起こる。これは、固体又は懸濁している物質の電極表面への接触の悪さが原因である。
また、上述したような物質移動律速の問題が起らない高濃度の溶解性COD成分を含む水媒体に対して、導電性ダイヤモンド電極を使用した電解処理によって完全無害化処理を行う場合にも下記に記述するような問題がある。
導電性ダイヤモンド電極の表面での電気化学反応は、酸化還元電位表の下記の電気化学反応式を参考にすることができる。
酸素の分子量は16であるので、水媒体の化学的酸素要求量すなわちCOD 1gを分解するのに必要な電気量はファラデーの法則から
すなわち、電流効率が100%であっても1gのCODを分解するのには3.4Ahの理論電気量が必要である。導電性ダイヤモンド電極は、広い熱力学の窓をもち、酸素ガス発生過電圧が高いことが知られている。酸素ガスを発生する前にOHラジカルを発生するのであれば、電気分解しているときのダイヤモンド電極電位は少なくとも式(1)の2.8V以上になっている必要がある。実際に電解反応を行う場合の導電性ダイヤモンド電極のセル電圧は、この電極過電圧以外に、溶液抵抗や、電極で生成するガスによる電解液の電気抵抗の増加などにより、少なくとも4〜5V以上が必要である。運転する電流密度、電解液温度、水媒体の電気伝導度などにもよるが、セル電圧(単一電解槽の電極間電圧)の一般的な運転値を挙げるとすると、大体7V位である。
従って、CODを1g分解するのに必要な電力は、3.4Ahx7V=23.8VAh≒24Wh/g−COD又は24kWh/kg−CODとなる。
導電性ダイヤモンド電極を用いた電解処理によって、濃厚な水媒体、例えばCOD成分が5%(50kg/m
3)含まれている水媒体1m
3を処理するのに必要な電力は50x24kWh=1,200kWhとなり、決して安い処理コストとは言えない計算になる。すなわち、COD濃度が低いと物質移動律速が起こって無駄な電力を消費する問題があり、一方COD濃度が高いとCOD分解の電流効率は良いがCODの絶対量に比例して電解コストがかかるため、処理する水媒体の容積当りの電力費が高くなるという欠点がある。さらに、電解電力により水温が大幅に上昇するという問題点もある。水温の適度な上昇は、電気伝導度が上昇し、溶液抵抗が減少するため、所定の電流を流すのに必要な印加電圧は低くなり、結果として消費エネルギーが減少するので望ましいが、過度の水温上昇は耐熱性の装置材料を必要としたり、冷却装置を設ける必要性が生じるなど好ましくない。
Gherardini et al.: Electrochemical Oxidation of 4-chlorophenol for wastewater treatment, J. Electrochemical Society, 148(6), D78-D82, 2001
特願2004−253946号
上述のように、導電性ダイヤモンド電極を用いた電解処理によって難生分解性水媒体を完全に最後まで処理する方法には問題点が多い。そこで、導電性ダイヤモンド電極による電解処理効率を低下させることなく、かつエネルギー効率の良い、難生分解性水媒体の処理方法を開発することが強く望まれている。
発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、難生分解性物質を含有する水媒体を電解処理する際に、かかる難生分解性物質が段階を経て二酸化炭素と水にまで分解されることに着目した。このように途中で生成する、いわば「中間体」は、揮発性物質である場合が多く、かかる揮発性物質が生分解性のものである場合は、このような物質に対してそれ以上電解処理を行う必要はなく、コストの低い生物処理等相当の方法により処理すればよい。すなわち、電解処理の途中で生成しうる生分解性の成分を水媒体から分離することにより、生分解性物質は生物処理等を行い、依然存在している難生分解性物質は電解処理により分解することで、結果的にエネルギー消費量を低減することができることを見いだした。
上記課題を解決するため本発明の水媒体の処理方法のうち、第1の態様は、水媒体を電気分解する工程と、前記工程により生成した電気分解処理水中に含まれる揮発性物質と水の一部を該電気分解処理水から分離する工程と、前記分離した揮発性物質及び水を凝縮させる工程とを含むことを特徴とする。
第2の態様の水媒体の処理方法は、揮発性物質及び水を分離した後の濃縮水を、前記電気分解処理工程に返送することを特徴とする。
第3の態様の水媒体の処理方法は、電気分解処理工程で導電性ダイヤモンド電極を使用することを特徴とする。
第4の態様の水媒体の処理方法は、前記凝縮工程で得られた凝縮水を生物処理、イオン交換処理、またはこれらの組合せによる処理を行うことを特徴とする。
第5の態様の水媒体の処理方法は、前記電気分解処理と分離処理を同時に行うことを特徴とする。
第6の態様の水媒体の処理装置は、処理対象の水媒体を導入して電気分解処理を行うための、導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解装置と、電気分解装置で処理された電気分解処理水を導入して該電気分解処理水から揮発性物質及び水を分離するための分離器と、前記分離器で分離された揮発性物質及び水を凝縮させるための凝縮装置を含むことを特徴とする。
第7の態様の水媒体の処理装置は、前記分離器で揮発性物質及び水を分離した後の濃縮水を、前記電気分解装置に返送する管をさらに含むことを特徴とする。
第8の態様の水媒体の処理装置は、電気分解装置で処理された電気分解処理水のpHを測定するための、pH検出計をさらに含むことを特徴とする。
第9の態様の水媒体の処理装置は、処理対象の水媒体を導入して電気分解処理を行い、同時に、水と、電気分解処理水中に生成する揮発性物質とを該電気分解処理水から分離するための、電気分解装置及び分離器を兼ね備える装置であることを特徴とする。
第10の態様の水媒体の処理装置は、前記分離器が自己蒸気圧縮型の減圧蒸発濃縮装置であることを特徴とする。
第11の態様の水媒体の処理装置は、前記分離器と濃縮水を電気分解装置に返送する管の途中に、脱塩装置を含むことを特徴とする。
本発明は、水媒体を電気分解処理する工程と、前記工程により生成した電気分解処理水中に含まれる揮発性物質と水の一部を、該電気分解処理水から分離する工程と、を含む、水媒体の処理方法に係る。
本発明の態様を以下に詳細に説明する。
本明細書において「水媒体」とは、水を主成分とする液体全般を指し、例えば、排水又は廃液、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚液、汚泥混合液等の各種形態のものを云う。
水媒体に難生分解性物質が含まれている場合、これを以下に説明する電気分解処理をすると、難生分解性物質が段階を経て順に分解され、最終的には二酸化炭素と水になる。この分解の途上で形成される物質が後記する「揮発性物質」である。一般的に且つ本明細書内において、難生分解性物質とは生物的に分解困難な物質を指す。前記したように、生分解性物質または自然起源の物質が含まれていても、必ずしも生物処理単独では水媒体の実用的な処理ができない場合がある。本明細書内で「難生分解性の水媒体」とは、難生分解性物質、毒性物質、生物処理に対して阻害性の物質が含まれている水媒体に限らず、前記したような生物処理が水処理プロセスとして適用困難な水媒体一般を指す。すなわち、従来の生物処理等の水処理法で処理困難な水媒体の意味である。具体的には、ペトロケミカルを原料とする化学的に合成された物質が含まれる場合や、有機性汚泥、メタン発酵汚泥のように硬い細胞壁を持つ菌体が含まれている場合などのように、生分解性が低い物質を多く含む場合には、難生分解性の水媒体となる。更に、水媒体中に、微生物に対して毒性を示す物質や生物阻害を起こす物質、例えばアンモニア、ベンゼン、フェノール類が含まれている水媒体も難生分解性の水媒体である。また、酢酸や糖分が高濃度で含まれている水媒体も、微生物が繁殖できないため、難生分解性の水媒体と言うことができる。更に、色素成分が含まれている水媒体なども難生分解性の水媒体であり、更には、抗生物質が含まれている水媒体のように生物処理を行うことが問題となるものも本発明でいう「難生分解性の水媒体」に含まれる。難生分解性の水媒体の形態としては水溶液、固形物が含まれるスラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁質、濃厚液、汚泥でもよい。
また、各種膜処理、各種蒸留処理、凝集沈殿処理、濾過処理などで濃縮された難生分解性の水媒体であってもよい。本発明においては、処理対象の水媒体は、2000mg/L以上のCOD濃度にした方が効率がよいが、この濃度に限定されるものでもない。なお、処理対象の水媒体が、懸濁状態ではなく、1mm以上の固形物が含まれている場合には、電気分解処理にかける前に、ストレーナ、篩い等に通すこともできる。処理対象の水媒体がエマルジョンではなく、明らかに相分離された油相、油膜がある場合には、この油相を液位分離などで除去した方がよい。あるいは、機械的な方法又は界面活性剤を加えるなど化学的方法(例えば乳化処理)を施して、処理対象の水媒体を安定したエマルジョン状態にしてから排水を電気分解処理工程に導入しても良い。さらに、処理対象の水媒体が最初から沈殿している固形物あるいは濁度を有する場合には、この沈殿物を予め除去するか又は攪拌するかによって、電気分解処理工程へスムーズな送液ができるようにすることが好ましい。
このような定義下の難生分解性の水媒体としては、下水処理場や水処理場の汚泥混合液;メタン発酵プロセス等の各種汚泥類;石油精製工場や石油製品工場の排水・廃液;化学薬品工場の排水・廃液;医薬品製造工場や病院の排水・廃液;半導体プロセス(フォトレジスト工程、洗浄工程、鍍金工程)の各種工程排水・廃液;写真現像廃液;機械加工工場の各種使用済み切削油(油性、水溶性)廃液;塗料製造工程の洗浄水・排水;コピー機、FAX、プリンター等のトナー、インク、カートリッジ等の製造工程や洗浄工程の排水、廃液;製缶工場、車体工場、板金工場の塗装工程洗浄水・排水;農薬製造工程の排水・廃液;染色排水;染料工場排水;発電所のイオン交換再生廃水(コンデミ排水);有機物やアンモニアが含まれる鍍金工場の鍍金廃液や鍍金洗浄水;などが例として挙げられるが、これらに限定されず、これら以外にも生物処理が困難な水媒体は数多くある。
本明細書内で、COD(化学的酸素要求量)との記載は、重クロム酸カリウムを酸化剤として求めた水媒体の化学的酸素要求量(CODCr)を意味する。物理化学的な酸素要求量としては、CODCr以外に、過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いたCODMn、燃焼による酸素消費量から求めたTOD(Total Oxygen Demand)、及び完全酸化の反応式から求められる理論的酸素要求量ThOD(Theoretical Oxygen Demand)がある。これらの物理化学的酸素要求量は測定方法に違いがあるため、同じ水媒体の酸素要求量を求めても数値に違いがでてくる。本明細書内で用いるCODCrの値は、他の物理化学的酸素要求量と、ThOD≧TOD≧CODCr≧CODMnの関係にある。すなわち、本明細書記載の水媒体の化学的酸素要求量の数値はCODCrであるため、ThOD又はTODで求めるとより高い数値、またCODMnとして求めた場合はより低い数値になる場合が多い。
本発明の第1の工程にて難生分解性の水媒体を電気分解処理する。「電気分解処理」とは、電気化学的処理のひとつであり、具体的には、一対又はそれ以上の電極を水媒体中に設置し、該電極に直流電流を流し、電極表面上において電気化学反応を生ぜしめ、もって水媒体に含有される化学物質等を分解させることを云う。本発明においては、まず、処理対象の水媒体を、導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解処理によって処理することが好ましい。この電気分解処理において使用することのできる導電性ダイヤモンド電極としては、当該技術において公知の任意の構成の導電性ダイヤモンドを使用することができる。例えば、Ni,Ta,Ti,Mo,W,Zr等の導電性金属材料を基板として用い、これらの基板の表面に導電性ダイヤモンドの薄膜を析出させたものや、或いはシリコンウエハ等の半導体材料を基板として用い、これらの基板の表面に導電性ダイヤモンドの薄膜を成膜したもの、更には析出させた導電性多結晶ダイヤモンドを板状に形成した材料などを、本発明において導電性ダイヤモンド電極として用いることができる。なお、導電性ダイヤモンド薄膜は、基板上へダイヤモンド薄膜を成膜する際にホウ素や窒素などのドーパントを所定量ドープして導電性を付与したものであり、ドーパントとしてはホウ素を使用するのが一般的である。なお、本発明において前段の電解処理工程においては、陽極及び陰極の両方に導電性ダイヤモンド電極を用いてもよく、或いは陽極又は陰極のいずれか一方に導電性ダイヤモンド電極を用いてもよい。導電性ダイヤモンド電極でない電極材料としては、白金、チタンなどの通常の金属電極材料や、酸化イリジウム等の酸化金属電極材料を用いることができる。本発明の電気分解処理工程では、陽極及び陰極の両方を導電性ダイヤモンド電極で構成することが特に好ましい。
本発明においては、前段の導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解処理工程で、水媒体中に含まれるCOD成分を完全に分解させないことが好ましい。上述の通り、電気分解処理工程でCODの完全除去を行うと、水媒体のCOD濃度が高い(数万mg/L以上または%オーダー以上)場合には水媒体の容積当り(L、m3当り)の電気分解処理工程の処理コストが高くなり、逆に水媒体のCOD濃度が低い場合には導電性ダイヤモンド電極表面への物質移動律速が起って無駄な電力が導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解処理工程で浪費されることになるからである。
電気分解処理工程では、連続処理、回分処理いずれの場合も、水媒体中に含まれるCOD成分を完全に分解させない状態で、中間体としての揮発性物質が生成している。本明細書において「揮発性物質」とは、前記水媒体の電気分解処理により生じた、概して蒸気圧の比較的高い(例えば100度における蒸気圧が450hPa以上のもの)物質のことを指す。かかる揮発性物質は、水媒体に含有される有機物が部分酸化されて低分子化した結果生じると考えられる。生じうる揮発性物質は、被処理水媒体の種類によっても変わりうるが、揮発性脂肪酸(VFA)類、例えば、ギ酸、酢酸等、あるいはアルコール類、例えばメタノール、エタノール等が挙げられる。
電気分解処理工程で生成した揮発性物質を、電気分解処理を経た液体から分離する。この際、通常は水の一部と共に分離する。電気分解処理中に、あるいは電気分解処理を一時停止させて、揮発性物質と水の一部を液体から分離することができる。
分離の方法は種々考え得るが、一般的には揮発性物質及び水を気化させて分離する方法である蒸留あるいは蒸発が最も簡便である。電気分解処理を施した電気分解処理水を必要に応じて加熱し、揮発性物質を水とともに気化させることができる。蒸留、蒸発により揮発性物質及び水を電気分解処理水から分離するためには、通常電気分解処理水を40℃〜100℃、好ましくは60℃〜90℃、圧力を200〜700hPaにすることが好ましい。本発明の方法によれば、水媒体を電気分解処理する際に、水媒体の温度が上昇するが、その余熱を利用して蒸発あるいは蒸留により分離処理を行うと、エネルギーを有効に利用できるという点で好ましい。また蒸発により揮発性物質(特に酸)を分離しようとする場合は、電気分解処理水が酸性になっている必要があるが、電気分解処理で生成する上述の酸により電気分解処理水のpHが酸性にシフトしているため、外部からさらなる薬剤を添加せずとも効率よく揮発性物質を分離することができる。もちろん、薬剤を添加して電気分解処理水のpHを調整することも可能である。
分離処理の他の方法として、蒸気等を吹き込むストリッピング法を利用することもできる。
上述の分離方法により一部の揮発性物質が電気分解処理水中から分離される。
分離した揮発性物質及び水は、その後凝縮させ、液体の状態で回収することが好ましい。分離した気体状態の揮発性物質及び水の温度を低下させることにより容易に凝縮、液化することができる。
回収した揮発性物質及び水は、好ましくはその後別の水処理を行う。上述したVFAに代表される揮発性物質は、一般に生分解性が高いため、生物処理を行うことができる。生物処理方法として、例えば好気性生物処理(活性汚泥法、酸素活性汚泥法、長時間エアレーション法、オキシデーションディッチ法、回分式活性汚泥法、散水濾床法、回転生物接触法、接触酸化法、等)、嫌気性生物処理(メタン発酵法等)等が挙げられる。また分離及び凝縮して得た揮発性物質を含む水は、必要に応じて、イオン交換処理、あるいは脱塩処理等を行うこともできる。
上述の通り、電気分解処理を施し、揮発性物質及び水の一部を分離した後の残りの液体(本明細書において、「濃縮水」と称する)を、再度電気分解処理工程に戻すことができる。濃縮水を引き続き電気分解処理することで、難分解性物質は揮発性脂肪酸などに再び分解される。このように、電気分解処理の途中で生成する生物分解可能な揮発性物質については生物処理を行い、生物処理が困難な難生分解性物質については引き続き電気分解処理を行うこととすれば、必要以上に電気分解処理を行うことがなくなり、電気分解処理にかけるエネルギーを低減させることができる。
課題を解決するための最良の形態
以下、本発明の方法と、使用する装置の例を、図面を用いて説明する。各図面は、本発明の方法及び装置の例を示すものであり、本発明の思想を限定することを意味するものではない。
図2に、本発明の方法に使用することができる装置の概念図を示す。本図中、201:水媒体、202:電気分解装置、203:電気分解処理水、204:分離器、205:凝縮水回収装置、206:返送用管である。
水媒体201は、前述の通り、水を主成分とする液体全般を指し、例えば、排水又は廃液、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚液、汚泥混合液等の各種形態のものを云う。
水媒体に難生分解性物質が含まれている場合に、本発明の方法を使用すると特に好ましい。難生分解性物質とは生物的に分解困難な物質を指す。生分解性物質または自然起源の物質が含まれていても、必ずしも生物処理単独では水媒体の実用的な処理ができない場合がある。本明細書内で「難生分解性の水媒体」とは、難生分解性物質、毒性物質、生物処理に対して阻害性の物質が含まれている水媒体に限らず、前記したような生物処理が水処理プロセスとして適用困難な水媒体一般を指す。すなわち、従来の生物処理等の水処理法で処理困難な水媒体の意味である。具体的には、ペトロケミカルを原料とする化学的に合成された物質が含まれる場合や、有機性汚泥、メタン発酵汚泥のように硬い細胞壁を持つ菌体が含まれている場合などのように、生分解性が低い物質を多く含む場合には、難生分解性の水媒体となる。更に、水媒体中に、微生物に対して毒性を示す物質や生物阻害を起こす物質、例えばアンモニア、ベンゼン、フェノール類が含まれている水媒体も難生分解性の水媒体である。また、酢酸や糖分が高濃度で含まれている水媒体も、微生物が繁殖できないため、難生分解性の水媒体と言うことができる。更に、色素成分が含まれている水媒体なども難生分解性の水媒体であり、更には、抗生物質が含まれている水媒体のように生物処理を行うことが問題となるものも本発明でいう「難生分解性の水媒体」に含まれる。難生分解性の水媒体の形態としては水溶液、固形物が含まれるスラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁質、濃厚液、汚泥でもよい。
まず水媒体201を電気分解装置202に導入する。電気分解装置202は、主に電解槽と電極からなる装置であり、電解槽は、広く一般に用いられるステンレス、樹脂製のものである。電極は、導電性ダイヤモンド電極であることが特に好ましい。導電性ダイヤモンド電極は、例えば、Ni,Ta,Ti,Mo,W,Zr等の導電性金属材料を基板として用い、これらの基板の表面に導電性ダイヤモンドの薄膜を析出させたものや、或いはシリコンウエハ等の半導体材料を基板として用い、これらの基板の表面に導電性ダイヤモンドの薄膜を成膜したもの、更には析出させた導電性多結晶ダイヤモンドを板状に形成した材料などを用いる。なお、導電性ダイヤモンド薄膜は、基板上へダイヤモンド薄膜を成膜する際にホウ素や窒素などのドーパントを所定量ドープして導電性を付与したものであり、ドーパントとしてはホウ素を使用するのが一般的である。なお、本発明において電解処理工程においては、陽極及び陰極の両方に導電性ダイヤモンド電極を用いてもよく、或いは陽極又は陰極のいずれか一方に導電性ダイヤモンド電極を用いてもよい。導電性ダイヤモンド以外の電極材料としては、白金、チタンなどの金属電極材料や、酸化イリジウム等の酸化金属電極材料を用いることができる。本発明の電気分解処理工程では、陽極及び陰極の両方を導電性ダイヤモンド電極で構成することが特に好ましい。電極の形状は、板状、円板状など、一般的な形状であって良く、また、電極表面で発生するガスが抜けやすいメッシュ状、パンチングプレート状、エキスパンドメタル状などでもよい。粒子状の電極を充填し、粒子間隙を水媒体が透過するいわゆる三次元電解槽も好ましく、三次元電解槽を構成すると大きな電極面積を得ることができ、高効率の電気分解処理が可能となる。電極は、陽極・陰極を単数ずつの一対設置することができ、場合により複数対の電極を並設することができる。
水媒体201に含まれる物質を電気化学的に分解するために、前述の電極に直流電流を通電し、電気化学的に処理する。電気分解装置202中でのセル電圧(電極間電圧)は、水媒体の性状にもよるが、少なくとも4〜5V或いはそれ以上である。
水媒体201を電気分解処理する際に、水媒体201の塩類濃度が低すぎると、電気分解処理で大きなエネルギーが必要となる。したがって塩類濃度が低い場合には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の塩を加え、例えば0.1〜3%濃度に調整することにより、電気分解処理をスムーズに進行させることができる。
本発明の方法では、電気分解処理工程において、水媒体201中のCOD成分を完全に分解しないことに特徴がある。上述の通り、水媒体201中のCOD濃度が高い(例えば数万mg/L以上又は数%オーダー以上)場合に、COD成分を完全に分解するには処理コストが高くなり、他方COD濃度が低い場合には、導電性ダイヤモンド電極表面への物質移動律速となり、無駄な電力が消費される一方、電極表面の損傷が起こりうるからである。COD成分を分解させると、COD成分を完全に分解させる前に中間体としての揮発性物質(揮発性脂肪酸(VFA)類、例えば、ギ酸、酢酸等、あるいはアルコール類、例えばメタノール、エタノール等)が生成してくる。電気分解処理工程において、COD濃度を全く低下させずに上述の揮発性物質のみを生成させることは不可能であるので、電気分解処理工程でのCOD除去率の好ましい最小値は約1%である。すなわち、電気分解処理工程で、水媒体201のCOD濃度を少なくとも1%低下させることが望ましい。
このように、処理コストと物質移動律速のバランスを考慮しつつ運転をおこない、回分処理では電気分解処理を一時停止し、連続処理では、通電量、滞留時間を制御することが好ましい。電気分解の処理状況を把握するために、電気分解装置202中に、あるいは電気分解装置202から電気分解処理水を排出する管の途中にpH計を設置することができる。前記のように水媒体201を電気分解処理することにより、中間生成物である揮発性物質が生成するため、電気分解処理水のpHは一般に低下する。したがって該電気分解処理水のpHをモニターすることにより、揮発性物質の生成量を見積もることが可能である。元々の水媒体201の性状にもよるが、揮発性物質(特に揮発性脂肪酸)濃度の最大時にはpHが最も低いと考えて良い。
電気分解装置202で処理した電気分解処理水203を、次いで分離器204に導入する。分離器204は、上述のように電気分解処理工程で生成した揮発性物質と、電気分解処理水中の一部の水とを、該電気分解処理水から分離するための装置である。分離器204は、該電気分解処理水を加熱し、好ましくは減圧状態にすることができるものであればよく、例えば減圧蒸留装置を用いることができる。例えばエバポレータを使用すれば、蒸発及び以下に説明する凝縮処理を一度に行うことができる。電気分解処理水203は、電気分解処理により温度が上昇しているので、かかる余熱を利用することが可能な蒸発処理により揮発性物質を分離することが特に好ましい。
一般的な蒸発濃縮装置のなかでは、多重効用法と自己蒸気圧縮法が省エネルギー的な蒸発濃縮装置として主に用いられている。装置のコンパクトさ、運転の容易さという点で自己蒸気圧縮法が有利である。その際に用いる蒸発モジュールには有機高分子薄膜材料を用いることができる。例えば、ポリエチレンフイルムを袋状に成形した伝熱モジュールを使うことができる。ポリエチレンは、熱伝導度において鉄材の30分の1程度でしかないが、その厚みを40μmとすることで、ほとんど鉄材と同等の局所熱伝導率を達成する。その上、軽量で安価で、モジュール化することにより、交換容易という利点を持つ。ただ、例えばエチレングリコールといった高沸点有機物を含む排水を蒸発濃縮すると、濃縮液側の有機物濃度が高くなるにつれて沸点が上昇してしまい、ポリエチレン製のモジュールの耐圧性の制限から濃縮倍率を高くすることができないという課題があった。
しかし、本発明による処理方式では、排水中に高沸点の有機物が含まれていてもそれらが電解処理工程で分解されるので、沸点上昇を抑えることが可能になり、その結果高い濃縮倍率を得ることが可能になり、より多量の凝縮水を得ることができる。凝縮水量が多くなるということは、揮発性物質をより多く系外に出すことが可能ということであり、電解処理と組み合わせることでポリエチレン製モジュール式の自己蒸気圧縮型蒸発濃縮装置を効率よく適用できる範囲も広がる。
他方、該電気分解処理水に蒸気、空気、チッ素などを吹き込み、ストリッピング法により該電気分解処理水から揮発性物質を気相に移動させることもできる。この場合の分離器204はストリッピング装置である。
分離器204は単数又は複数用いることができ、例えば2以上の蒸発濃縮装置を直列に組み合わせてもよい。
分離器204で揮発性物質(特に酸)を該電気分解処理水から分離させるためには、該電気分解処理水が酸性になっていることが望ましい。生成する酸の種類により酸解離定数は異なるが、一般的には該電気分解処理水のpHが4以下、さらに好ましくは3.5以下になっていることが好ましい。上述の通り、電気分解処理の一時停止のタイミングあるいは電流値、滞留時間といった最適運転条件を計るために、pH計を用いることができるが、このpH計にてかかるpHを記録したときが、電気分解処理の一時停止のタイミングあるいは最適運転条件であると言い換えることもできる。また、望ましい酸性度が得られない場合には、該電気分解処理水に酸を追加して、pHを低下させることも可能である。
分離器204で分離した水及び揮発性物質を凝縮水回収装置205にて回収し、温度を低下させて凝縮させる。先に説明したエバポレータは、分離器204と凝縮水回収装置205を兼ね備えた装置である。図2では、分離器204と凝縮水回収装置205を分けて表示しているが、このようにこれらの機能を兼ね備えたものを使用することもできる。凝縮水回収装置205は、分離器204で分離した気体状態の揮発性物質及び水を貯蔵し、好ましくは温度を低下させるなどして液体状態の凝縮水として回収するための装置である。
分離器204での濃縮水を、返送用管206にて前記電気分解装置202に返送する。濃縮水には難生分解性物質が残存していると考えられ、かかる物質を必要であれば複数回電気分解処理にかけることにより、揮発性物質に変換し確実に分解することが可能となる。また、分離器204からの濃縮水を電気分解装置202に返送することで電気分解装置202におけるCOD濃度を高く維持したまま電解処理を行うことが可能になり、効率の良い電解処理ができる。
凝縮水回収装置205で回収された、揮発性物質を含む水は、好ましくはその後の水処理手段に導入する。例えば、生物処理等により処理すれば、低いコストにて処理することが可能である。例えば、揮発性脂肪酸は、嫌気性処理であるメタン発酵処理を行うことにより、メタンガスに変換することができる。この方法は、回収された凝縮水のCOD濃度が高い場合に有効な方法であり、発生するメタンガスを他のエネルギー源として利用可能であり、非常に好ましい。回収された凝縮水のCOD濃度があまり高くない場合は、好気性処理を行うこともできる。
図2の装置は、電気分解装置202の前に、水媒体201を一時的に貯蔵しておくタンクを有していても良い。かかる貯蔵タンクを設置すると、この貯蔵タンクにおいて電気分解装置202に導入する水媒体の塩類濃度やpH、COD成分濃度を均一に維持することができるようになり、電気分解処理の運転条件を都度変更する必要がなくなる。かかる貯蔵タンクを有している場合は、返送用管206も貯蔵タンクに接続し、濃縮水を貯蔵タンクに返送することが好ましい。
電気分解装置202から排出される電気分解処理水のpHを測定するpH計、及びモニタリングしたpHに基づき、電気分解装置202における電気分解処理を一時停止させるあるいは電流値、滞留時間等の制御手段をさらに有していても良い。
また、分離器204から排出される濃縮水の電気伝導度、電気分解装置内における電気分解処理水の電気伝導度等を測定するための導電率計、及びこのモニタリングに基いて、塩類を多く含む濃縮水を系外に排出させることを可能とする制御手段を含むこともまた可能である。電気分解装置内における電気分解処理水の電気伝導度が、例えば100mS/cm以下を維持するように、脱塩装置を返送用管206の途中に設けても良い。
次に図3について説明する。図3は、本発明の方法を実施するための装置の別の例を表す概念図である。本図中、301:水媒体、302:電気分解装置、303:電気分解処理水、304:分離器、305:凝縮水回収装置、306:返送用管、307:排出水、308:排出水処理装置である。
図3に表示する装置は、図2の装置に排出水307を排出水処理装置308に送る手段が含まれていることに特徴がある。したがって、水媒体301を電気分解装置302に導入し、電気分解処理水303を分離器304に導入し、電気分解処理水303中の揮発性物質及び水を分離する操作を行うことは、図2で説明したとおりである。
分離器304で揮発性物質及び水を分離した後に残る液体(すなわち濃縮水)には、電気分解処理にて分解されずに残る有機物、無機物あるいは塩類が濃縮されることがある。塩類濃度が高い濃縮水は、電気伝導度が高く、電気分解処理における印可電圧が低下し、消費電力が低下する。よって、図2で説明しように、濃縮水を電気分解装置302に返送して、かかる濃縮水を複数回電気分解処理する場合には、エネルギー消費を低減できる点から有効である。しかし、塩類濃度の高過ぎる濃縮水を電気分解処理すると、電極表面にスケールが発生する虞があり、処理操作に不都合が生じる場合がある。したがって、これら無機物あるいは塩類を定期的に排出させることが必要となる。このような場合に、排出水307として系外に定常的あるいは非定常的に排出してやることができる。排出水307を、例えば排出水処理装置308に送ることができる。排出水処理装置308は、かかる排出水から塩類、無機物、あるいは残存している有機物を分解、分離、除去できる手段であれば如何なるものでも使用でき、例えば、イオン交換装置、脱塩装置、電解処理、促進酸化処理、オゾン処理、凝集沈澱処理等が挙げられる。
塩濃度の高い水媒体301を処理する場合には、濃縮水にも塩類が残存しやすいので、このような場合には電気分解装置302で使用する陽極及び陰極を共に導電性ダイヤモンド電極とし、時々陽極と陰極を入れ替えて(極性転換して)運転することによりスケールの発生をある程度防ぐこともできる。
次に図4について説明する。図4は、電気分解装置と分離器とを兼ね備えた装置の模式図である。本図中、401:水媒体、402:電気分解装置兼分離器、403:電極、405:凝縮水回収装置である。水媒体401を本装置に導入し、先に説明したように電気分解処理を行う。図中では電極403は一対表示されているが、必要に応じて複数対有していてもよい。電気分解処理を行いつつ、槽内を減圧すると、電気分解処理により生成する揮発性物質が水と共に気化し、これを槽外に排出させることができる。この際、電気分解装置402中の水を撹拌することが好ましい。槽外に排出した揮発性物質及び水を、好ましくは凝縮水回収装置405にて回収し、必要に応じて温度を低下させるなどして凝縮水の形で回収する。この回収した凝縮水を上述した生物処理を行い、さらに清澄な水を得ることができる。
次に図5について説明する。図5は、本発明の方法に使用することができる装置の別の例を表す概念図である。本図中、501:水媒体、502:電気分解装置、503:電気分解処理水、504:分離器、505:凝縮水回収装置、507:排出水である。
図5に表示する装置は、本発明の方法を実施するための最も基本的な装置であって、分離器504で分離された濃縮水を、排出水507として系外に排出させることに特徴がある。したがって、水媒体501を電気分解装置502に導入し、電気分解処理水503を分離器504に導入し、電気分解処理水503中の揮発性物質及び水を分離する操作を行うことは、図2あるいは図3にて説明したとおりである。図5の装置は、電気分解装置502での処理を繰り返し行わなくても良い水媒体である場合に、特に有効な装置である。
以下、本発明の方法の実施例を列記するが、本発明の態様は以下の実施例に限定されるものではない。
6インチシリコンウエハ基材にホットフィラメントCVD法により導電性ダイヤモンドを成膜した導電性ダイヤモンド陽極、及びチタン陰極を備えた電気分解装置に、工場Aからの難分解性成分含有排水(CODcr=8,000mg/L)を1L/hにて導入した。この排水を電流密度160mA/cm2、平均セル電圧8Vで電気分解処理した。該電気分解処理水を温度70℃、圧力200hPaで減圧蒸留した。減圧蒸留で生じた濃縮水を電気分解装置に返送し、連続的に導入される難生分解性物質含有排水と共に引き続き電気分解処理を繰り返し、最終的に、導入した排水は全て蒸発させて凝縮水として回収した。処理フローは図2に示した。
回収した凝縮水:1L/h
凝縮水のCOD:2050mg/L
凝縮水のBOD:1810mg/L
消費電力:162W
実施例1と同様の電気分解装置に、難生分解性物質含有排水(CODcr=14,400mg/L)を0.5L/hで導入した。この難生分解性物質含有排水を電流密度160mA/cm2、平均セル電圧9Vで電気分解処理した。該電気分解処理水を温度70℃、圧力200hPaで減圧蒸留した。減圧蒸留装置から濃縮水を電気分解装置に返送し、連続的に導入される難生分解性物質含有排水と共に引き続き電気分解処理を繰り返す一方、濃縮水の一部を定常的に排出水として系外に排出し、前記電気分解装置と同じ形状の処理装置に導入し、電流密度20mA/cm2、セル電圧5.5Vにて電気分解処理を行った。処理フローは図3に示した。
回収した凝縮水:0.45L/h
凝縮水COD:2030mg/L
濃縮水量:0.05L/h
処理後の水のCOD:515mg/L
消費電力:190W
100×160mmのニオブ基材にホットフィラメントCVD法により導電性ダイヤモンドを成膜した導電性ダイヤモンド陽極、チタン陰極を備えた電気分解装置に、難生分解性物質含有排水(CODcr=7,500mg/L)を1L/hにて導入した。この難生分解性物質含有排水を電流密度140mA/cm2、平均セル電圧7.5Vで電気分解処理しつつ、電気分解装置内の圧力を200hPa、温度を70℃として電気分解処理水を蒸発させた。処理フローは図4に示した
回収した凝縮水:1L/h
凝縮水COD:1020mg/L
消費電力:171W
6インチシリコンウエハ基材にホットフィラメントCVD法により導電性ダイヤモンドを成膜した導電性ダイヤモンド陽極、及びチタン陰極を備えた電気分解装置に、難分解性成分含有排水(CODcr=5,300mg/L)を1L/hにて導入した。この排水を電流密度90mA/cm2、セル電圧8Vで電気分解処理した。該電気分解処理水を温度70℃、圧力200hPaで減圧蒸留した。分離器からの濃縮液を電気分解処理装置に返送せず、そのまま排出した。処理フローは図5に示した。
回収した凝縮水:0.95L/h
凝縮水のCOD:1900mg/L
消費電力:85W
導電性ダイヤモンド電極を使用して水媒体を電気分解処理したときに、電極表面付近で起こりうる電気化学的反応を表す模式図である。
本発明の方法を実施するための装置を表す概念図である。
本発明の方法を実施するための別の装置を表す概念図である。
水媒体の電気分解処理及び揮発性物質分離処理を同時に行うための装置を表す図である。
本発明の方法を実施するための別の装置を表す概念図である。
符号の説明
201:水媒体、202:電気分解装置、203:電気分解処理水、204:分離器、205:凝縮水回収装置、206:返送用管
301:水媒体、302:電気分解装置、303:電気分解処理水、304:分離器、305:凝縮水回収装置、306:返送用管、307:排出水、308:排出水処理装置
401:水媒体、402:電気分解装置兼分離器、403:電極、405:凝縮水回収装置
501:水媒体、502:電気分解装置、503:電気分解処理水、504:分離器、505:凝縮水回収装置、507:排出水