JP2006280368A - 有機酸の製造法 - Google Patents

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秀樹 澤井
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Abstract

【課題】
微生物に適した有機酸合成酵素をコードする遺伝子を選抜し、該微生物による効率的な有機酸の製造法を提供する。
【解決手段】
ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子を導入した微生物による有機酸の製造法であり、前記の有機酸は乳酸であり、前記の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子であり、そして、前記の微生物は酵母であり、その酵母は好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物により有機酸を製造する方法に関するものである。
本発明で用いられるヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、好ましくは、ヒト由来のL−ldh遺伝子であり、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物は、好ましくは、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された酵母である。
最近、資源循環型社会の構築に向け、植物を原料としたポリマーに注目が集まっている。その中でも、ポリ乳酸(以下、PLAと略すことがある。)が、植物原料のポリマーとして優れた性質を有することが明らかになってきている。
PLAの原料である乳酸は、従来、ラクトバチラス(Lactobacillus)属やラクトコッカス(Lactococcus)属に代表される、いわゆる乳酸菌と総称される微生物を培養することにより生産されている。これらの乳酸菌は、糖からの乳酸の収率には優れているものの酸に対する耐性が低いことから、酸性物質である乳酸を多量に蓄積させるためには、炭酸カルシウムや水酸化アンモニウム、あるいは水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和をしながら、培養を行わなければならない。
しかしながら、この手段ではアルカリによる中和操作により、乳酸ナトリウムや乳酸カルシウムなどの乳酸塩が生じるため、その後の精製工程において乳酸塩を乳酸に戻す操作が必要になり、その処理にコストがかかっている。
そこで、酸に耐性のある酵母に乳酸を生産させる試みが報告されている(特許文献1〜3および非特許文献1参照)。酵母に乳酸を生産させることができれば中和操作の軽減が期待でき、すなわち低コストで乳酸を生産できる可能性が考えられる。
酵母は、本来乳酸生産能を持たないことから、酵母による乳酸生産を可能にするためには、遺伝子組み換え技術によりL−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子(L−ldh遺伝子)を酵母に導入しなければならない。ここで、より効率的な乳酸発酵を目指す場合、原料糖(例えば、グルコース)から乳酸への変換効率(例えば、対原料収率)が高ければ高い方がより望ましい。
従来、酵母に導入するL−ldh遺伝子としては、ウシ由来のL−ldh遺伝子が用いられている(特許文献2、特許文献3および非特許文献1参照)が、L−ldh遺伝子は、原核生物から高等真核生物まで広く存在していることが知られている。すなわち、多数あるL−ldh遺伝子の中から、ウシ由来のL−ldh遺伝子よりも酵母に適したL−ldh遺伝子を選抜することができれば、酵母を用いた、より効率的な乳酸生産が可能になると考えられる。
特開2001−204468号公報 特表2001−516584号公報 特開2003−259878号公報 Danilo Porro et al : Biotechnol.Prog , 11 : 294-298 (1995)
そこで本発明の目的は、微生物に適した有機酸合成酵素をコードする遺伝子を選抜し、該微生物による効率的な有機酸の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明において、前記の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物は、好ましくは、有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された酵母であり、さらに、有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、好ましくは、L−ldh遺伝子である。
好ましくは、本発明の目的は、前記の酵母に適したL−ldh遺伝子を選抜し、該酵母による効率的な乳酸の製造方法を提供することであり、より好ましくは、ウシ由来のL−ldh遺伝子よりも酵母に適したL−ldh遺伝子を選抜し、該酵母による効率的な乳酸の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上述の課題を解決するために、由来の異なる複数のL−ldh遺伝子をそれぞれ酵母に導入し、乳酸生産量を指標にL−ldh遺伝子の選抜を行った。その結果、従来用いられているウシ由来のL−ldh遺伝子(配列番号4)を導入した酵母よりも、ヒト由来のL−ldh遺伝子(配列番号5)を導入した酵母の方が高い乳酸生産性を示し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の有機酸の製造方法は、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物による有機酸の製造方法である。
本発明の有機酸の製造方法の好ましい態様によれば、前記の有機酸は乳酸であり、その乳酸は好ましくはL-乳酸である。
本発明の有機酸の製造方法の好ましい態様によれば、前記の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子であり、その乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子は好ましくはL−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子である。
本発明の有機酸の製造方法の好ましい態様によれば、前記の微生物は酵母であり、その酵母は好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母であり、そのサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母は好ましくはサッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)である。
本発明によれば、微生物にヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子を導入することにより効率的に有機酸を製造することができる。詳しくは、酵母にヒト由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を導入することにより、効率的に乳酸等の有機酸を製造することができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[有機酸合成酵素をコードする遺伝子のクローニング]
本発明において、本発明で使用されるヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子をクローニングする方法に特に制限はない。本発明で用いられる有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、ヒト由来のL−ldh遺伝子である。
有機酸合成酵素をコードする遺伝子をクローニングする方法としては、既知の遺伝子情報に基づき、PCR (polymerase chain reaction) 法を用いて必要な遺伝領域を増幅取得する方法や、既知の遺伝子情報に基づき、ゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性や酵素活性を指標としてクローニングする方法などが挙げられる。本発明においては、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子、好ましくはL−ldh遺伝子には、遺伝的多型性や変異誘発などによる変異型の遺伝子も含まれる。
遺伝的多型性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものであり、また、変異誘発とは、人工的に遺伝子に変異を導入することをいい、例えば、部位特異的変異導入用キット(Mutan-K(タカラバイオ社製))を用いる方法や、ランダム変異導入用キット(BD Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(CLONTECH社製))を用いる方法などがある。
[遺伝子導入ベクターの作製]
本発明で使用されるヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、通常、微生物で利用する発現ベクターに導入することにより、微生物で発現可能な形態をとることができる。好ましくは、前記のヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、L−ldh遺伝子である。
さらに、ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物は、好ましくはヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された酵母である。
通常、酵母で利用する発現ベクターは、例えば、酵母の2μmプラスミドの複製開始点(Ori)もしくはセントロメアの複製開始点と大腸菌のColE1複製開始点の両方を有しており、また、例えば、薬剤耐性遺伝子、URA3およびLEU2等の酵母選択マーカー、および大腸菌の選択マーカー(薬剤耐性遺伝子等)を有することが好ましい。また、導入した遺伝子を発現させるために、その遺伝子の発現を調節するオペレーター、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサー等のいわゆる調節配列をも含んでいることが望ましい。例えば、GAPDH(グリセルアルデヒド3’−リン酸デヒドロゲナーゼ)プロモーターおよびGAPDHターミネーターが挙げられる。しかしながら、発現ベクターはこれらに限定されるものではなく、例えば、染色体挿入型のベクターであってもかまわない。
[遺伝子の導入方法]
本発明で用いられるヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物は、上記のヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子発現ベクターを微生物に導入することにより得られる。本発明において、前記のヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子は、好ましくはL−ldh遺伝子である。さらに、ヒト由来のL−ldh遺伝子が導入された微生物は、好ましくは、ヒト由来のL−ldh遺伝子が導入された酵母である。
遺伝子発現ベクターの微生物への導入方法には、形質転換、形質導入、トランスフェクション、コトランスフェクションおよびエレクトロポレーション等の方法があり、具体的には、例えば、酢酸リチウムを用いる方法やプロトプラスト法等がある。得られた形質転換体の培養方法はすでに公知であり、例えば、「M.D. Rose et al.,"Methods In Yeast Genetics",Cold SpringHarborLaboratoryPress (1990)」等に記載されている方法が挙げられる。
本発明で使用されるヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターを導入する酵母は、好ましくはサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母である。酵母は、より好ましくは、サッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)である。
L−ldh遺伝子発現ベクターは、発現可能であればどのような形態で酵母内に導入されてもかまわない。例えば、プラスミドの形態で、あるいは宿主の遺伝子に挿入して、または宿主の遺伝子と相同組換えを起こして染色体に取り込まれてもよい。
ヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターが導入された酵母は、例えば、URA3等の選択マーカーで選択することができる。
[有機酸の製造法]
本発明で用いられる有機酸生産培地としては、炭素源を好ましくは1〜20%含有しており、かつ微生物の生育に適した栄養素を含有しているものであれば特に限定されない。使用する菌株にとって最適の栄養源の組成および配合割合は、簡単な小規模実験により容易に決定することができる。
生産する有機酸は、好ましくは、L−乳酸等の乳酸であり、また、用いられる微生物は、好ましくはヒト由来のL−ldh遺伝子を導入した酵母である。
導入する発現ベクターを酵母内に保持させるのであれば、選択マーカーによる選択圧をかけた培地を用いることが好ましい。培地としては、例えば、ベクターの持つ選択マーカーに符号するアミノ酸を除去した合成培地などが挙げられる。特に好ましい培地は、炭素源としてグルコースを1〜10%、窒素源としてYeast Nitrogen Base without amino acid(DIFCO社製)を0.67%含有し、適切なアミノ酸を添加した合成培地である。
乳酸の製造に際しては、まず、ヒト由来のL−ldh遺伝子が導入された酵母の前培養を行った後、例えば、培養液2%を新しい培地に移して本培養することにより、乳酸を製造することができる。培養温度は、菌株の増殖が実質的に阻害されず乳酸を生産し得る範囲であれば特に制限されるものでないが、一般に好ましくは20〜40℃の範囲の温度であり、より好ましくは30℃前後の温度が好適である。また、培養時間は、好ましくは10〜50時間であり、より好ましくは20〜40時間である。培養には、静置、撹拌または振とうのいずれの方法も採用し得る。
上記のような条件で培養することにより、培地中に5〜20%の乳酸を得ることができる。得られた乳酸の測定法に特に制限はないが、例えば、HPLCを用いる方法やF−キット(ロシュ社製)を用いる方法などがある。
「L−乳酸脱水素酵素活性」
本発明において、L−ldh遺伝子の発現産物であるL−乳酸脱水素酵素(以下、L−LDHと略すことがある。)の活性とは、L−LDHがピルビン酸とNADHを乳酸とNAD+に変換する活性を示す。また、限定されるわけではないが、各L−LDH活性の比較は、実施例4で後述するように比活性を指標として比較することができる。すなわち、同条件で培養したL−ldh遺伝子導入酵母からタンパク質を抽出し、その抽出液を用いてNADHの減少に伴う340nmにおける吸光度の変化を測定する。その際に、室温において1分間当たりに1μmolのNADHを減少させる酵素量を1単位(Unit)と定義することにより、L−LDHの比活性は、次式(1)で表すことができる。
(式中、Δ340:1分間あたりの340nmの吸光度の減少量
6.22:光路長1cmにおけるNADHのミリモル分子吸光係数)
上記測定を同条件下で行い、算出されたL−LDHの比活性によりL−LDH活性を比較することができる。
以下、実施例をもって本発明の実施の態様を説明するが、これらは単なる例示であり本発明を何等制限するものではない。
(実施例1: L−ldh遺伝子発現ベクターの作製)
本発明では、乳酸菌由来としてラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチラス・サケイ(Lactobacillus sakei)およびペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)を用い、また哺乳類由来としてウシおよびヒトからL−ldh遺伝子をクローニングし(以下、これらを順に配列番号1〜5とする。)、比較を行った。各L−ldh遺伝子は、全てPCR法によりクローニングを行い、同様の方法で発現ベクターに導入している。PCRの鋳型とするDNAの調製方法を、以下に示す。
(I)乳酸菌
各乳酸菌を培養し遠心回収後、UltraClean Microbial DNA Isolation Kit(MO BIO社製)を用いてゲノムDNAの抽出を行った。詳細な操作方法は、付属のプロトコールに従った。得られたゲノムDNAを続くPCRの鋳型とした。
(II)ウシ
ウシの骨格筋由来cDNAライブラリー(STRATAGENE社製)より、付属のプロトコールに従いファージミドを調製した。得られたファージミドを続くPCRの鋳型とした。
(III)ヒト
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen社製)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを、続くPCRの鋳型とした。
PCR増幅反応には、Taq DNA Polymeraseの50倍の正確性を持つとされるKOD-Plus polymerase(東洋紡社製)を用い、反応バッファー、dNTPmixなどは付属のものを使用した。上記のDNAの調整方法(I)〜(III)で得られたゲノムDNA、ファージミドDNA、およびcDNAをそれぞれ50ng/サンプル、プライマーを50pmol/サンプル、およびKOD-Plus polymeraseを1ユニット/サンプルになるように50μlの反応系に調製した。反応溶液をPCR増幅装置iCycler(BIO−RAD社製)により94℃の温度で5分熱変成させた後、94℃(熱変成):30秒、55℃(プライマーのアニール):30秒、68℃(相補鎖の伸張):1分を1サイクルとして30サイクル行い、その後4℃の温度に冷却した。各L−ldh遺伝子増幅用プライマー(ラクトバチラス・プランタラム:配列番号6,7 ラクトバチラス・サケイ:配列番号8,9 ペディオコッカス・アシディラクティシ:配列番号10,11 ウシ:配列番号12,13 ヒト:配列番号14,15)には、5末端側にはXhoI認識配列、3末端側にはNotI認識配列がそれぞれ付加されるようにして作製した。
各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて行った。大腸菌DH5αに形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより各種L−ldh遺伝子がサブクローニングされたプラスミドが得られた。この各L−ldh遺伝子が挿入されたpUC118ベクターを制限酵素XhoIおよびNotIで切断し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11(図1)のXhoI/NotI切断部位に導入した。以後、このようにして作製した各L−ldh遺伝子発現ベクターを、pL−ldh1(ラクトバチラス・プランタラム由来L−ldh遺伝子)、pL−ldh2(ラクトバチラス・サケイ由来L−ldh遺伝子)、pL−ldh3(ペディオコッカス・アシディラクティシ由来L−ldh遺伝子)、pL−ldh4(ウシ由来L−ldh遺伝子)、pL−ldh5(ヒト由来L−ldh遺伝子)とそれぞれ示す。
(実施例2:L−ldh遺伝子発現ベクターの酵母への導入)
実施例1のようにして得られたpL−ldh1〜5を酵母サッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC10505株に形質転換した。形質転換は、YEASTMAKER Yeast Transformation System(CLONTECH社製)を用いた酢酸リチウム法により行った。詳細は、付属のプロトコールに従った。宿主とするNBRC10505株はウラシル合成能を欠損した株であり、pL−ldh1〜5の持つURA3遺伝子の働きにより、ウラシル非添加培地上でpL−ldh1〜5の導入された形質転換体の選択が可能である。
このようにして得られた形質転換体へのL−ldh遺伝子発現ベクター導入の確認は、ウラシル非添加の液体培地で培養した形質転換株から、ゲノムDNA抽出キットGenとるくん(タカラバイオ社製)によりプラスミドDNAを含むゲノムDNAを抽出し、これを鋳型としてPreMix Taq(タカラバイオ社製)を用いたPCRにより行った。プライマーには、各L−ldh遺伝子をクローニングした際に用いたプライマーを使用した。その結果、全ての形質転換体において、各L−ldh遺伝子が導入されていることを確認した。
(実施例3:乳酸生産性の比較)
実施例2のようにして得られたpL−ldh1〜5が導入されたNBRC10505株(以下、それぞれNBRC10505/pL−ldh1〜5と示す。)を用いて乳酸生産テストを行い、各L−ldh遺伝子を比較した。
寒天培地上からNBRC10505/pL−ldh1〜5を少量とり、3mLのウラシル非添加の合成培地(2%グルコース、0.67% Yeast Nitrogen Base without amino acid(DIFCO社製)、1.92g/L dropout mixture without uracil(SIGMA社製))に植菌し、30℃の温度で一晩培養した(前培養)。以下、前記ウラシル非添加の合成培地培地をSC−Uraと略す。前培養液を新しいSC−Ura(5%グルコース)10mLに2%植菌し、30℃の温度で培養を実施した。培養開始から40時間後の培養液を遠心分離し、得られた上清を膜濾過した後、下記に示す条件でHPLCにより乳酸量を測定した。
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製) 移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min) 反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min) 検出方法:電気伝導度 温度:45℃。
その結果を表1に示す。
L−ldh遺伝子が導入されていないNBRC10505株では乳酸を全く生産していないのに対し、各L−ldh遺伝子発現ベクターを導入したNBRC10505/pL−ldh1〜5では乳酸の生産が確認できた。株による乳酸生産量の差は、導入した各L−ldh遺伝子の違いに起因していると考えられる。
すなわち、NBRC10505/pL−ldh5の乳酸生産量が最も多いことから、酵母に導入するL−ldh遺伝子としてヒト由来のものが適していることがわかった。なお、ヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターである上記pL−ldh5は、プラスミド単独で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)にFERM AP−20421として寄託した(寄託日:平成17年2月21日)。
(実施例4、比較例1:L−LDH活性の比較)
実施例2で得られたNBRC10505/pL−ldh4およびpL−ldh5を用いて、ウシ由来L−LDHとヒト由来L−LDHの活性を比較した。
(a)菌体からのタンパク質抽出
寒天培地上からNBRC10505/pL−ldh4とpL−ldh5をそれぞれ少量とり、3mLのSC−Ura液体培地に植菌し一晩培養した(前培養)。前培養液を新しいSC−Ura液体培地20mLに2%植菌し、100mL容坂口フラスコを用いて30℃の温度で24時間振とう培養した(本培養)。本培養液10mLを遠心分離により集菌、10mLのリン酸バッファーで洗浄後、1mLのリン酸バッファーに懸濁した。上記菌体懸濁液をエッペンドルフチューブに移し、さらに等量のガラスビーズ(SIGMA社製、直径0.6mm)を加え、Micro Tube Mixer(TOMY社製)を用い4℃で菌体を破砕した。このようにして菌体を破砕した後、遠心分離して得られる上清をL−LDH酵素液とした。
(b)L−LDH活性測定
上記(a)で得られたL−LDH酵素液の濃度を、ウシIgG(1.38mg/mL、BIO−RAD社製)をスタンダードとして作製した検量線をもとにBCA Protein Assay Kit(PIERCE社製)により測定し、それぞれのL−LDH酵素液が0.5mg/mLになるように滅菌水で希釈した。次に、表2に示した割合の2水準でL−LDH酵素液およびNADHを除いた混合液をセミミクロキュベットに分注し、測定を始める直前にL−LDH酵素液及びNADHを加え混合した。
(表中、2xBRバッファー:0.08M酢酸、リン酸、ホウ酸溶液を5N NaOHでpH調節した緩衝バッファー)
各L−LDH酵素液の340nmにおける吸光度の減少を分光光度計(Ultrospec3300Pro アマシャム社製)で測定し、得られたΔ340の値を「L−乳酸脱水素酵素活性」の項に記した式(1)にあてはめ、ピルビン酸ナトリウム終濃度0.5mMと1mMについて、各L−LDHの比活性を算出した。その結果を表3に示す。
この結果から、ヒト由来のL−ldh遺伝子がコードするL−LDHの比活性は、ウシ由来のL−ldh遺伝子がコードするL−LDHの比活性よりも高いことを見いだした。
本発明は、微生物にヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子を微生物に導入することにより効率的に有機酸を製造する方法であり、詳しくは、酵母にヒト由来の乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を微生物に導入することにより、効率的に乳酸等の有機酸を製造することができるので、資源循環型社会の構築に向け、植物を原料としたポリマーの有効活用に有用である。
図1は、本発明で用いられる酵母用発現ベクターpTRS11のフィジカルマップを示す図である。

Claims (8)

  1. ヒト由来の有機酸合成酵素をコードする遺伝子が導入された微生物による有機酸の製造方法。
  2. 有機酸が乳酸である請求項1記載の有機酸の製造方法。
  3. 有機酸がL-乳酸である請求項1または2記載の有機酸の製造方法。
  4. 有機酸合成酵素をコードする遺伝子が乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子である請求項1〜3いずれかに記載の有機酸の製造方法。
  5. 有機酸合成酵素をコードする遺伝子がL−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子である請求項1〜4いずれかに記載の有機酸の製造方法。
  6. 微生物が酵母である請求項1〜5いずれかに記載の有機酸の製造方法。
  7. 酵母がサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母である請求項6記載の有機酸の製造方法。
  8. 酵母がサッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)である請求項6または7記載の有機酸の製造方法。
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