JP2008263999A - 植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子群 - Google Patents

植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子群 Download PDF

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芳久 春日部
Izumi Inohara
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Abstract

【課題】低温ストレス抵抗性に深く関与するポリアミン代謝関連酵素遺伝子を提供し、該遺伝子を利用して低温ストレス抵抗性を増強した植物を作出する
【解決手段】低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする植物。
【選択図】図1

Description

本発明は植物のポリアミン代謝において、低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子、該遺伝子のアンチセンス遺伝子およびその用途に関する。本発明の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子は、低温時に機能発現するプロモーターの取得や植物の低温ストレス抵抗性を増強させるのに有用である。
植物はそれぞれの生息地の温度に適応して、その地域の温度を最適温度域として生活している。しかし、植物は生育適温の上限または下限を越えるような環境に遭遇すると高温ストレスや低温ストレスを受け、徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて障害を引き起こす。これまで、種々の温度環境に適応した野生の植物を食料作物や工芸作物などに利用するために、選抜や交雑育種など育種的手段によって作物の温度適応性の拡大に努めてきた。また、野菜や花卉、果樹等の園芸作物においては育種的手段に加えて、施設園芸で栽培可能な期間の拡大を図ってきた。しかし、特に日本は南北に長く、地域によっては気候が著しく異なるとともに、四季の変化が著しいので地域や季節によっては作物は生育に不適な温度環境にさらされる危険性が大きい。
例えば、熱帯を起源とするイネは、明治以来の品種改良によって東北地方や北海道などの冷涼地でも栽培できるようになり、現在ではこれらの地域の基幹作物として栽培されているが、これらの地域では初夏に異常低温があると冷害を受け、著しい減収になることが現在でも問題になっている。近年、地球温暖化やエルニーニョ現象が原因と考えられる異常気象によって作物が重大な被害を受け、1993年のひどい冷害による米不足は記憶に新しい。また、野菜類についてみると、トマト、キュウリ、メロン、スイカなど果菜類の中には熱帯起源の作物が多い。これらの作物は需要が大きく農業経営上も重要性の大きい作物で早くから施設栽培に取り入れられてきた。しかし、昭和49年のオイルショック以来、施設園芸における省資源や暖房コストの低減が問題となっている。施設園芸における省資源については温室の構造的なものから栽培技術まで各方面から検討されているが、最も基本的なことは作物の低温ストレス抵抗性を高めることである。低温ストレス抵抗性を高めるために交雑育種、最近の遺伝子工学技術を利用した育種、植物ホルモンや植物調節剤の作用を利用した方法等が行われている。
遺伝子工学技術を利用し、低温ストレス抵抗性を増強するためには低温ストレス抵抗性に関与する遺伝子を単離することが重要な課題である。低温ストレス抵抗性に関与する遺伝子として、これまで幾つかが単離されている。生体膜脂質の脂肪酸の不飽和化酵素遺伝子(ω−3デサチュラーゼ遺伝子、グリセロール−3−リン酸アシルトランスフェラーゼ遺伝子、ステアロイル−ACP−不飽和化酵素遺伝子)や光合成に関与するピルビン酸リン酸ジキナーゼ遺伝子、凍結保護・防止活性を持つタンパク質をコードする遺伝子(COR15、COR85、kin1)等が単離されている。
ポリアミンとは第1級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素の総称で生体内に普遍的に存在する天然物であり、20種類以上のポリアミンが見出されている。代表的なポリアミンとしてはプトレシン、スペルミジン、スペルミンがある。ポリアミンの主な生理作用としては、(1)核酸との相互作用による核酸の安定化と構造変化、(2)種々の核酸合成系への促進作用、(3)タンパク質合成系の活性化、(4)細胞膜の安定化や物質の膜透過性の強化などが知られている。植物におけるポリアミンの役割としては細胞増殖や分裂時に核酸、タンパク質生合成の促進効果や細胞保護が報告されており、環境ストレスに対しては塩ストレス、酸ストレス(非特許文献1:Plant cell physiol., 38(10), 156-1166, 1997)との関わりが主に報告されている。
植物のポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)、スペルミジン合成酵素(SPDS)、スペルミン合成酵素(SPMS)等が知られている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードする遺伝子については植物から既に幾つかが単離されている。ADC遺伝子はエンバク(非特許文献2:Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990)、トマト(非特許文献3:Plant Physiol., 103, 829-834, 1993)、シロイヌナズナ(非特許文献4:plant physiol., 111, 1077-1083, 1996)、エンドウ(非特許文献5:Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995)、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)(非特許文献6:Biocem. J., 314, 241-248, 1996)、SAMDC遺伝子はジャガイモ(非特許文献7:Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994)、ホウレンソウ(非特許文献8:Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995)、タバコ、SPDS遺伝子はシロイヌナズナ(非特許文献9:Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998)等から単離されている。しかしながら、これらの植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子と低温ストレス遭遇時の発現量の変化や低温ストレス抵抗性との関係については全く報告されていない。
ポリアミンやその生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素と低温ストレスに関する報告はイネ植物でのみ報告がある。例えば、Leeら(非特許文献10:Plant Science, 122, 111-117, 1997)は分離根培養において低温処理期間中のポリアミン濃度とポリアミン代謝関連酵素活性の変化を調べ、5℃の低温処理3日目にプトレシン濃度が増加し、ODCやSAMDC活性は低下したがADC活性は増加したと報告している。また、Leeら(非特許文献11:Plant Science, 126, 1-10, 1997)はイネ幼植物の根と地上部での低温処理期間中のポリアミン濃度とポリアミン代謝関連酵素の変化を調べ、低温抵抗性品種の地上部ではADCとSAMDC活性が増加し、根ではADC活性が増加したと報告している。いずれの報告においても低温処理期間中でのポリアミン代謝関連酵素の活性レベルを調べたものであり、ポリアミン代謝関連酵素をコードするポリアミン代謝関連酵素遺伝子の単離や低温ストレス遭遇時の発現量の変化については報告されていない。
また、田島ら(非特許文献12:Japan Jour. Crop Sci., 50(3), 411-412, 1981)はイネの幼植物における低温ストレス障害と生存率に及ぼすポリアミン(スペルミジン、スペルミン)の効果を調べているが、ポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素遺伝子については報告していない。
すなわち、これらの報告によると、低温ストレスによって特異的に発現誘導されるポリアミン代謝関連酵素遺伝子の確認には至っておらず、該遺伝子の低温ストレス抵抗性との関連や該遺伝子の植物からの単離、同定は行っていない。
Plant cell physiol., 38(10), 156-1166, 1997 Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990 Plant Physiol., 103, 829-834, 1993 plant physiol., 111, 1077-1083, 1996 Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995 Biocem. J., 314, 241-248, 1996 Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994 Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995 Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998 Plant Science, 122, 111-117, 1997 Plant Science, 126, 1-10, 1997 Japan Jour. Crop Sci., 50(3), 411-412, 1981
低温ストレス抵抗性の高い(低温耐性)品種と低い(低温感受性)品種での生化学的解析を行い低温ストレス抵抗性に密接に関与するメカニズムを明らかにする。そして、そのメカニズムに対して重要な役割をしている遺伝子を取得する。そして取得した遺伝子を実際に植物に応用し、実用レベルでの効果を確認することである。これまでポリアミン代謝関連酵素遺伝子は種々の植物から単離されているが、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と低温ストレス抵抗性との関わりに関する研究は少なく、低温ストレス遭遇時に発現量が変化するポリアミン代謝関連酵素遺伝子は見つかっていない。したがって、低温ストレス抵抗性に深く関与するポリアミン代謝関連酵素遺伝子を提供し、該遺伝子を利用して低温ストレス抵抗性を増強した植物を作出することは重要な課題である。
上記のような状況下において、本発明者らは植物の低温ストレス抵抗性を向上させるために、植物のポリアミン代謝における低温ストレス遭遇時の分子生物学研究について鋭意検討を行った。その結果、この問題は低温ストレス遭遇時に特異的に発現量が変化するポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素遺伝子を単離することによって解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者らは、低温ストレス抵抗性とポリアミンが密接に関わっていることを見出したものであり、低温ストレス抵抗性を示す植物組織では、低温ストレス遭遇時にポリアミン濃度が特異的に増加し、同時に低温ストレスで特異的に発現誘導されるポリアミン代謝関連酵素遺伝子を見出した。
ポリアミンは分子中にアミン(−NH−)を多く含む塩基性物質であり、代表的なポリアミンとしては二分子のアミンを含むプトレシン、3分子のアミンを含むスペルミジン、4分子のアミンを含むスペルミン等がある。植物において、これらのポリアミン生合成に関わるポリアミン代謝関連酵素としてはプトレシンについてはADC、ODC、スペルミジンについてはSAMDC、SPDS、スペルミンについてはSAMDC、SPMS等が見つかっている。これらのポリアミン代謝関連酵素をコードしているポリアミン代謝関連酵素遺伝子についても既に幾つかの植物で単離されている。しかしながら、低温ストレス抵抗性を示す植物組織で低温ストレス遭遇時に発現誘導を受け、その発現量が増加する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子は見つかっていない。
このような状況下に、本発明者らは植物の低温ストレス抵抗性を増強するために鋭意、検討した結果、低温ストレス抵抗性を示す植物組織では低温ストレス遭遇時に特にポリアミンであるスペルミジンやスペルミン含量が増大することを見いだし、実際に低温ストレス抵抗性を示す植物組織からスペルミジンやスペルミン生合成に関わるポリアミン代謝関連遺伝子(SPDS、SAMDC、ADC)を単離、同定し、さらにそのうち3種のポリアミン代謝関連遺伝子が低温ストレス遭遇時に発現誘導され、その発現量が増加することを見出し、該遺伝子が低温ストレス抵抗性に深く関与していることを明らかにし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は低温ストレス遭遇時に、その発現量が変化しう得る植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子である。また、本発明は上記遺伝子から誘導される種々の遺伝子、例えば上記遺伝子とハイブリダイズし得る遺伝子、該遺伝子のアンチセンス遺伝子、上記遺伝子を含む組換えベクター、これらの組換えベクターを用いた形質転換により得られた形質転換体である。
1. 植物のポリアミン代謝において、低温ストレス遭遇時に発現量が変化することを特徴とする単離された植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
2. スペルミジン合成酵素をコードする遺伝子である請求項1記載の植物由来のポリア
ミン代謝関連酵素遺伝子。
3. S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素をコードする遺伝子である請求項1記載の植
物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
4. アルギニン脱炭酸酵素をコードする遺伝子である請求項1記載の植物由来のポリア
ミン代謝関連酵素遺伝子。
5. 配列番号1、配列番号3、配列番号5および配列番号7のいずれかに記載される塩
基配列を含有する請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
6. 配列番号2、配列番号4、配列番号6および配列番号8のいずれかに記載されるア
ミノ酸配列をコードする請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
7. 植物が双子葉植物である請求項1〜6のいずれかに記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
8. 植物がウリ科植物である請求項1〜6のいずれかに記載の植物由来のポリアミン代
謝関連酵素遺伝子。
9. 植物がクロダネカボチャ植物である請求項1〜6のいずれかに記載の植物由来のポ
リアミン代謝関連酵素遺伝子。
10. 請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を部分的に置換もしく
は削除するかまたは他の遺伝子を挿入もしくは付加した遺伝子であって、請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子と同様の作用効果を有する遺伝子。
11. 請求項5記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を部分的に置換もしく
は削除するかまたは他の遺伝子を挿入もしくは付加した遺伝子であって、請求項5記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子と同様の作用効果を有する遺伝子。
12. 請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子とストリンジェントな
条件下でハイブリダイズし得ることを特徴とする遺伝子。
13. 請求項5記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子とストリンジェントな
条件下でハイブリダイズし得ることを特徴とする遺伝子。
14. 請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子に対するアンチセンス
DNA。
15. 請求項5記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子に対するアンチセンス
DNA。
16. 請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子に対するアンチセンス
RNA。
17. 請求項5記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子に対するアンチセンス
RNA。
18. 請求項1記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子含むことを特徴とする
組換えプラスミド。
19. 請求項2〜4のいずれかに記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子含む
ことを特徴とする組換えプラスミド。
20. 請求項5または6に記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子含むことを
特徴とする組換えプラスミド。
21. 請求項10または11に記載の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子含むこ
とを特徴とする組換えプラスミド。
22. 請求項18記載の組換えプラスミドを含むことを特徴とする形質転換体。
23. 請求項19記載の組換えプラスミドを含むことを特徴とする形質転換体。
24. 請求項20記載の組換えプラスミドを含むことを特徴とする形質転換体。
25. 請求項21記載の組換えプラスミドを含むことを特徴とする形質転換体。
26. 低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝
子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする微生物。
27. 形質転換された微生物が大腸菌もしくはアグロバクテリウム(Agrobacterium)属細菌である請求項26記載の形質転換された微生物。
28. 低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝
子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする植物。
29. 形質転換された植物がシロイヌナズナである請求項28記載の形質転換された植
物。
本発明における「ポリアミン代謝関連酵素遺伝子」とは、植物におけるポリアミン代謝の生合成に関与するポリアミン代謝関連酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、低温ストレス遭遇時に発現量が変化する遺伝子である。例えばポリアミン代謝の生合成に関与するスペルミジン合成酵素のアミノ酸をコードし、低温ストレス遭遇時に発現量が変化する遺伝子を指す。ここで「低温ストレス」とは植物の生育適温の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、低温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて障害が引き起こされる。本発明の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子としては、例えば、配列番号2、4、6または8記載のアミノ酸をコードする遺伝子などが挙げられる。該ポリアミン代謝関連遺伝子としては、例えば配列番号1、3、5または7記載の塩基配列を含有する。
本発明における「部分的に置換もしくは削除するか、または他の遺伝子を挿入もしくは付加した遺伝子」とは、一般的に生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列において1個もしくは複数のアミノ酸が置換、削除、挿入または付加された場合であっても、その生理活性が維持される場合があることは当業者において広く認識されている。本発明にはこのような修飾が加えられ、かつポリアミン代謝関連酵素をコードする遺伝子も本発明の範囲に含まれる。このような改変されたDNAは例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明のDNAの塩基配列を改変することによって得られる。
本発明において「アンチセンス遺伝子」とは、低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連遺伝子の塩基配列に相補的な配列を有する遺伝子を意味する。アンチセンスDNAは、例えば、配列番号1、3、5または7の塩基配列に相補的なものであり、アンチセンスRNAはそれらから産生されるものである。
本発明における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る遺伝子」は、例えば、配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを選択することによっても、改変されたDNAを得ることができる。ここで「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を指す。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示すと、本発明の植物由来のポリアミン代謝関連遺伝子と42℃で、かつ塩濃度、6×SSC(0.9M NaCl,0.09Mクエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0.2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na;pH7.4)であるハイブリダイゼーション条件下にハイブリッドを形成し、さらに42℃で、かつ塩濃度、0.5×SSCである洗浄条件下でもハイブリッドを形成する条件である。
本発明者らは、低温ストレス抵抗性を示すクロダネカボチャ植物の根から、低温ストレス遭遇時に発現量が変化し得るポリアミン代謝関連酵素遺伝子を見出した。その後、クロダネカボチャ植物の根組織から、幾つかのポリアミン代謝関連遺伝子を得、上記ポリアミン代謝関連遺伝子のうち、3種の遺伝子が実際に低温ストレス抵抗性を示す根組織で低温ストレス遭遇時に発現量が変化し得るポリアミン代謝関連酵素遺伝子に含有されることを見出した。ここで「低温ストレス遭遇時に発現量が変化し得るポリアミン代謝関連酵素遺伝子」とは、該植物が低温ストレス下に遭遇した場合、該植物中で異なったレベルで発現する遺伝子を意味する。
本発明による低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子は種々の植物から単離することができる。具体的には、例えば、ウリ科、ナス科、イネ科、アブラナ科、マメ科、アオイ科、キク科、アカザ科、マメ科、小麦、アルファルファ、オオムギ、シロイヌナズナなどが挙げられる。
本発明の植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を単離する植物組織としては種子形態、または生育過程にあるものである。生育過程にある植物は全体、あるいは部分的な組織から単離することができる。単離することができる部位としては、特に限定されないが、好ましくは植物の全樹、蕾、花、子房、果実、葉、茎、根等である。さらに好ましくは低温ストレス抵抗性を示す部位である。
本発明におけるポリアミンとは、第一級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素化合物であり、生物体内に普遍的に存在する極めて一般的な天然物である。例えば、1,3−ジアミノプロパン、プトレシン、カダベリン、カルジン、スペルミジン、ホモスペルミジン、アミノプロピルカダベリン、テルミン、スペルミン、テルモスペルミン、カナバルミン、アミノペンチルノルスペルミジン、N,N−ビス(アミノプロピル)カダベリン、ホモスペルミン、カルドペンタミン、ホモカルドペンタミン、カルドヘキサミン、ホモカルドヘキサミンなどが挙げられる。
本発明のポリアミン代謝関連酵素遺伝子は上記に示したポリアミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子である。例えば、代表的なポリアミンであるプトレシンについてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子とオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミジンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)とスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、スペルミンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子とスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子が関与し律速となっているものと考えられている。
アルギニン脱炭酸酵素(ADC:arginine decarboxylase EC4.1.1.19.)はL−アルギニンからアグマチンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。オルニチン脱炭酸酵素(ODC:ornithine decarboxylase EC4.1.1.17.)はL−オルニチンからプトレシンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC:S-adenosylmethioninedecarboxylase EC4.1.1.50.)はS−アデノシルメチオニンからアデノシルメチルチオプロピルアミンと二酸化炭素を生成する反応を触媒する酵素である。スペルミジン合成酵素(SPDS:spermidine synthase EC2.5.1.16.)はプトレシンとアデノシルメチルチオプロピルアミンからスペルミジンとメチルチオアデノシンを生成する反応を触媒する酵素である。
本発明のポリアミン代謝関連酵素遺伝子は以下の方法で単離することができる。
1.PCR法によるポリアミン代謝関連酵素遺伝子断片の取得(1)低温ストレス誘導PCR用cDNAライブラリーの作製昼18℃/夜14℃・3日間の低温処理を行ったクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)の根組織から常法に従い、ポリ(A)+
NAを抽出する。単離したポリ(A)+RNAから市販のMarathon cDNA Amplification Kit(クローンテック社製)等を用いてPCR用に使用するcDNAライブラリーを作製することができる。単離したポリ(A)+RNAを鋳型として、3’末端に2つのdegenerate nucleotide positionを持つ修飾lock-docking オリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用いて1本鎖cDNAを合成し、ポリメラーゼ反応によって2本鎖化したcDNAを得る。該2本鎖cDNAをT4DNAポリメラーゼにより末端を平滑化し、Marathon cDNAアダプターをライゲーション反応により結合させ、アダプター結合二本鎖cDNAライブラリーを作製する。
(2)PCRプライマーの設計ポリアミン代謝関連酵素遺伝子としてSPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子を単離することができる。SPDS遺伝子はシロイヌナズナやヒヨス、SAMDC遺伝子はジャガイモ、ホウレンソウ、タバコ、ADC遺伝子はダイズ、エンドウ、トマト、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)等から単離されており、既に塩基配列が決定されている。従って、決定されている既知の塩基配列を比較し、非常に保存されている領域を選抜し、DNAオリゴマーを合成しPCR用プライマーを設計することができる。
(3)PCRによるSPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子断片の取得上記(1)の方法で作製したPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、上記(2)の方法で設計したプライマーを使用して、それぞれPCRを行う。PCR産物をゲル電気泳動で分離し、グラスミルク法などで精製する。精製したPCR産物はTAベクターなどのクローニングベクターに連結させる。クローン化されたcDNAの塩基配列の決定は、Maxam−Gilbert法あるいはダイデオキシ法等により決定できる。いずれの方法も市販されているキットを用いて行うことができ、配列決定を自動的に行うオートシーケンサーを使用してもよい。
(4)完全長遺伝子の単離完全長の遺伝子を得るためには、常法に従って、プラークハイブリダイゼーション法、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法やMarathon
RACE法等により完全長の遺伝子を得ることができる。
(5)ノザン解析上記の方法で得られた植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子が低温ストレス抵抗性を示す組織で特異的に低温ストレス遭遇時にその発現量が変化することを確認するために、クロダネカボチャの低温ストレス抵抗性を示す根と低温ストレス抵抗性を示さない葉や茎に14℃の低温処理と23℃の適温処理した組織からそれぞれRNAを単離し、上記の方法で得られた遺伝子をプローブとしてノザンハイブリダイゼーションを行い、低温ストレス遭遇時に低温ストレス抵抗性を示す根で特異的に発現量が変化する遺伝子であることを確認する。このようにして取得した遺伝子は、ポリアミン生合成に関与する遺伝子であり、低温ストレス遭遇時に低温ストレス抵抗性を示す組織で特異的に発現が高まり、低温ストレス抵抗性に深く関与する遺伝子である。この遺伝子を利用して巧妙に、即ち、遺伝子発現を分子生物学的に制御することにより、低温ストレス抵抗性を増強した植物の作出に利用することが可能になる。
2.低温ストレス抵抗性に関与するポリアミン代謝関連酵素遺伝子の利用上記した方法により得た遺伝子を適当なプロモーターに接続して、植物に導入するとポリアミン代謝関連酵素の含量を増大させることができる。これに対し、前記遺伝子のアンチセンス鎖(コード配列に相補的な配列)の少なくとも一部を逆向きに適当なプロモーターに接続したものを植物に導入し、いわゆるアンチセンスRNAを発現させると、ポリアミン代謝関連酵素の含量を低下させることができる。
植物の形質転換方法としては、プロトプラストに電気パルス処理してプラスミドを導入するエレクトロポレーション法や、小細胞、細胞、リソソーム等とプロトプラストとの融合法、マイクロインジェクション法、ポリエチレングリコール法、あるいはパーティクルガン法等の方法を挙げることができる。
また、植物ウイルスをベクターとして利用することによって、目的遺伝子を植物体に導入することができる。植物ウイルスとしては、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)を用いることができる。すなわち、まずウイルスゲノムを一旦大腸菌等由来のベクターに挿入して組換え体を調製した後、ウイルスゲノム中にこれらの目的遺伝子を挿入する。このようにして修飾されたウイルスゲノムを制限酵素により、該組換え体から切り出し、植物に接種することによって、これらの目的遺伝子を植物体に挿入することができる[ホーン(Hohn)ら、モレキュラー・バイオロジー・オブ・プラント・チューモアーズ(Molecular Biology of Plant Tumors) 、アカデミック・プレス、ニューヨーク(Academic Press, NewYork)、第549〜560頁(1982)、米国特許第4,407,956号] 。
さらに、アグロバクテリウムのTiプラスミドを利用する方法がある。アグロバクテリウム属に属する細菌が植物に感染すると、それが持っているプラスミドDNAの一部を植物ゲノム中に移行させるという性質を利用して、これらの目的遺伝子を植物体に導入することもできる。アグロバクテリウム属に属する細菌のうち、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens) は植物に感染してクラウンゴールと呼ばれる腫瘍を、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)は植物に感染して毛状根を引き起こすが、これらは感染の際にTiプラスミド、又はRiプラスミドと呼ばれる、それぞれの細菌中に存在するプラスミド上のT−DNA領域(Transferred DNA) と呼ばれる領域が植物中に移行し、植物のゲノム中に組み込まれることに起因する。さらに、TiプラスミドまたはRiプラスミド上にはT−DNA領域が植物中に移行し、植物ゲノム中に組込まれるために必須であるvir領域といわれる領域がある。vir領域自身は植物中に移行されることはなく、また、このvir領域はT−DNA領域が存在するのとは異なったプラスミド上にあっても機能しうる [Nature, 303, 179, (1983)]。
TiプラスミドまたはRiプラスミド上のT−DNA領域中に、植物ゲノム中に組込みたいDNAを挿入しておけば、アグロバクテリウム属の細菌が植物体に感染する際に目的とするDNAを植物ゲノム中に組み込みことができる。ここで、TiプラスミドまたはRiプラスミドのT−DNA中のクラウンゴール、又は毛状根を引き起こす部分を、目的とする移行機能を損なうことなく取り除き、得られたものをベクターとして使用することもできる。本発明においては、このような種々のベクターを用いることができる。例えば、バイナリーベクターと呼ばれるpBI121(クローンテック社)等のベクターに、適当なプロモーターにポリアミン代謝関連酵素遺伝子を接続したもの、さらに該遺伝子をアンチセンス方向に接続したものを挿入して、これらを植物体に導入することができる。なお、これらのベクターは前出のvir領域を有しておらず、該ベクターを導入して用いるアグロバクテリウム属の細菌はvir領域を有している他のプラスミドを含有している必要がある。
また、これらのベクターはアグロバクテリウム属の細菌だけではなく、大腸菌中でも増幅することができるシャトルベクターであり、したがって、Tiプラスミドの組換え操作は、大腸菌を用いて行うことができる。さらに、これらのベクターは抗生物質耐性遺伝子を含んでおり、大腸菌、アグロバクテリウム属の細菌、および植物体等を形質転換する際に、形質転換体を容易に選別することができる。また、これらのベクターにはカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーターが存在しており、これらのベクターに挿入された遺伝子を植物ゲノム中に組み込んだ後、非調節的に発現させることが可能となる。
以下、シロイヌナズナにおけるアグロバクテリウムによる目的遺伝子の導入、および形質転換体細胞の植物体への再生法を例示する。シロイヌナズナの種子を常法に従って、MSOプレート(ムラシゲ・スクーグ無機塩類4.6g、ショ糖10g、1000×ビタミンストック液1ml/L、pH6.2)に播種し、無菌的に栽培する。発根した根の切片を用いてCIMプレート(MSOプレートに2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を終濃度0.5μg/ml、カイネチンを0.05μg/mlとなるように加えたもの)上でカルス培養を行う。プロモーターに目的遺伝子を接続し、カナマイシン及びハイグロマイシン耐性遺伝子を有するプラスミドにより形質転換したアグロバクテリウムを培養し、希釈したものをチューブに分注し、カルス化した根の切片を浸し、数日間CIMプレート上で共存培養する。菌株が肉眼で観察できるまで十分に増殖したら、除菌操作を行い、SIMCプレート(MSOプレートに、N6−[2−イソペンテニル] アデニンを終濃度5μg/ml、インドール酢酸(IAA)を終濃度0.15μg/ml、クラフォランを終濃度500μg/mlとなるように加えたもの)上で数日間培養を行う。これらの切片を最終的にSIMCSプレート(カナマイシンおよびハイグロマイシンBを含有するプレート)上で培養し、1週間ごとに新しいプレートに移植を繰り返す。形質転換した切片は増殖を続け、カルスが現れてくる。抗生物質で選択しているため、非形質転換切片は褐変する。形質転換体が5mm程度の大きさになり、ロゼット葉を形成するまで培養する。
完全なロゼットの形状を示すようになったら、形質転換体の根元をカルス部分を含まないようにメスで切り取り、RIMプレート(MSOプレートにIAAを終濃度0.5μg/mlとなるように加えたもの)に移植する。大きなカルスが付いていると、発根してもカルスを介して根が出ていて、ロゼットとは維管束がつながっていることが多い。約8〜10日後、無機塩類培地〔5mMKNO3、2.5mMK−リン酸緩衝液(pH5.5)、2mM MgSO4 、2mMCa(NO32 、50μM Fe−EDTA、1000×微量要素(70mM H3BO3 、14mM MnCl2 、0.5mM CuSO4、1mMZnSO4 、0.2mM NaMoO4 、10mM NaCl、0.01mMCoCl2)1ml/L〕に浸したロックウール上に定植する。開花し、莢を形成した植物体は無機塩類培地に浸した土に移植し、種子を得ることができる。この種子を滅菌処理し、MSH(MSOプレートのハイグロマイシンBを終濃度5U/mlとなるように加えたもの)に播種して発芽させることにより形質転換体を得ることができる。
この形質転換体より、常法に従ってDNAを抽出し、このDNAを適当な制限酵素で切断し、ポリアミン代謝関連酵素遺伝子をプローブとして用いてサザンハイブリダイゼーションを行い、形質転換の有無を確認することができる。また、形質転換体や、非形質転換体より、常法に従ってRNAを抽出し、ポリアミン代謝関連遺伝子のセンス配列、もしくはアンチセンス配列を有するプローブを作成し、これらのプローブを用いてノザンハイブリダイゼーションを行い、目的遺伝子の発現の状態を調べることができる。
本発明のポリアミン代謝関連遺伝子は低温ストレス遭遇時に発現量が変化し、低温ストレス抵抗性に関与するため、この塩基配列を低温ストレス時のマーカーとして利用して、低温ストレス抵抗性のメカニズムの解明及び低温ストレス時に機能発現する調節遺伝子(プロモーター配列)の単離を可能にするものである。従って、もし、この遺伝子の塩基配列を低温ストレス時のマーカーとして使用すれば、低温ストレス抵抗性や低温耐性のメカニズムの解明及びそれを調節する遺伝子の単離が達成されるであろう。
本発明のポリアミン代謝関連遺伝子は、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーターを用いることによって、植物細胞の器官全体にADC、SPDS、SAMDC等のポリアミン代謝酵素の含量を増加させることができる、その結果、ポリアミン代謝が活性化されプトレシン、スペルミジン、スペルミン等のポリアミン含量が増加する。
ポリアミンの生理作用は低温ストレス抵抗性だけでなく、高塩、低pH、低酸素、カドミウム、SO2毒性、紫外線、病原体、除草剤等のストレス抵抗性にも関わっていると考えられていることから、植物体内のポリアミン含量を制御することによってこれらのストレス抵抗性が付与される可能性がある。
また、発現調節用のプロモーターとしては、例えば、CaMVの35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子(NOS)プロモーター、オクトピン合成酵素遺伝子(OCS)プロモーター、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)遺伝子プロモーター、カルコンシンターゼ(CHS)遺伝子プロモーター等を挙げることができる。さらにこれらに限定されない公知の植物プロモーターも挙げられる。
上記35Sプロモーターのような器官全体に恒常的に発現させるプロモーターだけでなく、低温、高温、光、熱、ホルモンあるいは傷害等の調節性のプロモーターを用いれば、生活環境に応じて目的遺伝子を発現させることができる。例えば、本発明のポリアミン代謝関連酵素遺伝子と植物が低温に遭遇した時だけ転写を起こさせ得るプロモーターを用いることによって、低温時のみ植物体のポリアミン代謝を制御し低温ストレス抵抗性を高めることができる。また、器官又は組織特異的なプロモーターを用いれば、特定の器官又は組織だけに目的遺伝子を発現させることができる。
本発明のポリアミン代謝関連酵素遺伝子により形質転換される植物は、特に限定されるものではないが、低温ストレス抵抗性の低い(低温感受性)植物が挙げられる。
上述したように、本発明により、植物の低温ストレス抵抗性を増強することができ、また植物の生育過程において遭遇する低温ストレスによる障害の回避や生長抑制を軽減することができ、栽培の安定化と生産性の向上が期待できる。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明する。なお、これらは本発明を特に限定するものではない。
実施例1:キュウリとクロダネカボチャの根のポリアミン含量の測定(1)供試材料の調製根において低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)と低温ストレス抵抗性の低いキュウリ‘四葉’をガラス室で播種し、子葉展開時に市販の床土(サンサン床土;タキイ種苗社製)を詰めた鉢に移植した。第1本葉展開時に人工気象室(気温昼26℃/夜20℃、相対湿度 昼70%/夜85%、光強度480μM/m2s、15時間日長)内に置いた。2台の栽培槽(1/2倍ホーグランド液120L、液温23℃)に9株ずつ定植した。
(2)低温処理定植4日後に、株ごとに生体重を測定して植え戻したのち、1台の栽培槽の液温を14℃に下げた。
(3)サンプリングサンプリングは低温処理後、3日ごとに3株ずつ採取し、茎葉と根の生体重を測定した。同時にポリアミン定量のために根5gを調製し、分析まで−80℃に凍結保存した。
(4)ポリアミン含量の測定ポリアミンを5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり4ml)で葉から抽出した。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの希釈内部標準液を添加後、2℃、40,000×gで20分間遠心分離した。上清液をカチオン交換樹脂(50W−4X、200−400メッシュ、H+型:バイオラッド製)カラムに通した。0.7
N NaCl/0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、水、1N塩酸を順次流
してカラムを洗浄し、ポリアミン以外のアミノ酸や有機物を除去した。6N塩酸をカラムに加え、液が出なくなるまで流出し、ポリアミンを回収した。溶出液を40℃で減圧乾固し、これに5%過塩素酸を加えポリアミンを溶解した。プトレシン、スペルミジン、スペルミンのポリアミン量の定量はベンゾイル化した後、UV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはInertsil
ODS-2(4.6×250mm:GLサイエンス社製)を使用し、58%メタノールに1%酢酸を含んだ溶離液を用いた。
上記の方法に従ってクロダネカボチャとキュウリの低温ストレス遭遇中の根の生長とポリアミン含量を測定した。その結果を図1〜図4に示した。図1の結果から、低温ストレス抵抗性が低いキュウリの根の生長は14℃の低温処理で顕著に阻害されたが、低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャの根の生長は23℃区よりやや劣る程度であった。図2の結果から、プトレシン濃度は2作物とも低温14℃区で23℃区より高い値を示した。図3の結果から、スペルミジン濃度は2作物とも低温14℃区で23℃区より高い値を示したが、23℃区との違いは低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャの方が大きかった。図4の結果から、スペルミン濃度はキュウリでは23℃区の方が高い値を示したのに対して、低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャでは低温処理6日目、9日目には14℃区で23℃区より高い値を示した。
本実験の結果からポリアミン特にスペルミジン、スペルミンが低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャの根で低温14℃区で23℃区より高い値を示すことが確認された。このことはクロダネカボチャの根の低温ストレス抵抗性にポリアミンが密接に関係し、ポリアミンの量的変化が重要であることを示唆している。低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャの根において低温14℃区でポリアミン量が増加したのは、低温ストレス遭遇後、根のポリアミン生合成に関与するポリアミン代謝関連遺伝子の発現が誘導され、その結果としてポリアミン代謝が活性化しポリアミン量が増加したものと推察される。
実施例2:植物由来のポリアミン代謝関連遺伝子のクローニング(1)ポリ(A)+RNAの調製クロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)をバーミキュライトに播種し、子葉展開時に市販の床土(サンサン床土;タキイ種苗社製)を詰めた鉢に移植した。鉢上げしたクロダネカボチャを植物栽培用のインキュベーター(気温昼26℃/夜22℃、13時間日長)内に置いた。第2本葉展開時にインキュベータ内の温度を昼18℃/夜14℃まで下げ低温処理を開始した。低温処理3日後に、根、茎、葉に分けてサンプリングした。RNA抽出を行うまで−80℃のフリーザーに保存した。
約4gのクロダネカボチャの根組織を直ちに液体窒素中で凍結し、液体窒素存在下乳鉢で細かく粉砕した。その後、10mlの抽出用0.2Mトリス−酢酸緩衝液〔5M guanidine thiocyanate、0.7% β−mercaptoethanol、1%polyvinylpyrrolidone(分子量360,000)、0.62% N−Lauroylsarcosine Sodium Salt;pH8.5)を加え、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて氷冷下2分間粉砕した。ただし、β−メルカプトエタノールとポリビニルピロリドンは使用する直前に添加した。その後、粉砕液を17,000×gで20分間遠心分離し、上清を回収した。
この上清をミラクロスに濾渦し、その濾液を超遠心分離管に入れた5.7M塩化セシウム溶液1.5mlに静かに重層し、155,000×g、20℃で20時間遠心した後、上清を捨てRNAの沈殿を回収した。この沈殿を3mlのTE緩衝液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA・2Na;pH8.0)に溶解し、さらに等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(容積比、25:24:1)を加え良く混合した後、遠心分離を行って上層の水層を回収した。得られた水層に、1/10倍量の3M酢酸ナトリウム(氷酢酸でpH6.2に調製)と、2.5倍量のエタノールを添加して良く混合し、−20℃で一晩静置した。その後、17,000×gで20分間遠心分離し、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄して減圧乾燥した。
この乾燥標品を500μlの前述のTE緩衝液に溶解し、全RNA溶液を得た。このRNA溶液を65℃で5分間インキュベートした後、氷上で急冷した。これに2×結合緩衝液(10mM Tris−HCl、5mM EDTA・2Na、1M NaCl、0.5% SDS;pH7.5)を等量になるようにRNA溶液に加え、平衡化緩衝液(10mMTris−HCl、5mM EDTA・2Na、0.5M NaCl、0.5% SDS;pH7.5)で予め平衡化したオリゴ(dT)セルロースカラム(クローンテック社製)に重層した。次いで、カラムを約10倍量の上記平衡化緩衝液で洗浄した後、溶出緩衝液(10mMTris−HCl、5mM EDTA・2Na;pH7.5)でポリ(A)+RNAを溶出した。
得られた溶出液に1/10倍量の前述の3M酢酸ナトリウム水溶液と、2.5倍量のエタノールを加え混合し、−70℃で静置した。その後、10,000×gで遠心分離を行ない、得られた沈殿を70%エタノールで洗浄して減圧乾燥した。この乾燥標品を再度500μlのTE緩衝液に溶解し、オリゴ(dT)セルロースカラム精製を繰り返し行った。得られた低温処理したクロダネカボチャの根由来のポリ(A)+RNAはPCR用のcDNAライブラリーと完全長遺伝子単離用のcDNAライブラリーの作製に用いた。
(2)低温処理PCR用cDNAライブラリーの作製cDNAライブラリーの作製はMarathon cDNA Amplification Kit(クローンテック製)を使用した。(1)で得られたクロダネカボチャの根由来のポリ(A)+RNAを鋳型として3’末端に2つのdegenerate nucleotide position を持つ修飾lock-docking オリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用い、GublerとHoffmanらの方法(Gene, 25, 263-269 (1983))に従い2本鎖cDNAを合成した。得られたcDNAの両末端にMarathon cDNAアダプター(T4 DNAリガーゼにより2本鎖cDNAの両末端へ結合しやすくなるように5’末端をリン酸化したもの)を連結した。得られたアダプター結合のcDNAをクロダネカボチャ根由来のPCR用cDNAライブラリーとした。
(3)PCR用プライマーの設計既に植物や哺乳類から単離されているアルギンニン脱炭酸酵素遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子、スペルミジン合成酵素遺伝子の決定されている塩基配列を比較した。そして、非常に相同性が高く保存されている領域を選び出し、DNAオリゴマーを合成した(配列プライマーI〜VI)。
SPDSプライマーI(配列番号9)
5'-GTTTTGGATGGAGTGATTCA-3'SPDSプライマーII(配列番号10)
5'-GTGAATCTCAGCGTTGTA-3'SAMDCプライマーIII(配列番号11)
5'−TATGTGCTGTCTGAGTCGAGC-3'SAMDCプライマーIV(配列番号12)
5'-GCTAAACCCATCTTCAGGGGT-3'ADCプライマーV(配列番号13)
5'-GGGCT(T/G)GGA(G/A)T(G/C)GACTA(C/T)-3'(ミックスプライマー)
ADCプライマーVI(配列番号14)
5'-(T/C)CC(A/G)TC(A/G)CTGTC(G/A)CA(G/C)GT-3'(ミックスプライマー)
(4)PCRによる増幅(2)で得られたPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、(3)で設計した配列プライマーを用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、45℃、1分間、72℃、2分間で5サイクル行い、続いて94℃、30秒、55℃、1分間、72℃、2分間で30サイクル行った。
(5)アガロースゲル電気泳動PCR増幅産物を1.5%アガロース電気泳動を行い、泳動後のゲルをエチジウムブロマイド染色し、UVトランスイルミネーター上で増幅バンドを検出した。
(6)PCR産物の確認と回収検出された増幅バンドを確認し、カミソリの刃を用いてアガロースゲルから切り出した。切り出したゲルを1.5mlのマイクロチューブに移し、QIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルからDNA断片を単離精製を行った。回収したDNA断片をpGEMTクローニングベクター(Promega社製)にサブクローニングし、大腸菌に形質転換後、常法に従ってプラスミドDNAを調製した。
(7)塩基配列決定得られたプラスミドの挿入配列の塩基配列決定をダイデオキシ法(Messing, Methods in Enzymol., 101, 20-78, 1983)により行った。SPDS遺伝子については3種類の遺伝子、SAMDC遺伝子については1種類の遺伝子、ADC遺伝子については2種類の遺伝子が単離された。
(8)ホモロジー検索これらの遺伝子の塩基配列を既知遺伝子塩基配列のデータベースとホモロジーサーチを行うと3種類のSPDS遺伝子は既知の植物由来のSPDS遺伝子と70%の相同性を示した。1種類のSAMDC遺伝子については既知の植物由来のSAMDC遺伝子と70%以上の相同性を示した。2種類のADC遺伝子については既知の植物由来のADC遺伝子と67%以上の相同性を示した。
(9)ノザンブロット解析これらの遺伝子が低温ストレス抵抗性を示す根組織で低温ストレス遭遇時に発現量が変化していることを確かめるために、ノザンブロッティングを下記に示す様にして行った。14℃で6日間の低温ストレス処理を行ったクロダネカボチャの根、茎、葉と23℃で6日間の適温処理を行ったクロダネカボチャの根、茎、葉からRNAを抽出した。RNA抽出方法は実験例2のようにして行った。得られたtotal RNA10μgを1.5%ホルムアルデヒドアガロースゲルで電気泳動した後、ハイボンドN+ナイロンメンブランに一晩ブロッティングした。UVクロスリンカーでRNAを固定した後、プレハイブリダイゼーション用緩衝液(50% Formamide、5×SSPE、5×Denhardt's液、0.1%SDS、80μg/mlサケ精子DNA;pH7.0)で、42℃、2時間プレハイブリダイゼーションを行った。PCRで得られた6種類のcDNAを32P-dCTPとランダムラベルキット(アマシャム社製)を用いて、プローブを作製した。このプローブをプレハイブリダイゼーションに加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後、メンブランを2×SSC,0.1%SDSを含む洗浄液からスタートし、最終的には0.1×SSC,0.1%SDSを含む洗浄液で50℃、30分、2回まで洗浄した。メンブランをX線フィルム(コダック社製)を用いて、オートラジオグラフィーをとった。
ノザンブロッティングの結果を図5、図6、図7に示した。図5の結果から、取得した3種類のSPDS遺伝子のうちの一つが低温ストレス抵抗性の高い根組織において14℃の低温ストレス処理によってその発現量が増加し、低温ストレス抵抗性が低い茎、葉組織では14℃の低温ストレス処理によってSPDS遺伝子の発現量は有意に増加しなかった。図6の結果から、取得した1種類のSAMDC遺伝子が低温ストレス抵抗性の高い根組織において14℃の低温ストレス処理によってその発現量が増加し、低温ストレス抵抗性が低い茎、葉組織では14℃の低温ストレス処理によってSAMDC遺伝子の発現量は有意に増加しなかった。図7の結果から、取得した2種類のADC遺伝子のうちの一つが低温ストレス抵抗性の高い根組織において14℃の低温ストレス処理によってその発現量が増加し、低温ストレス抵抗性が低い茎、葉組織では14℃の低温ストレス処理によってADC遺伝子の発現量は有意に増加しなかった。
以上の結果から、上記3つのポリアミン代謝関連酵素遺伝子は低温ストレス抵抗性が高いクロダネカボチャの根組織で低温ストレス時に特異的に発現量が高まる遺伝子であり、低温ストレス抵抗性に密接に関与する遺伝子であると考えられる。本結果と実施例1の結果からクロダネカボチャの根では低温ストレス遭遇によって特異的なSPDS遺伝子やSAMDC遺伝子、ADC遺伝子などのポリアミン代謝関連遺伝子の発現量が高まりポリアミン代謝が活性化し、スペルミジンやスペルミン等のポリアミンの含量が増加した。低温ストレス遭遇時にポリアミン量が増加したことによって根の低温ストレスに対する抵抗性が増強したと考えることができる。上記の3種類のポリアミン代謝関連遺伝子は低温ストレス抵抗性に関与する遺伝子であり、SPDS遺伝子はCfSPD1、SAMDC遺伝子はCfSAM1(配列番号3,4)、ADC遺伝子はCfADC1(配列番号5,6)と命名した。
(10)完全長遺伝子の取得完全長遺伝子はプラークハイブリダイゼーション法で取得した。cDNAライブラリーの作製はZAP-cDNA Synthesis Kit(stratagene社製)を使用した。(1)で得られたクロダネカボチャ根由来のポリ(A)+RNAを鋳型としてオリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用い、GublerとHoffmanらの方法(Gene, 25, 263-269 (1983))に従い2本鎖cDNAを合成した。
得られたcDNAの両末端にEcoRIアダプター(内部にXhoIとSpeIサイトを持つ)を連結し、XhoIで消化した後、それをλファージベクター、λZAPIIアームのEcoRIとXhoI部位に連結後、インビトロパッケージングキット(Stratagene社製、GIGAPACK Gold)を用い、パッケージングを行い、大腸菌SURE株(OD660=0.5)に感染させることにより多数の組換えλファージを得た。これをクロダネカボチャ根由来のcDNAライブラリーとした。このライブラリーのサイズは8.0×106であった。
プローブの作製は(6)で調製したSPDS遺伝子とSAMDC遺伝子のプラスミドDNAからインサートcDNAを単離・調製し、得られたcDNAを鋳型として、Random Primed DNA Labeling Kit(USB社製)を用いて、32P標識プローブを作製した。得られた32P標識cDNAをプローブに用いた。前記、クロダネカボチャ根由来のcDNAライブラリーを構成するファージを大腸菌に感染させてLB寒天培地上で増殖させ、約50,000個のファージDNAをナイロンメンブレン(ハイボンド−N+、アマシャム社製)に写し取った。ファージDNAを写し取ったナイロンメンブレンをアルカリ変性液(0.5MNaOH、1.5M NaCl)を含んだ濾紙上に移し、4分間放置し、次に中和液(0.5M Tris−HCl、1.5M NaCl;pH8.0)を含んだ濾紙上に移し5分間放置した。2×SSC(0.3M NaCl、0.03Mクエン酸三ナトリウム)で洗浄した後、メンブレンをストラタリンカー(stratagene社製)を用いDNAの固定を行った。固定処理を行ったナイロンメンブレンをハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、0.5%SDS、6×SSPE(3M NaCl、0.2M NaH2PO4、20mMEDTA・2Na;pH7.4)、5×Denhard's溶液(0.1% Ficoll、0.1% Polyvinylpyrrolidone、0.1% bovine serum albumin)、50μg/ml変性サケ精子DNAを含有)中において、42℃で3時間プレハイブリさせ、作製したcDNAプローブを加え42℃で18時間ハイブリダイズさせた。その後、メンブレンを取り出し、2×SSC、1×SSC、0.5×SSCおよび0.1×SSCを含有する溶液を用いて、42℃で1〜2時間洗浄した。このメンブレンを乾燥した後、X線フィルムを密着させて一晩感光させた。その結果、SPDS遺伝子及びSAMDC遺伝子の断片から得たプローブでハイブリダイズした陽性クローンを選抜することができた。
陽性クローンのファージDNAそれぞれから、インビボ・エクシジョン法によりcDNAインサートを持つプラスミドクローンを調製した。インビボ・エクシジョン法は、ZAP-cDNA Synthesis Kit(stratagene社製)の方法に従った。SPDS遺伝子およびSAMDC遺伝子断片を含むファージ液200μl、大腸菌XL1-Blue懸濁液200μl、ヘルパーファージR408懸濁液1μlを混ぜ37℃で15分間インキュベートした後、3mlの2×YT培地を加え37℃で2時間振蘯培養し、70℃で20分間処理し、遠心分離(4,000×g、10分間)して上清を回収した。得られた上清30μlと大腸菌SURE懸濁液30μlを混ぜ、37℃で15分間インキュベートした後、アンピシリンを50ppm含むLB寒天培地に数μl植菌し、37℃で一晩培養した。コロニーを形成した大腸菌は、cDNAインサートを持つプラスミドクローンを含んでいた。これらのプラスミドの挿入配列の塩基配列決定を、ダイデオキシ法(Messing, Methods in Enzymol., 101, 20-78, 1983)により行った。その結果、開始コドンを含むプラスミドであることが明らかとなった。
得られた完全長のクロダネカボチャ由来のスペルミジン合成酵素遺伝子をFSPD1(配列番号1,2)、S−アデンシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子をFSAM24(配列番号7,8)と命名した。得られたFSPD1と既知の植物由来のスペルミジン合成酵素遺伝子とアミノ酸比較を行った(表1)。表1の結果からクロダネカボチャ根由来のFSPD1は他の植物由来のSPDS遺伝子とアミノ酸レベルで高い相同性を示した。
Figure 2008263999
得られたFSAM24と既知の植物由来のS−アデンシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子とアミノ酸比較を行った(表2)。表2の結果からクロダネカボチャ根由来のFSAM24は他の植物由来のSAMDC遺伝子とアミノ酸レベルで高い相同性を示した。
Figure 2008263999
実施例3:トランスジェニックシロイヌナズナの作製(1)プラスミドの構築配列番号1に示したポリアミン代謝関連酵素遺伝子FSPD1の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むようにNotIで切断、配列番号7に示したポリアミン代謝関連酵素遺伝子FSAM24の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むようにXhoIで切断し、それぞれ平滑末端化した。この断片を平滑末端化した35Sプロモーターが連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にサブクローニングした。このプラスミドをpBI35S−FSPD1、pBI35S−FSAM24と命名した。なお、形質転換された大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)JM109を、エシェリヒア・コリJM109/pBI35S−FSPD1、エシェリヒア・コリJM109/pBI35S− FSAM24と命名した。
(2)プラスミドのアグロバクテリウムへの導入(1)で得られた大腸菌pBI35S−FSPD1、pBI35S− FSAM24とヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101株を、それぞれ50mg/Lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムEHA101株を50mg/Lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブに取り集菌した後、LB培地で洗浄した。これらの菌体を1mlのLB培地に懸濁後、3種の菌を100μlずつ混合し、LB培地寒天培地にまき、28℃で培養してプラスミドをアグロバクテリウムに接合伝達させた。1〜2日後に一部を白金耳でかきとり、50mg/Lカナマイシン、20mg/Lハイグロマイシン、25mg/Lクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28#Cで2日間培養した後、単一コロニーを選択した。得られた形質転換体をEHA101/pBI35S−FSPD1、EHA101/pBI35S− FSAM24と命名した。
(3)無菌シロイヌナズナの栽培シロイヌナズナWassilewskija株(以下、WS株と称す)の種子(大阪大学:新名惇彦博士より提供)数10粒を1.5mlチューブに入れ、70%エタノール1mlを加え3分間放置した。続いて滅菌液(5%次亜塩素酸ナトリウム、0.02%TritonX−100)に3分間浸し、滅菌水で5回洗浄した後に、MSOプレート(ムラシゲ−スクーグ無機塩類4.6g、ショ糖10g、1000×ビタミンストック液1ml/L;pH6.2)に置床した。このプレートを4℃に2日間放置して低温処理を行い、続いて植物インキュベーター(サンヨー製、MLR−350HT)中に22℃、光強度6000ルクス、長日条件下(明期16時間、暗期8時間)にて、21日間培養した。感染効率を上げるために再度植物を無菌的に引き抜いて、新たなMSOプレートの表面に根を広げ、さらに2日間培養を続けた。
(4)アグロバクテリウムの感染前記で21日間培養したWS株の根を数株ずつそろえて、メスで1.5〜2.0cm程度に切りそろえ、CIMプレート(MSOプレートに2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を終濃度0.5μg/ml、カイネチンを0.05μg/mlとなるように加えたもの)に置き並べた。光強度3000ルクス、16時間明期、8時間暗期で2日間培養し、MS希釈液(ムラシゲ−スクーグ無機塩類6.4g/L、pH6.3)で3倍に希釈したものをそれぞれ1mlずつチューブに分注し、この中にカルス化した根の切片を10分間浸した。2枚重ねた滅菌ろ紙上に並べ、余分な水分を除き、新しいCIMプレートに各々置き並べた。同条件にて2日間共存培養した。
(5)除菌各々の菌株が肉眼で観察できるまで十分に増殖した切片を除菌液(MS希釈液にクラフォランを終濃度200μg/mlになるように加えたもの)に移し、ゆっくりと振蘯させて60分間洗浄した。この操作を5回繰り返した後、滅菌ろ紙上で水分を取り除き、SIMCプレート(MSOプレートに、2−ipを終濃度5μg/ml、IAAを終濃度0.15μg/ml、クラフォランを終濃度500μg/mlとなるように加えたもの)に置き並べ、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期で2日間培養した。
(6)形質転換植物の選択前記で2日間培養した切片をSIMCSプレート(SIMCプレートにハイグロマイシンBを終濃度4.6U/mlとなるように加えたもの)に移植し、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期で培養した。以後、1週間毎に新しいSIMCSプレートに移植した。形質転換した切片は増殖を続け、ドーム状に盛り上がったカルスとなるが、非形質転換体は褐変した。形質転換体は約2週間後カルスが緑色を呈し、約1カ月後葉が形成され、その後ロゼット葉となった。
(7)形質転換植物の再生ロゼット葉となった植物体の根本を、カルス部分を含まないように剃刃もしくはメスで切り取り、RIMプレートに軽く乗せるように挿した。8〜10日後、1〜2cm程度の根が数本形成したものをピンセットで無機塩類培地〔5mMKNO3、2.5mM K−リン酸緩衝液(pH5.5)、2mMMgSO4、2mMCa(NO32、50μM Fe−EDTA、1000×微量要素(70mM H3BO3、14mM MnCl2、0.5mM CuSO4、1mMZnSO4、0.2mM NaMoO4、10mM NaCl、0.01mM CoCl2)1ml/L〕に浸したロックウールミニポット(日東紡績社製)に定植し、培養した。開花し、さや形成後は、バーライトとバーミキュライト(TES社製)を1:1に混合し、無機塩類混合培地に浸した土に植え換えた。約1カ月後、1株につき数百粒の種子が得られた。これを以後T2種子と称す。
(8)抗生物質耐性株の取得T2種子約100粒を(3)と同様の方法で滅菌し、MSHプレートに播種した。ほぼ3:1の割合でハイグロマイシンB耐性株が発芽した。
(9)DNA抽出とサザンハイブリダイゼーション前記で発芽したT2種子を無機塩類培地に浸したロックウールミニポットにピンセットで移植し、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期、22℃の条件下で培養した。2週間後、ロックウールの表面をナイフで撫でるようにメスで地上部を切り取り、直ちに液体窒素で凍結した。これを液体窒素存在下乳鉢で細かく粉砕し、1g当たり3mlのDNA抽出用緩衝液〔200mMTris−HCl(pH8.0)、100mM EDTA−2Na、1%N−ラウロイルサルコシンナトリウム、100μg/ml proteinase K〕を加え十分撹拌した。60℃、1時間インキュベート後、遠心分離(10,000×g、10分間)し上清をミラクロスで濾渦し新しいチューブに移した。フェノール:クロロフォルム:イソアミルアルコール(25:24:1)抽出を3回行なった後、エタノール沈殿を行った。沈殿をTE緩衝液に溶解した。それぞれ植物体約2.0gから、20μgずつのゲノムDNAが得られた。このうち1μgのDNAを用いて、それぞれを制限酵素EcoRI、HindIIIで切断し、1%アガロース電気泳動及びサザンハイブリダイゼーションに供した。また、形質転換を行っていないWS株の種子を発芽、生育させ、植物体より、同様にDNAを抽出し、制限酵素EcoRI、HindIIIによる消化を行ない、1%アガロースゲル電気泳動及びサザンハイブリダイゼーションに供した。ハイブリダイゼーション用プローブはpCfSPD1、pCfSAM1を用いた。サザンハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング,ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning,a Laboratory Manual)、第9章、第31〜58頁〔コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harber)社、1989年刊〕に記載の方法に従って行った。すなわち、それぞれのDNA試料について1%アガロースゲル電気泳動を行い、泳動後、アルカリ変性を行いナイロンメンブレン(ハイボンド−N+、アマシャム社製)に一晩サザンブロットした。紫外線トランスイルミネーター(254nm)に3分間照射させ、DNAを固定した。このメンブレンをプレハイブリダイゼーション緩衝液(5×Denhardt's液、6×SSC、0.1%SDS、10μg/mlサケ精子DNA)5ml中で50℃、2時間プレハイブリダイゼーションを行った。プローブを加え、50℃で一晩ハイブリダイゼーションを行なった。ハイブリダイゼーションの後、メンブレンを2×SSC、0.1%SDSを含む洗浄液で室温、10分間、2回洗浄し、続いて同じ洗浄液で50℃、30分間で2回洗浄した。メンブレンは乾燥させた後、X線フィルム(コダック社製)を入れたカセット内で−80℃、一晩感光させ、オートラジオグラフィーをとった。形質転換を行っていない株(1)、pFSPD1を導入した形質転換体(2)、pFSAM24を導入した形質転換体(3)、ベクターのみを導入した形質転換体(4)について、サザンハイブリダイゼーションにより検出されたシグナルのパターンを比較した。
(2)には、(1)、(2)、(3)、(4)共通の内在性のシグナルのほかに、EcoRIで切断したサンプルでは約1.9kbpと約0.7kbp、HindIIIで切断したサンプルでは約6kbpの位置に特異的なシグナルが観察され、目的遺伝子が(2)に組み込まれていることが観察された。(3)には、(1)、(2)、(3)、(4)共通の内在性のシグナルのほかに、EcoRIで切断したサンプルでは約3kbp、HindIIIで切断したサンプルでは約9kbp、1.3kbpおよび0.4kbpの位置に特異的なシグナルが観察され、目的遺伝子が(3)に組み込まれていることが観察された。
キュウリ‘四葉’とクロダネカボチャの根の成長に及ぼす温度の影響を示す図である。 キュウリ‘四葉’とクロダネカボチャの根のプトレシン濃度に及ぼす温度の影響を示す図である。 キュウリ‘四葉’とクロダネカボチャの根のスペルミジン濃度に及ぼす温度の影響を示す図である。 キュウリ‘四葉’とクロダネカボチャの根のスペルミン濃度に及ぼす温度の影響を示す図である。 クロダネカボチャの各組織におけるCfSPD1遺伝子の発現結果を示す図である。 クロダネカボチャの各組織におけるCfSAM1遺伝子の発現結果を示す図である。 クロダネカボチャの各組織におけるCfADC1遺伝子の発現結果を示す図である。

Claims (7)

  1. 以下の(a)又は(b)のDNAを含む単離された植物由来のスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子:
    (a) 配列番号1の塩基配列からなるDNA;
    (b) 配列番号2に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA。
  2. 以下の(a)又は(b)のDNAを含む単離された植物由来のS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子:
    (a)配列番号7の塩基配列からなるDNA;
    (b)配列番号8に記載されるアミノ酸配列をコードするDNA。
  3. 請求項1又は2記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換えプラスミド。
  4. 請求項3記載の組換えプラスミドで形質転換されたことを特徴とする形質転換体。
  5. 請求項3記載の組換えプラスミドで形質転換されたことを特徴とする植物。
  6. 以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、配列番号7の塩基配列から成るDNA又は配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNAを含むクロダネカボチャ由来のSAMDC遺伝子を生産する方法:
    (1) クロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)を低温処理する工程;
    (2) 工程(1)で処理したクロダネカボチャからmRNAを抽出し、cDNAライブラリーを作成する工程;
    (3) 工程(2)で作成したライブラリーからSMADCのcDNAを分離する工程。
  7. 工程(2)において、クロダネカボチャの根からmRNAを抽出する、請求項6に記載の方法。
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