JP2006336143A - 製糸ローラ及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】製糸ローラ上に複合セラミックスからなる高硬度な、耐摩耗性に優れた均一厚さの皮膜を形成する。
【解決手段】無水クロム酸水溶液に少なくともSiOからなる微粒子を加えて調整したスラリーを製糸ローラの接糸面に塗布した後、これを500〜600℃に加熱して複合セラミックス(酸化珪素−酸化クロム、又は酸化珪素−酸化アルミニウム−酸化クロム)からなる多孔質皮膜を形成する第1処理に引き続いて、無水クロム酸水溶液を含浸又はスプレーした後に500〜600℃に加熱する第2処理を繰返し行うことによって酸化クロムを析出させ、更に、第3処理として第2処理の途中と最後において製糸ローラの接糸面に対して表面研磨仕上げを施すことを特徴とする製糸ローラとその製造方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は産業用合成繊維を引取ったり、延伸したりするための製糸ローラとその製造方法に関し、特に、高速で走行する糸条を熱延伸するための製糸ローラとその製造方法に関する。
近年、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維などの合成繊維の製造工程、特に、タイヤコード、シートベルト、エアバック等の産業資材用繊維の製造工程において、例えば紡糸した糸条を一旦巻き取ることなく、直接延伸する直接紡糸延伸方法が盛んに行われている。
このような製糸工程においては、一方では製糸速度が2000m/分以上と高速化するとともに、他方では高強力、高タフネスおよび高耐久性などの高品質の糸条を製造するための過酷な延伸熱処理が要求される。このため、過酷でかつ高速な延伸熱処理によって単繊維切れ(以下、“毛羽”という)が発生しやすい状況にある。
このような毛羽の発生は生産工程調子の悪化を招くばかりでなく、産業資材用繊維としての品質面においても問題となる。また、このような毛羽を有する糸条がタイヤコード、シートベルト、エアバック等の最終製品に仕上げるための高次加工工程に供されると、その取扱性にしばしば問題が生じる。
このような毛羽の発生は、製糸ローラの表面仕上げ状態に左右され、このため、従来、ローラの接糸面を極めて平滑に仕上げることができる硬質クロム鍍金法によって、ローラ上に硬質皮膜を形成することが行われていた。しかしながら、産業用合成繊維を直接紡糸延伸するために用いる製糸ローラなどでは、長期間に渡る使用で、ローラ上を走行する糸条によって磨滅したりして、経時的に磨耗が進行する事態を惹起する。しかも、このような製糸工程は、例えば、150〜250℃といった高温度に加熱されている上に、更に糸条を延伸するために高張力で引っ張るといった条件も付加されると、ローラの磨耗がより促進され、耐久性の点で問題があった。
そこで、このような製糸ローラの経時的な磨耗の進行を抑制するために、ローラ上に更に高硬度かつ母材との結合力が強い皮膜を均一な厚さで形成させる技術が必要とされるようになり、ローラ上に各種セラミックの溶射皮膜を形成させることが行われるようになった。しかしながら、溶射皮膜を形成する方法では、形成した皮膜を均一な厚さにするために、どうしても研削加工が必要となる。
ところが、研削加工を製糸ローラに施すと、糸条が接触する皮膜の表面は、微細かつ鋭利な突起が無数に形成されてしまうため、研削加工の後に所定の表面粗さになるようにローラ表面を研磨加工することが要求される。しかしながら、このような研磨加工を行っても、研削加工を一旦行ってしまうと、生じた微細かつ鋭利な突起を完全には除去できず、どうしても走行する糸にダメージを与えてしまい、毛羽の原因となる単繊維切れを起こしてしまうという問題が生じていた。
そこで、研削加工を要しない高硬度を有し、かつ母材と剥離し難い皮膜の形成方法が必要となったのであるが、このような技術として、特開昭59−9171号公報,特開昭61−52374号公報,特開昭63−126682号公報,特開昭63−317680号公報などにおいて、ステンレス鋼製基材に、CrOを化学変化させて微細なCrからなる硬質皮膜を形成する技術が提案されている。
なるほど、このような従来技術によってローラ上に形成された皮膜は研削加工することなく、皮膜形成後の研磨加工だけで表面粗さを所望の値に調整することができ、しかも、高硬度を有する皮膜を形成することができる。しかしながら、それでも長期間に渡って製糸に供すると、製糸ローラ上に形成した複合セラミックス皮膜を更新する必要が生じると共に、走行糸条に許容できない頻度の毛羽が発生することが判明した。
特開昭59−9171号公報 特開昭61−52374号公報 特開昭63−126682号公報 特開昭63−317680号公報
以上に述べた従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、製糸ローラ上に複合セラミックスからなる高高度な皮膜に対して研削加工を施すことなく、耐摩耗性に優れた均一厚さの皮膜を形成して、走行する糸条にダメージを与えることが無いように、そのローラの表面仕上げ状態を設計通りに制御して毛羽の発生を抑制することができ、しかも長期間の使用に耐える製糸ローラとその製造方法を提供することにある。
本発明は、産業用合成繊維を製糸する際に使用する製糸ローラに対して、その耐摩耗性を十分に保ちながら、毛羽の発生を抑制することのできる製糸ローラについて鋭意検討した。その結果、製糸ローラ上に形成させるコーティング皮膜は、無水クロム酸水溶液を含浸させて500〜600℃に加熱する処理を繰返し行うと表面に形成された緻密化皮膜の硬度が非常に高くなり、高張力で糸条を長期間に渡って高速走行させても、その硬度が非常に高くローラ母材との結合力もきわめて強く、その故に耐摩耗性と耐剥離性に優れていることを見出した。
しかしながら、マルチフィラメント糸条を熱延伸する過酷な条件下では、最終的に緻密化した皮膜の接糸面をラップ研磨加工やバフ研磨加工を施して仕上げ調整しても、長期間に渡って使用していると、どうしても毛羽の発生を抑制することができないことを知見した。そこで、この原因を究明する過程において、本発明者は、最終仕上げ工程である研磨加工において、走行糸条に損傷を与えて毛羽の発生を行おうとすると、せっかく形成させた膜厚の小さな緻密化皮膜が削られてしまい、酸化珪素粉末を主体とするセラミックス・スラリーを塗布して焼成する処理において形成される下層皮膜の影響を大きく受けていることを究明した。
そして、本発明者は、この下層皮膜の影響を極力減らすことができる技術を追求する中で、緻密化処理を繰返し行う途中に、研磨加工を施すことで接糸面の表面状態を一旦調整し、その後、緻密化処理の終了後に最終研磨加工を行うと、緻密化皮膜層を研磨する量を低減でき、緻密化皮膜の除去厚みを薄くでき、これによって、硬度が高くかつ所望の表面仕上げを有する接糸面に調整した複合セラミックス皮膜を、製糸ローラ上に所望の厚さで形成できることを着想し、本発明を完成したのである。
ここに、前記課題を達成するための本発明として、
(1)酸化珪素−酸化クロム又は酸化珪素−酸化アルミニウム−酸化クロムからなる複合セラミックスからなる多孔質皮膜と、該皮膜内に生成された空隙中に充填されると同時に該皮膜表面を覆う非晶質クロム酸化物微粒子の緻密化皮膜とを有し、更に前記緻密化皮膜の途中に表面研磨加工が施された境界面が形成された製糸ローラ、
(2)前記ローラが産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸するための熱延伸ローラである、(1)に記載の製糸ローラ、
(3)前記多孔質皮膜と緻密化皮膜とからなる製糸ローラ母材上に形成する皮膜の膜厚が30〜80μmである、(1)又は(2)に記載の製糸ローラ、そして
(4)前記ローラの接糸面が最大表面粗さ(Rmax)が0.5〜5.0μmであり、その表面ビッカース硬度(H)が1200〜1800である、(1)〜(3)の何れかに記載の製糸ローラが提供される。
また、前記課題を達成するための本発明として、
(5)無水クロム酸水溶液に少なくともSiOからなる微粒子を加えて調整したスラリーを製糸ローラの接糸面に塗布した後、これを500〜600℃に加熱して複合セラミックスからなる多孔質皮膜を形成する第1処理に引き続いて、無水クロム酸水溶液を含浸又はスプレーした後に500〜600℃に加熱する第2処理を繰返し行うことによって酸化クロムを析出させ、更に、第3処理として第2処理の途中と最後において接糸面に対して表面研磨加工を施すことを特徴とする製糸ローラの製造方法、
(6)前記第2処理を10〜20回繰返して行う、(5)に記載の製糸ローラの製造方法、そして
(7)前記第2処理に用いる無水クロム酸水溶液中に硼酸塩化合物、珪酸塩化合物およびりん酸塩化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の、加熱することによって非晶質無機物質を生成する結合助剤を混合した、(6)に記載の製糸ローラの製造方法が提供される。
本発明によれば、例えば過酷な熱延伸条件下などで使用される製糸ローラ上を走行するマルチフィラメント糸条が走行しても、該製糸ローラに均一かつ強固な皮膜を形成することができるために、一年以上の長期間に渡って製糸に使用しても、十分な耐摩耗性を有する。また、製糸ローラの表面を所望の仕上げ状態に容易に調整することができ、これによって、製糸ローラ上を走行するマルチフィラメント糸条が受けるダメージを極力抑制することができる。このため、マルチフィラメント糸条が製糸ローラから受ける損傷が少なくなって、毛羽の発生を極めて低く抑制できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の製糸ローラを模式的に例示した正断面図であって、図中の参照記号において、1はローラシェル、2は該ローラシェルの接糸面に形成された複合セラミックス皮膜をそれぞれ示す。
本発明の製糸ローラにおいては、先ず、鋼製母材からなるローラシェル1の外周処理面(接糸面)に対して、脱脂などの清浄化処理ならびに必要に応じてブラスト(アルミナのような硬質セラミックス粒子の吹き付け)などの粗面化処理を施す。そして、第1処理として、少なくとも、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)あるいは酸化クロム(Cr)等からなる微粉末セラミックスを無水クロム酸水溶液(無水クロム酸の結晶を水に溶解したもの)の中に均一分散させてセラミックス・スラリーを得る。ついで、得られたセラミックス・スラリーを前記鋼製母材に塗布し水分を揮発させた後、400〜600°Cの温度で0.5〜2時間に渡って焼成して、無機非金属質からなるコーティング皮膜を形成させる。
なお、このようなコーティング皮膜(複合セラミックス皮膜)は、無水クロム酸水溶液中に混合するセラミックス粉末の種類あるいは割合などによって異なるが、本発明においては、例えば、Cr−SiO,Al−SiO,Cr−Al−SiOなどの複合セラミックス皮膜を例示することができる。
中でも、SiOの単独粉末あるいはSiOとAlの混合粉末を混合して使用することが好ましく、この場合、SiO:50〜100重量%、Al:50〜0重量%とすることが好ましい。また、このようなセラミックス粉末の平均粒径は、5μm以下とすることが好ましい。しかしながら、平均粒子径を余りにも小さくすることはコストの増加を招くうえに、得られる効果がそれに相当する程度に得られないため、特に好ましくは、0.5〜2.0μmである。
なお、本発明で言う「平均粒径」は、島津製作所製CP−50型Centrifugal Particle Size Analyzerを用いて測定する。そして、この測定器によって得られる遠心沈降曲線をもとに算出した各粒径の粒子とその存在量とのcumulative曲線から、50mass percentに相当する粒径を読み取った値である(「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
しかしながら、この処理工程によって形成される焼成後の前記複合セラミックス皮膜は、微細な気孔やクラックが生成して多孔質となっているので、この気孔やクラックから気体や液体が容易に鋼製母材にまで進入することができる。このために、例えば糸条に付着した油剤などが前記気孔やクラックから進入して母材に到達できる上に、更に、糸条の延伸張力が加わったり、あるいは加熱によって熱膨張したりするなどの諸要因が加わったりして皮膜が剥離し易い状況にある。
そこで、本発明の製糸ローラとこれを製造するための方法では、第2処理として、特開昭63−126682号公報などに開示されているように、母材表面に形成した前記セラミックス皮膜に形成された微細気孔やクラック中もしくはさらにその表面に、クロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液を含浸あるいはスプレーする。なお、前記クロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液としては、例えば無水クロム酸、重クロム酸アンモニウム、硫酸クロム、塩化クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、クロム酸マグネシウム、クロム酸ナトリウム等の溶液を例示することができる。
そして、前記可溶性クロム化合物溶液が酸化クロム微粒子となり得る温度、例えば300〜450℃に加熱し、微粒子状の酸化クロムを生じさせ、前記セラミックス皮膜中の微細な気孔やクラック中に微粒子状の酸化クロムを析出させる。そうすると、微細な気孔やクラック中に析出して充填された酸化クロムによって微細な気孔やクラックを塞ぐことができる。
すなわち、このような第2処理を行うと、溶液中に含まれる水などの溶剤は揮散すると共に、加熱残渣としてクロム酸化物の微粒子を含む非晶質層が1〜3μm程度生成し、皮膜中の気孔やクラックのような空隙内に析出して空隙を塞ぐのである。このとき、同時に第1処理によって形成された複合セラミックス皮膜同士及び該皮膜とローラ母材の間の結合力も強める作用効果を奏する。
なお、前記のクロム酸溶液または可溶性クロム化合物溶液中には、必要に応じて、りん酸塩化合物、硼酸塩化合物、珪酸塩化合物などからなる結合助剤を含めることができる。これらの結合助剤、例えば,硼酸塩化合物、珪酸塩化合物、りん酸塩化合物などは焼成後に非晶質物質となるが、この非晶質物質は、前述の空隙中に析出するCr微細粒子間の結合を強める役割を果たすことは言うまでもない。この場合、これら結合助剤は焼成後にいずれも少なくとも一部が非晶質のガラス状を呈し、前記皮膜中の気孔やクラックなどの空隙中にも析出して侵入し、これらの空隙中に充填された状態となってこれらを封止する。
ここで、前記第2処理の好ましい例を説明するならば、前記第1処理で形成されたコーティング皮膜(例えば、SiO−Cr、SiO−Cr−Alなどからなる組成を有する複合セラミックス皮膜)中に生じた気孔やクラックを有する製糸ローラを無水クロム酸水溶液(CrO)中に30分間浸漬した後、550℃で焼成する処理を例示することができる。なお、この工程において、前記無水クロム酸水溶液(CrO)は、400℃以上の焼成で、Crとなることは言うまでもない。このとき、無水クロム酸水溶液(Cr)から析出した酸化クロム(Cr)微粒子が前記気孔やクラックを充填して前記気孔やクラックからなる空隙に充填され空隙を消滅させる。
通常、以上に述べた第2処理は、10〜20回繰返して行う。何故ならば、このような第2処理を繰返しても析出した酸化クロム(Cr)の空隙への充填と表面部への緻密な皮膜の形成は徐々にしか行われないからである。すなわち、第2処理による皮膜の成長はわずかであるために、必要とされる厚さを有する緻密な皮膜層を形成するために多くの繰返し操作が必要となるのである。
以上に述べたことからも明らかなように、第2処理によって形成させる緻密皮膜層は、第1処理でベース層として形成された複合セラミックスからなるコーティング皮膜の仕上げ状態に大きく左右される。そこで、本発明では、この複数回(好ましくは、10〜20回)行われる第2処理工程の少なくとも中間工程において、第3処理として、製糸ローラの接糸面をJIS B0601-1982に準拠した表面最大粗さ(Rmax)で表して、1.0〜10.0μmとなるように、ラップ加工、バフ加工等の研磨加工処理を施す。そうすると、前記第2処理で形成される非常に硬い緻密な上部皮膜層の仕上げ状態を所望の状態にすることができる。
つまり、本発明では、第2処理工程の途中でラップ加工、バフ加工等の研磨加工を施すと共に、第2処理が終わった時点においても再びラップ加工、バフ加工等の研磨加工処理を施すことによって、複合セラミックス皮膜の途中に表面研磨加工が施された境界面を形成させる。そうすると、このようにして研磨仕上げ加工が施された綺麗な境界面の上に緻密化皮膜層を再形成する。そうすると、第2処理が完了した後に最終的に形成された緻密化皮膜層の表面を研磨仕上げすることで、削り取り量をそれほど多くしなくても走行糸条に損傷を与えることがない、表面状態に仕上げることができる。
そして、これによって、製糸ローラの鋼製母材上に研削加工を施すことなく、加熱されたマルチフィラメント糸条がその上を高張力下で走行しても毛羽の発生がなく、しかも、耐摩耗性に優れ、かつ緻密で高い硬度を有する均一な複合セラミックス皮膜を製糸ローラ上に形成することができる。しかも、前記第1処理時に形成される複合セラミック皮膜層の表面状態は最適な状態に仕上げられている。
このために、第2処理で形成する緻密な硬質皮膜は、第1処理で形成される前記複合セラミックス皮膜の表面状態に左右されることなく、第2処理終了後に研磨加工を施すだけで、毛羽が発生することがない表面状態に容易に調整できる。なお、この製糸ローラ上を糸条が走行する接糸面の表面粗さに関しては、JIS B0601-1982で規定される最大表面粗さ(Rmax)で表して、0.5〜5.0μmとなるように、調整仕上げすることが好ましい。なお、最終的に、製糸ローラの接糸面の最大粗さとしてどのような値を採用するかについては、製糸ローラ上を走行する糸条の種類、性状、製糸条件などの要因によって異なるため、最終的には実験によって毛羽の発生をできるだけ抑制できるように、その都度最適な摩擦係数となるように決定されるべき設計事項である。
本発明においては、基本的に第1処理及び第2処理によって形成する前記複合セラミックス皮膜2の厚さは、本発明の要旨が満足される限りにおいて特に制限する理由はないが、20〜150μm(特に、30〜100μm)の範囲が好ましい。何故ならば、皮膜2の厚みが10μm未満であると、走行糸条との接触による摩擦による摩滅を考慮した場合に、耐摩耗性において長期間に渡って使用する上で問題となる。また、第2処理後に行う研磨加工において、研磨量の制限を受け、最適な表面状態に調整する上で問題となる。逆に、150μmを超えると、第2処理を繰返し行う回数が多くなり過ぎ処理コストと処理時間において問題となる。また、製糸ローラに糸条を巻廻する際に糸条を吸引保持するサクションガンなどの糸掛け具がローラに接触すると皮膜が破壊され易いという問題があるため、耐衝撃性を考慮すると膜厚を100μm以上にすると、この点で問題がある。
前述のようにして製造した製糸ローラは、無水クロム酸水溶液などを加熱することによって析出した非晶質クロム酸化物の皮膜2からなり、この複合酸化物皮膜2は、全体がSiO−Cr系あるいはSiO−Al−Cr系の酸化物材料で構成されているので、ビッカース硬さ(H)で表して,1000〜1500といった非常に硬い皮膜となっている。したがって、糸条が一年以上の長期間に渡って、この皮膜2の上を走行しても、摩滅しがたく、それ故に長期耐摩耗性にきわめて優れている。
このとき、前記被膜2の表面粗さ(Rmax)は、0.5〜10μmの間の適当な値に調整されていることが望ましい。なお、どの最大粗さを採用するかについては、製糸ローラ上を走行する糸条の種類、性情、製糸条件などの要因を考慮し、毛羽の発生をできるだけ抑制できるように、製糸実験などによって、その都度最適な摩擦係数となるように決定されるべき設計事項である。
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例に記載した特性は、次の方法にしたがって測定した。
(1)ビッカース硬度(H):テストピースを作成し、JIS Z2244に準拠して荷重300gを測定対象に負荷して測定した。
(2)表面粗さ(Rmax):施工したローラ表面をJIS B0601-1982に準拠して触針走査式試験方法にて測定した。
(3)初期毛羽カウント値:ローラ使用開始直後に、走行している糸条を、非接触型光学方式の毛羽測定装置(Enka tecnica社製、型式:Fraytec V)を使用して、糸条の長さ1.0×10m当りに発生した毛羽数をカウントした。
(4)ローラ表面更新周期:使用開始してから一ヶ月単位のサンプリング間隔で毛羽数を測定し、カウント値が10個/1.0×10mを超えた時点までの期間を更新周期とし、12ケ月間に渡って測定した。
〔実施例〕
図2は、図1に例示した製糸ローラを用いる産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸するための工程を模式的に例示した概略工程図である。この図2に示した工程において、固有粘度が0.97のポリエステルを公知の溶融紡糸法によって溶融紡糸口金パック3から紡出してガラス転移温度以下に冷却して固化し、公知の油剤付与装置(図示せず)によって、糸条の全体重量中に占める付着油剤の重量が、0.35重量%となるように油剤の付与条件を調整して紡糸油剤を付与しつつ、引取ローラ4によって、糸条速度1000m/分で引取った。引き続いて、引取った糸条を一旦巻き取ることなく、予熱ローラ5で糸条を予熱し、この余熱ローラ5と第1延伸ローラ6との間で3.0〜4.0倍に第1段目の加熱延伸を行い、更に第2延伸ローラ7との間で全延伸倍率が5.0〜7.0倍になるように2段目の加熱延伸を行い、最終ローラである弛緩ローラ8との間で9〜11%の弛緩熱処理を行った後、1670dtex/250filamentsのポリエステル・マルチフィラメント糸条を巻取機9によって4000m/分の巻取速度で巻き取った。
以上に述べた図2の製糸工程において、本発明の製糸ローラは、引取ローラ4、予熱ローラ5、第1延伸ローラ6、第2延伸ローラ7、あるいは弛緩ローラ8の何れにも使用することができるが、特に、第2延伸ローラ7で糸条は加熱されたローラ群によって熱延伸されるため、これらローラには糸条から受ける大きな張力が作用する。したがって、第1延伸ローラ6及び第2延伸ローラ7(中でも特に、第2延伸ローラ7)に対して耐摩耗性が強く求められる。このため、図2の製糸工程例において、本発明では、第2延伸ローラ7に対して、本発明の製糸ローラを使用した。
その際,本発明の製糸ローラは、図1に示す断面図のように、クロムモリブデン鋼(SCM440C)からなるローラシェル1の外周面に対して、脱脂処理などの清浄化処理を施した後、酸化アルミニウム粉末をブラストして表面を粗面化した接糸面に、平均粒径が10μmの酸化珪素粉末を50重量%の無水クロム酸水溶液中に重量比で50:50で混合して調整したセラミックス・スラリーを塗布した。その後、水分を揮発させて550℃で焼成し、多孔質の複合セラミックス皮膜を形成させた(以上が第1処理である)。
次いで、第2処理として前記第1処理によって形成した多孔質皮膜に対して、50重量%の無水クロム酸水溶液を含浸し、550℃で焼成して化学的緻密皮膜を形成させる第2処理を実施した。この第2処理に係わる化学的緻密化処理の途中(8回繰返し時)と終了後(15回繰返し時)とで、第3処理として、それぞれラップ研磨加工を施して、複合セラミックス皮膜の接糸面の最大粗さ(Rmax)が1.0μmとなるように研磨仕上げした。また、その時の表面硬さ(H)も測定した。その結果を表1に示す。
なお、この実施例において第1処理と第2処理とで形成する複合セラミックス皮膜は、トーカロ社が提供するCDC−ZACコーティング(商品名)によって形成した。
〔比較例1、比較例2〕
比較例1は実施例と同様に第2延伸ローラに対して、化学的緻密化処理の途中で研磨を施すことなく、通常のCDC−ZACコーティングを施した製糸ローラを使用したものである。すなわち、化学的緻密化処理が全て終了後、実施例と同様の表面研磨仕上げを実施した製糸ローラであって、実施例と異なる条件はCDC−ZACコーティングの途中で研磨加工を施さなかった点のみである。すなわち、比較例1のローラでは、中間研磨仕上げを行わずに、最終研磨仕上げによる最大表面粗さ(Rmax)が1±0.5μmになるように調整し、ビッカース硬さ(H)も同時に測定した。その時の結果を表1に示す。なお、比較例2は、製糸ローラの母材(ローラシェル)を鏡面加工して、この鏡面に対して硬質クロム鍍金を施したものである。したがって、その最大表面粗さ(Rmax)は、0.1〜0.5μmとなっていた。
Figure 2006336143
表1から明らかなように、本発明の製造方法によって作製された製糸ローラは,12ヶ月間(この期間で試験を打ち切った)に渡って連続的に製糸に供したにもかかわらず、毛羽の発生件数は許容範囲内に充分に納まっており、ローラの表面を更新する必要が全く無かった。これに対して、中間研磨仕上げを施さずに、最終研磨仕上げだけを施した比較例1では、試用期間が11ヶ月経った後には、毛羽の発生が許容値を超えたために、ローラ表面の更新(複合セラミックス皮膜の再形成と再研磨仕上げ)が必要となった。また、硬質クローム鍍金を施した比較例2は、表面仕上げがよいため、初期の毛羽発生は、実施例や比較例1と比較して、優れたレベルにあったが、使用開始からわずか3ヶ月後にローラ表面を更新する必要が生じ、耐久性に問題があった。
なお、本発明の実施例の無水クロム酸水溶液に代えて、硼酸塩化合物、珪酸塩化合物およびりん酸塩化合物からなる結合助剤を前記無水クロム酸水溶液にそれぞれ混合して無水クロム酸化合物溶液をそれぞれ用意して実施例と同様の実験を行った。その結果、実施例と同様に使用開始から12ヶ月が経過した後でも、毛羽の発生頻度は許容範囲に収まっていた。
本発明の製糸ローラ母材(ローラシェル)上に施す複合セラミックス皮膜を模式的に示した正断面図である。 本発明を用いる産業用ポリエステル繊維の直接紡糸延伸にかかわる製糸工程を模式的に示した概略工程図である。
符号の説明
1:ローラシェル
2:複合セラミックス皮膜
3:溶融紡糸口金パック
4:引取りローラ
5:予熱ローラ
6:第1延伸ローラ
7:第2延伸ローラ
8:弛緩ローラ
9:巻取り装置

Claims (7)

  1. 酸化珪素−酸化クロム又は酸化珪素−酸化アルミニウム−酸化クロムからなる複合セラミックスからなる多孔質皮膜と、該皮膜内に生成された空隙中に充填されると同時に該皮膜表面を覆う非晶質クロム酸化物微粒子の緻密化皮膜とを有し、更に前記緻密化皮膜の途中に表面研磨加工が施された境界面が形成された製糸ローラ。
  2. 前記ローラが産業用ポリエステル繊維を直接紡糸延伸するための熱延伸ローラである、請求項1に記載の製糸ローラ。
  3. 前記多孔質皮膜と緻密化皮膜とからなる製糸ローラ母材上に形成する皮膜の膜厚が30〜80μmである、請求項1又は2に記載の製糸ローラ。
  4. 前記ローラの接糸面が最大表面粗さ(Rmax)が0.5〜5.0μmであり、その表面ビッカース硬度(H)が1200〜1800である、請求項1〜3の何れかに記載の製糸ローラ。
  5. 無水クロム酸水溶液に少なくともSiOからなる微粒子を加えて調整したスラリーを製糸ローラの接糸面に塗布した後、これを500〜600℃に加熱して複合セラミックスからなる多孔質皮膜を形成する第1処理に引き続いて、無水クロム酸水溶液を含浸又はスプレーした後に500〜600℃に加熱する第2処理を繰返し行うことによって酸化クロムを析出させ、更に、第3処理として第2処理の途中と最後において接糸面に対して表面研磨加工を施すことを特徴とする製糸ローラの製造方法。
  6. 前記第2処理を10〜20回繰返して行う、請求項5に記載の製糸ローラの製造方法。
  7. 前記第2処理に用いる無水クロム酸水溶液中に硼酸塩化合物、珪酸塩化合物およびりん酸塩化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の、加熱することによって非晶質無機物質を生成する結合助剤を混合した、請求項6に記載の製糸ローラの製造方法。
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JPWO2013100062A1 (ja) * 2011-12-27 2015-05-11 東レ株式会社 微多孔プラスチックフィルムロールの製造装置及び製造方法

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