以下本発明による乗客コンベア設備の一実施の形態を図1に示す電動道路に基づいて説明する。
電動道路1は、大きく分けると、無端状に連結された複数の踏板2と、踏板2の移動方向両側に沿って立設された欄干3と、この欄干3の周縁に案内されて循環移動する移動手摺4と、前記踏板2と移動手摺4を駆動する駆動装置5と、駆動装置5によって駆動される可動部分に潤滑油を供給する潤滑油供給手段6と、前記駆動装置5や潤滑油供給手段6を制御する制御手段7とから構成されている。
前記踏板2は両端を駆動スプロケット8及び従動スプロケット(図示せず)に巻掛けられた無端状の踏板チェーン9に連結されて循環移動するように枠体10内に案内支持されている。
また、前記移動手摺4は、欄干3の下方で複数の挟圧ローラ11Rを有する手摺駆動装置11によって前記踏板2と同期速度で駆動されている。そして、挟圧ローラ11Rのいくつかには同軸のスプロケット(図示せず)が設けられている。
前記駆動装置5は、電動機Mとこの電動機Mで駆動される出力スプロケット12を有し、この出力スプロケット12と前記駆動スプロケット8と同軸の動力伝達スプロケット(図示せず)間に駆動チェーン13を巻掛けている。さらに、前記駆動スプロケット8と同軸に手摺駆動スプロケット14が設けられており、この手摺駆動スプロケット14から手摺駆動チェーン15や複数の遊動スプロケット、更には複数の動力伝達チェーンを介して前記手摺駆動装置11の挟圧ローラ11Rと同軸のスプロケットを駆動するようにしている。
以上説明した各種スプロケットや各種チェーンが本発明による給油が必要な可動部分となる。
そして、前記駆動スプロケット8や従動スプロケット、踏板チェーン9、出力スプロケット12で駆動される駆動チェーン13、手摺駆動スプロケット14、手摺駆動チェーン15、挟圧ローラ11Rと同軸のスプロケット、これらに動力を伝える複数の遊動スプロケット等の各種スプロケットや各種チェーンを本発明では可動部分と称している。
一方、潤滑油供給手段6は、前記枠体10内に設置されており、潤滑油を収容するタンク16と、このタンク16内の潤滑油を圧送する給油ポンプ17と、この給油ポンプ17を駆動する電動機18と、圧送された潤滑油の圧力を調整する圧力調整弁19とを備えている。圧力調整された潤滑油は、給油パイプ20を介して給油先毎に設けられた複数の絞り弁21に至り、ここから夫々給油パイプ22A〜22Dを経由して給油先に滴下される。
また、前記制御手段7は、前記駆動装置5に対して駆動,停止,回転方向変更,速度指令の信号を送信して制御する駆動制御部23と、給油時期を演算して前記潤滑油供給手段6の電動機18に駆動指令を出して給油させる給油時期演算部24と、この給油時期演算部24により演算された給油時期と前記駆動装置5の始動時間とが一致したとき給油の可否を判断して前記電動機18への駆動指令を出力する給油時期判断手段25とを有している。そして、給油時期演算部24は、例えば駆動制御部23からの駆動,停止信号に基づいた駆動時間の積算やタイマーにより給油時期を演算している。即ち、頻繁に運転される電動道路1では運転時間を積算して可動部分への給油期間を短めに設定して給油回数を多くし、運転頻度の少ない電動道路1でも潤滑油の劣化を考慮して、電動道路1を設置した日から所定日数経過した場合には決められた設置日数毎に給油するようにしている。
前記給油時期判断手段25は、給油の可否を判断するものであり、例えば給油時期演算部24からの給油指令信号に基づいて電動機18へ駆動指令を出力するようにしている。具体的には、駆動制御部23からの指令により電動道路1の運転が開始される同時に、駆動制御部23からの信号が給油時期演算部24に入力され、給油時期演算部24での演算結果、給油時期に達していることになれば、給油時期である信号を給油時期判断手段25に出力する。そして、給油時期である信号を受けた給油時期判断手段25は、電動道路1の始動から所定時間経過しているか否かを判定して、所定時間経過していれば給油開始の指令を前記潤滑油供給手段6に出力して、即、給油を開始させる。反対に、給油時期である信号を受けたときが、電動道路1の始動直後の場合には、所定時間経過後に給油開始の指令を前記潤滑油供給手段6に出力するように構成されている。ここで、給油時期判断手段25の判断基準となる所定時間、云い代えれば給油指令を遅延させる時間は、季節によって異なるので、手動によって所定時間の長さを設定してもよく、図示のように、温度計26によって測定した周辺温度を加味して所定時間を自動調整するようにしてもよい。
上記構成の電動道路1における潤滑油の供給手順を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、第1工程(1)で電源を投入して制御手段7を作動させる。制御手段7の作動により、駆動装置5が駆動され、第2工程(2)のように、電動道路1は運転を開始する。その後、第3工程(3)で、電源投入時点で給油時期に達している否かを判断し、給油時期に達したと判断された場合は、第4工程(4)で、給油時期判断手段25により運転開始から所定時間経過したか否かを判断する。運転開始から所定時間経過したと判断された場合には、給油時期判断手段25から潤滑油供給手段6に給油指令を出力し、第5工程(5)で潤滑油の供給を開始させる。このような工程を経た給油は、電動道路1が所定時間運転されているので、電動道路1の各可動部分は昇温されており、この温度によってタンク16内の潤滑油は粘度が低下すると共に、各給油パイプ20,21A〜21D内に残留している潤滑油の粘度も低下する。その結果、各給油パイプ20,21A〜21D内に潤滑油が停滞することなく、潤滑油供給手段6での給油は円滑に行われる。
その後、第6工程(6)で給油の完了を確認して第7工程(7)の通常運転を継続する。そして、終業時に、第8工程(8)で電動道路1の通常運転を停止させ、電源を切って終了させる。
尚、前記第3工程(3)で、電源投入時点が給油時期に達していないと判断された場合には、第7工程(7)の通常運転を継続し、以下は上述のように第8工程(8)を経て電動道路の運転を終了する。さらに、第4工程(4)において、運転開始から所定時間経過していないと判断された場合には、所定時間経過が経過するまで監視が行われ、最終的に第5工程(5)によって給油が行われる。
ところで、第7工程(7)の通常運転中に、給油時期に達したことが給油時期演算部24で演算された場合には、第3工程(3)から第7工程(7)を経由して給油が行われる。
以上説明したように本実施の形態によれば、給油時期が電動道路1の始動時間と一致した場合、電動道路1を始動させて全体が昇温して暖められた後に、潤滑油を供給することができるので、供給時点で高粘度の潤滑油は粘度が低下しており、したがって、潤滑油の給油パイプ20,22A〜22D内への停滞がなくなって円滑に流動し、短時間に供給を行うことができる。また、給油時の潤滑油の粘度低下により円滑な流動が行えるので、容量の大きな給油ポンプ17や径の太い給油パイプを用いる必要はなく、その結果、給油ポンプや給油パイプの狭隘な場所への布設が制限されることもなくなる。
尚、上記実施の形態は、給油時期が電動道路1の始動時間と一致した場合、電動道路1の始動時から所定時間経過後に給油を行う説明である。しかし、給油時期演算部25から給油時期である信号が出力されたとき、電動道路1の利用が最も多い時間帯、例えば出勤時間であれば9時前後、あるいは昼休みの13時前後になったら前記給油時期判断手段25によって潤滑油供給手段6の電動機18に前記給油指令を出力して給油するように構成しても同じ効果を奏することができる。電動道路1の利用が最も多い時間帯は、各部の温度が上昇しているので、高粘度の潤滑油であっても、その温度によって潤滑油の粘度は十分に低下して入るので、各可動部分への給油を円滑に行うことができるのである。
このように給油時期に達した時、時間帯で給油を行う潤滑油の供給手順を図3に示すフローチャートで説明する。即ち、第4工程(4A)で給油時期にあるとき、給油すべき時間帯であるか否かを前記給油時期判断手段25によって給油の可否を判断するもので、その他の工程は図2に示すフローチャートと同じである。
また、給油時期に達した時、電動道路1の機械室内の温度を温度計26で測定し、この温度が潤滑油の粘度を低下させるに十分な温度となっていれば、給油時期判断手段25によって給油指令を潤滑油供給手段6の電動機18に伝達するようにしてもよい。
温度によって給油の可否を行う手順を図4のフローチャートに基づいて説明する。即ち、第4工程(4B)において、温度計26で温度を検出し、その温度が潤滑油の粘度を低下させるに十分な温度になっているか否を判断して、粘度を低下させる温度になっている場合に潤滑油の供給を行うようにしたもので、その他の工程は図2に示すフローチャートと同じである。
この外、上記運転開始時間からの所定時間や給油時間帯、さらには温度等を組み合わせることで、最適な給油を行うことができる。
ところで、上記実施の形態は、乗客コンベア設備として電動道路を一例に説明したが、乗客コンベア設備としてエスカレーターにも適用できるのは云うまでもない。乗客コンベア設備としてエスカレーターに適用した場合には、図1において説明した踏板2及び踏板チェーン9を、夫々踏段2及び踏段チェーン9と読み替えることで略同じ実施の形態とすることができる。
1…電動道路、2…踏板、3…欄干、4…移動手摺、5…駆動装置、6…潤滑油供給手段、7…制御手段、8…駆動スプロケット、9…踏板チェーン、10…枠体、11…手摺駆動装置、11R…挟圧ローラ、12…出力スプロケット、13…駆動チェーン、14…手摺駆動スプロケット、15…手摺駆動チェーン、16…タンク、17…給油ポンプ、18,M…電動機、20,22A〜22D…給油パイプ、23…駆動制御部、24…給油時期演算部、25…給油時期判断手段、26…温度計。