JP2006283984A - 転がり軸受装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】アンダーレース潤滑において、安定した量の潤滑油を供給できる転がり軸受装置を提供すること。
【解決手段】内輪5の一端面13の環状溝14の底部18から、給油孔21を介して転動体10側へ潤滑油を供給する。内輪軌道面8の縁部に周方向に沿うV溝20を設け、V溝20の第1の斜面20aに給油孔21の開口部25を形成する。開口部25と転動体10との間に隙間Sを形成する。内輪5の他端面31と外周面との間に面取り部32を形成する。内輪5の他端面31の外周縁の径が内輪5の一端面13の外周縁の径より小さい。
【選択図】図1

Description

この発明は、潤滑油によって強制潤滑される転がり軸受装置に関する。
工作機械の主軸等に使用される軸受のように、高速回転下で使用される転がり軸受では、内輪と外輪との間に潤滑油を噴射、または噴霧させ、軸受内部の潤滑を図っている。主軸の高速回転時においては、遠心力や、転動体や保持器の回転が引き起こす軸受端面付近での高速空気流に抗して確実に軸受内部に供給する必要があり、軸受内部での、特に潤滑不良が生じやすい内輪軌道面での潤滑が問題となっていた。
このような軸受内部の潤滑を行う軸受潤滑として、従来より、内輪に形成された内輪軌道面に開口部を有する給油孔から転動体に向けて潤滑油を噴出する、いわゆるアンダーレース潤滑が種々知られている。このアンダーレース潤滑の具体例として、例えば特許文献1に示されるアンギュラ型軸受装置のように、ノズル等から噴射される潤滑油を内輪間座に設けた環状の空間に溜め、この環状の空間から、同じく内輪間座に形成された給油孔を通して、転動体に向けて潤滑油を噴射させるものがある。
上記特許文献1では、内輪間座に形成された給油孔の出口をできるだけ転動体に近接させることが必要であり、このため、間座の軸方向寸法を長くすると共に、内輪の軸方向寸法を外輪の軸方向寸法よりも大幅に短くし、内輪間座を外輪の径方向内方まで入り込ませている。しかしながら、このような構造では、下記の(1)〜(4)の欠点があった。
(1)環状の空間を形成するための機構を内輪とは別の部材に設けているため、軸受装置の構造が複雑化し大型化していた。
(2)内外輪で軸方向寸法が大きく異なると、内輪と外輪の軸方向寸法の差(いわゆる差幅)の管理が困難となる。すなわち、差幅が予圧量に相当する従来であれば、定盤上に内輪および外輪を載置し、内外輪の内側端面を基準面として高さの差を求めれば良いのであるが、上記公報のものでは、定盤上に載置した段差を有する治具の上に内外輪を載置して内外輪の高さを揃えた状態で、内外輪の内側端面を基準面として高さの差を求めるか、或いは、各軌道輪の外側端面を基準面とするかしなければならず、何れにしても、手間がかかる。
(3)軸方向寸法が短くなった内輪は、遠心力による膨張変形量が大きくなるので、主軸に対する嵌め合いが緩む結果、クリープ等を生じ易くなる。また、軸方向寸法が短い内輪は、主軸に対して傾斜し易く、ミスアライメントが大きくなる傾向にある。
(4)内輪間座は、軸方向寸法が長く、しかも内輪側の端部が環状溝を設けるために厚肉となるので、特に、内輪間座の内輪側端部が、遠心力によって膨張変形し易くなる。この内輪間座の端部の膨張変形に起因して、内輪間座の軸方向寸法が変化する結果、予圧量が変化してしまう。
このような問題点を解決するものとして、例えば特許文献2に示されるように、内輪の一端面に、ノズルから噴出される潤滑油を溜めておくための環状溝を設け、この環状溝の底部を内輪の軸方向に貫通する複数の冷却用貫通孔を設け、これらの冷却用貫通孔のうちの一つの途中部と内輪軌道面側の開口部とを連通する潤滑用の給油孔を設け、軸受の冷却と潤滑とを同時に行う転がり軸受装置が提案されている。
特開平6−235425号公報 実開平6−37624号公報
しかし、上記特許文献1では、冷却用貫通孔は、冷却に必要な大流量の油を確保しなければならない関係上、比較的大径とされて流れ抵抗が少ないのに対して、冷却用貫通孔の途中部から分岐する潤滑のための給油孔は、その内輪軌道面側の開口部が転動体の存在で絞られており流れ抵抗が大きい。このため、給油孔側へは潤滑油がほとんど流れないという問題がある。
また、内輪に環状溝を形成する場合、この環状溝が形成された側の内輪の一端面と、形成されていない側の他端面との間で、面積が相違するのが普通である。このように面積が相異なる両端面に対して、同時に研磨加工を施す場合を想定すると、面積の広い側の端面(環状溝のない側に端面)での研磨による取り代が不足して研磨不良になる傾向にあり、研磨不良となった端面に対しては再研磨加工を施す必要がある。このため、手間がかかって加工効率が悪いとう問題がある。また、内輪の両端面に対して別々に研磨加工を施す場合を想定しても、内輪を軸方向に押圧する力を各端面の研磨時で異ならせるような手段を特に講じていないときには、同様の問題がある。
ところで、上記のアンダーレース潤滑における潤滑油の供給形態として、近年、オイルミスト方式やオイルエアー方式が多用されている。オイルミスト方式は潤滑油を噴霧する方式であり、オイルエアー方式は所定時間毎に微量の潤滑油をエアーと共に噴出する方式である。これらの供給方式では、比較的少量の潤滑油の使用で潤滑が図れ、また、潤滑油が少量であるがために主軸に余分な慣性負荷を与えないという利点がある一方、潤滑油の供給量がエアーの流れによって大きく左右される結果、安定した潤滑が行えないという欠点がある。
すなわち、上記転がり軸受装置では、潤滑油を噴出する対象である転動体が上記開口部上を通過するときに、当該開口部と転動体との間に殆ど隙間が存在せず、したがって、上記開口部を通してのエアーの流量が殆どなく、転動体にオイルミストやオイルエアーを直接吹き付けることができない結果、潤滑不良を起こすことになる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、オイルエアー方式やオイルミスト方式を用いたアンダーレース潤滑において転動体に潤滑油を円滑に供給することができる転がり軸受装置を提供することである。また、本発明の目的は、内輪の端面に環状溝を設けるにもかかわらず、内輪の両端面の研磨工程を簡素化することができる転がり軸受装置を提供することである。
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、圧送される潤滑油によって強制潤滑される転がり軸受装置において、内輪の一端面のみに形成され、圧送される潤滑油を溜める環状溝と、この環状溝の底部と内輪軌道面又はその近傍に周方向に間隔を隔てて形成された複数の開口部のそれぞれとを連通して転動体に向かう複数の給油孔とを備え、内輪の他端面の外周縁の径が内輪の一端面の外周縁の径よりも小さいことを特徴とするものである。
本発明では、環状溝の底部から潤滑専用の給油孔を通して内輪軌道面に潤滑油を供給し、しかも給油孔は複数設けられてその開口部が周方向に間隔を隔てて配置されているので、十分な量の潤滑油を内輪軌道面の全周にわたって均一に供給することが可能となる。
請求項2に係る発明は、圧送される潤滑油によって強制潤滑される転がり軸受装置において、内輪の一端面のみに形成され、圧送される潤滑油を溜める環状溝と、この環状溝の底部と内輪軌道面又はその近傍に周方向に間隔を隔てて形成された複数の開口部のそれぞれとを連通して転動体に向かう複数の給油孔とを備え、内輪の他端面と外周面との間に面取り部が形成され、内輪の他端面の外周縁の径が内輪の一端面の外周縁の径よりも小さいことを特徴とするものである。
請求項3に係る発明は、上記環状溝は内輪の径方向に対向する一対の内周壁面により区画されており、これら一対の内周壁面のうち、外側の外周壁面の底部側の径は、開口縁部側の径と比較して同等以上であり、上記環状溝の底部の外縁の径は内輪軌道面の径よりも小さく、上記給油孔は底部の外縁に開口し、上記給油孔の壁面の一部は、底部の外縁から縮径することなく連なっていることを特徴とするものである。
本発明では、環状溝に溜められた潤滑油は内輪の回転に伴う遠心力を受けて、環状溝内を径方向外方へと移動し、環状溝の底部の外縁と内輪軌道面とを連通する給油孔を通して内輪軌道面にスムーズに供給されることとなる。また、環状溝の外側の内周壁の底部側の径を開口縁部側の径と同等以上にしてあるので、環状溝内で遠心力を受けて外側の内周壁面に到達した潤滑油が開口縁部側へ逃げてしまうようなことがなく、むしろ潤滑油の環状溝内への供給圧力によって給油孔が設けられている環状溝の底部側へと促される傾向にあるので、潤滑油を内輪軌道面にスムーズに供給することができる。
請求項4に係る発明は、上記開口部の周縁に逃げ部を設けることにより、上記開口部とこの開口部上を通過するときの転動体との間に潤滑油逃がし用の隙間を形成し、上記逃げ部は、内輪軌道面の周方向に沿って形成された断面V字形形状の溝の一方の斜面と他方の斜面からなり、上記一方の斜面は転動体に対向するとともに上記開口部を備え、上記他方の斜面と内輪の軸方向との形成する角度と、上記給油孔の延びる方向と内輪の軸方向とのなす角度とが同一であり、上記給油孔の径dが、一方の斜面における給油孔の開口部と他方の斜面との間隔よりも大きく、上記給油孔の径dと、上記断面V字形形状の溝の、上記他方の斜面に沿う溝深さDとが、d≦D≦2dの関係であり、上記一方の斜面は上記給油孔の延びる方向に対して85°〜95°の角度をなすことを特徴とするものである。
本発明では、逃げ部によって給油孔の開口部と転動体との間に、潤滑油逃がし用の隙間が形成されるので、上記開口部を通してのエアー流通量を安定して確保できる結果、安定した量の潤滑油を転動体に向けて送給することができる。特に開口部上を通過する転動体にオイルミストをオイルエアーを直接吹き付けることができるので、潤滑効果が非常に高い。
また、内輪軌道面の周方向に沿って溝を形成することにより逃げ部を設けるので、逃げ部の加工が容易である。また、転動体に指向する給油孔が断面V字形形状の溝の一方の斜面に対して略直角(具体的には85°〜95°の範囲)となるので、転動体に向けて指向性良く潤滑油を吹き付けることができる。また、略直角であれば、上記一方の斜面に給油孔の孔明け加工を行い易い。
以下、添付図面を参照しつつ本発明の好ましい態様についてアンギュラ玉軸受を例にとって説明する。しかし、この発明にかかる転がり軸受はアンギュラ玉軸受に限られるものではなく、他の内輪回転型の転がり軸受にも適用することができる。
図2は本発明の一実施形態にかかる転がり軸受装置の断面図であり、図1は図2の要部拡大図である。図2を参照して、転がり軸受装置Aは、ハウジング6の内側に主軸4を支持するものからなり、接触角の方向を互いに逆方向にした一対のアンギュラ型の転がり軸受1,1の外輪7,7間に外輪間座2を介在し、内輪5,5間に内輪間座3を介在させている。内輪5、内輪間座3と外輪7、外輪間座2の軸方向寸法差(差幅)に基づいて予圧量が設定されている。
外輪間座2を挟持した一対の外輪7,7は、両側を一対のスペーサ40,40により挟持されており、さらに、外輪間座2、一対の外輪7,7および一対のスペーサ40,40は、ハウジング6の支持孔6aの内周面6bに形成された段部6cと、支持孔6aの開口部にねじ固定された抑えリング41との間に一括して挟持されて固定されている。
一方、内輪間座3を支持した一対の内輪5,5は、両側を一対のスペーサ42,42により挟持されており、さらに、内輪間座3、一対の内輪5,5および一対のスペーサ41,41は、主軸4の一端の鍔部4aと、主軸4の外周面にねじ結合された抑えナット43との間に挟持されて固定されている。尚、内、外輪のスペーサ40,40は、必ずしも軸方向両端に必要ではなく、どららか一方の端にだけ設けるようにしても良い。
外輪間座2は各転がり軸受1,1の内外輪5,7間に支持される転動体10や軌道面に向けてオイルミスト又はオイルエアーを供給するためのノズル27,33および一対の給油孔28を形成した給油部材12を兼用している。44はハウジング6に一対が形成され上記給油孔28,28にそれぞれ連通する給油孔であり、45,46はスペーサ40およびハウジング6にそれぞれ形成された排油孔である。図示しないポンプ等から吐出された潤滑油を含むエアーは、給油孔44、給油孔28からノズル27,33を介して、一端側から軸受1内に噴射された後、他端側から排油孔45および排油孔46を介して例えば潤滑油タンク等に戻されるようになっている。
次いで、図1を参照して、転がり軸受1は、上記した内輪5,外輪7および複数の転動体10の他、転動体10を等間隔で保持するための保持器11を備えている。内輪5は主軸4に所定の嵌め合い精度で固定され、外輪7はハウジング6に固定されている。上記の転動体10は、内輪5のアンギュラ型の内輪軌道面8と外輪7の外輪軌道面9との間に介在されたセラミックス製の玉からなる。この転動体10を構成するセラミックスとしては、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタニア、ムライトおよびジルコニア等を例示することができる。転動体10と内輪軌道面8との接触面8aおよび転動体10と外輪軌道面9との接触面9aとを結ぶ直線aは内輪5の径方向に対して角度θだけ傾斜している。
内輪5は潤滑油注入側一端面13に環状溝14を備えている。この環状溝14は一対の内周壁面15、16と底面17とによって区画されている。内周壁面15、16は内輪5の軸心と同心の円筒面からなる。環状溝14の底部18の外縁22は上記内輪軌道面8より径方向内方に位置している。この環状溝14の寸法として、たとえば、環状溝14の軸方向の深さは、内輪5の軸方向の幅の1/4〜1/3程度、また、環状溝14の径方向の幅は、内輪5の潤滑油注入側端面13の径方向の厚みの1/4程度が良く、本実施の形態では、溝幅3mm前後、溝深さ7mm前後となっている。これは、前述の範囲よりも環状溝が大きいと内輪5の強度が維持できず、また前述の範囲よりも小さいと、潤滑性能の向上が望めないためである。なお、底部18とは、底面17とその近傍の内周壁面15、16を指す。
内輪5は他端面31側の外周縁部に面取り部32を形成しており、これにより他端面31の面積を減じて、当該他端面31の面積と、環状溝14が設けられている側の一端面13の面積とが相等しくなるようにされている。図3を参照して、アンギュラ玉軸受からなる本転がり軸受1では、その構成上、転動体10と内輪軌道面8とは接触面8aのみで接触している。そして、内輪軌道面8は内輪5の軸方向一方側へ片寄って形成されている。内輪軌道面8の片寄っている側と反対側の周縁部19に沿って、断面V字形形状の溝20(以下、単にV溝20という)が形成されている。このV溝20は内輪軌道面8上の接触面8aを避けて設けられている。
上記V溝20は、転動体10に対向する第1の斜面20aと、内輪軌道面8の周縁部19に接続される第2の斜面20bとにより区画されるものである。第1の斜面20aは、対向する転動体10との間に隙間Sを設けるための逃げ部を構成している。この逃げ部を構成する第1の斜面20aには、環状溝14内の潤滑油を転動体10に向けて送出する複数の給油孔21の開口部25が形成されている。図4を参照して、これらの開口部25は内輪5の周方向に円周等配で配置されている。また、各給油孔21は、環状溝14の底部18の外縁22に開口部24を有している。
図3を参照して、上記の給油孔21は転動体に指向するように内輪5の軸方向に対して傾斜しており、また、給油孔21の延びる方向(向かう方向)は、第1の斜面20aに対して略直角(好ましい角度範囲としては85°〜95°)をなしている。なお、上記隙間Sに略相当する、第2の斜面20bに沿う溝深さDとしては、給油孔21の径dに対して、d≦D≦2dの関係を満たすことが、オイルエアー方式、オイルミスト方式およびオイルジェット方式の各供給方式において良好な潤滑を達成するうえで好ましい。例えば、この給油孔21の径dを1mmとした場合には、隙間Sの量に相当する溝深さDを1〜2mmの範囲に設定すれば良い。
また、実際には、上記V溝20を形成する部分の最大外径としては、転動体10の抜脱を防止するために所定値よりも大きくしなければならない(いわゆるカウンターボアを確保する必要がある)ため、あまり大きなV溝20を形成することができず、したがって、第1の斜面20aをあまり広くできないので、給油孔21の径dとしては、0.5mm〜2mmが好ましい範囲となる。また、隙間量に相当する溝深さDとしては0.5mm〜4mmが好ましい範囲となる。
一方、給油部材12には、環状溝14の開口部26に対向する部位にノズル27が設けられると共に、外輪7の内周面と保持器11の外周面との間の隙間に対向する部位にノズル33が設けられており、これらノズル27,33と外部の供給源とを連通する給油孔28が設けられている。この給油孔28を通ってこのノズル27から送出される潤滑油を含む空気(オイルミスト又はオイルエアー)が、環状溝14に溜められるようになっている。また、ノズル33からは外輪7の外輪軌道面9側へ向けて潤滑油を含む空気が噴出されるようになっている。
次いで、本転がり軸受装置の潤滑動作について説明する。ノズル27から環状溝14内に底部18側へ向けて噴出された潤滑油を含む空気流は、底部18に開口する給油孔21を介して転動体10側へ吹き付けられる。このとき、V溝20による逃げ部を設けて、給油孔21の開口部25と転動体10との間に隙間Sを形成してあるので、当該隙間Sを通して十分な空気流通量が安定して確保される。この十分な量の空気流通に伴って、空気に含まれる潤滑油が転動体10に供給されることになる。
なお、潤滑油を含む空気も潤滑油の含有割合に応じた質量を持っている関係上、環状溝14内において遠心力を受けるが、この遠心力を受けて潤滑油を含む空気が外側の内周壁面15に押し付けられたとしても、この外側の内周壁面15が円筒面からなるので、潤滑油を含む空気を環状溝14の開口縁部29側へ押し戻そうとする力は発生しない。特に、潤滑油を含む空気は、ノズル24から底部18側へ向けて圧送されていることから、底部18側へ向けてスムーズに供給される。さらに、内輪軌道面8に開口する複数の給油孔21が環状溝14の底部18に直接連通されているため、環状溝14から十分な量の潤滑油を内輪軌道面8に送ることができる。
以上説明した本実施形態では、逃げ部を設けて給油孔21の開口部25とこの開口部25上を通過する転動体10との間に潤滑油逃がし用の隙間Sを形成するので、オイルエアー方式やオイルミスト方式等を用いるアンダーレース潤滑において、転動体10の通過にかかわらず、上記隙間Sを介してエアー流通量を安定して確保できる。そして、オイルミストやオイルエアーを転動体10に向けて開口部25から直接吹き付けることができるので、良好な潤滑を達成できる。
特に、潤滑専用の給油孔21を複数用いることに加えて、各給油孔21の開口部25が周方向に間隔を隔てて配置されるので、十分な量の潤滑油を内輪軌道面8の全周にわたって均一に供給することが可能となり、一層良好な潤滑を達成できる。また、内輪軌道面8の周方向に沿ってV溝20を形成することにより逃げ部を設けるので、逃げ部の加工が容易である。さらに、転動体10に指向する給油孔21が、転動体10に対向するV溝20の一方の斜面20aに対して略直角となるので、転動体10に向けて指向性良く潤滑油を吹き付けることができる。また、略直角であれば、上記一方の斜面20aに給油孔21を容易に孔明け加工することができる。
さらに、内輪5の両端面13,31の面積が相等しいので、上記両端面13,31に対して同時に研磨加工を施す場合に、両端面13,31における研磨加工による削り取り代を略相等しくすることができる。その結果、一度の研磨加工で両端面13,31の研磨を達成することができる。しかも、後工程の加工における治具の設定も容易になり、上述のように再研磨加工が不要であることと相まって、加工効率が大幅に向上し、加工時間を大幅に短縮することができる。また、各端面13,31に対して別々に研磨加工を施す場合を想定しても、各端面13,31に対する研磨加工時の軸方向押圧力を変更するというような手段を特に講じることなく、各端面13,31に対してそれぞれ一度の研磨加工で済み、同様にして、加工効率を向上させ加工時間を短縮することができる。
また、内輪5の端面13に環状溝14を形成するために、内輪5が従来の軸受の内輪よりも厚肉となり、その結果、PCD(転動体のピッチ円径)を大きくすることを通じて転動体数を増やすことが可能となり負荷荷重を大きくすることができるという副次的効果もある。なお、遠心力を寄与させるためには、外側の内周壁面15の底部19側の径が、開口縁部29側の径と比較して同等以上であれば良く、例えば、図5に示す実施形態のように、上記環状溝14内の外側の内周壁面15を、底部18側に近づくにつれて径が大きくなる円錐面としてもよい。この場合、環状溝14内に注ぎ込まれた潤滑油は遠心力を受けて外側の内周壁面15へ到達した後、さらに給油孔21の開口部24が設けられている外側の内周壁面15の底部18の外縁22側へと遠心力によって促される。
本実施形態では、逃げ部による隙間Sを設けることよって、図1の実施形態と同様の作用効果を奏することができ、しかも、通気流だけでなく遠心力によっても潤滑油の給油孔21側への移動が促進されるので、給油孔21へ一層スムーズに潤滑油を送ることができ、また、環状溝14の開口部26からの潤滑油の流出が一層起こりにくい。
また、図示していないが、上記環状溝14の外側の内周壁面15を、開口部26側の小径の円筒面と底部18側の大径の円筒面とにより構成しても良い。この場合にも、外側の内周壁面15の底部18側の径が開口縁部29側の径より大きくなるので、図1や図5の実施形態と同様に、環状溝14内の潤滑油が遠心力によっても外側の内周壁面15に沿って底部18側へと促されるので、スムーズな潤滑油の供給が行える。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
本発明の一実施形態にかかる転がり軸受装置の要部断面図である。 転がり軸受装置の全体を示す概略断面図である。 転がり軸受の要部の拡大断面図である。 内輪の要部の側面図である。 本発明の他の実施形態にかかる転がり軸受装置の要部断面図である。
符号の説明
1…転がり軸受、5…内輪、8…内輪軌道面、10…転動体、13…一端面、14…環状溝、15,16…内周壁面、18…底部、20…V字溝(断面V字形形状の溝)、20a…第1の斜面(一方の斜面。逃げ部)、20b…第2の斜面(他方の斜面)、21…給油孔、22…外縁、25…開口部、26…開口部、29…開口縁部、31…他端面、32…面取り部、S…隙間

Claims (4)

  1. 圧送される潤滑油によって強制潤滑される転がり軸受装置において、
    内輪の一端面のみに形成され、圧送される潤滑油を溜める環状溝と、
    この環状溝の底部と内輪軌道面又はその近傍に周方向に間隔を隔てて形成された複数の開口部のそれぞれとを連通して転動体に向かう複数の給油孔とを備え、
    内輪の他端面の外周縁の径が内輪の一端面の外周縁の径よりも小さいことを特徴とする転がり軸受装置。
  2. 圧送される潤滑油によって強制潤滑される転がり軸受装置において、
    内輪の一端面のみに形成され、圧送される潤滑油を溜める環状溝と、
    この環状溝の底部と内輪軌道面又はその近傍に周方向に間隔を隔てて形成された複数の開口部のそれぞれとを連通して転動体に向かう複数の給油孔とを備え、
    内輪の他端面と外周面との間に面取り部が形成され、
    内輪の他端面の外周縁の径が内輪の一端面の外周縁の径よりも小さいことを特徴とする転がり軸受装置。
  3. 上記環状溝は内輪の径方向に対向する一対の内周壁面により区画されており、これら一対の内周壁面のうち、外側の外周壁面の底部側の径は、開口縁部側の径と比較して同等以上であり、
    上記環状溝の底部の外縁の径は内輪軌道面の径よりも小さく、上記給油孔は底部の外縁に開口し、上記給油孔の壁面の一部は、底部の外縁から縮径することなく連なっていることを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
  4. 上記開口部の周縁に逃げ部を設けることにより、上記開口部とこの開口部上を通過するときの転動体との間に潤滑油逃がし用の隙間を形成し、
    上記逃げ部は、内輪軌道面の周方向に沿って形成された断面V字形形状の溝の一方の斜面と他方の斜面からなり、
    上記一方の斜面は転動体に対向するとともに上記開口部を備え、上記他方の斜面と内輪の軸方向との形成する角度と、上記給油孔の延びる方向と内輪の軸方向とのなす角度とが同一であり、
    上記給油孔の径dが、一方の斜面における給油孔の開口部と他方の斜面との間隔よりも大きく、
    上記給油孔の径dと、上記断面V字形形状の溝の、上記他方の斜面に沿う溝深さDとが、d≦D≦2dの関係であり、
    上記一方の斜面は上記給油孔の延びる方向に対して85°〜95°の角度をなすことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の転がり軸受装置。
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