JP2006320313A - 溶菌剤 - Google Patents

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【課題】 有用物質の生産菌から有用物質を抽出する工程において溶菌力に優れ、かつ、工程中の有用物質の変質が少ない溶菌剤、およびそれを用いた有用物質の生産方法を提供する。
【解決手段】 対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤を含有することを特徴とする溶菌剤であって、特にカチオン性界面活性剤が第4級アンモニウム塩型界面活性剤であって、対イオンが2価もしくは3〜8価の多価カルボン酸から構成されるカルボキシレートアニオンであることが好ましい。有用物質としてはタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類が挙げられる。
【選択図】なし

Description

本発明は、有用物質生産菌からタンパク質などの有用物質を抽出する際に使用される溶菌剤および有用物質の生産方法に関する。
微生物は、アミノ酸、タンパク質などの有用物質を生産するための宿主として広く利用されている。特に近年は、遺伝子工学技術を活用して、産業上有用なタンパク質の遺伝子を導入した形質転換された微生物を使用し、有用物質を効率的に製造する技術が知られるようになっている。
有用物質を生産する好ましい微生物の例として、大腸菌やシュードモナス属菌などのグラム陰性菌、バチルス属菌や乳酸菌などのグラム陽性菌、サッカロマイセス属やキャンディダ属などの酵母、アスペルギウス属やペニシリウム属などの糸状菌、ストレプトマイセス属やロドコッカス属などの放線菌を挙げることができる。
タンパク質などの有用物質の精製における第1の段階は、これらの有用物質を生産する細胞を溶解して、細胞成分を遊離させる段階である。
細胞の溶解方法には、物理的方法と化学的方法がある。このうち化学的細胞溶解法としては、界面活性剤を用いて細胞膜または細胞壁の完全性を破壊する方法がある。
提案されている非イオン性界面活性剤としては、糖鎖を有する非イオン性界面活性剤(例えば、特許文献−1)、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物(例えば、特許文献−2)およびソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物(例えば、特許文献−3)などがある。イオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩(例えば特許文献−4)などのカチオン性界面活性剤の他にアニオン性界面活性剤および両性界面活性剤も提案されている(例えば特許文献−5、6)。
特開2004−504330号公報 特開2002−119288号公報 特開平6−153947号公報 特開2002−335969号公報 特開2002−199885号公報 特開平5−64584号公報
しかしながら、従来の非イオン性界面活性剤を用いる方法では溶菌力が不十分であるため大量合成には適さず、また、従来のイオン性界面活性剤を用いた方法では抽出されたタンパク質などの有用物質が変性してしまって、3次元コンホメーションを崩してしまうという課題があった。
本発明者らは上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤を用いることにより、溶菌力に優れ、かつ、有用物質を変性させずに、高品質の有用物質を遊離・抽出することができる溶菌剤を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤からなることを特徴とする溶菌剤、該溶菌剤を使用して有用物質生産菌から有用物質を生産する方法、および該生産方法によって生産された有用物質である。
本発明の溶菌剤は、特に大腸菌等の有用物質生産菌から有用物質を抽出するための溶菌剤として、従来よりも改善された溶菌力を有しており、また、従来よりも有用物質を変性することが少ない。
従って、高品質の有用物質、例えば、変性の程度が少なくて活性の高い酵素などを得ることができる。また、糖類などの生産性も良好である。
本発明の溶菌剤の必須成分は、対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤(A)であり、該(A)は、そのカチオン部分に疎水性基を有する界面活性剤である。
カチオン部分としては以下の第4級アンモニウムカチオン(q1)およびアミン塩型カチオン(q2)が挙げられる。溶菌力の観点から好ましいのは第4級アンモニウムカチオン(q1)である。
(q1)第4級アンモニウムカチオン
例えば、一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
式中、R1、R2、R3およびR4は炭素数が1〜22の直鎖または分岐の炭化水素基であって、R1〜R4のうちの少なくとも1個は炭素数6以上の炭化水素基であり、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
1〜R4で示される炭化水素基には、脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、i−、sec−、およびt−ブチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、3−メチルブチル基、2−エチルヘキシル基など)およびアルケニル基(ビニル基、アリル基、メタリル基、など)が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、アリールアルキル基(ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基など)およびアルキルアリール基(メチルフェニル基、エチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基など)が挙げられる。
1〜R4の炭化水素基の好ましい組み合わせとしては、以下の(q11)〜(q14)が挙げられる。
(q11)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基で他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
ドデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルジメチルエチルアンモニウム、テトラデシルジメチルエチルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム、ドデシルメチルジエチルアンモニウム、テトラデシルメチルジエチルアンモニウム、ヘキサデシルメチルジエチルアンモニウムおよびオクタデシルメチルジエチルアンモニウムなど。
(q12)2個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基で他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
オクチルデシルジメチルアンモニウム、ジオクチルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルドデシルジメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、オクチルデシルメチルエチルアンモニウム、ジオクチルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルエチルアンモニウム、ジドデシルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルプロピルアンモニウム、ジドデシルエチルプロピルアンモニウムおよびジステアリルジメチルアンモニウムなど
(q13)1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基で他は炭素数1〜4の短鎖アルキル基である組み合わせ;
ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウムおよびベンジルエチルジメチルアンモニウムなど。
(q14)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基、1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基で他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
デシルジメチルベンジルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムおよびヤシ油アルキルジメチルベンジルアンモニウムなど。
(q1)のうち、溶菌力の観点から、好ましいのは(q12)、さらに好ましいのはR1〜R4のうちの2個が炭素数8〜14のアルキル基であるものである。
(q2)アミン塩型カチオン
アミン塩型カチオンには1〜3級アミン塩型カチオンが挙げられる。
1級アミンカチオンを構成する1級アミンとしては、炭素数6〜18のモノアルキルもしくはシクロアルキルアミン(例えばモノヘキシルアミン、モノシクロヘキシルアミン、モノオクチルアミンおよびモノドデシルアミンなど)が挙げられる。
2級アミンカチオンを構成する2級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数が6〜18のジアルキルアミン(例えばヘキシルメチルアミン、オクチルエチルアミンおよびメチルドデシルアミンなど)が挙げられる。
3級アミンカチオンを構成する3級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数がトリアルキルアミン(例えばジメチルドデシルアミンなど)が挙げられる。
本発明におけるカチオン性界面活性剤の対イオンはカルボキシレートアニオン(a)であって、カルボン酸(a0)から水素原子カチオンを除いた−COO-イオンを有する対イオンである。
カルボキシレートアニオン(a)を構成するカルボン酸(a0)としては、以下の1価カルボン酸(a01)および多価カルボン酸(a02)があげられる。
(a01)1価カルボン酸;
脂肪族飽和モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、2−エチルヘキサン酸など);脂肪族不飽和モノカルボン酸(オレイン酸など)
;並びに、脂肪族オキシモノカルボン酸(グリコール酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸など)が挙げられる。
(a02)多価カルボン酸;
脂肪族飽和ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など);脂肪族不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など);芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など);トリカルボン酸(トリメリット酸、クエン酸など);テトラカルボン酸(ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸など);並びに、ペンタカルボン酸(ジエチレントリアミン五酢酸など)が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、タンパク質などの変性されにくさの観点から(a02)であり、さらに好ましいのは2もしくは3〜8価の多価カルボン酸、特に好ましいのはトリカルボン酸およびテトラカルボン酸、最も好ましいのはテトラカルボン酸である。
本発明におけるカチオン性界面活性剤(A)の製造方法は、例えば、以下の3つの方法が挙げられる。
(1)第4級アンモニウムカチオンのアルキル炭酸塩と当量のカルボン酸(a0)を加えて、60〜100℃で3〜20時間撹拌して反応させて塩交換し、その後、精製する方法。
アルキル炭酸塩のアルキル基は炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基があげられる。
(2)4級アンモニウムハロゲン化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としては上記(a0)のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩などが挙げられる。
(3)4級アンモニウム水酸化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としては上記(a0)のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩およびアミン塩などが挙げられる。
本発明で用いられる溶菌剤は、上記のカチオン性界面活性剤(A)のみを含むものでもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲において、有機溶剤(B)、他の界面活性剤(C)および/または安定化剤(D)を含有していてもよい。
有機溶剤(B)としては、炭化水素系溶剤(キシレン、トルエンなど)、脂肪族アルコール系溶剤(メタノール、エタノールなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトンなど)およびカルボン酸エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸メチルなど)が挙げられる。
有機溶剤(B)の使用割合は、溶菌剤の重量に基づいて好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5%以下(以下、特に限定しない限り%は重量%を表す)、特に好ましくは3%以下である。
他の界面活性剤(C)としては、下記の、非イオン性界面活性剤(C1)、(A)以外のカチオン性界面活性剤(C2)、アニオン性界面活性剤(C3)、および両性界面活性剤(C4)から選ばれる1種以上が挙げられる。
非イオン性界面活性剤(C1);
(C11)高級アルコールアルキレンオキサイド(以下、AOと略記)付加物:
炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコールおよびオレイルアルコールなど)のエチレンオキサイド(以下、EOと略記)1〜20モルおよび/またはプロピレンオキサイド(以下、POと略記)1〜20モル付加物(ブロック付加物および/またはランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が挙げられる。
(C12)炭素数6〜24のアルキルを有するアルキルフェノールのAO付加物:
オクチルもしくはノニルフェノールのEO1〜20モルおよび/またはPO1〜20モル付加物(例えば、TRITON(登録商標)X−100およびTRITON(登録商標)X−114など)が挙げられる。
(C13)ポリプロピレングリコールEO付加物およびポリエチレングリコールPO付加物:
プルロニック型界面活性剤などが挙げられる。
(C13)脂肪酸AO付加物:
炭素数8〜24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびヤシ油脂肪酸など)のEO1〜20モルおよび/またはPO1〜20モル付加物などが挙げられる。
(C14)多価アルコール型非イオン性界面活性剤:
炭素数3〜36の2〜8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビットおよびソルビタンなど)のEOおよび/またはPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステルおよびそのEO付加物(例えば、TWEEN(登録商標)20およびTWEEN(登録商標)80など);アルキルグルコシド(例えば、N−オクチル−β−D−マルトシド、n−ドデカノイルスクロース、n−オクチル−β−D−グルコピラノシドなど);並びに、砂糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドおよびこれらのAO付加物(ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミドなど);が挙げられ、脂肪酸としては前記のものが挙げられる。
(A)以外のカチオン性界面活性剤(C2)としては、対イオンとしてハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルキル硫酸アニオンおよび超強酸アニオンから選ばれる1種以上の対イオンを有するカチオン性界面活性剤が挙げられる。
ハロゲンアニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなど、アルキル硫酸アニオンとしてはメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなど、超強酸アニオンとしてはテトラフルオロホウ素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどが挙げられる。
なお、(C2)を構成するカチオン部分は、(A)で挙げたものと同様のカチオン部分が挙げられる。
(C2)の具体例として、塩化ベンザルコニウムおよび臭化セチルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。
アニオン性界面活性剤(C3)としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有する、エーテルカルボン酸またはその塩、硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩、スルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステルもしくはエーテルリン酸エステルおよびそれらの塩、脂肪酸塩、アシル化アミノ酸塩、並びに天然由来のカルボン酸およびその塩(例えばケノデオキシコール酸、コール酸およびデオキシコール酸など)が挙げられる。
両性界面活性剤(C4)としては、ベタイン型両性界面活性剤およびアミノ酸型両性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、アミドスルホベタイン、コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、カルボキシベタイン、ラウロイルサルコシンおよびメチルベタインが挙げられる。
他の界面活性剤(C)の使用割合は、タンパク質の変性されにくさの観点から、溶菌剤の重量に基づいて好ましくは60%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは20%以下である。
また、(A)の含有量に基づく(C)の含有量は、タンパク質の変性されにくさの観点から、好ましくは60%以下、さらに好ましくは40%以下である。
タンパク質の変性されにくさの観点から、(A)の重量に基づく(C1)〜(C4)の含有量は以下の通りである。
(C1)は、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、(C2)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、(C3)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、(C4)は、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。
安定化剤(D)としてはキレート剤、有機酸およびその塩、多価アルコールがあげられる。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩、ポリリン酸およびその塩、メタリン酸およびその塩があげられる。
有機酸およびその塩としては、乳酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩等があげられる。
多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ペンタエリスリトール、キシリトール、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールなどがあげられる。
本発明の溶菌剤における各成分の重量比(A)/(B)/(C)/(D)は、タンパク質の変性のしにくさの観点から、好ましくは30〜100/0〜10/0〜60/0〜50、さらに好ましくは50〜100/0〜5/0〜40/0〜30、特に好ましくは70〜100/0〜3/0〜20/0〜20である。
本発明の溶菌剤は、通常は液状である。
本発明の溶菌剤は、使用に当たっては、必要により水で稀釈して、水溶液状または水分散液状の溶菌剤水性稀釈液として用いることができる。
溶菌剤水性稀釈液における、水以外の成分の濃度は、対象となる菌体、有用物質の種類および抽出方法の種類によって適宜選択されるが、0.01〜99.9%、好ましくは0.1〜50%である。
本発明の他の実施態様は、上記の溶菌剤を使用して有用物質生産菌から有用物質を生産する方法である。
本発明の有用物質産生方法で得られる有用物質は、上記の溶菌方法で得られるため、従来よりも純度が高く、また溶菌力に優れているので高い収量を得ることができる。
本発明の有用物質の産生方法としては、例えば、以下のような順序の工程による産生方法が挙げられる。(有用物質が組み換えタンパク質の場合の1例)
(1)タンパク質の培養工程:大腸菌などのタンパク質生産体に組み換えタンパク質を培養させる。
(2)溶菌工程:溶菌剤の使用によってタンパク質生産体内のインクルージョンボディを取り出す。
(3)アンフォールディング工程;インクルージョンボディ懸濁液(例えば10mgタンパク質/mL)に0.5モル/L以上のアンフォールディング剤および20ミリモル/L以下の還元剤を加え軽くかきまぜ室温で数時間放置する。
(4)リフォールディング工程:アンフォールディングされたタンパク質懸濁液に、0.2〜6モル/Lの濃度になるようにリフォールディング剤を加えて軽くかき混ぜ、室温で1晩放置する。またはリフォールディングバッファーで大希釈することによりリフォールディングを行う。
(5)分離・取り出し工程:懸濁液から目的とする正常なタンパク質をカラムクロマトグラフィーなどによって分離して取り出す。
上記の(1)のタンパク質の培養工程におけるタンパク質生産体としては、以下の細菌細胞、エシェリヒア属菌およびバチルス属菌などが挙げられる。
細菌細胞としては、連鎖球菌属(streptococci)、ブドウ球菌属(staphylococci)、エシェリヒア属菌(Escherichia)、ストレプトミセス属菌(streptomyces)およびバチルス属菌(Bacillus)細胞、真菌細胞:例えば酵母細胞およびアスペルギルス属(Aspergillus)細胞、昆虫細胞:例えばドロソフィラS2(DrosophilaS2)、スポドプテラSf9(SpodopteraSf9)細胞、動物細胞:例えば、CHO、COS、Hela、C127、3T3、BHK、293およびボウズ(Bows)メラノーマ細胞、ならびに植物細胞等が挙げられる。
エシェリヒア属菌(Escherichia)としては、大腸菌(E.coli)K12DH1〔プロシージング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)60巻、160頁(1968年)を参照〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)9巻、309頁(1981年)を参照〕、JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)120巻、517頁(1978年)を参照〕、HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)41巻、459頁(1969年)を参照〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)39巻、440頁(1954年)を参照〕、MM294〔ネイチャー(Nature)217巻、1110頁(1968年)を参照〕などが挙げられる。
バチルス属菌(Bacillus)としては、枯草菌(Bacillussubtilis)MI114〔ジーン、24巻、255頁(1983年)を参照〕、207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)95巻、87頁(1984年)を参照〕などが挙げられる。
組み換えタンパク質の生産方法としては、具体的に次の方法がある。
(i)目的タンパク産生細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージまたはプラスミドに組み込む。
(ii)得られた組み換えファージまたはプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパクの一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(iii)その組み換えDNAから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNAまたはその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。
その後、適当な方法により、宿主を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は通常15〜43℃で3〜24時間行い、必要により通気、攪拌を加えることもできる。
アンフォールディング工程およびリフォールディング工程におけるタンパク質のリフォールディング方法としては、本発明の溶菌剤を用いたあとに、アンフォールディング剤でタンパクの3次元構造を崩し(アンフォールディング)、その後、希釈法、透析法、界面活性剤利用法、人工シャペロン利用法および特願2005−235980記載の方法いずれの方法でもリフォールディングすることができる。特に特願2005−235980記載の方法は生産性・汎用性の観点から好ましい。
アンフォールディング工程において使用されるアンフォールディング剤としては、塩酸グアニジン、尿素およびこれらの併用などが挙げられる。
なお、タンパク質が、分子内にS−S結合を含むタンパク質である場合には、還元剤として塩酸グアニジンおよび/または尿素以外に、さらに2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、シスチンまたはチオフェノールなどを加えてもよい。
タンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としてはシリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド、ビニルポリマーなどが挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり入手可能である。
本発明の有用物質の生産方法における有用物質としては、
タンパク質(P1)、アミノ酸(P2)、核酸(P3)、抗生物質(P4)、糖類(P5)またはビタミン類(P6)が挙げられる。
タンパク質(P1)としては、酵素(P1−1)と組み換えタンパク質(P1−2)が挙げられる。酵素(P1−1)としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素および脱離酵素などが挙げられる。
加水分解酵素としては、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、グルコアミラーゼなどが挙げられる。
異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。
酸化還元酵素としては、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。
転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼなどが挙げられる。
合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ、クエン酸シンターゼなどが挙げられる。
脱離酵素としては、ペクチンリアーゼなどが挙げられる。
組み換えタンパク質(P1−2)としては、
タンパク製剤、ワクチン等が挙げられる。
タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン、カルシトニン等が挙げられる。
ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、C型肝炎ワクチン等が挙げられる。
アミノ酸(P2)としては、例えばグルタミン酸、トリプトファン、アラニン、およびジペプチドなどが挙げられる。
核酸(P3)としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)が挙げられる。
抗生物質(P4)としてはストレプトマイシンおよびバンコマイシンなどが挙げられる。
糖類(P5)としては、ヒアルロン酸、アルブミン、セラミド、エリスリトール、トレハロース、リポ多糖およびシクロデキストリンなどが挙げられる。
ビタミン類(P6)としては、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンB6、ビタミンB12等のビタミンB類およびそれらの誘導体並びにその塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにその塩が挙げられる。
これらのうち本発明の溶菌剤は、(P1)および(P2)、特に(P1)の生産に適している。
本発明の他の実施態様は、上記の有用物質産生方法で得られたタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類であり、例えば上記のものが挙げられる。
これらのうち好ましいのは(P1)および(P2)、特に(P1)である。
[実施例]
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
製造例1:
ジデシルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩の製造;
50ml三角フラスコに、ジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩16.04g(カチオン基として0.04当量)を入れ、撹拌しながら、シクロペンタンテトラカルボン酸2.46g(カルボキシル基として0.04当量)を少量ずつ加えた。撹拌機付き恒温槽で80℃に加温しながら8時間撹拌し続けると、二酸化炭素およびメタノールが系外に放出され、ジデシルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩15.49g(収率99.9%)を得た。
製造例2〜4:
カルボン酸の種類と仕込重量を変更した(カルボキシル基の当量は変更しなかった)こと以外は製造例1と同様にして以下のカチオン性界面活性剤を製造した。
ジデシルジメチルアンモニウムのクエン酸塩、
ジデシルジメチルアンモニウムのアジピン酸塩、
およびジデシルジメチルアンモニウムの酢酸塩。
製造例5:
ジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩の代わりに、ジステアリルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩を使用し、仕込重量を変更した(カチオン基としての当量は変更しなかった)こと以外は製造例1と同様にして、ジステアリルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩を製造した。
比較の溶菌剤として、ラウリルアミンEO2モル付加物のキシレン溶液(キシレンが70%)、テトラデシルおよびペンタデシルアルコール混合物(重量比6/4)EO2モル付加物、および塩化ジデシルジメチルアンモニウムを使用した。
以上の溶菌剤について、溶菌力、タンパク質の変性のされにくさ、および糖類の生産性を評価した。
評価方法は以下の通りである。
<溶菌力>
2mlのスクリュー管に、菌体溶液0.5ml、および界面活性剤として50%濃度になるように稀釈した溶菌剤水性稀釈液を50μlマイクロピペットで加え、手振り混合した。20℃で3日間静置保存したものを試料として、超深度形状測定顕微鏡(KEYENCE社製、VK−8500)で菌体数を測定した。溶菌力を以下の式で算出した。結果を表1に示す。
なお、ブランクには溶菌剤水性稀釈液の代わりにイオン交換水50μlを用いた。
溶菌力(%)=(1−試料中の菌体数/ブランクの菌体数)×100
判定基準:
溶菌力≧80%・・・・・・・5点
60%≦溶菌力<80%・・・4点
40%≦溶菌力<60%・・・3点
20%≦溶菌力<40%・・・2点
溶菌力<20%・・・・・・・1点
<タンパク質(酵素)の変性されにくさ>
2mlの遠心分離用チューブに、1%セチルメチルセルロース水分散液0.6ml、界面活性剤として0.2%濃度になるように稀釈した溶菌剤水性稀釈液0.6ml、さらに、セルラーゼ(ナガセ社製、セルライザーHT)の100ppm水溶液を10μl加え、手振り混合した。37℃で5分間静置後、遠心分離機(ベックマン社製Microfuge.11)で遠心分離(10,000rpm×3分)し、上層を分離して回収した。20ml試験管に、上層0.25ml、イオン交換水0.25mlおよび5%フェノール水溶液0.5mlを入れて、混合した。
さらに濃硫酸を2.5ml加え、室温で10分間静置後、混合し、その後20分間20℃で静置して試料溶液を得た。試料溶液の490nmにおける吸光度(セチルメチルセルロースが酵素で分解された生成物の吸収)を紫外可視分光光度計(島津製作所社製UV−2550)で測定した。ブランクには溶菌剤水希釈液の代わりにイオン交換水0.6mlを用いた。 溶菌の工程においてセルラーゼ(酵素)が変性されずに、活性が保たれて、セチルメチルセルロースが効率よく分解されている場合は、吸光度が大きくなる(ブランクに近い吸光度になる)。
タンパク質の変性されにくさは、以下の式で算出し、下記の判定基準で評価した。
タンパク質の変性されにくさ(%)=(試料溶液の吸光度/ブランクの吸光度)×100
結果を表1に示す。
判定基準
タンパク質の変性されにくさ≧90%・・・・・・・5点
70%≦タンパク質の変性されにくさ<90%・・・4点
50%≦タンパク質の変性されにくさ<70%・・・3点
30%≦タンパク質の変性されにくさ<50%・・・2点
タンパク質の変性されにくさ<30%・・・・・・・1点
<糖類(ヒアルロン酸)の生産性>
グルコース5%、リン酸第1カリウム0.2%、ポリペプトン1.0%、酵母エキス0.5%からなる培地1リットルを加熱殺菌後、ストレプトコッカス・ミュータンスを接種し、
37℃で撹拌下2日間培養した。培養後の培地に、各溶菌剤を最終濃度0.4重量%となるように加え1時間攪拌し、遠心分離により菌体の破片をを除去した後、その上澄みを2回エタノール沈殿し、この沈殿を40℃で真空乾燥し精製ヒアルロン酸を得た。
糖類の生産性は、ヒアルロン酸の収量(g/L)から、以下の判定基準を用いて評価した。結果を表1に示す。
判定基準
ヒアルロン酸の収量≧5(g/L)・・・・・・・・・5点
3(g/L)≦ヒアルロン酸の収量≧5(g/L)・・3点
ヒアルロン酸の収量<3(g/L)・・・・・・・・・1点
本発明の溶菌剤は、タンパク質などの有用物質を生産菌から抽出する工程において使用できる。有用物質としては、タンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類が挙げられる。また、本発明の溶菌剤は、遺伝子を細胞に導入するためのベクターとしての利用ができ、さらには、本発明の溶菌剤と酵素等を併用して細胞破壊剤として利用することもできる。

Claims (7)

  1. 対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤(A)を含有することを特徴とする溶菌剤。
  2. カチオン性界面活性剤が、第4級アンモニウム塩型界面活性剤である請求項1記載の溶菌剤。
  3. 対イオンが2価もしくは3〜8価の多価カルボン酸から構成されるカルボキシレートアニオンである請求項1または2記載の溶菌剤。
  4. さらに、有機溶剤、他の界面活性剤および/または安定化剤を含有してなる請求項1〜3のいずれか記載の溶菌剤。
  5. 請求項1〜4のいずれか記載の溶菌剤を使用して微生物から有用物質を生産する方法。
  6. 有用物質がタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類である請求項5記載の有用物質を生産する方法。
  7. 請求項6記載の有用物質を生産する方法によって生産されたタンパク質、アミノ酸、核酸、抗生物質、糖類またはビタミン類。
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