JP2006335722A - 抗体産生キャリア - Google Patents

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Abstract

【課題】
ハプテンあるいは免疫原性が低い化合物に対して、その種類を選ばず、これら化合物に免疫原性を付与あるいは増強させるための普遍性の高いキャリアを提供する。
【解決手段】
金属ナノ微粒子を、抗原性を付与または増強するためのキャリアとして用い、その表面に免疫原性のないアゾベンゼン誘導体を結合せしめて免疫感作用抗原として動物を免疫感作し、アゾベンゼン誘導体化合物に対する抗体を産生する。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属ナノ微粒子からなる、免疫原性を付与または増強するために用いるキャリア、該キャリアを用いた免疫感作用抗原、および該抗原を用いた抗体または抗体産生細胞の生産方法に関する。
免疫原性の弱い、またはハプテンのように単独では抗体産生能をもたない化合物に対する抗体を得るためには、一般に分子量の大きな蛋白質等をキャリアとして上記化合物に結合させ、このキャリアが付加された上記化合物により動物を免役することが行われている。
しかし、例えば、自家由来の抗体(IgG)のような蛋白質がキャリアとして有効であるとされているが、ハプテン様化合物の結合可能な数に制限があり、免疫の初期段階でハプテン様化合物の結合量が少ない場合には、むしろ減感作がみられるようになり、たとえ抗体が得られてもその親和性(結合力)は低い。また、自家由来の蛋白質であっても血清アルブミン類ではキャリアとして機能しないことが分かっている。キャリアとして広く用いられているものとしてカサガイ等のヘモシアニンがあるが(非特許文献1〜3参照)、このような従来の技術では、キャリア自体が蛋白質であることから、その蛋白質分子のいろいろな部位がエピトープとして認識され、それぞれに対応する抗体も産生される。さらに夾雑蛋白質が少量でも混入しているとその分子の各部位もエピトープとなり得るため対象化合物に適するキャリアを、試行錯誤の末、逐一選択し、調製する必要があった。
すなわち、蛋白質キャリアを用いる場合、キャリア自体に存在する抗原決定基に由来する複数の抗体も生成され、精製が困難であり、さらに、目的の低分子化合物をキャリアに導入するための合成法として、有機合成を用いなければならず、この点で手間もかかり、また、最適な有機合成法を選択しなくてはならない等の点で、簡便、効率的な手法とはいえないものであった。
「Proc.Soc.Exp.Biol.Med.」1976,152,P.508-11 「J.Immunol.」1977,119,P.2005-12 「Immunology」1983,48,p.703-11。
上記したように、従来の技術では対象化合物に適するキャリアを、逐一選択し、調製する必要があった。本発明の課題は、免疫原性の弱い、または単独では抗体産生能をもたないような対象化合物に対する抗体を作製する手段であって、化合物の種類を問わずより普遍的で、効率的かつ経済的な抗体作製手段を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究した結果、金属ナノ微粒子
をキャリアとして用い、その表面に免疫原性のないアゾベンゼン誘導体化合物を結合せしめて免疫感作用抗原として動物を免疫感作した結果、該動物が上記アゾベンゼン誘導体化合物に対する抗体を産生することを見いだし、金属ナノ微粒子がハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対する抗体を作成するための普遍的でかつ有効なキャリアとなり得ることを確信し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
(1) 金属ナノ微粒子からなる、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対して免疫原性の付与または増強するために用いるキャリア。

(2) 金属ナノ微粒子表面に、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物を結合せしめてなることを特徴とする免疫感作用抗原。

(3)上記(2)に記載の抗原を用いて動物(但し、ヒトを除く)を免疫感作し、産生する抗体または抗体産生細胞を採取することを特徴とする、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対する抗体の生産方法。

(4)上記(2)に記載の抗原を用いて動物(但し、ヒトを除く)を免疫感作して、抗体産生細胞を採取し、該抗体細胞をミエローマ細胞とを細胞融合させ、得られたハイブリドーマを用いて、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対するモノクローナル抗体を生産することを特徴とする、該モノクローナル抗体の対する抗体の生産方法。
本発明によれば、金属ナノ微粒子をキャリアとして用いることにより、抗体作製が難しい低分子化合物であっても、これに対する抗体を作製することが可能となる。しかも、金属ナノ微粒子は、対象化合物の種類を選ばず、広く普遍的なキャリアとなり得るので、従来技術のように対象化合物に適するキャリアを、逐一選択し、調製する必要がなく、効率よくかつ経済的に抗体を産生することが可能となる。また、例えば、金のように生体に無毒な金属ナノ微粒子は、免疫動物にダメージを与えないというメリットも有する。また、無毒性という点からいえば、病原体由来ではあるが、抗原性のないあるいは低い物質を用いて能動ワクチンを作成するうえでのキャリアとしても有望である。
さらに、抗原のキャリアへの導入は従来法のように有機合成反応ではなく、金属微粒子表面への吸着反応になるので、両者を常温・常圧で希薄溶液中において混合・撹拌するだけと容易である上、金属ナノ微粒子の場合、反応後の精製も、比重の重さを利用して遠心分離機等により機械的に行えるというメリットもある。

本発明において抗体を産生するためのキャリアとして使用する金属ナノ微粒子を構成する金属種は、金、銀、銅、チタン等である。金属微粒子表面には吸着しさえすれば良いのであるから金属以外でも例えばシリカ等が使える。またその粒径は、ナノレベルであれば、特に問題がないが、具体的には5〜50nmであり、好ましくは5〜10nm、さらに好ましくは5〜6nmである。粒径が10nmを超えると、ハプテン様化合物と金属ナノ微粒子キャリアとの複合体のサイズが分子レベルで巨大となり、凝集等が生起した場合、免疫動物の細胞組織、リンパ組織、毛細血管等を損傷する恐れが生じることとなり、また5nm未満であると抗原提示に必要十分な量と空間分布をもたせるようにハプテン様化合物を金属ナノ微粒子の表面に結合させることができなくなるという不都合を生じる。さらに5nm未満であると、量子効果の影響も無視できなくなる。
このような金属ナノ微粒子自体は従来からよく知られており、例えばMerck社等から入手可能である。
本発明においては、金属ナノ微粒子表面にハプテンあるいは、免疫原性の低い化合物を結合させて、免疫感作用抗原とするが、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物としては例えば、各種低分子化合物、オリゴヌクレオチド、糖鎖、アミノ酸残基数10〜30あるいはそれ以上のオリゴペプチド等が挙げられる。
金属ナノ微粒子表面に上記ハプテン等を結合させる手段としては、物理的吸着、化学的吸着等種々の手段が挙げられるが、金属表面に吸着対象物質の自己組織化膜を形成させる手段が好ましい。この手段自体は周知であり、多くの特許文献(特開2002-020368号公報、特開2004-329096号公報)、論文(Brust, M. et al., J. Chem. Soc. Chem. Commun.,1994, 801, Brust, M. et al., J. Chem. Soc., Chem. Commum. 1995, 1655など)があるが、対象化合物が還元剤との接触により破壊される恐れがある場合には、この改良法を用いることが望ましい(「Chem.Mater.」2003,15,P.20-28、特願2003-283523など)。
これには、まず、テトラオクチルアンモニウムブロミドなどのアミン誘導体、あるいはシトラス酸などのカルボン酸誘導体を安定化剤として共存させ、金属イオンを溶液中で還元し、アミン誘導体あるいはカルボン酸誘導体でキャップされた金属ナノ微粒子を合成する。次に、この金属ナノ微粒子の分散溶液に、免疫原性の低い化合物にチオール基あるいはジスルフィド基を導入したハプテンあるいは対象化合物を加え、常温・常圧で混合・撹拌し、対象化合物を金属ナノ微粒子表面に導入する。これらの分子は、金属ナノ微粒子表面でアミン誘導体あるいはカルボン酸誘導体と置換反応し、金属-硫黄結合を介する化学吸着により、強固に固定化される。そのため、ハプテンあるいは対象化合物は免疫反応中に動物体内で微粒子表面から剥離することなく、効果的に免疫原性の付与あるいは増強に寄与することができる。反応に用いられる金属ナノ微粒子は、還元法に限らず、銀ナノ微粒子の合成に用いられる熱分解法(特願2004-267553、Phys.Stat.Sol.A, 2002, Vol.191, No.1, pp67-76)や、真空チャンバーにおいて物理的に作製される方法でもよい。
このようにして作成した免疫感作用抗原を用いて、常法により抗体を調製する。すなわち、該免疫感作用抗原で動物を免疫感作し、一定時間経過後、動物の血液を採取し、血球を分離することにより、使用したハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対応する抗体を含有する血清(ポリクローナル抗体)を採取できる。あるいはさらに精製して、使用したハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対応する抗体のみを得てもよい。また、上記動物の脾臓等から抗体産生細胞を採取し、この抗体産生細胞とミエローマ細胞を細胞融合してハイブリドーマを得、該ハイブリドーマを培養して、培養物からハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対するモノクローナル抗体を得ることもできる。
上記使用する動物については制限はなく、ウサギ、ラット、マウス、ブタ、山羊等通常の免疫動物を用いることができ、また、上記免疫感作の際には、必要に応じてアジュバントを併用してもよい。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれにより限定されるものではない。
〔実施例1〕
免疫感作用抗原の調製
アゾベンゼン誘導体化合物(4-hexyl-4’-(12-(dodecyldithio)dodecyloxy)azobenzene,略号C6AzSSC12)は「Trans.Mater.Res.Japan」2000,25,425に記載の方法で合成し、金ナノ微粒子への修飾は以下に示す2段階の手順で行なった(「Chem.Mater.」2003,15,20-28)。
ステップ1)
テトラオクチルアンモニウムブロミドを安定化剤とする有機溶媒相(トルエン)へ抽出した四塩化金イオンのテトラヒドロホウ酸ナトリウムによる還元。
1)30mM H[AuCl4]水溶液(2.5mL)と50mMテトラオクチルアンモニウムブロミドのトルエン溶液(7mL)を混合し、およそ20分間、激しく撹拌した。
2)溶液は、3価の金イオンが水相からトルエン相に定量的に移行する事によって、無色の水相と紅オレンジ色のトルエン相との明確に区分される透明な2相に分離した。
3)直前に調製した0.2Mのテトラヒドロホウ酸ナトリウム溶液を2相の反応混合液にゆっくり加え、激しく撹拌した。2時間継続して撹拌し、反応を完了させた。
ステップ2)
テトラオクチルアンモニウムブロミドで安定可されたコロイド状の金ナノ微粒子の表面での交換反応によるアゾベンゼン誘導体化合物、C6AzSSC12の自己組織化膜の形成。
4)ワインレッドの有機相を分離し、撹拌しながら、0.2Mのアゾベンゼン誘導体化合物(C6AzSSC12)が溶けているトルエン溶液(2mL)を加えた。
5)撹拌を1時間続け、ナノ微粒子の表面でテトラオクチルアンモニウムブロミドとC6AzSSC12の置換反応を完了させた。
6)溶液を大気圧のもと、45℃で蒸発させ、約2mLまで濃縮した。
7)濃縮した溶液を100mLのエタノールに縣濁し、約15℃で24時間冷蔵静置し、沈澱させた。
8)沈澱物を抽出し、200mLのトルエン/エタノール(2:3v/v)混合液に超音波(約1分間)により分散させた後、再沈澱させた。再縣濁、再沈澱の行程を5回繰り返し、未反応(未結合)のC6AzSSC12を取り除いた。
9)純化された目的の生成物は、大気圧、45℃でパウダー状に乾燥させた。

アゾベンゼン誘導体化合物で被覆した金ナノ微粒子の構造は、図1に示したとおりであり、構成要素である金ナノ微粒子の平均粒径は5.2±1.3nmであり、アゾベンゼン誘導体化合物(C6AzSSC12)の分子長はおよそ3.6nmであった。


〔実施例2〕
免疫感作及び抗体の調製、検証
(1)免疫感作
免疫動物としてウサギを使用した。ウサギは動物舎に到着後1週間程度慣らした後実験を開始した。
a)抗原;アゾベンゼン誘導体化合物で被覆した金ナノ微粒子
上記(1)の工程で得た、アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した金ナノ微粒子(以下、抗原Aという。)1mgを秤量、PBS(Phosphate Buffered Saline)1mLに加え、アジュバント(免疫増強剤)と1:1となるように、抗原Aが完全にコロイド状になるまで、超音波により攪拌混合した。
次いで、動物舎に到着後1週間程度慣らしたウサギ(以下、ウサギ1という)を用い、該ウサギの頚椎部分を70%エタノールで消毒後、10箇所以上にわたり0.2〜0.3mLずつ皮下に注射した。
ELISA法等による抗体産生の経過観察のため、1週間間隔でウサギ1の耳下静脈から約1mL採血し、採血したエッペンチューブをウォーターバス(37℃)にて15分間加温した後、遠心分離(4℃、12000rpm、10分)を行ない、血清と血餅とを分画した。血清を新たなエッペンチューブに入れ、冷蔵庫(4℃)に保管した。
以後、抗体産生の様子を見ながら、1週間の間隔で抗原Aをウサギ1に皮下注射を行ない、採血、ELISA法、電子顕微鏡法による観察により経過観察を継続した。
b)抗原;アゾベンゼン誘導体化合物
対照実験として、上記(1)の工程で使用したアゾベンゼン誘導体化合物をそのまま使用した(抗原B)。該アゾベンゼン誘導体化合物0.1mg(抗原Aに含まれるアゾベンゼン誘導体化合物と等量)を秤量し、PBS1mLに加え、アジュバント(免疫増強剤)と1:1となるように、抗原Bが完全にコロイド状になるまで超音波により攪拌混合した。
上記a)と同様に慣らしたウサギ(以下、ウサギ2という。)の頚椎部分を70%エタノールで消毒後、10箇所以上にわたり0.2〜0.3mLずつ皮下に注射した。
ELISA法等による抗体産生の経過観察のため、1週間間隔でウサギ2の耳下静脈から約1mL採血し、採血したエッペンチューブをウォーターバス(37℃)にて15分間加温した後、遠心分離(4℃、12000rpm、10分)し、血清と血餅とを分画した。血清を新たなエッペンチューブに入れ、冷蔵庫(4℃)に保管した。
抗体産生の有無を観察しながら、1週間の間隔で抗原Bをウサギ2に皮下注射し、採血、ELISA法、電子顕微鏡法による観察により経過観察を継続した。
(2)抗体の精製
冷蔵保存された血清画分はプロテインAを用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィー(Hitrap rProtein A FF)により精製し、色素法により蛋白定量を行なった。その後、透析によりバッファー置換を行なった。遠心濃縮(centriprep: Amicon corp.)を行った後、およそ1mLずつエッペンチューブに小分けし、一部を冷蔵(4℃)、残りを冷凍(-80℃)で保存した。なお、抗体の純度はSDS-PAGEによって確認した。
(3)ELISA法による抗体価の測定
測定は以下の手順によった。
1)ELISA法を行なう1日前に、抗原(in PBS)をELISAプレートの各ウェルへ100μLずつ入れ、冷蔵庫にて静置。コントロールとしてHuman Serum Albuminを用いた。
2)ELISA法の実験当日、プレートをPBS(100μL)で洗浄。これを3回繰り返した。
3)1%Goat Serumによるブロッキング。10分間、室温で静置した。
4)Primary Antibody(血清、コントロールにはanti-HAS)を任意のウェルへ100μLずつ滴下。60分間、室温で静置した。
5)プレートをPBS(100μL)で洗浄。これを3回繰り返した。
6)Secondary Antibody(ビオチン化 Goat Anti-Rabbit IgG)を全てのウェルへ100μLずつ滴下。60分間、室温で静置した。
7)プレートをPBS(100μL)で洗浄。これを3回繰り返した。
8)ExtrAvidin-Peroxidaseを全てのウェルへ100μLずつ滴下。30分間、室温で静置した。
9)プレートをTween20(100μL)で洗浄。これを5回繰り返した。
10)Freshly substrateを全ウェルへ100μLずつ滴下。30分間、室温で静置した。
11)Stop solution (0.4%NaF)を全ウェルへ50μLずつ滴下した。
12)MicroPlateReaderにて波長450nmでELISAプレートの吸光度を計測した。
(4)結果
抗原Aを注射したウサギ1と抗原Bを注射したウサギ2は共に活動的ではなくなったが、その傾向はウサギ1で顕著に見られた。これは免疫応答の結果であるといえる。
定期的な採血、ELISA法による抗体産生の様子の結果は図2に示す通りであるが、ウサギ1(図2の「●」)では、抗原の注射を定期的に繰り返した、4週目位まで抗体の生産量が増加し、それ以降はほぼ一定の値となった。一方、ウサギ2(図2の「△」)では、抗原の注射を行なった期間に多少の変動が見られたが、以降もほとんど抗体産生は見られなかった。
ウサギ1から採血、精製された画分の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を図3に示す。分子量50〜70kDaのH-chainと分子量2.3kDaのL-chainのバンドが確認できた。この抗体が作製に用いた抗原Aと確実に交叉するか透過型電子顕微鏡の用いて直接観察した。図4に抗原Aのみの電子顕微鏡画像を示す。直径がおそよ5nmの金ナノ微粒子が観察できた。その試料サンプル(グリッド)を電子顕微鏡鏡筒から取り出し、得られた抗体溶液を滴下し、室温で1時間静置させた後、過剰な水分をろ紙で吸い取り再び電子顕微鏡で観察したところ、図5に見られるように金ナノ微粒子の周囲に蛋白質性の像(物質)が確認できた。ただし、上述の試料調製においては金ナノ微粒子(抗原A)がトルエンに懸濁されたものを使用した。

図6は、抗原Aをイソプロピルアルコールに懸濁し、同様の実験を行なった結果を示す。図6によれば、金ナノ微粒子の周囲に蛋白質性の像(物質)が明らかに認められる。たくさんの抗体が集まり、重なっているため、個々の抗体分子の結合の形態までは確認することはできないが、アゾベンゼン誘導体化合物で被覆した金ナノ微粒子に対する抗体が産生された確かな証拠を示している。
抗原Bに対する抗体の産生がほとんど認められなかったウサギ2に、その後、抗原Aを注射し抗原Aに対する抗体が産生されるか実験したところ、アゾベンゼン誘導体化合物に対する減感作のため、抗体の産生は確認されなかった。
〔実施例3〕
表面プラズモン共鳴分光装置による試験
表面プラズモン共鳴法では、有機薄膜で修飾した金基板上への蛋白質など吸着現象をリアルタイムで高感度に検出できる。本試験では、図7に示す表面プラズモン共鳴分光装置の金基板上にあらかじめアゾベンゼン誘導体化合物からなる自己組織化膜を作製し、その後、実施例2(2)で得られた精製抗体蛋白質を反応セル中に注入、アゾベンゼン表面と該抗体蛋白質間の結合状態を調べた。その際、反応セル裏面に透明ガラスの窓を作り、そこから白色光をカラーフィルターを通じて紫外光(波長約350nm)と可視光(波長約450nm)として照射し、アゾベンゼンの光異性化を励起した(紫外光照射によりシス体、可視光照射によりトランス体になる)。
第8図は、アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した平面金基板上に、抗体が結合する様子を、表面プラズモン共鳴分光装置にて観察した結果を示す。
横軸は吸着時間、縦軸は光の反射率で求めた抗体の吸着量(相対値)である。アゾベンゼンは暗室で長期保存した時トランス体になるので、抗体蛋白質はトランス体のアゾベンゼンを抗原としていると予想される。実際、抗体蛋白質の吸着量において、シス体とトランス体表面の間に明確な違いが観察され、抗体蛋白質がトランス体表面を認識していることが明らかとなった。
図9は、比較実験として、と同じアゾベンゼン表面でBSA(アルブミン)の吸着実験を行った場合の結果を示す。BSA蛋白質もアゾベンゼン誘導体化合物に吸着するが、シス体とトランス体の間に吸着量の差はみられず、抗体-抗原反応以外のメカニズム(疎水相互作用)により吸着したことがわかる。これらの結果から、図8における抗体蛋白質のトランス体表面への過剰な吸着は、上記抗体蛋白質が抗原であるトランス体アゾベンゼンを分子認識した結果であると結論できる。
抗体産生キャリアの構造を示す図である。 アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した金ナノ微粒子(抗体産生キャリア)を注射した場合の抗体産生(●)とアゾベンゼン誘導体を注射した際の抗体産生(△)の経時変化を示すグラフである(ELISA法による)。矢印は注射の時期を示す。 抗体産生キャリアを用いて生産、精製された抗体のSDS-PAGE(変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動)の結果を示す図である。左レーンは分子量マーカーを示す。 抗体産生キャリア(アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した金ナノ微粒子)の透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは50nmに対応する。 アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した金ナノ微粒子(トルエンに懸濁の後、真空中で乾燥)に、精製された抗体が結合する様子を示す透過型電子顕微鏡写真である。スケールバーは50nmに対応する。 アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した金ナノ微粒子(トルエンより親水性のイソプロビルアルコールに懸濁の後、真空中で乾燥)に、精製された抗体が結合する様子を示す透過型顕微鏡写真である。スケールバーは50nmに対応する。 実施例3で使用した表面プラズモン共鳴分光装置の概略図である。 アゾベンゼン誘導体化合物で表面を被覆した平面金基板上に、抗体が結合する様子を、表面プラズモン共鳴分光法にて観察した結果を示すグラフである。横軸は吸着時間、縦軸は光の反射率で求めた抗体の吸着量(相対値)である。 図8の試験において、アゾベンゼン表面で、抗体に代えBSA(アルブミン)の吸着実験を行った場合の表面プラズモン共鳴分光法にて観察した結果を示すグラフである。横軸は吸着時間、縦軸は光の反射率で求めたBSAの吸着量(相対値)である。

Claims (4)

  1. 金属ナノ微粒子からなる、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対して免疫原性を付与あるいは増強するために用いるキャリア。
  2. 金属ナノ微粒子表面に、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物を結合せしめてなることを特徴とする免疫感作用抗原。
  3. 請求項2に記載の抗原を用いて動物(但し、ヒトを除く)を免疫感作し、産生する抗体または抗体産生細胞を採取することを特徴とする、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対する抗体の生産方法。
  4. 請求項2に記載の抗原を用いて動物(但し、ヒトを除く)を免疫感作して、抗体産生細胞を採取し、該抗体細胞をミエローマ細胞とを細胞融合させ、得られたハイブリドーマを用いて、ハプテンあるいは免疫原性の低い化合物に対するモノクローナル抗体を生産することを特徴とする、該モノクローナル抗体の生産方法。
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