JP4573691B2 - 種々の環境ストレス耐性を改良した植物、その作出方法、並びにポリアミン代謝関連酵素遺伝子 - Google Patents
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Description
J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 780-787, 1999 J. Japan Soc. Hortic. Sci., 68, 967-973, 1999 Plant Physiol. 124, 431-439, 2000 Plant Physiol., 91, 500-504, 1984 Plant cell physiol., 38(10), 156-1166, 1997 Plant Physiol. 75, 102-109, 1984 New Phytol., 135, 467-473, 1997 Plant Cell Physiol., 39(9), 987-992, 1998 Mol. Gen. Genet., 224, 431-436, 1990 Plant Physiol., 103, 829-834, 1993 plant physiol., 111, 1077-1083, 1996 Plant Mol. Biol., 28, 997-1009, 1995 Biocem. J., 314, 241-248, 1996 Plant Mol. Biol., 26, 327-338, 1994 Plant Physiol., 107, 1461-1462, 1995 Plant cell Physiol., 39(1), 73-79, 1998
1.植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を安定に保持し、且つ該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて環境ストレス耐性が改良された植物及びその子孫。
2.該環境ストレス耐性が改良された植物が、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にあるポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物を形質転換して得られる形質転換植物である、項1記載の植物及びその子孫。
3.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、スペルミジン合成酵素(SPDS)をコードする遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である項1に記載の植物及びその子孫。
4.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、スペルミジン合成酵素をコードする遺伝子である項3記載の植物及びその子孫。
5.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子である、項1記載の植物及びその子孫。
(a)配列表配列番号1(SPDS、1328)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
6.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、項1記載の植物及びその子孫。
(a)配列表配列番号3(SAMDC、1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
7.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、項1記載の植物及びその子孫。
(a)配列表配列番号5(ADC、3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
8.低温ストレス耐性が改良された植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
9.塩ストレス耐性が改良された植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
10.除草剤ストレス耐性が改良された植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
11.乾燥ストレス耐性が改良された植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
12.浸透圧ストレス耐性が改良された植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
13.双子葉植物である、項1に記載の植物及びその子孫。
14.花、果実、種子、繊維又はカルスの形態である項1に記載の植物及びその子孫。
15.項1〜6のいずれかに記載の植物及びその子孫から得られる葉、茎、花、子房、果実、種子、繊維又はカルス。
16.項1〜6にいずれかに記載の植物及びその子孫から得られる有用物質。
17.植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を安定に保持し、且つ該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて改良された環境ストレス耐性を有する植物の作出方法。
18.植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程を含む、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて改良された環境ストレス耐性を有する植物の作出方法。
19.該形質転換細胞から植物体を再生する工程をさらに含む、項18記載の方法。
20.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、スペルミジン合成酵素(SPDS)をコードする遺伝子、スペルミン合成酵素(SPMS)をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種である項18に記載の方法。
21.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するスペルミジン合成酵素遺伝子である、項18記載の方法。
(a)配列表配列番号1に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
22.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、項18記載の方法。
(a)配列表配列番号1に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
23.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、項18記載の方法。
(a)配列表配列番号1に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
24.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、低温ストレス耐性が改良された植物である、項18に記載の方法。
25.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、塩ストレス耐性が改良された植物である、項18に記載の方法。
26.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、除草剤ストレス耐性が改良された植物である、項18に記載の方法。
27.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、乾燥ストレス耐性が改良された植物である、項18に記載の方法。
28.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、浸透圧ストレス耐性が改良された植物である、項18に記載の方法。
29.改良された環境ストレス耐性を有する植物が、双子葉植物である、項18に記載の方法。
30.以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞から、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて改良された環境ストレス耐性を有する植物体を再生し、
(3)該植物体から受粉により種子を採取し、および
(4)該種子を栽培して得られる植物体から受粉により得られる種子における該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を検定する
を含む、該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子についてホモ接合体である、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて改良された環境ストレス耐性を有する形質が固定された植物の作出方法。
31.以下の工程:
(1)植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含む発現ベクターで、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換し、
(2)該形質転換細胞からカルスを誘導する
を含む、該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子についてホモ接合体である、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有していない植物に比べて改良された環境ストレス耐性を有する形質が固定されたカルスの作出方法。
32.外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を植物中で機能し得るプロモーターの制御下で植物に形質転換して、形質転換後に環境ストレス条件下で生育させることにより、該外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子を有しない植物に比べて優れた生育を示す形質転換植物の選抜方法。
33.外因性ポリアミン代謝関連酵素遺伝子と他の外因性遺伝子を植物中で機能し得るプロモーターの制御下で植物に形質転換して、形質転換後に環境ストレス条件下で生育させることにより、薬剤耐性マーカーを用いない形質転換植物を選抜する方法。
34.植物のポリアミン代謝において、環境ストレス遭遇時に発現量が変化することを特徴とする単離された植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子。
35.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、アルギニン脱炭酸酵素(ADC)をコードする遺伝子、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)をコードする遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)をコードする遺伝子、スペルミジン合成酵素(SPDS)をコードする遺伝子またはスペルミン合成酵素(SPMS)をコードする遺伝子である項34に記載の遺伝子。
36.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するスペルミジン合成酵素遺伝子である、項34記載の遺伝子。
(a)配列表配列番号1(SPDS、1328)に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つスペルミジン合成酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
37.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子である、項34記載の遺伝子。
(a)配列表配列番号3(SAMDC、1814)に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
38.該ポリアミン代謝関連酵素遺伝子が、以下の(a)または(b)または(c)の塩基配列を有するアルギニン脱炭酸酵素遺伝子である、項34記載の遺伝子。
(a)配列表配列番号5(ADC、3037)に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列、
(b)上記(a)の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(c)(a)または(b)の塩基配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルギニン脱炭酸酵素活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
39.植物が双子葉植物である項34に記載の遺伝子。
40.植物が単子葉植物である項34に記載の遺伝子。
41.植物がウリ科植物である項34に記載の遺伝子。
42.植物がクロダネカボチャである項34に記載の遺伝子。
43.項34〜42のいずれかに記載の遺伝子に対するアンチセンスDNAまたはアンチセンスRNA。
44.項34〜42のいずれかに記載の遺伝子を含むことを特徴とする組換えプラスミド。
45.項44に記載のプラスミドを含む形質転換体。
46.低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする微生物。
47.形質転換された微生物が大腸菌もしくはアグロバクテリウム(Agrobacterium)属細菌である項41記載の形質転換された微生物。
48.低温ストレス遭遇時に発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を含むプラスミドで形質転換されたことを特徴とする植物。
49. 形質転換された植物がシロイヌナズナである項48記載の形質転換された植物。
50.項45記載の形質転換体、植物及びその子孫から得られる葉、茎、花、子房、果実、種子、繊維又はカルス。
51.項45記載の形質転換体、植物及びその子孫から得られる有用物質。
本発明において「ポリアミン代謝関連酵素遺伝子」とは、植物におけるポリアミンの生合成に関与する酵素のアミノ酸をコードする遺伝子であり、例えば代表的なポリアミンであるプトレシンについてはアルギニン脱炭酸酵素(ADC)遺伝子とオルニチン脱炭酸酵素(ODC)遺伝子、スペルミジンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子とスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子、スペルミンについてはS−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子とスペルミン合成酵素(SPMS)遺伝子が関与し、律速になっていると考えられている。
・配列番号1に示される塩基配列中塩基番号77〜1060で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号3に示される塩基配列中塩基番号456〜1547で示される塩基配列を有するDNA
・配列番号5に示される塩基配列中塩基番号541〜2661で示される塩基配列を有するDNA、
が挙げられる。さらに、
・該上記いずれかの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有し、且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。更に、
・該上記いずれかの配列において、1又は複数の塩基が欠失、置換、挿入若しくは付加された塩基配列からなり且つ該配列と同等のポリアミン代謝関連酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAが挙げられる。
本発明において、「環境ストレス」としては、上述のごとく、高温、低温、低pH、低酸素、酸化、浸透圧、乾燥、カドミウム、オゾン、大気汚染、紫外線、病原体、塩、除草剤、強光、冠水、害虫などの環境から受けるストレスが例示される。この中で「低温ストレス」とは、植物の生育適温度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、低温ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「塩ストレス」とは、植物の生育適塩濃度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、塩ストレスを受けた植物は過剰な塩が細胞内に流入して徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「除草剤ストレス」とは、植物の生育適除草剤濃度の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、除草剤ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「乾燥ストレス」とは、植物の生育適水分濃度の下限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、乾燥ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。「浸透圧ストレス」とは、植物の生育適浸透圧の上限を越えるような環境に植物が遭遇することによって植物が受けるストレスであり、浸透圧ストレスを受けた植物は徐々にあるいは急激に細胞の生理機能が損なわれて傷害が引き起こされる。
1.ポリアミン代謝関連酵素遺伝子の取得
(1)低温ストレス誘導PCR用cDNAライブラリーの作製
昼18℃/夜14℃・3日間の低温処理を行ったクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)の根組織から常法に従い、poly(A)+RNAを抽出する。単離したpoly(A)+RNAから市販のMarathon cDNA Amplification Kit(CLONTECH社製)等を用いてPCR用に使用するcDNAライブラリーを作製することができる。単離したpoly(A)+RNAを鋳型として、3’末端に2つのdegenerate nucleotide positionを持つ修飾lock−docking oligo(dT)プライマーと逆転写酵素を用いてfirst−strand cDNAを合成し、ポリメラーゼ反応によって2本鎖化したcDNAを得る。該2本鎖cDNAをT4 DNA ポリメラーゼにより末端を平滑化し、Marathon cDNAアダプターをライゲーション反応により結合させ、アダプター結合二本鎖cDNAライブラリーを作製する。
(2)PCRプライマーの設計
ポリアミン代謝関連酵素遺伝子としてSPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子、ODC遺伝子を単離することができる。SPDS遺伝子はシロイヌナズナやヒヨス、SAMDC遺伝子はジャガイモ、ホウレンソウ、タバコ、ADC遺伝子はダイズ、エンドウ、トマト、ODC遺伝子はチョウセンアサガオ(Datura)等から単離されており、既に塩基配列が決定している。従って、決定している既知の塩基配列を比較し、非常に保存されている領域を選抜し、DNAオリゴマーを合成しPCR用プライマーを設計することができる。
(3)PCRによるSPDS遺伝子、SAMDC遺伝子、ADC遺伝子断片の取得
上記(1)の方法で作製したPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、上記(2)の方法で設計したプライマーを使用して、それぞれPCRを行う。PCR産物をゲル電気泳動で分離し、グラスミルク法などで精製する。精製したPCR産物はTAベクターなどのクローニングベクターに連結させる。
(4)完全長遺伝子の単離
完全長の遺伝子を得るためには、常法に従って、プラークハイブリダイゼーション、RACE(rapid amplification of cDNA ends)法やMarathon RACE法等により完全長の遺伝子を得ることができる。
(5)ノーザン解析
上記の方法で得られた植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子が低温ストレス抵抗性を示す組織で特異的に低温ストレス遭遇時にその発現量が変化することを確認するために、クロダネカボチャの低温ストレス抵抗性を示す根と低温ストレス抵抗性を示さない葉や茎に14℃の低温処理と23℃の適温処理した組織からそれぞれRNAを単離し、上記の方法で得られた遺伝子をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行い、低温ストレス遭遇時に低温ストレス抵抗性を示す根で特異的に発現量が変化する遺伝子であることを確認する。
2.シロイヌナズナにおけるアグロバクテリウムによる目的遺伝子の導入、および形質転換植物の作出。
(1)発現コンストラクトの作製および、アグロバクテリウムの形質転換
発現コンストラクトの作製は前記1.で得られたポリアミン代謝関連酵素遺伝子をオープンリーディングフレームをすべて含むような適当な制限酵素で切断後、必要に応じて適当なリンカーを連結し、植物形質転換用ベクターに挿入して作製することができる。植物形質転換用ベクターとしては、pBI101、pBI121などを用いることができる。
(2)トランスジェニック植物の作出
本発明において、遺伝子導入を行う植物としては、植物体全体、植物器官(例えば葉、茎、根、花器、生長点、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、植物培養細胞などを挙げることができる。
実施例1:キュウリとクロダネカボチャの根のポリアミン含量の測定
(1)供試材料の調製
根において低温ストレス抵抗性の高いクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)と低温ストレス抵抗性の低いキュウリ‘四葉’をガラス室で播種し、子葉展開時に市販の床土(サンサン床土;タキイ種苗社製)を詰めた鉢に移植した。第1本葉展開時に人工気象室(気温 昼26℃/夜20℃、相対湿度 昼70%/夜85%、光強度 480μM/m2s、15時間日長)内に置いた。2台の栽培槽(1/2倍ホーグランド液 120l、液温23℃)に9株ずつ定植した。
(2)低温処理
定植4日後に、株ごとに生体重を測定して植え戻したのち、1台の栽培槽の液温を14℃に下げた。
(3)サンプリング
サンプリングは低温処理後、3日ごとに3株ずつ採取し、茎葉と根の生体重を測定した。同時にポリアミン定量のために根5gを調製し、分析まで−80℃に凍結保存した。
(4)ポリアミン含量の測定
ポリアミンを5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり4ml)で葉から抽出した。プトレシン、スペルミジン、スペルミンの希釈内部標準液を添加後、2℃・40,000×gで20分間遠心分離した。上清液をカチオン交換樹脂(50W−4X、200−400メッシュ、H+型:バイオラッド社製)カラムに通した。0.7N NaCl/0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、水、1N塩酸を順次流してカラムを洗浄し、ポリアミン以外のアミノ酸や有機物を除去した。6N塩酸をカラムに加え、液が出なくなるまで流出し、ポリアミンを回収した。溶出液を40℃で減圧乾固し、これに5%過塩素酸を加えポリアミンを溶解した。プトレシン、スペルミジン、スペルミンのポリアミン量の定量はベンゾイル化した後、UV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはInertsil ODS−2(4.6×250mm:GLサイエンス社製)を使用し、58%メタノールに1%酢酸を含んだ溶離液を用いた。
実施例2:植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子のクローニング
(1)ポリ(A)+RNAの調製
クロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia Bouche)をバーミキュライトに播種し、子葉展開時に市販の床土(サンサン床土;タキイ種苗社製)を詰めた鉢に移植した。鉢上げしたクロダネカボチャを植物栽培用のインキュベーター(気温 昼26℃/夜22℃、13時間日長)内に置いた。第2本葉展開時にインキュベーター内の温度を昼18℃/夜14℃まで下げ低温処理を開始した。低温処理3日後に、根、茎、葉に分けてサンプリングした。RNA抽出まで−80℃のフリーザーに保存した。
(2)低温処理PCR用cDNAライブラリーの作製
cDNAライブラリーの作製はMarathon cDNA Amplification Kit(CLONTECH社製)を使用した。(1)で得られたクロダネカボチャの根由来のpoly(A)+RNAを鋳型として3’末端に2つのdegenerate nucleotide position を持つ修飾lock-docking オリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用い、GublerとHoffmanらの方法(Gene, 25, 263-269 (1983))に従い2本鎖cDNAを合成した。
(3)PCR用プライマーの設計
既に植物や哺乳類から単離されているアルギンニン脱炭酸酵素遺伝子、S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素遺伝子、スペルミジン合成酵素遺伝子の決定されている塩基配列を比較した。そして、非常に相同性が高く保存されている領域を選び出し、DNAオリゴマーを合成した(配列プライマーI〜VI)。
SPDSプライマーI(配列番号7):5’−GTTTTGGATGGAGTGATTCA−3’
SPDSプライマーII(配列番号8):5’−GTGAATCTCAGCGTTGTA−3’
SAMDCプライマーIII(配列番号9):5’−TATGTGCTGTCTGAGTCGAGC−3’
SAMDCプライマーIV(配列番号10):5’−GCTAAACCCATCTTCAGGGGT−3’
ADCプライマーV(配列番号11):5’−GGGCT(T/G)GGA(G/A)T(G/C)GACTA(C/T)−3’
ADCプライマーVI(配列番号12):5’−(T/C)CC(A/G)TC(A/G)CTGTC(G/A)CA(G/C)GT−3’
(4)PCRによる増幅
(2)で得られたPCR用cDNAライブラリーをテンプレートとして、(3)で設計した配列プライマーを用いてPCRを行った。PCRのステップは最初、94℃、30秒、45℃、1分間、72℃、2分間で5サイクル、続いて94℃、30秒、55℃、1分間、72℃、2分間で30サイクル行った。
(5)アガロースゲル電気泳動
PCR増幅産物を1.5%アガロース電気泳動を行い、泳動後のゲルをエチジウムブロマイド染色し、UVトランスイルミネーター上で増幅バンドを検出した。
(6)PCR産物の確認と回収
検出された増幅バンドを確認し、カミソリの刃を用いてアガロースゲルから切り出した。切り出したゲルを1.5mlのマイクロチューブに移し、QIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルからDNA断片を単離精製を行った。回収したDNA断片をpGEMTクローニングベクター(Promega社製)にサブクローニングし、大腸菌に形質転換後、常法に従ってプラスミドDNAを調製した。
(7)塩基配列決定
得られたプラスミドの挿入配列の塩基配列決定をダイデオキシ法(Messing, Methods in Enzymol., 101, 20-78, 1983)により行った。SPDS遺伝子については3種類の遺伝子、SAMDC遺伝子については1種類の遺伝子、ADC遺伝子については2種類の遺伝子が単離された。
(8)ホモロジー検索
これらの遺伝子の塩基配列を既知遺伝子塩基配列のデータベースとホモロジーサーチを行うとSPDS遺伝子は既知の植物由来のSPDS遺伝子と70%の相同性を示した。SAMDC遺伝子については既知の植物由来のSAMDC遺伝子と70%以上の相同性を示した。ADC遺伝子については既知の植物由来のADC遺伝子と67%以上の相同性を示した。
(9)ノーザンブロット解析
これらの遺伝子が低温ストレス抵抗性を示す根組織で低温ストレス遭遇時に発現量が変化していることを確かめるために、ノーザンブロッティングを下記に示す様に行った。
(10)完全長遺伝子の取得
完全長遺伝子はプラークハイブリダイゼーション法で取得した。cDNAライブラリーの作製はZAP-cDNA Synthesis Kit(stratagene社製)を使用した。(1)で得られたクロダネカボチャ根由来のpoly(A)+RNAを鋳型としてオリゴ(dT)プライマーと逆転写酵素を用い、GublerとHoffmanらの方法(Gene, 25, 263-269 (1983))に従い2本鎖cDNAを合成した。
(1)発現コンストラクトの作製
配列番号1に示したポリアミン代謝関連遺伝子FSPD1の塩基配列よりオープンリーディングフレームをすべて含むように、XhoIで切断し、グラスミルク法で精製した。次にpGEM−7Zf(Promega社製)をXhoI切断して、FSPD1断片をセンスとアンチセンス方向にサブクローニングした。pGEM−7Zfのマルチクローニングサイトの制限酵素XbaIとKpnIで再度FSPD1断片を切り出して、35Sプロモーターが連結しているバイナリーベクターpBI101−Hm2にセンス方向とアンチセンス方向にサブクローニングした。これらのプラスミドをpBI35S−FSPD1と命名した。その発現コンストラクトの構造を図8に示した。なお、形質転換された大腸菌JM109を、Escherichia coli JM109/pBI35S−FSPD1と命名した。
(2)プラスミドのアグロバクテリウムへの導入
(1)で得られた大腸菌pBI35S−FSPD1、大腸菌pBI35S−FSAM24、大腸菌pBI35S−FADC76とヘルパープラスミドpRK2013を持つ大腸菌HB101株を、それぞれ50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で1晩、アグロバクテリウムC58株を50mg/lのカナマイシンを含むLB培地で37℃で2晩培養した。各培養液1.5mlをエッペンドルフチューブに取り集菌したのち、LB培地で洗浄した。これらの菌体を1mlのLB培地に懸濁後、3種の菌を100μlずつ混合し、LB培地寒天培地にまき、28℃で培養してプラスミドをアグロバクテリウムに接合伝達(三者接合法)させた。1から2日後に一部を白金耳でかきとり、50mg/lカナマイシン、20mg/lハイグロマイシン、25mg/lクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に塗布した。28℃で2日間培養した後、単一コロニーを選択した。得られた形質転換体をC58/pBI35S−FSPD1、C58/pBI35S−FSAM24、C58/pBI35S−FADC76と命名した。トランスジェニックシロイヌナズナの作製は減圧浸潤法〔以下(3)〜(6)〕または、カルス再生法〔以下(7)〜(12)〕で行った。
(3)シロイヌナズナの栽培
培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)をプラスチック鉢に入れ、表面を網戸用のメッシュで覆い、メッシュの間にシロイヌナズナコロンビア株(以下「コロンビア株」又は「野生株」という。)の種子(奈良先端科学技術大学院大学、河内孝之博士より提供)を2〜5粒づつ播種した。2日間・4℃の低温室にいれ発芽処理後、22℃・長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)に移して栽培を行った。約4〜6週間後に主軸花茎が5〜10cm伸長した植物体について、摘心して側枝の誘導を行った。摘心約1〜2週間後にアグロバクテリウム感染処理を行った。
(4)アグロバクテリウム懸濁液の調製
前記(2)で作製したアグロバクテリウムを感染2日前に、抗生物質(50ug/ml カナマイシン、20ug/ml ハイグロマイシン)を含んだ10mlLB培地に植菌して28℃で24時間振とう培養した。さらに、この培養液を分取して抗生物質(50ug/ml カナマイシン、20ug/ml ハイグロマイシン)を含んだ1000ml LB培地に移して、さらに、28℃、約24時間振とう培養した(OD600が1.2〜1.5になるまで)。培養液を室温下で集菌して、OD600が0.8〜1になるように浸潤用懸濁培地(0.5×MS塩、0.5×GamborgB5ビタミン、1% Sucrose、0.5g/l MES、0.44μM ベンジルアミノプリン、0.02% Silwet−77)に再懸濁した。
(5)アグロバクテリウムの感染
前記(3)で作製したシロイヌナズナの鉢に前記(4)で調製したアグロバクテリウム懸濁液が培養土中に吸収されるのを抑えるために、鉢の培養土中に水を与えた。1000mlのビーカーに約200〜300mlのアグロバクテリウム懸濁液を分取し、シロイヌナズナの鉢を逆さにして、植物体を懸濁液に浸けた。鉢を入れたビーカーをデシケーター内に入れ、バキュームポンプで約−0.053MPa(400mmHg)になるまで吸引後、約10分間放置した。徐々に陰圧を解除した後、植物をアグロバクテリウム懸濁液から取り出して、キムタオルで余分なアグロバクテリウム懸濁液を取り除き、深底トレイに横倒しした。少量の水を入れて、サランラップを被せた。この状態で約1日放置した。サランラップを外して、鉢を起こして約1週間給水を停止した。その後、徐々に培養土に水を与え、約3〜5週間の間、成熟した莢から種子の収穫を行った。収穫した種子は、茶こしを用いて、莢やゴミを取り除きデシケーター内に入れ十分に乾燥させた。
(6)形質転換植物の取得
前記(5)で取得した種子を100μl(約2000粒)を1.5mlのエッペンドルフチューブに移して、70%エタノール中で2分間、5%次亜塩素酸ナトリウム溶液中に15分間それぞれ浸して、最後に滅菌水で5回洗浄して種子の殺菌を行った。殺菌後の種子を15mlのファルコンチューブに移して、約9mlの0.1%無菌寒天溶液を加えて、激しく混合した。種子0.1%寒天混合液をファージをプレートする要領で選択培地(1×MS塩、1×GamborgB5ビタミン、1% Sucrose、0.5g/l MES、0.8% 寒天、100mg/l カルベニシリン、50mg/l カナマイシン、40mg/l ハイグロマイシン、8g/l Phytagar、pH5.7)に均一になるように広げた。クリーンベンチ内で約30分乾燥後、4℃、2日間の低温処理後、22℃のグロースチャンバーに移して、抗生物質に対して抵抗性を示す形質転換体を選抜した。本葉が3〜5枚した植物体を再度新しい選択培地に移して本葉が4〜6枚になるまで栽培した。抗生物質に対して抵抗性を示した形質転換植物(T1)を培養土を含んだ鉢に定植して、約5〜7日間多湿条件下で順化させた。順化後、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培させた。得られた形質転換植物(T1)、および該形質転換植物から得られた種子(T2)から生育させたT2植物体についてPCRまたはサザンハイブリダイゼーションによる導入遺伝子の解析とノーザンハイブリダイゼーションによる発現レベルの解析を行い、目的のポリアミン代謝関連酵素遺伝子が安定に組み込まれ、且つ発現している形質転換体を確認した。さらに、T2植物体からT3種子を収穫し、抗生物質に対する抵抗性試験(分離比検定)を行って形質転換出現比率からホモ接合体(T2)を取得した。T2種子とホモ接合体から取得したT3種子(T3ホモセルライン)を以下の実験に用いた。
(7)無菌シロイヌナズナの栽培
シロイヌナズナWassilewskija株(以下WS株と称す)の種子(奈良先端科学技術大学院大学、新名惇彦博士より提供)数10粒を1.5mlチューブに入れ、70%エタノール1mlを加え3分間放置した。続いて滅菌液(5%次亜塩素酸ナトリウム、0.02%TritonX−100)に3分間浸し、滅菌水で5回洗浄した後に、MSOプレート(ムラシゲ−スクーグ無機塩類4.6g、ショ糖10g、1000×ビタミンストック液1ml/リットル、pH6.2)に置床した。このプレートを4℃に2日間放置して低温処理を行い、続いて植物インキュベーター(サンヨー製、MLR−350HT)中に22℃、光強度6000ルクス、長日条件下(明期16時間、暗期8時間)にて、21日間培養した。感染効率を上げるために再度植物を無菌的に引き抜いて、新たなMSOプレートの表面に根を広げ、さらに2日間培養を続けた。
(8)アグロバクテリウムの感染
前記で21日間培養したWS株の根を数株ずつそろえて、メスで1.5〜2.0cm程度に切りそろえ、CIMプレート(MSOプレートに2,4−ジクロロフェノキシ酢酸を終濃度0.5μg/ml、カイネチンを0.05μg/mlとなるように加えたもの)に置き並べた。光強度3000ルクス、16時間明期、8時間暗期で2日間培養し、MS希釈液(ムラシゲ−スクーグ無機塩類6.4g/l、pH6.3)で3倍に希釈したものをそれぞれ1mlずつチューブに分注し、この中にカルス化した根の切片を10分間浸した。2枚重ねた滅菌ろ紙上に並べ、余分な水分を除き、新しいCIMプレートに各々置き並べた。同条件にて2日間共存培養した。
(9)除菌
各々の菌株が肉眼で観察できるまで十分に増殖した切片を除菌液(MS希釈液にクラフォランを終濃度200μg/mlになるように加えたもの)に移し、ゆっくり振蘯させて60分間洗浄した。この操作を5回繰り返した後、滅菌ろ紙上で水分を取り除き、SIMCプレート(MSOプレートに、2−ipを終濃度5μg/ml、IAAを終濃度0.15μg/ml、クラフォランを終濃度500μg/mlとなるように加えたもの)に置き並べ、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期で2日間培養した。
(10)形質転換植物の選択
前記で2日間培養した切片をSIMCSプレート(SIMCプレートにハイグロマイシンBを終濃度4.6U/mlとなるように加えたもの)に移植し、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期で培養した。以後、1週間毎に新しいSIMCSプレートに移植した。形質転換した切片は増殖を続け、ドーム状に盛り上がったカルスとなるが、非形質転換体は褐変した。形質転換体は約2週間後、カルスが緑色を呈し、約1カ月後、葉が形成され、その後ロゼット葉となった。
(11)形質転換植物の再生
ロゼット葉となった植物体の根本を、カルス部分を含まないように剃刃もしくはメスで切り取り、RIMプレートに軽く乗せるように挿した。8〜10日後、1〜2cm程度の根が数本形成したものをピンセットで無機塩類培地〔5mM KNO3、2.5mM K−リン酸緩衝液(pH5.5)、2mM MgSO4、2mM Ca(NO3)2、50μM Fe−EDTA、1000×微量要素(70mM H3BO3、14mM MnCl2、0.5mM CuSO4、1mM ZnSO4、0.2mM NaMoO4、10mM NaCl、0.01mM CoCl2)1ml/リットル〕に浸したロックウールミニポット(日東紡績社製)に定植し、培養した。開花し、莢形成後は、パーライトとバーミキュライト(TES社製)を1:1に混合し無機塩類混合培地に浸した土に植え換えた。約1カ月後、1株につき数百粒の種子が得られた。これを以後、T2種子と称す。
(12)抗生物質耐性株の取得
T2種子約100粒を(7)と同様の方法で滅菌し、MSHプレートに播種した。ほぼ3:1の割合でハイグロマイシンB耐性株が発芽した。
(13)DNA抽出とサザンハイブリダイゼーション
前記で発芽したT2種子を無機塩類培地に浸したロックウールミニポットにピンセットで移植し、光強度6000ルクス、16時間明期、8時間暗期、22℃の条件下で培養した。2週間後、ロックウールの表面をナイフで撫でるようにメスで地上部を切り取り、直ちに液体窒素で凍結した。これを液体窒素存在下乳鉢で細かく粉砕し、1g当たり、3mlのDNA抽出用緩衝液〔200mM Tris−HCl(pH8.0)、100mM EDTA−2Na、1% N−ラウロイルサルコシンナトリウム、100μg/ml proteinaseK〕を加え十分撹拌した。60℃1時間インキュベート後、遠心(10,000×g、10分間)し上清をミラクロスで濾渦し新しいチューブに移した。フェノール:クロロフォルム:イソアミルアルコール(25:24:1)抽出を3回行なった後、エタノール沈殿を行った。沈殿をTE緩衝液に溶解した。それぞれ植物体約2.0gから、20μgずつのゲノムDNAが得られた。このうち1μgのDNAを用いて、それぞれを制限酵素EcoRI、HindIIIで切断し、1%アガロース電気泳動及びサザンハイブリダイゼーションに供した。
実施例4:ノーザンブロット解析
実施例3で得られたT2形質転換体で目的の遺伝子が実際に遺伝子発現しているかを確かめるために、ノーザンブロッティングを下記に示す様に行った。
実施例5:ポリアミン含量の評価
(1)目的遺伝子が導入されている系統(セルライン)の選抜
実施例3で作製した形質転換体について、PCR(またはサザン解析)とノーザン解析による目的遺伝子の導入確認でセルラインの選抜を行った。その結果、確実にポリアミン代謝関連酵素遺伝子が導入され、且つ該遺伝子を発現しているセルライン、TSP−14、15、16、17、19を選抜した。
(2)ポリアミン含量の分析
同時に栽培を行っている野生株(コロンビア)と形質転換体(TSP)から約0.05〜0.2gのロゼット葉(または本葉)をサンプリングして密閉可能なポリ製のバイアル瓶に移して凍結保存させた。サンプリングした試料にプトレシン、スペルミジン、スペルミンの希釈内部標準液(内部標準量=2.5nmol)と5%過塩素酸水溶液(試料生体重1.0g当たり4ml)を加え、オムニミキサーを用いて室温下で十分に磨砕抽出した。磨砕液を、4℃、36,000×gで20分間遠心分離して上清液を採取した。上清液から正確に1.0mlを遠心管に入れて、さらに正確に12N HClを1.0mlを遠心管に加えて、密栓後、110℃の乾燥機に入れて18時間加水分解した。分解後、濃縮乾固した後、正確に1.0mlの5%過塩素酸水を加えて十分に溶解させた。得られた溶液をカチオン交換樹脂(50W−4X、200−400メッシュ、H+型:バイオラッド社製)カラムに通した。0.7N NaCl/0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、水、1N塩酸を順次流してカラムを洗浄し、ポリアミン以外のアミノ酸や有機物を除去した。6N塩酸をカラムに加え、液が出なくなるまで流出し、ポリアミンを回収した。溶出液を70℃で減圧乾固し、これに5%過塩素酸を加えポリアミンを溶解した。プトレシン、スペルミジン、スペルミンのポリアミン量の定量はダンシル化した後、UV検出器を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて内部標準法で分析した。HPLCカラムはμBondapak C18(Waters社製:027324、3.9×300mm、粒子径10μm)を使用した。試料中のポリアミン含量は標準液と試料のHPLCチャートから、それぞれ各ポリアミンと内部標準のピーク面積を求めて算出した。その結果を表4に示す。
実施例6:環境ストレス耐性の評価
(1)浸透圧ストレス耐性の評価
実施例3で得られた形質転換体(TSP−15、16、17)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例3の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を100mMと200mMのソルビトールを含んだ発芽生育培地(1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、8g/l Phytagar、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、生育程度の観察を開始して、特に6週間目と10週間目に発芽生育培地上の植物体の生育程度を観察し、その結果を図10に示した。
(2)乾燥ストレス耐性の評価
実施例3で形質転換体(TSP−16など)から、選抜した2つのT3ホモセルラインを用いた。得られた2つのT3ホモ形質転換体と野生株(WT:コロンビア株)種子を培養土メトロミックス(ハイポネックスジャパン社製)を含んだプラスチック鉢に播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、鉢をプラスチックバットに入れ、23℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、約4週間目までロゼット葉が完全展開するまで育成した。ロゼット葉が完全展開した時点で、生育が揃った個体を選抜後、土壌水分量を揃えるためにバット内に水を補給し、プラスチック鉢の中位まで水で満たした。5日後、土壌水分量が一定であることを確認して、乾燥ストレス処理を開始(水の補給停止)した。開始直後から生育状況の観察を行った。
(3)低温ストレス耐性(凍結ストレス耐性)の評価
実施例3で得られた形質転換体(TSP−16)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例3の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を発芽生育培地(1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、5g/l Gellan gum、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、4週間目に発芽生育培地を低温インキュベーター(日立社製:CR−14)に移して凍結ストレス処理を開始した。凍結ストレス処理は9℃で9時間、続いて−6℃で24時間処理、再度、9℃で9時間処理後、22℃のグロースチャンバーに移して低温ストレス障害の発生を調べた。その結果を図12に示す。
(4)塩ストレス耐性の評価
実施例3で得られた形質転換体(TSP−16)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例3の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を50mMのNaClを含んだ発芽生育培地(50mM NaCl、1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、5g/l Gellan gum、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、4週間目に発芽生育培地上の植物体の生育程度を観察した。その結果を図13に示す。
(5)除草剤ストレス耐性の評価
実施例3で得られた形質転換体(セルライン:pBI121(35S−GUS)、TSP−15、TSP−16、ポリアミン代謝関連酵素遺伝をアンチセンス方向で導入したセルライン:TSP−21、TSP−22)と野生株(WT:コロンビア株)種子を実施例3の(6)と同じ方法で表面殺菌した。殺菌処理した種子を2uMのパラコート(PQ)を含んだ発芽生育培地(2uM PQ、1×MS塩、10g/l Sucrose、0.1g/l myo−inositol、5% MES、5g/l Gellan gum、pH5.7)に一粒づつ播種した。播種後、約2日間、4℃で低温処理後、22℃、長日条件下(16時間日長・8時間暗黒)で栽培を開始した。播種後、10日目に発芽個体数(発芽率)、さらに20日目に生存個体数(生存率)を観察した。その結果を表5に示す。
Claims (11)
- 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子により前記外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、該形質転換細胞から植物体を再生する工程、再生された植物体を以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレス条件下で生育させて前記外因性SAMDC遺伝子を有しない植物に比べて優れた生育を示す形質転換植物を選抜する工程を含む、以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも2種の環境ストレスに対する耐性を改良する方法:
(a) 乾燥ストレス;
(b) 酸化ストレスまたは除草剤ストレス;
(c) 低温ストレスまたは凍結ストレス;
(d) 塩ストレス;
(e) 浸透圧ストレス。 - 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子で植物を形質転換し、形質転換後に以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレス条件下で生育させることにより、前記外因性SAMDC遺伝子を有しない植物に比べて以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも2種の環境ストレスに対する耐性が改良された形質転換植物を選抜する方法;
(a) 乾燥ストレス;
(b) 酸化ストレスまたは除草剤ストレス;
(c) 低温ストレスまたは凍結ストレス;
(d) 塩ストレス;
(e) 浸透圧ストレス。 - 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子により前記外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、該形質転換細胞から植物体を再生する工程、再生された植物体を以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレス条件下で生育させて前記外因性SAMDC遺伝子を有しない植物に比べて以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレスに対する耐性を評価する工程を含む、前記外因性遺伝子を有していない植物に比べて以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも2種の環境ストレスに対する耐性が改良された植物の作出方法:
(a) 乾燥ストレス;
(b) 酸化ストレスまたは除草剤ストレス;
(c) 低温ストレスまたは凍結ストレス;
(d) 塩ストレス;
(e) 浸透圧ストレス。 - 植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある外因性S−アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)遺伝子により前記外因性遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程、該形質転換細胞から植物体を再生する工程、再生された植物体を以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレス条件下で生育させて前記外因性SAMDC遺伝子を有しない植物に比べて以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる環境ストレスに対する耐性を評価する工程を含む、以下の(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも2種の環境ストレスに対する耐性を改良する方法:
(a) 乾燥ストレス;
(b) 酸化ストレスまたは除草剤ストレス;
(c) 低温ストレスまたは凍結ストレス;
(d) 塩ストレス;
(e) 浸透圧ストレス。 - 前記外因性SAMDC遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程が、植物中で機能し得るプロモーターの制御下にある前記外因性SAMDC遺伝子又は該遺伝子を含む発現ベクターで前記外因性SAMDC遺伝子を有していない植物の細胞を形質転換する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 前記導入された外因性SAMDC遺伝子がホモ接合体である植物を選抜する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- 前記(a)〜(e)からなる群から選ばれる少なくとも3種の環境ストレスに対する耐性が改良されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- SAMDC遺伝子は、すべてのオープンリーディングフレームを含むものである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- SAMDC遺伝子は、植物由来の遺伝子である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
- SAMDC遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列中、塩基番号456〜1547で示されるクロダネカボチャ由来の遺伝子である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
- SAMDC遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列中、塩基番号1〜1814で示されるクロダネカボチャ由来の遺伝子である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
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