上述した食器洗い機は、給水の硬度の大小により洗浄性能に大きな差異が生じる。すなわち、水道水の硬度は地域差が大きく、硬度が高い地域では洗浄性能が低下しやすく、特に油脂汚れに対する洗浄性能が劣化する。これは、洗剤の種類、組成によっても差が大きくなる。
通常、給水の硬度が低い状態では、(数1)のように、洗剤に含まれる炭酸ナトリウム等の炭酸塩が加水分解することによりアルカリ性溶液となり、油脂汚れを鹸化して溶解することができる。
(数1)
Na2CO3 + 2H2O → H2CO3+ 2OH-+ 2Na+
しかし、水道水の硬度が高い場合、洗剤に含まれる炭酸塩等のアルカリ成分が硬度成分であるカルシウムイオン及びマグネシウムイオンと結合して(数2)のように炭酸カルシウムとなり、洗浄水のアルカリ性が低下する。したがって、油脂汚れが鹸化しにくくなり、洗浄性能が劣化する。
(数2)
Na2CO3 + Ca2 +→ CaCO3+ 2Na+
また、洗剤の代わりに環境にやさしい重曹等の炭酸塩を用いて洗浄する場合、特に(数2)のように硬度が高い成分の影響を受けやすい。さらに、洗剤の代わりに石鹸を用いて洗浄する場合、石鹸に含まれる脂肪酸と硬度が高い成分とが結合して石鹸カス(金属石鹸)となり、食器及び洗浄槽の表面に白粉状に付着するという問題点があった。
斯かる問題点を解消すべく、洗剤中に金属イオン封鎖剤を含有させ、硬度が高い成分の影響を少なくしている。しかし、洗剤の種類により金属イオン封鎖剤の含有量は大きく相違することから、用いる洗剤によって洗浄性能の劣化度合も相違するという問題が新たに生じていた。
また、すすぎにおいて給水される水道水の硬度が高い場合、食器類18を乾燥した後、炭酸カルシウムが白斑点状にウォータースポットとして表面に析出し、洗浄の仕上がりが悪くなるおそれがあった。これに対して、特許文献1には、給水経路又は循環経路にイオン交換装置を配設し、洗浄工程又は最終すすぎ工程の一方あるいは両方の工程でイオン交換装置を通過させる洗浄方法が開示されているが、洗浄工程及び最終すすぎ工程で軟水化した水を用いる洗浄方法そのものは硬度が高い水道水を用いる西欧諸国では旧来から行われている公知の方法であり、多くの地域が軟水である日本では実用的ではない。また、イオン交換装置のイオン濃度を再生する方法については何等開示されていない。
また特許文献2では、最終すすぎ工程の前にイオン交換装置のイオン濃度を再生する方法が開示されている。しかし特許文献2では、イオン濃度を再生させた直後は、洗浄槽の底面に硬度が高い残水が残っており、またイオン交換装置内には塩が残っていることから軟水化能力を最大限発揮することができない。したがって、最終すすぎ工程では軟水化が十分でない水を用いてすすぎを実行することになり、十分なすすぎを行うことが困難である。さらに、次回の運転時に硬度が高い洗浄水を用いて洗浄するよう制御する場合、イオン交換樹脂に最終すすぎ工程に用いる量だけしか硬度の高い洗浄水を貯留することができず、洗浄工程で用いる洗浄水の硬度が高くならず、十分な洗浄効果を得ることができない。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、多くの地域で軟水である日本のような環境であっても、さらに軟水化させて洗浄及びすすぎを行うことができ、洗浄性能を高める、特に口紅汚れ等の難洗浄性汚れに対する洗浄性能を高めることができる食器洗い機及び食器洗浄方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明に係る食器洗い機は、外部から給水口を介して供給された水の硬度をイオン交換樹脂により調整し、硬度を調整した水を排出口から洗浄槽内へ排出し、排出口から排出された硬度を調整した水を食器に対して噴射する食器洗い機において、塩水を前記給水口から給水し前記イオン交換樹脂に通水させて洗浄槽内へ前記排出口から排出する手段、前記洗浄槽内に排出された水を食器に対して噴射させる手段、及び噴射した水を外部へ排水する手段からなるイオン交換樹脂再生手段と、該イオン交換樹脂再生手段で水が外部へ排出された後、前記給水口から供給される水の硬度を給水時より低い硬度に調整する手段と、低い硬度に調整された水と洗剤とを混合させ洗浄水を生成する手段と、生成した洗浄水を食器に対して噴射させる手段とを備えることを特徴とする。
本発明では、まず塩水を給水しイオン交換樹脂を再生し、イオン交換樹脂の再生後、供給される水の硬度を給水時より低い硬度に調整し、低い硬度に調整された水と洗剤とを混合させて生成した洗浄水を食器に対して噴射させる。これにより、イオン交換樹脂を洗浄を開始する都度再生することができ、通常の水道水よりもさらに低い硬度の水により生成した洗浄水を用いて食器を洗浄することにより、洗浄性能を高めることが可能となる。また、給水を軟水化させて洗浄することにより洗剤に含まれている炭酸塩及び過炭酸塩等のアルカリ剤及び漂白剤の効果を十分に奏することができ、洗浄性能が向上し、特に油脂汚れ、茶渋等に対する洗浄性能が向上する。さらに、運転開始直後に再生動作を行うことから、例えば前回の運転時に用いた硬度の高い洗浄水を蓄えておくことにより、洗浄水の硬度を高く維持することが容易となり、たんぱく質に対する洗浄効果が高くなる。
また、本発明に係る食器洗い機は、洗浄槽へ給水口を介して供給される塩水又は水を加熱する手段を備えることを特徴とする。
本発明では、洗浄工程の開始時に、洗浄槽内へ供給された水を加熱し、洗浄水の温度を高め、場合によってはスチームを発生させる。これにより、例えば洗浄水の噴射を停止する時間帯であるイオン交換樹脂の再生工程と洗浄工程との切り替え時間帯を有効に活用して、洗浄槽内に滞留している水を加熱して洗浄性能を高め、精製したスチームにより食器類に付着した汚れを膨潤させることにより、食器類の表面から容易に剥離させることができる。
また、本発明に係る食器洗い機は、前記イオン交換樹脂再生手段で水が外部へ排出された後、水を前記給水口から給水し前記イオン交換樹脂に通水させて外部へ排水するイオン交換樹脂洗浄手段を備え、該イオン交換樹脂洗浄手段を少なくとも1回作動させるようにしてあることを特徴とする。
本発明では、イオン交換樹脂の再生に使用した塩水を外部へ排出した後、水道水を給水口から給水し、イオン交換樹脂に通水させて外部へ排水することによりイオン交換樹脂を少なくとも1回洗浄する。これにより、イオン交換樹脂の残留塩分を洗浄槽へ還流し、洗浄槽底に残留している硬度が高い残水を希釈することにより、洗浄槽に溜められた水の硬度を食器洗浄に用いるのに十分な硬度まで低下させることが可能となる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、外部から給水口を介して供給された水の硬度をイオン交換樹脂により調整し、硬度を調整した水を排出口から洗浄槽内へ排出し、排出口から排出された硬度を調整した水を食器に対して噴射する食器洗い機で食器を洗浄する食器洗浄方法において、塩水を前記給水口から給水し前記イオン交換樹脂に通水させて洗浄槽内へ前記排出口から排出し、前記洗浄槽内に排出された水を食器に対して噴射し、噴射した水を外部へ排水する第1の工程と、水が外部へ排水された後、前記給水口から供給される水の硬度を給水時より低い硬度に調整し、低い硬度に調整された水と洗剤とを混合させ洗浄水を生成し、生成した洗浄水を食器に対して噴射する第2の工程とを含むことを特徴とする。
本発明では、洗浄工程の開始時に、塩水を給水しイオン交換樹脂を再生し、イオン交換樹脂の再生後、供給される水の硬度を給水時より低い硬度に調整し、低い硬度に調整された水と洗剤とを混合させて生成した洗浄水を食器に対して噴射する。これにより、イオン交換樹脂を食器の洗浄を開始する都度再生することができ、通常の水道水よりもさらに低い硬度の水により生成した洗浄水を用いて食器を洗浄することにより、洗浄性能を高めることが可能となる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、洗浄槽へ給水口を介して供給される塩水又は水を加熱することを特徴とする。
本発明では、洗浄槽内へ供給される水を加熱し、洗浄水の温度を高め、場合によってはスチームを発生させる。これにより、例えば洗浄水の噴射を停止する時間帯であるイオン交換樹脂の再生工程と洗浄工程との切り替え時間帯を有効に活用して、洗浄槽内に滞留している水を加熱して洗浄性能を高め、精製したスチームにより食器類に付着した汚れを膨潤させることにより、食器類の表面から容易に剥離させることができる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、塩水が外部へ排出された後、少なくとも1回、水を前記給水口から給水し前記イオン交換樹脂に通水させて外部へ排水することを特徴とする。
本発明では、イオン交換樹脂の再生に使用した塩水を外部へ排出した後、水道水を給水口から給水し、イオン交換樹脂に通水させて外部へ排水することによりイオン交換樹脂を少なくとも1回洗浄する。これにより、イオン交換樹脂の残留塩分を洗浄槽へ還流し、洗浄槽底に残留している硬度が高い残水を希釈することにより、洗浄槽に溜められた水の硬度を洗浄にもちいるのに十分な硬度まで低下させることが可能となる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、前記第2の工程での洗浄水の温度は、前記第1の工程での塩水の温度よりも高いことを特徴とする。
本発明では、洗浄工程での洗浄水の温度は、イオン交換樹脂の再生工程での塩水の温度よりも高い。これにより、イオン交換樹脂を、硬度が高く比較的低い温度の塩水で洗うことにより、塩溶効果を促進してたんぱく質を効果的に洗浄することができ、その後の洗浄工程では硬度が低く比較的高い温度の水及び洗剤を混合した洗浄水で洗うことにより、洗剤の洗浄効果を最大限有効に活用することが可能となる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、前記第1の工程での塩水の温度は50℃以下であり、前記第2の工程での洗浄水の温度は50℃より高いことを特徴とする。
本発明では、イオン交換樹脂の再生工程での塩水の温度は50℃以下であり、洗浄工程での洗浄水の温度は50℃より高い。これにより、イオン交換樹脂の再生工程ではたんぱく質が凝固しない50℃以下の温度で通水し、洗浄工程では洗剤が効果的に性能を発揮する50℃より高い温度で洗浄することにより、塩溶効果を促進してたんぱく質を効果的に洗浄することができ、洗剤の洗浄効果を最大限有効に活用することが可能となる。
また、本発明に係る食器洗浄方法は、石鹸を前記洗剤に代用することを特徴とする。さらに、本発明に係る食器洗浄方法は、重曹、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムのいずれかである炭酸塩を前記洗剤に代用することを特徴とする。
本発明では、石鹸を洗剤に代用する。また、重曹、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムのいずれかである炭酸塩を洗剤に代用する。これにより、環境汚染が軽度である石鹸を石鹸カスを生成することなく使用することができ、炭酸塩を炭酸カルシウムの白粉を生成することなく使用することが可能となる。
本発明によれば、イオン交換樹脂を洗浄を開始する都度再生することができ、通常の水道水よりもさらに低い硬度の水により生成した洗浄水を用いて食器を洗浄することにより、洗浄性能を高めることが可能となる。また、給水を軟水化させて洗浄することにより洗剤に含まれている炭酸塩及び過炭酸塩等のアルカリ剤及び漂白剤の効果を十分に奏することができ、洗浄性能が向上し、特に油脂汚れ、茶渋等に対する洗浄性能が向上する。さらに、運転開始直後に再生動作を行うことから、例えば前回の運転時に用いた硬度の高い洗浄水を蓄えておくことにより、洗浄水の硬度を高く維持することが容易となり、たんぱく質に対する洗浄効果が高くなる。
また本発明によれば、例えば洗浄水の噴射を停止する時間帯であるイオン交換樹脂の再生工程と洗浄工程との切り替え時間帯を有効に活用して、洗浄槽内に滞留している水を加熱して洗浄性能を高め、精製したスチームにより食器類に付着した汚れを膨潤させることにより、食器類の表面から容易に剥離させることができる。
また本発明によれば、イオン交換樹脂の残留塩分を洗浄槽へ還流し、洗浄槽底に残留している硬度が高い残水を希釈することにより、洗浄槽に溜められた水の硬度を洗浄にもちいるのに十分な硬度まで低下させることが可能となる。
また本発明によれば、イオン交換樹脂を、硬度が高く比較的低い温度の塩水で洗うことにより、塩溶効果を促進してたんぱく質を効果的に洗浄することができ、その後の洗浄工程では硬度が低く比較的高い温度の水及び洗剤を混合した洗浄水で洗うことにより、洗剤の洗浄効果を最大限有効に活用することが可能となる。
また本発明によれば、イオン交換樹脂の再生工程ではたんぱく質が凝固しない50℃以下の温度で通水し、洗浄工程では洗剤が効果的に性能を発揮する50℃より高い温度で洗浄することにより、塩溶効果を促進してたんぱく質を効果的に洗浄することができ、洗剤の洗浄効果を最大限有効に活用することが可能となる。
また本発明によれば、環境汚染が軽度である石鹸を石鹸カスを生成することなく使用することができ、炭酸塩を炭酸カルシウムの白粉を生成することなく使用することが可能となる。
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図2は、本発明の実施の形態に係る食器洗い機の正面から見た要部構成を示す図である。図2において、本実施の形態に係る食器洗い機は、洗浄する食器類18を収納する洗浄槽2を筐体1の内部に設けており、洗浄槽2の内部には、食器篭3に載せられた食器類18が収容されている。
洗浄槽2の底部には、モータ8の軸に接続されたポンプ7が配設されている。ポンプ7は、例えば正逆回転式のモータ8を用い、ポンプケーシングには吸込口が1つ、吐出口が2つ形成されており、吐出口はそれぞれ吐出ホース9と排水ホース10とに連結されている。2つの吐出口には切換え弁が配設され、同時に一方の吐出口だけが開く構造としてある。したがって、モータ8が正回転する場合、吸込ホース6からポンプインペラーの回転により吸い込まれた水の動圧で、切換え弁が排水ホース10への吐出口を閉鎖し、吐出ホース9への吐出口を開放する。モータ8が逆回転する場合、切換え弁が吐出ホース9への吐出口を閉鎖し、排水ホース10への吐出口を開放する。
ポンプ7の駆動源であるモータ8が正回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水は、残菜フィルタ5を通過し、吸込ホース6から吐出ホース9を経て回転ノズル11へと圧送され、回転ノズル11の直上に収納された食器類18へ噴射される。また、モータ8が逆回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水は、吸込ホース6から排水ホース10を経て、排水口13から外部へ排出される。
なお、ポンプ部分の構成は特に上述した構成に限定されるものではなく、1個のモータ軸に2室のケーシングを有し、ケーシングごとに吸込口及び吐出口を形成し、洗浄用及び排水用のインペラ−の正逆回転により洗浄及び排水を切り換える方式のポンプでも良く、また洗浄用ポンプ及びモータと排水用ポンプ及びモータを独立に設けても良い。
洗浄槽2の底部近傍には、洗浄を行う場合及びすすぎを行う場合には洗浄水を加熱し、乾燥を行う場合には洗浄槽2内の空気を加熱乾燥するためのヒータ4が配設されている。ヒータ4は、食器洗浄時に底部近傍に滞留する洗浄水位より下方に配設してある。また、筐体1の底付近には、洗浄からすすぎを経て乾燥に至る一連の動作シーケンスを各種センサを用いて実行、制御するための制御装置12が配設されている。
図3は、本発明の実施の形態に係る食器洗い機の制御装置12の構成を示すブロック図である。図3に示すように、制御装置12は、少なくともCPU(中央処理装置)121、ROM122、RAM123、時刻を計時するためのクロック124及び入出力ポート125等を備え、これらは互いに内部バス126によって接続されている。入出力ポート125には、水位検出手段である水位センサ(図示せず)、温度センサであるサーミスタ(図示せず)、洗浄水を加熱する又は洗浄槽2内の空気を加熱するヒータ4、ポンプ7の駆動源であるモータ8等が接続されている。
制御装置12のCPU121は、RAM123をワーキングエリアとして、ROM122に格納されたプログラムを実行することにより、食器洗浄、すすぎ、食器乾燥等の動作シーケンスを制御する。なお、CPUを搭載するものに限定されるものではなく、MPUであっても良いし、LSIチップであっても良い。
14は水道蛇口からホースを介して水道水を洗浄槽2内へ供給する接続部であり、給水経路は3方向に分岐している。水道水給水弁20から供給された水道水は、水道水給水ホース23を経て、直接洗浄槽2の水道水給水口26から給水される。
軟水給水弁21から供給された水道水は、Nホース24を経て硬度調整装置27の底部へと供給される。硬度調整装置27の内部には、メッシュで仕切られた空間にイオン交換樹脂28が充填されており、Nホース24から底部へ供給された水道水は、イオン交換樹脂28を通過する間に給水中の硬度成分を除去して軟水化され、軟水給水口30から洗浄槽2に供給される。
また、硬度調整装置27に充填されているイオン交換樹脂28の上部空間には、Sパイプ29が開口して配設され、さらにその先の経路には比重が水より軽いPP製ボール等からなる逆止弁34が配設され、その先の経路はSボックス40へと連通している。さらに、硬度調整装置27の底部にはKホース31が配設され、洗浄槽底の硬水給水口32へと連通している。硬水給水口32の直下には、水より比重が重いセラミック製等のボールからなる圧力弁33が配設されている。
軟水給水弁21が開いた場合、逆止弁34がSパイプ29を通ってくる水道水の流れによって浮上し、Sボックス40へ連通する経路を閉鎖してSボックス40への給水を遮断する。また同時に、セラミックボールによる圧力弁33は、Kホース31を通ってくる水道水の流れによる大きな水圧を受けて上昇して硬水給水口32を閉鎖し、軟水の洗浄槽2への浸入を防止する。
ただし、硬度調整装置27の内部に滞留している水が、自重により硬水給水口32から洗浄槽2の外部へ流れ出る場合、水圧が小さいことからセラミックボールによる圧力弁33は沈下した状態であり、硬水給水口32を閉鎖しない。
Sボックス給水弁22はSホース25に連通し、さらにその先はSボックス40に連通している。Sボックス給水弁22が開いた場合、水道水はSボックス40内へ供給される。なお、洗浄槽2の内部天板近傍に配設してあるSボックス40は着脱可能である。
Sボックス40の内部には、イオン交換樹脂28を再生するための食塩を投入するよう、底部がメッシュで構成してあるSフィルタ41が、Sボックス40の底部から浮かせて設置してある。また、Sボックス40の底面は傾斜しており、その最低部にはS給水口43とSボックスキャップ44が配設されている。S給水口43は、Sボックス給水弁22に連通して開口しており、また硬度調整装置内のSパイプ29及び逆止弁34に連通する開口があり、Sボックスキャップ44がサイフォン流路を形成するよう被せてある。Sボックス40の側面には、S給水口43からSボックス40の内部へ供給される水道水を、Sフィルタ41底部の食塩が一定量水に浸漬させて一定水位に保持するためのオーバーフロー口45が開口している。
洗浄槽2の内壁の一部に、洗剤ボックス35が配設されている。洗剤ボックス35は、ダンパにより開扉可能な洗剤ボックス扉36が自動的に開放可能にしてある。洗剤の投入時には手動で洗剤ボックス扉36を開き、洗剤を投入した後、手動で洗剤ボックス扉36を閉じる。洗浄の開始後、任意の時間に自動で洗剤ボックス扉36は開放される。
また、水位センサ(図示せず)は、洗浄槽2の底部に連通して配設されており、少なくとも低水位及び高水位の2段階の水位を検知することが可能な構成となっている。なお、低水位とは、少なくともヒータ4が浸水するレベルの水量(例えば貯水量2500cc)であり、高水位とは、それより多く、ポンプ8を通常回転で運転した場合に、いわゆるエア噛みを生じない水量(例えば貯水量3000cc)を意味する。
本実施の形態に係る食器洗い機は、洗浄を開始する都度、イオン交換樹脂28を塩水により再生することができ、再生した後に洗浄水を軟水化する点に特徴を有する。図4及び図5は、本発明の実施の形態に係る食器洗い機のイオン交換樹脂28の再生処理の手順を示すフローチャートである。利用者が食器類の洗浄を開始する場合、食器類18を食器篭3に搭載し、専用の洗剤を洗浄槽2の側壁に配設してある洗浄ボックス35の洗剤ボックス扉36を開けて投入し、洗剤ボックス扉36を閉じた後、扉を閉止状態とする。利用者は、洗浄開始を指示する洗浄ボタンを押し下げる。
制御装置12のCPU121が、洗浄開始を指示する洗浄ボタンの押し下げを検出した場合(ステップS401:YES)、CPU121は、水道水給水弁20に開放指示信号を送出する(ステップS402)。開放指示信号を受信したECUの動作により水道水給水弁20は開放され、洗浄槽2内へ水道水が低水位まで給水される。
CPU121は、水位センサによる検出値が低水位の閾値まで到達したか否かを判断し(ステップS403)、CPU121が、水位が低水位の閾値まで到達していないと判断した場合(ステップS403:NO)、給水を続行する。CPU121が、水位が低水位の閾値まで到達したと判断した場合(ステップS403:YES)、CPU121は、給水が完了したものと判断して、水道水給水弁20に閉鎖指示信号を送出し(ステップS404)、閉鎖指示信号を受信したECUの動作により水道水給水弁20を閉鎖し給水を停止する。CPU11は、洗浄槽2内に滞留している水の水温を、温度検知手段から取得する(ステップS405)。
CPU121は、温度検知手段により計測された水温に基づいて、一定量のスチームを生成することが可能なヒータ4への通電時間th、及びSボックス40で一定濃度の塩水を生成するために必要なSボックス40での貯水時間tsを算出する(ステップS406)。またCPU121は、ヒータ4への最大通電時間及びSボックス40での最大貯水時間に対して十分長い任意の時間ta(例えば5分)をRAM123に記憶している。
CPU121は、ヒータ4への通電を開始する通電指示信号を送出し(ステップS407)、通電指示信号を受信したECUの動作によりヒータ4へ通電する。CPU121は、ヒータ4への通電を開始した時点でクロック124により計時を開始する(ステップS408)。
CPU121は、算出した通電時間thを経過したか否かを判断する(ステップS501)。CPU121が、通電時間thを経過していないと判断した場合(ステップS501:NO)、CPU121は、ヒータ4へ連続通電し、洗浄槽2内の水の表面付近を加熱することにより所定量のスチームを生成する。CPU121が、通電時間thを経過したと判断した場合(ステップS501:YES)、CPU121は、時間(ta−ts)が経過したか否かを判断する(ステップS502)。
CPU121が、時間(ta−ts)が経過したと判断した場合(ステップS502:YES)、CPU11は、Sボックス給水弁22を一定時間、例えば20秒開放する開放指示信号を送出し(ステップS503)、開放指示信号を受信したECUの動作によりSボックス給水弁22が開放され、Sボックス40へ一定水量の水が給水される。Sボックス40へ給水されることにより、Sフィルタ41内に収納している食塩42の底部付近が水に浸漬され、メッシュ部分から塩水が溶出して、一定濃度(約8%濃度)の塩水を生成する。
CPU121は、時間taが経過したか否かを判断し(ステップS504)、CPU121が、時間taが経過したと判断した場合(ステップS504:YES)、CPU121は、軟水を給水する軟水給水弁21へ開放指示信号を送出する(ステップS505)。開放指示信号を受信したECUの指示により、軟水給水弁21が開放され、軟水給水口34から高水位まで給水される。このとき、逆止弁34及び圧力弁32は閉鎖された状態となる。
軟水給水口34からの給水により、硬度調整装置27、Sパイプ29及び逆止弁34は軟水に浸る。CPU121は、水位センサによる検出値が高水位の閾値まで到達したか否かを判断し(ステップS506)、CPU121が、水位が高水位の閾値まで到達していないと判断した場合(ステップS506:NO)、給水を続行する。CPU121が、水位が高水位の閾値まで到達したと判断した場合(ステップS506:YES)、CPU121は、給水が完了したものと判断して、軟水給水弁21に閉鎖指示信号を送出する(ステップS507)。
開放指示信号を受信したECUの指示により、軟水給水弁21が閉鎖され、軟水の給水が停止した場合、逆止弁34及び圧力弁32は圧力が低下するために開放され、硬度調整装置27、Sパイプ29及び圧力弁32内の水は、自重により硬水給水口32から洗浄槽2へ流れ落ちる。このとき、Sボックスキャップ44内の気圧は負圧となることから、Sボックス40内の塩水は、Sボックスキャップ44からSパイプ29を通って硬水調整装置27のイオン交換樹脂28の上部空間へサイフォン作用により流れ落ちる。
イオン交換樹脂28は、流れ落ちた塩水が通過する間に、イオン交換樹脂28に貯留しているCa2 +、Mg2 +と塩水に含まれるNa+ とが置換することにより再生され、Ca2 +、及びMg2 +が多量に含まれている硬度が高い塩水となり、Kホース31を通り硬水給水口32から洗浄槽2へ流れ落ちる。したがって、すでに洗浄槽2内に高水位まで滞留している洗浄水に混ざり希釈される。
高水位まで給水した後、CPU121は、Sボックス40内の全部の塩水が硬度調整装置27を通って洗浄槽2内へ流れ出て行くのに十分な一定時間twが、軟水給水弁21に閉鎖指示信号を送出してから経過したか否かを判断する(ステップS508)。CPU121が、一定時間twが経過したと判断した場合(ステップS508:YES)、CPU21は、モータ8に対して逆回転を指示する排水指示信号を送出する(ステップS509)。モータ8が逆回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水は、吸込ホース6から排水ホース10を経て、排水口13から外部へ排水される。
なお、硬水給水口32から洗浄槽2へ流れ落ち、洗浄槽2内に高水位まで滞留している洗浄水は硬度の高い硬水であることから、塩溶能力に優れた洗浄水である。したがって、イオン交換樹脂28の再生処理終了後に、硬水により食器を洗浄しても良い。
この場合、CPU121は、ポンプ7の駆動源であるモータ8に正回転指示信号を送出する。洗浄槽2内に滞留している洗浄水は、残菜フィルタ5を通過し、吸込ホース6から吐出ホース9を経て回転ノズル11へと圧送され、回転ノズル11の直上に収納された食器類18へ噴射される。同時にヒータ4への通電が行われ、たんぱく質が凝固しない50℃以下の設定温度まで加熱され、温度、回転ノズル11の機械力、及び硬水の塩溶効果で、食器に付着しているたんぱく質を表面から剥離させる。なお、所定の時間が経過した場合又は設定温度が約45℃に到達した場合、CPU121は、モータ8に対して逆回転を指示する排水指示信号を送出し、モータ8が逆回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水を、排水口13から外部へ排水する。
また、ヒータ4の加熱によるスチーム生成は、必ずしも必須ではなく、スチーム生成する程度まで洗浄水を加熱しないようにすることで、消費電力量の軽減を図ることも可能である。
さらに、上述した処理の終了直後に、イオン交換樹脂28を洗浄しても良い。イオン交換樹脂28を清浄な水道水で洗浄することにより、イオン交換樹脂28の再生処理により洗浄槽2の底部に、排水後に滞留している硬度の高い残水の硬度を下げることができ、軟水給水における洗浄水の硬度が高くなることを防止することができ、硬度調整装置27内に残っている塩分を排出して軟水化効率を高めることができる。図6は、本発明の実施の形態に係る食器洗い機の制御装置12のCPU121のイオン交換樹脂28の洗浄処理手順を示すフローチャートである。
CPU121は、軟水給水弁21へ開放指示信号を送出し(ステップS601)、軟水給水弁21を開放することにより、任意の水量まで(例えば低水位まで)給水する。CPU121は、水位センサによる検出値が高水位の閾値まで到達したか否かを判断し(ステップS602)、CPU121が、水位が低水位の閾値まで到達していないと判断した場合(ステップS602:NO)、給水を続行する。CPU121が、水位が低水位の閾値まで到達したと判断した場合(ステップS602:YES)、CPU121は、給水が完了したものと判断して、軟水給水弁21に閉鎖指示信号を送出する(ステップS603)。
CPU121は、高水位まで給水した後、Sボックス40内の全部の塩水が硬度調整装置27を通って洗浄槽2内へ流れ出て行くのに十分な一定時間twが、軟水給水弁21に閉鎖指示信号を送出してから経過したか否かを判断する(ステップS604)。CPU121が、一定時間twが経過したと判断した場合(ステップS604:YES)、CPU21は、モータ8に対して逆回転を指示する排水指示信号を送出する(ステップS605)。モータ8が逆回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水は、吸込ホース6から排水ホース10を経て、排水口13から外部へ排水される。以上の処理を1回又は複数回繰り返す。
上述した処理の終了後、洗剤を用いた食器の洗浄処理を開始する。図7は、本発明の実施の形態に係る食器洗い機の制御装置12のCPU121の洗剤による食器洗浄の処理手順を示すフローチャートである。
CPU121は、洗剤ボックス35の洗剤ボックス扉36の開放指示信号を送出する(ステップS701)。洗剤ボックス35は、開放指示信号を受信したECUにより電磁弁が開放し、洗剤ボックス扉36が開放状態となる。
CPU121は、軟水給水弁21へ開放指示信号を送出し(ステップS702)、軟水給水弁21を開放することにより、任意の水量まで(例えば高水位まで)給水する。CPU121は、水位センサによる検出値が高水位の閾値まで到達したか否かを判断し(ステップS703)、CPU121が、水位が高水位の閾値まで到達していないと判断した場合(ステップS703:NO)、給水を続行する。CPU121が、水位が高水位の閾値まで到達したと判断した場合(ステップS703:YES)、CPU121は、給水が完了したものと判断して、軟水給水弁21に閉鎖指示信号を送出する(ステップS704)。
CPU121は、高水位まで給水した後、ポンプ7の駆動源であるモータ8に正回転を指示する洗浄水噴射指示信号を送出する(ステップS705)。洗浄水噴射指示信号を受信したECUによりモータ8は正回転し、洗浄槽2内に給水された洗浄水は、残菜フィルタ5を通過し、吸込ホース6から吐出ホース9を経て回転ノズル11へと圧送され、回転ノズル11の直上に収納された食器類18へ噴射される。回転ノズル11からの噴射された洗浄水により、開放されている洗剤ボックス35内の洗剤が洗浄水中に溶け出し、軟水と洗剤とが混合した洗浄水となる。
CPU121は、同時にヒータ4へ通電指示信号を送出し(ステップS706)、洗剤が効果を呈する設定温度まで洗浄水を加熱することにより、温度、回転ノズル11の機械力、及び洗剤の作用により食器を効果的に洗浄する。CPU121は、所定の設定時間tyが経過したか否かを判断する(ステップS707)。
CPU121が、所定の設定時間tyが経過していないと判断した場合(ステップS707:NO)、CPU121は、洗浄水の温度が60℃に到達したか否かを判断する(ステップS708)。CPU121が、洗浄水の温度が60℃に到達していないと判断した場合(ステップS708:NO)、ステップS707へ戻る。
CPU121が、所定の設定時間tyが経過したと判断した場合(ステップS707:YES)、又は洗浄水の温度が60℃に到達したと判断した場合(ステップS708:YES)、CPU121は、モータ8に対して逆回転を指示する排水指示信号を送出する(ステップS709)。排水指示信号を受信した場合、モータ8が逆回転することにより、洗浄槽2内に滞留している洗浄水を、排水口13から外部へ排水する。
次に、同じく軟水給水弁21から給水された水道水を、ヒータ4で加熱することなく回転ノズル11から噴射することによるすすぎ処理を数回繰り返し実行し、最後のすすぎ処理では、ヒータ4で過熱した温水を回転ノズル11から噴射することにより温水すすぎを行う。所定の設定時間が経過した場合又はすすぎに用いる温水の温度が約70℃に到達した場合、すすぎに用いた温水を洗浄槽2の外部へ排水する。なお、食器洗い乾燥機では、排水が終了した後、送風ファン(図示せず)からの温風で食器を乾燥させる乾燥処理が行われる。
図8は、難洗浄汚れである口紅(ランコムNO.50)を、湯のみの口接触部の外周及び内面に20×40mmの寸法で塗布した後30分放置し、本実施の形態に係る食器洗い機で洗浄試験を行った結果を示す図である。図8中で◎印は全く汚れが残っていない状態を、○印は小さな点状の汚れが10箇所以下残っている状態を、△印は表面積の1割以下汚れが残っている状態を、×印は表面積の5割以下汚れが残っている状態を、×××印は表面積の5割を超えた汚れが残っている状態を、それぞれ意味している。なお、軟水化した5ppmの水以外は、通常の硬度である60ppmの水を用いて実験している。
図8に示すように、汚れの残った表面積により洗浄効果を評価した場合、通常の硬度である60ppmの給水を用いた場合より、さらに軟水化した硬度が5ppmの水を用いた場合の方が、ほとんどの市販洗剤、市販石鹸及び重曹に対して洗剤性能が向上し、洗剤量を減少することが可能となっている。換言すれば、通常の洗剤使用量で難洗浄汚れである口紅が落ちない場合であっても、軟水化させた水を用いることにより落とすことができる可能性がある。
また、本実施の形態に係る食器洗い機では、食器を洗浄する場合に洗浄水を軟水化させるため、洗剤の代わりに石鹸を用いた場合であっても、石鹸と硬度の高い成分とが結合して石鹸カスを生成することがなく、白粉状の汚れが食器に付着せずに、難洗浄汚れの洗浄性能が向上する。
また、同様に重曹等の炭酸塩を用いても炭酸塩と硬度の高い成分とが結合して炭酸カルシウムを生成することがなく、白粉状の汚れが食器に付着せずに、難洗浄汚れの洗浄性能が向上する。
以上のように本実施の形態によれば、イオン交換樹脂を洗浄を開始する都度再生することができ、通常の水道水よりもさらに低い硬度の水により生成した洗浄水を用いて食器を洗浄することにより、洗浄性能を高めることが可能となる。また、給水を軟水化させて洗浄することにより洗剤に含まれている炭酸塩及び過炭酸塩等のアルカリ剤及び漂白剤の効果を十分に奏することができ、洗浄性能が向上し、特に油脂汚れ、茶渋等に対する洗浄性能が向上する。さらに、運転開始直後に再生動作を行うことから、例えば前回の運転時に用いた硬度の高い洗浄水を蓄えておくことにより、洗浄水の硬度を高く維持することが容易となり、たんぱく質に対する洗浄効果が高くなる。
なお、上述した実施の形態は、食器洗い機の機能を含む複合機でも同様の効果を奏することができ、例えば食器洗い乾燥機においても同様の効果を奏することが可能となる。