JP2006316973A - 合成樹脂製プーリ - Google Patents

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貴彦 内山
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Abstract

【課題】 製造コストを徒に高くする事なく、外周面の真円度を向上できると共に長期に亙って外周部の摩耗が少ない低コストな合成樹脂製プーリを提供する。
【解決手段】 合成樹脂性プーリ1aは、転がり軸受12と、転がり軸受12の周囲に転がり軸受12と一体的に形成される樹脂部とを有する。樹脂部は、重量平均繊維長が0.7mm以上、5mm以下である長繊維強化熱可塑性樹脂材料によって形成される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、合成樹脂製プーリに関し、例えば、自動車用エンジンの補機或はカムシャフトを駆動する為の無端ベルトやタイミングベルト(以下、単に「ベルト」とする。)に所望の張力を付与する為に、或はベルトの巻き掛け角を確保すべくこのベルトを案内する為に使用するアイドラプーリとして利用される合成樹脂製プーリに関する。
従来から、自動車用エンジンの補機或はカムシャフトを駆動する為のベルトに所望の張力を付与する等の為のアイドラプーリとして、プレスプーリが広く使用されている。プレスプーリは、転がり軸受の外周側に、鋼板等の金属板にプレス加工を施して造ったものを、転がり軸受を構成する外輪に外嵌固定する状態で設けられる。又、アイドラプーリとして、転がり軸受を構成する外輪の周囲に、この外輪の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で一体的に固設した合成樹脂製プーリも使用されている(例えば、特許文献1〜6参照。)。特に、近年は、この合成樹脂製プーリが、アイドラプーリの軽量化及び低コスト化を図れると言った理由により、その採用が増加しつつある。
また、合成樹脂製プーリは、ベルトに所望の張力を付与する為の張力付与装置に組み込んで使用されている。例えば、図11〜13に示す様に、特許文献1に記載の合成樹脂製のアイドラプーリ1を使用した張力付与装置14では、シリンダブロック等の固定の部分に結合固定するベースプレート2に長孔3が形成され、この長孔3に沿う変位を自在とした支持軸4の基端部(図11の右端部)の頭部5に形成したねじ孔に、調整ボルト6の先端部が螺合されている。
この調整ボルト6の基端部は、ベースプレート2の一端部(図11の上端部)に設けた折り曲げ板部7に形成した通孔8に挿通されている。又、調整ボルト6の中間部で上記折り曲げ板部7よりも頭部5寄り部分には、調整ナット9とロックナット10とが螺合されている。
支持部4には、支持スリーブ11を介して、深溝型ラジアル玉軸受である転がり軸受12の内輪21が支持されている。又、この転がり軸受12の外輪13の周囲には、合成樹脂製の樹脂部30が固定されている。この樹脂部30は、互いに同心に設けられた内径側円筒部15及び外径側円筒部16を有する。この内径側円筒部15の中間部外周面と外径側円筒部16の中間部内周面とは、円輪状の連結部17により連結されており、この連結部17の両側面にそれぞれ複数本ずつの補強リブ18、18が、それぞれ放射状に設けられている。
この様な樹脂部30は、内径側円筒部15を外輪13の周囲に、図14及び図15に示すような射出成形用の金型19により、この外輪13の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で固設している。即ち、金型19内に設けた、樹脂部30の外形に対応した内形を有するキャビティ20内に、図示しないゲートから溶融した熱可塑性樹脂を注入する。そして、この熱可塑性樹脂が冷却・固化した後に金型19を開いて、樹脂部30を転がり軸受12と共に、キャビティ20内から取り出す。
上述のようなアイドラプーリ1を含んで構成される、張力付与装置14により、ベルトに所望の張力を付与するには、このベルトをアイドラプーリ1の一部で、樹脂部30の調整ナット9と反対側面(図11の下面)に掛け渡す。そして、調整ナット9を回転させる事により樹脂部30の位置を変えて、この樹脂部30によりベルトに付与する力を調整する。そして、この張力が所望値になった状態で、ロックナット10を緊締し、樹脂部30の位置を固定する。
ところで、上述の様な合成樹脂を射出成形する事により得られる合成樹脂製プーリの場合、従来から広く使用されている、金属板にプレス加工を施して造るプレスプーリに比べて、軽量化とコスト低減とを図れる反面、射出成形後に合成樹脂の体積収縮により一部が変形する、所謂引けが発生し、アイドラプーリの形状精度を確保するのが難しい。より具体的には、図16に外周面の真円度を示す概念図として、軸方向中央部の外周面の凹凸の測定結果を誇張して示している。
この樹脂部30の外周面の真円度が悪化するため、ベルトの走行に伴って、樹脂部30の外周面とベルトの周面とが衝突して(互いに叩き合って)、比較的高い周波数を伴う噛み合い音が生じる可能性がある。又、ベルトが振れを伴いながら走行したり、或いはアイドラプーリ1並びにこのアイドラプーリ1を支持したベースプレート2(図11参照。)が振動する事により、不快な異音が発生し易くなる。更に、上記外周面の真円度の悪化が著しくなる場合には、上記樹脂部30の外周面からベルトが外れて、このベルトによる駆動部材から従動部材への動力の伝達が不能となる可能性がある。この為、合成樹脂製のアイドラプーリ1に於いては、ベルトを案内する為の樹脂部30の外周面の成形精度を向上させる事が、製品の品質を確保する際に最も重要となっている。
一方、合成樹脂製のアイドラプーリ1には、ベルトの張力に耐え得る強度特性や、温度変化に耐え得るヒートショック性能、及び小石等の噛み込みや衝突に耐え得る耐衝撃性等を確保する事も要求される。これに対して、合成樹脂として、変形し易いものを使用した場合には、これらの性能を確保できなくなる。この為、上記噛み合い音や異音の発生を抑制する為に、上記合成樹脂として変形し易い、所謂低剛性の合成樹脂を使用する事はできない。
この様な事情に鑑みて、特許文献1〜4のアイドラプーリでは、樹脂部の外周面の真円度を向上させ、凹凸を減少させる事を考慮した技術が提案されている。即ち、特許文献1〜4に記載された技術の場合には、樹脂部の外周面の真円度を向上させ、凹凸を減少させる事を考慮して、樹脂部を射出成形する金型(成形型)のキャビティに溶融樹脂を送り込む為のゲートの配設位置を工夫し、この溶融樹脂の金型内での流動状態を制御したり、樹脂部自体の形状を工夫している。又、特許文献3に記載されたアイドラプーリの場合には、成形に使用する合成樹脂材料として、ガラス繊維を15〜40%程度充填した強化ポリアミド66、強化ポリアミド610、強化ポリアミド612、或いはポリフェニレンサルファイド(PPS)とミネラルとの複合材料を使用している。又、特許文献4に記載されたアイドラプーリの場合には、成形に使用する合成樹脂材料として、ガラス繊維を43%含有したポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12等のポリアミド樹脂を使用している。
又、特許文献5では、円筒状の内周面を有する金型のキャビティ内に、溶融した合成樹脂を注入し、このキャビティの内周面に沿った円筒状の外周面を有する樹脂部を射出成形するアイドラプーリの製造方法が記載されている。この製造方法の場合には、上記キャビティの内周面に、このキャビティ内に注入した合成樹脂が冷却・固化する際に生じる変形分を考慮した凹凸を形成し、これら変形分と凹凸とを互いに相殺させる事により、得られるアイドラプーリの樹脂部の外周面の形状精度を向上させている。
また、未舗装路等の塵埃の多い環境で運転された場合、ベルトを案内する外周面の摩耗が大きく、ベルトの張力が低下し、上記ベルトが振れを伴いながら走行したり、或は上記アイドラプーリ1並びにこのアイドラプーリ1を支持したベースプレート2(図11参照。)が振動する事により、不快な異音が発生し易くなる。又、最悪の場合には、樹脂部30の外周面からベルトが外れて、このベルトによる駆動部材から従動部材への動力の伝達が不能となる可能性がある。この為、合成樹脂製のアイドラプーリ1に於いては、ベルトを案内する為の樹脂部の外周面の耐摩耗性を向上させる事も、製品の品質を確保する際に重要となっている。
この様な事情に鑑みて、外周面の耐摩耗性度を高める技術として、特許文献6には、セラミック溶射を施すことにより外周面の摩耗を抑制する技術が記載されている。即ち、ガラス繊維強化ポリアミド66やポリアミド612などにより製作された合成樹脂製プーリの少なくともベルト転走面(外径側円筒部の外周面)に砂塵の組成に近いSiOおよびAlを主体とするセラミック皮膜を溶射により形成し、外周面とベルトとの間に砂塵が侵入しても合成樹脂製プーリの外周面が摩耗し難くなるとしている。
特開平10−122339号公報 特開平4−107355号公報 特開平7−63249号公報 特開平8−4883号公報 特開2000−310315号公報 特開平7−12206号公報
ところで、特許文献2〜4に記載されたアイドラプーリの場合には、必ずしも樹脂部の外周面の真円度を向上させると言った効果を十分に発揮できない。また、特許文献1に記載のアイドラプーリの場合には、外周面の真円度の向上が図られているが、さらなる改良の余地がある。
また、特許文献5に記載されたアイドラプーリの製造方法は、樹脂部の外周面の真円度の向上と、この外周面の凹凸の低減とを図る面からは非常に有効であるが、キャビティの内周面に凹凸を形成する事が非常に高度な技術と多大な時間とを必要とする。この為、円周面に凹凸を形成したキャビティを有する金型の製造コストは、技術面から一般的に使用されている金型の製造コストよりも嵩む可能性がある。又、内周面に凹凸を形成したキャビティを有する金型により製造されるアイドラプーリの場合には、予め内周面に凹凸を形成しないキャビティを有する金型により製造されるアイドラプーリの成形条件と合成樹脂材料とによる外周面の形状精度を基準として加工している為、成形条件の許容幅が狭い。又、合成樹脂材料の製造ロット毎の流動特性に代表される、成形加工特性の変動許容幅も狭い。これらにより、特許文献5に記載のアイドラプーリの製造方法を用いてアイドラプーリを安定して多量に供給する為には、非常に精緻な成形条件の管理と合成樹脂材料の成形加工特性の管理とが必要になる可能性がある。
この様な要因により、特許文献5に記載されたアイドラプーリの製造方法は、従来から広く行なわれているアイドラプーリの製造方法に比べて製造コストが高くなる可能性がある。さらに、一旦射出成形により樹脂部を製造した後に、ベルトの案内面となる外径側円筒部の外周面に切削加工を施し、樹脂部の外周面の真円度を向上させ、凹凸を減少させる試みがなされている。このような加工は、樹脂部の外周面の真円度の向上と、この外周面の凹凸の低減とを図る面からは非常に有効であるが、機械加工であるため、従来から広く行なわれているアイドラプーリの製造方法に比べて製造コストが高くなる可能性がある。
また、一般に合成樹脂製プーリを形成する樹脂材料は、補強のため、ガラス繊維等の補強繊維を含有している。成形後の合成樹脂製プーリの表面近傍には樹脂の割合が多い所謂スキン層が形成されることが知られているが、切削加工等によりそのスキン層が除去されると、ガラス繊維等が当初より露出することとなる。ガラス繊維等の補強繊維は、硬質であるためベルトの摩耗を促進させる可能性がある。
更に、特許文献6に記載のセラミック溶射皮膜を合成した合成樹脂製プーリにおいては、セラミック溶射皮膜の剛性が基材となる合成樹脂と比較して非常に大きく脆い。しかも樹脂との密着性も劣るため、ベルトの張力がかかりプーリが変形した場合に該セラミック溶射皮膜が破損剥離しやすい。また、自動車に搭載される場合は周知のように低温(−40℃程度)から高温(120℃)の雰囲気まで使用され、さらに運転時にはより高温になる可能性がある。上述のような環境で使用された場合やはり、基材となる樹脂の線膨張率と該セラミック溶射皮膜の線膨張率とは相違するため、即ち、樹脂の線膨張率がセラミック溶射皮膜の線膨張率よりもはるかに大きいため、該セラミック溶射皮膜が破損剥離しやすい。従って、このようなセラミック溶射皮膜を外周部に形成した樹脂製プーリは、長期に亙って、耐摩耗性を維持することが困難であるという問題点があった。
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造コストを徒に高くする事なく、外周面の真円度を向上できると共に長期に亙って外周部の摩耗が少ない低コストな合成樹脂製プーリを提供することにある。
本発明の目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 転がり軸受と、該転がり軸受の周囲に該転がり軸受と一体的に形成される樹脂部とを有する合成樹脂製プーリであって、
前記樹脂部は、重量平均繊維長が0.7mm以上、5mm以下である長繊維強化熱可塑性樹脂材料によって形成されることを特徴とする合成樹脂製プーリ。
上述の様に構成される本発明の合成樹脂製プーリは、補強剤として長繊維を添加しているので、プーリの耐久性や耐摩耗性の向上を図ることができる。これにより、本発明の合成樹脂製プーリは、高負荷で使用されて破損することや、ベルトの張力が低下し、ベルトの振れに起因する振動や異常音の駆動時の発生を抑制することが可能であり、長期に亙って安定して使用することができる。
以下、本発明に係る合成樹脂製プーリについて図面を参照して詳細に説明する。
図1〜2は、Vリブドベルトの背面側(リブを設けていない側)を案内する本発明の合成樹脂製プーリであるアイドラプーリ1aを示し、図3〜4は、Vリブドベルトの正面側(リブを設けている側)を案内する本発明の合成樹脂製プーリであるアイドラプーリ1bを示している。なお、これらの合成樹脂製プーリ1a,1bは、図11〜13に示したアイドラプーリ1と同様に、張力付与装置に組み込んで使用することができる。
Vリブドベルトの背面側を案内するアイドラプーリ1aは、前述の図11〜13に示したアイドラプーリ1と同様に、転がり軸受12と、該転がり軸受の周囲に該転がり軸受と一体的に形成される樹脂部30とを有する。樹脂部30は、互いに同心に設けられた内径側円筒部15及び外径側円筒部16を有する。この外径側円筒部16の外周面は、ベルトの背面を案内する為の平坦な案内面である。又、上記内径側円筒部15の中間部外周面とこの外径側円筒部16の中間部内周面とは円輪状の連結部17により連結しており、この連結部17の両側面にそれぞれ同数である、48本ずつ合計96本の補強リブ18、18を、それぞれ各側面に等間隔で放射状に設けている。又、連結部17の両側面に形成する複数リブ18、18の円周方向位置は、互いに一致させている(両側面で補強リブ18、18の位相を互いに一致させている)。
又、Vリブドベルトの正面側を案内するアイドラプーリ1bも、転がり軸受12と、該転がり軸受の周囲に該転がり軸受と一体的に形成される樹脂部30とを有する。樹脂部30は、互いに同心に設けられた内径側円筒部15及び外径側円筒部16と、内径側円筒部15の中間部外周面とこの外径側円筒部16の中間部内周面とを連結する円輪状の連結部17と、を有する。この外径側円筒部16の外周面は、ベルトの正面を案内する為の波型の案内面である。又、連結部17の両側面にそれぞれ同数である、48本ずつ合計96本の補強リブ18、18を、両側面の円周方向位置を互いに一致させ、それぞれ各側面に等間隔で放射状に設けている。
特に、背面側を案内するアイドラプーリ1aは、ベルトとの接触部が少なく、正面側を案内するアイドラプーリ1bの様にベルトのリブとプーリの案内面の波型のリブが摺れ合うことによる減衰効果が期待できないため、アイドラプーリ1aの外周面の凹凸とベルトが噛み合うことによる異音の発生し易いところとなる。
樹脂部30に使用される樹脂組成物のマトリックスを構成する樹脂は、特に限定されないが、従来から合成樹脂製プーリ用の材料として用いられてきた、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド46、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド等の所謂エンジニアリングプラスチックや、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の所謂スーパーエンジニアリングプラスチック樹脂を例示することができ、単独でも組み合わせて使用してもよい。中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、変性ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリフェニレンサルファイドは、コストと性能のバランスが良く好適に使用できる。更に耐熱性を要する用途には、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を好適に使用することができる。本発明の樹脂組成物は、目的に応じて20〜60wt%までの繊維状充填材を含む。当該繊維状充填材は、合成樹脂製プーリの剛性を増加させるとともに、寸法精度を向上させるため必要に応じて上記の範囲で適宜添加される。
用いる繊維状充填材は、特に限定されないが、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維等を例示できる。中でもガラス繊維、炭素繊維は補強性が良好で好ましいものである。
繊維の形態としては、ペレットに添加された状態で、平均繊維径が1〜30μmのものが好ましく、より好ましくは3〜20μmのものである。なぜなら、平均繊維径が1μm未満の小径のものでは母材と混合した際に繊維間の凝集が起こり、繊維の分散が不均一になるおそれがあり、平均繊維径が30μmを超える大径のものでは、プーリ表面の平滑性が阻害されるおそれがあるだけでなく、摺接した相手面を傷つけるおそれがあるからである。平均繊維径が3〜20μmであれば、このような傾向が全くなく好ましい結果が得られる。
次に、繊維の長さであるが、ペレットに添加された状態で、重量平均繊維長が2〜20mmのものが好ましく、より好ましくは3〜15mmのものである。なぜなら、ペレットに添加された状態で重量平均繊維長が2mm未満の長さのものでは、成形加工時の繊維の折損により、プーリ中の重量平均繊維長が短くなり、プーリとしての所望の性能を発揮できなくなる可能性があり、逆にペレットに添加された状態で重量平均繊維長平均が20mmを超える長さのものでは、必然的にペレットの長さも20mmを超えるため、成形機へのペレットの導入が困難になるおそれがあるからである。重量平均繊維長が3〜15mmであれば、このような傾向が全くなく好ましい結果が得られる。
さらに、プーリの中での繊維の長さに言及すると、重量平均繊維長が0.7〜5mmのものが好ましく、より好ましくは1〜3mmの範囲である。重量平均繊維長が0.7mm未満の長さのものでは、短繊維を添加したプーリに対して衝撃強度が向上せず、逆に重量平均繊維長が5mmを超える長さのものは、通常の成形では、成形過程で折損してしまい、特殊な成形機を用いる必要があり、得られた合成樹脂製プーリのコストが嵩むこととなるからである。
上記強化繊維の全組成物中の配合割合は、20〜60重量%(wt%)である。60wt%を超えて配合しても樹脂組成物の溶融流動性が著しく低下して成形性が悪くなるばかりでなく、更なる機械的特性や寸法安定性の向上が期待できない。
本発明の合成樹脂製プーリをなす樹脂組成物は、上述の樹脂と繊維状充填材との親和性を持たせて強化繊維と樹脂との密着性並びに分散性を向上させるために、強化繊維をシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等のカップリング剤や、その他目的に応じた表面処理剤で処理することができるが、これらに限定されるものではない。
なお、本発明の目的を損わない範囲内で、各種添加剤を配合してもよく、例えば、黒鉛、六方晶窒化ホウ素、フッ素雲母、四フッ化エチレン樹脂粉末、二硫化タングステン、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、無機粉末、有機粉末、潤滑油、可塑剤、ゴム、樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光保護剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良剤、熱伝導性改良剤、非粘着性付与剤、結晶化促進剤、増核剤、顔料、染料等を例示することができる。
これら樹脂と強化繊維などの各種添加材との混合方法は、強化繊維の連続繊維束に強化繊維以外の各種添加材が添加された溶融樹脂を含浸させた後、冷却・ペレット化される。溶解含浸する際の温度は特に限定されないが、母材となる樹脂の溶融が十分進行し、かつ劣化しない温度の範囲内で適宜選定すればよい。このような長繊維強化熱可塑性樹脂は、ダイセル化学工業(株)より「プラストロン」、GEプラスチック(株)より「バートン」として入手することができる。
本発明の合成樹脂製プーリの製造方法は特に限定されない。例えば、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等の通常の方法で成形することができる。中でも射出成形法は、生産性に優れ、安価な保持器を提供できるため好ましい。なお、射出成形時の繊維の折損を抑制するために射出成形機のノズル径や金型のゲート径を大きくしたり、成形時の背圧を低く抑えることが好ましい。
以上、説明したように、本発明の合成樹脂製プーリ1a,1bは、転がり軸受12と、転がり軸受12の周囲に転がり軸受12と一体的に形成される樹脂部30とを有し、樹脂部30は、重量平均繊維長が0.7mm以上、5mm以下である長繊維強化熱可塑性樹脂材料によって形成されるので、製造コストを徒に高くする事なく、樹脂部30の外周面の真円度を向上できると共に長期に亙って外周部の摩耗が少ない低コストな合成樹脂製プーリ1a,1bを得ることができる。これにより、合成樹脂製プーリ1a,1bは、高負荷で使用されて破損することや、ベルトの張力が低下し、ベルトの振れに起因する振動や異常音の駆動時の発生を抑制することが可能であり、長期に亙って安定して使用することができる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
以下、本発明の効果を説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[試験1]
(a)試験片の製作
実施例1〜6及び比較例1〜6に使用した試験片の原材料を一括して示すと、以下の通りである。
・ガラス長繊維30%強化ナイロン6,6樹脂
(ダイセル化学工業社製:プラストロン PA66−GF30−02)
・ガラス長繊維50%強化ナイロン6,6樹脂
(ダイセル化学工業社製:プラストロン PA66−GF50−02)
・ガラス短繊維15%強化ナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 14G15)
・ガラス短繊維50%強化ナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 14G50)
・ナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 1402)
・ガラス長繊維30%強化PPS樹脂
(ダイセル化学工業社製;プラストロン PPS−GF30−01)
・ガラス長繊維40%強化PPS樹脂
(ダイセル化学工業社製;プラストロン PPS−GF40−01)
・カーボン長繊維40%強化PPS樹脂
(ダイセル化学工業社製;プラストロン PPS−CF40−01)
・ガラス短繊維30%強化PPS樹脂
(ポリプラスチック社製:フォートロン 1130A1)
・ガラス短繊維40%強化PPS樹脂
(ポリプラスチック社製:フォートロン 1140A1)
・カーボン短繊維30%強化PPS樹脂
(ポリプラスチック社製:フォートロン 2130A1)
・PPS樹脂(ポリプラスチック社製:フォートロン 0220A9)
これらの原材料を、表1に示すガラス添加量に配合した組成物を用いて、実施例と比較例のISO 178に基づく曲げ試験用試験片とISO 179/leAに基づくノッチ付きシャルピー衝撃試験用試験片をそれぞれ作成し、各種試験を実施した。
ガラス繊維及びカーボン繊維の添加量の調整には、各繊維強化樹脂と、繊維未添加の樹脂を任意の割合でVブレンダーを用いて乾式混合することにより調整した。得られたペレットをインラインスクリュー式射出成形機に供給して成形し、所望の試験片形状とした。各種材料の配合割合(wt%)を表1に示す。
(b)そして、本発明のプラスチック保持器用材料の強度と剛性を確認するために、ISO 178に基づき曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。この結果を表1に付記する。
(c)次に、本発明のプラスチック保持器用材料の耐衝撃性を確認するために、ISO 179/leAに基づきノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施した。この結果を表1に付記する。
また、各試験片の中の強化繊維の重量平均繊維長の測定は、試験片を磁性坩堝に入れて、600℃に設定した電気炉で60分灰化し、樹脂分を完全に輝散させた後に、プレパラートを形成し、米国Media Cybernetics社製の画像解析ソフト:Image−Pro Plusを用いて行なった。この結果を表1に付記する。
Figure 2006316973
表1から明らかなように、樹脂組成物の強化繊維として、長繊維を添加した実施例1〜6は、いずれも従来からの短繊維を同量添加した比較例1〜6よりも強度、弾性率共に優れており、特に衝撃強度においては、長繊維の添加により亀裂の伝播が抑制されるため、格段に優れた特性を示した。
[試験2]
次に、本発明の効果を確認すべく行なった樹脂製プーリの高温高速耐久試験に就いて説明する。本試験に使用する合成樹脂製プーリは、前述の図1、図2に示したアイドラプーリ1と同様の構造を有するもので、詳細には、インサートする転がり軸受をJIS呼び番号が6203の単列深溝型玉軸受とし、上記アイドラプーリ1を構成する内径側円筒部15の外径D15を45mmとし、内径(=転がり軸受12の外径13の外径)d15を40mmとし、幅W15=を17mmとする。又、前記外径側円筒部16の外径D16を70mmとし、内径d16を65.6mmとし、幅W16を22mmとする。又、上記外輪13の幅W13を12mmとする。又、上記連結部17の厚さT17を2mmとし、補強リブ18、18の数を、各側面同士で同数である24本とし、厚さT18を1.8mmとする。ゲートは直径1.8mmとし、内径側円筒部15の片側端面の直径41.5mmの位置に12箇所等配で補強リブ18、18の中間の位相に設けた。また、転がり軸受12の外輪外周面には、樹脂部30の廻り止めのために、凹溝を設けている。尚、本発明が、以下に示す実施例により何ら制限されるものではない事は勿論である。
本実施例では、樹脂材料としてガラス長繊維50%強化ナイロン6,6樹脂(ダイセル化学工業社製:プラストロン PA66−GF50−02)とガラス短繊維50%強化ナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 14G50)を任意の割合でVブレンダーを用いて乾式混合することによりペレット中の重量平均繊維長を調整した。上記各種重量平均繊維長の樹脂材料を合成樹脂製プーリ成形用金型(以下、端に「金型」とする。)を使用し、そして、この金型を射出成形機に取り付けた状態で、この金型を開き、予め金型温度と同じ温度に予熱した転がり軸受をこの金型の所定位置に装着した後、型締めを行なった。そして、その後、この金型の内面と、上記転がり軸受を構成する外輪の内径寄り部分側面との内側に形成される空間部分に、溶融樹脂を射出した。そして、この溶融樹脂が冷却・固化した後に上記金型を開いて、成形品を取り出し、上記転がり軸受を構成する外輪と一体成形したアイドラプーリを得た。
又、この実施例のアイドラプーリの主な成形条件は、以下の通りである。
・溶融樹脂温度:290℃
・金型温度 :100℃
・射出圧力 :100MPa
まず、本試験では、合成樹脂製プーリの寸法精度を確認するため、外径側円筒部の外周の軸方向中央部の真円度測定を行なった。この結果を図5に示す。
次に、得られた合成樹脂製プーリの強度を確認するために、図6に概略を示すプーリ耐久試験機を用いて、樹脂製プーリの耐久性能性の評価を行なった。このプーリ耐久試験機は、一対の回転軸23、23にそれぞれ固定された駆動輪24と従動輪25との間にベルト26を掛け渡し、このベルト26の外周面の一部に、上記のように製造されたアイドラプーリを試験プーリ27として荷重Fにより押し付ける。この試験プーリ27は、図示しない固定の部分に対し変位自在に支持した支持軸28に、転がり軸受12を構成する内輪21(図1,2参照)を外嵌固定している。また、本実施例における試験条件は以下の通りである。
・試験プーリ回転速度:15000min−1
・試験時間:1000Hrs
・ラジアル荷重:250kgf
・ベルト:バンドー化学社製「バンドーリブエースオート 6PK−700」
・ベルト巻き角:60°
・試験温度:150℃
この結果を図7に示す。この図5及び図7に示した試験結果から明らかなように、重量平均繊維長が0.7mmを越える本発明の合成樹脂製プーリの場合には、長繊維により体積収縮を抑えることで寸法精度を向上させると共に、プーリとしての耐久性の向上も図れる事が分かった。
[試験3]
更に繊維の添加量の効果を確認するために、ガラス長繊維60%強化ナイロン6,6樹脂(ダイセル化学工業社製:プラストロン PA66−GF60−02)とガラス繊維未添加のナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 1402)を試験1と同様の方法で混合することにより各種添加量に調整した。評価に供した合成樹脂製プーリの形状及びその製造方法は試験2と全く同一の形状で同一の製造方法であり、得られた合成樹脂製プーリの強度を確認するために、試験2と同一の方法で耐久性能性の評価を行った。この結果を図8に示す。
この図8に示した試験結果から明らかなように、長繊維を20wt%以上添加することで、プーリとしての耐久性の向上も図れる事が分かった。
[試験4]
更に、試験3で使用した合成樹脂製プーリを用いて、低温下でのベルト、プーリ間への小石の噛み込みや小石の衝撃を想定して合成樹脂製プーリに要求される、低温衝撃性能を確認した。
低温衝撃性の評価は図9に概略を示すように、合成樹脂製プーリ1a(1b)の外周側円筒部の外周面の軸方向中央に鋼球40を落下、衝突させた後の合成樹脂製プーリ破損の有無により評価した。本実施例における試験条件は以下の通りである。
・試験プーリ数:10個
・試験温度 :−40℃
・鋼球質量 :250g
・高さ :1m
評価結果を図10に破損割合として示した。図10に示した試験結果から明らかなように、長繊維を20wt%以上添加することで、亀裂の伝播が抑制され、低温衝撃性の向上も図れる事が分かった。
[試験5]
更に本発明の効果を確認すべく行なったダスト環境下の樹脂製プーリの耐摩耗性試験に就いて説明する。ガラス長繊維50%強化ナイロン6,6樹脂(ダイセル化学工業社製:プラストロン PA66−GF50−02)とガラス短繊維50%強化ナイロン6,6樹脂(旭化成社製:レオナ 14G50)からなる合成樹脂製プーリを用いて、合成樹脂製プーリに要求される、ダスト環境下の樹脂製プーリの耐摩耗性を確認した。
評価に供した合成樹脂製プーリの形状及びその製造方法は試験2〜4と全く同一の形状で同一の製造方法である。図6に概略を示すプーリ耐久試験機を用いて、ダスト環境下の樹脂製プーリの耐摩耗性の評価を行った。本実施例における試験条件は以下の通りである。
・試験プーリ回転速度:8000min−1
・試験時間:100Hrs
・ラジアル荷重:100kgf
・ベルト:バンドー化学社製「バンドーリブエースオート 5PK−670」
・ベルト巻き角:60°
・ダスト:JIS 8種関東ローム粉
・ダスト濃度:500g/m
・試験温度:室温
耐摩耗性の評価は、試験前と試験終了後のプーリ外周面のベルト接触位置(軸方向中央部)とベルト非接触位置の深さ方向の差を東京精密社製形状測定機により測定し求めた。樹脂材料と測定結果を表2に示す。
Figure 2006316973
表2に示した試験結果から明らかなように、本発明の長繊維強化樹脂で形成した合成樹脂製プーリの場合には、ダスト環境下の樹脂製プーリの耐摩耗性は短繊維強化樹脂で形成した合成樹脂製プーリより耐摩耗性が向上する事が分かった。
Vリブドベルトの背面側(リブを設けていない側)を案内するアイドラプーリの側面図である。 図1のアイドラプーリをII-II線に沿って切断した断面図である。 Vリブドベルトの正面側(リブを設けている側)を案内するアイドラプーリの側面図である。 図3のアイドラプーリをIV-IV線に沿って切断した断面図である。 アイドラプーリの樹脂部の重量平均繊維長と真円度との関係を示すグラフである。 試験に用いられるプーリ耐久試験機の概略図である。 アイドラプーリの樹脂部の重量平均繊維長と破損時間との関係を示すグラフである。 アイドラプーリの樹脂部のガラス長繊維添加量と破損時間との関係を示すグラフである。 低温衝撃性能の評価方法を説明するための図である。 低温下でのアイドラプーリの樹脂部のガラス長繊維添加量と破損割合との関係を示すグラフである。 従来のアイドラプーリが組み込まれた張力付与装置を示す断面図である。 従来のアイドラプーリの部分切断斜視図である。 従来のアイドラプーリの側面図である。 アイドラプーリを射出成形する金型を、リブから外れた部分で切断した状態で示す部分断面図である。 アイドラプーリを射出成形する金型を、リブ部分で切断した状態で示す部分断面図である。 アイドラプーリの樹脂部の外周面の真円度を誇張して示す概念図である。
符号の説明
1a,1b アイドラプーリ(合成樹脂製プーリ)
12 転がり軸受
13 外輪
15 内側円筒部
16 外側円筒部
16a,16b ベルト案内面
18 補強リブ
21 内輪
22 ゲート
30 樹脂部

Claims (1)

  1. 転がり軸受と、該転がり軸受の周囲に該転がり軸受と一体的に形成される樹脂部とを有する合成樹脂製プーリであって、
    前記樹脂部は、重量平均繊維長が0.7mm以上、5mm以下である長繊維強化熱可塑性樹脂材料によって形成されることを特徴とする合成樹脂製プーリ。
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