JP2006325554A - 遺伝子発現誘導によるストレス予防効果の付与方法 - Google Patents

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芳久 春日部
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Abstract

【課題】植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内で複数のストレス耐性遺伝子の発現量を簡便に増加させ、種々のストレス耐性を付与する方法を提供することである。
【解決手段】植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子および/またはスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により該植物を形質転換し、少なくとも1種以上のストレス耐性遺伝子の発現量を非形質転換体と比較して増加させることを特徴とするストレス予防効果の付与方法を提供する。

Description

本発明は、植物のストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する遺伝子の発現量を高める方法、及び該ストレス抵抗性に関与する遺伝子の発現量を高めることにより種々のストレス予防効果を付与する方法に関する。
植物はそれぞれの生息地の温度や塩などの様々な環境ストレスに適応して生活している。しかし、例えば温度ストレスにおいては、植物が生育適温の上限または下限を越えるような環境に遭遇すると高温ストレスや低温ストレスを受け、徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて障害をひきおこす。これまで、種々の温度環境に適応した野生の植物を食料作物や工芸作物などに利用するために、選抜や交雑育種など育種的手段によって作物の温度適応性の拡大に努めてきた。また、野菜や花卉、果樹等の園芸作物においては育種的手段に加えて、施設園芸で栽培可能な期間の拡大を図ってきた。しかし、特に日本は南北に長く、地域によっては気候が著しく異なるとともに、四季の変化が著しいので地域や季節によっては作物は生育に不適な温度環境にさらされる危険性が大きい。例えば、熱帯を起源とするイネは、明治以来の品種改良によって東北地方や北海道などの冷涼地でも栽培できるようになり、現在ではこれらの地域の基幹作物として栽培されているが、これらの地域では初夏に異常低温があると冷害を受け、著しい減収になることが現在でも問題になっている。近年、地球温暖化やエルニーニョ現象が原因と考えられる異常気象によって作物が重大な被害を受け、1993年のひどい冷害による米不足は記憶に新しい。また、野菜類についてみると、トマト、キュウリ、メロン、スイカなど果菜類の中には熱帯起源の作物が多い。これらの作物は需要が大きく農業経営上も重要性の大きい作物で早くから施設栽培に取り入れられてきた。しかし、昭和49年のオイルショック以来、施設園芸における省資源や暖房コストの低減が問題となっている。施設園芸における省資源については温室の構造的なものから栽培技術まで各方面から検討されているが、最も基本的なことは作物の低温ストレス耐性を高めることである。
高温ストレスについては植物にとって重要なストレスで、特に夏場の高温によって作物の生育や収量は著しく左右される。
塩ストレスについては全陸地面積の約10%が塩害地域といわれ、近年東南アジアやアフリカなどの乾燥地を中心に塩類土壌の拡大が農業上深刻な問題となっている。
乾燥ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は乾燥ストレスによって著しく左右される。
浸透圧ストレスや水ストレスは植物にとって重要なストレスで、温度が制限要因とならないときには降雨量とその分布によって大きな影響を受ける。特に、主要な作物栽培地域である半乾燥地帯などでは、作物の生育や収量は浸透圧ストレスや水ストレスによって著しく左右される。
種々のストレス耐性を高めるために交雑育種、最近の遺伝子工学技術を利用した育種、植物ホルモンや植物調節剤の作用を利用した方法等が行われている。
これまでに遺伝子工学技術を利用した、ストレス耐性植物の作出が行われている。低温ストレス耐性の改良に用いられた遺伝子としては、生体膜脂質の脂肪酸の不飽和化酵素遺伝子(ω−3デサチュラーゼ遺伝子、グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、ステアロイル−ACP−不飽和化酵素遺伝子)や光合成に関与するピルビン酸リン酸ジキナーゼ遺伝子、凍結保護・防止活性を持つタンパク質をコードする遺伝子(COR15、COR85、kin1)等が報告されている。
塩ストレスや乾燥・水ストレス耐性の改良に用いられた遺伝子としては、浸透圧調節物質のグリシンベタイン合成酵素遺伝子(コリンモノオキシゲナーゼ遺伝子、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子)、プロリン合成酵素遺伝子(1−ピロリン−5−カルボン酸シンテターゼ)等が報告されている。
ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する遺伝子の発現量を高めてストレス耐性を改良する方法としては転写因子(DREB遺伝子)をコードする遺伝子を利用する方法が報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。いずれの報告でも、恒常的にDREB遺伝子を植物で過剰発現させることによって、rd29A、kin1、P5CS等のストレス耐性遺伝子群の発現量が高まり乾燥ストレス、塩ストレスおよび凍結ストレス耐性が向上することが示されているが、成長阻害が強く見られ生育が停止して枯死する個体が観察など生育への悪影響が示されている。
DREB遺伝子以外のストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する遺伝子を植物に導入した事例もある。cold regulated protein / LEA proteinはlate embryogenesis abundant(LEA)proteinでストレスによって誘導されることが知られており、LEA protein遺伝子であるHV1をイネに導入することで乾燥や塩ストレス耐性が高まることが報告されている(非特許文献3)。pathogen related PR-1 proteinは病原菌感染によって誘導されるタンパク質でPR-1(pathogenesis-related protein 1)の一つであるCABPR1遺伝子をタバコに導入することで、重金属や病原菌感染ストレス耐性が高まることが報告されている(非特許文献4)。peroxidaseは植物の細胞壁酵素の一つ(EC 1.11.1.7)で傷害やストレスによって誘導されることが知られており、植物に導入することで酸化ストレスや害虫ストレス耐性が高まることが報告されている(非特許文献5, 非特許文献6)しかし、これらストレス耐性またはストレス抵抗性は、ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する遺伝子を植物に1種類導入することにより、多くとも2種類のストレス耐性が付与されるのみである。自然界においては複数のストレスが同時にかかるため、作物の生産性を向上させるためには、複数のストレスに対して抵抗性を向上させる必要がある。また、前述した遺伝子により形質転換した植物の多くは、実際には産業上利用可能な程度に十分な効果は得られておらず、実用化に至っていないのが現状である。
植物に導入していないが、ストレスとの関係が深く示唆されている遺伝子もある。cold regulated protein / cor15は低温ストレスによって誘導される遺伝子で凍結ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(非特許文献7,非特許文献8)。early response dehydration protein / ERD15は乾燥ストレスによって誘導される遺伝子で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(非特許文献9)。salt stress induced tonoplast intrinsic protein / aquaporinと遺伝子番号7のwater channel protein / aquaporinはストレスによって誘導される水チャンネルタンパク質で塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(非特許文献10,非特許文献11)。dehydration induced protein / RD22は乾燥ストレスによって誘導されるタンパク質で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(非特許文献12)。senescence associated protein sen1は老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレスによって誘導されるタンパク質で老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与することが報告されている(非特許文献13)。そのほかにも、ストレス耐性またはストレス抵抗性への関与が示されている遺伝子がある。これらの、遺伝子を植物体に導入すれば、それぞれの遺伝子に対応するストレス抵抗性は向上するが、同時に複数のストレス抵抗性を向上させることは難しい。
Nature Biotechnology, 17, 287-291, 1999、 The Plant Cell, 10, 1391-1406, 1998 Plant Physiology, 110, 249-257, 1996 Plant Cell Rep.,Feb 18, 2005 Plant Physiology, 132, 1177-1185, 2003 J. Econ. Entomol., 95(1), 81-88, 2002 Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13404-13409, 1996 Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 14570-14575, 1998 Plant Physiology, 106, 1707, 1994 Mol. Cells., 9(1), 84-90, 1999 Foods Food Ingredients J. Jpn., 176, 40-45 Plant Cell., 15(1), 63-78, 2003 Plant Physiology, 130, 2129-2141, 2002
環境問題や食糧問題から植物にストレス予防効果を付与することは極めて重要な課題であり、遺伝子組換え技術によってストレス耐性を改良する試みは幾つか行われているが、実際には産業上利用可能な程度に十分な効果は得られておらず、実用化に至っていないのが現状である。さらに、転写因子の一つであるDREBをコードする遺伝子を植物で過剰発現させることでストレス耐性遺伝子群の発現レベルを高めて、ストレス耐性が改良されているが、生育や生長に対して強い阻害効果が見られ、種子が採取できない等の問題がある。従って、本発明の目的は、ストレス遭遇前に植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内で複数のストレス耐性遺伝子の発現量を簡便に増加させ、種々のストレス予防効果を付与する方法を提供することである。
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意努力した結果、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子を単離して、該遺伝子を植物に導入してプロモーター制御下で過剰発現することによって、ストレス遭遇前にポリアミン量を増加させることにより植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内でストレス耐性に関与する複数の遺伝子の発現レベルを高め、且つ、種々のストレス耐性のパラメーターが改良されることを見出した。さらに、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子だけでなく、スペルミジン又はスペルミン含量をコントロールすることが可能なS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子でも同様にストレス耐性に関与する複数の遺伝子の発現レベルを高めてストレス予防効果を付与することで、種々のストレス耐性のパラメーターが改良されることを見出した。すなわち、本発明は、植物にストレス予防効果を付与することに関する。
1.植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子および/またはスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により該植物を形質転換し、少なくとも1種以上のストレス耐性遺伝子の発現量を非形質転換体と比較して増加させることを特徴とするストレス予防効果を植物へ付与する方法。
2.植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子および/またはスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により該植物を形質転換し、少なくとも1種以上のストレス耐性遺伝子の発現量を非形質転換体と比較して増加させ、ストレス耐性遺伝子の発現レベルが非形質転換植物(野性株)に比べて増加した形質転換植物を選抜することを特徴とするストレス予防効果を植物へ付与する方法。
3.ストレス耐性遺伝子が、以下の(a)〜(t)からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする1または2のストレス予防効果の付与方法:
(a)CBF1 / DREB1B transcription factor;
(b)cold regulated protein / LEA protein;
(c)cold regulated protein / cor15;
(d)pathogen related PR-1 protein;
(e)early response dehydration protein / ERD15;
(f)salt stress induced tonoplast intrinsic protein / aquaporin;
(g)water channel protein / aquaporin;
(h)dehydration induced protein / RD22;
(i)stress responsive protein;
(j)drought induced protein;
(k)low temperature and salt responsive protein;
(l)stress responsive protein;
(m)zinc finger protein;
(n)disease resistance protein;
(o)disease resistance protein;
(p)disease resistance protein;
(q)disease resistance protein;
(r)disease resistance protein;
(s)peroxidase;
(t)senescence associated protein sen1。
4.付与するストレス予防効果が、以下の(a)〜(m)からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする1〜3のいずれかのストレス予防効果の付与方法:
(a)低温ストレス;
(b)高温ストレス;
(c)塩ストレス;
(d)浸透圧ストレス;
(e)酸化ストレス;
(f)除草剤ストレス;
(g)凍結ストレス;
(h)乾燥ストレス;
(j)病原菌感染ストレス;
(k)害虫ストレス;
(l)傷害ストレス;
(m)老化ストレス。
5.ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.3〜10倍量の範囲内に発現させることを特徴とする1〜4のいずれかのストレス予防効果の付与方法。
6.ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.4〜8倍量の範囲内に発現させることを特徴とする1〜5のいずれかのストレス予防効果の付与方法。
7.ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.5〜5倍量の範囲内に発現させることを特徴とする1〜6のいずれかのストレス予防効果の付与方法。
8.外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、植物由来であることを特徴とする1または2のストレス予防効果の付与方法。
9.外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子であることを特徴とする1、2または8のストレス予防効果の付与方法。
(a)配列番号1(SPDS,1328)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
10.外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子であることを特徴とする1、2または8のストレス予防効果の付与方法。
(a)配列番号3(SPDS,1560)に示される塩基配列中塩基番号118〜1281で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
11.外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子であることを特徴とする1または2のストレス予防効果の付与方法。
(a)配列番号5(SAMDC,1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
12.外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子であることを特徴とする1または2のストレス予防効果の付与方法。
(a)配列番号7(ADC,3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
13.外因性スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミン合成酵素遺伝子であることを特徴とする1または2のストレス予防効果の付与方法。
(a)配列番号9(SPMS,1020)に示される塩基配列中塩基番号1〜1020で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
本発明により、植物のストレス耐性を改良することができ、植物の生育および生長過程において遭遇する様々なストレスによる障害の回避や生長抑制を軽減することができ栽培の安定化、生産性の向上、栽培地域の拡大、栽培期間の拡大などが期待できる。不毛地域や塩類集積土壌でも植物の栽培が可能となり地球温暖化や食糧問題に対して貢献が期待できる。
本発明において「ストレス」とは、環境からうけるあらゆるストレスで、例えば高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤、老化などを指す。
本発明において「非形質転換体」または「非形質転換植物」、とは該外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、およびスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子を導入する前のあらゆる植物を意味する。従って、いわゆる野生種のほか、通常の交配によって樹立された栽培品種、それらの自然または人工変異体、並びにスペルミジン合成酵素遺伝子以外の外因性遺伝子を導入されたトランスジェニック植物などをすべて包含する。
ポリアミン合成酵素遺伝子
本発明においては、ポリアミン合成酵素遺伝子を植物に導入することで、ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する複数の遺伝子の発現量を高めることを思いがけず見いだした。さらに、ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する複数の遺伝子の発現量が高まることでストレス予防効果を与えて、複数のストレス耐性またはストレス抵抗性が付与されることを見いだした。特に、ポリアミン合成酵素遺伝子のなかでも、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子のようなスペルミジン又はスペルミン含量を増加させることが可能なポリアミン合成酵素遺伝子により植物を形質転換させることで、植物の生育や生長には影響を及ぼさない範囲内で複数のストレス耐性遺伝子の発現量を増加させ、種々のストレス予防効を付与する方法を見いだした。本明細書では、SPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子、およびSPMS遺伝子を総称して、「ポリアミン合成酵素遺伝子」と呼ぶことがある。従って、「ポリアミン合成酵素遺伝子」には、SPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子、およびSPMS遺伝子が包含される。
本発明において「スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子」とは、スペルミジン又はスペルミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、スペルミジンの直前の律速酵素である。スペルミジン合成酵素(SPDS:spermidine synthase EC2.5.1.16.)はプトレシンとアデノシルメチルチオプロピルアミンからスペルミジンとメチルチオアデノシンを生成する反応を触媒する酵素である。「アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子」とは、スペルミジン又はスペルミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子である。アルギニン脱炭酸酵素(ADC:arginine decarboxylase EC4.1.1.19.)はL−アルギニンからアグマチンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。「S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子」とは、スペルミジン又はスペルミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、スペルミジンの律速酵素である。S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC:S-adenosylmethionine decarboxylase EC4.1.1.50.)はS−アデノシルメチオニンからアデノシルメチルチオプロピルアミンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。「オルニチン脱炭酸酵素遺伝子」とは、スペルミジン又はスペルミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子である。オルニチン脱炭酸酵素(ODC:ornithine decarboxylase EC4.1.1.17.)はL−オルニチンからプトレシンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。「スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子」とは、スペルミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、スペルミンの直前の律速酵素である。スペルミジン合成酵素(SPDS:spermidine synthase EC2.5.1.16.)はプトレシンとアデノシルメチルチオプロピルアミンからスペルミジンとメチルチオアデノシンを生成する反応を触媒する酵素である。本発明を実施するにあたって、最も好ましい「ポリアミン合成酵素遺伝子」はSPDS遺伝子である。
これらの遺伝子は、ストレス耐性遺伝子の発現量を生育に対して悪影響を及ばさない範囲内で高めることができれば、いずれの由来であってもよく、植物、微生物、動物などが挙げられる。既に単離されている遺伝子を用いても良い。例えば、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子については植物から既に幾つか単離されている。シロイヌナズナやタバコ(Plant Cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998)、トマト(Plant Physiol., 120, 935, 1999)、コーヒー(Plant Science., 140, 161-168, 1999)、エンドウ(Plant Molecular Biology, 39, 933-943, 1999)、リンゴ(Mol. Gen. Genomics, 268, 799-807, 2003)、クロダネカボチャ(WO02/23974, WO03/84314)等から単離されている。さらに、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子をモデル植物であるタバコへの導入が試みられており、ポリアミン含量の変化については調べられているが、ストレス耐性遺伝子の発現レベルや種々の環境ストレス耐性の改良については調べられていない(Joural of Plant Physiology, 161, 989-1001, 2004)。アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子はエンバク(Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(Plant Physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、クロダネカボチャ(WO02/23974, WO03/84314)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子はジャガイモ(Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、クロダネカボチャ(WO02/23974, WO03/84314)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、スペルミン合成酵素(SPMS)はシロイヌナズナ(EMBO J., 19, 4248-4256, 2000)から単離されている。
本発明に従えば、微生物から単離したポリアミン合成酵素遺伝子がDREB、CBF1、LEA、COR等のストレス耐性遺伝子を非形質転換体と比較して1.1〜6倍量の範囲内で発現させることができる。好ましくは、微生物から単離したポリアミン合成酵素遺伝子がDREB、CBF1、LEA、COR等のストレス耐性遺伝子を非形質転換体と比較して1.5〜5倍量の範囲内で発現させることができる。より好ましくは、微生物から単離したポリアミン合成酵素遺伝子がDREB、CBF1、LEA、COR等のストレス耐性遺伝子を非形質転換体と比較して1.5〜4倍量の範囲内で発現させることができる。
さらに、ポリアミン合成酵素遺伝子を、種々の植物からも単離することもできる。具体的には、双子葉植物、例えばウリ科;ナス科;シロイヌナズナ等のアブラナ科;アルファルファ、カウピー(Vigna unguiculata)等のマメ科;アオイ科;キク科;アカザ科;ヒルガオ科からなる群から選ばれたもの、又は単子葉植物、例えばイネ、小麦、大麦、トウモロコシ等のイネ科などが含まれる。好ましくは、ウリ科植物、アブラナ科、イネ科、より好ましくはクロダネカボチャ、シロイヌナズナ、イネがよい。
本発明では、ポリアミン合成酵素遺伝子を取得するための最適な条件をも見いだしたので、併せて開示する。すなわち、本発明のポリアミン合成酵素遺伝子を単離する植物組織としては種子形態、または生育過程にあるものである。生育中の植物は全体、あるいは部分的な組織から単離することができる。単離することができる部位としては、特に限定はされないが、好ましくは植物の全樹、蕾、花、子房、果実、葉、茎、根などである。さらに好ましくは根、葉などである。
本発明において使用される好ましいポリアミン合成酵素遺伝子として、スペルミジン合成酵素遺伝子を挙げることができる。具体的には、
・配列番号1(クロダネカボチャ)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号3(イネ)に示される塩基配列中塩基番号118〜1281で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号5(クロダネカボチャ)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号7(クロダネカボチャ)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号9(シロイヌナズナ)に示される塩基配列中塩基番号1〜1020で示される塩基配列を有するDNA
が挙げられる。さらに、
・該上記いずれかの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のスペルミジン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。更に、
・該上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のスペルミジン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
なお、「ポリアミン合成酵素遺伝子」は、公知の遺伝子並びに該遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のポリアミン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを包含する。更に、上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のポリアミン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを包含する。
ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、特定ポリアミン合成酵素遺伝子(例えばスペルミジン合成酵素遺伝子)配列にコードされるポリアミン合成酵素(例えばスペルミジン合成酵素)と同等の酵素活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列が該特定配列とハイブリット(いわゆる特異的ハイブリット)を形成し、同等の活性を有しないポリペプチドをコードする塩基配列は該特定配列とハイブリット(いわゆる非特異的ハイブリット)を形成しない条件を意味する。当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは50%ホルムアミド、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.1×SSCにより洗浄する条件が挙げられる
ここでいう「1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列」とは、一般的に生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列において1個もしくは複数のアミノ酸が置換、削除、挿入または付加された場合であっても、その生理活性が維持される場合があることは当業者において広く認識されている。本発明にはこのような修飾が加えられ、かつポリアミン合成酵素(例えばスペルミジン合成酵素)をコードする遺伝子も本発明で使用することができる。例えば、polyAテールや5’、3’末端の非翻訳領域が「欠失」されてもよいし、アミノ酸を欠失するような範囲で塩基が「欠失」されてもよい。また、フレームシフトが起こらない範囲で塩基が「置換」されてもよい。また、アミノ酸が付加されるような範囲で塩基が「付加」されてもよい。但し、そのような修飾があっても、ポリアミン合成酵素(例えばスペルミジン合成酵素)活性を有することが必要である。好ましくは、「1又は数個の塩基が欠失、置換又は付加された遺伝子」がよい。
このような改変されたDNAは例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
ポリアミン
ポリアミンは第1級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素の総称で生体内に普遍的に存在する天然物であり、20種類以上のポリアミンが見いだされている。代表的なポリアミンとしてはプトレシン、スペルミジン、スペルミンがある。ポリアミンの主な生理作用としては(1)核酸との相互作用による核酸の安定化と構造変化(2)種々の核酸合成系への促進作用(3)タンパク質合成系の活性化(4)細胞膜の安定化や物質の膜透過性の強化などが知られている。植物におけるポリアミンの役割としては細胞増殖や分裂時に核酸、タンパク質生合成の促進効果や細胞保護が報告されている。本発明で言うところの「スペルミジン」は代表的なポリアミンの一つで生物体内に普遍的に存在する一般的な天然物であり、第一級アミノ基を3つもつ脂肪族炭化水素化合物である。
近年、ポリアミンの種々の環境ストレスに対する関わりが報告されている。低温ストレス(J. JapanSoc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999、J. JapanSoc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999、Plant Physiol. 124, 431-439, 2000)、塩ストレス(Plant Physiol., 91, 500-504, 1984)、酸ストレス(Plant Cell Physiol., 38(10), 156-1166, 1997)、浸透ストレス(Plant Physiol. 75, 102-109, 1984)、病原菌感染ストレス(New Phytol., 135, 467-473, 1997)、除草剤ストレス(Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998)などとの関わりが報告されているが、いずれの報告も生長発育反応やストレス抵抗性とポリアミン濃度の変化の関連性からポリアミンの関与を推定したものであり、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子と環境ストレス耐性との遺伝子レベルでの関与については十分に調べられていなかった。
他に、ポリアミン合成酵素遺伝子を植物に導入した事例はあるが、ストレス耐性遺伝子の発現量調節については検討がなされていない。例えば、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子により植物を形質転換した報告はタバコで示されている(非特許文献16:Joural of Plant Physiology, 161, 989-1001, 2004)。シロバナヨウシュチョウセンアサガオ由来のSPDS遺伝子をタバコに恒常的に過剰発現させて、ポリアミン含量の変化を調べられている。しかし、ストレス耐性遺伝子の発現量の変化やストレス耐性については全く示されていない。スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子により植物を形質転換させることで、ストレス耐性遺伝子群の発現量を高めることによりストレス耐性を付与する方法はこれまでに報告されていない。また、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により植物を形質転換させることで、ストレス耐性遺伝子群の発現量を高めてストレス耐性を付与する方法も、これまでに報告されていない。加えて、植物への導入が試みられており、ポリアミン含量の変化については調べられているが、ストレス耐性遺伝子の発現レベルと種々の環境ストレス耐性の改良については調べられていない。
本発明においてはじめて、ポリアミン合成酵素遺伝子とストレス耐性遺伝子の発現レベルと種々の環境ストレス耐性の改良の関係が開示された。
本発明者らは植物のストレス耐性を改良するために鋭意検討した結果、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子により植物を形質転換することによって、ストレス遭遇前にスペルミジン又はスペルミン含量が増加し、増加したスペルミジン又はスペルミンの作用によりストレス耐性遺伝子の発現レベルを高めてストレス予防効果を付与することが種々のストレス耐性の付与又は改良にとって極めて重要であることを見出した。理論により拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、(1)SPDS遺伝子による植物の形質転換によって増加したスペルミジン又はスペルミンはセカンドメッセンジャー(シグナル伝達物質)として作用し、シグナル伝達に関与するプロテインキナーゼを活性化することでストレス耐性遺伝子の発現を誘導する、(2)SPDS遺伝子による植物の形質転換によって増加したスペルミジン又はスペルミンがポリアミン酸化酵素(PAO)の反応により生じた過酸化水素(ROS)がシグナル伝達を活性化することでストレス耐性遺伝子の発現を誘導すると考えている。ストレス耐性遺伝子の発現レベルの誘導や増加にはスペルミジン又はスペルミン含量の増加とその作用が重要であることから、スペルミジン又はスペルミン含量を増加させることができるS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子でも、同様にストレス耐性遺伝子の発現レベルを高める効果が得られる。ストレス耐性遺伝子の発現レベルを高める時期は恒常的、非ストレス条件下、ストレス条件下のいずれでもよいが、特に恒常的または非ストレス条件下において植物の生育や生長に対して影響を及ぼさない範囲内でストレス耐性遺伝子の発現量を高めて、植物にストレス遭遇前にあらかじめ(事前に)ストレス予防効果を付与させること(防御効果またはワクチン様効果)が重要で、そのことによってストレス遭遇時に種々のストレスに対してより優れた耐性や抵抗性を示すことを本発明者は見出した。さらに、SPDS、SAMDC、ADC、ODC、SPMS等の遺伝子を植物に導入してプロモーター制御下で過剰発現させることで、生育や生長に対して影響を及ぼさない範囲内で、DREB、CBF1、COR等のストレス耐性遺伝子の発現レベルを高めることでストレス予防効果を与えて、それにより種々のストレス耐性のパラメーターが改良され、生産性(例えば収量)や形質が向上することを見出して本発明を完成するに至った。なお、本明細書で引用された文献は、その全体が参考として援用される。
ストレス耐性遺伝子
本発明において「ストレス耐性遺伝子」とは、植物がストレスに遭遇した時に発現誘導又は発現量が増加する遺伝子であり、ストレス耐性に関与若しくは関係している遺伝子である。例えば以下の表の遺伝子が挙げられる。
遺伝子番号1のCBF1 / DREB1B transcription factorはストレスによって誘導される転写因子の一つで、植物に導入することで乾燥、塩、凍結、低温などの種々の環境ストレス耐性が高まることが報告されている(The Plant Cell, 10, 1391-1406, 1998, Nature Biotechnology, 17, 287-291, 1999, Plant Physiology, 124, 1854-1865, 2000, Plant Physiology, 130, 639-648, 2002, Plant Physiology, 130, 618-626, 2002)。
遺伝子番号2のcold regulated protein / LEA proteinはlate embryogenesis abundant(LEA)proteinでストレスによって誘導されることが知られており、LEA protein遺伝子であるHV1をイネに導入することで乾燥や塩ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Physiology, 110, 249-257, 1996)。
遺伝子番号3のcold regulated protein / cor15は低温ストレスによって誘導される遺伝子で凍結ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13404-13409, 1996, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 14570-14575, 1998)。
遺伝子番号4のpathogen related PR-1 proteinは病原菌感染によって誘導されるタンパク質でPR-1(pathogenesis-related protein 1)の一つであるCABPR1遺伝子をタバコに導入することで、重金属や病原菌感染ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Cell Rep.,Feb 18, 2005)。
遺伝子番号5のearly response dehydration protein / ERD15は乾燥ストレスによって誘導される遺伝子で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Plant Physiology, 106, 1707, 1994)。
遺伝子番号6のsalt stress induced tonoplast intrinsic protein / aquaporinと遺伝子番号7のwater channel protein / aquaporinはストレスによって誘導される水チャンネルタンパク質で塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Mol. Cells., 9(1), 84-90, 1999, Foods Food Ingredients J. Jpn., 176, 40-45)。
遺伝子番号8のdehydration induced protein / RD22は乾燥ストレスによって誘導されるタンパク質で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Plant Cell., 15(1), 63-78, 2003)。
遺伝子番号1〜8の遺伝子は、本発明において発現量が高められる重要なストレス耐性遺伝子である。
遺伝子番号の9、10、11、12、13はストレスによって誘導されるタンパク質でストレス耐性への関与が示唆されている。
遺伝子番号の14、15、16、17、18は傷害ストレスによって誘導されるタンパク質で傷害ストレス耐性への関与が示唆されている。
遺伝子番号の19のperoxidaseは植物の細胞壁酵素の一つ(EC 1.11.1.7)で傷害やストレスによって誘導されることが知られており、植物に導入することで酸化ストレスや害虫ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Physiology, 132, 1177-1185, 2003, J. Econ. Entomol., 95(1), 81-88, 2002)
遺伝子番号20のsenescence associated protein sen1は老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレスによって誘導されるタンパク質で老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与することが報告されている(Plant Physiology, 130, 2129-2141, 2002)。
遺伝子番号19,20の遺伝子はまた、本発明において発現量が高められる重要なストレス耐性遺伝子である。
ストレス予防効果の付与
本発明において、「ストレス」としては、上述のごとく、高温、低温、低pH、低酸素、酸化、塩、浸透圧、乾燥、水、冠水、カドミウム、銅、オゾン、大気汚染、紫外線、強光、弱光、病原体、病原菌、害虫、除草剤、老化などの環境から受けるストレスが例示される。この中で「高温ストレス」とは、植物の生育適温度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、高温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「低温ストレス」とは、植物の生育適温度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、低温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「塩ストレス」とは、植物の生育適塩濃度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、塩ストレスを受けた植物は過剰な塩が細胞内に流入して徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「浸透圧ストレス」とは、植物の生育適浸透圧の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、浸透圧ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「乾燥ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、乾燥ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「水ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、水ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「弱光ストレス」とは、植物の生育適光強度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、弱光ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「除草剤ストレス」とは、植物の生育適除草剤濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、除草剤ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「病原菌ストレス」とは、植物の生育不適な病原菌に感染又は罹病することによって植物が受けるストレスであり、病原菌ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「害虫ストレス」とは、植物不適な害虫に遭遇あるいは食害あるいは感染することによって植物が受けるストレスであり、害虫ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。
本発明において、「ストレス予防効果の付与方法」とは、植物に外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を導入することによって、導入前に比してストレス予防効果を付与させる方法をいう。具体的には、「低温ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、生育過程において遭遇する低温ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「高温ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、生育過程において遭遇する高温ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「塩ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する塩ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「浸透圧ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、生育過程において遭遇する浸透圧ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「酸化ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する酸化ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「除草剤ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する除草剤ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「凍結ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する凍結ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「乾燥ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する乾燥ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「病原菌ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する病原菌ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「害虫ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する害虫ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「傷害ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する傷害ストレスによる生長抑制、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。「老化ストレス予防効果の付与方法」とは、植物にストレス予防効果を付与することで、植物の生育過程において遭遇する老化ストレスによる生長抑制、傷害、生産性低下を回避若しくは低減することができる方法である。ストレス耐性遺伝子の発現量を指標としてまたはコントロールすることにより、栽培の安定化、生産性、収量の向上、栽培・環境・期間・地域・面積の有効利用などが期待できる。さらに、植物の生産性や収量が高まることによって、植物から得られる種々の有用物質(澱粉、タンパク質等)の生産性の向上も期待することができる。また、ストレス耐性遺伝子の発現量を指標として栽培有効作物の選定・診断方法にも利用できる。
本発明の付与方法は、該外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を有していない植物に、遺伝子工学的手法により外因性ポリアミン合成酵素遺伝子が導入され、且つ安定に保持されたものである。ここで「安定に保持される」とは、少なくともポリアミン合成酵素遺伝子が導入された当代の植物体で該ポリアミン合成酵素遺伝子が発現し、それによってストレス耐性が改良するのに十分な期間、該植物細胞内に保持されることをいう。従って、現実的には、該ポリアミン合成酵素遺伝子は宿主植物の染色体上に組み込まれるのが好ましい。該ポリアミン合成酵素遺伝子は次世代に安定に遺伝することがより好ましい。
また、ここで「外因性」とは、植物が生来有しておらず、外部より導入されたものを意味する。従って、本発明の「外因性ポリアミン合成酵素遺伝子」は、遺伝子操作により外部より導入される、宿主植物と同種の(すなわち、該宿主植物由来の)ポリアミン合成酵素遺伝子であってもよい。コドン使用(codon usage)の同一性を考慮すれば、宿主由来のポリアミン合成酵素遺伝子の使用もまた好ましい。
外因性ポリアミン合成酵素遺伝子はいかなる遺伝子工学的手法によって植物に導入されてもよく、例えば、ポリアミン合成酵素遺伝子を有する異種植物細胞とのプロトプラスト融合、ポリアミン合成酵素遺伝子を発現するように遺伝子操作されたウイルスゲノムを有する植物ウイルスによる感染、あるいはポリアミン合成酵素遺伝子を含有する発現ベクターによる宿主植物細胞の形質転換が挙げられる。
好ましくは、本発明のストレス耐性が付与された植物は、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換することにより得られる、トランスジェニック植物である。
植物中で機能し得るプロモーターとしては、例えば、植物細胞で機能するカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)プロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子(OCS)プロモーター、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)遺伝子プロモーター、カルコンシンターゼ(CHS)遺伝子プロモーター、ペルオキシダーゼ遺伝子プロモーター等を挙げることができる。さらにこれらに限定されない公知の植物プロモーターも挙げられる。
恒常性タイプのプロモーターとしては、CaMV35Sプロモーター、アクチンプロモーター(Plant Cell, 2, 163-171, 1990)、ユビキチンプロモーター(Plant Mol. Biol., 18, 675-689, 1992)、イネサイクロフィリンプロモーター(Plant Mol. Biol., 25, 837-843, 1994)のような器官全体に恒常的または構成的に発現させるプロモーターだけでなく、器官または組織特異的プロモーターを用いれば、特定の器官、又は組織だけに目的遺伝子を発現させることができ、特定の器官又は組織だけストレス予防効果を付与することができる。葉組織特異的プロモーターとしては、aldPプロモーター(Mol. Gen. Genet., 248, 668-674, 1995)、rbcsプロモーター(Plant Cell Physiol., 35, 773-778, 1994)、花組織特異的プロモーターとしては、chsAカルコンシンターゼプロモーター(Plant Mol. Biol., 15, 95-109, 1990)、LAT52プロモーター(Mol. Gen. Genet., 217, 240-245, 1989)、根・塊根・塊茎組織特異的プロモーターとしては、SbPRP1プロモーター(Plant Mol. Biol., 21, 109-119, 1993)、スポラミンプロモーター(Mol. Gen. Genet., 225, 369, 1991)などが利用できる。例えばポリアミン合成酵素遺伝子と塊根に特異的に働くスポラミンプロモーターを用いることによって、塊根のみでストレス予防効果を付与することができる。
誘導性タイプのプロモーターとしては、ストレス誘導性プロモーター、温度誘導性プロモーター、光誘導性プロモーター、時期誘導性プロモーター、病原体誘導性プロモーター、傷害誘導性プロモーター等を用いることができる。例えば、ポリアミン合成酵素遺伝子と植物が低温に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、BN115プロモーター:Plant physiol.,106, 917-928, 1999)を用いることによって、低温時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し低温ストレス予防効果を付与することができる。ポリアミン合成酵素遺伝子と植物が乾燥に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーター(例えば、Atmyb2プロモーター:The Plant Cell, 5, 1529-1539, 1993)を用いることによって、乾燥時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し乾燥ストレス予防効果を付与することができる。種々のストレスで誘導されるペルオキシダーゼプロモーター(特許第3571639号、特許第3259178号)を用いることによって、種々のストレス時に植物体のポリアミン代謝を制御し種々のストレス予防効果を付与することができる。さらにポリアミン合成酵素遺伝子と栄養生長期に働くプロモーターを用いることによって、栄養生長期のみでストレス予防効果を付与することができる。
好ましくはストレス遭遇前に植物の生育や生長に対して影響を及ぼさない範囲内でストレス耐性遺伝子の発現量を高めて、植物にあらかじめ(事前に)ストレス予防効果を付与させること(防御効果またはワクチン様効果)がストレス耐性付与に特に重要との考えから、恒常的、構成的プロモーター、器官または組織特異的プロモーター、生長や生育に応じた時期特異的なプロモーターである。特に好ましくは、恒常的、構成的プロモーターである。
本発明の発現ベクターにおいて、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子は、植物中で機能し得るプロモーターによりその転写が制御されるように、該プロモーターの下流に配置される。該ポリアミン合成酵素遺伝子の下流には、植物で機能し得る転写終結シグナル(ターミネーター領域)がさらに付加されていることが好ましい。例えば、ターミネーターNOS(ノパリン合成酵素)遺伝子等が挙げられる。
本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列等のシス調節エレメントをさらに含んでもよい。また、該発現ベクターは、薬剤耐性遺伝子マーカーなどの形質転換体選抜のためのマーカー遺伝子、例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、ホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼ(PAT)遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子等をさらに含んでもよい。選択圧をかけない条件では、組み込まれた遺伝子が脱落する現象が起こる場合があるので、除草剤耐性遺伝子をベクター上で共存させておけば、栽培中該除草剤を使用することにより、常に選択圧がかかった条件を実現できるという利点もある。
さらに、大量調製および精製を容易にするために、該発現ベクターは、大腸菌での自律複製を可能にする複製起点および大腸菌での選択マーカー遺伝子(例えばアンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子等)を含むことが望ましい。本発明の発現ベクターは、簡便には、pUC系またはpBR系の大腸菌ベクターのクローニング部位に上記ポリアミン合成酵素遺伝子の発現カセットと必要に応じて選択マーカー遺伝子を挿入することにより構築することができる。
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)による感染を利用して外因性ポリアミン合成酵素遺伝子を導入する場合には、該細菌が保持するTiまたはRiプラスミド上のT−DNA領域(植物染色体に転移する領域)内に該ポリアミン合成酵素遺伝子発現カセットを挿入して用いることができる。現在、アグロバクテリウム法による形質転換の標準的な方法ではバイナリーベクター系が使用される。T−DNA転移に必要な機能は、T−DNA自身とTi(またはRi)プラスミドの両者から独立に供給され、それぞれの構成要素は別々のベクター上に分割できる。バイナリープラスミドはT−DNAの切り出しと組込みに必要な両端の25bpボーダー配列を有し、クラウンゴール(または毛状根)を引き起こす植物ホルモン遺伝子が除去されており、同時に外来遺伝子の挿入余地を与えている。このようなバイナリーベクターとして、例えばpBI101やpBI121(Clontech社製)などが市販されている。なお、T−DNAの組込みに作用するVir領域は、ヘルパープラスミドと呼ばれる別のTi(またはRi)プラスミド上にあってトランスに作用する。
植物の形質転換には、従来公知の種々の方法を使用することができる。例えば、セルラーゼやヘミセルラーゼなどの細胞壁分解酵素処理により、植物の細胞からプロトプラストを単離し、該プロトプラストと上記ポリアミン合成酵素遺伝子の発現カセットを含む発現ベクターとの懸濁液にポリエチレングリコールを加えてエンドサイトーシス様の過程で該発現ベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(PEG法)、ホスファチジルコリン等の脂質膜小胞内に超音波処理等により発現ベクターを入れ、該小胞とプロトプラストをPEG存在下に融合させる方法(リポソーム法)、ミニセルを用いて同様の過程で融合させる方法、プロトプラストと発現ベクターの懸濁液に電気パルスを印加して外液中のベクターをプロトプラスト内に取り込ませる方法(エレクトロポレーション法)が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、プロトプラストから植物体へ再分化させる培養技術を必要とする点で煩雑である。細胞壁を有するインタクトな細胞への遺伝子導入手段としては、マイクロピペットを細胞に刺し込み、油圧やガス圧でピペット内のベクターDNAを細胞内に注入するマイクロインジェクション法、およびDNAをコーティングした微小金粒子を火薬の爆発やガス圧を利用して加速し、細胞内に導入するパーティクルガン法等の直接導入法と、アグロバクテリウムによる感染を利用した方法とがある。マイクロインジェクションは操作に熟練を要し、また、扱える細胞数が少ないという欠点がある。従って、操作の簡便性を考慮すれば、アグロバクテリウム法および、パーティクルガン法により植物を形質転換することが好ましい。パーティクルガン法は、栽培中の植物の頂端分裂組織に直接遺伝子を導入することが可能である点さらに有用である。また、アグロバクテリウム法において、バイナリーベクターに植物ウイルス、例えばトマトゴールデンモザイクウイルス(TGMV)等のジェミニウイルスのゲノムDNAをボーダー配列の間に同時に挿入することにより、栽培中の植物の任意の部位の細胞に注射筒などを用いて菌懸濁液を接種するだけで、植物体全体にウイルス感染が拡がり、同時に目的遺伝子も植物体全体に導入される。これらの方法は、当該分野に置いて周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当該者により適宜選択され得る。
具体的方法の例示
以下に、ポリアミン合成酵素遺伝子の具体例として、SPDS遺伝子の取得方法とアグロバクテリウムによる目的核酸配列の導入および形質転換植物の作出方法を例示するが、これにより、本発明が限定されるものではない。SPDS遺伝子以外のポリアミン合成酵素遺伝子も同様に取得することができる。
1.SPDS遺伝子の取得
(1)PCR用cDNAライブラリーの作製
低温処理を行ったクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)の根組織やイネ(Oryza sativa)の幼苗から常法に従い、poly(A)+RNAを抽出する。単離したpoly(A)+RNAから市販のMarathon cDNA Amplification Kit(CLONTECH社製)等を用いてPCR用に使用するcDNAライブラリーを作製することができる。単離したpoly(A)+RNAを鋳型として、3’末端に2つのdegenerate nucleotide positionを持つ修飾lock−docking oligo(dT)プライマーと逆転写酵素を用いてfirst−strand cDNAを合成し、ポリメラーゼ反応によって2本鎖化したcDNAを得る。該2本鎖cDNAをT4 DNA ポリメラーゼにより末端を平滑化し、Marathon cDNAアダプターをライゲーション反応により結合させ、アダプター結合二本鎖cDNAライブラリーを作製する。
(2)PCRプライマーの設計
ポリアミン合成酵素遺伝子としてSPDS遺伝子を単離することができる。SPDS遺伝子はシロイヌナズナ、エンドウ、トマト等から単離されており、既に塩基配列が決定している。従って、決定している既知の塩基配列を比較し、非常に保存されている領域を選抜し、DNAオリゴマーを合成しPCR用プライマーを設計することができる。
(3)PCRによるSPDS遺伝子断片の取得
上記(1)の方法で作製したPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、上記(2)の方法で設計したプライマーを使用して、それぞれPCRを行う。PCR産物をゲル電気泳動で分離し、グラスミルク法などで精製する。精製したPCR産物はTAベクターなどのクローニングベクターに連結させる。
クローン化されたcDNAの塩基配列の決定は、Maxam−Gilbert法あるいはダイデオキシ法等により決定できる。いずれの方法も市販されているキットを用いて行うことができ、配列決定を自動的に行うオートシーケンサーを使用してもよい。
(4)完全長遺伝子の単離
完全長の遺伝子を得るためには、常法に従って、プラークハイブリダイゼーション、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法やMarathon RACE法等により完全長の遺伝子を得ることができる。
このようにして取得した遺伝子は、スペルミジン又はスペルミン生合成に関与する遺伝子であり、この遺伝子を利用して巧妙に、即ち、遺伝子発現を分子生物学的に制御することにより、スペルミジン又はスペルミンレベルやストレス耐性遺伝子の発現レベルの制御が可能となり、種々の環境ストレス抵抗性が改良された植物の作出も可能になる。
2.シロイヌナズナにおけるアグロバクテリウムによる目的核酸配列の導入、および形質転換植物の作出
上記1.で取得した遺伝子から得られた核酸配列を植物宿主に導入することにより、ストレス耐性遺伝子の発現レベルを高めて、種々の環境ストレス抵抗性が改良された特性を有するトランスジェニック植物を作出することができる。
(1)発現コンストラクトの作製および、アグロバクテリウムの形質転換
発現コンストラクトの作製は前記1.で得られたポリアミン合成酵素遺伝子の核酸配列をオープンリーディングフレームをすべて含むような適当な制限酵素で切断後、必要に応じて適当なリンカーを連結し、植物形質転換用ベクターに挿入して作製することができる。植物形質転換用ベクターとしては、pBI101、pBI121などを用いることができる。
作製した発現コンストラクトを大腸菌中で増幅後、発現コンストラクトをアグロバクテリウム・ツメファシエンスC58、LBA4404、EHA101等に、三者接合法(Nucleic Acid Research, 12, 8711, 1984)、凍結融解法、エレクトロポレーション法等により形質転換することができる。例えば、三者接合法は目的核酸配列を含んだ発現コンストラクトを保有する大腸菌、ヘルパープラスミド(例えばpRK2013等)を保有する大腸菌、およびアグロバクテリウムを混合培養して、抗生物質(例えばリファピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン等)を含んだ培地上で培養することによって形質転換アグロバクテリウムを得ることができる。
(2)トランスジェニック植物の作出
本発明において、遺伝子導入を行う植物としては、植物体全体、植物器官(例えば葉、茎、根、花器、生長点、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞などを挙げることができる。
(1)で作製した形質転換アグロバクテリウムを例えばカルス再生法(Plant Cell Reports, 12, 7-11, 1992)で植物に感染させて目的核酸配列を導入することができる。すなわち、シロイヌナズナの種子を常法に従って、MSOプレート(ムラシゲ・スクーグ無機塩類4.6g、ショ糖10g、1000×ビタミンストック液1ml/リットル、pH6.2)に播種し、無菌的に栽培する。発根した根の切片を用いてCIMプレート(MSOプレートに2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を終濃度0.5μg/ml、カイネチンを0.05μg/mlとなるように加えたもの)上でカルス培養を行う。プロモーターに目的核酸配列を接続し、カナマイシン及びハイグロマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドにより形質転換したアグロバクテリウムを培養し、希釈したものをチューブに分注し、カルス化した根の切片を浸し、数日間CIMプレート上で共存培養する。菌株が肉眼で観察できるまで十分に増殖したら、除菌操作を行い、SIMCプレート(MSOプレートに、N6-[2-イソペンテニル] アデニンを終濃度5μg/ml、インドール酢酸(IAA)を終濃度0.15μg/ml、クラフォランを終濃度500μg/mlとなるように加えたもの)上で数日間培養を行う。これらの切片を最終的にSIMCSプレート(カナマイシンおよびハイグロマイシンBを含有するプレート)上で培養し、1週間ごとに新しいプレートに移植を繰り返す。形質転換した切片は増殖を続け、カルスが現れてくる。抗生物質で選択しているため、非形質転換切片は褐変する。形質転換体が5mm程度の大きさになり、ロゼット葉を形成するまで培養する。完全なロゼットの形状を示すようになったら、形質転換体の根元をカルス部分を含まないようにメスで切り取り、RIMプレート(MSOプレートにIAAを終濃度0.5μg/mlとなるように加えたもの)に移植する。大きなカルスが付いていると、発根してもカルスを介して根が出ていて、ロゼットとは維管束がつながっていないことが多い。約8〜10日後、無機塩類培地〔5mM KNO3 、2.5mM K−リン酸緩衝液(pH5.5)、2mM MgSO4 、2mM Ca(NO3 )2 、50μM Fe−EDTA、1000×微量要素(70mM H3 BO3 、14mM MnCl2 、0.5mM CuSO4 、1mM ZnSO4 、0.2mM NaMoO4 、10mM NaCl、0.01mM CoCl2 )1ml/リットル〕に浸したロックウール上に定植する。開花し、さやを形成した植物体は無機塩類培地に浸した土に移植し、種子を得ることができる。この種子を滅菌処理し、MSH(MSOプレートのハイグロマイシンBを終濃度5U/mlとなるように加えたもの)に播種して発芽させることにより形質転換体を得ることができる。
さらに、(1)で作製した形質転換アグロバクテリウムを例えば減圧浸潤法(The Plant Journal, 19(3), 249-257, 1999)で植物に感染させて目的核酸配列を導入することができる。すなわち、シロイヌナズナの種子を常法に従って培養土(例えばメトロミックス等)に播種して、22℃、長日条件下(例えば16時間日長・8時間暗黒等)で栽培する。約3〜4週間後に伸長した主軸(花茎)を切除して、側枝の誘導を開始させる。摘心約1週間をに培養した形質転換アグロバクテリウム懸濁液にシロイヌナズナを浸し、これをデシケーターに入れてバキュームポンプで約−0.053Mpa(400mmHg)になるまで吸引後、10分間、室温放置する。感染後の鉢を深底トレイに移して、横倒しに置き、トレイの底に少量の水を滴下して透明な覆いを被せ多湿条件下で約1日放置する。感染後の鉢を起こして、22℃・長日条件下で栽培を開始して、種子の収穫を行う。
約2〜4週間の間、種子の収穫を行い、収穫した種子は茶こしなどで莢やゴミを取り除き、デシケーター内で乾燥保存する。
トランスジェニック植物体の選択は、収穫した種子を常法に従って殺菌処理して、約9mlの0.1%寒天水溶液に懸濁して、選択培地(例えば、1×MS塩、1×GamborgB5ビタミン、1% Sucrose、0.5g/l MES、0.8% 寒天、100mg/l カルベニシリン、50mg/l カナマイシン、40mg/l ハイグロマイシンなど)に広げ、22℃で無菌栽培する。抗生物質に対して抵抗性を示すトランスジェニック植物体は順調に生長して、約1〜2週間で同定することができる。本葉が約4〜6枚展開したトランスジェニック植物体を培養土を含んだ鉢に移植して22℃で長日栽培を開始する。
得られたトランスジェニック植物より、常法に従ってDNAを抽出し、このDNAを適当な制限酵素で切断し、ポリアミン合成酵素遺伝子をプローブとして用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、遺伝子導入の有無を確認することができる。
また、トランスジェニック植物や、非トランスジェニック植物より、常法に従ってRNAを抽出し、ポリアミン合成酵素遺伝子を有するプローブを作製し、これらのプローブを用いてノーザンハイブリダイゼーションを行い、目的核酸配列の発現の状態を調べることができる。
減圧浸潤法で得られたトランスジェニック植物(T1)の、自家受粉により得られるT2種子の形質転換出現比率は、通常メンデルの法則に従う。例えば、該SPDS遺伝子が一遺伝子座にヘテロ(heterozygous)に組み込まれた場合、T2種子では形質転換体は3:1の割合で分離する。T2種子を栽培して、自家受粉させて得られるT3種子において、形質転換体がすべての種子で出現すれば、該T2形質転換植物はホモ接合体(homozygote)であり、該形質転換植物が3:1に分離すれば、該T2形質転換植物は導入されたSPDS遺伝子についてヘテロ(heterozygote)であると決定できる。
このようにして選抜された、導入されたSPDS遺伝子についてホモ接合体である植物は、改良された環境ストレス抵抗性が固定された系統として、種子産業の分野において極めて有用である。上記と同様にして得られた他のポリアミン合成酵素遺伝子についてホモ接合体である植物は、改良された環境ストレス抵抗性が固定された系統として、種子産業の分野において極めて有用である。
上記に示した方法で作製された形質転換植物は、サザン解析やノーザン解析でポリアミン合成酵素遺伝子の遺伝子発現解析、ポリアミン量の分析、ストレス耐性遺伝子の発現評価、ストレス耐性の評価を行うことができる。
例えば、ポリアミンの定量は、0.05〜10gの試料をサンプリングして、5%過塩素酸水溶液を加えて、ポリアミンを抽出する。抽出したポリアミンの定量はダンシル化またはベンゾイル化等で標識した後、蛍光又はUV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて内部標準法で分析することができる。
例えば、ポリアミン分析の結果から外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換された形質転換体の系統(セルライン)の中から、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換されていない非形質転換植物(野性株)に比べてスペルミジン含量又はスペルミン含量が1.1〜3倍量高まっている系統(セルライン)を選抜又はスクリーニングする。
例えば、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換された形質転換体の系統(セルライン)の中から、外因性ポリアミン合成酵素遺伝子により形質転換されていない非形質転換植物(野性株)に比べてストレス耐性遺伝子の発現レベルが1.3〜10倍量、好ましくは1.4〜8倍量、更に好ましくは1.5〜5倍量の範囲内の系統(セルライン)を選抜又はスクリーニングする。ストレス耐性遺伝子の発現レベルの解析はノーザンハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ解析法、定量的RT−PCR法等で調べることができる。
例えば、低温ストレス耐性は、0〜20℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や低温傷害等を調べることにより評価することができる。10℃〜18℃でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)を調べることにより低温ストレス耐性を評価することができる。高温ストレス耐性は、35〜50℃に1〜10日間低温処理後、25〜30℃で生育させて生育状況や高温傷害等を調べることにより評価することができる。35℃〜45℃でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)を調べることにより高温ストレス耐性を評価することができる。塩ストレス耐性は、10〜300mM NaClを含んだ培地中で、25〜30℃で生育させて生育状況や塩ストレス障害等を調べることにより評価できる。10〜150mM NaClを含んだ培養土でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)調べることにより塩ストレス耐性を評価できる。乾燥・水ストレス耐性は、水の供給を停止させて停止後の生育状況や障害程度を調べることにより評価することができる。潅水制限した培養土でトウモロコシを全期間生育させて生育状況や生体重(収量)調べることにより乾燥・水ストレスを評価できる。
本発明の形質転換される植物は、特に限定されるものではないが、双子葉植物、単子葉植物、草本性植物、木本性植物などが挙げられる。例えば、サツマイモ、トマト、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ、タバコ、シロイヌナズナ、ピーマン、ナス、マメ、サトイモ、ホウレンソウ、ニンジン、イチゴ、ジャガイモ、イネ、トウモロコシ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、ダイズ、ナタネ、ソルガム、ユーカリ、ポプラ、ケナフ、杜仲、サトウキビ、シュガービート、キャッサバ、サゴヤシ、アカザ、ユリ、ラン、カーネーション、バラ、キク、ペチュニア、トレニア、キンギョソウ、シクラメン、カスミソウ、ゼラニウム、ヒマワリ、シバ、ワタ、マツタケ、シイタケ、キノコ、チョウセンニンジン、柑橘類、バナナ、キウイ等が挙げられる。好ましくは、サツマイモ、トマト、キュウリ、イネ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ、ペチュニア、トレニア、ユーカリ、ワタ、ナタネである。
本発明により、ポリアミン合成酵素遺伝子を植物体に導入することで、ストレス遭遇前にポリアミン量を増加させ、ストレス耐性またはストレス抵抗性に関与する複数の遺伝子発現量を高めることで、複数のストレス予防効果を付与することが可能となった。
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
(ポリアミン解析方法)
野生株(非組換え植物)と形質転換体(遺伝子組換え植物)を同時に栽培して、葉、茎、根、種子、果実などの組織中に含まれるポリアミン含量を調べることができる。ポリアミン含量は生育状況によってその含量が変化することから同じ条件下で栽培し、生育期間や栽培期間が揃った組織(例えば葉の場合は同じ葉齢)を調べることが重要である。ポリアミンは遊離型ポリアミン、化合型ポリアミン、結合型ポリアミンがあり抽出方法は異なるがいずれも解析することができる(Plant Cell Physiol., 43(2), 196-206, 2002)。具体例として葉の遊離型ポリアミンの分析方法について詳細に示す。約0.1〜1.0gの葉(同じ葉齢の若葉など)をサンプリングして凍結保存する。サンプリングした試料に希釈内部標準液(1,6−hexanediamine、内部標準量=7.5又12nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり5〜20ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出する。磨砕液を、4℃・35,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取し本液を遊離型ポリアミン溶液とする。スクリューキャップ付きのマイクロチューブに400μlの遊離型ポリアミン溶液、200μlの飽和炭酸ナトリウム水溶液、200μlのダンシルクロライド/アセトン溶液(10mg/ml)を加えて軽く混和する。チューブの栓をしっかりと閉めたのちアルミ箔で覆い、60℃のウォーターバスで1時間加温してダンシル化を行う。チューブを放冷した後、プロリン水溶液(100mg/ml)を200μl加えて混和する。アルミ箔で覆ってウォーターバスで30分間再加温する。放冷後、窒素ガスを吹き付けてアセトンを除いた後に、600μlのトルエンを加えて激しく混和する。チューブを静置して2相に分かれた後に、上層のトルエン層を300μlマイクロチューブに分取する。分取したトルエンに窒素ガスを吹き付けてトルエンを完全除去する。チューブに200μlのメタノールを加えてダンシル化遊離型ポリアミンを溶解させる。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの遊離型ポリアミン量の定量は蛍光検出器(励起波長:365nm・発光波長:510nm)を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析する。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用する。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出する。
(マイクロアレイを用いたストレス耐性遺伝子の解析方法)
形質転換体の中から、スペルミジン又はスペルミン含量が野性株に比べて1.1〜3.0倍量の範囲内で高まっているT3ホモラインを選抜する。野生株(WT)とT3ホモライン(TSP−16,OSP−2)の種子を培養土(ハイポネックスジャパン社製:メトロミックス250)を含んだプラスチック鉢に播種する。土壌に十分に水を与えてサランラップで覆い、2日間の低温処理(同調化)を行う。低温処理後の鉢を栽培室に移して、長日条件下(22℃・16時間日長・50μmol m-2 sec-1 PPFD)で約1週間の順化を行う。1週間後にサランラップを外して前記の長日条件下で栽培を開始する。栽培開始から50日目(抽だい直前)に地上部と根に分けてサンプリングする。新鮮重(FW)を測定した後、直ちに液体窒素で凍結させて−80℃に保存する。Total RNAの抽出はTRIZOL reagent(GIBCO-BRL社製)を用いてプロトコールに従って行う。さらに、Total RNAの精製をRNeasy column(キアゲン社製)を用いてプロトコールに従って行う。約40μgの3種類のTotal RNA(WT,TSP−16,OSP−2)からプローブを調製する。プローブの調製はCyanine 3-dUTPとCyanine 5-dUTPによるLabelStar Arrayラベリングキット(キアゲン社製)を用いてプロトコールに従って行う。アレイ解析に用いたチップはcDNAアレイチップ(奈良先端科学技術大学院大学、河内孝之博士より提供)及び/又はDNAアレイチップ(Arabidopsis、Agilent Technologies社製)を用いる。ハイブリダイゼーションはアレイチップをプレハイブリダイゼーションバッファー(4×SSC、1%BSA、0.1%SDS)で、37℃、1時間以上プレハイブリダイゼーションを行う。高純度なMilliQ水でアレイチップを洗浄する。この操作を2回繰り返す。水分を、プレート遠心機(1500rpm、5分間)を用いて除去する。65℃に設定したインキュベーターで1時間以上乾燥させる。LabelStar Arrayラベリングキットで作製したプローブを用いてハイブリダイゼーションを行う。35μlのプローブを含んだハイブリダイゼーションバッファー(4×SSC、10×Denhart溶液、1%BSA、0.2%SDS、1μg/μl polyA、0.03μg/μl yeast tRNA)とアレイチップを60℃〜65℃で17時間ハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーション後、アレイチップを1×SSC、0.2%SDSを含む洗浄液で65℃からスタートし、最終的には0.2×SSCで室温まで洗浄する。スキャンニングとデータ解析は、Scan Array5000とQuantArrayソフトウエア(GSI Lumonics社製)またはScanArray4000XL(Packard Biochip Technologies社製)を用いて行う。バックグランドにはネガティブコントロールの蛍光値を用い、各スポットの蛍光値から差し引く。ノーマリゼーションはメジアンノーマリゼーション法またはグローバルノーマリゼーション法のいずれかを用いる。マイクロアレイ解析は信頼性を高めるためにそれぞれのアレイチップで数回繰り返す。
実施例1:植物由来のスペルミジン合成酵素遺伝子のクローニング
クロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子は、WO02/23974の実施例2の記載に従って取得した(FSPD1;配列番号1,2)。イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(OSPD2;配列番号3,4)の取得方法について以下に示した。WO02/23974の実施例2の記載に従い、クロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(FSPD1;配列番号1,2)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子(FSAM24;配列番号5,6)、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子を(FADC76;配列番号7,8)を得た。シロイヌナズナ由来のスペルミン合成酵素遺伝子(FSPM5;配列番号9,10)は特開2002−351750号の実施例1の記載に従って得た。イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(OSPD2;配列番号3,4)の取得方法について以下に示した。
(1)ポリ(A)+RNAの調製
イネ品種(‘ユキヒカリ’)の完熟種子から籾を取り除いた後、70%エタノールで5分浸漬の後、同様に滅菌したビーカーに入れた滅菌液(5%次亜塩素酸ナトリウム、0.02%Triton X−100)に20分浸漬して滅菌を行った。滅菌した種子は、滅菌ビーカーに入れた滅菌水で3回洗浄を行った。洗浄後、生育培地(MS無機塩、MSビタミン、30g/l シュクロース、8g/l Phytagar、pH5.8)上に置床し、植物インキュベーター(サンヨー社製、MLR−350HT)中で26℃、明所(45μmol・m−2・s−1、16時間明期/8時間暗期、以下この光条件を明所とする)条件下にて培養した。約10日目に、インキュベーター内の温度を昼夜12℃まで下げて低温処理を開始した。低温処理3日後にサンプリングした。RNA抽出までは−80℃のフリーザーに保存した。
約3gのイネの幼苗を直ちに液体窒素中で凍結し、液体窒素存在下乳鉢で細かく粉砕した。Total RNAの抽出はTRIZOL reagent(GIBCO-BRL社製)を用いてプロトコールに従った。Total RNA溶液を65℃で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。これに2×結合緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、1M NaCl、0.5% SDS、pH7.5)を等量になるようにTotal RNA溶液に加え、平衡化緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、0.5M NaCl、0.5% SDS、pH7.5)で予め平衡化したオリゴdTセルロースカラム(Clontech社製)に重層した。次いで、カラムを約10倍量の前述の平衡化緩衝液で洗浄した後、溶出緩衝液(10mM Tris-HCl、5mM EDTA・2Na、pH7.5)でpoly(A)+RNAを溶出した。得られた溶出液に1/10倍量の前述の3M酢酸ナトリウム水溶液と、2.5倍量のエタノールを加え混合し、−80℃で静置した。その後、10,000×gで遠心分離を行い、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄して減圧乾燥した。この乾燥標品を再度500μμlのTE緩衝液に溶解し、オリゴdTセルロースカラム精製を繰り返し行った。得られた低温処理したイネの幼苗由来のpoly(A)+RNAをcDNAライブラリーの作製に用いた。
(2)cDNAライブラリーの作製
cDNAライブラリーの作製はMarathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を使用し、プロトコールに従った。poly(A)+RNAを鋳型として3’末端に2つのdegenerate nucleotide position を持つ修飾lock-docking オリゴdTプライマーと逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAの両末端にMarathon cDNAアダプター(T4 DNA ligaseによりds cDNAの両末端へ結合しやすくなるように5’末端をリン酸化したもの)を連結した。得られたアダプター結合のcDNAをライブラリーとした。
(3)PCR用プライマーの設計
既に植物や哺乳類から単離されているスペルミジン合成酵素遺伝子の決定されている塩基配列を比較した。そして、非常に相同性が高く保存されている領域を選び出し、DNAオリゴマーを合成した(配列プライマーI・II)。
SPDSプライマーI(配列番号11):5’−GTTTTGGATGGAGTGATTCA−3’
SPDSプライマーII(配列番号12):5’−GTGAATCTCAGCGTTGTA−3’
(4)PCRによる増幅
(2)で得られたcDNAライブラリーをテンプレートとして、(3)で設計した配列プライマーを用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、45℃、1分間、72℃、2分間で5サイクル、続いて94℃、30秒、55℃、1分間、72℃、2分間で30サイクル行った。
(5)アガロースゲル電気泳動
PCR増幅産物を1.5%アガロース電気泳動で分離し、泳動後のゲルをエチジウムブロマイド染色し、UVトランスイルミネーター上で増幅バンドを検出した。
(6)PCR産物の確認と回収
検出された増幅バンドを確認し、カミソリの刃を用いてアガロースゲルから切り出した。切り出したゲルを1.5mlのマイクロチューブに移し、QIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルからDNA断片の単離精製を行った。回収したDNA断片をpGEMTクローニングベクター(Promega社製)にサブクローニングし、大腸菌に形質転換後、常法に従ってプラスミドDNAを調製した。
(7)塩基配列決定
得られたプラスミドの挿入配列の塩基配列決定をダイデオキシ法(Messing, Methods in Enzymol., 101, 20-78, 1983)により行った。
(8)ホモロジー検索
これらの遺伝子の塩基配列を既知遺伝子塩基配列のデータベースとホモロジーサーチを行うと、取得した遺伝子は既知の植物由来のスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子と70〜100%の相同性を示した。
(9)完全長遺伝子の単離
完全長遺伝子の単離はMarathon cDNA Amplification Kit(Clontech社製)を使用した5’-RACE(rapid amplification of cDNA ends)及び3’-RACEを一体化した方法(Chenchik et al., 1995)で行った。5’-RACEはcDNAライブラリーをテンプレートとして、AP1プライマー(5’-CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC-3’)と遺伝子特異的プライマー(5’-TCCCTCGCGTAGCTGTCGGGTTTGA-3’)を用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、60℃、45秒、72℃、2分で35サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。3’-RACEはcDNAライブラリーをテンプレートとして、AP1プライマー(5’-CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC-3’)と遺伝子特異的プライマー(5’-ACACAACGCCTCCTGGTCGAAGAGC-3’)を用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、60℃、45秒、72℃、2分で35サイクル行い、続いて72℃、7分間で1サイクル行った。5’-RACEと3’-RACEで得られた遺伝子断片をそれぞれpGEM-Tクローニングベクター(Promega社製)にサブクローニングした。さらに前述した方法に従って全塩基配列を決定し、DINASIS-Mac version 3.6 software package(日立ソフトウエアエンジニアリング社製)で解析した。
完全長のクロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子をFSPD1(配列番号1,2)、イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子をOSPD2(配列番号3,4)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子をFSAM24(配列番号5,6)、アルギニン脱炭酸酵素遺伝子をFADC76(配列番号7,8)、シロイヌナズナ由来のスペルミン合成酵素遺伝子をFSPM5(配列番号9,10)と命名した。
得られたFSPD1とOSPD2を既知の植物由来のスペルミジン合成酵素遺伝子とアミノ酸レベルで比較したところ、FSPD1は他の植物由来のスペルミジン合成酵素遺伝子と約80%の相同性が認められた。OSPD2はイネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子であるOsSPDS2(Journal of Plant Physiology, 161, 883-886, 2004)と100%の相同性が認められた。FSAM24を既知の植物由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子(SAMDC遺伝子)とアミノ酸レベルで比較したところ、FSAM24は63〜66%の相同性が認められた。FADC76を既知の植物由来のアルギニン脱炭酸酵素遺伝子(ADC遺伝子)とアミノ酸レベルで比較したところ、FADC76は71〜77%の相同性が認められた。FSPM5をシロイヌナズナ由来のスペルミン合成酵素遺伝子(ACL5:GenBankアクセッションナンバーAF184093)とアミノ酸レベルで比較したところ、アミノ酸の完全一致が認められた。
実施例2:トランスジェニックシロイヌナズナの作製と解析
(1)発現コンストラクトの作製
配列番号1に示したポリアミン合成酵素遺伝子FSPD1の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、XhoIで切断し、グラスミルク法で精製した。次にpGEM−7Zf(Promega社製)をXhoI切断して、FSPD1断片をセンスとアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。pGEM−7Zfのマルチクローニングサイトの制限酵素XbaIとKpnIで再度FSPD1断片を切り出して、35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSPD1+/−、pBIC2−FSPD1+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSPD1+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FSPD1+/−と命名した。
配列番号3に示したポリアミン合成酵素遺伝子OSPD2の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、XhoIで切断し、グラスミルク法で精製した。次にpGEM−7Zf(Promega社製)をXhoI切断して、FSPD1断片をセンスとアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。pGEM−7Zfのマルチクローニングサイトの制限酵素XbaIとKpnIで再度FSPD1断片を切り出して、35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−OSPD2+/−、pBIC2−OSPD2+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−OSPD2+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−OSPD2+/−と命名した。
配列番号5に示したポリアミン合成酵素遺伝子FSAM24の塩基配列より5‘非翻訳領域(uORF配列)とオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSAM24+/−、pBIC2−FSAM24+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSAM24+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FSAM24+/−と命名した。
配列番号7に示したポリアミン合成酵素遺伝子FADC76の塩基配列より5‘非翻訳領域(uORF配列)とオープンリーディングフレームをすべて含むように、NotIで切断し、それぞれ平滑末端化した。これらの断片を平滑末端化した35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FADC76+/−、pBIC2−FADC76+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FADC76+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FADC76+/−と命名した。
配列番号9に示したポリアミン合成酵素遺伝子FSPM5の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、XhoIで切断した。これらの断片をXhoI処理した35Sプロモーター又はストレス・傷害誘導性タイプのプロモーターである西洋ワサビペルオキシダーゼC2プロモーター(特許第3259178号)が連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にそれぞれサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSPM5+/−、pBIC2−FSPM5+/−と命名した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSPM5+/−、Escherichia coli JM109/pBIC2−FSPM5+/−と命名した。
(2)プラスミドのアグロバクテリウムへの導入
(1)で得られた大腸菌pBI35S−FSPD1+/−、大腸菌pBIC2−FSPD1+/−、大腸菌pBI35S−FSAM24+/−、大腸菌pBIC2−FSAM24+/−、大腸菌pBI35S−FADC76+/−、大腸菌pBIC2−FADC76+/−、大腸菌pBI35S−OSPD2+/−、大腸菌pBIC2−OSPD2+/−、大腸菌pBI35S−FSPM5+/−、大腸菌pBIC2−FSPM5+/−、とヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101株を、それぞれ50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムC58株を50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブに取り集菌したのち、LB培地で洗浄した。これらの菌体を1mlのLB培地に懸濁後、3種の菌を100μlずつ混合し、LB培地寒天培地にまき、28℃で培養してプラスミドをアグロバクテリウムに接合伝達(三者接合法)させた。1から2日後に一部を白金耳でかきとり、50mg/lカナマイシン、20mg/lハイグロマイシン、25mg/lクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28℃で2日間培養した後、単一コロニーを選択した。得られた形質転換体をC58/pBI35S−FSPD1+/−、C58/pBIC2−FSPD1+/−、C58/pBI35S−FSAM24+/−、C58/pBIC2−FSAM24+/−、C58/pBI35S−FADC76+/−、C58/pBIC2−FADC76+/−、C58/pBI35S−OSPD2+/−、C58/pBIC2−OSPD2+/−、C58/pBI35S−FSPM5+/−、C58/pBIC2−FSPM5+/−、と命名した。トランスジェニックシロイヌナズナの作製は減圧浸潤法〔以下(3)〜(6)〕で行った。
(3)シロイヌナズナの栽培
培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)をプラスチック鉢に入れ、表面を網戸用のメッシュで覆い、メッシュの間にシロイヌナズナコロンビア株(以下「コロンビア株」又は「野生株」という)の種子(奈良先端科学技術大学院大学、河内孝之博士より提供)を2〜5粒播種した。2日間・4℃の低温室に移して発芽処理後、22℃・長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)に移して栽培を行った。約4〜6週間後に主軸花茎が5〜10cm伸長した植物体について、摘心して側枝の誘導を行った。摘心約1〜2週間後にアグロバクテリウム感染処理を行った。
(4)アグロバクテリウム懸濁液の調製
前記(2)で作製したアグロバクテリウムを感染2日前に、抗生物質(50ug/ml カナマイシン、20ug/ml ハイグロマイシン)を含んだ10mlLB培地に植菌して28℃で24時間振とう培養した。さらに、この培養液を分取して抗生物質(50ug/ml カナマイシン、20ug/ml ハイグロマイシン)を含んだ1000ml LB培地に移して、さらに、28℃、約24時間振とう培養した(OD600が1.2〜1.5になるまで)。培養液を室温下で集菌して、OD600が0.8〜1になるように浸潤用懸濁培地(0.5×MS塩、0.5×GamborgB5ビタミン、1% Sucrose、0.5g/l MES、0.44μM ベンジルアミノプリン、0.02% Silwet−77)に再懸濁した。
(5)アグロバクテリウムの感染
前記(3)で作製したシロイヌナズナの鉢に前記(4)で調製したアグロバクテリウム懸濁液が培養土中に吸収されるのを抑えるために、鉢の培養土中に水を与えた。1000mlのビーカーに約200〜300mlのアグロバクテリウム懸濁液を分取し、シロイヌナズナの鉢を逆さにして、植物体を懸濁液に浸けた。鉢を入れたビーカーをデシケーター内に入れ、バキュームポンプで約−0.053MPa(400mmHg)になるまで吸引後、約10分間放置した。徐々に陰圧を解除した後、植物をアグロバクテリウム懸濁液から取り出して、キムタオルで余分なアグロバクテリウム懸濁液を取り除き、深底トレイに横倒しした。少量の水を入れて、サランラップを被せた。この状態で約1日放置した。サランラップを外して、鉢を起こして約1週間給水を停止した。その後、徐々に培養土に水を与え、約3〜5週間の間、成熟したさやから種子の収穫を行った。収穫した種子は、茶こしを用いて、さややゴミを取り除きデシケーター内に入れ十分に乾燥させた。
(6)形質転換植物の取得
前記(5)で取得した種子100μl(約2000粒)を1.5mlのエッペンドルフチューブに移して、70%エタノール中で2分間、5%次亜塩素酸ナトリウム溶液中に15分間それぞれ浸して、最後に滅菌水で5回洗浄して種子の殺菌を行った。殺菌後の種子を15mlのファルコンチューブに移して、約9mlの0.1%無菌寒天溶液を加えて、激しく混合した。種子との0.1%寒天混合液をファージをプレートする要領で選択培地(1×MS塩、1×GamborgB5ビタミン、1% Sucrose、0.5g/l MES、0.8% 寒天、100mg/l カルベニシリン、50mg/l カナマイシン、40mg/l ハイグロマイシン、8g/l Phytagar、pH5.7)に均一になるように広げた。クリーンベンチ内で約30分乾燥後、4℃、2日間の低温処理後、22℃のグロースチャンバーに移して、抗生物質に対して抵抗性を示す形質転換体を選抜した。本葉が3〜5枚した植物体を再度新しい選択培地に移して本葉が4〜6枚になるまで栽培した。抗生物質に対して抵抗性を示した形質転換植物(T1)を培養土を含んだ鉢に定植して、約5〜7日間多湿条件下で順化させた。順化後、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培させた。得られた形質転換植物(T1)、および該形質転換植物から得られた種子(T2)から生育させたT2植物体についてPCRまたはサザンハイブリダイゼーションによる導入遺伝子の解析とノーザンハイブリダイゼーションによる発現レベルの解析を行い、目的のスペルミジン合成酵素遺伝子が安定に組み込まれ、且つ発現している形質転換体を確認して選抜した。さらに、T2植物体からT3種子を収穫し、抗生物質に対する抵抗性試験(分離比検定)を行って形質転換出現比率からホモ接合体(T2)を取得した。T2種子とホモ接合体から取得したT3種子(T3ホモセルライン)を以下の実験に用いた。
(7)ノーザンブロット解析
(6)で得られたT2形質転換体で、FSPD1とOSPD2の発現レベルを確認するためにノーザンブロッティングを行った。形質転換を行っていない野生株(WT)とT2形質転換体(FSPD1を導入したセルライン:TSP−14,15,16,17,19、OSPD2を導入したセルライン:OSP−1,2)のロゼット葉から全RNAを抽出した。RNA抽出は定法に従って行った。得られた全RNA10μgを1.5%ホルムアルデヒドアガロースゲルで電気泳動した後、ハイボンドNナイロンメンブランに一晩ブロッティングした。UVクロスリンカーでRNAを固定した後、プレハイブリダイゼーションバッファー(50% Formamide、5X SSPE、5X Denhardt's、 0.1% SDS、80μg/ml Salmon sperm DNA、pH7.0)で、42℃、2時間プレハイブリダイゼーションを行った。実施例1の(6)で得られたイネSPDS遺伝子断片とクロダネカボチャSPDS遺伝子断片のcDNAを32P-dCTPとランダムラベルキット(アマシャム社製)を用いて、プローブを作製した。このプローブをプレハイブリダイゼーションに加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後、メンブランを2×SSC、0.1% SDSを含む洗浄液からスタートし、0.5× SSC、0.1% SDSを含む洗浄液で50℃、30分、最終的には0.1× SSC、0.1% SDSを含む洗浄液で55℃、30分2回まで洗浄した。メンブランをX線フィルム(Kodak社製)を用いて、オートラジオグラフィーを行った。ノーザンブロッティングの結果の一部を図1に示した。図1の結果から、野生株(WT)では外因性のクロダネカボチャSPDS遺伝子(FSPD1)またはイネSPDS遺伝子(OSPD2)は検出されなかったが、形質転換体では全てのセルラインで高いレベルでシグナルが検出され、FSPD1、OSPD2が発現していることが確認された。
(8)ポリアミン解析
PCR(またはサザン解析)、ノーザン解析、ウエスタン解析の結果からセルラインの選抜を行った。確実にポリアミン代謝関連酵素遺伝子が導入され、且つ該遺伝子を安定的に発現している系統についてポリアミン分析を行った。FSPD1が導入されているセルライン、TSP−14、TSP−15、TSP−16、TSP−17、TSP−19、TSP−101を選抜した。OSPD2が導入されているセルライン、OSP−1、OSP−2、OSP−5、OSP−7を選抜した。野生株(WT)と形質転換体(TSP、OSP)から約0.1〜0.5gのロゼット葉をサンプリングして凍結保存した。サンプリングした試料に希釈内部標準液(1,6−hexanediamine、内部標準量=7.5又12nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり5〜20ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出した。磨砕液を、4℃・35,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取し本液を遊離型ポリアミン溶液とした。スクリューキャップ付きのマイクロチューブに400μlの遊離型ポリアミン溶液、200μlの飽和炭酸ナトリウム水溶液、200μlのダンシルクロライド/アセトン溶液(10mg/ml)を加えて軽く混和した。チューブの栓をしっかりと閉めたのちアルミ箔で覆い、60℃のウォーターバスで1時間加温してダンシル化を行った。チューブを放冷した後、プロリン水溶液(100mg/ml)を200μl加えて混和した。アルミ箔で覆ってウォーターバスで30分間再加温した。放冷後、窒素ガスを吹き付けてアセトンを除いた後に、600μlのトルエンを加えて激しく混和した。チューブを静置して2相に分かれた後に、上層のトルエン層を300μlマイクロチューブに分取した。分取したトルエンに窒素ガスを吹き付けてトルエンを完全除去した。チューブに200μlのメタノールを加えてダンシル化遊離型ポリアミンを溶解させた。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの遊離型ポリアミン量の定量は蛍光検出器(励起波長:365nm・発光波長:510nm)を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用した。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出した。その結果を表2に示した。
表2より明らかなように、スペルミジン合成酵素遺伝子であるFSPD1またはOSPD2を導入したセルラインは、プトレシン含量、スペルミジン含量、スペルミン含量が野生株(WT)より有意に増加し、総ポリアミン含量も野生株(WT)より有意に増大していることが明らかとなった。特にスペルミジンとスペルミン含量の増加が顕著であった。FSPD1またはOSPD2を植物に導入することによって、野性株(非形質転換体)に比べてスペルミジン又はスペルミン含量が1.1〜3.0倍量の範囲内で増加することが示された。スペルミジン又はスペルミン含量が野性株に比べて1.1〜3.0倍量の範囲内で増加した形質転換体(セルライン)では生育阻害や稔性低下等の悪影響は観察されなかった。
実施例3:トランスジェニックシロイヌナズナのマイクロアレイ解析
T3形質転換体の中から、スペルミジン又はスペルミン含量が野性株に比べて1.1〜3.0倍量の範囲内で高まっているT3ホモラインを選抜した。野生株(WT)とT3ホモライン(TSP−16,OSP−2)の種子を培養土(ハイポネックスジャパン社製:メトロミックス250)を含んだプラスチック鉢に播種した。土壌に十分に水を与えてサランラップで覆い、2日間の低温処理(同調化)を行った。低温処理後の鉢を栽培室に移して、長日条件下(22℃・16時間日長・50μmol m-2 sec-1 PPFD)で約1週間の順化を行った。1週間後にサランラップを外して前記の長日条件下で栽培を開始した。栽培開始から50日目(抽だい直前)に地上部と根に分けてサンプリングした。新鮮重(FW)を測定した後、直ちに液体窒素で凍結させて−80℃に保存した。Total RNAの抽出はTRIZOL reagent(GIBCO-BRL社製)を用いてプロトコールに従った。さらに、Total RNAの精製をRNeasy column(キアゲン社製)を用いてプロトコールに従った。約40μgの3種類のTotal RNA(WT,TSP−16,OSP−2)からプローブを調製した。プローブの調製はCyanine 3-dUTPとCyanine 5-dUTPによるLabelStar Arrayラベリングキット(キアゲン社製)を用いてプロトコールに従った。アレイ解析に用いたチップはcDNAアレイチップ(奈良先端科学技術大学院大学、河内孝之博士より提供)とDNAアレイチップ(Arabidopsis、Agilent Technologies社製)である。ハイブリダイゼーションはアレイチップをプレハイブリダイゼーションバッファー(4×SSC、1%BSA、0.1%SDS)で、37℃、1時間以上プレハイブリダイゼーションを行った。高純度なMilliQ水でアレイチップを洗浄した。この操作を2回繰り返した。水分をプレート遠心機(1500rpm、5分間)を用いて除去した。65℃に設定したインキュベーターで1時間以上乾燥させた。LabelStar Arrayラベリングキットで作製したプローブを用いてハイブリダイゼーションを行った。35μlのプローブを含んだハイブリダイゼーションバッファー(4×SSC、10×Denhart溶液、1%BSA、0.2%SDS、1μg/μl polyA、0.03μg/μl yeast tRNA)とアレイチップを60℃〜65℃で17時間ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、アレイチップを1×SSC、0.2%SDSを含む洗浄液で65℃からスタートし、最終的には0.2×SSCで室温まで洗浄した。スキャンニングとデータ解析は、Scan Array5000とQuantArrayソフトウエア(GSI Lumonics社製)またはScanArray4000XL(Packard Biochip Technologies社製)を用いて行った。バックグランドにはネガティブコントロールの蛍光値を用い、各スポットの蛍光値から差し引いた。ノーマリゼーションはメジアンノーマリゼーション法またはグローバルノーマリゼーション法のいずれかを用いた。マイクロアレイ解析は信頼性を高めるためにそれぞれのアレイチップで数回繰り返した。野生株(WT)に比べて形質転換体(TSP−16,OSP−2)で発現量が増加した(発現量比が1.5〜5.0倍の範囲内)ストレス耐性遺伝子を表3に示した。
表3の結果より、クロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(FSPD1)、イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(OSPD2)により植物を形質転換させることで、非形質転換体である野性株(WT)に比べてストレス耐性遺伝子群(遺伝子番号1〜20)の発現レベルが1.5倍〜5.0倍量増加することが明らかとなった。
遺伝子番号1のCBF1 / DREB1B transcription factorはストレスによって誘導される転写因子の一つで、植物に導入することで乾燥、塩、凍結、低温などの種々の環境ストレス耐性が高まることが報告されている(The Plant Cell, 10, 1391-1406, 1998, Nature Biotechnology, 17, 287-291, 1999, Plant Physiology, 124, 1854-1865, 2000, Plant Physiology, 130, 639-648, 2002, Plant Physiology, 130, 618-626, 2002)。
遺伝子番号2のcold regulated protein / LEA proteinはlate embryogenesis abundant(LEA)proteinでストレスによって誘導されることが知られており、LEA protein遺伝子であるHV1をイネに導入することで乾燥や塩ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Physiology, 110, 249-257, 1996)。
遺伝子番号3のcold regulated protein / cor15は低温ストレスによって誘導される遺伝子で凍結ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 13404-13409, 1996, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 14570-14575, 1998)。
遺伝子番号4のpathogen related PR-1 proteinは病原菌感染によって誘導されるタンパク質でPR-1(pathogenesis-related protein 1)の一つであるCABPR1遺伝子をタバコに導入することで、重金属や病原菌感染ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Cell Rep.,Feb 18, 2005)。
遺伝子番号5のearly response dehydration protein / ERD15は乾燥ストレスによって誘導される遺伝子で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Plant Physiology, 106, 1707, 1994)。
遺伝子番号6のsalt stress induced tonoplast intrinsic protein / aquaporinと遺伝子番号7のwater channel protein / aquaporinはストレスによって誘導される水チャンネルタンパク質で塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Mol. Cells., 9(1), 84-90, 1999, Foods Food Ingredients J. Jpn., 176, 40-45)。
遺伝子番号8のdehydration induced protein / RD22は乾燥ストレスによって誘導されるタンパク質で乾燥ストレス耐性に深く関与していることが報告されている(Plant Cell., 15(1), 63-78, 2003)。
遺伝子番号の9、10、11、12、13はストレスによって誘導されるタンパク質でストレス耐性への関与が示唆されているが、その機能は十分には明らかになっていない。
遺伝子番号の14、15、16、17、18は傷害ストレスによって誘導されるタンパク質で傷害ストレス耐性への関与が示唆されているが、その機能は十分には明らかになっていない。
遺伝子番号の19のperoxidaseは植物の細胞壁酵素の一つ(EC 1.11.1.7)で傷害やストレスによって誘導されることが知られており、植物に導入することで酸化ストレスや害虫ストレス耐性が高まることが報告されている(Plant Physiology, 132, 1177-1185, 2003, J. Econ. Entomol., 95(1), 81-88, 2002)
遺伝子番号20のsenescence associated protein sen1は老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレスによって誘導されるタンパク質で老化ストレス、塩ストレス、浸透圧ストレス、低温ストレス耐性に深く関与することが報告されている(Plant Physiology, 130, 2129-2141, 2002)。
以上の結果から、スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子により植物を形質転換することによって、ストレス耐性に関与するストレス耐性遺伝子の発現量を野性株に比べて高める(誘導又は増加)ことが明らかとなった。
実施例4:環境ストレス耐性の評価
(1)浸透圧ストレス耐性の評価
実施例2で得られた形質転換体(TSP−15、16、17)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例2の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を100mMと200mMのソルビトールを含んだ発芽生育培地(1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、8g/l Phytagar、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、生育程度の観察を開始して、特に6週間目と10週間目に発芽生育培地上の植物体の生育程度を観察し、その結果を図2に示した。
播種数日後から100mM、200mMのソルビトールを含んだ生育培地ではTSP−15、16、17は野生株(WT)より発芽勢が高く、優れた生育が見られた。播種6週間目では、100mM、200mMのソルビトールを含んだ培地でTSP−15、16、17の植物体はWTより大きく、生育阻害の程度が有意に小さかった。特にTSP−17の結果を図10に示した。播種7週間目を越えると、特に200mMのソルビトールを含んだ培地では、TSP−15、16、17の植物体は特に根の発達が明らかにWTと比べて優れ。播種10週間目では地上部、根ともに顕著な差が観察された。特にTSP−16の結果を図2に示した。また、WTでは生育阻害による黄化した枯死個体が一部観察された。
以上の結果から、スペルミジン合成酵素遺伝子(FSPD1、OSPD2)を導入することによって、植物の浸透圧ストレス予防効果が付与できることが明らかとなった。
(2)乾燥ストレス耐性の評価
形質転換体(TSP−15、TSP−16)から、選抜した形質転換体(T3ホモセルライン)を用いた。得られた形質転換体と野生株(WT:コロンビア株)種子を培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)を含んだプラスチック鉢に播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、鉢をプラスチックバットに入れ、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、約3週間目までロゼット葉が完全展開するまで育成した。ロゼット葉が完全展開した時点で、生育が揃った個体を選抜後、土壌水分量を揃えるためにバット内に水を補給し、プラスチック鉢の中位まで水で満たした。5日後、土壌水分量が一定であることを確認して、乾燥ストレス処理を開始(水の補給停止)した。開始直後から生育状況の観察を行った。
乾燥処理開始13日目に野生株(WT)では乾燥ストレス障害である萎えが観察された。乾燥処理14日目にはWTは50%の植物体が枯死した。一方、形質転換体では20%の植物体が枯死して、WTより高い生存率を示した。処理開始15日目にはWTは100%全て枯死したのに対して、形質転換体では30〜40%が生存していた。その結果を図3に示した。図3の結果から明らかに野性株:WT(左)は枯死して、形質転換体:T3ホモセルライン(中と右)は生存していることが確認された。
形質転換体(OSP−2)から、選抜した2つの形質転換体(T3ホモセルライン)を用いた。得られた2つの形質転換体と野生株(WT:コロンビア株)種子を培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)を含んだプラスチック鉢に播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、鉢をプラスチックバットに入れ、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、約4週間目までロゼット葉が完全展開するまで育成した。ロゼット葉が完全展開した時点で、生育が揃った個体を選抜後、土壌水分量を揃えるためにバット内に水を補給し、プラスチック鉢の中位まで水で満たした。5日後、土壌水分量が一定であることを確認して、乾燥ストレス処理を開始(水の補給停止)した。開始直後から生育状況の観察を行った。
乾燥処理開始14日目に野生株(WT)では乾燥ストレス障害である萎えが観察された。乾燥処理15日目にはWTは50%の植物体が枯死した。一方、2つの形質転換体では20%の植物体が枯死して、WTより高い生存率を示した。処理開始18日目にはWTは100%全て枯死したのに対して、形質転換体では50%が生存していた。その結果を図4に示した。図4の結果から明らかに野性株:WT(左)は枯死して、形質転換体:T3ホモセルライン(中と右)は生存していることが確認された。
以上の結果から、スペルミジン合成酵素遺伝子(FSPD1、OSPD2)を導入することによって、植物の乾燥ストレス予防効果が付与できることが明らかとなった。
(3)低温ストレス耐性(凍結ストレス耐性)の評価
形質転換体(TSP−15、TSP−16)から、選抜した形質転換体(T3ホモセルライン)を用いた。得られた形質転換体と野生株(WT:コロンビア株)種子を培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)を含んだプラスチック鉢に播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、鉢をプラスチックバットに入れ、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、約4週間目までロゼット葉が完全展開するまで育成した。ロゼット葉が完全展開した時点で、生育が揃った個体を選抜後、−5℃のグロースチャンバーに移して凍結ストレス処理を開始した。凍結ストレス処理は暗期で40時間行った。処理後に23℃、長日条件下の常温に戻して生育状況の観察を行った。
常温復帰直後から野生株(WT)では凍結ストレス障害である水浸状や萎れが観察された。常温復帰5日目にはWTは全ての植物体が枯死した。一方、形質転換体では30〜40%の植物体が生存していた。その結果を図5に示した。図5の結果から明らかに野性株:WT(左)は枯死して、形質転換体:T3ホモセルライン(中と右)は生存していることが確認された。イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(OSPD2)を導入したセルライン(OSP−2)でも同様な結果を得た。
以上の結果から、植物にスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子を導入することによって、植物の低温ストレス(凍結ストレス)予防効果が付与できることが明らかとなった。
(4)塩ストレス耐性の評価
実施例2で得られた形質転換体(TSP−16)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例2の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を75mMのNaClを含んだ発芽生育培地(75mM NaCl、1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、5g/l Gellan gum、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、6週間目に発芽生育培地上の植物体の生育程度を観察した。その結果を図6に示す。
図6の結果からコントロールであるWTは75mM NaClを含んだ培地上では著しく生育阻害が観察され、植物体全体が白色又は黄化して生長が停止し枯死した。一方、スペルミジン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体では生育抑制は受けるが、本葉の展開がみられて遅いながらもそのまま生育を続けた。イネ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子(OSPD2)を導入したセルライン(OSP−2)でも同様な結果を得た。
以上の結果から、植物にスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子を導入することによって、植物の塩ストレス予防効果が付与できることが明らかとなった。
(5)除草剤ストレス耐性の評価
形質転換体(セルライン:pBI121(35S−GUS)、TSP−15、TSP−16)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例2の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を2uMのパラコート(PQ)を含んだ発芽生育培地(2uM PQ、1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、5g/l Gellan gum、pH5.7)に一粒ずつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、10日目に発芽個体数(発芽率)、さらに20日目に生存個体数(生存率)を観察した。その結果を表4に示す。
表4の結果から野生株とベクターコントロールのライン(pBI121)は、明らかにパラコートによる毒性効果で発芽率と生存率が著しく低下しているのに対して、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を導入したセルラインTSP−15と16の発芽率、生存率は高い値で維持された。
以上の結果から、植物にスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子を導入することによって、植物の除草剤ストレス予防効果が付与できることが明らかとなった。
本発明により、植物のストレス予防効果が付与できることで、植物の生育および生長過程において遭遇する様々なストレスによる障害の回避や生長抑制を軽減することができ栽培の安定化、生産性の向上、栽培地域の拡大、栽培期間の拡大などが期待でき、産業界に大きく寄与することが期待される。また、不毛地域や塩類集積土壌でも植物の栽培が可能となり地球温暖化や食糧問題に対して貢献が期待できる。
ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(TSP・OSP)と野性株(WT)とのノーザンブロッティングの結果 ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(TSP)と野性株(WT)との浸透圧ストレス耐性の比較 ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(TSP)と野性株(WT)との乾燥ストレス耐性の比較 ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(OSP)と野性株(WT)との乾燥ストレス耐性の比較 ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(TSP)と野性株(WT)との低温ストレス耐性の比較 ポリアミン合成酵素遺伝子を導入した形質転換体(TSP)と野性株(WT)との塩ストレス耐性の比較

Claims (13)

  1. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子および/またはスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により該植物を形質転換し、
    少なくとも1種以上のストレス耐性遺伝子の発現量を非形質転換体と比較して増加させることを特徴とするストレス予防効果を植物へ付与する方法。
  2. 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子、外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子および/またはスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子により該植物を形質転換し、
    少なくとも1種以上のストレス耐性遺伝子の発現量を非形質転換体と比較して増加させ、
    ストレス耐性遺伝子の発現レベルが非形質転換植物(野性株)に比べて増加した形質転換植物を選抜することを特徴とするストレス予防効果を植物へ付与する方法。
  3. ストレス耐性遺伝子が、以下の(a)〜(t)からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレス予防効果の付与方法:
    (a)CBF1 / DREB1B transcription factor;
    (b)cold regulated protein / LEA protein;
    (c)cold regulated protein / cor15;
    (d)pathogen related PR-1 protein;
    (e)early response dehydration protein / ERD15;
    (f)salt stress induced tonoplast intrinsic protein / aquaporin;
    (g)water channel protein / aquaporin;
    (h)dehydration induced protein / RD22;
    (i)stress responsive protein;
    (j)drought induced protein;
    (k)low temperature and salt responsive protein;
    (l)stress responsive protein;
    (m)zinc finger protein;
    (n)disease resistance protein;
    (o)disease resistance protein;
    (p)disease resistance protein;
    (q)disease resistance protein;
    (r)disease resistance protein;
    (s)peroxidase;
    (t)senescence associated protein sen1。
  4. 付与するストレス予防効果が、以下の(a)〜(l)からなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のストレス予防効果の付与方法:
    (a)低温ストレス;
    (b)高温ストレス;
    (c)塩ストレス;
    (d)浸透圧ストレス;
    (e)酸化ストレス;
    (f)除草剤ストレス;
    (g)凍結ストレス;
    (h)乾燥ストレス;
    (i)病原菌感染ストレス;
    (j)害虫ストレス;
    (k)傷害ストレス;
    (l)老化ストレス。
  5. ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.3〜10倍量の範囲内に発現させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のストレス予防効果の付与方法。
  6. ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.4〜8倍量の範囲内に発現させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のストレス予防効果の付与方法。
  7. ストレス耐性遺伝子の発現を、非形質転換体と比較して、1.5〜5倍量の範囲内に発現させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のストレス予防効果の付与方法。
  8. 外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、植物由来であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレス予防効果の付与方法。
  9. 外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子であることを特徴とする請求項1、2または8に記載のストレス予防効果の付与方法。
    (a)配列番号1(SPDS,1328)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
    (b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  10. 外因性スペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子であることを特徴とする請求項1、2または8に記載のストレス予防効果の付与方法。
    (a)配列番号3(SPDS,1560)に示される塩基配列中塩基番号118〜1281で示される塩基配列、
    (b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  11. 外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレス予防効果の付与方法。
    (a)配列番号5(SAMDC,1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
    (b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  12. 外因性アルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレス予防効果の付与方法。
    (a)配列番号7(ADC,3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
    (b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  13. 外因性スペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有する塩基配列を有するスペルミン合成酵素遺伝子であることを特徴とする請求項1または2に記載のストレス予防効果の付与方法。
    (a)配列番号9(SPMS,1020)に示される塩基配列中塩基番号1〜1020で示される塩基配列、
    (b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
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